交通評価装置、コンピュータプログラム及び交通評価方法
【課題】渋滞長などの交通評価指標の再現性を向上させることができる交通評価装置、コンピュータプログラム及び交通評価方法を提供する。
【解決手段】交通シミュレータ10は、車両の移動モデルを表す計算式に基づいて演算を行うシミュレータエンジン部11、所与のOD交通量に基づいて発生交通量及び消滅交通量を算出する交通量算出部12、算出された交通量に基づいて各リンクでの推定渋滞長を算出(推定)する推定渋滞長算出部13、推定渋滞長と実測渋滞長との差分に基づいて推定渋滞長を調整するために起点交通量及び終点交通量を生成する起点終点生成部14、所定の情報を記憶する記憶部18などを備える。
【解決手段】交通シミュレータ10は、車両の移動モデルを表す計算式に基づいて演算を行うシミュレータエンジン部11、所与のOD交通量に基づいて発生交通量及び消滅交通量を算出する交通量算出部12、算出された交通量に基づいて各リンクでの推定渋滞長を算出(推定)する推定渋滞長算出部13、推定渋滞長と実測渋滞長との差分に基づいて推定渋滞長を調整するために起点交通量及び終点交通量を生成する起点終点生成部14、所定の情報を記憶する記憶部18などを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の車両の模擬走行により交通評価指標を出力する交通評価装置、該交通評価装置を実現するためのコンピュータプログラム及び前記交通評価装置による交通評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
交通規制等による影響を事前に評価する手段として交通シミュレータへの期待が高まっており、様々な技術開発が行われている。このような交通シミュレータは、入力データとして、車両の走行の起終点情報を含む交通量(例えば、OD交通量)、車両の走行速度、加速減速特性などの交通情報が所与として取り扱われている。OD交通量は、車両の起点(出発地)と終点(目的地)の間の交通量を求めたもので、例えば、国又は自治体が定期的に実施する統計調査の結果得られた調査統計データなどが用いられる。
【0003】
交通シミュレータの目的は、例えば、工事、事故又は災害などによる交通規制、道路の新設、交差点の改良などの交通環境変化後の影響を事前に評価又は推定することである。そして、交通シミュレータは、予め車両の移動モデル、すなわち、車両の挙動を模した計算式を内包しており、上述の入力データを当該計算式に当てはめることにより、単独交差点、路線及び市街地などの道路網における渋滞長、旅行時間などの交通評価指標、あるいは排ガスに含まれる二酸化炭素などの環境指標を出力する。この場合、道路網は、複数のリンク(例えば、交差点と交差点とを繋ぐ道路で上り及び下りの2つの方向を有する)とリンク同士が交差する点であるノード(例えば、交差点)などで構成される。
【0004】
具体的には、交通シミュレータは、入力されたOD交通量をもとに、道路網の各リンクでの発生交通量(リンクに流入する交通量)及び消滅交通量(リンクから流出する交通量)を求める。そして、交通シミュレータは、各リンクにおいて発生交通量に相当する台数の車両を発生させるとともに、消滅交通量に相当する台数の車両を消滅させて渋滞長などを求める。
【0005】
また、特定の区間について、区間の両端に設けた車両感知器から得られる特定車両の旅行時間と時系列に得られる車両感知器データを用いて、時間軸上のデータを空間軸上のデータに投影することにより、渋滞長を求める方法が開示されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平08−161686号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
実際の道路網を想定して交通評価指標を再現する場合、従来の交通シミュレータにあっては、車両の走行速度、加速減速特性及びOD交通量などの入力データは、実際の交通情報と一致するように設定されるべきである。しかし、個々の車両の挙動及びOD交通量などを、例えば、道路網のリンク毎に詳細に計測して実際の交通情報と一致させることは困難であり、両者には差異が存在する。このため、交通シミュレータで交通評価指標を求める場合、シミュレーション時間の経過とともに当該差異が累積する結果、実際の交通評価指標を再現することができないという問題がある。
【0008】
このため、例えば、交通シミュレータで交通評価指標として渋滞長を求めた場合に、求めた渋滞長が実測値と合わないときには、車両の走行速度や交差点での流出率などのパラメータを調整することで、再現性が得られるようにしていた。しかし、道路網の一部の路線(リンク)で再現性が得られたとしても、車両の走行速度や交差点の流出率などを調整した場合、下流の路線(リンク)への到着車両台数などの交通状況が変化するため、更に下流の調整が必要となる。また、道路網全体では、交差点において車両の右折又は左折があるため、調整による影響は交差点で交差する他の路線にも影響を与える。このため、対象とする道路網全体では、求めた渋滞長が実測値と合わずに再現性に欠けるという課題があった。特に、交通シミュレータによる評価の目的が、現状の交通評価指標(例えば、渋滞長又は旅行時間など)と交通環境変化後の交通評価指標とを比較する場合には、交通シミュレータによる現状の交通評価指標の再現性は、比較対象の元になる重要な要素であるため、交通シミュレータでの再現性を向上させることが要望されていた。
【0009】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであり、渋滞長などの交通評価指標の再現性を向上させることができる交通評価装置、該交通評価装置を実現するためのコンピュータプログラム及び前記交通評価装置による交通評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1発明に係る交通評価装置は、複数の車両の模擬走行により交通評価指標を出力する交通評価装置において、任意のリンクで発生及び消滅する交通量を算出する交通量算出手段と、前記交通評価指標を調整するために、前記交通量算出手段で算出した交通量とは別に前記リンクで起点交通量又は終点交通量を生成する生成手段とを備えることを特徴とする。
【0011】
第2発明に係る交通評価装置は、第1発明において、前記交通量算出手段で算出した交通量に基づいて、任意のリンクでの車両の推定渋滞長を推定する渋滞長推定手段を備え、前記生成手段は、前記リンクでの車両の実測渋滞長及び前記推定渋滞長に基づいて、該リンクで起点交通量又は終点交通量を生成するように構成してあることを特徴とする。
【0012】
第3発明に係る交通評価装置は、第2発明において、前記生成手段は、前記実測渋滞長が推定渋滞長より長い場合、該実測渋滞長と推定渋滞長との差分に応じた車両台数の起点交通量を生成するように構成してあることを特徴とする。
【0013】
第4発明に係る交通評価装置は、第2発明又は第3発明において、前記生成手段は、前記実測渋滞長が推定渋滞長より短い場合、該推定渋滞長と実測渋滞長との差分に応じた車両台数の終点交通量を生成するように構成してあることを特徴とする。
【0014】
第5発明に係る交通評価装置は、第2発明乃至第4発明のいずれか1項において、前記実測渋滞長と推定渋滞長との差分の絶対値に渋滞内の車両密度を積算し、積算した値に当該リンクの固有値を加算又は減算して車両の補正台数を算出する補正台数算出手段を備え、前記生成手段は、起点交通量として前記補正台数の車両を放出し、又は終点交通量として前記補正台数の車両を回収するように構成してあることを特徴とする。
【0015】
第6発明に係る交通評価装置は、第5発明において、前記生成手段は、前記補正台数の車両を放出する場合、車両の放出点を含むリンクの下流交差点での信号現示に同期して車両を放出するように構成してあることを特徴とする。
【0016】
第7発明に係る交通評価装置は、第5発明において、前記生成手段で前記補正台数の車両を放出する場合、車両の放出点を含むリンクの下流交差点の青信号で流出する流出台数を算出する流出台数算出手段を備え、前記補正台数算出手段は、前記流出台数に基づいて補正台数を算出するように構成してあることを特徴とする。
【0017】
第8発明に係る交通評価装置は、第7発明において、前記流出台数算出手段は、前記生成手段による生成周期の間の前記交差点の青信号時間と交通流率との積算値及び前記生成手段で放出する車両台数に基づいて流出台数を算出するように構成してあることを特徴とする。
【0018】
第9発明に係る交通評価装置は、第1発明から第8発明までのいずれか1項において、前記生成手段で任意のリンクで起点交通量を生成した場合、該リンクの下流側で同等の交通量を消滅させる消滅手段を備えることを特徴とする。
【0019】
第10発明に係る交通評価装置は、第1発明から第9発明までのいずれか1項において、前記生成手段で任意のリンクで終点交通量を生成した場合、該リンクの下流側で同等の交通量を発生させる発生手段を備えることを特徴とする。
【0020】
第11発明に係るコンピュータプログラムは、コンピュータに、複数の車両の模擬走行により交通評価指標を出力するステップを実行させるためのコンピュータプログラムにおいて、コンピュータに、任意のリンクで発生及び消滅する交通量を算出するステップと、前記交通評価指標を調整するために、算出した交通量とは別に前記リンクで起点交通量又は終点交通量を生成する生成するステップとを実行させることを特徴とする。
【0021】
第12発明に係る交通評価方法は、複数の車両の模擬走行により交通評価指標を出力する交通評価装置による交通評価方法おいて、任意のリンクで発生及び消滅する交通量を交通量算出手段で算出するステップと、前記交通評価指標を調整するために、算出された交通量とは別に前記リンクで起点交通量又は終点交通量を生成する生成するステップとを含むことを特徴とする。
【0022】
第1発明、第11発明及び第12発明にあっては、任意のリンクで発生及び消滅する交通量を算出する。車両の走行の起終点情報を用いる場合、起点と終点との間のリンクを任意のリンクとして用いることができる。車両の走行の起終点情報は、例えば、OD交通量であり、車両の起点(出発地)と終点(目的地)の間の交通量を実測値として求めたものである。任意のリンクで発生する交通量又は消滅する交通量は、OD交通量などを用いて算出することができる。交通評価指標を調整するために、任意のリンクで算出した交通量とは別に当該リンクで起点交通量又は終点交通量を生成する。すなわち、実測値として得られたOD交通量から求めた任意のリンクでの発生交通量又は消滅交通量とは別に、当該リンク単位で起点交通量又は終点交通量を生成することにより、各リンク単位で交通評価指標を調整する。交通評価指標は、例えば、渋滞長、旅行時間などである。これにより、渋滞長などの交通評価指標の再現性を向上させることができる。なお、車両の走行の起終点情報に代えて、任意のリンクでの発生交通量及び消滅交通量を設定して用いることもできる。
【0023】
第2発明にあっては、算出した交通量に基づいて、任意のリンクでの車両の推定渋滞長を推定し、当該リンクでの車両の実測渋滞長及び推定渋滞長に基づいて、当該リンクで起点交通量又は終点交通量を生成する。これにより、各リンク単位で交通評価指標の実測値と推定値を合わせるように、起点交通量又は終点交通量を生成するので、各リンクで渋滞長などの交通評価指標の再現性を向上させることができる。
【0024】
第3発明にあっては、実測渋滞長が推定渋滞長より長い場合、実測渋滞長と推定渋滞長との差分に応じた車両台数の起点交通量を生成する。これにより、当該リンクで、算出された交通量により求めた渋滞長が実測値より短い場合でも、推定渋滞長の再現性を確保することができ、道路網の各リンクで同様の処理を行うことで、道路網の各リンクのみならず道路網全体としての交通評価指標の再現性を向上させることができる。
【0025】
第4発明にあっては、実測渋滞長が推定渋滞長より短い場合、推定渋滞長と実測渋滞長との差分に応じた車両台数の終点交通量を生成する。これにより、当該リンクで、算出された交通量により求めた渋滞長が実測値より長い場合でも、推定渋滞長の再現性を確保することができ、道路網の各リンクで同様の処理を行うことで、道路網の各リンクのみならず道路網全体としての交通評価指標の再現性を向上させることができる。
【0026】
第5発明にあっては、実測渋滞長と推定渋滞長との差分(推定誤差)の絶対値に渋滞内の車両密度を積算し、積算した値に当該リンクの固有値を加算又は減算して車両の補正台数を算出する。なお、渋滞内の車両密度は、実測渋滞長及び推定渋滞長のいずれの場合でも同等とすることができる。推定渋滞長と実測渋滞長との差分の絶対値に渋滞内の車両密度を積算することにより、推定渋滞長と実測渋滞長との差分である推定誤差に相当する車両の台数を求めることができる。リンクの固有値は、例えば、リンク(道路)上の許容範囲に相当する車両台数である。許容範囲は、例えば、車両感知器の設置密度(例えば、車両感知器の設置間隔が250mであれば、許容範囲は250m)であり、この場合、リンクの固有値は、車両感知器の設置密度に車両の走行密度を積算した値とすることができる。すなわち、リンクの固有値は、当該リンクで車両を感知することができる範囲に相当する車両台数である。なお、固有値はゼロであってもよい。起点交通量として補正台数の車両を起点で放出し、又は終点交通量として補正台数の車両を終点で回収する。これにより、推定渋滞長と実測渋滞長との差分である推定誤差に相当する車両の台数を、各リンクで放出又は回収させることができる。
【0027】
第6発明にあっては、補正台数の車両を放出する場合、車両の放出点を含むリンクの下流交差点での信号現示に同期して車両を放出する。例えば、リンク下流の信号現示が赤信号の時間帯に補正台数の車両を放出する。これにより、補正台数の車両がリンクに渋滞として留まらないという事態を防止し、確実に推定渋滞長を実測渋滞長に合わせることが可能となる。
【0028】
第7発明にあっては、補正台数の車両を放出する場合、車両の放出点を含むリンクの下流交差点の青信号で流出する流出台数を算出し、算出した流出台数に基づいて補正台数を算出する。これにより、放出した車両がリンクの下流交差点の青信号で流出して補正台数の車両の一部又は全部が青信号で交差点に流出し、リンクに渋滞として留まらないために、推定渋滞長が実測渋滞長に合わなくなるという事態が生じたとしても、流出分の台数を補正台数に加味するので、車両の放出方法に拘わらず、確実に推定渋滞長を実測渋滞長に合わせることが可能となる。
【0029】
第8発明にあっては、生成周期の間のリンクの下流交差点の青信号時間と、交通流率との積算値及び放出する車両台数に基づいて流出台数を算出する。例えば、積算値が放出台数より大きい場合、積算値と放出台数との差を流出台数として算出する。これにより、青信号の時間帯に交差点から流出する台数を予め補正台数に加算しておくことができる。
【0030】
第9発明にあっては、任意のリンクで起点交通量を生成した場合、当該リンクの下流側で同等の交通量を消滅させる。任意のリンクで起点交通量を生成した場合、すなわち、当該放出点から車両を放出した場合、当該リンクでの交通量が増加するので下流への流入交通量が増加し、下流リンクでの推定渋滞長と実測渋滞長との差異を生じる可能性がある。任意のリンクで起点交通量を生成した場合に、当該リンクの下流側で同等の交通量を消滅させることにより、任意のリンクで起点交通量を生成したことにより生じる影響を当該リンクの下流側に与えることを防止することができる。
【0031】
第10発明にあっては、任意のリンクで終点交通量を生成した場合、当該リンクの下流側で同等の交通量を発生させる。任意のリンクで終点交通量を生成した場合、すなわち、当該回収点で車両を回収した場合、当該リンクでの交通量が減少するので下流への流入交通量が減少し、下流リンクでの推定渋滞長と実測渋滞長との差異を生じる可能性がある。任意のリンクで終点交通量を生成した場合に、当該リンクの下流側で同等の交通量を発生させることにより、任意のリンクで終点交通量を生成したことにより生じる影響を当該リンクの下流側に与えることを防止することができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、実測値として得られたOD交通量から求めた任意のリンクでの発生交通量又は消滅交通量とは別に、当該リンク単位で起点交通量又は終点交通量を生成することにより、渋滞長などの交通評価指標の再現性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本実施の形態に係る交通評価装置の一例である交通シミュレータにおける車両挙動の例を示す模式図である。
【図2】車両の起終点情報の一例を示す模式図である。
【図3】OD交通量の一例を示す説明図である。
【図4】所与のOD交通量に基づいた発生交通量及び消滅交通量の一例を示す模式図である。
【図5】本実施の形態に係る交通評価装置の一例としての交通シミュレータの構成例を示すブロック図である。
【図6】推定渋滞長の補正の一例を示す模式図である。
【図7】リンクの下流側の交通状況に影響を与えないための再放出及び再回収の一例を示す模式図である。
【図8】青信号で流出する流出台数の算出例を示す模式図である。
【図9】本実施の形態の交通シミュレータの処理手順を示すフローチャートである。
【図10】本実施の形態の交通シミュレータの処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明に係る交通評価装置、該交通評価装置を実現するためのコンピュータプログラム及び前記交通評価装置による交通評価方法の実施の形態を示す図面に基づいて説明する。図1は本実施の形態に係る交通評価装置の一例である交通シミュレータにおける車両挙動の例を示す模式図である。交通シミュレータは、複数の車両の模擬走行により交通評価指標を出力する。交通シミュレータは、入力データとして、例えば、車両の走行の起終点情報を含む交通量(例えば、OD交通量、OはOrigin、DはDestinationの意味である)、車両の走行速度、加速減速特性などの交通情報が所与として取り扱われている。OD交通量は、車両の起点(出発地)と終点(目的地)との間の交通量を求めたもので、例えば、市や町などの行政区域の単位毎に発生交通量と消滅交通量とを含む。OD交通量は、国又は自治体が定期的に実施する統計調査の結果得られた調査統計データなどが用いられる。
【0035】
交通シミュレータは、予め車両の移動モデル、すなわち、車両の挙動を模した計算式を内包しており、上述の入力データを当該計算式に当てはめることにより、複数の車両を模擬的に走行させることにより、単独交差点、路線及び市街地などの道路網における渋滞長、旅行時間などの交通評価指標を出力する。この場合、道路網は、複数のリンク(例えば、交差点と交差点とを繋ぐ道路で上り及び下りの2つの方向を有する)とリンク同士が交差する点であるノード(例えば、交差点)などで構成される。図1では、道路網の一部として3つのノードと2つのリンクとを例示している。
【0036】
図2は車両の走行の起終点情報の一例を示す模式図である。交通シミュレータで交通評価指標を再現する場合、単独交差点または路線のように比較的単純な道路網では、車両の走行の起終点情報は、道路の両端点に設定される。しかし、市街地などの複数の路線が交差する比較的複雑な道路網では、シミュレーション区域Sの内外を出発地(起点)とする交通、目的地(終点)とする交通を再現するために、個々の車両に走行の起点(出発地)と終点(目的地)の情報を与える。
【0037】
図2に示すように、道路網は、交差点に相当する複数のノードと、交差点同士を繋ぐ道路をリンクとして構成される。図2の例では、道路網の一部又は全部にシミュレーション区域Sを設定する。シミュレーション区域Sの外側には、起点終点A1、A2、…A12がある。また、シミュレーション区域Sの内側には、起点終点B1、B2、B3がある。なお、起点終点は一例であって、図2の例に限定されるものではない。図2に示すように、一例として、起点をA5とし終点をA6とする外々交通、起点をA5とし終点をB1とする外内交通、起点をB2とし終点をB3とする内々交通、起点をB2とし終点をA8とする内外交通などがある。OD交通量などに基づいて、個々の車両は、それぞれの起点と終点が与えられ、車両の移動モデルに従って、起点から終点までの走行経路等の車両の挙動を求めることができる。
【0038】
図3はOD交通量の一例を示す説明図である。図3の例は、図2の起点終点A1、A5、A6、A10、A12とした場合の交通量が所与としている。なお、起点終点の例は一例であり、これに限定されるものではない。図3の例では、例えば、起点をA1とし終点をA5とする交通量が所定時間内に40台あることを示す。また、起点をA10とし終点をA5とする交通量が150台あることを示す。他も同様である。なお、図3に示す車両の台数は、単に模式的に示したものであり、値そのものに余り意味はない。
【0039】
図4は所与のOD交通量に基づいた発生交通量及び消滅交通量の一例を示す模式図である。図4の例では、2つのリンク1、リンク2を例示している。交通シミュレータは、所与のOD交通量に基づいて、シミュレーション区域S内の各リンクでの発生交通量と消滅交通量とを算出する。図4に示すように、リンク1の上流で発生交通量が存在し、リンク1の下流で消滅交通量が存在する。なお、リンク1の途中で交通量の発生または消滅があってもよい。同様に、リンク2の上流で発生交通量が存在し、リンク1の下流で消滅交通量が存在する。なお、リンク1とリンク2とが交わる点(交差点)では、他のリンク(不図示)からの流入交通や流出交通が存在する。
【0040】
そして、各リンクで算出された発生交通量及び消滅交通量を用いて交通評価指標としての推定渋滞長を算出(推定)する。本実施の形態に係る交通シミュレータ(交通評価装置)は、推定渋滞長と実測渋滞長との差分(推定誤差)をリンク単位で補正することにより、交通評価指標の再現性を向上させるものである。以下、本実施の形態の交通シミュレータについて説明する。
【0041】
図5は本実施の形態に係る交通評価装置の一例としての交通シミュレータ10の構成例を示すブロック図である。交通シミュレータ10は、車両の移動モデルを表す計算式に基づいて演算を行うシミュレータエンジン部11、所与のOD交通量に基づいて発生交通量及び消滅交通量を算出する交通量算出部12、交通量算出部12で算出された交通量に基づいて各リンクでの推定渋滞長を算出(推定)する推定渋滞長算出部13、推定渋滞長算出部13で算出された推定渋滞長と実測渋滞長との差分(推定誤差)に基づいて推定渋滞長を調整するために起点交通量及び終点交通量を生成する起点終点生成部14、上述の推定誤差に基づいて車両の補正台数を算出する補正台数算出部15、リンク下流の交差点で青信号の間に流出する流出台数を算出する流出台数算出部16、起点終点生成部14で生成した終点交通量又は起点交通量に対応させて当該リンクの下流側で交通量を発生又は消滅させる発生消滅部17、所定の情報を記憶する記憶部18などを備える。
【0042】
交通シミュレータ10には、入力データとして、例えば、車両の走行速度、加速減速特性、車両の走行の起点終点情報、交通量、実測渋滞長などのデータが与えられる。交通シミュレータ10は、入力データを用いて、交通評価指標である各リンクの渋滞長(推定渋滞長)、車両の旅行時間などを出力する。なお、交通評価指標は、道路網を表す地図上で表示される。なお、交通評価指標に環境汚染物質(二酸化炭素など)の排出量(例えば、環境指標)を含めることもできる。渋滞長を再現性よく求めることができる場合、旅行時間や環境汚染物質の排出量も渋滞長に比例するので再現性よく求めることが可能となる。
【0043】
交通量算出部12は、OD交通量(車両の走行の起終点情報を含む交通量)を用いて起点と終点との間の任意のリンクで発生する発生交通量及び任意のリンクで消滅する消滅交通量を算出する。
【0044】
推定渋滞長算出部13は、交通量算出部12で算出した交通量に基づいて、任意のリンクでの車両の推定渋滞長を算出(推定)する。なお、推定渋滞長を求める場合、車両の走行速度、加速減速特性、当該リンク両端の交差点での信号現示、リンク長などのパラメータを記憶部18に記憶しておき、当該パラメータを使用することができる。
【0045】
起点終点生成部14は、推定渋滞長などの交通評価指標を調整するために、交通量算出部12で算出した任意のリンクでの発生交通量及び消滅交通量とは別に当該リンクで起点交通量又は終点交通量を生成する。より具体的には、当該リンクでの車両の実測渋滞長と推定渋滞長算出部13で算出した推定渋滞長との差分である推定誤差がゼロ又は最小になるように起点交通量又は終点交通量を生成する。起点交通量又は終点交通量を生成することにより、推定渋滞長を補正して実測渋滞長に合わせる、すなわち、交通評価指標の再現性を向上させることができる。
【0046】
図6は推定渋滞長の補正の一例を示す模式図である。図6に示すように、本実施の形態の交通シミュレータ10は、リンク単位であって所定の補正周期(例えば、300秒など)の経過の都度、起点交通量(交通量の起点)としてダミーの車両を放出し、又は終点交通量(交通量の終点)として正規の車両を回収することにより、推定渋滞長が実測渋滞長と一致するように推定渋滞長を補正する。
【0047】
図6の例では、リンク1では実測渋滞長が推定渋滞長より長いので、実測渋滞長と推定渋滞長との差分(推定誤差)に相当する台数(補正台数)の車両をリンク1で放出する。すなわち、正規の車両に加えてダミー車両を走行させて渋滞長を長くする。
【0048】
また、リンク2では実測渋滞長が推定渋滞長より短いので、実測渋滞長と推定渋滞長との差分(推定誤差)に相当する台数(補正台数)の車両をリンク2で回収する。すなわち、正規の車両の一部をシミュレーション対象外の抜け道を走行させることにより渋滞長を短くする。なお、補正台数の算出方法は後述する。
【0049】
上述のように、交通評価指標(例えば、渋滞長、旅行時間)を調整するために、任意のリンクで算出した交通量とは別に当該リンクで起点交通量又は終点交通量を生成する。すなわち、実測値として得られたOD交通量から求めた任意のリンクでの発生交通量又は消滅交通量とは別に、当該リンク単位で起点交通量又は終点交通量を生成することにより、各リンク単位で渋滞長などの交通評価指標の再現性を向上させることができる。また、それぞれのリンクでの再現性を高めることができるので、道路網全体での再現性も向上させることができる。
【0050】
また、算出した発生交通量及び消滅交通量に基づいて、任意のリンクでの車両の推定渋滞長を推定し、当該リンクでの車両の実測渋滞長及び推定渋滞長に基づいて、当該リンクで起点交通量又は終点交通量を生成する。これにより、各リンク単位で交通評価指標の実測値と推定値を合わせるように、起点交通量又は終点交通量を生成するので、各リンクで渋滞長などの交通評価指標の再現性を向上させることができる。
【0051】
具体的には、実測渋滞長が推定渋滞長より長い場合、実測渋滞長と推定渋滞長との差分(推定誤差)に応じた車両台数の起点交通量を生成する。これにより、当該リンクで、算出された交通量により求めた渋滞長が実測値より短い場合でも、推定渋滞長の再現性を確保することができ、道路網の各リンクで同様の処理を行うことで、道路網の各リンクのみならず道路網全体としての交通評価指標の再現性を向上させることができる。
【0052】
また、実測渋滞長が推定渋滞長より短い場合、推定渋滞長と実測渋滞長との差分(推定誤差)に応じた車両台数の終点交通量を生成する。これにより、当該リンクで、算出された交通量により求めた渋滞長が実測値より長い場合でも、推定渋滞長の再現性を確保することができ、道路網の各リンクで同様の処理を行うことで、道路網の各リンクのみならず道路網全体としての交通評価指標の再現性を向上させることができる。
【0053】
発生消滅部17は、起点終点生成部14で任意のリンクで起点交通量を生成した場合、当該リンクの下流側で同等の交通量を消滅(再回収)させる。任意のリンクで起点交通量を生成した場合、すなわち、当該放出点から車両を放出した場合、当該リンクでの交通量が増加するので下流への流入交通量が増加し、下流リンクでの推定渋滞長と実測渋滞長との差異を生じる可能性がある。任意のリンクで起点交通量を生成した場合に、当該リンクの下流側で同等の交通量を消滅(再回収)させることにより、任意のリンクで起点交通量を生成したことにより生じる影響を当該リンクの下流側に与えることを防止することができる。
【0054】
また、発生消滅部17は、起点終点生成部14で任意のリンクで終点交通量を生成した場合、当該リンクの下流側で同等の交通量を発生(再放出)させる。任意のリンクで終点交通量を生成した場合、すなわち、当該回収点で車両を回収した場合、当該リンクでの交通量が減少するので下流への流入交通量が減少し、下流リンクでの推定渋滞長と実測渋滞長との差異を生じる可能性がある。任意のリンクで終点交通量を生成した場合に、当該リンクの下流側で同等の交通量を発生(再放出)させることにより、任意のリンクで終点交通量を生成したことにより生じる影響を当該リンクの下流側に与えることを防止することができる。また、任意のリンクで終点交通量を生成した場合(車両を回収した場合)に、当該リンクの下流側で同等の交通量を発生(再放出)するときには、回収時に回収した車両の終点(本来の消滅地点)を記憶しておき、再放出の際に各車両に記憶しておいた終点を与えることもできる。
【0055】
図7はリンクの下流側の交通状況に影響を与えないための再放出及び再回収の一例を示す模式図である。交通シミュレータ10では、渋滞長又は旅行時間などの交通評価指標を実測値と合わせるために、推定渋滞長などを補正した場合、そのままでは、その影響が下流のリンクに及ぶために、下流の渋滞長及び旅行時間などが変化する。例えば、上流リンクで推定渋滞長を実測渋滞長に合わせるため、起点交通量として車両が放出された場合、当該リンクからの流出交通量が増加するので下流への流入交通量が増加し、これが下流リンクの推定渋滞長に差異を生じさせる可能性がある。
【0056】
上述の図5の例において、発生消滅部17は、必須の構成ではない。すなわち、交通量(車両)の再回収及び再放出は、必須ではなく省略することができる。再回収及び再放出を省略した場合には、放出または回収する補正台数による下流リンクへの影響は、下流リンクでの補正処理に委ねることができる。
【0057】
そこで、本実施の形態では、図7に示すように、各リンクでの補正要因(起点交通量又は終点交通量の生成)を下流リンクに伝えないように、リンクに放出された車両はリンク下流の交差点出口で再回収し、また、リンク上で回収された車両はリンク下流の交差点出口で再放出する。これにより、補正による影響を下流リンクに与えることはない。
【0058】
次に、補正台数の算出方法について説明する。補正台数算出部15は、実測渋滞長と推定渋滞長との差分(推定誤差)の絶対値に渋滞内の車両密度を積算し、積算値に当該リンクの固有値を加算又は減算して車両の補正台数を算出する。例えば、推定誤差が正である場合、すなわち、実測渋滞長が推定渋滞長より長い場合、リンクの固有値を積算値から減算し、推定誤差が負である場合、すなわち、実測渋滞長が推定渋滞長より短い場合、リンクの固有値を積算値に加算する。
【0059】
推定渋滞長と実測渋滞長との差分の絶対値に渋滞内の車両密度を積算することにより、推定渋滞長と実測渋滞長との差分である推定誤差に相当する車両の台数を求めることができる。リンクの固有値は、例えば、リンク(道路)上の許容範囲に相当する車両台数である。許容範囲は、例えば、車両感知器の設置密度(例えば、車両感知器の設置間隔が250mであれば、許容範囲は250m)であり、この場合、リンクの固有値は、車両感知器の設置密度に車両の走行密度を積算した値とすることができる。すなわち、リンクの固有値は、当該リンクで車両を感知することができる範囲に相当する車両台数である。なお、固有値はゼロであってもよい。起点交通量として補正台数の車両を起点で放出し、又は終点交通量として補正台数の車両を終点で回収する。これにより、推定渋滞長と実測渋滞長との差分である推定誤差に相当する車両の台数を、各リンクで放出又は回収させることができる。
【0060】
起点交通量として起点から車両を放出する場合、あるいは、終点交通量として終点で車両を回収する場合、放出及び回収する地点は、当該リンクの最上流、渋滞末尾地点、あるいはリンクの任意の点とすることができる。
【0061】
また、車両の放出及び回収は、例えば、補正台数を10台とした場合、(1)補正台数10台を、補正周期(例えば、300秒)の最後に一度で行う方法、(2)補正台数10台を補正周期(例えば、300秒)の間を等間隔(例えば、30秒間隔)で一様に行う方法、(3)リンク下流の信号表示に同期させて(例えば、赤信号の時間帯)行う方法などがある。また、車両の放出の方法に限れば、(4)リンク上を走行する車両の挙動を妨げないように走行する車両の間隔が、例えば4秒以上ある場合に行う方法などがある。
【0062】
上述の(3)の方法を採用すれば、すなわち、補正台数の車両を放出する場合、車両の放出点を含むリンクの下流交差点での信号現示に同期して車両を放出するようにすれば、補正台数の車両がリンクに渋滞として留まらないという事態を防止し、確実に推定渋滞長を実測渋滞長に合わせることが可能となる。
【0063】
また、上述の(2)及び(4)の方法を採用して車両を任意のリンクで放出した場合、当該リンクの下流交差点において青信号で流れ出し、補正台数が渋滞として溜まらず推定渋滞長を実測渋滞長に合わせることができない場合がある。以下、青信号で流出する台数を算出し、流出台数を予め放出する台数に加算する方法について説明する。
【0064】
流出台数算出部16は、補正台数の車両を放出する場合、車両の放出点を含むリンクの下流交差点の青信号で流出する流出台数を算出する。より具体的には、流出台数算出部16は、起点交通量又は終点交通量の生成周期である補正周期(例えば、300秒)の間のリンクの下流交差点の青信号時間と、交通流率(例えば、飽和交通流率)との積算値及び放出する車両台数に基づいて流出台数を算出する。例えば、積算値が放出台数より大きい場合、積算値と放出台数との差を流出台数として算出する。
【0065】
図8は青信号で流出する流出台数の算出例を示す模式図である。実測渋滞長と推定渋滞長との差分である推定誤差が正である場合(すなわち、起点交通量として車両を放出する場合)に、補正周期の間の青時間と飽和交通流率との積算値が放出台数より大きいときは、青信号での流出台数を、(補正周期の間の青時間と飽和交通流率との積算値−放出台数)により算出する。ここで、放出台数は、前回の補正周期のタイミングから今回の補正周期のタイミングまでの間に当該リンクから放出した車両の台数である。
【0066】
補正周期の間の青時間と飽和交通流率との積算値が放出台数より小さいときは、青信号での流出台数をゼロとする。また、推定誤差が負である場合(すなわち、終点交通量として車両を回収する場合)には、青信号での流出台数をゼロとする。
【0067】
青信号で流出する流出台数を放出台数に加算しておくことで、放出した車両がリンクの下流交差点の青信号で流出して補正台数の車両の一部又は全部が青信号で交差点に流出し、リンクに渋滞として留まらないために、推定渋滞長が実測渋滞長に合わなくなるという事態が生じたとしても、流出分の台数を補正台数に加味するので、車両の放出方法に拘わらず、確実に推定渋滞長を実測渋滞長に合わせることが可能となる。また、積算値が放出台数より大きい場合、積算値と放出台数との差を流出台数として算出することにより、青信号の時間帯に交差点から流出する台数を予め補正台数に加算しておくことができる。
【0068】
次に、本実施の形態の交通シミュレータ10の動作について説明する。図9及び図10は本実施の形態の交通シミュレータ10の処理手順を示すフローチャートである。交通シミュレータ10は、補正周期(例えば、300秒)が経過したか否かを判定し(S11)、補正周期を経過した場合(ステップS11でYES)、すなわち、前回の補正のタイミングから300秒経過した場合、推定渋滞長を算出し(S12)、推定誤差(実測渋滞長と推定渋滞長との差分)を算出(推定)する(S13)。
【0069】
交通シミュレータ10は、推定誤差がゼロより大きいか否かを判定し(S14)、推定誤差がゼロより大きい場合(S14でYES)、(推定誤差−リンクの固有値)がゼロより大きいか否かを判定する(S15)。
【0070】
(推定誤差−リンクの固有値)がゼロより大きい場合(S15でYES)、交通シミュレータ10は、補正台数を算出し(S16)、算出した補正台数の車両(ダミーの車両)を起点交通量としてリンクに放出する(S17)。
【0071】
交通シミュレータ10は、リンクに放出した車両を当該リンク下流交差点で再回収する(S18)。交通シミュレータ10は、起点(出発地)から車両を発生し、終点(目的地)で車両を回収し(S19)、信号灯器の信号灯色を、例えば、0.1秒進め、車両の移動モデルに従って車両を走行させ(S20)、シミュレーション周期(例えば、0.1秒)を終了する。
【0072】
(推定誤差−リンクの固有値)がゼロより大きくない場合(S15でNO)、交通シミュレータ10は、補正を行わずにステップS19以降の処理を行う。また、補正周期を経過していない場合(ステップS11でNO)、交通シミュレータ10は、補正を行わずにステップS19以降の処理を行う。
【0073】
推定誤差がゼロより大きくない場合(S14でNO)、交通シミュレータ10は、推定誤差がゼロより小さいか否かを判定し(S21)、推定誤差がゼロより小さい場合(S21でYES)、(推定誤差+リンクの固有値)がゼロより小さいか否かを判定する(S22)。
【0074】
(推定誤差+リンクの固有値)がゼロより小さい場合(S22でYES)、交通シミュレータ10は、補正台数を算出し(S23)、算出した補正台数の車両(正規の車両)を終点交通量としてリンクから回収する(S24)。
【0075】
交通シミュレータ10は、リンクから回収した車両を当該リンク下流交差点で再放出し(S25)、ステップS19以降の処理を続ける。推定誤差がゼロより小さくない場合(S21でNO)、交通シミュレータ10は、推定誤差がゼロであるとして、補正を行わずにステップS19以降の処理を行う。また、(推定誤差+リンクの固有値)がゼロより小さくない場合(S22でNO)、交通シミュレータ10は、補正を行わずにステップS19以降の処理を行う。
【0076】
上述の図9及び図10で例示した処理は、シミュレーション周期(例えば、0.1秒)経過の都度繰り返し行われる。また、ステップS18、S25の処理を行わずに省略することもできる。この場合は、当該リンクの下流リンクで車両の放出又は回収を行う補正で調整する。当該リンクでの補正は、下流リンクに影響を与えるが、下流リンクでも補正処理が行なわれるので、推定渋滞長と実測渋滞長の差異を小さくすることができる。
【0077】
上述の交通シミュレータ10は、CPU、RAMなどを備えた汎用コンピュータを用いて実現することもできる。すなわち、図9及び図10に示すような、各処理手順を定めたプログラムコードをコンピュータに備えられたRAMにロードし、プログラムコードをCPUで実行することにより、コンピュータ上で交通シミュレータ10を実現することができる。
【0078】
交通シミュレータ10を用いる評価では、一般的に現状の交通評価指標と交通環境変化後の交通評価指標との相対比較が行なわれるが、図9及び図10に例示した処理手順で得られた回収の補正値及び放出の補正値は、交通環境変化後の評価においても全く同様に回収の補正値及び放出の補正値として使うことができる。
【0079】
上述のとおり、本実施の形態の交通シミュレータ10は、対象とする道路網の任意のリンク(道路)のみならず、道路網全体としても、交通評価指標の再現性を向上させることができる。また、交通評価指標の再現性が高まることにより、交通環境変化後の交通評価指標を正しく評価することが可能となる。
【0080】
上述の実施の形態では、車両の走行の起終点情報を用いる構成であったが、これに限定されるもではない。例えば、任意のリンクでの発生交通量と消滅交通量を予め設定しておいて、設定した発生交通量と消滅交通量を用いることもできる。
【0081】
開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0082】
10 交通シミュレータ
11 シミュレータエンジン部
12 交通量算出部(交通量算出手段)
13 推定渋滞長算出部(渋滞長推定手段)
14 起点終点生成部(生成手段)
15 補正台数算出部(補正台数算出手段)
16 流出台数算出部(流出台数算出手段)
17 発生消滅部(発生手段、消滅手段)
18 記憶部
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の車両の模擬走行により交通評価指標を出力する交通評価装置、該交通評価装置を実現するためのコンピュータプログラム及び前記交通評価装置による交通評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
交通規制等による影響を事前に評価する手段として交通シミュレータへの期待が高まっており、様々な技術開発が行われている。このような交通シミュレータは、入力データとして、車両の走行の起終点情報を含む交通量(例えば、OD交通量)、車両の走行速度、加速減速特性などの交通情報が所与として取り扱われている。OD交通量は、車両の起点(出発地)と終点(目的地)の間の交通量を求めたもので、例えば、国又は自治体が定期的に実施する統計調査の結果得られた調査統計データなどが用いられる。
【0003】
交通シミュレータの目的は、例えば、工事、事故又は災害などによる交通規制、道路の新設、交差点の改良などの交通環境変化後の影響を事前に評価又は推定することである。そして、交通シミュレータは、予め車両の移動モデル、すなわち、車両の挙動を模した計算式を内包しており、上述の入力データを当該計算式に当てはめることにより、単独交差点、路線及び市街地などの道路網における渋滞長、旅行時間などの交通評価指標、あるいは排ガスに含まれる二酸化炭素などの環境指標を出力する。この場合、道路網は、複数のリンク(例えば、交差点と交差点とを繋ぐ道路で上り及び下りの2つの方向を有する)とリンク同士が交差する点であるノード(例えば、交差点)などで構成される。
【0004】
具体的には、交通シミュレータは、入力されたOD交通量をもとに、道路網の各リンクでの発生交通量(リンクに流入する交通量)及び消滅交通量(リンクから流出する交通量)を求める。そして、交通シミュレータは、各リンクにおいて発生交通量に相当する台数の車両を発生させるとともに、消滅交通量に相当する台数の車両を消滅させて渋滞長などを求める。
【0005】
また、特定の区間について、区間の両端に設けた車両感知器から得られる特定車両の旅行時間と時系列に得られる車両感知器データを用いて、時間軸上のデータを空間軸上のデータに投影することにより、渋滞長を求める方法が開示されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平08−161686号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
実際の道路網を想定して交通評価指標を再現する場合、従来の交通シミュレータにあっては、車両の走行速度、加速減速特性及びOD交通量などの入力データは、実際の交通情報と一致するように設定されるべきである。しかし、個々の車両の挙動及びOD交通量などを、例えば、道路網のリンク毎に詳細に計測して実際の交通情報と一致させることは困難であり、両者には差異が存在する。このため、交通シミュレータで交通評価指標を求める場合、シミュレーション時間の経過とともに当該差異が累積する結果、実際の交通評価指標を再現することができないという問題がある。
【0008】
このため、例えば、交通シミュレータで交通評価指標として渋滞長を求めた場合に、求めた渋滞長が実測値と合わないときには、車両の走行速度や交差点での流出率などのパラメータを調整することで、再現性が得られるようにしていた。しかし、道路網の一部の路線(リンク)で再現性が得られたとしても、車両の走行速度や交差点の流出率などを調整した場合、下流の路線(リンク)への到着車両台数などの交通状況が変化するため、更に下流の調整が必要となる。また、道路網全体では、交差点において車両の右折又は左折があるため、調整による影響は交差点で交差する他の路線にも影響を与える。このため、対象とする道路網全体では、求めた渋滞長が実測値と合わずに再現性に欠けるという課題があった。特に、交通シミュレータによる評価の目的が、現状の交通評価指標(例えば、渋滞長又は旅行時間など)と交通環境変化後の交通評価指標とを比較する場合には、交通シミュレータによる現状の交通評価指標の再現性は、比較対象の元になる重要な要素であるため、交通シミュレータでの再現性を向上させることが要望されていた。
【0009】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであり、渋滞長などの交通評価指標の再現性を向上させることができる交通評価装置、該交通評価装置を実現するためのコンピュータプログラム及び前記交通評価装置による交通評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1発明に係る交通評価装置は、複数の車両の模擬走行により交通評価指標を出力する交通評価装置において、任意のリンクで発生及び消滅する交通量を算出する交通量算出手段と、前記交通評価指標を調整するために、前記交通量算出手段で算出した交通量とは別に前記リンクで起点交通量又は終点交通量を生成する生成手段とを備えることを特徴とする。
【0011】
第2発明に係る交通評価装置は、第1発明において、前記交通量算出手段で算出した交通量に基づいて、任意のリンクでの車両の推定渋滞長を推定する渋滞長推定手段を備え、前記生成手段は、前記リンクでの車両の実測渋滞長及び前記推定渋滞長に基づいて、該リンクで起点交通量又は終点交通量を生成するように構成してあることを特徴とする。
【0012】
第3発明に係る交通評価装置は、第2発明において、前記生成手段は、前記実測渋滞長が推定渋滞長より長い場合、該実測渋滞長と推定渋滞長との差分に応じた車両台数の起点交通量を生成するように構成してあることを特徴とする。
【0013】
第4発明に係る交通評価装置は、第2発明又は第3発明において、前記生成手段は、前記実測渋滞長が推定渋滞長より短い場合、該推定渋滞長と実測渋滞長との差分に応じた車両台数の終点交通量を生成するように構成してあることを特徴とする。
【0014】
第5発明に係る交通評価装置は、第2発明乃至第4発明のいずれか1項において、前記実測渋滞長と推定渋滞長との差分の絶対値に渋滞内の車両密度を積算し、積算した値に当該リンクの固有値を加算又は減算して車両の補正台数を算出する補正台数算出手段を備え、前記生成手段は、起点交通量として前記補正台数の車両を放出し、又は終点交通量として前記補正台数の車両を回収するように構成してあることを特徴とする。
【0015】
第6発明に係る交通評価装置は、第5発明において、前記生成手段は、前記補正台数の車両を放出する場合、車両の放出点を含むリンクの下流交差点での信号現示に同期して車両を放出するように構成してあることを特徴とする。
【0016】
第7発明に係る交通評価装置は、第5発明において、前記生成手段で前記補正台数の車両を放出する場合、車両の放出点を含むリンクの下流交差点の青信号で流出する流出台数を算出する流出台数算出手段を備え、前記補正台数算出手段は、前記流出台数に基づいて補正台数を算出するように構成してあることを特徴とする。
【0017】
第8発明に係る交通評価装置は、第7発明において、前記流出台数算出手段は、前記生成手段による生成周期の間の前記交差点の青信号時間と交通流率との積算値及び前記生成手段で放出する車両台数に基づいて流出台数を算出するように構成してあることを特徴とする。
【0018】
第9発明に係る交通評価装置は、第1発明から第8発明までのいずれか1項において、前記生成手段で任意のリンクで起点交通量を生成した場合、該リンクの下流側で同等の交通量を消滅させる消滅手段を備えることを特徴とする。
【0019】
第10発明に係る交通評価装置は、第1発明から第9発明までのいずれか1項において、前記生成手段で任意のリンクで終点交通量を生成した場合、該リンクの下流側で同等の交通量を発生させる発生手段を備えることを特徴とする。
【0020】
第11発明に係るコンピュータプログラムは、コンピュータに、複数の車両の模擬走行により交通評価指標を出力するステップを実行させるためのコンピュータプログラムにおいて、コンピュータに、任意のリンクで発生及び消滅する交通量を算出するステップと、前記交通評価指標を調整するために、算出した交通量とは別に前記リンクで起点交通量又は終点交通量を生成する生成するステップとを実行させることを特徴とする。
【0021】
第12発明に係る交通評価方法は、複数の車両の模擬走行により交通評価指標を出力する交通評価装置による交通評価方法おいて、任意のリンクで発生及び消滅する交通量を交通量算出手段で算出するステップと、前記交通評価指標を調整するために、算出された交通量とは別に前記リンクで起点交通量又は終点交通量を生成する生成するステップとを含むことを特徴とする。
【0022】
第1発明、第11発明及び第12発明にあっては、任意のリンクで発生及び消滅する交通量を算出する。車両の走行の起終点情報を用いる場合、起点と終点との間のリンクを任意のリンクとして用いることができる。車両の走行の起終点情報は、例えば、OD交通量であり、車両の起点(出発地)と終点(目的地)の間の交通量を実測値として求めたものである。任意のリンクで発生する交通量又は消滅する交通量は、OD交通量などを用いて算出することができる。交通評価指標を調整するために、任意のリンクで算出した交通量とは別に当該リンクで起点交通量又は終点交通量を生成する。すなわち、実測値として得られたOD交通量から求めた任意のリンクでの発生交通量又は消滅交通量とは別に、当該リンク単位で起点交通量又は終点交通量を生成することにより、各リンク単位で交通評価指標を調整する。交通評価指標は、例えば、渋滞長、旅行時間などである。これにより、渋滞長などの交通評価指標の再現性を向上させることができる。なお、車両の走行の起終点情報に代えて、任意のリンクでの発生交通量及び消滅交通量を設定して用いることもできる。
【0023】
第2発明にあっては、算出した交通量に基づいて、任意のリンクでの車両の推定渋滞長を推定し、当該リンクでの車両の実測渋滞長及び推定渋滞長に基づいて、当該リンクで起点交通量又は終点交通量を生成する。これにより、各リンク単位で交通評価指標の実測値と推定値を合わせるように、起点交通量又は終点交通量を生成するので、各リンクで渋滞長などの交通評価指標の再現性を向上させることができる。
【0024】
第3発明にあっては、実測渋滞長が推定渋滞長より長い場合、実測渋滞長と推定渋滞長との差分に応じた車両台数の起点交通量を生成する。これにより、当該リンクで、算出された交通量により求めた渋滞長が実測値より短い場合でも、推定渋滞長の再現性を確保することができ、道路網の各リンクで同様の処理を行うことで、道路網の各リンクのみならず道路網全体としての交通評価指標の再現性を向上させることができる。
【0025】
第4発明にあっては、実測渋滞長が推定渋滞長より短い場合、推定渋滞長と実測渋滞長との差分に応じた車両台数の終点交通量を生成する。これにより、当該リンクで、算出された交通量により求めた渋滞長が実測値より長い場合でも、推定渋滞長の再現性を確保することができ、道路網の各リンクで同様の処理を行うことで、道路網の各リンクのみならず道路網全体としての交通評価指標の再現性を向上させることができる。
【0026】
第5発明にあっては、実測渋滞長と推定渋滞長との差分(推定誤差)の絶対値に渋滞内の車両密度を積算し、積算した値に当該リンクの固有値を加算又は減算して車両の補正台数を算出する。なお、渋滞内の車両密度は、実測渋滞長及び推定渋滞長のいずれの場合でも同等とすることができる。推定渋滞長と実測渋滞長との差分の絶対値に渋滞内の車両密度を積算することにより、推定渋滞長と実測渋滞長との差分である推定誤差に相当する車両の台数を求めることができる。リンクの固有値は、例えば、リンク(道路)上の許容範囲に相当する車両台数である。許容範囲は、例えば、車両感知器の設置密度(例えば、車両感知器の設置間隔が250mであれば、許容範囲は250m)であり、この場合、リンクの固有値は、車両感知器の設置密度に車両の走行密度を積算した値とすることができる。すなわち、リンクの固有値は、当該リンクで車両を感知することができる範囲に相当する車両台数である。なお、固有値はゼロであってもよい。起点交通量として補正台数の車両を起点で放出し、又は終点交通量として補正台数の車両を終点で回収する。これにより、推定渋滞長と実測渋滞長との差分である推定誤差に相当する車両の台数を、各リンクで放出又は回収させることができる。
【0027】
第6発明にあっては、補正台数の車両を放出する場合、車両の放出点を含むリンクの下流交差点での信号現示に同期して車両を放出する。例えば、リンク下流の信号現示が赤信号の時間帯に補正台数の車両を放出する。これにより、補正台数の車両がリンクに渋滞として留まらないという事態を防止し、確実に推定渋滞長を実測渋滞長に合わせることが可能となる。
【0028】
第7発明にあっては、補正台数の車両を放出する場合、車両の放出点を含むリンクの下流交差点の青信号で流出する流出台数を算出し、算出した流出台数に基づいて補正台数を算出する。これにより、放出した車両がリンクの下流交差点の青信号で流出して補正台数の車両の一部又は全部が青信号で交差点に流出し、リンクに渋滞として留まらないために、推定渋滞長が実測渋滞長に合わなくなるという事態が生じたとしても、流出分の台数を補正台数に加味するので、車両の放出方法に拘わらず、確実に推定渋滞長を実測渋滞長に合わせることが可能となる。
【0029】
第8発明にあっては、生成周期の間のリンクの下流交差点の青信号時間と、交通流率との積算値及び放出する車両台数に基づいて流出台数を算出する。例えば、積算値が放出台数より大きい場合、積算値と放出台数との差を流出台数として算出する。これにより、青信号の時間帯に交差点から流出する台数を予め補正台数に加算しておくことができる。
【0030】
第9発明にあっては、任意のリンクで起点交通量を生成した場合、当該リンクの下流側で同等の交通量を消滅させる。任意のリンクで起点交通量を生成した場合、すなわち、当該放出点から車両を放出した場合、当該リンクでの交通量が増加するので下流への流入交通量が増加し、下流リンクでの推定渋滞長と実測渋滞長との差異を生じる可能性がある。任意のリンクで起点交通量を生成した場合に、当該リンクの下流側で同等の交通量を消滅させることにより、任意のリンクで起点交通量を生成したことにより生じる影響を当該リンクの下流側に与えることを防止することができる。
【0031】
第10発明にあっては、任意のリンクで終点交通量を生成した場合、当該リンクの下流側で同等の交通量を発生させる。任意のリンクで終点交通量を生成した場合、すなわち、当該回収点で車両を回収した場合、当該リンクでの交通量が減少するので下流への流入交通量が減少し、下流リンクでの推定渋滞長と実測渋滞長との差異を生じる可能性がある。任意のリンクで終点交通量を生成した場合に、当該リンクの下流側で同等の交通量を発生させることにより、任意のリンクで終点交通量を生成したことにより生じる影響を当該リンクの下流側に与えることを防止することができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、実測値として得られたOD交通量から求めた任意のリンクでの発生交通量又は消滅交通量とは別に、当該リンク単位で起点交通量又は終点交通量を生成することにより、渋滞長などの交通評価指標の再現性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本実施の形態に係る交通評価装置の一例である交通シミュレータにおける車両挙動の例を示す模式図である。
【図2】車両の起終点情報の一例を示す模式図である。
【図3】OD交通量の一例を示す説明図である。
【図4】所与のOD交通量に基づいた発生交通量及び消滅交通量の一例を示す模式図である。
【図5】本実施の形態に係る交通評価装置の一例としての交通シミュレータの構成例を示すブロック図である。
【図6】推定渋滞長の補正の一例を示す模式図である。
【図7】リンクの下流側の交通状況に影響を与えないための再放出及び再回収の一例を示す模式図である。
【図8】青信号で流出する流出台数の算出例を示す模式図である。
【図9】本実施の形態の交通シミュレータの処理手順を示すフローチャートである。
【図10】本実施の形態の交通シミュレータの処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明に係る交通評価装置、該交通評価装置を実現するためのコンピュータプログラム及び前記交通評価装置による交通評価方法の実施の形態を示す図面に基づいて説明する。図1は本実施の形態に係る交通評価装置の一例である交通シミュレータにおける車両挙動の例を示す模式図である。交通シミュレータは、複数の車両の模擬走行により交通評価指標を出力する。交通シミュレータは、入力データとして、例えば、車両の走行の起終点情報を含む交通量(例えば、OD交通量、OはOrigin、DはDestinationの意味である)、車両の走行速度、加速減速特性などの交通情報が所与として取り扱われている。OD交通量は、車両の起点(出発地)と終点(目的地)との間の交通量を求めたもので、例えば、市や町などの行政区域の単位毎に発生交通量と消滅交通量とを含む。OD交通量は、国又は自治体が定期的に実施する統計調査の結果得られた調査統計データなどが用いられる。
【0035】
交通シミュレータは、予め車両の移動モデル、すなわち、車両の挙動を模した計算式を内包しており、上述の入力データを当該計算式に当てはめることにより、複数の車両を模擬的に走行させることにより、単独交差点、路線及び市街地などの道路網における渋滞長、旅行時間などの交通評価指標を出力する。この場合、道路網は、複数のリンク(例えば、交差点と交差点とを繋ぐ道路で上り及び下りの2つの方向を有する)とリンク同士が交差する点であるノード(例えば、交差点)などで構成される。図1では、道路網の一部として3つのノードと2つのリンクとを例示している。
【0036】
図2は車両の走行の起終点情報の一例を示す模式図である。交通シミュレータで交通評価指標を再現する場合、単独交差点または路線のように比較的単純な道路網では、車両の走行の起終点情報は、道路の両端点に設定される。しかし、市街地などの複数の路線が交差する比較的複雑な道路網では、シミュレーション区域Sの内外を出発地(起点)とする交通、目的地(終点)とする交通を再現するために、個々の車両に走行の起点(出発地)と終点(目的地)の情報を与える。
【0037】
図2に示すように、道路網は、交差点に相当する複数のノードと、交差点同士を繋ぐ道路をリンクとして構成される。図2の例では、道路網の一部又は全部にシミュレーション区域Sを設定する。シミュレーション区域Sの外側には、起点終点A1、A2、…A12がある。また、シミュレーション区域Sの内側には、起点終点B1、B2、B3がある。なお、起点終点は一例であって、図2の例に限定されるものではない。図2に示すように、一例として、起点をA5とし終点をA6とする外々交通、起点をA5とし終点をB1とする外内交通、起点をB2とし終点をB3とする内々交通、起点をB2とし終点をA8とする内外交通などがある。OD交通量などに基づいて、個々の車両は、それぞれの起点と終点が与えられ、車両の移動モデルに従って、起点から終点までの走行経路等の車両の挙動を求めることができる。
【0038】
図3はOD交通量の一例を示す説明図である。図3の例は、図2の起点終点A1、A5、A6、A10、A12とした場合の交通量が所与としている。なお、起点終点の例は一例であり、これに限定されるものではない。図3の例では、例えば、起点をA1とし終点をA5とする交通量が所定時間内に40台あることを示す。また、起点をA10とし終点をA5とする交通量が150台あることを示す。他も同様である。なお、図3に示す車両の台数は、単に模式的に示したものであり、値そのものに余り意味はない。
【0039】
図4は所与のOD交通量に基づいた発生交通量及び消滅交通量の一例を示す模式図である。図4の例では、2つのリンク1、リンク2を例示している。交通シミュレータは、所与のOD交通量に基づいて、シミュレーション区域S内の各リンクでの発生交通量と消滅交通量とを算出する。図4に示すように、リンク1の上流で発生交通量が存在し、リンク1の下流で消滅交通量が存在する。なお、リンク1の途中で交通量の発生または消滅があってもよい。同様に、リンク2の上流で発生交通量が存在し、リンク1の下流で消滅交通量が存在する。なお、リンク1とリンク2とが交わる点(交差点)では、他のリンク(不図示)からの流入交通や流出交通が存在する。
【0040】
そして、各リンクで算出された発生交通量及び消滅交通量を用いて交通評価指標としての推定渋滞長を算出(推定)する。本実施の形態に係る交通シミュレータ(交通評価装置)は、推定渋滞長と実測渋滞長との差分(推定誤差)をリンク単位で補正することにより、交通評価指標の再現性を向上させるものである。以下、本実施の形態の交通シミュレータについて説明する。
【0041】
図5は本実施の形態に係る交通評価装置の一例としての交通シミュレータ10の構成例を示すブロック図である。交通シミュレータ10は、車両の移動モデルを表す計算式に基づいて演算を行うシミュレータエンジン部11、所与のOD交通量に基づいて発生交通量及び消滅交通量を算出する交通量算出部12、交通量算出部12で算出された交通量に基づいて各リンクでの推定渋滞長を算出(推定)する推定渋滞長算出部13、推定渋滞長算出部13で算出された推定渋滞長と実測渋滞長との差分(推定誤差)に基づいて推定渋滞長を調整するために起点交通量及び終点交通量を生成する起点終点生成部14、上述の推定誤差に基づいて車両の補正台数を算出する補正台数算出部15、リンク下流の交差点で青信号の間に流出する流出台数を算出する流出台数算出部16、起点終点生成部14で生成した終点交通量又は起点交通量に対応させて当該リンクの下流側で交通量を発生又は消滅させる発生消滅部17、所定の情報を記憶する記憶部18などを備える。
【0042】
交通シミュレータ10には、入力データとして、例えば、車両の走行速度、加速減速特性、車両の走行の起点終点情報、交通量、実測渋滞長などのデータが与えられる。交通シミュレータ10は、入力データを用いて、交通評価指標である各リンクの渋滞長(推定渋滞長)、車両の旅行時間などを出力する。なお、交通評価指標は、道路網を表す地図上で表示される。なお、交通評価指標に環境汚染物質(二酸化炭素など)の排出量(例えば、環境指標)を含めることもできる。渋滞長を再現性よく求めることができる場合、旅行時間や環境汚染物質の排出量も渋滞長に比例するので再現性よく求めることが可能となる。
【0043】
交通量算出部12は、OD交通量(車両の走行の起終点情報を含む交通量)を用いて起点と終点との間の任意のリンクで発生する発生交通量及び任意のリンクで消滅する消滅交通量を算出する。
【0044】
推定渋滞長算出部13は、交通量算出部12で算出した交通量に基づいて、任意のリンクでの車両の推定渋滞長を算出(推定)する。なお、推定渋滞長を求める場合、車両の走行速度、加速減速特性、当該リンク両端の交差点での信号現示、リンク長などのパラメータを記憶部18に記憶しておき、当該パラメータを使用することができる。
【0045】
起点終点生成部14は、推定渋滞長などの交通評価指標を調整するために、交通量算出部12で算出した任意のリンクでの発生交通量及び消滅交通量とは別に当該リンクで起点交通量又は終点交通量を生成する。より具体的には、当該リンクでの車両の実測渋滞長と推定渋滞長算出部13で算出した推定渋滞長との差分である推定誤差がゼロ又は最小になるように起点交通量又は終点交通量を生成する。起点交通量又は終点交通量を生成することにより、推定渋滞長を補正して実測渋滞長に合わせる、すなわち、交通評価指標の再現性を向上させることができる。
【0046】
図6は推定渋滞長の補正の一例を示す模式図である。図6に示すように、本実施の形態の交通シミュレータ10は、リンク単位であって所定の補正周期(例えば、300秒など)の経過の都度、起点交通量(交通量の起点)としてダミーの車両を放出し、又は終点交通量(交通量の終点)として正規の車両を回収することにより、推定渋滞長が実測渋滞長と一致するように推定渋滞長を補正する。
【0047】
図6の例では、リンク1では実測渋滞長が推定渋滞長より長いので、実測渋滞長と推定渋滞長との差分(推定誤差)に相当する台数(補正台数)の車両をリンク1で放出する。すなわち、正規の車両に加えてダミー車両を走行させて渋滞長を長くする。
【0048】
また、リンク2では実測渋滞長が推定渋滞長より短いので、実測渋滞長と推定渋滞長との差分(推定誤差)に相当する台数(補正台数)の車両をリンク2で回収する。すなわち、正規の車両の一部をシミュレーション対象外の抜け道を走行させることにより渋滞長を短くする。なお、補正台数の算出方法は後述する。
【0049】
上述のように、交通評価指標(例えば、渋滞長、旅行時間)を調整するために、任意のリンクで算出した交通量とは別に当該リンクで起点交通量又は終点交通量を生成する。すなわち、実測値として得られたOD交通量から求めた任意のリンクでの発生交通量又は消滅交通量とは別に、当該リンク単位で起点交通量又は終点交通量を生成することにより、各リンク単位で渋滞長などの交通評価指標の再現性を向上させることができる。また、それぞれのリンクでの再現性を高めることができるので、道路網全体での再現性も向上させることができる。
【0050】
また、算出した発生交通量及び消滅交通量に基づいて、任意のリンクでの車両の推定渋滞長を推定し、当該リンクでの車両の実測渋滞長及び推定渋滞長に基づいて、当該リンクで起点交通量又は終点交通量を生成する。これにより、各リンク単位で交通評価指標の実測値と推定値を合わせるように、起点交通量又は終点交通量を生成するので、各リンクで渋滞長などの交通評価指標の再現性を向上させることができる。
【0051】
具体的には、実測渋滞長が推定渋滞長より長い場合、実測渋滞長と推定渋滞長との差分(推定誤差)に応じた車両台数の起点交通量を生成する。これにより、当該リンクで、算出された交通量により求めた渋滞長が実測値より短い場合でも、推定渋滞長の再現性を確保することができ、道路網の各リンクで同様の処理を行うことで、道路網の各リンクのみならず道路網全体としての交通評価指標の再現性を向上させることができる。
【0052】
また、実測渋滞長が推定渋滞長より短い場合、推定渋滞長と実測渋滞長との差分(推定誤差)に応じた車両台数の終点交通量を生成する。これにより、当該リンクで、算出された交通量により求めた渋滞長が実測値より長い場合でも、推定渋滞長の再現性を確保することができ、道路網の各リンクで同様の処理を行うことで、道路網の各リンクのみならず道路網全体としての交通評価指標の再現性を向上させることができる。
【0053】
発生消滅部17は、起点終点生成部14で任意のリンクで起点交通量を生成した場合、当該リンクの下流側で同等の交通量を消滅(再回収)させる。任意のリンクで起点交通量を生成した場合、すなわち、当該放出点から車両を放出した場合、当該リンクでの交通量が増加するので下流への流入交通量が増加し、下流リンクでの推定渋滞長と実測渋滞長との差異を生じる可能性がある。任意のリンクで起点交通量を生成した場合に、当該リンクの下流側で同等の交通量を消滅(再回収)させることにより、任意のリンクで起点交通量を生成したことにより生じる影響を当該リンクの下流側に与えることを防止することができる。
【0054】
また、発生消滅部17は、起点終点生成部14で任意のリンクで終点交通量を生成した場合、当該リンクの下流側で同等の交通量を発生(再放出)させる。任意のリンクで終点交通量を生成した場合、すなわち、当該回収点で車両を回収した場合、当該リンクでの交通量が減少するので下流への流入交通量が減少し、下流リンクでの推定渋滞長と実測渋滞長との差異を生じる可能性がある。任意のリンクで終点交通量を生成した場合に、当該リンクの下流側で同等の交通量を発生(再放出)させることにより、任意のリンクで終点交通量を生成したことにより生じる影響を当該リンクの下流側に与えることを防止することができる。また、任意のリンクで終点交通量を生成した場合(車両を回収した場合)に、当該リンクの下流側で同等の交通量を発生(再放出)するときには、回収時に回収した車両の終点(本来の消滅地点)を記憶しておき、再放出の際に各車両に記憶しておいた終点を与えることもできる。
【0055】
図7はリンクの下流側の交通状況に影響を与えないための再放出及び再回収の一例を示す模式図である。交通シミュレータ10では、渋滞長又は旅行時間などの交通評価指標を実測値と合わせるために、推定渋滞長などを補正した場合、そのままでは、その影響が下流のリンクに及ぶために、下流の渋滞長及び旅行時間などが変化する。例えば、上流リンクで推定渋滞長を実測渋滞長に合わせるため、起点交通量として車両が放出された場合、当該リンクからの流出交通量が増加するので下流への流入交通量が増加し、これが下流リンクの推定渋滞長に差異を生じさせる可能性がある。
【0056】
上述の図5の例において、発生消滅部17は、必須の構成ではない。すなわち、交通量(車両)の再回収及び再放出は、必須ではなく省略することができる。再回収及び再放出を省略した場合には、放出または回収する補正台数による下流リンクへの影響は、下流リンクでの補正処理に委ねることができる。
【0057】
そこで、本実施の形態では、図7に示すように、各リンクでの補正要因(起点交通量又は終点交通量の生成)を下流リンクに伝えないように、リンクに放出された車両はリンク下流の交差点出口で再回収し、また、リンク上で回収された車両はリンク下流の交差点出口で再放出する。これにより、補正による影響を下流リンクに与えることはない。
【0058】
次に、補正台数の算出方法について説明する。補正台数算出部15は、実測渋滞長と推定渋滞長との差分(推定誤差)の絶対値に渋滞内の車両密度を積算し、積算値に当該リンクの固有値を加算又は減算して車両の補正台数を算出する。例えば、推定誤差が正である場合、すなわち、実測渋滞長が推定渋滞長より長い場合、リンクの固有値を積算値から減算し、推定誤差が負である場合、すなわち、実測渋滞長が推定渋滞長より短い場合、リンクの固有値を積算値に加算する。
【0059】
推定渋滞長と実測渋滞長との差分の絶対値に渋滞内の車両密度を積算することにより、推定渋滞長と実測渋滞長との差分である推定誤差に相当する車両の台数を求めることができる。リンクの固有値は、例えば、リンク(道路)上の許容範囲に相当する車両台数である。許容範囲は、例えば、車両感知器の設置密度(例えば、車両感知器の設置間隔が250mであれば、許容範囲は250m)であり、この場合、リンクの固有値は、車両感知器の設置密度に車両の走行密度を積算した値とすることができる。すなわち、リンクの固有値は、当該リンクで車両を感知することができる範囲に相当する車両台数である。なお、固有値はゼロであってもよい。起点交通量として補正台数の車両を起点で放出し、又は終点交通量として補正台数の車両を終点で回収する。これにより、推定渋滞長と実測渋滞長との差分である推定誤差に相当する車両の台数を、各リンクで放出又は回収させることができる。
【0060】
起点交通量として起点から車両を放出する場合、あるいは、終点交通量として終点で車両を回収する場合、放出及び回収する地点は、当該リンクの最上流、渋滞末尾地点、あるいはリンクの任意の点とすることができる。
【0061】
また、車両の放出及び回収は、例えば、補正台数を10台とした場合、(1)補正台数10台を、補正周期(例えば、300秒)の最後に一度で行う方法、(2)補正台数10台を補正周期(例えば、300秒)の間を等間隔(例えば、30秒間隔)で一様に行う方法、(3)リンク下流の信号表示に同期させて(例えば、赤信号の時間帯)行う方法などがある。また、車両の放出の方法に限れば、(4)リンク上を走行する車両の挙動を妨げないように走行する車両の間隔が、例えば4秒以上ある場合に行う方法などがある。
【0062】
上述の(3)の方法を採用すれば、すなわち、補正台数の車両を放出する場合、車両の放出点を含むリンクの下流交差点での信号現示に同期して車両を放出するようにすれば、補正台数の車両がリンクに渋滞として留まらないという事態を防止し、確実に推定渋滞長を実測渋滞長に合わせることが可能となる。
【0063】
また、上述の(2)及び(4)の方法を採用して車両を任意のリンクで放出した場合、当該リンクの下流交差点において青信号で流れ出し、補正台数が渋滞として溜まらず推定渋滞長を実測渋滞長に合わせることができない場合がある。以下、青信号で流出する台数を算出し、流出台数を予め放出する台数に加算する方法について説明する。
【0064】
流出台数算出部16は、補正台数の車両を放出する場合、車両の放出点を含むリンクの下流交差点の青信号で流出する流出台数を算出する。より具体的には、流出台数算出部16は、起点交通量又は終点交通量の生成周期である補正周期(例えば、300秒)の間のリンクの下流交差点の青信号時間と、交通流率(例えば、飽和交通流率)との積算値及び放出する車両台数に基づいて流出台数を算出する。例えば、積算値が放出台数より大きい場合、積算値と放出台数との差を流出台数として算出する。
【0065】
図8は青信号で流出する流出台数の算出例を示す模式図である。実測渋滞長と推定渋滞長との差分である推定誤差が正である場合(すなわち、起点交通量として車両を放出する場合)に、補正周期の間の青時間と飽和交通流率との積算値が放出台数より大きいときは、青信号での流出台数を、(補正周期の間の青時間と飽和交通流率との積算値−放出台数)により算出する。ここで、放出台数は、前回の補正周期のタイミングから今回の補正周期のタイミングまでの間に当該リンクから放出した車両の台数である。
【0066】
補正周期の間の青時間と飽和交通流率との積算値が放出台数より小さいときは、青信号での流出台数をゼロとする。また、推定誤差が負である場合(すなわち、終点交通量として車両を回収する場合)には、青信号での流出台数をゼロとする。
【0067】
青信号で流出する流出台数を放出台数に加算しておくことで、放出した車両がリンクの下流交差点の青信号で流出して補正台数の車両の一部又は全部が青信号で交差点に流出し、リンクに渋滞として留まらないために、推定渋滞長が実測渋滞長に合わなくなるという事態が生じたとしても、流出分の台数を補正台数に加味するので、車両の放出方法に拘わらず、確実に推定渋滞長を実測渋滞長に合わせることが可能となる。また、積算値が放出台数より大きい場合、積算値と放出台数との差を流出台数として算出することにより、青信号の時間帯に交差点から流出する台数を予め補正台数に加算しておくことができる。
【0068】
次に、本実施の形態の交通シミュレータ10の動作について説明する。図9及び図10は本実施の形態の交通シミュレータ10の処理手順を示すフローチャートである。交通シミュレータ10は、補正周期(例えば、300秒)が経過したか否かを判定し(S11)、補正周期を経過した場合(ステップS11でYES)、すなわち、前回の補正のタイミングから300秒経過した場合、推定渋滞長を算出し(S12)、推定誤差(実測渋滞長と推定渋滞長との差分)を算出(推定)する(S13)。
【0069】
交通シミュレータ10は、推定誤差がゼロより大きいか否かを判定し(S14)、推定誤差がゼロより大きい場合(S14でYES)、(推定誤差−リンクの固有値)がゼロより大きいか否かを判定する(S15)。
【0070】
(推定誤差−リンクの固有値)がゼロより大きい場合(S15でYES)、交通シミュレータ10は、補正台数を算出し(S16)、算出した補正台数の車両(ダミーの車両)を起点交通量としてリンクに放出する(S17)。
【0071】
交通シミュレータ10は、リンクに放出した車両を当該リンク下流交差点で再回収する(S18)。交通シミュレータ10は、起点(出発地)から車両を発生し、終点(目的地)で車両を回収し(S19)、信号灯器の信号灯色を、例えば、0.1秒進め、車両の移動モデルに従って車両を走行させ(S20)、シミュレーション周期(例えば、0.1秒)を終了する。
【0072】
(推定誤差−リンクの固有値)がゼロより大きくない場合(S15でNO)、交通シミュレータ10は、補正を行わずにステップS19以降の処理を行う。また、補正周期を経過していない場合(ステップS11でNO)、交通シミュレータ10は、補正を行わずにステップS19以降の処理を行う。
【0073】
推定誤差がゼロより大きくない場合(S14でNO)、交通シミュレータ10は、推定誤差がゼロより小さいか否かを判定し(S21)、推定誤差がゼロより小さい場合(S21でYES)、(推定誤差+リンクの固有値)がゼロより小さいか否かを判定する(S22)。
【0074】
(推定誤差+リンクの固有値)がゼロより小さい場合(S22でYES)、交通シミュレータ10は、補正台数を算出し(S23)、算出した補正台数の車両(正規の車両)を終点交通量としてリンクから回収する(S24)。
【0075】
交通シミュレータ10は、リンクから回収した車両を当該リンク下流交差点で再放出し(S25)、ステップS19以降の処理を続ける。推定誤差がゼロより小さくない場合(S21でNO)、交通シミュレータ10は、推定誤差がゼロであるとして、補正を行わずにステップS19以降の処理を行う。また、(推定誤差+リンクの固有値)がゼロより小さくない場合(S22でNO)、交通シミュレータ10は、補正を行わずにステップS19以降の処理を行う。
【0076】
上述の図9及び図10で例示した処理は、シミュレーション周期(例えば、0.1秒)経過の都度繰り返し行われる。また、ステップS18、S25の処理を行わずに省略することもできる。この場合は、当該リンクの下流リンクで車両の放出又は回収を行う補正で調整する。当該リンクでの補正は、下流リンクに影響を与えるが、下流リンクでも補正処理が行なわれるので、推定渋滞長と実測渋滞長の差異を小さくすることができる。
【0077】
上述の交通シミュレータ10は、CPU、RAMなどを備えた汎用コンピュータを用いて実現することもできる。すなわち、図9及び図10に示すような、各処理手順を定めたプログラムコードをコンピュータに備えられたRAMにロードし、プログラムコードをCPUで実行することにより、コンピュータ上で交通シミュレータ10を実現することができる。
【0078】
交通シミュレータ10を用いる評価では、一般的に現状の交通評価指標と交通環境変化後の交通評価指標との相対比較が行なわれるが、図9及び図10に例示した処理手順で得られた回収の補正値及び放出の補正値は、交通環境変化後の評価においても全く同様に回収の補正値及び放出の補正値として使うことができる。
【0079】
上述のとおり、本実施の形態の交通シミュレータ10は、対象とする道路網の任意のリンク(道路)のみならず、道路網全体としても、交通評価指標の再現性を向上させることができる。また、交通評価指標の再現性が高まることにより、交通環境変化後の交通評価指標を正しく評価することが可能となる。
【0080】
上述の実施の形態では、車両の走行の起終点情報を用いる構成であったが、これに限定されるもではない。例えば、任意のリンクでの発生交通量と消滅交通量を予め設定しておいて、設定した発生交通量と消滅交通量を用いることもできる。
【0081】
開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0082】
10 交通シミュレータ
11 シミュレータエンジン部
12 交通量算出部(交通量算出手段)
13 推定渋滞長算出部(渋滞長推定手段)
14 起点終点生成部(生成手段)
15 補正台数算出部(補正台数算出手段)
16 流出台数算出部(流出台数算出手段)
17 発生消滅部(発生手段、消滅手段)
18 記憶部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の車両の模擬走行により交通評価指標を出力する交通評価装置において、
任意のリンクで発生及び消滅する交通量を算出する交通量算出手段と、
前記交通評価指標を調整するために、前記交通量算出手段で算出した交通量とは別に前記リンクで起点交通量又は終点交通量を生成する生成手段と
を備えることを特徴とする交通評価装置。
【請求項2】
前記交通量算出手段で算出した交通量に基づいて、任意のリンクでの車両の推定渋滞長を推定する渋滞長推定手段を備え、
前記生成手段は、
前記リンクでの車両の実測渋滞長及び前記推定渋滞長に基づいて、該リンクで起点交通量又は終点交通量を生成するように構成してあることを特徴とする請求項1に記載の交通評価装置。
【請求項3】
前記生成手段は、
前記実測渋滞長が推定渋滞長より長い場合、該実測渋滞長と推定渋滞長との差分に応じた車両台数の起点交通量を生成するように構成してあることを特徴とする請求項2に記載の交通評価装置。
【請求項4】
前記生成手段は、
前記実測渋滞長が推定渋滞長より短い場合、該推定渋滞長と実測渋滞長との差分に応じた車両台数の終点交通量を生成するように構成してあることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の交通評価装置。
【請求項5】
前記実測渋滞長と推定渋滞長との差分の絶対値に渋滞内の車両密度を積算し、積算した値に当該リンクの固有値を加算又は減算して車両の補正台数を算出する補正台数算出手段を備え、
前記生成手段は、
起点交通量として前記補正台数の車両を放出し、又は終点交通量として前記補正台数の車両を回収するように構成してあることを特徴とする請求項2乃至請求項4のいずれか1項に記載の交通評価装置。
【請求項6】
前記生成手段は、
前記補正台数の車両を放出する場合、車両の放出点を含むリンクの下流交差点での信号現示に同期して車両を放出するように構成してあることを特徴とする請求項5に記載の交通評価装置。
【請求項7】
前記生成手段で前記補正台数の車両を放出する場合、車両の放出点を含むリンクの下流交差点の青信号で流出する流出台数を算出する流出台数算出手段を備え、
前記補正台数算出手段は、
前記流出台数に基づいて補正台数を算出するように構成してあることを特徴とする請求項5に記載の交通評価装置。
【請求項8】
前記流出台数算出手段は、
前記生成手段による生成周期の間の前記交差点の青信号時間と交通流率との積算値及び前記生成手段で放出する車両台数に基づいて流出台数を算出するように構成してあることを特徴とする請求項7に記載の交通評価装置。
【請求項9】
前記生成手段で任意のリンクで起点交通量を生成した場合、該リンクの下流側で同等の交通量を消滅させる消滅手段を備えることを特徴とする請求項1から請求項8までのいずれか1項に記載の交通評価装置。
【請求項10】
前記生成手段で任意のリンクで終点交通量を生成した場合、該リンクの下流側で同等の交通量を発生させる発生手段を備えることを特徴とする請求項1から請求項9までのいずれか1項に記載の交通評価装置。
【請求項11】
コンピュータに、複数の車両の模擬走行により交通評価指標を出力するステップを実行させるためのコンピュータプログラムにおいて、
コンピュータに、
任意のリンクで発生及び消滅する交通量を算出するステップと、
前記交通評価指標を調整するために、算出した交通量とは別に前記リンクで起点交通量又は終点交通量を生成する生成するステップと
を実行させることを特徴とするコンピュータプログラム。
【請求項12】
複数の車両の模擬走行により交通評価指標を出力する交通評価装置による交通評価方法おいて、
任意のリンクで発生及び消滅する交通量を交通量算出手段で算出するステップと、
前記交通評価指標を調整するために、算出された交通量とは別に前記リンクで起点交通量又は終点交通量を生成する生成するステップと
を含むことを特徴とする交通評価方法。
【請求項1】
複数の車両の模擬走行により交通評価指標を出力する交通評価装置において、
任意のリンクで発生及び消滅する交通量を算出する交通量算出手段と、
前記交通評価指標を調整するために、前記交通量算出手段で算出した交通量とは別に前記リンクで起点交通量又は終点交通量を生成する生成手段と
を備えることを特徴とする交通評価装置。
【請求項2】
前記交通量算出手段で算出した交通量に基づいて、任意のリンクでの車両の推定渋滞長を推定する渋滞長推定手段を備え、
前記生成手段は、
前記リンクでの車両の実測渋滞長及び前記推定渋滞長に基づいて、該リンクで起点交通量又は終点交通量を生成するように構成してあることを特徴とする請求項1に記載の交通評価装置。
【請求項3】
前記生成手段は、
前記実測渋滞長が推定渋滞長より長い場合、該実測渋滞長と推定渋滞長との差分に応じた車両台数の起点交通量を生成するように構成してあることを特徴とする請求項2に記載の交通評価装置。
【請求項4】
前記生成手段は、
前記実測渋滞長が推定渋滞長より短い場合、該推定渋滞長と実測渋滞長との差分に応じた車両台数の終点交通量を生成するように構成してあることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の交通評価装置。
【請求項5】
前記実測渋滞長と推定渋滞長との差分の絶対値に渋滞内の車両密度を積算し、積算した値に当該リンクの固有値を加算又は減算して車両の補正台数を算出する補正台数算出手段を備え、
前記生成手段は、
起点交通量として前記補正台数の車両を放出し、又は終点交通量として前記補正台数の車両を回収するように構成してあることを特徴とする請求項2乃至請求項4のいずれか1項に記載の交通評価装置。
【請求項6】
前記生成手段は、
前記補正台数の車両を放出する場合、車両の放出点を含むリンクの下流交差点での信号現示に同期して車両を放出するように構成してあることを特徴とする請求項5に記載の交通評価装置。
【請求項7】
前記生成手段で前記補正台数の車両を放出する場合、車両の放出点を含むリンクの下流交差点の青信号で流出する流出台数を算出する流出台数算出手段を備え、
前記補正台数算出手段は、
前記流出台数に基づいて補正台数を算出するように構成してあることを特徴とする請求項5に記載の交通評価装置。
【請求項8】
前記流出台数算出手段は、
前記生成手段による生成周期の間の前記交差点の青信号時間と交通流率との積算値及び前記生成手段で放出する車両台数に基づいて流出台数を算出するように構成してあることを特徴とする請求項7に記載の交通評価装置。
【請求項9】
前記生成手段で任意のリンクで起点交通量を生成した場合、該リンクの下流側で同等の交通量を消滅させる消滅手段を備えることを特徴とする請求項1から請求項8までのいずれか1項に記載の交通評価装置。
【請求項10】
前記生成手段で任意のリンクで終点交通量を生成した場合、該リンクの下流側で同等の交通量を発生させる発生手段を備えることを特徴とする請求項1から請求項9までのいずれか1項に記載の交通評価装置。
【請求項11】
コンピュータに、複数の車両の模擬走行により交通評価指標を出力するステップを実行させるためのコンピュータプログラムにおいて、
コンピュータに、
任意のリンクで発生及び消滅する交通量を算出するステップと、
前記交通評価指標を調整するために、算出した交通量とは別に前記リンクで起点交通量又は終点交通量を生成する生成するステップと
を実行させることを特徴とするコンピュータプログラム。
【請求項12】
複数の車両の模擬走行により交通評価指標を出力する交通評価装置による交通評価方法おいて、
任意のリンクで発生及び消滅する交通量を交通量算出手段で算出するステップと、
前記交通評価指標を調整するために、算出された交通量とは別に前記リンクで起点交通量又は終点交通量を生成する生成するステップと
を含むことを特徴とする交通評価方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2011−141836(P2011−141836A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−3193(P2010−3193)
【出願日】平成22年1月8日(2010.1.8)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年1月8日(2010.1.8)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】
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