説明

人工毛髪及びそれを用いた頭飾製品用繊維束

【課題】 従来の合成繊維からなる人工毛髪のような特別のカールセット温度条件を採用することなく、人毛のヘアアイロンセット条件で商品の品質を阻害せず、広範囲の温度で、カールセットが可能な人工毛髪を提供する。
【解決手段】 180℃における乾熱収縮率が10%以下、より好ましくは200℃における乾熱収縮率が10%以下、繊度が25〜100デニール、断面形状における短軸の長さ(S)と長軸の長さ(L)との比(S/L)が0.75〜1の範囲内にあるポリビニルアルコール系繊維からなる人工毛髪。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ウィッグ、ヘアアクセサリー等の頭飾製品に用いられる新規な人工毛髪、及びそれを用いた頭飾製品用繊維束に関する。
【0002】
【従来の技術】現在、ウィッグ及びヘアアクセサリー等の頭飾製品の大部分は、人毛、やくの体毛、又は合成繊維からなる人工毛髪等の毛髪原料から作製されており、カールセットを施して使用するのが一般的である。この場合のカールセットの方法としては、毛髪原料の種類と目的により大きく2つに分けられる。その一つは、薬品を使用して毛髪原料を任意のカール形状に固定する、いわゆるコールドパーマセット法であり、他の一つは、乾熱あるいは湿熱の熱源を用い、加熱状態で毛髪原料にカール形状を付与した後、冷却により形状を固定する熱セット法である。前記コールドパーマセット法は、人毛ややくの体毛を始めとする、蛋白系繊維であるケラチン質繊維を原料とした頭飾製品に使用される方法であり、又、前記熱セット法は、前記のような蛋白系繊維を原料とする頭飾製品にも、又、合成繊維からなる人工毛髪を原料とした頭飾製品にも使用される方法である。
【0003】前記熱セット法においては、原料の種類によってセット時の温度条件が大きく異なり、合成繊維からなる人工毛髪を原料とする頭飾製品の大部分は70〜160℃程度の温度域で熱セットされるが、それらの中でも、ポリ塩化ビニル系繊維を原料とする場合は低温側、ポリエステル系繊維を原料とする場合は高温側、更に、その他のアクリル系繊維、ポリプロピレン系繊維を始めとする多くの合成繊維を原料とする製品の場合は、その中間の温度で熱セットされることが多い。これら合成繊維からなる人工毛髪は、それらの適正温度の上限を超えた温度で熱セットをすると、繊維の収縮による縮れが起こって商品価値が損なわれる。このため、合成繊維からなる人工毛髪の熱セットに際しては、セット温度条件を木目細かく管理する必要がある。一方、蛋白系繊維の代表である人毛は、前記のような合成繊維からなる人工毛髪に比べて熱セット時の温度域が広く、通常100〜200℃で熱セットされ、セット時の温度条件の管理もそれほど精度を要しない。ただし、人毛を熱セットする場合は、セット時の温度により、カール形状がタイトになったりルーズになったりする特徴があることから、カールの耐久性を付与するために、前記した合成繊維からなる人工毛髪の場合より高温度で熱セットするのが一般的である。
【0004】以上の理由から、比較的低温側の温度条件で熱セットされる合成繊維からなる人工毛髪と、比較的高温側の温度条件で熱セットされる蛋白系繊維とを混合使用する場合、低温条件で熱セットした場合には蛋白系繊維、特に天然ケラチン質繊維はセット力が弱いためカールの耐久性が劣り、反対に高温条件で熱セットした場合には、合成繊維からなる人工毛髪に収縮による縮れが起こって製品外観上、見苦しくなって商品価値を損なう。このため、人毛等の蛋白系繊維と、合成繊維からなる人工毛髪とが混合使用されることはまれであり、それぞれ単独使用により頭飾製品を製作することが多い。
【0005】一方、製品の観点からは、ウィッグ及びヘアアクセサリー等の頭飾製品、特にウィービングの場合は、頭に取り付けてからカールセットを施すため、ヘアアイロンによる熱セットが多用される。更に、ヘアアイロンの中でも、温度制御可能なコード付きアイロンであると操作に煩わしさが付きまとうため、ストーブ式ヘアアイロンが使用されることが多い。このストーブ式ヘアアイロンは、熱の供給源はストーブであり、この場合の熱セットは、ストーブ内で加熱したヘアアイロンの余熱を利用するものであるが、ストーブから取り出すとヘアアイロンの温度低下が顕著となるため、ストーブ内の温度を常に高温に保っておく必要がある。このため、セット時のヘアアイロンの温度管理はラフになりがちである。その結果、このような用途の製品に通常の合成繊維からなる人工毛髪を使用すると、ヘアアイロンにより熱セットを施した時に、高温のヘアアイロンにより合成繊維が収縮による縮れを起こして製品外観が見苦しくなる。このため、ウィービング等、ヘアアイロンにより熱セットを施す用途の頭飾製品の原料としては、実質的には人毛等の天然ケラチン質繊維に限定されているのが実状である。
【0006】ところが、人毛等の天然ケラチン質繊維は供給量に限りがあり、年々その品質も粗悪化して繊維長は短くなり、しかも価格は上昇傾向を辿っており、入手も困難になっている。例えば、16〜18インチを超えるような毛長の長い天然ケラチン質繊維のみからなるウィッグやヘアアクセサリーは、消費者にとって高価になりつつあり、安価に入手できる方法が望まれる。
【0007】そこで、その需要に応えるため、高温でのアイロンセットが可能で天然ケラチン質繊維と混合して使用できる素材として、ポリプロピレン系繊維、ポリ塩化ビニル系繊維、あるいはアクリル系繊維より耐熱性の高いポリビニルアルコール(PVA)系繊維の使用が考えられるが、現在までのところ、ウィッグやヘアアクセサリー等の頭飾製品へのこれらの合成繊維の適用例は見られない。PVAを成分とする毛髪原料に関する技術として、例えば、特開平3−47263号には、PVAとキトサンの混合物からなる紡糸原液から紡糸した合成繊維からなる人工毛髪が開示されている。これは、前記のような混合物にすることで人工毛髪の耐水性や耐熱性を改良したものであり、キトサンの固形分重量比が5未満(PVAの固形分重量比が95超)であると耐水性、耐熱性、色艶等の点が満足できず、又、特に高い耐水性が要求される場合は黒褐色になるまで高温で長時間乾熱処理すると架橋剤を加えることなく耐水性を向上させることができるとされている。しかし、この場合、高価なキトサンを前記のように特定含有量以上使用する点と、熱処理により黒褐色に変色する点に欠点を有す。又、特公昭45−2775号及び特公昭43−30033号では、人髪物質とPVAとを成分とした紡糸原液から紡糸した繊維を用いた人造毛髪が開示され、セット性の改善も目的の1つとして挙げられているが、得られた繊維断面は不規則な非対象型断面と記載されており、また、セット性改善効果も明らかではない。以上の3件の発明は、いずれもPVAに他のポリマー成分を混合した紡糸原液から紡糸した合成繊維により人毛に近似した人工毛髪を得るというものであり、PVA系ポリマーを単独使用したもので人工毛髪の耐熱性向上を試みたものではない。
【0008】一方、現在製造されているPVA系繊維は、一般に8デニール以下の繊度の細いものが多く、通常、PVA水溶液を濃厚芒硝水溶液である凝固液中に吐出して繊維化し、乾燥、延伸及び熱処理を行って得ることができる。しかし、この方法で得られたPVA系繊維は、繊維断面がまゆ型あるいは馬蹄型であり、しかも、この方法で25デニール以上の繊維を紡糸する場合は、凝固が遅く生産に困難を伴う。一方、繊維断面が円形となるPVA系繊維は、PVA水溶液を濃厚苛性ソーダ水溶液に吐出するか、硼酸を少量添加したPVA水溶液をアルカリ性の濃厚芒硝水溶液である凝固液中に吐出することで得ることができる。しかし、この方法で得られる繊維のうちで、人工毛髪として適用できる25〜100デニールの太さのものでは、人毛と同程度の160〜200℃で熱セット可能な耐熱性を有するものがないのが現状である。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、人毛のような蛋白系繊維と同一条件で熱セット可能で、それらの蛋白系繊維と混合使用できる、従来にない新規な人工毛髪、及びそれを用いた頭飾製品用繊維束を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】本発明者は、前記の目的を達成するために、人工毛髪の原料として考えられる各種合成繊維について、熱セットを施す温度における収縮性に着目し、人毛と同様のセット条件でのヘアアイロンによる熱セット性を調べて解析した。その結果、頭飾製品の品質を損なうことなく熱セット可能な人工毛髪とするためには、熱収縮特性、毛髪特性から要求される繊度、更に好ましくは繊維の断面形状を特定することが重要であることを見出し、本発明に至った。すなわち、本発明は、180℃における乾熱収縮率が10%以下、より好ましくは200℃における乾熱収縮率が10%以下で、繊度が25〜100デニールの範囲であるPVA系繊維からなる人工毛髪である。
【0011】前記乾熱収縮率とは、繊維束を180℃又は200℃の所定温度条件下、無緊張で30分熱処理し、室温迄冷却した後の試料長LD(mm)を測定し、熱処理前の試料長L(mm)に対する収縮率を次式により求めた値である。
乾熱収縮率(%)=100×(L−LD)/200
【0012】前記PVA系繊維は、その断面形状における短軸の長さ(S)と長軸の長さ(L)の比(S/L)が0.75〜1の範囲であることが好ましい。前記繊維の断面形状における短軸の長さ(S)と長軸の長さ(L)の比(S/L)とは、繊維を繊維軸方向に対して垂直に切った横断面において、図1に示すように、繊維断面の重心Gが繊維断面領域内にあって、その繊維断面の重心Gを通る直線のうちで最も長い断面幅を長軸とし、その長軸の垂直二等分線上において連続する最大繊維断面幅を短軸としたときの、短軸の長さ(S)と長軸の長さ(L)との比(S/L)をいう。
【0013】上記のような本発明に係る人工毛髪としては、硼酸を含有するPVA水溶液をアルカリ性の無機塩類水溶液に紡出して得た繊維を、アセタール化及び180℃以上、好ましくは200〜240℃の範囲の温度での乾熱処理操作を行って、180℃における乾熱収縮率が10%以下、且つ平均繊度を25〜100デニールにすることにより得られるものが好ましい。
【0014】上記のような本発明に係る人工毛髪は、それを単独で使用した頭飾製品を製作することもできるが、更に、前記の人工毛髪90〜10重量部と、蛋白系繊維10〜90重量部とを混合して頭飾製品用繊維束とすることもできる。前記蛋白系繊維としては、人毛ややくの体毛等の天然ケラチン質繊維がより好ましい。
【0015】
【発明の実施の形態】以下、本発明について詳細に説明する。本発明の人工毛髪においては、原料であるPVA系樹脂の重合度は1000以上、好ましくは1500以上であり、ケン化度は97%以上、好ましくは98.5%以上であり、そのようなPVA系樹脂を湿式紡糸法により繊維化して得ることができる。前記PVA系樹脂の重合度が1000未満であると、耐熱性向上のための後処理の効果が弱くなったり、繊維物性が劣ったりする。また、前記PVA系樹脂のケン化度が97%未満であると、耐熱性向上のための後処理により著しい着色あるいは繊維間の融着が起こり、用途がかなり限定される欠点が有る。
【0016】本発明の人工毛髪に用いられるPVA系繊維の断面形状については特に限定されないが、人工毛髪としてのカール特性や櫛通り性等の美容特性を勘案すると、扁平率が1/10を超えるような扁平断面形状や、その扁平形状がやや湾曲したような断面形状は、カール保持性等が劣る傾向にあり、好ましくない。好ましい断面形状としては、馬蹄形、C字形、中空形、楕円形、円形、及び亜鈴形などがあり、例えば、図2(a)〜(d)に示すような断面形状を例示することができる。より好ましい繊維断面形状としては、断面形状における短軸と長軸との長さの比(S/L)が0.75〜1の範囲にある形状であり、更に好ましくは、繊維表面の凹部が1断面当たり2ヶ所以下、特に好ましくは1ヶ所以下である。断面形状の短軸と長軸との比(S/L)が前記の範囲から外れると、カールを付与したときの形状の張りが弱くなったり、カールヘアとしての特徴が損なわれたり、櫛通り性が低下したりする傾向にある。尚、前記繊維表面の凹部とは、光学顕微鏡で30倍程度の倍率により観察できる凹部であり、それ以上の高倍率で観察しなければ認められないようなものは含まない。前記凹部の数え方としては、繊維断面外周の接線群の内、繊維断面を貫かず、且つ繊維断面外周と2点以上で接する接線と、断面外周とにより囲まれて独立した領域を1ヶ所の凹部とした場合に、1断面当たりで得られる凹部の数を意味する。
【0017】上記のような、断面形状の短軸と長軸との長さの比(S/L)が0.75〜1の範囲にある繊維を得る方法は、硼酸を含有するPVA水溶液からなる紡糸原液を、アルカリ性の無機塩類水溶液からなる凝固浴に、オリフィス形状が円形である紡糸ノズルを通して紡出する方法が好ましい。前記紡糸原液に添加する硼酸の量は、PVAに対して0.3〜3重量%であるが、好ましくは0.5〜2重量%である。硼酸の添加量が少ないと、得られる繊維の断面形状の短軸と長軸との長さの比(S/L)が0.75に満たなくなる傾向にあり、多すぎると後工程の乾熱延伸処理時の延伸性や、その後の繊維の特性へ悪影響を及ぼす。尚、本発明の目的を損なわない範囲で、繊維改質のための、耐光、耐熱、着色防止を目的とした安定剤、あるいは顔料や染料からなる着色剤、更には難燃剤等を紡糸原液へ添加することはもちろん可能である。前記凝固浴は、アルカリ性であることが重要であり、pH10以上、好ましくはpH13以上を有するアルカリ性の無機塩類水溶液が好ましく、該無機塩類水溶液としては、水酸化ナトリウム水溶液、硫酸ナトリウム水溶液などが挙げられるが、硫酸ナトリウム水溶液がより好ましい。以下、硫酸ナトリウム水溶液を用いた例を示す。凝固浴中の硫酸ナトリウムの濃度は25重量%以上から飽和濃度の範囲であり、好ましくは28重量%以上である。凝固浴中の硫酸ナトリウムの濃度が25重量%以下になると多量のアルカリ剤が必要になる。前記凝固浴で繊維形状に凝固されたPVAは、次いで酸性の芒硝水浴で脱アルカリ処理を行い、更に70℃以上の酸性硫酸ナトリウム水溶液浴で2〜7倍の延伸処理を行う。この場合に硫酸ナトリウム水溶液浴を酸性にするには、延伸浴成分に硫酸を使用し、そのpHは2以下が好ましい。次いで70℃以上、好ましくは85℃以上の硫酸ナトリウム水溶液浴で湿熱処理を行った後、充分に水洗を行う。その後、乾燥処理、次いで必要により乾熱下で延伸してもよい。次いで、得られたPVA系繊維に対して、アセタール化処理と180℃以上の温度での熱処理を行うが、それぞれの処理を必ず1回以上行えばよく、また、その順序も問わない。通常、アセタール化処理は、ホルムアルデヒドを含む硫酸ナトリウム水溶液に浸漬して行うのが好ましい。また、熱処理は180℃以上の温度で行うが、好ましくは200〜240℃の範囲の温度で、10〜60分程度行うのがより好ましい。アセタール化を先に行った場合は、水洗した後、100℃以上の通常の乾燥処理を行って十分に水分を切ってから、熱処理を行うのが好ましい。尚、得られるPVA系繊維における繊維−繊維間の融着などを防止するためには、例えば、繊維用の柔軟剤やシリコーン系油剤、好ましくはアミノ変性シリコーン系の油剤を、乾燥処理前などに付着させておくことが好ましい。
【0018】本発明の人工毛髪の原料であるPVA系繊維の繊度は、平均繊度が25〜100デニールが好ましく、更に好ましくは30〜80デニールである。25デニール以下では人工毛髪としての外観上細すぎ、且つ柔らかすぎ、100デニールを超えると逆に太すぎ、且つ硬すぎて、いずれの場合も人工毛髪の原料として不適である。180℃における乾熱収縮率は10%以下であり、好ましくは7%以下、更に好ましくは200℃における乾熱収縮率が10%以下である。180℃における乾熱収縮率が10%を超えるような人工毛髪は、人毛をアイロンセットする高い温度では、収縮してヘアアイロンを締付けてしまい、ヘアアイロンより取外す操作が困難になる。
【0019】
【実施例】本発明の実施例を以下に示す。尚、測定値は下記の測定法により求めた。
(繊度)オートバイブロ式繊度測定器“DENIER COMPUTER"タイプDC−11(サーチ株式会社製)を使用して測定した。
(乾熱収縮率)総繊度3000デニールに調整した繊維束を、1デニール当たり10mgの荷重下で有効試料長200mmでカタン糸を使用してマーキングし、測定用試料とした。この試料を、均熱オーブンを使用して所定温度(180℃、又は200℃)条件下、無緊張で30分間熱処理し、試料を取り出して室温迄冷却した後、1デニール当たり10mgの荷重下で有効試料長LD(mm)を測定し、次式により収縮率を求めた。
乾熱収縮率(%)=100×(200−LD)/200
【0020】(実施例1)平均重合度1700、ケン化度98.5モル%のPVAを、浴比1:5の10℃以下の冷水で5回洗浄した後、90℃〜100℃に加熱して完全溶解させ、更に減圧攪拌脱泡を行ってPVA濃度18.8重量%の紡糸原液を得た。この原液を、硫酸ナトリウム28重量%、硫酸マグネシウム4重量%、及びホウ酸0.06重量%を含み、硫酸でpH4.2に調整した50℃の水溶液からなる凝固浴へ、孔径0.60mm、孔数50個を有し、オリフィス形状が円形である紡糸ノズルを通して押出し、巻取り速度4.4m/minで巻取り、次いで硫酸ナトリウム28重量%、硫酸マグネシウム4重量%、及びホウ酸0.06重量%を含む50℃の水溶液中で4倍に延伸して得た繊維を、緊張下で室温風乾した。更に100℃で60分間加温乾燥後、210℃で30分間、均熱風熱処理した。その後、硫酸19重量%、硫酸ナトリウム19重量%、ホルムアルデヒド4.7重量%からなる70℃のアセタール化浴(浴比1:100)で90分処理し、水洗を十分に行い、アミン当量1700、動粘度330センチストークス(cSt)を有するアミノ変性シリコーンをノニオン系界面活性剤により乳化させたエマルジョンからなる表面処理剤を、ケイ素分で繊維重量当たり0.05重量%付着させ、緊張下で80℃、1時間の乾燥処理を行った。得られたPVA系繊維は、断面形状がC型(図1(d)に示す如き断面形状)、繊度は50デニール、180℃における乾熱収縮率は7.0%であった。次に、この繊維を10インチにカット長を揃え、ハックリングを行なって総繊度約30,000デニールの繊維束とし、直径が3/4インチで表面温度180℃に達したストーブ式ヘアアイロンを用いて繊維束が重ならない程度に螺旋状に巻付け10秒間のカールセットを行った。得られた繊維束は、ヘアアイロン径とほぼ同じ20mmのカール径を有し、熱による繊維の収縮や縮れは見られなかった。また、同じヘアアイロンを用いて130℃でカールセットしたところ、ヘアアイロン径よりやや大きめの22mmのカール径となった。
【0021】(比較例1)アセタール化処理前の均熱風熱処理条件を210℃で5分間に短縮した以外は実施例1と同一条件でPVA系繊維を得た。この繊維の断面形状は実施例1同様にC型で、繊度は48デニ−ル、180℃における乾熱収縮率は16%であった。この繊維を用いて実施例1と同様に繊維束を作成し、ヘアアイロンセットを行ったところ、130℃でのセットでは実施例1と同じ22mmのカール径となったが、180℃でのセットではPVA系繊維が収縮及び縮れを起こしてカール外観が不揃いとなり、人毛と混合して、人毛の熱セットに適した高温度域でのアイロンセットでは実用性のないものであった。
【0022】(実施例2)水溶性ポリビニルアルコール繊維(株式会社ニチビ製;商品名 ソルブロンMH675D/15F)を均熱風オーブンを使用して210℃、20分で緊張下で熱処理した後、硫酸19重量%、硫酸ナトリウム19重量%、ホルムアルデヒド4.7重量%からなる70℃のアセタール化浴(浴比1:100)で90分処理し、水洗を十分に行い、アミン当量1700、動粘度330cStを有するアミノ変性シリコーンをノニオン系界面活性剤により乳化させたエマルジョンからなる表面処理剤を、ケイ素分で繊維重量当たり0.1重量%付着させ、緊張下で80℃、1時間の乾燥処理を行った。得られたPVA系繊維は、断面形状は不定形(図1(b)に示す如き断面形状)、繊度は50.7デニール、180℃における乾熱収縮率は3.0%、更に200℃における乾熱収縮率は3.5%であった。この繊維を前記実施例1と同様に10インチにカット長を揃えて40重量部とし、これと平均毛長10インチの人毛60重量部とを一緒にしてハックリングを行なって混合し、総繊度約30,000デニールの繊維束とした後、直径が3/4インチで表面温度180℃に達したストーブ式ヘアアイロンを用いて繊維束が重ならない程度に螺旋状に巻付け10秒間のカールセットを行った。得られた繊維束は、実施例1と同様に、ヘアアイロン径とほぼ同じ20mmのカール径が得られ、繊維素材間のカール形状の差もなく、熱による繊維の収縮や縮れは見られなかった。また、同じヘアアイロンを用いて130℃でカールセットしたところ、カール径が25mm程度に大きくなったが、人毛とPVA系繊維とで見た目のカール径が異なることはなく、また、収縮や縮れの発生もなくカール状態はまとまっていた。更に、表面温度200℃に上げたヘアアイロンを使用して10秒間カールセットを行ったが、得られた繊維束のカール径はヘアアイロンの径にほぼ等しい20mm程度とタイトに付き、180℃でのカールセットの場合と同様に、熱による繊維の収縮や縮れは見られなかった。
【0023】(比較例2)市販ウィッグ用フィラメントであるモダクリルを主成分とするKL−S(鐘淵化学工業株式会社製)を使用し、同重量の平均毛長10インチの人毛と一緒にしてハックリングを行なって混合し、総繊度約30,000デニールの繊維束を作成してヘアアイロンセットを行った。120℃でのセットはヘアアイロンの径よりやや大き目の22mmのセット径であったが、180℃におけるセットではモダクリル繊維の収縮及び縮れが甚だしくカール外観が不揃いで商品には到底なり得ず、人毛と混合して、人毛を熱セットできる温度域でのアイロンセットでは全く実用性のない物であった。因みに、このモダクリル繊維を乾熱180℃、30分処理した後は極めて縮れた状態(収縮率60%)であった。
【0024】(実施例3)実施例1で作成したPVA系繊維を10インチにカット長を揃え、同重量の平均毛長10インチの人毛と一緒にしてハックリングを行なって混合して総繊度約30,000デニールの繊維束とし、直径が3/4インチで表面温度180℃に熱したストーブ式ヘアアイロンを用いて繊維束が重ならない程度に螺旋状に巻付け10秒間のカールセットを行った。得られた繊維束は、ヘアアイロン径とほぼ同じ20mmのカール径が得られ、繊維原料間のカール形状の差もなく、熱による繊維の収縮や縮れも見られなかった。また、同じヘアアイロンを用いて130℃でカールセットしたところ、カール径が25mm程度に大きくなったが、人毛とPVA系繊維とで見た目のカール径が異なることはなく、また、収縮や縮れの発生もなくカール状態はまとまっていた。
【0025】(比較例3)比較例1で作成したPVA系繊維を実施例3と同様に人毛と混合して繊維束を作成し、ヘアアイロンセットを行ったところ、130℃でのセットは実施例3と同程度の25mmのカール径が得られたが、180℃におけるセットではPVA系繊維が収縮及び縮れを起こしてカール外観が不揃いとなり、人毛と混合して人毛を熱セットできる温度域でのアイロンセットでは実用性のない物であった。
【0026】(実施例4)実施例1で使用した冷水洗浄のPVAに、硼酸をPVA重量に対して1重量%添加し、実施例1と同様の操作を行ってPVA濃度19.5重量%の紡糸原液を得た。この原液を、飽和濃度の硫酸ナトリウム水溶液を水酸化ナトリウムでpH14に調整した40℃の水溶液からなる凝固浴へ、孔径0.3mm、孔数50個を有し、オリフィス形状が円形の紡糸ノズルを通して押出し、巻取り速度4m/minで巻取り、次いで硫酸ナトリウム28重量%を含有し、硫酸でpH1に調整した30℃の酸性硫酸ナトリウム水溶液浴で脱アルカリ処理を行い、更に前浴と同組成の85℃の酸性硫酸ナトリウム水溶液中で4倍に延伸した後、水洗を行った。得られた繊維は緊張下で室温風乾し、更に100℃で60分間加温乾燥した。次にこの繊維を210℃で15分、更に230℃で10分の均熱風熱処理をした後、硫酸19重量%、硫酸ナトリウム19重量%、ホルムアルデヒド4.7重量%からなる70℃のアセタール化浴(浴比1:100)で90分処理し、水洗を十分に行い、アミン当量1700、動粘度330cStを有するアミノ変性シリコーンをノニオン系界面活性剤により乳化させたエマルジョンからなる表面処理剤を、ケイ素分で繊維重量当たり0.05重量%付着させ、緊張下で80℃、1時間の乾燥処理を行った。更に、230℃、15分の均熱風熱処理を施して得られたPVA系繊維は、繊度32.5デニールを有し、乾熱180℃、30分処理後の収縮率は7.5%であった。また、繊維断面は、短軸と長軸の比(S/L)が0.95を有する窪みのない真円に近いもの(例えば、図2(a)に示す如き断面形状)であった。次に、この繊維を10インチにカット長を揃え、ハックリングを行って総繊度約30,000デニールの繊維束とし、直径が3/4インチで表面温度180℃に熱したストーブ式ヘアアイロンを用いて繊維束が重ならない程度に螺旋状に巻付け、10秒間のカールセットを行った。得られた繊維束は、ヘアアイロン径とほぼ同じ20mmのカール径が得られ、熱による繊維の収縮や縮れは見られなかった。また、同じヘアアイロンを用いて130℃でカールセットしたところ、ヘアアイロン径よりやや大きめの22mmのカール径を示した。
【0027】以上の実施例及び比較例の毛髪材料、及びそれらのカールセット後のカール径を下記表1にまとめて示す。
【0028】
【表1】


【0029】
【発明の効果】本発明の人工毛髪を使用すると、その用途であるウィッグやヘアアクセサリー等の頭飾製品、中でもウィービングとして自毛に取付けた状態で、人毛と同様のヘアアイロンの温度条件で、ヘアの外観を損なうことなくカールセットが可能となる。また、この人工毛髪と人毛とを混合した繊維束は、本発明の人工毛髪が有する熱セット性、即ち、ヘアアイロン性を忠実に再現でき、しかも、均一で、且つカール保持の耐久性に富む繊維束となる。又、この繊維束は、人毛の有する自然な外観、即ち光沢や繊維の太さの不揃いに起因する不均一な外観と、本発明の人工毛髪の有する均一な外観とを併せ持った外観効果が得られ、頭飾製品の原料として好適である。従って、頭飾製品において、数量的に限界がある人毛等の天然ケラチン質繊維の使用量を減じることができ、価格的にも安価に提供でき、且つ安定供給できる人工毛髪である。
【図面の簡単な説明】
【図1】 繊維断面における短軸と長軸との長さの比を説明するための繊維断面の模式図である。
【図2】 (a)〜(d)は、いずれも繊維断面形状を示す模式図である。
【符号の説明】
G:繊維断面の重心、L:長軸の長さ、S:短軸の長さ、a:長軸の二等分距離。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 180℃における乾熱収縮率が10%以下で繊度が25〜100デニールの範囲であるポリビニルアルコール系繊維からなる人工毛髪。
【請求項2】 前記繊維の200℃における乾熱収縮率が10%以下である請求項1記載の人工毛髪。
【請求項3】 前記繊維の断面形状における短軸の長さ(S)と長軸の長さ(L)との比(S/L)が0.75〜1の範囲内である請求項1記載の人工毛髪。
【請求項4】 硼酸を含有するポリビニルアルコール水溶液をアルカリ性の無機塩類水溶液に紡出して得た繊維を、アセタール化及び180℃以上の温度での乾熱処理操作を行って、180℃における乾熱収縮率が10%以下で繊度を25〜100デニールとした請求項1記載の人工毛髪。
【請求項5】 乾熱処理の温度が200〜240℃の範囲である請求項4記載の人工毛髪。
【請求項6】 請求項1記載の人工毛髪90〜10重量部と、蛋白系繊維10〜90重量部とを混合してなる頭飾製品用繊維束。
【請求項7】 蛋白系繊維がケラチン質繊維である請求項6記載の頭飾製品用繊維束。

【図1】
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【図2】
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