説明

人工的に製造されたスパイダーシルクの使用

【課題】 楽器での弦(2)の使用は、高い応力、特殊な音楽的性質および良好な物理的性質に適合されねばならない。
【解決手段】 このため、人工的に製造されたスパイダーシルクが本発明によれば弦(2)の構成要素である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に糸として作製される人工的に製造されたスパイダーシルクの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
これまでの開発の枠内で糸材料の人工的製造は、糸材料の性質が天然製品のスパイダーシルクに殆ど匹敵するほどに完成した。このような人工的に製造されたスパイダーシルクおよびその人工合成方法は例えば特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4および特許文献5により公知である。人工的に製造されるこれら公知のスパイダーシルクは、医学分野において、網製造またはロープ製造のために、繊維製造、皮革製造または抄紙のために、または表面保護においても、糸または材料として利用することを予定されている。人工的に製造されたスパイダーシルクは達成可能な強度値に関しても、達成可能な延性に関しても、特別好ましい性質を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】欧州特許出願公開第1287139号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第1413585号明細書
【特許文献3】欧州特許出願公開第1609801号明細書
【特許文献4】国際公開第2006/002853号パンフレット
【特許文献5】国際公開第2006/008163号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで本発明の課題は、このような人工的に製造されたスパイダーシルクの特に高い荷重能力と良好な物理的性質とを特に効果的に利用することのできる特別好ましいスパイダーシルクの使用を明示することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この課題は、本発明によれば、人工的に製造されたスパイダーシルクを楽器において弦の構成要素として使用することによって解決される。
【0006】
楽器用弦は通常は、高分子プラスチック、動物の内臓、金属ワイヤ、植物繊維および/または動物の体毛から製造され、一般に撥弦楽器や擦弦楽器において使用される。しかし、弦が楽器に一定の張力下に取付けられており、使用時にかき鳴らされ、つまびかれ、または擦られることによって、楽弦の損耗が強まる。特に弦の張力によって楽器を調律するための楽弦の再締付と損耗度は弦内部に亀裂を生じ、こうして弦全体の破断を生じる。これになお加わるのが使用された弦材料の老化現象である。こうしてまさにオーケストラ用の弦楽器では、楽器および弦の特殊な音楽的性質、なかんずく音質および音響品質を損なわないために比較的頻繁な弦交換は避けることができない。
【0007】
こうして特に、弦の応力が一般に強く、そのことに起因して欠陥弦の交換が比較的頻繁であることを考慮して、その材料特性が特に長寿命で且つ負荷可能である弦材料を使用すべきであろう。それに加えて、弦の特殊な音楽的要件も満たさねばならないであろう。このような材料は一方で特殊な分子配列によって非常に延性を有し、極端に負荷可能であり、高い引張強度を有すべきであり、しかし他方で音楽的仕様に従ってなお弾力性でなければならないであろう。弦材料の良好なリサイクル特性があれば有利である。意外にも判明したことであるが、これらの材料特性と物理的性質は人工的に製造されたスパイダーシルクによって特に十分に達成することができる。それに加えて、人工的に製造されたスパイダーシルクは弦の構成要素として従来の弦材料に比べてなお重量上の利点を有する。
【0008】
予定された使用を考慮して、弦の構成要素として作製される人工的に製造されたスパイダーシルクが例えば寸法設計または組成に関する好適なパラメータ選択によって特殊な音楽的、音色性または音響技術的要件、そして楽器用楽弦に求められる延び強度および引張強度に適合されていると望ましい。これにより、特に、良好な音楽的な音、演奏時の簡単な操作、それに加えて特別長い寿命が達成可能である。
【0009】
高価な楽弦は特に、被覆によって取り囲まれた芯で構成しておくことができる。人工的に製造されたスパイダーシルクは被覆用に使用することができる。しかしながら人工スパイダーシルクは強度値および延性値の点で例えばケブラー(登録商標:アラミド繊維)よりも良好な性質さえ有し、こうして一層良好に演奏可能である。それゆえに、スパイダーシルクの好ましい性質を利用するために、スパイダーシルクをこのように構成された楽弦の芯用に使用すると特に有利である。
【0010】
その際、楽弦の芯がマルチフィラメントとして設けられる細糸構造体で形成されていると好適である。その際、この細糸が人工的に製造されたスパイダーシルクから作製されていると好適である。マルチフィラメントを形成するために複数の細い個別の細糸が1本の「弦」へと縒られる。この弦はなお耐久性材料により単層または多層に被覆しておくことができる。その際の利点はより高い弾力性と演奏性である。代案として、このマルチフィラメントを、細糸構造体が平行に、縒られることなく芯内に配置された構造体内に設けておくこともできる。
【0011】
楽器用弦はそれらの技術的弦構造で区別される。例えば幾つかのギター弦タイプのようなモノフィラメント弦は直径がより細く、好ましくは高音発生用弦として使用される。人工的に製造されたスパイダーシルクの達成可能な強度値や達成可能な延性値に関する良好な性質は、より細い直径と単一ストランド弦構造とを有するモノフィラメント弦の場合に有利である。
【0012】
芯を有する楽器用弦では、芯は有利には人工的に製造されたスパイダーシルクの構成要素も有することができる。例えば幾つかのヴァイオリン弦タイプのように弦の芯が高価なマルチフィラメントとして作製されている場合、マルチフィラメントを形成する個々の糸は好ましくは、人工的に製造されたスパイダーシルクで構成することができる。特にそのことから生じる重量節約、それに加えて人工的に製造されたスパイダーシルクの良好な物理的性質は、弦の芯がマルチフィラメントを有する場合に有利である。
【0013】
擦弦楽器群または撥弦楽器群に分類される楽器において人工スパイダーシルクから製造される少なくとも1つの弦が使用されると有利である。
【0014】
複数本の楽弦を有する楽器、特に擦弦楽器または撥弦楽器が、本発明によれば、人工的に製造されたスパイダーシルクを使用して製造されおよび/またはその構成要素が人工的に製造されたスパイダーシルクである少なくとも1本または若干本数の楽弦を有する。このスパイダーシルクは有利には、音響上または音色上の性質を考慮して特に寸法設計および/または組成に関する好適なパラメータ選択によって、予定された楽弦使用に適合されている。
【0015】
本発明で達成される諸利点は特に、人工的に製造されたスパイダーシルクの楽弦構成要素としての使用が、高い負荷と応力および長寿命に適していることにある。こうして、人工的に製造されたスパイダーシルクの好ましい諸性質、特に比較的高い強度と同時に特に高い延性を、特に良好に利用することができる。さらにこのような使用の場合、楽弦の重量節約と良好な物理的性質が達成される。
【0016】
本発明の1実施例が図面を基に詳しく説明される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】クラシックヴァイオリンの略図である。
【図2】示唆した駒、上駒および糸巻を有するヴァイオリン用の楽弦を示す。
【図3】図2の楽弦を横断面で示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
すべての図において同じ部品に同じ符号が付けてある。
【0019】
図1によるクラシックヴァイオリン1は4本の弦2を含み、弦は共鳴体4に張り渡してある。第1末端、テールピース端部6で、弦2がテールピース8に固定されている。それに対して第2末端、糸巻端部10では、調律機構の糸巻12、いわゆる糸巻箱14に弦が固定されている。このために糸巻12は穴を有することができ、この穴に弦2の糸巻端部10が差し通されている。糸巻端部10は引き続くその領域において何度か糸巻12に巻き掛けられている。糸巻12はその摘み16を介して回転可能であり、これにより弦張力、従って弦2の音が変更可能である。
【0020】
テールピース端部6で弦2は端頭部18を備えており、この端頭部はテールピース8内で固定されている。それに加えてテールピース8にアジャスター20が固定されており、このアジャスターによって各弦2の張力は微調整される。アジャスター20は音楽家にとって、糸巻12を介して可能であるよりもなお一層厳密に弦2の音を調整するのに役立つ。
【0021】
弦2の締付区域22はテールピース8と駒24との間にあり、端頭部18以降にテールピース端部6の領域において部分的に有色糸で巻かれている。有色糸は弦品質を表示する目的を有する。同様に、糸巻12の周りに案内される弦2の糸巻端部10は、音楽家に弦の正確な音領域を表示する有色糸で巻かれている。
【0022】
駒24と指板26との間の領域が演奏領域28であり、この演奏領域内で演奏家は弦2をつまびきまたは弓でひく。ヴァイオリンを演奏するために音楽家は指板26に沿って弦2上でさまざまなコードを押さえ、演奏領域28内の弦2を弓でひく。
【0023】
指板26の別の末端に上駒30が取付けてあり、この上駒を介して弦2は糸巻箱14内の糸巻12へと案内されている。ヴァイオリンの終端部でもある糸巻箱14の終端部がスクロール(渦巻き)32を形成する。
【0024】
共鳴体4の共鳴蓋34にヴァイオリンの両方のf孔36が横方向で駒24の位置に設けられている。f孔36は共鳴体内に閉じ込められた空気の円滑な運動に役立ち、さらに、共鳴蓋34の振動能力は駒脚38の周りの音響中心内で著しく高まる。
【0025】
弦2の外部構造は図2を基に説明される。この図に認めることができるのは端頭部18と、部分的に有色糸で巻かれてテールピース端部6を形成する締付区域22と、普通磨かれた弦本体40と、それに続いてやはり有色糸で巻かれた弦の糸巻端部10である。駒24と上駒30は斜視図で示されている。普通磨かれた弦本体40が音発生区域42であり、この区域は演奏領域28と上駒30に至るまでの指板26上の弦2の領域とを形成する。
【0026】
弦2の内部構造を図3の横断面図が示す。弦2は芯44と被覆46とで構成されている。例えば金属製またはプラスチック製の被覆46はその外皮48が、使用材料に応じて、普通磨かれている。10層までの被覆層でもって被覆46は芯44の周りにしっかり巻き付けられている。
【0027】
芯44は、人工的に製造されたスパイダーシルクから成るほぼ平行に案内された複数の極細糸50を含み、弦2のマルチフィラメント52を形成する。
【0028】
マルチフィラメント52内の極細糸50は互いに撚り合せまたは結び付けておくこともできる。しかしこの実施例では極細糸が直線方向で平行に案内されまたはある程度片方向に縒られており、この片方向の撚りは弦2の1メートル当り約100回までとすることができる。
【0029】
極細糸50の製造および加工に関して、人工的に製造されたスパイダーシルクの良好な物理的性質、すなわち、達成可能な圧縮および引張荷重、弾力性および破断強度が利用される。同様に、人工的に製造されたスパイダーシルクを弦2の被覆46として使用するときにも、人工的に製造されたスパイダーシルクの達成可能な良好な物理的性質が利用される。
【0030】
さらに、マルチフィラメント52と人工的に製造されたスパイダーシルクを構成要素として有する被覆46とから成る弦2はより軽量であり、より長い寿命を有する。それに加えて、このような弦2はその良好な延び強度および引張強度によって一層良好に演奏可能であり、取扱いが簡単である。
【0031】
ヴァイオリン1はなかんずく、使用される弦2の特別長い寿命および高い音楽的品質用に設計されている。このため弦2の幾つかまたはすべては、人工的に製造されたスパイダーシルクから成る単数または複数の構成要素で作製されており、この構成要素は好適なパラメータ選択、例えば組成および糸太さによって各弦2の要件に特別に適合されている。
【0032】
テールピース8はその端領域54においていわゆるテールピースガットを介して予め与えられた荷重の下にエンドピンに固定されている。このテールピースガット用にも、人工的に製造されたスパイダーシルクを材料構成要素として使用することができる。
【0033】
両図にはヴァイオリン1における弦2を例に楽弦としての、またマルチフィラメント52を有する弦2としてのスパイダーシルクの使用が示してある。当然ながら本発明は人工的に製造されたスパイダーシルクの、任意の別の弦楽器、特に擦弦楽器および撥弦楽器における楽弦の構成要素としての使用も含む。
【符号の説明】
【0034】
1 ヴァイオリン
2 弦
4 共鳴体
6 テールピース端部
8 テールピース
10 糸巻端部
12 糸巻
14 糸巻箱
16 摘み
18 端頭部
20 アジャスター
22 締付区域
24 駒
26 指板
28 演奏領域
30 上駒
32 スクロール
34 共鳴蓋
36 f孔
38 駒脚
40 弦本体
42 音発生区域
44 芯
46 被覆
48 外皮
50 極細糸
52 マルチフィラメント
54 端領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
人工的に製造され、特に糸として作製されたスパイダーシルクを使用した楽器用弦(2)の構成要素。
【請求項2】
人工スパイダーシルクを、弦(2)の芯(44)内で使用した請求項1記載の楽器用弦(2)の構成要素。
【請求項3】
人工的に製造されたスパイダーシルクから成る細糸構造体を、弦(2)の芯(44)内でマルチフィラメント(52)として使用した請求項1または2記載の楽器用弦(2)の構成要素。
【請求項4】
人工的に製造されたスパイダーシルクを構成要素の1つとして有する楽器用弦(2)。
【請求項5】
人工的に製造されたスパイダーシルクが芯(44)の構成要素である請求項4記載の弦(2)。
【請求項6】
人工的に製造されたスパイダーシルクがマルチフィラメント(52)として設けられている請求項4または5記載の弦(2)。
【請求項7】
請求項4ないし6のいずれか1つに記載の弦(2)を複数本有する楽器、特に擦弦楽器または撥弦楽器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2010−500621(P2010−500621A)
【公表日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−524122(P2009−524122)
【出願日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際出願番号】PCT/EP2007/007224
【国際公開番号】WO2008/019843
【国際公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【出願人】(509044822)グスタフ ピラッチ ウント コンパニ コマンディートゲゼルシャフト (1)
【Fターム(参考)】