説明

人造ダイヤモンドに基づく検出装置

本発明は、薄い人造ダイヤモンドプレートから形成された検知プレート(2)を含む検出器に関する。本発明は、検知プレートを加熱するための手段(11、4)を含み、該加熱手段は、その材料が本質的に炭素原子から構成される薄い加熱プレート(4)を含むことを特徴とする。本発明はまた、前述の型の検出器を含む装置、該検出器を用いる測定方法およびこの検出器を生産するための方法に関する。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
総合技術分野
本発明は人造ダイヤモンドを用いる検出に関する。
【0002】
より正確には、本発明は、特にX線、γ線、電子、陽子の型の、放射線および粒子検出器に関する。
【0003】
本発明の検出器を、医学(放射線療法、放射線学等)で用いられる粒子加速器などの放射線源および/またはシンクロトロン型の放射線源の、計測学および制御を行うために用いることができ、放射線量、放射線量率の測定、位置、ビームの強度およびプロフィールの検出などに、適用することができる。
【0004】
本発明はまた、該検出器の製造に関する。
【背景技術】
【0005】
先行技術
天然ダイヤモンドは、過酷な環境中での放射線の検出またはX線ビームの計測学などの使用の特別な条件にも対処する放射線検出器の製造のための多数の長所を提供する。それは、放射線、酸性溶液および高温(<600℃)に耐える材料である。
【0006】
インラインの放射線測定または計測学については、極めて薄い層を製造できる可能性および/または低原子番号の必要性、あるいは検出器の近くで非組織等価材料の使用を回避すること(組織等価材料とは、蓄積照射線量が人体に蓄積される照射量に近い材料である)などの様々な基準も、意図する用途に関係して必要である。
【0007】
医療用加速装置についての計測学(線量、ビーム・プロフィール)は十分に発展しつつあり、組織等価材料を用いて線量およびビームライン照射率を測定することができなければならない。この領域におけるダイヤモンドの潜在能力の評価が、例えばマッピング測定およびポイント線量測定に用いることができる、小型の線量計を生産できる可能性を示した。
【0008】
同様に、特にX線ビ−ムおよびシンクロトロン光源の計測学については、薄くて撹乱しない装置を、光の進路中にかつ永続的に挿入して、光ビームの強度、位置およびプロフィールを測定することが可能でなければならない。
【0009】
天然ダイヤモンド結晶の検出器としての使用が、特に医療用放射線療法において知られている。これらの装置は多数の長所を持つ。
【0010】
ダイヤモンドは、高い機械抵抗力、ならびにまた腐食環境に対するおよび極めて高い放射線量における耐久性を有する。
【0011】
ダイヤモンドは、炭素原子からなり、人体にほとんど有害でない物質であり、かつ生物適合性および生物医学的環境への耐久性という長所を有する。
【0012】
ダイヤモンドは低原子番号Z(Z=6)のために、有意な吸収または全吸収なしに、照射ビームの測定に使用することができる。したがって、ダイヤモンドを「インライン」の計測学に用いることができる。これ以下の記述では、材料は、その原子番号が8またはそれ未満である場合に、低いZを有すると言うことにする。
【0013】
ダイヤモンドの原子番号は、ヒト組織の等価原子番号(筋肉の7.42、脂肪の5.94、即ち平均およそ7)に近く、そしてダイヤモンド検出器によって測定された放射線療法線量を、患者が受けた線量と容易に関係づけることができる:ダイヤモンドは組織等価材料である。
【0014】
先行技術の検出器は、新しい放射線療法治療(IMRT)の長所である、小さなサイズである。
【0015】
しかし、これまでの検出器には欠点がある。
【0016】
それらは1台ずつ製造される、即ち、天然ダイヤモンドの各試料を事前に選択して、医療用線量測定のために適切な特性の宝石を得なければない。各宝石からは単一の検出器の製造が可能であり、天然試料の小さなサイズのために、同一の特性を有するいくつかの装置を生産することができない。各検出器を個々に較正し、標準化しなければならない。
【0017】
上記から、検出器のコストは、ひどく高いことになる。
【0018】
さらに、その特性が仕様に合致する天然ダイヤモンドの供給を保証するのは容易ではない。
【0019】
最後に、天然ダイヤモンドの装置の性能は、しばしば、検出器が前処理されている場合(例えば毎日の前照射により)に限り、保証することができる。この工程により、この前処理時間中の、この機器の照射時間および不稼働によって、追加の費用が加わる。
【0020】
これらの欠点を解決するために、先行技術で、検出器を製造するために人造ダイヤモンドを用いることが提案された。
【0021】
人造ダイヤモンドを生産することは効率的に可能である。当業者によって一般に用いられる化学蒸着(CVD)合成技術が、放射線検出のための望ましい性能特性を有する材料の製造を達成するために最も適切である。
【0022】
合成は、高い生産収率であるため、検出器のコストの低下をもたらす。
【0023】
人造ダイヤモンドを、大きな表面積上で、および連続的に生産することができる。典型的には、直径が数センチメートルを越える試料を合成することができる。
【0024】
さらに、必要に応じた検出器を製造することが可能であり、そのことが、所望の用途に対して電気的性能を最適化することを可能にする。
【0025】
最後に、撮像および/または他の機器への装置の組込みのために、同一の特性を有する検出器のモザイクを生産することができる。
【0026】
残念ながら、現在の人造ダイヤモンド生産技術で出来るのは、低価格、多結晶の材料の簡単な製造のみである。
【0027】
しかし、ダイヤモンド以外の基板上にCVDによって作成される人造ダイヤモンドの特性決定により、検出器の改善に関する最終的な制限は、ダイヤモンドの製造方法に関係しており、材料の多結晶性に由来するということが示された。
【0028】
電気的な欠陥が同定され、それは材料の非均質構造(粒子および粒界)ばかりでなく、低濃度の不純物の存在にもよる可能性がある。
【0029】
人造ダイヤモンドのこれらの特性には、検出器を用いる場合の、荷電担体のトラッピングおよびデトラッピングの現象が含まれる。これらの現象は、検出器の感度が時間と共に変化する原因となる。
【0030】
人造ダイヤモンドの欠陥の濃度を研究するために日常的に用いられる特性決定技術により、電気的な欠陥をいくつかのカテゴリーに分類することが可能となった。各トラップを、ダイヤモンドのバンドギャップ中のエネルギー準位によって定義することができる。このエネルギー準位の、検出器の熱エネルギーと関連した、充填状態の改変(デトラッピングおよびトラッピングによる)を用いてこのエネルギー準位を規定する:
− トラップ準位。これは、デトラップに必要な熱エネルギーが、周囲温度に対応するエネルギーより小さい場合。照射下で電気信号に関与する担体は、周囲温度でこれらの準位に捕えられ、かつほとんど即座に熱活性化によって放出されることができる。したがって、装置を周囲温度で用いる場合、このトラップ準位は、「安定している」または不活性であると見なすことができる。
− 深いトラップ準位。これは、デトラッピングに必要な熱エネルギーが、周囲温度に対応するエネルギーと比べて非常に高い場合(温度>200℃)。照射下でこれらの準位は徐々に「占有されて」飽和に達し、周囲温度の熱エネルギーは、その後デトラッピング現象を引き起こすには不十分である。生成された担体はもはや撹乱されず、材料内を自由に通過する。これは、周囲温度で用いる場合、照射下での検出器の安定した動作を意味する。これらのトラップ準位の居在は検出器の感度の緩やかな増大に寄与するため、これらのトラップ準位の寄与は、ダイヤモンドに関して長らく言及されてきた。深いトラップのこの徐々の居在工程は、「ポンピング」または「プライミング」として、文献で公知である。
− 浅いトラップ準位。これは、デトラッピングに必要な熱エネルギーが、周囲温度に対応するエネルギーに近い場合。これらの準位により、ダイヤモンド検出器の産業上の用途における使用が制約される。トラップ準位の熱活性化温度が周囲温度に接近していることが、検出器に応じて場合により数分に達する時間定数での、これらの準位にある担体のゆっくりとしたデトラッピングの原因となる。したがって、装置の使用をわずかな時間停止し、その後照射する場合、再使用に際して一時的な現象が観察される。この現象は、ユーザーが装置の検出動作を解釈できるためには、装置の以前の照射下での使用についての知識を持っていなければならないことを意味するので、高度に制限を科すこととなる。その際の時定数は、数秒から数時間の単位であり、したがって、工業的な装置の日常的な使用を妨害する可能性がある。
【0031】
結果として、人造ダイヤモンド検出器の電気的および検出性能特性は、厳しい選択基準に従った天然材料の検出器の特性より一般的に劣る。測定の再現性が影響を受け、応答時間が長くなり、また検出特性が非線形になる可能性がある。
【0032】
発明の説明
本発明は、これらの短所を、人造ダイヤモンドの長所を損なわずに、克服することを試みる。
【0033】
本発明の一つの目的は、人造ダイヤモンドの浅い準位での一時的なデトラッピングを有しない検出器を提案することである。
【0034】
本発明の別の目的は、多結晶ダイヤモンドの検出器の安定した応答を得るために、多結晶層の欠陥を中和することができる検出器を提案することである。
【0035】
本発明の別の目的は、産業上利用可能性があり、したがって低価格の、人造ダイヤモンドを含む検出器を提案することである。
【0036】
本発明の別の目的は、大きな表面積の、またはモザイクの検出器を提案することである。
【0037】
本発明の別の目的は、ほとんど場所を取らない組込み検出器を提案することである。
【0038】
本発明の別の目的は、非常に低い放射線撹乱しか生成しない検出器を提案することである。
【0039】
この目的のために、本発明は、人造ダイヤモンドの薄いプレートで形成された検出プレートを含む検出器を提案する。その検出器は、検出プレートの加熱手段を含み、該加熱手段は意図する検出用途に適合する薄い加熱プレートを含む、即ち加熱プレートの材料は、医療用検出プレートと同じ組織等価特性を有するか、またはビーム計測学用検出プレートと同じ透明度特性(低Z)を有する、という特徴がある。有利には薄い加熱プレートは、本質的に炭素原子を含む材料よりなる。
【0040】
本発明は、次の特性を単独で、または任意の技術的に可能な組合せで含むことにより、有利に完成される:
− 検出プレートは、ドープされているかもしくはドープされていない多結晶ダイヤモンドよりなる;
− 加熱プレートの材料は、医療用の組織等価材料である;
− 加熱プレートの材料は、ビーム計測用途のための、低原子番号を有する;
− 加熱プレートは、ドープされているかもしくはドープされていない多結晶型の人造ダイヤモンドよりなるか、または、非晶質ダイヤモンド、ナノ結晶ダイヤモンド、もしくは非晶質ポリマーの形状の炭素型の炭素結合を有する材料、あるいはグラファイトの形状の炭素のいずれかよりなる;
− 検出プレートと加熱プレートが互いに接している;
− 加熱プレートが検出プレートから、電気絶縁中間プレートによって隔てられており、中間プレートの材料は検出プレートの材料の原子番号に近い原子番号を有する;
− 中間プレートの材料が医療用の組織等価材料である;
− 中間プレートの材料は、ビーム計測学用途のための、低原子番号を有する;
− 中間プレートは、ドープされているかもしくはドープされていない多結晶型の人造ダイヤモンド、または、非晶質ダイヤモンド、ナノ結晶ダイヤモンド、もしくは非晶質ポリマーの形状の炭素型の炭素結合を有する材料、あるいはグラファイトの形状の炭素のいずれかよりなる;
− 加熱プレートは、検出プレートの実質的に全表面上に伸展している;
− 検出プレートおよび/または加熱プレートがドープされている;
− ドーピング元素は、ホウ素および/またはリンおよび/または窒素である;
− 検出器は、検出プレートに接する少なくとも一つの測定電極を含む;
− 検出器は加熱プレートに電流を流すための電極を含む;
− 電極は、ドープされているかもしくはされていない多結晶型の人造ダイヤモンドに基づいた材料であるか、または、非晶質ダイヤモンド、ナノ結晶ダイヤモンド、非晶質ポリマーの形状の炭素型の炭素結合を有する材料、あるいはグラファイトの形状の、または金属もしくは合金を含む材料である。
【0041】
本発明はまた、該検出器を含む測定装置に関する。
【0042】
本発明はまた、該検出器を用いる測定法、および該検出器を製造するための方法に関する。
【発明の開示】
【0043】
詳細な説明
人造ダイヤモンドに基づく検出器における、浅いトラップの一時的なデトラッピングの問題を克服するために、一つの解決法は、材料中にトラップされた集団の「安定した」状態を維持することが可能な温度で、検出器を用いることよりなる。
【0044】
トラップされた担体を居在する準位に閉じ込めるために装置を低温に維持する(当然思い浮かぶ一つの解決法)代わりに、本発明による一つの方法は、逆に数十度程度(例えば50℃〜150℃)まで検出器を加熱することよりなる。本発明の方法により、低温用設備の導入の必要性が回避される。
【0045】
該トラップ準位の物理的パラメータ−に関する最近の研究は、本発明の方法が機能することを示している。
【0046】
したがって、検出ダイヤモンド層または検出されるべき放射線のいずれも撹乱しない材料によって一様に加熱される検出器を、製造しなければならない。
【0047】
しかし、検出器の温度上昇を確実にするためには、従来の電気的加熱は、もし、ダイヤモンドの物理的特性と掛け離れた物理的特性を有する補足材料を検出器中で用いるとすれば、ダイヤモンドの長所(低Z、組織等価性、化学的な不活性等)が相殺されるので、適当ではない。
【0048】
医療および検出の用途には、検出器をビーム中に挿入するが、しかし検出器は遮蔽物を形成したり、ビームを撹乱したりしてはならない。したがって、放射線を撹乱してはならないのは、検出層だけではなく、検出器全体である。
【0049】
したがって本発明は、人造ダイヤモンドの薄いプレートから形成された検出プレートおよび検出プレートを加熱するための手段を含む検出器を提案する。加熱手段は、該材料が医療用途には組織等価材料であり、またはビーム計測学用途には低原子番号を有する、薄い加熱プレートを含む。
【0050】
薄い加熱プレートの材料は、本質的に炭素原子よりなる。以下の記述において、「本質的に炭素原子よりなる材料」とは、該化学的成分が、それが結晶であるか非晶質構造であるかに関係なく、ほとんど炭素原子のみを含む材料を意味する。他の化学成分が材料中に存在する場合は、これらは残渣またはドープ剤である。したがって、材料は「ダイヤモンド」材料に近い。
【0051】
これが、熱伝導性であり、かつ検出対象の放射線に対して透過的である材料を与える。検出手段の近傍に「非ダイヤモンド」材料が存在しないことは、線量測定または他の測定のどちらに対しても、ビーム測定が外的要素によって撹乱されないことを意味する。
【0052】
したがって、加熱プレートの材料は、ダイヤモンド、好ましくは人造ダイヤモンド、または、非晶質ダイヤモンドの形状の炭素、例えばつまり「ダイヤモンドライクカーボン」(DLC)、ナノ結晶ダイヤモンド、非晶質ポリマーの形状の炭素つまり「ポリマーライクカーボン」等などの炭素結合を有する材料でよい。
【0053】
とにかく、用いられる加熱プレートの材料は、低い固有抵抗を有し、電流の注入によりジュール効果によってそれの加熱が可能である。
【0054】
有利には、加熱プレートは、例えばホウ素、リンまたは窒素でドープされた、ドープダイヤモンドの薄層を含む。該ドーピングは、加熱プレートに、真性の材料と比較して低下した固有抵抗を与える。それにより電流が加熱プレート中を循環することが可能となり、その温度上昇が起こる。
【0055】
加熱プレートは、ダイヤモンドまたは特別な処理後にその固有抵抗が減少する炭素結合を有する材料の任意の層でよいと理解されよう。
【0056】
製造の第1の可能な態様は、ダイヤモンドの第1検出プレートを有する検出器へ、検出器を加熱可能にする役割の第2のプレートを組込む工程よりなる。この低い固有抵抗の加熱プレートのダイヤモンド検出器への結合を、異なる固有抵抗の二層を、それらを合成する間に積み重ねることにより、理想的に行なう。例えば、粒子または入射光子を検出するために用いる真性のダイヤモンド層上に、数十ミクロンのドープ層を直接蒸着してもよい。
【0057】
第2の可能な製造態様は、2つの個別の層、加熱用の低い固有抵抗の一層および検出用の高い固有抵抗のもう一つの層を用いる工程、ならびにそれらを機械的に接触させて配置する工程、よりなる。
【0058】
二層の間に、高電流密度が必要であろう加熱部からの微弱電流が測定できる状態にあるべき検出器を、電気的に絶縁する目的のための、中間層を挿入することは、当然興味深いことであろう。中間層もまた、それが非撹乱的であるように、医療用の場合には組織等価材料よりなるか、またはビーム計測学用の場合には低原子番号を有する。
【0059】
検出器の可能な態様の製造を、下に詳述する。
【0060】
第1の態様および製造
図1Aは、第1工程の間に、基板1の上に人造ダイヤモンド材料2を放射線の検出のために成長させることを示す。
【0061】
ダイヤモンド合成を、化学蒸着(CVD)により、任意で、例えばマイクロ波型のプラズマ助長(プラズマ化学気相成長法(PECVD)により、行なう。
【0062】
ダイヤモンド層2の合成技術は当業者に公知であり、合成がダイヤモンドと異なる基板1の上で起こる場合(ヘテロエピタキシー)は多結晶ダイヤモンドの試料2を、またホモエピタキシーを使用した場合は単一結晶試料2を得る結果になる。
【0063】
本明細書の残りの部分は、シリコン基板1上のヘテロエピタキシーに当てはまり、原理はホモエピタキシーと同じであるが、しかし、成長基板1のサイズしたがって端検出器のサイズについては制限がある。
【0064】
検出用ダイヤモンド材料を得るための蒸着条件は、文献に参照事項が記載されている。条件は各反応器に特有であり、電子的品質の材料を得るために最適化される。
【0065】
従来のPECVD反応器では、これらの条件は、典型的には1.5kWおよび5kWのマイクロ波電源、70トル〜125トルの蒸着室圧力、750〜950℃の蒸着温度の間で変わる。マイクロ波プラズマを、任意で酸素を添加し、水素およびメタンのガス状混合物を分離することにより、得る。
【0066】
大きさ2〜5インチの全基板1の上の、即ちカット前の試料の、検出プレートを形成する層2の得られる厚さは、意図する用途(α粒子、X線等の検出)に依存して、20〜500ミクロンの間で変化する。
【0067】
プレート2の合成の後、第1成長反応器から試料を取り出し、プレート2の材料をドープする反応器に移すことができる。好ましくは、プレート2を、例えばホウ素またはリンまたは窒素でドープする。検出プレート2のドーピング工程は任意である。
【0068】
薄いプレートの形状でプレート2の上に重ねられる中間プレート3の合成を、第2工程の間に、ドーピング反応器中で不純物の故意の取込なしに行う。層3の厚さは、典型的には数ミクロンである。得られる中間プレート3の材料は、残存のドーパント不純物を含む真性である。
【0069】
第3の工程の間に、薄層の形状の加熱プレート4の合成を、不純物を故意に混入させるCVDにより、中間層3上に再成長させることによって行なう。層4の厚さは、典型的には10ミクロン程度である。不純物は、例えばいろいろな濃度(例えば、1015〜1021原子/cm3)のホウ素原子でよい。文献に報告されたこのドーピング技術により、取込まれたドーパントの濃度に従って種々の固有抵抗を有する層を得ることが可能である。プレート4の材料は好ましくはドープされているか、ドープされていなくてもよい。
【0070】
3つの連続的な工程の後に得られる材料の積層を、図1Aに示す。
【0071】
プレート3は、検出プレート2と加熱プレート4の間で絶縁体として働く。プレート3の固有抵抗はプレート4の固有抵抗より大きい。中間層3の存在は任意である。加熱プレート4の蒸着を、検出プレート2の上の層の形状で直接行なうこともできる。
【0072】
図1Bに示す第4の工程の間、第1の工程で成長の支持体として用いられるシリコン基板1を除去する。基板1を、HF/HNO3混合物を用いる化学的エッチングにより、除去することができる。混合物の化学的成分により、上述の最初の3工程で得られる層2、3、および4を手を付けないままで、成長基板1の選択的エッチングが可能になる。
【0073】
図1Cは、プレート2の分極および信号測定を可能にする電極10および20を、プレート2の材料上に第5工程の間に蒸着することができることを示す。
【0074】
図1Dは、接点30および40も、第6の工程中に、ドープされたプレート4の上部表面上に作られることを示す。接点30および40は加熱電力供給に用いる。
【0075】
接点10、20、30および40の配置、厚さ、ならびに接点10、20、30および40に用いられる材料は、意図する用途に合わせる。
【0076】
例えば、医療用途については、接点10、20、30および40は、検出プレート2のダイヤモンドの長所を失わないように、炭素、炭素結合を有する材料、すなわち組織等価材料である。電極10、20、30および40は、ドープされているかもしくはドープされていない、例えば多結晶型の人造ダイヤモンドであるか、または、非晶質ダイヤモンドの形状の炭素つまり「ダイヤモンドライクカーボン」(DLC)、ナノ結晶ダイヤモンド、非晶質ポリマーの形状の炭素つまり「ポリマーライクカーボン」、あるいはグラファイトなどの炭素結合を含有する材料でよい。
【0077】
非医療用途、例えばビーム制御のためには、プレート4およびプレート2のダイヤモンドとの接触がオームである金属または合金を蒸着することも考えられ、必要に応じて蒸着する厚みを適応させる。用いてもよい金属は、例えば金、またはTi/Pt/Au合金である。半透明層を得るために、例えば20nmの金を蒸着することに言及しておく。
【0078】
接点10、20、30、および40の蒸着を、必要な精度に従って、金属マスクまたはリソグラフィーによって行なう。すべての接点用の蒸着技術は一般的知識の一部であり、技術および材料は、文献中に多量に報告されている。接点10、20、30および40の蒸着を、ジュール効果の下での蒸着により行ってもよいし、あるいは電子銃または当業者に公知の任意の他の技術を用いて行ってもよい。図1Cおよび1Dは、接点10、20、30および40の可能な構成を示し、他の分極および加熱の構成は、より詳細に下に記述する。
【0079】
第2の態様および製造
図2Aは、第1の工程の間に、人造ダイヤモンド材料2を、放射線の検出のために、基板1の上で成長させることを示す。この工程は、すべての点で前述の第1の工程と同一である。
【0080】
第2の任意の工程で、中間層3を層2の上に成長させてもよい。この層3は、前述の第2の工程で記述した層と同じ役割を果たし、また同じ条件下で得ることができる。層3はまた、本来の成長反応器中で得ることもできる。層2および3の合成の後に、装置の組み立てを始めるために、成長反応器から試料を取り出す。
【0081】
図2Bに示す第3の工程の間、加熱プレート4を組み立てる。
【0082】
プレート2の温度上昇を可能にするプレート4は、より一般には、医療用途には、固有抵抗低下処理をされたダイヤモンド材料、炭素結合を有する材料(他の成長技術によって得られたダイヤモンド、DLC、ナノ結晶ダイヤモンド、ポリマーライクカーボン等)または低い固有抵抗および組織等価性を有する材料、あるいは放射線ビーム計測学用途には、低Zを有する材料でよい。
【0083】
プレート4を、前述の層2および3の上に機械的に組立ててもよい。これには、単なる接触、結合、分子結合などが含まれもよい。
【0084】
検出プレート2と加熱プレート4との間で機械的結合を用いることは(任意で中間プレート3を介する)、一つの層が別の層の上で直接成長することができない材料の結合を可能にするという長所を持つ。したがって、異なるプレート2、3および4の材料の選択幅がはるかに広くなり、意図した用途に適合させることができる。他方で、機械的な組み立ては、層の直接の成長によって製造される検出器よりも劣った加熱均質性を与える可能性がある。
【0085】
図2Dに示す接点10、20、30および40の蒸着工程は、第1の態様で実施され、図1Cおよび1Dを参照して記述された蒸着工程と同一である。
【0086】
機能性
検出器の機能において、2つの幾何学的に離れた部品を、区別することができる。第1に、最適化された真性ダイヤモンド層2による放射線の検出があり、第2に、加熱プレート4によるそれの温度上昇がある。
【0087】
放射線の検出は電離箱の原理に基づく。図3Aは、イオン化放射線5がプレート2のダイヤモンド材料と相互作用して、電子6およびホール7型のフリーの担体を作製し、それが試料に与えられた電界8の作用の下で、電極10および20に集められ、測定可能な電気信号を生じさせることを示す。
【0088】
ダイヤモンドは、周囲温度でのそのバンドギャップ幅(5.5eV)により、この機能モードを可能にする。
【0089】
図3Aは、電極10および20をダイヤモンドプレート2の各表面に蒸着できることを示す。
【0090】
図1C、1D、2Dおよび3Cは、電極10および20がダイヤモンドプレート2の同じ表面上にあってもよいことを示す。図5Aは、電極10および20がダイヤモンドプレート2の同じ表面上の共面接触構成であってもよいことを示し、かつ図5Bは、電極10および20がダイヤモンドプレート2の同じ表面上で互いにかみ合っていてもよいことを示す。
【0091】
一つの変形によれば、中間層3が後部接点として働くことができるという事実を利用する。したがって、図3Bは、伝導性の蒸着物10が層3に蒸着されて、例えば電圧源を形成する手段9によって電圧をプレート2に与えることを可能にすることを示す。次に、放射線によって形成された信号が、プレート2の前面上の電極20によって記録される。
【0092】
2つの機能モード:計数モードおよび電流モードを用いることができる。これらの2つの機能モードは、計測において公知である。
【0093】
図4は、低い固有抵抗の薄いプレート4によって、プレート2を加熱することを可能にする装置を示す。
【0094】
例えば電流源を形成する手段11が、電流(1mA〜10mA)を生成し、層4の表面上の電極30と40との間の層4を通って流れることを可能にする。電流の通過によって、層4の温度が上がる。電気的担体の循環による加熱は高感度であり、電流密度の調整によって容易に制御することができる。
【0095】
検出プレート2の動作温度は、50℃〜150℃の間にある。
【0096】
層4のドーピングレベルならびに検出器の厚さおよび形状に関連させた較正によって、所望の温度上昇に必要な電流値の決定が可能である。
【0097】
同様に、較正によって、さらに電流を測定する時に電極30と40の間に接続される電圧計を形成する手段12によって、加熱プレート4のその瞬間の抵抗を知り従ってその温度を決定するための、残留電圧の測定が可能である。
【0098】
加熱電流が検出器の信号を撹乱するのを阻止するために、前述の装置において記述した、中間ダイヤモンド層3を用いる。中間層3によって、加熱電流を検出電流から分離することが可能になる。
【0099】
電極30および40は、加熱プレート4の同一表面上にあってもよい。電極10および20の場合と同様に、電極30および40が、加熱プレート4の同一表面上で共面接触構成を持っていてもよいし、または互いにかみあっていてもよい。
【0100】
放射線検出モードにおける検出器の機能には、事前の較正が必要である。
【0101】
使用前に、放射線の下で検出器プレート2の特性決定を行う。検出器の応答を、測定温度に関しておよび照射記録に関して分析する。このようにして、トラップ居在に関する検知装置の動作を研究することが可能である。検出器の最適な機能温度、すなわち測定温度が安定性に影響しない温度が、このようにして決定される。
【0102】
加熱プレート4もまた、先行する特性決定によって規定される設定温度を得るために、加熱材料中の電流レベルを制御することにより、装置の使用前に特性決定を行う。
【0103】
各使用の後に、単に検出器を極めて短時間に高温(200℃より高く、典型的には400℃まで)に熱することにより、検出器を零にリセットすることができる。次に、最初の使用の前に、いつでも同じトラップ占有状態を保証するために検出器の事前照射を行なう。検出器が平衡に達するのに必要な線量が、事前の特性決定により決定される。
【0104】
作動準備のできた装置には、較正記録シートおよび下記を与えるための使用指示書を付加することができる:
− 事前放射に必要な線量;
− 最適機能温度、「設定温度」とも呼ばれる;
− 設定温度を得るために加熱層4に与えるべき電流レベル;
− 装置を零(空のトラップ準位)にリセットするのに必要な温度、「清浄化温度」とも呼ばれる;
− 清浄化温度を得るために加熱層4に与えるべき電流レベル。
【0105】
本発明は、有利には放射線療法における放射線の検出のために、ならびにX線ビームモニターおよび保定器でのビーム用量の測定のために用いられる。特に放射線療法では、この装置では、患者を照射する前にビーム用量および線量率の測定が、患者にとって有害でない加熱温度で可能である。装置は、少なくとも組織等価に近い材料で全体が設計されているので、通常必要とされる補正係数が必要でなく、それによって測定の単純化と精度が増大する。装置は、四象限検出器を形成するための手段を含むことができる。
【図面の簡単な説明】
【0106】
本発明の他の特性、目的および長所が下記の記述から明白になるであろう。その記述は純粋に例示的および非限定的であり、かつ添付された図面を参照して読むべきである。すべての図中で、同様な部分は同一の参照番号を有する。
【図1A−D】図式的に、本発明による検出器の第1の製造態様の縦断面を示す。
【図2A−D】図式的に、本発明による検出器の第2の製造態様の縦断面を示す。
【図3A−C】検出プレート上の電極の種々の可能な位置を示す。
【図4】図式的に、加熱プレートの加熱装置を示す。
【図5】図5Aおよび5Bは、図式的に、プレート表面上の電極の種々の配置を示す。
【図1A】

【図1B】

【図1C】

【図1D】

【図2A】

【図2B】

【図2C】

【図2D】

【図3A】

【図3B】

【図3C】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
検出プレートの加熱手段(11、4)を含み、該加熱手段は材料が本質的に炭素原子よりなる薄い加熱プレート(4)を含むことを特徴とする、人造ダイヤモンドの薄いプレートから形成される検出プレート(2)を含む検出器。
【請求項2】
検出プレート(2)が、ドープされているかもしくはドープされていない多結晶ダイヤモンドからなることを特徴とする、請求項1記載の検出器。
【請求項3】
加熱プレート(4)が、ドープされているかもしくはドープされていない多結晶型の人造ダイヤモンド、または、非晶質ダイヤモンド、ナノ結晶ダイヤモンド、非晶質ポリマーの形状の炭素型の炭素結合を有する材料、あるいはグラファイトの形状の炭素のいずれかよりなることを特徴とする、請求項1〜2のいずれか一項記載の検出器。
【請求項4】
検出プレート(2)と加熱プレート(4)が互いに接していることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項記載の検出器。
【請求項5】
加熱プレート(4)が、検出プレート(2)から電気絶縁中間プレート(3)によって隔てられており、該中間プレートの材料が本質的に炭素原子からなることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項記載の検出器。
【請求項6】
中間プレート(3)が、ドープされているかもしくはドープされていない多結晶型の人造ダイヤモンド、または、非晶質ダイヤモンド、ナノ結晶ダイヤモンド、非晶質ポリマーの形状の炭素型の炭素原子を有する材料、あるいはグラファイトの形状の炭素のいずれかよりなることを特徴とする、請求項5記載の検出器。
【請求項7】
加熱プレート(4)が、実質的に検出プレート(2)の全表面上に伸展していることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項記載の検出器。
【請求項8】
検出プレート(2)および/または加熱プレート(4)がドープされていることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項記載の検出器。
【請求項9】
ドーピング元素が、ホウ素および/またはリンおよび/または窒素であることを特徴とする、請求項8記載の検出器。
【請求項10】
検出プレート(2)に接して少なくとも一つの測定電極(10、20)を含むことを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一項記載の検出器。
【請求項11】
加熱プレート(4)に電流を流すための電極(30、40)を含むことを特徴とする、請求項1〜10のいずれか一項記載の検出器。
【請求項12】
電極が、ドープされているかもしくはドープされていない多結晶型の人造ダイヤモンドに基づく材料、または、非晶質ダイヤモンド、ナノ結晶ダイヤモンド、非晶質ポリマーの形状をしている炭素型の炭素結合を有する材料、あるいはグラファイトの形状の、または金属もしくは合金を含む炭素のいずれかであることを特徴とする、請求項11記載の検出器。
【請求項13】
検出プレート(2)、加熱プレート(4)および中間プレート(3)の材料が、8以下の原子番号である材料であることを特徴とする、請求項1〜12のいずれか一項記載の放射ビーム計測学のための検出器。
【請求項14】
検出プレート(2)、加熱プレート(4)および中間プレート(3)の材料が、組織等価材料であることを特徴とする、請求項1〜12のいずれか一項記載の医療用線量測定のための検出器。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれか一項記載の少なくとも一つの検出器を含むことを特徴とする、撮像装置。
【請求項16】
四象限検出器を形成するための手段を含むことを特徴とする、請求項15記載の装置。
【請求項17】
加熱手段(4、11)により検出プレートを加熱する工程を含み、該加熱手段は、材料が本質的に炭素原子からなる薄い加熱プレート(4)を含むことを特徴とする、人造ダイヤモンドの薄いプレートから形成された検出プレート(2)を用いる、測定法。
【請求項18】
検出プレート(2)の温度を、測定時に50℃〜150℃の動作温度に上げる工程を含むことを特徴とする、請求項17記載の方法。
【請求項19】
2つの測定の間に、検出プレート(2)の温度を200℃を越える零リセット温度に上げる工程を含むことを特徴とする、請求項17記載の方法。
【請求項20】
検出プレート(2)を加熱するための薄いプレート(4)を該検出プレート(2)と結合させる工程を含み、該加熱プレート(4)の材料は本質的に炭素原子からなることを特徴とする、人造ダイヤモンドの薄いプレートから形成される検出プレート(2)を含む検出器を製造するための方法。
【請求項21】
化学蒸着によって加熱プレート(4)を薄層の形状で蒸着することにより、結合を達成する工程を含むことを特徴とする、請求項20記載の方法。
【請求項22】
加熱プレート(4)を検出プレート(2)の上へ結合することを機械的に達成する工程を含むことを特徴とする、請求項20記載の方法。
【請求項23】
材料が本質的に炭素原子からなる中間プレート(3)を介して結合を行なう工程を含むことを特徴とする、請求項20〜22のいずれか一項記載の方法
【請求項24】
中間プレート(3)を検出プレート(2)の上に化学蒸着によって薄層の形状で蒸着させる工程を含むことを特徴とする、請求項23記載の方法。
【請求項25】
検出プレートおよび加熱プレート上に電極(10、20、30、40)を蒸着させる工程を含むことを特徴とする、請求項20〜24のいずれか一項記載の方法。

【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【公表番号】特表2008−511826(P2008−511826A)
【公表日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−529359(P2007−529359)
【出願日】平成17年9月1日(2005.9.1)
【国際出願番号】PCT/EP2005/054318
【国際公開番号】WO2006/024661
【国際公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【出願人】(507070722)
【Fターム(参考)】