説明

人工血管

【課題】体内から液を導出する、又は体内に液を導入するための針を人工血管のアクセスポートに刺す際に加わる力により人工血管が変形しないようにする。
【解決手段】人工血管10は、血管の一部となる幹部12と、幹部から分岐した枝部14,16を有する。枝部14,16には、体内から液を導出する、または体内へ液を導入する針を刺すアクセスポート20が配置されている。幹部12の、枝部14,16が分岐する位置およびその隣接部分に、幹部の血管壁と一体となった管状の補強部材30が配置される。穿刺時の横方向からの力を補強部材30が受けることにより、幹部12の変形が抑制される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工血管、特にその構造に関する。
【背景技術】
【0002】
血液透析、アフェレシス療法などの、患者の血液を体外に一旦取り出し再度体内に戻す血液体外循環療法においては、血管に対し高頻度で針を刺す必要が生じる。血管に対し高頻度で穿刺を行うと、血管瘤が形成されたり、狭窄が生じたりする場合がある。血管への穿刺回数を低減することができる体内留置形の装置を用いたブラッドアクセス(血管到達法)が提案されている。下記特許文献1には、血管とカニューレでつながれた血液室がダイアフラムを備え、このダイアフラムに針を刺し、この針を介して、血管への血液等の導入、血管からの血液の導出等を行うブラッドアクセスが開示されている。繰り返し穿刺されるのはダイアフラムであるので、血管の損傷が軽減される。
【0003】
また、下記特許文献2には、人工血管が、その形状を維持するためのステントを有する例が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表平9−510885号公報
【特許文献2】特開2005−58434号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
体内に留置された人工血管に横方向からの力がかかると、人工血管が変形し、血流が阻害される場合がある。上記特許文献2に開示されたステントは、血管内治療を前提としており、伸縮自在なものである。つまり、体内に設置するときには縮めた状態となっており、設置されると拡がり、この状態を維持するものである。このようなステントは、血管に対し外部からの力、特に横方向からの力が作用した場合については全く考慮されていない。
【0006】
本発明は、横方向からの力に抗することができる人工血管を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る人工血管は、血管壁と一体になった筒状の補強部材を有し、補強部材は横方向からの力が加えられたときに当該人工血管が閉塞することを防止する剛性を有する。
【0008】
さらに、人工血管は、血管の一部となる幹部と、幹部から分岐した枝部を有するものとできる。枝部には、体内から液を導出する、または体内へ液を導入する針を刺すアクセスポートが配置されている。幹部の、枝部が分岐する位置およびその隣接部分に、幹部の血管壁と一体となった管状の補強部材が配置される。補強部材は横方向からの力が加えられたとき当該人工血管が閉塞することを防止する。
【0009】
補強部材が配置された部分の血管壁は、内側壁と外側壁の2層を有するようにでき、これらの内側壁と外側壁の間に補強部材が挟まれ、補強部材は外部に露出していないようにすることができる。
【0010】
補強部材は、その管壁が網目状であるものとすることができる。また、補強部材は、枝部が分岐する位置に開口を有し、この開口位置で幹部と枝部とが接続されていることとすることができる。更に、開口位置で幹部と枝部とが縫合により接続されていてもよいし、開口を規定する環状部分には周方向に沿って複数の縫合孔が配列され、これらの縫合孔に縫合糸を通して幹部と枝部とが縫合されることとしてもよい。
【発明の効果】
【0011】
人工血管に対し横方向から加わる力を補強部材が受け、人工血管の閉塞が防止される。また、アクセスポートが配置される枝部を有する人工血管においては、アクセスポートに穿刺する際に幹部に加わる横方向からの力を、補強部材で受けることができ、人工血管の幹部の閉塞が防止される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】アクセスポートを有する人工血管の一例を示す斜視図である。
【図2】補強部材の詳細形状を示す図である。
【図3】人工血管の分岐部分の断面図である。
【図4】人工血管の分岐部分の断面図である。
【図5】人工血管に針を刺す様子を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を、図面に従って説明する。図1は、アクセスポートを有する人工血管10の一例を示す斜視図である。この人工血管10は、血液透析、アフェレシス療法等の、血液を体外に導出し、所定の処理を行った後、再び体内に導入する血液体外循環治療で使用される。人工血管10は、両端がそれぞれ血管、特に静脈に接続され、この静脈を橋渡しする幹部12と、幹部12から分岐した枝部14,16,18を含む。二つの枝部14,16は、体外に血液を導出するため、および体内に血液等の液を導入するための、体外血液回路との接続点となり、もう一つの枝部18は、動脈に接続されるシャントとなる。前者の二つの枝部14,16をアクセス用枝部14,16、後者の枝部18をシャント用枝部18と記す。幹部12およびシャント用枝部18は体内に留置され、アクセス用枝部14,16の一部が体外に露出している。人工血管10は、ePTFE(延伸加工ポリ四フッ化エチレン)、PTFE(ポリ四フッ化エチレン)等の従来の人工血管用素材で形成することができる。
【0014】
また、幹部12の両端から20mm程度はSHAp(焼成ハイドロキシアパタイト高分散性ナノ粒子)を複合化(コーティング)することで生体血管と人工血管の接合面を滑らかにすることが可能となり、開存率を向上させると同時に初期吻合部の漏血を防ぐことができる。
【0015】
アクセス用枝部14,16内には、アクセスポート20が配置される。アクセスポート20は、全体として中実の柱状、好適には円柱状であり、枝部14,16の長さと等しい長さを有し、枝部14,16の内部を満たしている。つまり、アクセスポート20により枝部14,16は栓をされた状態となっている。アクセスポート20は、柱状の軸線に沿って延びる中心部22と、中心部の周囲を囲む管形状の周辺部24を有する。図1において、中心部22と周辺部24を別個に示す。中心部22は、周辺部24の管形状の内部にぴったりと嵌り、これによりアクセスポート20全体として中実の柱形状となっている。管形状の周辺部24の管内壁は、先、つまり幹部12に向かう方向に先細のテーパ形状とすることができる。これに合わせ、中心部22も先細のテーパ形状とされる。
【0016】
前述のテーパ角度は、走行血管とポートを引き出す位置により大きく左右されるものである。このため、テーパ角度は前述の範囲に限定されるものではなく、人工血管の吻合位置と表皮までの距離に基づいて適宜設計変更される。
【0017】
アクセスポート20の材質は、弾性を有する樹脂材料、例えば高圧縮シリコーンとすることができ、中心部22は、針を刺すことができる程度の硬さであり、周辺部は、中心部22に比して硬度が高いシリコーンが用いられる。なお、これらのシリコーンの硬度は、約10〜80度程度であるが、この範囲に限定されるものではない。
【0018】
周辺部24の幹部側の外周面には、環状の溝26が複数形成され、これにより外周面は軸線方向において凹凸形状を有する凹凸部28が形成されている。この凹凸部28により、アクセス用枝部14,16の表面にも凹凸が現れ、これが生体との適合を良好なものとする。
【0019】
幹部12の、枝部14,16が分岐する位置およびその隣接部分には、幹部12の管形状を維持するための補強部材30が内蔵されている。補強部材30は、この部分で2層に形成された人工血管壁の間に挟まれており、人工血管壁の外部には露出されない。このため、補強部材30が直接血液に触れることがないので狭窄リスクはない。図1においては、補強部材30が独立して示されており、また図2においては、拡大して示されている。補強部材30は、概略筒形状であり、網目状の構造を有する。網目は、図示するように菱形を組み合わせた形状である。網目構造とすることで、網目の凹凸が人工血管壁を構成する樹脂材料と噛み合い、これらの適合が良好なものとなる。長さ方向のほぼ中央の側面には、枝部14,16に対応する開口32が設けられている。補強部材30の材質は、ステンレス鋼、ナイチノール(ニッケル・チタン合金)等の金属を用いることができる。
【0020】
図3は、人工血管10の幹部12と枝部14,16が分岐する位置およびこの位置に隣接する部分の断面を示す図である。この分岐位置と隣接する部分を以降分岐部分と記す。前述のように、分岐部分において幹部12は2層の人工血管壁にて構成される。内側の血管壁を内側壁34、外側の血管壁を外側壁36と記す。これらの内側壁34と外側壁36間に前述の補強部材30が挟まれている。外側壁36は、幹部12の軸線方向において、補強部材30よりやや長く、両端で内側壁34と全周において密着し、この結果、補強部材30は露出していない。また、補強部材30の開口32の縁において、内側壁34は補強部材の外側面に巻き込まれ、逆に外側壁36は補強部材の内側面に巻き込まれて、この部分においても補強部材30は露出されない。つまり、補強部材は、内側壁34と外側壁36に完全に覆われている。枝部14,16の血管壁38は、アクセスポート20の外周に形成された凹凸部28の凹凸が反映されて、その外側表面に凹凸が形成されている。
【0021】
この血管壁38の表面積の増加により、細胞との結着面積が広がって生体適合性が良好なものとなり、さらに、枝部14,16の長手方向の応力がかかったときに組織とデバイスが剥離するリスクが低減されて、接合部への負荷も軽減される。
【0022】
また、図3には、アクセスポート20の断面も示されている。図示されるように、中心部22は、先細のテーパ形状を有し、周辺部24は、その内壁が先細のテーパ形状となっている。図3に示すように、アクセス用枝部14,16は、幹部12に対して角度θで斜めに配置されており、この斜めの配置に対応して、アクセスポート20の先端部は幹部12の内壁面と面一となるようにアクセスポート20の軸線に対して斜めに形成されている。内壁面と面一とし、段差が作られないようにしている。なお、前述の斜め配置の角度θは、40〜60度前後が理想的な角度であるが、走行血管とポートを引き出す位置により大きく左右されるものである。このため、斜めの配置の角度θは、前述の数値範囲に限定されるものではなく、人工血管の吻合位置と表皮までの距離に基づいて適宜設計変更される。
【0023】
補強部材30の開口32を規定する環形状の環部分40には、縫合孔42が周方向に配列されている。この縫合孔42に縫合糸44を通し、幹部12の血管壁である内側壁34、外側壁36と、枝部の血管壁38とが縫合される。枝部の血管壁38は、幹部の血管壁の内側に縫合されている。前述のように、内側壁34は外側面に、外側壁36は内側面に巻き込まれているので、それぞれ環部分40の外と内とで縫合される。図4は、枝部の血管壁38が幹部の血管壁の外側に縫合されている例を示す。
【0024】
図5に示すように、針は、図5の実線26に示すように上方から左下方向に向けて、つまり、枝部14,16の軸線25に沿って枝部14,16から幹部12に向って刺し込まれる。中心部22は針が刺せる程度の硬さである。図5の破線28で示すように針が、軸線25に対し斜めに刺し込まれると、針の先端は周辺部24に当たる。周辺部24は、硬いので、針がそれ以上刺し込まれないか、または、術者が抵抗を感じて針の挿入を中止する。また、図5の一点鎖線27に示すように、周辺部24の内壁面に対し浅い角度で針が刺し込まれた場合には、針の先端は周辺部24の内壁面に当たった後、周辺部24の内壁面に沿って幹部12に向って進み、最終的な針先端の位置が大きくずれることがない。特に、周辺部24の内壁面が先細のテーパ形状であることにより、針を刺す端(体外側の端)において針を刺せる領域の面積が広くなり、一方で血管側に針が突出する領域を狭く限定することができる。
【0025】
また、針の穿刺時には、枝部14,16を奥へと押す力が加わり、この力が分岐部分において幹部12の管形状を横方向からつぶすように作用する。しかし、この人工血管10においては、分岐部分は補強部材30により補強されているので、横方向からの力を補強部材30が受けて、幹部12が変形して閉塞することが防止される。つまり、補強部材30は、横方向からの力を受けたとき、幹部12が閉塞しない程度の剛性を有している。なお、補強部材30は、横方向から作用する力の想定値に応じて、その材質・厚さ・網目構造の開口率等が適宜変更される。針がアクセスポート20より抜かれると、中心部22の弾性により、針により開けられた孔が閉じ、封止された状態に戻る。
【0026】
また、枝部14,16の周囲に、SHAp(焼成ハイドロキシアパタイト高分散性ナノ粒子)などの生体親和性のある材料でフロック加工したカフを配置することもできる。このカフと皮下の線維芽細胞とが強固に組織接着されることにより、枝部と皮膚の境界における感染リスクが低減される。
【0027】
アクセスポート20は、軟らかい中心部と硬い周辺部の2層構造に限らず、中心から外に向けて多段階で、または連続的に増加するようにしてもよい。
【0028】
上述の人工血管10は、血液を体外に一旦導出し、所定の処理後に体内に戻す療法に対応したものである。血管内に薬液を注入する場合には、アクセスポートを一つとすることで対応できる。すなわち、図1の枝部14を含む左半分を用いる薬液注入用のアクセスポートを有する人工血管となる。また、枝部を持たない単純な管の人工血管についても、筒状の補強部材を配置することで、横方向の力がかかりやすい腕部や脚部に適用した場合にも、血管の変形を抑制できる。
【0029】
本実施形態において、幹部12と枝部14,16とが縫合により接続される場合を例に説明したが、これに限るものではなく、例えば幹部と枝部を接着により接続してもよい。また、補強部材が配置される部分の血管壁を2層構造にする場合を例に説明したが、これに限るものではなく、人工血管全体を2層構造にしてもよい。
【0030】
さらに、本実施形態において、アクセスポートの外周面の一部分に凹凸部28を形成する場合を例に説明したが、これに限るものではなく、より広範囲に凹凸部28を形成しても良く、例えば、外周面全体に形成しても良い。
【0031】
また、本実施形態において、アクセスポート20を略円筒状にする場合を例に説明したが、これに限るものではなく、体表部に向かって外径が大きくなる形状にして、より容易にアクセスできるようにしても良い。
【符号の説明】
【0032】
10 人工血管、12 幹部、14,16 アクセス用枝部、18 シャント用枝部、20 アクセスポート、22 中心部、24 周辺部、30 補強部材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
人工血管であって、少なくとも一部に血管壁と一体になった筒状の補強部材を有し、補強部材は横方向からの力が加えられたときに当該人工血管が閉塞することを防止する剛性を有することを特徴とする人工血管。
【請求項2】
請求項1に記載の人工血管であって、
血管の一部となる幹部と、
体内から液を導出する、または体内へ液を導入する針を刺すアクセスポートが配置される、前記幹部から分岐した枝部と、
を有し、
前記補強部材は、前記幹部の、前記枝部が分岐する位置およびその隣接部分に配置されていることを特徴とする人工血管。
【請求項3】
請求項1または2に記載の人工血管であって、補強部材が配置された部分の血管壁は、内側壁と外側壁の2層を有し、これらの内側壁と外側壁の間に補強部材が挟まれ、補強部材は外部に露出していないことを特徴する人工血管。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の人工血管であって、補強部材は、その筒壁が網目状であることを特徴する人工血管。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の人工血管であって、前記補強部材は、前記枝部が分岐する位置に開口を有し、この開口位置で前記幹部と前記枝部とが接続されていることを特徴する人工血管。
【請求項6】
請求項5に記載の人工血管であって、前記開口位置で前記幹部と前記枝部とが縫合により接続されていることを特徴する人工血管。
【請求項7】
請求項5または請求項6に記載の人工血管であって、前記開口を規定する環状部分には周方向に沿って複数の縫合孔が配列され、これらの縫合孔に縫合糸を通して前記幹部と前記枝部とが縫合されることを特徴する人工血管。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−30047(P2012−30047A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−118952(P2011−118952)
【出願日】平成23年5月27日(2011.5.27)
【出願人】(000226242)日機装株式会社 (383)
【Fターム(参考)】