説明

交絡装置

【課題】糸走行空間に糸を挿入するためのスリットに起因する種々の問題が解消された交絡装置を提供する。
【解決手段】交絡装置は、第1面7と、この第1面7に形成され、流体を噴射するための流体噴射孔10と、を有する第1の部材である交絡片2と、第2面8と、この第2面8に形成される糸走行溝11と、を有する第2の部材である交絡片2とを備える。第1面7と第2面8を対向した状態とすることで、糸走行溝11と第1面7との組み合わせにより交絡対象としてのマルチフィラメント糸が走行する空間としての糸走行空間18が流体噴射孔10と連通して形成されると共に、この糸走行空間18にマルチフィラメント糸を糸走行方向に対して垂直な方向で挿入可能とする隙間としてのスリット12が形成される。糸走行溝11は、第2面8に対して垂直な方向において、奥広がりである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マルチフィラメント糸に対して交絡を付与するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の技術として特許文献1(特許第3034649号公報)は、マルチフィラメント糸を互いにからめるための捲縮装置を開示する。この捲縮装置は、ノズルボデー部分1とバッフルボデー部分2を備える。ノズルボデー部分1とバッフルボデー部分2を貫いて直線状に延びる糸通路6が形成される。この糸通路6には、ノズルボデー部分1に設けられたブローノズル7と、挿入スリット8と、が連通される。挿入スリット8は、ノズルボデー部分1の平らな表面と、バッフルボデー部分2の平らな表面と、の間に位置する。ノズルボデー部分1に設けられた第1の凹状の壁面11を備えた溝と、バッフルボデー部分2に設けられた第2の凹状の壁面12を備えた溝とによって、上記の糸通路6が形成される。特許文献1の第3頁第5カラム第47〜48行、同第6カラム第2〜13行、第4図を参照されたい。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上記特許文献1の構成では、糸通路6の断面中心の近くに挿入スリット8が位置するので、種々の問題が生ずると考えられる。即ち、第一に、糸通路6の断面中心の近くで走行する糸が挿入スリット8から飛び出し易い。第二に、ブローノズル7から糸に噴射される流体が挿入スリット8から吹き抜け易い。
【0004】
本発明は斯かる諸点に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、糸走行空間に糸を挿入するためのスリットに起因する種々の問題が解消された交絡装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0005】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0006】
本発明の第一の観点によれば、以下のように構成される、交絡装置が提供される。即ち、交絡装置は、第1の面と、この第1の面に形成され、流体を噴射するための流体噴射孔と、を有する第1の部材と、第2の面を有する第2の部材と、を備える。前記の第1の面と第2の面を対向した状態とすることにより、交絡対象としての糸が走行する空間としての糸走行空間が前記流体噴射孔と連通して形成されると共に、この糸走行空間に前記糸を該糸の走行方向に対して垂直な方向で挿入可能とする隙間としての糸挿入隙間が形成される。前記第2の面には溝が形成され、この溝と前記第1の面との組み合わせにより前記糸走行空間が構成される。前記溝は、前記第2の面に対して垂直な方向において、奥広がりである。以上の構成によれば、前記隙間が、前記溝の溝底に向かって噴射される前記流体の上流に、前記溝の溝底から離して、配されるから、下記(1)〜(3)の効果が奏される。(1)前記糸が前記隙間から飛び出し難くなる。(2)前記糸走行空間内に噴射された前記流体が主として存在する領域ないし流動する領域の、前記流体噴射孔の穿孔方向に関して線対称な、断面形状が許容される。(3)前記隙間からの前記流体の吹き抜けが抑制される。前記溝が奥広がりに形成されるので、上記(1)及び(3)の効果は一層良好に発揮される。上記(2)により許容される上記の断面形状を採用した場合は、交絡性能にとって有益と考えられる、前記領域内での前記流体の対称的な流動が実現される。前記糸走行空間が溝と面の組み合わせから成る点で、前記交絡装置の製造が極めて容易である。
【0007】
本発明の第二の観点によれば、以下のように構成される、交絡装置が提供される。即ち、交絡装置は、第1の面と、この第1の面に形成され、流体を噴射するための流体噴射孔と、を有する第1の部材と、第2の面と、この第2の面に形成される溝と、を有する第2の部材と、を備える。前記の第1の面と第2の面を対向した状態とすることで、前記溝と前記第1の面との組み合わせにより交絡対象としての糸が走行する空間としての糸走行空間が前記流体噴射孔と連通して形成されると共に、この糸走行空間に前記糸を該糸の走行方向に対して垂直な方向で挿入可能とする隙間としての糸挿入隙間が形成される。前記溝は、前記第2の面に対して垂直な方向において、奥広がりである。以上の構成によれば、前記隙間が、前記溝の溝底に向かって噴射される前記流体の上流に、前記溝の溝底から離して、配されるから、下記(1)〜(3)の効果が奏される。(1)前記糸が前記隙間から飛び出し難くなる。(2)前記糸走行空間内に噴射された前記流体が主として存在する領域ないし流動する領域の、前記流体噴射孔の穿孔方向に関して線対称な、断面形状が許容される。(3)前記隙間からの前記流体の吹き抜けが抑制される。前記溝が奥広がりに形成されるので、上記(1)及び(3)の効果は一層良好に発揮される。上記(2)により許容される上記の断面形状を採用した場合は、交絡性能にとって有益と考えられる、前記領域内での前記流体の対称的な流動が実現される。前記糸走行空間が溝と面の組み合わせから成る点で、前記交絡装置の製造が極めて容易である。
【0008】
本発明の第三の観点によれば、以下のように構成される、交絡装置が提供される。即ち、第1の面と第2の面を有する交絡片が、前記の第1の面と第2の面が対向する態様で列設される。各交絡片の第1の面には、流体を噴射するための流体噴射孔が形成される。各交絡片の第2の面には、溝が形成される。前記の第1の面と第2の面を対向した状態とすることで、前記溝と前記第1の面との組み合わせにより交絡対象としての糸が走行する空間としての糸走行空間が前記流体噴射孔と連通して形成されると共に、この糸走行空間に前記糸を該糸の走行方向に対して垂直な方向で挿入可能とする隙間としての糸挿入隙間が形成される。前記溝は、前記第2の面に対して垂直な方向において、奥広がりである。以上の構成によれば、前記隙間が、前記溝の溝底に向かって噴射される前記流体の上流に、前記溝の溝底から離して、配されるから、下記(1)〜(3)の効果が奏される。(1)前記糸が前記隙間から飛び出し難くなる。(2)前記糸走行空間内に噴射された前記流体が主として存在する領域ないし流動する領域の、前記流体噴射孔の穿孔方向に関して線対称な、断面形状が許容される。(3)前記隙間からの前記流体の吹き抜けが抑制される。前記溝が奥広がりに形成されるので、上記(1)及び(3)の効果は一層良好に発揮される。上記(2)により許容される上記の断面形状を採用した場合は、交絡性能にとって有益と考えられる、前記領域内での前記流体の対称的な流動が実現される。前記糸走行空間が溝と面の組み合わせから成る点で、前記交絡装置の製造が極めて容易である。
【0009】
上記の交絡装置は、更に、以下のように構成される。前記糸走行空間内に噴射された前記流体が主として存在する領域ないし流動する領域は、前記流体噴射孔の穿孔方向に関して線対称に形成される。以上の構成によれば、交絡性能にとって有益と考えられる、前記領域内での前記流体の対称的な流動が実現される。
【0010】
上記の交絡装置は、更に、以下のように構成される。前記流体噴射孔は、前記糸の走行方向に沿って断面扁平に形成される。以上の構成によれば、前記糸走行空間内を走行する前記糸に対して前記流体が長時間、噴射される。交絡性能がよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を参照しつつ、本発明の第一実施形態を説明する。図1は、本発明の第一実施形態に係る交絡装置の斜視図である。
【0012】
本図に示される交絡装置100は、複数組のマルチフィラメント糸Yに対して同時に交絡を付与するのに供される。この交絡装置100は、基体1上に列設される複数の交絡片2と、この交絡片2を基体1に対して固定するための取付け棒3と、各交絡片2に対してマルチフィラメント糸Yを適宜に案内するための第1糸ガイド4及び第2糸ガイド5と、から構成される。取付け棒3は一対で設けられ、各交絡片2は一対の取付け棒3を介して基体1に対して固定される。矢印Dは、マルチフィラメント糸Yの走行方向を図示する。第1糸ガイド4は各交絡片2に挿通されるマルチフィラメント糸Yの上流側に配され、第2糸ガイド5は各交絡片2に挿通されるマルチフィラメント糸Yの下流側に配される。第1糸ガイド4及び第2糸ガイド5は、基体1に対して略示の方法により支持される。本図に示される「糸走行方向」はマルチフィラメント糸Yの走行方向を示す。同様に、「列方向」は複数の交絡片2が列設される方向を示し、「スリット方向」は、「糸走行方向」及び「列方向」の何れにも直交する方向を示す。
【0013】
次に、上記の基体1及び交絡片2の構成を詳細に説明する。図2を参照されたい。図2は、図1の部分拡大図である。説明の便宜上、本図には、基体1の一部と、隣り合う一対の交絡片2と、のみが描かれている。
【0014】
本図に示されるように基体1の内部には、列方向に沿って延在する流路6が形成される。
【0015】
交絡片2は、第1面7(第1の面)と、第2面8(第2の面)と、を有する。複数の交絡片2は、第1面7と第2面8が対向し、部分的に当接する態様で列設される。交絡片2の基端には、取付け棒3の一部を収容する切欠き9が一対で形成される。この切欠き9内に取付け棒3を挿通し、この取付け棒3を基体1へ向かって付勢することで、交絡片2は基体1に対して固定される。交絡片2の第1面7には、流体を噴射するための流体噴射孔10が形成される。交絡片2の第2面8には、溝(以下、糸走行溝11と称する。)が形成される。交絡片2の先端には、マルチフィラメント糸Yを後述するスリット12(糸走行隙間)内へ案内するための第1傾斜面13及び第2傾斜面14が形成される。第1傾斜面13は、交絡片2の頂部15から第1面7へ向かって傾斜する。第2傾斜面14は、交絡片2の頂部15から第2面8へ向かって傾斜する。
【0016】
次に、図3を参照されたい。図3は、図2の3−3線矢視断面図である。本図に示されるように、流体噴射孔10は、交絡片2の内部に形成され基端に向かって開口する流体供給路16と連通する。基体1には、流体供給路16と連通する流体供給口17が開口する。そして、流体供給路16と流体供給口17が連通するように各交絡片2は基体1に対して固定される。この構成で、図示しない流体供給装置によって流路6に流体が供給されると、流体供給口17と流体供給路16をこの順に介して、流体噴射孔10から流体が所定の圧力、所定の流量で噴射される。本実施形態において、流体噴射孔10は、図2に示されるように断面円形である。
【0017】
図1〜3に示されるように、糸走行溝11は、第2面8に対して垂直な方向において奥広がりに形成される。即ち、糸走行溝11は、列方向において奥広がりに形成される。糸走行溝11は、糸走行方向に沿って直線的に形成され、交絡片2を貫通する。換言すれば、糸走行溝11は、マルチフィラメント糸Yの糸道に沿って形成される。図3に示されるように、第1面7と第2面8を対向した状態とすることで、糸走行溝11と第1面7との組み合わせにより交絡対象としてのマルチフィラメント糸Yが走行する空間としての糸走行空間18が形成される。本図において糸走行空間18は、二点鎖線で略示される。この糸走行空間18は、隣り合う交絡片2の流体噴射孔10と連通する。本図において、マルチフィラメント糸Yの糸道は、符号Sで示される円領域内となるように設定される。換言すれば、マルチフィラメント糸Yの糸道が概ね円領域S内となるように、図1に示される第1糸ガイド4及び第2糸ガイド5の取付け位置が調整される。付言するならば、糸走行空間18は円領域Sを含み、円領域Sは糸走行溝11の奥に位置する。
【0018】
本図に示されるように第2面8は、上記の糸走行溝11によって分割される。即ち、第2面8は、糸走行溝11よりも先端に近い第2面先端部8aと、糸走行溝11よりも基端に近い第2面基端部8bと、から成る。第2面先端部8aと第2面基端部8bは、平行ではあるものの同一平面内には存在せず、列方向において若干ズレている。前述したように、複数の交絡片2は、第1面7と第2面8が対向し、部分的に当接する態様で列設される。詳しくは、複数の交絡片2が基体1上に列設された状態で、第1面7は第2面基端部8bに対しては当接するが、第1面7は第2面先端部8aに対しては当接しない。そして、このように第1面7と第2面8を対向した状態とすることで、第1面7と第2面先端部8aとの間には、厚さが概ね0.1mm程度のスリット12が形成される。このスリット12の存在により、糸走行空間18にマルチフィラメント糸Yを糸走行方向に対して垂直な方向で挿入できるようになっている。
【0019】
次に、図4を参照されたい。図4は、図3のA部拡大図である。本図に示されるように糸走行空間18は、第2面8に開口する開口部18aと、この開口部18aの奥に形成される奥部18bと、から成る。本図に示される断面において、糸走行空間18は、奥部18bが開口部18aよりもスリット方向において厚くなるように形成される。この意味で、糸走行空間18は、奥広がりであると言える。糸走行空間18の奥部18bの断面の輪郭は、一対の半円19と、この一対の半円を相互に結ぶ一対の直線20と、から成る長円形(oval)とされる。一対の直線20はスリット方向に延び、一対の半円19はスリット方向において対向する。奥部18bは、奥部18bのスリット方向中央において開口部18aと連通する。本実施形態において流体噴射孔10の半径は、本図において列方向に沿って現れる、開口部18aの、輪郭18c、18dによって観念される幅に等しい。糸走行空間18に接続されるスリット12は、奥部18bに対して直接的には接続されない。このスリット12は、奥部18bに対して開口部18aを介して接続される。スリット12は、奥部18bから最も離れた位置において、糸走行空間18に接続される。スリット12は、流体噴射孔10と開口部18aとの境界において、糸走行空間18に接続される。奥部18bは、線Cに関して線対称である。この線Cは、流体噴射孔10内を通過する流体の流れと平行であって、円領域Sの中心と重複する、線である。
【0020】
以上の構成で、マルチフィラメント糸Yに対する交絡の付与を開始するには、先ず、図2に示される基体1の流路6に流体を供給する。流体としては、例えば圧縮空気などが用いられる。次に、走行するマルチフィラメント糸Yを図3に示される第1傾斜面13及び第2傾斜面14を活用しつつスリット12へ挿入する。これにより、マルチフィラメント糸Yは、図4に示される糸走行空間18の開口部18aを横切って、糸走行空間18の奥部18bに収容される。詳しくは、マルチフィラメント糸Yは、適宜に位置調整された第1糸ガイド4及び第2糸ガイド5によって、円領域Sを貫通するように案内される。
【0021】
基体1の流路6に供給された上記の流体は、流体供給路16等を介して流体噴射孔10から噴射され、開口部18aを横切って奥部18bに導入される。奥部18bに導入された流体は、本図において直線20で輪郭が示される糸走行溝11の溝底Pに衝突し、一対の半円19で輪郭が示される糸走行溝11の側面へ向かって分岐する。そして、分岐した流体は、この糸走行溝11の側面との干渉によって糸走行溝11内で若干の螺旋を描きつつ、糸走行溝11の両端から糸道に沿って排出される。要するに、奥部18bに導入された流体は、スリット方向と、糸走行方向と、に沿って二度、分岐する。そして、糸走行空間18内に噴射された流体は、主として奥部18b内に存在し、かつ、奥部18b内を流動すると考えられる。
【0022】
上述した流体の特異な流れによって、糸走行空間18内を走行するマルチフィラメント糸Yに対して所定間隔で交絡が付与される。
【0023】
以上説明したように、上記実施形態において交絡装置100は、以下のように構成される。即ち、第1面7と第2面8を有する交絡片2が前記の第1面7と第2面8が対向する態様で列設される。各交絡片2の第1面7には、流体を噴射するための流体噴射孔10が形成される。各交絡片2の第2面8には、糸走行溝11が形成される。前記の第1面7と第2面8を対向した状態とすることで、前記糸走行溝11と前記第1面7との組み合わせにより交絡対象としてのマルチフィラメント糸Yが走行する空間としての糸走行空間18が前記流体噴射孔10と連通して形成されると共に、この糸走行空間18に前記マルチフィラメント糸Yを糸走行方向に対して垂直な方向で挿入可能とする隙間としてのスリット12が形成される。前記糸走行溝11は、前記第2面8に対して垂直な方向において、奥広がりである。以上の構成によれば、前記スリット12が、前記糸走行溝11の溝底Pに向かって噴射される前記流体の上流に、前記糸走行溝11の溝底Pから離して、配されるから、下記(1)〜(3)の効果が奏される。(1)前記マルチフィラメント糸Yが前記スリット12から飛び出し難くなる。(2)前記糸走行空間18内に噴射された前記流体が主として存在する領域ないし流動する領域の、前記流体噴射孔10の穿孔方向に関して線対称な、断面形状が許容される。換言すれば、奥部18bの線Cに関して線対称な断面形状が許容される。(3)前記スリット12からの前記流体の吹き抜けが抑制される。前記糸走行溝11が奥広がりに形成されるので、上記(1)及び(3)の効果は一層良好に発揮される。上記(2)により許容される上記の断面形状を採用した場合は、交絡性能にとって有益と考えられる、前記領域(奥部18b)内での前記流体の対称的な流動が実現される。前記スリット12が溝と面の組み合わせから成る点で、前記交絡装置100の製造が極めて容易である。
【0024】
特筆すべきは、奥部18bが線Cに関して線対称に形成されることである。これによれば、糸走行空間18内における流体の流れが線Cに関して線対称に形成されるだろう。本願の発明者らは、糸走行空間18内における流体の流れが線Cに関して線対称に形成されることが、技術的に有意であると考えている。付言するならば、上述の特許文献1の構成を採用すると、このような線対称な断面形状は達成し得ない。
【0025】
以上に本発明の好適な実施形態を説明したが、上記の実施形態は以下のように変更して実施することができる。
【0026】
<第一変形例>
上記第一実施形態において、交絡装置100は、多数組のマルチフィラメント糸Yに対して同時に交絡を付与できるよう、多数の交絡片2を列設して構成される。これに代えて、交絡装置100は、1組のマルチフィラメント糸Yのみに対して同時に交絡を付与できるように構成してもよい。即ち、交絡装置100は以下のように構成してもよい。
【0027】
交絡装置100は、第1面7と、この第1面7に形成され、流体を噴射するための流体噴射孔10と、を有する交絡片2(第1の部材)と、第2面8と、この第2面8に形成される糸走行溝11と、を有する交絡片2(第2の部材)と、を備える。前記の第1面7と第2面8を対向した状態とすることで、前記糸走行溝11と前記第1面7との組み合わせにより交絡対象としてのマルチフィラメント糸Yが走行する空間としての糸走行空間18が前記流体噴射孔10と連通して形成されると共に、この糸走行空間18に前記マルチフィラメント糸Yを糸走行方向に対して垂直な方向で挿入可能とする隙間としてのスリット12が形成される。前記糸走行溝11は、前記第2面8に対して垂直な方向において、奥広がりである。以上の構成によれば、同時に処理できるマルチフィラメント糸Yは1組に限定されるものの、上述した種々の効果は十分に奏される。
【0028】
なお、上記第一変形例において、流体噴射孔10が形成される第1面7を有する交絡片2(第1の部材)は、前述した第2面8を有する必要はない。同様に、糸走行溝11が形成される第2面8を有する交絡片2(第2の部材)は、前述した第1面7を有する必要はない。
【0029】
<第二変形例>
上記第一実施形態において、基体1上に列設する交絡片2の数は、特段の制約なく自由に増減できる。例えば、2や3、4以上などが考えられる。
【0030】
<第三変形例>
図5を参照されたい。図5は、図3に類似する図である。本図に示されるように、糸走行空間18の奥部18bの断面形状は、第一実施形態に係る形状、即ち、線Cに関して線対称の長円形に代えて、線Cに関して線対称の円形でもよい。
【0031】
<第四変形例>
図6を参照されたい。図6は、図3に類似する図である。本図に示されるように、糸走行空間18の奥部18bの断面形状は、第一実施形態に係る形状、即ち、線Cに関して線対称の長円形に代えて、線Cに関して線対称の台形でもよい。本図に示される奥部18bは、隣接する開口部18aに向かって狭窄される形状であるが、これに代えて、開口部18aから離れる方向へ向かって狭窄される形状であってもよい。
【0032】
<第五変形例>
図7を参照されたい。図7は、図3に類似する図である。本図に示されるように、糸走行空間18の奥部18bの断面形状は、第四変形例に係る形状、即ち、線Cに関して線対称の台形の側辺に丸みを付与した形状であってもよい。
【0033】
<第六変形例>
図8を参照されたい。図8は、図3に類似する図である。本図に示されるように、糸走行空間18の奥部18bの断面形状は、第一実施形態に係る形状、即ち、線Cに関して線対称の長円形に代えて、線Cに関して線対称の台形と、線Cに関して線対称の矩形と、の組み合わせから成る形状であってもよい。本図に示される奥部18bは、開口部18aに向かって狭窄される上記の台形が開口部18aに接続され、開口部18aと上記台形を挟んで反対側に上記矩形が位置する。勿論、これに代えて、奥部18bは、上記矩形が開口部18aに接続され、開口部18aと上記矩形を挟んで反対側に上記台形が位置してもよい。
【0034】
次に、図面を参照しつつ、本発明の第二実施形態を説明する。図9は、図2に類似する図であって、本発明の第二実施形態に係る図である。なお、上記第一実施形態と重複する説明は、適宜割愛する。
【0035】
上記第一実施形態において、流体噴射孔10は、図2に示されるように断面円形とした。これに対し、本実施形態において、流体噴射孔10は、図9に示されるように、糸走行方向に沿って断面扁平である。詳しくは、第一実施形態に係る流体噴射孔10と比較して、第二実施形態に係る流体噴射孔10は、糸走行方向において厚く、スリット方向において薄い。この流体噴射孔10の糸走行方向における両端部は、若干の丸みが付与される。即ち、本実施形態に係る流体噴射孔10は、断面長円形である。
【0036】
次に、図10を参照されたい。図10は、図3に類似する図であって、図9の10−10線矢視断面図である。本図のスリット方向において観念される流体噴射孔10の幅h1は、糸走行空間18の開口部18aの幅h2よりも小さい。
【0037】
次に、図11を参照されたい。図11は、図4に類似する図であって、図10のA部拡大図である。本図に示されるように、流体噴射孔10から噴射される流体は、スリット方向において幅狭のまま、糸走行溝11の溝底Pに衝突する。
【0038】
以上説明したように、上記実施形態において、交絡装置100は、更に、以下のように構成される。即ち、前記流体噴射孔10は、前記マルチフィラメント糸Yの走行方向に沿って扁平に形成される。以上の構成によれば、前記糸走行空間18内を走行する前記マルチフィラメント糸Yに対して前記流体が長時間、噴射される。
【0039】
次に、上記第二実施形態に係る交絡装置100の技術的効果を確認するための試験について説明する。図12は、第二実施形態に係る交絡装置の技術的効果を確認する試験で得られた結果を示すグラフである。本確認試験は、上記の第一実施形態と比較した上記の第二実施形態の技術的な有意性を立証するものである。本確認試験は、特に、交絡性能に着目する。
【0040】
先ず、試験条件を説明する。モデル1(model 1)は、第一実施形態に係る交絡装置100を示す。モデル2(model 2)及びモデル3(model 3)は、第二実施形態に係る交絡装置100である。モデル1の流体噴射孔10は、前述したように断面円形とし、その直径は1.3mmとした。モデル2の流体噴射孔10は、前述したように断面長円形とし、この長円形を構成する一対の半円の半径は夫々0.4mmとし、この一対の半円を接続する直線の長さは1.0mmとした。同様に、モデル3の流体噴射孔10も、前述したように断面長円形とし、この長円形を構成する一対の半円の半径は夫々0.3mmとし、この一対の半円を接続する直線の長さは1.7mmとした。要するに、モデル1及びモデル2、モデル3は、技術的効果の容易な比較を図るために、断面積を同一に設定した。
【0041】
交絡対象としてのマルチフィラメント糸Yの糸種は、PET、83dtex、36フィラメントとした。糸速は、4700m/minとした。図12において、縦軸はマルチフィラメント糸Yに形成された交絡部の単位メートルあたりの数としての交絡数を示し、横軸は流体噴射孔10から噴射する流体の流量を示す。流体としては、圧縮空気を採用した。交絡性能は、本明細書において、(交絡数/流量)として定義する。
【0042】
図12によれば、第二実施形態に係るモデル2及びモデル3を採用すれば、同一の流量で高い交絡数が得られるし、同一の交絡数は低い流量で得られることがわかる。即ち、モデル2及びモデル3は、高い交絡性能を呈する。一般に、図1に示される交絡装置100は、一つの工場において概ね10000個程度が同時に使用されるので、交絡装置100に空気を供給するコンプレッサーの性能の観点から、第二実施形態に係るモデル2及びモデル3が如何に有益かが理解されよう。
【0043】
次に、図面を参照しつつ、本発明の第三実施形態を説明する。図13は、図2に類似する図であって、本発明の第三実施形態に係る図である。なお、上記第一実施形態と重複する説明は、適宜割愛する。
【0044】
図3に示されるように上記第一実施形態において第2面8を構成する第2面先端部8a及び第2面基端部8bは、平行ではあるが、同一平面内にはない。これに対し、図13に示されるように本実施形態において第2面8を構成する第2面先端部8a及び第2面基端部8bは、平行であって、同一平面内にある。換言すれば、第2面8は、全体に亘って一つの面内にある。従って、本実施形態において図4に示される糸走行空間18は、線Cに関して部分的にではなく完全に線対称となっている。
【0045】
また、図2に示されるように上記第一実施形態において対向する第1面7及び第2面8について言えば、これらの間にスリット12が形成されると共に、これらは部分的に相互に当接した状態となっている。これに対し、図13に示されるように本実施形態では、第1面7及び第2面8の間に若干の間隙gを設け、これに伴いスリット12は形成される。この若干の間隙gの幅は例えば0.1mm程度とされる。この間隙gは、例えば以下のようにして形成する。即ち、複数の交絡片2を基体1上に列設する際に、適宜の薄片21を隣り合う交絡片2の間に介挿する。換言すれば、交絡片2と薄片21とを交互に基体1上に並設する。
【0046】
以上説明したように本実施形態において交絡装置100は、以下のように構成される。即ち、前記スリット12は、隣り合う交絡片2を間隙gを空けて配設することで形成される。この構成によれば、(a)第1面7が一つの面内に存在し、(b)第2面8が一つの面内に存在し、(c)第1面7と第2面8の間にスリット12が形成される、という(a)〜(c)の構成上の特徴を同時に実現できる。更に言えば、(a)及び(b)が同時に実現される点に着目すると、第2面8が異なる面内に分かれて存在する上記第一実施形態と比較して、製造コストを低減できるという効果も奏される。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の第一実施形態に係る交絡装置の斜視図
【図2】図1の部分拡大図
【図3】図2の3−3線矢視断面図
【図4】図3のA部拡大図
【図5】図3に類似する図
【図6】図3に類似する図
【図7】図3に類似する図
【図8】図3に類似する図
【図9】図2に類似する図であって、本発明の第二実施形態に係る図
【図10】図3に類似する図であって、図9の10−10線矢視断面図
【図11】図4に類似する図であって、図10のA部拡大図
【図12】第二実施形態に係る交絡装置の技術的効果を確認する試験で得られた結果を示すグラフ
【図13】図2に類似する図であって、本発明の第三実施形態に係る図
【符号の説明】
【0048】
1 基体
2 交絡片
7 第1面
8 第2面
10 流体噴射孔
11 溝、糸走行溝
12 スリット、糸挿入隙間
18 糸走行空間
100 交絡装置
Y フィラメント

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の面と、この第1の面に形成され、流体を噴射するための流体噴射孔と、を有する第1の部材と、
第2の面を有する第2の部材と、
を備え、
前記の第1の面と第2の面を対向した状態とすることにより、交絡対象としての糸が走行する空間としての糸走行空間が前記流体噴射孔と連通して形成されると共に、この糸走行空間に前記糸を該糸の走行方向に対して垂直な方向で挿入可能とする隙間としての糸挿入隙間が形成される、
交絡装置において、
前記第2の面には溝が形成され、この溝と前記第1の面との組み合わせにより前記糸走行空間が構成され、
前記溝は、前記第2の面に対して垂直な方向において、奥広がりである、
ことを特徴とする交絡装置
【請求項2】
第1の面と、この第1の面に形成され、流体を噴射するための流体噴射孔と、を有する第1の部材と、
第2の面と、この第2の面に形成される溝と、を有する第2の部材と、
を備え、
前記の第1の面と第2の面を対向した状態とすることで、前記溝と前記第1の面との組み合わせにより交絡対象としての糸が走行する空間としての糸走行空間が前記流体噴射孔と連通して形成されると共に、この糸走行空間に前記糸を該糸の走行方向に対して垂直な方向で挿入可能とする隙間としての糸挿入隙間が形成され、
前記溝は、前記第2の面に対して垂直な方向において、奥広がりである、
ことを特徴とする交絡装置
【請求項3】
第1の面と第2の面を有する交絡片が、前記の第1の面と第2の面が対向する態様で列設され、
各交絡片の第1の面には、流体を噴射するための流体噴射孔が形成され、
各交絡片の第2の面には、溝が形成され、
前記の第1の面と第2の面を対向した状態とすることで、前記溝と前記第1の面との組み合わせにより交絡対象としての糸が走行する空間としての糸走行空間が前記流体噴射孔と連通して形成されると共に、この糸走行空間に前記糸を該糸の走行方向に対して垂直な方向で挿入可能とする隙間としての糸挿入隙間が形成され、
前記溝は、前記第2の面に対して垂直な方向において、奥広がりである、
ことを特徴とする交絡装置
【請求項4】
請求項1〜3の何れか一に記載の交絡装置において、
前記糸走行空間内に噴射された前記流体が主として存在する領域ないし流動する領域は、前記流体噴射孔の穿孔方向に関して線対称に形成される、
ことを特徴とする交絡装置
【請求項5】
請求項1〜4の何れか一に記載の交絡装置において、
前記流体噴射孔は、前記糸の走行方向に沿って断面扁平に形成される、
ことを特徴とする交絡装置

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate