説明

人工透析用具

【課題】 患者負担が少なく副作用も少ない人工透析を可能ならしめる人工透析用具を提供する。
【解決手段】透析膜で形成される袋体であって、少なくとも一部が体内に留置される人工透析用具である。前記袋体の内部に透析液が収容されるものであっても、前記袋体の内部に吸着材が収容されるものであっても、そして前記袋体の内部に酵素が収容されるものであってもよい。前記袋体の内部と外部とを連通させるポートを備えるものであってもよく、前記透析膜がエチレン−ビニルアルコール共重合体によって形成されるものであってもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工透析用具に関し、より詳細には、患者負担が少なく副作用も少ない人工透析を可能ならしめる人工透析用具に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、我が国の慢性透析患者数は約27.5万人(2007年)であり、増加の一途にある。既存の治療法としては、体外循環型の透析装置を用いた人工透析が挙げられるが、頻繁な通院と長い透析時間が必要で、患者の負担は大きい。
これを改善すべく一部で腹膜透析法が実施されているが(例えば、特許文献1等)、社会復帰を希望する患者や小児にとって有効な技術ではあるものの、低透析効率や長期実施時の腹膜硬化症や腹膜線維症等の合併症のため腹膜機能が低下することが知られている。これらの合併症のため、腹膜透析療法を実施できる期間は約8年までとされており、腹膜透析を利用している患者は約9千人(2007年)に留まっている。
【0003】
一方、コンパニオンアニマルであるイヌ、ネコ等の哺乳動物においても、寿命が延びるにつれて腎炎や腎不全などの腎臓病の罹患率は増加しており、イヌが罹患する病気の3位(9%)、ネコが罹患する病気の2位(25%)にも上っている。これらイヌ、ネコの腎臓病に対する治療法としては、人の治療と同様に体外循環型装置を用いる人工透析や腹膜透析法があるものの、効率が悪い上、人の治療以上に施術に負担や困難を伴うため良い治療法が無いのが現状であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−290341号公報(例えば、要約、発明の詳細な説明中の段落番号0001〜0003、第3図等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明では、患者負担が少なく副作用も少ない人工透析を可能ならしめる人工透析用具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記課題に鑑み鋭意検討した結果、透析膜で形成した袋体の内部に、透析に有効な成分(例えば、透析液、吸着剤、酵素等)を収容し、該成分を収容した袋体を体内に留置することで、効率良く、患者の負担も少なく、副作用も少ない人工透析(腎臓病の治療)が可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明の人工透析用具(以下、「本用具」という。)は、透析膜で形成される袋体であって、少なくとも一部が体内に留置される人工透析用具である。
本用具は、前記袋体の内部に透析液が収容されるものであってもよい。
また、本用具は、前記袋体の内部に吸着材が収容されるものであってもよい。
そして、本用具は、前記袋体の内部に酵素が収容されるものであってもよい。
【0008】
本用具は、前記袋体の内部と外部とを連通させるポートを備えるものであってもよい。
そして、本用具は、前記透析膜がエチレン−ビニルアルコール共重合体によって形成されるものであってもよい。
【0009】
本発明は、本用具を用いたヒト以外の哺乳動物の人工透析方法(以下、「本方法」という。)も提供する。即ち、本方法は、本用具の少なくとも一部をヒト以外の哺乳動物の体内に留置することを含む、ヒト以外の哺乳動物の人工透析方法である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例1に係る人工透析用具(本用具)の製造方法を示す概略図である。
【図2】実施例2に係る人工透析用具(本用具)の製造方法を示す概略図である。
【図3】実施例3に係る人工透析用具(本用具)の製造方法を示す概略図である。
【図4】実施例7における袋体内及び袋体外のクレアチニン濃度の経時的変化を示すグラフである。
【図5】実施例8における袋体内及び袋体外のクレアチニン濃度の経時的変化を示すグラフである。
【図6】実施例8における袋体内及び袋体外の総蛋白量の経時的変化を示すグラフである。
【図7】実施例9における袋体内及び袋体外のクレアチニン濃度の経時的変化を示すグラフである。
【図8】実施例9における袋体内及び袋体外の総蛋白量の経時的変化を示すグラフである。
【図9】実施例10における袋体の重量の経時的変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を説明する。しかしながら、これらによって本発明は何ら制限されるものではない。
【0012】
本用具の袋体は、透析膜(半透膜)で形成されているので、透析に有効な成分(例えば、透析液、吸着剤、酵素等)を該袋体の内部に収容し、該成分を内部に収容した該袋体を哺乳動物の体内に留置することで、該袋体の内部(透析に有効な成分が存在する)と外部(哺乳動物の体内に存する体液)との間で該透析膜を介して物質移動(透析)が生じ、それによって哺乳動物の体内にて人工透析を行うことができる。即ち、該袋体の内部に存する該成分を透析膜は該袋体の外部に漏出させることなく、該袋体の透析膜の外面に面する尿成分(該袋体が留置された哺乳動物の体内に存する。)を透析膜は該袋体の内部に吸収する。
このため本用具によれば、体外循環型人工透析に伴う患者負担を顕著に低減でき、QOLを大きく改善することができる。さらに、腹膜透析の欠点である透析効率及び副作用(例えば、腹膜硬化症や腹膜線維症等の合併症の発生)も解決することが可能になる。加えて、イヌ、ネコ等の腎臓病の哺乳動物においても、飼い主や罹患動物への負担が少ない効果的な治療法を提供することができる。
【0013】
本用具の袋体を形成する透析膜(半透膜)は、透析膜としての性能と生体内での安全性及び安定性が確保できるものであればよく、透析膜の材質も何ら限定されるものではないが、例えば、セルロースアセテート、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、混合セルロースエステル及び再生セルロース等のセルロース系材料、ポリエチレン等のポリオレフィン、ポリスルホン、ポリアミド、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリロニトリル、エチレン−ビニルアルコール共重合体等を例示的に挙げることができる。
なお、本用具の袋体は、透析性能と生体内での安全性及び安定性が確保できれば、全てが透析膜によって形成される必要は必ずしもなく、該袋体の一部のみが透析膜によって形成されるものでもよい。
【0014】
本用具の袋体を形成する透析膜の材質は、上記例示の中でも生体適合性と安全性に優れることからエチレン−ビニルアルコール共重合体を用いるようにしてもよい。
そして、透析膜の材質としてエチレン−ビニルアルコール共重合体を用いる場合、エチレン−ビニルアルコール共重合体のエチレン単位の含有率があまり少ないと親水性又は水溶性が高くなりすぎるため透析膜の構造形成及び成形が困難となり、逆に、エチレン−ビニルアルコール共重合体のエチレン単位の含有率があまり多いと疎水性が高くなりすぎるため蛋白質などが吸着し易くなり透析膜の性能を維持し難くなるため、これらを両立する範囲とされてもよく、エチレン−ビニルアルコール共重合体のエチレン単位の含有率としては、通常、重合体の全構成単位に基づいて20〜80モル%が好ましく、25〜60モル%がより好ましい。
【0015】
本用具の袋体を形成する透析膜の材質には、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール等の親水性を付与する添加剤が添加されても良い。
【0016】
本用具の袋体を形成する透析膜の性能、即ち孔径は、通常の人工透析に使用される大きさであれば使用でき、何ら限定されるものではないが、例えば孔径1nm〜20nm、より好ましくは2.5nm〜15nmの範囲内としてもよい。
【0017】
本用具の袋体を形成する透析膜の膜厚は、透析性能と生体内での安全性及び安定性が確保できる範囲であれば特に限定されないが、薄いと透析性能は向上するが安全性等が低下し、厚いと安全性等は向上するが透析性能が低下するので、これらを両立する範囲とされることが好ましく、例えば5μm〜500μm、より好ましくは10μm〜200μmの範囲である。
【0018】
本用具の袋体の形状としては、生体内で形状が維持でき、また内部に十分な量の透析液等を注入することができる形状であれば使用可能である。例えば、透析膜でできたシート状材料をヒートシールにより融着させることによる多角形もしくは円形等の袋形状、又は、溶融成形や吐出成形等によるシームレスの袋形状等が挙げられる。また、袋体の形状を維持するために、安全で生体適合性のあるチタンやステンレス等の金属やナイロンやポリエチレンなどの樹脂材料で形成したメッシュ、不織布、スポンジ又は骨組み等を袋体の内側に挿入したり、又はこれらのメッシュ、不織布、スポンジ又は骨組み等によって袋体の外側を覆うことも可能である。
【0019】
本用具の袋体の内容量としては、あまり小さいと十分な透析性能が確保できず、逆に、あまり大きいと本用具を体内に留置する動物への影響が大きいので、これらを両立する範囲とされてもよい。その袋体の内容量の好ましい範囲は哺乳動物の大きさや種類そして腎障害の程度等にも依存するが、例えば、哺乳動物の体重当たり0.1ml/kg〜100ml/kg、より好ましくは、1ml/kg〜10ml/kgの範囲としてもよい。
【0020】
本用具の袋体の内部に収容される透析に有効な成分としては、疾患の状態や種類等に応じて様々なものが考えられるが、例えば、透析液、吸着剤及び酵素等を例示することができる。なお、これらは1種類のみであっても、また2種類以上のものを組み合わせて用いることもできる。
【0021】
透析液としては、通常の体外循環型の人工透析、腹膜透析に使用する透析液そして生理食塩水などが使用可能である。透析液の袋体への収容量は、袋体の内容積にも依存するが、あまり少ないと十分な透析性能が確保できず、逆に、あまり多いと本用具を体内に留置する動物への影響が大きいので、これらを両立する範囲とされてもよい。その透析液の袋体への収容量の好ましい範囲は哺乳動物の大きさや種類そして腎障害の程度等にも依存するが、例えば、哺乳動物の体重当たり0.1〜100ml/kg、より好ましくは、1〜10ml/kgの範囲としてもよい。
【0022】
吸着剤としては、活性炭、イオン交換樹脂、吸水性樹脂、又は粉体状や分子ふるい状のゼオライトなどが挙げられる。吸着剤の袋体への収容量は、あまり少ないと十分な透析性能が確保できず、逆に、あまり多いと本用具を体内に留置する動物への影響が大きいので、これらを両立する範囲とされてもよい。吸着剤の袋体への収容量の好ましい範囲は、哺乳動物の大きさや種類、腎障害の程度、吸着剤の種類や能力等にも依存するが、通常、例えば、袋体の内容積当たり0.001g/ml〜1.5g/ml、より好ましくは0.01g/ml〜1g/mlの範囲とされてもよい。
【0023】
酵素としては、ウレアーゼ、クレアチナーゼなどが使用できる。酵素の使用量は、あまり少ないと十分な透析性能が確保できず、逆に、あまり多いと本用具を体内に留置する動物への影響が大きいので、これらを両立する範囲とされてもよい。酵素の袋体への収容量の好ましい範囲は、哺乳動物の大きさや種類、腎障害の程度、酵素の種類や能力等にも依存するが、袋体内に入り効率的に尿素やクレアチニンなどを分解できる量であれば使用でき、通常、例えば、袋体の内容積当たり0.00001g/ml〜1g/ml、より好ましくは0.0001g/ml〜0.5g/mlの範囲内の重量とされてもよい。
【0024】
本用具は、上述のように透析に有効な成分を袋体の内部に収容し、哺乳動物の体内に留置することによって使用されるが、体内に留置される前に本用具は、通常、予め滅菌して使用される。滅菌方法としては、特に限定されないが、例えば、ガンマ線滅菌、エチレンオキシドガス滅菌などを例示することができる。
【0025】
本用具は、本用具の前記袋体の内部と外部とを連通させるポートを備えるものであってもよい。
袋体の内部と外部とを連通させる必要があるときに連通を許容し、袋体の内部と外部との連通が不要であるときには連通を禁止するポートを本用具が備えることで、透析に有効な成分をポートを介して袋体の内部に注入等したり、逆に、既に袋体の内部で使用され交換すべき物(新しいものと交換すべき時期が到来した物)をポートを介して外部に抜き出すこともできる。
ポートは、本用具の袋体の少なくとも一部が留置された体内に存在するようにしても、また体外に存在するようにしてもよい。ポートを体内に留置する場合は、外部からの透析液などの交換の容易さのために、皮下に留置するのが好ましい。
また、ポートは、袋体に直接接続することも可能であるが、チューブ材料を用いてポートと袋体とを接続することにより、袋体の留置部位から離れた位置にポートを配設することが可能となるためポート設置位置の自由度が高まり好ましい。
そして、前述のように、ポートは連通を許容及び禁止することができる必要があり、例えば、開閉自在な蓋やバルブ等によって構成することもできるが、開閉を容易かつ確実に行うことができること等からは、注射針による穿刺により該注射針の内部流路が連通を形成し(連通許容)、該注射針を抜き取ることで連通が断たれる(連通禁止)ように構成されたゴム製の隔壁によってポートを形成するようにしてもよい。かかるゴム製隔壁のポートとしては、注射器などを用いて複数回の注入に耐えられるものが既に知られている。
【0026】
本用具は、体内に移植し留置して使用されるが、袋体の移植部位としては、腹腔内や皮下等を例示できる。
本用具の体内への移植は、移植部位によっても異なるが、通常の移植手技に従って実施することができる。例えば、正中切開により皮膚及び腹膜を切開し、腹膜の内壁に沿う位置に本用具の袋体を挿入する。必要に応じ、本用具の袋体の周辺部などと腹膜を糸を用いて数か所縫合して固定する。ポートを有し体内にポートを留置する場合は、ポートを腹膜と皮膚の間に出し、腹膜を縫合して閉じる。最後に、ポートを皮下に残し、皮膚を縫合して閉じることにより移植ができる。同様の手技で、本用具の袋体を皮下に移植することも可能であるし、ポートを体外に出して皮膚を縫合することも可能である。
【0027】
本用具がポートを有する場合、透析に有効な成分(例えば、透析液、吸着剤、酵素等)の交換をポートを通じて実施することができる。例えば、針付きの注射器を体外からポート(ゴム製隔壁のポート)に刺して、本用具の袋体内部の使用済み該成分(例えば、透析液、吸着剤、酵素等)を吸い出し、新たな該成分(例えば、透析液、吸着剤、酵素等)を注射器にて注入することにより実施できる。このような該成分(例えば、透析液、吸着剤、酵素等)の交換時期は、哺乳動物の種類や大きさ、腎臓病の症状、移植部位によっても異なるが、例えば0.5〜10日に1回、より好ましくは1日〜7日に1回としてもよい。
【実施例】
【0028】
以下、実施例によって、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はその趣旨と適用範囲を逸脱しない限りこれらに限定されるものではない。
【0029】
(実施例1)
図1は、実施例1に係る本発明の人工透析用具(本用具)11の製造方法を示す概略図である。図1を参照して、本用具11の製造方法について説明する。
まず、エチレン−ビニルアルコール共重合体(エチレン単位の含有率32モル%)をジメチルスルホキシドに溶解して15%の溶液を調製した。この溶液を40℃に保温し、キャストにより製膜後、40℃に保った水中にあけることにより透析膜を作製した。
そして、図1に示すように、1×2cmの透析膜13a、13bを2枚重ねて、四辺を融着して袋体13を作製した。一方、シリコン栓の着いたポート15を一端に取り付けた塩化ビニル製チューブ(外径3mm、長さ2.5cm)17を用意した。その後、得られた袋体13の一辺にパンチ孔を開け、シリコン栓の着いたポート15に接続されたチューブ17の他端をパンチ孔に挿入し、エポキシ系接着剤にて接続し、本用具11を製造した。なお、ポート15が有するシリコン栓は、注射針による穿刺により該注射針の内部流路が連通を形成し(連通許容)、該注射針を抜き取ることで連通が断たれる(連通禁止)ように構成されたゴム製の隔壁であり、注射器を用いて複数回の注入に耐えられるようになっている。
【0030】
(実施例2)
図2は、実施例2に係る本発明の人工透析用具(本用具)21の製造方法を示す概略図である。図2を参照して、本用具21の製造方法について説明する。
実施例1と同様に作製した1.5×2cmの透析膜13a、13bを2枚用意し、間に1×1.5cmのポリエステル製メッシュ(305メッシュ)24を2枚挟み込み(図2中では2枚が重なった状態)、四辺を融着して袋体23を作製した。一方、実施例1と同様、シリコン栓の着いたポート15を一端に取り付けた塩化ビニル製チューブ(外径3mm、長さ2.5cm)17を用意した。得られた袋体23の一辺にパンチ孔を開け、シリコン栓の着いたポート15に接続されたチューブ17の他端をパンチ孔に挿入し、エポキシ系接着剤にて接続し、本用具21を製造した。
【0031】
(実施例3)
図3は、実施例3に係る本発明の人工透析用具(本用具)31の製造方法を示す概略図である。図3を参照して、本用具31の製造方法について説明する。
エチレン−ビニルアルコール共重合体(エチレン単位の含有率47モル%)を用い、実施例1と同様に作製した1.5×2cmの透析膜33a、33bを2枚用意し、間に1×1.5×0.3cmのメラミン樹脂製スポンジ34を挟み込み、四辺を融着して袋体33を作製した。一方、実施例1及び2と同様、シリコン栓の着いたポート15を一端に取り付けた塩化ビニル製チューブ(外径3mm、長さ2.5cm)17を用意した。得られた袋体33の一辺にパンチ孔を開け、シリコン栓の着いたポート15に接続されたチューブ17の他端をパンチ孔に挿入し、エポキシ系接着剤にて接続し、本用具31を製造した。
なお、実施例1〜3のいずれの透析膜(13a、13b、33a、33b)の孔径も約5nm程度であり、膜厚は約100μm程度であった。
【0032】
(実施例4)
ジエチルエーテルを用いた麻酔下、14週齢のウィスターラットの腹部を正中切開した。予めエチレンオキシドガスを用いて滅菌した実施例1で作製した袋体13に、ポート15を介し注射器を用いて生理食塩水0.6mlを注入し、腹腔内に挿入した。チューブ17及びポート15部分を腹腔の外に出し、袋体13部分のみを腹腔内に残して腹膜を縫合して閉じた。次にチューブ17及びポート15部分を皮下に留置し、皮膚を縫合して閉じた。6日後及び11日後に、体外からポート15を介し注射器を用いて袋体13の内液を採取し、新たな透析液(生理食塩水0.6ml)を注入した。採取した内液の分析を行ったところ、6日後では、内液中の尿素窒素濃度は16.8mg/dl(ウレアーゼ・インドフェノール法使用。血清中の尿素窒素濃度;17.7mg/dl)、クレアチニン濃度は0.8mg/dl(Jaffe法使用。血清中のクレアチニン濃度;0.7mg/dl)であり、11日後(生理食塩水再注入5日後)では、内液中の尿素窒素濃度は18.4mg/dl(ウレアーゼ・インドフェノール法使用。血清中の尿素窒素濃度;17.7mg/dl)、クレアチニン濃度は0.63mg/dl(Jaffe法使用。血清中のクレアチニン濃度;0.7mg/dl)であり、人工透析に十分な性能であった。
【0033】
(実施例5)
ジエチルエーテルを用いた麻酔下、8週齢のウィスターラットの側腹部を切開した。予めエチレンオキシドガスを用いて滅菌した実施例2で作製した袋体23に、ポート15を介し注射器を用いて生理食塩水0.6mlを注入し、腹腔内に挿入した。チューブ17及びポート15部分を腹腔の外に出し、袋体23部分のみを腹腔内に残して腹膜を縫合して閉じた。次にチューブ17及びポート15部分を皮下に留置し、皮膚を縫合して閉じた。5日後に、体外からポート15を介し注射器を用いて袋体23の内液を採取し、新たな透析液(生理食塩水0.6ml)を注入した。採取した内液の分析を行ったところ、内液中の尿素窒素濃度は17mg/dl(ウレアーゼ・インドフェノール法使用。血清中の尿素窒素濃度;17.7mg/dl)であり、クレアチニン濃度は0.027mg/dl(Jaffe法使用。血清中のクレアチニン濃度;0.028mg/dl)であり、人工透析に十分な性能であった。
【0034】
(実施例6)
ジエチルエーテルを用いた麻酔下、8週齢のウィスターラットの側腹部を切開した。予めエチレンオキシドガスを用いて滅菌した実施例2で作製した袋体23に、ポート15を介し注射器を用いて透析液(腹膜透析液、Baxter社製、ダイアニールPD−4 2.5)0.6mlを注入し、腹腔内に挿入した。チューブ17及びポート15部分を腹腔の外に出し、袋体23部分のみを腹腔内に残して腹膜を縫合して閉じた。次にチューブ17及びポート15部分を皮下に留置し、皮膚を縫合して閉じた。5日後に、体外からポート15を介し注射器を用いて袋体23の内液を採取し、新たな透析液(腹膜透析液、Baxter社製、ダイアニールPD−4 2.5、0.6ml)を注入した。採取した内液の分析を行ったところ、内液中の尿素窒素濃度は17.5mg/dl(ウレアーゼ・インドフェノール法使用。血清中の尿素窒素濃度;17.7mg/dl)であり、クレアチニン濃度は0.030mg/dl(Jaffe法使用。血清中のクレアチニン濃度;0.028mg/dl)であり、人工透析に十分な性能であった。
【0035】
以上のように、実施例の透析液を収容した袋体をラットの体内に留置することで、該袋体の内部(透析液)と外部(ラット体液)との間で該袋体を形成する透析膜(半透膜)を介して物質移動(透析)が生じ、それによってラットの体内にて十分な人工透析を行うことができることが明らかになった(体内と袋内の尿素及びクレアチニンの濃度がほぼ同じになれば透析が十分できていることを示している。)。
【0036】
(実施例7)
エチレン−ビニルアルコール共重合体(エチレン単位の含有率47モル%)をジメチルスルホキシドに溶解して15%の溶液を調製した。この溶液を40℃に保温し、キャストにより製膜後、40℃に保った水中にあけることにより透析膜を作製した。なお、実施例7の透析膜の孔径は約5nm程度であり、膜厚は約100μm程度であった。
3×4cmの透析膜を2枚重ねて四辺を融着し、袋体を作製した。一方、塩化ビニル製チューブ(外径3mm、長さ2.5cm)を用意した。得られた袋体の一辺にパンチ孔を開け、チューブの片端をパンチ孔に挿入し、エポキシ系接着剤にて接続した。チューブの別の端をピンチコックにて封じた。
得られた袋体を、クレアチニン10mg/dLおよび牛血清アルブミン(BSA)5g/dlを含む生理食塩水溶液100mlに浸し、袋体内及び袋体外のクレアチニン濃度を経時的に測定した(Jaffe法使用)。その測定結果を図4に示した。図4に示すとおり、約3時間で袋体内及び袋体外のクレアチニン濃度が均一化しており、人工透析に十分な性能であった。
【0037】
(実施例8)
エチレン−ビニルアルコール共重合体(エチレン単位の含有率47モル%)をジメチルスルホキシドに溶解して15%の溶液を調製した。この溶液を40℃に保温し、キャストにより製膜後、40℃に保った水中にあけることにより透析膜を作製した。なお、実施例8の透析膜の孔径は約5nm程度であり、膜厚は約100μm程度であった。
3×4cmの透析膜を2枚重ねて四辺を融着し、袋体を作製した。一方、塩化ビニル製チューブ(外径3mm、長さ2.5cm)を用意した。得られた袋体の一辺にパンチ孔を開け、チューブの片端をパンチ孔に挿入し、エポキシ系接着剤にて接続した。チューブを通じ、活性炭(GLC、クラレケミカル社製)1.0gを入れ、チューブをピンチコックにて封じた。
得られた活性炭入りの袋体を、クレアチニン10mg/dLおよび牛血清アルブミン(BSA)5g/dlを含む生理食塩水溶液100mlに浸し、袋体内及び袋体外のクレアチニン濃度を経時的に測定した(Jaffe法使用)。その測定結果を図5に示した。図5に示すとおり、袋体外のクレアチニン濃度が著しく減少しており、効率的にクレアチニンが除去できており、人工透析に十分な性能であった。同時に袋体内及び袋体外の総蛋白量も測定したところ(総蛋白II―HAテストワコー)、総蛋白量は変化していないことが確認できており(図6参照)、蛋白の吸着等の悪影響も無いことが判明した。
【0038】
(実施例9)
エチレン−ビニルアルコール共重合体(エチレン単位の含有率47モル%)をジメチルスルホキシドに溶解して15%の溶液を調製した。この溶液を40℃に保温し、キャストにより製膜後、40℃に保った水中にあけることにより透析膜を作製した。なお、実施例9の透析膜の孔径は約5nm程度であり、膜厚は約100μm程度であった。
3×4cmの透析膜を2枚重ねて四辺を融着し、袋体を作製した。一方、塩化ビニル製チューブ(外径3mm、長さ2.5cm)を用意した。得られた袋体の一辺にパンチ孔を開け、チューブの片端をパンチ孔に挿入し、エポキシ系接着剤にて接続した。チューブを通じ、活性炭(ビーズ活性炭、クラレメディカル社製血液浄化用吸着器DHP−1から取り出し乾燥した吸着材)1.0gを入れ、チューブをピンチコックにて封じた。
得られた活性炭入りの袋体を、クレアチニン10mg/dLおよび牛血清アルブミン(BSA)5g/dlを含む生理食塩水溶液100mlに浸し、袋体内及び袋体外のクレアチニン濃度を経時的に測定した(Jaffe法使用)。その結果を図7に示した。図7に示すとおり、袋体外のクレアチニン濃度が著しく減少しており、効率的にクレアチニンが除去できており、人工透析に十分な性能であった。同時に袋体内及び袋体外の総蛋白量も測定したところ(総蛋白II―HAテストワコー)、総蛋白量は変化していないことが確認できており(図8参照)、蛋白の吸着等の悪影響も無いことが判明した。
【0039】
(実施例10)
エチレン−ビニルアルコール共重合体(エチレン単位の含有率47モル%)をジメチルスルホキシドに溶解して15%の溶液を調製した。この溶液を40℃に保温し、キャストにより製膜後、40℃に保った水中にあけることにより透析膜を作製した。なお、実施例10の透析膜の孔径は約5nm程度であり、膜厚は約100μm程度であった。
3×4cmの透析膜を2枚重ねて四辺を融着し、袋体を作製した。一方、塩化ビニル製チューブ(外径3mm、長さ2.5cm)を用意した。得られた袋体の一辺にパンチ孔を開け、チューブの片端をパンチ孔に挿入し、エポキシ系接着剤にて接続した。チューブを通じ、吸水材(アクアキープ10SH−PF、住友精化社製)50mgを入れ、チューブをピンチコックにて封じた。
得られた吸水材入りの袋体を、生理食塩水100mlに浸し、経時的に袋体の重量を測定することで吸水量を測定した。その結果を図9に示した。図9に示すとおり、約3時間で急速に吸水しており、効率的に人工透析が可能であった。
【符号の説明】
【0040】
11 本用具(実施例1)
13 袋体
13a、13b 透析膜
15 ポート
17 チューブ
21 本用具(実施例2)
23 袋体
24 ポリエステル製メッシュ
31 本用具(実施例3)
33 袋体
33a、33b 透析膜
34 メラミン樹脂製スポンジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透析膜で形成される袋体であって、少なくとも一部が体内に留置される人工透析用具。
【請求項2】
前記袋体の内部に透析液が収容されるものである、請求項1に記載の人工透析用具。
【請求項3】
前記袋体の内部に吸着材が収容されるものである、請求項1に記載の人工透析用具。
【請求項4】
前記袋体の内部に酵素が収容されるものである、請求項1に記載の人工透析用具。
【請求項5】
前記袋体の内部と外部とを連通させるポートを備えるものである、請求項1乃至4のいずれか1に記載の人工透析用具。
【請求項6】
前記透析膜がエチレン−ビニルアルコール共重合体によって形成されるものである、請求項1乃至5のいずれか1に記載の人工透析用具。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1に記載の人工透析用具の少なくとも一部を体内に留置することを含む、ヒト以外の哺乳動物の人工透析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−104346(P2011−104346A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−181194(P2010−181194)
【出願日】平成22年8月13日(2010.8.13)
【出願人】(508071711)株式会社NeoCel (2)
【Fターム(参考)】