説明

人工皮革およびその製造方法

【課題】本発明は、植物由来原料であるポリ乳酸からなる極細繊維を用いることで石油原料の使用を低減した人工皮革を提供する。
【解決手段】極細繊維束から構成された不織布と織編物が積層一体化されてなる繊維絡合体とその内部に高分子弾性体が含浸された人工皮革であって、以下(1)〜(3)を満足することを特徴とする人工皮革人工皮革。
(1)極細繊維がポリ乳酸からなること
(2)織編物を構成する単繊維の強度が2.0cN/dtex〜4.5cN/dtexであること
(3)高分子弾性体の一部が極細繊維束の外周部と密着していること

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工皮革を構成する原料の一部に石油代替物を使用し、石油製品の使用を抑えて得られる人工皮革に関するものである。さらに詳しくは、石油代替物として、ポリ乳酸を用いても、天然皮革調の充実感や柔軟性と十分な実用強度を兼ね備えた人工皮革に関するものである。
【背景技術】
【0002】
人工皮革は、軽量性や取り扱いの容易さ、品質安定性などの特徴が消費者に認められ、靴、鞄、小物入れに代表される雑貨分野、ソファーの上張り材や車両内装材等のインテリア分野および衣料分野などの幅広い用途で天然皮革の代替素材として使用されている。その一方で近年、地球環境保全および石油代替の見地から、これら人工皮革に対しても環境負荷を低減し、脱石油が求められるようになってきた。このような背景から現在、石油代替物として植物由来プラスチックを使用した人工皮革が求められている。
【0003】
植物由来プラスチックとしては現在、トウモロコシ、バナナ、竹、海藻など様々な植物に含まれるでんぷんを酵素でグルコースに分解した後、乳酸を取り出し人工的に重合させたポリ乳酸がその代表例として用いられ、その耐熱性や強度の面で注目されている。ポリ乳酸は融点が約170℃で溶融紡糸が可能であり、得られたポリ乳酸繊維の強度はポリエステルに匹敵するものである。さらに、ポリ乳酸繊維は焼却の際には燃焼ガス中にNOx等が発生せず、また燃焼熱はポリエチレンやポリプロピレンなどの1/2〜1/3程度である。そして生分解性としても注目されている。
【0004】
このような状況の下でポリ乳酸を材料とする繊維構造物もこれまでに多く商品化が試みられているが、生分解性極細繊維束からなる絡合不織布と高分子弾性体を使用した、天然皮革調の充実感と柔軟性および十分な実用強度を有する人工皮革は未だ上市されていないのが現状である。例えば、ポリ乳酸繊維よりなるニードルパンチ不織布を使用した靴中敷が提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、該発明では短繊維を使用し、かつ高分子弾性体を使用していないため不織布の強力が弱く、このままでは染色工程に耐えられない。また、染色しない場合でも不織布の強力が不十分なため、接着剤を介して織編物等の補強材と積層する必要があり、得られたシート材は充実感に乏しく、表面の折れ皺として挫屈感が大きく、ペーパーライクな物になり易い。
一方で、ポリ乳酸短繊維を使用し、カード、ニードルパンチ処理を施して得られた不織布にポリウレタンバインダーを含浸し、起毛し、次いで、分散染料で染色して得られるシート材では、ポリウレタン中に取り込まれた分散染料が剥落し易い。また、染色堅牢度が不十分であるため、アルカリ条件下で還元・洗浄する必要がある。しかしながら、ポリ乳酸繊維はアルカリ条件下で容易に加水分解されるため、このような方法では実用強度として十分な人工皮革は得られ難い。つまり、ポリ乳酸繊維を短繊維の形状で使用する場合、ウレタンバインダーの使用の有無に関わらず、天然皮革調の充実感と柔軟性および十分な実用強度を兼ね備えた人工皮革は得られ難いものであり、結局商品として上市されていないのが実情である。
【0005】
その他にも、融点が130℃以上の脂肪族ポリエステルを島成分とする海島型断面複合
繊維から得られる単糸繊度が0.01〜1dtexの極細繊維を使用した織編物が提案さ
れており(例えば、特許文献2参照)、さらにはポリ−L乳酸とポリ−D乳酸のブレンド物
からなるポリ乳酸繊維を用いてなる黒発色性に優れた繊維構造物およびその製造方法が提
案されている(例えば、特許文献3および4参照)。しかしながら、これらはいずれも織布、
編布の製造に適した、実質的に高分子バインダーを含まないポリ乳酸繊維構造物に関する
ものであり、衣料用途でのソフト感や発色性は有するものの、天然皮革特有の丸みのある
充実感や自然な外観を有する人工皮革を製造することはできなかった。
【0006】
【特許文献1】特開2004− 49725号公報
【特許文献2】特開2000−226734号公報
【特許文献3】特開2002−227034号公報
【特許文献4】特開2002−227035号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述の課題を解決するものであり、植物由来原料であるポリ乳酸からなる極細繊維を用いることによって、石油原料の使用を低減した人工皮革に関する。さらに詳しくは、天然皮革調の充実感や柔軟性と十分な実用強度を兼ね備えた人工皮革を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち本発明は、極細繊維束から構成された不織布と織編物が積層一体化されてなる繊維絡合体とその内部に高分子弾性体が含浸された人工皮革であって、以下(1)〜(3)を満足することを特徴とする人工皮革である。
(1)極細繊維がポリ乳酸からなること
(2)織編物を構成する単繊維の強度が2.0cN/dtex〜4.5cN/dtexであること
(3)高分子弾性体の一部が極細繊維束の外周部と密着していること
そして、下記(1)〜(5)の工程を順次行うことを特徴とする人工皮革の製造方法である。
(1)ポリ乳酸を島成分、水溶性高分子成分を海成分とした極細繊維発生型繊維から構成されたウェブまたは不織布を単繊維の強度が2.0cN/dtex〜4.5cN/dtexからなる織編物と積層一体化して繊維絡合体を製造する工程
(2)繊維絡合体を面積収縮率で5%以上30%以下で乾熱収縮する工程
(3)繊維絡合体の内部に高分子弾性体水分散液を含浸する工程
(4)赤外線を照射し、繊維絡合体の表面温度を高分子弾性体水分散液のゲル化温度より10℃以上高い温度まで昇温した状態で繊維絡合体の水分率を50%以下とした後、残りの水分を乾燥除去して高分子弾性体を凝固する工程
(5)水溶性高分子成分を熱水で抽出除去し、極細繊維束化する工程
【発明の効果】
【0009】
本発明は、石油原料を用いず植物由来プラスチックを用いても、天然皮革調の充実感、柔軟性に優れ、さらに十分な実用強度を兼ね備えた人工皮革を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
前記した通り、本発明は石油代替物を用い、風合いや物性に優れた人工皮革を得ることである。このため本発明の繊維絡合体を構成する極細繊維は、強度がポリエステルに匹敵する植物由来プラスチックのポリ乳酸である必要がある。本発明に用いるポリ乳酸は、L−乳酸とD−乳酸の光学異性体の共重合体を主成分とするものであるが、ポリL−乳酸を用いることが一般的である。なお本発明においてポリL−乳酸を用いる場合、光学純度は90.0〜99.5%が好ましい。光学異性体であるD−乳酸の含有量が増加すると結晶性が低下するとともに融点が下がり耐熱性に劣る場合がある。また、D体比率が下がると生分解し難くなる傾向がある。一般実用繊維として用いる場合は、耐熱性が必要なことが多く、かかる観点から光学純度は96.0〜99.5%がより好ましい。その他、D−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体、L−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体が挙げられる。ポリ乳酸の融点は80℃以上であることが好ましい。前記ヒドロキシカルボン酸としては、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシペンタン酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシヘプタン酸、ヒドロキシオクタン酸等が挙げられる。紡糸性および得られる繊維強度の点で、ポリ乳酸の数平均分子量は、約20,000〜100,000が好ましく、より好ましくは40,000〜100,000、さらに好ましくは60,000〜100,000である。数平均分子量が20,000未満の場合は、繊維として十分な強度が得られない。逆に100,000を超える場合は、ポリマーの流動性が悪く紡糸し難くなる。
ポリ乳酸繊維には、加水分解抑制剤をポリ乳酸に対し0.1〜15質量%添加していることが好ましい。即ち、ポリ乳酸繊維は耐アルカリ加水分解性が十分でないこと、特に本発明の人工皮革の表面を起毛処理し分散染料で染色してスエード調人工皮革とした場合、染色して得られる人工皮革は、ポリウレタンで代表される高分子弾性体中に取り込まれた染料が剥落し易く、染色堅牢度が不充分となるため、アルカリ条件下で還元・洗浄する必要があるが、ポリ乳酸繊維はアルカリ条件下で加水分解され易く強度低下を招く恐れを解消する点で加水分解抑制剤を添加する。
そして、0.1質量%以上とすることで耐アルカリ加水分解抑制効果と糸物性が優れる。また、15質量%以下とすることで、紡糸安定性に優れる。
加水分解抑制剤としては一般のポリエステルの末端封鎖剤、すなわち末端カルボン酸と反応するカルボジイミドやグリシジル基を有するようなものが好ましく、その中でもカルボジイミドが効果的な点でより好ましく用いられる。加水分解抑制剤の添加方法としては、加水分解抑制剤と樹脂を溶融混練する方法が好ましく用いられる。
本発明の人工皮革の不織布を構成する単繊維繊度は、人工皮革の用途によって任意に選択でき特に制限されるものではないが、得られる人工皮革の風合やスエード調人工皮革としたときの表面外観を向上させる点、から0.0001〜0.5デシテックスが好ましく、0.001〜0.45デシテックスがより好ましく、発色性や高分子弾性体の把持性の点で0.002〜0.3デシテックスが特に好ましい。それらの繊維を得る方法としては極細繊維発生型繊維から極細繊維束と変換する方法が効率的に極細繊維束が得られる点で好ましく用いられる。
【0011】
極細繊維発生型繊維は、海島型複合紡糸繊維、海島型混合紡糸繊維などで代表される海島型繊維や、花弁型や積層型繊維等の多成分系複合繊維のいずれも使用できる。そして、極細繊維化を安定的に行うことが可能な点で海島型繊維を用いることが好ましい。海島型繊維の島成分としては、前述のポリ乳酸を用いるが、海成分としては、溶剤を用いず極細繊維を発生させることが可能であり環境に配慮する点、またポリ乳酸が熱による物性低下を生じ易いことから抽出時の熱付加時間を低減可能な抽出成分として水溶性高分子成分であって紡糸可能な成分であることが重要である。例えば、水溶性高分子成分としては、水溶液(以下、水系溶剤と称することもある。)で抽出処理できるポリマーであれば、公知のポリマーが使用できるが、水系溶剤で溶解可能なポリビニルアルコール共重合体類(以下、PVAと略することもある。)を用いることが好ましい。PVAは容易に熱水で溶解除去が可能であり、抽出処理する際に極細繊維成分や高分子弾性体成分の分解反応が実質的に起こらないため極細繊維成分に用いる熱可塑性樹脂および高分子弾性体成分の限定が無い点、更には環境に配慮した点等から好適に用いられる。
【0012】
上記PVAはホモポリマーであっても共重合単位を導入した変性ポリビニルアルコールであってもよいが、溶融紡糸性、水溶性、繊維物性および抽出処理時の収縮特性などの観点から、共重合単位を導入したPVAであることが好ましく、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン等の炭素数4以下のα―オレフィン類、メチルビニルエーテル、エチレンビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類がより好ましい。また炭素数4以下のα−オレフィン類および/またはビニルエーテル類に由来する単位は、PVA中に1〜20モル%存在していることが好ましい。さらに、α−オレフィンがエチレンである場合において、繊維物性が高くなることから、特にエチレン単位が4〜15モル%変成されたPVAを使用することがより好ましい。
またけん化度は90〜99.99モル%が好ましく、92〜99.98モル%がより好ましく、94〜99.96モル%がさらに好ましく、95〜99.95モル%が特に好ましい。けん化度が90モル%未満の場合には、PVAの熱安定性が悪く熱分解やゲル化によって満足な複合溶融紡糸を行うことができない。一方、けん化度が99.99モル%よりも大きいPVAは安定に製造することが困難である。
【0013】
また、極細繊維発生型繊維を構成する水溶性高分子成分とポリ乳酸成分の質量比率としては、10/90〜60/40の範囲が、極細繊維発生型繊維の断面における水溶性高分子成分とポリ乳酸の分散安定性が良好であることから、発生する極細繊維および極細繊維束が均一となり、得られる人工皮革の風合いに優れる点、スエード調人工皮革とした際に、均一な立毛感が得られる点で好ましい。
【0014】
本発明の極細繊維束を構成するポリ乳酸繊維は、顔料を添加していても良い。また、顔料の添加方法としては、極細繊維を構成するポリ乳酸中における顔料の分散性を良好にするため、極細繊維を構成するポリ乳酸と顔料を押出機などのコンパウンド設備を用いて混練した後ペレット化したマスターバッチ方式で顔料を添加する方法を採用するのが好ましい。また、極細繊維成分には本発明の目的や効果を損なわない範囲で、銅化合物などの安定剤、着色剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、可塑剤、潤滑剤、結晶化速度遅延剤を重合反応時、またはその後の工程で添加しても良い。微粒子の種類は特に限定されず、また、ポリ乳酸には、必要に応じて平均粒子径が10μm以下の微粒子を0.1〜5質量%、重合時又は重合後に添加することができる。例えば、シリカゲル(コロイダルシリカ)微粒子、乾式法シリカ微粒子、酸化アルミニウムを含有する乾式法シリカ微粒子、粒子表面にアルキル基を有し、かつ粒子表面のシラノール基を封鎖した乾式法シリカ微粒子、アルミナゾル(コロイダルアルミナ)微粒子、アルミナ微粒子、酸化チタン微粒子、炭酸カルシウムゾル(コロイダル炭酸カルシウム)微粒子、硫酸バリウムなどの不活性微粒子、およびリン化合物と金属化合物とを析出せしめた内部析出系微粒子等を好ましく例示できる。これらは単独で使用しても2種類以上併用しても良く、紡糸性、延伸性が向上する場合がある。
【0015】
上記の極細繊維発生型繊維の紡糸方法は、公知の方法であれば特に限定することはないが、海島型繊維の海成分として水溶性高分子成分を用いる場合、例えば紡糸温度160〜260℃、紡糸速度100〜1000m/分で紡糸することが紡糸安定性の点で好ましい。次に紡出した後通常延伸するが、紡糸ノズルから吐出された後一旦捲き取りその後延伸する場合と、捲き取る前に延伸する場合があり、いずれの方法でもよい。延伸方法は通常熱延伸されるが、熱風、熱板、熱ローラー、水浴などのいずれを用いて行ってもよい。ただし、極細繊維発生型繊維の一成分を水溶性高分子成分とする場合は、水溶性高分子成分への水分の影響の少ない熱風で延伸することが好ましい。
延伸条件は、十分な強度を有する人工皮革が得られる点で切断延伸倍率の0.55倍以上、さらに0.7倍以上であることが好ましい。
【0016】
本発明の繊維絡合体の製造方法は、例えば、上記で得られる極細繊維発生型繊維を捲縮付与した後ステープル化し、カード処理を行い、クロスラッパーあるいはランダムウエバー等により短繊維ウェブを形成する方法やスパンボンドウエブ等で代表される長繊維ウェブから形成する方法等の公知の方法を用いることができる。ウェブの目付けは100〜1000g/mであることが工程通過性の点で好ましい。
また本発明では、前記した通り、不織布を構成する極細繊維は、強度がポリエステルに匹敵する植物由来プラスチックのポリ乳酸を使用している。しかしながら染色、アルカリ条件下の還元・洗浄等或いはその後の加水分解による物性低下を起こし易い。
そこで本発明では、物性を補強し、それでいて天然皮革様の充実感および柔軟性を損なわないような特定の織編物を挿入する。これによって高温、高湿状況下での処理においても、実用強度を維持することが可能となる。
使用する織編物を構成する繊維は、例えば人工皮革とした場合に、目的の用途における実用上の強度が得られるものを用いることが好ましく、公知のポリマーからなる繊維を選ぶことができ、染色性、物性および風合い等からポリエステル系ポリマーが好ましく用いられる。但し、本発明ではポリ乳酸繊維を補強し、かつ人工皮革としての風合いを損なわないために織編物を構成する単繊維の強度が2.0cN/dtex〜4.5cN/dtexであることが重要である。2.0cN/dtex未満では補強効果が十分でなく、また4.5cN/dtexを超える場合、繊維が硬くなる傾向にあり人工皮革の風合いを損なう。なお、上記強度の範囲は、例えば原料のポリエステル系ポリマーの重合度や、紡糸速度、延伸速度等を適宜調整することにより所望の範囲にすることができる。
また、繊維を複数本束ねた糸により織編物を構成する際には、糸の撚り数は特に制限は無いが、織編物は極細発生型繊維と一体構造を形成させるため、撚数10〜650T/mが好ましく、15〜500T/mがより好ましい。10T/m未満では上記ウェブと絡合した場合に織編物の単糸が崩れ易く、損傷した糸が表面へ大きく露出してしまい、外観を悪化させる恐れがある。また撚数が650T/mを超えると上記ウェブと強固に絡合した一体構造が得られ難く、また天然皮革様の充実感および柔軟性を損ない易い。
織編物の目付けは、目的に応じて適宜設定可能であるが、20〜200g/mであることが好ましく、30〜150g/mがより好ましい。目付けが20g/m未満になると織編物としての形態が極めてルーズになり、目ずれなど布帛の安定性に欠け、また、目付けが200g/mを超えると織編物を構成する糸の間隔が密になり、ウェブを構成する繊維の貫通が不充分で、ウェブと織編物の高絡合化が進まず、不離一体化した構造物を作るのが困難になり、天然皮革様の充実感および柔軟性が得られ難い。
また、織編物の種類としては、経編、トリコット編で代表される緯編、レース編およびそれらの編み方を基本とした各種の編物、あるいは平織、綾織、朱子織およびそれらの織り方を基本とした各種の織物など特に限定されるものではない。組織、密度などいずれを選ぶかは目的により適宜決定すればよい。
【0017】
得られたウェブは、ウェブの表層、下層、あるいは中間層に上記した織編物を積層しニードルパンチにより繊維を絡ませる必要がある。
但し、予めウェブを仮絡合させて、不織布としておくことが工程通過性に優れる点で好ましい。仮絡合の条件としては、不織布と織物を積層一体化する場合の公知の仮絡合条件を用いることができる。次に本発明では、不織布と織編物を積層するが、積層方法は公知の方法で行い特に限定しない。積層の比率としては、得られる人工皮革の用途により変動するが、人工皮革としたときに不織布と織編物の質量比で95/5〜70/30であることが、天然皮革様の充実感および柔軟性および機械的物性を兼ね備える点で好ましい。
ニードルパンチ条件としては、ニードル針のバーブが不織布から積層した織編物の表面まで貫通するような条件を含めトータルのニードルパンチ数が400〜5000パンチ/cmの条件が好ましく、より好ましくは1000〜2000パンチ/cmの条件である。
不織布と織編物を積層、絡合一体化して得られた繊維絡合体の密度は0.20〜0.80g/cmが好ましく、0.25〜0.70g/cmがより好ましい。0.20g/cm未満ではスエード調人工皮革としたときの繊維の立毛感や機械物性が不足し、0.80g/cmを超えると風合いが硬くなってしまう。そして繊維絡合体の厚みは該目付範囲および密度範囲を満たしていれば特に限定されない。
【0018】
次に繊維の毛羽密度を増加させ、外観、風合いの良好なものを得るため、またスエード調人工皮革とした際の耐表面磨耗性の点から繊維絡合体の乾熱収縮を行う。
繊維絡合体を乾熱処理し熱収縮処理を行うことで、繊維絡合体中の繊維密度を増加させ、緻密な立毛外観や風合いの良好なものを得ることができる。さらに熱収縮後は必要に応じ人工皮革表面の平滑性を向上するため熱プレスを行ってもよい。ここで、本発明ではポリ乳酸極細繊維を発生させる極細繊維発生型繊維の抽出成分として水溶性高分子成分を使用している場合、熱水収縮処理を行うと抽出成分が全て溶出し、その後に付与する高分子弾性体がポリ乳酸極細繊維全てに固着することから、風合いを損なう恐れがあるため、乾熱収縮処理することが好ましい。なお、本発明に使用するポリ乳酸の融点未満の温度で行うこと、特に20℃以下の条件下で乾熱収縮処理を行うことが熱による劣化を生じ難いことから好ましい。特に繊維絡合体を面積収縮率が5%以上30%以下となるような条件で乾熱収縮することが好ましい。5%以上とすることで、工程通過性を向上するとともに得られる人工皮革の物性および充実感のある風合いとすることが可能であり、30%以下とすることで、柔軟で充実感のある風合いとすることができる。
得られた繊維絡合体の目付は得られる人工皮革の用途によって任意に選択でき特に制限されるものではないが、300〜1500g/mであることが好ましい。また見掛け密度は0.25〜0.80g/cmが好ましく。0.26〜0.70g/cmが好ましい。0.25g/cm以上とすることで人工皮革の機械物性や充実感ある風合いが得られやすく、更にスエード調人工皮革としたときの繊維の緻密な立毛感が得られる。0.80g/cm以下とすることで風合いを柔軟とすることができる。そして繊維絡合体の厚みは該目付範囲および密度範囲を満たしていれば特に限定されない。
【0019】
本発明において、繊維絡合体の内部に含有する高分子弾性体は人工皮革に用いられる公知の樹脂を用いることが可能である。そして、付与方法は特に制限は無いが、極細繊維発生型繊維の一成分としてポリビニルアルコールに代表される水溶性高分子成分を用いる場合、高分子弾性体の水分散液として含浸することが好ましい。これにより、高分子弾性体を繊維絡合体内部に含浸後ゲル化凝固し乾燥する際に、極細繊維発生型繊維の外周部を構成する水溶性高分子成分を高分子弾性体水分散液中の水によって特定の範囲溶解させることで極細繊維束の外周から繊維束内部に高分子弾性体が浸透し、乾燥後に固化した高分子弾性体の一部を極細繊維束の外周部に密着させることができ、さらに極細繊維束の内部に特定の範囲で固着存在させることが可能となる。そして、最終的に人工皮革さらにはスエード調人工皮革として仕上げた場合、風合いが柔らかく、高分子弾性体による極細繊維の把持性が良好であり、毛羽抜けなどによる品質低下が大幅に抑制できるものを得ることができる。さらには、極細繊維としてポリ乳酸を用いているため極細繊維が軟化し易く、極細繊維束の外周部に密着した高分子弾性体とポリ乳酸が強固に固着するため、その後の乾燥処理、染色処理を通過した後も高分子弾性体がポリ乳酸から脱落し難く、その結果、得られる人工皮革を構成する不織布内部のポリ乳酸繊維と高分子弾性体からなる不織布層が非常に緻密な構造を形成する。一方、織編物は織編物を構成する繊維の軟化温度がポリ乳酸の軟化温度より高いことが好ましく、30℃以上高いことがより好ましく、50℃以上高いことが特に好ましい。上限は特に限定しないが250℃以下とする。ポリ乳酸繊維より軟化温度を高くすることで、織編物に固着した高分子弾性体は含浸以降の乾燥処理や染色処理を行うことによって特に脱落し易く、高分子弾性体が織編物を構成する糸と空隙を有して存在する。その結果、極細繊維が緻密で毛羽密度は向上するものの、風合いは柔らかく品位に優れた人工皮革を得ることが可能となる。
その他、織編物を構成する糸をPVA等でコーティングして高分子弾性体を付与後に糸にコーティングしたPVAを除去することでより空隙を大きくすることができる。
そして、この空隙を有することで、表面側は緻密構造、裏面側は粗な構造となり、人工皮革の厚み方向の密度斑が形成され、より天然皮革様の風合いと表面物性あるいはスエード調人工皮革としたときの優れたライティング効果を両立することが可能となる。
ここで記載している空隙とは、織編物を構成する糸の外周と高分子弾性体の間に存在する空間のことをいい、高分子弾性体が織編物を構成する糸の内部に浸透している割合として浸透率1%未満の状態をいう。そして、部分的にも浸透していない状態が好ましく。実質的に糸に対し接着していない状態がより好ましい。
これらの状態は電子顕微鏡写真にて空隙の存在を観察することで確認ができる。
浸透率とは、高分子弾性体の一部が織編物を構成する糸の外周部(糸を構成する繊維束断面において、糸の最外周を構成する繊維の糸内部から最も離れた箇所をそれぞれ線で結んでなる周囲)から糸の内部に浸透する比率を面積比((該外周部の内部に浸透している高分子弾性体の面積)/(該外周部の内部の面積)×100%)として求めることができる。
【0020】
繊維絡合体の内部に高分子弾性体水分散液を含浸する場合、ディップニップ方式などの公知の技術を用いることができるが、繊維絡合体が水溶性高分子成分とポリ乳酸からなる海島型繊維から構成された不織布を用いた繊維絡合体の内部に高分子弾性体水分散液を含浸する場合、ニップ処理による圧力のため海島型繊維中の水溶性高分子成分が搾り出され、高分子弾性体水分散液が汚染されてしまう。このため、該組み合せにおいては、ディップニップ方式ではなく、水溶性高分子成分に対する高分子弾性体水分散液の浸透性を利用し、高分子弾性体水分散液を大きく加圧供給することなく、繊維絡合体への高分子弾性体水分散液の供給量および濃度を制御するだけで所定量の樹脂量が含浸可能である樹脂含浸方法、例えばリップコーター等で含浸する方法を用いることが好ましい。
【0021】
また含浸される高分子弾性体水分散液は、凝固後に高分子弾性体が繊維絡合体の内部に実質的に非連続に存在することが、高分子弾性体による繊維の把持性と柔軟な風合を兼ね備える点で好ましく、高分子弾性体:繊維絡合体=5:95〜60:40の質量比となるように付与することが好ましい。人工皮革とする場合、高分子弾性体は繊維を結束するバインダーとしての効果を得るものであり、高分子弾性体の比率が5以上の場合、バインダー効果が充分となり、また60以下場合、引裂強力や引張強力などの物性に優れ、柔軟な風合いとなる傾向がある。
【0022】
本発明では、繊維絡合体へ高分子弾性体水分散液を含浸した後、マイグレーションを抑制し、かつ製品の風合いを保持しつつ高分子弾性体による不織布を構成するポリ乳酸極細繊維の把持性を保つために、水分が完全に蒸発する前に不織布を構成する海島型繊維の海成分を構成する水溶性高分子成分の一部を溶解させつつ高分子弾性体水分散液を急激にゲル化させる。なお、外観品位をより向上させ、かつ極細繊維束と密着し過ぎて製品の風合いを損なわないため、高分子弾性体の一部が極細繊維束の外周部(極細繊維束の束断面において、極細繊維束の最外周を構成する極細繊維の極細繊維束内部から最も離れた箇所をそれぞれ線で結んでなる周囲)から束の内部に面積比((該外周部の内部に浸透している高分子弾性体の面積)/(該外周部の内部の面積)×100%)で1〜30%の範囲で浸透して存在していることが好ましい。さらにスエード調人工皮革として仕上げた場合、表面の極細繊維が素抜けないよう高分子弾性体で極細繊維束をしっかりと把持しつつ、外観品位上、表面物性上および風合いの点で適度に極細繊維がばらける必要がある点から、1.5〜25%であることがより好ましく、2〜20%であることが特に好ましい。そこで本発明では、水溶性高分子成分を海成分およびポリ乳酸を島成分としてなる海島型繊維から構成された不織布及び織編物の内部に高分子弾性体水分散液を付与した繊維絡合体を急激に加熱昇温し、同時に水溶性高分子成分を一部溶解するため、赤外線の照射処理を行う。本発明で用いる赤外線は、繊維絡合体の表面と内部の昇温に有利である点、水の赤外線吸収波長2.6μmを含んでいるため高分子弾性体水分散液の昇温に非常に有利である点および高分子弾性体水分散液を付与した該繊維絡合体の赤外線の吸収と透過のバランスが良い点で最大エネルギー波長2〜6μmの赤外線を用いることが好ましい。そして、赤外線を照射し、繊維絡合体特に不織布側の表面温度を高分子弾性体水分散液のゲル化温度より10℃以上高い温度まで昇温した状態で繊維絡合体の水分率を50%以下とした後、残りの水分を乾燥除去して高分子弾性体を凝固する。
【0023】
繊維絡合体特に不織布側の表面温度の昇温時間としては、1分以内に繊維絡合体の表面温度が高分子弾性体水分散液のゲル化温度より10℃以上高い温度まで昇温させることが好ましい。赤外線照射時の不織布側の表面温度が高分子弾性体水分散液のゲル化温度+10℃以上であれば繊維絡合体内部の温度が高分子弾性体水分散液のゲル化温度以上に到達しており高分子弾性体の感熱ゲル化を促進させ易い。そして、不織布側の表面温度を高分子弾性体水分散液のゲル化温度+10℃以上に昇温する時間を1分以内に抑えることが、高分子弾性体水分散液がマイグレーションを引き起す前に容易に感熱ゲル化し易い点で好ましい。また該処理では昇温中に高分子弾性体水分散液の水分により水溶性高分子成分が一部溶解し、その結果極細繊維成分が適度に露出し高分子弾性体が直接接触できるため、実質的に不織布全層に渡り高分子弾性体の一部が極細繊維束の外周部から束の内部に面積比で1〜30%の範囲で浸透した構造が得られ易い点からも好ましい。
そして、赤外線照射によって繊維絡合体を昇温させた状態で該繊維絡合体が含有する水分率を50%以下とする必要がある。50%以下とすることで、後の加熱乾燥時に繊維絡合体の不織布を構成する海島型繊維の水溶性高分子成分が適度に溶解するため、高分子弾性体が直接極細繊維束の内部に前述の面積比で1〜30%の範囲で浸透する割合が高くなり、また後の加熱乾燥時にマイグレーションを生じ難くすることで、人工皮革の風合いが柔軟なものとなる。また、水分率の下限は特に限定しないが、乾燥効率の点で10%以上とすることが好ましい。
なお、ここでいう水分率は、以下の計算方法によって求めることができる。
[水分率]
H=(I−J)/J×100
H : 水分率(%)
I : 高分子弾性体水分散液を含浸し、赤外線照射後の繊維絡合体の目付(g/m
J : 高分子弾性体水分散液を含浸し、凝固乾燥後の繊維絡合体の目付(g/m
また、赤外線照射を行う際は、繊維絡合体の両表面を均等に加熱するため、両面から同一条件で照射することが好ましく、両面から揮発する水分揮発状態を均一とするため、縦型であることがより好ましい。
【0024】
赤外線照射処理後、繊維絡合体中に残った50%以下の水分を蒸発させるために、また含浸凝固させた高分子弾性体をより強固に不織布繊維に密着させることを目的に加熱乾燥処理を行う。加熱乾燥処理を行わず得られた繊維絡合体の樹脂固着物を用いてスエード調人工皮革として仕上げる場合、水溶性高分子成分を抽出除去する極細繊維化処理や染色処理時の熱水により高分子弾性体が膨潤、脱落し、表層の繊維が高分子弾性体で不充分に把持された状態であり、外観品位が劣ったものとなってしまう。
なお、加熱乾燥処理方法としては、熱風乾燥、湿熱乾燥など公知の方法でよく、加熱乾燥処理温度としては、高分子弾性体の凝固特性に応じて任意に設定できる。
【0025】
次に、水溶性高分子成分およびポリ乳酸からなる極細繊維発生型繊維から構成される繊維絡合体へ高分子弾性体水分散液を含浸・凝固した後、極細繊維および高分子弾性体の非溶剤であり且つ抽出除去成分の溶剤である処理液、即ち水溶液で水溶性高分子成分を抽出除去し、極細繊維発生型繊維を極細繊維束化する。
特に水溶性高分子成分を抽出除去する場合、環境問題の点から熱水などで抽出除去成分を除去して極細繊維発生型繊維を極細化する方法が好ましい。特に熱水抽出する場合は、熱水温度として60〜100℃の温度が好ましく、80〜95℃がより好ましい。60℃以上で水溶性高分子成分の除去を行うことで抽出時間を短縮することが可能である。したがって、熱水温度は高いほど好ましい。また、100℃以下とすることで、付与した高分子弾性体と極細繊維の結束がゆるみ難く、高分子弾性体が有する繊維把持性が維持される易くなる。
極細繊維束化するための設備としては、特に限定はしないが、前述の織編物に付着している高分子弾性体を脱落させ易い点で、液流処理装置が好ましく、サーキュラーやウインス装置を使用することが好ましい。
【0026】
本発明では、染色工程の前または後に人工皮革の不織布側の面をバフィング処理等公知の起毛処理を施し、極細繊維を主体とした極細繊維立毛面を形成させてスエード調人工皮革とする。厚み調整を行う場合、極細繊維発生型繊維を極細化する前あるいは後にバフィング処理すればよいが、表面を起毛処理する場合、人工皮革の表面に高分子弾性体水分散液を付与乾燥し、極細繊維束を構成する極細繊維の一部を固着させた後、起毛処理を行うことが起毛処理の安定性、均一な毛羽長を安定的に得る点で好ましい。また必要により、揉み等の柔軟化処理、逆シールのブラッシングなどの表面仕上げ処理を行うことができる。本発明で得られるスエード調人工皮革は風合いが良好であり、かつ外観の良好な品質のものが得られる。
また、得られた人工皮革の表面に高分子弾性体を付与後、公知の表面仕上げ方法により銀面調人工皮革とすることができる。そして必要に応じて加圧加熱処理や分割処理などで所望の厚みとする。
【0027】
得られた人工皮革の染色は、分散染料を用い、必要に応じ分散剤、pH調整剤および金属イオン封鎖剤等を用い、高温高圧染色機により行う。染料としてカチオン染料やその他反応性染料を使用しても染色は可能である。染色の際の浴比は人工皮革の質量に対し10〜40倍が好ましい。また、染料濃度は、発色性の点で1〜35%owfの範囲が好ましい。上記にすることで染色摩擦堅牢度や洗濯堅牢度等の実用物性上と発色性を兼ね備えた人工皮革を得ることができる。染色温度は115〜150℃、好ましくは120〜140℃の温度範囲で行う。115℃以上とすることで、ポリ乳酸繊維中に分散染料が充分に拡散し易い。150℃以下とすることで、人工皮革を構成しているポリウレタン等で代表される高分子弾性体の加水分解が起こり難く、得られるスエード調人工皮革の強度低下、毛羽脱落およびピリング等が発生し難くなる。
次いで、2〜10g/lの還元剤および還元剤と等量の還元助剤を用いてアルカリ剤存在下で、50〜80℃の温度で該人工皮革中の過剰染料を還元分解、洗浄除去する。50℃未満の場合、高分子弾性体中の余剰染料の洗浄が不十分となり易い。また、80℃を越えると繊維中の染料まで還元洗浄してしまうこととなる。そして、還元剤は二酸化チオ尿素やハイドロサルファイト等のポリエステルの還元洗浄に一般的に用いられるものが好ましく使用できる。還元剤量が2g/lより少ない場合、充分に高分子弾性体中の染料を分解、洗浄しにくく、色斑の発生や色目の再現性低下を引き起こしやすい。また、10g/lを越える場合には染料の分解、洗浄効果は変わらずコスト的に不利となる。
次いで、公知の方法によって酸化、中和処理を行い、染色を完了させる。
【0028】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0029】
実施例1
ポリ乳酸(カーギル社製 融点170℃)に加水分解抑制剤としてカルボジイミドを有するスタバクゾールP(ラインケミー社製)をポリ乳酸固形分に対し2質量%添加したものを島成分とし、エチレン単位10モル%含有し、けん化度98.4モル%、融点210℃のポリビニルアルコール共重合体(株式会社クラレ製 エクセバール)を海成分とし、質量比を海/島=30/70とした64島の海島型繊維を紡糸温度240℃、紡糸速度800m/分で複合紡糸した後、切断延伸倍率の0.75倍の条件で延伸することで単繊度4.6dtex、極細化後の島繊維0.043dexの繊維を得た。この繊維を捲縮処理した後繊維長51mmにカットし、カード処理することで短繊維ウェブを作成した。
次に、56dtex/24fの仮撚り加工を施したポリエステル(軟化温度240℃、単繊維の強度3.5cN/dtex)製の糸に、600T/mの追加撚糸加工をした後、織り密度127本×95本/inchで織り加工を行い、目付55g/mの平織物を得た。上記ウェブと平織物を積層した後1500パンチ/cmの条件でニードル処理し、150℃の乾熱収縮により約15%程度面積収縮させ、目付け380g/m、見掛け密度0.288g/cm、厚み1.45mmの繊維絡合体を得た。
【0030】
次にポリカ/エーテル系ポリウレタン水分散エマルジョン (日華化学株式会社製 エバファノール APC−28)に増粘剤(日華化学株式会社製ネオステッカー)、耐光剤(日華化学株式会社製 NKアシストHAL)をエマルジョンに添加して水で希釈し、濃度10質量%、密度1.02g/cmである高分子弾性体水分散液を得た。この高分子弾性体水分散液のゲル化温度は60℃であった。
【0031】
次に含浸設備としてリップコーター設備(株式会社ヒラノテクシード製 リップダイレクト方式)を用い、高分子弾性体水分散液を(極細繊維化された繊維絡合体+織編物繊維)/高分子弾性体=80/20の質量比となるように含浸した。高分子弾性体水分散液含浸後、最大エネルギー波長2.6μmの赤外線を97Vで60秒間照射し、繊維絡合体表面温度を1分以内に100℃まで上昇させた。また赤外線照射60秒後の水分率は約40%であった。その後、155℃の熱風乾燥機で5分20秒間加熱乾燥し、水分を完全に蒸発させると共に高分子弾性体をキュアリングし繊維絡合体に固着した。その後、90℃の熱水でポリビニルアルコール共重合体を抽出すると同時に織物に付着していたポリウレタンを脱落させることで人工皮革を得た。得られた人工皮革はシワ、伸びの発生が無く良好な外観であり、皮革様の均一な風合いや優れた物性を有するものであった。
【0032】
次に表面を平滑化した後、分散染料としてSumikaron UL染料(住友化学株式会社製)のYellow 3RF 0.24owf%、Red GF 0.34owf%、Blue GF 0.70owf%、アンチフェードMC−500(明成化学株式会社製)、2owf%、ディスパーTL(明成化学株式会社製)1g/Lを用い105℃で30分高圧染色を行った。その後、ソーダ灰を用い60℃、15分還元処理を行い、60℃、20分モノゲン洗浄を行った。得られた染色品を400番手のペーパーを用いバフィング処理によって表層の繊維を整毛させ、スエード調人工皮革を得た。得られた人工皮革は高分子弾性体の一部がポリ乳酸極細繊維束の外周部と密着し、高分子弾性体の一部が極細繊維束の外周部から束の内部に面積比で3%の範囲で浸透して存在し、ポリ乳酸極細繊維からなる不織布層が非常に緻密な構造を有し、かつ織編物を構成する糸の周囲は空隙を有して存在していた。この人工皮革の強力は、タテ35.9kg/2.5cm、ヨコ28.5kg/2.5cm、引裂強力がタテ1.9kg、ヨコ2.0kgであり機械物性の優れたものであった。この人工皮革を70℃−95%RHのジャングルテストを行った後の強力はタテ34.5kg/2.5cm、ヨコ28.0kg/2.5cm、引裂強力がタテ1.5kg、ヨコ2.1kgであり、物性が大きく低下することなく、実用に耐える機械物性の優れたものであった。また、折れ、シワなどがなく天然皮革調の充実感や柔軟性が非常に良好であり、かつ毛羽長が揃い、良好な外観を有していた。
【0033】
実施例2(織編物強度変更)
実施例1の織編物を構成する単繊維の強度として4.0cN/dtexのものを使用すること以外は実施例1と同様の処理を行った。その結果、得られた人工皮革の物性は大きく低下することなく、実用に耐える機械物性の優れたものであった。また、折れ、シワなどがなく天然皮革調の充実感や柔軟性が非常に良好であり、かつ毛羽長が揃い、良好な外観を有していた。
【0034】
比較例1(織編物未挿入)
実施例1の織編物を未挿入とした以外は実施例1と同様の処理を行った。その結果、得られた人工皮革の強力は、タテ18.7kg/2.5cm、ヨコ14.1kg/2.5cmであり、機械物性に劣ったものであった。また、この人工皮革を70℃−95%RHジャングルテスト処理した後の強力はタテ6.4kg/2.5cm、ヨコ4.8kg/2.5cmと物性が大幅に低下していた。
【0035】
比較例2(織編物物性変更)
実施例1の織編物を構成する繊維の強度として1.5cN/dtexのものを使用すること以外は実施例1と同様の処理を行った。その結果、得られた人工皮革は折れ、シワなどがなく天然皮革調の充実感や柔軟性が非常に良好であり、かつ毛羽長が揃い、良好な外観を有しているものの、物性は大きく低下しており、実用に耐える機械物性の劣ったものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
極細繊維束から構成された不織布と織編物が積層一体化されてなる繊維絡合体とその内部に高分子弾性体が含浸された人工皮革であって、以下(1)〜(3)を満足することを特徴とする人工皮革。
(1)極細繊維がポリ乳酸からなること
(2)織編物を構成する単繊維の強度が2.0cN/dtex〜4.5cN/dtexであること
(3)高分子弾性体の一部が極細繊維束の外周部と密着していること
【請求項2】
高分子弾性体が織編物を構成する糸と空隙を有して存在している請求項1に記載の人工皮革。
【請求項3】
前記ポリ乳酸が加水分解抑制剤をポリ乳酸に対し0.1〜15質量%含有している請求項1または2に記載の人工皮革。
【請求項4】
織編物を構成する繊維の軟化温度がポリ乳酸の軟化温度より30℃以上高い請求項1〜3いずれか1項に記載の人工皮革。
【請求項5】
高分子弾性体の一部が極細繊維束の外周部から束の内部に面積比で1〜30%の範囲で浸透して存在している請求項1〜4いずれか1項に記載の人工皮革。
【請求項6】
請求項1〜5いずれか1項に記載の人工皮革の不織布側の面が起毛処理され、更に分散染料で染色およびアルカリ条件下で還元洗浄されてなるスエード調人工皮革。
【請求項7】
下記(1)〜(5)の工程を順次行うことを特徴とする人工皮革の製造方法。
(1)ポリ乳酸を島成分、水溶性高分子成分を海成分とした極細繊維発生型繊維から構成されたウェブまたは不織布を単繊維の強度が2.0cN/dtex〜4.5cN/dtexからなる織編物と積層一体化して繊維絡合体を製造する工程
(2)繊維絡合体を面積収縮率で5%以上30%以下で乾熱収縮する工程
(3)繊維絡合体の内部に高分子弾性体水分散液を含浸する工程
(4)赤外線を照射し、繊維絡合体の表面温度を高分子弾性体水分散液のゲル化温度より10℃以上高い温度まで昇温した状態で繊維絡合体の水分率を50%以下とした後、残りの水分を乾燥除去して高分子弾性体を凝固する工程
(5)水溶性高分子成分を熱水で抽出除去し、極細繊維束化する工程
【請求項8】
請求項7で得られた人工皮革の不織布側の面を起毛処理し、分散染料で染色した後アルカリ条件下で還元洗浄を行うスエード調人工皮革の製造方法。

【公開番号】特開2008−121128(P2008−121128A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−303536(P2006−303536)
【出願日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】