説明

人工肺

【課題】血液中の気泡が血液流出部から流出するのを確実に防止することができる人工肺を提供すること。
【解決手段】人工肺1は、筒状熱交換体31を有する熱交換器部と、ガス交換機能を有する中空糸膜が多数集積された筒状中空糸膜束3と、筒状中空糸膜束3の外周部17に接して設けられ、気泡を捕捉する機能を有するフィルタ部材6と、熱交換器部、筒状中空糸膜束3およびフィルタ部材6を収納するハウジング2と、各中空糸膜の中空部を介して互いに連通するガス流入ポート26およびガス流出ポートと、血液が流通する血液流入ポート24および血液流出ポート25とを備えている。この人工肺1は、血液流入ポート24から流入した血液が、熱交換器部、筒状中空糸膜束3およびフィルタ部材6をこの順に通過して、血液流出ポート25から排出されるよう構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工肺に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の人工肺には、中空糸膜層を有するものがある。この人工肺としては、例えば特許文献1に記載された人工肺が知られている。
【0003】
この人工肺は、ハウジングと、ハウジング内に収納された中空糸膜層(中空糸膜シート積層体)と、血液流入口および血液流出口と、ガス流入口およびガス流出口とを有している。このような構成の人工肺の血液流入口から流入した血液中に気泡が混在している場合、この気泡は、中空糸膜層で除去されるのが好ましい。
【0004】
しかしながら、前記中空糸膜層では、気泡が十分に除去されずに、血液とともに血液流出口へ流出するおそれがあるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−47268号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、血液中の気泡が血液流出部から流出するのを確実に防止することができる人工肺を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような目的は、下記(1)〜(8)の本発明により達成される。
(1) 熱交換器部と、
ガス交換機能を有する中空糸膜が多数集積された中空糸膜束と、
前記中空糸膜束の外周部に接して設けられ、気泡を捕捉する機能を有するフィルタ部材と、
前記熱交換器部、前記中空糸膜束および前記フィルタ部材を収納するハウジングと、
前記中空糸膜の内腔を介して互いに連通するガス流入部およびガス流出部と、
血液が流通する血液流入部および血液流出部とを備え、
前記血液流入部から流入した血液が、前記熱交換器部、前記中空糸膜束および前記フィルタ部材をこの順に通過して、前記血液流出部から排出されるよう構成されていることを特徴とする人工肺。
【0008】
(2) 前記熱交換器部は、その全体形状が円筒状をなすものであり、
前記中空糸膜束は、前記熱交換器部の周囲を囲むように設けられている上記(1)に記載の人工肺。
【0009】
(3) 前記フィルタ部材は、前記中空糸膜束の外周部のほぼ全部を覆っている上記(1)または(2)に記載の人工肺。
【0010】
(4) 前記フィルタ部材と前記ハウジングとの間には、間隙が形成されている上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の人工肺。
【0011】
(5) 前記血液流入部は、前記中空糸膜束の内周部側に開口する流入開口部を有し、
前記血液流出部は、前記中空糸膜束の外周部側に開口する流出開口部を有し、
血液が前記中空糸膜束の内周部側から外周部側へ通過するよう構成されている上記(1)ないし(4)のいずれかに記載の人工肺。
【0012】
(6) 前記フィルタ部材は、親水性を有する上記(1)ないし(5)のいずれかに記載の人工肺。
【0013】
(7) 前記フィルタ部材は、メッシュ状をなすものである上記(1)ないし(6)のいずれかに記載の人工肺。
【0014】
(8) 前記フィルタ部材の目開きは、50μm以下である上記(7)に記載の人工肺。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、中空糸膜層に設けられたフィルタ部材により、血液中の気泡を確実に捕捉することができ、よって、その気泡が血液流出部から流出するのを確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1実施形態の人工肺を示す正面図である。
【図2】図1に示した人工肺の左側面図である。
【図3】図2のA−A線断面図である。
【図4】図2のB−B線断面図である。
【図5】図1のC−C線断面図である。
【図6】第2実施形態(参考例)の人工肺を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の人工肺を添付図面に示す好適な実施形態に基づいて詳細に説明する。
<第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態の人工肺を示す正面図、図2は、図1に示した人工肺の左側面図、図3は、図2のA−A線断面図、図4は、図2のB−B線断面図、図5は、図1のC−C線断面図である。
【0018】
人工肺1は、筒状コア5と、筒状コア5の外表面に巻き付けられた多数のガス交換用(ガス交換機能を有する)の中空糸膜3aが多数集積された筒状(円筒状)中空糸膜束3と、筒状中空糸膜束3を収納するハウジングと、中空糸膜3aの内部(内腔)を介して互いに連通するガス流入部およびガス流出部と、中空糸膜3aの外部とハウジング内と連通する血液流入部および血液流出部と、筒状中空糸膜束3に設けられたフィルタ部材6とを備える。そして、筒状中空糸膜束3は、筒状コア5の外周面に広がる中空糸膜層(中空糸膜3a)が、多層に重なった、言い換えれば、渦巻き状に重なった、もしくは、筒状コアを芯としてリール状に巻き取られた状態となっており、さらに、中空糸膜層は、筒状コア5の長手方向中央付近に中空糸膜3aが交差する交差部3bを備えるとともに、交差部3bは、交差部3bの上に他の交差部3bが直接重なり合わないようにもしくは交差部3bの上に他の交差部3bが直接重なることが連続しないように、中空糸膜層の部位により位置が異なっている。人工肺1は、図に示すように、ハウジング2と、このハウジング2内に収納された人工肺部と、この人工肺部内に収納された筒状熱交換器部を備えており、この人工肺は、熱交換機能内蔵人工肺である。
【0019】
人工肺1は、筒状コア5と、筒状コア5の外表面に巻き付けられた多数のガス交換用中空糸膜からなる筒状中空糸膜束3と、フィルタ部材6とからなる人工肺部と、筒状コア5内に収納された筒状熱交換器部と、人工肺部および筒状熱交換器部を収納するハウジング2とを備える。筒状コア5は、筒状コア5の外表面と筒状中空糸膜束3の内面間に血液流路を形成する溝51と、筒状コア5と筒状熱交換器部間に形成された第1の血液室11と溝51とを連通する血液流通用開口52を有する。
【0020】
人工肺1は、筒状コア5と筒状熱交換器部間に形成された第1の血液室11(筒状中空糸膜束3の内周部側)と連通する血液流入ポート(血液流入部)24と、筒状中空糸膜外面とハウジング2内面間に形成された第2の血液室12(筒状中空糸膜束3の外周部側)と連通する血液流出ポート(血液流出部)25を備えている。
【0021】
また、この血液流入ポート24には、第1の血液室11に開口する流入開口部40が設けられている。これにより、血液流入ポート24からの血液が第1の血液室11へ確実に流入する。この第1の血液室11内の血液は、血液流通用開口52を経て、筒状中空糸膜束3の内周部15から筒状中空糸膜束3の内部16へ入り込むこととなる。また、筒状中空糸膜束3の内部16へ入り込んだ血液は、筒状中空糸膜束3の外周部17を介して第2の血液室12に流入する。
【0022】
また、血液流出ポート25には、第2の血液室12に開口する流出開口部43が設けられている。これにより、第2の血液室12内の血液が血液流出ポート25へ確実に流出する。
【0023】
人工肺1では、図3ないし図5に示すように、外側から、筒状ハウジング本体21、第2の血液室12、中空糸膜束3、溝51を備える筒状コア5、第1の血液室11、筒状熱交換体31、筒状熱交換体変形規制部34、35、筒状熱媒体室形成部材32の順でほぼ同心的に配置もしくは形成されている。ハウジング2は、図1および図3ないし図5に示すように、血液流出ポート25を備える筒状ハウジング本体21、ガス流入ポート(ガス流入部)26、熱媒体流入ポート28および熱媒体流出ポート29を備える第1のヘッダー22、ガス流出ポート(ガス流出部)27および筒状コア5に設けられる血液流入ポート24の挿通口を備える第2のヘッダー23を備えている。第1のヘッダー22の内面には、筒状に突出する熱媒体室形成部材接続部22aと、この熱媒体室形成部材接続部22aの内部を2分する仕切部22bとが設けられている。また、第2のヘッダー23の内面には、筒状に突出する熱媒体室形成部材接続部23aが設けられている。このため、図4に示すように、後述する筒状熱媒体室形成部材32は、開口端側が第1のヘッダー22に保持され、閉塞端側が第2のヘッダー23に保持されている。
【0024】
人工肺部について説明する。
人工肺部は、筒状コア5と、この筒状コア5の外面に巻き付けられた多数の中空糸膜からなる筒状中空糸膜束3と、筒状中空糸膜束3の外周部17に設けられたフィルタ部材6とを備える。
【0025】
図3ないし図5に示すように、筒状コア5は、筒状体であり一端には、所定幅にて内側に延びるドーナツ板状突出部55が形成されており、このドーナツ板状突出部55の平面部の外面に血液流入ポート24が筒状コア5の中心軸と平行にかつ外方に突出するように形成されている。筒状コア5の外面には、筒状コア5の外表面と筒状中空糸膜束3の内面間に血液流路を形成する多数の溝51が形成されている。
【0026】
また、筒状コア5は、この溝51と筒状コア5と筒状熱交換器部間に形成された第1の血液室11とを連通する血液流通用開口52を有している。筒状コア5としては、外径が20〜100mm程度が好適であり、有効長(全長のうち隔壁に埋もれていない部分の長さ)は、10〜730mm程度が好適である。具体的には、筒状コア5は、その両端部分を除き、平行にかつ連続しない複数の溝51を有しており、溝51間は、環状リブ53となっている。
【0027】
筒状コア5の溝は、中空糸膜束のガス交換に寄与する部分(有効長、隔壁に埋もれない部分)のほぼ全域に渡るように形成されている。ここで使用する筒状コア5は、血液流入ポート24のほぼ延長線上であり、かつ筒状コア5の溝51形成部分のほぼ全体に延びる平坦面状の溝非形成部54を備えている。このため、筒状コア5の溝51およびリブ53は、始端および終端を有する環状溝51(円弧状溝51)ならびに環状リブ53(円弧状リブ)となっている。筒状コア5として、上記の筒状コア5の溝51形成部分のほぼ全体に延び平坦面状の溝非形成部54を備えることにより、筒状コア5の外面に形成される筒状中空糸膜束3の形状安定性が向上する。
【0028】
しかし、この溝非形成部54は必ずしも設ける必要はなく、筒状コア5の溝51およびリブ53は、無端の完全環状溝51および無端の完全環状リブ53となっていてもよい。
【0029】
筒状コア5は、中空糸膜束3の有効長(隔壁に埋もれていない部分)のほぼ全域に渡る多数の溝51を備えるため、血液を中空糸膜束3の全体に分散させることができ、中空糸膜全体を有効に利用でき、ガス交換能も高いものとなる。
【0030】
さらに、筒状コア5の溝51間に形成される山部(リブ53)の頂点は平坦面となっていることが好ましい。このように、リブ53の頂点を平坦面とすることにより、筒状コア5の外面に形成される筒状中空糸膜束3の形状安定性が向上する。
【0031】
さらに、溝51は、断面形状がリブ53の頂点に向かって広がる形状(例えば、断面台形状)となっている。このため、溝51(血液流路)は、中空糸膜束内面に向かって広がるため中空糸膜束内への血液流入を良好なものとしている。
【0032】
また、血液流入ポート24は、筒状コア5の一方の端部側に設けられており、血液流通用開口52は、血液流入ポート24の中心線を延長した領域と向かい合う領域に形成されている。このようにすることにより、筒状コア5と筒状熱交換器部間に形成された第1の血液室11内における血液流通形態が均等なものとなりやすく、熱交換効率も高いものとなる。具体的には、図5に示すように、筒状コア5は上述した血液流入ポート24のほぼ延長線上であり、かつ筒状コア5の溝形成部分のほぼ全体に延びる溝非形成部54を備える。この溝非形成部54は、溝を形成しないことにより可能となった肉薄部となっており、これにより、筒状コア5内部に血液流入ポート24のほぼ延長線上に位置する血液誘導部56が形成されている。血液誘導部56部分は、他の溝形成部より内径が大きくなっている。このような血液誘導部56を設けることにより、筒状コアと筒状熱交換器部間に形成された第1の血液室11の軸方向の全体に血液を確実に流入させることができる。
【0033】
そして、この溝非形成部54(血液誘導部56)と向かい合う領域(位置)に血液流通用開口52が形成されている。この筒状コア5では、血液流通用開口52は、複数の環状溝51の個々と連通する複数の血液流通用開口52を備えている。つまり、溝非形成部54(血液誘導部)と向かい合う位置の筒状コア5の溝51部分を欠損させることにより、開口52が形成されている。このため、隣り合う開口52間には、リブ53が存在している。
【0034】
図4に示すように、筒状コア5の外面に中空糸膜束3が巻き付けられている。中空糸膜束3を形成する中空糸膜3aは、図1に示すように、筒状コア5に順次巻き付けられることにより、筒状コア5の外周面に広がる中空糸膜層が、多層に重なった、言い換えれば、渦巻き状に重なった、もしくは、筒状コアを芯としてリール状に巻き取られた状態となっている。
【0035】
中空糸膜束3は、筒状コア5に中空糸膜を巻き付けた後、両端を隔壁8、9により筒状ハウジング本体21に固定し、そして、中空糸膜束3の両端が切断される。空糸膜束3が外面に巻き付けられた筒状コア5の両端は、隔壁8、9により、筒状ハウジング本体21の両端部に液密に固定され、筒状中空糸膜外面と筒状ハウジング本体21内面間に環状空間(筒状空間)である第2の血液室12が形成される。
【0036】
筒状ハウジング本体21の側面に形成された血液流出ポート25は、第2の血液室12と連通する。隔壁8、9は、ポリウレタン、シリコーンゴムなどのポッティング剤で形成される。
【0037】
また、中空糸膜層は、筒状コア5の長手方向中央付近に中空糸膜3aが交差する交差部3bを備えるとともに、交差部(クロスワインド部)3bは、中空糸膜層の部位により位置が異なっている。このように、交差部の位置を変化させることにより、図1に示すように、重なり合う層における交差部が重ならず、交差部の重なりによる血液の短絡を防止できる。交差部は、例えば、ほぼ平行に巻き付けられた2〜6本の中空糸膜が、交互に交差することにより連続して形成されている。
【0038】
中空糸膜としては、多孔質ガス交換膜が使用される。多孔質中空糸膜としては、内径100〜1000μm、肉厚は5〜200μm、好ましくは10〜100μm、空孔率は20〜80%、好ましくは30〜60%、また細孔径は0.01〜5μm、好ましくは0.01〜1μmのものが好ましく使用できる。
【0039】
また、多孔質膜に使用される材質としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスルホン、ポリアクリロニトリル、ポリテトラフルオロエチレン、セルロースアセテート等の疎水性高分子材料が用いられる。好ましくは、ポリオレフィン系樹脂であり、特に好ましくは、ポリプロピレンであり、延伸法または固液相分離法により壁に微細孔が形成されたものがより好ましい。
【0040】
中空糸膜束3の外径(全体形状)は、30〜162mmが好適であり、中空糸膜束3の厚さは、3mm〜28mmであることが好ましい。
【0041】
図3(図4)に示すように、筒状中空糸膜束3の外周部17には、フィルタ部材6が設けられている。
【0042】
このフィルタ部材6は、人工肺1(筒状中空糸膜束3)に流入した血液中の気泡を捕捉する機能を有している。
【0043】
また、フィルタ部材6は、筒状中空糸膜束3と同様に、全体形状が円筒状をなしている。このような形状のフィルタ部材6は、その内周部(内周面)61が筒状中空糸膜束3の外周部(外周面)17に接して設けられている。
【0044】
また、フィルタ部材6は、筒状中空糸膜束3の外周部17のほぼ全部を覆うように設けられている。
【0045】
このようにフィルタ部材6が設けられていることにより、フィルタ部材6(内周部61)の面積を大きくすることができ、よって、より確実に気泡を捕捉することができる。また、フィルタ部材6の面積が大きいことにより、たとえフィルタ部材6の一部に目詰まり(例えば血液の凝集塊など)が生じたとしても、血液の流れを妨げるのを防止(抑制)することができる。
【0046】
図3に示すように、フィルタ部材6とハウジング2との間には、第2の血液室12(間隙)が形成されている。これにより、フィルタ部材6がハウジング2の内周面に接するのが防止され、フィルタ部材6の外周部62から流出した血液が第2の血液室12内を通過することができ、よって、血液流出ポート25へ確実に到達(流入)することができる。
【0047】
また、フィルタ部材6は、親水性を有するのが好ましい。すなわち、フィルタ部材6は、それ自体が親水性を有する材料で構成されているか、または、その表面に親水化処理(例えば、プラズマ処理等)が施されていることが好ましい。これにより、プライミング時の気泡除去が容易になるだけでなく、気泡が混入した血液が通過する際には、気泡の通過がより困難となるため、フィルタ部材6からの気泡の流出を効果的に抑制することができる。
【0048】
また、フィルタ部材6の構成材料としては、特に限定されず、例えば、メッシュ状をなすもの(スクリーンフィルタ)が好ましい。これにより、気泡をより確実に捕捉することができるとともに、血液が容易に通過することができる。
【0049】
また、フィルタ部材6の目開きは、特に限定されず、例えば、50μm以下であるのが好ましく、20〜45μmであるのがより好ましい。これにより、気泡をより確実に捕捉することができる。
【0050】
以上のような構成のフィルタ部材6により、第1の血液室11から筒状中空糸膜束3へ流入する血液中の気泡を確実に捕捉することができ、よって、この気泡が血液流出ポート25から流出するのを確実に防止することができる。
【0051】
また、フィルタ部材6により捕捉された気泡は、中空糸膜3a(筒状中空糸膜束3)の外表面に形成されている多数の孔に入り込む(流入する)こととなり、よって、中空糸膜3aの内腔を経て、ガス流出ポート27から排出(流出)される。これにより、気泡をプライミングする時間を短縮することができるとともに、筒状中空糸膜束3(人工肺1)内に気泡が滞留するのを防止することができる。
【0052】
また、フィルタ部材6は、筒状中空糸膜束3の外周部17のほぼ全部を覆うように設けられているのに限定されず、例えば、筒状中空糸膜束3の外周部17の一部を覆うように設けられていてもよい。
【0053】
図3ないし図5に示すように、上述のように形成された人工肺部の筒状コア5内部に、後述する熱交換器部が収納される。
【0054】
次に、熱交換器部について説明する。
筒状コア5と筒状熱交換器部間に環状の第1の血液室11が形成され、血液流入ポート24はこの血液室11と連通する。図3ないし図5に示すように、筒状熱交換器部は、筒状熱交換体31と、この熱交換体31内に収納される筒状熱媒体室形成部材32と、筒状熱交換体31と筒状熱媒体室形成部材32間に挿入される2つの筒状熱交換体変形規制部34、35を備えている。
【0055】
筒状熱交換体31としては、いわゆるベローズ型熱交換体が使用される。図4に示すように、ベローズ型熱交換体31(蛇腹管)は、中央側面にほぼ平行に形成された多数の中空環状突起を備える蛇腹形成部と、その両端に形成され、蛇腹形成部の内径とほぼ等しい円筒部とを備えている。熱交換体31の円筒部の一方は、中空筒状コア5の血液流入ポート24側端部内面と第2のヘッダー23間により挟持され、熱交換体31の円筒部の他方は、中空筒状コア5の一端内に挿入されたリング状熱交換体固定用部材48とこのリング状熱交換体固定用部材48と第1のヘッダー22間に挿入された筒状熱交換体固定用部材49と第1のヘッダー22間により挟持されている。
【0056】
ベローズ型熱交換体31は、ステンレス、アルミ等の金属もしくはポリエチレン、ポリカーボネート等の樹脂材料によりいわゆる細かな蛇腹状に形成されている。強度、熱交換効率の面からステンレス、アルミ等の金属が好ましい。特に、筒状熱交換体31の軸方向(中心軸)に対してほぼ直交する凹凸が多数繰り返された波状となっているベローズ管からなっている。
【0057】
図3ないし図5に示すように、筒状熱媒体室形成部材32は、一端(第1のヘッダー22側)が開口した筒状体であり、内部を流入側熱媒体室41と流出側熱媒体室42に区分する区画壁32aと、流入側熱媒体室41と連通し軸方向に延びる第1の開口33aと、流入側熱媒体室42と連通し軸方向に延びる第2の開口33bと、向かい合いかつ、第1の開口33aおよび第2の開口33bと約90度ずれた位置の側面に形成され外方に突出する軸方向に延びる突起36a、36bを備えている。突起36aは、熱交換体変形規制部34の内面中央に形成された軸方向に延びる溝内に侵入することにより熱交換体変形規制部34の移動を規制する。同様に、突起36bは、熱交換体変形規制部35の内面中央に形成された軸方向に延びる溝内に侵入することにより熱交換体変形規制部35の移動を規制する。
【0058】
筒状熱媒体室形成部材32は、開口端側を第1のヘッダー22の熱媒体室形成部材接続部22aに嵌合させたとき、図4に示すように、筒状熱媒体室形成部材32の区画壁32aの先端部の一方の面(本実施形態では下面)に、筒状接続部22aの内部を2分する仕切部22bが密接する。これにより、筒状熱媒体室形成部材32内の流入側熱媒体室41は、熱媒体流入ポート28と連通し、流出側熱媒体室42は熱媒体流出ポート29と連通する。
【0059】
また、2つの熱交換体変形規制部34、35は、付き合わされるそれぞれの端部部分に軸方向に延びる切り欠き部を備えており、2つの規制部34、35が付き合わされることにより、図5に示すように、媒体流入側通路37および媒体流出側通路38が形成されている。また、2つの熱交換体変形規制部34、35は、一体に形成してもよい。
【0060】
この実施形態の人工肺1の熱交換器部における熱媒体の流れを図3ないし図5を用いて説明する。熱媒体流入ポート28より人工肺内部に流入した熱媒体は、第1のヘッダー22内部を通り流入側熱媒体室41内に流入する。そして、筒状熱媒体室形成部材32の流入室側開口33aおよびの熱交換体変形規制部34、35の当接部により形成された媒体流入側通路37を通過して、熱交換体31と熱交換体変形規制部34、35間を流れる。この際に、熱媒体により熱交換体31は加温もしくは冷却される。
【0061】
そして、熱媒体は、熱交換体変形規制部34、35の当接部により形成された媒体流出側通路38および筒状熱媒体室形成部材32の流出室側開口33bを通過することにより、筒状熱媒体室形成部材32内の流出側熱媒体室42内に流出する。そして、第1のヘッダー22内部を通過して熱媒体流出ポート29より流出する。
【0062】
次に、人工肺1における血液の流れについて説明する。
この人工肺1では、血液流入ポート24から流入(流通)した血液は、筒状コア5と筒状熱交換器部間である第1の血液室11の一部を構成する血液誘導部56内に流入し、筒状コア5と筒状熱交換体間を流れた後、第1の血液誘導部56と向かい合う位置に形成された開口52を通り筒状コア5より流出する。
【0063】
筒状コア5より流出した血液は、中空糸膜束3内面(内周部15)と筒状コア5間に位置する筒状コア5の外面に形成された複数の溝51内に流入した後、中空糸膜束3間に流入する。人工肺1では、中空糸膜束3のガス交換に寄与する部分(有効長、隔壁に埋もれない部分)のほぼ全域に渡るように多数の溝51が形成されているため、血液を中空糸膜束3の全体に分散させることができ、中空糸膜全体を有効に利用でき、ガス交換能も高いものとなる。
【0064】
そして、血液は、中空糸膜に接触し、ガス交換がなされた後、筒状ハウジング本体21と中空糸膜外面(中空糸膜束3外面)間により形成された第2の血液室12に流入する。このとき、血液中の気泡は、前述したように、フィルタ部材6により捕捉され、遂には、中空糸膜3aの内腔に入り込む。
【0065】
第2の血液室12に流入した血液は、血液流出ポート25より流出(流通)する。また、ガス流入ポート26より流入した酸素含有ガスは、第1のヘッダー22内を通り隔壁端面より中空糸膜内に流入し、第2のヘッダー23内を通過してガス流出ポート27より流出する。
【0066】
また、筒状ハウジング本体21、筒状コア5、第1および第2のヘッダー22、23などの熱交換体31を除く部材の形成材料としては、ポリオレフィン(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン)、エステル系樹脂(例えば、ポリエチレンテレフタレート)、スチレン系樹脂(例えば、ポリスチレン、MS樹脂、MBS樹脂)、ポリカーボネートなどが使用することができる。
【0067】
また、人工肺1の血液接触面は、抗血栓性表面となっていることが好ましい。抗血栓性表面は、抗血栓性材料を表面に被覆、さらには固定することにより形成できる。抗血栓性材料としては、ヘパリン、ウロキナーゼ、HEMA−St−HEMAコポリマー、ポリHEMAなどが使用することができる。
【0068】
<第2実施形態>
図6は、第2実施形態(参考例)の人工肺を示す断面図である。
【0069】
以下、この図を参照して人工肺の第2実施形態について説明するが、前述した実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項はその説明を省略する。
【0070】
本実施形態は、フィルタ部材の設置箇所が異なること以外は前記第1実施形態と同様である。
【0071】
図6に示すように、フィルタ部材6は、筒状中空糸膜束3の厚さ(肉厚)方向(径方向)の途中に設けられている。すなわち、フィルタ部材6は、筒状中空糸膜束3の外側の層(外層18)と内側の層(内層19)との間に設けられている。
【0072】
また、フィルタ部材6の外周部62および内周部61は、それぞれ、外層18および内層19に接している。すなわち、フィルタ部材6は、外層18と内層19とに挟持されている。
【0073】
このように設置されたフィルタ部材6により、第1の血液室11から筒状中空糸膜束3へ流入する血液中の気泡を確実に捕捉することができ、よって、この気泡が血液流出ポート25から流出するのを確実に防止することができる。
【0074】
なお、フィルタ部材6は、筒状中空糸膜束3の途中に1つ設けられているのに限定されず、例えば、複数設けられていてもよい。
【0075】
以上、本発明の人工肺を図示の実施形態について説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、人工肺を構成する各部は、同様の機能を発揮し得る任意の構成のものと置換することができる。また、任意の構成物が付加されていてもよい。
【符号の説明】
【0076】
1 人工肺
2 ハウジング
3 筒状中空糸膜束
3a 中空糸膜
3b 交差部
5 筒状コア
6 フィルタ部材
8、9 隔壁
11 第1の血液室
12 第2の血液室
15 内周部
16 内部
17 外周部
18 外層
19 内層
21 筒状ハウジング本体
22 第1のヘッダー
22a 熱媒体室形成部材接続部
22b 仕切部
23 第2のヘッダー
23a 熱媒体室形成部材接続部
24 血液流入ポート
25 血液流出ポート
26 ガス流入ポート
27 ガス流出ポート
28 熱媒体流入ポート
29 熱媒体流出ポート
31 筒状熱交換体
32 筒状熱媒体室形成部材
32a 区画壁
33a 第1の開口
33b 第2の開口
34、35 筒状熱交換体変形規制部
36a、36b 突起
37 媒体流入側通路
38 媒体流出側通路
40 流入開口部
41 流入側熱媒体室
42 流出側熱媒体室
43 流出開口部
48 リング状熱交換体固定用部材
49 筒状熱交換体固定用部材
51 溝
52 血液流通用開口
53 環状リブ
54 溝非形成部
55 ドーナツ板状突出部
56 血液誘導部
61 内周部
62 外周部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱交換器部と、
ガス交換機能を有する中空糸膜が多数集積された中空糸膜束と、
前記中空糸膜束の外周部に接して設けられ、気泡を捕捉する機能を有するフィルタ部材と、
前記熱交換器部、前記中空糸膜束および前記フィルタ部材を収納するハウジングと、
前記中空糸膜の内腔を介して互いに連通するガス流入部およびガス流出部と、
血液が流通する血液流入部および血液流出部とを備え、
前記血液流入部から流入した血液が、前記熱交換器部、前記中空糸膜束および前記フィルタ部材をこの順に通過して、前記血液流出部から排出されるよう構成されていることを特徴とする人工肺。
【請求項2】
前記熱交換器部は、その全体形状が円筒状をなすものであり、
前記中空糸膜束は、前記熱交換器部の周囲を囲むように設けられている請求項1に記載の人工肺。
【請求項3】
前記フィルタ部材は、前記中空糸膜束の外周部のほぼ全部を覆っている請求項1または2に記載の人工肺。
【請求項4】
前記フィルタ部材と前記ハウジングとの間には、間隙が形成されている請求項1ないし3のいずれかに記載の人工肺。
【請求項5】
前記血液流入部は、前記中空糸膜束の内周部側に開口する流入開口部を有し、
前記血液流出部は、前記中空糸膜束の外周部側に開口する流出開口部を有し、
血液が前記中空糸膜束の内周部側から外周部側へ通過するよう構成されている請求項1ないし4のいずれかに記載の人工肺。
【請求項6】
前記フィルタ部材は、親水性を有する請求項1ないし5のいずれかに記載の人工肺。
【請求項7】
前記フィルタ部材は、メッシュ状をなすものである請求項1ないし6のいずれかに記載の人工肺。
【請求項8】
前記フィルタ部材の目開きは、50μm以下である請求項7に記載の人工肺。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−219936(P2009−219936A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−163274(P2009−163274)
【出願日】平成21年7月10日(2009.7.10)
【分割の表示】特願2004−216448(P2004−216448)の分割
【原出願日】平成16年7月23日(2004.7.23)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】