説明

人工臓器の製造方法、及び人工臓器

【課題】実際の人体の臓器に近いような弾力性を有する材料で形成された立体的な人工臓器を容易に製造する方法を提供する。
【解決手段】人工臓器の製造方法は、人体臓器の二次元断層像データに基づいて、人体臓器の外形体と、人体臓器の内表面に沿った内形体を形成する光造形工程と、外形体を用いて、その外形に合致する内部空間を有する割り型を作成する基本型形成工程と、内形体を用いて、その外形に合致する内部空間を有する割り型を作成する中子型形成工程と、中子型形成工程で作成された割り型に対して低融点金属を注入して中子を形成する中子形成工程と、中子形成工程で形成された中子を、基本型形成工程で作成した割り型の内部空間に所定の隙間を介してセットすると共に、隙間に柔軟性を有する熱可塑性材料を注入し、柔軟性を有する熱可塑性材料が硬化した後、中子を除去する工程と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人体などの生体内部に存在する様々な臓器を立体モデルとした人工臓器の製造方法、及びそのような製造方法によって製造される人工臓器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、医療現場では、レントゲン装置やCTスキャン装置、超音波診断装置等が用いられており、医者は、これらの装置から得られるデータ(写真、画像データなどの二次元データ)から患部の状態を把握したり、これらのデータを参照して実際に手術等することが行われている。そして、実際に人体の手術をするに際しては、写真のような二次元データのみならず、対象となる患部を三次元的に把握することが重要である。例えば、心臓をカテーテルによって治療する手術では、具体的に治療する部位(実際にカテーテルが侵入して行く血管、及びステントが設置される部位)が、どのような構造になっているかを予め三次元的に把握しておくことが好ましい。
【0003】
また、カテーテルを使用した手術では、実際に人体に対して手術をする前段階として、豚などの動物等を対象として実践的な練習も行われているが、人体と動物では、その基本的な生体構造は異なっており、また、両者の臓器についても構造が異なることから、十分なものではない。さらに、そのような動物を対象として練習する際においても、カテーテルを操作する上で、実際の人体の心臓構造との間で、カテーテルがどのような挙動を示すかを視覚的に把握することはできない。
【0004】
このため、例えば、特許文献1や特許文献2等には、CTスキャンによって取り込んだデータから、実際に立体的な人工臓器を作成する技術が開示されている。これらの公知技術は、光学的造形法によって立体的な臓器を製造するものであり、CTスキャナなどによって得られた二次元画像データに基づいて、光硬化性樹脂に対してレーザ光を照射し、立体的な人工臓器を製造するものである。具体的に、レーザ光の照射方向(光軸)については、レーザ光の照射総量と樹脂の光感度との関係を調整することで硬化する範囲(深さ)が定まり、レーザ光の光軸と直交する方向については、レーザ光の径によって硬化する範囲が定まることから、所定の厚さで順次積層されて行く光硬化性樹脂に対して、二次元画像データに基づいてレーザ光を照射しながら走査することにより、所望の立体的な臓器モデルを短時間に形成することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−11689号
【特許文献2】特公平8−18374号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記した特許文献に開示されている製造方法に用いられる光硬化性樹脂は、基本的にプラスチックを形成する有機材料(モノマー、オリゴマーなど)に対して、重合反応を起こさせる(光を吸収して活性化させる)ための光重合開始剤を配合したものが用いられており、これに所定の波長のレーザビームを照射することで重合反応を引き起こし、分子が一定レベル以上になったことで液体状から固体状に変化する性質を備えている。
ところが、このような光硬化性樹脂は、実際の人体の臓器と比較すると、その硬度が極めて高く、また、臓器のような弾力性を備えていないことから、触手した感覚は勿論、上記したようなカテーテルを操作する際の挙動についても異なってしまい、実際の手術をシミュレーションする上では適切なものではない。さらに、実際の人体の臓器と同様な触手感覚が得られ、かつその形状を略忠実に再現した人工モデルを低コストで容易に製造することも難しい。
【0007】
本発明は、上記した問題に着目してなされたものであり、実際の人体の臓器に近いような弾力性を有する材料で形成された立体的な人工臓器を容易に製造することが可能な人工臓器の製造方法、及びそのような製造方法によって製造される人工臓器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した目的を達成するために、本発明に係る人工臓器の製造方法は、人体臓器の二次元断層像データに基づいて、第1の光硬化性樹脂にレーザ光を照射して前記人体臓器の外形体を形成すると共に、第2の光硬化性樹脂にレーザ光を照射して前記人体臓器の内表面に沿った外形を有する内形体を形成する光造形工程と、前記第1の光硬化性樹脂で形成された人体臓器の外形体を用いて、その外形に合致する内部空間を有する割り型を作成する基本型形成工程と、前記第2の光硬化性樹脂で形成された人体臓器の内表面に沿った外形を有する内形体を用いて、その外形に合致する内部空間を有する割り型を作成する中子型形成工程と、前記中子型形成工程で作成された割り型に対して低融点金属を注入して中子を形成する中子形成工程と、前記中子形成工程で形成された中子を、前記基本型形成工程で作成した割り型の内部空間に所定の隙間を介してセットすると共に、前記隙間に柔軟性を有する熱可塑性材料を注入し、前記柔軟性を有する熱可塑性材料が硬化した後、前記中子を除去する工程と、を有することを特徴とする。
【0009】
上記した製造方法では、人体臓器の二次元断層像データに基づいて、光造形技術によって、第1の光硬化性樹脂から人体臓器の外形体が得られると共に、第2の光硬化性樹脂から人体臓器の内表面に沿った外形を有する内形体が得られ、これらは、正確に臓器の内面と外面を再現したものとなる。そして、第1の光硬化性樹脂から得られた人体臓器の外形体から、その外形に合致する内部空間を有する割り型(基本型)を作成し、第2の光硬化性樹脂から得られた人体臓器の内表面に沿った外形を有する内形体から、その外形に合致する内部空間を有する割り型(中子型)を作成する。
【0010】
その後、前記中子型に対して低融点金属を注入して中子を形成し、形成した中子を、上記のようにして作成された基本型の内部空間に所定の隙間を介してセットし、隙間内に柔軟性を有する熱可塑性材料を注入する。そして、柔軟性を有する熱可塑性材料が硬化した後、前記中子を除去(溶融除去)することで、柔軟性を有する人工臓器が製造される。この場合、光造形技術によって、人体臓器の外側形状及び内側形状が正確に再現されたもの(光造形物)から基本型及び中子型を作成しているため、最終的に得られる人工臓器は、実際に得られた二次元画像データに基づく立体形状となり、しかも柔軟性を有する熱可塑性材料によって形成されるため、実際の人体の臓器に近似した硬度のものが得られる。
【0011】
なお、上記した製造工程において、柔軟性を有する熱可塑性材料として、透明なものを用いることで、得られる人工臓器は透明なものとなる。このような人工臓器は、柔軟性を有すると共に透明であるため、カテーテルを操作したりステントを設置する等の施術をする際の挙動が目視できるようになり、実践的かつ効果的なシミュレーションをすることが可能となる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、実際の人体の臓器に近いような弾力性を有する材料で形成された立体的な人工臓器、及びそのような人工臓器を容易に製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】人工臓器として心臓をモデルとした製造方法の全体工程を示す図。
【図2】光造形工程によって得られる心臓の外形体を示す斜視図。
【図3】光造形工程によって得られる心臓の内表面に沿った外形を有する内形体を示す斜視図。
【図4】図2に示す心臓の外形体を用いて、その外形に合致する内部空間を有する割り型(基本型)を作成する工程を示す図。
【図5】図3に示す心臓の内表面に沿った外形を有する内形体を用いて、その外形に合致する内部空間を有する割り型(中子型)を作成する工程を示す図。
【図6】(a)は、図5に示した中子型によって中子を製造する工程を示す図、(b)は、実際に製造された中子を示す斜視図。
【図7】図4で示すように作成された基本型に、図6で示す中子をセットした状態を示す図。
【図8】(a)は、図7に示す基本型と中子との間に柔軟性を有する樹脂を注入することで得られる人工心臓の外形を示す図、(b)は、中子を除去した後で人工心臓の一部を切り欠いた斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る人工臓器の製造方法について、図1、及び図2から図8を参照しながら具体的に説明する。なお、以下に説明する人工臓器の製造方法では、人体臓器として心臓を取り上げることとする。
【0015】
図1で示すように、人工心臓を製造するに際しては、最初に、心臓の二次元断層像データを取得する(ステップS1)。この二次元断層像データ(以下、断層像データ)は、一般的に知られているように、CTスキャンに代表される画像撮影装置によって実際の人体を撮影等することで得られ、この画像データから心臓の外表面と内表面を特定することが可能となる。なお、内表面の内側は、心室、心房、大静脈、大動脈、肺動脈、肺静脈等を規定する内部空間(空洞部)となり、内表面と外表面の間の肉厚部分が心臓の形状を特定する被覆部分となる。
【0016】
次に、取得された心臓の断層像データから、心臓の外形体、及び内表面に沿った外形を有する内形体を光造形技術で形成する(ステップS2,ステップS4)。この外形体、及び内形体の製造工程は、別々に実行され、取得した断層像データに基づいて、公知の光造形装置(光硬化性樹脂に対してレーザ光を照射する)を用いて製造される。具体的には、光造形装置の物体形成部に対し、所定の膜厚で光硬化性樹脂を連続的に積層しつつ、順次積層されて行く各光硬化性樹脂に対して、前記断層像データに基づいてレーザ光を走査することで形成される。
【0017】
図2は、上記したステップS2の光造形工程によって得られる心臓の外形体を示す斜視図である。心臓の外形体10は、上記したように断層像データに基づいて光造形技術によって形成され、心室部(左心室、右心室)11、心房部(左心房、右心房)12、上大動脈13、上大静脈15、下大静脈16、肺動脈18、肺静脈19などの構成組織を有している。なお、図に示した外形体10は、概略を示したものであり、実際の心臓の形状を正確に示したものではない。このため、心室部や心房部の表面に存在する血管などは省略されている。
【0018】
前記外形体10は、基本型を作成する際に用いられ、基本型は、後述するように、その内部空間に、低融点金属によって形成される中子を正確に位置決めしてセットすることから、外形体10には、予め、中子をセットする際に利用される位置決め用の突起部が形成されている。すなわち、外形体10に予め突起部を形成しておくことで、外形体10から作成される基本型には、その突起部に対応する位置に、空洞となる位置決め部が形成されることとなり、この位置決め部を利用して、後述する中子を正確にセットすることが可能となる。
【0019】
本実施形態では、外形体10に予め形成される突起部は、人体臓器の内表面の一部を突出することで形成され、好ましくは、上記したステップS1で取得した断層像データを利用できるように、人体臓器を構成する組織を利用している。すなわち、図2において、そのような突起部は、上大動脈13、上大静脈15、下大静脈16など、心臓本体から血液を流入、流出させる経路(血管)の端部に、そのまま内表面を突出させることで形成している(図2では、そのような突起部を符号13a,15a,16aで示してある)。なお、このような突起部は、各血管の端部に形成することで、位置決め部を多数形成することが可能となり、位置決め精度を高めることが可能となる。
【0020】
前記ステップS2で得られた外形体10は、その外形に合致する内部空間を有する割り型(基本型)を作成する際に用いられる。すなわち、そのような外形体10は、型枠(図示せず)に対して支持し、型枠に対して型材料を充填することで、図4に示すような基本型100が作成される(ステップS3)。図4に示す基本型100は、既に所定の位置でカットした割り型101,102,103…となっており、各割り型を組み合わせることで、外形体10に合致する内部空間110を有する基本型100が作成される。
【0021】
この場合、基本型となる割り型は、金属によって作成しても良いが、臓器形状に応じて型を抜く方向や、カット位置(分割位置)を容易に設定できるように、弾性変形が可能な材料(例えばゴム)を用いることが好ましく、このような材料を用いることで、複雑な形状を有する臓器であっても、柔軟に対応することが可能となる。
【0022】
すなわち、基本型100には、臓器(本実施形態では心臓)の外面形状に合わせて内部空間110が形成され、ここに後述する中子がセットされて、中子表面と内部空間110を規定する内表面との間に柔軟性を有する樹脂を注入し、樹脂が硬化した後、最終的に基本型100を割ることから、弾性変形可能な材料を用いることで基本型100を割る方向やカット位置について、容易に設定することが可能となる。具体的には、最終的に得られる心臓の形状に応じて基本型100の抜く方向等を考慮して、基本型を構成する割り型101,102,103…の形状、及び分割する個数などを適宜定めることが可能となる。なお、外形体10には、上記した突起部13a,15a,16aが形成されていることから、外形体10によって作成される基本型100の内部空間110には、図7に示すように、突起部13a,15a,16aに対応して、血管表面を規定する内部空間よりも径が小さい位置決め部113a,115a,116aが形成される。
【0023】
図3は、上記したステップS3の光造形工程によって得られる心臓の内表面に沿った外形を有する内形体を示す斜視図である。心臓の内形体20は、上記したように断層像データに基づいて光造形技術によって形成され、心室部(左心室、右心室)21、心房部(左心房、右心房)22、上大動脈23、上大静脈25、下大静脈26、肺動脈28、肺静脈29などの構成組織を規定する表面形状を有している。なお、図に示す内形体20は、概略を示したものであり、実際の心臓の形状を正確に示したものではない。このため、心室部や心房部の表面に存在する血管などは省略されている。
【0024】
前記内形体20は、中子型を作成する際に用いられ、中子型は、後述するように、割り型となって、その内部空間に低融点金属を注入することで実際の中子が形成される。このため、中子型から形成される中子は、図3に示す形状と合致する。この内形体20には、上記したように、基本型100に形成される位置決め部113a,115a,116aに支持される支持部が形成されている。この支持部は、上述したように、位置決め部113a,115a,116aが心臓を構成する組織(血管)を利用して形成されることから、そのまま上大動脈23の端部23a、上大静脈25の端部25a、下大静脈26の端部26aとなる。
【0025】
上記のようにステップS4で得られた内形体20は、その外形に合致する内部空間を有する割り型(中子型)を作成する際に用いられる。すなわち、そのような内形体20は、型枠(図示せず)に対して支持し、型枠に対して型材料を充填することで、図5に示すような中子型200が作成される(ステップS5)。図5に示す中子型200は、既に所定の位置でカットした割り型201,202,203…となっており、各割り型を組み合わせることで、内形体20に合致する内部空間210を有する中子型200が作成される。
【0026】
この場合、中子型となる割り型についても、上記した基本型と同様、臓器形状に応じて型を抜く方向や、カット位置(分割位置)を容易に設定できるように、弾性変形が可能な材料(例えばゴム)を用いることが好ましく、このような材料を用いることで、複雑な形状を有する臓器であっても、柔軟に対応することが可能となる。
【0027】
前記中子型200には、臓器(本実施形態では心臓)の内面形状に合わせて内部空間210が形成され、この内部空間に低融点金属(例えば、融点が略80℃となる鉛)を注入して中子が形成される。中子型200を割る方向やカット位置については、適宜変形することが可能であり、心臓の内面形状に応じて中子型200の抜く方向等を考慮して、中子型を構成する割り型201,202,203…の形状、及び分割する個数など、適宜変形することが可能である。
【0028】
図6(a)は、上記したステップS5によって作成された中子型200を示しており、この中子型200の内部空間210に低融点金属を注入し、その後、中子型200を開くことで、図6(b)に示す中子30が形成される(ステップS6)。この中子30は、図3に示す光硬化樹脂で形成された内形体20と同一の形状となっており、心室部(左心室、右心室)31、心房部(左心房、右心房)32、上大動脈33、上大静脈35、下大静脈36、肺動脈38、肺静脈39などの構成組織を規定する表面形状を有している。
【0029】
この場合、中子型200は、上記した内形体20の端部23a,25a,26aを、低融点金属を注入するゲートとして利用するようにしても良い。すなわち、このような部分をそのままゲートとして利用することで、中子型200を開いた際のゲート部分を、そのまま中子30の支持部33a,35a,36aとすることが可能となる。
【0030】
そして、上記ステップS6で形成された中子30は、上述したステップS3で作成された基本型100の内部空間110にセットされる(ステップS7)。この場合、図7に示すように、中子30の支持部33a,35a,36aを、基本型100に形成されている前記位置決め部113a,115a,116aに設置することで、中子30を正確に基本型100の内部空間110内にセットすることが可能となる。すなわち、心臓を構成する組織(血管)を利用して、基本型作成時に、組織の内面をそのまま延長して位置決め部113a,115a,116aを形成したことで、その部分に、そのまま中子30の支持部33a,35a,36aを嵌合することが可能となる。これにより、内部空間110の内面と支持部33a,35a,36aを除く中子30の外表面との間には、心臓の被膜と同じ厚さの隙間300が形成される。
【0031】
このように中子30を位置決めして設置した基本型100に対しては、その隙間300に通じるゲート130から、柔軟性を有する熱可塑性材料400を注入し(ステップS8)、熱可塑性材料400が硬化した後、基本型100を開き、中子30を包含した構造体を取り出す。硬化した熱可塑性材料400は、図8(a)に示すように、中子30の外表面を、所定の肉厚で覆った状態となっており、中子30を構成する低融点金属を溶かす(ステップS9)ことで、図8に示す人工心臓500が製造される。
【0032】
すなわち、低融点金属(中子30)を溶かすことで、上記した基本型100、及び基本型100の内部空間110に対して位置決め設置された中子30によって、心室部(左心室、右心室)501、心房部(左心房、右心房)502、上大動脈503、上大静脈505、下大静脈506、肺動脈508、肺静脈509などの構成組織を具備した所定の弾性を有する人工心臓500が得られる。なお、中子30を溶かすことで、図8(b)に示すように、心室部501の内部511や上大動脈503の内部503a等は空洞状となり、実際の心臓と同様な内部構造となる。また、中子30の表面に血管用の湾曲部を形成しておくことで、その表面には、血管510を形成することが可能である。
【0033】
上記した熱可塑性材料400については、実際に触手した際、心臓と同様な弾性を有すると共に、その可塑温度については、中子30を形成する低融点金属の融点よりも高いものを用いれば良く、例えば、シリコンゴム、ウレタン、柔軟性を有する発泡性の樹脂(ウレタン系、シリコン系)などを用いることが可能である。また、そのような材料については、最終的に硬化した際、透明になるものを用いることが好ましい。これは、実際に人工臓器を製造しようとする場合、その外観色はできるだけ実際の臓器と同様な色彩にすることが望ましいと考えられるが、実際の心臓モデルを考慮した場合、透明系にすることで、カテーテルを操作したりステントを設置する等の施術をする際の挙動(カテーテルの進入経路、ステントの設置位置や設置状態)が目視できるようになることから、有色系の外観にした場合と比較して、より実践的かつ効果的なシミュレーションをすることが可能となる。
【0034】
以上のようなステップS1からS9による人工臓器の製造方法によれば、人体臓器の二次元断層像データに基づいて、光造形技術によって、それぞれ光硬化性樹脂から人体臓器の外形体、及び人体臓器の内表面に沿った外形を有する内形体を得ることから、正確に人体臓器の内面と外面を再現することが可能となる。そして、人体臓器の外形体から基本型を作成すると共に、体臓器の内表面に沿った内形体から中子型を作成し、中子型によって作成した低融点金属製の中子を基本型に設置し、柔軟性を有する熱可塑性材料を注入して人工臓器を得ることで、本物に近い触手感覚の人工臓器を容易かつ低コストで製造することが可能となる。
【0035】
また、中子型を作成して、中子を低融点金属で形成することから、中子そのものを容易に製造することが可能となり、人工臓器の生産効率を高めることが可能となる。
【0036】
また、本実施形態では、基本型形成工程で作成される基本型100に、中子30をセットする際の位置決めを果たす位置決め部を形成すると共に、中子型形成工程で作成された中子200から得られる中子30に支持部を形成し、この中子の支持部を、基本型形成工程で作成した基本型100の位置決め部にセットすることから、中子を設置する際、正確な位置合わせを実現することが可能となる。
【0037】
特に、基本型100の位置決め部は、光造形工程において人体臓器の外形を形成する際、人体臓器の内表面の一部を突出させ、この一部が突出した外形を基本型形成工程に用いているため、中子30をそのまま基本型100に設置することで、正確に位置合わせすることが可能となる。さらに、本実施形態のように、位置決め部、及び中子30の支持部を、人体臓器を構成する組織(血管としている)を利用して形成することで、そのまま二次元断層像データの臓器形状を活用することが可能となる。
【0038】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記した実施形態の構成に限定されることはなく、種々変形することが可能である。
上記した実施形態では、心臓を例示して説明したが、心臓以外の人体臓器であっても、同様に適用することが可能である。また、基本型や中子型の構成(材料、型割りする位置や開く方向など)は、製造する臓器や用途に応じて適宜変形することが可能である。
【符号の説明】
【0039】
10 心臓の外形体
20 心臓の内形体
30 中子
100 基本型
200 中子型
300 隙間
500 人工心臓

【特許請求の範囲】
【請求項1】
人体臓器の二次元断層像データに基づいて、第1の光硬化性樹脂にレーザ光を照射して前記人体臓器の外形体を形成すると共に、第2の光硬化性樹脂にレーザ光を照射して前記人体臓器の内表面に沿った内形体を形成する光造形工程と、
前記第1の光硬化性樹脂で形成された人体臓器の外形体を用いて、その外形に合致する内部空間を有する割り型を作成する基本型形成工程と、
前記第2の光硬化性樹脂で形成された人体臓器の内表面に沿った内形体を用いて、その外形に合致する内部空間を有する割り型を作成する中子型形成工程と、
前記中子型形成工程で作成された割り型に対して低融点金属を注入して中子を形成する中子形成工程と、
前記中子形成工程で形成された中子を、前記基本型形成工程で作成した割り型の内部空間に所定の隙間を介してセットすると共に、前記隙間に柔軟性を有する熱可塑性材料を注入し、前記柔軟性を有する熱可塑性材料が硬化した後、前記中子を除去する工程と、
を有することを特徴とする人工臓器の製造方法。
【請求項2】
前記隙間に注入する熱可塑性樹脂は、硬化したときに透明となるものを使用することを特徴とする請求項1に記載の人工臓器の製造方法。
【請求項3】
前記基本型形成工程で作成される割り型に、前記中子をセットする際の位置決めを果たす位置決め部を形成し、
前記中子型形成工程で作成された割り型から得られる前記中子に支持部を形成し、
前記中子の支持部を、前記基本型形成工程で作成した割り型の前記位置決め部にセットすることを特徴とする請求項1又は2に記載の人工臓器の製造方法。
【請求項4】
前記位置決め部は、前記光造形工程において人体臓器の外形を形成する際、人体臓器の内表面の一部を突出させ、この一部が突出した外形を前記基本型形成工程に用いることで形成することを特徴とする請求項3に記載の人工臓器の製造方法。
【請求項5】
前記位置決め部、及び中子の支持部は、前記人体臓器を構成する組織を利用して形成することを特徴とする請求項4に記載の人工臓器の製造方法。
【請求項6】
前記基本型形成工程によって作成される割り型、及び前記中子形成工程によって作成される割り型は、弾性変形可能な材料によって作成されることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の人工臓器の製造方法。
【請求項7】
請求項2の製造方法によって製造されたことを特徴とする人工臓器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2012−137514(P2012−137514A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−287813(P2010−287813)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(502359183)株式会社ジェイ・エム・シー (3)
【Fターム(参考)】