説明

人工呼吸器およびその調整方法

患者の呼吸のための人工呼吸器は、前記呼吸に関連のある少なくとも一つの呼吸パラメータ(PINSP,PEEP,RAM,I/E,RAT,TINSP,TEXP,TAZ)を入力するためのインターフェイス(3)を有する。本発明によれば、前記人工呼吸器は、前記少なくとも一つの呼吸パラメータ(PINSP,PEEP,RAM,I/E,RAT,TINSP,TEXP,TAZ)から呼吸曲線(4,4a,4b)を算出する計算装置と、前記算出した呼吸曲線(4,4a,4b)を表示する表示装置(2)を含む。また、本発明の人工呼吸器の操作方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者の人工呼吸のための人工呼吸器に関し、前記人工呼吸器は、呼吸に関連のある少なくとも一つの呼吸パラメータを入力するためのインターフェイスと、前記少なくとも一つの呼吸パラメータから呼吸曲線を算出する計算装置と、算出された呼吸曲線を表示する表示装置とを含む。また、本発明は、呼吸に関連のある少なくとも一つの呼吸パラメータが入力される、患者の呼吸のための人工呼吸器を調整する方法に関する。最後に、本発明は、コンピュータプログラム製品にも関する。
【背景技術】
【0002】
人工呼吸器は、自身による呼吸が不十分であるか、または停止した人の人工呼吸のために、電気的に、または空気圧によって駆動される機械である。人工呼吸器を調整する一つの基準は、用途のタイプである。侵襲性呼吸において、患者は、挿管されているか、または、気管切開されているかのいずれかである。ただし、非侵襲性呼吸において、患者は、密着するマスクを介して人工呼吸を受ける。人工呼吸器の他の分類は、その利用分野に基づいて、救急人工呼吸器、集中治療人工呼吸器、および家庭用人工呼吸器に準じて行うことができる。
【0003】
人工呼吸器は、容積調節式、圧調節式、および時間制御式の形式に区別される。容積調節において、呼吸または吸気は、例えば、既定の吸気容積に達するまで続行される。圧調節式人工呼吸器において、吸気は、事前に設定された気道圧に達するまで続行される。一方、時間制御式人工呼吸器は、事前に設定された期間だけ動作する。人工呼吸器の制御では、例えば、最大圧力または最大容積が入力されるため、この最大値に達した時点で、機械が呼気段階に切り替わる。制御パラメータおよび呼吸パラメータを変えることによって、多数の異なる理想呼吸曲線を設定でき、ひいては、多くの呼吸技術を呼吸治療に利用することができる。
【0004】
したがって、異なる呼吸パラメータ(例えば、呼吸圧、呼気圧、吸気圧の上昇、吸気時間と呼気時間の比、設定呼吸速度など)が、疾病の一連の特徴に応じて利用される。ある程度これらの設定は、例えば、急性状況が存在するときに、激しい緊張や、消耗熱のある状態において、人工呼吸器のオペレータによって行われる。また、医療部門における経済的圧力もオペレータの訓練に利用できる資金の低下をもたらしているため、あまり訓練を積んでいない人物であっても人工呼吸器を操作する。これらはすべて、入力に間違いが生じるリスクを増大させ、患者に深刻な健康上の影響をもたらす可能性があり、極端な場合には、患者が死亡することにもなり得る。
【0005】
例えば、特許文献1も、入力された特定のパラメータから呼吸曲線を算出でき、それを表示装置に表示できる人工呼吸器を開示している。これはオペレータに適切な支援を提供するが、この人工呼吸器も比較的多くの技術的知識を前提としていることに加え、または、そうではない場合にも、ストレス下で操作する担当者による入力に間違いが生じるリスクが依然として大きい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第02/058619号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明は、改良された人工呼吸器と、向上した調整方法、特に操作が単純化される方法の少なくともいずれかを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、この目的は、特許請求項1の特徴を有する人工呼吸器、すなわち、導入部において定義したタイプの人工呼吸器であって、理想呼吸パラメータ、実呼吸パラメータ、または参照呼吸パラメータのグループからの一つ以上のパラメータが呼吸パラメータとして提供され、これに応じて、理想呼吸曲線、実呼吸曲線、または参照呼吸曲線のグループからの一つ以上のパラメータが呼吸曲線として提供される人工呼吸器によって達成される。
【0009】
また、本発明の目的は、特許請求項11に係る方法、すなわち、導入部において定義したタイプの方法であって、前記少なくとも一つの呼吸パラメータから呼吸曲線が算出され、その算出された呼吸曲線が表示装置に表示される方法によって達成される。
【0010】
最後に、本発明の目的は、特許請求項22に係るコンピュータプログラム製品、すなわち、内部にコンピュータプログラムが格納されており、そのコンピュータプログラムを人工呼吸器のメモリに読み込むことができ、前記コンピュータプログラムが前記人工呼吸器において実行されたときに本発明の方法を実行するように構成される、コンピュータプログラム製品によっても達成される。
【0011】
本発明によれば、ここで実現する結果は、設定されている呼吸曲線の視覚的印象をオペレータが直接受け取れるということである。また、修正された呼吸パラメータの影響を、直接、目で見ることができる。このことは、入力に間違いが生じるリスク、ひいては患者への健康被害が生じるリスクを大幅に抑制できるため、最先端技術への重要な貢献をもたらす。
【0012】
特に、理想呼吸パラメータおよび理想呼吸曲線は、機械に設定された所望の呼吸特性を表し、実呼吸パラメータおよび実呼吸曲線は、患者において実際に特定された呼吸特性を表し、参照呼吸パラメータおよび参照呼吸曲線は、「正常状態の患者」の最適な呼吸特性を表している。例えば、吸気圧、呼気圧、吸気中の圧力上昇、吸気時間と呼気時間の比、および呼吸速度も呼吸パラメータとして考慮することができる。したがって、既知の手法と比較した場合の重要な利点は、異なるタイプの呼吸曲線を表示できることである。すなわち、この人工呼吸器は、オペレータによって入力された情報を単純に反映、たとえグラフ形式であるとしても単に反映するだけでなく、特定された実際の呼吸特性と、保存または特定されている参照呼吸特性とを、設定された理想呼吸特性に加えて表示することができる。参照呼吸特性は、特に、あまり訓練を受けていない、確信を持てない、またはストレスに晒されているオペレータに、有益な支援を提供する。
【0013】
人工呼吸器内の計算装置は、ソフトウェアおよびハードウェアの両方、またはその一方によって実装されてよい。このことは、メモリ内に格納されて本発明の方法を具現するプログラムが、プロセッサによって実行される場合に特に有利である。これにより、極めて容易に、アルゴリズムを異なる状況に適合させることができる。
【0014】
本発明の有利な実施形態および変形例は、従属請求項と、図面の図と組み合わせた説明とから把握される。
【0015】
画面に表示された呼吸曲線に対してオペレータが実行するドラッグアンドドロップ操作を評価することによって、少なくとも一つの呼吸パラメータを入力するインターフェイスが設けられていると有利である。これにより、ストレスの大きい状況下であっても、人工呼吸器のオペレータによって確実に実行され得る、非常に直覚的な呼吸曲線の調整が可能になる。特定の範囲の呼吸曲線を選択した後、必要に応じてその曲線をドラッグすることによって曲線が修正される。このことは、タッチスクリーンが使用される場合には、指を用いて簡単に曲線を調整できるため特に有利である。
【0016】
また、患者を特徴付ける少なくとも一つの患者パラメータである下記のグループのうちの一つ以上、すなわち、理想呼吸パラメータ、理想呼吸曲線、参照呼吸パラメータ、または参照呼吸曲線が特定されると有利である。前述したように、参照呼吸パラメータおよび参照呼吸曲線は、正常状態の患者の最適な呼吸動作を表す。この最適な呼吸特性は、もちろん患者ごとに異なり、特定の患者パラメータに依存する。例えば、年齢、体重、性別、全身の健康状態、および疾病状況が、前述の最適な呼吸の動作に影響し得る。本発明によれば、最適な参照呼吸パラメータ、または最適な参照呼吸曲線は、少なくとも一つの患者パラメータによって決定することができ、人工呼吸装置のオペレータに支援情報として提供することができる。特に有利な実施形態において、少なくとも一つの患者パラメータから、理想呼吸パラメータまたは理想呼吸曲線を決定できるため、調整作業が最低限に低減される。例えば、理想呼吸パラメータに参照呼吸パラメータを割り当てる際、または理想呼吸曲線に参照呼吸曲線を割り当てる際に用いるキーも設けることができる。
【0017】
人工呼吸器は、人工呼吸チューブの出力部において、実呼吸曲線と実呼吸パラメータの少なくともいずれかを測定する手段を含むと有利である。これにより、患者に現在生じている実際の呼吸特性を確認でき、その実際の呼吸特性は、後で、追加の治療措置を導出する基準として利用することができる。
【0018】
また、人工呼吸器は、実呼吸曲線/実呼吸パラメータを測定する手段、および特定された実呼吸曲線/特定された実呼吸パラメータから実呼吸パラメータ/実呼吸曲線を求める手段を含むと有利である。この変形例において、実呼吸パラメータは、測定された実際の呼吸曲線(すなわち、ある期間にわたる圧力または容積の曲線)から特定される。この後、例えば、最大値を編成することによって極めて容易に吸気圧を特定できる。ただし、逆の経路も実現可能である。
【0019】
例えば、測定された実呼吸パラメータから実呼吸曲線を算出することができる。この目的に対応して、例えば、吸気圧、呼気圧、吸気時間、および呼気時間が測定される。原則上、理想呼吸曲線または参照呼吸曲線の計算にも利用される同一のアルゴリズムをこの場合も利用できる。ただし、実呼吸パラメータは、計測装置を利用して入力されるのに対し、理想呼吸パラメータは、例えば、人工呼吸器のキーパッドを利用して入力される。ただし、参照呼吸パラメータは、人工呼吸器に格納されているテーブル、または格納されたデータベースに保存されているテーブルから入力することができる。
【0020】
また、表示装置は、少なくとも一つの呼吸パラメータを当該表示装置に表示するように設定されると有利である。このことは、人工呼吸器のオペレータを更に支援すると共に、訓練効果もある。呼吸パラメータを表示することによって、これらのパラメータは、無意識的であるとしてもオペレータの記憶に留められるため、時間の経過に伴って、より迅速かつ確実に人工呼吸器の操作を行えるようになる。もちろん、複数の人工呼吸パラメータが並んで表示されてもよい。例えば、理想吸気圧の隣に実吸気圧を表示できるため、2つの値の間のずれを即時に見ることができる。
【0021】
本発明の有利な変形例において、人工呼吸器は、2つの異なる呼吸パラメータの差異および比の少なくともいずれかが事前選択可能な値を超えたときに警告を出力する手段を含む。これにより、例えば、前述した実吸気圧と理想吸気圧とのずれが所定の閾値を越えたかどうかを自動的に監視する。閾値を越える場合は、視覚的警告および音響的警告の両方、またはその一方が出力され、この状況へのオペレータの注意を喚起する。閾値は、オペレータ自身によって入力されても、または製造所において提供されてもよい。
【0022】
本発明の他の有利な変形例において、人工呼吸器は、観察期間中の2つの異なる呼吸曲線の間の面積を特定して、その面積が所定の値を超えたときに警告を出力する手段を含む。これは、呼吸が望ましい方式で行われているかどうか、または、入力された理想値が現在通用している参照値に対して妥当であるかどうかを確認する他の可能性をもたらす。例えば、ここで監視される呼気圧のような個別の呼吸パラメータのみでなく、呼吸曲線の経過状態も監視される。
【0023】
観察期間は、一呼吸の時間よりも長いと有利である。呼吸パラメータを監視する際、および呼吸曲線を監視する際にも、一呼吸の時間よりも長い観察期間が選択されると有利である。これにより、呼吸過程における個別の障害、例えば、患者の咳や、個別の測定エラーをより適切に抑制できる。観察期間は、時間指標に基づいて、または、呼吸数(例えば、2.7呼吸)にも基づいて決定されてよい。
【0024】
最後に、人工呼吸器は、一連の呼吸パラメータおよび呼吸曲線の少なくともいずれかを恒久的に保存するメモリを含むと有利である。これにより、例えば、人工呼吸器が停止された後であっても呼吸パラメータが保存されるため、例えば、呼吸治療の一環として、間隔を空けて繰り返し同一の患者に人工呼吸を行う必要がある場合に、呼吸パラメータを便利に読み出すことができる。
【0025】
最後に注記しておくと、本発明の人工呼吸器に関連して説明した変形例、および結果的に得られる利点は、人工呼吸器そのものにのみ基づくのではなく、本発明の方法にも基づいたものである。当業者であれば、ここで開示した教示を本発明の方法に容易に適用できるであろう。
【0026】
上記の本発明の実施形態および変形例は、各種所望の方式で組み合わせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】例示的人工呼吸器の操作領域を模式的に示す図である。
【図2】図1の呼吸曲線の代わりに2つの呼吸曲線が示された構成を示す図である。
【図3】2つの呼吸曲線の間の領域を示す図である。
【図4】ドラッグアンドドロップ操作を利用して一つの呼吸曲線を変更できる方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
次に、図面において模式図に示した例示的実施形態に基づいて、本発明について詳細に説明する。
【0029】
同一および同様の部品には、図面の各図において同一の参照番号を付し、同様の機能を有する要素および特徴には、特に他の指定がない場合には、異なる添え字を付けた同一の参照番号を用いた。
【0030】
図1に、表示装置2および複数の操作キー3を含む、例示的人工呼吸器の模式的操作領域1を示す。表示装置2には、呼吸曲線4が表示されている。また、呼吸パラメータが表示される領域5も表示装置2に示されている。
【0031】
第1の例において、理想呼吸パラメータは、人工呼吸器のオペレータによって、人工呼吸器の操作キー3から入力される。本例において、操作キーには、下記のパラメータが固定的に割り当てられている。割り当てられたパラメータは、吸気圧PINSP、呼気圧PEEP、吸気圧の上昇RAM、吸気時間と呼気時間の比I/E、および呼吸速度RATである。また、図1には、吸気圧PINSP、呼気圧PEEP、吸気圧の上昇RAM、吸気時間TINSP、および呼気時間TEXPの重要度も示されている(注記:この情報は、表示装置2に追加して表示される必要はなく、これらは、主に本発明の理解を助けるためのものである)。ここで、吸気時間TINSPと呼気時間TEXPの比であるI/Eは、この2つの和に1/呼吸速度RATを掛けたものである。
【0032】
従来技術によれば、オペレータは、呼吸についての各パラメータの影響を詳細に把握していなければならず、このことは、操作ミス、特に、緊急の状況に関連したストレスに伴う操作ミスにつながることが多い。そこで、本発明の方法では、入力パラメータに対応した理想呼吸曲線4を算出し、算出した曲線を表示装置2に表示する。これは、特定の入力の影響が即座に視覚的に示されるため、オペレータにとっての大きな支援となる。本発明の有利な変形例において、パラメータそのものも領域5に表示される。
【0033】
したがって、オペレータは、より簡単に、このような従来の一連のパラメータに精通できるようになるため、次の機会には、より迅速に人工呼吸器を調整することができる。
【0034】
図2に、図1の構成と極めて類似した構成を示す。ただし、ここでは、呼吸曲線4の代わりに、2つの呼吸曲線4aおよび4bが図示されている。
【0035】
第1の例において、呼吸曲線4aは参照呼吸曲線で、呼吸曲線4bは理想呼吸曲線である。この例において、人工呼吸器のオペレータは、患者を特徴付ける患者パラメータを入力する。これらのパラメータとしては、例えば、体重、年齢、性別、疾病の重症度などが挙げられる。ここで、人工呼吸器は、患者パラメータから参照呼吸曲線4aを算出し、算出した曲線4aを表示装置2に表示する。次のステップで、オペレータは、前記患者にとっての理想呼吸パラメータを入力する。人工呼吸器は、既に上記で説明したように、これらのパラメータから理想呼吸曲線4bを算出して、この理想呼吸曲線4bも表示装置2に表示する。次に、オペレータは、理想呼吸曲線4bに基づいて、各種の理想呼吸パラメータの影響のみでなく、参照呼吸曲線4aからのずれも確認する。これにより、オペレータは、理想の参照呼吸曲線4aに「近付ける」ことができる。または、例えば、参照呼吸曲線を使用することに反対する医学的根拠があることにより、参照呼吸曲線4aから意図的に逸脱させることもできる。有利な変形例において、調整作業が容易になるように、参照呼吸パラメータが、理想呼吸パラメータに自動的に代入されても、もしくは、参照呼吸曲線が、理想呼吸曲線に自動的に代入されても、または、その両方であってもよい。このステップは、もちろん、患者パラメータの入力後に自動的に実行されてもよい。
【0036】
第2の例では、呼吸曲線4aが実呼吸曲線であるのに対し、参照曲線4bは理想呼吸曲線である。この配置において、人工呼吸器のオペレータは、患者において測定された実呼吸曲線4aが、設定された理想呼吸曲線4bとどの程度一致するのかを確認できるため、例えば、大きなずれがある場合には、必要に応じて対策に着手することができる。
【0037】
第3の例において、呼吸曲線4aは実呼吸曲線であるが、呼吸曲線4bは参照呼吸曲線である。この変形例において、人工呼吸器のオペレータは、患者において測定された実呼吸曲線4aが、患者を特徴付ける少なくとも一つの患者パラメータに基づいて算出された参照呼吸曲線4bとどの程度一致するのかを確認できる。これにより、オペレータは、実呼吸曲線4aが、「正常状態」から逸脱する度合いを突き止めることができる。
【0038】
前述した本例において、実呼吸曲線は、常時測定される、すなわち、時間に対する圧力の曲線が測定された。ただし、特定された実呼吸パラメータが単純に入力される、すなわち測定されて、そこから実呼吸曲線が算出される変形例も考えられる。この場合、例えば、吸気圧(すなわち、呼吸過程の中での最大圧力)、呼気圧PEEP(すなわち、呼吸過程の中での最小圧力)、吸気時間(圧力上昇から圧力低下までの時間)、および呼気時間(圧力低下から圧力上昇までの時間)を測定でき、その測定値から実呼吸曲線が算出される。ただし、実呼吸パラメータは、もちろん、実呼吸曲線から特定されてもよい。例えば、吸気圧PINSPは、実呼吸曲線を評価する(すなわち、その最大値を特定する)ことによって特定できる。
【0039】
本発明の他の有利な実施形態において、各種の呼吸パラメータは、表示装置2の領域5内で互いに比較することができる。例えば、参照呼吸パラメータが理想呼吸パラメータと比較されても(第1例)、実呼吸パラメータが理想呼吸パラメータと比較されても(第2例)、または、実呼吸パラメータが参照呼吸パラメータと比較されても(第3例)よい。表示装置の右上の角部に、対応する表が挿入されると有利である(注記:ただし、本例において、領域5に具体的な値は示されない)。
【0040】
本発明の有利な変形例において、もちろん、理想呼吸曲線、参照呼吸曲線、および実呼吸曲線、もしくは、理想呼吸パラメータ、参照呼吸パラメータ、および実呼吸パラメータ、または、これら全てが同時に表示されてもよい。
【0041】
本発明の他の有利な変形例において、2つの異なる呼吸パラメータの差異、すなわち、比が所定の値を超えたときに、警告を出力することができる。
【0042】
例えば、理想吸気圧に対する実吸気圧のずれ、または、参照呼吸速度に対する理想呼吸速度のずれを前述したように確認でき、これにより、人工呼吸装置のオペレータは、通知を得ることができる。光ディスプレイは、参照呼吸パラメータに対する理想呼吸パラメータのずれの場合には十分なものである(オペレータは、人工呼吸器を設定しながら表示装置2に注目すると想定される)が、理想呼吸パラメータまたは参照呼吸パラメータに対する実呼吸パラメータのずれの場合には、(追加の)音響警告を優先すべきである。
【0043】
同様に、2つの異なる呼吸曲線の間の面積を利用して、観察期間中に警告を出力することができる。たとえば、実呼吸曲線と理想呼吸曲線の間の面積、または理想呼吸曲線と参照呼吸曲線の間の面積を特定することができ、差異が一定の測定値を超えたときに警告を出力することができる(これについては、図3の斜線領域を参照)。
【0044】
呼吸パラメータを監視すると共に、呼吸曲線も監視する場合は、一呼吸の時間よりも長い観察期間を用いると有利である。これにより、呼吸過程中の個々の障害、例えば、患者の咳や、個々の測定エラーをより適切に抑制することができる。観察期間は、時間指定に基づいて、または呼吸数(例えば、2.7呼吸)に基づいて決定されてよい。
【0045】
他の変形例において、呼吸パラメータ、呼吸曲線、および患者パラメータのうちの少なくともいずれかも恒久的に保存することができる。この場合、これらのパラメータや曲線は、例えば、人工呼吸器の電源をオフにした後であっても保存されるため、例えば、休止期間を挟んで繰り返し同一の患者に人工呼吸を行う必要がある場合に、保存したものを再び便利に読み出すことができる。
【0046】
これまでの例および変形例において、呼吸パラメータは、機械に設けられているキー3、ボタン、調節器などを用いて設定できることが想定されている。有利な変形例において、これらの入力部品は、タッチスクリーンに配置される。これにより、いわゆる「ソフトキー」を実装でき、これらの「ソフトキー」は、各部品に割り当てる機能を変更できる調整部品である。例えば、同一のキーが、設定される機能に応じて、呼吸パラメータまたは患者パラメータの入力に対応できる。
【0047】
特に有利な変形例において、呼吸曲線は、直接、すなわち、特定の呼吸パラメータを変更せずに修正することができる。この修正は、タッチスクリーン上で、呼吸曲線とその領域の少なくともいずれかを選択してドラッグすることによって実行される。この方式は、「ドラッグアンドドロップ」という表現でよく知られているものである。これにより、人工呼吸器の操作がより直覚的になる。図4に、指を用いて曲線を「捕え」て、ドラッグできる、呼吸曲線4上のポイントの例を示す。矢印は、ドラッグ可能な方向、例えば、呼吸曲線4に変化が生じる方向を表している。各呼吸パラメータの値は、当然ながら、新しい呼吸曲線4に連続的に適合されて表示される。ドラッグアンドドロップ方式の利用は、もちろんタッチスクリーンでの利用に限定されるものではなく、他の入力装置と組み合わせて、例えば、キーや、レバーや、コンピュータマウスと組み合わせて実行することもできる。呼吸曲線4を捕えることが可能な領域の配置も単なる例として示されている。特に、吸気時間と呼気時間の比I/E、および呼吸速度RATと呼吸時間TAZの少なくともいずれかの変化については、呼吸曲線4の脇、例えば、表示画面の上端または下端に範囲が提示されてもよい。
【0048】
図4には、追加のプラスキーとマイナスキーも示されており、このキーを用いて、既に選択されている呼吸パラメータの値を変えることができる(例えば、図1から図3のキー3を用いる場合は、キー3の上部/右側領域を押すことによって値を増やすことができ、キー3の下部/左側領域を押すことによって値を減らすことができる)。
【0049】
最後に、図に記載した各種の例示的実施形態は、一つの発明を構成するものであるが、必ずしも特許請求項1と組み合わされるのみでなく、独立した各種の発明の土台も形成できることを指摘しておく。
【0050】
また、本発明は、もちろん、圧調節式の人工呼吸器のみでなく、容積調節式または時間調節式の人工呼吸器にも適用されるが、このことは図面には明示的には記載されていない。当業者であれば、本明細書に開示した技術を前述の分野に容易に適用できるであろう。具体的には、異なる呼吸パラメータ、例えば、吸気容積を利用することによって適用することができる。
【符号の説明】
【0051】
1,1’ 操作領域
2 表示装置
3 操作キー
4,4a,4b 呼吸曲線
5 呼吸パラメータ用の領域
I/E 吸気時間と呼気時間の比
PEEP 呼気圧
PINSP 吸気圧
RAM 吸気圧の上昇
RAT 呼吸速度
AZ 呼吸時間
EXP 呼気時間
INSP 吸気時間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の呼吸のための人工呼吸器であって、
前記呼吸に関連のある少なくとも一つの呼吸パラメータ(PINSP,PEEP,RAM,I/E,RAT,TINSP,TEXP,TAZ)を入力するためのインターフェイス(3)と、
前記少なくとも一つの呼吸パラメータ(PINSP,PEEP,RAM,I/E,RAT,TINSP,TEXP,TAZ)から呼吸圧力曲線(4,4a,4b)を算出する計算装置と、
算出した前記呼吸圧力曲線(4,4a,4b)を表示する表示装置(2)と、を含み、
理想呼吸パラメータ、実呼吸パラメータ、または参照呼吸パラメータのグループからの一つ以上の呼吸パラメータが、前記呼吸パラメータ(PINSP,PEEP,RAM,I/E,RAT,TINSP,TEXP,TAZ)として提供され、
これに応じて、理想呼吸圧力曲線、実呼吸圧力曲線、または参照呼吸圧力曲線のグループからの複数の呼吸圧力曲線が、前記呼吸曲線(4,4a,4b)として提供され、
観察期間において2つの異なる呼吸圧力曲線(4,4a,4b)の間の面積を特定する手段、および前記面積が所定の値を超えたときに警告を出力する手段が設けられる、人工呼吸器。
【請求項2】
前記インターフェイス(3)は、表示された呼吸圧力曲線(4,4a,4b)に対してオペレータが実行したドラッグアンドドロップ操作を評価することによって、前記少なくとも一つの呼吸パラメータ(PINSP,PEEP,RAM,I/E,RAT,TINSP,TEXP,TAZ)を入力するように構成される、請求項1に記載の人工呼吸器。
【請求項3】
一つ以上の患者パラメータは、前記患者を特徴付ける少なくとも一つの患者パラメータから得られる理想呼吸パラメータ、理想呼吸圧力曲線、参照呼吸パラメータ、または参照呼吸圧力曲線のグループから特定される、請求項1または2に記載の人工呼吸器。
【請求項4】
前記患者において、前記実呼吸圧力曲線および前記実呼吸パラメータの少なくともいずれかを測定する手段を特徴とする、請求項1乃至3のいずれか一つに記載の人工呼吸器。
【請求項5】
前記実呼吸圧力曲線/実呼吸パラメータを測定する手段、および特定された実呼吸圧力曲線/特定された実呼吸パラメータから実呼吸パラメータ/実呼吸圧力曲線を求める手段を特徴とする、請求項4に記載の人工呼吸器。
【請求項6】
前記表示装置(2)は、少なくとも一つの呼吸パラメータ(PINSP,PEEP,RAM,I/E,RAT,TINSP,TEXP,TAZ)を表示するように準備される、請求項1乃至5のいずれか一つに記載の人工呼吸器。
【請求項7】
2つの異なる呼吸パラメータ(PINSP,PEEP,RAM,I/E,RAT,TINSP,TEXP,TAZ)の間の差異および比の少なくともいずれかが所定の値を超えた場合に、警告を出力する手段を特徴とする、請求項1乃至6のいずれか一つに記載の人工呼吸器。
【請求項8】
前記観察期間は、一呼吸の時間よりも長い、請求項7に記載の人工呼吸器。
【請求項9】
一連の呼吸パラメータ(PINSP,PEEP,RAM,I/E,RAT,TINSP,TEXP,TAZ)および呼吸圧力曲線(4,4a,4b)の少なくともいずれかを恒久的に保存するメモリを特徴とする、請求項1乃至8のいずれか一つに記載の人工呼吸器。
【請求項10】
呼吸に関連のある少なくとも一つの呼吸パラメータ(PINSP,PEEP,RAM,I/E,RAT,TINSP,TEXP,TAZ)が入力される人工呼吸器を調整する方法であって、
−前記少なくとも一つの呼吸パラメータ(PINSP,PEEP,RAM,I/E,RAT,TINSP,TEXP,TAZ)から呼吸圧力曲線(4,4a,4b)が算出され、
−前記算出した呼吸圧力曲線(4,4a,4b)が表示装置(2)に表示される、
−2つの異なる呼吸圧力曲線(4,4a,4b)の間の面積が、観察期間中に特定され、前記面積が所定の値を超えたときに警告が出力される、方法。
【請求項11】
前記少なくとも一つの呼吸パラメータ(PINSP,PEEP,RAM,I/E,RAT,TINSP,TEXP,TAZ)は、前記表示された呼吸圧力曲線(4,4a,4b)に対してオペレータが実行したドラッグアンドドロップ操作を評価することによって入力される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
理想呼吸パラメータ、実呼吸パラメータ、または参照呼吸パラメータのグループからの一つ以上のパラメータが、前記呼吸パラメータ(PINSP,PEEP,RAM,I/E,RAT,TINSP,TEXP,TAZ)として提供され、これに応じて、理想呼吸圧力曲線、実呼吸圧力曲線、または参照呼吸圧力曲線のグループからの一つ以上のパラメータが、前記呼吸圧力曲線(4,4a,4b)として提供される、請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
理想呼吸パラメータ、理想呼吸圧力曲線、参照呼吸パラメータ、または参照呼吸圧力曲線のグループからの一つ以上の患者パラメータは、前記患者を特徴付ける少なくとも一つの患者パラメータから特定される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記実呼吸圧力曲線および実呼吸パラメータの少なくともいずれかは、人工呼吸チューブの出力部において測定される、請求項12または13のいずれか一つに記載の方法。
【請求項15】
実呼吸圧力曲線/実呼吸パラメータが測定され、測定されたものから実呼吸パラメータ/実呼吸圧力曲線が特定される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
少なくとも一つの呼吸パラメータ(PINSP,PEEP,RAM,I/E,RAT,TINSP,TEXP,TAZ)が表示装置(2)に表示される、請求項10乃至16のいずれか一つに記載の方法。
【請求項17】
2つの異なる呼吸パラメータ(PINSP,PEEP,RAM,I/E,RAT,TINSP,TEXP,TAZ)の差異および比の少なくともいずれかが所定の値を超えたときに、警告が出力される、請求項10乃至16のいずれか一つに記載の方法。
【請求項18】
前記観察期間は一呼吸の時間よりも長い、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
一連の呼吸パラメータ(PINSP,PEEP,RAM,I/E,RAT,TINSP,TEXP,TAZ)および呼吸圧力曲線(4,4a,4b)の少なくともいずれかが恒久的に保存される、請求項10乃至18のいずれか一つに記載の方法。
【請求項20】
内部に格納されたコンピュータプログラムを有するコンピュータプログラム製品であって、前記コンピュータプログラムは、人工呼吸器のメモリに読み込むことができ、前記人工呼吸器において前記コンピュータプログラムが実行されたときに、請求項10乃至19のいずれか一つに従って前記方法が実行される、コンピュータプログラム製品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2012−527937(P2012−527937A)
【公表日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−512482(P2012−512482)
【出願日】平成22年5月10日(2010.5.10)
【国際出願番号】PCT/IB2010/052043
【国際公開番号】WO2010/136923
【国際公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【出願人】(508146743)アイエムティ インフォメーション マネージメント テクノロジー アーゲー (3)
【Fターム(参考)】