説明

人工糖脂質

【課題】 GlcNAc、GalおよびFucの糖を含むオリゴ糖に脂質が結合した、人工糖脂質およびこれと反応するモノクローナル抗体を提供することにある。
【解決手段】 R→N−アセチルガラクトサミニトール構造を有する糖アルコールと脂質が反応して得られる人工糖脂質であって、前記RがGlcNAc、GalおよびFucで表される糖を含む(ただし、RがGal−(Fuc−)GlcNAcβ1−6→の場合を除き、Fuc−Gal−GlcNAcβ1−6→の場合はFucα1−2Galβ1−4GlcNAcβ1−6→に限る。)、前記人工糖脂質。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工糖脂質およびこれと反応するモノクローナル抗体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生体内において糖鎖が重要な機能を果たすことがわかってきており、糖鎖の構造と機能に関する研究が進められている。特に糖脂質糖鎖や糖タンパク質糖鎖の生理的機能の研究が広く行なわれている。たとえば、糖脂質をプラスチック表面に固相化したり、薄層クロマトグラフィー(TLC)プレート上で展開分離した後、そこに抗体や細菌、ウィルス等を重層し、それらの糖脂質糖鎖との反応性を調べる技術等の研究が行なわれている。一方、糖タンパク質糖鎖の機能を解析する手法の一つとして、糖タンパク質より得たオリゴ糖を脂質に結合させて人工糖脂質を作製し、生理活性物質との反応性を調べることで、糖タンパク質糖鎖の機能を解析する手法が知られている(例えば非特許文献1、2)。
【0003】
しかし、これまでN−アセチルグルコサミン(以下GlcNAc)、ガラクトース(以下Gal)およびフコース(以下Fuc)等といった糖を含む構造、特に血液型A型のエピトープ構造を有する糖鎖に、脂質が結合した人工糖脂質は知られていなかった。
【非特許文献1】Eur.J.Biochem.189,499-507(1990)
【非特許文献2】Eur.J.Biochem.217,645-655(1993)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、本発明が解決しようとする課題は、GlcNAc、GalおよびFucを含む糖鎖に脂質が結合した、人工糖脂質およびこれと反応するモノクローナル抗体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記問題点に鑑み鋭意検討した結果、R−(N−アセチルガラクトサミニトール)構造を有する糖アルコールと脂質から得られる人工糖脂質であって、前記RがGlcNAc、GalおよびFucで表される糖を含む(ただし、RがGal−(Fuc−)GlcNAcβ1−6→の場合を除き、Fuc−Gal−GlcNAcβ1−6→の場合はFucα1−2Galβ1−4GlcNAcβ1−6→に限る)前記人工糖脂質が、糖タンパク質糖鎖の機能の解析に有用であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、R−(N−アセチルガラクトサミニトール)構造を有する糖アルコールと脂質から得られる人工糖脂質であって、前記RがGlcNAc、GalおよびFucで表される糖を含む(ただし、RがGal−(Fuc−)GlcNAcβ1−6→の場合を除き、Fuc−Gal−GlcNAcβ1−6→の場合はFucα1−2Galβ1−4GlcNAcβ1−6→に限る。)、前記人工糖脂質に関する。
【0007】
また、本発明は、R−(N−アセチルガラクトサミニトール)構造を有する糖アルコールと脂質から得られる人工糖脂質であって、前記RがGlcNAc、Gal、GalNAc(N−アセチルガラクトサミン)およびFucで表される糖を含む、前記人工糖脂質に関する。
【0008】
さらに、本発明は、R−(N−アセチルガラクトサミニトール)構造を有する糖アルコール(RはGlcNAc、GalおよびFucで表される糖を含む糖鎖である。ただし、RがGal−(Fuc−)GlcNAcβ1−6→の場合を除き、Fuc−Gal−GlcNAcβ1−6→の場合はFucα1−2Galβ1−4GlcNAcβ1−6→に限る)を、酸化剤と反応させる工程、脂質と反応させる工程、還元剤と反応させる工程を含む、人工糖脂質の製造方法に関する。
【0009】
また、本発明は、前記人工糖脂質の糖鎖部分を認識するモノクローナル抗体に関する。
そして、本発明は、前記モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマに関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の人工糖脂質は、天然の糖脂質と同様に取り扱うことができるため、リポソームの作製技術や、糖脂質をプラスチック表面やTLCプレート等に固相化し、生理活性物質と反応させる技術に利用することができる。すなわち、糖および糖鎖は脂質と結合させることによって物理的・化学的性質が変化するため、人工糖脂質はTLC、HPLC等を用いることで、構造上極めて類似した糖鎖を容易に分離することができる。
【0011】
本発明の人工糖脂質のうち、Rが、Fucα1−2(GalNAcα1−3)Galβ1−3/4GlcNAcβ1−6→、Fucα1−2Galβ1−4GlcNAcβ1−6→またはFucα1−2(Galα1−3)Galβ1−3/4GlcNAcβ1−6→である人工糖脂質にあっては、血液型A型、H型またはB型の糖鎖構造を有するため、血液型A型、H型またはB型抗体作製の免疫原として用いることができる。
また、脂質が、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン(以下DPPE)である人工糖脂質にあっては、プラスティックやTLCプレートの表面にジパルミトイルホスファチジルエタノールアミンが配列することにより、糖鎖部分の配向が制御され、より一層抗体等との反応性を高めることができる。
【0012】
本発明の人工糖脂質は、糖アルコールを酸化処理した後、これと脂質を反応せしめることによって簡便に製造することができる。また、人工糖脂質は、TLC等により、容易に分離、精製することができるため、糖タンパク質から遊離した糖アルコールをあらかじめ単離することなく、糖アルコールの混合物であっても、これを用いて簡便に人工糖脂質を製造することができる。
そして、本発明のモノクローナル抗体は、本発明の人工糖脂質が有する特定の糖鎖を認識するため、糖鎖構造解析用のツールとして、また、糖鎖の合成不全や異常合成を伴う疾患や、糖鎖が関与する感染症等の検査に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の人工糖脂質は、R−(N−アセチルガラクトサミニトール)構造を有する糖アルコールと脂質が反応して得られるものである。
ここで、RはGlcNAc、GalおよびFucで表される糖を含むものである。ただし、RがGal−(Fuc−)GlcNAcβ1−6→の場合を除き、Fuc−Gal−GlcNAcβ1−6→の場合はFucα1−2Galβ1−4GlcNAcβ1−6→に限る。また、Rは、GlcNAc、Gal、GalNAcおよびFucで表される糖を含むものである。
【0014】
かかる糖の結合順序、結合様式は特に限定されないが、血液型のA型、H型またはB型の抗体作製の免疫原として用いるためには、Rが、Fuc−(GalNAc−)Gal−GlcNAc→、Fucα1−2Galβ1−4GlcNAcβ1−6→またはFuc−(Gal−)Gal−GlcNAc→の順番で糖が結合して糖鎖を形成していることが好ましく、Fucα1−2(GalNAcα1−3)Galβ1−3/4GlcNAc→またはFucα1−2(Galα1−3)Galβ1−3/4GlcNAc→であることがより好ましい。ここで、−3/4GlcNAcの−3/4は、GlcNAcの3位または4位のいずれかの水酸基に結合していることを示す。
【0015】
本発明の脂質は、動物、植物、微生物等の天然物由来、または化学的もしくは酵素的に合成したもの、あるいは部分的に分解された複合脂質または単純脂質を使用することができ、リン脂質等のグリセロ脂質、長鎖の脂肪酸、長鎖の脂肪酸アミン、コレステロール類、スフィンゴ脂質、セラミド等いずれも使用でき、本発明の効果を奏する限り特に限定されない。中でも、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルトレオニン、エタノールアミンプラスマローゲン、セリンプラスマローゲン等のリン脂質、モノアシルグリセロール、ジアシルグリセロール等の中性脂質等のグリセロ脂質が好ましい。この中でも特に1級アミノ基を有するリン脂質が好ましい。脂質中の-OCO−R構造のR(アルキル基)の鎖長および不飽和度は特に限定されないが、炭素数6以上が好ましく、特に好ましくは炭素数10以上である。例えばパルミトイルまたはステアロイル等が例示される。また、これらの脂質は通常使用される塩であってもよい。
【0016】
次に、本発明の人工糖脂質の製造方法について説明する。
本発明の人工糖脂質の製造方法は、例えば、哺乳動物の消化管粘膜から抽出、精製したムチン(粘液糖タンパク質)をアルカリ還元分解し、ムチンに結合している糖鎖を切り出し、これを過ヨウ素酸などの酸化剤で酸化処理して還元末端側のN−アセチルガラクトサミニトールを分解した後、ホスファチジルエタノールアミン、次いで、還元剤を作用させる方法である。
【0017】
(1)糖タンパク質の調製
本発明の人工糖脂質の糖鎖を担持する糖タンパク質を個体から抽出、精製する。個体は、該糖タンパク質を合成するものであればその種を問わないが、好適には哺乳動物が好ましく、また、該糖タンパク質を抽出する臓器は、糖鎖が多量に結合しているムチン(粘液糖タンパク質)を合成、分泌している消化管粘膜が好ましい。これらの臓器組織から糖タンパク質を調製する方法は、例えば、ブタ胃粘膜を、界面活性剤を含む水溶液中で破砕・均質化し、得られたホモジネートから遠心分離等により不溶性物質を除去し、脱塩後、エタノール沈殿分画するものであり、これによりムチンを調製することができる。エタノール沈殿分画におけるエタノールの濃度は70%でムチンを沈殿せしめることができるが、より純度の高いムチンを得るためには、33%エタノールで沈殿する画分を除去し、50%エタノールで沈殿する画分を集めることが好ましい。調製したムチンは減圧乾燥法にて溶媒を留去した後、アルカリ還元分解反応に供することができる。
【0018】
(2)糖タンパク質結合糖鎖の調製
ムチンから糖鎖を切り出すにはムチンをアルカリ条件下で加熱すればよいが、切り出された糖鎖はアルカリ水溶液中でピーリングと呼ばれる分解反応により還元末端の糖から逐次分解するため、適当な還元剤(たとえば、シアノ水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素ナトリウム等)を共存させ、還元末端の糖をアルジトールに変換させる必要がある。還元剤を含む反応試液は0.1〜2mol/L水素化ホウ素ナトリウム含有0.01〜1mol/L水酸化ナトリウム水溶液、より好ましくは0.8〜1.2mol/L水素化ホウ素ナトリウム含有0.03〜0.1mol/L水酸化ナトリウム水溶液が好適である。反応条件としては、20〜80℃で3〜72時間処理することによって糖鎖を得ることができるが、より効率良く糖鎖を得るためには40〜60℃で8〜36時間処理することが好ましい。これにより、糖タンパク質に結合している糖鎖を得ることができる。
【0019】
アルカリ還元分解反応後の反応液中には中性糖鎖、酸性糖鎖の他、塩類、アミノ酸類等が含まれているため、本発明の人工糖脂質の糖鎖を得るためにはこれを精製することが好ましい。精製にあたっては、反応液に酸を加えて還元剤を分解させた後、陽イオン交換カラムクロマトグラフィー、陰イオン交換カラムクロマトグラフィー、ゲルろ過、HPLC等による精製が好適に用いられる。これら精製法の順番はこの通りでも良いし、順番を入れ替えても良いが、目的とする糖鎖は4〜10糖前後から成る糖鎖の混合物中に見出すことができるため、粗精製段階でゲルろ過を行うことが好ましい。この精製工程において、後工程の精製を容易にするためには、本発明の人工糖脂質の糖鎖構造を含む糖鎖をほぼ単一な成分にまで精製することがより好ましい。
【0020】
(3)ネオグライコリピッド化
前記(2)で得られた糖アルコールの還元末端側にあるN−アセチルガラクトサミニトールの部分的酸化を行って、オリゴ糖の還元末端側に特異的にホルミル基を生成せしめる。部分的酸化は、糖アルコールに対して1〜100等量の、好ましくは3〜50等量、さらには好ましくは5〜10等量の酸化剤(過よう素酸ナトリウム、過よう素酸カリウム等の過よう素酸アルカリ塩等)を用い、通常0〜10℃、好ましくは0〜4℃で行うことができる。反応時間は通常5〜300分、好ましくは15〜60分、さらに好ましくは25〜30分である。
【0021】
得られたホルミル基を有する化合物(アルデヒド化合物)と上記脂質とを反応させてシッフ塩基を形成させる反応は、水溶性溶媒(水、リン酸塩緩衝液等)または適当な有機溶媒(ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等)に上記アルデヒド化合物を溶解した溶液と、適当な有機溶媒(クロロホルム、メタノール等)に脂質を溶解した溶液とを混合して、通常15〜70℃、好ましくは50〜70℃、さらに好ましくは55〜65℃で反応させることができる。この反応時間は反応温度により異なるが、通常20〜300分、好ましくは20〜120分、さらに好ましくは50〜70分である。
【0022】
シッフ塩基が形成された後、適当な還元剤、例えばシアノ水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素ナトリウム、ボランジメチルアミンコンプレックス、ボラントリエチルアミンコンプレックス、ボランピリジンコンプレックス、等を作用させてシッフ塩基を還元することができる。通常15〜80℃、好ましくは50〜70℃、さらに好ましくは55〜65℃で反応させることができる。この反応時間は反応温度により異なるが、通常1〜48時間、好ましくは4〜24時間、さらに好ましくは15〜18時間である。上記還元反応後、反応液をTLC、シリカゲルクロマトグラフィー、逆相系HPLCのいずれかの方法で処理することで、人工糖脂質を精製することができる。
【0023】
かくして得られる人工糖脂質は、TLCプレート、プラスチックプレート、ニトロセルロース、ナイロン、PVDF、SPR用金電極、QCM用水晶振動子等に固相化することにより、抗体、レクチン、レセプター、微生物等の検出するためのツールとして、また糖転移酵素、糖分解酵素等の酵素の基質として好適に使用することができる。かかる固相化により、糖鎖部分の配向が制御されることでクラスター効果が期待できるため、抗体やレクチン等との反応性が遊離の糖鎖と比べて、100〜10000倍に高めることができる。その結果、極微量の糖鎖であっても高感度に検出することが可能である。さらに、人工糖脂質はリポソームを作製するための原料として用いることができる。
【0024】
次に、本発明のモノクローナル抗体について説明する。
本発明のモノクローナル抗体は、R−(N−アセチルガラクトサミニトール)構造を有する糖アルコール(RはGlcNAc、GalおよびFucで表される糖を含む糖鎖(ただし、RがGal−(Fuc−)GlcNAcβ1−6→の場合を除き、Fuc−Gal−GlcNAcβ1−6→の場合はFucα1−2Galβ1−4GlcNAcβ1−6→に限る)、または、GlcNAc、Gal、GalNAcおよびFucで表される糖を含む糖鎖である。)と脂質を結合させて得られる人工糖脂質の糖鎖部分を認識する抗体である。具体的には、Fuc−(GalNAc−)Gal−GlcNAc→、Fuc−Gal−GlcNAc→、Fuc−(GalNAc−)Gal→、または、GalNAc→、特に、Fucα1−2(GalNAcα1−3)Galβ1−4GlcNAcβ1→、Fucα1−2Galβ1−4GlcNAcβ1→、または、Fucα1−2(GalNAcα1−3)Galβ1→の糖鎖構造を認識する抗体である。
【0025】
また、本発明のハイブリドーマは、前記抗体を産生するものである。具体的には、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに受領番号FERM AP−20632として寄託されたハイブリドーマC1314H2に、受領番号FERM AP−20633として寄託されたハイブリドーマC3403H1G5等が挙げられる。
かかる抗体およびハイブリドーマは、例えば、ケラーとミルシュタインの方法により調製することができる。
【0026】
(1)抗原の単離、精製:
免疫抗原としては前記の精製した糖タンパク質(ムチン)を用いることができるが、より特異的な抗体を効率よく得るためには、ゲルろ過によって分子量1,500,000以上の画分を得、この画分からセシウムクロライド密度勾配遠心法によってムチンを精製した方が好ましい。
【0027】
(2)マウスの免疫:
免疫動物として、好適には4〜8週齢のBALB/cマウスを用いることができるが、他の系のマウスも使用することができる。免疫スケジュールおよび抗原濃度は十分な量の抗原刺激を受けたリンパ球が形成されるよう選ばれる。例えば、マウスの腹腔内に好適なアジュバンドと共に前記の粘液糖タンパク質100μg/匹を投与する。以後数日〜数週間おきに、初回免疫に使用したものと同じ抗原を数回投与する。2回目の免疫以後、眼底静脈より採血し、血液中の抗体価について検討する。抗体価の測定はELISA法により好適に行なうことができる。
【0028】
(3)細胞融合:
免疫したマウスより脾臓を摘出し、これから脾臓単細胞懸濁液を調製する。これを適当なマウス骨髄腫細胞と適当な融合促進剤を使用して細胞融合させる。骨髄腫細胞は脾臓細胞を得た動物と同種の動物のものを用いるのが好ましく、また、抗体を産生しないものが好ましい。脾臓細胞と骨髄腫細胞の使用割合は細胞数比で約20:1〜約5:1とするのが好ましい。好ましい融合促進剤としては例えば平均分子量が1000〜4000のポリエチレングリコールを有利に使用することができるが、この分野で知られている融合促進剤を使用することができる。
【0029】
(4)融合した細胞の選択:
別の容器内で未融合の脾臓細胞、未融合の骨髄腫細胞および融合した細胞の混合物を、未融合の骨髄腫細胞を支持しない選択培地で未融合の細胞を死滅させるのに充分な時間培養する。培地は薬物抵抗性(例えば8−アザグアニン抵抗性)で未融合の骨髄腫細胞を支持しないもの、例えばHAT培地が使用される。未融合の脾臓細胞は非腫瘍性細胞なので、この選択培地中では未融合の脾臓細胞と未融合の骨髄腫細胞は、ある時間後、死滅する。融合した細胞は骨髄腫の親細胞の腫瘍性と脾臓細胞の性質とを合わせ持つため、選択培地中で生存する。
【0030】
(5)各容器中のハイブリドーマの産生する抗体の確認(スクリーニング):
上記の操作によってハイブリドーマが検出された後、その培養上清を採取し、免疫したムチンに対する抗体についてスクリーニングする。このスクリーニングは例えば、ELISA法により好適に行なうことができる。さらに、本発明の人工糖脂質と反応する抗体についてスクリーニングする。このスクリーニングは例えば、本発明の人工糖脂質を固定化したニトロセルロースメンブレン等を用いるドットブロット法により好適に行なうことができる。
【0031】
(6)目的の抗体を産生するハイブリドーマのクローン化と抗体の産生:
目的の抗体を産生するハイブリドーマを適当な方法、例えば、限界希釈法でクローン化した後、所望の抗体を得るには2つの方法を用い得る。1つはハイブリドーマを一定時間、適当な培地で培養する方法であり、その培養上清からハイブリドーマの産生するモノクローナル抗体を得ることができる。第2の方法は、ハイブリドーマを同質遺伝子、または半同質遺伝子を持つマウスの腹腔に接種することである。一定時間後、接種されたマウスの血液中および腹水中より、ハイブリドーマの産生する所望のモノクローナル抗体を得ることができる。
かくして得られるモノクローナル抗体は、本発明の人工糖脂質の糖鎖部分を認識するため、糖鎖構造解析用のツールとして、また、糖鎖の合成不全や異常合成を伴う疾患や、糖鎖が関与する感染症等の検査に用いることができる。
【0032】
本発明の人工糖脂質は、使用者が当該糖脂質を製造できるよう、持ち運び可能なキットとして提供することができる。キットの構成としては、たとえば、脂質、酸化剤、還元剤を含むキット、さらに本発明の糖アルコールを含むキット、さらには人工糖脂質製造用の前処理試薬を含むキットが挙げられる。ここで、脂質および還元剤は前記と同様である。また、前処理用試薬としては、イミダゾール−塩酸等の緩衝液、過ヨウ素ナトリウム、クロロホルム、メタノール等の化合物を含む試薬である。これらキットは、当該キットに含まれる化合物以外のもの、例えば、ピペットや容器等の器具類を含んでいてもよい。
【0033】
かくして得られるキットは、使用者が試薬を選択することなく、簡便かつ迅速に人工糖脂質を製造できる。また、本発明の糖アルコールをさらに含むキットは、より簡便かつ迅速に人工糖脂質を製造できる。さらに、前処理試薬を含むキットは、簡便に前処理から人工糖脂質の製造までを行なうことができるとともに、収率良く人工糖脂質を得ることができる。
以下、本発明を、実施例を挙げてさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0034】
(1)ブタ胃ムチンの精製
ブタ胃ムチン(Sigma社製)100gを精製水500mLに溶解し、pHを2.5に調製した後、ペプシン1gとともに37℃で24時間インキュベートした。遠心(10,000rpm)で回収した上清を精製水に対して透析を行なった。遠心(10,000rpm)で回収した上清にエタノールを添加して、4℃で1晩静置後、沈殿物をろ別した。33〜50%エタノール沈殿画分を可溶化ムチンとして回収した。
【0035】
(2)ムチン結合糖鎖の調製
可溶化ムチン50mgを1mol/L水素化ほう素ナトリウムを含む0.05mol/L水酸化ナトリウム水溶液1mLで溶解し、60℃で24時間インキュベートした。反応液をpH4.5〜5.0に調製した後、陽イオン交換カラム(Dowex50W、ダウケミカル社製)と陰イオン交換カラム(Fractogel DEAE、Merck社製)を順に通過させ、さらにゲルろ過カラム(BioGel P−6、Bio−Rad社製)で糖鎖が5〜7糖に相当する画分を回収した。濃縮後、逆相HPLC(RP−18 φ4.6×250mm×3本(関東化学社製),溶媒 精製水,流速 0.65mL/min,測定波長 215nm)で分画し、下記式に示すP1〜P3のオリゴ糖を単一成分になるまで精製を行った。構造の確認はMALDI-TOF/MS(Voyager−DE PRO、アプライドバイオシステムス社製)による分子量測定および1H-NMR(JMN−ECP500、日本電子社製)で行った。
【0036】
【化1】

※図中のGalはガラクトース、Fucはフコース、GlcNAcはN−アセチルグルコサミン、GalNAcはN−アセチルガラクトサミン、GalNAc-olはN−アセチルガラクトサミニトールを示す。
【0037】
結果を表1〜4に示す。表1より、オリゴ糖の分子量は、計算値とほぼ一致した。表2〜4より、構成糖の種類、各糖間の結合様式に矛盾がないことを確認した。なお、分析条件は以下の通りである。MS分析:マトリックス 2,5-ジヒドロキ安息香酸、レーザー強度 2200。NMR分析:溶媒 重水、共鳴周波数500MHz、測定温度 27℃、基準物質 アセトン(2,2−ジメチル−2−シラペンタン−1−スルホン酸ナトリウム(DSS)を0ppmとしたとき2.225ppm)。
【0038】
【表1】

【0039】
【表2】

【0040】
【表3】

【0041】
【表4】

※表2〜表4中のH1〜H6は糖の1位〜6位に結合したプロトンを、NAc−CHはアセチル基のメチル基に結合したプロトンを示す。各糖の添え字(数字)はその糖の結合様式を示す。例えばGlcNAc4,3の場合はGlcNAc1−4(X1)1−3(X2)構造(ただし、X1、X2はヘキソースまたはヘキソサミンを示す)の非還元末端のGlcNAcを指す。測定値は、ケミカルシフトはppmで表し、1位のプロトンのJ値はHzで表している。
【0042】
(3)人工糖脂質の調製
密栓できるガラス瓶中で、P1、P2またはP3の乾燥オリゴ糖0.5〜10μgに40mmol/Lイミダゾール−塩酸緩衝液(pH 6.5)に溶解した過よう素酸ナトリウム(1.2mg/mL)8.6μLを添加し、氷中、暗所にて30分反応させた。次にmeso−2,3−ブタンジオール水溶液(15.5mg/mL)を0.6μL加え、氷中、暗所にて40分反応させた。反応液を減圧乾燥した後、0.5μLの精製水で再溶解し、クロロホルム:メタノール(1:1,v/v)に溶解したDPPE(5mg/mL)25μLを加え、60℃、1時間インキュベートした。続けてシアノ水素化ほう素ナトリウム溶液(10mg/mL)2.5μLを加え、60℃、16時間インキュベートした。HPTLCプレート(Silicagel 60、Merck社製)にオリゴ糖として0.5〜1μgの人工糖脂質をスポットし、クロロホルム:メタノール:水=130:50:90(v/v/v)で3重展開し、プリムリン発色試薬およびオルシノール−硫酸試薬にて呈色した部分のシリカゲルをかきとり、クロロホルム:メタノール:水=10:10:1(v/v/v)で抽出された成分を、MALDI−TOF/MS(Voyager−DE PRO、アプライドバイオシステムス社製)で分子量を測定した。結果を表5に示す。分子量測定の結果、人工糖脂質の分子量は、計算値とほぼ一致した。分析条件は(2)と同様である。
なお、参考として、GlcNAcα1−4Galβ1−4GlcNAcβ→DPPEおよびGlcNAcα1−4Galβ→DPPEの分子量は、それぞれ計算値1348.7、測定値1348.7、計算値1246.7、測定値1246.6だった。
【0043】
【表5】

【実施例2】
【0044】
(1)免疫用抗原の調製
SDラットより摘出した胃から胃粘膜を擦過剥離した後、Triton X−100を2%含有させた50mmol/Lトリスー塩酸緩衝液(pH7.2)で抽出した。抽出物をBio−Gel A1.5mm(Bio−Rad社製)カラムを用いたゲル濾過にかけ、カラムの排除限界容量付近に溶出した画分を分取し、さらに、セシウムクロライド密度勾配遠心を行ない、比重1.4±0.4g/mLの糖タンパク質画分(粘液糖タンパク質画分)をフラクションコレクターによって採取した。
【0045】
(2)免疫マウス脾臓細胞の調製
4週齢のBALB/c雌マウスに対し、フロイント完全アジュバンド50μL(Difco社製)および上述の方法で得られた粘液糖タンパク質抗原100μg/匹を腹腔内投与し、免疫した。以後、3週間おきにフロイント不完全アジュバンド50μL(Difco社製)および初回免疫したものと同じ粘液糖タンパク質抗原100μg/匹を腹腔内投与し、2回以降の免疫とした。2回目の免疫以後、免疫の3〜4日後に眼底静脈より採血し、血清中の抗粘液糖タンパク質抗体を、以下のELISA法にて確認した。
【0046】
ELISA法:精製粘液糖タンパク質抗原を、0.05mol/L炭酸ナトリウム-炭酸水素ナトリウム緩衝液(pH9.6)に、2μg/mLの濃度になるように溶解した後、同じ緩衝液を用いて倍数希釈系列を作製した。これらの希釈液をELISA用マイクロプレート(Corning社製)の各ウエルに100μLずつ分注し、4℃で一夜放置した。各ウエルをTween20を0.05%含有させたPBS(PBS−Tween)で3回洗浄した後、各ウエルにスキムミルクを2%含有させたPBSを満たし、1時間放置した。PBS−Tweenで3回洗浄した後、次に試料としてマウス血清の1000倍希釈液を各ウエルあたり100μL分注し、1時間反応させた。PBS−Tweenで3回洗浄した後、次に、二次抗体としてペルオキシダーゼで標識したヤギ抗マウスイムノグロブリン抗体(Biosource社製)をPBSで10000倍に希釈した溶液を各ウエルに100μL加え、1時間放置した。PBS−Tweenで3回洗浄した後、次に、ABTS−H ペルオキシダーゼ基質液(Kirkegaard&PerryLaboratories社製)を各ウエルに100μL添加し、室温で30分間反応させた後、マイクロプレートリーダーで415nmの吸光度を測定した。粘液糖タンパク質の用量に依存して発色性を示すマウス血清を抗体陽性と判定した。粘液糖タンパク質抗原に対する抗体の確認されたマウスより脾臓を摘出した後、脾臓単細胞懸濁液を調製し、細胞融合に用いた。
【0047】
(3)マウス骨髄腫細胞の調製
8-アザグアニン耐性マウス骨髄腫細胞SP2/0−Ag14を正常培地[RPMI1640(日水製薬社製)(10.2g/L)に、炭酸水素ナトリウム(2.2g/L)、L-グルタミン(0.3g/L)、ゲンタマイシン(40mg/L)および牛胎児血清(10% v/v)を加えた培地]を用いて37℃で、炭酸ガスインキュベーター中で培養した。
【0048】
(4)細胞融合およびハイブリドーマの培養
脾臓細胞をマウス骨髄腫細胞SP2/0−Ag14と細胞数比で10:1の割合で混合し、緩やかに撹拌しながら融合補助剤(ポリエチレングリコール4000(0.5g)、ジメチルスルホキシド(0.05mL)、PBS (0.5mL))を加えて融合させた。37℃で90秒間インキュベートした後、培地[RPMI1640(日水製薬社製)(10.2g/L)に炭酸水素ナトリウム(2.2g/L)、L-グルタミン(0.3g/L)およびゲンタマイシン(40mg/L)を加えた培地]を液の全量が40mLになるまでを徐々に加えた。遠心分離(1100rpm/10分)した後、上清を除き、HAT培地[RPMI1640(日水製薬社製)(10.2g/L)に炭酸水素ナトリウム(2.2g/L)、L-グルタミン(0.3g/L)、ゲンタマイシン(40mg/L)、牛胎児血清(20% v/v)、ヒポキサンチン(100μmol/L)、アミノプテリン(0.4μmol/L)およびチミジン(16μmol/L)を加えた培地]を加え、緩やかに細胞を懸濁した。この懸濁液を96穴培養プレートに分注し、5%の炭酸ガスを含む培養器中で培養した。
【0049】
(5)スクリーニングおよびクローニング
上記の96穴培養プレートにおいて、コロニー状に生育した融合細胞の認められたウエルから培養上清を一部採取し、後述のELISA法によりスクリーニングを行ない、免疫したムチンと反応する抗体を産生するハイブリドーマ9種を選抜した。そのうち、後述のドットブロット法によりFucα1−2(GalNAcα1−3)Galβ1−4GlcNAcβ→DPPEと反応する抗体産生ハイブリドーマC1314と、Fucα1−2Galβ1−4GlcNAcβ→DPPEと反応する抗体産生ハイブリドーマC3403を選別した。次に、それらを個別にHT培地[RPMI1640(日水製薬社製)(10.2g/L)に炭酸水素ナトリウム(2.2g/L)、L-グルタミン(0.3g/L)、ゲンタマイシン(40mg/L)、牛胎児血清(15% v/v)、ヒポキサンチン(100μmol/L)およびチミジン(16μmol/L)を加えた培地]で1週間、次いで、正常培地[RPMI1640(日水製薬社製)(10.2g/L)に炭酸水素ナトリウム(2.2g/L)、L-グルタミン(0.3g/L)、ゲンタマイシン(40mg/L)および牛胎児血清(10% v/v)を加えた培地]で1週間継代培養した後、C1314については限界希釈法によるクローニングを1回行ないハイブリドーマC1314H2(受領番号FERM AP−20632)を、C3403については限界希釈法によるクローニングを2回繰り返しC3403H1G5(受領番号FERM AP−20633)を樹立した。
【0050】
(6)アイソタイプの確認
前記(5)で得られたハイブリドーマC1314H2とC3403H1G5のグロブリンクラスをアイソタイピングキット(PharMingen社製)を用いたELISA法で調べた。すなわち、monoclonal rat anti-mouse IgG1、monoclonal rat anti-mouse IgG2a、monoclonal rat anti-mouse IgG2b、monoclonal rat anti-mouse IgG3、monoclonal rat anti-mouse IgM、monoclonal rat anti-mouse IgA、monoclonal rat anti-mouse IgL(κ)およびmonoclonal rat anti-mouse IgL(λ)の各試薬をcoating bufferを用いて5倍希釈した後、ELISA用マイクロプレート(Corning社製)の各ウエルにそれぞれ50μlずつ分注し、4℃で一夜放置した。各ウエルをTween20を0.05%含有させたPBS(PBS−Tween)で3回洗浄後、各ウエルにスキムミルクを2%含有させたPBSを満たし、1時間放置した。PBS−Tweenで3回洗浄した後、次に、各ウエルにC1314H2(受領番号FERM AP−20632)またはC3403H1G5(受領番号FERM AP−20633)を個別に正常培地[RPMI1640(日水製薬社製)(10.2g/L)に炭酸水素ナトリウム(2.2g/L)、L-グルタミン(0.3g/L、ゲンタマイシン(40mg/L)および牛胎児血清(10% V/V)を加えた培地]で3日間培養した後の培養上清液を50μL分注し、1時間反応させた。PBS−Tweenで3回洗浄した後、次に、各ウエルにアルカリフォスファターゼで標識したpolyclonal rat anti-mouse Igs試薬を50μL加え、1時間放置した。PBS−Tweenで3回洗浄した後、次に、各ウエルにpNPP錠剤1個を基質溶解液5mLに溶解して調製した基質溶液を50μL添加し、室温で30分間反応させた。プレートを肉眼で観察した結果、ハイブリドーマC1314H2の培養上清液はmonoclonal rat anti-mouse IgM試薬とmonoclonal rat anti-mouse IgL(κ)試薬で前処理した両ウエルにだけ強い黄色い発色が認められ、ハイブリドーマC3403H1G5の培養上清液についてはmonoclonal rat anti-mouse IgM試薬とmonoclonal rat anti-mouse IgL(λ)試薬で前処理した両ウエルにだけ強い黄色い発色が認められた。これらの結果から、ハイブリドーマC1314H2産生抗体はIgM抗体であり、軽鎖はκ鎖であること、ハイブリドーマC3403H1G5産生抗体はIgM抗体であり、軽鎖はλ鎖であることがわかった。
【実施例3】
【0051】
TLC免疫染色法により、人工糖脂質と抗体との反応を行なった。
実施例1の人工糖脂質5μL(オリゴ糖として0.05μg)をHPTLCプレート(Silica gel 60 Merck社製)にスポットした後、クロロホルム:メタノール:精製水=130:50:9(v/v/v)で3重展開させた。次にTLCプレートを0.4%ポリイソブチルメタクリレート水溶液に30秒間浸漬して風乾後、5%BSAを含有するPBSに室温で1時間浸漬させた。TLCプレートを軽くPBSで洗浄後、2%BSAを含有するPBSで2倍希釈した実施例2の糖鎖認識抗体溶液にTLCプレートを浸漬させて4℃、1晩ゆっくり振とうさせた。TLCプレートをPBSで洗浄した後、次に、二次抗体として西洋わさび由来ペルオキシダーゼで標識したヤギ抗マウスイムノグロブリン抗体(Biosource社製)をPBSで1000倍に希釈した溶液に1時間浸漬、振とうさせた。PBSで洗浄した後、0.1% 3,3'-ジアミノベンジジン溶液(10mmol/L トリス−塩酸緩衝液,0.1%イミダゾール、0.015%過酸化水素含有)で染色した。その結果を表6に示す。表6より、いずれの抗体も本発明の人工糖脂質の糖鎖構造を特異的に認識していることが分かった。
【0052】
【表6】

※+は呈色したことを示し、−は呈色しなかったことを示す。
【実施例4】
【0053】
人工糖脂質と抗体との反応性をドットブロット法にて試験した。
実施例1のゲルろ過にて得られたオリゴ糖画分(糖鎖長が5〜7糖に相当する画分)から人工糖脂質を調製し、該オリゴ糖画分の乾燥重量換算で50μg/mLになるようにクロロホルム:メタノール=1:1(v/v)で溶解し、さらに同じクロロホルム−メタノール溶液で段階的に希釈した後、ニトロセルロース膜に0.5μLずつスポットした。ニトロセルロース膜をBSAを5%含有させたPBSに浸漬させ、室温で1時間放置した。PBSで軽く洗浄した後、実施例2で得られた抗体(C1314H2の培養上清液)を1.25%BSA含有PBSで5倍希釈した溶液に浸漬させ、室温で1時間振とうさせた。PBSで洗浄した後、次に、二次抗体として西洋わさび由来ペルオキシダーゼで標識したヤギ抗マウスイムノグロブリン抗体(Biosource社製)をPBSで1000倍に希釈した溶液に1時間浸漬、振とうさせた。PBSで洗浄した後0.1%の3,3'-ジアミノベンジジン、0.1%イミダゾールおよび0.015% 過酸化水素を含有する10mmol/L トリス−塩酸緩衝液(pH 7.6)に2〜3分間浸漬させ、スポットが呈色した場合、陽性とした。その結果を表7に示す。表7より、本発明の抗体(C1314H2産生抗体)はオリゴ糖3.13ng/スポット以上の人工糖脂質と反応していることがわかった。比較例と比較すると、本発明の抗体(C1314H2産生抗体)を用いて特異的なオリゴ糖を検出・判定する場合、人工糖脂質を抗原とすることで、約1/10000量のオリゴ糖を検出することができたといえる。
【0054】
【表7】

※人工糖脂質の量はオリゴ糖の量に換算して示す。+は呈色したことを示し、その数が多い程強く呈色したことを示す。−は呈色しなかったことを示す。
【0055】
[比較例]
遊離の糖鎖と抗体との反応性を阻止ELISA法にて試験した
実施例1にて調製した可溶化ブタ胃ムチンを、0.05mol/L炭酸ナトリウム-炭酸水素ナトリウム緩衝液(pH9.6)に、1μg/mLの濃度になるように溶解した後、ELISA用マイクロプレート(旭テクノグラス社製)の各ウエルにそれぞれ100μLずつ分注し、4℃で一夜放置した。各ウエルをTween20を0.05%含有させたPBS(PBS−Tween)で3回洗浄後、各ウエルにスキムミルクを2%含有させたPBSを満たし、1時間放置した。PBS−Tweenで3回洗浄した後、次に、実施例1のゲルろ過にて得られたオリゴ糖画分(糖鎖長が5〜7糖に相当する画分)を10mg/mLになるようにPBSで溶解し、この溶液をPBSで段階的に希釈した各オリゴ糖溶液60μLと実施例2で得られた抗体(C1314H2の培養上清液、あらかじめPBSで4倍に希釈)60μLとを混合し、2時間室温で放置させた後、この各混合液をウエルに100μLずつ分注し、さらに1時間放置した。PBS−Tweenで3回洗浄した後、次に、二次抗体として西洋わさび由来ペルオキシダーゼで標識したヤギ抗マウスイムノグロブリン抗体(Biosource社製)をPBSで20000倍に希釈した溶液を100μL分注し、1時間放置した。PBS−Tweenで3回洗浄した後、次に、ABTS−H ペルオキシダーゼ基質液(Kirkegaard & Perry Laboratories社製)を各ウエルに100μL添加し、室温で30分間反応させた後、マイクロプレートリーダーで415nmの吸光度を測定した。その結果、30μg/ウエル以上で用量依存的な吸光度の低下が認められ、本発明の抗体(C1314H2産生抗体)とオリゴ糖との反応はオリゴ糖30μg/ウエル以上で検知された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
R−(N−アセチルガラクトサミニトール)構造を有する糖アルコールと脂質から得られる人工糖脂質であって、前記RがGlcNAc、GalおよびFucで表される糖を含む(ただし、RがGal−(Fuc−)GlcNAcβ1−6→の場合を除き、Fuc−Gal−GlcNAcβ1−6→の場合はFucα1−2Galβ1−4GlcNAcβ1−6→に限る。)、前記人工糖脂質。
【請求項2】
R−(N−アセチルガラクトサミニトール)構造を有する糖アルコールと脂質から得られる人工糖脂質であって、前記RがGlcNAc、Gal、GalNAcおよびFucで表される糖を含む、前記人工糖脂質。
【請求項3】
Rが、Fuc−(GalNAc−)Gal−GlcNAc→またはFucα1−2(GalNAcα1−3)Galβ1−3/4GlcNAcβ1−6→である、請求項1または2に記載の人工糖脂質。
【請求項4】
脂質が、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミンである、請求項1から3のいずれかに記載の人工糖脂質。
【請求項5】
R−(N−アセチルガラクトサミニトール)構造を有する糖アルコール(RはGlcNAc、GalおよびFucで表される糖を含む糖鎖である。ただし、RがGal−(Fuc−)GlcNAcβ1−6→の場合を除き、Fuc−Gal−GlcNAcβ1−6→の場合はFucα1−2Galβ1−4GlcNAcβ1−6→に限る)を、酸化剤と反応させる工程、脂質と反応させる工程、還元剤と反応させる工程を含む、人工糖脂質の製造方法。
【請求項6】
請求項1から4に記載の人工糖脂質の糖鎖部分を認識する、モノクローナル抗体。
【請求項7】
請求項6に記載のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ。

【公開番号】特開2007−56132(P2007−56132A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−242697(P2005−242697)
【出願日】平成17年8月24日(2005.8.24)
【出願人】(591045677)関東化学株式会社 (99)
【Fターム(参考)】