説明

人工水草

【課題】一定期間毎に水中から引き上げて、洗浄、防藻剤の塗布・含浸するなどした上で、再度設置するという面倒なメンテナンス作業を必要とせず、水中に設置しておくだけで長期にわたって防藻作用を維持でき、かつ製造が容易である人工水草を提供すること。
【解決手段】合成樹脂材料により形成される水草において、前記合成樹脂材料に光触媒粒子を含有させ、さらに、当該光触媒粒子の表面の一部を、前記光触媒粒子の光触媒機能に対して不活性な不活性物質により被覆するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱帯魚や金魚などの観賞魚を飼育する水槽内に配置する人工水草に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、熱帯魚や金魚などの観賞魚を水槽で飼育する場合、合成樹脂材料等により作成された人工的な水草を水槽内の水中に設置することがある。この人工的な水草は、長期間水中に設置されるため、藻等の植物や汚れが付着しやすい。藻等が付着して成長したり、汚れが蓄積したりすると、鑑賞用としての美観を損ねるばかりでなく、水槽内の水が汚れてしまい、水中の酸素が不足して観賞魚に悪影響を与えるという問題があった。
【0003】
このような問題に対しては、例えば藻などの付着を回避するために、有機金属を含有する防藻剤を人工水草に塗布或いは含浸させることが行われていた。また、合成樹脂材料に微細に加工した銀、或いは銅などを混入して形成した防藻用合成繊維を用いて人工水草を作成するということも行われていた(特許文献1)。
【0004】
しかし、上記従来の人工水草では、防藻効果が十分とはいえず、しかも防藻効果の持続期間が短いため、一定期間毎に人工水草を水中から引き上げて、洗浄、防藻剤の塗布・含浸するなどした上で、再度設置するという面倒な作業が必要であった。
【0005】
さらに、上記の問題点を解決するものとして、ブロック、人工水草など、水槽内に設置するアクセサリの表面の少なくとも一部の領域に光触媒物質層を設けた水槽用アクセサリがある(特許文献2)。
【0006】
これによれば、水槽内に光が当たると、人工水草の表面に設けた光触媒物質の光触媒機能により、水槽内の有機物質が酸化分解され、それにより藻などの発生・繁殖を抑えることができる、というものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭51−117775号公報
【特許文献2】特開2001−095419号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、人工水草の素材である合成樹脂の表面に直接光触媒物質層を形成すると、光触媒物質の分解力が非常に強力であるため、合成樹脂素材が劣化してしまって人工水草の強度が弱くなり、或いは劣化した部分が破れてしまって、人工水草としての機能を果たせなくなる。したがって、上記従来の人工水草においては、合成樹脂素材の表面に光触媒作用を遮断するバリヤー層を設け、さらにその上に光触媒物質層を形成する必要があった。
それゆえ、人工水草の製造の工程が複雑になってしまう。また、人工水草が高価なものとなってしまうという問題があった。
【0009】
本発明は、上記のような問題点を克服するためになされたものであり、長期間にわたって劣化することなく、防藻作用を維持でき、かつ製造が容易な人工水草を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するため、本発明に係る人工水草は、光触媒粒子を含有した合成樹脂材料により形成され、前記光触媒粒子の表面の一部は、前記光触媒粒子の光触媒機能に対して不活性な不活性物質により被覆されていることを特徴とする。
【0011】
ここで人工水草の素材となる合成樹脂としては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリアミド樹脂、あるいは、ポリオレフィン系、ポリエステル系、ポリ塩化ビニル系、ポリアミド系のエラストマーなどが好適に使用できる。前記合成樹脂は、単独で用いてもよく、複数種を混合して用いてもよい。
【0012】
また、光触媒粒子としては、光触媒機能を発揮するものであればよく、例えば、TiO2、Fe23、Cu2O、In23、WO3、Fe2TiO3、PbO、V25、FeTiO3、Bi23、Nb23、SrTiO3、ZnO、BaTiO3、CaTiO3、KTaO3、SnO2、ZrO2等などが適宜使用できる。本発明に係る人工水草においては、高い光触媒機能を発揮でき、経済性に優れ、しかも取り扱いが容易であることから、TiO2(二酸化チタン)を用いるのが好ましい。
【0013】
さらに、上記不活性物質としては、例えば、シリカやアパタイトなど、上記光触媒粒子の表面に付着可能であり、該光触媒粒子の光触媒機能に対して不活性であって、かつ耐水性に優れているものであれば好適に使用できる。
【0014】
本発明に係る人工水草によれば、光触媒粒子を人工水草の素材である合成樹脂に含有させて構成するので、製造工程が簡易なものとなる。また、当該光触媒粒子は、その表面の一部が上記不活性物質で被覆されているので、人工水草の素材である合成樹脂を分解しにくく、したがって人工水草が劣化しにくい。それゆえ、長期間にわたって防藻作用を維持でき、水槽内の環境を良好に保つことが出来る。
【0015】
尚、光触媒粒子の一部が光触媒機能に対して不活性な不活性物質により被覆されているが、その他の部分は被覆されていないことで、光触媒粒子の表面において光触媒機能が発現され、その機能を十分に発揮させることができる。
【0016】
また、本発明に係る人工水草においては、光触媒粒子が、可視光応答型光触媒粒子であるのが好ましい。このようにすれば、紫外線が実質的に少ない水中環境下においても光触媒機能を十分に発揮することが期待でき、例えば水槽が室内に設置される場合であっても、室内光により光触媒機能が発現される。また観賞魚用の水槽には、観賞のための蛍光灯など、照明装置を設置することが多く、この照明装置の光により光触媒機能が発現されることが期待できる。
ここで可視光とは、380nm以上の波長、より具体的には380nm〜800nmの波長の光を指す。
【0017】
また可視光応答型光触媒とは、前記可視光により励起される性質を有する光触媒をいう。このような可視光応答型光触媒としては、例えば、既に例示した光触媒物質の結晶に窒素原子及び/又は硫黄原子を含有したものが挙げられる。
【0018】
この「窒素原子及び/又は硫黄原子を含有した」とは、光触媒の粒子における光触媒結晶中の本来金属原子又は酸素原子が存在する位置の少なくとも一つに窒素原子又は硫黄原子が存在する状態、すなわち光触媒結晶中に含まれる金属原子又は酸素原子のうち少なくとも一つが窒素原子又は硫黄原子で置換された状態の化合物と、光触媒結晶中の結晶格子間に窒素原子又は硫黄原子がドープされた状態の化合物とのいずれの概念をも包含することを意図する。
【発明の効果】
【0019】
以上のとおり、本発明に係る人工水草は、光触媒粒子を含有した合成樹脂材料により形成され、前記光触媒粒子の表面の一部が、前記光触媒粒子の光触媒機能に対して不活性な不活性物質により被覆されているので、長期間にわたって劣化することなく、防藻作用を維持でき、かつ、製造が容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る人工水草の一実施形態を示す説明図である。
【図2】本発明に係る人工水草の葉の断面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための形態を、図面に基づいて詳細に説明する。
【0022】
図1は、本発明に係る人工水草の一実施形態を示す図であり、複数の人工水草2の下端を重りWに固定して、水槽内に設置する人工水草の置物1を構成している。
【0023】
人工水草2の素材となる合成樹脂は、この実施形態においては、ポリプロピレン樹脂を使用している。ポリプロピレンを用いるのは、プラスチック類の中でも0.90〜0.91と比重が小さいので、水槽内の水中で重りWから上方に起立し、見栄えが良くなるからである。
【0024】
また、ポリプロピレン樹脂は、不活性物質層4で表面の一部を被覆された光触媒粒子3を含有している。この実施形態における光触媒粒子3は、酸化チタンを利用している。この酸化チタンは、チタン原子及び/又は酸素原子の一部を窒素原子及び/又は硫黄原子に置換した所謂窒素ドープ型及び/又は硫黄ドープ型の酸化チタンを利用することにより、波長380nm以上の可視光下において高い光触媒機能を発現できる。さらに、この窒素ドープ型及び/又は硫黄ドープ型の酸化チタンに対して、鉄、銅などの金属イオンを導入して更に光触媒機能を高めたものも好適に使用できる。
【0025】
不活性物質層4を構成する不活性物質は、上述のとおり光触媒粒子3の表面に付着可能であり、該光触媒粒子3の光触媒機能に対して不活性であって、かつ耐水性に優れているものであればよく、例えば、モンモリロナイト、タルク、シリカゲル、シリカゾル、ケイ酸塩、炭化ケイ素、酸化アルミニウム(アルミナ)、ゼオライト、ジルコニア、セラミックス、アパタイト、チタンアパタイト、酸化マグネシウム(マグネシア)、コーディライト、セピオライト、水酸化カルシウム、或いはこれらの混合物若しくは複合体等が好適に使用できる。
【0026】
不活性物質層4を光触媒粒子の表面に形成するには、上記のような不活性物質を水などの溶媒に分散させてその溶液中に光触媒粒子3を所定の時間浸漬して光触媒粒子3の表面に不活性物質が点在する結晶状に析出させたり、マスクメロン状のネット構造として析出させたりする方法がある。あるいは、シランカップリング剤により光触媒粒子3を被覆した後、高温で焼成することでシランカップリング剤に含まれる有機成分を気化させ、細孔を形成する等の方法によることもできる。
【0027】
このようにして形成した不活性物質層4を有する光触媒粒子3を、ポリプロピレン樹脂と混合して人工水草2を成形する。このとき、図1に示すような人工水草2の葉1枚1枚を一体に成形して重りWに固着するようにしてもよいし、例えば細い糸状の葉を多数成形して、これを束ねて人工水草2の葉として構成するようにしてもよい。好ましくは、人工水草2の水に接触する表面積を大きくすればするほど、水に接触する光触媒粒子3が多くなるので、より高い光触媒機能を発現させることが出来る。
【符号の説明】
【0028】
1 人工水草の置物
2 人工水草
3 光触媒粒子
4 不活性物質層
W 重り




【特許請求の範囲】
【請求項1】
光触媒粒子を含有した合成樹脂材料により形成され、
前記光触媒粒子の表面の一部は、前記光触媒粒子の光触媒機能に対して不活性な不活性物質により被覆されていることを特徴とする人工水草。
【請求項2】
光触媒粒子は、可視光応答型光触媒粒子であることを特徴とする請求項1記載の人工水草。




【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−239888(P2010−239888A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−90781(P2009−90781)
【出願日】平成21年4月3日(2009.4.3)
【出願人】(000002462)積水樹脂株式会社 (781)
【Fターム(参考)】