説明

亜鉛系めっき鋼板の製造方法および亜鉛系めっき鋼板

【課題】耐食性および密着性の諸性能を有し、低面圧での導通性に優れた亜鉛系めっき鋼板の製造方法および該製造方法によって製造された亜鉛系めっき鋼板を提供する。
【解決手段】カチオン性ウレタン樹脂エマルション、および/または、ノニオン性アクリル樹脂エマルションからなる樹脂エマルションと、テトラアルコキシシランと、活性水素含有アミノ基、エポキシ基、メルカプト基およびメタクリロキシ基から選ばれた少なくとも1種の反応性官能基を有する少なくとも1種のシランカップリング剤と(c)と、キレート剤(d)と、バナジン酸化合物(e)と、チタン化合物(f)と、水とを含み、これらを特定の比率で混合したpH3〜6である表面処理液を亜鉛系めっき鋼板表面に塗布し・加熱乾燥して第1層皮膜を形成し、次いで、有機樹脂を含む表面処理液を第1層皮膜表面に塗布し・加熱乾燥して第2層皮膜を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車、家電、建材などに用いられ、亜鉛系めっき鋼板の表面に形成された表面処理皮膜中に6価クロムなどの公害規制物質を全く含まない表面処理を施した環境調和型亜鉛系めっき鋼板の製造方法および該製造方法によって製造された亜鉛系めっき鋼板、特に、電気・電子機器など、電磁波漏れ(EMI)を防止する必要がある用途に好適であり、電磁波シールド特性および耐食性に優れた亜鉛系めっき鋼板の製造方法および該製造方法によって製造された亜鉛系めっき鋼板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年に見られる家電製品のデジタル化進展、CPU高速化などに伴い、その周辺機器や人体に悪影響を及ぼす電磁波障害に関する問題が重要視されつつある。係る問題に対応し、わが国では「情報処理装置等電波障害自主規制協議会(VCCI)」が設立されており、昨今、VCCIの規格を遵守すべく、電磁波障害問題に対する業界自主規制の傾向がますます強まっている。電気・電子機器内の電子基盤等から発生する電磁波ノイズの対策として、金属(導電体)素材のシールドボックスにより電子基盤等を包囲し、電磁波をシールドする技術がその一例である。
【0003】
シールドボックスは、シールドボックスを構成する導電性素材が電磁波を反射することにより電磁波を遮蔽する。また、シールドボックスを構成する素材の導電性が高いほど電磁波の反射率も高くなり、電磁波シールド性が向上する。そのため、シールドボックスの電磁波シールド性を確保する上では、シールドボックスを構成する金属板が高い導電性を有することが重要となる。
【0004】
また、シールドボックスは、金属板を成型加工して製造されるため不連続部(継目や接合部)を有し、その不連続部から電磁波の漏洩または侵入が生じやすい。そのため、シールドボックスでは通常、不連続部に導電性のガスケットを挿入して電磁波の漏洩・侵入を防いでいる。
【0005】
ここで、シールドボックスの遮蔽性をより確実にするためには、所望の電流をシールドボックス全体に亘り通電可能な構造とする必要がある。しかしながら、上記金属体とガスケットとの接触部は通常、接触圧力が低いため、金属体−ガスケット間の電気導通性(以下、単に「導通性」という)に劣り、該接触部における通電量が低くなる傾向にある。そのため、シールドボックスを構成する金属板の導電性を確保することに加え、金属板−ガスケット間の導通性をも確保することが、シールドボックスの更なる高性能化を図る上で重要となる。
【0006】
一方、今日、あらゆる環境下で電気・電子機器が使用されており、シールドボックスを構成する素材には、過酷な使用環境下においても腐食しないこと、すなわち、優れた耐食性を有することも要求されている。亜鉛系めっき鋼板の耐食性(耐白錆性、耐赤錆性)を向上させる代表的な方法としてはクロメート処理が知られており、従来、家電製品用鋼板、建材用鋼板、自動車用鋼板には、クロム酸、重クロム酸又はその塩類を主要成分とした処理液によるクロメート処理を施した亜鉛系めっき鋼板が広く用いられていた。
【0007】
先述のとおり、シールドボックスを構成する金属体(鋼板)には高い導電性、更には、ガスケットとの導通性が要求される。ここで、クロメート処理により鋼板表面に形成される皮膜は、素地鋼板よりも導電性が劣るものの、クロメート処理により形成される皮膜は、その膜厚が薄膜であっても防錆性能を発揮することが可能である。このため、クロメート処理を施した表面処理鋼板においては、導電性に劣る皮膜を極力薄くすることにより、鋼板(表面処理なし)に匹敵する導電性が得られる結果、上記ガスケットとの導通性を十分に確保することができるため、防錆性能と電磁波シールド性を両立することが可能であった。しかしながら、最近の地球環境問題から、クロメート処理によらない無公害な表面処理鋼板、所謂クロムフリー処理鋼板を採用することへの要請が高まっている。
【0008】
クロムフリー処理鋼板に関する技術は既に数多く提案されており、クロム酸と同じIVA族に属するモリブデン酸、タングステン酸の不動態化作用を狙った技術、Ti、Zr、V、Mn、Ni、Coなどの遷移金属やLa、Ceなどの希土類元素の金属塩を用いる技術、タンニン酸などの多価フェノールカルボン酸やS、Nを含む化合物などのキレート剤をベースとする技術、シランカップリング剤を用いてポリシロキサン皮膜を形成した技術、或いは、これらを組み合わせた技術などが提案されている。
【0009】
具体的に例を挙げると以下の通りである。
(1)ポリビニルフェノール誘導体などの有機樹脂と酸成分、エポキシ化合物を反応させて得られる被覆剤、およびシランカップリング剤やバナジウム化合物等を配合した処理液から皮膜を形成する技術(例えば特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4)。
(2)水性樹脂とチオカルボニル基とバナジン酸化合物とリン酸を含む皮膜を形成する技術(例えば、特許文献5)。
(3)Tiなどの金属化合物とフッ化物、リン酸化合物等の無機酸および有機酸を含む処理液から皮膜を形成する技術(特許文献6、特許文献7、特許文献8、特許文献9、特許文献10、特許文献11、特許文献12)。
(4)Ce、La、Y等の希土類元素とTi、Zr元素の複合皮膜を形成し、その皮膜中でめっき界面側に酸化物層、表面側に水酸化物層を濃化させる技術(特許文献13)や、CeとSi酸化物の複合皮膜を形成する技術(特許文献14)。
(5)下層に酸化物を含有するリン酸及び/又はリン酸化合物皮膜、その上層に樹脂皮膜からなる有機複合被覆を形成する技術(例えば、特許文献15、特許文献16)。
(6)特定のインヒビター成分とシリカ/ジルコニウム化合物からなる複合皮膜を形成する技術(例えば特許文献17)。
【0010】
これらの技術により形成される皮膜は、有機成分或いは無機成分の複合添加によって亜鉛の白錆発生を抑制することを狙ったものであり、例えば上記(1)および(2)の技術では、主に有機樹脂を添加することで耐食性を確保している。しかしながら、このような有機樹脂による皮膜組成の場合、有機樹脂が絶縁性を有する。したがって、このような皮膜が形成された鋼板は、十分な導電性を有しないため、シールドボックスの素材として不適当である。
【0011】
上記(3)および(4)の技術では、有機成分を全く含有しない無機単独皮膜が提案されているが、これらの金属酸化物・金属水酸化物による複合皮膜は、十分な耐食性を得るために皮膜を厚くする必要がある。加えて、亜鉛めっき鋼板表面をリン酸亜鉛のような不導体皮膜(絶縁性皮膜)で覆うため、良好な導通性を得るには不利であり、耐食性と導通性の両立が困難であった。
【0012】
上記(5)の技術では、表面処理鋼板表面の導電性が表面に被覆する絶縁性皮膜の膜厚に依存することに着目し、絶縁性皮膜を薄くすることにより良好な導電性を得ようとするものである。しかしながら、膜厚を薄くすると鋼板の耐食性が低下するため、耐食性と導電性がともに優れた表面処理鋼板を得ることは困難であった。
【0013】
(6)の技術では、インヒビター成分としてバナジン酸化合物の不動態化作用およびリン酸化合物による難溶性金属塩を利用し、更に骨格皮膜としてジルコニウム化合物、微粒子シリカ、シランカップリング剤の複合皮膜を形成させることで優れた耐食性を発現している。しかしながら、非常に低い荷重で接するような厳しい条件での導通性が要求される場合、膜厚を薄くする必要があり、耐食性と導通性の両立が困難であった。
【0014】
以上のように、現在までに提案されているクロムフリー処理鋼板では、従来のクロメート皮膜と同程度の耐食性を確保するためには、絶縁性の高い皮膜の膜厚を厚くする必要がある。そのため、これらのクロムフリー処理鋼板は、導電性の確保が困難であり、シールドボックス本体を構成する鋼板に要求される特性を十分に満足するものとは云い難い。更に、先述のとおり、シールドボックスの遮蔽性をより確実にする上では、低接触圧力で接触する金属体(鋼板)−ガスケット間の導通性を十分に確保する必要があるところ、上記の何れの技術においても係る導通性について全く考慮されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2003−13252号公報
【特許文献2】特開2001−181860号公報
【特許文献3】特開2004−263252号公報
【特許文献4】特開2003−155452号公報
【特許文献5】特許3549455号公報
【特許文献6】特許3302677号公報
【特許文献7】特開2002−105658号公報
【特許文献8】特開2004−183015号公報
【特許文献9】特開2003−171778号公報
【特許文献10】特開2001−271175号公報
【特許文献11】特開2006−213958号公報
【特許文献12】特開2005−48199号公報
【特許文献13】特開2001−234358号公報
【特許文献14】特許3596665号公報
【特許文献15】特開2002−53980号公報
【特許文献16】特開2002−53979号公報
【特許文献17】特開2008−169470号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、従来技術に見られる上記問題を解決したものであり、6価クロムなどの公害規制物質を全く含まず、また耐食性を低下することなしに、低い接触圧力でガスケットなどと鋼板が接触するような厳しい条件でも優れた導通性を発揮する表面処理皮膜を有する亜鉛系めっき鋼板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、上記問題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、亜鉛系めっき層表面に、第1〜3アミノ基及び第4アンモニウム塩基から選ばれる少なくとも1種のカチオン性官能基を有するカチオン性ウレタン樹脂エマルション、および/または、ノニオン性アクリル樹脂エマルションからなる樹脂エマルションと、テトラアルコキシシランと、活性水素含有アミノ基、エポキシ基、メルカプト基およびメタクリロキシ基から選ばれる少なくとも1種の反応性官能基を有する1種以上のシランカップリング剤と、キレート剤と、バナジン酸化合物と、チタン化合物と水を特定の配合にて調整された表面処理液(A)を塗布・加熱乾燥して、複合酸化物皮膜である第1層皮膜を形成し、更にこの第1層皮膜の表面に、有機樹脂を含む表面処理液(B)を塗布し、加熱乾燥して第2層皮膜を形成することにより、上記問題点を解決できることを見出した。
【0018】
本発明は、上記知見に基づきなされたもので、その要旨は以下の通りである。
(1)亜鉛系めっき層の表面に、第1層皮膜と第2層皮膜の2層構造になる表面皮膜を有する亜鉛系めっき鋼板の製造方法であって、
該第1層皮膜は、第1〜3アミノ基および第4アンモニウム塩基から選ばれる少なくとも1種のカチオン性官能基を有するカチオン性ウレタン樹脂エマルション(a−1)、および/または、ノニオン性アクリル樹脂エマルション(a−2)からなる樹脂エマルション(a)と、テトラアルコキシシラン(b)と、活性水素含有アミノ基、エポキシ基、メルカプト基およびメタクリロキシ基から選ばれた少なくとも1種の反応性官能基を有する少なくとも1種のシランカップリング剤と(c)と、キレート剤(d)と、バナジン酸化合物(e)と、チタン化合物(f)と、水とを含有し、pH3〜6であり、下記(I)〜(V)の条件を満足するように調整された亜鉛系めっき鋼板用の表面処理液(A)を用いて亜鉛系めっき層の表面上に塗布し、加熱乾燥して得たものであり、該第2層皮膜は、有機樹脂(g)を含む表面処理液(B)を、該第1層皮膜の表面に塗布し、加熱乾燥して得たものであり、これら第1層皮膜と第2層皮膜の合計皮膜厚が片面あたり0.1〜3.0μmであることを特徴とする亜鉛系めっき鋼板の製造方法。

(I)樹脂エマルション(a)の固形分(a)が処理液の全固形分に対し10〜45質量%
(II)シランカップリング剤(c)と樹脂エマルション(a)との固形分の質量比(c/a)が1.51〜5.89
(III)テトラアルコキシシラン(b)とキレート剤(d)との固形分の質量比(b/d)が0.15〜1.49
(IV)バナジン酸化合物(e)のV換算量(e)とキレート剤(d)の固形分(d)の質量との比(e/d)が0.03〜0.23
(V)チタン化合物(f)のTi換算量(f)とキレート剤(d)の固形分(d)の質量との比(f/d)が0.02〜0.19
(2)亜鉛系めっき層の表面に、第1層皮膜と第2層皮膜の2層構造になる表面皮膜を有する亜鉛系めっき鋼板の製造方法であって、
該第1層皮膜は、第1〜3アミノ基および第4アンモニウム塩基から選ばれる少なくとも1種のカチオン性官能基を有するカチオン性ウレタン樹脂エマルション(a−1)、および/または、ノニオン性アクリル樹脂エマルション(a−2)からなる樹脂エマルション(a)と、テトラアルコキシシラン(b)と、活性水素含有アミノ基、エポキシ基、メルカプト基およびメタクリロキシ基から選ばれた少なくとも1種の反応性官能基を有する少なくとも1種のシランカップリング剤と(c)と、キレート剤(d)と、バナジン酸化合物(e)と、チタン化合物(f)と、水とを含有し、pH3〜6であり、下記(I)〜(V)の条件を満足するように調整された亜鉛系めっき鋼板用の表面処理液(A)を用いて亜鉛系めっき層の表面上に塗布し、加熱乾燥して得たものであり、該第2層皮膜は、有機樹脂(g)を含む表面処理液(B)を、該第1層皮膜の表面に塗布し、加熱乾燥して得たものであり、これら第1層皮膜と第2層皮膜の合計皮膜厚が片面あたり0.1〜3.0μmであることを特徴とする亜鉛系めっき鋼板の製造方法。

(I)樹脂エマルション(a)の固形分(a)が処理液の全固形分に対し11〜45質量%
(II)シランカップリング剤(c)と樹脂エマルション(a)との固形分の質量比(c/a)が1.51〜5.35
(III)テトラアルコキシシラン(b)とキレート剤(d)との固形分の質量比(b/d)が0.15〜1.49
(IV)バナジン酸化合物(e)のV換算量(e)とキレート剤(d)の固形分(d)の質量との比(e/d)が0.03〜0.23
(V)チタン化合物(f)のTi換算量(f)とキレート剤(d)の固形分(d)の質量との比(f/d)が0.02〜0.19
(3)前記表面処理液(B)中の有機樹脂(g)が、OH基および/またはCOOH基を有する有機樹脂(g−1)を含むことを特徴とする(1)又は(2)に記載の亜鉛系めっき鋼板の製造方法。
(4)前記表面処理液(B)中の有機樹脂(g)が、一部または全部の化合物が活性水素を有するヒドラジン誘導体(h)からなる活性水素含有化合物(i)との反応により生成されたヒドラジン変性有機樹脂(g−2)を含むことを特徴とする(1)又は(2)に記載の亜鉛系めっき鋼板の製造方法。
(5)前記表面処理液(B)が、さらに防錆添加成分(j)を含有することを特徴とする(1)〜(4)のいずれか一項に記載の亜鉛系めっき鋼板の製造方法。
(6)前記防錆添加成分(j)が下記(k)および/または(l)であり、該防錆添加成分(k)の含有量が、固形分割合で、前記表面処理液(B)中の全有機樹脂(g)100質量部に対して1〜100質量部の範囲であることを特徴とする(5)に記載の亜鉛系めっき鋼板の製造方法。

(k)Caイオン交換シリカ
(l)酸化ケイ素
(7)前記表面処理液(B)が、さらに潤滑剤(m)を含むことを特徴とする(1)〜(6)のいずれか一項に記載の亜鉛系めっき鋼板の製造方法。
(8)上記(1)〜(7)のいずれかの方法によって製造されることを特徴とする亜鉛系めっき鋼板。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、耐食性、および密着性の諸性能を有し、特に耐食性を低下することなく、低い接触圧力で鋼板がガスケットなどと接触するような厳しい条件でも導通性に優れる亜鉛系めっき鋼板の製造方法および該製造方法によって製造された亜鉛系めっき鋼板を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に、本発明について具体的に説明する。
<亜鉛系めっき鋼板>
本発明の亜鉛系めっき鋼板としては、特に制限されないが、溶融亜鉛めっき鋼板(GI)又はこれを合金化した合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA)、更には溶融Zn−5質量%Al合金めっき鋼板(GF)、溶融Zn−55質量%Al合金めっき鋼板(GL)、電気亜鉛めっき鋼板(EG)、電気亜鉛-Ni合金めっき鋼板(Zn−11質量%Ni)等が挙げられる。
【0021】
<第一層皮膜>
本発明においては、亜鉛系めっき鋼板の亜鉛系めっき層の表面に表面処理液(A)を塗布し、加熱乾燥することにより、第1層皮膜を形成する。表面処理液(A)由来の第1層皮膜は複合酸化物皮膜であり、耐熱性、溶接性、密着性、が良好である上、導電性にも優れる。したがって、本発明において第1層皮膜は、特に耐食性を低下することなく、低い接触面圧で鋼板がガスケットなどと接触するような厳しい条件でも導通性に優れる亜鉛系めっき鋼板を得る上で重要な役割を担う。
【0022】
(表面処理液(A))
本発明に用いられる亜鉛系めっき鋼板用の表面処理液(A)は、カチオン性ウレタン樹脂エマルション(a−1)、および/または、ノニオン性アクリル樹脂エマルション(a−2)からなる樹脂エマルション(a)と、テトラアルコキシシラン(b)と、シランカップリング剤と(c)と、キレート剤(d)と、バナジン酸化合物(e)と、チタン化合物(f)と水を含有する。
【0023】
カチオンウレタン樹脂エマルション(a−1)、および/またはノニオンウレタン樹脂エマルション(a)を含有する表面処理液を用いて、亜鉛系めっき鋼板表面上に表面処理皮膜を形成することで、該鋼板の耐食性、形成される皮膜の密着性、およびアルカリ脱脂後における該鋼板の耐食性の諸性能に優れ、樹脂皮膜を形成した鋼板の特性である加工性に優れた亜鉛系めっき鋼板が得られる。
【0024】
また、カチオンウレタン樹脂エマルション(a−1)を構成するカチオン性ウレタン樹脂は、カチオン性官能基として、第1〜3アミノ基、及び第4級アンモニウム塩基から選ばれる少なくとも1種のカチオン性官能基を有するものであれば、構成されるモノマー成分であるポリオール、イソシアネート成分および重合方法を特に限定するものではない。カチオン性官能基としては、例えば、アミノ基、メチルアミノ基、エチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、トリメチルアミノ基、トリエチルアミノ基などが挙げられるが、第1〜3アミノ基、又は第4アンモニウム塩基であれば本発明の性能を損なわない限り限定しない。
【0025】
なお、ノニオン系アクリル樹脂エマルション(a−2)の種類は特に限定されず、例えばアクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、スチレンなどのビニル系モノマーをポリエチレンオキサイドあるいはポリプロピレンオキサイドを構造上にもつノニオン系界面活性剤(乳化剤)の存在下、水中で乳化重合した水系エマルション等、ノニオン系乳化剤で乳化されたアクリル樹脂を使用することができる。
【0026】
また、カチオンウレタン樹脂エマルション(a−1)、および/または、ノニオンウレタン樹脂エマルション(a−2)からなる樹脂エマルション(a)の固形分の含有量(a)は、処理液の全固形分に対し10〜45質量%の範囲で含有し、より好ましくは11〜45質量%の範囲、さらに好ましくは15〜30質量%の範囲で含有する。前記樹脂エマルション(a)の含有量が10質量%未満の場合は、密着性における優れた亜鉛系めっき鋼板が得られず、45質量%超の場合は、耐食性が低下する。なお、固形分とは、表面処理皮膜を構成する各成分の水溶液を1g採取し、オーブンにて110℃で2時間加熱乾燥後、算出した固形成分を意味し、溶媒などは含まれない。
【0027】
さらに、前記表面処理液(A)は、樹脂エマルション(a)と共に、テトラアルコキシシラン(b)を含有する。テトラアルコキシシラン(b)を含有する表面処理液を用いて亜鉛系めっき鋼板に表面処理皮膜を形成することで、該鋼板の耐食性、形成される皮膜の密着性、およびアルカリ脱脂後における該鋼板の耐食性の諸性能に優れ、無機皮膜の特性である耐熱性、溶接性、に優れた亜鉛系めっき鋼板が得られる。これらの優れた特性が得られる理由は定かでないが、テトラアルコキシシラン(b)と上述した樹脂エマルション(a)とを併用すると、前記カチオンウレタン樹脂および/または前記ノニオンウレタン樹脂とテトラアルコキシシラン(b)とが、三次元架橋を有する皮膜を形成することに由来するものと推測される。
【0028】
なお、テトラアルコキシシラン(b)の種類は特に限定されず、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシランなどが挙げられ、これらの1種以上を用いることができる。なかでも、亜鉛系めっき鋼板の耐食性がより優れるという観点からテトラエトキシシラン、およびテトラメトキシシランが好ましい
【0029】
さらに、前記表面処理液(A)は、樹脂エマルション(a)およびテトラアルコキシシラン(b)と共に、活性水素含有アミノ基、エポキシ基、メルカプト基およびメタクリロキシ基から選ばれた少なくとも1種の反応性官能基を有する少なくとも1種のシランカップリング剤(c)を含有する。該シランカップリング剤(c)を含有する表面処理液を用いて亜鉛系めっき鋼板に表面処理皮膜を形成することで、該鋼板の耐食性、およびアルカリ脱脂後における該鋼板の耐食性の諸性能に優れ、特に、密着性、耐傷つき性に優れた皮膜を亜鉛系めっき層の表面に形成することができる。
【0030】
なお、活性水素含有アミノ基、エポキシ基、メルカプト基およびメタクリロキシ基から選ばれた少なくとも1種の反応性官能基を有する少なくとも1種のシランカップリング剤(c)の種類は特に限定されず、例えば、活性水素含有アミノ基、エポキシ基、ビニル基、メルカプト基およびメタクリロキシ基から選ばれる少なくとも1種の反応性官能基を有し、更にアルコキシを3つ持つトリアルコキシシランが好ましく、これらの少なくとも1種のシランカップリング剤を使用することが好ましい。特に限定されるものではないが、具体例を挙げると、N−(アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、2−(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシランなどが使用できる。
【0031】
また、活性水素含有アミノ基、エポキシ基、メルカプト基およびメタクリロキシ基から選ばれた少なくとも1種の反応性官能基を有する少なくとも1種のシランカップリング剤(c)の含有量は、前記樹脂エマルション(a)との固形分の質量比(c/a)で、1.51〜5.89の範囲とする。より好ましくは1.51〜5.35の範囲、さらに好ましくは2.0〜5.0の範囲である。上記質量比が1.51未満の場合には耐食性に優れた亜鉛系めっき鋼板が得られず、一方、5.89を超える場合には皮膜の密着性が低下する。
【0032】
さらに、前記表面処理液の保管安定性(貯蔵安定性)を確保することを目的として、該表面処理液は、キレート剤(d)を含有する。所望の保管安定性を確保できる理由としては、キレート剤(d)は、テトラアルコキシシラン(b)が表面処理液中で高分子化することを抑制する効果を有するものと推測され、かかる効果に起因して表面処理液を調製後長期に亘り保管した場合においても変質することなく、調製時の品質が維持されるものと推測される。また、キレート剤(d)は、後述するバナジン酸化合物(e)およびチタン化合物(f)を表面処理液中に安定に溶解するために必要である。さらに、キレート剤(d)は、硝酸、リン酸、硫酸、フッ酸などの無機酸に比べて亜鉛めっき層表面のエッチング作用が少ない上、リン酸亜鉛などの不導体皮膜を形成することがない。そのため、キレート剤(d)を含有する表面処理液を用いて形成された皮膜を有する亜鉛系めっき鋼板は、より優れた導通性を呈するものと推測される。
【0033】
なお、キレート剤(d)の種類は特に限定されず、酢酸、酒石酸、リンゴ酸等のヒドロキシカルボン酸、モノカルボン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、クエン酸、アジピン酸等のジカルボン酸又はトリカルボン酸等のポリカルボン酸及びグリシン等のアミノカルボン酸等、ホスホン酸またはホスホン酸塩などが挙げられ、これらキレート剤の1種以上を用いることができる。特に、表面処理液の保管安定性(貯蔵安定性)、および亜鉛系めっき鋼板の耐食性と導通性の観点より、1分子中にカルボキシル基、またはホスホン酸基を有する化合物が好ましい。
【0034】
また、キレート剤(d)の含有量は、テトラアルコキシシラン(b)とキレート剤(d)の固形分の質量比(b/d)で0.15〜1.49の範囲とする。より好ましくは0.17〜1.30の範囲である。質量比が0.15未満または1.49超のいずれの場合も耐食性に優れた亜鉛系めっき鋼板が得られない。
【0035】
さらに、本発明に用いられる亜鉛系めっき鋼板用表面処理液(A)は、バナジン酸化合物(e)を含有する。該バナジン酸化合物(e)は、亜鉛系めっき鋼板表面に形成される皮膜中において、水に溶解し易い形態で均一に分散して存在し、いわゆる亜鉛腐食時のインヒビター効果を発現する。バナジン酸化合物(e)としては、例えば、メタバナジン酸アンモニウム、メタバナジン酸ナトリウム、バナジウムアセチルアセトネートが挙げられ、これらの1種以上を用いることができる。
【0036】
また、バナジン酸化合物(e)の含有量は、バナジン酸化合物(e)のV換算質量(e)とキレート剤(d)の固形分(d)の質量との比(e/d)で、0.03〜0.23の範囲とする。より好ましくは0.04〜0.20の範囲である。質量比が0.03未満の場合には耐食性に優れた亜鉛系めっき鋼板が得られず、一方、0.23超の場合には表面処理液へのバナジン酸化合物(e)の溶解が困難となる。
【0037】
さらに、前記表面処理液(A)は、チタン化合物(f)を含有する。該チタン化合物(f)は、亜鉛系めっき鋼板表面に形成される皮膜中において、亜鉛系めっき鋼板に優れた耐食性(特に加工部)を付与する上で有効である。また、チタン化合物(f)としては、例えば、硫酸チタニル、硝酸チタニル、硝酸チタン、塩化チタニル、塩化チタン、チタニアゾル、酸化チタン、シュウ酸チタン酸カリウム、チタンフッ化水素酸、チタンフッ化アンモニウム、チタンラクテート、チタンテトライソプロポキシド、チタンアセチルアセトネート、ジイソプロピルチタニウムビスアセチルアセトンなどが挙げられる。また、硫酸チタニルの水溶液を、熱加水分解させて得られるメタチタン酸や、アルカリ中和で得られるオルソチタン酸およびこれらの塩も挙げられる。
【0038】
また、チタン化合物(f)の含有量は、チタン化合物(f)のTi換算質量(f)とキレート剤(d)の固形分(d)の質量との比(f/d)で、0.02〜0.19の範囲とする。より好ましくは0.03〜0.15の範囲である。質量比が0.02未満の場合には耐食性に優れた亜鉛系めっき鋼板が得られず、一方、0.19超の場合には表面処理液へのチタン化合物(f)の溶解が難しくなる。
【0039】
さらに、前記鋼板用表面処理液(A)は、pHを3〜6の範囲とする必要がある。より好適にはpH4〜5の範囲である。表面処理液のpHが3未満であると、表面処理液の保管安定性(貯蔵安定性)が低下し、亜鉛のエッチングが著しくなり、亜鉛系めっき鋼板の耐食性、および導通性が低下する。一方、pHが6を超える場合には、亜鉛系めっき鋼板の耐食性および鋼板表面に形成される皮膜の密着性が低下する。本発明において、pHの調整に用いられるアルカリとしては、アンモニウム、アミン、アミンの誘導体およびアミノポリカルボン酸が好ましく、酸としては上述したキレート剤(d)から選択されることが好ましい。特に、硝酸、リン酸、硫酸、フッ酸などの無機酸にてpHを調整する場合、亜鉛系めっき鋼板の導通性が低下することから、添加量は多くても表面処理液の全固形分に対して4質量%未満である。
【0040】
なお、前記表面処理液(A)には、被塗面に均一な皮膜を形成するための濡れ性向上剤と呼ばれる界面活性剤や増粘剤、導電性を向上させるための導電性物質、意匠性向上のための着色顔料、造膜性向上のための溶剤等を、必要に応じて適宜添加してもよい。
【0041】
また、前記表面処理液(A)は、上記した成分を脱イオン水、蒸留水などの水中で混合することにより得られる。表面処理液の固形分割合は適宜選択すればよい。また、表面処理液には、必要に応じてアルコール、ケトン、セロソルブ系の水溶性溶剤、界面活性剤、消泡剤、レベリング剤、防菌防カビ剤、着色剤などを添加しても良い。これらを添加することにより、表面処理液の乾燥性、塗布外観、作業性、貯蔵安定性(保管安定性)、意匠性が向上する。ただし、これらは本発明で得られる品質を損なわない程度に添加することが重要であり、添加量は多くても表面処理液の全固形分に対して5質量%未満である。
(第1層皮膜の形成)
【0042】
先述のとおり、本発明においては、亜鉛系めっき鋼板の亜鉛系めっき層の表面に、所定の表面処理液(A)を塗布・加熱乾燥することにより、第1層皮膜を形成する。前記表面処理液(A)を亜鉛系めっき鋼板に塗布する方法としては、ロールコート法、バーコート法、浸漬法、スプレー塗布法などが挙げられ、処理される亜鉛系めっき鋼板の形状等によって適宜最適な方法が選択される。より具体的には、例えば、処理される亜鉛系めっき鋼板がシート状であればロールコート法、バーコート法や、表面処理液を亜鉛系めっき鋼板にスプレーしてロール絞りや気体を高圧で吹きかけて塗布量を調整する。亜鉛系めっき鋼板が成型品とされている場合であれば、表面処理液に浸漬して引き上げ、場合によっては圧縮エアーで余分な表面処理液を吹き飛ばして塗布量を調整する方法などが選択される。
【0043】
また、亜鉛系めっき鋼板に表面処理液(A)を塗布する前に、必要に応じて、亜鉛系めっき鋼板のめっき層表面上の油分や汚れを除去することを目的とした前処理を亜鉛系めっき鋼板に施してもよい。亜鉛系めっき鋼板は、防錆目的で防錆油が塗られている場合が多く、また、防錆油で塗油されていない場合でも、作業中に付着した油分や汚れなどがある。これらの塗油、油分、汚れは、亜鉛めっき層の表面の濡れ性を阻害し、均一な第1層皮膜を形成する上で支障をきたすが、上記の前処理を施すことにより、亜鉛系めっき層の表面が清浄化され、均一に濡れやすくなる。亜鉛系めっき鋼板表面上に油分や汚れなどがなく、表面処理液(A)が均一に濡れる場合は、前処理工程は特に必要はない。なお、前処理の方法は特に限定されず、例えば湯洗、溶剤洗浄、アルカリ脱脂洗浄などの方法が挙げられる。
【0044】
亜鉛系めっき層の表面に塗布した表面処理液(A)を、加熱乾燥する際の加熱温度(最高到達板温)は、通常60〜200℃であり、80〜180℃であることがより好ましい。加熱温度が60℃以上であれば皮膜中に主溶媒である水分が残存しないため、また、加熱温度が200℃以下であれば皮膜のクラック発生が抑制されるため、亜鉛系めっき鋼板の耐食性低下等の問題を生じることがない。
また、加熱時間は、使用される亜鉛系めっき鋼板の種類などによって適宜最適な条件が選択される。なお、生産性などの観点からは、0.1〜60秒が好ましく、1〜30秒がより好ましい。
【0045】
さらに、第1層皮膜は加熱乾燥後の膜厚が0.01〜1.0μmとなるように形成することが好ましい。上記膜厚を0.01μm以上とすると耐食性不足が懸念されることがなく、一方、1.0μm以下とすると亜鉛系めっき鋼板の導通性の低下を招くことがない。なお、より好ましい膜厚は0.05〜0.5μmである。
【0046】
以上のようにして得られた第1層皮膜は、耐熱性、溶接性、密着性に優れ、本発明においては、亜鉛系めっき鋼板の亜鉛めっき層の表面にかかる第1層皮膜を形成することにより、耐食性を低下させることなく所望の導通性を具えた亜鉛系めっき鋼板が得られる。その理由は必ずしも明らかではないが、以下のような作用効果によるものと推測される。
【0047】
まず、本発明においては、第1層皮膜の成分のうち、カチオンウレタン樹脂エマルション(a−1)、および/または、ノニオン性アクリル樹脂エマルション(a−2)からなる樹脂エマルション(a)とテトラアルコキシシラン(b)とシランカップリング剤(c)により亜鉛系めっき鋼板の亜鉛系めっき層の表面に形成される皮膜の骨格を構成する。エマルション(a−1)、および/または、ノニオン性アクリル樹脂エマルション(a−2)からなる樹脂エマルション(a)を含む皮膜は、一旦乾燥すると再度水には溶解せずバリアー的効果を有するため、亜鉛系めっき鋼板の耐食性、皮膜の密着性、およびアルカリ脱脂後における亜鉛系めっき鋼板の耐食性の諸性能に優れ、樹脂皮膜の特性である加工性に優れた亜鉛系めっき鋼板が得られる。
【0048】
また、テトラアルコキシシラン(b)を含有することで、テトラアルコキシシラン(b)のアルコキシ基から発生したシラノール基と、カチオンウレタン樹脂、および/またはノニオンウレタン樹脂エマルション(a)とが、三次元架橋するため、緻密な皮膜が形成されるものと推測される。さらに、シランカップリング剤(c)を含有することにより、テトラアルコキシシラン(b)のシラノール基と架橋反応し、皮膜の結合力がより強固になるものと推測される。
【0049】
さらに、第1層皮膜の成分のうち、バナジン酸化合物(e)とチタン化合物(f)は、皮膜中において水に溶け易い形態で均一に分散して存在し、いわゆる亜鉛腐食時のインヒビター効果を発現する。すなわち、バナジン酸化合物(e)とチタン化合物(f)は、腐食環境下で一部がイオン化し、不動態化することにより亜鉛の腐食自体を抑制するものと推測される。特に、チタン化合物(f)は、亜鉛系めっき鋼板を所望の形状に加工成型するに際し、加工部の皮膜に欠陥が発生した場合であっても、皮膜欠陥部に優先的に溶出し、亜鉛の腐食を抑制するものと推測される。
【0050】
さらにまた第1層皮膜の成分のうち、キレート剤(d)は、表面処理層中でテトラアルコキシシラン(b)が高分子化することを抑制する効果、並びに、バナジン酸化合物(e)とチタン化合物(f)を表面処理液(A)中に安定に溶解する効果を有するものと推測される。更に、加熱乾燥して皮膜を形成する際には、リン酸亜鉛のような絶縁皮膜(不導体皮膜)を形成せずに、キレート剤(d)のカルボキシル基、またはホスホン酸基が皮膜の上記骨格成分と緻密な皮膜骨格を形成するための架橋剤として働くため、導通性の向上に寄与するものと推測される。
【0051】
すなわち、本発明の第1層皮膜は、カチオンウレタン樹脂エマルションおよび/またはノニオンウレタン樹脂エマルションと、テトラアルコキシシランと、シランカップリング剤とによって形成される皮膜が、薄膜でありながら高耐食性を有することが可能となり、さらに、キレート剤、バナジン酸化合物、およびチタン化合物の腐食インヒビターを、皮膜中に含有させる構成により、低い圧力でガスケットなどと接触する場合であっても、優れた導通性を維持することが可能になったとものと推測される。
【0052】
<第2層皮膜>
第1層皮膜は、亜鉛系めっき鋼板に良好な耐食性を付与し得るとはいえ、複合酸化物皮膜(無機皮膜)であるがゆえに、亜鉛系めっき鋼板の耐食性対策を講じる上で有機樹脂皮膜には劣り、用途によっては要求される耐食性を満足することが困難な場合も想定される。そこで、本発明においては、第1層皮膜の表面に表面処理液(B)を塗布し、加熱乾燥することにより、第2層皮膜を形成する。表面処理液(B)由来の第2層皮膜は有機樹脂層であり、本発明においては、第1層皮膜を保護し、亜鉛系めっき鋼板の耐食性(耐薬品性、耐型かじり性、耐指紋性、意匠性等)を補強する役割を担う。
第2層皮膜は、亜鉛系めっき鋼板の導通性を損なわない程度の膜厚に調整して形成され、かくして、本発明によると、導通性と耐食性のバランスに優れ、シールドボックス等の素材として実用に即した亜鉛系めっき鋼板が得られる。
【0053】
(表面処理液(B))
表面処理液(B)は主成分として有機樹脂(g)を含む。有機樹脂(g)としては種々のものが適用可能であり、例えば、エポキシ樹脂、変性エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アルキド樹脂、アクリル系樹脂、エチレン樹脂(ポリオレフィン樹脂)、ポリエステル樹脂、ポリブタジエン樹脂、アミノ樹脂、フェノール樹脂、フッ素樹脂、シリコン樹脂等、その種類は限定されない。なお、有機樹脂(g)の含有量は、表面処理液(B)に占める割合が固形分比率で50〜90質量%程度であり、この範囲であれば上記した第2層皮膜の役割を達成できる。
【0054】
先述のとおり、亜鉛系めっき鋼板に耐食性を付与する上では、複合酸化物皮膜(無機皮膜)よりも有機樹脂皮膜のほうが有効である。そのため、本発明においては、表面処理液(B)に含まれる有機樹脂(g)の種類を問わず、第1層皮膜を保護し、亜鉛系めっき鋼板の耐食性を補強するために第2層皮膜を形成する。
ここに、表面処理液(B)に含有させる有機樹脂(g)として、以下に示すOH基および/またはCOOH基を有する有機樹脂(g−1)、または、ヒドラジン変性有機樹脂(g−2)を用いることにより、より一層の皮膜改善が可能となる。
【0055】
(OH基および/またはCOOH基を有する有機樹脂(g−1))
本発明においては、OH基および/またはCOOH基を有する有機樹脂(g−1)を含む表面処理液(B)を用いることにより、第1層皮膜と第2層皮膜との密着性に優れ、ひいては一層耐食性に優れた亜鉛系めっき鋼板を得ることができる。
OH基および/またはCOOH基を有する有機樹脂(g−1)としては、例えば以下に示す(g−11)エポキシ樹脂、(g−12)変性エポキシ樹脂、(g−13)ポリヒドロキシポリエーテル樹脂、(g−14)ウレタン樹脂、(g−15)アルキド樹脂、(g−16)アクリル系樹脂、(g−17)エチレン系共重合体、(g−18)アクリルシリコン樹脂、(g−19)フッ素樹脂系共重合体、等が挙げられる。
【0056】
(g−11)エポキシ樹脂
エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ノボラックなどをグリシジルエーテル化したエポキシ樹脂、ビスフェノールAにプロピレンオキサイド、エチレンオキサイドまたはポリアルキレングリコールを付加し、グリシジルエーテル化したエポキシ樹脂、さらには脂肪族エポキシ樹脂、脂環族エポキシ樹脂、ポリエーテル系エポキシ樹脂などを用いることができる。また、エポキシ樹脂を含む表面処理液(B)を加熱乾燥して第2層皮膜を形成するに際し、特に低温域での皮膜形成を必要とする場合には、数平均分子量が1500以上のエポキシ樹脂が望ましい。なお、上記エポキシ樹脂は単独または異なる種類のものを混合して使用することもできる。
【0057】
(g−12)変性エポキシ樹脂
変性エポキシ樹脂としては、例えば、上記エポキシ樹脂中のエポキシ基またはビドロキシル基に各種変性剤を反応させた樹脂が挙げられ、具体的には、上記エポキシ基またはビドロキシル基に乾性油脂肪酸中のカルボキシル基を反応させたエポキシエステル樹脂、上記エポキシ基またはビドロキシル基にアクリル酸やメタクリル酸を反応させたエポキシアクリレート樹脂、上記エポキシ基またはビドロキシル基にイソシアネート化合物を反応させたウレタン変性エポキシ樹脂、エポキシ樹脂にイソシアネート化合物を反応させたウレタン変性エポキシ樹脂にアルカノールアミンを付加したアミン付加ウレタン変性エポキシ樹脂などを挙げることができる。
【0058】
(g−13)ポリヒドロキシポリエーテル樹脂
ポリヒドロキシポリエーテル樹脂は、単核型若しくは2核型の2価フェノールまたは単核型と2核型との混合2価フェノールを、アルカリ触媒の存在下にほぼ等モル量のエピハロヒドリンと重縮合させて得られる重合体である。単核型2価フェノールの代表例としてはレゾルシン、ハイドロキノン、カテコールが挙げられ、2核型フェノールの代表例としてはビスフェノールAが挙げられる。これらは単独で使用しても或いは2種以上を併用してもよい。
【0059】
(g−14)ウレタン樹脂
ウレタン樹脂としては、例えば、油変性ポリウレタン樹脂、アルキド系ポリウレタン樹脂、ポリエステル系ポリウレタン樹脂、ポリエーテル系ウレタン樹脂、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂などを挙げることができる。
【0060】
(g−15)アルキド樹脂
アルキド樹脂としては、例えば、油変性アルキド樹脂、ロジン変性アルキド樹脂、フェノール変性アルキド樹脂、スチレン化アルキド樹脂、シリコン変性アルキド樹脂、アクリル変性アルキド樹脂、オイルフリーアルキド樹脂、高分子量オイルフリーアルキド樹脂などを挙げることができる。
【0061】
(g−16)アクリル系樹脂
アクリル系樹脂としては、例えば、ポリアクリル酸及びその共重合体、ポリアクリル酸エステル及びその共重合体、ポリメタクリル酸及びその共重合体、ポリメタクリル酸エステル及びその共重合体、ウレタン−アクリル酸共重合体(またはウレタン変性アクリル樹脂)、スチレン−アクリル酸共重合体などが挙げられ、さらにこれらの樹脂を他のアルキド樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂などによって変性させた樹脂を用いてもよい。
【0062】
(g−17)エチレン系共重合体
エチレン系共重合体としては、例えば、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、カルボキシル変性ポリオレフィン樹脂などのエチレン系共重合体、エチレン−不飽和カルボン酸共重合体、エチレン系アイオノマーなどが挙げられ、さらに、これらの樹脂を他のアルキド樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂などによって変性させた樹脂を用いてもよい。
【0063】
(g−18)アクリルシリコン樹脂
アクリルシリコン樹脂としては、例えば、主剤としてアクリル系共重合体の側鎖または末端に加水分解性アルコキシシリル基を含み、これに硬化剤を添加したものなどが挙げられる。これらのアクリルシリコン樹脂を用いた場合、優れた耐候性が期待できる。
【0064】
(g−19)フッ素樹脂系共重合体
フッ素樹脂系共重合体としては、フルオロオレフィン系共重合体があり、これには例えば、モノマーとしてアルキルビニルエーテル、シクロアルキルビニルエーテル、カルボン酸変性ビニルエステル、ヒドロキシアルキルアリルエーテル、テトラフルオロプロピルビニルエーテルなどと、フッ素モノマー(フルオロオレフィン)とを共重合させた共重合体がある。これらフッ素樹脂系共重合体を用いた場合には、優れた耐候性と優れた疎水性が期待できる。
【0065】
なお、本発明の有機樹脂(g−1)としては熱硬化性樹脂が好ましく、その中でも、酸素などの腐食因子に対して優れた遮断性を有する熱硬化性のエポキシ樹脂や変性エポキシ樹脂が最適である。これらの有機樹脂(g−1)を含む表面処理液(B)を用いて第2層皮膜を形成する場合、その膜厚が薄くても所望の耐食性を有する亜鉛系めっき鋼板を得ることができる。そのため、亜鉛系めっき鋼板の導通性及びスポット溶接性を重視し、皮膜の付着量を低レベルに抑える場合には特に有利である。
【0066】
また、耐食性、加工性、塗装性の観点からいえば、以上に述べた有機樹脂(g−1)の中で、(g−11)エポキシ樹脂、(g−12)変性エポキシ樹脂、(g−17)エチレン系共重合体が好ましく、特に、酸素などの腐食因子に対して優れた遮断性を有する熱硬化性のエポキシ樹脂や変性エポキシ樹脂が特に好適である。これらの熱硬化性樹脂としては、熱硬化性エポキシ樹脂、熱硬化性変性エポキシ樹脂、エポキシ基含有モノマーと共重合したアクリル系共重合体樹脂、エポキシ基を有するポリブタジエン樹脂、エポキシ基を有するポリウレタン樹脂、及びこれらの樹脂の付加物もしくは縮合物などが挙げられ、これらのエポキシ基含有樹脂の1種を単独で、または2種以上混合して用いることができる。
【0067】
上記(g−11)〜(g−19)のほか、本発明の有機樹脂(g)としては、ポリブタジエン樹脂、フェノール樹脂、ポリアミン樹脂、ポリフェニレン樹脂等を用いることができる。また、以上に述べた樹脂を2種以上混合した混合物もしくは付加重合物等を用いることもできる。
【0068】
また、樹脂の加熱乾燥温度の低温化を狙いとして、樹脂粒子のコア部分とシェル部分とで異なる樹脂種類、または異なるガラス転移温度の樹脂からなるコア・シェル型水分散性樹脂を用いることができる。
また、自己架橋性を有する水分散性樹脂を用い、例えば、樹脂粒子にアルコキシシラン基を付与することによって、樹脂の加熱乾燥時にアルコキシシランの加水分解によるシラノール基の生成と樹脂粒子間のシラノール基の脱水縮合反応を利用した粒子間架橋を利用することができる。
さらに、本発明の有機樹脂(g)としては、有機樹脂をシランカップリング剤を介してシリカと複合化させた有機複合シリケートも好適である。
【0069】
なお、第2層皮膜の耐食性や加工性の向上を狙い、有機樹脂(g−1)として特に熱硬化性樹脂が好適に用いられることは先述のとおりであるが、かかる場合においては、
有機樹脂(g−1)に、尿素樹脂(ブチル化尿素樹脂など)、メラミン樹脂(ブチル化メラミン樹脂)、ブチル化尿素・メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂等のアミノ樹脂、ブロックイソシアネート、オキサゾリン化合物、フェノール樹脂などの硬化剤を配合することもできる。
【0070】
以上述べた有機樹脂(g−1)を含む表面処理液(B)を用いて第2層皮膜を形成すると、第1層皮膜と第2層皮膜との密着性が向上し、その結果、より一層耐食性に優れた亜鉛系めっき鋼板が得られる。かかる効果が得られる理由は定かではないが、OH基および/またはCOOH基を有する有機樹脂(g−1)(好ましくは熱硬化性樹脂、さらに好ましくはエポキシ樹脂および/または変性エポキシ樹脂)は、硬化剤(架橋剤)との反応により緻密なバリア皮膜を形成し、このバリア皮膜が、酸素などの腐食因子に対し優れた透過抑制能を発現するものと推測される。また、このバリア皮膜は、分子中のOH基やCOOH基が第1層皮膜成分のアルコキシシランやエポキシ基を有する化合物と強固に結合するため、第1層皮膜と第2層皮膜との密着性向上に大きく寄与するものと推測される。
【0071】
(ヒドラジン変性有機樹脂(g−2))
本発明においては、一部または全部の化合物が活性水素を有するヒドラジン誘導体(h)からなる活性水素含有化合物(i)との反応により生成されたヒドラジン変性有機樹脂(g−2)を含む表面処理液(B)を用いることにより、導通性の低下を最小限に抑えつつ、耐食性が極めて良好な亜鉛系めっき鋼板を得ることができる。
【0072】
ヒドラジン変性有機樹脂(g−2)は、所定の有機樹脂(C)と、一部または全部の化合物が活性水素を有するヒドラジン誘導体(h)からなる活性水素含有化合物(i)との反応により生成される。上記有機樹脂(C)の種類としては、ヒドラジン誘導体(h)からなる活性水素含有化合物(i)と反応して、有機樹脂に活性水素含有化合物(i)が付加、縮合などの反応により結合でき、且つ皮膜を適切に形成できる樹脂であれば特別な制約はない。上記有機樹脂(C)としては、例えば、エポキシ樹脂、変性エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、アクリル系共重合体樹脂、ポリブタジエン樹脂、フェノール樹脂、及びこれらの樹脂の付加物又は縮合物などを挙げることができ、これらのうちの1種を単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。
【0073】
また、上記有機樹脂(C)としては、反応性、反応の容易さ、防食性などの点から、樹脂中にエポキシ基を含有するエポキシ基含有樹脂(C1)が特に好ましい。かようなエポキシ基含有樹脂(C1)としては、エポキシ樹脂(C1−1)、変性エポキシ樹脂(C1−2)の他、例えばエポキシ基含有モノマーと共重合したアクリル系共重合体樹脂(C1−3)、エポキシ基を有するポリブタジエン樹脂、エポキシ基を有するポリウレタン樹脂、及びこれらの樹脂の付加物若しくは縮合物などが挙げられ、これらのエポキシ基含有樹脂の1種を単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
【0074】
また、これらのエポキシ基含有樹脂(C1)の中でも、第1層皮膜(複合酸化物皮膜)表面との密着性、耐食性の点からエポキシ樹脂(C1−1)、変性エポキシ樹脂(C1−2)が特に好適である。またその中でも、酸素などの腐食因子に対して優れた遮断性を有する熱硬化性のエポキシ樹脂や変性エポキシ樹脂が最適であり、これらのエポキシ基含有樹脂(C1)と、一部または全部の化合物が活性水素を有するヒドラジン誘導体(h)からなる活性水素含有化合物(i)との反応により生成されるヒドラジン変性有機樹脂(g−2)を含む表面処理液(B)を用いて第2層皮膜を形成することにより、膜厚が薄くても耐食性が極めて良好な亜鉛系めっき鋼板を得ることができる。そのため、亜鉛系めっき鋼板の導通性及びスポット溶接性を重視し、皮膜の付着量を低レベルに抑えたい場合には特に有利である。
【0075】
上記エポキシ樹脂(C1−1)としては、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ノボラック型フェノールなどのポリフェノール類とエピクロルヒドリンなどのエピハロヒドリンとを反応させてグリシジル基を導入してなるか、若しくはこのグリシジル基導入反応生成物にさらにポリフェノール類を反応させて分子量を増大させてなる芳香族エポキシ樹脂、さらには脂肪族エポキシ樹脂、脂環族エポキシ樹脂などが挙げられ、これらの1種を単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。また、エポキシ樹脂(C1−1)と、一部または全部の化合物が活性水素を有するヒドラジン誘導体(h)からなる活性水素含有化合物(i)との反応により生成されるヒドラジン変性有機樹脂(g−2)を含む表面処理液(B)を加熱乾燥して第2皮膜を形成するに際し、特に低温域での皮膜形成を必要とする場合には、数平均分子量1500以上のエポキシ樹脂(C1−1)が好適である。
【0076】
上記エポキシ樹脂(C1−1)として特に好ましいのは、ビスフェノールAとエピハロヒドリンとの反応生成物である下記(1)式に示される化学構造を有する樹脂であり、このエポキシ樹脂は特に耐食性に優れているため好ましい。
【化1】


このようなビスフェノールA型エポキシ樹脂の製造法は当業界において広く知られている。また、上記化学構造式において、qは0〜50、好ましくは1〜40、より好ましくは2〜20である。
【0077】
上記変性エポキシ樹脂(C1−2)としては、上記エポキシ樹脂(C1−1)中のエポキシ基または水酸基に各種変性剤を反応させた樹脂を挙げることができ、例えば、乾性油脂肪酸を反応させたエポキシエステル樹脂、アクリル酸又はメタクリル酸などを含有する重合性不飽和モノマー成分で変性したエポキシアクリレート樹脂、イソシアネート化合物を反応させたウレタン変性エポキシ樹脂などを例示できる。
【0078】
また、上記エポキシ基含有モノマーと共重合したアクリル系共重合体樹脂(C1−3)としては、エポキシ基を有する不飽和モノマーとアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルを必須とする重合性不飽和モノマー成分とを、溶液重合法、エマルション重合法または懸濁重合法などによって合成した樹脂を挙げることができる。
上記重合性不飽和モノマー成分としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−,iso−若しくはtert−ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレートなどのアクリル酸またはメタクリル酸のC1〜24アルキルエステル;アクリル酸、メタクリル酸、スチレン、ビニルトルエン、アクリルアミド、アクリロニトリル、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミドのC1〜4アルキルエーテル化物;N,N−ジエチルアミノエチルメタクリレートなどを挙げることができる。
また、エポキシ基を有する不飽和モノマーとしては、グリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレートなど、エポキシ基と重合性不飽和基を持つものであれば特別な制約はない。
更に、このエポキシ基含有モノマーと共重合したアクリル系共重合体樹脂(C1−3)は、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂などによって変性させた樹脂とすることもできる。
なお、有機樹脂(C)は、有機溶剤溶解型、有機溶剤分散型、水溶解型、水分散型のいずれであってもよい。
【0079】
本発明のヒドラジン変性有機樹脂(g−2)では、上記した有機樹脂(C)の分子中にヒドラジン誘導体(h)を付与することを狙いとしており、このため活性水素含有化合物(i)の少なくとも一部(好ましくは全部)は、活性水素を有するヒドラジン誘導体(h)であることが必要である。
有機樹脂(C)がエポキシ基含有樹脂(C1)である場合、そのエポキシ基と反応する活性水素含有化合物(i)としては以下のようなものを例示でき、これらの1種または2種以上を使用できる。この場合も活性水素含有化合物(i)の少なくとも一部(好ましくは全部)は、活性水素を有するヒドラジン誘導体(h)であることが必要である。
・活性水素を有するヒドラジン誘導体(i1/h)
・活性水素を有する第1級または第2級のアミン化合物(i2)
・アンモニア、カルボン酸などの有機酸(i3)
・塩化水素などのハロゲン化水素(i4)
・アルコール類、チオール類(i5)
・活性水素を有しないヒドラジン誘導体または第3級アミンと酸との混合物である4級塩化剤(i6)
【0080】
前記活性水素を有するヒドラジン誘導体(h)としては、例えば、以下のものを挙げることができる。
(1) カルボヒドラジド、プロピオン酸ヒドラジド、サリチル酸ヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、ドデカン二酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、チオカルボヒドラジド、4,4’−オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジド、ベンゾフェノンヒドラゾン、N−アミノポリアクリルアミドなどのヒドラジド化合物;
(2) ピラゾール、3,5−ジメチルピラゾール、3−メチル−5−ピラゾロン、3-アミノ-5-メチルピラゾールなどのピラゾール化合物;
(3) 1,2,4−トリアゾール、3-アミノ−1,2,4−トリアゾール、4−アミノ−1,2,4−トリアゾール、3−メルカプト−1,2,4−トリアゾール、3-アミノ-5-メルカプト−1,2,4−トリアゾール、2,3−ジヒドロ−3−オキソ−1,2,4−トリアゾール、1H−ベンゾトリアゾール、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(1水和物)、6−メチル−8−ヒドロキシトリアゾロピリダジン、6−フェニル−8−ヒドロキシトリアゾロピリダジン、5−ヒドロキシ−7−メチル−1,3,8−トリアザインドリジンなどのトリアゾール化合物;
(4) 5−フェニル−1,2,3,4−テトラゾール5−メルカプト−1−フェニル−1,2,3,4−テトラゾールなどのテトラゾール化合物;
(5)2−アミノ−5−メルカプト−1,3,4−チアジアゾール、2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾールなどのチアジアゾール化合物;
(6) マレイン酸ヒドラジド、6−メチル−3−ピリダゾン、4,5−ジクロロ−3−ピリダゾン、4,5−ジブロモ−3−ピリダゾン、6−メチル−4,5−ジヒドロ−3−ピリダゾンなどのピリダジン化合物
また、これらのなかでも、5員環または6員環の環状構造を有し、環状構造中に窒素原子を有するピラゾール化合物、トリアゾール化合物が特に好適である。
これらのヒドラジン誘導体(h)は1種を単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。
【0081】
活性水素含有化合物(i)の一部として使用できる上記活性水素を有するアミン化合物(i2)の代表例としては、例えば、以下のものを挙げることができる。
(1)ジエチレントリアミン、ヒドロキシエチルアミノエチルアミン、エチルアミノエチルアミン、メチルアミノプロピルアミンなどの1個の2級アミノ基と1個以上の1級アミノ基を含有するアミン化合物の1級アミノ基を、ケトン、アルデヒド若しくはカルボン酸と例えば100〜230℃程度の温度で加熱反応させてアルジミン、ケチミン、オキサゾリン若しくはイミダゾリンに変性した化合物;
(2)ジエチルアミン、ジエタノールアミン、ジ−n−または−iso−プロパノールアミン、N−メチルエタノールアミン、N−エチルエタノールアミンなどの第2級モノアミン;
(3)モノエタノールアミンのようなモノアルカノールアミンとジアルキル(メタ)アクリルアミドとをミカエル付加反応により付加させて得られた第2級アミン含有化合物;
(4)モノエタノールアミン、ネオペンタノールアミン、2−アミノプロパノール、3−アミノプロパノール、2−ヒドロキシ−2’(アミノプロポキシ)エチルエーテルなどのアルカノールアミンの1級アミノ基をケチミンに変性した化合物;
【0082】
活性水素含有化合物(i)の一部として使用できる上記有機酸(i3)としては、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、カプロン酸、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノレン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、安息香酸、フタル酸、没食子酸、テレフタル酸、イソフタル酸、サリチル酸、乳酸、クエン酸、マレイン酸、アジピン酸などを挙げることができる。
【0083】
活性水素含有化合物(i)の一部として使用できる上記ハロゲン化水素(i4)としては、フッ化水素、臭化水素、ヨウ化水素などを挙げることができる。
【0084】
活性水素含有化合物(i)の一部として使用できる上記アルコール類、チオール類(i5)としては、メタノール、エタノール、プロパノール、プロパン−2−オール、ブタノール、フェニルメタノール、プロパン−1,2−ジオール、エタンチオール、ブタン−2,3−ジチオール、3−メルカプト−2−ブタノールなどを挙げることができる。
【0085】
活性水素含有化合物(i)の一部として使用できる上記4級塩化剤(i6)は、活性水素を有しないヒドラジン誘導体または第3級アミンはそれ自体ではエポキシ基と反応性を有しないので、これらをエポキシ基と反応可能とするために酸との混合物としたものである。4級塩化剤は、必要に応じて水の存在下でエポキシ基と反応し、エポキシ基含有樹脂と4級塩を形成する。4級塩化剤を得るために使用される酸は、酢酸、乳酸などの有機酸、塩酸などの無機酸のいずれでもよい。
なお、4級塩化剤を得るために使用される活性水素を有しないヒドラジン誘導体としては、例えば3,6−ジクロロピリダジンなどを、また、第3級アミンとしては、例えば、ジメチルエタノールアミン、トリエチルアミン、トリメチルアミン、トリイソプロピルアミン、メチルジエタノールアミンなどを挙げることができる。
【0086】
有機樹脂(C)と一部または全部の化合物が活性水素を有するヒドラジン誘導体(h)からなる活性水素含有化合物(i)との反応により生成されたヒドラジン変性有機樹脂(g−2)は、有機樹脂(C)と活性水素含有化合物(i)とを10〜300℃、好ましくは50〜150℃で約1〜8時間程度反応させることにより得られる。この反応は有機溶剤を加えて行ってもよい。使用する有機溶剤の種類は特に限定されず、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類;エタノール、ブタノール、2-エチルヘキシルアルコール、ベンジルアルコール、エチレングリコール、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルなどの水酸基を含有するアルコール類やエーテル類;酢酸エチル、酢酸ブチル、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテートなどのエステル類;トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素等を例示でき、これらの1種または2種以上を使用することができる。また、これらのなかで、エポキシ樹脂との溶解性、塗膜形成性などの面からは、ケトン系又はエーテル系の溶剤が特に好ましい。
【0087】
有機樹脂(C)と、一部または全部の化合物が活性水素を有するヒドラジン誘導体(h)からなる活性水素含有化合物(i)との配合比率は、固形分の割合で有機樹脂(C)100質量部に対して、活性水素含有化合物(i)を0.5〜20質量部、特に好ましくは1.0〜10質量部とするのが望ましい。また、有機樹脂(C)がエポキシ基含有樹脂(C1)である場合には、エポキシ基含有樹脂(C1)と活性水素含有化合物(i)との配合比率は、活性水素含有化合物(i)の活性水素基の数とエポキシ基含有樹脂(C1)のエポキシ基の数との比率[活性水素基数/エポキシ基数]が0.01〜10、より好ましくは0.1〜8、さらに好ましくは0.2〜4とすることが耐食性などの点から適当である。
【0088】
活性水素含有化合物(i)中における活性水素を有するヒドラジン誘導体(h)の割合は10〜100モル%とすることが好ましく、30〜100モル%、さら好ましくは40〜100モル%とすることがより好ましい。活性水素を有するヒドラジン誘導体(h)の割合が10モル%未満では第2層皮膜(有機樹脂皮膜)に十分な防錆機能を付与することができず、得られる防錆効果は皮膜形成有機樹脂とヒドラジン誘導体を単に混合して使用した場合と大差が見られない。
【0089】
以上述べた第2層皮膜(有機樹脂皮膜)の防食機構については、次のように考えられる。
すなわち、有機樹脂(C)に、活性水素を有するヒドラジン誘導体(h)を付与することによって、ヒドラジン誘導体が有機樹脂(C)の分子中に組み込まれ、
(1)緻密な有機樹脂皮膜(第2層皮膜)を形成し、かかる有機樹脂皮膜が酸素や塩素イオンなどの腐食因子を遮断する効果を発現すること、
(2)上記ヒドラジン誘導体(h)が第1層皮膜の表面と安定で強固に結合して不動態化層を形成すること、
(3)腐食反応によって溶出した亜鉛イオンを第2層皮膜中のフリーのヒドラジン誘導体基(h)がトラップし、安定な不溶性キレート化合物層を形成するため、第1層皮膜と亜鉛めっき層の界面でのイオン伝導層の形成が抑制されて腐食の進行が抑制されること、
などの作用効果により腐食の進行が効果的に抑制され、優れた耐食性が得られるものと考えられる。
【0090】
また、有機樹脂(C)として、特にエポキシ基含有樹脂(C1)を用いた場合には、エポキシ基含有樹脂(C1)と硬化剤(架橋剤)との反応により緻密なバリア皮膜が形成され、このバリア皮膜が、酸素などの腐食因子に対し優れた透過抑制能を発現する。また、分子中の水酸基により第1層皮膜との優れた結合力が得られるため、特に優れた耐食性(バリア性)が得られる。さらに、活性水素を有するヒドラジン誘導体(h)として、特に活性水素を有するピラゾール化合物または/および活性水素を有するトリアゾール化合物を用いることにより、より優れた耐食性(バリア性)が得られる。
【0091】
従来技術として、皮膜形成有機樹脂にヒドラジン誘導体を混合した組成物を用いる方法が知られているが、この従来技術のように皮膜形成有機樹脂に単にヒドラジン誘導体を混合しただけでは、腐食抑制の向上効果はほとんど認められない。その理由は、従来技術では、ヒドラジン誘導体が皮膜形成有機樹脂の分子中に組み込まれていないためである。皮膜形成有機樹脂の分子中に組み込まれていないヒドラジン誘導体は、第1層皮膜中の金属とキレート化合物を形成するものの、そのキレート化合物は低分子量のため緻密なバリア層にはならないものと推測される。これに対して、本発明のように皮膜形成有機樹脂の分子中にヒドラジン誘導体を組み込むことにより、格段に優れた腐食抑制効果が得られる。したがって、亜鉛系めっき鋼板の導通性を確保すべく有機樹脂皮膜である第2層皮膜の膜厚を薄くした場合であっても、ヒドラジン変性有機樹脂(g−2)を含む表面処理液(B)を用いて形成された第2層皮膜であれば、亜鉛系めっき鋼板に所望の耐食性を付与することができる。
【0092】
本発明では、有機樹脂(g)を含む表面処理液(B)中に、さらに防錆添加成分(j)を含有させることができる。
(防錆添加成分(j))
本発明の表面処理液(B)を用いて第2層皮膜を形成すると、耐食性が極めて良好な亜鉛系めっき鋼板が得られることは先述のとおりであるが、更に錆発生を抑制し、亜鉛系めっき鋼板の耐食性をより一層高める上では、防錆添加成分(j)を配合することが有効である。なお、表面処理液(B)における防錆添加成分(j)の含有量は、固形分比率で20〜30質量%程度が好ましい。
【0093】
上記防錆添加成分(j)の種類は特に限定されず、公知の防錆剤等、いずれの防錆添加成分であっても上記効果を十分に発現するが、自己補修性発現物質である下記(k)、(l)の1種以上を用いることが特に好ましい。

(k)Caイオン交換シリカ
(l)酸化ケイ素
【0094】
上記成分(k)のCaイオン交換シリカは、カルシウムイオンを多孔質シリカゲル粉末の表面に固定したものである。このCaイオン交換シリカは、腐食環境下でCaイオンを放出して沈殿膜を形成することにより防錆効果を発現する。
Caイオン交換シリカとしては任意のものを用いることができるが、平均粒子径が6μm以下、より好ましくは4μm以下であり、例えば、平均粒子径が2〜4μmのものを好適に使用することができる。Caイオン交換シリカの平均粒子径が6μmを超えると耐食性の低下とともに、表面処理液(B)中での分散安定性の低下が懸念される。
Caイオン交換シリカ中のCa濃度は1質量%以上であることが好ましく、2〜8質量%であることがより好ましい。Ca濃度が1質量%未満ではCa放出による防錆効果が不十分となるおそれがある。なお、Caイオン交換シリカの表面積、pH、吸油量等については特に限定されない。
【0095】
以上のようなCaイオン交換シリカとしては、W.R.Grace&Co.製のSHIELDEX C303 (平均粒子径:2.5〜3.5μm、Ca濃度:3質量%)、SHIELDEX AC3(平均粒子径:2.3〜3.1μm、Ca濃度:6質量%)、SHIELDEX AC5(平均粒子径:3.8〜5.2μm、Ca濃度:6質量%)(以上、いずれも商品名)、富士シリシア化学(株)製のSHIELDEX(平均粒子径:3μm、Ca濃度:6〜8質量%)、SHIELDEX SY710(平均粒子径:2.2〜2.5μm、Ca濃度:6.6〜7.5質量%)(以上、いずれも商品名)などを用いることができる。
【0096】
上記成分(l)の酸化ケイ素は、コロイダルシリカ、乾式シリカのいずれでもよい。水系皮膜形成樹脂をベースとする場合には、コロイダルシリカとして、例えば、日産化学工業(株)製のスノーテックスO、スノーテックスN、スノーテックス20、スノーテックス30、スノーテックス40、スノーテックスC、スノーテックスS(以上、いずれも商品名)、触媒化成工業(株)製のカタロイドS、カタロイドSI-350、カタロイドSI-40、カタロイドSA、カタロイドSN(以上、いずれも商品名)、(株)ADEKA製のアデライトAT-20〜50、アデライトAT-20N、アデライトAT-300、アデライトAT-300S、アデライトAT20Q(以上、いずれも商品名)などを用いることができる。
【0097】
また、溶剤系皮膜形成樹脂をベースとする場合には、コロイダルシリカとして、例えば、日産化学工業(株)製のオルガノシリカゾルMA-ST-MS、オルガノシリカゾルIPA-ST、オルガノシリカゾルEG-ST、オルガノシリカゾルIPA-ST-ZL、オルガノシリカゾルNPC-ST-30、オルガノシリカゾルDMAC-ST、オルガノシリカゾルMEK-ST-L、オルガノシリカゾルXBA-ST、オルガノシリカゾルMIBK-ST(以上、いずれも商品名)、触媒化成工業(株)製のOSCAL-1132、OSCAL-1232、OSCAL-1332、OSCAL-1432、OSCAL-1532、OSCAL-1632、OSCAL-1722(以上、いずれも商品名)などを用いることができる。
特に、有機溶剤分散型シリカゾルは、分散性に優れ、ヒュームドシリカ(乾式シリカ)よりも耐食性に優れている。
【0098】
また、ヒュームドシリカ(乾式シリカ)としては、例えば、日本アエロジル(株)製のAEROSIL R812、AEROSIL R974、AEROSIL R202、AEROSIL R805、AEROSIL 130、AEROSIL 200、AEROSIL 300(以上、いずれも商品名)などを用いることができる。
【0099】
上記の如き微粒子シリカは、腐食環境下において緻密で安定な亜鉛の腐食生成物の生成に寄与し、この腐食生成物がめっき表面に緻密に形成されることによって、腐食の促進を抑制することができると考えられている。
耐食性の観点からは、微粒子シリカの粒子径は5〜50nmであることが好ましく、5〜20nm、さらには5〜15nmであることがより好ましい。
【0100】
なお、上記成分(k)、(l)のほか、防錆添加成分(j)として下記の自己補修性発現物質の1種以上を用いた場合であっても、上記成分(k)、(l)と同様の効果を奏する。

(n)リン酸塩
(o)モリブデン酸塩
(p)トリアゾール類、チオール類、チアジアゾール類、チアゾール類、チウラム類の中から選ばれる1種以上の有機化合物
上記成分(n)であるリン酸塩は、単塩、複塩などの全ての種類の塩を含む。また、それを構成する金属カチオンに限定はなく、リン酸亜鉛、リン酸マグネシウム、リン酸カルシウム、リン酸アルミニウムなどのいずれの金属カチオンでもよい。また、リン酸イオンの骨格や縮合度などにも限定はなく、正塩、二水素塩、一水素塩または亜リン酸塩のいずれでもよく、さらに、正塩はオルトリン酸塩の他、ポリリン酸塩などの全ての縮合リン酸塩を含む。
また、上記成分(n)であるリン酸塩とともにカルシウム化合物を複合添加することにより、耐食性をさらに向上させることができる。カルシウム化合物は、カルシウム酸化物、カルシウム水酸化物、カルシウム塩のいずれでもよく、これらの1種または2種以上を使用できる。また、カルシウム塩の種類にも特に制限はなく、ケイ酸カルシウム、炭酸カルシウム、リン酸カルシウムなどのようなカチオンとしてカルシウムのみを含む単塩のほか、リン酸カルシウム・亜鉛、リン酸カルシウム・マグネシウムなどのようなカルシウムとカルシウム以外のカチオンを含む複塩を使用してもよい。
上記成分(o)であるモリブデン酸塩は、その骨格、縮合度に限定はなく、例えば、オルトモリブデン酸塩、パラモリブデン酸塩、メタモリブデン酸塩などが挙げられる。また、単塩、複塩などの全ての塩を含み、複塩としてはリン酸モリブデン酸塩などが挙げられる。
上記成分(p)の有機化合物のうち、トリアゾール類としては、1,2,4−トリアゾール、3−アミノ−1,2,4−トリアゾール、3−メルカプト−1,2,4−トリアゾール、5−アミノ−3−メルカプト−1,2,4−トリアゾール、1H−ベンゾトリアゾールなどが、またチオール類としては、1,3,5−トリアジン−2,4,6−トリチオール、2−メルカプトベンツイミダゾールなどが、またチアジアゾール類としては、5−アミノ−2−メルカプト−1,3,4−チアジアゾール、2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾールなどが、またチアゾール類としては、2−N,N−ジエチルチオベンゾチアゾール、2−メルカプトベンゾチアゾール類などが、またチウラム類としては、テトラエチルチウラムジスルフィドなどが、それぞれ挙げられる。
【0101】
第2層皮膜中における上記防錆添加成分(j)の合計の配合量(上記成分(k)、(l)、更には(n)〜(p)の中から選ばれる1種以上の自己補修性発現物質の合計の配合量)は、表面処理液(B)中の有機樹脂:100質量部(固形分)に対して、1〜100質量部(固形分)とすることが好ましく、5〜80質量部(固形分)、更には10〜50質量部(固形分)とすることがより好ましい。防錆添加成分(j)の配合量が1質量部未満または100質量部超である場合、耐食性が低下するおそれがあり好ましくない。
【0102】
本発明では、第2層皮膜中に、防錆添加成分(j)として、自己補修性発現物質(n)〜(p)を適量配合することにより、特に優れた防食性能(自己修復効果)を得ることができる。更に、第2層皮膜中に防錆添加成分(j)を配合したことにより得られる防食機構は以下のように考えられる。
【0103】
第2層皮膜中に、防錆添加成分(j)のうち、上記(k)の成分を配合した場合、腐食環境下でNaイオンなどのカチオンが(第2層皮膜に)侵入すると、イオン交換作用によりシリカ表面のCaイオンが放出され、さらに、腐食環境下でのカソード反応によりOHイオンが生成する。これに伴いめっき界面近傍のpHが上昇すると、Caイオン交換シリカから放出されたCaイオンがCa(OH)2としてめっき界面近傍に沈殿し、緻密で難溶性の生成物として欠陥を封鎖し、腐食反応を抑制する。また、溶出した亜鉛イオンはCaイオンと交換されてシリカ表面に固定される効果も考えられる。
また、上記(l)の成分は、腐食環境下において緻密で安定な亜鉛の腐食生成物の生成に寄与し、この腐食生成物がめっき表面に緻密に形成されることによって、腐食の促進を抑制する。
【0104】
また、上記(n)の成分は、腐食環境化において加水分解によってリン酸イオンに解離し、溶出金属と錯形成反応を起こすことにより保護皮膜を形成する。
また、上記(o)の成分は、不動態化効果によって自己補修性を発現する。すなわち、腐食環境下で溶存酸素と共にめっき皮膜表面に緻密な酸化物を形成し、これが腐食起点を封鎖することによって腐食反応を抑制する。
また、上記(p)の成分は吸着効果によって自己補修性を発現する。すなわち、腐食によって溶出した亜鉛やアルミニウムが、上記(p)の成分が有する窒素や硫黄を含む極性基に吸着して不活性皮膜を形成し、これが腐食起点を封鎖することによって腐食反応を抑制する。
【0105】
なお、本発明においては、一般の有機皮膜中に上記(k)、(l)、或いはこれらに加えて(n)〜(p)の成分を配合した場合でも、ある程度の防食効果は得られるが、特定の有機樹脂(OH基および/またはCOOH基を有する有機樹脂(g−1)、またはヒドラジン変性有機樹脂(g−2))を含むバリア性に優れた第2層皮膜中に、上記(k)、(l)、或いはこれらに加えて(n)〜(p)の自己補修性発現物質を配合すると、両者の効果(バリア性と自己補修性)が複合化し、極めて優れた防食効果が発揮されるものと考えられる。
また、上記(n)の成分とともにカルシウム化合物を複合添加した場合には、カルシウム化合物は、腐食環境下においてめっき金属よりも優先的に溶出することにより、めっき金属の溶出をトリガーとせずにリン酸イオンと錯形成反応を起こして緻密で難溶性の保護皮膜を形成し、腐食反応を抑制する。
なお、以上述べた(k)、(l)、或いはこれらに加えて(n)〜(p)の成分のうちの2種以上を複合添加すれば、各々の成分による腐食抑制作用が複合化されるため、より優れた耐食性が得られる。
【0106】
更に、有機皮膜中には上記の防錆添加成分に加えて、腐食抑制剤として、他の酸化物微粒子、リンモリブデン酸塩、有機リン酸及びその塩、有機インヒビターなどの1種または2種以上を添加することができる。
【0107】
(潤滑剤(m))
また、本発明においては、更に必要に応じて、皮膜の加工性を向上させる目的で表面処理液(B)に潤滑剤(m)を配合することができる。本発明に適用できる潤滑剤(m)としては、例えば、以下のようなものが挙げられ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
(m1)ポリオレフィンワックス、パラフィンワックス:例えば、ポリエチレンワックス
(m1−1)合成パラフィン、天然パラフィン、マイクロワックス、塩素化炭化水素など
(m2)フッ素樹脂微粒子:例えば、ポリフルオロエチレン樹脂(ポリ4フッ化エチレン樹脂など)、ポリフッ化ビニル樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂など。
【0108】
また、上記以外にも、脂肪酸アミド系化合物(例えば、ステアリン酸アミド、パルミチン酸アミド、メチレンビスステアロアミド、エチレンビスステアロアミド、オレイン酸アミド、エシル酸アミド、アルキレンビス脂肪酸アミドなど)、金属石けん類(例えば、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸鉛、ラウリン酸カルシウム、パルミチン酸カルシウムなど)、金属硫化物(例えば、二硫化モリブデン、二硫化タングステンなど)、グラファイト、フッ化黒鉛、窒化ホウ素、ポリアルキレングリコール、アルカリ金属硫酸塩などの1種または2種以上を用いてもよい。
【0109】
以上の潤滑剤の中でも、特に、ポリエチレンワックス(m1)、フッ素樹脂微粒子(m2)、なかでも、ポリ4フッ化エチレン樹脂微粒子が好適である。
ポリエチレンワックス(m1)としては、例えば、クラリアントジャパン(株)製のセリダスト9615A、セリダスト3715、セリダスト3620、セリダスト3910(以上、いずれも商品名)、三洋化成(株)製のサンワックス131-P、サンワックス161-P(以上、いずれも商品名)、三井化学(株)製のケミパールW-100、ケミパールW-200、ケミパールW-500、ケミパールW-800、ケミパールW-950(以上、いずれも商品名)などを用いることができる。
【0110】
フッ素樹脂微粒子(m2)としては、テトラフルオロエチレン微粒子が最も好ましく、例えば、ダイキン工業(株)製のルブロンL-2、ルブロンL-5(以上、いずれも商品名)、三井・デュポン(株)製のMP1100、MP1200(以上、いずれも商品名)、旭アイシーアイフロロポリマーズ(株)製のフルオンディスパージョンAD1、フルオンディスパージョンAD2、フルオンL141J、フルオンL150J、フルオンL155J(以上、いずれも商品名)などが好適である。
また、これらのなかで、ポリオレフィンワックスとテトラフルオロエチレン微粒子の併用により特に優れた潤滑効果が期待できる。
【0111】
第2層皮膜中での潤滑剤(m)の配合量は、表面処理液(B)中の有機樹脂:100質量部(固形分)に対して1〜80質量部(固形分)とすることが好ましく、3〜40質量部(固形分)とすることがより好ましい。潤滑剤(m)の配合量を1質量部以上とすると潤滑効果が十分となり、一方、配合量を80質量部以下とすると塗装性の低下が懸念されることがない。
【0112】
更に、本発明では、第2層皮膜を緻密なバリア皮膜として形成させる目的で、表面処理液(B)に硬化剤を配合し、第2層皮膜を加熱硬化させてもよい。
第2層皮膜を緻密なバリア皮膜として形成させる場合の硬化方法としては、(1)イソシアネートと基体樹脂中の水酸基とのウレタン化反応を利用する硬化方法、(2)アルキルエーテル化アミノ樹脂と基体樹脂中の水酸基との間のエーテル化反応を利用する硬化方法(アルキルエーテル化アミノ樹脂はメラミン、尿素及びベンゾグアナミンの中から選ばれた1種以上にホルムアルデヒドを反応させてなるメチロール化合物の一部若しくは全部に、炭素数1〜5の1価アルコールを反応させて得られる)、が適当であるが、このうちイソシアネートと基体樹脂中の水酸基とのウレタン化反応を主反応とすることが特に好適である。
【0113】
また、本発明では、必要に応じて表面処理液(B)に、有機着色顔料(例えば、縮合多環系有機顔料、フタロシアニン系有機顔料など)、着色染料(例えば、有機溶剤可溶性アゾ系染料、水溶性アゾ系金属染料など)、無機顔料(例えば、酸化チタンなど)、キレート剤(例えば、チオールなど)、導電性顔料(例えば、亜鉛、アルミニウム、ニッケルなどの金属粉末、リン化鉄、アンチモンドープ型酸化錫など)、カップリング剤(例えば、シランカップリング剤、チタンカップリング剤など)、メラミン・シアヌル酸付加物などの1種又は2種以上を添加することができる。
【0114】
(その他の有機樹脂)
OH基および/またはCOOH基を有する有機樹脂(g−1)、または、ヒドラジン変性有機樹脂(g−2)を含む表面処理液(B)を用いることにより、特に密着性や導通性に優れた亜鉛系めっき鋼板が得られることは先述のとおりである。これに対し、例えば亜鉛系めっき鋼板の加工性を重視する場合には、有機樹脂(g)として(q)水溶性ウレタン変性アクリル樹脂または/および水分散性ウレタン変性アクリル樹脂と、(r)硬化剤と、(l)酸化ケイ素と、(m)潤滑剤とを特定の割合で含有する表面処理液(B)を用いることが推奨される。
【0115】
上記(q)の水溶性ウレタン変性アクリル樹脂は、水溶性、水分散性のいずれでもよく、両者を併用してもよい。また、アクリル樹脂をウレタン変性する方法は特に限定されない。
水溶性または水分散性のウレタン変性アクリル樹脂(q)は、樹脂固形分中でのウレタン成分の固形分質量割合が10〜50質量%であることが好ましく、10〜30質量%であることがより好ましい。
【0116】
硬化剤(r)は皮膜を十分に架橋させるために添加するものであり、その架橋によって優れた耐食性と耐溶剤性を得ることができる。使用する硬化剤の種類に特別な制限はないが、親水基であるアミノ基、水酸基、カルボキシル基等を有するアミン類、多価アルコール、多塩基酸等よりも、親水基ではないエポキシ基、オキサゾリン基、イソシアネート基、アジリジニル基の中から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する化合物を用いることが特に好ましい。
【0117】
酸化ケイ素(l)は、耐食性向上のために添加する。酸化ケイ素(l)の種類は特に制限はなく、例えば、先述のコロイダルシリカ、ヒュームドシリカなどの1種以上を用いることができる。なお、シリカの粒径および種類については、本発明では特に限定されない。
【0118】
潤滑剤(m)は潤滑成分として耐疵付き性を向上させる。潤滑剤(m)の種類に特別な制限はなく、例えば、カルナバワックス、ライスワックス、ラノリンワックス、モンタンワックス、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、脂肪酸エステルワックス、脂肪酸アミドワックス或いはこれらの部分けん化物、ポリエチレンワックス、ポリオレフィンワックス、塩素化炭化水素、フッ素化炭化水素、エチレンアクリルコポリマーワックスなどが挙げられ、これらの1種または2種以上を使用できる。
潤滑剤(m)の平均粒径は0.05〜3.0μmが好ましい。また、潤滑剤(m)の融点は50〜160℃が好ましい。なお、潤滑剤粒子の形状としては、真球状のものが高度な加工性を得るためにより好ましい。
【0119】
水溶性ウレタン変性アクリル樹脂または/および水分散性ウレタン変性アクリル樹脂(q)+硬化剤(r)+酸化ケイ素(l)+潤滑剤(m)の合計固形分質量(以下、「(q)+(r)+(l)+(m)」と記す)に対して、上記(q)と(r)を合計した固形分質量割合は50〜95質量%とすることが好ましく、55〜75質量%とすることがより好ましい。
【0120】
硬化剤(r)は、水溶性ウレタン変性アクリル樹脂または/および水分散性ウレタン変性アクリル樹脂(q)との固形分質量比が(q)/(r)=4〜49となるように配合することが好ましい。
【0121】
酸化ケイ素(l)の配合量は、(q)+(r)+(l)+(m)に対する固形分質量割合で3〜40質量%とすることが好ましい。
【0122】
潤滑剤(m)の配合量は、(q)+(r)+(l)+(m)に対する固形分質量割合で2〜20質量%とすることが好ましく、5〜15質量%とすることがより好ましい。
【0123】
なお、本発明で用いる第2層皮膜用の表面処理液(B)には、被塗布面に均一な皮膜を形成するための濡れ性向上剤と呼ばれる界面活性剤や増粘剤、導電性を向上させるための導電性物質、意匠性向上のための着色顔料、造膜性向上のための溶剤等を、必要に応じて適宜添加してもよい。
【0124】
(第2層皮膜の形成)
先述のとおり、本発明においては、第1層皮膜の表面に表面処理液(B)を塗布し、加熱乾燥することにより、第2層皮膜を形成する。
表面処理液(B)を第1層皮膜の表面に塗布する方法としては、ロールコート法、バーコート法、浸漬法、スプレー塗布法などが挙げられ、処理される亜鉛系めっき鋼板の形状等によって適宜最適な方法が選択される。より具体的には、例えば、処理される亜鉛系めっき鋼板がシート状であればロールコート法、バーコート法や、表面処理液(B)を亜鉛系めっき鋼板にスプレーしてロール絞りや気体を高圧で吹きかけて塗布量を調整する。亜鉛系めっき鋼板が成型品とされている場合であれば、表面処理液(B)に浸漬して引き上げ、場合によっては圧縮エアーで余分な表面処理剤を吹き飛ばして塗布量を調整する方法などが選択される。
【0125】
表面処理液(B)の塗布後、通常は水洗することなく加熱乾燥を行うが、表面処理液(B)の塗布後に水洗工程を実施しても構わない。表面処理液(B)を乾燥する際の加熱温度(最高到達板温)は、通常50〜350℃であり、80〜250℃であることがより好ましい。加熱温度が50℃以上であれば第2層皮膜中に溶媒が残存しないため、また、加熱温度が350℃以下であれば第2層皮膜のクラック発生が抑制されるため、亜鉛系めっき鋼板の耐食性低下等の問題を生じることがない。加熱乾燥方法は特に限定されず、例えば熱風やインダクションヒーター、赤外線、近赤外線などにより加熱して、表面処理液(B)を乾燥すればよい。
また、加熱時間は、使用される亜鉛系めっき鋼板の種類などによって適宜最適な条件が選択される。なお、生産性などの観点からは、0.1〜60秒が好ましく、1〜30秒がより好ましい。
【0126】
第2層皮膜の加熱乾燥後の膜厚は、好ましくは0.01μm以上3μm未満、より好ましくは0.1〜2μmとすることが好適である。加熱乾燥後の膜厚を0.01μm以上とすると耐食性や耐指紋性が十分となり、一方3μm未満とすると導通性の低下の懸念がない。
なお、第2層皮膜の有機樹脂(g)として、特にヒドラジン変性有機樹脂(g−2)を用いた場合には、膜厚が薄くても均一で耐食性に優れた皮膜が得られるので、耐食性の低下を招くことなしに導通性を向上させようとする場合にとりわけ有利である。
【0127】
<合計皮膜の膜厚>
第1層皮膜(複合酸化物皮膜)と、その上層の第2層皮膜(有機樹脂皮膜)の片面当たりの合計皮膜の膜厚は0.1〜3μm、好ましくは0.1〜2μmとする。合計皮膜の膜厚が0.1μm未満では耐食性が不十分となり、一方、膜厚が3μmを超えると導通性が低下する。
なお、耐食性と導通性の両立を図る上では、第1層皮膜(複合酸化物皮膜)の膜厚は0.05μm以上、第2層皮膜(有機樹脂皮膜)の膜厚は1.0μm以下とすることが好ましい。
【0128】
本発明は、以上述べたような皮膜を両面または片面に有する鋼板を含むものである。したがって、本発明鋼板の形態としては、例えば、以下のようなものがある。
(1)片面:めっき層−第1層皮膜−第2層皮膜、片面:めっき層
(2)片面:めっき層−第1層皮膜−第2層皮膜、片面:めっき層−公知のリン酸塩処理皮膜など
(3)両面:めっき層−第1層皮膜−第2層皮膜
(4)片面:めっき層−第1層皮膜−第2層皮膜、片面:めっき層−第1層皮膜
(5)片面:めっき層−第1層皮膜−第2層皮膜、片面:めっき層−第2層皮膜
【0129】
なお、前記第1層皮膜及び前記第2層皮膜の膜厚については、それぞれの皮膜の膜厚を確実に測定できる方法であれば特に限定はしない。例えば、FIB加工を施した皮膜の断面を、SEMで観察し、各皮膜中に存在する代表元素を、EDX等の方法によって測定することで皮膜界面を特定し、それぞれの膜厚を算出することができる。例えば、SEM観察した断面1視野につき任意の3箇所について膜厚を測定し、その平均値を膜厚とする。
【0130】
本発明によれば、耐食性、および密着性の諸性能を有し、特に耐食性を低下することなく、低い圧力で鋼板が接触するような厳しい条件でも導通性に優れた亜鉛系めっき鋼板を提供することができる。本発明の亜鉛系めっき鋼板は種々の用途に適用することができ、例えば、建築、電気、自動車等の各種分野で使用される材料などに好適に用いられる。
【実施例】
【0131】
次に、実施例および比較例により本発明の効果を説明するが、本実施例はあくまで本発明を説明する一例に過ぎず、本発明を限定するものではない。
【0132】
1.試験板の作成方法
(1)供試板(素材)
以下の市販の材料を供試板として使用した。
( i )電気亜鉛めっき鋼板(EG):板厚0.8mm、目付量20/20(g/m)
( ii )溶融亜鉛めっき鋼板(GI):板厚0.8mm、目付量60/60(g/m)
(iii)合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA):板厚0.8mm、目付量40/40(g/m)
なお、目付量はそれぞれの鋼板の目付量を示している。例えば、電気亜鉛めっき鋼板の場合(20/20(g/m))は、鋼板の両面のそれぞれに20g/mのめっき層を有することを意味する。
【0133】
(2)前処理(洗浄)
試験片の作製方法としては、まず上記の供試板の表面を、日本パーカライジング(株)製パルクリーンN364Sを用いて処理し、表面上の油分や汚れを取り除いた。次に、水道水で水洗して供試板が水で100%濡れることを確認した後、更に純水(脱イオン水)を流しかけ、100℃雰囲気のオーブンで水分を乾燥したものを試験片として使用した。
【0134】
(3)表面処理液(A)の調整
各成分を表1−1〜1−4に示す組成(質量比)にて水中で混合し、亜鉛めっき鋼板用処理剤(A)を得た。また、表1中のa、b、c、d、e及びfについては、それぞれ、樹脂エマルション(a)の固形分、テトラアルコキシシラン(b)の固形分、シランカップリング剤(c)の固形分、キレート剤(d)の固形分、バナジン酸化合物(e)のV換算量、及び、チタン化合物(f)のTi換算量を表す。
【0135】
【表1−1】

【0136】
【表1−2】

【0137】
【表1−3】

【0138】
【表1−4】

【0139】
以下に、表1−1〜1−4で使用された化合物について説明する。
【0140】
<カチオンウレタン樹脂エマルション(a−1)、および/または、ノニオンアクリル樹脂 エマルション(a−2)からなる樹脂エマルション(a)>
a1:スチレン-エチルメタアクリレート-n-ブチルアクリレート-アクリル酸共重合体(ノニオンアクリル樹脂エマルション(a−2))
a2:アデカボンタイターHUX−670(カチオンウレタン樹脂エマルション(a−1))
【0141】
<テトラアルコキシシラン(b)>
b1:テトラエトキシシラン
b2:テトラメトキシシラン
【0142】
<シランカップリング剤(c)>
c1:γ−グルシジルトリエトキシシラン
c2:3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン
c3:N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン
【0143】
<キレート剤(d)>
d1:1-ヒドロキシメタン-1.1-ジホスホン酸
d2:酢酸
d3:りん酸
【0144】
<バナジン酸化合物(e)>
e1:メタバナジン酸アンモニウム
e2:バナジルアセチルアセトネート(V:19.2%)
【0145】
<金属化合物(f)>
f1:チタンフッ化アンモニウム
f2:チタンアセチルアセトナート(Ti:12.5%)
【0146】
(4)表面処理液(B)の調整
下記に示した有機樹脂(g1〜g7)に、表2−1〜2−4に示す添加剤を適宜配合した表面処理剤(B)を調製した。
尚、表2−1〜2−4中の有機樹脂(g)の含有量は、表面処理液(B)中濃度:4〜10g/lとした。また、(k)、(l)、(m)は、基体樹脂(g)との配合比で示す。
【0147】
【表2−1】

【0148】
【表2−2】

【0149】
【表2−3】

【0150】
【表2−4】

【0151】
以下に、表2−1〜2−4で使用された化合物について説明する。
<有機樹脂:OH基および/またはCOOH基を有しない有機樹脂>
g1:ポリオレフィン樹脂(メーカー名:東邦化学工業(株)製 型番:HYTEC S−3121)
g2:フッ素樹脂(メーカー名:旭硝子(株)製 型番:ルミフロン LF552)
【0152】
<有機樹脂:OH基および/またはCOOH基を有する有機樹脂(g−1)>
g3:エポキシ樹脂(メーカー名:ジャパンエポキシレジン(株)製 型番:jER1009 )
g4:ウレタン樹脂(メーカー名:第一工業製薬(株)製 型番:スーパーフレックスE−2000)
g5:アルキド樹脂(メーカー名:日立化成工業(株)製 型番:フタルキッドW2343)
【0153】
<有機樹脂:ヒドラジン変性有機樹脂(g−2)>
g6:[合成例1]
EP828(油化シェルエポキシ(株)製、エポキシ当量187)1870質量部とビスフェノールA91 2質量部、テトラエチルアンモニウムブロマイド2質量部、メチルイソブチルケトン300質量部を四つ口フラスコに仕込み、140℃まで昇温して4時間反応させ、エポキシ当量1391、固形分90質量%のエポキシ樹脂を得た。これに、エチレングリコールモノブチルエーテル1500質量部を加えてから100℃に冷却し、3,5-ジメチルピラゾール(分子量96)を96質量部とジブチルアミン(分子量129)を129質量部加えて、エポキシ基が消失するまで6時間反応させた後、冷却しながらメチルイソブチルケトン205質量部を加えて、固形分60質量%のピラゾール変性エポキシ樹脂を得た。これを有機樹脂(g6)とする。この有機樹脂(g6)は、有機樹脂(C)と、活性水素を有するヒドラジン誘導体(h)を50mol%含む活性水素含有化合物(i)との生成物である。
【0154】
g7:[合成例2]
EP1007(ジャパンエポキシレジン(株)製、エポキシ当量2000)4000質量部とエチレングリコールモノブチルエーテル2239質量部を四つ口フラスコに仕込み、120℃まで昇温して1時間で完全にエポキシ樹脂を溶解した。これを100℃に冷却し、3−アミノ−1,2,4−トリアゾール(分子量84)を168質量部加えて、エポキシ基が消失するまで6時間反応させた後、冷却しながらメチルイソブチルケトン540質量部を加えて、固形分60質量%のトリアゾール変性エポキシ樹脂を得た。これを有機樹脂(g7)とする。この有機樹脂(g7)は、有機樹脂(C)と、活性水素を有するヒドラジン誘導体(h)を100mol%含む活性水素含有化合物(i)との生成物である。
【0155】
<Caイオン交換シリカ(k)>
k1:Caイオン交換シリカ(メーカー名:W.R.Grace&Co.製 型番:SHIELDEX C303)
【0156】
<酸化ケイ素(l)>
l1:ヒュームドシリカ(メーカー名:日本アエロジル(株)製 型番:AEROSIL 200)
l2:オルガノシリカゾル(メーカー名:日産化学工業(株)製 型番:オルガノシリカゾルMA-ST-MS)
l3:コロイダルシリカ(メーカー名:日産化学工業(株)製 型番:スノーテックス30)
【0157】
<潤滑剤(m)>
m1:ポリエチレンワックス(メーカー名:クラリアントジャパン(株)製 型番:セリダスト3620)
【0158】
<リン酸塩(n)>
n1:リン酸亜鉛
【0159】
<モリブデン酸塩(o)>
o1:モリブデン酸アルミニウム
【0160】
(5)亜鉛系めっき鋼板の製造方法
上記の表面処理液(A)を用いて、バーコート塗装にて各試験片の片側の表面上に塗装し、その後、水洗することなく、そのまま誘導加熱炉に入れて、表3−1〜3−4に示す乾燥温度となるように加熱乾燥し、表3−1〜3−4に示す皮膜厚(μm)の皮膜を形成した。次いで、この皮膜表面に上記第2層皮膜形成用の表面処理液(B)を塗布し、誘導加熱炉に入れて、表3−1〜3−4に示す乾燥温度となるように加熱乾燥し、表3−1〜3−4に示される皮膜厚(μm)の皮膜を形成することにより、発明例および比較例の亜鉛系めっき鋼板を製造した。
加熱乾燥温度は、誘導加熱の出力で調節した。なお、加熱乾燥温度とは、試験片表面の最高到達温度を意味する。
【0161】
バーコート塗装の具体的な方法は、以下のとおりである。
表面処理液を試験片に滴下して、#3〜5バーコーターで塗装した。使用したバーコーターの番手と表面処理液の濃度とにより、表3−1〜3−4に示す皮膜厚となるように調整した。
【0162】
【表3−1】

【0163】
【表3−2】

【0164】
【表3−3】

【0165】
【表3−4】

【0166】
(6)評価試験の方法
(6−1)耐食性の評価
上記2層の皮膜を形成した各供試板からサイズ70mm×150mmの試験片を切り出し、切り出した各試験片の裏面と端部をビニールテープでシールして、JIS−Z−2371−2000に準拠する塩水噴霧試験(SST)を実施した。耐食性の評価は、塩水噴霧試験における白錆発生面積率が5%となる時間により行った。評価基準は以下のとおりである。
判定基準:
◎ :白錆5%発生時間が240時間以上
○ :白錆5%発生時間が192時間以上240時間未満
○−:白錆5%発生時間が144時間以上192時間未満
△ :白錆5%発生時間が72時間以上144時間未満
× :白錆5%発生時間が72時間未満
【0167】
(6−2)上塗り塗装性(密着性)の評価
前記と同一サイズの試験片上に市販のメラミンアルキッド塗料を塗装し、140℃で30分間焼き付けた後の塗膜厚さが30μmとなるようにした。その後、沸水に2時間浸漬後、試験片の表面にNTカッターで素地鋼まで達する切り込みを入れて1mm角の碁盤目を100個形成し、切込みを入れた部分が外(表)側となる様にエリクセン押し出し機で5mm押し出した。エリクセン押し出し条件は、JIS-Z-2247-2006(エリクセン値記号:IE)に準拠し、ポンチ径:20mm、ダイス径:27mm、絞り幅:27mmとした。エリクセン押し出し後、テープ剥離試験を行い、塗膜の残存状況の判定により上塗り塗装性(密着性)を評価した。判定基準は以下のとおりである。
判定基準:
◎:剥離面積5%未満および剥離なし
○:剥離面積10%未満5%以上
△:剥離面積20%未満以上10%以上
×:剥離面積20%以上
【0168】
(6−3)導通性の評価
上記の試験片について、三菱化学アナリテック(株)製ロレスタGP、ESP端子を用い表面抵抗値を測定した。表面抵抗値は、端子にかかる荷重を50gピッチで増加させて測定し、表面抵抗値を10−4Ω以下とすることができる最小荷重の判定により、導通性を評価した。
◎ :10点測定の平均荷重が400g未満
○ :10点測定の平均荷重が400g以上、600g未満
○−:10点測定の平均荷重が600g以上、800g未満
△ :10点測定の平均荷重が800g以上、950g未満
× :10点測定の平均荷重が950g以上
【0169】
(6−4)保管安定性(貯蔵安定性)の評価
表1−1〜1−4に示した成分組成を有する表面処理液(A)について、40℃の恒温槽に30日間保管し、表面処理液の外観を目視によって評価した。
◎:変化なし
○:極微量の沈殿が見られる。
△:微量の沈殿が見られる。もしくは、粘度がやや高くなった。
×:大量の沈殿が見られる。もしくは、ゲル化した。
【0170】
実施例および比較例に記載の表面処理液を用いて得られた亜鉛系めっき鋼板に関して、上記の(6−1)〜(6−4)の評価を行った結果を、表4−1〜4−4に示す。
なお、比較例59、および比較例62においては、表面処理液が不安定で皮膜を形成することができず、各評価を行うことができなかった。
【0171】
【表4−1】

【0172】
【表4−2】

【0173】
【表4−3】

【0174】
【表4−4】



【0175】
表4−1〜4−4に示すように、本発明に従う亜鉛系めっき鋼板はいずれも、耐食性、および密着性に優れるだけでなく、低い接触圧力でガスケットなどと接触するときでも優れた導通性が得られている。これに対し、いずれかの要件が本発明の適正範囲を逸脱した比較例は、耐食性、密着性、導通性および保管安定性のいずれかが不十分であった。
【産業上の利用可能性】
【0176】
皮膜中に6価クロムなどの公害規制物質を全く含むことなく、耐食性、および密着性の諸性能を有し、特に耐食性を低下することなく、低い接触圧力でガスケットなどと鋼板が接触するような厳しい条件でも導通性に優れる亜鉛系めっき鋼板の製造方法および該製造方法によって製造された亜鉛系めっき鋼板を提供することができる。従って、本発明によって得られた亜鉛系めっき鋼板は、自動車、家電、OA機器等の部品として極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛系めっき層の表面に、第1層皮膜と第2層皮膜の2層構造になる表面皮膜を有する亜鉛系めっき鋼板の製造方法であって、
該第1層皮膜は、第1〜3アミノ基および第4アンモニウム塩基から選ばれる少なくとも1種のカチオン性官能基を有するカチオン性ウレタン樹脂エマルション(a−1)、および/または、ノニオン性アクリル樹脂エマルション(a−2)からなる樹脂エマルション(a)と、テトラアルコキシシラン(b)と、活性水素含有アミノ基、エポキシ基、メルカプト基およびメタクリロキシ基から選ばれた少なくとも1種の反応性官能基を有する少なくとも1種のシランカップリング剤と(c)と、キレート剤(d)と、バナジン酸化合物(e)と、チタン化合物(f)と、水とを含有し、pH3〜6であり、下記(I)〜(V)の条件を満足するように調整された亜鉛系めっき鋼板用の表面処理液(A)を用いて亜鉛系めっき層の表面上に塗布し、加熱乾燥して得たものであり、該第2層皮膜は、有機樹脂(g)を含む表面処理液(B)を、該第1層皮膜の表面に塗布し、加熱乾燥して得たものであり、これら第1層皮膜と第2層皮膜の合計皮膜厚が片面あたり0.1〜3.0μmであることを特徴とする亜鉛系めっき鋼板の製造方法。

(I)樹脂エマルション(a)の固形分(a)が処理液の全固形分に対し10〜45質量%
(II)シランカップリング剤(c)と樹脂エマルション(a)との固形分の質量比(c/a)が1.51〜5.89
(III)テトラアルコキシシラン(b)とキレート剤(d)との固形分の質量比(b/d)が0.15〜1.49
(IV)バナジン酸化合物(e)のV換算量(e)とキレート剤(d)の固形分(d)の質量との比(e/d)が0.03〜0.23
(V)チタン化合物(f)のTi換算量(f)とキレート剤(d)の固形分(d)の質量との比(f/d)が0.02〜0.19
【請求項2】
亜鉛系めっき層の表面に、第1層皮膜と第2層皮膜の2層構造になる表面皮膜を有する亜鉛系めっき鋼板の製造方法であって、
該第1層皮膜は、第1〜3アミノ基および第4アンモニウム塩基から選ばれる少なくとも1種のカチオン性官能基を有するカチオン性ウレタン樹脂エマルション(a−1)、および/または、ノニオン性アクリル樹脂エマルション(a−2)からなる樹脂エマルション(a)と、テトラアルコキシシラン(b)と、活性水素含有アミノ基、エポキシ基、メルカプト基およびメタクリロキシ基から選ばれた少なくとも1種の反応性官能基を有する少なくとも1種のシランカップリング剤と(c)と、キレート剤(d)と、バナジン酸化合物(e)と、チタン化合物(f)と、水とを含有し、pH3〜6であり、下記(I)〜(V)の条件を満足するように調整された亜鉛系めっき鋼板用の表面処理液(A)を用いて亜鉛系めっき層の表面上に塗布し、加熱乾燥して得たものであり、該第2層皮膜は、有機樹脂(g)を含む表面処理液(B)を、該第1層皮膜の表面に塗布し、加熱乾燥して得たものであり、これら第1層皮膜と第2層皮膜の合計皮膜厚が片面あたり0.1〜3.0μmであることを特徴とする亜鉛系めっき鋼板の製造方法。

(I)樹脂エマルション(a)の固形分(a)が処理液の全固形分に対し11〜45質量%
(II)シランカップリング剤(c)と樹脂エマルション(a)との固形分の質量比(c/a)が1.51〜5.35
(III)テトラアルコキシシラン(b)とキレート剤(d)との固形分の質量比(b/d)が0.15〜1.49
(IV)バナジン酸化合物(e)のV換算量(e)とキレート剤(d)の固形分(d)の質量との比(e/d)が0.03〜0.23
(V)チタン化合物(f)のTi換算量(f)とキレート剤(d)の固形分(d)の質量との比(f/d)が0.02〜0.19
【請求項3】
前記表面処理液(B)中の有機樹脂(g)が、OH基および/またはCOOH基を有する有機樹脂(g−1)を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の亜鉛系めっき鋼板の製造方法。
【請求項4】
前記表面処理液(B)中の有機樹脂(g)が、一部または全部の化合物が活性水素を有するヒドラジン誘導体(h)からなる活性水素含有化合物(i)との反応により生成されたヒドラジン変性有機樹脂(g−2)を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の亜鉛系めっき鋼板の製造方法。
【請求項5】
前記表面処理液(B)が、さらに防錆添加成分(j)を含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の亜鉛系めっき鋼板の製造方法。
【請求項6】
前記防錆添加成分(j)が下記(k)および/または(l)であり、該防錆添加成分(k)の含有量が、固形分割合で、前記表面処理液(B)中の全有機樹脂(g)100質量部に対して1〜100質量部の範囲であることを特徴とする請求項5に記載の亜鉛系めっき鋼板の製造方法。

(k)Caイオン交換シリカ
(l)酸化ケイ素
【請求項7】
前記表面処理液(B)が、さらに潤滑剤(m)を含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の亜鉛系めっき鋼板の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の方法によって製造されることを特徴とする亜鉛系めっき鋼板。

【公開番号】特開2012−92444(P2012−92444A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−215532(P2011−215532)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】