説明

亜鉛又は亜鉛合金めっき皮膜用の化成処理液及びそれを用いた防食皮膜の形成方法

【課題】良好な防食性能が、再現性、均一性よく得られ、防食性能にバラツキが生じにくい防食皮膜を形成可能な亜鉛又は亜鉛合金めっき皮膜用の化成処理液を開発する。
【解決手段】実質的に6価クロムイオンを含有せず、少なくとも下記(A)〜(F)、
(A)3価のクロムイオン、
(B)硝酸イオン、
(C)カルボキシル基を構成する炭素以外の炭素の数が8以下の脂肪族ポリカルボン酸の一種又は二種以上、
(D)鉄、コバルト、ニッケルから選ばれる金属のイオンの一種又は二種以上、
(E)亜鉛イオン、
(F)炭素数が1〜6の脂肪族のアルコールの一種又は二種以上、
を含有する亜鉛又は亜鉛合金めっき皮膜用の化成処理液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防食性能に優れためっき皮膜を得る方法に関し、さらに詳しくは、特定の化成処理溶液で亜鉛又は亜鉛合金めっき皮膜を化成処理することにより、防食性能に優れためっき皮膜を得る方法に関する。
【背景技術】
【0002】
6価のクロムを含む溶液を用いて亜鉛又は亜鉛合金めっき皮膜にクロメート処理を施し、防錆性能を向上させる方法が極めて広く用いられてきた。めっき皮膜としてはごく一部で亜鉛−鉄合金めっきや亜鉛−ニッケル合金めっきが用いられた例はあるが、ほとんどは亜鉛単独のめっき皮膜にクロメート処理がなされたものであった。
近年、人体や環境に悪影響を及ぼす可能性のある6価クロムの使用を避けるため、クロムフリーの化成処理や3価のクロムを用いてクロメート処理を行う方法が検討され、一部、工業的にも用いられるようになってきている。しかしながら、以下に例示するような活発な検討にもかかわらず、6価のクロムによる処理に匹敵する防食性能が得られるようなめっき皮膜を得る方法が完成されていないのが現状である。
【0003】
6価クロムフリーの防食皮膜を得る方法としてセリウム、モリブデン、マンガンなどの化合物を利用するクロムフリーの化成処理を用いる方法も検討されているが、どうしてもクロムを含む処理に匹敵する防食性能は得られないため、3価のクロム化合物を用いる化成処理を用いざるを得ないのが現状である。
3価のクロムを用いる化成処理に関しては、下記のような技術が開示されている。
【0004】
特開2003−166074には、3価のクロム、シュウ酸コバルトイオンを含む亜鉛及び亜鉛合金めっき上にクロメート皮膜を形成するための処理溶液が開示されている。
特開2003−166075には、シリコン化合物、3価のクロム、シュウ酸コバルトイオンを含むクロメート皮膜を形成するための処理溶液が開示されている。
特開2003−268562には、硝酸イオン、3価のクロム、コバルト又はニッケルイオン、キレート剤を含む黒色の6価クロムフリー化成皮膜を形成させるための溶液が開示されている。また、3価のクロムの供給源としてリン酸クロムが用いられること、上記キレート剤としてシュウ酸、マロン酸、コハク酸などが利用できること、さらに、珪素、鉄、チタン、ジルコニウム、タングステン、バナジウム、モリブデン、ストロンチウム、ニオブ、タンタル、マンガン、カルシウム、バリウム、マグネシウム及びアルミニウムからなる群から選択される1種以上の金属イオンを含有する溶液が開示されている。
特開2003−313675には、(A)3価のクロムイオン、(B)Mo、W、Ti、Zr、Mn、Tc、Re、Fe、Ru、Os、Co、Rh、Ir、アルカリ土類金属からなる群のうちの1種以上、(C)Ni、Pd、Pt、Sc、Y、V、Nb、Ta、Cu、Ag、Auからなる群のうちの1種以上、(D)塩素、フッ素、硫酸イオン、硝酸イオンからなる群のうちの1種以上、(E)Si、Al、有機酸からなる群のうちの1種以上を含有する液体組成物により防錆皮膜を形成することを特徴とする金属の防錆皮膜形成方法、が開示されている。
特開2005−126796には、(a)基体に、ニッケル共析率が8%以下の亜鉛ニッケル合金めっきを析出させる工程、(b)析出させた亜鉛ニッケル合金めっきを、無機の鉱酸を少なくとも1種含有し、pHが1以下である活性化液に浸漬する工程、及び(c)得られた亜鉛ニッケル合金めっきを、3価クロメート液で処理する工程とを含む、亜鉛ニッケル合金めっき上に6価クロムフリー耐食性皮膜を形成する方法が開示されている。さらに、亜鉛、コバルト及びケイ素からなる郡から選択される1種以上を含有する溶液を用いる方法が開示されている。
特開2005−126797には、0.01モル/リットル以上の硝酸イオンと、亜鉛化合物とを含み、1.5〜5.5の範囲のpHを有する亜鉛ニッケル合金めっき用の3価クロメート液が開示されており、該溶液にさらにコバルト化合物、珪素化合物の1種以上を含む3価クロメート液、さらにモノカルボン酸、ジカルボン酸、トリカルボン酸、ヒドロキシカルボン酸、アミノカルボン酸及びそれらの塩からなる群から選択される1種以上を含む3価クロメート液が開示されている。
【特許文献1】特開2003−166074号公報
【特許文献2】特開2003−166075号公報
【特許文献3】特開2003−268562号公報
【特許文献4】特開2005−126796号公報
【特許文献5】特開2005−126797号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、既述したように亜鉛めっき皮膜に6価クロムを用いたクロメート処理を施すに匹敵する防食性能が得られないのが実情である。特に、3価のクロムを用いる化成処理は、6価のクロムを用いる場合に比べて、再現性、均一性に問題があり、ビーカーレベルの試験において良好な防食性能を有する処理条件であっても、例えば塩水噴霧試験などの評価試験において、結果の再現性が悪かったり、試料間に防食性能にバラツキが生ることが多かったりするなどの問題があった。
【0006】
そこで良好な防食性能が、再現性、均一性よく得られ、防食性能にバラツキが生じにくい防食皮膜を形成可能な亜鉛又は亜鉛合金めっき皮膜用の化成処理液を開発することを本発明の課題の一つとした。また、そのような化成処理液を用いて防食性の高い皮膜を形成する方法を開発することを本発明の別の課題の一つとした。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、少なくとも2種以上の特定の金属イオンの組み合わせを含有し、硝酸イオンのほかに、脂肪族ポリカルボン酸をそれら金属イオンを安定化させる錯化剤として含み、さらにアルコールを必須成分として含む、3価のクロムの化成処理溶液で、亜鉛又は亜鉛合金めっき皮膜、特に亜鉛−ニッケル合金めっき皮膜を処理することによって、化成皮膜生成の均一性が著しく向上し、優れた防食皮膜を作成することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
アルコールを添加することによる防食効果は、その他の必須成分と相俟って相乗的に得られる。すなわち、その他の必須成分の何れかが欠けた場合に比して顕著に優れた防食効果が得られる。本発明による技術的貢献は複数の特定成分をユニークに組み合わせた点に存するといえる。
【0008】
即ち、本発明の主題は、実質的に6価クロムイオンを含有せず、少なくとも下記(A)〜(F)、
(A)3価のクロムイオン、
(B)硝酸イオン、
(C)カルボキシル基を構成する炭素以外の炭素の数が8以下の脂肪族ポリカルボン酸の一種又は二種以上、
(D)鉄、コバルト、ニッケルから選ばれる金属のイオンの一種又は二種以上、
(E)亜鉛イオン、
(F)炭素数が1〜6の脂肪族のアルコールの一種又は二種以上、
を含有する亜鉛又は亜鉛合金めっき皮膜用の化成処理液である。
上記(A)〜(E)それぞれは3価のクロムを用いるクロメート処理液として公知の成分であるが、(F)炭素数が1〜6の脂肪族のアルコールの一種又は二種以上を(A)〜(E)の成分と同時に含有させることによって、化成皮膜生成の均一性が著しく向上し、優れた防食皮膜となるのである。
【0009】
本発明に係る化成処理液一実施形態においては、
(A)を0.01〜20g/L、
(B)を1〜100g/L、
(C)を酸根として合計で0.1〜50g/L、
(D)及び(E)を合計で0.01〜100g/L
(F)を合計で0.1〜100g/L
含有する。
【0010】
本発明に係る化成処理液の別の一実施形態においては、前記(F)アルコールが、メタノール、エタノール、プロパノール及びブタノールから選択される。
【0011】
本発明に係る化成処理液の別の一実施形態においては、前記(F)アルコールの濃度が3g/L以上である。
【0012】
本発明に係る化成処理液の更に別の一実施形態においては、(G)コロイダルシリカを更に含有する。
【0013】
本発明に係る化成処理液の更に別の一実施形態においては、前記(C)脂肪族ポリカルボン酸が、シュウ酸である。
【0014】
本発明の別の主題は、基体上に施された亜鉛又は亜鉛合金めっき皮膜を前記化成処理液に接触させることを含む防食皮膜の形成方法である。
【0015】
本発明に係る防食皮膜の形成方法の一実施形態においては、前記めっき皮膜が亜鉛−ニッケル合金めっき皮膜である。
【0016】
本発明に係る防食皮膜の形成方法の別の一実施形態においては、前記めっき皮膜が、ニッケルを5%を超え30%未満の範囲で含む亜鉛−ニッケル合金めっき皮膜である。
【0017】
本発明に係る防食皮膜の形成方法の更に別の一実施形態においては、亜鉛又は亜鉛合金めっき皮膜を前記溶液に接触させる際に、前記基体を陰極として電解することを伴う。
【発明の効果】
【0018】
本発明による防食皮膜の作成方法は、6価クロムを用いる化成処理を施した皮膜に匹敵する優れた防食性能を有し、かつ、その優れた防食性能が、再現性、均一性よく得られ、防食性能にバラツキが生じにくい防食皮膜の作成方法を提供するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の化成処理液及びそれを用いた防食めっき皮膜の形成方法について好適な実施形態を含めて詳しく説明する。
【0020】
本発明においては、化成処理を施すめっき皮膜として、亜鉛又は亜鉛合金めっき皮膜を用いる。亜鉛合金めっき皮膜としては、亜鉛−ニッケル、亜鉛−鉄、亜鉛−錫などの合金めっき皮膜が好適に用いられるが、中でもニッケル含有率の高い亜鉛−ニッケル合金めっき皮膜が極めて好適に用いられる。該亜鉛−ニッケル合金めっき皮膜は、ニッケルを5〜30wt%の範囲で含むものが好適に用いられる。10〜25wt%のニッケルを含む亜鉛−ニッケル合金めっき皮膜がさらに好適に用いられ、最も好適には17〜22wt%のニッケルを含む亜鉛−ニッケル合金めっき皮膜が用いられる。
亜鉛−ニッケル合金めっき皮膜の場合、防食性能は概ね20%前後まではニッケル含有率の増大とともに高くなるが、25%を越えて高くなると、防食性能の均一性や再現性が順次低下し、品物毎に性能のバラツキが認められるようになる。この傾向は30%を超えると著しくなる。このため、上記の組成範囲に限定することが好ましい。
めっき皮膜の厚さは当然、要求される防食性能とコストとの兼ね合いで任意に決定されるが、通常は1μm以上、好ましくは5〜20μm程度の厚さが用いられる。
【0021】
以下、化成処理液について述べる。化成処理液は通常は水溶液の形態で提供される。
該溶液の必須成分の第一は3価のクロムイオンである。供給源としては、塩化クロム(III)、硫酸クロム(III)、硝酸クロム(III)、酢酸クロム(III)、燐酸クロム(III)、シュウ酸クロム(III)、クロム(III)明礬など公知の3価クロム化合物やクロム酸塩、重クロム酸塩など6価のクロムを還元剤にて3価に還元した3価クロムからなる群から選択される1種又は2種以上を用いることができる。後述するが本発明においては硝酸イオンも必須の成分であるので、硝酸クロム(III)が一層好適に用いられる。
3価クロムの濃度は、クロムとして0.01〜20g/Lの範囲が好適に用いられ、0.1〜10g/Lの範囲がさらに好適に用いられる。濃度が低くなると、十分な膜厚が得られず、耐食性が劣り、高すぎる場合には性能的な面で、頭打ちとなること、および、処理液の持ち出しから、コスト的に不利になる。
【0022】
本発明の化成処理液の第二の必須成分は、硝酸イオンである。硝酸イオンは、酸やアルカリ金属塩の形で供給されるほか、上述のように3価クロムの対アニオンとして供給されてもよく、また、後述するように第4、第5の必須成分である金属の塩の対アニオンの形で供給されてもよい。
硝酸イオンの濃度としては、NO3-として1〜100g/Lが好適に用いられ、5〜50g/Lがさらに好適に用いられ、5〜30g/Lが最も好適に用いられる。
後述するシュウ酸等のカルボン酸イオンの濃度とも関係してくるが、本発明の化成処理用の溶液のpHは、2を超え6未満が好適に用いられる。3を超え5未満がさらに好適に用いられる。最も好適には、3.5を超え5未満が用いられる。
【0023】
本発明の化成処理液の第三の必須成分は、外観の均一性や皮膜の厚膜化等に効果を示す(C)カルボキシル基を構成する炭素以外の炭素の数が8以下の脂肪族ポリカルボン酸である。該カルボン酸として、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタール酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸等等が好適に用いられるが、中でもシュウ酸が最も好適に用いられる。該カルボン酸イオンは、酸の形で供給されるほか、3価クロムや後述する第4、第5の必須成分である金属の対アニオン、或いはアルカリ金属やアルカリ土類金属の塩の対アニオンとして供給されてもよい。
該カルボン酸の濃度は、酸根として合計で0.1〜50g/Lが好適に用いられ、0.3〜20g/Lがさらに好適に用いられ、0.5〜10g/Lが最も好適に用いられる。これより多いと経済的損失や廃水処理負担増などの問題が生じ、少ないと厚膜化効果が得にくくなる。
【0024】
本発明の化成処理液の第四及び第五の必須成分は、化成皮膜の均一化および厚膜化に効果を示す(D)鉄、コバルト、ニッケルから選ばれる金属のイオンの一種又は二種以上、及び(E)亜鉛イオンである。(D)又は(E)を併用せずともある程度の効果は示すが、(D)と(E)とを共存させることによって相乗的に作用し、強い効果が発揮される。
(D)の中ではニッケル、鉄が一層好適に用いられ、最も好適にはニッケルが用いられる。
これらの金属イオンの供給源としては、硝酸塩、硫酸塩、塩化物、リン酸塩等公知の無機塩、メタンスルホン酸塩等各種スルホン酸塩、酢酸塩等各種カルボン酸塩等公知の有機酸塩、或いはEDTA等の錯化剤との錯塩などが好適に用いられる。
該金属イオンの濃度は、合計で0.01g/L以上100g/L以下が好適に用いられ、0.05g/L以上50g/L以下がさらに好適に用いられ、0.1g/L以上30g/L以下が最も好適に用いられる。
これより多いと皮膜にそれら金属が過剰に取り込まれ、皮膜中の主成分であるクロム本来の性能を阻害してしまうなどの問題が生じ、少ないと皮膜の均一化や厚膜化の効果が得にくくなる。
【0025】
本発明の化成処理用の溶液には第6の必須成分として(F)炭素数が1〜6の脂肪族のアルコールの一種又は二種以上を添加する。具体的には、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、2−メチル−1−2−プロパノール、2―メチル―2−プロパノール、1−ペンタノール、2−ペンタノール、2−メチル−1−ブタノール、3−メチル−1−ブタノール、2−メチル−2−ブタノール、3−メチル−2−ブタノール、シクロヘキサノール等が好適に用いられ、中でもメタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、2―メチル―2−プロパノールが一層好適に用いられ、メタノール、エタノール、2−プロパノールが最も好適に用いられる。
アルコールの量は、少なすぎると安定した耐食性が得られず、逆に多すぎると液安定性が極端に低下する。従って、該アルコールの濃度は、合計で0.1g/L以上100g/L以下が好適に用いられ、1g/L以上50g/L以下がさらに好適に用いられ、3g/L以上20g/L以下が最も好適に用いられる。
第6の必須成分であるアルコールの添加によって、化成皮膜生成の均一性が著しく向上する。その結果として極めて優れた防食性能が達成されるのである。
【0026】
本発明の化成処理液にはさらに(G)コロイダルシリカを添加して好適に用いることができる。該溶液中にコロイダルシリカを加えることは外観、耐食性の向上に有効である。コロイダルシリカは、粒径500nm以下のものが好適に用いられ、粒径50nm以下のものが一層好適に用いられる。コロイダルシリカの添加量の目安はこれらの適量は0.01〜500g/L、一層好ましくは1〜150g/Lである。
【0027】
本発明の化成処理液にはさらに、一般的な顔料、染料の他、畜光顔料、畜光染料、蛍光顔料、蛍光染料等の着色成分を含有させることができる。一般的に0.001〜50g/Lの範囲が経済的であり、効果的である。このような成分は予めアルコールに溶解させて添加することができる。この目的に用いるアルコールも合算して、第6の必須成分である(F)アルコールの濃度とするべきである。
【0028】
また、無機酸として、必須成分の硝酸(イオン)の他に、ZnまたはZn合金の表面を適度にエッチングする目的で、塩化物イオン、硫酸イオン、リン酸イオン等を含有させてもよい。そのためには塩酸、硫酸、リン酸などの形で添加することもできるしそれらの塩の形で添加してもよい。それらのイオンの濃度は化成処理液中で1〜100g/L、好ましくは5〜30g/Lの濃度となるように添加することができる。
【0029】
化成処理皮膜作製の好適な処理条件としては、処理時間5〜300秒、処理温度10〜80℃、一層好適には処理時間15〜200秒、処理温度15〜40℃、である。最も好適な処理条件としては、処理時間30〜150秒、処理温度20〜30℃である。pH条件については既に述べた通りである。
処理方法としては、めっき製品のクロメート処理方法として最もポピュラーな浸漬法が本発明にも一般的に用いられるが、スプレー、ロールコーター、バーコーター、スピンコーターなどによる塗布などの処理方法でも処理可能である。
【0030】
本発明において適用される化成処理は、既に述べてきたように、通常は亜鉛又は亜鉛合金めっき皮膜と本発明の組成の溶液を接触させる(最も一般的には浸漬する)ことによって成されるが、その際に化成皮膜の厚膜化等を目的として、電解を併用することもできる。電解化成処理は被処理物側、すなわち亜鉛又は亜鉛合金めっき皮膜が形成された基体を陰極として、一般的には電流密度0.01〜20A/dm2、処理時間0.01〜5分の条件が好適に用いられる。1A/dm2未満の電解又は2分以内という条件がさらに好適に用いられる。
【実施例】
【0031】
以下、実施例に基づき本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で任意の変形をなし得るものである。
【0032】
7×10cmの鋼板を試験片として、脱脂、酸洗、脱スマット、活性化等の適当な前処理を行った後、亜鉛−ニッケル合金めっき(Zn/Ni)を施した後、化成処理を施し評価用の試料とした。めっきの膜厚は、いずれも8〜9μmとした。めっきの膜厚はセイコーインスツルメント社製型式SFT9200を使用して蛍光X線法により測定した。同一条件で10枚の試料を作成し、JIS Z 2371に準じて塩水噴霧試験を行った。120時間経過後に白錆が認められるかどうかを判定の基準とし、下記のとおり分類し、10枚の試料のうち3枚以上に白錆が認められた試料を不合格と評価した。
A:10枚の試料のいずれにも白錆発生なし。
B:10枚の試料のうち1枚に白錆発生。
C:10枚の試料のうち2枚に白錆発生。
D:10枚の試料のうち3枚以上に白錆発生。
【0033】
比較例1
大和化成製Zn−Ni合金めっき浴(ダインジンアロイ N−PL)(A1)を用いて、温度25℃、pH6.5、2A/dm2の電流密度でめっきを施した。蛍光X線(セイコーインスツルメント社製型式SFT9200)によって分析した結果、皮膜中のニッケル含有率は18wt%であった。
上記のめっき試料に下記の化成処理浴(B1)を用いてクロメート処理を施した。
化成処理浴(B1):硝酸クロム(III)(クロムとして)1g/L、硝酸ニッケル(ニッケルとして)10g/L、硝酸亜鉛(亜鉛として)5g/L、シュウ酸ナトリウム(シュウ酸として)2g/L、35重量%濃塩酸20g/L、硝酸ナトリウム7g/L、pH4.0。
化成処理の条件は、浸漬、処理温度25℃、処理時間60秒、乾燥温度100℃、乾燥時間10分とした。
【0034】
比較例2
比較例1と同じめっき浴(A1)を用い、同じ条件でめっき試料を作成した。
めっき試料に下記の化成処理浴(B2)を用いてクロメート処理を施した。
化成処理浴(B2):硝酸クロム(III)(クロムとして)1g/L、硝酸亜鉛(亜鉛として)5g/L、シュウ酸ナトリウム(シュウ酸として)2g/L、硝酸ナトリウム10g/L、エタノール10g/L、pH4.0。
化成処理の条件、即ち接触方法、処理温度、処理時間、乾燥温度、乾燥時間は比較例1と同じとした。
【0035】
比較例3
比較例1と同じめっき浴(A1)を用い、同じ条件でめっき試料を作成した。
めっき試料に下記の化成処理浴(B3)を用いてクロメート処理を施した。
化成処理浴(B3):硝酸クロム(III)(クロムとして)1g/L、硝酸ニッケル(ニッケルとして)10g/L、シュウ酸ナトリウム(シュウ酸として)2g/L、35重量%濃塩酸20g/L、硝酸ナトリウム7g/L、エタノール10g/L、pH4.0。
化成処理の条件、即ち接触方法、処理温度、処理時間、乾燥温度、乾燥時間は比較例1と同じとした。
【0036】
比較例4
比較例1と同じめっき浴(A1)を用い、同じ条件でめっき試料を作成した。
めっき試料に下記の化成処理浴(B4)を用いてクロメート処理を施した。
化成処理浴(B4):硝酸クロム(III)(クロムとして)1g/L、硝酸ニッケル(ニッケルとして)10g/L、硝酸亜鉛(亜鉛として)5g/L、硝酸ナトリウム7g/L、エタノール10g/L、pH4.0。
化成処理の条件、即ち接触方法、処理温度、処理時間、乾燥温度、乾燥時間は比較例1と同じとした。
【0037】
比較例5
比較例1と同じめっき浴(A1)を用い、同じ条件でめっき試料を作成した。
めっき試料に下記の化成処理浴(B5)を用いてクロメート処理を施した。
化成処理浴(B5):無水クロム酸(VI)5g/L、濃硝酸3ml/L、濃硫酸2ml/L。
化成処理の条件は、浸漬、処理温度室温、処理時間20秒、温風乾燥、乾燥時間5分とした。
【0038】
実施例1
比較例1と同じめっき浴(A1)を用い、同じ条件でめっき試料を作成した。
めっき試料に下記の化成処理浴(B6)を用いてクロメート処理を施した。
化成処理浴(B6):硝酸クロム(III)(クロムとして)1g/L、硝酸ニッケル(ニッケルとして)10g/L、硝酸亜鉛(亜鉛として)5g/L、シュウ酸ナトリウム(シュウ酸として)2g/L、硝酸ナトリウム7g/L、エタノール10g/L、pH4.0。
化成処理の条件、即ち接触方法、処理温度、処理時間、乾燥温度、乾燥時間は比較例1と同じとした。
【0039】
実施例2
実施例1のエタノールをメタノールに代えた化成処理浴(B7)を用いた以外は、実施例1と同じ条件とした。
【0040】
実施例3
実施例1のエタノールをi−プロパノールに代えた化成処理浴(B8)を用いた以外は、実施例1と同じ条件とした。
【0041】
実施例4
実施例1のエタノールをt−ブタノールに代えた化成処理浴(B9)を用いた以外は、実施例1と同じ条件とした。
【0042】
実施例5
上記比較例、実施例と同じめっき浴(A1)を用いて0.2A/dm2の電流密度でめっきを施した。蛍光X線によって分析した結果、皮膜中のニッケル含有率は7wt%であった。
上記めっき試料に下記の化成処理浴(B10)を用いてクロメート処理を施した。
化成処理浴(B10):塩化クロム(III)(クロムとして)15g/L、硫酸鉄(鉄として)0.03g/L、塩化コバルト(コバルトとして)0.03g/L、硝酸亜鉛(亜鉛として)0.05g/L、酒石酸カリウム・ナトリウム0.5g/L、シュウ酸ナトリウム(シュウ酸として)30g/L、35重量%濃塩酸10g/L、硝酸55g/L、メタノール0.5g/L、コロイダルシリカ200g/L、pH2.5。
化成処理の条件は、浸漬、処理温度12℃、処理時間250秒、乾燥温度100℃、乾燥時間10分とした。
【0043】
実施例6
上記比較例、実施例と同じめっき浴(A1)を用いて0.5A/dm2の電流密度でめっきを施した。蛍光X線によって分析した結果、皮膜中のニッケル含有率は12wt%であった。
上記めっき試料に下記の化成処理浴(B11)を用いてクロメート処理を施した。
化成処理浴(B11):リン酸クロム(III)(クロムとして)1g/L、塩化鉄(鉄として)40g/L、塩化ニッケル(ニッケルとして)0.1g/L、硫酸亜鉛(亜鉛として)7g/L、クエン酸ナトリウム20g/L、シュウ酸カリウム(シュウ酸として)0.4g/L、35重量%塩酸10g/L、硝酸カリウム40g/L、n−プロパノール25g/L、コロイダルシリカ10g/L、pH3.2。
化成処理の条件は、浸漬、処理温度35℃、処理時間20秒、乾燥温度100℃、乾燥時間10分とした。
【0044】
実施例7
上記比較例、実施例と同じめっき浴(A1)を用いて4A/dm2の電流密度でめっきを施した。蛍光X線によって分析した結果、皮膜中のニッケル含有率は23wt%であった。
上記めっき試料に下記の化成処理浴(B12)を用いてクロメート処理を施した。
化成処理浴(B12):シュウ酸クロム(III)(クロムとして)5g/L、硫酸鉄(鉄として)10g/L、硝酸ニッケル(ニッケルとして)0.07g/L、塩化亜鉛(亜鉛として)5g/L、リンゴ酸1g/L、シュウ酸カリウム(シュウ酸として)15g/L、35重量%塩酸10g/L、硝酸カリウム40g/L、i−プロパノール2g/L、コロイダルシリカ100g/L、pH4.0。
化成処理の条件は、浸漬、処理温度17℃、処理時間170秒、乾燥温度100℃、乾燥時間10分とした。
【0045】
実施例8
上記比較例、実施例と同じめっき浴(A1)を用いて8A/dm2の電流密度でめっきを施した。蛍光X線によって分析した結果、皮膜中のニッケル含有率は27wt%であった。
上記めっき試料に下記の化成処理浴(B13)を用いてクロメート処理を施した。
化成処理浴(B13):塩化クロム(III)(クロムとして)0.05g/L、硝酸コバルト(コバルトとして)10g/L、メタンスルホン酸亜鉛(亜鉛として)0.1g/L、マロン酸10g/L、シュウ酸カリウム(シュウ酸として)0.2g/L、35重量%塩酸10g/L、60重量%濃硝酸3g/L、n−ブタノール70g/L、コロイダルシリカ0.05g/L、pH2.5。
化成処理の条件は、浸漬、処理温度50℃、処理時間10秒、乾燥温度100℃、乾燥時間10分とした。
【0046】
実施例9
比較例1と同じめっき浴(A1)を用い、同じ条件でめっき試料を作成した。
上記めっき試料に下記の化成処理浴(B14)を用いてクロメート処理を施した。
化成処理浴(B14):リン酸クロム(III)(クロムとして)3g/L、硝酸ニッケル(ニッケルとして)10g/L、硝酸亜鉛(亜鉛として)5g/L、シュウ酸カリウム(シュウ酸として)5g/L、35重量%塩酸20g/L、硝酸カリウム55g/L、i−プロパノール10g/L、コロイダルシリカ20g/L、pH4.0。
化成処理の条件は、浸漬、処理温度25℃、処理時間60秒、乾燥温度100℃、乾燥時間10分とした。
【0047】
実施例10
比較例1と同じめっき浴(A1)を用い、同じ条件でめっき試料を作成した。
上記めっき試料に下記の化成処理浴(B15)を用いてクロメート処理を施した。
化成処理浴(B15):塩化クロム(III)(クロムとして)7g/L、塩化ニッケル(ニッケルとして)15g/L、塩化亜鉛(亜鉛として)4g/L、シュウ酸カリウム(シュウ酸として)5g/L、35重量%塩酸10g/L、硝酸カリウム10g/L、エタノール10g/L、コロイダルシリカ20g/L、pH4.0。
化成処理の条件は、浸漬、処理温度25℃、処理時間60秒、乾燥温度100℃、乾燥時間10分とした。
【0048】
実施例11
比較例1と同じめっき浴(A1)を用い、同じ条件でめっき試料を作成した。
上記めっき試料に下記の化成処理浴(B16)を用いてクロメート処理を施した。
化成処理浴(B16):硝酸クロム(III)(クロムとして)1g/L、硝酸コバルト(コバルトとして)5g/L、硫酸ニッケル(ニッケルとして)3g/L、硫酸亜鉛(亜鉛として)7g/L、シュウ酸カリウム(シュウ酸として)5g/L、35重量%塩酸10g/L、硝酸ナトリウム10g/L、エタノール10g/L、i−プロパノール5g/L、コロイダルシリカ20g/L、pH4.0。
化成処理の条件は、浸漬、処理温度25℃、処理時間60秒、乾燥温度100℃、乾燥時間10分とした。
【0049】
実施例12
実施例1と同じめっき浴(A1)を用い、同じ条件でめっき試料を作成した。
化成処理も実施例1と同じ化成処理浴(B2)を用いてクロメート処理を施した。
化成処理の条件は、処理温度25℃、処理時間60秒、乾燥温度100℃、乾燥時間10分と比較例1と同じとしたが、試料を陰極として10A/dm2での電解クロメート法とした。
【0050】
塩水噴霧試験後の試料の評価結果は表1の通りであった。
【0051】
【表1】

【0052】
実施例1及び12の条件で作成した試料片の塩水噴霧試験を168時間に延長したところ、実施例1の条件では10枚の試験片の内2枚に白錆が発生したのに対し、実施例12の条件の試料では10枚のいずれにも白錆が認められなかった。
実施例1及び12の試料片の化成処理皮膜を希硝酸で完全に溶解し、そのクロム量を島津製作所社製の型式ICP−8100を使用してプラズマ発光分析にて定量した。その結果、実施例1の化成処膜中のクロム量が約50mg/m2であったのに対して、実施例12の化成皮膜中のクロム量は約75mg/m2であった。このことから、電解クロメート法を用いることで化成皮膜が厚膜化し、より安定した耐食性が得られることが明らかになった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
実質的に6価クロムイオンを含有せず、少なくとも下記(A)〜(F)、
(A)3価のクロムイオン、
(B)硝酸イオン、
(C)カルボキシル基を構成する炭素以外の炭素の数が8以下の脂肪族ポリカルボン酸の一種又は二種以上、
(D)鉄、コバルト、ニッケルから選ばれる金属のイオンの一種又は二種以上、
(E)亜鉛イオン、
(F)炭素数が1〜6の脂肪族のアルコールの一種又は二種以上、
を含有する亜鉛又は亜鉛合金めっき皮膜用の化成処理液。
【請求項2】
(A)を0.01〜20g/L、
(B)を1〜100g/L、
(C)を酸根として合計で0.1〜50g/L、
(D)及び(E)を合計で0.01〜100g/L
(F)を合計で0.1〜100g/L
含有する請求項1記載の化成処理液。
【請求項3】
前記(F)アルコールが、メタノール、エタノール、プロパノール及びブタノールから選択される請求項1又は2記載の化成処理液。
【請求項4】
前記(F)アルコールの濃度が3g/L以上である請求項1〜3何れか一項記載の化成処理液。
【請求項5】
(G)コロイダルシリカを更に含有する請求項1〜4何れか一項記載の化成処理液。
【請求項6】
前記(C)脂肪族ポリカルボン酸がシュウ酸である請求項1〜5何れか一項記載の化成処理液。
【請求項7】
基体上に施された亜鉛又は亜鉛合金めっき皮膜を請求項1〜6何れか一項記載の化成処理液に接触させることを含む防食皮膜の形成方法。
【請求項8】
前記めっき皮膜が亜鉛−ニッケル合金めっき皮膜である請求項7記載の防食皮膜の形成方法。
【請求項9】
前記めっき皮膜がニッケルを5〜30wt%の範囲で含む亜鉛−ニッケル合金めっき皮膜である請求項7又は8記載の防食皮膜の形成方法。
【請求項10】
亜鉛又は亜鉛合金めっき皮膜を前記溶液に接触させる際に、前記基体を陰極として電解することを伴う請求項7〜9何れか一項記載の防食皮膜の形成方法。

【公開番号】特開2009−41092(P2009−41092A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−210016(P2007−210016)
【出願日】平成19年8月10日(2007.8.10)
【出願人】(593002540)株式会社大和化成研究所 (29)
【Fターム(参考)】