説明

亜鉛系めっき鋼板の製造方法および亜鉛系めっき鋼板

【課題】耐食性および密着性の諸性能を有し、低面圧での導通性に優れた亜鉛系めっき鋼板を提供する。
【解決手段】所定の樹脂エマルション(A)と、テトラアルコキシシラン(B)と、活性水素含有アミノ基、エポキシ基、メルカプト基およびメタクリロキシ基から選ばれた少なくとも1種の反応性官能基を有する少なくとも1種のシランカップリング剤と(C)と、キレート剤(D)と、バナジン酸化合物(E)と、チタン化合物(F)と、水とを含有し、pH3〜6であり、それぞれの質量より計算される固形分質量が特定の条件を満足するように調整された亜鉛系めっき鋼板用表面処理剤を用いて亜鉛系めっき鋼板表面上に塗布し、加熱乾燥することで、片面あたりの付着量が200〜1000mg/mの皮膜を形成することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車、家電、建材などに用いられ、亜鉛系めっき鋼板の表面に形成された表面処理皮膜中に6価クロムなどの公害規制物質を全く含まない表面処理を施した環境調和型亜鉛系めっき鋼板を製造する方法及びその製造方法によって製造された亜鉛系めっき鋼板に関し、特に、電気・電子機器など、電磁波漏れ(EMI)を防止する必要がある用途に好適であり、電磁波シールド特性および耐食性に優れた亜鉛系めっき鋼板の製造方法の製造方法及びその製造方法によって製造された亜鉛系めっき鋼板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年に見られる家電製品のデジタル化進展、CPU高速化などに伴い、その周辺機器や人体に悪影響を及ぼす電磁波障害に関する問題が重要視されつつある。係る問題に対応し、わが国では「情報処理装置等電波障害自主規制協議会(VCCI)」が設立されており、昨今、VCCIの規格を遵守すべく、電磁波障害問題に対する業界自主規制の傾向がますます強まっている。電気・電子機器内の電子基盤等から発生する電磁波ノイズの対策として、金属(導電体)素材のシールドボックスにより電子基盤等を包囲し、電磁波をシールドする技術がその一例である。
【0003】
シールドボックスは、シールドボックスを構成する導電性素材が電磁波を反射することにより電磁波を遮蔽する。また、シールドボックスを構成する素材の導電性が高いほど電磁波の反射率も高くなり、電磁波シールド性が向上する。そのため、シールドボックスの電磁波シールド性を確保する上では、シールドボックスを構成する金属板が高い導電性を有することが重要となる。
【0004】
また、シールドボックスは、金属板を成型加工して製造されるため不連続部(継目や接合部)を有し、その不連続部から電磁波の漏洩または侵入が生じやすい。そのため、シールドボックスでは通常、不連続部に導電性のガスケットを挿入して電磁波の漏洩・侵入を防いでいる。
【0005】
ここで、シールドボックスの遮蔽性をより確実にするためには、所望の電流をシールドボックス全体に亘り通電可能な構造とする必要がある。しかしながら、上記金属体とガスケットとの接触部は通常、接触圧力が低いため、金属体−ガスケット間の電気導通性(以下、単に「導通性」という)に劣り、該接触部における通電量が低くなる傾向にある。そのため、シールドボックスを構成する金属板の導電性を確保することに加え、金属板−ガスケット間の導通性をも確保することが、シールドボックスの更なる高性能化を図る上で重要となる。
【0006】
一方、今日あらゆる環境下で電気・電子機器が使用されており、シールドボックスを構成する素材には、過酷な使用環境下においても腐食しないこと、すなわち、優れた耐食性を有することも要求されている。亜鉛系めっき鋼板の耐食性(耐白錆性、耐赤錆性)を向上させる代表的な方法としてはクロメート処理が知られており、従来、家電製品用鋼板、建材用鋼板、自動車用鋼板には、クロム酸、重クロム酸又はその塩類を主要成分とした処理液によるクロメート処理を施した亜鉛系めっき鋼板が広く用いられていた。
【0007】
先述のとおり、シールドボックスを構成する金属体(鋼板)には高い導電性、更には、ガスケットとの導通性が要求される。ここで、クロメート処理により鋼板表面に形成される皮膜は、素地鋼板よりも導電性が劣るものの、クロメート処理により形成される皮膜は、その膜厚が薄膜であっても防錆性能を発揮することが可能である。このため、クロメート処理を施した表面処理鋼板においては、導電性に劣る皮膜を極力薄くすることにより、鋼板(表面処理なし)に匹敵する導電性が得られる結果、上記ガスケットとの導通性を十分に確保することができるため、防錆性能と電磁波シールド性を両立することが可能であった。しかしながら、最近の地球環境問題から、クロメート処理によらない無公害な表面処理鋼板、所謂クロムフリー処理鋼板を採用することへの要請が高まっている。
【0008】
クロムフリー処理鋼板に関する技術は既に数多く提案されており、クロム酸と同じIVA族に属するモリブデン酸、タングステン酸の不動態化作用を狙った技術、Ti、Zr、V、Mn、Ni、Coなどの遷移金属やLa、Ceなどの希土類元素の金属塩を用いる技術、タンニン酸などの多価フェノールカルボン酸やS、Nを含む化合物などのキレート剤をベースとする技術、シランカップリング剤を用いてポリシロキサン皮膜を形成した技術、或いは、これらを組み合わせた技術などが提案されている。
【0009】
具体的に例を挙げると以下の通りである。
(1)ポリビニルフェノール誘導体などの有機樹脂と酸成分、エポキシ化合物を反応させて得られる被覆剤、およびシランカップリング剤やバナジウム化合物等を配合した処理液から皮膜を形成する技術(例えば特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4)。
(2)水性樹脂とチオカルボニル基とバナジン酸化合物とリン酸を含む皮膜を形成する技術(例えば、特許文献5)。
(3)Tiなどの金属化合物とフッ化物、リン酸化合物等の無機酸および有機酸を含む処理液から皮膜を形成する技術(特許文献6、特許文献7、特許文献8、特許文献9、特許文献10、特許文献11、特許文献12)。
(4)Ce、La、Y等の希土類元素とTi、Zr元素の複合皮膜を形成し、その皮膜中でめっき界面側に酸化物層、表面側に水酸化物層を濃化させる技術(特許文献13)や、CeとSi酸化物の複合皮膜を形成する技術(特許文献14)。
(5)下層に酸化物を含有するリン酸及び/又はリン酸化合物皮膜、その上層に樹脂皮膜からなる有機複合被覆を形成する技術(例えば、特許文献15、特許文献16)。
(6)特定のインヒビター成分とシリカ/ジルコニウム化合物からなる複合皮膜を形成する技術(例えば特許文献17)。
【0010】
これらの技術により形成される皮膜は、有機成分或いは無機成分の複合添加によって亜鉛の白錆発生を抑制することを狙ったものであり、例えば上記(1)および(2)の技術では、主に有機樹脂を添加することで耐食性を確保している。しかしながら、このような有機樹脂による皮膜組成の場合、有機樹脂が絶縁性を有する。したがって、このような皮膜が形成された鋼板は、十分な導電性を有しないため、シールドボックスの素材として不適当である。
【0011】
上記(3)および(4)の技術では、有機成分を全く含有しない無機単独皮膜が提案されているが、これらの金属酸化物・金属水酸化物による複合皮膜は、十分な耐食性を得るために皮膜を厚くする必要がある。加えて、亜鉛めっき鋼板表面をリン酸亜鉛のような不導体皮膜(絶縁性皮膜)で覆うため、良好な導通性を得るには不利であり、耐食性と導通性の両立が困難であった。
【0012】
上記(5)の技術では、表面処理鋼板表面の導電性が表面に被覆する絶縁性皮膜の膜厚に依存することに着目し、絶縁性皮膜を薄くすることにより良好な導電性を得ようとするものである。しかしながら、膜厚を薄くすると鋼板の耐食性が低下するため、耐食性と導電性がともに優れた表面処理鋼板を得ることは困難であった。
【0013】
(6)の技術では、インヒビター成分としてバナジン酸化合物の不動態化作用およびリン酸化合物による難溶性金属塩を利用し、更に骨格皮膜としてジルコニウム化合物、微粒子シリカ、シランカップリング剤の複合皮膜を形成させることで優れた耐食性を発現している。しかしながら、非常に低い荷重で接するような厳しい条件での導通性が要求される場合、膜厚を薄くする必要があり、耐食性と導通性の両立が困難であった。
【0014】
以上のように、現在までに提案されているクロムフリー処理鋼板では、従来のクロメート皮膜と同程度の耐食性を確保するためには、絶縁性の高い皮膜の膜厚を厚くする必要がある。そのため、これらのクロムフリー処理鋼板は、導電性の確保が困難であり、シールドボックス本体を構成する鋼板に要求される特性を十分に満足するものとは云い難い。更に、先述のとおり、シールドボックスの遮蔽性をより確実にする上では、低接触圧力で接触する金属体(鋼板)−ガスケット間の導通性を十分に確保する必要があるところ、上記の何れの技術においても係る導通性について全く考慮されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2003−13252号公報
【特許文献2】特開2001−181860号公報
【特許文献3】特開2004−263252号公報
【特許文献4】特開2003−155452号公報
【特許文献5】特許3549455号公報
【特許文献6】特許3302677号公報
【特許文献7】特開2002−105658号公報
【特許文献8】特開2004−183015号公報
【特許文献9】特開2003−171778号公報
【特許文献10】特開2001−271175号公報
【特許文献11】特開2006−213958号公報
【特許文献12】特開2005−48199号公報
【特許文献13】特開2001−234358号公報
【特許文献14】特許3596665号公報
【特許文献15】特開2002−53980号公報
【特許文献16】特開2002−53979号公報
【特許文献17】特開2008−169470号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、従来技術に見られる上記問題を解決したものであり、6価クロムなどの公害規制物質を全く含まず、また耐食性を低下することなしに、低い接触圧力でガスケットなどと接触するような厳しい条件においても導通性に優れた表面処理皮膜が形成された亜鉛系めっき鋼板を製造できる方法の開発を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、上記問題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、亜鉛系めっき層の表面に、第1〜3アミノ基及び第4アンモニウム塩基から選ばれる少なくとも1種のカチオン性官能基を有するカチオン性ウレタン樹脂エマルション、および/または、ノニオン性アクリル樹脂エマルションからなる樹脂エマルションと、テトラアルコキシシランと、活性水素含有アミノ基、エポキシ基、メルカプト基およびメタクリロキシ基から選ばれた少なくとも1種の反応性官能基を有する少なくとも1種のシランカップリング剤と、キレート剤と、バナジン酸化合物と、チタン化合物と、水とを含有し、特定の配合で調整した表面処理液を塗布・加熱乾燥して得られる皮膜を形成することで、上記問題点を解決できることを見出した。
【0018】
即ち、本発明は、以下の(1)、(2)、(3)および(4)を提供する。
(1)第1〜3アミノ基および第4アンモニウム塩基から選ばれる少なくとも1種のカチオン性官能基を有するカチオン性ウレタン樹脂エマルション(A−1)、および/または、ノニオン性アクリル樹脂エマルション(A−2)からなる樹脂エマルション(A)と、テトラアルコキシシラン(B)と、活性水素含有アミノ基、エポキシ基、メルカプト基およびメタクリロキシ基から選ばれた少なくとも1種の反応性官能基を有する少なくとも1種のシランカップリング剤と(C)と、キレート剤(D)と、バナジン酸化合物(E)と、チタン化合物(F)と、水とを含有し、pH3〜6であり、それぞれの質量より計算される固形分質量が下記(I)〜(V)の条件を満足するように調整された亜鉛系めっき鋼板用の表面処理液を用いて亜鉛系めっき鋼板表面上に塗布し、加熱乾燥することで、片面あたりの付着量が200〜1000mg/mの表面処理皮膜を形成することを特徴とする亜鉛系めっき鋼板の製造方法。

(I)樹脂エマルション(A)の固形分(A)が処理液の全固形分に対し10〜45質量%
(II)シランカップリング剤(C)と樹脂エマルション(A)との固形分の質量比(C/A)が1.51〜5.89
(III)テトラアルコキシシラン(B)とキレート剤(D)との固形分の質量比(B/D)が0.15〜1.49
(IV)バナジン酸化合物(E)のV換算量(E)とキレート剤(D)の固形分(D)の質量との比(E/D)が0.03〜0.23
(V)チタン化合物(F)のTi換算量(F)とキレート剤(D)の固形分(D)の質量との比(F/D)が0.02〜0.19
(2)第1〜3アミノ基および第4アンモニウム塩基から選ばれる少なくとも1種のカチオン性官能基を有するカチオン性ウレタン樹脂エマルション(A−1)、および/または、ノニオン性アクリル樹脂エマルション(A−2)からなる樹脂エマルション(A)と、テトラアルコキシシラン(B)と、活性水素含有アミノ基、エポキシ基、メルカプト基およびメタクリロキシ基から選ばれた少なくとも1種の反応性官能基を有する少なくとも1種のシランカップリング剤と(C)と、キレート剤(D)と、バナジン酸化合物(E)と、チタン化合物(F)と、水とを含有し、pH3〜6であり、それぞれの質量より計算される固形分質量が下記(I)〜(V)の条件を満足するように調整された亜鉛系めっき鋼板用の表面処理液を用いて亜鉛系めっき鋼板表面上に塗布し、加熱乾燥することで、片面あたりの付着量が200〜1000mg/mの表面処理皮膜を形成することを特徴とする亜鉛系めっき鋼板の製造方法。

(I)樹脂エマルション(A)の固形分(A)が処理液の全固形分に対し11〜45質量%
(II)シランカップリング剤(C)と樹脂エマルション(A)との固形分の質量比(C/A)が1.51〜5.35
(III)テトラアルコキシシラン(B)とキレート剤(D)との固形分の質量比(B/D)が0.15〜1.49
(IV)バナジン酸化合物(E)のV換算量(E)とキレート剤(D)の固形分(D)の質量との比(E/D)が0.03〜0.23
(V)チタン化合物(F)のTi換算量(F)とキレート剤(D)の固形分(D)の質量との比(F/D)が0.02〜0.19
(3)さらに潤滑剤(G)を、前記表面処理液中に、該処理液の全固形分に対し1〜10質量%の範囲で含有することを特徴とする前記(1)又は前記(2)に記載の亜鉛系めっき鋼板の製造方法。
(4)前記(1)〜前記(3)のいずれかに記載の製造方法によって製造されることを特徴とする亜鉛系めっき鋼板。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、耐食性、および密着性の諸性能を有し、特に耐食性を低下することなく、低い接触圧力で鋼板がガスケットなどと接触するような厳しい条件においても導通性に優れる亜鉛系めっき鋼板を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明について具体的に説明する。
<亜鉛系めっき鋼板>
本発明によって製造される亜鉛系めっき鋼板としては、特に制限されないが、溶融亜鉛めっき鋼板(GI)又はこれを合金化した合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA)、更には溶融Zn−5質量%Al合金めっき鋼板(GF)、溶融Zn−55質量%Al合金めっき鋼板(GL)、電気亜鉛めっき鋼板(EG)、電気亜鉛-Ni合金めっき鋼板(Zn−11質量%Ni)等が挙げられる。
【0021】
<亜鉛系めっき鋼板用の表面処理液>
本発明に用いられる亜鉛系めっき鋼板用の表面処理液は、カチオン性官能基を有するカチオン性ウレタン樹脂エマルション(A−1)、および/または、ノニオン性アクリル樹脂エマルション(A−2)からなる樹脂エマルション(A)と、テトラアルコキシシラン(B)と、シランカップリング剤(C)と、キレート剤(D)と、バナジン酸化合物(E)と、チタン化合物(F)と、水とを含有する。
【0022】
カチオンウレタン樹脂エマルション(A−1)、および/またはノニオンウレタン樹脂エマルション(A)を含有する表面処理液を用いて、亜鉛系めっき鋼板表面上に表面処理皮膜を形成することで、該鋼板の耐食性、形成される皮膜の密着性、およびアルカリ脱脂後における該鋼板の耐食性の諸性能に優れ、樹脂皮膜を形成した鋼板の特性である加工性に優れた亜鉛系めっき鋼板が得られる。
【0023】
また、カチオンウレタン樹脂エマルション(A−1)を構成するカチオン性ウレタン樹脂は、カチオン性官能基として、第1〜3アミノ基、及び第4級アンモニウム塩基から選ばれる少なくとも1種のカチオン性官能基を有するものであれば、構成されるモノマー成分であるポリオール、イソシアネート成分および重合方法を特に限定するものではない。カチオン性官能基としては、例えば、アミノ基、メチルアミノ基、エチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、トリメチルアミノ基、トリエチルアミノ基などが挙げられるが、第1〜3アミノ基、又は第4アンモニウム塩基であれば本発明の性能を損なわない限り限定しない。
【0024】
なお、ノニオン系アクリル樹脂エマルション(A−2)の種類は特に限定されず、例えばアクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、スチレンなどのビニル系モノマーをポリエチレンオキサイドあるいはポリプロピレンオキサイドを構造上にもつノニオン系界面活性剤(乳化剤)の存在下、水中で乳化重合した水系エマルション等、ノニオン系乳化剤で乳化されたアクリル樹脂を使用することができる。
【0025】
また、カチオンウレタン樹脂エマルション(A−1)、および/または、ノニオンウレタン樹脂エマルション(A−2)からなる樹脂エマルション(A)の含有量は、その固形分(A)が処理液の全固形分に対し10〜45質量%の範囲となるように含有し、より好ましくは11〜45質量%、さらに好ましくは15〜30質量%の範囲で含有する。前記樹脂エマルション(A)の含有量が10質量%未満の場合は、密着性における優れた亜鉛系めっき鋼板が得られず、45質量%超の場合は、耐食性が低下する。なお、固形分とは、表面処理皮膜を構成する各成分の水溶液を1g採取し、オーブンにて110℃で2時間加熱乾燥後、算出した固形成分を意味し、溶媒などは含まれない。
【0026】
さらに、前記表面処理液は、樹脂エマルション(A)と共に、テトラアルコキシシラン(B)を含有する。テトラアルコキシシラン(B)を含有する表面処理液を用いて亜鉛系めっき鋼板に表面処理皮膜を形成することで、該鋼板の耐食性、形成される皮膜の密着性、およびアルカリ脱脂後における該鋼板の耐食性の諸性能に優れ、無機皮膜の特性である耐熱性、溶接性、に優れた亜鉛系めっき鋼板が得られる。これらの優れた特性が得られる理由は定かでないが、テトラアルコキシシラン(B)と上述した樹脂エマルション(A)とを併用すると、前記カチオンウレタン樹脂および/または前記ノニオンウレタン樹脂とテトラアルコキシシラン(B)とが、三次元架橋を有する皮膜を形成することに由来するものと推測される。
【0027】
なお、テトラアルコキシシラン(B)の種類は特に限定されず、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシランなどが挙げられ、これらの1種以上を用いることができる。なかでも、亜鉛系めっき鋼板の耐食性がより優れるという観点からテトラエトキシシラン、およびテトラメトキシシランが好ましい。
【0028】
さらに、前記表面処理液は、樹脂エマルション(A)およびテトラアルコキシシラン(B)と共に、活性水素含有アミノ基、エポキシ基、メルカプト基およびメタクリロキシ基から選ばれた少なくとも1種の反応性官能基を有する少なくとも1種のシランカップリング剤(C)を含有する。該シランカップリング剤(C)を含有する表面処理液を用いて亜鉛系めっき鋼板に表面処理皮膜を形成することで、該鋼板の耐食性、およびアルカリ脱脂後における該鋼板の耐食性の諸性能に優れ、特に、密着性、耐傷つき性に優れた皮膜を亜鉛系めっき層の表面に形成することができる。
【0029】
なお、活性水素含有アミノ基、エポキシ基、メルカプト基およびメタクリロキシ基から選ばれた少なくとも1種の反応性官能基を有する少なくとも1種のシランカップリング剤(C)の種類は特に限定されず、例えば、活性水素含有アミノ基、エポキシ基、ビニル基、メルカプト基およびメタクリロキシ基から選ばれる少なくとも1種の反応性官能基を有し、更にアルコキシを3つ持つトリアルコキシシランが好ましく、これらの少なくとも1種のシランカップリング剤を使用することが好ましい。特に限定されるものではないが、具体例を挙げると、N−(アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、2−(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシランなどが使用できる。
【0030】
また、活性水素含有アミノ基、エポキシ基、メルカプト基およびメタクリロキシ基から選ばれた少なくとも1種の反応性官能基を有する少なくとも1種のシランカップリング剤(C)の含有量は、前記樹脂エマルション(A)との固形分の質量比(C/A)で、1.51〜5.89の範囲とする。より好ましくは1.51〜5.35の範囲、さらに好ましくは1.66〜5.89の範囲である。上記質量比が1.51未満の場合には耐食性に優れた亜鉛系めっき鋼板が得られず、一方、5.89を超える場合には皮膜の密着性が低下する。
【0031】
さらに、前記表面処理液の保管安定性(貯蔵安定性)を確保することを目的として、該表面処理液は、キレート剤(D)を含有する。所望の保管安定性を確保できる理由としては、キレート剤(D)は、テトラアルコキシシラン(B)が表面処理液中で高分子化することを抑制する効果を有するものと推測され、かかる効果に起因して表面処理液を調製後長期に亘り保管した場合においても変質することなく、調製時の品質が維持されるものと推測される。また、キレート剤(D)は、後述するバナジン酸化合物(E)およびチタン化合物(F)を表面処理液中に安定に溶解するために必要である。さらに、キレート剤(D)は、硝酸、リン酸、硫酸、フッ酸などの無機酸に比べて亜鉛めっき層表面のエッチング作用が少ない上、リン酸亜鉛などの不導体皮膜を形成することがない。そのため、キレート剤(D)を含有する表面処理液を用いて形成された皮膜を有する亜鉛系めっき鋼板は、より優れた導通性を呈するものと推測される。
【0032】
なお、キレート剤(D)の種類は特に限定されず、酢酸、酒石酸、リンゴ酸等のヒドロキシカルボン酸、モノカルボン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、クエン酸、アジピン酸等のジカルボン酸又はトリカルボン酸等のポリカルボン酸及びグリシン等のアミノカルボン酸等、ホスホン酸またはホスホン酸塩などが挙げられ、これらキレート剤の1種以上を用いることができる。特に、表面処理液の保管安定性(貯蔵安定性)、および亜鉛系めっき鋼板の耐食性と導通性の観点より、1分子中にカルボキシル基、またはホスホン酸基を有する化合物が好ましい。
【0033】
また、キレート剤(D)の含有量は、テトラアルコキシシラン(B)とキレート剤(D)の固形分の質量比(B/D)で0.15〜1.49の範囲とする。より好ましくは0.17〜1.30の範囲である。質量比が0.15未満または1.49超のいずれの場合も耐食性に優れた亜鉛系めっき鋼板が得られない。
【0034】
さらに、本発明に用いられる亜鉛系めっき鋼板用表面処理液は、バナジン酸化合物(E)を含有する。該バナジン酸化合物(E)は、亜鉛系めっき鋼板表面に形成される皮膜中において、水に溶解し易い形態で均一に分散して存在し、いわゆる亜鉛腐食時のインヒビター効果を発現する。バナジン酸化合物(E)としては、例えば、メタバナジン酸アンモニウム、メタバナジン酸ナトリウム、バナジウムアセチルアセトネートが挙げられ、これらの1種以上を用いることができる。
【0035】
また、バナジン酸化合物(E)の含有量は、バナジン酸化合物(E)のV換算質量(E)とキレート剤(D)の固形分(D)の質量との比(E/D)で、0.03〜0.23の範囲とする。より好ましくは0.04〜0.20の範囲である。質量比が0.03未満の場合には耐食性に優れた亜鉛系めっき鋼板が得られず、一方、0.23超の場合には表面処理液へのバナジン酸化合物(E)の溶解が困難となる。
【0036】
さらに、前記表面処理液は、チタン化合物(F)を含有する。該チタン化合物(F)は、亜鉛系めっき鋼板表面に形成される皮膜中において、亜鉛系めっき鋼板に優れた耐食性(特に加工部)を付与する上で有効である。また、チタン化合物(F)としては、例えば、硫酸チタニル、硝酸チタニル、硝酸チタン、塩化チタニル、塩化チタン、チタニアゾル、酸化チタン、シュウ酸チタン酸カリウム、チタンフッ化水素酸、チタンフッ化アンモニウム、チタンラクテート、チタンテトライソプロポキシド、チタンアセチルアセトネート、ジイソプロピルチタニウムビスアセチルアセトンなどが挙げられる。また、硫酸チタニルの水溶液を、熱加水分解させて得られるメタチタン酸や、アルカリ中和で得られるオルソチタン酸およびこれらの塩も挙げられる。
【0037】
また、チタン化合物(F)の含有量は、チタン化合物(F)のTi換算質量(F)とキレート剤(D)の固形分(D)の質量との比(F/D)で、0.02〜0.19の範囲とする。より好ましくは0.03〜0.15の範囲である。質量比が0.02未満の場合には耐食性に優れた亜鉛系めっき鋼板が得られず、一方、0.19超の場合には表面処理液へのチタン化合物(F)の溶解が難しくなる。
【0038】
さらに、前記鋼板用表面処理液は、pHを3〜6の範囲とする必要がある。より好適にはpH4〜5の範囲である。表面処理液のpHが3未満であると、表面処理液の保管安定性(貯蔵安定性)が低下し、亜鉛のエッチングが著しくなり、亜鉛系めっき鋼板の耐食性、および導通性が低下する。一方、pHが6を超える場合には、亜鉛系めっき鋼板の耐食性および鋼板表面に形成される皮膜の密着性が低下する。本発明において、pHの調整に用いられるアルカリとしては、アンモニウム、アミン、アミンの誘導体およびアミノポリカルボン酸が好ましく、酸としては上述したキレート剤(D)から選択されることが好ましい。特に、硝酸、リン酸、硫酸、フッ酸などの無機酸にてpHを調整する場合、亜鉛系めっき鋼板の導通性が低下することから、添加量は多くても表面処理液の全固形分に対して4質量%未満である。
【0039】
本発明では、亜鉛系めっき層の表面上に形成される表面処理皮膜は、その片面あたりの付着量が200〜1000mg/mとなるように調整され、好ましくは300〜800mg/mである。200mg/m未満の場合には耐食性不足が懸念され、1000mg/mを超える場合には亜鉛系めっき鋼板の導通性の低下を招くおそれがある。
【0040】
さらに、前記表面処理液は、潤滑性能を向上させるために潤滑剤(G)を添加することができる。潤滑剤としては、ポリエチレンワックス、酸化ポリエチレンワックス、酸化ポリプロピレンワックス、カルナバワックス、パラフィンワックス、モンタンワックス、ライスワックス、テフロン(登録商標)ワックス、2硫化炭素、グラファイトなどの固体潤滑剤が挙げられる。これらの固体潤滑剤の中から、1種または2種以上を用いることができる。
【0041】
また、本発明に使用される潤滑剤(G)の含有量は、前記表面処理液の全固形分に対し、1〜10質量%の範囲であることが好ましく、7質量%以下とすることがより好ましく、1〜5質量%とすることがさらに好ましい。1質量%未満の場合、潤滑性能の向上が見られず、10質量%を超えた場合、耐食性が低下する。
【0042】
なお、前記表面処理液には、被塗面に均一な皮膜を形成するための濡れ性向上剤と呼ばれる界面活性剤や増粘剤、導電性を向上させるための導電性物質、意匠性向上のための着色顔料、造膜性向上のための溶剤等を、必要に応じて適宜添加してもよい。
【0043】
また、前記表面処理液は、上記した成分を脱イオン水、蒸留水などの水中で混合することにより得られる。表面処理液の固形分割合は適宜選択すればよい。また、表面処理液には、必要に応じてアルコール、ケトン、セロソルブ系の水溶性溶剤、界面活性剤、消泡剤、レベリング剤、防菌防カビ剤、着色剤などを添加しても良い。これらを添加することにより、表面処理液の乾燥性、塗布外観、作業性、貯蔵安定性(保管安定性)、意匠性が向上する。ただし、これらは本発明で得られる品質を損なわない程度に添加することが重要であり、添加量は多くても表面処理液の全固形分に対して5質量%未満である。
【0044】
先述のとおり、本発明においては、亜鉛系めっき鋼板の亜鉛系めっき層の表面に、所定の表面処理液を塗布・加熱乾燥することにより、表面処理皮膜を形成する。前記表面処理液を亜鉛系めっき鋼板に塗布する方法としては、ロールコート法、バーコート法、浸漬法、スプレー塗布法などが挙げられ、処理される亜鉛系めっき鋼板の形状等によって適宜最適な方法が選択される。より具体的には、例えば、処理される亜鉛系めっき鋼板がシート状であればロールコート法、バーコート法や、表面処理液を亜鉛系めっき鋼板にスプレーしてロール絞りや気体を高圧で吹きかけて塗布量を調整する。亜鉛系めっき鋼板が成型品とされている場合であれば、表面処理液に浸漬して引き上げ、場合によっては圧縮エアーで余分な表面処理液を吹き飛ばして塗布量を調整する方法などが選択される。
【0045】
また、亜鉛系めっき鋼板に表面処理液を塗布する前に、必要に応じて、亜鉛系めっき鋼板表面上の油分や汚れを除去することを目的とした前処理を亜鉛系めっき鋼板に施してもよい。亜鉛系めっき鋼板は、防錆目的で防錆油が塗られている場合が多く、また、防錆油で塗油されていない場合でも、作業中に付着した油分や汚れなどがある。これらの塗油、油分、汚れは、亜鉛めっき層の表面の濡れ性を阻害し、均一な第1層皮膜を形成する上で支障をきたすが、上記の前処理を施すことにより、亜鉛系めっき層の表面が清浄化され、均一に濡れやすくなる。亜鉛系めっき鋼板表面上に油分や汚れなどがなく、表面処理液(A)が均一に濡れる場合は、前処理工程は特に必要はない。なお、前処理の方法は特に限定されず、例えば湯洗、溶剤洗浄、アルカリ脱脂洗浄などの方法が挙げられる。
【0046】
亜鉛系めっき層の表面に塗布した表面処理液を、加熱乾燥する際の加熱温度(最高到達板温)は、通常60〜200℃であり、80〜180℃であることがより好ましい。加熱温度が60℃以上であれば皮膜中に主溶媒である水分が残存しないため、また、加熱温度が200℃以下であれば皮膜のクラック発生が抑制されるため、亜鉛系めっき鋼板の耐食性低下等の問題を生じることがない。
また、加熱時間は、使用される亜鉛系めっき鋼板の種類などによって適宜最適な条件が選択される。なお、生産性などの観点からは、0.1〜60秒が好ましく、1〜30秒がより好ましい。
【0047】
以上のようにして得られた表面処理皮膜は、耐熱性、溶接性、密着性に優れ、本発明においては、亜鉛系めっき鋼板の亜鉛めっき層の表面に皮膜を形成することにより、耐食性を低下させることなく所望の導通性を具えた亜鉛系めっき鋼板が得られる。その理由は、以下のような作用効果によるものと推測される。
【0048】
まず、本発明においては、表面処理皮膜の成分のうち、カチオンウレタン樹脂エマルション(A−1)、および/または、ノニオン性アクリル樹脂エマルション(A−2)からなる樹脂エマルション(A)とテトラアルコキシシラン(B)とシランカップリング剤(C)により亜鉛系めっき鋼板の亜鉛系めっき層の表面に形成される皮膜の骨格を構成する。エマルション(A−1)、および/または、ノニオン性アクリル樹脂エマルション(A−2)からなる樹脂エマルション(A)を含む皮膜は、一旦乾燥すると再度水には溶解せずバリアー的効果を有するため、亜鉛系めっき鋼板の耐食性、皮膜の密着性、およびアルカリ脱脂後における亜鉛系めっき鋼板の耐食性の諸性能に優れ、樹脂皮膜の特性である加工性に優れた亜鉛系めっき鋼板が得られる。
【0049】
また、テトラアルコキシシラン(B)を含有することで、テトラアルコキシシラン(B)のアルコキシ基から発生したシラノール基と、カチオンウレタン樹脂、および/またはノニオンウレタン樹脂エマルション(A)とが、三次元架橋するため、緻密な皮膜が形成されるものと推測される。さらに、シランカップリング剤(C)を含有することにより、テトラアルコキシシラン(B)のシラノール基と架橋反応し、皮膜の結合力がより強固になるものと推測される。
【0050】
さらに、表面処理皮膜の成分のうち、バナジン酸化合物(E)とチタン化合物(F)は、皮膜中において水に溶け易い形態で均一に分散して存在し、いわゆる亜鉛腐食時のインヒビター効果を発現する。すなわち、バナジン酸化合物(E)とチタン化合物(F)は、腐食環境下で一部がイオン化し、不動態化することにより亜鉛の腐食自体を抑制するものと推測される。特に、チタン化合物(F)は、亜鉛系めっき鋼板を所望の形状に加工成型するに際し、加工部の皮膜に欠陥が発生した場合であっても、皮膜欠陥部に優先的に溶出し、亜鉛の腐食を抑制するものと推測される。
【0051】
さらにまた、表面処理皮膜の成分のうち、キレート剤(D)は、表面処理層中でテトラアルコキシシラン(B)が高分子化することを抑制する効果、並びに、バナジン酸化合物(E)とチタン化合物(F)を表面処理液中に安定に溶解する効果を有するものと推測される。更に、加熱乾燥して皮膜を形成する際には、リン酸亜鉛のような絶縁皮膜(不導体皮膜)を形成せずに、キレート剤(D)のカルボキシル基、またはホスホン酸基が皮膜の上記骨格成分と緻密な皮膜骨格を形成するための架橋剤として働くため、導通性の向上に寄与するものと推測される。
【0052】
すなわち、本発明に用いられる表面処理皮膜は、カチオンウレタン樹脂エマルションおよび/またはノニオンウレタン樹脂エマルションと、テトラアルコキシシランと、シランカップリング剤とによって形成される皮膜が、薄膜でありながら高耐食性を有することが可能となり、さらに、キレート剤、バナジン酸化合物、およびチタン化合物の腐食インヒビターを、皮膜中に含有させる構成により、低い圧力でガスケットなどと接触する場合であっても、優れた導通性を維持することが可能になったとものと推測される。
【0053】
本発明によれば、耐食性、および密着性の諸性能を有し、特に耐食性を低下することなく、低い圧力で鋼板が接触するような厳しい条件でも導通性に優れた亜鉛系めっき鋼板を提供することができる。本発明の亜鉛系めっき鋼板は種々の用途に適用することができ、例えば、建築、電気、自動車等の各種分野で使用される材料などに好適に用いられる。
【実施例】
【0054】
次に、実施例および比較例により本発明の効果を説明するが、本実施例はあくまで本発明を説明する一例に過ぎず、本発明を限定するものではない。
【0055】
1.試験板の作成方法
(1)供試板(素材)
以下の市販の材料を供試板として使用した。
( i )電気亜鉛めっき鋼板(EG):板厚0.8mm、目付量20/20(g/m)
( ii )溶融亜鉛めっき鋼板(GI):板厚0.8mm、目付量60/60(g/m)
(iii)合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA):板厚0.8mm、目付け量40/40(g/m)
なお、目付量はそれぞれの鋼板の主面上への目付量を示している。例えば、電気亜鉛めっき鋼板の場合(20/20(g/m))は、鋼板の両面のそれぞれに20g/mのめっき層を有することを意味する。
【0056】
(2)前処理(洗浄)
試験片の作製方法としては、まず上記の供試材の表面を、日本パーカライジング(株)製パルクリーンN364Sを用いて処理し、表面上の油分や汚れを取り除いた。次に、水道水で水洗して金属材料表面が水で100%濡れることを確認した後、更に純水(脱イオン水)を流しかけ、100℃雰囲気のオーブンで水分を乾燥したものを試験片として使用した。
【0057】
(3)表面処理液の調整
各成分を表1に示す組成(質量比)にて水中で混合し、亜鉛めっき鋼板用の表面処理液を得た。なお、表1中の成分(G)の配合量は、表面処理液1kg中に配合される量(g)を表す。また、表1中のA、B、C、D、E及びFについては、それぞれ、樹脂エマルション(A)の固形分、テトラアルコキシシラン(B)の固形分、シランカップリング剤(C)の固形分、キレート剤(D)の固形分、バナジン酸化合物(E)のV換算量、及び、チタン化合物(F)のTi換算量を表す。
【0058】
【表1】

【0059】
以下に、表1で使用された化合物について説明する。
【0060】
<カチオンウレタン樹脂エマルション(A−1)、および/または、ノニオンアクリル樹脂エマルション(A−2)からなる樹脂エマルション(A)>
A1:スチレン−エチルメタアクリレート−n−ブチルアクリレート-アクリル酸共重合体(ノニオンアクリル樹脂エマルション(A−2))
A2:アデカボンタイターHUX−670(カチオンアクリル樹脂エマルション(A−1))
【0061】
<テトラアルコキシシラン(B)>
B1:テトラエトキシシラン
B2:テトラメトキシシラン
【0062】
<シランカップリング剤(C)>
C1:γ−グルシジルトリエトキシシラン
C2:3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン
C3:N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン
【0063】
<キレート剤(D)>
D1:1−ヒドロキシメタン−1,1−ジホスホン酸
D2:酢酸
D3:りん酸
【0064】
<バナジン酸化合物(E)>
E1:メタバナジン酸アンモニウム
E2:バナジルアセチルアセトネート(V:19.2%)
【0065】
<金属化合物(F)>
F1:チタンフッ化アンモニウム
F2:チタンアセチルアセトナート(Ti:12.5%)
【0066】
<潤滑剤(G)>
G1:ポリエチレンワックス(三井化学(株)製 ケミパール900(登録商標))
【0067】
(4)処理方法
上記の亜鉛系めっき鋼板用表面処理液を用いて、バーコート塗装にて各試験板上に塗装し、その後、水洗することなく、そのままオーブンに入れて、表2に示される乾燥温度で乾燥させ、表2に示される皮膜量の表面処理皮膜を形成させた。
乾燥温度は、オーブン中の雰囲気温度とオーブンに入れている時間とで調節した。なお、乾燥温度は試験板表面の到達温度を示す。バーコート塗装の具体的な方法は、以下のとおりである。
【0068】
バーコート塗装:処理液を試験板に滴下して、#3〜5バーコーターで塗装した。使用したバーコーターの番手と処理液の濃度とにより、所定の皮膜量となるように調整した。
【0069】
【表2】

【0070】
(5)評価試験の方法
(5−1)耐食性の評価
上記2層の皮膜を形成した各供試板からサイズ70mm×150mm、の試験片を切り出し、切り出した各試験片の裏面と端部をビニールテープでシールして、JIS−Z−2371−2000に準拠する塩水噴霧試験(SST)を実施した。耐食性の評価は、塩水噴霧試験144時間後の白錆発生面積率を目視にて、下記評価基準で評価した。
判定基準:
◎ :白錆発生面積率5%未満
○ :白錆発生面積率5%以上20%未満
△ :白錆発生面積率20%以上40%未満
× :白錆発生面積率40%以上
【0071】
(5−2)上塗り塗装性(密着性)の評価
前記と同一サイズの試験片上に市販のメラミンアルキッド塗料を塗装し、140℃で30分間焼き付けた後の塗膜厚さが30μmとなるようにした。その後、沸水に2時間浸漬後、試験片の表面にカッターで素地鋼まで達する切込みを入れて1mm角の碁盤目を100個形成し、切込みを入れた部分が外(表)側となる様にエリクセン押し出し機で5mm押し出した。エリクセン押し出し条件は、JIS−Z−2247−2006(エリクセン値記号:IE)に準拠し、ポンチ径:20mm、ダイス径:27mm、絞り幅:27mmとした。エリクセン押し出し後、テープ剥離試験を行い、塗膜の残存状況の判定により上塗り塗装性(密着性)を評価した。判定基準は以下のとおりである。
判定基準:
◎ :剥離面積5%未満および剥離なし
○ :剥離面積10%未満5%以上
△ :剥離面積20%未満以上10%以上
× :剥離面積20%以上
【0072】
(5−3)導通性の評価
上記の試験片について、三菱化学アナリテック(株)製ロレスタGP、ESP端子を用い表面抵抗値を測定した。表面抵抗値は、端子にかかる荷重を50gピッチで増加させて測定し、表面抵抗値を10−4Ω以下とすることができる最小荷重の判定により、導通性を評価した。
◎ :10点測定の平均荷重が300g未満
○ :10点測定の平均荷重が300g以上、500g未満
○− :10点測定の平均荷重が500g以上、750g未満
△ :10点測定の平均荷重が750g以上、950g未満
× :10点測定の平均荷重が950g以上
【0073】
(5−4)保管安定性(貯蔵安定性)の評価
表1および表2に示した成分組成を有する各表面処理液について、40℃の恒温槽に30日間保管し、表面処理液の外観を目視によって評価した。
◎ :変化なし
○ :極微量の沈殿が見られる。
△ :微量の沈殿が見られる。もしくは、粘度がやや高くなった。
× :大量の沈殿が見られる。もしくは、ゲル化した。
【0074】
実施例および比較例に記載の各表面処理液を用いてめっき層の表面上に塗布し、加熱乾燥して得られた亜鉛系めっき鋼板に関して、上記の(5−1)〜(5−4)の評価を行った結果を、表3に示す。
なお、比較例45および比較例48については、表面処理液が不安定なため皮膜を形成することができず、各評価を実施できなかった。
【表3】

【0075】
表3に示すように、本発明の製造方法によって得られた亜鉛系めっき鋼板は、いずれも、耐食性、および密着性に優れるだけでなく、低い接触圧力でガスケットなどと接触するときでも優れた導通性が得られている。これに対し、いずれかの要件が本発明の適正範囲を逸脱した比較例は、耐食性、密着性、導通性および保管安定性のいずれかが不十分であった。
【産業上の利用可能性】
【0076】
皮膜中に6価クロムなどの公害規制物質を全く含むことなく、耐食性および密着性の諸性能を有し、特に耐食性を低下することなく、低い接触圧力でガスケットなどと鋼板が接触するような厳しい条件においても導通性に優れる亜鉛系めっき鋼板を提供することができる。従って、本発明の製造方法によって製造された亜鉛系めっき鋼板は、自動車、家電、OA機器等の部品として極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1〜3アミノ基および第4アンモニウム塩基から選ばれる少なくとも1種のカチオン性官能基を有するカチオン性ウレタン樹脂エマルション(A−1)、および/または、ノニオン性アクリル樹脂エマルション(A−2)からなる樹脂エマルション(A)と、テトラアルコキシシラン(B)と、活性水素含有アミノ基、エポキシ基、メルカプト基およびメタクリロキシ基から選ばれた少なくとも1種の反応性官能基を有する少なくとも1種のシランカップリング剤と(C)と、キレート剤(D)と、バナジン酸化合物(E)と、チタン化合物(F)と、水とを含有し、pH3〜6であり、下記(I)〜(V)の条件を満足するように調整された亜鉛系めっき鋼板用の表面処理液を用いて亜鉛系めっき層の表面上に塗布し、加熱乾燥することで、片面あたりの付着量が200〜1000mg/mの表面処理皮膜を形成することを特徴とする亜鉛系めっき鋼板の製造方法。

(I)樹脂エマルション(A)の固形分(A)が処理液の全固形分に対し10〜45質量%
(II)シランカップリング剤(C)と樹脂エマルション(A)との固形分の質量比(C/A)が1.51〜5.89
(III)テトラアルコキシシラン(B)とキレート剤(D)との固形分の質量比(B/D)が0.15〜1.49
(IV)バナジン酸化合物(E)のV換算量(E)とキレート剤(D)の固形分(D)の質量との比(E/D)が0.03〜0.23
(V)チタン化合物(F)のTi換算量(F)とキレート剤(D)の固形分(D)の質量との比(F/D)が0.02〜0.19
【請求項2】
第1〜3アミノ基および第4アンモニウム塩基から選ばれる少なくとも1種のカチオン性官能基を有するカチオン性ウレタン樹脂エマルション(A−1)、および/または、ノニオン性アクリル樹脂エマルション(A−2)からなる樹脂エマルション(A)と、テトラアルコキシシラン(B)と、活性水素含有アミノ基、エポキシ基、メルカプト基およびメタクリロキシ基から選ばれた少なくとも1種の反応性官能基を有する少なくとも1種のシランカップリング剤と(C)と、キレート剤(D)と、バナジン酸化合物(E)と、チタン化合物(F)と、水とを含有し、pH3〜6であり、下記(I)〜(V)の条件を満足するように調整された亜鉛系めっき鋼板用の表面処理液を用いて亜鉛系めっき層の表面上に塗布し、加熱乾燥することで、片面あたりの付着量が200〜1000mg/mの表面処理皮膜を形成することを特徴とする亜鉛系めっき鋼板の製造方法。

(I)樹脂エマルション(A)の固形分(A)が処理液の全固形分に対し11〜45質量%
(II)シランカップリング剤(C)と樹脂エマルション(A)との固形分の質量比(C/A)が1.51〜5.35
(III)テトラアルコキシシラン(B)とキレート剤(D)との固形分の質量比(B/D)が0.15〜1.49
(IV)バナジン酸化合物(E)のV換算量(E)とキレート剤(D)の固形分(D)の質量との比(E/D)が0.03〜0.23
(V)チタン化合物(F)のTi換算量(F)とキレート剤(D)の固形分(D)の質量との比(F/D)が0.02〜0.19
【請求項3】
さらに潤滑剤(G)を、前記表面処理液中に、該処理液の全固形分に対し1〜10質量%の範囲で含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の亜鉛系めっき鋼板の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の製造方法によって製造されることを特徴とする亜鉛系めっき鋼板。

【公開番号】特開2012−92443(P2012−92443A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−215446(P2011−215446)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】