説明

人工毛髪用捲縮繊維の製造方法

【課題】 ウイッグなどの人工毛髪の製造に際して、原糸、ミノ毛、および製品で、極めて容易に、しかも低コストで、自然で嵩高な捲縮が付与できる人工毛髪用捲縮繊維の製造方法を提供する。
【解決手段】 湿熱法で測定した残留収縮率の差が5〜80%で単糸繊度が10〜100デニールの2種以上のアクリル系繊維やポリ塩化ビニル系繊維を混合して80〜150℃で乾熱処理するか、70〜100℃で湿熱処理する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、人工毛髪用捲縮繊維の製造方法に関する。更に詳しくは、ウイッグなどの人工毛髪の製造に際して、原糸、ミノ毛、および製品で、極めて容易に、しかも低コストで、自然で嵩高な捲縮が付与できる人工毛髪用捲縮繊維の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、人工毛髪用捲縮繊維を製造する方法には、あらかじめ熱せられた繊維を2つの噛み合うギャーに通して一定の捲縮を付与する方法、あるいは、熱せられた繊維を1室に折り重ねて詰め込み、一定の捲縮を付与する方法が一般的である。これらの方法では、いずれも、繊維に常に一定の短い捲縮しか付与できない。また、特開平6−287801号公報には、繊維の残留収縮を利用して捲縮を付与する方法が記載されている。しかしこの方法では、繊維に不均一な捲縮しか付与できない。このように従来技術の方法では、繊維に対して、均一、または不均一な捲縮を任意に得ることができない。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】そこで、本発明は上記の点に鑑み、ウイッグなどの人工毛髪の製造に際して、原糸、ミノ毛、および製品で、極めて容易に、しかも低コストで、自然で嵩高な捲縮が付与できる人工毛髪用捲縮繊維の製造方法を提供することを目的とするものである。
【0004】
【発明を解決するための手段】本発明者は、前記従来技術に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、残留収縮率の異なる2種以上の繊維を混合して乾熱処理、または湿熱処理することにより、使用する繊維の残留収縮率差、混合比率及び処理温度により、任意の捲縮が得られ、しかも得られた捲縮繊維は自然な光沢と優れた崇高を有することをようやく見いだし、本発明を完成するに至った。
【0005】すなわち、本発明は、湿熱法により測定した残留収縮率の差が5〜80%である2種以上の繊維を混合し、これを80〜150℃の乾熱処理または70〜100℃の湿熱処理することを特徴とするものである。
【0006】
【発明の実施の形態】本発明に用いる繊維は、人工毛髪用に用いられるものであればよく、特に限定しないが、たとえばポリ塩化ビニル系繊維、ポリ塩化ビニリデン系繊維、ポリエステル系繊維、ポリオレフイン系繊維、アクリロニトリル系繊維などの合成繊維が挙げられる。この中でも、ポリ塩化ビニル系繊維、アクリル系繊維が好ましく、アクリル系繊維としては、30重量%以上のアクリロニトリルを含有するアクリロニトリル系共重合体からなるものが好ましい。
【0007】これらの繊維の形態は、一般に人工毛髪原料に使用しうるものであればよく、特に限定はないが、たとえばトウ、モノフィラメント、マルチフィラメントなどが挙げられる。また、その単糸繊度は、10〜100デニール(以下、「d」と記す。)、好ましくは30〜60dである。
【0008】つぎに繊維の残留収縮率について説明する。繊維の製造工程では、通常、熱延伸により繊維構造が整えられ、繊維には歪みが存在している。この歪は、熱により安定な方向に変形しようとする。このとき繊維の緩和張力と熱処理温度とをコントロールすることにより、任意の残留収縮率を持った繊維を得ることができる。
【0009】この繊維の残留収縮率を測定する方法には、あらかじめ長さを測定した繊維を用い、たとえば沸水中で30分ボイルしたのち、その長さを測定して収縮率を求める湿熱法、120℃の乾熱で20分処理したのち、その長さを測定して収縮率を求める乾熱法があるが、本発明における残留収縮率は、前者の湿熱法により測定した値である。
【0010】本発明は、前記のようにして湿熱法により測定した繊維の残留収縮率の差が5〜80%、好ましくは10〜60%、更に好ましくは20〜40%の異なる残留収縮率を有する繊維を2種以上混合して、80〜150℃の乾熱処理、または70〜100℃の湿熱処理をすることにより、高収縮率繊維が収縮するとき捲縮が発現すると同時に低収縮率繊維が高収縮率繊維に引っ張られて捲縮が発現する。このとき、残留収縮率差、低収縮率繊維と高収縮率繊維の混合比率、及び処理温度が変わると、捲縮の発現状態が異なることから、これらを調整することにより任意の捲縮を得ることができるのである。
【0011】前記低収縮率繊維と高収縮率繊維との残留収縮率の差が5%未満の場合には、低収縮率繊維および高収縮率繊維をミックスして熱処理したとき、低収縮率繊維が高収縮率繊維に引っ張られて発現する捲縮が得られない。また、残留収縮率の差が80%を超えると任意の捲縮が得られない。
【0012】なお、前記熱処理の時間は、処理する繊維重量、繊維の束の個数などによって捲縮の発現が左右されるので一概には決定することができないが、ある程度一定に捲縮を付与させようとするには5〜40分、好ましくは15〜30分程度の処理時間が必要である。
【0013】本発明の方法によれば、きわめて容易に任意の捲縮を繊維に付与することができ、しかも得られた人工毛髪用捲縮繊維は、自然な光沢および触感と優れた嵩高性を有するものである。また、本発明は、残留収縮率差が5〜80%の2種以上の繊維を混合し、これを80〜150℃の乾熱処理または70〜100℃の湿熱処理するだけで、非常に簡単に捲縮を付与することができるので、人工毛髪用繊維の製造コストが低減される。
【0014】
【実施例】本発明の人工毛髪用捲縮繊維の製造方法を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0015】(実施例1)アクリロニトリル45重量%、塩化ビニル54重量%、メタクリルスルホン酸ナトリウム1重量%からなるアクリロニトリル系共重合体を、濃度が25重量%になるようにアセトンに溶解して紡糸原液とし、紡速10m/分、直径0.3mm、100孔のノズルから、20℃、アセトン濃度20%のアセトンー水系凝固浴へ紡出した。この紡出された糸を水洗し、120℃で20分間乾燥させたのち、120℃で2.5倍に延伸した。そしてこれを、熱処理温度130℃で5分間処理して織度40d、湿熱法により測定した残留収縮率が20%のアクリル系繊維を得た。また、上記と同様に紡出し、水洗、乾燥した繊維を、上記とは別に120℃で2.75倍に延伸した後、処理温度150℃で10分間、緩和10%で熱処理して繊度40d、湿熱法により測定した残留収術率が2%のアクリル系繊維を得た。これら残留収縮率の異なる2種類の繊維を重量比1:1の割合で混合してトータル繊度60万dの束にして、乾熱温度100℃、120℃、または140℃で20分処理した結果、図1〜図3に示すような、異なる3種類の捲縮が得られた。
【0016】(実施例2)実施例1で用いた、残留収縮率20%と、残留収縮率2%の残留収縮率の異なる2種類のアクリル系繊維を、重量比で3:7、および7:3の割合となるように混合比率を変えて、トータル繊度60万dの束にして乾熱温度120℃で20分処理し、図4〜図5のような異なる捲縮が得られた。さらに、両繊維の混合比率を調整することにより、捲縮部分の量の調整が可能であった。
【0017】(実施例3)実施例1と同様の方法で、繊度40d、残留収縮率20%のアクリル系繊維と、2.85倍に延伸して繊度35d、残留収縮率40%のアクリル系繊維とを得た。これらの残留収縮率の異なる2種類のアクリル系繊維を、重量比で1:1の割合で混合して、トータル繊度60万dの束にし、乾熱温度120℃で20分処理した結果、図6に示すような、均一な捲縮(図6(b)参照。)と不均一な捲縮(図6(c)参照。)が得られた。
【0018】(実施例4)塩化ビニル系共重合体を溶剤DMFで20重量%に溶解して紡糸原液とし、紡速10m/分で直径0.3mm、100孔のノズルから30℃のDMF濃度50%のDMF−水系凝固浴へ紡出した。この紡出された糸を水洗し、このとき2.0倍の延伸を行い、120℃で20分間乾燥させたのち、さらに120℃で1.5倍に延伸し、残留収縮率30%、単糸織度35dの塩化ビニル系繊維を得た。また、上記と同様にして得られた延伸糸を処理温度140℃で5分間熱処理して、残留収縮率10%、単糸繊度35dの塩化ビニル系繊維を得た。これら残留収縮率の異なる2種類の繊維を重量比で1:1の割合に混合して、トータル繊度30万dの束にして、湿熱温度90℃で20分処理した結果、図7に示すように、残留収縮率10%の繊維では小さな捲縮と大きな捲縮の2種類が得られ(図7(b)、残留収縮率30%の繊維では小さな均一な捲縮(図7(c)参照。)が得られた。
【0019】
【発明の効果】以上のように、本発明に係る人工毛髪用捲縮繊維の製造方法によれば、残留収縮率が異なる2種以上の繊維を混合し、これを80〜150℃の乾熱処理または70〜100℃の湿熱処理することにより、使用する繊維の残留収縮率の差、混合比率、および処理温度により、任意の捲縮を有する人工毛髪用繊維が得られ、しかも得られた捲縮繊維は、自然な光沢と優れた崇高を有するものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】 実施例1で製造した人工毛髪用捲縮繊維の説明図であり、(a)は繊維束の状態を示し、また、(b)は1本の繊維を示す。
【図2】 実施例1で製造した人工毛髪用捲縮繊維の説明図であり、(a)は繊維束の状態を示し、また、(b)は1本の繊維を示す。
【図3】 実施例1で製造した人工毛髪用捲縮繊維の説明図であり、(a)は繊維束の状態を示し、また、(b)は1本の繊維を示す。
【図4】 実施例2で製造した人工毛髪用捲縮繊維の説明図であり、(a)は繊維束の状態を示し、また、(b)は1本の繊維を示す。
【図5】 実施例2で製造した人工毛髪用捲縮繊維の説明図であり、(a)は繊維束の状態を示し、また、(b)は1本の繊維を示す。
【図6】 実施例3で製造した人工毛髪用捲縮繊維の説明図であり、(a)は繊維束の状態を示し、また、(b)、(c)は1本の繊維を示す。
【図7】 実施例4で製造した人工毛髪用捲縮繊維の説明図であり、(a)は繊維束の状態を示し、また、(b)、(c)は1本の繊維を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 湿熱法により測定した残留収縮率の差が5〜80%である2種以上の繊維を混合し、これを80〜150℃の乾熱処理または70〜100℃の湿熱処理することを特徴とする人工毛髪用捲縮繊維の製造方法。
【請求項2】 残留収縮率0〜5%の繊維と、残留収縮率10〜40%の繊維とを混合し、これを乾熱処理または湿熱処理することを特徴とする請求項1記載の人工毛髪用捲縮繊維の製造方法。
【請求項3】 繊維としてアクリル系繊維を用いてなる請求項1または請求項2記載の人工毛髪用捲縮繊維の製造方法。
【請求項4】 アクリル系繊維が、30重量%以上のアクリロニトリルを含有するアクリロニトリル系共重合体からなる請求項3記載の人工毛髪用捲縮繊維の製造方法。
【請求項5】 繊維としてポリ塩化ビニル系繊維を用いてなる請求項1記載の人工毛髪用捲縮繊維の製造方法。
【請求項6】 繊維の単糸繊度が10〜100デニールである請求項1記載の人工毛髪用捲縮繊維の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開平9−302513
【公開日】平成9年(1997)11月25日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平8−120282
【出願日】平成8年(1996)5月15日
【出願人】(000000941)鐘淵化学工業株式会社 (3,932)