人工血管弁
【課題】粘膜下組織を用いて組織弁構成体を調製することと、これらの弁構成体を用いて温血脊椎動物の心臓及び循環系の損傷または病変した弁を置換または修復することとを意図している。
【解決手段】組織弁は、欠陥のある弁の直径に近似する直径Dを有する連続管状体の形をとる。この管状体は、第1及び第2の対向端部20,22と、約1.5D乃至約3.5Dの長さLを持つ三重壁の中間部分24とを有する。この組織移植片の三重壁部分は、管状体の第1の端部を裏返して、二重壁の端部と、該二重壁の端部に近接するとともに該二重壁の端部から延在する二重壁部分とを有する管状構成体を形成させることによって形成される。
【解決手段】組織弁は、欠陥のある弁の直径に近似する直径Dを有する連続管状体の形をとる。この管状体は、第1及び第2の対向端部20,22と、約1.5D乃至約3.5Dの長さLを持つ三重壁の中間部分24とを有する。この組織移植片の三重壁部分は、管状体の第1の端部を裏返して、二重壁の端部と、該二重壁の端部に近接するとともに該二重壁の端部から延在する二重壁部分とを有する管状構成体を形成させることによって形成される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組織移植片構成体とその調製及び使用方法とに関する。特に、本発明は、温血脊椎動物から調製されて血管弁に形成される非免疫原性の粘膜下組織移植片構成体を意図している。本発明の人工血管弁は、温血脊椎動物の損傷または病変した弁を置換するのに有用である。
【発明の開示】
【0002】
心臓には、心臓の2つの側を介して、血流を体内の様々な器官へと送り出す4つの弁がある。心臓の左(左心)側にある弁は:1)左心房と左心室との間に位置する僧帽弁と、2)左心室と大動脈との間に位置する大動脈弁とである。これらの2つの弁は、肺から送られて来る酸素化した血液を心臓の左側を介して大動脈へと誘導して体内に分配する。心臓の右(右心)側には:1)右心房と右心室との間に位置する三尖弁と;2)右心室と肺動脈との間に位置する肺動脈弁とがある。これらの2つの弁は、全身から送られて来る脱酸素化した血液を心臓の右側を介して肺動脈へと誘導して肺に分配しており、血液は肺で再び酸素化されて、新たに循環する。
【0003】
これら4つのいずれの心臓弁も、自らは少しもエネルギーを消費せず、かついかなる活発な収縮機能も果たさないという点において受動的な構造体である。これらの弁は、該弁のいずれかの側における差圧に呼応して開閉するようになっている可動式の「小葉」によって構成される。僧帽弁と三尖弁とは、心臓の心房と心室との間に位置するため、「房室弁」と呼ばれる。僧帽弁は合計2つの小葉を有するのに対して、三尖弁は3つの小葉を有する。大動脈弁及び肺動脈弁の各々は、「尖」と呼ばれることの方が多い3つの小葉を有する。
【0004】
全世界で病変した心臓弁を置換する外科処置が、毎年150,000件以上行なわれている。3件の手術の内2件では、現在機械的な人工弁が用いられている。機械弁には、ケージド・ボール弁(スタル・エドワーズ(Starr-Edwards)弁等)と2枚弁(セント・ジュード(St. Jude)弁等)と傾斜円板弁メドトロニック・ホール(Medtronic-Hall)またはオムニセンス(Omniscience)弁等)とが含まれる。ケージド・ボール弁は、一般に、チタン製ケージの内側に配置されるシリコーン・ゴム製の球体からなる一方で、2枚弁及び傾斜円板弁は、熱分解性炭素とチタンとを様々に組み合せたもので作製される。これら全ての弁が、布(一般にダクロン(DacronTM ))製の縫合リングに取り付けられて、人工弁を患者の自己組織に縫合することで移植した人工弁を固定することができる。
【0005】
機械弁の主要な利点は、長期の耐久性である。しかし、現在入手可能な機械弁は、トロンボゲン形成を引き起こし、そのために生涯にわたって抗凝血薬療法が必要になるという欠点を持つ。弁上に血餅が形成されると、これらの血餅が弁の適正な開閉を妨げるか、または、より重要なこととして、これらの血餅が弁から分離して脳への血管に塞栓を形成して、脳卒中を引き起こすこともある。抗凝血薬を投与することで血餅形成の危険を減らすことができるが、このような薬剤は高価であり、かつ脳内で出血が起こった場合に脳卒中の原因となり得る異常出血を引き起こしかねないという点において潜在的に危険である。
【0006】
機械弁に替わるものの一つは、天然組織から作られる弁である。天然組織から作られる人工弁は、優れた血行力学的特性を有しており、従って組織を基本とする弁の臨床学的な利用は、人工弁市場全体よりも急速に拡大している。現在入手可能な組織弁は、ブタの大動脈弁の小葉をステントに縫い付ける(以って小葉を適正位置に保持する)方法、またはウシまたはブタの(心臓を取り巻く)心膜から弁小葉を作成し、これらをステントに縫い付ける方法のいずれかによって作成される。ステントは、剛性または若干の可撓性を有し得、かつ布(一般にダクロンの商標で販売される合成材料)で覆われるとともに、縫合リングに取り付けられて患者の自己組織に固定される。カーペンティエール・エドワーズ(Carpentier-Edwards)ブタ弁と、ハンコック(Hancock)ブタ弁と、カーペンティエール・エドワーズ心膜弁との3つの組織弁が、米国食品医薬品局により移植用として承認された。
【0007】
組織弁の主要な利点は、機械弁ほど容易に血餅形成を引き起こさず、従って全身的な抗凝血薬療法を絶対に必要としないというところにある。組織弁の主要な欠点は、機械弁が持つ長期の耐久性を欠くことである。現在入手可能な組織弁は、一般に移植後約8乃至10年で現れる著しい不全率を有する。特に、現在入手可能な人工組織弁は移植後に石灰化し、弁の石灰化が小葉の硬化をもたらして、小葉がひび割れてしまうことがよくある。
【0008】
従って、長期の耐久性を有し、かつ被移植者の組織との生体適合性を持つ人工組織弁構成体が求められている。本発明は、温血脊椎動物の粘膜下組織により形成される人工組織弁を意図している。本発明に従って調製される粘膜下組織は、損傷または病変した被移植者組織の修復を促進する生体適合性の抗血栓性移植片材料としてすでに説明された。数多くの研究から、温血脊椎動物の粘膜下組織は、尿路下部、体壁、腱、靭帯、骨、心血管組織、中枢神経系とを含む多数のin vivo微環境において移植後に被移植者組織の増殖と組織構造体の改造及び再生とをもたらし得ることがわかった。移植と同時に、細胞浸潤と急速な血管新生とが観察され、粘膜下組織材料は、部位特有の構造及び機能特性を有する被移植者の置換組織に改造される。
【0009】
粘膜下組織は、例えば食肉生産用に飼育されるブタ、ウシ、ヒツジを含む動物、またはその他の温血脊椎動物から採取される様々な原材料組織から得られる。特に、粘膜下組織は、温血脊椎動物の消化管、気道、腸管、尿路または生殖路を含む温血動物組織から分離される。一般に、粘膜下組織は、これらの原材料組織から、平滑筋層と粘膜層との両方から粘膜下組織を剥離させることによって調製される。腸管粘膜下組織の調製は、米国特許第4,902,508号の説明と請求の範囲とに記載されており、特に前記特許の開示を参照することにより本明細書の一部分とする。膀胱粘膜下組織とその調製とは、米国特許第5,554,389号に説明されており、特に前記特許の開示を参照することにより本明細書の一部分とする。また、胃粘膜下組織を得て、同様の組織処理技術を用いて特徴を与えた。これについては、1996年12月10日出願の胃粘膜下組織由来の組織移植片と題する米国特許出願第60/032,683号に説明されている。簡単に言えば、胃粘膜下組織は、腸粘膜下組織の調製と同様の手順で胃の切片から調製される。胃組織の切片は、最初に縦方向の拭取り動作を用いた削摩を受けて、外側の層(特に平滑筋層)と粘膜層の管腔部分とが除去される。その結果として得られる胃粘膜下組織は、約100乃至約200マイクロメートルの厚さを有しており、主として(98%を超える)無細胞のエオシン好染色性(ヘマトキシリン−エオシン染色)細胞外基質によって構成される。
【0010】
本発明に従って用いられるのに好ましい粘膜下組織は、腸粘膜下組織と胃粘膜下組織と膀胱粘膜下組織と子宮粘膜下組織とを含む。腸粘膜下組織、特に温血脊椎動物の腸の筋層及び少なくとも粘膜の双方から剥離される腸粘膜下組織は、一つの好ましい原材料である。
【0011】
組織移植片として、粘膜下組織は、被移植者に移植されると同時に、改造を受けるとともに、体内組織の増殖を誘発する。粘膜下組織は、人工血管と膀胱及びヘルニアの修復と腱及び靭帯の置換及び修復と皮膚移植片とに用いられて成果を上げた。粘膜下組織の組織移植片構成体としての調製及び使用は、米国特許第4,902,508号と5,281,422号と5,275,826号と5,554,389号とその他の関連ある米国特許とに説明されている。このような用途に用いられると、この移植片構成体は、該移植片構成体により置換される組織を再生するための基質として機能するだけでなく、体内組織のこうした再生を促進または誘発する。この改造過程に共通する事象には、広範かつ極めて急速な血管新生と肉芽間葉細胞の増殖と移植された腸粘膜下組織材料のin vivo分解/吸収と免疫拒絶反応が起こらないこととが含まれる。
【0012】
また、粘膜下組織は、損傷または病変した心内膜と心膜と心筋とを含む心組織の体内再生と治癒とを促進させ得る。特に、損傷または病変した心筋組織を生体内において温血脊椎動物の粘膜下組織からなる構成体により置換することで自発性収縮特性を有する体内組織の形成を促進させることができる。
【0013】
本発明は、粘膜下組織を用いて組織弁構成体を調製することと、これらの弁構成体を用いて温血脊椎動物の心臓及び循環系の損傷または病変した弁を置換または修復することとを意図している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
大腿筋膜とウシ心膜と脳硬膜とを含む様々な原材料組織を用いて心臓弁の作成及び修復を行なった。加えて、研究者は、人間の弁を置換するのに動物弁(ブタ弁等)と死体の弁とを使用する潜在性を研究した。人工組織弁を用いて研究を行なってきた研究者は、新鮮な組織は時間の経過とともに収縮する傾向にあり、その結果として弁が完全に密閉して流体の逆流を防ぐことができなくなってしまうことを発見した。従って、研究者は、グルタルアルデヒド処理を用いて組織を剛化させて、これらの組織がその後収縮するのを防いだ。組織のグルタルアルデヒド処理は、組織移植片が免疫反応を引き起こす確率をも低下させるという点で有利である。しかしながら、グルタルアルデヒド処理はまた、組織弁のin vivoにおける寿命を短縮させる。
【0015】
天然の弁小葉は、組織が伸長力には抵抗するが圧縮力には抵抗しないように配向される線維物質を含む極めて柔軟な海綿状物質によって構成されている。この軸方向の圧縮力に対する低い抵抗力が、天然の心臓弁組織にその特徴である高い柔軟性を与えている。このような組織をグルタルアルデヒドで固定すると、該組織は新鮮な組織の最大4倍の剛性を持つようになる。この固定処理は、分子の架橋を誘発して、屈曲を伴う軸方向の圧縮力に対する組織の抵抗力が高くなる。その結果として、より剛性の組織は屈曲時に屈従し、連続する心拍の度毎に組織は同じ位置で屈曲しがちになって、膠原繊維が疲労して最終的に破断する。さらにまた、組織のグルタルアルデヒド処理は、処理された組織の石灰化を誘発するように思われる(例1参照)。組織の石灰化は、小葉のさらなる剛化をもたらして、移植された組織弁のひび割れと不全とに対する移植片の感受性を悪化させる。
【0016】
本発明の人工組織弁は、温血脊椎動物の粘膜下組織から人工的に作られる。米国特許第4,902,508号及び5,554,389号に説明された手順に従って分離される粘膜下組織は、被移植種内に移植されたときに免疫反応を誘発しない。従って、本発明により脊椎動物の粘膜下組織から調製される組織弁構成体は、移植前にグルタルアルデヒドにより処理される必要はない。
【0017】
粘膜下組織を用いて、二尖弁または三尖弁の尖を置換することによりin vivoにおいて既存の弁を修復することができる。また、粘膜下組織を用いて弁全体を作成して、心臓弁またはその他の循環系の弁または管路弁を置換することができる。本発明の弁構成体の粘膜下組織は、該粘膜下組織を浸潤させて最終的に移植片材料を体内組織で置換する体内細胞及び組織の形成を誘発する。
【0018】
本発明の粘膜下組織移植片構成体は、グルタルアルデヒドなめし法、酸性のpH値でのフォルムアルデヒドなめし法、酸化プロピレンまたは酸化エチレン処理、ガス・プラズマ滅菌方法、ガンマ線照射、電子ビーム照射、過酢酸滅菌方法を含む従来の滅菌方法を用いて滅菌され得る。粘膜下組織の機械的強度と構造と生体刺激特性とに悪影響を及ぼさない滅菌方法が好ましい。例えば、強いガンマ線照射は、粘膜下組織の強度損失を引き起こし得る。好ましい滅菌方法には、移植片を過酢酸にさらすこと、1乃至4Mradのガンマ線照射(さらに好ましくは1乃至2.5Mradのガンマ線照射)、酸化エチレン処理またはガス・プラズマ滅菌方法が含まれ、過酢酸滅菌方法が最も好ましい滅菌方法である。一般に、粘膜下組織は、2つ以上の滅菌工程を受ける。粘膜下組織を例えば化学的処理により滅菌した後に、この組織をプラスチックまたは箔の外被体で包んで、電子ビームまたはガンマ線照射滅菌方法を用いて再び滅菌してもよい。
【0019】
粘膜下組織は、含水または脱水状態で保存され得る。凍結乾燥または空気乾燥された粘膜下組織は、その生体刺激特性及び機械的特性を著しく損なわれることなしに、本発明に従って再度含水されて使用できる。
【0020】
本発明に従った一つの実施態様において、単体形血管弁は、温血脊椎動物の管状粘膜下組織から作成され得る。本発明の組織弁を形成させるのに用いられる管状粘膜下組織は、液密性の継ぎ目を有して形成されるとともに、該移植片構成体によって置換される体内組織に合わせて成形され得る。ある好ましい実施態様において、血管弁は、管状腸粘膜下組織から形成されるとともに、カモノハシ形の弁として構成される。
【0021】
管状粘膜下組織は、米国特許第4,902,508号に記載のように、筋層及び粘膜の少なくとも管腔部分の双方から剥離される腸粘膜下組織を含む様々な原材料から調製される。簡単に言えば、ブタ、ヒツジまたはウシの各種属から採取されることが好ましいが、これら以外の種族を除外するものではない脊椎動物の腸の切片は、縦方向の拭取り動作を用いた削摩を受けて、平滑筋組織からなる外側の層と、粘膜の管腔部分である最も内側の層とが除去される。
【0022】
調製される管状粘膜下組織の直径は、受容体の血管の直径と略同じでなければならない。一つの実施態様において、これは、粘膜下組織を処理して受容体の血管の直径と略同じ直径を有する円筒体を形成させ、該粘膜下組織を長手方向に縫合するか、またはその他の方法で固定して、適切な管腔直径の管状体を形成させることによって達成される。従って、例えば人工血管は、受容体の血管の外径に等しい外径を有する無菌ガラス棒を選択し、このガラス棒を管状の粘膜下組織(例えば腸組織の切片から調製される粘膜下組織)の管腔内に挿入し、余分な組織をかき寄せることによって作成され得る。所望の管腔直径は、移植片の全長に沿って(例えば2本の連続的な縫合線または単純な断続縫合線を用いて)縫合すること、または当該分野で公知のその他の組織固定技術を用いることによって達成される。
【0023】
また、管状粘膜下組織は、シート状粘膜下組織から形成され得る。「シート状粘膜下組織」という用語は、本明細書では、多数の条片状の粘膜下組織からなる組織構成体において、これらの条片が重ね合わされ、かつ脱水条件下で圧縮されて、前記構成体の形成に用いられる個々のいずれの条片の表面積よりも大きい表面積を有する一体的な構成体を形成する組織構成体を含むものと定義される。シート状粘膜下組織という用語には、管状体の全長に沿って切開されて平らに広げられた管状腸粘膜下組織も含まれる。
【0024】
一つの実施態様において、管状粘膜下組織は、シート状粘膜下組織から、適切な直径の円筒状のマンドレルのまわりに該組織を巻き付けることによって形成される。余分な組織は除去され、対向端部は互いに結合されて、マンドレルの直径に略等しい管腔直径を有する管状体が形成される。シートの対向端部は、糊状接着剤、縫合糸、組織を重ね合わせて脱水条件下で加熱することによる両端部の融着または当業者に公知の何らかのその他の固定技術によって結合され得る。
【0025】
ある実施態様では、図1に示されるように、シート状粘膜下組織2は、該シート状粘膜下組織2を適切な直径の円筒状マンドレル12のまわりに螺旋状に巻き付け、重複する組織を脱水条件下で圧縮することによって、いかなる大きさの管状構造体にも成形される。マンドレル12は、複数個の穴16を円筒壁に形成されて有するプラスチックまたは金属製の中空円筒体であることが好ましい。組織の圧縮は、マンドレル12の一方の端部に密封部4を形成させ、マンドレル12の管腔を介して真空吸引することによって達成される(図2参照)。これに替わる方法として、組織は、巻き付けられた粘膜下組織の外面に外力を加えて、組織をマンドレルに押し付けて圧縮することによって圧縮される。一つの実施態様において、螺旋状に巻き付けられた組織の最終的な継ぎ目は、縫合糸、熱による点溶接または該継ぎ目をグルタルアルデヒドで処理することによってさらに固定され得る。
【0026】
本発明によれば、管状粘膜下組織は、1枚以上のシート状粘膜下組織がマンドレルのまわりに多数の層をなして巻き付けられる多積層型構成体として形成され得る。使用される個々のシート状粘膜下組織の寸法は重要でなく、「シート状粘膜下組織」という用語は、本明細書では、1つ以上の脊椎動物の原材料または器官から得られる幅広く様々な大きさ及び形状の粘膜下組織を含むものと定義される。
【0027】
ある実施態様において、シート状粘膜下組織2は、形成される管状粘膜下組織の所望の長さに等しい幅を有しており、この管状体は、形成された管状体においてシート状粘膜下組織2の第1の縁部13がシート状粘膜下組織の第2の対向縁部15に対して実質的に平行になるように形成される。この第2の対向縁部15は、第1の縁部を超えて延在して、重複角θによって定められる重複部分を形成する(図1参照)。シート状粘膜下組織2は、転動動作によってマンドレル12に所望の層数(一般に2層)と重複部分(約30度の重複角により定められる)とを有して巻き付けられて、図1に示されたように、縦方向に延在する継ぎ目を持つ管状粘膜下組織が形成される。巻き付けられた粘膜下組織は、脱水条件下で所定の時間にわたって前記マンドレルに押し付けられて圧縮され、その後、管状人工器官がマンドレルから取り外される。その結果として得られる管状構成体は、該構成体の全長にわたって延在する継ぎ目を有する。この管状粘膜下組織の継ぎ目は、当業者に公知の架橋結合、縫合、接着剤による結合または脱水条件下での圧縮による融着を含む技術を用いて密封されて、管腔から継ぎ目を介して管状体の外側へと流体が移動するのを阻止する。この継ぎ目は、熱またはグルタルアルデヒドによる点溶接によってさらに固定され得る。
【0028】
これに替わる方法として、管状粘膜下組織は、形成される管状粘膜下組織の所望の長さを下回る幅を有する1枚以上の幅狭シート状粘膜下組織から形成され得る(図3参照)。この実施態様では、幅狭シート状粘膜下組織18は、マンドレル14のまわりに複数回巻き付けられており、幅狭シートは、その下にあるマンドレルのわずかな部分をも露出させることなしに、少なくとも部分的に重複する。一つの実施態様において、マンドレル14は、複数個の穴8を備える。部分的に重複する条片状粘膜下組織の重複量は、個々の条片の幅10乃至60%の範囲であり、さらに好ましくは、この重複部分は50%の重複量である。ある実施態様において、多数のシート状粘膜下組織は、各々の粘膜下組織片の少なくとも一部分がマンドレル上に巻き巻き付けられるまた他の粘膜下組織片の一部分と重複することを条件として、マンドレル上に重置され得る。
【0029】
米国特許第5,275,826号(特にこの特許の開示を参照することにより本明細書の一部分とする)に記載のように、粘膜下組織を調整して、粘膜下組織の粘弾特性を変化させることができる。一つの実施態様において、粘膜下組織は、移植片材料を縦方向に伸長させて、該移植片構成体を形成するのに用いられた粘膜下組織の長さを上回る長さにすることによって調整される。伸長させることによって組織を調整する一つの方法は、粘膜下組織に3乃至5回のサイクルにわたって一定の負荷を加えることを含む。各サイクルは、移植片材料に5秒間にわたって負荷を加える段階と、その後の10秒間の弛緩段階とによって構成される。3乃至5回のサイクルにより、伸長調整されて歪みを減じられた移植片材料が得られる。この移植片材料は、すぐにその本来の大きさに戻ることはなく、「伸長された」寸法に保たれる。任意で、移植片材料を横方向に伸長させることにより予備調整してもよい。
【0030】
ある実施態様において、粘膜下組織は、予測される極限負荷の50%を用いて伸長される。「極限負荷」とは、組織の破断を引き起こすことなしに粘膜下組織に加えられる最大負荷(すなわち組織の破断点)である。極限負荷は、任意の条片状粘膜下組織に関して原材料と材料の厚さとに基づいて予測される。従って、伸長させることによって組織を調整する一つの方法は、予測される極限負荷の50%を3乃至10回のサイクルにわたって粘膜下組織に加えることを含む。各サイクルは、移植片材料に5秒間にわたって負荷を加える段階と、その後の10秒間の弛緩段階とによって構成される。その結果として得られる調整済み粘膜下組織は、一般的には約20%乃至約28%の歪みである30%未満の歪みを有する。一つの好ましい実施態様において、調整済み粘膜下組織は、わずか20%の歪みしか持たない。本明細書で用いられるところの歪みという用語は、組織が加負荷下で伸長されるときに、組織破断に至るまでの組織の最大伸び量を指す。これは、加負荷前の組織の長さに対する比率として表わされる。調整済み条片状粘膜下組織を用いて管状構成体を形成させてもよく、またはこれに替わる方法として管状構成体を形成後に調整してもよい。
【0031】
一つの実施態様によれば、筋層及び粘膜の少なくとも管腔部分の双方から剥離される、温血脊椎動物の粘膜下組織は、調整されることでわずか20%の歪みしか持たない。この粘膜下組織は、伸長、化学的処理、酵素処理または組織をその他の要因にさらすことによって調整される。ある実施態様では、シート状粘膜下組織は、該シート状粘膜下組織が一般的には約20%乃至約28%の歪みである30%未満の歪みを有するように縦または横方向に伸長されることによって調整される。一つの好ましい実施態様において、調整済み粘膜下組織は、わずか20%の歪みしか持たない。
【0032】
また、緩やかな熱処理を用いて粘膜下組織を剛化させ、かつ組織の形状記憶を確かなものにすることができる。この熱処理は、粘膜下組織を約65乃至約100℃に加熱された水であることが好ましい液体にさらす段階からなる。粘膜下組織は、加熱された液体に約10秒から約5分の範囲内の短時間にわたってさらされる。組織移植片全体が液状媒体の温度と平衡するのではなく、移植片の表面だけが前記媒体の温度に達することが好ましい。
【0033】
ある実施態様によれば、管状粘膜下組織を用いて、体内の欠陥のある血管弁を置換する人工血管弁が形成される(図4a乃至4c及び図5a乃至5e参照)。図4a乃至4cに示される一つの実施態様によれば、組織弁構成体は、欠陥のある弁の直径に近似する直径(D)を有する連続管状体30の形をとる。この連続管状体30は、第1の端部20と第2の対向端部22と約1.5D乃至約3.5Dの長さ(L)を持つ三重壁の中間部分24とを有する。組織移植片の三重壁部分は、管状体の第1の端部20を裏返して、二重壁の端部26と、該二重壁の端部26に近接するとともに該端部から延在する二重壁部分28とを有する管状構成体を形成させることによって形成される。二重壁の中間部分の2つの壁は、長さSの部分にわたって互いに縫い合わされており、この縫合部分は、管状構成体の二重壁の端部26から少なくとも距離1/2Dの位置にある。一般に、縫合の長さは約0.8乃至約5cm、好ましくは約1乃至約2cmである。第1の端部20は、縫合された二重壁部分と管状構成体の二重壁の端部26との上に戻されており、Sに対するLの比は約2乃至約5、好ましくは約2.5乃至約3.5である。3.0乃至3.2の範囲の重複/縫合比(Sに対するLの比)を有する組織弁は、約22という優れた順/逆比を提供する。また、これらの弁は、幅広い圧力範囲にわたって良好に作用することが示された。
【0034】
さらに他の実施態様において、組織弁は、欠陥のある弁の直径に近似する直径(D)を有する連続管状体の形をとる。この管状体は、第1及び第2の対向端部と、約1.5D乃至約3.5Dの長さ(L)を持つ三重壁の中間部分とを有する。この組織移植片の三重壁部分は、管状体の第1の端部を裏返して、二重壁の端部と、該二重壁の端部に近接するとともに該二重壁の端部から延在する二重壁部分とを有する管状構成体を形成させることによって形成される。第1の端部は、その後、二重壁部分と管状構成体の二重壁の端部との上に戻され、三重壁の中間部分の3つの壁が互いに縫い合わされて、約0.8乃至約5cm、好ましくは約1乃至約2cmの長さSを有する縫合部分が形成される。二重壁の端部に近接する縫合部分の端部は、管状構成体の二重壁の端部から少なくとも距離1/2Dの位置にあり、Sに対するLの比は、約2.0乃至約5、好ましくは約2.5乃至約3.5である。
【0035】
また他の実施態様において、単体形人工弁は、第1の端部34と第2の端部36とを有する管状粘膜下組織32から下記の方法に従って作成される(図5a乃至5e参照)。管状粘膜下組織32の第1の端部34は裏返され、かつ管状粘膜下組織32の上に引き戻されて、二重壁の端部38と、該二重壁の端部38に近接するとともに該端部から延在する二重壁部分40とが形成される(図5b参照)。この二重壁部分40は圧縮されて、管状粘膜下組織32が偏平化され、管状粘膜下組織32は、偏平化された管状体の側縁部44から互いの方向に延在する2本の線に沿って密封される。ある実施態様では、1対の直径方向に対向する縦縫合線42を用いて、二重壁部分40の壁が互いに縫い合わされる。前記1対の縫合線42は、管状体の側縁部44に始点をおくとともに、偏平化された管状体の中央に向かって傾斜するが、これらの縫合線42は互いに交わらないことが好ましい(図5c参照)。管状粘膜下組織32の二重壁部分40が縫合された後に、縫合線42の外側にある粘膜下組織部分46が(切除等により)除去される。第1の端部34は、その後、縫合された二重壁部分の上に戻され、管状構成体の縫合線42が側縁部44と交わる部分は、例えば縫合糸により密封されて、管腔内から外部への管内容物のいかなる漏出も防がれる。
【0036】
また、二尖弁または三尖弁は、環状のステントをシート状粘膜下組織と組み合わせて用いて作成される。一般に、ステントは、生体適合性合成ポリマーまたは生体適合性ポリマーにより被覆される金属によって構成される。しかし、材料が被移植者に移植されたときに自らの形状を維持するのに必要な強度を有することを条件として、その他の材料を用いてステントを形成させてもよい。ある実施態様では、ステントは、材料を剛化させるために処理された粘膜下組織により形成される。例えば、粘膜下組織をステントの形に成形し、その後、グルタルアルデヒド等の標準架橋剤と当業者が熟知する技術とを用いて架橋してもよい。これに替わる方法として、粘膜下組織をステントの形に成形し、かつ熱処理を施して移植片構成体を剛化させてもよい。ある実施態様では、粘膜下組織を基本とするステントは、約80°乃至約100°の温度の液体中において約10秒乃至約5分間にわたって加熱される。
【0037】
本発明の一つの実施態様(図6aに示される)において、ステント48は、環状リングの平面に対して実質的に垂直に延在する複数個のステント柱52を有する環状リング50として形成される基礎部からなる。このステントは、作成された弁を受け入れる血管の直径と略同じリング直径を有するように選択される。ある実施態様では、ステントの外面は粘膜下組織により覆われて、被移植者に移植したときに被移植者の組織が粘膜下組織のみと接触するようになっている。従って、ステントが生体適合性合成ポリマーからなる場合または生体適合性ポリマーで覆われた金属からなる場合は、組織弁の形成に先立って、ステントの表面は任意で最初に粘膜下組織の層により覆われる。例えば、1枚以上のシート状粘膜下組織54をステントのまわりに巻き付けて、ステントの表面全体が少なくとも1層の粘膜下組織により覆われるようにしてもよい(図6b参照)。ステントが粘膜下組織により巻かれた後に、この組織を部分的に乾燥させて、ステントに対する粘膜下組織の付着性を高めることができる。また、縫合糸または当業者に公知のその他の固定手段を用いて、粘膜下組織をステントの表面に固定してもよい。
【0038】
これに替わる方法として、ステントを液化粘膜下組織に接触させ、その後、粘膜下組織を乾燥させてステント上に被覆体を形成させることにより、ステントの表面を粘膜下組織で覆うことができる。例えば、液化粘膜下組織により被覆されたステントを1乃至2時間にわたって37℃に加熱して、該液化組織をステント上に乾燥付着させてもよい。液化粘膜下組織は、米国特許第5,275,826号に記載のように調製され、特に前記特許の開示を本明細書の一部分とする。
【0039】
本発明の二尖及び三尖弁は、単層シート状粘膜下組織または多積層型粘膜下組織構成体を用いて形成され得る。多積層型粘膜下組織構成体は、条片状の粘膜下組織を重複させ、かつ重複する前記組織を互いに結合させることによって形成され得る。重複する組織は、縫合糸、接着剤、架橋剤または熱処理を使用するか、または組織の脱水を誘導し得る条件下で組織を圧縮することによって結合され得る。有利な点として、大面積のシート状粘膜下組織は、条片状粘膜下組織を部分的に重複させ、かつ該組織を脱水条件下で圧縮して、構成体の形成に用いられるいずれの条片状粘膜下組織よりも大きい表面積を有する一体的な異数積層型移植片構成体を形成させることにより形成される。また、同数積層型構成体は、2枚以上の条片状粘膜下組織を重複させ、かつ該組織を該組織の脱水を誘導し得る条件下で圧縮することにより、縫合糸、接着剤または架橋剤を使用するか、または使用せずに作成される。
【0040】
本発明の人工粘膜下組織弁は、優れた流動力学的特性を有しており、商業的に入手可能なグルタルアルデヒド処理ブタ弁と違って、移植後に石灰化しない。さらにまた、本発明の人工組織弁は、任意で熱処理されて、適正な弁形状を維持する一方で、グルタルアルデヒド処理に付随する欠点が回避または解消される。
【0041】
温血脊椎動物のシート状粘膜下組織からの多尖血管組織弁構成体の作成は、多段階の工程である。まず最初に、組織弁を受け入れる血管の直径と略同じ大きさの直径を有する血管用ステントを選択しなければならない。このステントは、環状の基礎部と、該環状の基礎部上において互いに等距離に分布し、かつ前記基礎部から延在する複数個のステント柱とからなる。2つのステント柱を有するステントを用いて二尖弁が作成され、3つのステント柱を有するステントを選択して三尖弁が作成される。各々のステント柱は、環状の基礎部から該環状の基礎部の周縁部によって形成される平面に対して略同じ角度で延在する。この角度は、約60°乃至約90°、好ましくは約75°乃至約90°の範囲である。一つの実施態様において、ステント柱は、環状の基礎部から実質的に垂直に延在する。これらの多数のステント柱は管腔空間を形成しており、中心軸は、各々のステント柱から等距離において環状基礎部と前記管腔空間との中心を通って延在する。
【0042】
次に、単層シートまたは多積層シートがステントのステント柱の上に重置される。粘膜下組織は、反管腔側及び管腔側の表面を有する。管腔側の表面は、原材料器官の管腔に面する粘膜下組織面であって、一般にin vivoにおいて内側粘膜層に隣接するのに対して、反管腔側の表面は、原材料器官の管腔と反対の方向を向く粘膜下組織面であって、一般に生体内において平滑筋組織に接触する。好ましい実施態様において、粘膜下組織は、管腔側表面を上に向け、かつ粘膜下組織の反管腔側表面をステントの表面に接触させてステント上に重置される。さらにまた、シート状粘膜下組織は、環状基礎部の直径の少なくとも2倍の長さと幅とを有して選択される。ある実施態様では、シート状粘膜下組織は、2D(ステント環状基礎部の直径の2倍の大きさ)の長さと幅とを有する正方形の組織片として形成される。粘膜下組織は、ステント柱の上において心合せされて、クランプ、接着剤、縫合糸またはこれらを組み合わせたものを含む、当業者に公知の標準固定技術を用いて1つのステント柱の頂部に固定される。一つの好ましい実施態様では、粘膜下組織は、該組織をステント柱の頂部に縫合することにより固定される。
【0043】
粘膜下組織は、次に、自らの上に折り返されて、粘膜下組織が固定されたステント柱の頂部上の点からステントの中心軸に沿う点まで延在する皺が形成される。その後、該組織は順番に残りのステント柱に固定され、組織が折り返されて、第1のステント柱の場合と同様の態様で残りの各ステント柱の位置に皺が形成される。ある実施態様によれば、折り返された組織は、この折り返された組織を2つの剛性板の間において圧縮することにより正位置に保持される。一つの実施態様では、前記皺は、ステント柱の頂部によって形成される線または水平面に対して実質的に平行に延びる。また他の実施態様では、前記皺は、ステント柱の頂部によって形成される線または水平面に対して約1°乃至約45°、好ましくは約1°乃至約20°の角度に形成される(この角度の原点はステント柱に位置する)。本発明によれば、二尖弁の作成では、2つのステント柱の各々から延び、かつステントの中心軸に沿う点で交わる2つの皺を形成させることが必要になる。三尖弁の作成では、各々が3つの内の1つのステント柱の上の点に始点をおき、かつステントの中心軸に沿う点で交わる3つの別個の皺を形成させることが必要になる。従って、粘膜下組織は、各々のステント柱に順番に固定され、該組織が折り畳まれて、各ステント柱から延在する皺が形成される。
【0044】
適切な個数の皺が作成された後に、折り畳まれた粘膜下組織を任意で熱または化学処理に付して、粘膜下組織を剛化させ、かつ該組織の形状記憶を確かなものにする。例えば、グルタルアルデヒド等の化学的架橋剤の希釈液(0.1%乃至1%)を用いて組織を処理して、該組織を剛化させてもよい。一つの好ましい実施態様では、前記組織は、該組織を熱処理に付すことによって剛化される。ある実施態様に従った熱処理は、組織を水中で約80℃乃至約100℃の温度で約10秒乃至約5分間にわたって加熱すること、好ましくは組織を約88℃乃至約92℃の温度で約10乃至約90秒にわたって加熱することからなる。
【0045】
一つの実施態様において、折り畳まれた粘膜下組織は、例えば金属、プラスチック、ガラスまたはセラミック板またはこれらを組み合わせたものである剛性材料の2枚の板の間に挟み込まれ、この挟み込まれた材料が熱または化学処理に付されて、粘膜下組織は挟み込まれたままで剛化される。これらの剛性板は、丸味のある端部を有する矩形状であることが好ましく、前記板は、約(2/5)D乃至約(1/2)Dの範囲の幅と約(1/2)D乃至約Dの範囲の長さとを有しており、ここで、Dは環状のステント基礎部の直径である。一つの実施態様では、これらの板は、約(2/5)Dの幅と約3/4Dの長さとを有する。
【0046】
粘膜下組織が挟み込まれ、かつ任意で処理された後に、クランプと板とが取り外され、粘膜下組織は、当業者に公知の標準技術を用いてステント柱の周縁部に沿って固定される。ある実施態様においては、粘膜下組織は縫合糸を用いることにより固定される。その後、粘膜下組織は、該粘膜下組織に形成され、かつ各々のステント柱から延在する皺に沿って切除されて、交連が形成される。形成された組織弁は、該組織を熱または化学処理することにより任意でさらに調整され、この熱処理は、組織弁が背圧を受けている間に行なわれ得る。
【0047】
本発明に従った三尖弁の調製は、図7a、7b、8a及び8bを参照して説明される。本発明の一つの実施態様によれば、三尖弁は、筋層及び粘膜の少なくとも管腔部分の双方から剥離される腸粘膜下組織から下記の方法により形成される。直径Dの環状基礎部61と3つのステント柱60とを有する適切な大きさのステント56が入手され、任意でDacronメッシュまたは粘膜下組織により前記のように覆われる。剥離された腸粘膜下組織は、ステント外径の約2倍の長さに切断される。この粘膜下組織の切片は、次に縦方向に切断されて、約2Dの長さと幅とを持つ矩形の粘膜下組織シート58が形成される。
【0048】
ステント56は、その環状基礎部61を台に接触させて水平台上に配置される。粘膜下組織シート58は管腔側62を上に向けてステント56の上において心合せされ、該粘膜下組織がステント柱60の上に重ねて置かれる(図7a参照)。1つのステント柱が選択されて、粘膜下組織は該ステント柱の先端65に縫合される。粘膜下組織は、前記縫合が行なわれたのと同じステント柱の位置で折り返され、粘膜下組織の折り目の線64がステント柱の水平面上に引かれる。湾曲端部68を持つ矩形の形状(2/5DのW及び3/4DのL1の寸法を有する)の2つの金属板68を用いて、板66の湾曲端部68が下に向いた状態の前記板66の間に折り畳まれた粘膜下組織が挟み込まれる。平坦な頭部を有するペーパー・クリップ70を用いて、該クリップをステント柱60のまわりに取り付けることにより前記板を互いに締め付ける(図7b参照)。
【0049】
交連位置は、折り目がなす1本線でなければならない(すなわち、粘膜下組織を前記板と接触する部分において重複させてはならない)。残りの各ステント柱の位置で折り目を形成させる段階を繰り返す。尖72の谷は、平面状の外観を呈さなければならない(すなわち、皺を含んではならない)。
【0050】
その後、余分な粘膜下組織は、平頭クリップ70が正位置に取り付けられた後にピン74により各々のステント柱60間においてステント56の基礎部に留め付けられる。この弁組立体は、沸点に近い温度(約80℃乃至90℃)の水を入れた鍋に入れられ、約10乃至約90秒後に該組立体が取り出される。この熱処理は、シート状粘膜下組織を収縮させる。平頭クリップ70と板66とは、その後で取り外されるが、環状基礎部61にあるピン74は除去されない。この時点で、粘膜下組織シート58は、ステント56の頂部周縁に緊密に沿う形状となる。
【0051】
粘膜下組織シート58は、次に、煮沸後に形成された皺を縫合中も必ずそのまま同じ位置に維持しながら、各ステント柱60の周縁に沿って縫合される(図8a参照)。縫い目の間隔は1.5mm以下でなければならない。その後、ピン74がステントの基礎部から取り外され、開口部の外側部分のまわりにある余分な粘膜下組織が除去される。組立体は、前記と同じ態様で前記板66と平頭クリップ70との間に再び挟み込まれ、該組立体は、再び10乃至90秒間にわたって沸点に近い温度(約80℃乃至90℃)の水中にもう一度入れられる。組立体が沸点に近い温度の水から取り出され、クランプと板とが取り外される。
【0052】
折り畳まれた粘膜下組織は、ステント柱の先端65からステント柱60により形成される管腔空間の中心まで水平方向に切除されて、交連が形成される(図8b参照)。交連76とステント柱の先端65とは略同じ高さになければならず、結果的に得られる小葉は互いに面一でなければならない。
【0053】
本発明において説明される方法に従って調製される人工組織三尖弁は、ステントと、ステント柱の上に重置される粘膜下組織層とからなる。ステントは、環状の基礎部と、該環状基礎部から垂直方向に延在する3つのステント柱とからなっており、前記環状基礎部と前記3つの柱とは、各々のステント柱から等距離において環状基礎部の中心を通って延在する中心軸を形成する。粘膜下組織は、各々のステント柱の周縁部に沿ってステント上に固定されるとともに、前記中心軸に沿う点から3つの各ステント柱の頂部まで延在する3つの半径方向の軸に沿って自らの上に折り返される。粘膜下組織のこれら3つの折り目により、粘膜下組織層は3つの凹状四分球形粘膜下組織に成形される。折り畳まれた粘膜下組織をこれら3つの半径方向の軸に沿って切除することにより、粘膜下組織の凸状側から凹状側への一方向の流れを可能にする心臓弁の交連が形成される。ある実施態様では、作成された組織弁の半径方向の軸の交連は、図8bに示されるように、中心軸に対して垂直であり、かつ本質的にステント柱の先端により形成される平面と共平面をなす。
【0054】
[例1]
<粘膜下組織における皮下石灰化の研究>
生体材料のグルタルアルデヒド(GA)処理は、石灰化と被移植者組織への不十分な取込みと最終的に人工生体器官の機械的不全とを促すことが知られている。粘膜下組織の心臓血管系への適用を見越して、粘膜下組織の石灰化の潜在性とGA処理の影響とを研究した。
【0055】
[実験1]
過酢酸(PAA)または弱グルタルアルデヒド(GA)固定(0.6%で5分間)による処理を受けた粘膜下組織または水洗以外の処理を受けない粘膜下組織と、市販の人工生体ブタ心臓弁の尖(製造元によりグルタルアルデヒド処理されたもの)とを十分に馴化した実験用ラットの離乳子畜に植え込んだ。前記4つの各組織の1cm×1cmの被験物を18匹のラットの腹部腹側に外科的に創出された皮下腔部に植え込んだ。移植後1、2及び4週間の時点で6匹のラットを屠殺し、組織を採取して評価した。組織学的研究から、2週間後の時点でGA処理された被験物を除くいずれの粘膜下組織の被験物も周辺組織に十分に取り込まれており、4週間後の時点ではいずれの粘膜下組織の被験物も同様の外観を呈することがわかった。フォン・コッサ染色法により鉱質化を調べたところ、PAAまたは水洗処理された粘膜下組織では前記のいずれの時点でも著しい石灰化は起こっていないが、GA処理された粘膜下組織及びブタ弁尖では1週間後の評価時点ですでに著しいカルシウム沈着が見られることがわかった(P=0001)。
【0056】
[実験2]
1)自己粘膜下組織(洗浄済み、無処理)と、2)0.1%の過酢酸(PAA)により滅菌された粘膜下組織と、3)0.25%のGAを用いて処理された粘膜下組織と、4)商業的に入手可能なGA処理済み人工ブタ心臓弁尖片(GPV)との4つの各被験物を24匹の各々のラット離乳子畜に皮下移植した。6匹のラットを移植後1,2,4及び8週間の時点で無痛死させ、原子吸光分光光度法によりカルシウム濃度を、光学顕微鏡により鉱質化の度合いを評価した。
【0057】
<実験材料と実験方法>
3週齢のSDラット離乳子畜(60乃至80g)24匹を4つの均等なグループに分けた。各々の粘膜下組織被験材料(無処理、PAA処理及びGA処理)と商業的に入手可能なブタ弁尖の切片との一つの移植片(1平方センチメートル)を各ラットの腹壁に皮下移植した。1,2,4及び8週間後の時点で前記材料の石灰化を組織学的に、かつ原子吸光分光光度法により評価した。石灰化及び移植片周囲の線維増殖の度合いを採点して比較した。
【0058】
<小腸粘膜下組織>
・粘膜下組織の調製
粘膜下組織の採取についてはすでに説明したので、簡単に要約する。屠殺場においてブタの死骸から近位空腸の切片を入手し、組織供給源であるブタを無痛死させてから2時間以内に下記のように調製した。
切除された小腸切片から全ての腸間膜組織を除去し、前記切片を裏返した。上皮と固有層とを含む粘膜下組織の浅部を、小刀の柄と生理食塩水を含ませたガーゼとによる縦方向の拭取り動作を用いた緩やかな削摩により除去した。特に基底粘膜の緻密層として識別される中等度の緻密さの膠原質層が表層として残った。次に、この切片を本来の配向に戻し(反転させ)、漿膜と筋層とを同様の機械的削摩により除去した。その後に残る薄い(厚さ0.1mm)白味がかった半透明の無細胞の管状体は、粘膜の緻密層と粘膜筋板とを付着させて有する粘膜下組織によって構成される。この緻密層が管腔側の内層となった。
粘膜下組織を無菌水中で入念に水洗し、液体窒素中で凍結させて、使用時まで−80℃で保存した。滅菌時に、管状粘膜下組織を縦方向に切開してシート状粘膜下組織を作成し、このシート状粘膜下組織を1cm2の切片に切り分けて、3つの異なるプロトコールの内の一つにより処理した。
【0059】
・自己(無処理)粘膜下組織
前記1cm2の被験物を無菌水を用いて15分間にわたって3回水洗し、生理食塩水に5%の硫酸ネオマイシンを加えた溶液中に入れて、移植時まで4℃で保存した。
【0060】
・過酢酸処理粘膜下組織
前記1cm2の被験物を無菌水を用いて水洗し、0.1%の過酢酸で処理した後に無菌水を用いて15分間にわたって3回水洗した。この粘膜下組織を移植時まで4℃の無菌水中に保存した。
【0061】
・グルタルアルデヒド処理粘膜下組織
前記1cm2の被験物を無菌水を用いて水洗し、0.25%のグルタルアルデヒドで20分間にわたって処理した後に、無菌水を用いて15分間にわたって3回水洗した。この粘膜下組織を移植時まで4℃の無菌水中に保存した。
【0062】
<ブタ弁尖>
商業的に入手可能なブタ弁尖(ハンコックブタ弁)を独占的方法(メドトロニック社(Medtronic Inc.))に従って処理した。処理用、保存用及び包装用の溶液は0.2%の緩衝等張性グルタルアルデヒドと1%の緩衝グルタルアルデヒドからなる殺菌液とによって構成された。
1平方センチメートルの切片を前記弁尖から切り出した。これらの被験物を無菌水中において15分間にわたって3回水洗し、移植時まで40℃の無菌水中に保存した。
【0063】
<外科的手順と術後の管理>
マスクを介してメトフェインを投与することにより感覚喪失を誘導維持した。腹部腹側を刈り込んで無菌手術の用意をした。長さ1cmの縦方向の皮膚切開部1ヶ所を各腹部四分円部位内に形成させ、その後、皮下腔部を創出した。1cm2の被験物1個を各腔部内に無作為に配置し、その下の筋膜に5−0ポリプロピレン縫合糸で1ヶ所縫合することにより正位置に固定した。皮膚切開部を5−0ポリプロピレン縫合糸により単純な断続縫合パターンを用いて閉じた。移植後1,2,4及び8週間の時点で、一つのグループの実験動物を前記のように感覚喪失誘導後に塩化カリウムを心内投与することにより無痛死させた。被験材料と関連の周辺組織とを採取し、半分に分けた。これらの被験物の一方を標準の組織学的技術により処理し、かつ分析した。他方の半分の各被験物の粘膜下組織を分離して、カルシウム量を原子吸光分光光度法により測定した。
【0064】
<ミネラル分析>
試料を直ちに液体窒素中において凍結させ、その後、凍結乾燥させた。乾燥組織重量をミリグラム単位で記録した。組織カルシウム(Ca)の塩酸ランタン(LaCl)中の6N硝酸のミネラル分析は、原子吸光分光光度法により測定された。元素濃度は、いずれも乾燥組織重量1ミリグラム毎のマイクログラム単位の重量として表わされる(平均値±平均値の標準誤差[SEM])。さらに、調製された全ての移植片の内6つの試料について、移植前のCa++分析を行なった。
【0065】
<形態学的分析>
試料をトランプ(Trump)液中で24時間にわたって固定した後に、中性りん酸緩衝液中に入れた。被験物をパラフィン包埋して6μmに切り分けた。切片をヘマトキシリン及びエオシン(H&E)を用いて染色して総合的な形態学的分析を、フォン・コッサ染色を用いて染色して鉱質化の分析を行なった。
これらの切片を一人の病理学者が盲検により吟味した。試料を移植片周囲の線維増殖と移植片の鉱質化とに関して半数量的に採点した。採点は、0(なし)1(軽度)、2(中等度)及び3(重度)の採点尺度を基本とした。
【0066】
<統計学的分析>
鉱質化得点と線維増殖得点とマイクログラム/ミリグラム単位のカルシウムの原子吸光度とを検定した。には、一般線形モデル手順(General Linear Models Procedure)を用いて石灰化と線維増殖とを移植後の経過時間と移植材料との関数として検定した。スチューデント・ニューマン・キールズ(Student Newman Keuls)範囲検定を用いて、グループ間の差異を検出した。有意性は、p<0.05で判断された。
【0067】
[結果]
<手術>
麻酔死例は見られなかった。いかなる創傷合併症も起こらず、全てのラットが良好に回復した。
【0068】
<ミネラル分析>
未移植及び皮下移植後の自己、PAA処理及びGA処理粘膜下組織とGPVとのカルシウム濃度をマイクログラム/ミリグラム単位で測定した累積データを表1及び図9のグラフに示す。他の材料のカルシウム濃度と著しく相違するカルシウム濃度を有する組織試料は、表1において星印を付けて示されている(p<0.05、スチューデント・ニューマン・キールズ検定による)。自己及びGA処理粘膜下組織とGPVとのカルシウム量は、第0日には著しく相違しなかった。しかし、PAA処理粘膜下組織は、第0日に他の3つのグループより著しく低いカルシウム濃度を有した。原子吸光度研究から、自己またはPAA処理粘膜下組織では、第0日(移植前)のカルシウム濃度と比較すると、いかなる時点でも石灰化は起こっていないことがわかった。しかし、GA処理材料(粘膜下組織及びGPV)では、自己及びPAA処理粘膜下組織試料と比較して、統計学的に著しい(p<0.0001)石灰化が各移植片評価時点で起こっていた。組織病理学的研究から、自己及びPAA処理粘膜下組織では鉱質化は見られず(p<0.000)、かつ移植片周囲の線維増殖はわずかであり(p<0.0001)、しかもこれらの粘膜下組織は周辺組織に十分に取り込まれることがわかった。カルシウム濃度は、GA処理粘膜下組織及びGPVで移植後1,2,4及び8週間の時点で著しく高かった(表1)。移植後の経過時間と移植片材料とのいずれもがカルシウム濃度に関して統計学的に著しい要因であった(p<0.0001)。
【0069】
表1:移植後7、14,28及び60日時点での異なる組織グループにおけるカルシウム沈着量 乾燥重量1mg毎のμg単位のCa2+重量(平均値±平均値の標準誤差)
【0070】
<形態学的分析>
移植後1週間の時点で、自己及びPAA処理粘膜下組織において、薄い周辺肉芽組織帯が認められ、鉱質化は見られなかった。これらの移植片は2週間後までに周辺組織に取り込まれ、4週間後までに肉芽組織が移植片を継続的に浸潤することが確証された。8週間後の時点で、移植片は疎性結合組織として観察され、鉱質化または移植片周囲の線維増殖は見られなかった。
【0071】
GA処理粘膜下組織では、1週間後までに移植片周囲の軽度の線維増殖と中等度から重度の鉱質化とが認められた。2週間後までに肉芽組織による移植片の中等度の浸潤が起こったが、周辺線維増殖と、移植片及び周辺結合組織の広範な鉱質化とが起こった。4週間後までに肉芽組織による移植片の広範な浸潤と重度の鉱質化とが起こった。GA処理粘膜下組織では、3週間後の時点で広汎性の中等度の亜急性炎症と重度の多局性鉱質化と軽度の隣接線維増殖とが見られた。
【0072】
1週間後の時点で、グルタルアルデヒド処理ブタ弁(GPV)では、移植片周囲の軽度から中等度の線維増殖帯と中等度の鉱質化とが認められた。2週間後の時点では、移植片周囲の線維被膜と副次的な付帯巨細胞とが見られた。鉱質化は、軽度から重度であった。4週間後まで前記線維被膜は残存し、鉱質化は重度であった。8週間後の時点で、GPVでは、移植片の十分な分画と広範な多局性鉱質化と軽度の周辺線維増殖とが見られ、周辺組織の取込みは認められなかった。
【0073】
いずれの時点(移植後1,2,4及び3週間)でも、鉱質化得点はGA処理材料(粘膜下組織及びGPV)で著しく高くなった(表2)。移植後の経過時間は、鉱質化得点の要因ではなかった(p=0.6)。線維増殖得点は、GA処理粘膜下組織においてのみ、移植後2及び4週間の時点で著しく高くなった。しかし、8週間後の時点ではGA処理粘膜下組織とGPVとのいずれの線維増殖得点も著しく高くなった(表3)。経過時間は線維増殖得点の著しい要因であった(p<0.0001)。移植片材料は、鉱質化(p<0.0001)及び線維増殖得点(p<0.0001)の著しい要因であった。
【0074】
表2:平均鉱質化得点
日数 7 14 28 60
自己 0 0 0 0
PAA 0.1 0 0 0
GA 2.5 3 2 2.5
GPV 1.7 2.4 2.7 2.4
表3:平均線維増殖得点
日数 7 14 28 60
自己 1.3 1.3 0.8 0
PAA 1.7 1.1 1 0
GA 1.7 2.3 2.7 0.8
GPV 1.4 1 1.3 0.8
【0075】
[考察]
組織のグルタルアルデヒド固定の副次的な石灰化のメカニズムは、よくわからない。分子間及び分子内架橋がグルタルアルデヒドを用いて処理された自己膠原質において起こり、架橋が移植された人工生体組織の鉱質化の必要条件となるようであることがわかった。これらの反応が石灰化を引き起こす分子メカニズムは十分に解明されていない。グルタルアルデヒド固定されたブタ大動脈弁の試料は、ラットに皮下移植されると鉱質化するのに対して、無処理の移植片は鉱質化せずに炎症器質化する。ブタ大動脈弁及びウシ心膜のいずれの結合組織細胞に関連ある石灰性沈着物も、膠原繊維に局在する石灰性沈着物に先行する。このことは、人工生体組織細胞と膠原質とにおける石灰性沈着物は、独立したメカニズムにより発生することを示唆している。
【0076】
GA処理人工生体器官の石灰化を制限するために、いくつかの研究において様々な方法が検討された。完全に石灰化を解消することができる方法は見出されなかった。石灰化は、石灰化防止剤と新しい架橋方法に基づく新しい化学薬品とアミノ酸を手段とする人工生体器官の内皮化の改良とにより、かつ組織の組成に関連ある内在性要因の所産として制限された。これらの試みにより石灰化の進行を防ぐこと以外には、満足できる溶液または生体材料はまだ定式化されていない。
【0077】
上述されたように、原子吸光法により測定されるところの未移植材料のカルシウム量は、移植前には、他の3つの被験材料よりカルシウム量が著しく低かったPAA処理粘膜下組織を除いて、いずれの組織でも同様であった。これは、粘膜下組織が過酢酸により処理され、その結果として粘膜下組織の固有カルシウム濃度が低下したためかもしれない。
【0078】
移植後は、自己及びPAA処理粘膜下組織は、GA処理材料と比較すると、いずれの時点でも著しく低いカルシウム濃度を有した。このことは、原子吸光法及び組織学的分析のいずれによっても明白であった。自己及びPAA処理粘膜下組織は、移植後2週間の時点までに周辺組織に十分に取り込まれた。移植後8週間の時点までに、粘膜下組織は、鉱質化または移植片周囲の線維増殖を起こさずに疎性結合組織となった。GA処理材料(粘膜下組織及びGPV)では、移植片周囲のより大きな線維増殖反応が見られた。GA処理粘膜下組織では、周辺組織への取込み速度は自己及びPAA処理粘膜下組織より緩慢であった。GA処理粘膜下組織では、初期に移植後1週間の時点で移植片周囲の顕著な線維増殖が認められた。8週間後の時点では、線維増殖は低下していた。GPVは、周辺組織に取り込まれず、広範な移植片周囲の線維増殖を誘発した。移植後3週間の時点では、線維被膜は残存しており、GPVは十分に分画された皮下移植片として観察された。
【0079】
自己及びPAA処理粘膜下組織に関する所見は、粘膜下組織を血管移植片として用いた以前の自己移植片及び異種移植片の研究と同様であり、改造された粘膜下組織および被移植者組織部位の鉱質化は、以前のいずれの研究でも認められなかった。拒絶反応も、腸粘膜下組織を用いた以前の同種移植片及び異種移植片の研究では観察されなかった。粘膜下組織は、本質的に無細胞の膠原質であり、膠原分子は種間において構造的に維持される。
【0080】
この研究の結果は、自己またはPAA処理粘膜下組織により作成される移植片が原位置において石灰化する潜在性は低いことを示唆している。GA処理粘膜下組織及び弁尖では、GAを用いて処理されたその他の生体材料において見られたように、著しい石灰化が進んだ。GA処理材料は、より大きな炎症反応と顕著な鉱質化とより緩慢な取込み速度とを示した。自己及びPAA処理粘膜下組織は周辺組織に十分に取り込まれ、このことは他の研究における所見と合致している。比較のために、臨床学的に不全のブタ大動脈人工生体器官は、202乃至234μg/mgのカルシウムを有する。PAA処理粘膜下組織は、移植後8週間の時点で0.33乃至0.61μg/mgのカルシウムを有したのに対して、GA処理粘膜下組織は、移植後3週間の時点で98乃至104μg/mgのカルシウム量を有した。
【0081】
自己及びPAA処理粘膜下組織が石灰化しないことは明白であることと、粘膜下組織は被移植者組織の内殖及び分化の足場として機能し得ることが以前に示されたこととから、粘膜下組織は、人工心臓弁及びその他の生体装置を作成するための理想的な生体材料である。粘膜下組織は、最終的に体内組織により置換され、その結果として、被移植者組織のみからなり、かつ自己構造に厳密に類似する構造が形成される。
【0082】
[例2]
<単体形二尖弁の最適設計パラメータ>
管状粘膜下組織から形成される単体形粘膜下組織弁構成体の最適設計パラメータを個々の順/逆流量比の比較試験により判断した。図10に示されるように、試験装置は、水により満たされる大型保水タンク78と、6フィートの可撓管80と、チューブ・クランプ82と、大型の目盛り付きフラスコ84と、粘膜下組織弁構成体88とによって構成された。
【0083】
小腸粘膜下組織をそれ自体の上に折り返し、#2縫合糸を用いて縫い合わせて、図11a及び図11bに示される二尖弁構成を達成した。この粘膜下組織弁構成体88は、可撓管80の端部において2つのいずれの配向にも固定され得る。第1の配向は、流体を弁構成体を介して流動させる、図11aに示されるような順流配向である。第2の配向である逆流配向では、図11bに示されるように、弁を介した流体の流れが防がれる。粘膜下組織弁を作成して前記装置に取り付けた後に、弁を介して順方向及び逆方向に水を流した。水を大型容器に継続的に追加して、圧力を一定の速度で維持できるようにした。各所定の高さに関して一定時間にわたって各弁を介して流れた水の体積を記録した。この情報を少し操作することにより比較データの形に変えることができた。弁を介した水の体積流量を測定し、この体積流量と前記所定の高さ(h)との関係をグラフに示した。これらの各々のグラフをその順/逆流量比の概算値により比較した(表4参照)。水が、弁における圧力を測定するために使用された液体であったが、この情報をmmHgに変換して、標準測定単位を比較できるようにした。
【0084】
表4
弁番号 重複/縫合長さ比 順/逆流量比
1 3.5 16
2 2.333 17.5
3 3.0 24.5
4 2.5 11
5 2.667 6.667
6 2.0 12.0
7 2.667 11.5
8 2.667 10.5
9 3.2 23.5
10 3.0 21.0
11 1.6 12.5
12 1.667 2.133
弁番号 重複長さ(cm) 縫合長さ(cm)
1 4.445 1.27
2 4.445 1.91
3 3.87 1.27
4 3.175 1.27
5 5.08 1.91
6 5.08 2.54
7 5.08 1.91
8 2.54 0.953
9 4.763 1.588
10 5.715 1.91
11 5.08 3.175
12 3.175 1.91
【0085】
[結果と結論]
最良の順/逆流量比は、24.5:1という比を持つ弁3(図4参照)で得られた。データを分析したところ、最良の弁設計(重複/縫合)比は、3.0乃至3.2:1の範囲であるように思われる。この範囲の重複/縫合比は、約22という非常に良好な順/逆流量比をもたらす。この範囲は、最適な順/逆流量比をもたらすだけでなく、幅広い圧力範囲にわたって非常に良好に作用する。
【0086】
[例3]
<三尖弁の作成>
粘膜下組織弁を作成する際の第1の段階は、図6aに示されるように、所望の直径(D)のステントを選択することである。次に、図6bに示されるように、このステントを幅1cmの長尺帯状脱水粘膜下組織を用いて螺旋状に巻くことによって完全に覆う。この処置により、確実に粘膜下組織のみが組織と血液とに接触することになる。ステントの直径の2倍の矩形シート状粘膜下組織を選択し、研磨縁部と図7aに示される寸法とを有する尖成形用丸形金属アルミ薄板を用いて3つの尖を形成させる。
【0087】
管腔側を上に向けたシート状粘膜下組織をステントの上に配置する。1つのステント柱を選択し、粘膜下組織を該柱の先端に縫い付ける。次に、このシート状粘膜下組織を縫合が行なわれた該ステント柱に対して垂直方向に前記柱先端から延在する線に沿って折り畳む。6つの尖成形板の内2つを用いて、折り畳まれた粘膜下組織層を縫合が行なわれたのと同じステント柱の位置で前記板間に挟み込む。板の湾曲縁部は下方を向く。粘膜下組織の折り目をステント柱の水平面上において引いて、最終的な組織弁の一つの交連位置を形成させる。その後、小型の結束クリップ(またはその他の適切なクランプ)を用いて、該クリップをステント柱のまわりに取り付けることにより前記板を互いに締め付ける。交連位置は、折り目がなす1本線でなければならない(すなわち、前記板と接触する粘膜下組織にはいかなる皺も形成されない)。この処置を残りの2つのステント柱の位置において繰り返す。尖の谷(すなわち、ステント柱間にあるシート状粘膜下組織部分)は、皺を含んではならない。結束クリップを取り付けた後に、余分な粘膜下組織を各々のステント柱間においてステントの基礎部にピン留めする(または当業者に公知の何らかの固定装置により前記基礎部に固定する)(図7b参照)。
【0088】
90℃の水中における15秒間の熱処理により、粘膜下組織に形状記憶性を与える。次に、熱処理後に形成された皺を縫合中も必ずそのまま同じ位置に維持しながら、シート状粘膜下組織をステントの周縁部に(すなわち、各ステント柱の全ての側部沿いと各ステント柱間とにおいて)縫い付ける。縫い目の間隔は1.5mm以下でなければならない。次に、クリップと板とを取り外す。ステント基礎部にあるピンを取り外し、ステントのまわりの余分な粘膜下組織を取り除く(図8a参照)。折り畳まれた粘膜下組織を虹彩鋏を用いてステント柱先端から開口部の中心まで水平方向に注意深く切除して、交連を形成させる。この交連形成部とステント柱の先端とは、略同じ高さになければならない(図8b参照)。
【0089】
この弁を固定具に取り付け、100mmHgの背圧を加えながら90℃の熱水を注ぐことにより最終的な熱処理を行って、尖の均一な相互順応を達成する。この実施態様では、ステントを最初に粘膜下組織によって巻くことにより、縫合のための適当な構造が得られるため、縫合用リングは必要とされない。図8bは、前記プロトコールに従って作成される粘膜下組織弁の図である。
【0090】
[例4]
<三尖弁の試験>
作成された粘膜下組織弁と商業的に入手可能なハンコックブタ弁及びセント・ジュード・メディカル(St. Jude Medical)2枚形機械弁とに関して、逆流(漏れ)試験と静的及び動的流動試験とを行なった。当日までに50個を超える粘膜下組織弁が製作され、全ての弁に関して漏れ及び圧力降下(勾配)の研究が行なわれた。
【0091】
<漏れ試験>
図12に、弁構成体を順流抵抗と漏れとに関して試験するのに用いられる装置と方法とが示されている。各試験では、100mmHgの静的背圧が試験対象の弁に対して加えられる。流量は、目盛り付き筒体とストップウォッチとを用いて測定される。弁の面積が若干相違したため、漏れ量は同じ大きさ(直径23mm)のものに正規化された。表5に、5つの粘膜下三尖組織弁(ギリシャ文字のアルファとベータとデルタとカッパとオメガとで示される)に関する実験結果が示されている。これら5つの三尖組織弁の平均逆漏れ量(48.9mL/分)は、ハンコックブタ弁の場合(62.1mL/分)より若干少なかったが、セント・ジュード弁の場合(240mL/分)よりははるかに少なかった。
【0092】
表5
弁 漏れ量 mL/分
アルファ 111.0
ベータ 5.0
デルタ 58.0
カッパ 54.0
オメガ 16.5
粘膜下組織弁平均値 48.9
ハンコックブタ弁 62.1
セント・シ゛ュート゛・メテ゛ィカル弁 240.0
【0093】
この実験では、特に予め注意してこれら第1の5つの三尖組織弁において尖を入念に整合させることはしなかった。これらの5つの人工弁は、最終的な熱処理を用いて調製されたが、例3で説明されたような背圧の存在下における加熱は行なわれなかった。背圧を維持しながら弁を熱処理することにより、尖の整合性が高まり、完成品である弁の逆漏れは著しく減少する。
【0094】
<順流圧力降下>
前記5つの三尖組織弁(ギリシャ文字のアルファとベータとデルタとカッパとオメガとで示される)とハンコック及びセント・ジュード弁との順流に対する抵抗を図12に示される態様で測定した。順流に対する抵抗を測定する装置は、三尖組織弁92を中央管90内に固定されて有する中央管90からなる。ポート94は、三尖組織弁92のいずれの側にも形成され、かつ目盛り付き筒体96と流体により連通する。クランプ98は、弁の2つの側間の圧力偏差を維持する。100mmHgの圧力を全ての測定に使用した。弁の面積が若干相違したため、流量は直径23mmの弁に正規化された。図13と表6とに、結果が示されている。流量値は、弁を横切る方向の1mmHgの圧力降下に対する流量をmL/分の単位で表わしている。言い換えれば、流量(1mmHg毎)が大きいほど流れに対する抵抗は小さい。リットル/分を単位とする順流量と圧力降下との関係を粘膜下組織三尖弁アルファ(208)、ベータ(204)、デルタ(206)、カッパ(202)及びオメガ(200)と、セント・ジュード弁(210)及びハンコック弁(212)とに関してグラフに示した(図13参照)。粘膜下組織弁の平均流量(6.67リットル/分/mmHg)は、ハンコック及びセント・ジュード弁の場合の約5倍であることに注目されたい。言い換えれば、平均的な粘膜下組織弁は、ハンコック及びセント・ジュード弁の5分の1の抵抗を有する。
【0095】
表6
粘膜下組織、セント・ジュード及びハンコック心臓弁に関する品質試験のまとめ
弁の種類 順流量* 逆流量* 品質係数**
ハンコック 1.25 0.62x10-3 2,016
セント・ジュード 1.25 6.67x10-3 187
粘膜下組織平均 6.67 0.48x10-3 13,895
*流量=リットル/分/mmHg
**品質係数=順流量/逆流量
【0096】
<品質係数>
弁の品質係数は、mL/分/mmHgを単位とする順流量の逆流量に対する比として定義される。この品質係数は順流量曲線の逆流量曲線に対する比であるため、理想的な弁の品質係数が無限大となることは明らかである。粘膜下組織、ハンコック及びセント・ジュード弁の品質係数を計算して、表6に示してある。粘膜下組織弁の平均品質係数が13,895であったのに対して、ハンコック弁の場合は2016、セント・ジュードの値は187であった。粘膜下組織弁の高い品質係数は、その低い順方向圧力降下と低い漏れ量とによる。
【0097】
<動的試験>
セント・ジュード、ハンコック及び粘膜下組織弁を液圧式心血管シミュレータ内に配置して、左心室と大動脈との間における環境条件を模擬的に創出し、かつ動的な弁作用を確認した。セント・ジュード、ハンコック及び一般的な粘膜下組織弁(カッパ)の力学的特性を測定して比較した。3つの被験物のいずれにおいても、弁は急速な弁閉鎖作用を示し、粘膜下組織弁ではおそらく尖の質量が極めて小さいために響きがわずかに大きくなった。
【0098】
順流時の粘膜下組織を横切る方向の圧力降下は、異種移植片であるハンコックブタ大動脈弁とセント・ジュード・メディカル2枚形機械弁との2つの商業的に入手可能な被験弁よりはるかに小さい。背圧下における粘膜下組織弁の漏れ量は、一般的な順流量の1%未満が漏れるハンコック弁とほとんど同程度に小さく、かつセント・ジュード弁の数倍良好である。さらにまた、本発明の人工弁は、液圧式心血管系モデルにおいて試験したところ、良好に動作する。
【0099】
[例5]
<粘膜下組織心臓弁の移植>
以前の研究から、ヒツジにおける人工弁の2ヶ月間の移植は、治癒及び石灰化等の生態学的過程という点では人体における10年間と同等であることがわかった。従って、これらの実験のために、ヒツジを選択した。手作りの試験済み粘膜下組織弁を50匹の若齢のヒツジの僧帽弁位置に移植する。各々の弁は、品質及び適正流動特性に関する台上試験により選抜され、かつ移植に先立って過酢酸により滅菌される。ヒツジを1、3、6または12ヶ月を生存期間とする4つのグループに分ける。毎年25匹のヒツジを研究し、弁の機能不全、不全または感染の兆候に関して各実験動物を厳密に監視する。生体において、造影及び超音波研究を行なって、外移植前に弁機能を評価する。外移植弁を流動特性に関して台上試験するか、または顕微鏡分析及び化学的分析に付す。所定の生存期間のヒツジから得られた外移植弁の略3分の1をex-vivo台上流動研究のために取りおく一方で、残りの外移植片を組織特性研究のために取りおく。台上試験を可能な移植前(及び改造前)流動研究と比較する。光学顕微鏡検査を用いて移植片に対する被移植動物の反応と組織再生の度合いとの特徴付けを行なう一方で、電子顕微鏡検査を用いて組織構造の変化(透過型)と内皮化の度合い(走査型)とを評価する。原子吸光技術を用いて、外移植弁におけるカルシウム量を測定する。
【0100】
<粘膜下組織の調製>
ブタを無痛死させた後にブタ小腸の切片を採取して、直ちに0.9%の低温生理食塩水中に入れる。切片を所望の長さに切断し、全ての腸間膜組織を除去する。この腸をまず最初に裏返して、小刀の柄と湿らせたガーゼとによる縦方向の拭取り動作を用いて削摩する。次に、試料を裏返して、その本来の配向にする。粘膜面に関して説明された技術と同じ削摩技術を用いて、腸管の他方の表面から漿膜と筋層とを穏やかに除去する。その結果として残る薄い(壁厚さ0.1mm)白味がかった半透明の管状体は、粘膜の緻密層と粘膜筋板とこれに付着する粘膜下組織とによって構成される。この無細胞の膠原質を基本とする管状材料は、300ポンドの雌ブタから採取された場合には、約40mmの直径を有する。調製後に、粘膜下組織を生理食塩水を用いて水洗して、10%の硫酸ネオマイシン液中に入れて冷蔵保存する。最後に、この粘膜下組織を0.1%の過酢酸液を用いて殺菌処理し、無菌水中で水洗して、約4℃の無菌水中に保存する。
【0101】
<粘膜下組織弁の選択>
移植用の粘膜下組織弁を例3において説明したように作成する。この粘膜下組織を明らかな欠陥の点から選抜し、完成した弁を台上試験して、順流抵抗と逆流特性と品質係数とを測定する。品質係数が10,000を超える弁のみを移植する。
【0102】
<外科的手順>
6ヶ月齢未満の若齢のヒツジをこれらの新しい粘膜下組織弁の受容体とする。無菌手術法を用いて、これらの弁をヒツジの心臓の僧帽弁位置に移植する。チオペンタール・ナトリウム(10mg/kg静脈内)の注入により感覚喪失を誘導し、イソフルラン吸入により手術段階の感覚喪失を維持する。第4肋間隙における右側開胸を行ない、心肺バイパスを確立させる。次に、自己僧帽弁を摘出し、23mmの粘膜下組織弁を僧帽弁位置に移植する。その後、正常な心肺循環を回復させ、胸部を閉じる。実験動物が感覚喪失から完全に回復するまで胸部ドレナージを維持する。
短期的な抗凝血処置をこれらの実験動物において用いる。心臓バイパスの確立直後に250単位/kgのヘパリンを静脈内投与し、バイパス停止直後にヘパリンをプロラミンの静脈内投与に切り換える。術後3日間にわたって、ヒツジに1000単位のヘパリンを1日2回皮下注射により投与する。この期間後に、全ての抗凝血薬療法を停止する。
【0103】
<術後の管理と弁の採取>
各実験動物を回復期間及び生存期間において監視する。食物及び水の摂取と、排泄と体温と血液化学検査結果と溶血反応と血球数とを各実験動物に関して一定の間隔をおいて観察する。さらに、増殖期に覚醒時のヒツジにおける超音波写像検査を用いて弁機能を観察する。弁不全の副次的感染または心臓代償不全の臨床学的兆候(頭部の明らかな垂下または肺炎の症状等)が見られた場合は、無痛死させる。感染した弁は、石灰化したゆう形成が考えられるため、カルシウム量の測定には含まれない。
所定の生存期間の最後に、各実験動物を左心カテーテル術と圧力流量研究と放射線造影評価と超音波画像検査とを含む最終研究プロトコールに付す。最後に、実験動物に致死量のバルビツレートを静脈内投与する。
完全な死後評価を実施し、弁を採取するとともに、周辺組織へのステントの取込みと弁小葉上におけるパンヌス形成とに関して吟味する。弁の流入及び流出面を成熟した「白色」凝塊及び新鮮な「赤色」凝塊の形成に関して観察する。
無痛死後6時間以内に粘膜下組織弁を採取後ex-vivo流動研究に付すか、または弁を3分の1に分ける。これらの切片の1つを亜鉛−ホルマリン液中で固定して光学顕微鏡検査を行ない、1つを万能固定液中に入れて電子顕微鏡検査を行ない、第3の切片を原子吸光法及びフォン・コッサ法によるカルシウム量の測定のために取りおく。
【0104】
<弁の流動特性の研究>
粘膜下組織弁の流動特性を移植前、移植期間中及び移植期間後に測定することとし、これらの研究をin vivo及びex-vivo検査の2つのグループに分けてもよい。
In vivo測定
超音波画像検査を覚醒時の実験動物において手術前に、その後は所定の間隔をおいて実施する。最終超音波検査と合わせて右心カテーテル術による血管造影と圧力研究と熱希釈心拍出量測定とを無痛死に先立って感覚喪失した実験動物において行なう。
Ex-vivo測定
Ex-vivo流動特性研究を新しく製作された粘膜組織弁と新しく外移植された粘膜組織弁とにおいてMP3パルス・デュプリケータ(ミズーリ州ガレナ市ダイナテック研究所)を用いて行なう。各弁に関して測定されるパラメータには、いくつかの流量における順流抵抗と有効開口面積と閉鎖容積と逆流量と総合品質係数とが含まれる。
初期試験により移植弁の動作特性の基準値と移植に最適な弁を選抜する方法とが得られる。追跡検査により、移植前の値との比較及び移植期間中のあらゆる臨床学的観察との相関のための結果が得られる。
【0105】
<外移植片の特徴付け>
<組織病理学的分析>
標準染色と免疫組織化学技術とを用いて、弁の外移植片を評価する。ヘマトキシリン−エオシン染色を用いて、粘膜下組織の改造と受容体組織への取込みとを評価する。カルシウム沈着を調べるためのフォン・コッサ染色を用いて弁の鉱質化を視覚評価し、三色染色(例えばワンギーソン染色)された切片を細胞充実性と微細構造と形態学的特徴とに関して吟味する。第VIII因子関連抗原染色(カリフォルニア州カーピンテリア市ダコ(Dako)社)を用いて、切片内における内皮細胞の存在を判断し、また別の抗体(10C2)を適用して粘膜下組織弁移植片の吸収過程を評価する。全ての免疫組識化学的手順に、Hsuらにより説明されたアビジン−ビオチン複合(ABC)法を使用する。(1981)
<化学的分析>
原子吸光分光光度法とフォン・コッサの組織学的方法とを用いて、粘膜下組織弁の鉱質化を数量化する。移植期間中に弁に沈着したカルシウムを各外移植片の3分の1内から測定する。この値は、原子吸光法により組織1ミリグラム毎のマイクログラム単位のカルシウム量で測定されるか、または組織学的分析対象の切片の半数量的な鉱質化得点に置き換えて判断され、これらのデータは、その他の組織弁に関する結果との比較に用いられる。
【0106】
<電子顕微鏡検査>
各外移植粘膜下組織弁の略3分の1を電子顕微鏡(EM)評価に付す。特に重要なものは、小葉組織内に見られる構造及び線維配向と、小葉上における内皮化の度合いとである。透過型EMを構造観察に使用し、走査型EMを表面観察に使用する。未移植の粘膜下組織弁の切片を弁の外移植片の改造された組織と比較研究する。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】図1は、層状の粘膜下組織が真空圧搾を受ける、粘膜下組織により巻かれたマンドレルの断面図である。
【図2】図2は、シート状粘膜下組織の2つの端部が重ね合わされて、重複角θにより定められる重複部分を有する管状粘膜下組織を形成するシート状粘膜下組織により巻かれたマンドレルの斜視図である。
【図3】図3は、管状粘膜下組織を形成する幅狭シート状粘膜下組織により螺旋状に巻かれたマンドレルの斜視図である。
【図4】図4a乃至4cは、管状粘膜下組織により形成される血管弁の一つの実施態様の断面図である。
【図5】図5a乃至5eは、管状粘膜下組織により形成される血管弁の一つの実施態様の斜視図である。
【図6a】図6aは、環状の基礎部と該基礎部から延在する3つのステント柱とを有するステントの図である。
【図6b】図6bは、1枚以上の幅狭シート状粘膜下組織により覆われる図6aのステントの図である。
【図7a】図7aは、三尖弁の形成に用いられる構成要素の図である。
【図7b】図7bは、組み立てられた構成体の図である。
【図8a】図8aは、三尖弁の形状を有する、熱処理された粘膜下組織により覆われたステントの図である。
【図8b】図8bは、最終的な三尖弁形組織移植片構成体の図である。
【図9】図9は、移植された自己及び処理粘膜下組織におけるカルシウム濃度を原子吸光法により測定した値と移植後の経過時間の長さとの関係を示す実験データのグラフである。
【図10】図10は、組織弁構成体の順方向及び逆方向の流量を測定する試験装置の断面図である。
【図11】図11a及び11bは、本発明に従って形成される組織弁構成体の断面図であって、図11aは、順方向の流れの存在下における弁作用を示す図であり、図11bは、逆方向の流れの存在下における弁作用を示す図である。
【図12】図12は、作成された三尖弁構成体の順方向の流れ抵抗と漏れとを測定する試験装置の断面図である。
【図13】図13は、流量と様々な組織弁構成体を横切る方向の圧力降下との関係を示す実験データのグラフである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、組織移植片構成体とその調製及び使用方法とに関する。特に、本発明は、温血脊椎動物から調製されて血管弁に形成される非免疫原性の粘膜下組織移植片構成体を意図している。本発明の人工血管弁は、温血脊椎動物の損傷または病変した弁を置換するのに有用である。
【発明の開示】
【0002】
心臓には、心臓の2つの側を介して、血流を体内の様々な器官へと送り出す4つの弁がある。心臓の左(左心)側にある弁は:1)左心房と左心室との間に位置する僧帽弁と、2)左心室と大動脈との間に位置する大動脈弁とである。これらの2つの弁は、肺から送られて来る酸素化した血液を心臓の左側を介して大動脈へと誘導して体内に分配する。心臓の右(右心)側には:1)右心房と右心室との間に位置する三尖弁と;2)右心室と肺動脈との間に位置する肺動脈弁とがある。これらの2つの弁は、全身から送られて来る脱酸素化した血液を心臓の右側を介して肺動脈へと誘導して肺に分配しており、血液は肺で再び酸素化されて、新たに循環する。
【0003】
これら4つのいずれの心臓弁も、自らは少しもエネルギーを消費せず、かついかなる活発な収縮機能も果たさないという点において受動的な構造体である。これらの弁は、該弁のいずれかの側における差圧に呼応して開閉するようになっている可動式の「小葉」によって構成される。僧帽弁と三尖弁とは、心臓の心房と心室との間に位置するため、「房室弁」と呼ばれる。僧帽弁は合計2つの小葉を有するのに対して、三尖弁は3つの小葉を有する。大動脈弁及び肺動脈弁の各々は、「尖」と呼ばれることの方が多い3つの小葉を有する。
【0004】
全世界で病変した心臓弁を置換する外科処置が、毎年150,000件以上行なわれている。3件の手術の内2件では、現在機械的な人工弁が用いられている。機械弁には、ケージド・ボール弁(スタル・エドワーズ(Starr-Edwards)弁等)と2枚弁(セント・ジュード(St. Jude)弁等)と傾斜円板弁メドトロニック・ホール(Medtronic-Hall)またはオムニセンス(Omniscience)弁等)とが含まれる。ケージド・ボール弁は、一般に、チタン製ケージの内側に配置されるシリコーン・ゴム製の球体からなる一方で、2枚弁及び傾斜円板弁は、熱分解性炭素とチタンとを様々に組み合せたもので作製される。これら全ての弁が、布(一般にダクロン(DacronTM ))製の縫合リングに取り付けられて、人工弁を患者の自己組織に縫合することで移植した人工弁を固定することができる。
【0005】
機械弁の主要な利点は、長期の耐久性である。しかし、現在入手可能な機械弁は、トロンボゲン形成を引き起こし、そのために生涯にわたって抗凝血薬療法が必要になるという欠点を持つ。弁上に血餅が形成されると、これらの血餅が弁の適正な開閉を妨げるか、または、より重要なこととして、これらの血餅が弁から分離して脳への血管に塞栓を形成して、脳卒中を引き起こすこともある。抗凝血薬を投与することで血餅形成の危険を減らすことができるが、このような薬剤は高価であり、かつ脳内で出血が起こった場合に脳卒中の原因となり得る異常出血を引き起こしかねないという点において潜在的に危険である。
【0006】
機械弁に替わるものの一つは、天然組織から作られる弁である。天然組織から作られる人工弁は、優れた血行力学的特性を有しており、従って組織を基本とする弁の臨床学的な利用は、人工弁市場全体よりも急速に拡大している。現在入手可能な組織弁は、ブタの大動脈弁の小葉をステントに縫い付ける(以って小葉を適正位置に保持する)方法、またはウシまたはブタの(心臓を取り巻く)心膜から弁小葉を作成し、これらをステントに縫い付ける方法のいずれかによって作成される。ステントは、剛性または若干の可撓性を有し得、かつ布(一般にダクロンの商標で販売される合成材料)で覆われるとともに、縫合リングに取り付けられて患者の自己組織に固定される。カーペンティエール・エドワーズ(Carpentier-Edwards)ブタ弁と、ハンコック(Hancock)ブタ弁と、カーペンティエール・エドワーズ心膜弁との3つの組織弁が、米国食品医薬品局により移植用として承認された。
【0007】
組織弁の主要な利点は、機械弁ほど容易に血餅形成を引き起こさず、従って全身的な抗凝血薬療法を絶対に必要としないというところにある。組織弁の主要な欠点は、機械弁が持つ長期の耐久性を欠くことである。現在入手可能な組織弁は、一般に移植後約8乃至10年で現れる著しい不全率を有する。特に、現在入手可能な人工組織弁は移植後に石灰化し、弁の石灰化が小葉の硬化をもたらして、小葉がひび割れてしまうことがよくある。
【0008】
従って、長期の耐久性を有し、かつ被移植者の組織との生体適合性を持つ人工組織弁構成体が求められている。本発明は、温血脊椎動物の粘膜下組織により形成される人工組織弁を意図している。本発明に従って調製される粘膜下組織は、損傷または病変した被移植者組織の修復を促進する生体適合性の抗血栓性移植片材料としてすでに説明された。数多くの研究から、温血脊椎動物の粘膜下組織は、尿路下部、体壁、腱、靭帯、骨、心血管組織、中枢神経系とを含む多数のin vivo微環境において移植後に被移植者組織の増殖と組織構造体の改造及び再生とをもたらし得ることがわかった。移植と同時に、細胞浸潤と急速な血管新生とが観察され、粘膜下組織材料は、部位特有の構造及び機能特性を有する被移植者の置換組織に改造される。
【0009】
粘膜下組織は、例えば食肉生産用に飼育されるブタ、ウシ、ヒツジを含む動物、またはその他の温血脊椎動物から採取される様々な原材料組織から得られる。特に、粘膜下組織は、温血脊椎動物の消化管、気道、腸管、尿路または生殖路を含む温血動物組織から分離される。一般に、粘膜下組織は、これらの原材料組織から、平滑筋層と粘膜層との両方から粘膜下組織を剥離させることによって調製される。腸管粘膜下組織の調製は、米国特許第4,902,508号の説明と請求の範囲とに記載されており、特に前記特許の開示を参照することにより本明細書の一部分とする。膀胱粘膜下組織とその調製とは、米国特許第5,554,389号に説明されており、特に前記特許の開示を参照することにより本明細書の一部分とする。また、胃粘膜下組織を得て、同様の組織処理技術を用いて特徴を与えた。これについては、1996年12月10日出願の胃粘膜下組織由来の組織移植片と題する米国特許出願第60/032,683号に説明されている。簡単に言えば、胃粘膜下組織は、腸粘膜下組織の調製と同様の手順で胃の切片から調製される。胃組織の切片は、最初に縦方向の拭取り動作を用いた削摩を受けて、外側の層(特に平滑筋層)と粘膜層の管腔部分とが除去される。その結果として得られる胃粘膜下組織は、約100乃至約200マイクロメートルの厚さを有しており、主として(98%を超える)無細胞のエオシン好染色性(ヘマトキシリン−エオシン染色)細胞外基質によって構成される。
【0010】
本発明に従って用いられるのに好ましい粘膜下組織は、腸粘膜下組織と胃粘膜下組織と膀胱粘膜下組織と子宮粘膜下組織とを含む。腸粘膜下組織、特に温血脊椎動物の腸の筋層及び少なくとも粘膜の双方から剥離される腸粘膜下組織は、一つの好ましい原材料である。
【0011】
組織移植片として、粘膜下組織は、被移植者に移植されると同時に、改造を受けるとともに、体内組織の増殖を誘発する。粘膜下組織は、人工血管と膀胱及びヘルニアの修復と腱及び靭帯の置換及び修復と皮膚移植片とに用いられて成果を上げた。粘膜下組織の組織移植片構成体としての調製及び使用は、米国特許第4,902,508号と5,281,422号と5,275,826号と5,554,389号とその他の関連ある米国特許とに説明されている。このような用途に用いられると、この移植片構成体は、該移植片構成体により置換される組織を再生するための基質として機能するだけでなく、体内組織のこうした再生を促進または誘発する。この改造過程に共通する事象には、広範かつ極めて急速な血管新生と肉芽間葉細胞の増殖と移植された腸粘膜下組織材料のin vivo分解/吸収と免疫拒絶反応が起こらないこととが含まれる。
【0012】
また、粘膜下組織は、損傷または病変した心内膜と心膜と心筋とを含む心組織の体内再生と治癒とを促進させ得る。特に、損傷または病変した心筋組織を生体内において温血脊椎動物の粘膜下組織からなる構成体により置換することで自発性収縮特性を有する体内組織の形成を促進させることができる。
【0013】
本発明は、粘膜下組織を用いて組織弁構成体を調製することと、これらの弁構成体を用いて温血脊椎動物の心臓及び循環系の損傷または病変した弁を置換または修復することとを意図している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
大腿筋膜とウシ心膜と脳硬膜とを含む様々な原材料組織を用いて心臓弁の作成及び修復を行なった。加えて、研究者は、人間の弁を置換するのに動物弁(ブタ弁等)と死体の弁とを使用する潜在性を研究した。人工組織弁を用いて研究を行なってきた研究者は、新鮮な組織は時間の経過とともに収縮する傾向にあり、その結果として弁が完全に密閉して流体の逆流を防ぐことができなくなってしまうことを発見した。従って、研究者は、グルタルアルデヒド処理を用いて組織を剛化させて、これらの組織がその後収縮するのを防いだ。組織のグルタルアルデヒド処理は、組織移植片が免疫反応を引き起こす確率をも低下させるという点で有利である。しかしながら、グルタルアルデヒド処理はまた、組織弁のin vivoにおける寿命を短縮させる。
【0015】
天然の弁小葉は、組織が伸長力には抵抗するが圧縮力には抵抗しないように配向される線維物質を含む極めて柔軟な海綿状物質によって構成されている。この軸方向の圧縮力に対する低い抵抗力が、天然の心臓弁組織にその特徴である高い柔軟性を与えている。このような組織をグルタルアルデヒドで固定すると、該組織は新鮮な組織の最大4倍の剛性を持つようになる。この固定処理は、分子の架橋を誘発して、屈曲を伴う軸方向の圧縮力に対する組織の抵抗力が高くなる。その結果として、より剛性の組織は屈曲時に屈従し、連続する心拍の度毎に組織は同じ位置で屈曲しがちになって、膠原繊維が疲労して最終的に破断する。さらにまた、組織のグルタルアルデヒド処理は、処理された組織の石灰化を誘発するように思われる(例1参照)。組織の石灰化は、小葉のさらなる剛化をもたらして、移植された組織弁のひび割れと不全とに対する移植片の感受性を悪化させる。
【0016】
本発明の人工組織弁は、温血脊椎動物の粘膜下組織から人工的に作られる。米国特許第4,902,508号及び5,554,389号に説明された手順に従って分離される粘膜下組織は、被移植種内に移植されたときに免疫反応を誘発しない。従って、本発明により脊椎動物の粘膜下組織から調製される組織弁構成体は、移植前にグルタルアルデヒドにより処理される必要はない。
【0017】
粘膜下組織を用いて、二尖弁または三尖弁の尖を置換することによりin vivoにおいて既存の弁を修復することができる。また、粘膜下組織を用いて弁全体を作成して、心臓弁またはその他の循環系の弁または管路弁を置換することができる。本発明の弁構成体の粘膜下組織は、該粘膜下組織を浸潤させて最終的に移植片材料を体内組織で置換する体内細胞及び組織の形成を誘発する。
【0018】
本発明の粘膜下組織移植片構成体は、グルタルアルデヒドなめし法、酸性のpH値でのフォルムアルデヒドなめし法、酸化プロピレンまたは酸化エチレン処理、ガス・プラズマ滅菌方法、ガンマ線照射、電子ビーム照射、過酢酸滅菌方法を含む従来の滅菌方法を用いて滅菌され得る。粘膜下組織の機械的強度と構造と生体刺激特性とに悪影響を及ぼさない滅菌方法が好ましい。例えば、強いガンマ線照射は、粘膜下組織の強度損失を引き起こし得る。好ましい滅菌方法には、移植片を過酢酸にさらすこと、1乃至4Mradのガンマ線照射(さらに好ましくは1乃至2.5Mradのガンマ線照射)、酸化エチレン処理またはガス・プラズマ滅菌方法が含まれ、過酢酸滅菌方法が最も好ましい滅菌方法である。一般に、粘膜下組織は、2つ以上の滅菌工程を受ける。粘膜下組織を例えば化学的処理により滅菌した後に、この組織をプラスチックまたは箔の外被体で包んで、電子ビームまたはガンマ線照射滅菌方法を用いて再び滅菌してもよい。
【0019】
粘膜下組織は、含水または脱水状態で保存され得る。凍結乾燥または空気乾燥された粘膜下組織は、その生体刺激特性及び機械的特性を著しく損なわれることなしに、本発明に従って再度含水されて使用できる。
【0020】
本発明に従った一つの実施態様において、単体形血管弁は、温血脊椎動物の管状粘膜下組織から作成され得る。本発明の組織弁を形成させるのに用いられる管状粘膜下組織は、液密性の継ぎ目を有して形成されるとともに、該移植片構成体によって置換される体内組織に合わせて成形され得る。ある好ましい実施態様において、血管弁は、管状腸粘膜下組織から形成されるとともに、カモノハシ形の弁として構成される。
【0021】
管状粘膜下組織は、米国特許第4,902,508号に記載のように、筋層及び粘膜の少なくとも管腔部分の双方から剥離される腸粘膜下組織を含む様々な原材料から調製される。簡単に言えば、ブタ、ヒツジまたはウシの各種属から採取されることが好ましいが、これら以外の種族を除外するものではない脊椎動物の腸の切片は、縦方向の拭取り動作を用いた削摩を受けて、平滑筋組織からなる外側の層と、粘膜の管腔部分である最も内側の層とが除去される。
【0022】
調製される管状粘膜下組織の直径は、受容体の血管の直径と略同じでなければならない。一つの実施態様において、これは、粘膜下組織を処理して受容体の血管の直径と略同じ直径を有する円筒体を形成させ、該粘膜下組織を長手方向に縫合するか、またはその他の方法で固定して、適切な管腔直径の管状体を形成させることによって達成される。従って、例えば人工血管は、受容体の血管の外径に等しい外径を有する無菌ガラス棒を選択し、このガラス棒を管状の粘膜下組織(例えば腸組織の切片から調製される粘膜下組織)の管腔内に挿入し、余分な組織をかき寄せることによって作成され得る。所望の管腔直径は、移植片の全長に沿って(例えば2本の連続的な縫合線または単純な断続縫合線を用いて)縫合すること、または当該分野で公知のその他の組織固定技術を用いることによって達成される。
【0023】
また、管状粘膜下組織は、シート状粘膜下組織から形成され得る。「シート状粘膜下組織」という用語は、本明細書では、多数の条片状の粘膜下組織からなる組織構成体において、これらの条片が重ね合わされ、かつ脱水条件下で圧縮されて、前記構成体の形成に用いられる個々のいずれの条片の表面積よりも大きい表面積を有する一体的な構成体を形成する組織構成体を含むものと定義される。シート状粘膜下組織という用語には、管状体の全長に沿って切開されて平らに広げられた管状腸粘膜下組織も含まれる。
【0024】
一つの実施態様において、管状粘膜下組織は、シート状粘膜下組織から、適切な直径の円筒状のマンドレルのまわりに該組織を巻き付けることによって形成される。余分な組織は除去され、対向端部は互いに結合されて、マンドレルの直径に略等しい管腔直径を有する管状体が形成される。シートの対向端部は、糊状接着剤、縫合糸、組織を重ね合わせて脱水条件下で加熱することによる両端部の融着または当業者に公知の何らかのその他の固定技術によって結合され得る。
【0025】
ある実施態様では、図1に示されるように、シート状粘膜下組織2は、該シート状粘膜下組織2を適切な直径の円筒状マンドレル12のまわりに螺旋状に巻き付け、重複する組織を脱水条件下で圧縮することによって、いかなる大きさの管状構造体にも成形される。マンドレル12は、複数個の穴16を円筒壁に形成されて有するプラスチックまたは金属製の中空円筒体であることが好ましい。組織の圧縮は、マンドレル12の一方の端部に密封部4を形成させ、マンドレル12の管腔を介して真空吸引することによって達成される(図2参照)。これに替わる方法として、組織は、巻き付けられた粘膜下組織の外面に外力を加えて、組織をマンドレルに押し付けて圧縮することによって圧縮される。一つの実施態様において、螺旋状に巻き付けられた組織の最終的な継ぎ目は、縫合糸、熱による点溶接または該継ぎ目をグルタルアルデヒドで処理することによってさらに固定され得る。
【0026】
本発明によれば、管状粘膜下組織は、1枚以上のシート状粘膜下組織がマンドレルのまわりに多数の層をなして巻き付けられる多積層型構成体として形成され得る。使用される個々のシート状粘膜下組織の寸法は重要でなく、「シート状粘膜下組織」という用語は、本明細書では、1つ以上の脊椎動物の原材料または器官から得られる幅広く様々な大きさ及び形状の粘膜下組織を含むものと定義される。
【0027】
ある実施態様において、シート状粘膜下組織2は、形成される管状粘膜下組織の所望の長さに等しい幅を有しており、この管状体は、形成された管状体においてシート状粘膜下組織2の第1の縁部13がシート状粘膜下組織の第2の対向縁部15に対して実質的に平行になるように形成される。この第2の対向縁部15は、第1の縁部を超えて延在して、重複角θによって定められる重複部分を形成する(図1参照)。シート状粘膜下組織2は、転動動作によってマンドレル12に所望の層数(一般に2層)と重複部分(約30度の重複角により定められる)とを有して巻き付けられて、図1に示されたように、縦方向に延在する継ぎ目を持つ管状粘膜下組織が形成される。巻き付けられた粘膜下組織は、脱水条件下で所定の時間にわたって前記マンドレルに押し付けられて圧縮され、その後、管状人工器官がマンドレルから取り外される。その結果として得られる管状構成体は、該構成体の全長にわたって延在する継ぎ目を有する。この管状粘膜下組織の継ぎ目は、当業者に公知の架橋結合、縫合、接着剤による結合または脱水条件下での圧縮による融着を含む技術を用いて密封されて、管腔から継ぎ目を介して管状体の外側へと流体が移動するのを阻止する。この継ぎ目は、熱またはグルタルアルデヒドによる点溶接によってさらに固定され得る。
【0028】
これに替わる方法として、管状粘膜下組織は、形成される管状粘膜下組織の所望の長さを下回る幅を有する1枚以上の幅狭シート状粘膜下組織から形成され得る(図3参照)。この実施態様では、幅狭シート状粘膜下組織18は、マンドレル14のまわりに複数回巻き付けられており、幅狭シートは、その下にあるマンドレルのわずかな部分をも露出させることなしに、少なくとも部分的に重複する。一つの実施態様において、マンドレル14は、複数個の穴8を備える。部分的に重複する条片状粘膜下組織の重複量は、個々の条片の幅10乃至60%の範囲であり、さらに好ましくは、この重複部分は50%の重複量である。ある実施態様において、多数のシート状粘膜下組織は、各々の粘膜下組織片の少なくとも一部分がマンドレル上に巻き巻き付けられるまた他の粘膜下組織片の一部分と重複することを条件として、マンドレル上に重置され得る。
【0029】
米国特許第5,275,826号(特にこの特許の開示を参照することにより本明細書の一部分とする)に記載のように、粘膜下組織を調整して、粘膜下組織の粘弾特性を変化させることができる。一つの実施態様において、粘膜下組織は、移植片材料を縦方向に伸長させて、該移植片構成体を形成するのに用いられた粘膜下組織の長さを上回る長さにすることによって調整される。伸長させることによって組織を調整する一つの方法は、粘膜下組織に3乃至5回のサイクルにわたって一定の負荷を加えることを含む。各サイクルは、移植片材料に5秒間にわたって負荷を加える段階と、その後の10秒間の弛緩段階とによって構成される。3乃至5回のサイクルにより、伸長調整されて歪みを減じられた移植片材料が得られる。この移植片材料は、すぐにその本来の大きさに戻ることはなく、「伸長された」寸法に保たれる。任意で、移植片材料を横方向に伸長させることにより予備調整してもよい。
【0030】
ある実施態様において、粘膜下組織は、予測される極限負荷の50%を用いて伸長される。「極限負荷」とは、組織の破断を引き起こすことなしに粘膜下組織に加えられる最大負荷(すなわち組織の破断点)である。極限負荷は、任意の条片状粘膜下組織に関して原材料と材料の厚さとに基づいて予測される。従って、伸長させることによって組織を調整する一つの方法は、予測される極限負荷の50%を3乃至10回のサイクルにわたって粘膜下組織に加えることを含む。各サイクルは、移植片材料に5秒間にわたって負荷を加える段階と、その後の10秒間の弛緩段階とによって構成される。その結果として得られる調整済み粘膜下組織は、一般的には約20%乃至約28%の歪みである30%未満の歪みを有する。一つの好ましい実施態様において、調整済み粘膜下組織は、わずか20%の歪みしか持たない。本明細書で用いられるところの歪みという用語は、組織が加負荷下で伸長されるときに、組織破断に至るまでの組織の最大伸び量を指す。これは、加負荷前の組織の長さに対する比率として表わされる。調整済み条片状粘膜下組織を用いて管状構成体を形成させてもよく、またはこれに替わる方法として管状構成体を形成後に調整してもよい。
【0031】
一つの実施態様によれば、筋層及び粘膜の少なくとも管腔部分の双方から剥離される、温血脊椎動物の粘膜下組織は、調整されることでわずか20%の歪みしか持たない。この粘膜下組織は、伸長、化学的処理、酵素処理または組織をその他の要因にさらすことによって調整される。ある実施態様では、シート状粘膜下組織は、該シート状粘膜下組織が一般的には約20%乃至約28%の歪みである30%未満の歪みを有するように縦または横方向に伸長されることによって調整される。一つの好ましい実施態様において、調整済み粘膜下組織は、わずか20%の歪みしか持たない。
【0032】
また、緩やかな熱処理を用いて粘膜下組織を剛化させ、かつ組織の形状記憶を確かなものにすることができる。この熱処理は、粘膜下組織を約65乃至約100℃に加熱された水であることが好ましい液体にさらす段階からなる。粘膜下組織は、加熱された液体に約10秒から約5分の範囲内の短時間にわたってさらされる。組織移植片全体が液状媒体の温度と平衡するのではなく、移植片の表面だけが前記媒体の温度に達することが好ましい。
【0033】
ある実施態様によれば、管状粘膜下組織を用いて、体内の欠陥のある血管弁を置換する人工血管弁が形成される(図4a乃至4c及び図5a乃至5e参照)。図4a乃至4cに示される一つの実施態様によれば、組織弁構成体は、欠陥のある弁の直径に近似する直径(D)を有する連続管状体30の形をとる。この連続管状体30は、第1の端部20と第2の対向端部22と約1.5D乃至約3.5Dの長さ(L)を持つ三重壁の中間部分24とを有する。組織移植片の三重壁部分は、管状体の第1の端部20を裏返して、二重壁の端部26と、該二重壁の端部26に近接するとともに該端部から延在する二重壁部分28とを有する管状構成体を形成させることによって形成される。二重壁の中間部分の2つの壁は、長さSの部分にわたって互いに縫い合わされており、この縫合部分は、管状構成体の二重壁の端部26から少なくとも距離1/2Dの位置にある。一般に、縫合の長さは約0.8乃至約5cm、好ましくは約1乃至約2cmである。第1の端部20は、縫合された二重壁部分と管状構成体の二重壁の端部26との上に戻されており、Sに対するLの比は約2乃至約5、好ましくは約2.5乃至約3.5である。3.0乃至3.2の範囲の重複/縫合比(Sに対するLの比)を有する組織弁は、約22という優れた順/逆比を提供する。また、これらの弁は、幅広い圧力範囲にわたって良好に作用することが示された。
【0034】
さらに他の実施態様において、組織弁は、欠陥のある弁の直径に近似する直径(D)を有する連続管状体の形をとる。この管状体は、第1及び第2の対向端部と、約1.5D乃至約3.5Dの長さ(L)を持つ三重壁の中間部分とを有する。この組織移植片の三重壁部分は、管状体の第1の端部を裏返して、二重壁の端部と、該二重壁の端部に近接するとともに該二重壁の端部から延在する二重壁部分とを有する管状構成体を形成させることによって形成される。第1の端部は、その後、二重壁部分と管状構成体の二重壁の端部との上に戻され、三重壁の中間部分の3つの壁が互いに縫い合わされて、約0.8乃至約5cm、好ましくは約1乃至約2cmの長さSを有する縫合部分が形成される。二重壁の端部に近接する縫合部分の端部は、管状構成体の二重壁の端部から少なくとも距離1/2Dの位置にあり、Sに対するLの比は、約2.0乃至約5、好ましくは約2.5乃至約3.5である。
【0035】
また他の実施態様において、単体形人工弁は、第1の端部34と第2の端部36とを有する管状粘膜下組織32から下記の方法に従って作成される(図5a乃至5e参照)。管状粘膜下組織32の第1の端部34は裏返され、かつ管状粘膜下組織32の上に引き戻されて、二重壁の端部38と、該二重壁の端部38に近接するとともに該端部から延在する二重壁部分40とが形成される(図5b参照)。この二重壁部分40は圧縮されて、管状粘膜下組織32が偏平化され、管状粘膜下組織32は、偏平化された管状体の側縁部44から互いの方向に延在する2本の線に沿って密封される。ある実施態様では、1対の直径方向に対向する縦縫合線42を用いて、二重壁部分40の壁が互いに縫い合わされる。前記1対の縫合線42は、管状体の側縁部44に始点をおくとともに、偏平化された管状体の中央に向かって傾斜するが、これらの縫合線42は互いに交わらないことが好ましい(図5c参照)。管状粘膜下組織32の二重壁部分40が縫合された後に、縫合線42の外側にある粘膜下組織部分46が(切除等により)除去される。第1の端部34は、その後、縫合された二重壁部分の上に戻され、管状構成体の縫合線42が側縁部44と交わる部分は、例えば縫合糸により密封されて、管腔内から外部への管内容物のいかなる漏出も防がれる。
【0036】
また、二尖弁または三尖弁は、環状のステントをシート状粘膜下組織と組み合わせて用いて作成される。一般に、ステントは、生体適合性合成ポリマーまたは生体適合性ポリマーにより被覆される金属によって構成される。しかし、材料が被移植者に移植されたときに自らの形状を維持するのに必要な強度を有することを条件として、その他の材料を用いてステントを形成させてもよい。ある実施態様では、ステントは、材料を剛化させるために処理された粘膜下組織により形成される。例えば、粘膜下組織をステントの形に成形し、その後、グルタルアルデヒド等の標準架橋剤と当業者が熟知する技術とを用いて架橋してもよい。これに替わる方法として、粘膜下組織をステントの形に成形し、かつ熱処理を施して移植片構成体を剛化させてもよい。ある実施態様では、粘膜下組織を基本とするステントは、約80°乃至約100°の温度の液体中において約10秒乃至約5分間にわたって加熱される。
【0037】
本発明の一つの実施態様(図6aに示される)において、ステント48は、環状リングの平面に対して実質的に垂直に延在する複数個のステント柱52を有する環状リング50として形成される基礎部からなる。このステントは、作成された弁を受け入れる血管の直径と略同じリング直径を有するように選択される。ある実施態様では、ステントの外面は粘膜下組織により覆われて、被移植者に移植したときに被移植者の組織が粘膜下組織のみと接触するようになっている。従って、ステントが生体適合性合成ポリマーからなる場合または生体適合性ポリマーで覆われた金属からなる場合は、組織弁の形成に先立って、ステントの表面は任意で最初に粘膜下組織の層により覆われる。例えば、1枚以上のシート状粘膜下組織54をステントのまわりに巻き付けて、ステントの表面全体が少なくとも1層の粘膜下組織により覆われるようにしてもよい(図6b参照)。ステントが粘膜下組織により巻かれた後に、この組織を部分的に乾燥させて、ステントに対する粘膜下組織の付着性を高めることができる。また、縫合糸または当業者に公知のその他の固定手段を用いて、粘膜下組織をステントの表面に固定してもよい。
【0038】
これに替わる方法として、ステントを液化粘膜下組織に接触させ、その後、粘膜下組織を乾燥させてステント上に被覆体を形成させることにより、ステントの表面を粘膜下組織で覆うことができる。例えば、液化粘膜下組織により被覆されたステントを1乃至2時間にわたって37℃に加熱して、該液化組織をステント上に乾燥付着させてもよい。液化粘膜下組織は、米国特許第5,275,826号に記載のように調製され、特に前記特許の開示を本明細書の一部分とする。
【0039】
本発明の二尖及び三尖弁は、単層シート状粘膜下組織または多積層型粘膜下組織構成体を用いて形成され得る。多積層型粘膜下組織構成体は、条片状の粘膜下組織を重複させ、かつ重複する前記組織を互いに結合させることによって形成され得る。重複する組織は、縫合糸、接着剤、架橋剤または熱処理を使用するか、または組織の脱水を誘導し得る条件下で組織を圧縮することによって結合され得る。有利な点として、大面積のシート状粘膜下組織は、条片状粘膜下組織を部分的に重複させ、かつ該組織を脱水条件下で圧縮して、構成体の形成に用いられるいずれの条片状粘膜下組織よりも大きい表面積を有する一体的な異数積層型移植片構成体を形成させることにより形成される。また、同数積層型構成体は、2枚以上の条片状粘膜下組織を重複させ、かつ該組織を該組織の脱水を誘導し得る条件下で圧縮することにより、縫合糸、接着剤または架橋剤を使用するか、または使用せずに作成される。
【0040】
本発明の人工粘膜下組織弁は、優れた流動力学的特性を有しており、商業的に入手可能なグルタルアルデヒド処理ブタ弁と違って、移植後に石灰化しない。さらにまた、本発明の人工組織弁は、任意で熱処理されて、適正な弁形状を維持する一方で、グルタルアルデヒド処理に付随する欠点が回避または解消される。
【0041】
温血脊椎動物のシート状粘膜下組織からの多尖血管組織弁構成体の作成は、多段階の工程である。まず最初に、組織弁を受け入れる血管の直径と略同じ大きさの直径を有する血管用ステントを選択しなければならない。このステントは、環状の基礎部と、該環状の基礎部上において互いに等距離に分布し、かつ前記基礎部から延在する複数個のステント柱とからなる。2つのステント柱を有するステントを用いて二尖弁が作成され、3つのステント柱を有するステントを選択して三尖弁が作成される。各々のステント柱は、環状の基礎部から該環状の基礎部の周縁部によって形成される平面に対して略同じ角度で延在する。この角度は、約60°乃至約90°、好ましくは約75°乃至約90°の範囲である。一つの実施態様において、ステント柱は、環状の基礎部から実質的に垂直に延在する。これらの多数のステント柱は管腔空間を形成しており、中心軸は、各々のステント柱から等距離において環状基礎部と前記管腔空間との中心を通って延在する。
【0042】
次に、単層シートまたは多積層シートがステントのステント柱の上に重置される。粘膜下組織は、反管腔側及び管腔側の表面を有する。管腔側の表面は、原材料器官の管腔に面する粘膜下組織面であって、一般にin vivoにおいて内側粘膜層に隣接するのに対して、反管腔側の表面は、原材料器官の管腔と反対の方向を向く粘膜下組織面であって、一般に生体内において平滑筋組織に接触する。好ましい実施態様において、粘膜下組織は、管腔側表面を上に向け、かつ粘膜下組織の反管腔側表面をステントの表面に接触させてステント上に重置される。さらにまた、シート状粘膜下組織は、環状基礎部の直径の少なくとも2倍の長さと幅とを有して選択される。ある実施態様では、シート状粘膜下組織は、2D(ステント環状基礎部の直径の2倍の大きさ)の長さと幅とを有する正方形の組織片として形成される。粘膜下組織は、ステント柱の上において心合せされて、クランプ、接着剤、縫合糸またはこれらを組み合わせたものを含む、当業者に公知の標準固定技術を用いて1つのステント柱の頂部に固定される。一つの好ましい実施態様では、粘膜下組織は、該組織をステント柱の頂部に縫合することにより固定される。
【0043】
粘膜下組織は、次に、自らの上に折り返されて、粘膜下組織が固定されたステント柱の頂部上の点からステントの中心軸に沿う点まで延在する皺が形成される。その後、該組織は順番に残りのステント柱に固定され、組織が折り返されて、第1のステント柱の場合と同様の態様で残りの各ステント柱の位置に皺が形成される。ある実施態様によれば、折り返された組織は、この折り返された組織を2つの剛性板の間において圧縮することにより正位置に保持される。一つの実施態様では、前記皺は、ステント柱の頂部によって形成される線または水平面に対して実質的に平行に延びる。また他の実施態様では、前記皺は、ステント柱の頂部によって形成される線または水平面に対して約1°乃至約45°、好ましくは約1°乃至約20°の角度に形成される(この角度の原点はステント柱に位置する)。本発明によれば、二尖弁の作成では、2つのステント柱の各々から延び、かつステントの中心軸に沿う点で交わる2つの皺を形成させることが必要になる。三尖弁の作成では、各々が3つの内の1つのステント柱の上の点に始点をおき、かつステントの中心軸に沿う点で交わる3つの別個の皺を形成させることが必要になる。従って、粘膜下組織は、各々のステント柱に順番に固定され、該組織が折り畳まれて、各ステント柱から延在する皺が形成される。
【0044】
適切な個数の皺が作成された後に、折り畳まれた粘膜下組織を任意で熱または化学処理に付して、粘膜下組織を剛化させ、かつ該組織の形状記憶を確かなものにする。例えば、グルタルアルデヒド等の化学的架橋剤の希釈液(0.1%乃至1%)を用いて組織を処理して、該組織を剛化させてもよい。一つの好ましい実施態様では、前記組織は、該組織を熱処理に付すことによって剛化される。ある実施態様に従った熱処理は、組織を水中で約80℃乃至約100℃の温度で約10秒乃至約5分間にわたって加熱すること、好ましくは組織を約88℃乃至約92℃の温度で約10乃至約90秒にわたって加熱することからなる。
【0045】
一つの実施態様において、折り畳まれた粘膜下組織は、例えば金属、プラスチック、ガラスまたはセラミック板またはこれらを組み合わせたものである剛性材料の2枚の板の間に挟み込まれ、この挟み込まれた材料が熱または化学処理に付されて、粘膜下組織は挟み込まれたままで剛化される。これらの剛性板は、丸味のある端部を有する矩形状であることが好ましく、前記板は、約(2/5)D乃至約(1/2)Dの範囲の幅と約(1/2)D乃至約Dの範囲の長さとを有しており、ここで、Dは環状のステント基礎部の直径である。一つの実施態様では、これらの板は、約(2/5)Dの幅と約3/4Dの長さとを有する。
【0046】
粘膜下組織が挟み込まれ、かつ任意で処理された後に、クランプと板とが取り外され、粘膜下組織は、当業者に公知の標準技術を用いてステント柱の周縁部に沿って固定される。ある実施態様においては、粘膜下組織は縫合糸を用いることにより固定される。その後、粘膜下組織は、該粘膜下組織に形成され、かつ各々のステント柱から延在する皺に沿って切除されて、交連が形成される。形成された組織弁は、該組織を熱または化学処理することにより任意でさらに調整され、この熱処理は、組織弁が背圧を受けている間に行なわれ得る。
【0047】
本発明に従った三尖弁の調製は、図7a、7b、8a及び8bを参照して説明される。本発明の一つの実施態様によれば、三尖弁は、筋層及び粘膜の少なくとも管腔部分の双方から剥離される腸粘膜下組織から下記の方法により形成される。直径Dの環状基礎部61と3つのステント柱60とを有する適切な大きさのステント56が入手され、任意でDacronメッシュまたは粘膜下組織により前記のように覆われる。剥離された腸粘膜下組織は、ステント外径の約2倍の長さに切断される。この粘膜下組織の切片は、次に縦方向に切断されて、約2Dの長さと幅とを持つ矩形の粘膜下組織シート58が形成される。
【0048】
ステント56は、その環状基礎部61を台に接触させて水平台上に配置される。粘膜下組織シート58は管腔側62を上に向けてステント56の上において心合せされ、該粘膜下組織がステント柱60の上に重ねて置かれる(図7a参照)。1つのステント柱が選択されて、粘膜下組織は該ステント柱の先端65に縫合される。粘膜下組織は、前記縫合が行なわれたのと同じステント柱の位置で折り返され、粘膜下組織の折り目の線64がステント柱の水平面上に引かれる。湾曲端部68を持つ矩形の形状(2/5DのW及び3/4DのL1の寸法を有する)の2つの金属板68を用いて、板66の湾曲端部68が下に向いた状態の前記板66の間に折り畳まれた粘膜下組織が挟み込まれる。平坦な頭部を有するペーパー・クリップ70を用いて、該クリップをステント柱60のまわりに取り付けることにより前記板を互いに締め付ける(図7b参照)。
【0049】
交連位置は、折り目がなす1本線でなければならない(すなわち、粘膜下組織を前記板と接触する部分において重複させてはならない)。残りの各ステント柱の位置で折り目を形成させる段階を繰り返す。尖72の谷は、平面状の外観を呈さなければならない(すなわち、皺を含んではならない)。
【0050】
その後、余分な粘膜下組織は、平頭クリップ70が正位置に取り付けられた後にピン74により各々のステント柱60間においてステント56の基礎部に留め付けられる。この弁組立体は、沸点に近い温度(約80℃乃至90℃)の水を入れた鍋に入れられ、約10乃至約90秒後に該組立体が取り出される。この熱処理は、シート状粘膜下組織を収縮させる。平頭クリップ70と板66とは、その後で取り外されるが、環状基礎部61にあるピン74は除去されない。この時点で、粘膜下組織シート58は、ステント56の頂部周縁に緊密に沿う形状となる。
【0051】
粘膜下組織シート58は、次に、煮沸後に形成された皺を縫合中も必ずそのまま同じ位置に維持しながら、各ステント柱60の周縁に沿って縫合される(図8a参照)。縫い目の間隔は1.5mm以下でなければならない。その後、ピン74がステントの基礎部から取り外され、開口部の外側部分のまわりにある余分な粘膜下組織が除去される。組立体は、前記と同じ態様で前記板66と平頭クリップ70との間に再び挟み込まれ、該組立体は、再び10乃至90秒間にわたって沸点に近い温度(約80℃乃至90℃)の水中にもう一度入れられる。組立体が沸点に近い温度の水から取り出され、クランプと板とが取り外される。
【0052】
折り畳まれた粘膜下組織は、ステント柱の先端65からステント柱60により形成される管腔空間の中心まで水平方向に切除されて、交連が形成される(図8b参照)。交連76とステント柱の先端65とは略同じ高さになければならず、結果的に得られる小葉は互いに面一でなければならない。
【0053】
本発明において説明される方法に従って調製される人工組織三尖弁は、ステントと、ステント柱の上に重置される粘膜下組織層とからなる。ステントは、環状の基礎部と、該環状基礎部から垂直方向に延在する3つのステント柱とからなっており、前記環状基礎部と前記3つの柱とは、各々のステント柱から等距離において環状基礎部の中心を通って延在する中心軸を形成する。粘膜下組織は、各々のステント柱の周縁部に沿ってステント上に固定されるとともに、前記中心軸に沿う点から3つの各ステント柱の頂部まで延在する3つの半径方向の軸に沿って自らの上に折り返される。粘膜下組織のこれら3つの折り目により、粘膜下組織層は3つの凹状四分球形粘膜下組織に成形される。折り畳まれた粘膜下組織をこれら3つの半径方向の軸に沿って切除することにより、粘膜下組織の凸状側から凹状側への一方向の流れを可能にする心臓弁の交連が形成される。ある実施態様では、作成された組織弁の半径方向の軸の交連は、図8bに示されるように、中心軸に対して垂直であり、かつ本質的にステント柱の先端により形成される平面と共平面をなす。
【0054】
[例1]
<粘膜下組織における皮下石灰化の研究>
生体材料のグルタルアルデヒド(GA)処理は、石灰化と被移植者組織への不十分な取込みと最終的に人工生体器官の機械的不全とを促すことが知られている。粘膜下組織の心臓血管系への適用を見越して、粘膜下組織の石灰化の潜在性とGA処理の影響とを研究した。
【0055】
[実験1]
過酢酸(PAA)または弱グルタルアルデヒド(GA)固定(0.6%で5分間)による処理を受けた粘膜下組織または水洗以外の処理を受けない粘膜下組織と、市販の人工生体ブタ心臓弁の尖(製造元によりグルタルアルデヒド処理されたもの)とを十分に馴化した実験用ラットの離乳子畜に植え込んだ。前記4つの各組織の1cm×1cmの被験物を18匹のラットの腹部腹側に外科的に創出された皮下腔部に植え込んだ。移植後1、2及び4週間の時点で6匹のラットを屠殺し、組織を採取して評価した。組織学的研究から、2週間後の時点でGA処理された被験物を除くいずれの粘膜下組織の被験物も周辺組織に十分に取り込まれており、4週間後の時点ではいずれの粘膜下組織の被験物も同様の外観を呈することがわかった。フォン・コッサ染色法により鉱質化を調べたところ、PAAまたは水洗処理された粘膜下組織では前記のいずれの時点でも著しい石灰化は起こっていないが、GA処理された粘膜下組織及びブタ弁尖では1週間後の評価時点ですでに著しいカルシウム沈着が見られることがわかった(P=0001)。
【0056】
[実験2]
1)自己粘膜下組織(洗浄済み、無処理)と、2)0.1%の過酢酸(PAA)により滅菌された粘膜下組織と、3)0.25%のGAを用いて処理された粘膜下組織と、4)商業的に入手可能なGA処理済み人工ブタ心臓弁尖片(GPV)との4つの各被験物を24匹の各々のラット離乳子畜に皮下移植した。6匹のラットを移植後1,2,4及び8週間の時点で無痛死させ、原子吸光分光光度法によりカルシウム濃度を、光学顕微鏡により鉱質化の度合いを評価した。
【0057】
<実験材料と実験方法>
3週齢のSDラット離乳子畜(60乃至80g)24匹を4つの均等なグループに分けた。各々の粘膜下組織被験材料(無処理、PAA処理及びGA処理)と商業的に入手可能なブタ弁尖の切片との一つの移植片(1平方センチメートル)を各ラットの腹壁に皮下移植した。1,2,4及び8週間後の時点で前記材料の石灰化を組織学的に、かつ原子吸光分光光度法により評価した。石灰化及び移植片周囲の線維増殖の度合いを採点して比較した。
【0058】
<小腸粘膜下組織>
・粘膜下組織の調製
粘膜下組織の採取についてはすでに説明したので、簡単に要約する。屠殺場においてブタの死骸から近位空腸の切片を入手し、組織供給源であるブタを無痛死させてから2時間以内に下記のように調製した。
切除された小腸切片から全ての腸間膜組織を除去し、前記切片を裏返した。上皮と固有層とを含む粘膜下組織の浅部を、小刀の柄と生理食塩水を含ませたガーゼとによる縦方向の拭取り動作を用いた緩やかな削摩により除去した。特に基底粘膜の緻密層として識別される中等度の緻密さの膠原質層が表層として残った。次に、この切片を本来の配向に戻し(反転させ)、漿膜と筋層とを同様の機械的削摩により除去した。その後に残る薄い(厚さ0.1mm)白味がかった半透明の無細胞の管状体は、粘膜の緻密層と粘膜筋板とを付着させて有する粘膜下組織によって構成される。この緻密層が管腔側の内層となった。
粘膜下組織を無菌水中で入念に水洗し、液体窒素中で凍結させて、使用時まで−80℃で保存した。滅菌時に、管状粘膜下組織を縦方向に切開してシート状粘膜下組織を作成し、このシート状粘膜下組織を1cm2の切片に切り分けて、3つの異なるプロトコールの内の一つにより処理した。
【0059】
・自己(無処理)粘膜下組織
前記1cm2の被験物を無菌水を用いて15分間にわたって3回水洗し、生理食塩水に5%の硫酸ネオマイシンを加えた溶液中に入れて、移植時まで4℃で保存した。
【0060】
・過酢酸処理粘膜下組織
前記1cm2の被験物を無菌水を用いて水洗し、0.1%の過酢酸で処理した後に無菌水を用いて15分間にわたって3回水洗した。この粘膜下組織を移植時まで4℃の無菌水中に保存した。
【0061】
・グルタルアルデヒド処理粘膜下組織
前記1cm2の被験物を無菌水を用いて水洗し、0.25%のグルタルアルデヒドで20分間にわたって処理した後に、無菌水を用いて15分間にわたって3回水洗した。この粘膜下組織を移植時まで4℃の無菌水中に保存した。
【0062】
<ブタ弁尖>
商業的に入手可能なブタ弁尖(ハンコックブタ弁)を独占的方法(メドトロニック社(Medtronic Inc.))に従って処理した。処理用、保存用及び包装用の溶液は0.2%の緩衝等張性グルタルアルデヒドと1%の緩衝グルタルアルデヒドからなる殺菌液とによって構成された。
1平方センチメートルの切片を前記弁尖から切り出した。これらの被験物を無菌水中において15分間にわたって3回水洗し、移植時まで40℃の無菌水中に保存した。
【0063】
<外科的手順と術後の管理>
マスクを介してメトフェインを投与することにより感覚喪失を誘導維持した。腹部腹側を刈り込んで無菌手術の用意をした。長さ1cmの縦方向の皮膚切開部1ヶ所を各腹部四分円部位内に形成させ、その後、皮下腔部を創出した。1cm2の被験物1個を各腔部内に無作為に配置し、その下の筋膜に5−0ポリプロピレン縫合糸で1ヶ所縫合することにより正位置に固定した。皮膚切開部を5−0ポリプロピレン縫合糸により単純な断続縫合パターンを用いて閉じた。移植後1,2,4及び8週間の時点で、一つのグループの実験動物を前記のように感覚喪失誘導後に塩化カリウムを心内投与することにより無痛死させた。被験材料と関連の周辺組織とを採取し、半分に分けた。これらの被験物の一方を標準の組織学的技術により処理し、かつ分析した。他方の半分の各被験物の粘膜下組織を分離して、カルシウム量を原子吸光分光光度法により測定した。
【0064】
<ミネラル分析>
試料を直ちに液体窒素中において凍結させ、その後、凍結乾燥させた。乾燥組織重量をミリグラム単位で記録した。組織カルシウム(Ca)の塩酸ランタン(LaCl)中の6N硝酸のミネラル分析は、原子吸光分光光度法により測定された。元素濃度は、いずれも乾燥組織重量1ミリグラム毎のマイクログラム単位の重量として表わされる(平均値±平均値の標準誤差[SEM])。さらに、調製された全ての移植片の内6つの試料について、移植前のCa++分析を行なった。
【0065】
<形態学的分析>
試料をトランプ(Trump)液中で24時間にわたって固定した後に、中性りん酸緩衝液中に入れた。被験物をパラフィン包埋して6μmに切り分けた。切片をヘマトキシリン及びエオシン(H&E)を用いて染色して総合的な形態学的分析を、フォン・コッサ染色を用いて染色して鉱質化の分析を行なった。
これらの切片を一人の病理学者が盲検により吟味した。試料を移植片周囲の線維増殖と移植片の鉱質化とに関して半数量的に採点した。採点は、0(なし)1(軽度)、2(中等度)及び3(重度)の採点尺度を基本とした。
【0066】
<統計学的分析>
鉱質化得点と線維増殖得点とマイクログラム/ミリグラム単位のカルシウムの原子吸光度とを検定した。には、一般線形モデル手順(General Linear Models Procedure)を用いて石灰化と線維増殖とを移植後の経過時間と移植材料との関数として検定した。スチューデント・ニューマン・キールズ(Student Newman Keuls)範囲検定を用いて、グループ間の差異を検出した。有意性は、p<0.05で判断された。
【0067】
[結果]
<手術>
麻酔死例は見られなかった。いかなる創傷合併症も起こらず、全てのラットが良好に回復した。
【0068】
<ミネラル分析>
未移植及び皮下移植後の自己、PAA処理及びGA処理粘膜下組織とGPVとのカルシウム濃度をマイクログラム/ミリグラム単位で測定した累積データを表1及び図9のグラフに示す。他の材料のカルシウム濃度と著しく相違するカルシウム濃度を有する組織試料は、表1において星印を付けて示されている(p<0.05、スチューデント・ニューマン・キールズ検定による)。自己及びGA処理粘膜下組織とGPVとのカルシウム量は、第0日には著しく相違しなかった。しかし、PAA処理粘膜下組織は、第0日に他の3つのグループより著しく低いカルシウム濃度を有した。原子吸光度研究から、自己またはPAA処理粘膜下組織では、第0日(移植前)のカルシウム濃度と比較すると、いかなる時点でも石灰化は起こっていないことがわかった。しかし、GA処理材料(粘膜下組織及びGPV)では、自己及びPAA処理粘膜下組織試料と比較して、統計学的に著しい(p<0.0001)石灰化が各移植片評価時点で起こっていた。組織病理学的研究から、自己及びPAA処理粘膜下組織では鉱質化は見られず(p<0.000)、かつ移植片周囲の線維増殖はわずかであり(p<0.0001)、しかもこれらの粘膜下組織は周辺組織に十分に取り込まれることがわかった。カルシウム濃度は、GA処理粘膜下組織及びGPVで移植後1,2,4及び8週間の時点で著しく高かった(表1)。移植後の経過時間と移植片材料とのいずれもがカルシウム濃度に関して統計学的に著しい要因であった(p<0.0001)。
【0069】
表1:移植後7、14,28及び60日時点での異なる組織グループにおけるカルシウム沈着量 乾燥重量1mg毎のμg単位のCa2+重量(平均値±平均値の標準誤差)
【0070】
<形態学的分析>
移植後1週間の時点で、自己及びPAA処理粘膜下組織において、薄い周辺肉芽組織帯が認められ、鉱質化は見られなかった。これらの移植片は2週間後までに周辺組織に取り込まれ、4週間後までに肉芽組織が移植片を継続的に浸潤することが確証された。8週間後の時点で、移植片は疎性結合組織として観察され、鉱質化または移植片周囲の線維増殖は見られなかった。
【0071】
GA処理粘膜下組織では、1週間後までに移植片周囲の軽度の線維増殖と中等度から重度の鉱質化とが認められた。2週間後までに肉芽組織による移植片の中等度の浸潤が起こったが、周辺線維増殖と、移植片及び周辺結合組織の広範な鉱質化とが起こった。4週間後までに肉芽組織による移植片の広範な浸潤と重度の鉱質化とが起こった。GA処理粘膜下組織では、3週間後の時点で広汎性の中等度の亜急性炎症と重度の多局性鉱質化と軽度の隣接線維増殖とが見られた。
【0072】
1週間後の時点で、グルタルアルデヒド処理ブタ弁(GPV)では、移植片周囲の軽度から中等度の線維増殖帯と中等度の鉱質化とが認められた。2週間後の時点では、移植片周囲の線維被膜と副次的な付帯巨細胞とが見られた。鉱質化は、軽度から重度であった。4週間後まで前記線維被膜は残存し、鉱質化は重度であった。8週間後の時点で、GPVでは、移植片の十分な分画と広範な多局性鉱質化と軽度の周辺線維増殖とが見られ、周辺組織の取込みは認められなかった。
【0073】
いずれの時点(移植後1,2,4及び3週間)でも、鉱質化得点はGA処理材料(粘膜下組織及びGPV)で著しく高くなった(表2)。移植後の経過時間は、鉱質化得点の要因ではなかった(p=0.6)。線維増殖得点は、GA処理粘膜下組織においてのみ、移植後2及び4週間の時点で著しく高くなった。しかし、8週間後の時点ではGA処理粘膜下組織とGPVとのいずれの線維増殖得点も著しく高くなった(表3)。経過時間は線維増殖得点の著しい要因であった(p<0.0001)。移植片材料は、鉱質化(p<0.0001)及び線維増殖得点(p<0.0001)の著しい要因であった。
【0074】
表2:平均鉱質化得点
日数 7 14 28 60
自己 0 0 0 0
PAA 0.1 0 0 0
GA 2.5 3 2 2.5
GPV 1.7 2.4 2.7 2.4
表3:平均線維増殖得点
日数 7 14 28 60
自己 1.3 1.3 0.8 0
PAA 1.7 1.1 1 0
GA 1.7 2.3 2.7 0.8
GPV 1.4 1 1.3 0.8
【0075】
[考察]
組織のグルタルアルデヒド固定の副次的な石灰化のメカニズムは、よくわからない。分子間及び分子内架橋がグルタルアルデヒドを用いて処理された自己膠原質において起こり、架橋が移植された人工生体組織の鉱質化の必要条件となるようであることがわかった。これらの反応が石灰化を引き起こす分子メカニズムは十分に解明されていない。グルタルアルデヒド固定されたブタ大動脈弁の試料は、ラットに皮下移植されると鉱質化するのに対して、無処理の移植片は鉱質化せずに炎症器質化する。ブタ大動脈弁及びウシ心膜のいずれの結合組織細胞に関連ある石灰性沈着物も、膠原繊維に局在する石灰性沈着物に先行する。このことは、人工生体組織細胞と膠原質とにおける石灰性沈着物は、独立したメカニズムにより発生することを示唆している。
【0076】
GA処理人工生体器官の石灰化を制限するために、いくつかの研究において様々な方法が検討された。完全に石灰化を解消することができる方法は見出されなかった。石灰化は、石灰化防止剤と新しい架橋方法に基づく新しい化学薬品とアミノ酸を手段とする人工生体器官の内皮化の改良とにより、かつ組織の組成に関連ある内在性要因の所産として制限された。これらの試みにより石灰化の進行を防ぐこと以外には、満足できる溶液または生体材料はまだ定式化されていない。
【0077】
上述されたように、原子吸光法により測定されるところの未移植材料のカルシウム量は、移植前には、他の3つの被験材料よりカルシウム量が著しく低かったPAA処理粘膜下組織を除いて、いずれの組織でも同様であった。これは、粘膜下組織が過酢酸により処理され、その結果として粘膜下組織の固有カルシウム濃度が低下したためかもしれない。
【0078】
移植後は、自己及びPAA処理粘膜下組織は、GA処理材料と比較すると、いずれの時点でも著しく低いカルシウム濃度を有した。このことは、原子吸光法及び組織学的分析のいずれによっても明白であった。自己及びPAA処理粘膜下組織は、移植後2週間の時点までに周辺組織に十分に取り込まれた。移植後8週間の時点までに、粘膜下組織は、鉱質化または移植片周囲の線維増殖を起こさずに疎性結合組織となった。GA処理材料(粘膜下組織及びGPV)では、移植片周囲のより大きな線維増殖反応が見られた。GA処理粘膜下組織では、周辺組織への取込み速度は自己及びPAA処理粘膜下組織より緩慢であった。GA処理粘膜下組織では、初期に移植後1週間の時点で移植片周囲の顕著な線維増殖が認められた。8週間後の時点では、線維増殖は低下していた。GPVは、周辺組織に取り込まれず、広範な移植片周囲の線維増殖を誘発した。移植後3週間の時点では、線維被膜は残存しており、GPVは十分に分画された皮下移植片として観察された。
【0079】
自己及びPAA処理粘膜下組織に関する所見は、粘膜下組織を血管移植片として用いた以前の自己移植片及び異種移植片の研究と同様であり、改造された粘膜下組織および被移植者組織部位の鉱質化は、以前のいずれの研究でも認められなかった。拒絶反応も、腸粘膜下組織を用いた以前の同種移植片及び異種移植片の研究では観察されなかった。粘膜下組織は、本質的に無細胞の膠原質であり、膠原分子は種間において構造的に維持される。
【0080】
この研究の結果は、自己またはPAA処理粘膜下組織により作成される移植片が原位置において石灰化する潜在性は低いことを示唆している。GA処理粘膜下組織及び弁尖では、GAを用いて処理されたその他の生体材料において見られたように、著しい石灰化が進んだ。GA処理材料は、より大きな炎症反応と顕著な鉱質化とより緩慢な取込み速度とを示した。自己及びPAA処理粘膜下組織は周辺組織に十分に取り込まれ、このことは他の研究における所見と合致している。比較のために、臨床学的に不全のブタ大動脈人工生体器官は、202乃至234μg/mgのカルシウムを有する。PAA処理粘膜下組織は、移植後8週間の時点で0.33乃至0.61μg/mgのカルシウムを有したのに対して、GA処理粘膜下組織は、移植後3週間の時点で98乃至104μg/mgのカルシウム量を有した。
【0081】
自己及びPAA処理粘膜下組織が石灰化しないことは明白であることと、粘膜下組織は被移植者組織の内殖及び分化の足場として機能し得ることが以前に示されたこととから、粘膜下組織は、人工心臓弁及びその他の生体装置を作成するための理想的な生体材料である。粘膜下組織は、最終的に体内組織により置換され、その結果として、被移植者組織のみからなり、かつ自己構造に厳密に類似する構造が形成される。
【0082】
[例2]
<単体形二尖弁の最適設計パラメータ>
管状粘膜下組織から形成される単体形粘膜下組織弁構成体の最適設計パラメータを個々の順/逆流量比の比較試験により判断した。図10に示されるように、試験装置は、水により満たされる大型保水タンク78と、6フィートの可撓管80と、チューブ・クランプ82と、大型の目盛り付きフラスコ84と、粘膜下組織弁構成体88とによって構成された。
【0083】
小腸粘膜下組織をそれ自体の上に折り返し、#2縫合糸を用いて縫い合わせて、図11a及び図11bに示される二尖弁構成を達成した。この粘膜下組織弁構成体88は、可撓管80の端部において2つのいずれの配向にも固定され得る。第1の配向は、流体を弁構成体を介して流動させる、図11aに示されるような順流配向である。第2の配向である逆流配向では、図11bに示されるように、弁を介した流体の流れが防がれる。粘膜下組織弁を作成して前記装置に取り付けた後に、弁を介して順方向及び逆方向に水を流した。水を大型容器に継続的に追加して、圧力を一定の速度で維持できるようにした。各所定の高さに関して一定時間にわたって各弁を介して流れた水の体積を記録した。この情報を少し操作することにより比較データの形に変えることができた。弁を介した水の体積流量を測定し、この体積流量と前記所定の高さ(h)との関係をグラフに示した。これらの各々のグラフをその順/逆流量比の概算値により比較した(表4参照)。水が、弁における圧力を測定するために使用された液体であったが、この情報をmmHgに変換して、標準測定単位を比較できるようにした。
【0084】
表4
弁番号 重複/縫合長さ比 順/逆流量比
1 3.5 16
2 2.333 17.5
3 3.0 24.5
4 2.5 11
5 2.667 6.667
6 2.0 12.0
7 2.667 11.5
8 2.667 10.5
9 3.2 23.5
10 3.0 21.0
11 1.6 12.5
12 1.667 2.133
弁番号 重複長さ(cm) 縫合長さ(cm)
1 4.445 1.27
2 4.445 1.91
3 3.87 1.27
4 3.175 1.27
5 5.08 1.91
6 5.08 2.54
7 5.08 1.91
8 2.54 0.953
9 4.763 1.588
10 5.715 1.91
11 5.08 3.175
12 3.175 1.91
【0085】
[結果と結論]
最良の順/逆流量比は、24.5:1という比を持つ弁3(図4参照)で得られた。データを分析したところ、最良の弁設計(重複/縫合)比は、3.0乃至3.2:1の範囲であるように思われる。この範囲の重複/縫合比は、約22という非常に良好な順/逆流量比をもたらす。この範囲は、最適な順/逆流量比をもたらすだけでなく、幅広い圧力範囲にわたって非常に良好に作用する。
【0086】
[例3]
<三尖弁の作成>
粘膜下組織弁を作成する際の第1の段階は、図6aに示されるように、所望の直径(D)のステントを選択することである。次に、図6bに示されるように、このステントを幅1cmの長尺帯状脱水粘膜下組織を用いて螺旋状に巻くことによって完全に覆う。この処置により、確実に粘膜下組織のみが組織と血液とに接触することになる。ステントの直径の2倍の矩形シート状粘膜下組織を選択し、研磨縁部と図7aに示される寸法とを有する尖成形用丸形金属アルミ薄板を用いて3つの尖を形成させる。
【0087】
管腔側を上に向けたシート状粘膜下組織をステントの上に配置する。1つのステント柱を選択し、粘膜下組織を該柱の先端に縫い付ける。次に、このシート状粘膜下組織を縫合が行なわれた該ステント柱に対して垂直方向に前記柱先端から延在する線に沿って折り畳む。6つの尖成形板の内2つを用いて、折り畳まれた粘膜下組織層を縫合が行なわれたのと同じステント柱の位置で前記板間に挟み込む。板の湾曲縁部は下方を向く。粘膜下組織の折り目をステント柱の水平面上において引いて、最終的な組織弁の一つの交連位置を形成させる。その後、小型の結束クリップ(またはその他の適切なクランプ)を用いて、該クリップをステント柱のまわりに取り付けることにより前記板を互いに締め付ける。交連位置は、折り目がなす1本線でなければならない(すなわち、前記板と接触する粘膜下組織にはいかなる皺も形成されない)。この処置を残りの2つのステント柱の位置において繰り返す。尖の谷(すなわち、ステント柱間にあるシート状粘膜下組織部分)は、皺を含んではならない。結束クリップを取り付けた後に、余分な粘膜下組織を各々のステント柱間においてステントの基礎部にピン留めする(または当業者に公知の何らかの固定装置により前記基礎部に固定する)(図7b参照)。
【0088】
90℃の水中における15秒間の熱処理により、粘膜下組織に形状記憶性を与える。次に、熱処理後に形成された皺を縫合中も必ずそのまま同じ位置に維持しながら、シート状粘膜下組織をステントの周縁部に(すなわち、各ステント柱の全ての側部沿いと各ステント柱間とにおいて)縫い付ける。縫い目の間隔は1.5mm以下でなければならない。次に、クリップと板とを取り外す。ステント基礎部にあるピンを取り外し、ステントのまわりの余分な粘膜下組織を取り除く(図8a参照)。折り畳まれた粘膜下組織を虹彩鋏を用いてステント柱先端から開口部の中心まで水平方向に注意深く切除して、交連を形成させる。この交連形成部とステント柱の先端とは、略同じ高さになければならない(図8b参照)。
【0089】
この弁を固定具に取り付け、100mmHgの背圧を加えながら90℃の熱水を注ぐことにより最終的な熱処理を行って、尖の均一な相互順応を達成する。この実施態様では、ステントを最初に粘膜下組織によって巻くことにより、縫合のための適当な構造が得られるため、縫合用リングは必要とされない。図8bは、前記プロトコールに従って作成される粘膜下組織弁の図である。
【0090】
[例4]
<三尖弁の試験>
作成された粘膜下組織弁と商業的に入手可能なハンコックブタ弁及びセント・ジュード・メディカル(St. Jude Medical)2枚形機械弁とに関して、逆流(漏れ)試験と静的及び動的流動試験とを行なった。当日までに50個を超える粘膜下組織弁が製作され、全ての弁に関して漏れ及び圧力降下(勾配)の研究が行なわれた。
【0091】
<漏れ試験>
図12に、弁構成体を順流抵抗と漏れとに関して試験するのに用いられる装置と方法とが示されている。各試験では、100mmHgの静的背圧が試験対象の弁に対して加えられる。流量は、目盛り付き筒体とストップウォッチとを用いて測定される。弁の面積が若干相違したため、漏れ量は同じ大きさ(直径23mm)のものに正規化された。表5に、5つの粘膜下三尖組織弁(ギリシャ文字のアルファとベータとデルタとカッパとオメガとで示される)に関する実験結果が示されている。これら5つの三尖組織弁の平均逆漏れ量(48.9mL/分)は、ハンコックブタ弁の場合(62.1mL/分)より若干少なかったが、セント・ジュード弁の場合(240mL/分)よりははるかに少なかった。
【0092】
表5
弁 漏れ量 mL/分
アルファ 111.0
ベータ 5.0
デルタ 58.0
カッパ 54.0
オメガ 16.5
粘膜下組織弁平均値 48.9
ハンコックブタ弁 62.1
セント・シ゛ュート゛・メテ゛ィカル弁 240.0
【0093】
この実験では、特に予め注意してこれら第1の5つの三尖組織弁において尖を入念に整合させることはしなかった。これらの5つの人工弁は、最終的な熱処理を用いて調製されたが、例3で説明されたような背圧の存在下における加熱は行なわれなかった。背圧を維持しながら弁を熱処理することにより、尖の整合性が高まり、完成品である弁の逆漏れは著しく減少する。
【0094】
<順流圧力降下>
前記5つの三尖組織弁(ギリシャ文字のアルファとベータとデルタとカッパとオメガとで示される)とハンコック及びセント・ジュード弁との順流に対する抵抗を図12に示される態様で測定した。順流に対する抵抗を測定する装置は、三尖組織弁92を中央管90内に固定されて有する中央管90からなる。ポート94は、三尖組織弁92のいずれの側にも形成され、かつ目盛り付き筒体96と流体により連通する。クランプ98は、弁の2つの側間の圧力偏差を維持する。100mmHgの圧力を全ての測定に使用した。弁の面積が若干相違したため、流量は直径23mmの弁に正規化された。図13と表6とに、結果が示されている。流量値は、弁を横切る方向の1mmHgの圧力降下に対する流量をmL/分の単位で表わしている。言い換えれば、流量(1mmHg毎)が大きいほど流れに対する抵抗は小さい。リットル/分を単位とする順流量と圧力降下との関係を粘膜下組織三尖弁アルファ(208)、ベータ(204)、デルタ(206)、カッパ(202)及びオメガ(200)と、セント・ジュード弁(210)及びハンコック弁(212)とに関してグラフに示した(図13参照)。粘膜下組織弁の平均流量(6.67リットル/分/mmHg)は、ハンコック及びセント・ジュード弁の場合の約5倍であることに注目されたい。言い換えれば、平均的な粘膜下組織弁は、ハンコック及びセント・ジュード弁の5分の1の抵抗を有する。
【0095】
表6
粘膜下組織、セント・ジュード及びハンコック心臓弁に関する品質試験のまとめ
弁の種類 順流量* 逆流量* 品質係数**
ハンコック 1.25 0.62x10-3 2,016
セント・ジュード 1.25 6.67x10-3 187
粘膜下組織平均 6.67 0.48x10-3 13,895
*流量=リットル/分/mmHg
**品質係数=順流量/逆流量
【0096】
<品質係数>
弁の品質係数は、mL/分/mmHgを単位とする順流量の逆流量に対する比として定義される。この品質係数は順流量曲線の逆流量曲線に対する比であるため、理想的な弁の品質係数が無限大となることは明らかである。粘膜下組織、ハンコック及びセント・ジュード弁の品質係数を計算して、表6に示してある。粘膜下組織弁の平均品質係数が13,895であったのに対して、ハンコック弁の場合は2016、セント・ジュードの値は187であった。粘膜下組織弁の高い品質係数は、その低い順方向圧力降下と低い漏れ量とによる。
【0097】
<動的試験>
セント・ジュード、ハンコック及び粘膜下組織弁を液圧式心血管シミュレータ内に配置して、左心室と大動脈との間における環境条件を模擬的に創出し、かつ動的な弁作用を確認した。セント・ジュード、ハンコック及び一般的な粘膜下組織弁(カッパ)の力学的特性を測定して比較した。3つの被験物のいずれにおいても、弁は急速な弁閉鎖作用を示し、粘膜下組織弁ではおそらく尖の質量が極めて小さいために響きがわずかに大きくなった。
【0098】
順流時の粘膜下組織を横切る方向の圧力降下は、異種移植片であるハンコックブタ大動脈弁とセント・ジュード・メディカル2枚形機械弁との2つの商業的に入手可能な被験弁よりはるかに小さい。背圧下における粘膜下組織弁の漏れ量は、一般的な順流量の1%未満が漏れるハンコック弁とほとんど同程度に小さく、かつセント・ジュード弁の数倍良好である。さらにまた、本発明の人工弁は、液圧式心血管系モデルにおいて試験したところ、良好に動作する。
【0099】
[例5]
<粘膜下組織心臓弁の移植>
以前の研究から、ヒツジにおける人工弁の2ヶ月間の移植は、治癒及び石灰化等の生態学的過程という点では人体における10年間と同等であることがわかった。従って、これらの実験のために、ヒツジを選択した。手作りの試験済み粘膜下組織弁を50匹の若齢のヒツジの僧帽弁位置に移植する。各々の弁は、品質及び適正流動特性に関する台上試験により選抜され、かつ移植に先立って過酢酸により滅菌される。ヒツジを1、3、6または12ヶ月を生存期間とする4つのグループに分ける。毎年25匹のヒツジを研究し、弁の機能不全、不全または感染の兆候に関して各実験動物を厳密に監視する。生体において、造影及び超音波研究を行なって、外移植前に弁機能を評価する。外移植弁を流動特性に関して台上試験するか、または顕微鏡分析及び化学的分析に付す。所定の生存期間のヒツジから得られた外移植弁の略3分の1をex-vivo台上流動研究のために取りおく一方で、残りの外移植片を組織特性研究のために取りおく。台上試験を可能な移植前(及び改造前)流動研究と比較する。光学顕微鏡検査を用いて移植片に対する被移植動物の反応と組織再生の度合いとの特徴付けを行なう一方で、電子顕微鏡検査を用いて組織構造の変化(透過型)と内皮化の度合い(走査型)とを評価する。原子吸光技術を用いて、外移植弁におけるカルシウム量を測定する。
【0100】
<粘膜下組織の調製>
ブタを無痛死させた後にブタ小腸の切片を採取して、直ちに0.9%の低温生理食塩水中に入れる。切片を所望の長さに切断し、全ての腸間膜組織を除去する。この腸をまず最初に裏返して、小刀の柄と湿らせたガーゼとによる縦方向の拭取り動作を用いて削摩する。次に、試料を裏返して、その本来の配向にする。粘膜面に関して説明された技術と同じ削摩技術を用いて、腸管の他方の表面から漿膜と筋層とを穏やかに除去する。その結果として残る薄い(壁厚さ0.1mm)白味がかった半透明の管状体は、粘膜の緻密層と粘膜筋板とこれに付着する粘膜下組織とによって構成される。この無細胞の膠原質を基本とする管状材料は、300ポンドの雌ブタから採取された場合には、約40mmの直径を有する。調製後に、粘膜下組織を生理食塩水を用いて水洗して、10%の硫酸ネオマイシン液中に入れて冷蔵保存する。最後に、この粘膜下組織を0.1%の過酢酸液を用いて殺菌処理し、無菌水中で水洗して、約4℃の無菌水中に保存する。
【0101】
<粘膜下組織弁の選択>
移植用の粘膜下組織弁を例3において説明したように作成する。この粘膜下組織を明らかな欠陥の点から選抜し、完成した弁を台上試験して、順流抵抗と逆流特性と品質係数とを測定する。品質係数が10,000を超える弁のみを移植する。
【0102】
<外科的手順>
6ヶ月齢未満の若齢のヒツジをこれらの新しい粘膜下組織弁の受容体とする。無菌手術法を用いて、これらの弁をヒツジの心臓の僧帽弁位置に移植する。チオペンタール・ナトリウム(10mg/kg静脈内)の注入により感覚喪失を誘導し、イソフルラン吸入により手術段階の感覚喪失を維持する。第4肋間隙における右側開胸を行ない、心肺バイパスを確立させる。次に、自己僧帽弁を摘出し、23mmの粘膜下組織弁を僧帽弁位置に移植する。その後、正常な心肺循環を回復させ、胸部を閉じる。実験動物が感覚喪失から完全に回復するまで胸部ドレナージを維持する。
短期的な抗凝血処置をこれらの実験動物において用いる。心臓バイパスの確立直後に250単位/kgのヘパリンを静脈内投与し、バイパス停止直後にヘパリンをプロラミンの静脈内投与に切り換える。術後3日間にわたって、ヒツジに1000単位のヘパリンを1日2回皮下注射により投与する。この期間後に、全ての抗凝血薬療法を停止する。
【0103】
<術後の管理と弁の採取>
各実験動物を回復期間及び生存期間において監視する。食物及び水の摂取と、排泄と体温と血液化学検査結果と溶血反応と血球数とを各実験動物に関して一定の間隔をおいて観察する。さらに、増殖期に覚醒時のヒツジにおける超音波写像検査を用いて弁機能を観察する。弁不全の副次的感染または心臓代償不全の臨床学的兆候(頭部の明らかな垂下または肺炎の症状等)が見られた場合は、無痛死させる。感染した弁は、石灰化したゆう形成が考えられるため、カルシウム量の測定には含まれない。
所定の生存期間の最後に、各実験動物を左心カテーテル術と圧力流量研究と放射線造影評価と超音波画像検査とを含む最終研究プロトコールに付す。最後に、実験動物に致死量のバルビツレートを静脈内投与する。
完全な死後評価を実施し、弁を採取するとともに、周辺組織へのステントの取込みと弁小葉上におけるパンヌス形成とに関して吟味する。弁の流入及び流出面を成熟した「白色」凝塊及び新鮮な「赤色」凝塊の形成に関して観察する。
無痛死後6時間以内に粘膜下組織弁を採取後ex-vivo流動研究に付すか、または弁を3分の1に分ける。これらの切片の1つを亜鉛−ホルマリン液中で固定して光学顕微鏡検査を行ない、1つを万能固定液中に入れて電子顕微鏡検査を行ない、第3の切片を原子吸光法及びフォン・コッサ法によるカルシウム量の測定のために取りおく。
【0104】
<弁の流動特性の研究>
粘膜下組織弁の流動特性を移植前、移植期間中及び移植期間後に測定することとし、これらの研究をin vivo及びex-vivo検査の2つのグループに分けてもよい。
In vivo測定
超音波画像検査を覚醒時の実験動物において手術前に、その後は所定の間隔をおいて実施する。最終超音波検査と合わせて右心カテーテル術による血管造影と圧力研究と熱希釈心拍出量測定とを無痛死に先立って感覚喪失した実験動物において行なう。
Ex-vivo測定
Ex-vivo流動特性研究を新しく製作された粘膜組織弁と新しく外移植された粘膜組織弁とにおいてMP3パルス・デュプリケータ(ミズーリ州ガレナ市ダイナテック研究所)を用いて行なう。各弁に関して測定されるパラメータには、いくつかの流量における順流抵抗と有効開口面積と閉鎖容積と逆流量と総合品質係数とが含まれる。
初期試験により移植弁の動作特性の基準値と移植に最適な弁を選抜する方法とが得られる。追跡検査により、移植前の値との比較及び移植期間中のあらゆる臨床学的観察との相関のための結果が得られる。
【0105】
<外移植片の特徴付け>
<組織病理学的分析>
標準染色と免疫組織化学技術とを用いて、弁の外移植片を評価する。ヘマトキシリン−エオシン染色を用いて、粘膜下組織の改造と受容体組織への取込みとを評価する。カルシウム沈着を調べるためのフォン・コッサ染色を用いて弁の鉱質化を視覚評価し、三色染色(例えばワンギーソン染色)された切片を細胞充実性と微細構造と形態学的特徴とに関して吟味する。第VIII因子関連抗原染色(カリフォルニア州カーピンテリア市ダコ(Dako)社)を用いて、切片内における内皮細胞の存在を判断し、また別の抗体(10C2)を適用して粘膜下組織弁移植片の吸収過程を評価する。全ての免疫組識化学的手順に、Hsuらにより説明されたアビジン−ビオチン複合(ABC)法を使用する。(1981)
<化学的分析>
原子吸光分光光度法とフォン・コッサの組織学的方法とを用いて、粘膜下組織弁の鉱質化を数量化する。移植期間中に弁に沈着したカルシウムを各外移植片の3分の1内から測定する。この値は、原子吸光法により組織1ミリグラム毎のマイクログラム単位のカルシウム量で測定されるか、または組織学的分析対象の切片の半数量的な鉱質化得点に置き換えて判断され、これらのデータは、その他の組織弁に関する結果との比較に用いられる。
【0106】
<電子顕微鏡検査>
各外移植粘膜下組織弁の略3分の1を電子顕微鏡(EM)評価に付す。特に重要なものは、小葉組織内に見られる構造及び線維配向と、小葉上における内皮化の度合いとである。透過型EMを構造観察に使用し、走査型EMを表面観察に使用する。未移植の粘膜下組織弁の切片を弁の外移植片の改造された組織と比較研究する。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】図1は、層状の粘膜下組織が真空圧搾を受ける、粘膜下組織により巻かれたマンドレルの断面図である。
【図2】図2は、シート状粘膜下組織の2つの端部が重ね合わされて、重複角θにより定められる重複部分を有する管状粘膜下組織を形成するシート状粘膜下組織により巻かれたマンドレルの斜視図である。
【図3】図3は、管状粘膜下組織を形成する幅狭シート状粘膜下組織により螺旋状に巻かれたマンドレルの斜視図である。
【図4】図4a乃至4cは、管状粘膜下組織により形成される血管弁の一つの実施態様の断面図である。
【図5】図5a乃至5eは、管状粘膜下組織により形成される血管弁の一つの実施態様の斜視図である。
【図6a】図6aは、環状の基礎部と該基礎部から延在する3つのステント柱とを有するステントの図である。
【図6b】図6bは、1枚以上の幅狭シート状粘膜下組織により覆われる図6aのステントの図である。
【図7a】図7aは、三尖弁の形成に用いられる構成要素の図である。
【図7b】図7bは、組み立てられた構成体の図である。
【図8a】図8aは、三尖弁の形状を有する、熱処理された粘膜下組織により覆われたステントの図である。
【図8b】図8bは、最終的な三尖弁形組織移植片構成体の図である。
【図9】図9は、移植された自己及び処理粘膜下組織におけるカルシウム濃度を原子吸光法により測定した値と移植後の経過時間の長さとの関係を示す実験データのグラフである。
【図10】図10は、組織弁構成体の順方向及び逆方向の流量を測定する試験装置の断面図である。
【図11】図11a及び11bは、本発明に従って形成される組織弁構成体の断面図であって、図11aは、順方向の流れの存在下における弁作用を示す図であり、図11bは、逆方向の流れの存在下における弁作用を示す図である。
【図12】図12は、作成された三尖弁構成体の順方向の流れ抵抗と漏れとを測定する試験装置の断面図である。
【図13】図13は、流量と様々な組織弁構成体を横切る方向の圧力降下との関係を示す実験データのグラフである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
欠陥のある血管弁を置換するための二尖弁の形をとる組織移植片において、筋層及び少なくとも粘膜の管腔部分の双方から剥離されており、前記欠陥のある弁の直径に近似する直径(D)を有する連続管状体の形をとる一片の粘膜下組織を含み、
前記管状体は、第1及び第2の対向端部と三重壁の中間部分を有し、
前記管状体の前記端部のうちの少なくとも一つは一重壁である
組織移植片。
【請求項2】
前記三重壁の中間部分は、第1及び第2の対向端部と約1.5D乃至約3.5Dの長さ(L)を有する、請求項1記載の組織移植片。
【請求項3】
前記縫合部分の前記二重壁端部に近接する端部は、前記二重壁端部から少なくとも1/2Dの距離に配置され、LのSに対する比は約2.5乃至約3.5である、請求項2記載の組織移植片。
【請求項4】
前記三重壁部分の3つの壁は、互いに縫い合わされて、長さSを有する縫合部分が形成され、前記縫合部分の前記二重壁端部に近接する端部は、前記二重壁端部から少なくとも1/2Dの距離に配置され、LのSに対する比は約2.5乃至約3.5である請求項3記載の組織移植片。
【請求項5】
前記二重壁部分の2つの壁は、直径方向に対向する縦方向の縫い目を用いて互いに縫い合わされ、前記二重壁部分の、前記直径方向に対向する縫い目に近接するとともに該縫い目から延在する部分は、前記第1の端部が前記二重壁部分の上に戻される前に移植片構成体から切除される請求項1記載の移植片構成体。
【請求項1】
欠陥のある血管弁を置換するための二尖弁の形をとる組織移植片において、筋層及び少なくとも粘膜の管腔部分の双方から剥離されており、前記欠陥のある弁の直径に近似する直径(D)を有する連続管状体の形をとる一片の粘膜下組織を含み、
前記管状体は、第1及び第2の対向端部と三重壁の中間部分を有し、
前記管状体の前記端部のうちの少なくとも一つは一重壁である
組織移植片。
【請求項2】
前記三重壁の中間部分は、第1及び第2の対向端部と約1.5D乃至約3.5Dの長さ(L)を有する、請求項1記載の組織移植片。
【請求項3】
前記縫合部分の前記二重壁端部に近接する端部は、前記二重壁端部から少なくとも1/2Dの距離に配置され、LのSに対する比は約2.5乃至約3.5である、請求項2記載の組織移植片。
【請求項4】
前記三重壁部分の3つの壁は、互いに縫い合わされて、長さSを有する縫合部分が形成され、前記縫合部分の前記二重壁端部に近接する端部は、前記二重壁端部から少なくとも1/2Dの距離に配置され、LのSに対する比は約2.5乃至約3.5である請求項3記載の組織移植片。
【請求項5】
前記二重壁部分の2つの壁は、直径方向に対向する縦方向の縫い目を用いて互いに縫い合わされ、前記二重壁部分の、前記直径方向に対向する縫い目に近接するとともに該縫い目から延在する部分は、前記第1の端部が前記二重壁部分の上に戻される前に移植片構成体から切除される請求項1記載の移植片構成体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6a】
【図6b】
【図7a】
【図7b】
【図8a】
【図8b】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6a】
【図6b】
【図7a】
【図7b】
【図8a】
【図8b】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2008−119486(P2008−119486A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−327974(P2007−327974)
【出願日】平成19年12月19日(2007.12.19)
【分割の表示】特願平10−526950の分割
【原出願日】平成9年12月10日(1997.12.10)
【出願人】(598063203)パーデュー・リサーチ・ファウンデーション (59)
【氏名又は名称原語表記】PURDUE RESEARCH FOUNDATION
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年12月19日(2007.12.19)
【分割の表示】特願平10−526950の分割
【原出願日】平成9年12月10日(1997.12.10)
【出願人】(598063203)パーデュー・リサーチ・ファウンデーション (59)
【氏名又は名称原語表記】PURDUE RESEARCH FOUNDATION
【Fターム(参考)】
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