説明

亜鉛及び亜鉛合金の表面用の防食処理

本発明は、腐食保護皮膜層を製造する方法であって、処理すべき表面を、クロム(III)イオン、少なくとも1種のホスファート化合物及びオルガノゾルを含有する水性処理溶液と接触させる。本方法により、金属表面、特に亜鉛含有表面及び化成皮膜の設けられた亜鉛含有表面の防食が改善される。その際、前記表面の装飾的性質及び機能的性質が得られるか又は改善される。そのうえ、クロム(VI)含有化合物を使用するか又はクロムイオン含有不動態化層及び封孔処理が連続して適用される多段階の方法を使用する際の公知の問題が回避される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属材料、特に亜鉛又は亜鉛合金の表面が設けられている材料の防食に関する。
【0002】
発明の背景
腐食性環境の影響からの金属材料表面の保護のためには、技術水準において多様な方法が利用可能である。保護すべき金属加工物を他の金属からなる皮膜でコーティングすることは、その際、当工業界において広く普及しており、かつ確立された方法である。コーティング金属は、腐食性媒体中で、その際、材料母体金属よりも電気化学的により貴又はより卑のいずれかに振る舞うことができる。コーティング金属がより卑に振る舞う場合には、これは腐食性媒体中で、母体金属に対して犠牲陽極として機能する(陰極防食)。皮膜金属の腐食生成物の形成と結び付いたこの保護機能は、それゆえ確かに望ましいが、しかし皮膜の腐食生成物は、しばしば望ましくない装飾的な妨害及びしばしば加工物の機能的な損傷もまねく。皮膜金属の腐食を減少させるかもしくはできるだけ長期に防止するために、特別に、陰極保護する卑な皮膜金属上に、例えば亜鉛又はアルミニウム並びにそれらの合金上に、しばしばいわゆる化成皮膜が使用される。これらは、卑なコーティング金属と処理溶液との、水性媒体中で幅広いpH範囲内で不溶性の反応生成物である。これらのいわゆる化成皮膜の例は、いわゆるリン酸処理及びクロメート処理である。
【0003】
クロメート処理の場合に、処理すべき表面は、クロム(VI)イオンを含有する酸性溶液中へ浸漬される(欧州特許出願公開(EP-A1)第0 553 164号明細書参照)。例えば、亜鉛表面である場合には、亜鉛の一部が溶解する。この際に支配的な還元条件下で、クロム(VI)はクロム(III)に還元され、これは、水素発生によってよりアルカリ性の表面膜中で、とりわけ水酸化クロム(III)としてもしくは難溶性のμ−オキソ又はμ−ヒドロキソ−橋かけされたクロム(III)錯体として析出される。並行して、難溶性クロム酸(VI)亜鉛が形成される。全体として、緻密に閉じた、電解質による腐食攻撃から極めて良好に保護する化成皮膜が亜鉛表面上に生じる。
【0004】
しかしながらクロム(VI)化合物は、急性毒性であり、かつ著しく発がん性であるので、これらの化合物の付随する方法の代用法が必要である。
【0005】
6価クロム化合物でのクロメート処理法の代用法として、そのうちに3価クロム化合物の多様な錯体を使用する多数の方法が確立された(独国特許出願公開(DE-A1)第196 38 176号明細書参照)。それを用いて達成される防食は通例、6価クロムを用いて作業する方法に劣っているので、しばしば付加的に加工物の表面への封孔処理が適用される。そのような封孔処理は、例えば無機ケイ酸塩、有機官能性シラン、有機ポリマー並びに有機成分と無機成分とを皮膜形成要素として有するハイブリッド系をベースとして、実施されることができる。この付加的な処理工程にとって不利であるのは、フレーム上で製造された加工物をコーティングする際の流れ落ちる滴(Ablauftropfen)の発生及び/又はコーティングされたばら材料の接着である;そのうえ、これらの封孔処理の層厚に付随するねじ等の寸法安定性のような問題が明らかになる。
【0006】
含クロム不動態化からなるコーティング及びその後の封孔処理の防食特性を唯一の層中で組み合わせる試みが技術水準に記載されている:
欧州特許出願公開(EP-A1)第0 479 289号明細書には、基体がクロム(VI)イオン及びクロム(III)イオン、フッ化水素酸及びリン酸に加えてシランカップリング剤を含有する処理溶液へ浸漬されることによるクロメート処理法が記載されている。
【0007】
欧州特許(EP-B1)第0 922 785号明細書には、処理溶液及び金属上への保護層の製造方法が記載されており、その際、保護すべき表面が、クロム(III)イオン、酸化剤及びリンのオキシ酸又はオキシ酸塩又は相応する無水物を含有する処理溶液で処理される。この処理溶液は、さらにモノマーシランカップリング剤を含有していてよい。
【0008】
欧州特許(EP-B1)第1 051 539号明細書には、基体の防食を高めるための処理溶液が記載されており、この処理溶液はクロム(VI)イオン及びクロム(III)イオンに加えてさらにリン酸、フッ化水素酸、コロイド状二酸化ケイ素及びモノマーエポキシ官能化シランを含有する。
【0009】
国際公開(WO-A1)第2008/14166号には、防食層の生成のための処理溶液が記載されている。この処理溶液は、亜鉛イオン、リン酸又は酸性リン酸塩、有機又は無機のアニオンに加えて、ホウ素、ケイ素、チタン又はジルコニウムの元素の1種、三価クロムイオン及び酸化剤としての無機又は有機の過酸化物を含有する。
【0010】
国際公開(WO-A1)第97/15700号には、防食層の生成のための処理溶液が記載されている。この処理溶液は、加水分解されたシラン及びリン酸を含有し、かつクロムイオン及びクロムを含有する化合物を含まない。
【0011】
技術水準に記載された処理溶液は次の欠点を有する:これらは、有毒物質、例えばクロム(VI)イオン及びフッ化水素酸又はモノマーシランのいずれかを含有する。モノマーシランの良好に制御可能な加水分解及び縮合は、この種のマトリックス中では実施可能でなく、故に生じるコーティングの変動する性質をまねく。
【0012】
発明の説明
本発明には、金属表面、特に亜鉛含有表面及び化成皮膜の設けられた亜鉛含有表面の防食を増加させる方法を提供するという課題が基礎になっている。その際、前記表面の装飾的性質及び機能的性質が得られるか又は改善されるべきである。そのうえ、クロム(VI)含有化合物及びフッ化水素酸又は封孔処理のための後処理を使用する際の前記の問題は回避されるべきである。さらに、通常2つの別個の段階で実施される、クロム(III)イオン含有不動態化工程の適用、引き続き封孔処理のプロセスは、クロム(III)イオン含有不動態化層及び封孔処理の機能性が統合されている1段階のプロセスにより置き換えられるべきである。本発明のさらなる態様は、通常、技術水準から知られた2段階の方法の場合に必要な、クロム(III)イオン含有不動態化の適用と封孔処理との間のすすぎ工程が放棄されることができることにある。それにより、重金属で負荷された廃水の量は明らかに減少される。さらに、シラン及び他の金属アルコキシドの取扱いは、別個にそのために適した反応条件下で十分な安定性及び皮膜形成性のオルガノゾルが製造され、ついではじめて処理溶液の残りの成分(クロム(III)イオン、ホスファート源及び別の任意の成分)と混合されることによって、制御可能にされるべきである。
【0013】
この課題の解決のために、本発明は、腐食保護皮膜層を生成する方法を提供し、その際、処理すべき表面が、クロム(III)イオン及び少なくとも1種のホスファート化合物を含有する水性処理溶液と接触され、その際、クロム(III)イオンの物質量濃度(すなわち濃度[mol/l])対少なくとも1種のホスファート化合物(オルトホスファートを基準とする)の物質量濃度の比([クロム(III)イオン]:[ホスファート化合物])が、好ましくは1:1.5〜1:3である。さらに、この処理溶液は、加水分解及び縮合により別個に製造されるオルガノゾルを含有し、このオルガノゾルは、
・式(1)
4-xSi(OR1x (1)
[式中、基Rは互いに同じか又は異なり、それぞれ、炭化水素原子1〜22個を有する置換又は非置換の炭化水素基を表し、かつxは、1、2又は3であり、かつR1は、炭化水素原子1〜8個を有する置換又は非置換の炭化水素基を表す]で示される1種又はそれ以上のアルコキシシラン、及び
・式(2)
Me(OR2n (2)
[式中、Meは、Ti、Zr、Hf、Al、Siであり、かつnは、Meの酸化状態であり、かつR2は、炭素原子1〜8個を有する置換又は非置換の炭化水素基から選択される]で示される1種又はそれ以上のアルコキシド
の反応により得られ、
その際に水性処理溶液は無機及び有機の過酸化物を含まない。
【0014】
ホスファート化合物は、酸化状態+Vのリンから誘導されるオキソ化合物並びに12個までの炭素原子を有する有機基とのそれらのエステル並びにモノエステル及びジエステルの塩である。適したホスファート化合物は、特に、12個までの炭素原子を有するアルキル基とのリン酸アルキルエステルである。
【0015】
適したホスファート化合物の例は、オルトリン酸(H3PO4)及びそれらの塩、ポリリン酸及びそれらの塩、メタリン酸及びそれらの塩、リン酸メチルエステル(モノエステル、ジエステル及びトリエステル)、リン酸エチルエステル(モノエステル、ジエステル及びトリエステル)、リン酸−n−プロピルエステル(モノエステル、ジエステル及びトリエステル)、リン酸イソプロピルエステル(モノエステル、ジエステル及びトリエステル)、リン酸−n−ブチルエステル(モノエステル、ジエステル及びトリエステル)、リン酸−2−ブチルエステル(モノエステル、ジエステル及びトリエステル)、リン酸−t−ブチルエステル(モノエステル、ジエステル及びトリエステル)、前記のモノエステル及びジエステルの塩並びに五酸化二リン及びこれらの化合物の混合物である。"塩"という概念は、完全に脱プロトン化された酸の塩だけでなく、全ての可能なプロトン化状態の塩、例えばリン酸水素塩及びリン酸二水素塩も含む。
【0016】
処理溶液は、好ましくはクロム(III)イオン0.2g/l〜20g/l、より好ましくはクロム(III)イオン0.5g/l〜15g/l及び特に好ましくはクロム(III)イオン1g/l〜10g/lを含有する。
【0017】
クロム(III)イオンの物質量濃度対少なくとも1種のホスファート化合物(オルトホスファートを基準とする)の物質量濃度の比は、1:1.5〜1:3、好ましくは1:1.7〜1:2.5である。
【0018】
クロム(III)イオンは、処理溶液に、無機クロム(III)塩、例えば塩基性の硫酸クロム(III)、水酸化クロム(III)、リン酸二水素クロム(III)、塩化クロム(III)、硝酸クロム(III)、硫酸カリウムクロム(III)又は有機酸のクロム(III)塩、例えばメタンスルホン酸クロム(III)、クエン酸クロム(III)の形で添加されることができ、又は適した還元剤の存在での適したクロム(VI)化合物の還元により生成されることができる。適したクロム(VI)化合物は、例えば酸化クロム(VI)、クロム酸塩、例えばクロム酸カリウム又はクロム酸ナトリウム、二クロム酸塩、例えば二クロム酸カリウム又は二クロム酸ナトリウムである。クロム(III)イオンのその場での生成に適した還元剤は、例えばスルフィット、例えば亜硫酸ナトリウム、二酸化硫黄、ホスフィット、例えば次亜リン酸ナトリウム、亜リン酸、過酸化水素、メタノール、ヒドロキシカルボン酸及びヒドロキシジカルボン酸、例えばグルコン酸、クエン酸及びリンゴ酸である。
【0019】
処理溶液は、好ましくはpH 2〜pH 7、特に好ましくはpH 2.5〜pH 6及び極めて特に好ましくはpH 2.5〜pH 3のpH値を有する。
【0020】
前記のオルガノゾルは、式(1)による少なくとも1種のアルコキシシランのそれ自体として知られた加水分解及び縮合により得ることができる。例えば、式(1)によるアルコキシシランを酸性水溶液と混ぜて、澄明な水解物を得ることが可能である。式(1)中の基R1の例は、線状及び分枝鎖状のアルキル基、アルケニル基、アリール基、アルキルアリール基、アリールアルキル基、アリールアルケニル基、アルケニルアリール基(好ましくはそれぞれ1〜22個及び特に炭素原子1〜16個を有し、かつ環式型も含む)であり、前記基は、酸素原子、窒素原子又は基NR2(R2=水素又はC1〜14−アルキルである)により中断されていてよく、かつハロゲン、アミノ基、アミド基、カルボキシ基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アクリルオキシ基、メタクリルオキシ基又はエポキシ基の群からの1種又はそれ以上の置換基を有していてよい。特に好ましくは、式(1)の前記のアルコキシシランのうち、少なくとも1種の基Rが重付加反応(重合反応を含む)又は重縮合反応をすることができる基を有する少なくとも1種が存在する。重付加反応又は重縮合反応をすることができるこの基は、好ましくはエポキシ基又は炭素−炭素多重結合であり、その際、(メタ)アクリラート基は、後に挙げた基の特に好ましい例である。式(1)による特に好ましいアルコキシシランは、xが、2又は3及び特に3であり、かつ基Rがω−グリシジルオキシ−C2〜6−アルキル又はω−(メタ)アクリルオキシ−C2〜6−アルキルを表すものである。この種のアルコキシシランの例は、3−グリシドオキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドオキシプロピルトリエトキシシラン、3,4−エポキシブチルトリメトキシシラン、3,4−エポキシブチルトリエトキシシラン及び2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、3−(メタ)アクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリルオキシプロピルトリエトキシシラン及び2−(メタ)アクリルオキシエチルトリメトキシシラン、2−(メタ)アクリルオキシエチルトリエトキシシラン、3−グリシドオキシプロピルジメチルメトキシシラン、3−グリシドオキシプロピルジメチルエトキシシラン、3−グリシドオキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドオキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−(メタ)アクリルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−(メタ)アクリルオキシプロピルメチルジエトキシシラン及び2−(メタ)アクリルオキシエチルメチルジメトキシシラン、2−(メタ)アクリルオキシエチルメチルジエトキシシランである。
【0021】
重付加反応もしくは重縮合反応をすることができる前記の基を有するアルコキシシランと組合せて好ましくは使用されることができる式(1)による別のアルコキシシランは、例えばヘキサデシルトリメトキシシラン、ヘキサデシルトリエトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリエトキシシラン、シクロペンチルトリメトキシシラン、シクロペンチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、フェニルエチルトリメトキシシラン、フェニルエチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン、シクロヘキシルエチルジメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジイソプロピルジメトキシシラン、ジイソプロピルジエトキシシラン及びフェニルメチルジメトキシシラン、フェニルメチルジエトキシシランである。
【0022】
反応の過程で、ついで、式(2)による少なくとも1種のアルコキシドは、式(1)の少なくとも1種のアルコキシシランの水解物と合一される。式(2)によるアルコキシドは極めて反応性であるので、錯化剤の不在で式(1)及び(2)による成分が水と接触する際に、極めて迅速に加水分解し、かつ縮合するだろう。本発明によれば、しかしながら反応性のアルコキシドを錯化された形で直接使用することは不要である。むしろ、1種又はそれ以上の錯化剤を式(1)及び(2)による成分の反応の開始直後に添加することが可能である。
【0023】
式(2)によるアルコキシドの例は、アルミニウム−s−ブチラート、チタンイソプロポキシド、チタンプロポキシド、チタンブトキシド、ジルコニウムイソプロポキシド、ジルコニウムプロポキシド、ジルコニウムブトキシド、ジルコニウムエトキシド、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラプロピルオキシシラン及びテトラブチルオキシシランである。Me=Al、Ti、Si、Zr及びHfである式(2)によるより反応性のアルコキシドの場合に、しかしながら、これらを錯化された形で直接使用することを推奨することができ、その際、適した錯化剤の例は、飽和並びに不飽和のカルボン酸及び1,3−ジカルボニル化合物、例えば酢酸、乳酸、メタクリル酸、アセチルアセトン及びアセト酢酸エチルエステルである。
【0024】
錯化剤として同様に適しているのは、エタノールアミン並びにアルキルホスファート、例えばトリエタノールアミン、ジエタノールアミン及びブチルホスファートである。式(2)によるこの種の錯化されたアルコキシドの例は、チタンアセチルアセトナート、チタンビスエチルアセトアセタート、トリエタノールアミンチタナート、トリエタノールアミンジルコナート及びジルコニウムジエチルシトラートである。錯化剤、特にキレート化合物は、金属カチオンのある一定の錯化を引き起こすので、式(1)及び(2)による成分の加水分解速度及び縮合速度が減少される。
【0025】
別の任意の成分として、オルガノゾルは、少なくとも150℃の沸点を有する水相溶性又は水と混和性の溶剤を含む。例えば、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ブチルジグリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール及びポリエチレングリコールがこのために使用されることができる。高沸点溶剤の務めは、加水分解の際に遊離する低分子アルコールとの交換において、オルガノゾルの改善された安定性が達成されることができることにある。
【0026】
本発明の好ましい一実施態様において、オルガノゾルは、式(1)による成分対式(2)による成分の質量比が、1対1〜1対100の範囲、特に好ましくは1対1〜1対25の範囲内であることにより特徴付けられている。式(2)による成分は、式(1)によるアルコキシシランのための架橋剤としても利用されるので、これらは式(1)による成分を基準として少なくとも等モル量でオルガノゾル中に存在しているべきである。
【0027】
オルガノゾルは、本発明による処理溶液に、オルガノゾル中の25%の作用物質含量を基準として、1g/l〜50g/l、好ましくは3g/l〜20g/l及び最も好ましくは5g/l〜15g/lの量で添加される。
【0028】
処理溶液は、付加的に(任意に)1種又はそれ以上の別の錯化剤を含有していてよい。適した別の錯化剤は、特に有機キレート配位子である。適した別の錯化剤の例は、ポリカルボン酸、ヒドロキシカルボン酸、ヒドロキシポリカルボン酸、アミノカルボン酸又はヒドロキシホスホン酸である。適したカルボン酸の例は、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、乳酸、グルコン酸、グルクロン酸、アスコルビン酸、イソクエン酸、没食子酸、グリコール酸、3−ヒドロキシプロピオン酸、4−ヒドロキシ酪酸、サリチル酸、ニコチン酸、アラニン、グリシン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン酸、グルタミン、リシンである。ヒドロキシホスホン酸として、例えばDequest 2010(商標)(Solutia, Inc.製)が適しており;アミノホスホン酸として、例えばDequest 2000(商標)(Solutia, Inc.製)が適している。
【0029】
任意に、処理溶液に、防食の増加のために、少なくとも1種の金属又はメタロイド、例えばSc、Y、Ti、Zr、Mo、W、Mn、Fe、Co、Ni、Zn、B、Al、Siが添加される。これらの元素は、それらの塩の形で又は錯アニオン又はこれらのアニオンの相応する酸、例えばヘキサフルオロホウ酸、ヘキサフルオロケイ酸、ヘキサフルオロチタン酸又はヘキサフルオロジルコン酸、テトラフルオロホウ酸又はヘキサフルオロリン酸又はそれらの塩の形で添加されることができる。
【0030】
特に好ましくは、亜鉛が添加され、亜鉛は亜鉛(II)塩、例えば硫酸亜鉛、塩化亜鉛、リン酸亜鉛、酸化亜鉛又は水酸化亜鉛の形で添加されることができる。好ましくは、処理溶液にZn2+ 0.5g/l〜25g/l、特に好ましくは1g/l〜15g/lが添加される。亜鉛化合物の列記は、本発明により適した化合物の例を示すに過ぎず、適した亜鉛化合物の量をしかし前記の物質に限定するものではない。
【0031】
処理溶液は、処理すべき表面上での皮膜形成の改善のため及び前記表面の疎水性の増加のために、付加的に(任意に)1種又はそれ以上の水に可溶性のポリマー又は水中に分散可能なポリマーを含有していてよく、これらはポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリイタコン酸、ポリアクリラート及びそれぞれ母体となるモノマーのコポリマーからなる群から選択されている。
【0032】
少なくとも1種のポリマーの濃度は好ましくは50mg/l〜20g/lの範囲内である。
【0033】
処理溶液への前記のポリマーの添加により、析出された防食層の層特性は有意に改善される。
【0034】
処理溶液は、付加的に(任意に)1種又はそれ以上の湿潤剤を含有していてよい。それにより、特に複雑な部材上又はより湿潤し難い表面上に、より均一な層堆積及びより良好な流延挙動が達成される。特に有利であるのは、殊にフルオロ脂肪族ポリマーエステル、例えばFluorad FC-4432(商標)(3M製)の使用である。
【0035】
処理溶液は、付加的に(任意に)1種又はそれ以上の潤滑剤を含有していてよい。それにより、本発明による方法を用いて製造される表面の所望の摩擦値が意図的に調節されることができる。適した潤滑剤は、例えばポリエーテル変性シロキサン、ポリエーテルワックスエマルション、エトキシル化アルコール、PTFE、PVDF、エチレンコポリマー、パラフィンエマルション、ポリプロピレンワックスエマルション、MoS2及びそれらの分散液、WS2及びそれらのエマルション、ポリエチレングリコール、ポリプロピレン、フィッシャー−トロプシュハードワックス、微粉砕ハードワックス及び合成ハードワックス、グラファイト、金属せっけん及びポリ尿素である。特に好ましい潤滑剤は、PTFE、微粉砕ハードワックス及びポリエーテルワックスエマルションである。
【0036】
任意の潤滑剤は、0.1g/l〜300g/l、好ましくは1g/l〜30g/lの量で、本発明による処理溶液に添加される。
【0037】
本発明により処理される表面は、金属表面、好ましくは亜鉛含有表面、及び任意にクロム(III)含有化成皮膜の設けられている亜鉛含有表面である。
【0038】
本発明による方法により、処理される表面上に、クロム(III)イオン、(1種又はそれ以上の)ホスファート、ケイ素/金属−有機ネットワーク並びに任意に別の金属イオン、例えば亜鉛イオン及び任意に1種又はそれ以上のポリマー成分を含有する層が析出される。
【0039】
処理すべき表面との処理溶液の接触は、本発明による方法の場合に、それ自体として知られた方法により、特に浸漬により行われることができる。
【0040】
処理溶液の温度は、好ましくは10℃〜90℃、より好ましくは20℃〜80℃、特に好ましくは25℃〜50℃である。
【0041】
接触の期間は、好ましくは0.5s〜180s、より好ましくは5s〜60s、最も好ましくは10s〜30sである。
【0042】
処理溶液は、本発明による方法の実施の前に、相応してより高度に濃縮された濃縮物溶液の希釈により製造されることができる。
【0043】
本発明により処理された物品は、接触後にもはやすすがれるのではなく、直接乾燥される。
【0044】
本発明による方法は、亜鉛含有表面を有する物品の場合に、高められた防食をもたらす。電着、溶融亜鉛めっき、機械的析出及びシェラダイジングのような方法により得られる全金属の亜鉛表面及び亜鉛合金表面の場合に、本発明による方法は同様に使用されることができる。本発明のさらなる一実施態様において、本発明による方法は、いわゆる化成皮膜(国際公開(WO-A2)第02/07902号参照)の適用後に、全金属の亜鉛表面及び亜鉛合金表面上に使用される。化成皮膜は、例えばクロム(III)イオン及び酸化剤を含有する処理溶液から析出されることができる。
【0045】
さらなる一実施態様において、本発明による方法は、全金属の亜鉛表面及び亜鉛合金表面上に、酸化的活性化後に、使用される。この酸化的活性化は、例えば、亜鉛めっきされた基体を、酸化剤を含有する水溶液中に浸漬することにある。このために適した酸化剤は、硝酸塩及び硝酸、過酸化物、例えば過酸化水素、過硫酸塩及び過ホウ酸塩である。いわゆる亜鉛ラメラコーティングの場合に、本発明による方法は、亜鉛ラメラコーティングの適用及び硬化後すぐに使用される。
【0046】
実施例
以下に、本発明は、実施例に基づいてより詳細に説明される。
【0047】
比較例1
鋼製試験部材を、まず最初に弱酸性めっき法(Atotech Deutschland GmbH製Unizinc ACZ 570)において、8〜10μm厚さの亜鉛メッキ層でコーティングし、脱塩水ですすいだ。
【0048】
引き続き、試験部材に、クロム(III)イオン及び硝酸塩を含有する化成皮膜(Atotech Deutschland GmbH製のEcoTri(登録商標) HC2)を設け、乾燥させた。
【0049】
引き続き、次の成分を含有する3.9のpH値を有する処理溶液(=処理溶液A)を適用した:
水酸化クロム(III)由来のCr3+ 4.5g/l
オルトリン酸由来のPO43- 18g/l
酸化亜鉛由来のZn2+ 5.5g/l
クエン酸 11g/l。
【0050】
その後、こうしてコーティングされた試験部材を乾燥させた。
【0051】
耐食性(EN ISO 9227による赤色腐食の形成)を、中性塩水噴霧試験を用いて調べた。赤色腐食の形成が864h後に観察された。
【0052】
例1
鋼製試験部材を、弱酸性めっき法(Atotech Deutschland GmbH製Unizinc ACZ 570)において、8〜10μm厚さの亜鉛めっき層でコーティングし、脱塩水ですすいだ。
【0053】
その後、試験部材に、クロム(III)イオン及び硝酸塩を含有する化成皮膜(Atotech Deutschland GmbH製のEcoTri(登録商標)HC2)を設け、乾燥させた。
【0054】
引き続き、次の成分を含有する2.8のpH値を有する本発明による処理溶液を適用した:
水酸化クロム(III)由来のCr3+ 4.5g/l
オルトリン酸由来のPO43- 18g/l
酸化亜鉛由来のZn2+ 5.5g/l
クエン酸 11g/l
式(1)によるアルコキシシランとしてテトラエトキシシラン及び式(2)による金属アルコキシドとして3−グリシジルオキシプロピルトリエトキシシランから製造され、25%(単位:質量%)の作用物質含量を有するオルガノゾル 50g/l。
【0055】
その後、こうしてコーティングされた試験部材を乾燥させた。
【0056】
耐食性(EN ISO 9227による赤色腐食の形成)を、中性塩水噴霧試験を用いて調べた。赤色腐食の形成が1500h後に観察された。
【0057】
例2
鋼製試験部材を、亜鉛ラメラを含有する処理溶液(Atotech Deutschland GmbH製のZintek(登録商標) 800 WD 1)を用いて10μm厚さの亜鉛ラメラを含有しているめっき層でコーティングした。
【0058】
引き続き、例1からの本発明による処理溶液を適用し、こうしてコーティングされた試験部材を乾燥させた。
【0059】
耐食性(EN ISO 9227による赤色腐食の形成)を、中性塩水噴霧試験を用いて調べた。赤色腐食の形成が3500h後に観察された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
腐食保護皮膜層を製造する方法であって、処理すべき表面を、
・クロム(III)イオン、
・少なくとも1種のホスファート化合物及び
・式(1)
4-xSi(OR1x (1)
[式中、基Rは、互いに同じか又は異なり、それぞれ炭化水素原子1〜22個を有する置換又は非置換の炭化水素基を表し、かつxは、1、2又は3であり、かつR1は、炭化水素原子1〜8個を有する置換又は非置換の炭化水素基を表す]で示される1種又はそれ以上のアルコキシシラン、
及び式(2)
Me(OR2n (2)
[式中、Meは、Ti、Zr、Hf、Al、Siを表し、かつnは、Meの酸化状態を表し、かつR2は、炭素原子1〜8個を有する置換又は非置換の炭化水素基から選択される]で示される1種又はそれ以上のアルコキシドの反応により得られる、加水分解及び縮合により製造されるオルガノゾル
を含有する水性処理溶液と接触させ、
その際に水性処理溶液が無機及び有機の過酸化物を含まない、腐食保護皮膜層を製造する方法。
【請求項2】
水性処理溶液中のクロム(III)イオンの物質量濃度対少なくとも1種のホスファート化合物(オルトホスファートを基準とする)の物質量濃度の比が1:1.5〜1:3である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
水性処理溶液中の少なくとも1種のホスファート化合物が、オルトリン酸、ポリリン酸、メタリン酸、これらの酸の塩、12個までの炭素原子を有する有機基とのこれらの酸のエステル並びにこれらの化合物の混合物からなる群から選択されている、請求項1及び2のいずれか1項記載の方法。
【請求項4】
水性処理溶液中のクロム(III)イオンの濃度が0.2g/l〜20g/lの範囲内である、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
式(1)による少なくとも1種のアルコキシシランが、トリアルコキシシラン及びジアルコキシシランからなる群から選択されており、かつR1は、炭素原子を介してケイ素原子に結合され、同じか又は異なる、非分枝鎖状又は分枝鎖状の炭化水素基を表し、前記基は酸素、窒素又は基NR2(ここでR2は水素又はC1〜C6−アルキルである)により中断されていてよく、かつハロゲン及び場合によりアミノ基、アミド基、カルボキシ基、アクリルオキシ基、メタクリルオキシ基及びエポキシアルキル基の群から選択される1種又はそれ以上の置換基を有していてよい、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
式(1)による少なくとも1種のアルコキシシランが、3−グリシドオキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドオキシプロピルトリエトキシシラン、3,4−エポキシブチルトリメトキシシラン、3,4−エポキシブチルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン及び2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシランからなる群から選択されている、請求項1から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
式(2)による少なくとも1種の化合物中のMeがケイ素である、請求項1から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
オルガノゾルが、少なくとも150℃の沸点を有する水と混和性の溶剤を含有する、請求項1から7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
オルガノゾルが付加的に、飽和及び不飽和のカルボン酸、1,3−ジカルボニル化合物、エタノールアミン、アルキルホスファート、ポリカルボン酸、ヒドロキシカルボン酸、ヒドロキシポリカルボン酸、アミノカルボン酸又はヒドロキシホスホン酸及びアミノホスホン酸からなる群から選択される1種又はそれ以上の錯化剤を含有する、請求項1から8までのいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
水性処理溶液が、酢酸、メタクリル酸、アセチルアセトン、アセト酢酸エチルエステル、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、ブチルホスファート、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、乳酸、グルコン酸、グルクロン酸、アスコルビン酸、イソクエン酸、没食子酸、グリコール酸、3−ヒドロキシプロピオン酸、4−ヒドロキシ酪酸、サリチル酸、ニコチン酸、アラニン、グリシン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン酸、グルタミン及びリシンからなる群から選択されている、少なくとも1種の別の錯化剤を含有する、請求項1から9までのいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
処理溶液が付加的に、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリイタコン酸、ポリアクリラート及びそれぞれ母体となるモノマーのコポリマーからなる群から選択される、1種又はそれ以上の水に可溶性のポリマー又は水中に分散可能なポリマーを含有する、請求項1から10までのいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
水性処理溶液が付加的に少なくとも1種の潤滑剤を含有する、請求項1から11までのいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
水性処理溶液が付加的に、Sc、Y、Ti、Zr、Mo、W、Mn、Fe、Co、Ni、Zn、B、Al、Si及びPからなる群から選択される1種又はそれ以上の金属又はメタロイドを含有する、請求項1から12までのいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
金属又はメタロイドが、その塩又は錯アニオン又はこれらのアニオンの相応する酸、例えばヘキサフルオロホウ酸、ヘキサフルオロケイ酸、ヘキサフルオロチタン酸又はヘキサフルオロジルコン酸、テトラフルオロホウ酸又はヘキサフルオロリン酸又はそれらの塩の形で処理溶液に添加されている、請求項13記載の方法。
【請求項15】
水性処理溶液のpH値がpH 1.5〜pH 9である、請求項1から14までのいずれか1項記載の方法。

【公表番号】特表2012−531527(P2012−531527A)
【公表日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−518952(P2012−518952)
【出願日】平成22年7月5日(2010.7.5)
【国際出願番号】PCT/EP2010/059586
【国際公開番号】WO2011/000969
【国際公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【出願人】(300081877)アトテツク・ドイチユラント・ゲゼルシヤフト・ミツト・ベシユレンクテル・ハフツング (13)
【氏名又は名称原語表記】Atotech Deutschland GmbH
【住所又は居所原語表記】Erasmusstrasse 20, D−10553 Berlin, Germany
【Fターム(参考)】