説明

人工毛髪用繊維及び頭飾品

【課題】製造工程の追加を必要とせず、繊維の断面形状などにも大きな制限を受けずに、人毛に近い光沢を発現可能なポリ塩化ビニル樹脂系の人工毛髪用繊維、及び同材料を使用した人工毛髪用繊維と同繊維を使用してなる人工毛髪用製品を提供する。
【解決手段】
人工毛髪用繊維をポリ塩化ビニル樹脂組成物で形成する。ポリ塩化ビニル樹脂組成物は平均重合度500以上1400以下のポリ塩化ビニル樹脂と、平均重合度1700以上4000以下のポリ塩化ビニルで形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低光沢感とさらさら感を兼ね備える人工毛髪用繊維及び人工毛髪用繊維を使用した頭飾品に関する。ここで頭飾品とは、人の頭部を飾る装飾品であり、具体的には、かつら、部分かつら、リボン、ビーズ等である。
【背景技術】
【0002】
人工毛髪用繊維に、人毛に近い自然な質感や優れた美容特性を付与するため、従来、人工毛髪用繊維の製造方法、断面形状、繊度、素材に関し様々な工夫がなされてきている。
【0003】
特許文献1では、人工毛髪用繊維について人毛に近い風合いを発現させるために繊維表面に凸凹部を形成させている。
【0004】
特許文献2では、人工毛髪用繊維に、見た目が人毛に近い外観を付与するために、ポリエステル系繊維に、ゼオライト粉末を添加し、後工程で熱アルカリ原料処理して表面に多数凸凹を形成している。
【0005】
しかしながら、これら特許文献1、2の製法では後工程での加工を必要とするので、製造効率が悪い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−291541号公報
【特許文献2】特開平7−133586号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、製造工程の追加を必要とせず、繊維の断面形状にも大きな制限を受けずに、人毛に近い低光沢、さらさら感を発現可能なポリ塩化ビニル樹脂系の人工毛髪用繊維、及び人工毛髪用繊維を使用した頭飾品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、平均重合度500以上1400以下のポリ塩化ビニル樹脂と、平均重合度1700以上4000以下のポリ塩化ビニル樹脂を含有したポリ塩化ビニル樹脂組成物を繊維化した人工毛髪用繊維である。
【0009】
本発明の人工毛髪用繊維は、平均重合度500以上1400以下のポリ塩化ビニル樹脂50質量部以上100質量部以下、平均重合度1700以上4000以下のポリ塩化ビニル樹脂0.1質量部以上100質量部以下を含有したポリ塩化ビニル樹脂組成物を繊維化した人工毛髪用繊維が好ましい。
【0010】
本発明の人工毛髪用繊維は、超深度形状測定顕微鏡で測定した表面粗さRMS値で0.2μm以上10μm以下の箇所が繊維長さ10mm当たり少なくとも1箇所以上存在する人工毛髪用繊維が好ましい。
【0011】
他の発明は、上記の人工毛髪用繊維を使用した頭飾品である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(構成)
本発明は、平均重合度500以上1400以下のポリ塩化ビニル樹脂と、平均重合度1700以上4000以下のポリ塩化ビニル樹脂を含有した人工毛髪用繊維である。
【0013】
(ポリ塩化ビニル樹脂の平均重合度)
本発明で使用する平均重合度500以上1400以下のポリ塩化ビニル樹脂は、平均重合度700以上1300以下が好ましく、更には、平均重合度800以上1000以下が好ましい。
【0014】
平均重合度500以上1400以下のポリ塩化ビニル樹脂に関しては、平均重合度があまり低いと、人工毛髪用繊維に必要な強度特性を満足できない傾向にあり、あまり高いと、紡糸性が低下する。
【0015】
本発明で使用する平均重合度1700以上4000以下のポリ塩化ビニル樹脂は、平均重合度1700以上3800以下が好ましい。
【0016】
平均重合度1700以上4000以下のポリ塩化ビニル樹脂に関しては、平均重合度があまり低いと、人工毛髪用繊維の低光沢感やさらさら感を発現することが困難となり、平均重合度が4000を越えると、紡糸性が低下する傾向にある。
【0017】
平均重合度の測定は、樹脂200mgをニトロベンゼン50mlに溶解させ、このポリマー溶液を30℃恒温槽中、ウッベロ−デ型粘度計を用いて比粘度を測定するJIS―K6720−2に準拠した方法で算出したものである。
【0018】
(異なる平均重合度のポリ塩化ビニル樹脂の含有割合)
本発明で使用する異なる平均重合度のポリ塩化ビニル樹脂の含有割合は、平均重合度500以上1400以下のポリ塩化ビニル樹脂50質量部以上100質量部以下に対して、平均重合度1700以上4000以下のポリ塩化ビニル樹脂を0.1質量部以上100質量部以下含有することが好ましく、更に好ましくは、平均重合度500以上1400以下のポリ塩化ビニル樹脂100質量部に対して、平均重合度1700以上4000以下のポリ塩化ビニル樹脂を2質量部以上80質量部以下含有することが好ましい。
【0019】
更に好ましくは、平均重合度500以上1400以下のポリ塩化ビニル樹脂100質量部に対して、平均重合度1700以上4000以下のポリ塩化ビニル樹脂を5質量部以上70質量部以下含有することが好ましい。
【0020】
平均重合度500以上1400以下のポリ塩化ビニル樹脂100質量部に対して、平均重合度1700以上4000以下のポリ塩化ビニル樹脂が少なすぎると、人工毛髪用繊維の低光沢感やさらさら感の発現効果が低下する傾向にあり、多過ぎると紡糸性が低下する。
【0021】
(使用するポリ塩化ビニル樹脂の種類)
本発明で用いる塩化ビニル樹脂は、塊状重合、溶液重合、懸濁重合乳化重合等の手段によって得られたものであり、成形物の初期着色性等を勘案すると、好ましくは懸濁重合によって製造したものである。本発明における塩化ビニル樹脂は、塩化ビニル単独重合物であるホモポリマー樹脂、又は、コポリマー樹脂が好ましく、これら以外の塩化ビニル樹脂であってもかまわない。
【0022】
前記コポリマー樹脂としては、塩化ビニル−酢酸ビニルコポリマー樹脂、塩化ビニル−プロピオン酸ビニルコポリマー樹脂等の塩化ビニルとビニルエステル類とのコポリマー樹脂、塩化ビニル−アクリル酸ブチルコポリマー樹脂、塩化ビニル−アクリル酸2エチルヘキシルコポリマー樹脂等の塩化ビニルとアクリル酸エステル類とのコポリマー樹脂、塩化ビニル−エチレンコポリマー樹脂、塩化ビニル−プロピレンコポリマー樹脂等の塩化ビニルとオレフィン類とのコポリマー樹脂、及び、塩化ビニル−アクリロニトリルコポリマー樹脂であり、さらに好ましくは、塩化ビニルの単独重合物であるホモポリマー樹脂、塩化ビニル−エチレンコポリマー樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニルコポリマー樹脂等のコポリマー樹脂である。
【0023】
前記コポリマー樹脂においては、コモノマーの含有量は、成型加工性等の要求品質に応じて決めることができる。本発明では、上記の中から異なる平均重合度のポリ塩化ビニル樹脂を含有することが必要となる。
特定の単一平均重合度のポリ塩化ビニル樹脂を使用しても低光沢感やさらさら感を得ることが困難となる。
【0024】
(添加剤)
本発明では、塩化ビニル樹脂に、目的に応じて添加剤を混合することができ、例えば、耐熱性を付与する樹脂、滑剤、熱安定剤、加工助剤、強化剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、帯電防止剤、充填剤、難燃剤、顔料、初期着色改善剤、導電性付与剤、表面処理剤、光安定剤、香料等がある。
【0025】
(混練)
本発明における人工毛髪用繊維は、材料を混合後に混練する方法、あるいは、混練により混合も同時に行う方法により作成される。たとえば、ヘンシェルミキサ−、ス−パ−ミキサ−、リボンブンンダ−、タンブラ−、マゼラ−等で材料を混合したパウダ−コンパウンドでもよいし、このパウダ−コンパウンドを更に単軸押出機、異方向2軸押出機、同方向2軸押出機、コニカル2軸押出機、コニ−ダ−、プラネタリ−ギア−押出機、プラスチケ−タ、ロ−ル混練機、バンバリ−ミキサ−等の混練機を使用して混練してもよい。
【0026】
(表面粗さ)
本発明における人工毛髪用繊維は、人工毛髪用繊維の任意箇所の繊維長さ10mm範囲内において、超深度形状測定顕微鏡で測定した表面粗さRMS値が0.2μm以上10μm以下の箇所が少なくとも1箇所以上存在することにより、人工毛髪用繊維の低光沢感やさらさら感をより発現させることができる。
【実施例】
【0027】
以下、本発明に係る実施例と比較例を示し、表1を具体的に説明する。
【0028】
【表1】


塩化ビニル樹脂として、TH500〜TH3800(大洋塩ビ株式会社製 平均重合度500〜3800)を使用した。
加工助剤として、ハイドロタルサイト系複合熱安定剤(日産化学工業株式会社製、CP−410A)、エステル系滑剤(理研ビタミン社製EW−100)を使用した。
【0029】
(評価方法)
〔表面粗さ〕
表面粗さは、人工毛髪用繊維のRMS値によって評価した。
RMS値はキ−エンス社製超深度形状測定顕微鏡VK−8510を用い、人工毛髪用繊維の表面状態を評価した。
VK形状解析アプリケ−ションソフト:version1.06
測定倍率:1000倍(20×50倍レンズ)
顕微鏡観察条件:ゲイン:645、オフセット:−1565、ピッチ:0.01μm
RMS測定長さ:繊維の長さ方向に平行に250μm繊維長さ10mm範囲内の、表面粗さRMS値を10回測定し、0.2μm以上10μm以下が1箇所以上あることが好ましい。
【0030】
〔紡糸性〕
紡糸性は、材料作成方法に記載した未延伸糸を紡糸する際に、糸を1時間分巻き取り、後から未延伸糸を巻き解きながら目視で糸切れの発生回数をカウントすることによって評価した。糸切れ回数が0回を○、1回を△、2回以上を×と評価した。○、△が使用可能範囲である。
【0031】
〔光沢〕
光沢は、アニ−ル後の人工毛髪用繊維20000本を束ねて、直射日光の当たる室内と蛍光灯下における目視判定することにより評価した。評価は、5段階評価で低光沢を5、高光沢を1として評価した。評価2〜5が低光沢効果あると判断する。
【0032】
〔さらさら感〕
さらさら感は、アニ−ル後の人工毛髪用繊維20000本を束ねて、触感で評価を行った。評価は、5段階評価でさらさら感が弱いものを1、強いものを5として評価した。評価2〜5がさらさら効果があると判断する。
【0033】
〔引張強度〕
引張強度は、得られた人工毛髪用繊維をSHIMADZU社製オ−トグラフAGS−Gを用いて測定した。測定速度:200mm/minであり、使用可能範囲は1.2g/dtex以上である。
【0034】
(実施例1)
実施例1の人工毛髪用繊維は、平均重合度500以上1400以下のポリ塩化ビニル樹脂として塩化ビニル樹脂TH500を、平均重合度1700以上4000以下のポリ塩化ビニル樹脂として塩化ビニル樹脂TH2500を選定した。塩化ビニル樹脂TH500の100質量部に、塩化ビニル樹脂TH2500を40質量部、さらに添加剤として安定剤CP−410Aを3質量部、WAX EW−100を1質量部の比率で計量し、ヘンシェルミキサ−に投入し、常温から攪拌を行い、材料が90℃になるまで攪拌し、その後、混合粉を冷却して、原料の混合物を得た。同混合物を60mmの単軸押出機を用いて、135−165℃の温度管理にて、ペレットを作成した。
【0035】
このペレットを、孔数180、孔断面積0.05mmの丸形ノズルを装着した40mm単軸押出機を用いて15kg/時で溶融紡糸して、平均繊度150デシテックスの未延伸糸を作成した。単軸押出機を150〜180℃で制御し、金型温度を180℃とした。この未延伸糸を100℃の蒸気雰囲気下で300%に延伸し、続いて120℃の空気雰囲気下で、繊維の全長が処理前の75%の長さに収縮するまで熱弛緩処理して、単繊度が65デシテックスの繊維を得た。評価の結果、表面粗さ:10箇所、紡糸性:○、光沢:5、さらさら感:4、引張強度:1.2g/dtexであり、低光沢、さらさら感を兼ね備えた人工毛髪用繊維として十分使用できるものとなった。
【0036】
(実施例2〜3、5、8〜9)
実施例2〜3、5、8〜9の人工毛髪用繊維は、平均重合度500以上1400以下のポリ塩化ビニル樹脂として、TH700、TH800、TH1000、TH1300、TH1400を選定した以外は、実施例1と同様である。その結果、いずれも表面粗さに優れ、低光沢、さらさら感を兼ね備えた人工毛髪用繊維として十分使用できるものとなった。
【0037】
(比較例1)
比較例1の人工毛髪用繊維は、平均重合度1700以上4000以下のポリ塩化ビニル樹脂として、請求範囲外であるTH1400を選定した以外は、実施例4と同様の方法で得た。
その結果、表面粗さが悪く、紡糸性、引張強度については、性能も満たすものの、光沢、さらさら感が劣る結果であった。
【0038】
(実施例4〜7)
実施例4〜7の人工毛髪用繊維は、平均重合度500以上1400以下のポリ塩化ビニル樹脂として、TH1000を選定し、平均重合度1700以上4000以下のポリ塩化ビニル樹脂として、TH1700、TH2500、TH3000、TH3800を選定した以外は、実施例1と同様の方法で得た。
その結果、いずれも表面粗さに優れ、低光沢、さらさら感を兼ね備えた人工毛髪用繊維として十分使用できるものとなった。
【0039】
(比較例2)
比較例2の人工毛髪用繊維は、平均重合度500以上1400以下のポリ塩化ビニル樹脂として、請求範囲外であるTH1700を選定した以外は、実施例1と同様の方法で得た。
その結果、表面粗さに関しては使用範囲であるものの、光沢、さらさら感、引張強度については、性能も満たすものの、紡糸性が劣る結果となった。
【0040】
(実施例10〜15)
実施例10〜15の人工毛髪用繊維は、平均重合度1700以上4000以下のポリ塩化ビニル樹脂としてTH2500の添加量を0.1、2、5、70、80、100質量部とした以外は、実施例5と同様の方法で得た。
その結果、いずれも表面粗さに優れ、低光沢、さらさら感を兼ね備えた人工毛髪用繊維であった。
【0041】
(比較例3〜4)
比較例3〜4の人工毛髪用繊維は、平均重合度1700以上4000以下のTH2500の添加量を0(無添加)、110質量部とした以外は、実施例5と同様の方法で得た。
その結果、比較例3が示すように、添加量が0質量部(無添加)の場合、表面粗さ、光沢、さらさら感が劣る結果となった。一方、添加量が110質量部の場合、表面粗さ、光沢、さらさら感、引張強度については、性能も満たすものの、紡糸性が劣る結果となった。
以上の結果から、平均重合度1700以上4000以下のポリ塩化ビニル樹脂の添加量は、平均重合度500以上1400以下のポリ塩化ビニル樹脂100質量部に対して、0.1質量部以上100質量部以下が好ましいことが確認された。
【0042】
(実施例16)
実施例16の人工毛髪用繊維は、平均重合度500以上1400以下のポリ塩化ビニル樹脂としてTH500、TH700をそれぞれ50質量部と、平均重合度1700以上4000以下のポリ塩化ビニル樹脂としてTH2500を40質量部を含有する。
【0043】
(実施例17)
実施例17の人工毛髪用繊維は、平均重合度500以上1400以下のポリ塩化ビニル樹脂としてTH500、TH1000をそれぞれ50質量部と、平均重合度1700以上4000以下のポリ塩化ビニル樹脂としてTH2500を40質量部、含有する。
【0044】
(実施例18)
人工毛髪用繊維は、平均重合度500以上1400以下のポリ塩化ビニル樹脂としてTH1000を100質量部と、平均重合度1700以上4000以下のポリ塩化ビニル樹脂としてTH2500、3000をそれぞれ100質量部、含有を含有する。
【0045】
実施例16〜18いずれも表面粗さ、紡糸性、光沢、さらさら、引張強度において優れた結果となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均重合度500以上1400以下のポリ塩化ビニル樹脂と、平均重合度1700以上4000以下のポリ塩化ビニル樹脂を含有したポリ塩化ビニル樹脂組成物を繊維化した人工毛髪用繊維。
【請求項2】
平均重合度500以上1400以下のポリ塩化ビニル樹脂50質量部以上100質量部以下、平均重合度1700以上4000以下のポリ塩化ビニル樹脂0.1質量部以上100質量部以下を含有したポリ塩化ビニル樹脂組成物を繊維化した請求項1に記載の人工毛髪用繊維。
【請求項3】
超深度形状測定顕微鏡で測定した表面粗さRMS値で0.2μm以上10μm以下の箇所が繊維長さ10mm当たり少なくとも1箇所以上存在する請求項1又は2記載の人工毛髪用繊維。
【請求項4】
請求項1乃至3いずれか1項に記載の人工毛髪用繊維を使用した頭飾品。

【公開番号】特開2011−149134(P2011−149134A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−12769(P2010−12769)
【出願日】平成22年1月25日(2010.1.25)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】