代謝型グルタミン酸受容体7の調節による老人性難聴の治療及び/又は予防
本発明は、代謝型グルタミン酸受容体7(mGluR7)のモジュレーターを含む加齢に伴う聴力損失(老人性難聴)の治療及び/又は予防に関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、老人性難聴を治療及び/又は予防するための方法に関し、該方法は、代謝型グルタミン酸受容体7(mGluR7)のモジュレーターを、必要とする患者に投与する工程を備える。
【背景技術】
【0002】
老人性難聴は、聴力の損失であり、加齢に伴い殆どの人において徐々に生じる。65乃至75歳の間の年齢の成人の約30−35%は聴力損失を有している。75歳以上の人の40−50%が聴力損失を有していると推定されている。
【0003】
老人性難聴に関連した損失は、通常、高音に対してより大きいものとなる。例えば、すぐ近くの鳥のさえずり又は電話の呼出音を聞くことが困難となる人もいる。しかしながら、同じ人でも、通りを進むトラックの地響きの低音をはっきりと聞くことができる場合もある。
【0004】
老人性難聴には多くの要因がある。最も一般的には、加齢に伴う人の内耳の変化によって生じるが、老人性難聴は、中耳の変化、又は脳へと続く神経経路に沿った複雑な変化によることもある。老人性難聴は、最も頻繁には両耳で起こり、両耳に均等に影響を及ぼす。損失の進行は段階的なものであるため、老人性難聴を有する人は、その聴力の衰えに気が付かないこともある。
【0005】
老人性難聴では、頻繁に、音が明瞭ではなく音量が低いように感じられる。このことが、話し言葉を聞いて理解することが困難になる一因である。老人性難聴を患う個体は、以下に記載する内容のうち幾つかを経験することがある:他の人の話し言葉がつぶやき声である又は不明瞭であるように感じる。高音で、例えば「s」や「th」等は聴くこと及び区別が難しい。会話を理解することが困難であり、特に背景雑音がある場合には困難である。男性の声は、女性の声の高音よりも聞き易い。特定音が気に障る又は過度に大きいと感じる。耳鳴(片耳又は両耳における共鳴、轟音、シューという音)が生じることもある。
【0006】
(老人性難聴の型)
4種類の老人性難聴が存在する。感覚性老人性難聴は、高周波及び高音域を聴く能力において突然の損失をもたらす。神経性老人性難聴は、話し言葉を理解する能力を減少させる。血管条性又は代謝性老人性難聴は、比較的均一な聴力損失を生じさせる。蝸牛伝音性老人性難聴は、高周波を聴く能力の損失がより段階的であることが特徴である。
【0007】
(老人性難聴の要因)
感覚性聴力損失は、内耳又は聴神経の疾患により引き起こされる。老人性難聴は、通常、感覚性聴力疾患である。最も一般的には内耳内の段階的な変化が原因となる。日常的な交通音量又は建設工事、騒がしい職場、雑音を生成する機器、及び大音量の音楽に繰り返しさらされることによる累積的影響によって、感覚性聴力損失が引き起こされる。感覚性聴力損失は、最も頻繁には、有毛細胞(内耳の感覚受容体)の損失によるものである。これは、遺伝要因とともに、加齢、様々な健康状況、特定薬物(アスピリン及び特定の抗生物質)の副作用の結果、生ずる。
【0008】
老人性難聴は、心臓疾患、高血圧、糖尿病による血管性(血管に関連するもの)疾患、又はその他の循環問題が、耳への血液の供給を変化させることによって引き起こされることもある。損失は、軽度、中程度、又は重度のものである可能性がある。
【0009】
時には、老人性難聴は、伝音聴力疾患である、即ち、音感度の損失が外耳及び/又は中耳の異常によって引き起こされている。このような異常は、鼓室の膜(鼓膜)の機能低下、又は中耳内に存在するとともに鼓膜から内耳へと音波を運ぶ3つの小骨の機能低下を含むことができる。
【0010】
(治療の選択肢)
現在、老人性難聴への治療の選択肢は、高血圧等の想定される根本原因の治療、補聴器又は蝸牛移植、電話増幅器等の補助的な聴取装置、及び耳垢の除去を含む。聴力損失に対して臨床的に証明された治療方法はないため、これらの症状を予防、軽減、又は除去するために使用される薬物は、臨床的な観点から非常に望まれている。
【0011】
(グルタミン酸受容体)
L−グルタミン酸[L−Glu]は、哺乳類の中枢神経系における主要な興奮性アミノ酸神経伝達物質である。これは、イオンチャネル型グルタミン酸受容体(iGluR)及び代謝型グルタミン酸受容体(mGluR)のどちらも活性化することができる。前者は、イオンチャネルに結合し、典型的には、速い興奮性神経伝達を介在する。これに関連し、ジゾシルピン(MK801)等のNMDA(iGluR)受容体アンタゴニストが、聴力損失の治療用として提案されている。特許文献1を参照されたい。特許文献1の開示内容を参照することにより本発明に援用する。残念なことに、このようなNMDA受容体アンタゴニストは、重大な向精神性副作用を有することがある。
【0012】
iGluRとは対照的に、mGluRは、Gタンパク質結合受容体であり、二次メッセンジャー経路を介してニューロンの興奮性及びシナプス効力を調節する機能を有する。現在までに、mGluRの8つのサブタイプが同定されており、これらは、配列の類似性、二次メッセンジャー結合性、及び薬理作用に基づき、3つのグループに分類することができる。グループI(mGluR1とmGluR5)は、Gqに結合し、ホスホリパーゼCを活性化し、低いμM濃度の3,5−ジヒドロキシフェニルグリシン(DHPG)によって選択的に活性化される。対照的に、グループII(mGluR2とmGluR3)及びグループIII(mGluR4、6、7、8)は、Gi/Goを介して、アデニル酸シクラーゼと陰性に結合し、刺激されたcAMPの形成を抑制する。グループIIのmGluRは、(2S、1’S、2’S)−2−(ジカルボキシシクロプロピル)グリシン(DCG−IV)によって選択的に活性化されることができるのに対し、グループIIIのmGluRは、合成アゴニストであるL−アミノ−4−ホスホノ酪酸(L−AP4)及び内因性リガンドであるL−セリン−O−リン酸(L−SOP)によって選択的に活性化されることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許第2007/0015727号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
老人性難聴の一般的基礎及び生物学をより理解し、治療及び/又は予防のためのより安全且つ効果的な薬物療法を開発するという重大で未だ対処されていない要求が存在している。
【課題を解決するための手段】
【0015】
好適な実施形態において、本発明は、ヒトの老人性難聴を予防及び/又は治療するための方法に関する。本方法は、mGluR7の受容体モジュレーターを含む医薬組成物を治療に効果的な量、ヒトに投与する工程を備える。一実施形態では、モジュレーターは選択的mGluR7アゴニストである。他の実施形態では、選択的mGluR7アゴニストはAMN082である。
【0016】
一実施形態では、GluR7モジュレーターの使用は、加齢に伴う聴力損失(老人性難聴)を治療又は予防するための薬剤の製造において開示される。モジュレーターは、好ましくは選択的mGluR7アゴニストである。より好ましくは、選択的mGluR7アゴニストは、AMN082である。薬剤は、本発明の実施形態に従い、局所、経口、もしくはポンプ送達、又は正円窓又は前庭窓を介した送達用として調製されることができる。
【0017】
本発明の実施形態に従って、加齢に伴う聴力損失を治療又は予防するための医薬組成物が開示されている。本組成物は、好ましくはmGluR7のモジュレーターを含み、このmGluR7のモジュレーターとしては、例えば選択的mGluR7アゴニストであるAMN082等が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】上位250のSNPは、個別の遺伝子型を優先させたものである。全てのSNPは全てのユーロ(EURO)集団に及んで同様の効果傾向を有していた。第1工程は、これらを、プールされたコホートにおいて立証することであった。
【図2】プールされたデータの分析−ユーロ。210のSNPがQCを通過した。90%コールレート。HWE+0.05。MAF>5%。88のSNPがp値<0.05であった。
【図3】プールされたデータの分析−フィンランド。170のSNPがQCを通過した。90%コールレート。HWE=0.05。MAF>5%。156のSNPがp値<0.05であった。
【図4】ヒト疾患変異体とその他の突然変異体の編集(compilation)。UCSC既知遺伝子(2005年6月)。UniProt、Refseq、及びGenBankのmRNAに基づく。
【図5】マウスの内耳におけるmGluR7(GRM7とも記載する)の免疫組織化学結果である。−a、b、c、及びf)成体マウスにおけるGRM7発現であって、らせん神経節(SG)ニューロン(a)、コルチ器官のIHC(矢印)及びOHC(矢じり)(a、f)、膨大部稜の有毛細胞(b)と球形嚢の有毛細胞(c)である。−d、e、f)GRM7発現の比較であって、コルチ器官のIHC(矢印)とOHC(矢じり)において、PD1段階(d)、PD21段階(e)、及び成体(adult)(f)におけるものである。スケールバーは20μmである。
【図6】ヒトの側頭骨におけるmGluR7(GRM7とも記載する)の免疫組織化学結果である。(a)水平に切断した側頭骨の前底区であって、一次抗体としてmGluR7で標識され、二次抗体としてビオチン化IgGで標識され、クロマゲン(MBIC)により高速に赤色化された。ヘマトキシリン(H)は対比染色として用いられた。赤色標識は、その縁の歯間細胞、コルチ器官の有毛及びヘンゼン細胞、並びにタイプII領域又はらせん靱帯における線維芽細胞において、可視であった。緩やかな歪みは、非セロイド化切片をマウントすることが困難であるためである(×100)。(b)より高倍率を用いて縁の歯間細胞の赤色標識を示す(MBIC&H ×200)。(c)標識された有毛細胞及びヘンゼン細胞を有するコルチ器官である(MBIC ×400)。(d)MBIC&Hで標識されたらせん神経節である(×400)。
【図7】rs11928865周囲の400kb領域におけるヨーロッパ人の複製サンプルにおけるGRM7遺伝子座の精細マッピングは、トレーニングと複製コホートの両方の組み合わせにおいて精細マッピングの結果を示す。図面の上部には、400kb領域内のGRM7エクソンの位置が、数字付の垂直バーによって示される。各SNPに対する個別の有意性は、GRM7遺伝子座内の各位置における黒丸で示される。LD構造は、図面の下部において括弧内に数字が付されたハプロタイプブロックとともに示されている。各ハプロタイプブロックに対する相対的有意性は、図面においても、有意レベルと各ハプロタイプブロックの位置の両方を示す数字付の各水平バーとともに示されている。
【発明を実施するための形態】
【0019】
加齢に伴う聴力損失(老人性難聴)の原因となる遺伝学及び生物学をよりよく理解するため、より詳細には、老人性難聴に関連する可能性がある遺伝子を同定するために、治療標的として潜在的に利用可能であるヒトゲノムのスキャンが、アフィメトリクスSNPアレイを用いて実施された。mGluR7(本明細書ではGRM7とも記載される)は、非常に強力な候補領域に現れた。
【0020】
mGluRファミリーの幾つかのその他のメンバーと同様に、mGluR7は、シナプス前終末において主に局在し(Ohishi, H. et al. 1995 Neurosci. Lett. 202:85-88; Kinoshita, A. et al. 1998 J. Comp. Neurol. 393:332-352)、シナプス前終末は、神経伝達物質の放出を制御すると考えられている部分である。しかしながら、シナプス前mGluRサブタイプの中で、mGluR7は、最も広く分布し、そして、正常なCNS機能及びヒト疾患範囲の両方に重大であるとみなされているシナプスにおいて広範囲に存在している。さらに、幾つかのシナプス前mGluRサブタイプとは異なり、mGluR7は、グルタミン酸性シナプスのシナプス間隙のシナプス前区域に直接的に局在する(Kinoshita, A. et al. 1998 J. Comp. Neurol. 393:332-35, Kosinski, CM. et al.1999 J. Comp. Neurol. 415:266-284)。このグルタミン酸性シナプスとは、活動電位がある間にシナプス前終末から放出されたグルタミン酸によって活性化される従来の自己受容体として作用すると考えられている。mGluR7は、グルタミン酸性シナプスにおけるシナプス応答を形成するとともに抑制性のGABA性伝達の重要な側面を制御するための中心的存在(キープレーヤー)であると考えられてきた(Kinoshita, A. et al. 1998 J. Comp. Neurol. 393:332-35, Kosinski, CM. et al.1999 J. Comp. Neurol. 415:266-284)。しかしながら、mGluR7は、選択的リガンドの発見という観点からは、mGluRサブタイプの中で最も解決困難なものであった。AMN082が発見されるまでは、この受容体の選択的アゴニスト又はアンタゴニストは存在しなかった。例えばL−AP4等のような利用可能なアゴニストは、最も近い受容体であるmGluR4、6、及び8を活性化するのに必要な濃度よりも、2−3桁高い濃度においてのみmGluR7を活性化する。これによって、これら関連mGluRサブタイプの活性化によって誘導される影響によって混乱させられることなく、本受容体の活性化による生理学的影響を検討することは不可能であった。この薬理学的手段が欠落しているにも関わらず、解剖学及び細胞学研究とともにmGluR7ノックアウト(KO)マウスを用いた実験によって、この受容体に対する選択的リガンドは、広範囲な各種の神経学及び精神医学疾患の治療のための潜在性を有していることが提示されてきた。この疾患としては、とりわけ、鬱病、不安症、統合失調症、てんかん、アルツハイマー症、及びパーキンソン病が含まれる。
【0021】
神経系における神経伝達物質のシナプス放出は、頻繁に、シナプス前mGluRによって影響を受ける。このシナプス前mGluRとは、同じ神経末端又はその他のニューロンの末端から放出された神経伝達物質に順次応答するものである。mGluRは、長期増強(LTP)又は長期抑圧などのシナプス可塑性において多様な役割を果たし、シナプス可塑性の形態は、脊椎動物における学習及び記憶に関連すると考えられている。シナプス前mGluR自己受容体は、グルタミン酸に応答し、神経末端からの神経伝達物質放出の確率に影響する。一般的には、シナプス前mGluR(例えば、L−AP4によって活性化されるクラスIIIのmGluR)の活性化は、多くの脳領域において、シナプスからの伝達物質放出を低減することが発見されてきた。
【0022】
これらの発見により、mGluRは、様々なCNS指標のための推定標的として関心が集まった。このCNS指標とは、不安感、痛み、神経防護作用、てんかん、パーキンソン病、及び認識力障害を含む。網膜だけに発現するmGluR6を除いて、全ての他のmGluRは、主に神経末端に発現する。この神経末端とは、これらmGluRが中心及び末梢の神経系における神経伝達物質の放出を抑制する箇所である(Shigemoto, R. et al.: Handbook of Chemical Neuroanatomy Vol. 18, pp. 63-98内, Ed. Ottersen Storm-Mathisen, Amsterdam, Elsevier)。mGluRは、大きな両葉の細胞外N−末端を有していることが提示されてきた。このN−末端は、グルタミン酸が二分葉間の間隙内で結合し、閉塞配座を安定化させる箇所である(Yang, Z.-Q. 2005 Curr. Topics Med. Chem. 5:913-918)。研究によれば、mGluRのC−末端もまた、受容体−リガンド結合に影響を及ぼす重大な役割を有することが提示されている。
【0023】
代謝型受容体の一般構造は、グルタミン酸結合部位、システインリッチ領域、7回膜貫通型ドメイン、及び細胞内C−末端領域からなる。後者のドメインは、アイソフォームGRM7_v1において大々的に研究されており、3つの機能領域に分けられると考えられる。最も近接して取り囲むアミノ酸(aa)残基856−878は、複合体のシグナル伝達という役割を有しており、中央部(aa883−915)は、軸索の標的化に関与する一方、接近したC−末端(aa912−915)は、95kDaシナプス後密度タンパク質(PSD−95)discs−large(Dlg)/zona occludens(密着結合)−l(ZO−1)(PDZ)ドメインを介した受容体のシナプス集団化(クラスタリング)に関与している(Dev, K.K. et al. 2001 Trends Pharmacol. Sci. 22:355-361)。
【0024】
上述した如く、mGluRファミリーの1メンバーであるmGluR7は、特徴付けが依然乏しいままである。mGluR7は、mGluRファミリーのうちで最も保存されたメンバーであり、ラットとヒトのタンパク質の間で6−8アミノ酸の違いのみが観察される。mGluR7は、神経系の至るところに広範囲に分布されており、神経伝達物質放出部位の近くでシナプス前性に局在している。海馬では、高密度のmGluR7アイソフォームが、特に、mGluR1α上にシナプス形成する興奮性細胞のシナプス前末端において発見される。このmGluR1αとは、ソマトスタチンをも発現するGABA作動性介在ニューロンを発現する。したがって、介在ニューロンのこの特定クラスの入力は、特に強力なmGluR7介在型自動調節能によって与えられるようにみえる。このことは、なぜか当分の間は推測にとどまっており、この独特なmGluR7介在型自動調節能は、海馬のネットワークにおけるmGluR1α1−陽性の介在ニューロンの役割に関与する可能性があることが提案されている(Shigemoto et al. 1996 Nature 318:523-525)。mGluR1α+細胞は、主細胞の軸索側枝からのグルタミン酸作動性入力を受け取る。mGluR1α+細胞のGABA作動性末端は、主細胞の遠位樹状突起においてシナプスを形成し、また嗅内皮質からの直接的興奮性入力も受け取る。
【0025】
mGluR7(GRM7とも称される)は、元来、ラットの前脳相補性DNA(cDNA)ライブラリーからクローンされたものであった(Okamoto, N. et al. 1994 J. Biol. Chem. 269:1231-1236)。続いて、ヒト相同体が同定された(Makoff, A. et al. 1996 Mol. Brain Res. 40:165-170, GenBank受入番号CAA64245)。そしてその後、2つのアイソフォームGRM7_v1とGRM7_v2(以前はmGlu7a及びmGlu7b)が報告された(Flor, PJ. et al. 1997 Neuropharmacol. 36: 153-159, GenBank受入番号NP_000835とNP_870989)。2つの転写変異体の相違は、コーディング領域の3’末端における92bpのアウトオブフレーム挿入によって生じたものであり、特異的なC−末端を有する915と922aaの2つの推定タンパク質をもたらすことになる。GRM7_v1アイソフォームは、CNSの至るところに発現する(Kinoshita, A. et al. 1998 J. Comp. Neurol. 393:332-352)。その一方、GRM7_v2の脳内における局在化は、より制限されているように見受けられ、優先的に、海馬、腹側淡蒼球、及び淡蒼球等の特異的な領域において発見される(Kinoshita, A. et al. 1998 J. Comp. Neurol. 393:332-352)。どちらのアイソフォームもグルタミン酸放出部位近傍のシナプス前軸索末端の活性領域において局在する (Kinoshita, A. et al. 1998 J. Comp. Neurol. 393:332-352; Saugstad, J.A. et al. 1994 Mol. Pharmacol. 45:367-372)。最近、Schultz, H.L.ら(2002 Neurosci. Lett. 326:37-40) は、mGluR7の3つの新規アイソフォームを同定し、これらは、GRM7_v3、GRM7_v4、及びGRM7_v5と呼ばれている (GenBank受入番号は、それぞれ、AF458052、AF4458053 及びAF458054である)。
【0026】
最近、mGluRの新規アゴニストと新規アンタゴニストの開発は急速に進展している (Schoepp, D.D. et al. 1999 Neuropharmacol. 38:1431-1476)。しかしながら、これらリガンドの殆どの治療的有用性は、各サブタイプへの選択性が欠如していること及びCNSへの浸透が不十分であることによって妨げられる。最も良く知られているmGluRアゴニストは、mGluR7に対して全く又は殆ど活性を示さない。(R,S)−ホスホノフェニルグリシン(PPG)の異性体の活性、(+)−PPGは、最近まで、mGluR7に対して最も潜在性があるアゴニストであったものであり、ヒトmGluR7bに対して48μMのEC50値を備えている(Yang, Z.-Q. 2005 Curr. Topics Med. Chem. 5:913- 918)。しかしながら、(+)−PPGは、mGluR4aに対してより活性が高いことが発見された(EC50=3.2μM)。
【0027】
Mitsukawaらによって記載されるAMN082と呼ばれる化合物(2005 PNAS USA 102:18712-18717)は、mGluR7を活性化する新規化合物を求めて、小さい薬らしい(drug-like)分子のライブラリーのランダムなハイスループット・スクリーニング(HTS)を用いて同定された。このスクリーニングと次に続く実験によって、AMN082は、mGluR7に対して非常に選択性が強い潜在的なアゴニストとして現れた。この重大な受容体サブタイプに対する初めての選択的リガンドを提供することに加えて、AMN082は、グルタミン酸結合ポケットとは全く違うアロステリック部位においてmGluR7を十分に活性化させるという固有の作用機構によって役目を果たす。この化合物は、全ての既知のmGluRのリガンドとは構造的に関連性がなく、既知の化学的骨格とは関連性が無い新規化合物を同定するというHTSの能力の好例を提供している。注目すべきことに、この第1のHTSのヒット作は、経口で活性があるとともに血液脳関門を浸透することが発見された。実際には、AMN082は、mGluR7ノックアウト動物では見られないストレスホルモンレベルを堅調に増加させた。このことは、この受容体のアンタゴニストが、鬱病及び不安症等の慢性的なストレスに関与する症状に有用である可能性があると提示する一連の高まる発見を強力に支持する。しかしながら、これら研究から推測される結果は、ストレス反応におけるmGluR7の役割からは大きく逸れている。
【0028】
L−CCG−I (2S、1’S、2’S)−2−(ジカルボキシシクロプロピル)グリシン[DCG−IV] のカルボン酸誘導体は、グループIIの選択的アゴニストである。グループIIIのmGluRのアンタゴニストも存在する。グルタミン酸刺激性イノシトールリン酸蓄積の抑制におけるIC50値は、mGluR6、7及び8においてそれぞれ39.6、40.1及び32μMとして報告されている。同様に、LY341495であるキサンテン置換L−CCG−Iは、グループIIのmGluRの選択的アンタゴニストであり、これもmGluR5、7及び8において潜在的なアンタゴニスト活性を示す。mGluR7に対する[3H]LY341495の結合を測定したKd値は0.0727mMである。
【0029】
最近、Suzukiら(2007 JPET 323:147-156)は、新規のイソオキサゾロピリドン誘導体である代謝型グルタミン酸受容体(mGluR)7アンタゴニストの発見及び薬理特性を報告した。5−メチル−3,6−ジフェニルイソオキサゾロ[4,5−c]ピリジン−4(5H)−one(MDIP)がランダムスクリーニングによって同定され、そして、MDIPの化学修飾によって、6−(4−メトキシフェニル)−5−メチル−3−ピリジン−4−イルイソオキサゾロ[4,5−c] ピリジン−4(5H)−one(MMPIP)が生成された。MDIPとMMPIPは、ラットのmGluR7とG15(IC50=20と26nM)を共発現するチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞において、L−(+)−2−アミノ−4−ホスホノ酪酸(L−AP4)−誘導型細胞内のCa2+流動を抑制した。アゴニストの濃度反応曲線における最大反応は、MMPIPの存在下で減少し、その拮抗作用は可逆性であった。MMPIPは、mGluR7に結合する[3H](2S)−2−アミノ−2−[(1S,2S)−2−カルボキシシクロプロップ−1−イル]−3−(キサント−9−イル)プロパン酸(LY341495)を置換しなかった。これらの結果は、このイソオキサゾロピリドン誘導体はアロステリックなアンタゴニストであることを提示した。ラットのmGluR7を発現するCHO細胞において、MDIPとMMPIPは、ホルスコリン刺激性cAMP蓄積のL−AP4誘導型抑制を抑制した(IC50=99、及び220nM)。ヒトmGluR7とG15を共発現するCHO細胞では、MDIPとMMPIPは、L−AP4誘導型cAMP反応も抑制した。cAMPアッセイにおいて、MMPIPによる抑制の最大度は、MDIPによる抑制の最大度よりも高かった。MMPIPは、アロステリックなアゴニストに拮抗することができ、このアゴニストとは、cAMP蓄積のN,N’−ジベンズヒドリル−エタン−1,2−ジアミンジヒドロクロライド(AMN082)−誘導型抑制であった。これらアゴニストが無い状態において、MMPIPは、mGluR7を発現するCHO細胞においてホルスコリン刺激性cAMP濃度をさらに増大させた。その一方で、競合的なアンタゴニストであるLY341495はしなかった。この結果は、MMPIPが逆アゴニスト活性を有していることを示している。MMPIPの固有活性は、百日咳毒素感受性があり、mGluR7依存性であった。少なくとも1μMの濃度におけるMMPIPは、mGluR1、mGluR2、mGluR3、mGluR4、mGluR5、及びmGluR8において有意な効果は示さなかった。MMPIPは、第1のアロステリックなmGluR7選択的アンタゴニストであって、中枢神経系におけるmGluR7の役割を解明するための薬理学的手段として潜在的に有用となる可能性がある。追加的なmGlur7アンタゴニストは、米国特許第7053219号に記載された化合物から選択することができる。
【0030】
【0031】
GRM7サブタイプの正確な生理学的機能はまだ不明瞭ではあるが、オーソロガスマウスGrm7遺伝子座の標的破壊は、恐怖反応における欠損と味覚嫌悪の機能障害を引き起こすことが示されてきた。これは、これらの行動特性に関連して不可欠なへんとう体の機能におけるGrm7の重要な役割を提示している(Masugi, M. et al. 1999 J. Neurosci. 19:955-963)。Grm7欠損薬物誘導マウスは、てんかん性発作を受け易く、このことは、Grm7が神経細胞興奮性の制御において特に重要である可能性を示唆している(Sansig, G. et al. 2001 J. Neurosci. 21 :8734-8745)。
【0032】
好適な実施形態では、本発明は、特異的にmGluR7受容体のモジュレーターとして作用する医薬組成物の使用に関し、これにより老人性難聴を治療又は予防する。
【0033】
一実施形態では、本発明は、ヒトの老人性難聴を治療する方法に関する。本方法は、mGluR7受容体モジュレーターを含む医薬組成物を治療に効果的な量、ヒトに投与する工程を備える。mGluR受容体モジュレーターは、このような治療が必要なヒトにおいて老人性難聴の症状を効果的に軽減する又は緩和する量及び期間、投与される。
【0034】
他の実施形態では、本発明は、ヒトの老人性難聴を予防するための方法に関する。本方法は、ヒトに治療に有効な量のmGluR7受容体モジュレーターを含む医薬組成物を投与する工程を備える。本方法では、mGluR7受容体モジュレーターは、このような治療が必要な個体において老人性難聴の症状を効果的に予防する量及び期間、投与される。
【0035】
(投与及び製剤)
患者へ化合物を送達することは、経口投与、静脈内投与、皮下投与、腹腔内投与、筋肉注射、直腸内投与、又は局所的投与によってなされる。その一方で、治療的に効果的な量の全身投与を行うと望ましくない副作用を引き起こす可能性があるため、一般的には内耳への局所的な投与が好まれる。当業者であれば理解できることではあるが、本発明におけるmGluR7受容体モジュレーターの投与は、他の様々な方法によって達成可能性である。本発明の投与における唯一の必要条件は、発症した個体におけるmGluR7受容体介在型異常活性の部位に到達することが可能なmGluR受容体モジュレーターを含む医薬組成物が治療に効果的な量存在することである。
【0036】
内耳への化合物の投与は、様々な送達手技を用いることによって達成することができる。これらは、標的方法で化合物を正円窓又は前庭窓の膜に輸送及び/又は送達するための装置又は薬物担体の使用を含む。正円窓又は前庭窓の膜において、これら化合物は、内耳内に拡散する又は能動的に注入される。例は、Otowicks (例えば、米国特許第6,120,484号参照、Silverstein)、正円窓カテーテル(例えば、米国特許第5,421,818号、第5,474,529号、第5,476,446号、第6,045,528号参照、全てArenberg。又は、第6,377,849号、及びその分割出願第2002/0082554号参照、Lenarz。)又は、様々なタイプのジェル、フォーム、フィブリン、もしくはその他の薬物担体が挙げられ、正円窓の隙間もしくは前庭窓上において配され、持続放出を可能とする化合物が加えられる(ManningによるWO97/38698、Silversteinらによる1999 Otolaryagology-Head and Neck Surgery 120:649-655、Baloughらによる1998 Otolaryngology- Head and Neck Surgery 119:427-431))。これらは、さらに蝸牛管又は蝸牛の他の任意部分に挿入される装置の使用も含む(例えば米国特許第6,309,410号参照、Kuzrna)。化合物は、鼓膜を超えて(transtympanic)注入されることによって内耳へと投与することもでき、中耳又は中耳の一部は、化合物の溶液又はその他の担体によって満たされる(例えば、Hofferらの 2003 Otolaryagologic Clinics of North America 36:353-358を参照)。内耳への好ましい投与方法は、正円窓膜を通過する拡散によるものである。これは、中耳空間から比較的容易に接近可能であり、内耳が損傷を受けないため、蝸牛内の液体の漏れという潜在的な問題を回避できる。
【0037】
好適な実施形態では、化合物は、中内耳膜を通過する送達と相性の良い任意の様々な製剤として提供されることができるが、このような製剤は、安定(即ち、体温で許容できない量の分解がされないこと)である必要がある。化合物は、中内耳膜構造を通過する薬物の送達と拡散に好適な任意の形態で提供されることができ、例えば、固体、半固体、ゲル、液体、懸濁液、エマルション、浸透圧投薬製剤、拡散投薬製剤、浸食製剤等が挙げられる。一実施形態では、製剤は、内耳の正円窓の隙間に挿入されたカテーテルに関連する埋め込みポンプ、例えば浸透圧ポンプを用いることにより、送達に好適なものとなる。
【0038】
医薬品グレードの有機又は無機担体、賦形剤、及び/又は希釈剤は、本製剤に含まれることができる。製剤は、生理的pH値におけるリン酸ナトリウムなどの緩衝液、生理食塩水、又はその両方(即ち、リン酸緩衝食塩水)を任意で含むことができる。好適な賦形剤は、デキストロース、グリセロール、アルコール(例えばエタノール)等、及び、これら1種以上と、植物油、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ベンジルアルコール、安息香酸ベンジル、ジメチルスルホキシド(DMSO)、有機物等の組み合わせを含むことができ、これにより好適な組成物を提供することになる。さらに、必要に応じて、組成物は、疎水性又は水溶性界面活性剤、分散剤、湿潤又は乳化剤、等張剤、pH緩衝剤、溶解促進剤、安定剤、防腐剤、及び医薬品の調合に用いられるその他の典型的な補助添加物を含むことができる。化合物は、溶液、懸濁液、及び/又は沈殿物として調合して提供されることができる。
【0039】
本発明の医薬組成物内に含まれる化合物は、薬学的に許容可能な塩の形態で提供されることができる。このような塩の例は、有機塩(例えば、酪酸、乳酸、クエン酸、リンゴ酸、ホルマリン酸、酒石酸、ステアリン酸、アスコルビン酸、コハク酸、安息香酸、メタンスルホン酸、トルエンスルホン酸、又はパモン酸)、無機塩(例えば、塩酸、硝酸、二リン酸、硫酸、又はリン酸)、及びポリマー酸(例えば、タンニン酸、カルボキシメチルセルロース酸、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、又はポリ乳酸−グリコール酸の共重合体)で生成されたものを含むが、これらに限定されない。
【0040】
本発明のいかなる投与経路においても、医薬組成物は、治療効果を有する量の有効成分を含み、必要に応じて、無機又は有機、固体又は液体の薬学的に許容可能な担体であってもよい。内耳への局所的な投与に適した医薬組成物は、水溶液又は懸濁液を含む。即ち、医薬組成物は、例えば凍結乾燥製剤である場合には、有効成分のみを含む又は有効成分を担体とともに含み、使用前に調製することが可能である。これら医薬組成物はさらに、ゲルを含み、生分解性もしくは非生分解性、水溶性もしくは非水溶性、又はミクロスフェアベースであることができる。このようなゲルの例は、ポロキサマー、ヒアルロン酸、キシログルカン、キトサン、ポリエステル、ポリ(ラクチド)、ポリ(グリコリド)又はこれらの共重合体PLGA、イソ酪酸酢酸スクロース、及びグリセロールモノオレエートを含むがこれらに限定されない。腸内又は非経口投与に適した医薬組成物は、上述した如く、錠剤もしくはゼラチンカプセル、又は、水溶液もしくは懸濁液を含む。
【0041】
医薬組成物は、殺菌可能であり、及び/又は補助剤(例えば、保存料、安定剤、湿潤剤及び/又は乳化剤、浸透圧を調整する塩、及び/又は緩衝液)を含むことが可能である。本発明の医薬組成物は、必要であれば、さらに薬学的な有効物質を含む。これら医薬組成物は、薬学の分野で公知である任意の方法、例えば、従来型の混合、粒状化、糖剤化、溶解、又は凍結乾燥方法を持いて調製することができ、0.01乃至100%、好ましくは0.1乃至50%(凍結乾燥は100%まで)の有効成分を含む。
【0042】
好適な実施形態では、医薬組成物は、局所適用に使用されるものとして製剤される。耳への投与における好適な賦形剤は、有機又は無機物質であり、薬学的に許容可能であり、活性化合物とは反応しない。この活性化合物とは、例えば、生理食塩水、アルコール、植物油、ベンジルアルコール、アルキレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセロールトリアセテート、ゼラチン、ラクトース又はでんぷん等の炭水化物、マグネシウム、ステアレート、タルク、及びペトロラタムである。示された製剤は、殺菌可能であり、及び/又は、例えば潤滑油等の補助物質、チメロサール等の保存料(例えば50%で)、安定剤、及び/又は湿潤剤、乳化剤、浸透圧に影響を与える塩、緩衝液物質、着色剤、及び/又は芳香物質を含むことができる。
【0043】
医薬組成物は、1以上の他の活性成分を含むことも可能である。本発明の態様に係る耳用組成物は、抗生物質等の他の生物学的活性薬剤、例えばフルオロキノロン、抗炎症剤、例えばステロイド、コルチゾン、鎮痛剤、アンチピリン、ベンゾカイン、プロカイン等の各種成分を含むことができる。一実施形態では、医薬組成物は、mGluR7モジュレーター及びiGluRモジュレーターの組み合わせを含むことができ、例えばUS第2007/0015272号に開示されるNMDA受容体アンタゴニスト等が挙げられ、これはD−2−アミノ−5−ホスホノペンタノエート(D−AP5)、ジゾシルピン(MK801)、7−クロロキヌレン酸(7−CK)及びガシクリジン(GK−11)を含むがこれらに限定されない。
【0044】
局所的投与に使用される本発明の好適な実施形態に係る組成物は、薬学的に許容可能なその他の成分を含むことが可能である。本発明の好適な実施形態では、局所的な賦形剤は、耳に投与した時に、体循環又は中枢神経系へと薬物を運搬することを促進しないものが選択される。例えば、一般的には実質的な閉塞特性を有していない局所的な賦形剤であることが好ましく、これにより粘膜を通って体循環へと経皮伝達が促進される。このような閉塞性賦形剤は、炭化水素ベース、親水性ワセリン及び脱水ラノリン(例えばアクアフォー)等の無水吸収ベース、並びにラノリン及びコールドクリーム等の油中水型乳剤ベースを含む。より好ましくは、賦形剤は、実質的に非閉塞性であり、一般的には、水溶性であり、例えば水中油型乳剤ベース(クリーム又は親水軟膏)及び水溶性ベース(例えばポリエチレングリコールベースの賦形剤)、及び各種薬剤(メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、及びヒドロキシプロピルメチルセルロース(例えばKYゲル))によってゲル化された水溶液を含むものである。
【0045】
好適な局所的賦形剤(excipient and vehicle)は、当業者によって、特に、多くの技術的な標準テキストのうちの一つ(例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences, Vol. 18, Mack Publishing Co., Easton, PA (1990), 特に87章)を参照することによって、特定使用のために日常的に選択可能である。例として、本発明の態様に係る生理活性薬剤は、薬剤の透過を促進する促進剤と組み合わせることもできる。
【0046】
医薬組成物は、老人性難聴が進行する前、又は老人性難聴が診断された後に投与されることが可能である。投与量は、投与方法、治療継続時間、治療される対象者の健康状態、老人性難聴の重症度及び使用特定化合物の有効性、年齢、体重、健康の全身状態、性別、食生活、投与時間及び投与経路、排出率、及び主治医によって決定される最終的な薬物の組み合わせに応じて変化させることも可能である。治療継続時間は、約1時間乃至数日、数週間、又は数ヶ月の範囲に及ぶことができ、長期的治療に延長することもできる。到達されるべき治療に効果的な量の医薬組成物は、約0.1ナノグラム/時間乃至約100マイクログラム/時間の範囲に及ぶことができる。医薬組成物は、好ましくは、その他の耳用に投与された化合物と類似して投与される。局所的投与における用語「投与量(dosage)」は、1回の治療において投与される薬物量を意味し、例えば、約0.05−1μgのmGluR7受容体モジュレーターであり、耳に2滴投与される。
【0047】
治療学的な有効量は、発症した個体における老人性難聴を抑制する又は低減するのに効果的な量として定義される。上述の如く、治療学的な有効量は、治療用の特定のmGluR7受容体モジュレーターの選択、及び投与方法に応じて変動させることができる。例えば、静脈内投与されたmGluR7受容体モジュレーターは、耳の正円窓膜又は前庭窓に局部的に投与された同じ医薬組成物のmGluR7受容体モジュレーターと比較して高用量必要となる。さらに、より低用量のmGluR7受容体モジュレーターしか必要としないのは、本発明のmGluR7受容体モジュレーターが、低親和性で結合するmGluR7受容体モジュレーターであるよりもmGluR7受容体と高親和性で結合するときである。結果として、mGluR7受容体に対して高結合親和性を備えるmGluR7受容体モジュレーターが好ましい。
【0048】
治療継続時間は、治療が望まれている老人性難聴の特定の形態−急性、亜急性、又は慢性に応じて変動可能である。指針としては、短い治療継続時間は、好ましいものであり、一旦治療が終了すると老人性難聴が再発しない場合は十分である。長い治療継続時間は、老人性難聴が短期間の治療後にも継続する個人に対して用いられる。
【0049】
本明細書に開示される老人性難聴を治療又は予防するための独創的な方法は、治療学的に有効な量のmGluR7受容体モジュレーターを含む医薬組成物を使用することを類似して可能とするものであり、有利に、ヒトにおけるmGluR7受容体介在型異常活性を効果的に調節し、老人性難聴を治療又は予防するための薬剤の製造に使用される。
【0050】
(実施例1)
全ゲノム関連研究(WGAS)は、一般的な変異体の発見を促進するものであった。ありふれた疾患共通変異(CDCV)仮説は、分析された一塩基多型(SNP)(マーカー)が進化を通じて発生したものであり、昔は保護されていた可能性があるという事実に基づくものである。WGASに対して、我々は「非血縁」の個体=未知の距離関係を有するものを利用した。研究に要する期間が長いために、我々は、各世代からサンプルを収集することができなかった。我々は表現型と遺伝子型間の統計上の相互関係に頼った。疾患を有する及び疾患を有さない個体の全ゲノムコードを比較するよりも、我々はヒトゲノムの様々な場所に存在する代理マーカーを信頼した。最も一般的に使用されているマーカーは一塩基多型(SNP)と呼ばれる。
【0051】
老人性難聴は、生存中の後半において現れる一般的な疾患であるため、疾患として、CDCV仮説に従う可能性が高い。したがって、疾患に関連すると考えられる任意のSNPマーカー(したがって、我々の実験においても分析に用いた)は、ヒトの歴史において負の淘汰圧がなかった可能性がある。最後に、老人性難聴は、遺伝的側面を有していることで知られている。したがって、老人性難聴は、WGASにとって優秀な候補者であった。
【0052】
(WGASデザイン)
民族性に整合した症例及び対照個体の臨床的な表現型同定及び収集(表1参照)。
【0053】
出発物質(DNA)の品質管理。
【0054】
〜500,000のSNPマーカーにおける全ゲノム関連研究。
【0055】
関連する大量なデータの総合的分析。
【0056】
固有臨床コホートにおける最も有意性のあるSNPの調査。
【0057】
有効な遺伝的発見を支持するための生物学的実験。
【0058】
新しいコホートにおける発見の完全独立検証。
【0059】
(臨床的基準)
我々は、平均閾値(Z値)から発散する記録聴覚閾値がどれくらいの標準偏差であるかを計算した。具体的には、年齢(55−65の間)、性、及び周波数に特異的である。我々は、Z値の平均として、2、4、及び8kHzを用いた。空気と骨伝導を用いた純音閾値は、0.125、0.25、0.5、1、2、4、及び8kHzで記録された。
【0060】
(除外)
伝導成分(0.5、1、及び10dBを超える2kHzにおける平均気骨導差)。
【0061】
4kHzにおける下降(4kHz閾値が8kHz閾値を20dB以上で越えた場合)
【0062】
聴力に影響を与える可能性がある疾患:慢性中耳炎、自己免疫疾患、化学療法、関節リウマチ。
【0063】
【表1】
【0064】
(品質検査)
サンプルは、劣化DNAを同定するためにゲル電気泳動によって検査された。劣化DNAは1つも発見されなかった。
【0065】
(定量法)
ピコグリーン(PicoGreen)アッセイ:各サンプルは、3倍が定量化された(1,859×3=5,577サンプルが定量化された)。サンプル濃度は、ヒトゲノムDNAを用いた8ポイントの標準曲線によって決定された:200、100、50、25、12.5、6.25、3.125、及び0ng/μl。サンプル濃度は、3つの複製物からの平均値を用いて計算した。サンプルは、3つの値のいずれかが他の値の2倍よりも大きい場合には、再度ピコグリーンに用いるために印付けした。再度ピコグリーンを行う際には、殆どのサンプルがうまく定量化された。総合計1,859サンプルのうち、合計で6サンプルのみが除外された。
【0066】
(実験デザイン)
ユーロ(EURO)コホート → プールされた遺伝子型同定 → 交差遺伝子型同定(cross-genotyping)の妥当性評価のプール
【0067】
フィンランドコホート → プールされた遺伝子型同定 → 交差遺伝子型同定の妥当性評価のプール
【0068】
各サンプル200ngを、各集団の症例及び対照の3(3倍の)プールにピペットで入れた。846症例+846対照=合計で1,692サンプルがプールに用いられた。8集団×2コホート×3倍のプール(ピペット操作のエラー制御のため)=48プールである。チップエラーを制御するために、48プールを3倍生成した→144プール。144プールがNspI及びStyIで消化された→288サンプルがチップ用であった。
【0069】
各SNPは、4つの異なるアルゴリズム(GenePool)を用いて、各サブ集団内で記録された。SNPは、単一マーカー検査及びスライディングウィンドウ分析を用いて検査された。SNPは、アルゴリズムの全体平均ランクに基づき、ランク付けされた。最後に、対立遺伝子頻度が計算され、相反する対立遺伝子効果を示すSNPは除去された。「ユーロ」集団は、フィンランド人集団とは別に検査され、これは約7000万SNP遺伝子型において最大である。
【0070】
プールされたWGAS手法は、老人性難聴に有意に関与するゲノムに及ぶ領域にうまく優先順位を付けることができた。
【0071】
(交差遺伝子型同定の結果)
交差遺伝子型同定の期間内に遺伝子型が同定された時に、有意性を持って生存したSNPは存在しなかった。これが意味することは何だろうか?我々は、フィンランドとヨーロッパの集団が異なる遺伝的背景を有していることを知っている−知っているからこそ、初期解析を別々に行った。したがって、我々は疾患に関与する全く同じマーカーを必ずしも期待していたわけではない。しかしながら、我々は、老人性難聴の原因となる主遺伝子が存在するのであれば、両方の集団において検出するべきであるということを予測したことになる。
【0072】
(ユーロの複製)
我々は、アントワープとテュービンゲンから採用した新規集団において、SNPの選択リストを検査した。選抜されるためには、SNPは、:(1)元のユーロのプールされたコホートにおいて有意性が0.003未満であること、(2)アントワープコホート単体において有意性が0.05未満であること、及び(3)遺伝子内に存在するものである必要がある。これにより、210の元リストから23のSNPを選択した。新規の複製コホートは、元のプールコホートと全く同じ表現型である個体で構成されている。再度、これらは、四分位数は、非常にz値に基づいていた。コホートは、61の症例と66の対照で構成される。SNPは、前回と同じ基準(>90%コールレート、HWE=0.05、MAF=5%)を用いた分析に使用された。19のSNPが、これらのカットオフを耐え抜いた。
【0073】
少なくとも10,000Xにおいて生存したrs11928865のSNPは、データを並び替えた[p=0.0038];表2。このSNPは、ユーロ集団プールの分析において#3のランクを占めた。このSNPはGRM7の遺伝子座内に配されていた。ここで、フィンランドプールの分析における上位200においては、GRM7内に2つのSNPが存在していることに留意されたい。
【0074】
【表2】
【0075】
rs11928865; chr3: 7,130,702
【0076】
rs779701; chr3: 7,493,772
【0077】
rs779706; chr3: 7,499,042
【0078】
要約すれば、フィンランドを含む様々なヨーロッパ地域の8つのセンターから集められた3434の個体から選ばれた合計846の症例と846の対照が、本研究において分析された(表1)。症例と対照のプールは、各サブ集団(n=8)に対して3倍生成され、各プールは、3つの複製アフィメトリクス・ヒトマッピング500Kアレイにおいて、遺伝子型が同定された。このアレイは、506627SNPを含むものである。
【0079】
プールされた全ゲノム関連研究からのSNPはランク付けされた。各サブ集団は別々に評価され、その後に、フィンランド人以外のヨーロッパ人のサンプルの分析は組み合わされた。フィンランド(オウル及びタンペレ)から収集されたサンプルは、残りのヨーロッパ人のサンプルからは遺伝的に区別可能であると判断され、全体として別個に分析された。最も高くランク付けされたSNPについては、我々は、関連リスク対立遺伝子が全てのサブ集団に及んで同じであるか否かを検証した。関連対立遺伝子が全てのサブ集団において同じでない場合には、SNPは更なる研究から除外された。GenePoolソフトウェアによってランク付けされるとともに全ての基準を満たす、ヨーロッパ人集団の研究で同定された上位252のSNP及びフィンランド人ベースの研究で同定された上位177のSNPは、個別の遺伝子型同定による検証へと進められた。結果得られた個別ベースのxの2乗p値は、表2に記載されている。個別の遺伝子型同定実験は、プール手法の明確な検証を含む。DTD1(D−チロシル−tRNAデアシラーゼ1)及びPDE9A(ホスホジエステラーゼ9A)は、それぞれ、一般的なヨーロッパ人集団及びフィンランド人集団において上位を占める遺伝子であった。2つの遺伝子は、両方の集団において有意に関連があった:GRM7(グルタミン酸受容体、代謝調節型、7)及びCDH13(カドヘリン13)。
【0080】
その後に、23のSNPの選定サブセットを、ヨーロッパ人の複製コホートにおいて検査した。この複製コホートは、142の新規に採用した個体からなる。SNPは、厳密な基準を合格した場合のみ含まれ、この厳密な基準とは、(1)5つの例外を備える遺伝子内であること、(2)0.05のカットオフにおいてHWE測定値を通過すること、(3)個体のコールレートは>97%を示すこと、及び(4)少なくとも5%の小規模な対立遺伝子頻度を有すること、を含む。複数の検査を補正するために、我々は、ボンフェロ−ニ(Bonferroni)補正法を用いた。連鎖不均衡(LD)によって、これら23個のSNPは、20のみの真の検査(true test)を示し、ボンフェロ−ニ補正による有意性のp値0.0025を生じさせた。GRM7の1つのSNP(rs11928865)は、複製コホートにおいてp値0,0003を生じさせ、これにより、ボンフェロ−ニ補正を生き残った。並べ替え検定によって、p値0.0044が得られた。
【0081】
トレーニング及び複製コホートの両方において、rs11928865のT対立遺伝子が疾患に関連していた。頻度は、トレーニングコホートにおいて症例では76.9%及び対照では71.4%であり、複製コホートにおいて症例では79.3%及び対照では57.8%であった。本SNPのオッズ比は、複製コホートでは2.56[1.23−5.30の95%信頼区間]であった。フィンランド人の複製コホートを獲得できなかったため、GRM7内のSNPであるとともにフィンランド人集団で有意性のあるrs779706及びrs779701は複製できなかった。
【0082】
(GRM7の精細マッピング)
GRM7は、約880kbである。精細マッピングは、rs11928865周囲の400kbの領域に限定した。ハップマップデータに基づき、80GRM7のタグSNPが選択され、全てのヨーロッパ人サンプル(トレーニング及び複製コホート)において遺伝子型が同定された。図7は、ヨーロッパ人の複製サンプルにおけるGRM7遺伝子座の精細マッピングを図示する。Rs11928865は、最も有意性がある関連個別SNPを維持し、その一方で、ハプロタイプブロックの7(rs6804466、rs3828472、rs12497688、rs12497688、rs9819783、rs11920109のSNPからなる)及び6(rs11928865及びrs9877154のSNPからなる)が、最も有意に関連するハプロタイプブロックであった(表2)。データの100万の並び替えの結果、ハプロタイプブロック7及び6に対してそれぞれp値0.0013と0.0266が得られた。ハプロタイプブロック6及び7はごく接近しており、ハプロタイプブロック6及び7の間のLDはかなり高いレベルであるため、我々は、両方のブロックを単一のブロックにすることを押し進めた。このように結合された6−7ハプロタイプはp値0.0004を有しており、全ての並べ替えたp値のうち、最も有意性が高かった。我々は、GRM7遺伝子座にわたって近傍に配された多数のSNPの遺伝子型を同定したことにより、関連シグナルを狭い範囲にまで減らした。このことは、原因対立遺伝子がGRM7エクソン2の周囲の150kb範囲内に配されることを示した。
【0083】
我々は、現在までに、最大のプールベースの全ゲノム関連研究を完成させることにより、老人性難聴への遺伝的な危険因子を明らかにした。我々は、GRM7に存在するSNPを同定し、これは、元々プールされたユーロコホートにおいて有意性を有しているとともに検証ユーロコホートにおいても有意性を有している。さらに、同じ遺伝子内の2つのSNPはフィンランドベースのコホートにおいて有意性を有している。mGluR7周囲の生態は、老人性難聴において重要な役割を有するmGluRを支援する。
【0084】
(実施例2)
(原料及び方法)
インサイチュハイブリダイゼーション用のGRM7フラグメントのクローニングとプローブ合成
マウスの脳のRNAは、トリゾール(Invitrogen社、カールズバッド、カリフォルニア州、アメリカ合衆国)を用いて単離され、RT−PCR(Invitrogen社、カールズバッド、カリフォルニア州、アメリカ合衆国)のスーパースクリプト(商標)III ファースト・ストランド合成システムを用いて逆転写された。マウスのGRM7(ヌクレオチド901−1739)の839bpのフラグメントは、(Kosinski CM. et al. 1999 J. Comp. Neurol. 415:266-84)に基づくものであり、製造業者の取扱説明書に基づき、iProof高忠実度DNAポリメラーゼキット(BioRad社、ハーキュリーズ、カリフォルニア州、アメリカ合衆国)を用いて増幅された。この増幅は、200μMのdNTPミックス(BD Biosciences Clontech社、パロ・アルト、カリフォルニア州、アメリカ合衆国)と、0.5μMの各プライマー(5'- AGAGCTGACCAAGTAGGAC-3', SEQ ID NO: 1 と、 5’-GGGATGTTCTGACAGCCAG- 3', SEQ ID NO: 2)(Invitrogen社、カールズバッド、カリフォルニア州、アメリカ合衆国)の存在下で実施された。PCR生成物は、QIAクイック・ゲル・エクストラクション・キット(QIAGEN GmbH、ヒルデン、ドイツ)を用いてゲル精製され、3’A−オーバーハングは、1x PCR−バッファー、200μMのdNTPミックス(BD Biosciences Clontech社、パロ・アルト、カリフォルニア州、アメリカ合衆国)と、0.1U/μlのシルバースター(商標)Taqポリメラーゼ(Eurogentec社、スラン、ベルギー)とを添加し、その後、72℃で10分間培養することにより生成された。続いて、製造業者の手順に従い、シーケンシング用のTOPO TA クローニングキット(Invitrogen社、カールズバッド、カリフォルニア州、アメリカ合衆国)を用いてフラグメントをクローンした。挿入部分は、シーケンシングによって検証された。プラスミドは、Notl 又はSpel (Fermentas GmbH社, St.レオン・ロット、ドイツ)のいずれかを用いて、37℃で3時間かけて線状化され、消化物は、高速PCR精製システム(Marligen Bioscience 社、 イジャムスビル、メリーランド州、アメリカ合衆国)を用いて精製された。続いて、ジゴキシゲニン(DIG)−標識アンチセンス及びセンスのリボプローブが、T3とT7ポリメラーゼを用いて生成され、これは、製造業者が規定する如く、リボプローブ(商標)インビボ転写システム(Promega社、マディソン、ウィスコンシン州、アメリカ合衆国)及びDIG−1 1−UTP (Roche Diagnostics社、ブリュッセル、ベルギー)を用いてなされた。その後、リボプローブは、フラグメント長さが約150bpとなるまで加水分解され、これは組織内にさらに良く拡散させるためである。エタノール沈殿させた後、ペレットは、ジエチルピロカーボナート(DEPC)処理水に溶解させた。プローブ濃度は、製造業者の取扱説明書に基づき、DIG非放射性核酸標識及び検出システム(Roche Diagnostics社、ブリュッセル、ベルギー)を用いて決定された。
【0085】
(組織の準備)
生後(PD:Postnatal)1、PD21、及び成体マウス(PD42乃至PD70の範囲の年齢)からのマウス内耳組織が、前述された如く(Cryns K. et al. 2003 Histochem Cell Biol. 119:247-56)、準備された。簡潔に言うと、マウスは経心的にかん流され、内耳は、取り除かれた後、4%のリン酸緩衝液パラホルムアルデヒド(PF/PB)内に固定された。固定後、P21及び成体の内耳は、5%のエチレンジアミン四酢酸(EDTA)を含むリン酸緩衝生理食塩水(PBS)内で脱灰された。組織は、パラフィン包埋され、5μm厚さの切片が、コーティングされていないガラス上に載置され、免疫組織化学法へと使用された。
【0086】
(インサイチュハイブリダイゼーション)
組織切片上におけるインサイチュハイブリダイゼーションが、記載された改良型を用いて実施された(Groves and Bronner-Fraser, 2000 Development 127:3489-99)。簡潔に言うと、アンチセンスのジゴキシゲニン標識RNAプローブが、リボプローブ(商標)システムプロトコル(Promega Co.社、マディソン、ウィスコンシン州)に基づき合成された。切片は、PKバッファー(pH7.5)内の2μg/mlのプロテイナーゼKで、室温で10分間処理された。その後、組織切片は、ハイブリダイゼーションの前に脱脂及び脱水された。ジゴキシゲニン標識リボプローブを用いたハイブリダイゼーションは、ハイブリダイゼーションバッファー溶液において60℃で一晩実施された。ハイブリダイゼーション後、切片は、PBT内の20%加熱不活性化ヒツジ血清において培養されることにより、非特異的結合部位が遮断された。ハイブリッドを可視化するために、切片は、抗−ジゴキシゲニン抗体(アルカリホスファターゼ抱合されたもの)を用いて培養された。スライドは、発色性物質BCIP(触媒としてNBTを用いる)を加えた後、暗室中で24時間、室温で発現させた。
【0087】
各遺伝子型のうち3乃至5の胚が、各プローブに対して分析された。
【0088】
(免疫組織化学法)
マウス内耳のパラフィン切片が、キシロールを用いて脱パラフィン化され、エタノール系でもどされた。切片はPBS内で洗浄され、内因性アビジンとビオチンは、内因性アビジン/ビオチン遮断キット(Zymed Laboratories、サンフランシスコ、カリフォルニア州、アメリカ合衆国)によって、製造者が記載する如く、遮断され、その後全面的に洗い流した。一次抗体からの特異的結合を防ぐために、切片は、新しく調製された50mMのグリシン/PBS溶液を用いて15分間で遮断され、再度洗い流された。その後、スライドは遮断バッファー内で30分培養された。遮断バッファーは、0.01MPBS(pH7.4)、10%の正常ヤギ血清(NGS)、0.05%チメロサール、5%ウシ血清アルブミン(BSA)、及び0.3%のトリトンX−100を含む。続いて、切片は、GRM7に対するペプチド−親和性精製ウサギポリクローナル抗体(Imgenex社、サンディエゴ、カリフォルニア州、アメリカ合衆国)を、0.3%トリトン X−100を含むPBS(tx−PBS)で1:150に希釈して用いて、4℃で一晩培養された。広範囲に洗い流した後、ヤギ抗−ウサギ免疫グロブリン(Ig)Gのビオチン化Fabフラグメント(Rockland社、ギルバーツヴィル、ペンシルベニア州、アメリカ合衆国)をtx−PBSで1:500に希釈したものを、2時間添加した。切片は、洗浄され、Cy3−共役ストレプトアビジン(Jackson Immunoresearch Laboratories、ウェストグローブ、ペンシルベニア州、アメリカ合衆国)をPBSで1:5000に希釈したものの中で2時間培養された。最終的には、スライドは、PBS内で洗い流され、Citifluor (Ted Pella、レディング、カリフォルニア州、アメリカ合衆国)とともにマウントされ、蛍光及び共焦点顕微鏡法を用いて検査された。
【0089】
(ヒト免疫組織化学法)
ヒト側頭骨切片は、セロイジン包埋され、80%エタノールで保存された。切片は95%と100%エタノールで5分間洗浄され、その後100%メタノールで5分間洗浄された。非加熱抗原回復試薬(飽和NaOH(Sigma社))及びメタノールを、濃度1:3とし、切片に加えた。切片は、抗原回復試薬において5分間培養され、100%メタノールで5分間洗浄され、その後、80%メタノールで5分間洗浄された。切片はPBS内で10分間2回洗い流されることにより、メタノールを除去した。各切片は、トリトン−X100 (Sigma Cat. #X-100)内に10分間置かれ、PBS内で10分間3回洗浄された。切片は、10%BSA (Sigma Cat, # A-2153)内で、室温で30分間培養され、これにより非特異的結合を遮断した。遮断後、切片は、2μl/ml濃度の一次抗体(mGluR7 Imgenex Cat. #IMG−71406)とともに培養され、4℃で一晩放置された。次の日に、切片はPBSで洗浄され、ビオチン化二次抗体(LSAB2 system AP: マウス/ウサギ, Dako Cat. # K0674)内で1時間培養された。培養から移動させた後、切片はPBS内で10分間3回洗浄され、三次抗体又は標識抗体ストレプトアビジン共役酵素(LSAB2 システム AP:マウス/ウサギ、Dako Cat. # K0674)内で1時間培養した。この培養後、切片はPBS内で10分間3回洗浄され、数滴の高速赤色色原体(色原体及び基質キット、Biogenex社、Cat. #HK182-5K)が約3乃至5秒間の間用いられた。切片は、色原体反応を停止させるためにPBS内で洗浄され、蒸留水内に配された。その後、各切片は、メイヤーのヘマトキシリン(Biogenex社 Cat. #HK100-5K)を用いて、3乃至5秒間対比染色し、水道水とアンモニア水で切片が青色に変わるまで洗い流した。最終的に、各切片は蒸留水で洗浄され、スライドガラス上に水性マウント媒体(Biogenex社より、Cat. #HK099-5K)とともに載置され、カバーを下ろした。
【0090】
(結果)
マウス及びヒト内耳におけるGRM7発現
GRM7発現は、マウスの内耳の3つの異なる成長段階(PD1、PD21及び成体;図5)において、免疫組織化学法によって検査された。一次抗体なし及び/又は二次抗体なしのネガティブ対照は、染色を示さなかった。これらの成長段階の全てにおいて、GRM7発現は、らせん神経節のニューロン(図5a)、コルチ器官の内有毛細胞及び外有毛細胞(図5a、d、e、f)、及び前庭器の有毛細胞:球形嚢(図2c)、卵形嚢及び膨大部稜(図2b)において集中していた。PD1では、GRM7標識は、より加齢した段階ほどは輝いていないが、それでも非常に明確な特異的信号が、コルチ器官の感覚上皮(図5d)、前庭器の有毛細胞、及びらせん神経節において検出された。PD21及び成体の内耳では、GRM7の発現はより豊富であった。蝸牛の基礎及び頂回転間において染色度又は染色パターンの違いは見受けられなかった。
【0091】
GRM7発現は、セロイジン包埋された成人のヒト側頭骨検体において免疫組織化学法を用いて検査された。一次抗体なし及び/又は二次抗体なしのネガティブ対照は、染色を示さなかった。GRM7は、らせん縁の歯間細胞、コルチ器官の内及び外有毛細胞及びヘンゼン細胞、及びらせん靱帯のタイプII線維芽細胞(図6a、b、c)において検出された。マウスにおいては、GRM7もまた、らせん神経節ニューロン(図6d)において検出された。
【0092】
(実施例3)
65歳の男性老人は、両耳において中程度に高い周波数(2000Hzより上)の聴力(50デシベル閾値)の損失を含む老人性難聴の症状を有している。この男性は、リン酸緩衝生理食塩水に10μg/mlのAMN082と、さらに0.25%のカルボキシビニル水膨潤性ゲル化剤であるCarbopol934Pを含む局所的な耳用製剤を、毎日片耳ごとに2滴投与された(即ち、片耳ごと投与ごとに約1μgのnGluR7アゴニスト)。14日後、患者は聴覚学者によって検査された。閾値は、右耳では35デシベルにまで低くなり、左耳では40デシベルにまで低くなった。
【0093】
(実施例4)
72歳の女性老人は、中程度に高い周波数(1000Hzより上)の聴力(右耳で40デシベル閾値及び左耳で35デシベル閾値)の損失を含む老人性難聴の症状を有している。この女性は、1投与当りにAMN082を2μg含む経口製剤を1日に4回投与された。持続放出カプセルは、10重量%のヒドロキシプロピルメチルセルロースのマトリックス(例えば、メトセル(登録商標)、ダウ・ケミカル・カンパニー、アメリカ合衆国)、及び50重量%のコーンスターチ増量剤を含む。14日後、閾値は、右耳は35デシベルまで低くなり、左耳は25デシベルまで低くなった。
【0094】
(実施例5)
82歳の男性老人は、500乃至2000を超えるHz範囲における聴力の損失を含む老人性難聴の症状を有している。この男性には、蝸牛の送達に応用されたアルセット(登録商標)の浸透圧ポンプ(例えば、Richardson,R.T.、Noushi,F.、O'Leary,S. Inner ear therapy for neural preservation. AUDIOLOGY AND NEURO-OTOLOGY 2006; 11(6): 343-356).)が埋め込まれた。このポンプは、AMN082を含む水性無菌溶液を供給するものである。ポンプはmGluR7モジュレーターを10μg/時間の投与量で送達させる。10日後、聴力は両耳で改善した。
【図1A】
【図1B】
【技術分野】
【0001】
本発明は、老人性難聴を治療及び/又は予防するための方法に関し、該方法は、代謝型グルタミン酸受容体7(mGluR7)のモジュレーターを、必要とする患者に投与する工程を備える。
【背景技術】
【0002】
老人性難聴は、聴力の損失であり、加齢に伴い殆どの人において徐々に生じる。65乃至75歳の間の年齢の成人の約30−35%は聴力損失を有している。75歳以上の人の40−50%が聴力損失を有していると推定されている。
【0003】
老人性難聴に関連した損失は、通常、高音に対してより大きいものとなる。例えば、すぐ近くの鳥のさえずり又は電話の呼出音を聞くことが困難となる人もいる。しかしながら、同じ人でも、通りを進むトラックの地響きの低音をはっきりと聞くことができる場合もある。
【0004】
老人性難聴には多くの要因がある。最も一般的には、加齢に伴う人の内耳の変化によって生じるが、老人性難聴は、中耳の変化、又は脳へと続く神経経路に沿った複雑な変化によることもある。老人性難聴は、最も頻繁には両耳で起こり、両耳に均等に影響を及ぼす。損失の進行は段階的なものであるため、老人性難聴を有する人は、その聴力の衰えに気が付かないこともある。
【0005】
老人性難聴では、頻繁に、音が明瞭ではなく音量が低いように感じられる。このことが、話し言葉を聞いて理解することが困難になる一因である。老人性難聴を患う個体は、以下に記載する内容のうち幾つかを経験することがある:他の人の話し言葉がつぶやき声である又は不明瞭であるように感じる。高音で、例えば「s」や「th」等は聴くこと及び区別が難しい。会話を理解することが困難であり、特に背景雑音がある場合には困難である。男性の声は、女性の声の高音よりも聞き易い。特定音が気に障る又は過度に大きいと感じる。耳鳴(片耳又は両耳における共鳴、轟音、シューという音)が生じることもある。
【0006】
(老人性難聴の型)
4種類の老人性難聴が存在する。感覚性老人性難聴は、高周波及び高音域を聴く能力において突然の損失をもたらす。神経性老人性難聴は、話し言葉を理解する能力を減少させる。血管条性又は代謝性老人性難聴は、比較的均一な聴力損失を生じさせる。蝸牛伝音性老人性難聴は、高周波を聴く能力の損失がより段階的であることが特徴である。
【0007】
(老人性難聴の要因)
感覚性聴力損失は、内耳又は聴神経の疾患により引き起こされる。老人性難聴は、通常、感覚性聴力疾患である。最も一般的には内耳内の段階的な変化が原因となる。日常的な交通音量又は建設工事、騒がしい職場、雑音を生成する機器、及び大音量の音楽に繰り返しさらされることによる累積的影響によって、感覚性聴力損失が引き起こされる。感覚性聴力損失は、最も頻繁には、有毛細胞(内耳の感覚受容体)の損失によるものである。これは、遺伝要因とともに、加齢、様々な健康状況、特定薬物(アスピリン及び特定の抗生物質)の副作用の結果、生ずる。
【0008】
老人性難聴は、心臓疾患、高血圧、糖尿病による血管性(血管に関連するもの)疾患、又はその他の循環問題が、耳への血液の供給を変化させることによって引き起こされることもある。損失は、軽度、中程度、又は重度のものである可能性がある。
【0009】
時には、老人性難聴は、伝音聴力疾患である、即ち、音感度の損失が外耳及び/又は中耳の異常によって引き起こされている。このような異常は、鼓室の膜(鼓膜)の機能低下、又は中耳内に存在するとともに鼓膜から内耳へと音波を運ぶ3つの小骨の機能低下を含むことができる。
【0010】
(治療の選択肢)
現在、老人性難聴への治療の選択肢は、高血圧等の想定される根本原因の治療、補聴器又は蝸牛移植、電話増幅器等の補助的な聴取装置、及び耳垢の除去を含む。聴力損失に対して臨床的に証明された治療方法はないため、これらの症状を予防、軽減、又は除去するために使用される薬物は、臨床的な観点から非常に望まれている。
【0011】
(グルタミン酸受容体)
L−グルタミン酸[L−Glu]は、哺乳類の中枢神経系における主要な興奮性アミノ酸神経伝達物質である。これは、イオンチャネル型グルタミン酸受容体(iGluR)及び代謝型グルタミン酸受容体(mGluR)のどちらも活性化することができる。前者は、イオンチャネルに結合し、典型的には、速い興奮性神経伝達を介在する。これに関連し、ジゾシルピン(MK801)等のNMDA(iGluR)受容体アンタゴニストが、聴力損失の治療用として提案されている。特許文献1を参照されたい。特許文献1の開示内容を参照することにより本発明に援用する。残念なことに、このようなNMDA受容体アンタゴニストは、重大な向精神性副作用を有することがある。
【0012】
iGluRとは対照的に、mGluRは、Gタンパク質結合受容体であり、二次メッセンジャー経路を介してニューロンの興奮性及びシナプス効力を調節する機能を有する。現在までに、mGluRの8つのサブタイプが同定されており、これらは、配列の類似性、二次メッセンジャー結合性、及び薬理作用に基づき、3つのグループに分類することができる。グループI(mGluR1とmGluR5)は、Gqに結合し、ホスホリパーゼCを活性化し、低いμM濃度の3,5−ジヒドロキシフェニルグリシン(DHPG)によって選択的に活性化される。対照的に、グループII(mGluR2とmGluR3)及びグループIII(mGluR4、6、7、8)は、Gi/Goを介して、アデニル酸シクラーゼと陰性に結合し、刺激されたcAMPの形成を抑制する。グループIIのmGluRは、(2S、1’S、2’S)−2−(ジカルボキシシクロプロピル)グリシン(DCG−IV)によって選択的に活性化されることができるのに対し、グループIIIのmGluRは、合成アゴニストであるL−アミノ−4−ホスホノ酪酸(L−AP4)及び内因性リガンドであるL−セリン−O−リン酸(L−SOP)によって選択的に活性化されることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許第2007/0015727号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
老人性難聴の一般的基礎及び生物学をより理解し、治療及び/又は予防のためのより安全且つ効果的な薬物療法を開発するという重大で未だ対処されていない要求が存在している。
【課題を解決するための手段】
【0015】
好適な実施形態において、本発明は、ヒトの老人性難聴を予防及び/又は治療するための方法に関する。本方法は、mGluR7の受容体モジュレーターを含む医薬組成物を治療に効果的な量、ヒトに投与する工程を備える。一実施形態では、モジュレーターは選択的mGluR7アゴニストである。他の実施形態では、選択的mGluR7アゴニストはAMN082である。
【0016】
一実施形態では、GluR7モジュレーターの使用は、加齢に伴う聴力損失(老人性難聴)を治療又は予防するための薬剤の製造において開示される。モジュレーターは、好ましくは選択的mGluR7アゴニストである。より好ましくは、選択的mGluR7アゴニストは、AMN082である。薬剤は、本発明の実施形態に従い、局所、経口、もしくはポンプ送達、又は正円窓又は前庭窓を介した送達用として調製されることができる。
【0017】
本発明の実施形態に従って、加齢に伴う聴力損失を治療又は予防するための医薬組成物が開示されている。本組成物は、好ましくはmGluR7のモジュレーターを含み、このmGluR7のモジュレーターとしては、例えば選択的mGluR7アゴニストであるAMN082等が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】上位250のSNPは、個別の遺伝子型を優先させたものである。全てのSNPは全てのユーロ(EURO)集団に及んで同様の効果傾向を有していた。第1工程は、これらを、プールされたコホートにおいて立証することであった。
【図2】プールされたデータの分析−ユーロ。210のSNPがQCを通過した。90%コールレート。HWE+0.05。MAF>5%。88のSNPがp値<0.05であった。
【図3】プールされたデータの分析−フィンランド。170のSNPがQCを通過した。90%コールレート。HWE=0.05。MAF>5%。156のSNPがp値<0.05であった。
【図4】ヒト疾患変異体とその他の突然変異体の編集(compilation)。UCSC既知遺伝子(2005年6月)。UniProt、Refseq、及びGenBankのmRNAに基づく。
【図5】マウスの内耳におけるmGluR7(GRM7とも記載する)の免疫組織化学結果である。−a、b、c、及びf)成体マウスにおけるGRM7発現であって、らせん神経節(SG)ニューロン(a)、コルチ器官のIHC(矢印)及びOHC(矢じり)(a、f)、膨大部稜の有毛細胞(b)と球形嚢の有毛細胞(c)である。−d、e、f)GRM7発現の比較であって、コルチ器官のIHC(矢印)とOHC(矢じり)において、PD1段階(d)、PD21段階(e)、及び成体(adult)(f)におけるものである。スケールバーは20μmである。
【図6】ヒトの側頭骨におけるmGluR7(GRM7とも記載する)の免疫組織化学結果である。(a)水平に切断した側頭骨の前底区であって、一次抗体としてmGluR7で標識され、二次抗体としてビオチン化IgGで標識され、クロマゲン(MBIC)により高速に赤色化された。ヘマトキシリン(H)は対比染色として用いられた。赤色標識は、その縁の歯間細胞、コルチ器官の有毛及びヘンゼン細胞、並びにタイプII領域又はらせん靱帯における線維芽細胞において、可視であった。緩やかな歪みは、非セロイド化切片をマウントすることが困難であるためである(×100)。(b)より高倍率を用いて縁の歯間細胞の赤色標識を示す(MBIC&H ×200)。(c)標識された有毛細胞及びヘンゼン細胞を有するコルチ器官である(MBIC ×400)。(d)MBIC&Hで標識されたらせん神経節である(×400)。
【図7】rs11928865周囲の400kb領域におけるヨーロッパ人の複製サンプルにおけるGRM7遺伝子座の精細マッピングは、トレーニングと複製コホートの両方の組み合わせにおいて精細マッピングの結果を示す。図面の上部には、400kb領域内のGRM7エクソンの位置が、数字付の垂直バーによって示される。各SNPに対する個別の有意性は、GRM7遺伝子座内の各位置における黒丸で示される。LD構造は、図面の下部において括弧内に数字が付されたハプロタイプブロックとともに示されている。各ハプロタイプブロックに対する相対的有意性は、図面においても、有意レベルと各ハプロタイプブロックの位置の両方を示す数字付の各水平バーとともに示されている。
【発明を実施するための形態】
【0019】
加齢に伴う聴力損失(老人性難聴)の原因となる遺伝学及び生物学をよりよく理解するため、より詳細には、老人性難聴に関連する可能性がある遺伝子を同定するために、治療標的として潜在的に利用可能であるヒトゲノムのスキャンが、アフィメトリクスSNPアレイを用いて実施された。mGluR7(本明細書ではGRM7とも記載される)は、非常に強力な候補領域に現れた。
【0020】
mGluRファミリーの幾つかのその他のメンバーと同様に、mGluR7は、シナプス前終末において主に局在し(Ohishi, H. et al. 1995 Neurosci. Lett. 202:85-88; Kinoshita, A. et al. 1998 J. Comp. Neurol. 393:332-352)、シナプス前終末は、神経伝達物質の放出を制御すると考えられている部分である。しかしながら、シナプス前mGluRサブタイプの中で、mGluR7は、最も広く分布し、そして、正常なCNS機能及びヒト疾患範囲の両方に重大であるとみなされているシナプスにおいて広範囲に存在している。さらに、幾つかのシナプス前mGluRサブタイプとは異なり、mGluR7は、グルタミン酸性シナプスのシナプス間隙のシナプス前区域に直接的に局在する(Kinoshita, A. et al. 1998 J. Comp. Neurol. 393:332-35, Kosinski, CM. et al.1999 J. Comp. Neurol. 415:266-284)。このグルタミン酸性シナプスとは、活動電位がある間にシナプス前終末から放出されたグルタミン酸によって活性化される従来の自己受容体として作用すると考えられている。mGluR7は、グルタミン酸性シナプスにおけるシナプス応答を形成するとともに抑制性のGABA性伝達の重要な側面を制御するための中心的存在(キープレーヤー)であると考えられてきた(Kinoshita, A. et al. 1998 J. Comp. Neurol. 393:332-35, Kosinski, CM. et al.1999 J. Comp. Neurol. 415:266-284)。しかしながら、mGluR7は、選択的リガンドの発見という観点からは、mGluRサブタイプの中で最も解決困難なものであった。AMN082が発見されるまでは、この受容体の選択的アゴニスト又はアンタゴニストは存在しなかった。例えばL−AP4等のような利用可能なアゴニストは、最も近い受容体であるmGluR4、6、及び8を活性化するのに必要な濃度よりも、2−3桁高い濃度においてのみmGluR7を活性化する。これによって、これら関連mGluRサブタイプの活性化によって誘導される影響によって混乱させられることなく、本受容体の活性化による生理学的影響を検討することは不可能であった。この薬理学的手段が欠落しているにも関わらず、解剖学及び細胞学研究とともにmGluR7ノックアウト(KO)マウスを用いた実験によって、この受容体に対する選択的リガンドは、広範囲な各種の神経学及び精神医学疾患の治療のための潜在性を有していることが提示されてきた。この疾患としては、とりわけ、鬱病、不安症、統合失調症、てんかん、アルツハイマー症、及びパーキンソン病が含まれる。
【0021】
神経系における神経伝達物質のシナプス放出は、頻繁に、シナプス前mGluRによって影響を受ける。このシナプス前mGluRとは、同じ神経末端又はその他のニューロンの末端から放出された神経伝達物質に順次応答するものである。mGluRは、長期増強(LTP)又は長期抑圧などのシナプス可塑性において多様な役割を果たし、シナプス可塑性の形態は、脊椎動物における学習及び記憶に関連すると考えられている。シナプス前mGluR自己受容体は、グルタミン酸に応答し、神経末端からの神経伝達物質放出の確率に影響する。一般的には、シナプス前mGluR(例えば、L−AP4によって活性化されるクラスIIIのmGluR)の活性化は、多くの脳領域において、シナプスからの伝達物質放出を低減することが発見されてきた。
【0022】
これらの発見により、mGluRは、様々なCNS指標のための推定標的として関心が集まった。このCNS指標とは、不安感、痛み、神経防護作用、てんかん、パーキンソン病、及び認識力障害を含む。網膜だけに発現するmGluR6を除いて、全ての他のmGluRは、主に神経末端に発現する。この神経末端とは、これらmGluRが中心及び末梢の神経系における神経伝達物質の放出を抑制する箇所である(Shigemoto, R. et al.: Handbook of Chemical Neuroanatomy Vol. 18, pp. 63-98内, Ed. Ottersen Storm-Mathisen, Amsterdam, Elsevier)。mGluRは、大きな両葉の細胞外N−末端を有していることが提示されてきた。このN−末端は、グルタミン酸が二分葉間の間隙内で結合し、閉塞配座を安定化させる箇所である(Yang, Z.-Q. 2005 Curr. Topics Med. Chem. 5:913-918)。研究によれば、mGluRのC−末端もまた、受容体−リガンド結合に影響を及ぼす重大な役割を有することが提示されている。
【0023】
代謝型受容体の一般構造は、グルタミン酸結合部位、システインリッチ領域、7回膜貫通型ドメイン、及び細胞内C−末端領域からなる。後者のドメインは、アイソフォームGRM7_v1において大々的に研究されており、3つの機能領域に分けられると考えられる。最も近接して取り囲むアミノ酸(aa)残基856−878は、複合体のシグナル伝達という役割を有しており、中央部(aa883−915)は、軸索の標的化に関与する一方、接近したC−末端(aa912−915)は、95kDaシナプス後密度タンパク質(PSD−95)discs−large(Dlg)/zona occludens(密着結合)−l(ZO−1)(PDZ)ドメインを介した受容体のシナプス集団化(クラスタリング)に関与している(Dev, K.K. et al. 2001 Trends Pharmacol. Sci. 22:355-361)。
【0024】
上述した如く、mGluRファミリーの1メンバーであるmGluR7は、特徴付けが依然乏しいままである。mGluR7は、mGluRファミリーのうちで最も保存されたメンバーであり、ラットとヒトのタンパク質の間で6−8アミノ酸の違いのみが観察される。mGluR7は、神経系の至るところに広範囲に分布されており、神経伝達物質放出部位の近くでシナプス前性に局在している。海馬では、高密度のmGluR7アイソフォームが、特に、mGluR1α上にシナプス形成する興奮性細胞のシナプス前末端において発見される。このmGluR1αとは、ソマトスタチンをも発現するGABA作動性介在ニューロンを発現する。したがって、介在ニューロンのこの特定クラスの入力は、特に強力なmGluR7介在型自動調節能によって与えられるようにみえる。このことは、なぜか当分の間は推測にとどまっており、この独特なmGluR7介在型自動調節能は、海馬のネットワークにおけるmGluR1α1−陽性の介在ニューロンの役割に関与する可能性があることが提案されている(Shigemoto et al. 1996 Nature 318:523-525)。mGluR1α+細胞は、主細胞の軸索側枝からのグルタミン酸作動性入力を受け取る。mGluR1α+細胞のGABA作動性末端は、主細胞の遠位樹状突起においてシナプスを形成し、また嗅内皮質からの直接的興奮性入力も受け取る。
【0025】
mGluR7(GRM7とも称される)は、元来、ラットの前脳相補性DNA(cDNA)ライブラリーからクローンされたものであった(Okamoto, N. et al. 1994 J. Biol. Chem. 269:1231-1236)。続いて、ヒト相同体が同定された(Makoff, A. et al. 1996 Mol. Brain Res. 40:165-170, GenBank受入番号CAA64245)。そしてその後、2つのアイソフォームGRM7_v1とGRM7_v2(以前はmGlu7a及びmGlu7b)が報告された(Flor, PJ. et al. 1997 Neuropharmacol. 36: 153-159, GenBank受入番号NP_000835とNP_870989)。2つの転写変異体の相違は、コーディング領域の3’末端における92bpのアウトオブフレーム挿入によって生じたものであり、特異的なC−末端を有する915と922aaの2つの推定タンパク質をもたらすことになる。GRM7_v1アイソフォームは、CNSの至るところに発現する(Kinoshita, A. et al. 1998 J. Comp. Neurol. 393:332-352)。その一方、GRM7_v2の脳内における局在化は、より制限されているように見受けられ、優先的に、海馬、腹側淡蒼球、及び淡蒼球等の特異的な領域において発見される(Kinoshita, A. et al. 1998 J. Comp. Neurol. 393:332-352)。どちらのアイソフォームもグルタミン酸放出部位近傍のシナプス前軸索末端の活性領域において局在する (Kinoshita, A. et al. 1998 J. Comp. Neurol. 393:332-352; Saugstad, J.A. et al. 1994 Mol. Pharmacol. 45:367-372)。最近、Schultz, H.L.ら(2002 Neurosci. Lett. 326:37-40) は、mGluR7の3つの新規アイソフォームを同定し、これらは、GRM7_v3、GRM7_v4、及びGRM7_v5と呼ばれている (GenBank受入番号は、それぞれ、AF458052、AF4458053 及びAF458054である)。
【0026】
最近、mGluRの新規アゴニストと新規アンタゴニストの開発は急速に進展している (Schoepp, D.D. et al. 1999 Neuropharmacol. 38:1431-1476)。しかしながら、これらリガンドの殆どの治療的有用性は、各サブタイプへの選択性が欠如していること及びCNSへの浸透が不十分であることによって妨げられる。最も良く知られているmGluRアゴニストは、mGluR7に対して全く又は殆ど活性を示さない。(R,S)−ホスホノフェニルグリシン(PPG)の異性体の活性、(+)−PPGは、最近まで、mGluR7に対して最も潜在性があるアゴニストであったものであり、ヒトmGluR7bに対して48μMのEC50値を備えている(Yang, Z.-Q. 2005 Curr. Topics Med. Chem. 5:913- 918)。しかしながら、(+)−PPGは、mGluR4aに対してより活性が高いことが発見された(EC50=3.2μM)。
【0027】
Mitsukawaらによって記載されるAMN082と呼ばれる化合物(2005 PNAS USA 102:18712-18717)は、mGluR7を活性化する新規化合物を求めて、小さい薬らしい(drug-like)分子のライブラリーのランダムなハイスループット・スクリーニング(HTS)を用いて同定された。このスクリーニングと次に続く実験によって、AMN082は、mGluR7に対して非常に選択性が強い潜在的なアゴニストとして現れた。この重大な受容体サブタイプに対する初めての選択的リガンドを提供することに加えて、AMN082は、グルタミン酸結合ポケットとは全く違うアロステリック部位においてmGluR7を十分に活性化させるという固有の作用機構によって役目を果たす。この化合物は、全ての既知のmGluRのリガンドとは構造的に関連性がなく、既知の化学的骨格とは関連性が無い新規化合物を同定するというHTSの能力の好例を提供している。注目すべきことに、この第1のHTSのヒット作は、経口で活性があるとともに血液脳関門を浸透することが発見された。実際には、AMN082は、mGluR7ノックアウト動物では見られないストレスホルモンレベルを堅調に増加させた。このことは、この受容体のアンタゴニストが、鬱病及び不安症等の慢性的なストレスに関与する症状に有用である可能性があると提示する一連の高まる発見を強力に支持する。しかしながら、これら研究から推測される結果は、ストレス反応におけるmGluR7の役割からは大きく逸れている。
【0028】
L−CCG−I (2S、1’S、2’S)−2−(ジカルボキシシクロプロピル)グリシン[DCG−IV] のカルボン酸誘導体は、グループIIの選択的アゴニストである。グループIIIのmGluRのアンタゴニストも存在する。グルタミン酸刺激性イノシトールリン酸蓄積の抑制におけるIC50値は、mGluR6、7及び8においてそれぞれ39.6、40.1及び32μMとして報告されている。同様に、LY341495であるキサンテン置換L−CCG−Iは、グループIIのmGluRの選択的アンタゴニストであり、これもmGluR5、7及び8において潜在的なアンタゴニスト活性を示す。mGluR7に対する[3H]LY341495の結合を測定したKd値は0.0727mMである。
【0029】
最近、Suzukiら(2007 JPET 323:147-156)は、新規のイソオキサゾロピリドン誘導体である代謝型グルタミン酸受容体(mGluR)7アンタゴニストの発見及び薬理特性を報告した。5−メチル−3,6−ジフェニルイソオキサゾロ[4,5−c]ピリジン−4(5H)−one(MDIP)がランダムスクリーニングによって同定され、そして、MDIPの化学修飾によって、6−(4−メトキシフェニル)−5−メチル−3−ピリジン−4−イルイソオキサゾロ[4,5−c] ピリジン−4(5H)−one(MMPIP)が生成された。MDIPとMMPIPは、ラットのmGluR7とG15(IC50=20と26nM)を共発現するチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞において、L−(+)−2−アミノ−4−ホスホノ酪酸(L−AP4)−誘導型細胞内のCa2+流動を抑制した。アゴニストの濃度反応曲線における最大反応は、MMPIPの存在下で減少し、その拮抗作用は可逆性であった。MMPIPは、mGluR7に結合する[3H](2S)−2−アミノ−2−[(1S,2S)−2−カルボキシシクロプロップ−1−イル]−3−(キサント−9−イル)プロパン酸(LY341495)を置換しなかった。これらの結果は、このイソオキサゾロピリドン誘導体はアロステリックなアンタゴニストであることを提示した。ラットのmGluR7を発現するCHO細胞において、MDIPとMMPIPは、ホルスコリン刺激性cAMP蓄積のL−AP4誘導型抑制を抑制した(IC50=99、及び220nM)。ヒトmGluR7とG15を共発現するCHO細胞では、MDIPとMMPIPは、L−AP4誘導型cAMP反応も抑制した。cAMPアッセイにおいて、MMPIPによる抑制の最大度は、MDIPによる抑制の最大度よりも高かった。MMPIPは、アロステリックなアゴニストに拮抗することができ、このアゴニストとは、cAMP蓄積のN,N’−ジベンズヒドリル−エタン−1,2−ジアミンジヒドロクロライド(AMN082)−誘導型抑制であった。これらアゴニストが無い状態において、MMPIPは、mGluR7を発現するCHO細胞においてホルスコリン刺激性cAMP濃度をさらに増大させた。その一方で、競合的なアンタゴニストであるLY341495はしなかった。この結果は、MMPIPが逆アゴニスト活性を有していることを示している。MMPIPの固有活性は、百日咳毒素感受性があり、mGluR7依存性であった。少なくとも1μMの濃度におけるMMPIPは、mGluR1、mGluR2、mGluR3、mGluR4、mGluR5、及びmGluR8において有意な効果は示さなかった。MMPIPは、第1のアロステリックなmGluR7選択的アンタゴニストであって、中枢神経系におけるmGluR7の役割を解明するための薬理学的手段として潜在的に有用となる可能性がある。追加的なmGlur7アンタゴニストは、米国特許第7053219号に記載された化合物から選択することができる。
【0030】
【0031】
GRM7サブタイプの正確な生理学的機能はまだ不明瞭ではあるが、オーソロガスマウスGrm7遺伝子座の標的破壊は、恐怖反応における欠損と味覚嫌悪の機能障害を引き起こすことが示されてきた。これは、これらの行動特性に関連して不可欠なへんとう体の機能におけるGrm7の重要な役割を提示している(Masugi, M. et al. 1999 J. Neurosci. 19:955-963)。Grm7欠損薬物誘導マウスは、てんかん性発作を受け易く、このことは、Grm7が神経細胞興奮性の制御において特に重要である可能性を示唆している(Sansig, G. et al. 2001 J. Neurosci. 21 :8734-8745)。
【0032】
好適な実施形態では、本発明は、特異的にmGluR7受容体のモジュレーターとして作用する医薬組成物の使用に関し、これにより老人性難聴を治療又は予防する。
【0033】
一実施形態では、本発明は、ヒトの老人性難聴を治療する方法に関する。本方法は、mGluR7受容体モジュレーターを含む医薬組成物を治療に効果的な量、ヒトに投与する工程を備える。mGluR受容体モジュレーターは、このような治療が必要なヒトにおいて老人性難聴の症状を効果的に軽減する又は緩和する量及び期間、投与される。
【0034】
他の実施形態では、本発明は、ヒトの老人性難聴を予防するための方法に関する。本方法は、ヒトに治療に有効な量のmGluR7受容体モジュレーターを含む医薬組成物を投与する工程を備える。本方法では、mGluR7受容体モジュレーターは、このような治療が必要な個体において老人性難聴の症状を効果的に予防する量及び期間、投与される。
【0035】
(投与及び製剤)
患者へ化合物を送達することは、経口投与、静脈内投与、皮下投与、腹腔内投与、筋肉注射、直腸内投与、又は局所的投与によってなされる。その一方で、治療的に効果的な量の全身投与を行うと望ましくない副作用を引き起こす可能性があるため、一般的には内耳への局所的な投与が好まれる。当業者であれば理解できることではあるが、本発明におけるmGluR7受容体モジュレーターの投与は、他の様々な方法によって達成可能性である。本発明の投与における唯一の必要条件は、発症した個体におけるmGluR7受容体介在型異常活性の部位に到達することが可能なmGluR受容体モジュレーターを含む医薬組成物が治療に効果的な量存在することである。
【0036】
内耳への化合物の投与は、様々な送達手技を用いることによって達成することができる。これらは、標的方法で化合物を正円窓又は前庭窓の膜に輸送及び/又は送達するための装置又は薬物担体の使用を含む。正円窓又は前庭窓の膜において、これら化合物は、内耳内に拡散する又は能動的に注入される。例は、Otowicks (例えば、米国特許第6,120,484号参照、Silverstein)、正円窓カテーテル(例えば、米国特許第5,421,818号、第5,474,529号、第5,476,446号、第6,045,528号参照、全てArenberg。又は、第6,377,849号、及びその分割出願第2002/0082554号参照、Lenarz。)又は、様々なタイプのジェル、フォーム、フィブリン、もしくはその他の薬物担体が挙げられ、正円窓の隙間もしくは前庭窓上において配され、持続放出を可能とする化合物が加えられる(ManningによるWO97/38698、Silversteinらによる1999 Otolaryagology-Head and Neck Surgery 120:649-655、Baloughらによる1998 Otolaryngology- Head and Neck Surgery 119:427-431))。これらは、さらに蝸牛管又は蝸牛の他の任意部分に挿入される装置の使用も含む(例えば米国特許第6,309,410号参照、Kuzrna)。化合物は、鼓膜を超えて(transtympanic)注入されることによって内耳へと投与することもでき、中耳又は中耳の一部は、化合物の溶液又はその他の担体によって満たされる(例えば、Hofferらの 2003 Otolaryagologic Clinics of North America 36:353-358を参照)。内耳への好ましい投与方法は、正円窓膜を通過する拡散によるものである。これは、中耳空間から比較的容易に接近可能であり、内耳が損傷を受けないため、蝸牛内の液体の漏れという潜在的な問題を回避できる。
【0037】
好適な実施形態では、化合物は、中内耳膜を通過する送達と相性の良い任意の様々な製剤として提供されることができるが、このような製剤は、安定(即ち、体温で許容できない量の分解がされないこと)である必要がある。化合物は、中内耳膜構造を通過する薬物の送達と拡散に好適な任意の形態で提供されることができ、例えば、固体、半固体、ゲル、液体、懸濁液、エマルション、浸透圧投薬製剤、拡散投薬製剤、浸食製剤等が挙げられる。一実施形態では、製剤は、内耳の正円窓の隙間に挿入されたカテーテルに関連する埋め込みポンプ、例えば浸透圧ポンプを用いることにより、送達に好適なものとなる。
【0038】
医薬品グレードの有機又は無機担体、賦形剤、及び/又は希釈剤は、本製剤に含まれることができる。製剤は、生理的pH値におけるリン酸ナトリウムなどの緩衝液、生理食塩水、又はその両方(即ち、リン酸緩衝食塩水)を任意で含むことができる。好適な賦形剤は、デキストロース、グリセロール、アルコール(例えばエタノール)等、及び、これら1種以上と、植物油、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ベンジルアルコール、安息香酸ベンジル、ジメチルスルホキシド(DMSO)、有機物等の組み合わせを含むことができ、これにより好適な組成物を提供することになる。さらに、必要に応じて、組成物は、疎水性又は水溶性界面活性剤、分散剤、湿潤又は乳化剤、等張剤、pH緩衝剤、溶解促進剤、安定剤、防腐剤、及び医薬品の調合に用いられるその他の典型的な補助添加物を含むことができる。化合物は、溶液、懸濁液、及び/又は沈殿物として調合して提供されることができる。
【0039】
本発明の医薬組成物内に含まれる化合物は、薬学的に許容可能な塩の形態で提供されることができる。このような塩の例は、有機塩(例えば、酪酸、乳酸、クエン酸、リンゴ酸、ホルマリン酸、酒石酸、ステアリン酸、アスコルビン酸、コハク酸、安息香酸、メタンスルホン酸、トルエンスルホン酸、又はパモン酸)、無機塩(例えば、塩酸、硝酸、二リン酸、硫酸、又はリン酸)、及びポリマー酸(例えば、タンニン酸、カルボキシメチルセルロース酸、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、又はポリ乳酸−グリコール酸の共重合体)で生成されたものを含むが、これらに限定されない。
【0040】
本発明のいかなる投与経路においても、医薬組成物は、治療効果を有する量の有効成分を含み、必要に応じて、無機又は有機、固体又は液体の薬学的に許容可能な担体であってもよい。内耳への局所的な投与に適した医薬組成物は、水溶液又は懸濁液を含む。即ち、医薬組成物は、例えば凍結乾燥製剤である場合には、有効成分のみを含む又は有効成分を担体とともに含み、使用前に調製することが可能である。これら医薬組成物はさらに、ゲルを含み、生分解性もしくは非生分解性、水溶性もしくは非水溶性、又はミクロスフェアベースであることができる。このようなゲルの例は、ポロキサマー、ヒアルロン酸、キシログルカン、キトサン、ポリエステル、ポリ(ラクチド)、ポリ(グリコリド)又はこれらの共重合体PLGA、イソ酪酸酢酸スクロース、及びグリセロールモノオレエートを含むがこれらに限定されない。腸内又は非経口投与に適した医薬組成物は、上述した如く、錠剤もしくはゼラチンカプセル、又は、水溶液もしくは懸濁液を含む。
【0041】
医薬組成物は、殺菌可能であり、及び/又は補助剤(例えば、保存料、安定剤、湿潤剤及び/又は乳化剤、浸透圧を調整する塩、及び/又は緩衝液)を含むことが可能である。本発明の医薬組成物は、必要であれば、さらに薬学的な有効物質を含む。これら医薬組成物は、薬学の分野で公知である任意の方法、例えば、従来型の混合、粒状化、糖剤化、溶解、又は凍結乾燥方法を持いて調製することができ、0.01乃至100%、好ましくは0.1乃至50%(凍結乾燥は100%まで)の有効成分を含む。
【0042】
好適な実施形態では、医薬組成物は、局所適用に使用されるものとして製剤される。耳への投与における好適な賦形剤は、有機又は無機物質であり、薬学的に許容可能であり、活性化合物とは反応しない。この活性化合物とは、例えば、生理食塩水、アルコール、植物油、ベンジルアルコール、アルキレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセロールトリアセテート、ゼラチン、ラクトース又はでんぷん等の炭水化物、マグネシウム、ステアレート、タルク、及びペトロラタムである。示された製剤は、殺菌可能であり、及び/又は、例えば潤滑油等の補助物質、チメロサール等の保存料(例えば50%で)、安定剤、及び/又は湿潤剤、乳化剤、浸透圧に影響を与える塩、緩衝液物質、着色剤、及び/又は芳香物質を含むことができる。
【0043】
医薬組成物は、1以上の他の活性成分を含むことも可能である。本発明の態様に係る耳用組成物は、抗生物質等の他の生物学的活性薬剤、例えばフルオロキノロン、抗炎症剤、例えばステロイド、コルチゾン、鎮痛剤、アンチピリン、ベンゾカイン、プロカイン等の各種成分を含むことができる。一実施形態では、医薬組成物は、mGluR7モジュレーター及びiGluRモジュレーターの組み合わせを含むことができ、例えばUS第2007/0015272号に開示されるNMDA受容体アンタゴニスト等が挙げられ、これはD−2−アミノ−5−ホスホノペンタノエート(D−AP5)、ジゾシルピン(MK801)、7−クロロキヌレン酸(7−CK)及びガシクリジン(GK−11)を含むがこれらに限定されない。
【0044】
局所的投与に使用される本発明の好適な実施形態に係る組成物は、薬学的に許容可能なその他の成分を含むことが可能である。本発明の好適な実施形態では、局所的な賦形剤は、耳に投与した時に、体循環又は中枢神経系へと薬物を運搬することを促進しないものが選択される。例えば、一般的には実質的な閉塞特性を有していない局所的な賦形剤であることが好ましく、これにより粘膜を通って体循環へと経皮伝達が促進される。このような閉塞性賦形剤は、炭化水素ベース、親水性ワセリン及び脱水ラノリン(例えばアクアフォー)等の無水吸収ベース、並びにラノリン及びコールドクリーム等の油中水型乳剤ベースを含む。より好ましくは、賦形剤は、実質的に非閉塞性であり、一般的には、水溶性であり、例えば水中油型乳剤ベース(クリーム又は親水軟膏)及び水溶性ベース(例えばポリエチレングリコールベースの賦形剤)、及び各種薬剤(メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、及びヒドロキシプロピルメチルセルロース(例えばKYゲル))によってゲル化された水溶液を含むものである。
【0045】
好適な局所的賦形剤(excipient and vehicle)は、当業者によって、特に、多くの技術的な標準テキストのうちの一つ(例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences, Vol. 18, Mack Publishing Co., Easton, PA (1990), 特に87章)を参照することによって、特定使用のために日常的に選択可能である。例として、本発明の態様に係る生理活性薬剤は、薬剤の透過を促進する促進剤と組み合わせることもできる。
【0046】
医薬組成物は、老人性難聴が進行する前、又は老人性難聴が診断された後に投与されることが可能である。投与量は、投与方法、治療継続時間、治療される対象者の健康状態、老人性難聴の重症度及び使用特定化合物の有効性、年齢、体重、健康の全身状態、性別、食生活、投与時間及び投与経路、排出率、及び主治医によって決定される最終的な薬物の組み合わせに応じて変化させることも可能である。治療継続時間は、約1時間乃至数日、数週間、又は数ヶ月の範囲に及ぶことができ、長期的治療に延長することもできる。到達されるべき治療に効果的な量の医薬組成物は、約0.1ナノグラム/時間乃至約100マイクログラム/時間の範囲に及ぶことができる。医薬組成物は、好ましくは、その他の耳用に投与された化合物と類似して投与される。局所的投与における用語「投与量(dosage)」は、1回の治療において投与される薬物量を意味し、例えば、約0.05−1μgのmGluR7受容体モジュレーターであり、耳に2滴投与される。
【0047】
治療学的な有効量は、発症した個体における老人性難聴を抑制する又は低減するのに効果的な量として定義される。上述の如く、治療学的な有効量は、治療用の特定のmGluR7受容体モジュレーターの選択、及び投与方法に応じて変動させることができる。例えば、静脈内投与されたmGluR7受容体モジュレーターは、耳の正円窓膜又は前庭窓に局部的に投与された同じ医薬組成物のmGluR7受容体モジュレーターと比較して高用量必要となる。さらに、より低用量のmGluR7受容体モジュレーターしか必要としないのは、本発明のmGluR7受容体モジュレーターが、低親和性で結合するmGluR7受容体モジュレーターであるよりもmGluR7受容体と高親和性で結合するときである。結果として、mGluR7受容体に対して高結合親和性を備えるmGluR7受容体モジュレーターが好ましい。
【0048】
治療継続時間は、治療が望まれている老人性難聴の特定の形態−急性、亜急性、又は慢性に応じて変動可能である。指針としては、短い治療継続時間は、好ましいものであり、一旦治療が終了すると老人性難聴が再発しない場合は十分である。長い治療継続時間は、老人性難聴が短期間の治療後にも継続する個人に対して用いられる。
【0049】
本明細書に開示される老人性難聴を治療又は予防するための独創的な方法は、治療学的に有効な量のmGluR7受容体モジュレーターを含む医薬組成物を使用することを類似して可能とするものであり、有利に、ヒトにおけるmGluR7受容体介在型異常活性を効果的に調節し、老人性難聴を治療又は予防するための薬剤の製造に使用される。
【0050】
(実施例1)
全ゲノム関連研究(WGAS)は、一般的な変異体の発見を促進するものであった。ありふれた疾患共通変異(CDCV)仮説は、分析された一塩基多型(SNP)(マーカー)が進化を通じて発生したものであり、昔は保護されていた可能性があるという事実に基づくものである。WGASに対して、我々は「非血縁」の個体=未知の距離関係を有するものを利用した。研究に要する期間が長いために、我々は、各世代からサンプルを収集することができなかった。我々は表現型と遺伝子型間の統計上の相互関係に頼った。疾患を有する及び疾患を有さない個体の全ゲノムコードを比較するよりも、我々はヒトゲノムの様々な場所に存在する代理マーカーを信頼した。最も一般的に使用されているマーカーは一塩基多型(SNP)と呼ばれる。
【0051】
老人性難聴は、生存中の後半において現れる一般的な疾患であるため、疾患として、CDCV仮説に従う可能性が高い。したがって、疾患に関連すると考えられる任意のSNPマーカー(したがって、我々の実験においても分析に用いた)は、ヒトの歴史において負の淘汰圧がなかった可能性がある。最後に、老人性難聴は、遺伝的側面を有していることで知られている。したがって、老人性難聴は、WGASにとって優秀な候補者であった。
【0052】
(WGASデザイン)
民族性に整合した症例及び対照個体の臨床的な表現型同定及び収集(表1参照)。
【0053】
出発物質(DNA)の品質管理。
【0054】
〜500,000のSNPマーカーにおける全ゲノム関連研究。
【0055】
関連する大量なデータの総合的分析。
【0056】
固有臨床コホートにおける最も有意性のあるSNPの調査。
【0057】
有効な遺伝的発見を支持するための生物学的実験。
【0058】
新しいコホートにおける発見の完全独立検証。
【0059】
(臨床的基準)
我々は、平均閾値(Z値)から発散する記録聴覚閾値がどれくらいの標準偏差であるかを計算した。具体的には、年齢(55−65の間)、性、及び周波数に特異的である。我々は、Z値の平均として、2、4、及び8kHzを用いた。空気と骨伝導を用いた純音閾値は、0.125、0.25、0.5、1、2、4、及び8kHzで記録された。
【0060】
(除外)
伝導成分(0.5、1、及び10dBを超える2kHzにおける平均気骨導差)。
【0061】
4kHzにおける下降(4kHz閾値が8kHz閾値を20dB以上で越えた場合)
【0062】
聴力に影響を与える可能性がある疾患:慢性中耳炎、自己免疫疾患、化学療法、関節リウマチ。
【0063】
【表1】
【0064】
(品質検査)
サンプルは、劣化DNAを同定するためにゲル電気泳動によって検査された。劣化DNAは1つも発見されなかった。
【0065】
(定量法)
ピコグリーン(PicoGreen)アッセイ:各サンプルは、3倍が定量化された(1,859×3=5,577サンプルが定量化された)。サンプル濃度は、ヒトゲノムDNAを用いた8ポイントの標準曲線によって決定された:200、100、50、25、12.5、6.25、3.125、及び0ng/μl。サンプル濃度は、3つの複製物からの平均値を用いて計算した。サンプルは、3つの値のいずれかが他の値の2倍よりも大きい場合には、再度ピコグリーンに用いるために印付けした。再度ピコグリーンを行う際には、殆どのサンプルがうまく定量化された。総合計1,859サンプルのうち、合計で6サンプルのみが除外された。
【0066】
(実験デザイン)
ユーロ(EURO)コホート → プールされた遺伝子型同定 → 交差遺伝子型同定(cross-genotyping)の妥当性評価のプール
【0067】
フィンランドコホート → プールされた遺伝子型同定 → 交差遺伝子型同定の妥当性評価のプール
【0068】
各サンプル200ngを、各集団の症例及び対照の3(3倍の)プールにピペットで入れた。846症例+846対照=合計で1,692サンプルがプールに用いられた。8集団×2コホート×3倍のプール(ピペット操作のエラー制御のため)=48プールである。チップエラーを制御するために、48プールを3倍生成した→144プール。144プールがNspI及びStyIで消化された→288サンプルがチップ用であった。
【0069】
各SNPは、4つの異なるアルゴリズム(GenePool)を用いて、各サブ集団内で記録された。SNPは、単一マーカー検査及びスライディングウィンドウ分析を用いて検査された。SNPは、アルゴリズムの全体平均ランクに基づき、ランク付けされた。最後に、対立遺伝子頻度が計算され、相反する対立遺伝子効果を示すSNPは除去された。「ユーロ」集団は、フィンランド人集団とは別に検査され、これは約7000万SNP遺伝子型において最大である。
【0070】
プールされたWGAS手法は、老人性難聴に有意に関与するゲノムに及ぶ領域にうまく優先順位を付けることができた。
【0071】
(交差遺伝子型同定の結果)
交差遺伝子型同定の期間内に遺伝子型が同定された時に、有意性を持って生存したSNPは存在しなかった。これが意味することは何だろうか?我々は、フィンランドとヨーロッパの集団が異なる遺伝的背景を有していることを知っている−知っているからこそ、初期解析を別々に行った。したがって、我々は疾患に関与する全く同じマーカーを必ずしも期待していたわけではない。しかしながら、我々は、老人性難聴の原因となる主遺伝子が存在するのであれば、両方の集団において検出するべきであるということを予測したことになる。
【0072】
(ユーロの複製)
我々は、アントワープとテュービンゲンから採用した新規集団において、SNPの選択リストを検査した。選抜されるためには、SNPは、:(1)元のユーロのプールされたコホートにおいて有意性が0.003未満であること、(2)アントワープコホート単体において有意性が0.05未満であること、及び(3)遺伝子内に存在するものである必要がある。これにより、210の元リストから23のSNPを選択した。新規の複製コホートは、元のプールコホートと全く同じ表現型である個体で構成されている。再度、これらは、四分位数は、非常にz値に基づいていた。コホートは、61の症例と66の対照で構成される。SNPは、前回と同じ基準(>90%コールレート、HWE=0.05、MAF=5%)を用いた分析に使用された。19のSNPが、これらのカットオフを耐え抜いた。
【0073】
少なくとも10,000Xにおいて生存したrs11928865のSNPは、データを並び替えた[p=0.0038];表2。このSNPは、ユーロ集団プールの分析において#3のランクを占めた。このSNPはGRM7の遺伝子座内に配されていた。ここで、フィンランドプールの分析における上位200においては、GRM7内に2つのSNPが存在していることに留意されたい。
【0074】
【表2】
【0075】
rs11928865; chr3: 7,130,702
【0076】
rs779701; chr3: 7,493,772
【0077】
rs779706; chr3: 7,499,042
【0078】
要約すれば、フィンランドを含む様々なヨーロッパ地域の8つのセンターから集められた3434の個体から選ばれた合計846の症例と846の対照が、本研究において分析された(表1)。症例と対照のプールは、各サブ集団(n=8)に対して3倍生成され、各プールは、3つの複製アフィメトリクス・ヒトマッピング500Kアレイにおいて、遺伝子型が同定された。このアレイは、506627SNPを含むものである。
【0079】
プールされた全ゲノム関連研究からのSNPはランク付けされた。各サブ集団は別々に評価され、その後に、フィンランド人以外のヨーロッパ人のサンプルの分析は組み合わされた。フィンランド(オウル及びタンペレ)から収集されたサンプルは、残りのヨーロッパ人のサンプルからは遺伝的に区別可能であると判断され、全体として別個に分析された。最も高くランク付けされたSNPについては、我々は、関連リスク対立遺伝子が全てのサブ集団に及んで同じであるか否かを検証した。関連対立遺伝子が全てのサブ集団において同じでない場合には、SNPは更なる研究から除外された。GenePoolソフトウェアによってランク付けされるとともに全ての基準を満たす、ヨーロッパ人集団の研究で同定された上位252のSNP及びフィンランド人ベースの研究で同定された上位177のSNPは、個別の遺伝子型同定による検証へと進められた。結果得られた個別ベースのxの2乗p値は、表2に記載されている。個別の遺伝子型同定実験は、プール手法の明確な検証を含む。DTD1(D−チロシル−tRNAデアシラーゼ1)及びPDE9A(ホスホジエステラーゼ9A)は、それぞれ、一般的なヨーロッパ人集団及びフィンランド人集団において上位を占める遺伝子であった。2つの遺伝子は、両方の集団において有意に関連があった:GRM7(グルタミン酸受容体、代謝調節型、7)及びCDH13(カドヘリン13)。
【0080】
その後に、23のSNPの選定サブセットを、ヨーロッパ人の複製コホートにおいて検査した。この複製コホートは、142の新規に採用した個体からなる。SNPは、厳密な基準を合格した場合のみ含まれ、この厳密な基準とは、(1)5つの例外を備える遺伝子内であること、(2)0.05のカットオフにおいてHWE測定値を通過すること、(3)個体のコールレートは>97%を示すこと、及び(4)少なくとも5%の小規模な対立遺伝子頻度を有すること、を含む。複数の検査を補正するために、我々は、ボンフェロ−ニ(Bonferroni)補正法を用いた。連鎖不均衡(LD)によって、これら23個のSNPは、20のみの真の検査(true test)を示し、ボンフェロ−ニ補正による有意性のp値0.0025を生じさせた。GRM7の1つのSNP(rs11928865)は、複製コホートにおいてp値0,0003を生じさせ、これにより、ボンフェロ−ニ補正を生き残った。並べ替え検定によって、p値0.0044が得られた。
【0081】
トレーニング及び複製コホートの両方において、rs11928865のT対立遺伝子が疾患に関連していた。頻度は、トレーニングコホートにおいて症例では76.9%及び対照では71.4%であり、複製コホートにおいて症例では79.3%及び対照では57.8%であった。本SNPのオッズ比は、複製コホートでは2.56[1.23−5.30の95%信頼区間]であった。フィンランド人の複製コホートを獲得できなかったため、GRM7内のSNPであるとともにフィンランド人集団で有意性のあるrs779706及びrs779701は複製できなかった。
【0082】
(GRM7の精細マッピング)
GRM7は、約880kbである。精細マッピングは、rs11928865周囲の400kbの領域に限定した。ハップマップデータに基づき、80GRM7のタグSNPが選択され、全てのヨーロッパ人サンプル(トレーニング及び複製コホート)において遺伝子型が同定された。図7は、ヨーロッパ人の複製サンプルにおけるGRM7遺伝子座の精細マッピングを図示する。Rs11928865は、最も有意性がある関連個別SNPを維持し、その一方で、ハプロタイプブロックの7(rs6804466、rs3828472、rs12497688、rs12497688、rs9819783、rs11920109のSNPからなる)及び6(rs11928865及びrs9877154のSNPからなる)が、最も有意に関連するハプロタイプブロックであった(表2)。データの100万の並び替えの結果、ハプロタイプブロック7及び6に対してそれぞれp値0.0013と0.0266が得られた。ハプロタイプブロック6及び7はごく接近しており、ハプロタイプブロック6及び7の間のLDはかなり高いレベルであるため、我々は、両方のブロックを単一のブロックにすることを押し進めた。このように結合された6−7ハプロタイプはp値0.0004を有しており、全ての並べ替えたp値のうち、最も有意性が高かった。我々は、GRM7遺伝子座にわたって近傍に配された多数のSNPの遺伝子型を同定したことにより、関連シグナルを狭い範囲にまで減らした。このことは、原因対立遺伝子がGRM7エクソン2の周囲の150kb範囲内に配されることを示した。
【0083】
我々は、現在までに、最大のプールベースの全ゲノム関連研究を完成させることにより、老人性難聴への遺伝的な危険因子を明らかにした。我々は、GRM7に存在するSNPを同定し、これは、元々プールされたユーロコホートにおいて有意性を有しているとともに検証ユーロコホートにおいても有意性を有している。さらに、同じ遺伝子内の2つのSNPはフィンランドベースのコホートにおいて有意性を有している。mGluR7周囲の生態は、老人性難聴において重要な役割を有するmGluRを支援する。
【0084】
(実施例2)
(原料及び方法)
インサイチュハイブリダイゼーション用のGRM7フラグメントのクローニングとプローブ合成
マウスの脳のRNAは、トリゾール(Invitrogen社、カールズバッド、カリフォルニア州、アメリカ合衆国)を用いて単離され、RT−PCR(Invitrogen社、カールズバッド、カリフォルニア州、アメリカ合衆国)のスーパースクリプト(商標)III ファースト・ストランド合成システムを用いて逆転写された。マウスのGRM7(ヌクレオチド901−1739)の839bpのフラグメントは、(Kosinski CM. et al. 1999 J. Comp. Neurol. 415:266-84)に基づくものであり、製造業者の取扱説明書に基づき、iProof高忠実度DNAポリメラーゼキット(BioRad社、ハーキュリーズ、カリフォルニア州、アメリカ合衆国)を用いて増幅された。この増幅は、200μMのdNTPミックス(BD Biosciences Clontech社、パロ・アルト、カリフォルニア州、アメリカ合衆国)と、0.5μMの各プライマー(5'- AGAGCTGACCAAGTAGGAC-3', SEQ ID NO: 1 と、 5’-GGGATGTTCTGACAGCCAG- 3', SEQ ID NO: 2)(Invitrogen社、カールズバッド、カリフォルニア州、アメリカ合衆国)の存在下で実施された。PCR生成物は、QIAクイック・ゲル・エクストラクション・キット(QIAGEN GmbH、ヒルデン、ドイツ)を用いてゲル精製され、3’A−オーバーハングは、1x PCR−バッファー、200μMのdNTPミックス(BD Biosciences Clontech社、パロ・アルト、カリフォルニア州、アメリカ合衆国)と、0.1U/μlのシルバースター(商標)Taqポリメラーゼ(Eurogentec社、スラン、ベルギー)とを添加し、その後、72℃で10分間培養することにより生成された。続いて、製造業者の手順に従い、シーケンシング用のTOPO TA クローニングキット(Invitrogen社、カールズバッド、カリフォルニア州、アメリカ合衆国)を用いてフラグメントをクローンした。挿入部分は、シーケンシングによって検証された。プラスミドは、Notl 又はSpel (Fermentas GmbH社, St.レオン・ロット、ドイツ)のいずれかを用いて、37℃で3時間かけて線状化され、消化物は、高速PCR精製システム(Marligen Bioscience 社、 イジャムスビル、メリーランド州、アメリカ合衆国)を用いて精製された。続いて、ジゴキシゲニン(DIG)−標識アンチセンス及びセンスのリボプローブが、T3とT7ポリメラーゼを用いて生成され、これは、製造業者が規定する如く、リボプローブ(商標)インビボ転写システム(Promega社、マディソン、ウィスコンシン州、アメリカ合衆国)及びDIG−1 1−UTP (Roche Diagnostics社、ブリュッセル、ベルギー)を用いてなされた。その後、リボプローブは、フラグメント長さが約150bpとなるまで加水分解され、これは組織内にさらに良く拡散させるためである。エタノール沈殿させた後、ペレットは、ジエチルピロカーボナート(DEPC)処理水に溶解させた。プローブ濃度は、製造業者の取扱説明書に基づき、DIG非放射性核酸標識及び検出システム(Roche Diagnostics社、ブリュッセル、ベルギー)を用いて決定された。
【0085】
(組織の準備)
生後(PD:Postnatal)1、PD21、及び成体マウス(PD42乃至PD70の範囲の年齢)からのマウス内耳組織が、前述された如く(Cryns K. et al. 2003 Histochem Cell Biol. 119:247-56)、準備された。簡潔に言うと、マウスは経心的にかん流され、内耳は、取り除かれた後、4%のリン酸緩衝液パラホルムアルデヒド(PF/PB)内に固定された。固定後、P21及び成体の内耳は、5%のエチレンジアミン四酢酸(EDTA)を含むリン酸緩衝生理食塩水(PBS)内で脱灰された。組織は、パラフィン包埋され、5μm厚さの切片が、コーティングされていないガラス上に載置され、免疫組織化学法へと使用された。
【0086】
(インサイチュハイブリダイゼーション)
組織切片上におけるインサイチュハイブリダイゼーションが、記載された改良型を用いて実施された(Groves and Bronner-Fraser, 2000 Development 127:3489-99)。簡潔に言うと、アンチセンスのジゴキシゲニン標識RNAプローブが、リボプローブ(商標)システムプロトコル(Promega Co.社、マディソン、ウィスコンシン州)に基づき合成された。切片は、PKバッファー(pH7.5)内の2μg/mlのプロテイナーゼKで、室温で10分間処理された。その後、組織切片は、ハイブリダイゼーションの前に脱脂及び脱水された。ジゴキシゲニン標識リボプローブを用いたハイブリダイゼーションは、ハイブリダイゼーションバッファー溶液において60℃で一晩実施された。ハイブリダイゼーション後、切片は、PBT内の20%加熱不活性化ヒツジ血清において培養されることにより、非特異的結合部位が遮断された。ハイブリッドを可視化するために、切片は、抗−ジゴキシゲニン抗体(アルカリホスファターゼ抱合されたもの)を用いて培養された。スライドは、発色性物質BCIP(触媒としてNBTを用いる)を加えた後、暗室中で24時間、室温で発現させた。
【0087】
各遺伝子型のうち3乃至5の胚が、各プローブに対して分析された。
【0088】
(免疫組織化学法)
マウス内耳のパラフィン切片が、キシロールを用いて脱パラフィン化され、エタノール系でもどされた。切片はPBS内で洗浄され、内因性アビジンとビオチンは、内因性アビジン/ビオチン遮断キット(Zymed Laboratories、サンフランシスコ、カリフォルニア州、アメリカ合衆国)によって、製造者が記載する如く、遮断され、その後全面的に洗い流した。一次抗体からの特異的結合を防ぐために、切片は、新しく調製された50mMのグリシン/PBS溶液を用いて15分間で遮断され、再度洗い流された。その後、スライドは遮断バッファー内で30分培養された。遮断バッファーは、0.01MPBS(pH7.4)、10%の正常ヤギ血清(NGS)、0.05%チメロサール、5%ウシ血清アルブミン(BSA)、及び0.3%のトリトンX−100を含む。続いて、切片は、GRM7に対するペプチド−親和性精製ウサギポリクローナル抗体(Imgenex社、サンディエゴ、カリフォルニア州、アメリカ合衆国)を、0.3%トリトン X−100を含むPBS(tx−PBS)で1:150に希釈して用いて、4℃で一晩培養された。広範囲に洗い流した後、ヤギ抗−ウサギ免疫グロブリン(Ig)Gのビオチン化Fabフラグメント(Rockland社、ギルバーツヴィル、ペンシルベニア州、アメリカ合衆国)をtx−PBSで1:500に希釈したものを、2時間添加した。切片は、洗浄され、Cy3−共役ストレプトアビジン(Jackson Immunoresearch Laboratories、ウェストグローブ、ペンシルベニア州、アメリカ合衆国)をPBSで1:5000に希釈したものの中で2時間培養された。最終的には、スライドは、PBS内で洗い流され、Citifluor (Ted Pella、レディング、カリフォルニア州、アメリカ合衆国)とともにマウントされ、蛍光及び共焦点顕微鏡法を用いて検査された。
【0089】
(ヒト免疫組織化学法)
ヒト側頭骨切片は、セロイジン包埋され、80%エタノールで保存された。切片は95%と100%エタノールで5分間洗浄され、その後100%メタノールで5分間洗浄された。非加熱抗原回復試薬(飽和NaOH(Sigma社))及びメタノールを、濃度1:3とし、切片に加えた。切片は、抗原回復試薬において5分間培養され、100%メタノールで5分間洗浄され、その後、80%メタノールで5分間洗浄された。切片はPBS内で10分間2回洗い流されることにより、メタノールを除去した。各切片は、トリトン−X100 (Sigma Cat. #X-100)内に10分間置かれ、PBS内で10分間3回洗浄された。切片は、10%BSA (Sigma Cat, # A-2153)内で、室温で30分間培養され、これにより非特異的結合を遮断した。遮断後、切片は、2μl/ml濃度の一次抗体(mGluR7 Imgenex Cat. #IMG−71406)とともに培養され、4℃で一晩放置された。次の日に、切片はPBSで洗浄され、ビオチン化二次抗体(LSAB2 system AP: マウス/ウサギ, Dako Cat. # K0674)内で1時間培養された。培養から移動させた後、切片はPBS内で10分間3回洗浄され、三次抗体又は標識抗体ストレプトアビジン共役酵素(LSAB2 システム AP:マウス/ウサギ、Dako Cat. # K0674)内で1時間培養した。この培養後、切片はPBS内で10分間3回洗浄され、数滴の高速赤色色原体(色原体及び基質キット、Biogenex社、Cat. #HK182-5K)が約3乃至5秒間の間用いられた。切片は、色原体反応を停止させるためにPBS内で洗浄され、蒸留水内に配された。その後、各切片は、メイヤーのヘマトキシリン(Biogenex社 Cat. #HK100-5K)を用いて、3乃至5秒間対比染色し、水道水とアンモニア水で切片が青色に変わるまで洗い流した。最終的に、各切片は蒸留水で洗浄され、スライドガラス上に水性マウント媒体(Biogenex社より、Cat. #HK099-5K)とともに載置され、カバーを下ろした。
【0090】
(結果)
マウス及びヒト内耳におけるGRM7発現
GRM7発現は、マウスの内耳の3つの異なる成長段階(PD1、PD21及び成体;図5)において、免疫組織化学法によって検査された。一次抗体なし及び/又は二次抗体なしのネガティブ対照は、染色を示さなかった。これらの成長段階の全てにおいて、GRM7発現は、らせん神経節のニューロン(図5a)、コルチ器官の内有毛細胞及び外有毛細胞(図5a、d、e、f)、及び前庭器の有毛細胞:球形嚢(図2c)、卵形嚢及び膨大部稜(図2b)において集中していた。PD1では、GRM7標識は、より加齢した段階ほどは輝いていないが、それでも非常に明確な特異的信号が、コルチ器官の感覚上皮(図5d)、前庭器の有毛細胞、及びらせん神経節において検出された。PD21及び成体の内耳では、GRM7の発現はより豊富であった。蝸牛の基礎及び頂回転間において染色度又は染色パターンの違いは見受けられなかった。
【0091】
GRM7発現は、セロイジン包埋された成人のヒト側頭骨検体において免疫組織化学法を用いて検査された。一次抗体なし及び/又は二次抗体なしのネガティブ対照は、染色を示さなかった。GRM7は、らせん縁の歯間細胞、コルチ器官の内及び外有毛細胞及びヘンゼン細胞、及びらせん靱帯のタイプII線維芽細胞(図6a、b、c)において検出された。マウスにおいては、GRM7もまた、らせん神経節ニューロン(図6d)において検出された。
【0092】
(実施例3)
65歳の男性老人は、両耳において中程度に高い周波数(2000Hzより上)の聴力(50デシベル閾値)の損失を含む老人性難聴の症状を有している。この男性は、リン酸緩衝生理食塩水に10μg/mlのAMN082と、さらに0.25%のカルボキシビニル水膨潤性ゲル化剤であるCarbopol934Pを含む局所的な耳用製剤を、毎日片耳ごとに2滴投与された(即ち、片耳ごと投与ごとに約1μgのnGluR7アゴニスト)。14日後、患者は聴覚学者によって検査された。閾値は、右耳では35デシベルにまで低くなり、左耳では40デシベルにまで低くなった。
【0093】
(実施例4)
72歳の女性老人は、中程度に高い周波数(1000Hzより上)の聴力(右耳で40デシベル閾値及び左耳で35デシベル閾値)の損失を含む老人性難聴の症状を有している。この女性は、1投与当りにAMN082を2μg含む経口製剤を1日に4回投与された。持続放出カプセルは、10重量%のヒドロキシプロピルメチルセルロースのマトリックス(例えば、メトセル(登録商標)、ダウ・ケミカル・カンパニー、アメリカ合衆国)、及び50重量%のコーンスターチ増量剤を含む。14日後、閾値は、右耳は35デシベルまで低くなり、左耳は25デシベルまで低くなった。
【0094】
(実施例5)
82歳の男性老人は、500乃至2000を超えるHz範囲における聴力の損失を含む老人性難聴の症状を有している。この男性には、蝸牛の送達に応用されたアルセット(登録商標)の浸透圧ポンプ(例えば、Richardson,R.T.、Noushi,F.、O'Leary,S. Inner ear therapy for neural preservation. AUDIOLOGY AND NEURO-OTOLOGY 2006; 11(6): 343-356).)が埋め込まれた。このポンプは、AMN082を含む水性無菌溶液を供給するものである。ポンプはmGluR7モジュレーターを10μg/時間の投与量で送達させる。10日後、聴力は両耳で改善した。
【図1A】
【図1B】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
加齢に伴う聴力損失(老人性難聴)を治療又は予防するための薬剤の製造におけるmGluR7モジュレーターの使用。
【請求項2】
前記モジュレーターが選択的mGluR7アゴニストであることを特徴とする請求項1記載の使用。
【請求項3】
前記選択的mGluR7アゴニストがAMN082であることを特徴とする請求項2記載の使用。
【請求項4】
前記薬剤が、経口、局所、又は浸透圧ポンプの送達用として調製されることを特徴とする請求項1記載の使用。
【請求項5】
加齢に伴う聴力損失(老人性難聴)を治療又は予防するための方法であって、
前記老人性難聴を治療及び/又は予防するのに十分な量のmGluR7のモジュレーターを、必要とする哺乳類に投与する工程を備えることを特徴とする方法。
【請求項6】
前記モジュレーターが選択的mGluR7アゴニストであることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記選択的mGluR7アゴニストがAMN082であることを特徴とする請求項2記載の方法。
【請求項8】
加齢に伴う聴力損失を治療又は予防するための医薬組成物であって、
mGluR7のモジュレーターを含むことを特徴とする医薬組成物。
【請求項1】
加齢に伴う聴力損失(老人性難聴)を治療又は予防するための薬剤の製造におけるmGluR7モジュレーターの使用。
【請求項2】
前記モジュレーターが選択的mGluR7アゴニストであることを特徴とする請求項1記載の使用。
【請求項3】
前記選択的mGluR7アゴニストがAMN082であることを特徴とする請求項2記載の使用。
【請求項4】
前記薬剤が、経口、局所、又は浸透圧ポンプの送達用として調製されることを特徴とする請求項1記載の使用。
【請求項5】
加齢に伴う聴力損失(老人性難聴)を治療又は予防するための方法であって、
前記老人性難聴を治療及び/又は予防するのに十分な量のmGluR7のモジュレーターを、必要とする哺乳類に投与する工程を備えることを特徴とする方法。
【請求項6】
前記モジュレーターが選択的mGluR7アゴニストであることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記選択的mGluR7アゴニストがAMN082であることを特徴とする請求項2記載の方法。
【請求項8】
加齢に伴う聴力損失を治療又は予防するための医薬組成物であって、
mGluR7のモジュレーターを含むことを特徴とする医薬組成物。
【図2】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図5D】
【図5E】
【図5F】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図6D】
【図7】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図5D】
【図5E】
【図5F】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図6D】
【図7】
【公表番号】特表2010−525073(P2010−525073A)
【公表日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−506460(P2010−506460)
【出願日】平成20年4月23日(2008.4.23)
【国際出願番号】PCT/US2008/061330
【国際公開番号】WO2008/131439
【国際公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【出願人】(509294162)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年4月23日(2008.4.23)
【国際出願番号】PCT/US2008/061330
【国際公開番号】WO2008/131439
【国際公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【出願人】(509294162)
【Fターム(参考)】
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