説明

人工毛髪用繊維

本発明の目的は、手で自由に塑性変形可能で且つ形状保持性を有する人工毛髪用繊維を得ることにある。すなわち本発明は、90度折り曲げてから10分経過後の戻り角が30度以下である、熱可塑性樹脂製フィラメント(A)からなる人工毛髪用繊維に関する。また、直径10mmの円筒形カーラーに10回巻きつけ10分放置し、円筒形カーラーを外して5分放置後の形状保持率が30%以上である人工毛髪用繊維に関する。また、それらを更には着色することによって、カツラ、ウィッグ、ドールヘアー、ヘアアクセサリー、まつげ、髭等に用いられる人工毛髪用繊維に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、カツラ、ウィッグ、ドールヘアー、ヘアアクセサリー、まつげ、髭等に用いられる軽量で且つ自由に塑性変形可能な人工毛髪用繊維に関するものである。
【背景技術】
昔から、人毛(毛髪)は、カツラやウィッグ等に加工されているが、高価であり、且つ使用量(生産量)や長さ等の制限がある為、その代替として種々の人工毛髪が利用されている。一方、毛髪は人により、直毛であったり、曲毛やカールしている場合もある為、人工毛髪には人の髪の毛の風合いに似せて容易に種々の形状に変形でき、且つ使用中に変形することの無いものが求められている。
塑性変形可能な人工毛髪として、例えば熱可塑性樹脂とガラス転移温度が0℃以上70℃以下の熱可塑性重合体からなるフィラメントから構成される人形頭髪繊維(特開平10−118341号公報(請求項1))、ガラス転移点が−30℃〜70℃のポリウレタン系組成物からなるフィラメントから構成される形状記憶性モノフィラメント(特開平08−144123号公報(請求項1、第4頁6欄))が提案されているが、かかるフィラメントを人形の頭髪に利用した場合、特定の温度でないと自由な髪型には変形できず、変形した後、温度が変ったりすると変形前の状態に戻ったりする虞がある。
本発明の目的は、常温において手で自由に塑性変形可能で且つ形状保持性を有する人工毛髪用繊維を得ることにある。
【発明の開示】
すなわち本発明は、90度折り曲げてから10分経過後の戻り角が30度以下である、熱可塑性樹脂製フィラメント(A)からなる人工毛髪用繊維に関する。また、直径10mmの円筒形カーラーに10回巻きつけ10分放置し、円筒形カーラーを外して5分放置後の形状保持率が30%以上である人工毛髪用繊維に関する。また、それらを着色することによって、カツラ、ウィッグ、ドールヘアー、ヘアアクセサリー、まつげ、髭等に用いられる人工毛髪用繊維に関する。
【図面の簡単な説明】
第1図は、90度折り曲げてから10分後の戻り角度を示す図面である。第2図は、直径10mmの円筒形カーラーに10回巻きつけた図面であり、Ldはカーラーの直径、Lcはフィラメントの巻きつけ幅である。
【発明を実施するための最良の形態】
熱可塑性樹脂製フィラメント(A)
本発明に係わる熱可塑性樹脂製フィラメント(A)の原料は、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ4−メチル−1−ペンテン、ポリブテン等)、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ乳酸等)、ポリアミド(ナイロン−6、ナイロン−66、ポリメタキシレンアジパミド等)等の熱可塑性樹脂である。これら熱可塑性樹脂の中でも、ポリオレフィン、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン−1、ヘプテン−1、ヘキセン−1、オクテン−1、4−メチル−ペンテン−1等のα−オレフィンの単独重合体若しくは異なるα−オレフィンの共重合体、より具体的には、高圧法低密度ポリエチレン(HP−LDPE)、直鎖状あるいは線状低密度ポリエチレン(LLDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)及び高密度ポリエチレン(HDPE)等のエチレン系重合体、プロピレン単独重合体及びプロピレン・α−オレフィンランダム共重合体等のプロピレン系重合体、ポリ4−メチル・1−ペンテン、ポリブテン等のポリオレフィンが好ましい。
更に、ポリオレフィンの中でも、エチレン系重合体又はプロピレン系重合体が延伸性に優れ、形状保持性が良好なフィラメントが得られる点で好ましく、特に、中密度ポリエチレン及び高密度ポリエチレンが軽量で且つ耐候性等に優れていいるので好ましい。かかる中密度ポリエチレンは通常、密度が0.930以上〜0.945g/cm未満の範囲であり、高密度ポリエチレンは通常、密度が0.945g/cm以上、好ましくは0.955〜0.970g/cmの範囲にある。更に、高密度ポリエチレンとしては、ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)に基づく分子量分布(重量平均分子量(Mw)/(Mn))が2〜15、好ましくは5〜15、炭素数3〜6のαオレフィン含有量が2%未満、好ましくは0.05〜1.5重量%であるものが、軽量で且つ剛性、強度、耐候性等に優れたフィラメントが得られるので好ましい。
本発明に係わる熱可塑性樹脂製フィラメント(A)は、90度曲げた後10分経過後による戻り角度が30度以下、好ましくは20度以下、更に好ましくは10度以下である。90度曲げによる戻り角度が30度を越えるものは、形状保持性を保持できない虞がある。ここに戻り角度は、図1(a)のように90度折り曲げた後10分間そのまま放置したときの(b)で示す戻り角度θが90度曲げによる戻り角度である。尚、測定は温度23℃且つ湿度50%RHで24時間放置後に同条件で測定したものである。また熱可塑性樹脂製フィラメント(A)の曲げ強度(ATMS D790)が、好ましくは400kg/cm以上、更に好ましくは470kg/cm以上であると形状保持性に優れている。
また、本発明に係わる熱可塑性樹脂製フィラメント(A)は、10cmの円筒形カーラーに10回巻きつけて10分放置し、円筒形カーラーを外して5分経過後の形状保持率が30%以上のものである。形状保持率は、好ましくは40%以上、更に好ましくは50%以上、特に好ましくは60%以上である。尚、形状保持率は以下のように測定する。フィラメントを350mmの長さにカットし、図2のように、室温(23℃)で直径(Ld)10mmの円筒形のカーラーに10回巻きつける。フィラメントのカーラーへの巻きつけは、巻きつけた幅(Lc)が10mm以下となるようにし、フィラメント同士は交差しないようにする。フィラメントをカーラーに巻きつけ、その両末端は開放したままで、室温で10分間放置する。その後カーラーを外し、室温にて5分間放置し、その後、保持されている巻き数を測定する。同様にして5サンプルにつき測定を行い、10回巻いたうち保持されている巻き数の平均割合(%)を算出し、これを形状保持率とする。
本発明において肝要なのは、上記形状保持性を有する熱可塑性樹脂製フィラメントを人工毛髪用繊維とすることにある。
本発明に係る熱可塑性樹脂製フィラメント(A)の形状は、断面が円形のもののみならず、楕円形、三角、四角、五角、六角等の多角形や、星型、歯車型等の異型のものであってもよい。また長手方向に溝あるいは筋が1本以上設けられたものであってもよい。
本発明に係る熱可塑性樹脂製フィラメント(A)の太さ(繊度)は、用途により適宜選択できるが、通常、30〜500μmであり、好ましくは60〜270μm、更に好ましくは60〜120μmである。カツラやウィッグ等の人毛の補助として使用する場合は、人毛との対比や外観、触感等の点からは70〜100μmが人毛と同じ太さとなり不自然ではないが、個人差もある為、多少異なっていても良い。
着色剤
本発明に係る着色剤は、鉱物、動植物等天然素材の由来のものであっても、人工的に生成したものであっても良いし、無機物であっても有機物であっても良い。用途に応じて以下に示すような種々の顔料又は染料を使用することができるがこれに限定されるものではない。無機着色剤としては、カドミウム赤、ベンガラ、黄鉛、ジンククロメート、グンジョウ、コバルト青、コバルト紫、クロムチタンホワイト、鉛白、カーボンブラック等があげられる。また、有機着色剤としては、ニトロソ染料、ニトロ染料、アゾ染料、スチルベン染料、ジフェニルメタン染料、トリアリールメタン染料、ザンセン染料、アクリジン染料、キノリン染料、(ポリ)メチン染料、チアゾール染料、インダミン染料、アジン染料、オキサジン染料、チアジン染料、硫化染料、アミノケトン染料、オキシケトン染料、アントラキノン染料、インジゴイド染料、フタロシアニン染料等があげられる。また一般の着色顔料又は着色染料だけでなく、蛍光性を有したり、温度によって色の変化する顔料又は染料を用いても良い。これらの着色剤は必要に応じて複数混合して複雑な色彩又は色調にすることもできる。
着色剤の混合量は、適宜選択することができるが、通常、0.01〜10重量%が好ましく、更には0.01〜5重量%が好ましい。あまり多量の着色料を混合すると、熱可塑性樹脂製フィラメントの塑性変形性及び形状保持性を損なったり、延伸する際に切れてしまい、形状保持性を付与する程度に延伸できない可能性がある。
熱可塑性樹脂製フィラメント(A)の製造方法
本発明に係わる熱可塑性樹脂製フィラメント(A)は、前記熱可塑性樹脂を種々の製造方法により製造できる。例えば、熱可塑性樹脂から所望の形状の原糸を溶融成形により製造し、一旦冷却した後、次いで、熱をかけて融点未満の温度で延伸することにより製造し得る。原糸は、原料が高密度ポリエチレンである場合には、250〜300℃の温度で溶融押出し、押出機の先端のノズルから紡糸する。ノズルの直径は0.1〜2mmであることが好ましい。冷却は通常は水槽中で行い、温度はその走行安定性から40〜60℃であることが好ましい。水槽温度が40℃未満では紡糸したフィラメントが水槽中で蛇行し、そのフィラメント同士が接着する虞がある。水槽温度が60℃を超えると紡糸したフィラメントが柔らかいために伸びる虞がある。原糸は、フィルムを分割して糸状にしたものを使用しても良い。
本発明に係わる形状保持性を有する熱可塑性樹脂製フィラメントを得るためには、前記の原糸の延伸温度、延伸倍率等の選択が重要であるが、使用する熱可塑性樹脂により適宜条件を求めることができる。延伸温度は、形状保持性が発現できる程度に延伸するのに適した温度を、使用する熱可塑性樹脂により適宜選択し、熱可塑性樹脂の融点より低い温度で行う。例えば、原料が高密度ポリエチレンである場合は100℃、好ましくは85〜100℃である。延伸は熱風中、熱水中、熱媒中で行うことが出来るが、熱容量の大きいことから熱水中で行うのが好ましい。延伸倍率は原糸の性状や延伸温度によっても若干異なるが、塑性変形性が発現できる範囲で選択され、通常は降伏点以上破断点以下となるような範囲であって、2〜30倍、好ましくは7〜15倍程度である。延伸倍率が不足すると、90度曲げてから10分経過後の戻り角度が30度以下の熱可塑性樹脂製フィラメント(A)が得られない。
熱可塑性樹脂製フィラメント(A)の着色方法
本発明に係わる熱可塑性樹脂製フィラメントは、熱可塑性樹脂製フィラメント(A)に所望の着色剤を使用して着色することができる。具体的には、熱可塑性樹脂製フィラメント(A)そのものに着色する方法や、熱可塑性樹脂製フィラメント(A)の表面に着色剤を適用する方法をとることができるが、熱可塑性樹脂製フィラメント(A)に着色できるならば、これらの方法に限定されるものではない。
本発明に係わる熱可塑性樹脂製フィラメント(A)は、熱可塑性樹脂製フィラメント(A)そのものを着色する場合には、通常、原料樹脂に着色剤を混合したものから原糸を製造し、これを延伸する。
熱可塑性樹脂製フィラメント(A)の表面に着色剤を適用する場合には、液状の着色剤を塗布したり浸漬したり或いは噴射したりすることで表面に着色剤の被膜を形成して着色することができる。予め複数の前記着色剤を混合し必要な色彩及び色調の着色剤溶液を作りこれを適用しても良いし、ある種の着色剤溶液を適用した後に更に他の着色剤溶液を上から適用しても良い。また熱可塑性樹脂製フィラメント(A)表面の一部にのみ着色したり、着色剤を徐々に変えて色分けしたりても良い。こうすることで、複雑な色彩及び色調となり自然な風合いを表現することが可能となる。また、着色剤が剥げ落ちることを防止する為に、熱可塑性樹脂製フィラメント(A)の表面に予め着色糊剤を塗布してその上に所望の着色剤を適用しても良いし、着色剤の中に着色糊剤を混合したのものを適用しても良い。或いは熱可塑性樹脂製フィラメント(A)表面への着色剤の固着を安定させる為、着色剤を適用した上を固定剤でカバーしたり、熱可塑性樹脂製フィラメント(A)の表面部に着色剤が浸透するような処理を施しても良い。着色剤の浸透が効率よく行われる為には、熱可塑性樹脂製フィラメント(A)の表面を適宜暖めたり、熱可塑性樹脂製フィラメント(A)の表面積を増大する為に凹凸を設けたりすることが好ましい。
熱可塑性樹脂製フィラメント(A)の色は、人工毛髪用繊維の用途に応じ、種々の色彩を選択することができ、例えば、赤、オレンジ、黄、青、紫、白、金、銀にすることができ、色調も適宜選択することができる。また、複数の着色を使用することによって熱可塑性樹脂製フィラメント(A)に縦縞又は横縞をつけたり、グラデーション状にさせたりすることもできる。また、着色物、透明物或いは半透明物の粉粒状物、又は金属破片等の反射物を点在させて、斑点模様を付けたり光沢を持たせることもできる。
人間の頭部の薄毛状態を増毛するカツラ用として使用する場合は、通常は自然な風合いにする為に毛髪に近い、黒色、茶褐色、栗色、灰色、ブロンド、銀色、白色が好ましいが、お洒落用として使用する場合は、好みの色に彩色することもできる。
本発明に係わる熱可塑性樹脂製フィラメント(A)の原料である熱可塑性樹脂には、本発明の目的を損なわない範囲において、成形加工性、帯電防止性、耐水性、溌水性、親水性、耐候性又は抗菌性等を付与する為に、種々の添加剤を添加することができる。これらを添加する場合には、目的とする色彩又は色調を損なわず、或いは添加剤を混合した場合の色彩又は色調を考慮して添加することが好ましい。このような添加剤としては、加工助剤、帯電防止剤、無機充填剤等を例示することができる。より具体的には、加工助剤として低分子量ポリオレフィン、脂環族ポリオレフィン、カルボキシル基や水酸基等を有する合成油、鉱物油、カルナバワックス等の植物油からなるワックス、各種タイプの界面活性剤からなる帯電防止剤あるいはポリオキシオレフィン系樹脂やアイオノマー樹脂などのポリマー型の帯電防止剤等を例示することができる。これらはワックス類や帯電防止剤であれば、例えば、5重量%以下、好ましくは1重量%以下の割合で混合することができる。ワックス類の添加は、原糸の溶融成形や延伸において寸法精度を高めるのに有効であり、無機充填剤の添加は形状保持性の改善に寄与する場合がある。
人工毛髪用繊維
本発明の人工毛髪用繊維は、上記90度曲げた後10分経過後による戻り角度が30度以下の熱可塑性樹脂製フィラメントからなる。
本発明の人工毛髪用繊維は、加工をして人毛用の代替品としたり、人形等の玩具に適用することができる。具体的には、カツラ、ウィッグ、ドールヘアー又はヘアアクセサリーがあげられる。
ウィッグとは、婦人用、紳士用を問わず頭部に面で取り付ける主におしゃれを楽しむための装飾品であり、その装着面積によって部分ウィッグ、ハーフウィッグ、七分ウィッグ、フルウィッグ等に分けられる。一方、ヘアアクセサリーとは、自毛や頭皮に取り付けるウィッグを除く装飾品の総称であり、例えばヘアピンやヘアクリップ等を介して自毛に取り付けて自毛を長く見せるエクステンションや、頭皮に沿って網状に編んで自毛に縫い合わせたり、頭皮や自毛に接着剤等で主に帯状に取り付けるウィービング(単に繊維を束ねたものや、当業者では一般にウエフトとよばれる繊維を腰ミノ状に加工した繊維束、或いはそれらをカール形状を付与した装飾品)等がある。更には、髪の毛に巻く、引っ掛ける、絡める等してアップヘアー等の形を作ったり、髪の毛を束ねたり纏めたりするものも含まれる。ドールヘアーとは、人間の形状をした作り物の頭部、顔部、胴部、手足部等に適用されるものであり、日本髪型に成形して日本人形の髪としたり、マネキンの髪や美容院の髪型見本とすることもできる。またドールヘアーには、動物や植物の形状をした作り物の一部も含まれ、例えば動物の髭、しっぽ又は体毛、植物のツル等があげられる。
本発明の毛髪用繊維を用いてこれら頭飾製品を加工する場合は、種々公知の製法で行える。例えば、ウィッグを作る場合は、繊維束をウィッグ用ミシンで縫製してミノ毛を作り、これをヘアキャップに縫い付けることで使用できる。スタイルを整える場合は、例えば、カールをつけるにはパイプに巻き、ウェーブをつけるには波形の板に挟むだけで良い。更にこれを真っ直ぐにしたいときは手で引き伸ばせば良い。
ドールヘアーとする場合には、例えば人間や動植物の形状をした作り物に植毛する方法を採用することができ、植毛ミシン等により植毛したり、前記毛髪を複数本束ねることのできる固定片を用いて毛髪の端部を固定し、前記固定片を人形類の植毛する部分に固定する方法、金属線間に毛髪を介在させ、前記金属線を縒り合わせて毛髪を金属線に固定してこの金属線を人形類の植毛する部分に固定する方法、人形類の頭部或いは頭皮と一体に成形する方法等が挙げられる。
【発明の効果】
本発明の人工毛髪用繊維は、顔料又は染料等の着色剤で必要に応じて着色することによって、人毛の補助や代替として使用しても不自然ではなく、更にはお洒落用としても使用でき、更には手で形状を整えたり他の形状に変形して反復使用ができるので取り扱いが簡単で、且つその形状をそのまま保持できるので、その特徴を生かして、カツラ、ウィッグ、ドールヘアー、ヘアアクセサリー、まつげ又は髭等に使用することができる。
【実施例1】
熱可塑性樹脂製フィラメントの作製
コモノマーとして1.2重量%のプロピレンを含む高密度ポリエチレン(コモノマー含量はNMRにより測定、ASTM D1238により測定されたMFRが0.35g/10分、ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)により測定された重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)から算出されるMw/Mnが12、ASTM D1505により測定された密度が0.958g/cm、融点135℃)100重量部に対して、着色用のマスターバッチを3重量部の割合で添加し、混合物を得た。マスターバッチは、中密度ポリエチレン(三井化学社製、密度0.943g/cm)100重量部に対して、アンスラキノン系イエロー5重量部及びジスアゾ系イエロー10重量部を混練し、押出成形機でペレット化することにより得たものである。マスターバッチを混合した混合物は、下記の条件により溶融紡糸し、縦方向に延伸倍率15倍で延伸し、アニールした。
押出機:30mmφ(L/D=28、圧縮比2.3)
ダイ開口:30mm×3.6mm
成形温度(シリンダー及びダイ):290℃
冷却槽:1400mm
溶融紡糸時の引取り速度:4m/分
延伸槽:95℃水槽(長さ1700mm)
アニール槽:140℃電熱オーブン、長さ2000mm
延伸時の巻取り速度:52m/分
得られたフィラメントの直径(最大厚み)をノギスで測定すると共に、図1に示す方法で、90度折り曲げ後、10分間保持した後の戻り角度θを測定した。太さは70μmであり、90度折り曲げてから10分経過後の戻り角度は5度であった。
得られた黄色に着色されたフィラメントを、欧米人風の人形の人工毛髪用に使用する為、30cmの長さに切断した。これを複数本束ね、束ねた部分を人形の頭頂部に固定して髪の毛となるようにした。この髪の毛の毛先20cmをロール状のものに軽く巻き付けて、好みの形のウェーブ状となるようにした。ウェーブ状の髪型はそのままの状態で形状を保持でき、人形を飾っておいても髪型が崩れることは無かった。また、後日、更に細かいウェーブにする為、ギザギザに折り曲げたが、手で容易に変形可能でしかもその形を保っていた。
【実施例2】
実施例1で用いた混合物に代えて、マスターバッチとして中密度ポリエチレン(三井化学社製、密度0.943g/cm)にフタロシアニンブルーを混合したものを用いる以外は実施例1と同様の方法でフィラメントを得た。得られたフィラメントの直径(最大厚み)をノギスで測定すると共に、図1に示す方法で、90度折り曲げ後、10分間保持した後の戻り角度θを測定した。太さは70μmであり、90度折り曲げてから10分経過後の戻り角度は5度であった。かかるフィラメントを50本束ね、30cmの長さに切り揃えた後、細かい三つ編を作成し、人工毛髪用繊維とした。毛先の方は三つ編したフィラメントと同じフィラメントを捲回して束ね、根元の方は髪の毛にヘアピンで止め、エクステンション(付け毛)とした。この付け毛は形状保持性を有するので一日中着用していても三つ編みがほどけて形が崩れることはなかった。人工毛髪用繊維は顔料又は染料を変えて種々の色のものができるので、好みに応じて付け毛は色を変えることができた。
【実施例3】
熱可塑性樹脂製フィラメントの作製
コモノマーとして1.2重量%のプロピレンを含む高密度ポリエチレン(コモノマー含量はNMRにより測定、ASTM D1238により測定されたMFRが0.35g/10分、ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)により測定された重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)から算出されるMw/Mnが12、ASTM D1505により測定された密度が0.958g/cm、融点135℃)100重量部に対して、着色用のマスターバッチを3重量部の割合で添加し、混合物を得た。マスターバッチは、中密度ポリエチレン(三井化学社製、密度0.943g/cm)100重量部に対して、アンスラキノン系イエロー5重量部及びジスアゾ系イエロー10重量部を混練し、押出成形機でペレット化することにより得たものである。マスターバッチを混合した混合物は、下記の条件により溶融紡糸し、縦方向に延伸倍率8倍で延伸し、アニールした。
押出量:2.3kg/時間
押出機:30mmφ(L/D=28、圧縮比2.3)
ダイ開口:ノズル径1.4mmφ、20ホール
成形温度(シリンダー及びダイ):290℃
冷却槽:1400mm、温度55℃
溶融紡糸時の引取り速度:4m/分
延伸槽:95℃水槽(長さ1700mm)
アニール槽:熱風オーブン、温度110℃、長さ2000mm
延伸時の巻取り速度:32m/分
得られたフィラメントの直径(最大厚み)をノギスで測定すると共に、図1に示す方法で、90度折り曲げ後、10分間保持した後の戻り角度θを測定した。太さは70μm(33デニール)であり、90度折り曲げてから10分経過後の戻り角度は23度であった。また、得られたフィラメントを350mmの長さにカットし、室温(23℃)で直径10mmの円筒形カーラーに10回巻きつけ、室温で10分間放置した後に、円筒状カーラーを外して室温で5分放置後、保持されている巻きつけ数を測定した。カーラーへの巻きつけは巻きつけた幅が10mm以下となるようにし、フィラメント同士が交差しないようにした。5サンプルについて保持さている巻きつけ数を測定したところ、それぞれ4回、4回、4回、4.25回及び3.75回であり、これにより算出した形状保持率は40%であった。
得られた黄色に着色されたフィラメントを、欧米人風の人形の人工毛髪用に使用する為、30cmの長さに切断した。これを複数本束ね、束ねた部分を人形の頭頂部に固定して髪の毛となるようにした。この髪の毛の毛先20cmをロール状のものに軽く巻き付けて、好みの形のウェーブ状となるようにした。ウェーブ状の髪型はそのままの状態で形状を保持でき、人形を飾っておいても髪型が崩れることは無かった。また、後日、更に細かいウェーブにする為、ギザギザに折り曲げたが、手で容易に変形可能でしかもその形を保っていた。
【実施例4】
実施例3で用いた混合物に代えて、マスターバッチとして中密度ポリエチレン(三井化学社製、密度0.943g/cm)にフタロシアニンブルーを混合したものを用い、樹脂の押出量を8.2kg/時間、延伸時の巻き取り速度を36.8m/分、延伸倍率を9.2倍とした以外は実施例3と同様の方法でフィラメントを得た。得られたフィラメントの直径(最大厚み)をノギスで測定すると共に、図1に示す方法で、90度折り曲げ後、10分間保持した後の戻り角度θを測定した。太さは120μm(100デニール)であり、90度折り曲げてから10分経過後の戻り角度は12度であった。また、得られたフィラメントを実施例3と同様にして形状保持率を求めた。5サンプルについて保持さている巻きつけ数を測定したところ、それぞれ4.5回、4.5回、5回、5回及び5回であり、これにより算出した形状保持率は48%であった。
かかるフィラメントを50本束ね、30cmの長さに切り揃えた後、細かい三つ編を作成し、人工毛髪用繊維とした。毛先の方は三つ編したフィラメントと同じフィラメントを捲回して束ね、根元の方は髪の毛にヘアピンで止め、エクステンション(付け毛)とした。この付け毛は形状保持性を有するので一日中着用していても三つ編みがほどけて形が崩れることはなかった。
【実施例5〜9】
実施例5〜9は以下のようにしてフィラメントを作成した。
【実施例5】
実施例3と同様にして混合物を得て、下記の条件により溶融紡糸し、縦方向に延伸倍率9.5倍で延伸した。
押出量:8.4kg/時間
押出機:30mmφ(L/D=28、圧縮比2.3)
ダイ開口:ノズル径1.4φ、10ホール
成形温度(シリンダー及びダイ):290℃
冷却槽:長さ1400mm、温度55℃
溶融紡糸時の引取り速度:4m/分
延伸槽:95℃水槽(長さ1700mm)
アニール槽:115℃熱風オーブン(長さ2000mm)
延伸時の巻取り速度:38m/分
得られたフィラメントの直径(最大厚み)をノギスで測定すると共に、図1に示す方法で、90度折り曲げ後、10分間保持した後の戻り角度θを測定し、更に形状保持率を求めた。太さは170μm(200デニール)であり、90度折り曲げてから10分経過後の戻り角度は3度であった。また、得られたフィラメントを実施例3と同様にして形状保持率を求めた。5サンプルについて保持さている巻きつけ数を測定したところ、それぞれ5.75回、5.75回、6回、6回及び6.5回であり、これにより算出した形状保持率は60%であった。
【実施例6】
樹脂の押出量を12.7kg/時間とした以外は実施例5と同様にして熱可塑性樹脂フィラメントを得た。得られたフィラメントの直径(最大厚み)をノギスで測定すると共に、図1に示す方法で、90度折り曲げ後、10分間保持した後の戻り角度θを測定し、更に形状保持率を求めた。太さは210μm(300デニール)であり、90度折り曲げてから10分経過後の戻り角度は3度であった。また、得られたフィラメントを実施例3と同様にして形状保持率を求めた。5サンプルについて保持さている巻きつけ数を測定したところ、それぞれ6.5回、6.5回、6.75回、6.75回及び7回であり、これにより算出した形状保持率は67%であった。
【実施例7】
実施例3と同様にして混合物を得て、下記の条件により溶融紡糸し、縦方向に延伸倍率10.5倍で延伸した。
押出量:11.7kg/時間
押出機:30mmφ(L/D=28、圧縮比2.3)
ダイ開口:ノズル径1.4φ、10ホール
成形温度(シリンダー及びダイ):290℃
冷却槽:長さ1400mm、温度55℃
溶融紡糸時の引取り速度:2m/分
延伸槽:95℃水槽(長さ1700mm)
アニール槽:120℃熱風オーブン(長さ2000mm)
延伸時の巻取り速度:21m/分
得られたフィラメントの直径(最大厚み)をノギスで測定すると共に、図1に示す方法で、90度折り曲げ後、10分間保持した後の戻り角度θを測定し、更に形状保持率を求めた。太さは270μm(500デニール)であり、90度折り曲げてから10分経過後の戻り角度は3度であった。また、得られたフィラメントを実施例3と同様にして形状保持率を求めた。5サンプルについて保持さている巻きつけ数を測定したところ、それぞれ7.25回、7.5回、7.7回、7.7回及び8回であり、これにより算出した形状保持率は76%であった。
【実施例8】
コモノマーとして0.35重量%のプロピレンを含む高密度ポリエチレン(コモノマー含量はNMRにより測定、ASTM D1238により測定されたMFRが0.30g/10分、ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)により測定された重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)から算出されるMw/Mnが5.1、ASTMD1505により測定された密度が0.956g/cm、融点135℃)100重量部に対して、着色用のマスターバッチを3重量部の割合で添加し、混合物を得た。マスターバッチは、高密度ポリエチレン(三井化学社製、密度0.960g/cm)100重量部に対して、ジスアゾイエロー6重量部及びUV発光剤微量を混練し、押出成形機でペレット化することにより得たものである。マスターバッチを混合した混合物は、実施例3と同様条件にて、溶融紡糸及び延伸を行い、フィラメントを得た。
得られたフィラメントの直径(最大厚み)をノギスで測定すると共に、図1に示す方法で、90度折り曲げ後、10分間保持した後の戻り角度θを測定し、更に形状保持率を求めた。太さは70μm(33デニール)であり、90度折り曲げてから10分経過後の戻り角度は18度であった。また、得られたフィラメントを実施例3と同様にして形状保持率を求めた。5サンプルについて保持さている巻きつけ数を測定したところ、それぞれ4回、4回、4.25回、4.3回及び4.3回であり、これにより算出した形状保持率は42%であった。
【実施例9】
実施例8と同様にして混合物を得て、下記の条件により溶融紡糸し、縦方向に延伸倍率10.5倍で延伸した。
押出量:11.7kg/時間
押出機:30mmφ(L/D=28、圧縮比2.3)
ダイ開口:ノズル径1.4φ、10ホール
成形温度(シリンダー及びダイ):290℃
冷却槽:長さ1400mm、温度55℃
溶融紡糸時の引取り速度:2m/分
延伸槽:95℃水槽(長さ1700mm)
アニール槽:115℃熱風オーブン(長さ2000mm)
延伸時の巻取り速度:21m/分
得られたフィラメントの直径(最大厚み)をノギスで測定すると共に、図1に示す方法で、90度折り曲げ後、10分間保持した後の戻り角度θを測定し、更に形状保持率を求めた。太さは270μm(500デニール)であり、90度折り曲げてから10分経過後の戻り角度は2度であった。また、得られたフィラメントを実施例3と同様にして形状保持率を求めた。5サンプルについて保持さている巻きつけ数を測定したところ、それぞれ7.5回、7.75回、7.75回、8回及び8回であり、これにより算出した形状保持率は78%であった。
実施例5〜9で得られたフィラメントを、欧米人風の人形の人工毛髪用に使用する為、30cmの長さに切断した。これを複数本束ね、束ねた部分を人形の頭頂部に固定して髪の毛となるようにした。この髪の毛の毛先20cmをロール状のものに軽く巻き付けて、好みの形のウェーブ状となるようにした。ウェーブ状の髪型はそのままの状態で形状を保持でき、人形を飾っておいても髪型が崩れることは無かった。また、後日、更に細かいウェーブにする為、ギザギザに折り曲げたが、手で容易に変形可能でしかもその形を保っていた。
【産業上の利用可能性】
本発明の人工毛髪用繊維は、顔料又は染料等の着色剤で必要に応じて着色することによって、人毛の補助や代替として使用しても不自然ではなく、更にはお洒落用としても使用でき、更には手で形状を整えたり他の形状に変形して反復使用ができるので取り扱いが簡単で、且つその形状をそのまま保持できるので、その特徴を生かして、カツラ、ウィッグ、ドールヘアー、ヘアアクセサリー、まつげ又は髭等に使用することができる。
【図1】

【図2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
90度折り曲げてから10分経過後の戻り角が30度以下で塑性変形可能な熱可塑性樹脂製フィラメント(A)からなる人工毛髪用繊維。
【請求項2】
直径10mmの円筒形カーラーに10回巻きつけ10分放置し、円筒形カーラーを外して5分放置後の形状保持率が30%以上である塑性変形可能な熱可塑性樹脂製フィラメント(A)からなる人工毛髪用繊維。
【請求項3】
熱可塑性樹脂製フィラメント(A)が、ポリオレフィンを主体とするフィラメントである請求項1または2記載の人工毛髪用繊維。
【請求項4】
熱可塑性樹脂製フィラメント(A)が、エチレン系重合体又はプロピレン系重合体を主体とするフィラメントである請求項1または2記載の人工毛髪用繊維。
【請求項5】
熱可塑性樹脂製フィラメント(A)の太さが30〜500μmである請求項1〜4の何れかに記載の人工毛髪用繊維。
【請求項6】
熱可塑性樹脂製フィラメント(A)が、着色されてなる請求項5記載の人工毛髪用繊維。
【請求項7】
請求項1〜6の何れかに記載の人工毛髪用繊維を用いてなるカツラ、ウィッグ、ドールヘアー、ヘアアクセサリー、まつげ又は髭。

【国際公開番号】WO2004/106600
【国際公開日】平成16年12月9日(2004.12.9)
【発行日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−506473(P2005−506473)
【国際出願番号】PCT/JP2004/006989
【国際出願日】平成16年5月17日(2004.5.17)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】