説明

人体モデルの製造方法、及び人体モデル

【課題】本発明は、耐久性が優れており、かつ、透明度が高い人体モデルの製造方法及び人体モデルを提供することを課題とする。
【解決手段】
本発明の人体モデル1の製造方法は、樹脂を硬化させてなる薄肉層3上で、さらに樹脂を硬化させて更なる薄肉層3を形成することにより、複数の薄肉層3を積層させ、人体の相似形である立体モデル2を造形する積層造形工程と、溶剤で薄めた被覆用樹脂を立体モデル2の表面に付着させて、立体モデル2の表面に樹脂層を形成する付着工程と、樹脂層を硬化させて、立体モデル2の表面を被覆する被覆層4を形成する硬化工程と、を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人体モデルの製造方法、及び人体モデルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来において、患者の病変部位を検討し、手術前のシミュレーションをするため、又は、その病変部位の手術手技を訓練するために、病変部位を有する人体の相似形である血管モデル等の人体モデルが用いられている。
【0003】
また、従来技術によれば、下記特許文献に開示されるように、製造する血管モデルの形状を実際の人体に近似するように造形するために、まず、製造対象となる人体部分を断層撮影し、その断層撮影のデータを合成して人体部分の三次元形状データを抽出している。
そして、その抽出された三次元形状データを所定間隔で断層した複数の断層造形データを作成し、積層造形方法によって人体モデルが製造されている。
【0004】
ここで、前述する積層造形方法とは、断層造形データに対応するように、造形材料である樹脂を硬化させて薄肉層を形成し、その形成された薄肉層上でさらに別の断層撮影データに対応する形状の薄肉層を形成して、複数の薄肉層を積層させることにより、立体形状のモデルを造形する方法である。よって、従来の人体モデルも、複数の断層撮影データに対応する形状の薄肉層が積層して造形されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開パンフレット第2009/119908号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来技術の人体モデルによれば、複数の薄肉層を積層させることにより造形されていたため、人体モデルの表面は、複数の薄肉層の端部が連続することにより構成され、段差状若しくは凸凹状の面(以下、凸凹面という。)となっていた。
よって、例えば、手術前のシミュレーションにより人体モデルに力が作用した場合に、その凸凹面を構成する薄肉層の端部から裂け易く、人体モデルの強度が低いという問題があった。
【0007】
また、人体モデルの表面が凸凹面となっているため、凸凹により反射する光の割合が大きかった。よって、血管モデルなどの内腔を流れる流体を視認しにくい、つまり、人体モデルの透明度が低いという問題があった。
【0008】
そこで、本発明は、前記問題に鑑みて創案された発明であって、耐久性が優れており、透明度が高く、かつ、柔軟性にも優れた人体モデルの製造方法及び人体モデルを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、本発明に係る人体モデルの製造方法は、樹脂を用いて積層造形によって人体組織の相似形である中空構造の立体モデルを作製する積層造形工程と、前記立体モデルの表面に被覆用樹脂を付着させて、前記立体モデルの表面に樹脂層を形成する付着工程と、前記樹脂層を硬化させて、前記立体モデルの表面に被覆層を形成する硬化工程と、を含むことを特徴とする。
【0010】
本発明に係る人体モデルの製造方法によれば、付着工程により、立体モデルの表面に樹脂層が形成される。ここで、樹脂層は、溶剤により薄められた被覆用樹脂を用いているため、粘度が低下しており、立体モデルの表面に付着させた後に、樹脂層の肉薄化及び平滑化を行なうことが可能である。
そして、硬化工程により、平滑な薄い樹脂層を硬化させると、立体モデルの表面に平滑な薄い被覆層を備えた人体モデルが製造される。ここで、立体モデルの表面には被覆層が形成されているため、人体モデルに力が作用しても、立体モデルを構成する薄肉層の端部から裂けるという問題がない。
また、被覆層により人体モデルの表面が平滑な面となっているため、光が反射する割合が低い。よって、透明度が高く、例えば、血管モデルなど管状の人体モデルの内腔を流れる流体を視認することが容易となる。
そのほか、積層造形工程により造形された立体モデルの表面には、通常、未硬化の樹脂が付着している。よって、硬化工程により、粘度の高い未硬化の樹脂も硬化するため、立体モデルに対してより強固に固着した被覆層を形成することができ、立体モデルと被覆層とが一体化した人体モデルを提供することができる。
一方で、硬化工程により、積層造形工程により造形された立体モデルの表面に付着する未硬化の樹脂が硬化するため、従来、積層造形工程後に行なわれていた洗浄工程を回避でき、人体モデルの製造を簡易にすることができる。
【0011】
また、本発明に係る人体モデルの製造方法は、前記被覆用樹脂は、光を照射することによって硬化する液体状の光硬化性樹脂であることを特徴とする。
【0012】
このような製造方法によれば、従来において、光硬化性樹脂を用いて積層造形された人体モデルの表面には、未硬化の光硬化性樹脂が付着していたため、未硬化の光硬化性樹脂を洗い流すための洗浄工程が行われていたが、硬化工程において、光硬化性樹脂を用いた樹脂層に光が照射されるため、未硬化の光硬化性樹脂も樹脂層とともに硬化し、前記する洗浄工程を省くことが可能となる。また、粘度の高い未硬化の樹脂も硬化するため、立体モデルに対してより強固に固着した被覆層を形成することができ、立体モデルと被覆層とが一体化した人体モデルを提供することができる。
【0013】
また、本発明に係る人体モデルの製造方法は、前記被覆用樹脂は、加熱することによって硬化する液体状の熱硬化性樹脂であることを特徴とする。
【0014】
このような製造方法によれば、被覆層が熱硬化性樹脂により形成されるため、実際の人体に近い弾力性と柔軟性を維持し、かつ、複数回使用することが可能な耐久性を兼ね備えた人体モデルを製造することができる。
【0015】
また、本発明に係る人体モデルの製造方法は、前記付着工程において、前記被覆用樹脂に顔料を含有させた後に、前記立体モデルの表面に被覆用樹脂を付着させることを特徴とする。
【0016】
このような製造方法によれば、被覆層を着色することが可能となり、視覚的に実際の人体に近い人体モデルを製造することが可能なる。
【0017】
また、本発明に係る人体モデルの製造方法は、前記硬化工程の後に、前記被覆層の表面に液体状の熱硬化性樹脂を付着させて、第2の樹脂層を形成する第2付着工程と、前記第2の樹脂層を硬化させて、前記立体モデルの表面を被覆する第2の被覆層を形成する第2硬化工程と、をさらに含むことを特徴とする。
【0018】
このような製造方法によれば、第2付着工程と第2硬化工程を行うため、被覆層上に更なる第2被覆層が形成され、強度がさらに高い人体モデルを製造することができる。
また、複雑な形状を有する立体モデルであっても、被覆層を多層とすることによって、表面の平滑化をより向上させた人体モデルを製造することが可能となる。
【0019】
また、本発明に係る人体モデルは、上記する製造方法のいずれか一つの製造方法によって製造されることを特徴とする。
【0020】
このような人体モデルによれば、立体モデルの表面に、樹脂を硬化させてなる被覆層を備えることとなる。
【発明の効果】
【0021】
以上、本発明における人体モデルの製造方法によれば、耐久性が優れており、透明度が高い人体モデルを製造することができる。さらに、本発明における人体モデルの製造方法によれば、形状のみならず、柔軟性が優れているので、感触的及び視覚的に、実際の人体に近い人体モデルを製造することができる。
また、本発明における人体モデルによれば、耐久性が優れており、透明度が高い人体モデルを提供することができる。さらに、本発明における人体モデルによれば、形状のみならず、柔軟性が優れているので、感触的及び視覚的に、実際の人体に近い人体モデルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1実施形態に係る血管モデルの外観を示す外観図である。
【図2】図1に示す血管モデルをA―Aで切った場合の端面図、及びその一部拡大図である。
【図3】本発明の第2実施形態に係る血管モデルの端面図、及びその一部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(第1実施形態)
次に本発明の第1実施形態に係る人体モデルの製造方法について、図面を適宜参照しながら説明する。第1実施形態における人体モデルの製造方法は、積層造形工程と、付着工程と、硬化工程との工程により構成される。なお、本実施形態において製造される人体モデルについて、図1に示すように、人体の腹部大動脈の相似形である血管モデル1を例にとって説明する。
本実施形態の血管モデル1は、中空状に形成されており、図1に示すように、病変部位として大動脈瘤を有した模型である。また、図2に示すように、血管モデル1は、複数の薄肉層3が積層することにより構成されて立体モデル2と、立体モデル2の表面に設けられた被覆層4とを備えている。
【0024】
(積層造形工程)
積層造形工程は、立体モデル2を造形する工程であり、造形材料として光硬化性樹脂を硬化させて造形することが好ましい。なお、光硬化性樹脂としては、例えば、ウレタンアクリレート系光硬化性樹脂組成物、又は、シリコーン系光硬化性樹脂などが挙げられるが、本発明はこれに限定されるものでない。以下、光硬化性樹脂を用いた積層造形工程を用いて説明する。
光硬化性樹脂を用いた積層造形工程は、患者の患部である腹部大動脈の三次元形状データを基に、所定間隔に断層して複数の断層造形データを取得し、断層造形データに対応する薄肉層3(図2の破線内を参照)を形成するとともに、その形成された薄肉層3上に積層するように更なる薄肉層3を形成することにより、腹部大動脈の形状に近似した立体モデル2を造形する。
【0025】
ここで、断層造形データに対応した薄肉層3の形成については、容器内に入った液体状の光硬化性樹脂の液面に、断層造形データに対応する形状となるように光を照射して、液面の樹脂を硬化させることにより第1の薄肉層3を形成することができる。
【0026】
また、形成された第1の薄肉層3上に更なる第2の薄肉層3に積層させることに関しては、まず、第1の薄肉層3を形成後に、これから形成する第2の薄肉層の厚さ分だけ、第1の薄肉層3を、その液体状の光硬化性樹脂の液面中に沈下させる。これにより、第1の薄肉層3の上部側には、光硬化性樹脂を供給される。
【0027】
そして、再び、断層造形データに対応する形状となるように、液体状の光硬化性樹脂の液面に光を照射して、断層造形データに対応する第2の薄肉層3を形成する。これによれば、第1の薄肉層3に溶着した状態で第2の薄肉層3が形成され、第1の薄肉層3上に第2の薄肉層3を積層することができる。
【0028】
この照射と沈下を交互に繰り返すことにより、順次、断層造形データに対応する薄肉層3が積層されて、腹部大動脈と相似形の立体モデル2を造形することが可能となる。なお、沈下を繰り返すことにより、造形された立体モデル2の表面には、液体状の光硬化性樹脂が付着することとなる。
また、上記するような造形工程を行なう造形装置としては、例えば、シーメット株式会社、RM−3000などが挙げられる。
【0029】
なお、積層造形工程において用いられる三次元形状データは、本発明において特に限定されるものでなく、例えば、3DCAD(Computer Aided Design)により生成された腹部大動脈の三次元形状データであってもよいが、一般的には、次のデータ抽出工程により抽出された三次元形状データを利用する。抽出工程は、まず、X線CT装置により、例えば100μmなどの所定の等間隔で、順次、腹部大動脈を断層して撮影し、腹部大動脈がスライスされた複数の断層撮影データを抽出する。そして、抽出された断層撮影データをSTL(Standard Triangulated Language)形式に変換するとともに、合成プログラムにより、複数の断層撮影データを順次積層して、腹部大動脈の三次元形状データが構成される。また、本発明において、構成後のデータが補完処理された三次元形状データであってもよい。
【0030】
(付着工程)
付着工程は、立体モデル2の表面に、液体状の被覆用樹脂を付着させる工程である。被覆用樹脂としては、例えば、エポキシ系光硬化性樹脂、又は、シリコーン系光硬化性樹脂などの光硬化性樹脂が挙げられる。より具体的には、エポキシ系光硬化性樹脂としては、シーメット株式会社製の商品名「TSR−829」が、シリコーン系光硬化性樹脂としては、シーメット株式会社製の商品名「TSR−510」が挙がられる。なお、付着工程に用いられる被覆用樹脂は、光硬化性樹脂に限るものでなく、また、立体モデル2に造形に用いられた樹脂と同一である必要もない。
【0031】
被覆用樹脂を液体状にするための溶剤は、アセトン、ヘキサン、ナフタレン系などの有機溶媒が挙げられる。ここで、溶剤により樹脂を薄めるのは、被覆用樹脂の粘度を下げるためである。これにより、樹脂の粘度を下げ、立体モデル2の表面に薄い樹脂層を形成すること、及び、樹脂層を平滑にすることが可能となる。また、溶剤と被覆用樹脂との割合は、1:1程度、望ましくは略7:3程度とし、混合後の粘度が3000cps〜14000cpsの範囲内となるとように、溶剤と被覆用樹脂との割合を決定する。
【0032】
ここで、被覆用樹脂を付着させる立体モデル2は、表面に液体状の光硬化性樹脂が付着しているものを使用する。つまり、積層造形工程において、液面への沈下により、未硬化の光硬化性樹脂が付着した状態のものを使用する。
なお、従来においては、積層造形工程後に、立体モデル2の表面に付着した未硬化の光硬化性樹脂を洗浄する洗浄工程が行われていた。この洗浄工程とは、例えば、エクソールD80(エッソ石油株式会社製)等の溶剤洗浄液が入った容器に立体モデルを浸漬させて、立体モデル2の表面に付着した未硬化の光硬化性樹脂を洗浄し、次に、立体モデル2の表面に付着した溶剤洗浄液をエタノールで洗浄し、エアーブローしてエタノールを飛ばす。そして、必要に応じて、上記工程を繰り返し行なう工程である。
【0033】
樹脂を付着させる方法は、未硬化の光硬化性樹脂が付着した立体モデル2を、被覆用樹脂が入った容器に浸漬、又は、筆などにより塗布することが挙げられる。ここで、被覆用樹脂を付着させる立体モデル2の表面とは、本実施形態のように内腔を有する場合においては、図2に示すように、外表面のみならず、内表面を含んだ両面を意味する。
そして、立体モデル2の表面に光硬化性樹脂を付着後に、へらにより樹脂層の平滑化と肉薄化を図ってもよい。ここで、樹脂層は、粘度が低下しているため、容易に平滑化及び肉薄化することができる。
【0034】
(硬化工程)
硬化工程は、立体モデル2の表面に付着した樹脂層に光を照射して硬化させる工程である。これによれば、立体モデル2の表面に付着している未硬化の光硬化性樹脂と、付着工程により形成された樹脂層とを硬化させることが可能となり、立体モデル2の表面を被覆する被覆層4を備えた血管モデル1を製造することができる。
【0035】
以上の工程により製造された血管モデル1によれば、複数の薄肉層3が積層してなる立体モデル2の表面に被覆層3を備えているため、血管モデル1に力が作用したとしても、薄肉層3の端部から裂けることを回避できる。
また、積層造形工程において造形された立体モデル2に付着した粘度の高い未硬化の樹脂は、前述する硬化工程により、樹脂層とともに硬化しているため、立体モデル2と被覆層4が一体化した血管モデル1を形成することができる。よって、血管モデル1に力が作用したとしても、被覆層4が立体モデル2から剥離するおそれがなく、薄肉層3の端部から裂けることをより確実に回避することができる。
【0036】
また、血管モデル1の表面には、平滑な被覆層4が形成されているため、従来の人体モデルの表面に比べ凸凹が少ない。よって、血管モデル1の表面の凸凹により反射する光が少なくなり、透明度が高い血管モデル1を製造できる。よって、血管モデル1の内腔側を外部側から可視することが可能となる。
【0037】
その他、従来の人体モデルの製造方法においては、積層造形工程後に、立体モデル2の表面に付着した未硬化の光硬化性樹脂を洗浄する洗浄工程が必要であったが、本実施形態の製造方法によれば、当該工程が不要となり、人体モデルの製造が簡易とすることができる。
また、被覆層4は肉薄となっているため、三次元形状データを基により再現された血管モデル1の形状を損なうことがない。
また、本実施形態の血管モデル1によれば、図2に示すように、内腔側にも被覆層4が形成されているため、内表面側の凸凹がない。よって。血管モデル1の内腔内へ、ガイドワイヤ等を挿入しやくなるとともに、当該ガイドワイヤの挿入による破損も防止することができる。
【0038】
また、本発明は、上記した第1実施形態の製造方法に限られない。たとえば、付着工程において用いられる被覆用樹脂が、光硬化性樹脂でなく、熱硬化性樹脂であってもよい。これによれば、実際の人体に近い弾力性と柔軟性を維持し、かつ、複数回使用することが可能な耐久性を兼ね備えた人体モデルを製造することが可能となる。
なお、付着工程において、熱硬化性樹脂を用いた場合、硬化工程においては、未硬化の光樹脂を硬化させるための光照射のほかに、熱硬化性樹脂を硬化させるための加熱を行なうのが好ましい。
【0039】
また、立体モデル2を造形する積層造形工程において、光硬化性樹脂硬化式の積層造形方式を説明したが、本発明はこれに限定されるものでなく、他の積層造形工程、例えば、溶融樹脂噴出方式、溶融樹脂押出方式、粉末焼結方式であってもよい。
ここで、溶融樹脂噴出方式とは、断層造形データに基づいてノズルヘッドを平面上で走査させながら、ノズルより溶融した造形材料を噴出或いは滴下させ堆積固化させて薄肉層を形成し、この薄肉層を順次形成すると同時に積層させることにより、立体モデルの積層造形を行う方法をいう。
溶融樹脂押出方式とは、細いノズルから造形材料を押し出し、この細線状の材料を描画するようにノズルから送り出し固化させながら、断層造形データに基づいてノズルヘッドを面上で走査させることによって薄肉層を形成し、これを積層させて立体モデルの積層造形を行う方法をいう。
粉末焼結方式とは、断層造形データに基づいて粉末状の樹脂を層状に敷き詰め、レーザ等で加熱して焼結させることにより薄肉層を形成し、これを積層することにより立体モデルの積層造形を行う方法をいう。
【0040】
(第2実施形態)
つぎに、本発明の第2実施形態における血管モデル1aの製造方法について説明する。第2実施形態における血管モデル1aは、第1実施形態の血管モデル1と同様に、腹部大動脈の相似形のモデルである
また、第2実施形態の血管モデル1aは、第1実施形態で説明した積層造形工程と同じ工程により造形された立体モデル2aと、第1付着工程と第1硬化工程により形成された第1被覆層4aと、第2付着工程と第2硬化工程により形成された第2被覆層4bとを備えている。
以下において、第1付着工程と、第1硬化工程と、第2付着工程と、第2硬化工程とについて説明する。なお、第2実施形態における積層造形工程は、第1実施形態における積層造形工程と同じ工程であるため、説明を省略する。
【0041】
(第1付着工程及び第1硬化工程)
第1付着工程は、立体モデル2aの表面に、溶剤で薄めた被覆用の光硬化性樹脂を付着させる工程であり、第1実施形態の付着工程との相違点は、溶剤で薄めた光硬化性樹脂に顔料が含有されている点である。
そして、第1硬化工程も、第1実施形態の硬化工程と同じ工程であって、光を照射して樹脂層を硬化させる。これにより、図3に示すように、立体モデル2aの表面に着色された被覆層4aが形成される。
【0042】
(第2付着工程及び第2硬化工程)
第2付着工程は、被覆層4aの表面に溶剤で薄めた被覆用樹脂を付着させ、第2の樹脂層を形成する工程であり、第1実施形態の付着工程との相違点は、硬化後の樹脂の硬度が軟質を示すものを使用する点である。軟質の樹脂としては、熱硬化性樹脂や光硬化性樹脂が挙げられる。なお、第2付着工程により、付着される第2の樹脂層4bは、立体モデル2aの外側にのみ形成する。
また、第2硬化工程は、第2の樹脂層4bを硬化させる工程であり、これによれば、被覆層4aと、被覆層4aのさらに外側に立体モデル2aを被覆する被覆層4bを備えた血管モデル1aを製造することができる。
【0043】
以上の第2実施形態の製造方法により製造された血管モデル1aによれば、第1実施形態の血管モデル1と同様に、血管モデル1aの表面には、平滑な被覆層4a及び被覆層4bが形成されているため、人体モデル1の表面から裂けることを防止でき、かつ、血管モデル1の内膣側を外部側から可視することが可能となる。
また、被覆層4aが一層だけでなく被覆層4bも形成されているため、被覆層4aの一層だけでは、血管モデル1の表面を平滑化することができないような、複雑な形状を有する立体モデル2aであっても、さらに被覆層4bを形成することで、より表面が平滑化された血管モデル1aを製造することができる。
【0044】
また、第2実施形態の血管モデル1aは、被覆層4aを実際の人体と同色着色することにより、術前のシミュレーションやの手術手技の訓練において、視覚的に適した血管モデル1aを製造することが可能となる。
一方で、病変部位に相当する箇所のみに被覆層4aを塗布することにより、着色された病変部位における位置を第3者に示すことが容易となる。
また、従来、人体モデルを着色する場合には、人体モデルの表面に着色材を塗布することにより着色していたが、人体モデルが樹脂から造形されていたため、着色材が人体モデルの表面に固定し難いという問題があったが、上記方法よれば、人体モデルの表面に着色材が固定しにくいという問題は生じない。
【0045】
また、着色された被覆層4aの外側には、弾力性と柔軟性を有する被覆層4bが形成されているため、実際の人体の生体組織に近い感触を有する血管モデル1aを製造することができる。
【0046】
なお、実施形態の人体モデルとして、血管モデルを代表例として説明したが、本発明の人体モデルは、血管モデルに限らず、中空構造の人体モデルであればよく、例えば、心臓モデル、肺臓モデル、食道モデル、胃モデル、大腸モデル、小腸モデル等の各種の臓器モデル等であっても、実施形態の血管モデルと同様の作用・効果を発揮することができる。
【0047】
(実施例)
次に実施例の血管モデルについて説明する。実施例の血管モデルとともに比較例として従来の血管モデルを用いて、表面粗さと、引っ張り強度、透明度の点について、試験を行なった。
ここで、実施例の血管モデルは、第1実施形態で説明したように、積層造形工程により造形された管状の立体モデルと、付着工程と硬化工程によりその立体モデルの表面に形成された被覆層とを備えた血管モデルを用いた。
なお、実施例における薄肉層は、厚さ0.1mmであり、肉薄層の端部を被覆する被覆層は、厚さ0.1〜0.5mmであった。
なお、付着工程における樹脂は、光硬化性樹脂(シーメット株式会社製、商品名「TSR−510」)を用い、溶剤と光硬化性樹脂との質量における割合が7:3となるように混合したものを使用した。
一方で、比較例の血管モデルは、実施例の立体モデルと同じ積層造形により造形された立体モデルを、洗浄工程により洗浄したことにより製造されたモデルである。
【0048】
表面粗さの実験においては、走査型レーザ顕微鏡(レーザーテック株式会社製 型式:1LM21 レンズ10倍を使用)によりレーザを照射して、そのレーザの焦点の位置(高さ)を測定することにより、血管モデルの表面粗さを求めた。
また、実施例の血管モデルと比較例の血管モデルとは管状であるため、測定に当たって、実施例の血管モデルと比較例の血管モデルとを、図2で示す破線Bで囲まれる積層部分(薄肉層とその薄肉層の端部を被覆する被覆層とが含まれる部分)を長手方向に切り取って、略板状にしたものを作製した。
そして、薄肉層の端部端面にレーザが垂直に入射するように、血管モデルの表面にレーザを照射した。また、薄肉層が積層される方向にレーザを移動させて、レーザの照射位置を変えた。
【0049】
測定結果について、比較例の血管モデルの方は、等間隔の割合(薄肉層の厚さ分)で表面が凸凹となっていることを示す結果がでた。そして、表面が凸凹となっている程度は、最大で220μmを示した。
一方で、実施例の血管モデルは、表面が不規則な間隔で凸凹となっている値を示した。また、表面が凸凹となっている程度は、最大値で70μmを示していた。
【0050】
以上より、比較例の血管モデルの方は、薄肉層の端部により形成される表面が凸凹となっていることがわかった。一方で、実施例の血管モデルの方は、表面に形成された凸凹が不規則であったが、この凸凹は被覆層を形成する際にできた凸凹であり、被覆層により、薄肉層の端部により形成される凸凹が被覆層に被覆されることにより平滑化されることがわかった。
【0051】
つぎに、引っ張り強度の実験においては、精密万能試験機(株式会社島津製作所製 オートグラフAGX)を用いて、管状の血管モデルの両端をチャックして引っ張ることにより、破断強度と引っ張りによる伸びを求めた。なお、引っ張りよる条件は、速度が100mm/min、チャック間距離が100mm、試験力測定が50Nロードセルでおこなった。測定結果を表1に示す。
【0052】
【表1】



【0053】
以上、表1に示す測定結果より、実施例の血管モデルの方が、比較例の血管モデルに比べ、高い破断強度と低い伸び率を示し、優れた耐久性を有することがわかった。
【0054】
つぎに、透明度の実験においては、表面粗さの実験と同様に、実施例の血管モデルと比較例の血管モデルとを、図2で示す破線Bで囲まれる積層部分を長手方向に切り取って、略板状にしたものを使用した。
そして、略板状の血管モデルの表面に対して、垂直方向から可視光(波長340nm〜780nm)を照射し、略板状の血管モデルの背面側に透過した可視光量(エネルギー強度)を分光光度計で測定することにより、当該光線の透過率(%)を算出して、透明度を求めた。
【0055】
測定結果は、実施例の血管モデルの透明度が56%を示し、比較例の血管モデルの透明度が9%を示した。この結果より、実施例の血管モデルの方が比較例の血管モデルに比べて、極めて優れた透明度を有することがわかった。
【0056】
以上、被覆層を備えている実施例の血管モデルは、被覆層を有していない比較例の血管モデルに比べて、表面が平滑化されており、かつ、優れた耐久性と高い透明度を有する結果を示した。
【符号の説明】
【0057】
1、1a 血管モデル
2、2a 立体モデル
3、3a 薄肉層
4、4a、4b 被覆層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂を用いて積層造形によって人体組織の相似形である中空構造の立体モデルを作製する積層造形工程と、
前記立体モデルの表面に被覆用樹脂を付着させて、前記立体モデルの表面に樹脂層を形成する付着工程と、
前記樹脂層を硬化させて、前記立体モデルの表面に被覆層を形成する硬化工程と、
を含むことを特徴とする人体モデルの製造方法。
【請求項2】
前記被覆用樹脂は、光を照射することによって硬化する液体状の光硬化性樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の人体モデルの製造方法。
【請求項3】
前記被覆用樹脂は、加熱することによって硬化する液体状の熱硬化性樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の人体モデルの製造方法。
【請求項4】
前記付着工程において、前記被覆用樹脂に顔料を含有させた後に、前記立体モデルの表面に被覆用樹脂を付着させることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の人体モデルの製造方法。
【請求項5】
前記硬化工程の後に、
前記被覆層の表面に液体状の熱硬化性樹脂を付着させて、第2の樹脂層を形成する第2付着工程と、
前記第2の樹脂層を硬化させて、前記立体モデルの表面を被覆する第2の被覆層を形成する第2硬化工程と、をさらに含むことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の人体モデルの製造方法。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の製造方法によって製造されることを特徴とする人体モデル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−32457(P2012−32457A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−169836(P2010−169836)
【出願日】平成22年7月28日(2010.7.28)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】