説明

仕上げ節を最適状態に削ることが出来るようにするための加工方法

【課題】
一般家庭で使用されている鰹節削り器であっても、削り節として使用上最適とする長さの花弁状削り節が容易に得ることが出来るようにした、仕上げ節を最適状態に削ることが出来るようにするための加工方法の提供を図る。
【解決手段】
仕上げ節に対して、50℃程度の熱湯シャワーでのブラシ洗浄を1時間半〜2時間程度施すことによって、コウジカビを含めた表面削り取り処理を施し、然る後、芯温(内部温度)を50℃〜70℃程度に保持するための加熱処理を30分程度施した後に、24時間程度の寝かし冷却処理を施す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般家庭で使用されている鰹節削り器であっても、所用の長さを及び幅を具えた最適状態に削ることが出来るような処理を、高級鰹節である「仕上げ節」に対して施すための加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般家庭において使用される鰹節削り器は、削り節製造業者が使用する業務用削り器とは異なり、高級鰹節である仕上げ節を削った際に殆ど粉状のものとなり勝ちであった。
すなわち、袋詰めされた通常「花かつお」と称されるように、薄くかつ所要の長さを具えた状態に削られた「削り節」を得ることは、一般家庭においては極めて困難とされた。
【0003】
ところで、鰹節には、「荒節」と称される水分含有量30%前後のものと、「仕上げ節」と称される水分含有量15%程度のものとの二つのタイプのものがある。 そして、前者は比較的短期間で製造でき、後者は当該「荒節」にカビ付け作業を更に行うために長期間の製造作業を必要とした。
そのため、両者を比べた場合、風味の点で後者のほうが各段に優れており、一般家庭においても後者の「仕上げ節」が圧倒的な人気を博しているも、削り作業上の困難性からその購入を躊躇するきらいがあった。
【0004】
一方、「荒節」の場合、その水分含有量が高く分子(組織)が均一化されているため、比較的容易かつ安定した状態で削ることが出来、そのため上記したような袋詰めされた「削り節」にあっては、殆ど「荒節」が用いられている。 然し乍、その風味の無さから、味にこだわる家庭においてはこれを嫌い、風味の優れた削り節を得るために「仕上げ節」の購入を望むも声が多く存在するも、前記したような削り作業の困難性から敬遠されがちであった。
【0005】
従来、鰹節に対する削り作業の容易化を図るための手段として、鰹節を製造する前工程としての焼軟方法において、鰹節に対して遠赤外線照射に基づき加熱した後に冷却する、と言うような作業を施すことにより、鰹節に柔軟性をもたらすようにしたもの(例えば、特許文献1参照。)がある。
【0006】
また、既に完成化されている「削り節類」に対して削り易いようにするための後処理的な加工を施すような方法、すなわち、「節類を飽和湿度域に保持加熱し、少加圧下に内部に水分を浸透させ、軟化させて後少減圧下に付着表面水分を除去し、水の蒸発せん熱で節類を均温にし、含水率を均一化する」ようにしたもの(例えば、特許文献2参照。)がある。
【0007】
その他の手段として、節類を水に浸漬した後ねかせて水分を内部に滲透させ、次いで熱風処理をするようにした厚削り節の製造方法(例えば、特許文献3参照。)があるが、これは「厚削り節」と言う特殊用途の削り節に関するものである。
【0008】
【特許文献1】特開平1−243940号公報
【特許文献2】特開昭60−37929号公報
【特許文献3】特開昭58−43738号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記したような既存の方法は、何れも一長一短があり最善な方法とは称し得ないものであった。 本発明は、鰹節において特に風味の点で優れているが硬くて削り難いとされている「仕上げ節」を対象とし、これを一般家庭においても容易にかつ最適な状態(長さ及び厚さ等)で削ることが出来るようにするための新規な「仕上げ節を最適状態に削ることが出来るようにするための加工方法」の提供を図ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は請求項1に記載のように、仕上げ節に対して、50℃程度の熱湯シャワー内でのブラシ洗浄を1時間半〜2時間程度施すことによって、コウジカビを含めた表面皮を取る削り取り処理を施し、然る後、内部水分の浸透拡散を図るために芯温(内部温度)を50℃〜70℃程度に保持するための加熱処理を30分程度施した後に、内部水分を均等に除くことによって肉質の均一と緻密化を図るために24時間程度の寝かし冷却処理を施すようにしたことを特徴とする仕上げ節を最適状態に削ることが出来るようにするための加工方法に係る。
【0011】
本発明は請求項2に記載のように、仕上げ節に対して、50℃程度の熱湯シャワー内でのブラシ洗浄を1時間半〜2時間程度施すことによって、コウジカビを含めた表面皮を取る削り取り処理を施し、然る後、内部水分の浸透拡散を図るために芯温(内部温度)を50℃〜70℃程度に保持するための加熱処理を30分程度施した後に、内部水分を均等に除くことによって肉質の均一と緻密化を図るために24時間程度の寝かし冷却処理を施した仕上げ節を、不活性ガスを封入した包材内に密封するようにしたことを特徴とする仕上げ節を最適状態に削ることが出来るようにするための加工方法に係る。
【0012】
本発明は請求項3に記載のように、芯温(内部温度)を50℃〜70℃程度に保持するための加熱処理を、遠赤外線加熱機を用いて行うようにした請求項1または請求項2の何れかに記載の仕上げ節を最適状態に削ることが出来るようにするための加工方法を実施の態様とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明は請求項1に記載のような構成、すなわち、仕上げ節に対して、50℃程度の熱湯シャワー内でのブラシ洗浄を1時間半〜2時間程度施すことによって、コウジカビを含めた表面皮を取る削り取り処理を施し、然る後、内部水分の浸透拡散を図るために芯温(内部温度)を50℃〜70℃程度に保持するための加熱処理を30分程度施した後に、内部水分を均等に除くことによって肉質の均一と緻密化を図るために24時間程度の寝かし冷却処理を施すようにしたから、水分含有量15%程度の「仕上げ節」は、上記加熱処理に基き内部水分の浸透拡散が成されると共に、続いての冷却処理に基き、当該浸透拡散に基き均等がされた水分の安定化が図られることとなる。 これにより、本発明方法に基き水分の均等かつ安定化並びに肉質の緊密化に基き、削り器の刃当たりがスムーズ化され(処理前のように局部的な硬軟変化に基く刃当たりのスムーズ性の欠如)、粉化するようなことなく容易に薄い花弁状に削ることが出来る程度に均一的に硬化された鰹節を得ることが出来る。 そして、上記の加熱処理等に基き水分含有量も5%程度低下させることが出来るため、味覚的な向上性も図られ、一段と風味がよくなる。
また、上記した本発明方法に基き形成された鰹節は、一般家庭で使用する削り器で削ったところ、削り節として使用上最適とする幅10mm〜30mm、長さ30mm〜60mm、厚さ0.3mm〜0.5mm程度の範疇に含まれる花弁状削り節が得られた。
【0014】
本発明は請求項2に記載のような構成、すなわち、請求項1に記載のような一連の処理を行った後の「仕上げ節」を、不活性ガスを封入した包材内に密封することにより、含水量を変化させること無く長期保存に耐え得ることとなる。
すなわち、寝かし処理を施した仕上げ節は、コウジカビが除去されているので、そのままの状態では、内部の含有水分が時間の経過と共に発散喪失してしまうこととなるが、請求項2に記載のように不活性ガスを封入した包材内に密封することにより、このような事態発生を解消化することとなる。
【0015】
本発明は請求項3に記載のように、芯温(内部温度)を50℃〜70℃程度に保持するための加熱処理を、遠赤外線加熱機を用いて行うことにより、遠赤外線効果に基づく熱線が内部まで到達することとなるため、均一的な加熱目的が達成され、水分浸透が、ムラ無くかつ均一的に果たされ、「仕上げ節」肉質の均一化及び緊密化が、単純加熱方式に比してより一層促進されることとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明に係る加工方法にあっては、「仕上げ節」と称されている風味の良い鰹節を対象とする。 「仕上げ節」がうまく削れない原因としては、鰹節の製造過程においてカビ付け作業を行うことが挙げられる。 なお、「仕上げ節」とする前の状態で削り節製造業者に供される「荒節」にあっては、このようなカビ付け作業を行っていないため、その水分含有量が高く分子(組織)が均一化されており、従って、比較的容易かつ安定した状態で削ることが出来る反面、風合いのない鰹節であることを余儀なくされた。
ところで、上記した「仕上げ節」とは、「みがき」とも称され、贈答用などに一般的に用いられる高級鰹節であり、カビ付け作業を3回以上行ったものである。
【0017】
すなわち、「仕上げ節」の場合、上記したカビ付けを行うことにより、焙乾工程で抜き切れなかった水分が、鰹節の表面に付着させたコウジカビに依って吸い上げられ、当該コウジカビを成長させると言うような作用が奏される。 このようなカビ付けを数回繰り返すことによって、深みのある風合いを備えた鰹節(仕上げ節)が製されることとなる。
【0018】
上記のような製造過程を経る「仕上げ節」は、カビ菌が菌糸を使い水分を減少させながら成長することによって、当該カビ菌の出す酵素の作用で鰹節の表面に残る油分を分解し、更なる旨み成分を作り出している。
【0019】
そして、このようなカビ付け工程は日干を行いながら数回繰り返され、その繰り返しに基づき、鰹節(荒節)の水分含有量が次第に低下することとなる。 そして、カビ付けを行わない前である「荒節」の場合は35%程度水分含有量を備えていたが、カビ付けを行った「仕上げ節」の場合はこれより20%程度少ない15%程度の水分含有量まで減じられる。
【0020】
然し乍、「仕上げ節」における上記のような水分含有量の分布は、表面部分の方が中心部分に比して水分含有量が少なくなったり、肉質組織の不連続性の存在に基いたりすることに起因して、局部的なる乾燥むら、すなわち、分子の不均一性が生じることは、上記カビ付けの作用形態から確認されている。
【0021】
上記したムラは時間の経過と共に顕著化する傾向がみられ、その理由は、「仕上げ節」はその表面にコウジカビによる層が形成されているため、内部の水分移動が困難化されることにより生じるものと推定される。 これは製造後数年を経た「仕上げ節」の方が、削った際により一層粉末化され易いと言う事実からも確認される。
【0022】
本発明は、上述したような製造過程を採ることにより風味の良化が図られている「仕上げ節」において、その特性上(組織の不連続性からもたらされる柔軟性の欠如、すなわち脆さ性)から、必然的に生じる削り難さ(粉状に削られてしまう)と言う問題を解決し、最適状態に削ることが出来るようにしたことを特徴とするものである。
【0023】
本発明に係る方法は、仕上げ節に対して、50℃程度の熱湯シャワー内でのブラシ洗浄を1時間半〜2時間程度施すことによって、コウジカビを含めた表面皮を取る削り取り処理を施し、然る後、内部水分の浸透拡散を図るために芯温(内部温度)を50℃〜70℃程度に保持するための加熱処理を30分程度施した後に、内部水分を均等に除くことによって肉質の均一と緻密化を図るために24時間程度の寝かし冷却処理を施す。 そして、当該寝かし処理を施した仕上げ節を、不活性ガスを封入した包材内に密封するようにしたことを特徴とする。
【0024】
上述した「表面削り取り処理」であるが、手作業に基づき個々に行うようにしても良いが、通常は、50℃程度の熱湯シャワーを掛けながら、電動ブラシ等に基づき自動的な表面削り取り作業を行わせることが好ましい。
そして、このような作業は80分から140分程度とすることが実際上好ましい。 すなわち、これより長くても良いが、この場合歩留まりの悪化を招くこととなると共に、必要以上の削り取りがなされて、「仕上げ節」自体に不測の傷を付けたり、旨み成分を熱湯中に溶出させてしまったりする事態が生じることとなる。 そして、これより短い時間であると、充分なる表面削り取り処理が出来ないため、皮下脂肪油分を少し含む表面皮部分が残存してしまうこととなる。 このような事柄は実験の上確認された。
【0025】
更に、熱湯の温度を50℃程度としたのは、ブラシ洗浄の良好性を図るためにコウジカビを軟化し易くするためと、「仕上げ節」からの旨み成分の流出を防ぐためには適している温度であることが、実験的に確認されたためである。 換言すると、当該温度を高めればコウジカビの軟化はより一層図られるも、旨み成分の流出という事態を招いてしまい、旨み成分の流出を避けるためには当該温度を下げればよいが、今度はコウジカビの軟化が遅延化してしまうこととなる。 従って、熱湯の温度を50℃程度としたのは、当該両要素の許容範囲内の温度として最適であることを実験的に確認した上のものである。
【0026】
次に、前記した「加熱処理」であるが、これは上記した表面削り取り処理に基づき50℃の熱湯で1時間半〜2時間程度のブラシ洗浄を行うことにより、「仕上げ節」はその中心方向に向かっての含水化が図られる。 従って、このような含水化状態で、芯温(内部温度)が50℃〜70℃程度に至るような加熱処理を30分程度施すことにより、当該含水した水分が全体にいきわたり内部の水分の均一化が図られるような作用が奏されることとなる。
【0027】
なお、当該加熱方式は遠赤外線加熱機を用いることが好ましい。 これは遠赤外線効果に基づく熱線が内部まで到達するため、均一的な加熱目的が達成されるからである。 然し乍、当該加熱方式はこれに限定されるものではない。
【0028】
また、当該加熱温度を50℃〜70℃としたのは、上記含水した水分が気化状態ならずに水分として「仕上げ節」の中心に至るまで均一的なる浸透作用を奏させるためである。 そして、加熱時間を30分程度としたのは、実験を行ったところの最適とする時間であり、あまり長時間の加熱を行った場合、水分が蒸発して外部発散が行われ、かえって含水率の均一化を阻害してしまうからである。 すなわち、30分程度の加熱時間することにより、浸透している水分が無い均一的な含水作用が奏されることが、実験的に確かめられたからである。
【0029】
次に、上記した「加熱処理」後に施す「寝かし冷却処理」であるが、これは当該加熱処理に基づき、内部水分の均等化と肉質の緊密化を図るための待ち時間と、高温化した鰹節を常温に戻すために行うものである。 なお、24時間としたのはこのような目的達成のために充分な時間であることを実験的に確かめた時間である。
【0030】
上記のような「寝かし処理」を施した「仕上げ節」は、コウジカビが除去されているので、そのままの状態では、前述したようにして内部の含有水分が、時間の経過と共に発散喪失してしまうこととなる。 従って、これを防ぐために、上述したような一連の処理を施した後の「仕上げ節」を、例えば1本ずつ等少量ごとに、気密性を具えた包材に入れると共に不活性ガスを封入して密閉するものである。
【0031】
本発明に係る方法で得られた鰹節は、水分分布の均一化に基づくその全体的な硬さの均一化、すなわち、肉質の均一化が図られるため、家庭用の削り器を使用しても、極めてスムーズかつ容易に薄い花弁状(削り節として使用上最適と考えられている幅10mm〜30mm、長さ30mm〜60mm、厚さ0.3mm〜0.5mm程度の範疇に含まれる花弁状削り節)に削ることが出来た。
【0032】
また、味覚の上でも前記のような加熱処理に基き水分含有量が5%程度減じられるため、従来の「仕上げ節」が固有する風味をより一層向上されたことが、複数のモニターによる味覚試験の結果確認された。 そして、複数回によるコウジカビのカビ付けに基づく風味付け(熟成)が鰹節の内部まで成されているため、本発明方法に基きその外面に付着しているコウジカビを除去しても、既に形成されている全体的風味に対しては、何等マイナス的作用を奏することがなかったことも、味覚試験の結果確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
仕上げ節に対して、50℃程度の熱湯シャワー内でのブラシ洗浄を1時間半〜2時間程度施すことによって、コウジカビを含めた表面皮を取る削り取り処理を施し、然る後、内部水分の浸透拡散を図るために芯温(内部温度)を50℃〜70℃程度に保持するための加熱処理を30分程度施した後に、内部水分を均等に除くことによって肉質の均一と緻密化を図るために24時間程度の寝かし冷却処理を施すようにしたことを特徴とする仕上げ節を最適状態に削ることが出来るようにするための加工方法。
【請求項2】
仕上げ節に対して、50℃程度の熱湯シャワー内でのブラシ洗浄を1時間半〜2時間程度施すことによって、コウジカビを含めた表面皮を取る削り取り処理を施し、然る後、内部水分の浸透拡散を図るために芯温(内部温度)を50℃〜70℃程度に保持するための加熱処理を30分程度施した後に、内部水分を均等に除くことによって肉質の均一と緻密化を図るために24時間程度の寝かし冷却処理を施した仕上げ節を、不活性ガスを封入した包材内に密封するようにしたことを特徴とする仕上げ節を最適状態に削ることが出来るようにするための加工方法。
【請求項3】
芯温(内部温度)を50℃〜70℃程度に保持するための加熱処理を、遠赤外線加熱機を用いて行うようにした請求項1または請求項2の何れかに記載の仕上げ節を最適状態に削ることが出来るようにするための加工方法。

【公開番号】特開2012−19753(P2012−19753A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−161310(P2010−161310)
【出願日】平成22年7月16日(2010.7.16)
【出願人】(501112312)株式会社大和屋 (1)