説明

仮設堤防用袋体、仮設堤防用構造体、およびアンカーと、これらを用いた仮設堤防の施工方法

【課題】ロール状に小さく巻き込むことができ、軽量で、ヘリコプター等を使用した搬送が容易であると共に、堤防の決壊部分において短時間で仮設堤防を構成して、決壊部分からの流入水量を抑えることができる仮設堤防用袋体、仮設堤防用構造体と、仮設堤防用袋体を係留するアンカーと、仮設堤防の施工方法とを提供する。
【解決手段】仮設堤防用袋体1は、片面にゴムまたは樹脂からなる被覆層が被覆された布材によって袋状に形成した。仮設堤防用構造体24は、前記仮設堤防用袋体1の、隣り合う2つごとの接続部材5を、1つの係留索7に接続した。アンカー18は、係留索7に設けた接続用リング22を接続部に案内するガイドポール20を有する。施工方法は、アンカー18を水底に着底させた後、ガイドポール20によって接続用リング22を接続部に案内して接続して、係留索7を介して仮設堤防用袋体1を係留する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、河川の堤防が決壊した際等に、前記決壊部分において、例えば河川側(「堤外」という)から陸地側(「堤内」という)へ流入する水量を抑制するために、水中に係留されて仮設堤防として用いられる新規な仮設堤防用袋体と、前記仮設堤防用袋体を含む仮設堤防用構造体と、前記仮設堤防用袋体を係留するためのアンカーと、前記仮設堤防用袋体を、アンカーを用いて係留して、仮設堤防を施工するための施工方法とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、利根川や荒川の上流で堤防が決壊すると、決壊によって溢れ出した水の大部分は、関東平野の地勢上、首都圏に流入して、およそ30兆円を超す洪水被害を発生させると予想されている。そのため、堤防の決壊部分を短時間で塞いで、堤内に流入する水量を、できるだけ少なくする必要がある。しかし、人海戦術で多量の土嚢を投入して積み上げるといった旧来の方法では、特に、利根川等の大規模な河川における堤防の決壊部分を、短時間で塞ぐことは不可能であった。
【0003】
すなわち、堤防が決壊する長さは、決壊部分の川幅のおよそ1/2程度であることが、経験上、知られており、川幅の広い大規模な河川ほど、堤防が決壊する長さも長大になるため、旧来の方法で決壊部分を修復するためには数日ないしは数週間を要してしまい、その間も、決壊部分からは多量の水が堤内に流入し続けることになるため、特に都市部において、甚大な被害を生じることになるのである。そこで、堤防の決壊部分を仮に塞いで、前記決壊部分から堤内に流入する水量を抑えながら、本格的な堤防の修復作業するために、前記決壊部分において、短時間で簡単に組み立てることができる仮設堤防を開発することが検討されている。
【0004】
かかる仮設堤防としては、例えば、特許文献1に記載された、繊維製の補強層にゴムまたは樹脂を含浸させた、いわゆる繊維補強ゴム膜を用いて形成した巨大な袋体を利用することが考えられる。なお、特許文献1に記載の発明は、河川が増水して決壊に至る前の堤防上に、前記袋体を固定した状態で、内部に注水して袋体を膨張させることで、実質的に堤防を嵩上げして、水が前記堤防上を超える、いわゆる越水を防止し、それによって堤防の決壊を防ぐための技術に関するものである。
【特許文献1】特開昭64−21111号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載された従来の袋体は、主体がゴムまたは樹脂であるため、剛直で、ロール状に小さく巻き込んだり、折り畳んだりすることが難しい上、重量も大きいため、持ち運びが容易でないという問題がある。そのため、堤防の、既に決壊して、多量の水が溢れ出している状態にある決壊部分に前記袋体を持ち込んで仮設堤防を形成することは、実質的に不可能である。
【0006】
例えば、前記袋体をトラック等で搬送するにしても、決壊部分に近づくための道路網は、決壊部分から溢れ出した水によって、そのときには殆どが遮断されているであろうし、決壊部分以外でも多量の水を含んで強度が低下している堤防上を、トラックで走行して搬送することも不可能である。したがって、例えばヘリコプター等を使用して、堤防の決壊部分まで搬送し、空中から、決壊部分の水中に投入して、堤防と同程度の巨大な仮設堤防を構成するための新たな技術開発が必要である。
【0007】
本発明の目的は、堤防と同程度の大きさを有するにも拘らず、ロール状に小さく巻き込んだり、折り畳んだりすることができる上、軽量であって、例えばヘリコプター等を使用した搬送が容易であると共に、堤防の決壊部分において、短時間で簡単に仮設堤防を構成して、決壊部分からの流入水量を抑えることができる仮設堤防用袋体と、前記仮設堤防用袋体を含む仮設堤防用構造体と、前記仮設堤防用袋体を係留するためのアンカーとを提供することにある。また、本発明は、前記仮設堤防用袋体を、アンカーを用いて係留して、仮設堤防を施工するための施工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、内部に注水して膨らませた状態で、水底に着底させることによって、仮設堤防として用いられる仮設堤防用袋体であって、片面に、ゴムまたは樹脂からなる被覆層が被覆された布材によって、袋状に形成されていることを特徴とする仮設堤防用袋体である。前記本発明によれば、仮設堤防用袋体を、片面に、ゴムまたは樹脂からなる被覆層が被覆された布材によって形成しているため、前記仮設堤防用袋体の全体を、被覆層によって、内部に注水して膨らませるための不透水性を維持しながら、従来の、主体がゴムまたは樹脂からなるものに比べて柔軟で、ロール状に小さく巻き込んだり、折り畳んだりすることが容易である上、全体を軽くすることもできる。
【0009】
そのため、堤防と同程度の大きさを有する前記仮設堤防用袋体を、ロール状に小さく巻き込んだり、折り畳んだりした状態とすることによって、例えばヘリコプター等を使用して、堤防の決壊部分まで、容易に搬送することができる上、搬送した仮設堤防用袋体を、空中から、前記決壊部分の水中に投入すると共に、注水して膨らませて、水底に着底させることによって、堤防と同程度の大きさを有する仮設堤防を、短時間で簡単に組み立てて、決壊部分から堤内に流入する水量を抑えることができる。
【0010】
なお、水中で注水することによって膨らませた仮設堤防用袋体の形状を、外部の水圧に抗して維持するためには、その内圧を、およそ9.8kPa以上とする必要があり、また、前記仮設堤防用袋体としては、注水して膨らませた状態での高さが、例えば利根川等の大規模河川の堤防の場合は5m以上、要求されることから、仮設堤防用袋体を形成する布材には、破断したりしないために、幅1cmあたり、およそ245N/cm以上の高い抗張力が要求され、安全率を考慮すると、前記布材の、幅1cmあたりの引張強度は980N/cm以上であるのが好ましい。また、仮設堤防用袋体の全体を、柔軟で、ロール状に小さく巻き込んだり、折り畳んだりすることが、さらに容易なものとすると共に、より一層、軽くすることを考慮すると、前記布材の片面に被覆される被覆層の、布材1mあたりの被覆量は2kg/m以下であるのが好ましい。
【0011】
また、仮設堤防用袋体の内部に、前記内部を2つの領域に仕切ると共に、仕切られた一方の領域に注水した際に、他方の領域の方向へ突出するように変形する仕切膜が設けられている場合には、例えば、上流から流されてきた流木等が衝突して、前記仮設堤防用袋体が破られた際の安全性を向上することができる。すなわち、流木等が衝突して、仮設堤防用袋体の、注水して膨らませた側の領域が破られて、その破口から水が流出して、膨らませた形状を維持することができなくなった際に、前記仕切膜で仕切られた他方の領域に注水することによって、前記仕切膜を逆方向に突出するように変形させて、短時間で、膨らませた形状を復活させることができる。
【0012】
また、仮設堤防用袋体の内部に、多数のシート片が収容されていることでも、前記仮設堤防用袋体が破られた際の安全性を向上することができる。すなわち、流木等が衝突して、仮設堤防用袋体が破られて、その破口から水が流出しだすと、その水流に乗って多数のシート片が破口の周囲に集まって、水圧によって、前記破口を塞いだ状態で、仮設堤防用袋体の内側面に押し付けられるため、前記仮設堤防用袋体の、膨らませた形状を維持することができる。そのため、前記いずれの場合にも、仮設堤防用袋体が破られた際に、決壊部分から堤内に流入する水量が増加するのを抑制して、安全性を向上することができる。
【0013】
先に説明したように、堤防の決壊部分は、その川幅のおよそ1/2程度にも亘る長大なものとなるため、前記決壊部分に、できるだけ少数の仮設堤防用袋体を用いて、効率よく、仮設堤防を形成することを考慮すると、前記仮設堤防用袋体は、堤防の決壊部分に沿って並べることができる、両端が閉じられた筒状に形成されているのが好ましい。また、前記筒状の仮設堤防用袋体を、決壊部分において、堤外から堤内へ流入する水流による流体力に抗して、より安定して係留させることを考慮すると、前記仮設堤防用袋体の、筒の側面に、係留索を接続するための、複数の接続点が、前記筒の長さ方向に沿って一列に配列されているのが好ましい。
【0014】
すなわち、注水して膨らませた仮設堤防用袋体を、前記複数の接続点に接続した係留索によって、筒の長さ方向の複数箇所で係留するようにすると、前記筒が、水流によって押し流されて、途中で折れ曲がったりするのを防止することができる。また、仮設堤防用袋体を、前記水流の上流側に着底されるアンカーに、筒の長さ方向と交差する高さ方向では、その1点で、係留索を介して接続することになるため、前記仮設堤防用袋体の、前記筒の長さ方向と交差する高さ方向の断面形状を、水流の影響によって、前記水流の上流側(堤外側)の、係留索の接続点において尖った、例えば略西洋梨形等にすることができる。
【0015】
そのため、仮設堤防用袋体を、筒の長さ方向と交差する高さ方向の2点以上で係留する場合に比べて、前記仮設堤防用袋体の、水流に対する抗力係数を小さくすることができ、先に説明した、接続点を、筒の長さ方向の複数箇所に設けたことによる効果と相まって、仮設堤防用袋体を、決壊部分において、堤外から堤内へ向かう水流による流体力に抗して、より安定して係留させることが可能となる。
【0016】
なお、前記筒状の仮設堤防用袋体を、増水して多量の水が、河川を上流から下流へ、そして堤防の決壊部分において、堤外から堤内へ流れている水中に投入して、前記決壊部分に係留する際の作業性を向上することを考慮すると、筒の、少なくとも一方の端面にも、係留索を接続するための接続点が設けられているのが好ましい。すなわち、決壊部分の上流側にアンカーを投入して、まず、筒の上流側の端面に設けた前記接続点を、前記アンカーに、係留索を介して接続した後、筒の側面に設けた複数の接続点を、河川の上流から下流へ向けて、順に、係留索を介して、対応するアンカーに接続してゆけば、筒が、水流によって押し流されて、途中で折れ曲がったりするのを防止しながら、前記筒状の仮設堤防用袋体を、堤防の決壊部分に、きれいに沿わせて係留することができるため、係留の作業性を向上することができる。
【0017】
前記筒状の仮設堤防用袋体は、筒の長さ方向の複数箇所に、前記筒の周方向に沿う補強帯が設けられていると共に、筒の周方向の複数箇所に、前記筒の長さ方向に沿う補強帯が設けられており、前記両方向の補強帯の交差部分に、係留索を接続するための接続点が設けられているのが好ましい。前記両方向の補強帯で二重に補強された交差部分に、係留索の接続点を設けることによって、水流による流体力を受けて、接続点に応力が集中した際に、仮設堤防用袋体が破れたりするのを、確実に防止することができる。前記接続点は、具体的には、両方向の補強帯の、交差部分の重なりによって形成される領域よりも平面形状が小さい、前記領域に固定される平板状の固定金具と、前記固定金具に取り付けられた、係留索が接続される接続金具とを有する接続部材によって構成されているのが好ましい。
【0018】
先に説明した、筒状の仮設堤防用袋体の、水流に対する抗力係数を小さくして、決壊部分において、堤外から堤内へ向かう水流による流体力に抗して、より安定して係留させると共に、水流が、着底させた仮設堤防用袋体の下側に入り込んで水底の土砂を流し出す、いわゆる洗掘が発生するのを防止することを考慮すると、前記仮設堤防用袋体は、内部に注水して膨らませて水底に着底させると共に、接続点に係留索を接続して係留した状態での、水底からの最大高さHと、前記状態での、筒の長さ方向と交差する幅方向の最大幅Wとが、式(1):
W≧1.2H (1)
を満足する範囲内であるのが好ましい。
【0019】
そのためには、例えば、先に説明したように、仮設堤防用袋体を、水流の上流側に着底されるアンカーに、筒の長さ方向と交差する高さ方向の1点で、係留索を介して接続した際に、水流の流速等に応じて、注水する水圧等を調整することで、前記高さ方向の断面形状を、堤外側の、係留索の接続点において尖った略西洋梨形等に維持するようにすればよい。また、その際に、最大高さHが、仮設堤防に求められる所定の高さを満足できるようにするためには、筒の周方向の周長を、断面形状が円である場合の周長、すなわちπ×Hより、およそ10%以上、長めに設定しておくのが好ましい。
【0020】
ただし、それだけでは、水流の流速等の変動によって、高さ方向の断面形状が、式(1)を満足できない場合を生じるおそれがあり、どのような条件の変動が生じても、式(1)を満足し続けることができるようにするためには、前記仮設堤防用袋体の内部に、高さ方向への拡がりを規制して、最大高さHと、最大幅Wとを、式(1)の範囲内とするための膜ウェブが設けられているのが好ましい。
【0021】
本発明の仮設堤防用構造体は、片面に、ゴムまたは樹脂からなる被覆層が被覆された布材によって、両端が閉じられた筒状に形成され、かつ、前記筒の側面に、係留索を接続するための複数の接続点が、前記筒の長さ方向に沿って一列に配列された仮設堤防用袋体を備えると共に、前記仮設堤防用袋体の側面の複数の接続点が、隣り合う少なくとも2つごとに、前記仮設堤防用袋体を水底に係留するためのアンカーに接続される接続用リングを有する1つの係留索に接続されていることを特徴とするものである。
【0022】
前記本発明の仮設堤防用構造体によれば、仮設堤防用袋体の、筒の側面に一列に配列された複数の接続点のうち、隣り合う少なくとも2つの接続点を、1つの係留索を介して、いわゆるY字接続やV字接続をして、安定に係留させることができる。そのため、先に説明したように、仮設堤防用袋体を、前記複数の接続点に接続した係留索によって、筒の長さ方向の複数箇所で係留して、前記筒が、水流によって押し流されて、途中で折れ曲がったりするのを防止する効果を、より一層、向上して、前記仮設堤防用袋体を、堤外から堤内へ向かう水流による流体力に抗して、より安定して係留させることができる。
【0023】
また、前記仮設堤防用構造体においては、仮設堤防用袋体の、筒の、少なくとも一方の端面にも、係留索を接続するための接続点が少なくとも2つ、側面の接続点と同列に配列されていると共に、前記少なくとも2つの接続点が、1つの係留索に接続されているのが好ましい。その場合には、先に説明した係留作業の最初の段階で、仮設堤防用袋体の、前記端面側の先端部分を、1つの係留索を介して、やはりY字接続やV字接続をして、安定に係留させることができるため、その後の係留作業の作業性を、さらに向上させることができる。
【0024】
本発明のアンカーは、仮設堤防用袋体を、係留索を介して、水底に係留するためのものであって、係留索に設けられた接続用リングを接続するための接続部を有し、水底に着底されるアンカー本体と、前記アンカー本体から上方へ延設されて、アンカー本体が水底に着底した状態で、先端が水面上に突出され、前記接続用リングの孔に通されて、前記接続用リングを、アンカー本体の接続部に案内するためのガイドポールとを備えることを特徴とするものである。
【0025】
前記本発明のアンカーを、本発明の仮設堤防用袋体と組み合わせて使用することによって、堤防の決壊部分から堤内に流入する水量を抑えることができる仮設堤防を、ヘリコプター等を使用して、短時間で、簡単に、しかも安全に組み立てることができる。すなわち、決壊部分の所定の位置の水中に、空中からアンカーを投入して、アンカー本体を水底に着底させると共に、水面上に突出されたガイドポールの先端を、空中から、前記本発明の仮設堤防用袋体に接続された係留索に設けられた接続用リングの孔に通した状態で、前記接続用リングを水中に投入するだけで、前記接続用リングを、ガイドポールによって、アンカー本体の接続部に案内させて、前記接続部に、自動的に接続させることができる。
【0026】
そのため、決壊部分において、堤外から堤内へ向かう水流による流体力に抗して、仮設堤防用袋体を、より安定して係留させるために、ある程度の重量を有していることが必要とされ、ヘリコプター等では、決壊部分まで搬送できる数が限られている、係留のために必要な数のアンカーと、前記アンカーに、係留索を介して接続される仮設堤防用袋体と、前記係留索とを、別個に、ヘリコプター等を使用して、決壊部分まで搬送して、先に説明したように、空中からの作業だけで、アンカーの着底と、前記アンカーへの係留索の接続とを行うことができるため、仮設堤防を、短時間で、簡単に、しかも安全に組み立てることができる。
【0027】
したがって、本発明の仮設堤防の施工方法は、係留索に設けられた接続用リングを接続するための接続部を有し、水底に着底されるアンカー本体と、前記アンカー本体から上方へ延設されて、アンカー本体が水底に着底した状態で、先端が水面上に突出される、接続用リングを前記接続部に案内するためのガイドポールとを備えたアンカーを複数個、施工領域の水中に投入する工程と、前記各アンカーの、水面上に突出されたガイドポールの先端を、片面に、ゴムまたは樹脂からなる被覆層が被覆された布材によって、両端が閉じられた筒状に形成され、かつ、前記筒の側面に、係留索を接続するための複数の接続点が、前記筒の長さ方向に沿って一列に配列された仮設堤防用袋体の、前記接続点に接続された係留索に設けられた接続用リングの孔に通した状態で、前記接続用リングを水中に投入して、アンカー本体の接続部に接続して固定する作業を、アンカーごとに順次、実施する工程と、前記仮設堤防用袋体内に水を注入して膨らませる工程とを含むことを特徴とするものである。
【0028】
また、施工領域が、河川の堤防の決壊箇所である場合には、先に説明した、ガイドポールの先端を、係留索に設けられた接続用リングの孔に通した状態で、前記接続用リングを水中に投入して、アンカー本体の接続部に接続して固定する作業を、河川の上流側のアンカーから下流側のアンカーに向けて、順に実施するのが好ましい。これにより、仮設堤防用袋体の筒が、水流によって押し流されて、途中で折れ曲がったりするのを防止しながら、筒状の仮設堤防用袋体を、堤防の決壊部分に、きれいに沿わせて係留することができるため、係留の作業性を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
図1は、本発明の仮設堤防用袋体の、実施の形態の一例を示す斜視図である。図1を参照して、この例の仮設堤防用袋体1は、布材の片面にのみ、ゴムまたは樹脂からなる被覆層が被覆された布材によって、両端が閉じられた筒状に形成されている。前記被覆層を形成するゴムとしては、クロロプレンゴム(CR)、エチレンプロピレンゴム(EPM)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)等が挙げられる。
【0030】
被覆層を、前記ゴムによって形成する場合は、未加硫のゴムと、加硫剤等とを溶剤に溶解したゴム糊を、布材の片面に、その反対面まで浸透させずに薄くコーティングすると共に、ゴムを加硫させればよい。ゴム糊を、布材の反対面まで浸透させずに薄くコーティングするためには、前記ゴム糊の粘度を調整するか、あるいはゴム糊に、いわゆるチキソ剤を加えてチキソトロピー性を付与したり、ゴム糊を、例えばナイフを用いたライナー塗布法や、スプレー塗布法等によって塗布したりすればよい。
【0031】
また、被覆層を形成する樹脂としては、例えばウレアウレタン等の、2液硬化型のウレタン樹脂等が挙げられる。被覆層を、前記ウレタン樹脂によって形成する場合は、未硬化のウレタン樹脂を含む塗布液を、布材の片面に、その反対面まで浸透させずに薄くコーティングすると共に、ウレタン樹脂を硬化反応させればよい。塗布液を、布材の反対面まで浸透させずに薄くコーティングするためには、前記と同様の方法を採用すればよい。
【0032】
ゴム糊や樹脂の塗布液の粘度は、前記ゴム糊や樹脂の塗布液が、繊維の目の中に入り込んで加硫または硬化反応されることで、布材の曲げ剛性が上昇して、ロール状に小さく巻き込んだり、折り畳んだりしにくくなるのを、より確実に防止することを考慮すると10Pa・s以上であるのが好ましい。
また、未加硫のゴムと、加硫剤等とを含むゴムのフィルムを、布材の片面に重ねて、熱プレス等することで熱溶着させると共に、ゴムを加硫させて被覆層を形成することもできる。また、例えば軟質の熱可塑性樹脂からなるフィルムを、同様に、布材の片面に重ねて、熱プレス等することで熱溶着させて被覆層を形成することもできる。
【0033】
前記被覆層の、布材1mあたりの被覆量は、仮設堤防用袋体1の全体の柔軟性を向上して、ロール状に小さく巻き込んだり、折り畳んだりすることを、さらに容易にすると共に、より一層、軽くすることを考慮すると2kg/m以下であるのが好ましい。また、被覆層による、前記仮設堤防用袋体1の全体に、内部に注水して膨らませるための不透水性を付与する効果を維持することを考慮すると、前記被覆層の、布材1mあたりの被覆量は、前記範囲内でも0.3kg/m以上であるのが好ましく、前記不透水性を維持しながら、仮設堤防用袋体の柔軟性をさらに向上し、かつ軽くすることを考慮すると1.0〜1.5kg/mであるのがさらに好ましい。
【0034】
被覆層は、布材の、袋体の内側面となる面、および外側面となる面の、いずれに形成してもよい。被覆層を、布材の、袋体の内側面となる面に形成した場合には、前記薄い被覆層が、布材によって保護されることになるため、前記被覆層が、仮設堤防用袋体1を保管したり搬送したりする際や、内部に注水して膨らませた状態で、水底に着底させた際等の摩擦によって失われたり、流木等の衝突によって削られたりして、前記被覆層による不透水性が失われるのを防止することができる。
【0035】
一方、被覆層を、布材の、袋体の外側面となる面に形成した場合には、例えば前記布材が、アラミド繊維等の、高強度ではあるものの、耐光性が低く、日光が当たると劣化する傾向のある繊維等からなる場合に、布材を、前記日光等の外部環境から遮断できるため、前記布材を形成する繊維が、長期間の保管によって劣化して、布材の抗張力が低下したりするのを防ぐことができる。ただし、仮設堤防用袋体1の保管時に、布材に日光等が当たらないように遮断して保管する等の措置を取ることによって、繊維の劣化を防ぐことができる場合には、この限りではない。そのため、被覆層を、布材のいずれの面に被覆するかは、布材を形成する繊維や、被覆を形成するゴム、樹脂等の種類、その他の条件に応じて、適宜、選択することができる。
【0036】
水中で注水することによって膨らませた仮設堤防用袋体1の形状を、外部の水圧に抗して維持するためには、その内圧を、およそ9.8kPa以上とする必要があり、また、前記仮設堤防用袋体1としては、注水して膨らませた状態での高さが、例えば利根川等の大規模河川の堤防の場合は5m以上、要求されることから、仮設堤防用袋体を形成する布材は、破断したりしないため、先に説明したように、安全率を考慮して、幅1cmあたりの引張強度が980N/cm以上であるのが好ましい。
【0037】
前記引張強度の範囲を満足しうる布材としては、先に説明したアラミド繊維や、ポリエステル繊維等の合成繊維からなる布材が挙げられる。特に、アラミド繊維からなる布材は、高い抗張力を有する上、流木等が衝突した際に切れたりしない、高い耐カット性を有することから、仮設堤防用袋体1を形成する布材として好適に使用される。引張強度の上限は、特に限定されないが、引張強度が高すぎる布材は、それ自体が剛直になりすぎて、柔軟性が低下してしまい、ロール状に小さく巻き込んだり、折り畳んだりするのが容易でなくなってしまうおそれがあることから、幅1cmあたり9800N/cm以下であるのが好ましく、前記柔軟性を維持しながら、抗張力をさらに向上することを考慮すると、7000〜5000N/cmであるのがさらに好ましい。
【0038】
図1を参照して、前記筒状の仮設堤防用袋体1の外側面には、筒の長さ方向の複数箇所に、前記筒の周方向に沿う補強帯2が設けられていると共に、筒の周方向の複数箇所に、前記筒の長さ方向に沿う補強帯3が設けられている。前記補強帯2、3は、仮設堤防用袋体1の全体を補強して、その形状を、図に示す筒状に維持すると共に、大きさの限られた布材を複数枚、縫合して、図の筒状に形成する際に、前記縫合部分を補強するために機能する。
【0039】
なお、図示していないが、筒の内側の、外側の補強帯2、3と重複する位置にも、補強帯を設けておくのが好ましい。例えば、布材の縫合部分では、端を折り返した2枚の布材を互いに重ね合わせると共に、前記重ね合わせた部分を挟むように、内外の補強帯を重ねた状態で、前記積層体を縫合することによって、前記2枚の布材が、補強帯によって補強された状態で縫合される。補強帯2、3は、任意の布材で形成できるが、特に、仮設堤防用袋体を形成するのと同じ繊維製の布材、あるいは前記布材の片面に、同じ被覆層を被覆した布材によって形成するのが、仮設堤防用袋体1の不透水性を維持しながら、補強効果を高める上で好ましい。
【0040】
図1を参照して、仮設堤防用袋体1の、筒の手前側の端面の中央部には、前記仮設堤防用袋体1の内部に注水して膨らませるための配管(図示せず)が接続される接続口4が設けられている。また、前記端面の、前記接続口4を挟む左右の位置と、仮設堤防用袋体1の側面の、前記位置と同じ高さの位置には、係留索を接続するための接続点として機能する複数の接続部材5が、筒の長さ方向に沿って一列に配列されている。詳しくは、筒の側面、および筒の端面に引き回された、筒の長さ方向に沿う1本の補強帯3の、筒の周方向に沿う複数本の補強帯2との交差部分に取り付けられることで、前記各接続部材5が、筒の長さ方向に沿って一列に配列されている。
【0041】
そのため、例えば、決壊部分の上流側にアンカーを投入して、まず、筒の上流側の端面に設けた前記接続部材5を、前記アンカーに、係留索を介して接続した後、筒の側面に設けた複数の接続部材5を、河川の上流から下流へ向けて、順に、係留索を介して、対応するアンカーに接続してゆくことによって、筒が、水流によって押し流されて、途中で折れ曲がったりするのを防止しながら、仮設堤防用袋体1を、堤防の決壊部分に、きれいに沿わせて係留することができ、係留の作業性を向上することができる。また、注水して膨らませた仮設堤防用袋体1を、前記複数の接続部材5に接続した複数の係留索によって、筒の長さ方向の複数箇所で係留することによって、前記筒が、係留時に、水流によって押し流されて、途中で折れ曲がったりするのを防止することもできる。
【0042】
図2は、図1の例の仮設堤防用袋体1を、内部に注水して膨らませて水底6に着底させると共に、接続点としての接続部材5に係留索7を接続して、例えば堤防の決壊部分の水8中で係留した状態を示す、筒の長さ方向と交差する高さ方向の断面図である。図2を参照して、前記仮設堤防用袋体1は、図中に実線の矢印で示すように、決壊部分の堤外から堤内へ流入する水流の上流側(図において左側)に着底される、図示しないアンカーに、筒の長さ方向と交差する高さ方向では、その1点に設けた接続部材5で、係留索7を介して接続される。
【0043】
そのため、例えば、接続口4を通して仮設堤防用袋体1内に注水する水圧を調整して、図中に白抜きの矢印で示す、前記仮設堤防用袋体1の内圧を調整することによって、その断面形状を、図に示すように、前記水流の影響によって、水流の上流側(堤外側)の、係留索7が接続された接続部材5の部分において尖った、略西洋梨形にすることができ、高さ方向の2点以上で係留する場合に比べて、前記仮設堤防用袋体1の、水流に対する抗力係数を小さくすることができる。したがって、先に説明した、接続部材5を、筒の長さ方向の複数箇所に設けたことによる効果と相まって、仮設堤防用袋体1を、決壊部分において、堤外から堤内へ流入する水流による流体力に抗して、より安定して係留させることが可能となる。
【0044】
なお、仮設堤防用袋体1の、水流に対する抗力係数を小さくして、前記流体力に抗して、より安定して係留させると共に、水流が、水底6に着底させた仮設堤防用袋体1の下側に入り込んで、前記水底6の土砂を流し出す、いわゆる洗掘が発生するのを防止することを考慮すると、前記仮設堤防用袋体1は、図2の係留状態での、水底6からの最大高さHと、筒の長さ方向と交差する幅方向の最大幅Wとが、式(1):
W≧1.2H (1)
を満足する範囲内であるのが好ましい。
【0045】
そのためには、前記高さ方向の断面形状を、図の略西洋梨形等に維持するために、仮設堤防用袋体1の内圧を、水流の流速等に応じて調整すればよい。また、その際に、最大高さHが、仮設堤防に求められる所定の高さを満足できるようにするためには、筒の周方向の周長を、断面形状が円である場合の周長、すなわちπ×Hより、およそ10%以上、長めに設定しておくのが好ましい。
【0046】
ただし、それだけでは、水流の流速等の変動によって、高さ方向の断面形状が、式(1)を満足できない場合を生じるおそれがあり、どのような条件の変動が生じても、式(1)を満足し続けることができるようにするためには、前記仮設堤防用袋体1の内部の、前記水流の上流側に、図3に示すように、高さ方向への拡がりを規制して、最大高さHと、最大幅Wとを、式(1)の範囲内とするための膜ウェブ9が、例えば、筒の長さ方向の複数箇所に設けられているのが好ましい。
【0047】
また、仮設堤防用袋体1の上を超えた水流が、前記仮設堤防用袋体1上から、ほぼ鉛直方向に流れ落ちて、前記仮設堤防用袋体1の、水流の下流側において洗掘が発生するのを防止することを考慮すると、図4に示すように、膜ウェブ9は、図4に示すように、水流の上流側だけでなく、下流側の、例えば、筒の長さ方向の複数箇所にも、設けられているのが好ましい。前記下流側の膜ウェブ9を設けることで、図に見るように、仮設堤防用袋体1の上面を、前記水流の下流側において、水底6に対して傾斜した形状として、仮設堤防用袋体1の上を超えた水流が、ほぼ鉛直方向に流れ落ちるのを防止することができる。
【0048】
図5は、図1の例の仮設堤防用袋体1の側面および端面に配列された接続部材5を拡大した正面図である。図1および図5を参照して、接続部材5は、前記両方向の補強帯2、3の、交差部分の重なりによって形成される矩形状の領域に、ボルト10によって固定された、平板状で、かつ矩形状の固定金具11と、前記固定金具11に対して、ヒンジ部12を中心として、図示した下向きの位置から、図と逆の上向きの位置までの間の任意の向きに回転可能に取り付けられた、係留索が接続される接続金具(D環)13とを備えている。
【0049】
このうち、矩形状の固定金具11は、両方向の補強帯2、3の、交差部分の重なりによって形成される矩形状の領域よりも、その平面形状が小さいことが好ましい。すなわち、前記固定金具11は、図において横方向の寸法Lが、周方向に沿う補強帯2の幅によって規定される、前記矩形状の領域の横方向の寸法Lよりも小さく(L<L)、かつ、縦方向の寸法Lが、長さ方向に沿う補強帯3の幅によって規定される、前記矩形状の領域の縦方向の寸法Lよりも小さい(L<L)ことが好ましい。これにより、前記固定金具11の周縁が、全て、両補強帯2、3の重なりによって二重(布材の裏側にも補強体を設けた場合は四重)に補強された前記領域内に収まることになるため、係留索に、様々な方向から張力が加わった際等に、固定金具11の周縁に応力が集中することによって、仮設堤防用袋体1を形成する布材が破れたりするのを、確実に防止することができる。
【0050】
図6は、接続点の変形例を示す正面図である。図の例では、両方向の補強帯2、3の、交差部分の重なりによって形成される矩形状の領域の上下左右、計4箇所の、補強帯2上、および補強帯3上に、それぞれ、図2の例と同様の、4つの接続部材5を取り付けることによって、前記交差部分に、係留索を接続するための接続点が設けられている。すなわち、前記4つの接続部材5の接続金具13間を、例えば、先端が十字型に分岐した1つの係留索で繋ぐことによって、前記係留索が、両方向の補強帯2、3の交差部分に接続される。
【0051】
図の例の場合、1つの接続点を構成するために4つの接続部材5を必要とするものの、係留索に、様々な方向から張力が加わった際に、前記張力を、4つの接続部材5によって分担できるため、各接続部材5の固定金具11の周縁に集中する応力を減じて、仮設堤防用袋体1を形成する布材が破れたりするのを防止することができる。また、1つの係留索を、前記4点で支えることになるため、係留の安定性を向上することもできる。
【0052】
図7は、仮設堤防用袋体1の変形例を示す、長さ方向と交差する高さ方向の断面図である。図7を参照して、この例の仮設堤防用袋体1は、その内部が、筒の周方向の上端と下端とを繋ぎ、かつ、前記筒の長さ方向の全長に亘る仕切膜14によって、図において左右2つの領域15、16に仕切られている点が、先の例と相違している。
前記仕切膜14は、例えば、仕切られた右側の領域15に注水した際には、図中に実線で示すように、左側の領域16の方向へ突出するように変形して、前記左側の領域16を形成する筒の内周面に沿い、逆に、左側の領域16に注水した際には、二点差線で示すように、右側の領域15の方向へ突出するように変形して、前記右側の領域15を形成する筒の内周面に沿うように、筒の、上端と下端とを結ぶ円弧と略同寸法に形成されている。
【0053】
そして、例えば、前記右側の領域15に注水して仮設堤防用袋体1を膨らませた状態で使用中に、流木等が衝突して、前記領域15が破られて、その破口から水が流出して、膨らませた形状を維持することができなくなった際には、仕切膜14で仕切られた左側の領域16に注水することによって、前記仕切膜14を逆方向に突出するように変形させて、短時間で、仮設堤防用袋体1を膨らませた形状を復活させることができる。そのため、仮設堤防用袋体1が破られた際の安全性を向上することができる。
【0054】
なお、前記2つの領域15、16に、それぞれ別個に注水するためには、例えば、図1において手前側の端面に設けた接続口4を右側の領域15と繋ぐと共に、図示しない反対側の端面にも接続口を設けて、前記接続口を左側の領域16と繋ぎ、かつ、それぞれの接続口に、別個に、注水のためのポンプ等を接続すればよい。
図8は、仮設堤防用袋体1の、他の変形例を示す、長さ方向と交差する高さ方向の断面図である。図8を参照して、この例の仮設堤防用袋体1は、その内部に、多数のシート片17が収容された点が、先の例と相違している。図の例の仮設堤防用袋体1では、注水して膨らませた状態で使用中に、流木等が衝突して、仮設堤防用袋体1が破られて、その破口から水が流出しだすと、その水流に乗って、前記シート片17が多数、破口の周囲に集まって、水圧によって、前記破口を塞いだ状態で、仮設堤防用袋体1の内側面に押し付けられるため、それによって、前記仮設堤防用袋体1の、膨らませた形状を維持することができる。そのため、仮設堤防用袋体1が破られた際の安全性を向上することができる。
【0055】
前記シート片17としては、例えば、比重が水に近い樹脂やゴム等からなり、注水して膨らませた仮設堤防用袋体1内において、沈降して堆積したりすることなく、図に示すように、水中に、ほぼ均一に漂って存在して、前記仮設堤防用袋体1が破られて、その破口から水が流出しだした際に、すぐに、破口の周囲に集まって前記破口を塞ぐために機能することができる、50〜100mm角程度の矩形状のシート片が好ましい。
【0056】
図9は、前記図1の仮設堤防用袋体1を、係留索を介して、堤防の決壊部分の水底等に係留するために用いる本発明のアンカーの、実施の形態の一例を示す、一部切り欠き斜視図である。図9を参照して、この例のアンカー18は、三角形平板状に形成された、水底に着底されるアンカー本体19と、前記アンカー本体19の、三角形の中心から上方へ延設されて、アンカー本体19が水底に着底した状態で、その先端が水面上に突出されるガイドポール20とを備えている。
【0057】
また、アンカー本体19の、三角形の角の部分には、それぞれ下方へ向けて、前記アンカー本体19を着底させた際に、水底の土砂に圧入されて、着底をより確実なものとするための、3本の爪部材21が突設されている。また、アンカー本体19の上面の、ガイドポール20の基部の周囲には、係留索7の末端に設けられた接続用リング22を接続するための接続部を構成する係合爪23が設けられている。
【0058】
ガイドポール20は、その先端が水面上に突出された状態で、前記接続用リング22の孔に通されて、接続用リング22を、前記アンカー本体19の接続部に案内するために機能する。また、接続部を構成する係合爪23は、ガイドポール20によって案内された接続用リング22が、アンカー本体19の上面に到達した際に、その重みによって、図に示すように、接続用リング22と係合して、前記接続用リング22を、アンカー本体19に接続するために機能する。
【0059】
図10は、前記アンカー18を使用して、本発明の仮設堤防用袋体1を、堤防25の決壊部分の水底に係留して仮設堤防を施工するための施工方法の一工程を説明する平面図である。図10を参照して、前記係留状態では、図1の仮設堤防用袋体1の、河川の上流側(図において上側)の端面に設けた、接続点としての2つの接続部材5を、アンカー18に接続される接続用リング22を有する1つの係留索7に、Y字接続すると共に、堤外側(図において左側)の側面に設けた複数の接続部材5を、隣り合う少なくとも2つごとに、アンカー18に接続される接続用リング22を有する1つの係留索7に、Y字接続することで、先に説明した本発明の仮設堤防用構造体24が構成されており、1つの係留索を、1つの接続部材に接続する場合に比べて、係留の安定性を向上させることができる。
【0060】
仮設堤防用袋体1を、図10に実線の矢印で示すように、増水して多量の水が、河川を上流から下流へ、そして堤防25の決壊部分において、堤外から堤内へ流れている水中に投入して、前記決壊部分に係留するためには、まず、ヘリコプター等を使用して、複数個(図では5個)のアンカー18を、施工領域に搬送して、前記施工領域の水中の、所定の位置に投入して着底させる。投入する位置を決定するためには、例えばGPS(全地球測位システム)等を利用すればよい。この際、アンカー18としては、ガイドポール20の長さが異なる数種のものを用意しておき、投入する領域の水深に応じて、その先端が、確実に水面上に突出する長さのガイドポール20を有するアンカー18を選択して使用するのが好ましい。
【0061】
またアンカー18は、決壊部分において、注水して膨らませた状態の仮設堤防用袋体1が、堤外から堤内へ流入する水流による流体力によって押し流されるのを防いで、確実に、係留することを考慮すると、ある程度の重量を要している必要があるのに対し、ヘリコプター等で搬送できる重量には制限があることから、搬送可能な数のアンカー18を、繰り返し、施工領域に搬送して投入するようにするのが好ましい。
【0062】
次に、全てのアンカー18の投入が完了した段階で、ロール状に小さく巻き込んだり、折り畳んだりした仮設堤防用袋体1と、係留索7とを、ヘリコプター等を用いて施工領域に搬送して、前記施工領域の空中で、まず、前記仮設堤防用袋体1の端面の接続部材5に係留索7を接続すると共に、前記係留索7の末端の接続用リング22の孔に、河川の最上流側に着底させたアンカー18のガイドポール20を通した状態で、前記接続用リング22を水中に投入して、前記アンカー18の、アンカー本体19の接続部に接続して固定する。この際、接続用リング22を、アンカー本体19の接続部に、より確実に接続させることを考慮すると、係留索7の長さを、施工領域の水深よりも長くするのが好ましい。
【0063】
次に、仮設堤防用袋体1の側面の接続部材5に、河川の上流側から順に、前記と同じ手順で、係留索7を接続して、前記係留索7の末端の接続用リング22の孔に、河川の上流側から下流側に順に配列させて着底されたアンカー18のうち、対応する最も近いアンカー18のガイドポール20を通した状態で、前記接続用リング22を水中に投入して、前記アンカー18の、アンカー本体19の接続部に接続して固定する作業を繰り返すと共に、仮設堤防用袋体1の、上流側の端面の接続口4に、ポンプ26を、送水管27を解して接続する。
【0064】
そして、前記ポンプ26の吸水管28の先端を水中に投入してポンプ26を作動させて、仮設堤防用袋体1内に注水して膨らませると、前記仮設堤防用袋体1が施工領域の水底に着底されて、図10に示す仮設堤防が構成される。決壊場所が、1つの仮設堤防用袋体1の長さよりも大きい場合は、図中に二点差線で示すように、前記の作業を繰り返すことで、2つ以上の仮設堤防用袋体1を、連続させて設置して行けばよい。
【0065】
例えば、堤外から堤内へ向かう水流の流速を5m/secと仮定した場合、注水して膨らませた状態の仮設堤防用袋体1に加わる荷重wは、式(2):
=1/2×ρ×CD×A×U (2)
で求められる。なお、式中のρは水の密度(=980N・S・m)、CDは抗力係数、Aは仮設堤防用袋体1の投影面積、Uは流速(=5m/sec)である。なお、抗力係数CDは、仮設堤防用袋体1が、前記式(1)を満足する、略西洋梨形等の断面形状を有する場合、およそ0.4とする。この荷重Wを、例えば図2中の高さHが5mである仮設堤防用袋体1の、幅1m分について計算すると、およそ24.5kN/mとなる。
【0066】
これに対し、アンカー18の、水底との摩擦係数(把駐力係数)αを2とすると、式(3):
F=α×w (4)
〔式中、αは、アンカー18の、水底との摩擦係数(=2)、wは、アンカー18の総重量である。〕
で求められる、水流による流体力によってアンカー18が滑り出す力Fを、前記荷重wよりも大きくして、アンカー18が、前記流体力によって滑り出すのを防止するためには、前記仮設堤防用袋体1の、幅1mあたりのアンカー18の重量を、およそ1250kg以上にしなければならない。そのため、例えば、仮設堤防用袋体1の全長が50mである場合を考えると、アンカー18の総重量は、1250kg×50=62500kg(=62.5トン)以上、必要となる。
【0067】
しかし、先に説明したように、ヘリコプター等を用いて、一度に搬送できる重量の限界は、およそ8トン程度であるため、あらかじめ、アンカー18と仮設堤防用袋体1とを、係留索7で接続したものを、一度に、ヘリコプター等を用いて搬送することは、実質的に不可能である。これに対し、前記施工方法によれば、係留のために必要な数のアンカー18と、前記アンカー18に、係留索7を介して接続される仮設堤防用袋体1と、前記係留索7とを、別個に、ヘリコプター等を使用して、決壊部分まで次々と搬送して、先に説明したように、空中からの作業だけで、アンカー18の着底と、前記アンカー18への係留索7の接続とを行うことができるため、仮設堤防を、短時間で、簡単に、しかも安全に組み立てることができる。
【0068】
本発明の構成は、以上で説明した図の例に限定されるものではない。例えば、仮設堤防用袋体は、図の例に示した筒状ではなく、略球状等に形成してもよい。その他、本発明の要旨を変更しない範囲で、種々の設計変更を施すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の仮設堤防用袋体の、実施の形態の一例を示す斜視図である。
【図2】図1の例の仮設堤防用袋体を、内部に注水して膨らませて水底に着底させると共に、接続点としての接続部材に係留索を接続して、例えば堤防の決壊部分の水中で係留した状態を示す、筒の長さ方向と交差する高さ方向の断面図である。
【図3】仮設堤防用袋体の変形例を示す、長さ方向と交差する高さ方向の断面図である。
【図4】仮設堤防用袋体の変形例を示す、長さ方向と交差する高さ方向の断面図である。
【図5】図1の例の仮設堤防用袋体の側面および端面に配列された接続部材を拡大した正面図である。
【図6】接続点の変形例を示す正面図である。
【図7】仮設堤防用袋体の変形例を示す、長さ方向と交差する高さ方向の断面図である。
【図8】仮設堤防用袋体の変形例を示す、長さ方向と交差する高さ方向の断面図である。
【図9】図1の仮設堤防用袋体を、係留索を介して、堤防の決壊部分の水底等に係留するために用いる本発明のアンカーの、実施の形態の一例を示す、一部切り欠き斜視図である。
【図10】前記アンカーを使用して、本発明の仮設堤防用袋体を、堤防の決壊部分の水底に係留して仮設堤防を施工するための施工方法の一工程を説明する平面図である。
【符号の説明】
【0070】
1 仮設堤防用袋体
2 補強帯
3 補強帯
4 接続口
5 接続部材
6 水底
7 係留索
8 水
9 膜ウェブ
10 ボルト
11 固定金具
12 ヒンジ部
13 接続金具
14 仕切膜
15 領域
16 領域
17 シート片
18 アンカー
19 アンカー本体
20 ガイドポール
21 爪部材
22 接続用リング
23 係合爪
24 仮設堤防用構造体
25 堤防
26 ポンプ
27 送水管
28 吸水管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に注水して膨らませた状態で、水底に着底させることによって、仮設堤防として用いられる仮設堤防用袋体であって、片面に、ゴムまたは樹脂からなる被覆層が被覆された布材によって、袋状に形成されていることを特徴とする仮設堤防用袋体。
【請求項2】
布材の、幅1cmあたりの引張強度が980N/cm以上である請求項1に記載の仮設堤防用袋体。
【請求項3】
被覆層の、布材1mあたりの被覆量が2kg/m以下である請求項1に記載の仮設堤防用袋体。
【請求項4】
内部に、前記内部を2つの領域に仕切ると共に、仕切られた一方の領域に注水した際に、他方の領域の方向へ突出するように変形する仕切膜が設けられている請求項1に記載の仮設堤防用袋体。
【請求項5】
内部に、多数のシート片が収容されている請求項1に記載の仮設堤防用袋体。
【請求項6】
両端が閉じられた筒状に形成されていると共に、前記筒の側面に、係留索を接続するための、複数の接続点が、前記筒の長さ方向に沿って一列に配列されている請求項1に記載の仮設堤防用袋体。
【請求項7】
筒の、少なくとも一方の端面にも、係留索を接続するための接続点が設けられている請求項6に記載の仮設堤防用袋体。
【請求項8】
筒の長さ方向の複数箇所に、前記筒の周方向に沿う補強帯が設けられていると共に、筒の周方向の複数箇所に、前記筒の長さ方向に沿う補強帯が設けられており、前記両方向の補強帯の交差部分に、係留索を接続するための接続点が設けられている請求項6に記載の仮設堤防用袋体。
【請求項9】
接続点が、両方向の補強帯の、交差部分の重なりによって形成される領域よりも平面形状が小さい、前記領域に固定される平板状の固定金具と、前記固定金具に取り付けられた、係留索が接続される接続金具とを有する接続部材によって構成されている請求項8に記載の仮設堤防用袋体。
【請求項10】
内部に注水して膨らませて水底に着底させると共に、接続点に係留索を接続して係留した状態での、水底からの最大高さHと、前記状態での、筒の長さ方向と交差する幅方向の最大幅Wとが、式(1):
W≧1.2H (1)
を満足する範囲内とされている請求項6に記載の仮設堤防用袋体。
【請求項11】
内部に、高さ方向への拡がりを規制して、最大高さHと、最大幅Wとを、式(1)の範囲内とするための膜ウェブが設けられている請求項10に記載の仮設堤防用袋体。
【請求項12】
片面に、ゴムまたは樹脂からなる被覆層が被覆された布材によって、両端が閉じられた筒状に形成され、かつ、前記筒の側面に、係留索を接続するための複数の接続点が、前記筒の長さ方向に沿って一列に配列された仮設堤防用袋体を備えると共に、前記仮設堤防用袋体の側面の複数の接続点が、隣り合う少なくとも2つごとに、前記仮設堤防用袋体を水底に係留するためのアンカーに接続される接続用リングを有する1つの係留索に接続されていることを特徴とする仮設堤防用構造体。
【請求項13】
仮設堤防用袋体の、筒の、少なくとも一方の端面にも、係留索を接続するための接続点が少なくとも2つ、側面の接続点と同列に配列されていると共に、前記少なくとも2つの接続点が、1つの係留索に接続されている請求項12に記載の仮設堤防用構造体。
【請求項14】
仮設堤防用袋体を、係留索を介して、水底に係留するためのアンカーであって、係留索に設けられた接続用リングを接続するための接続部を有し、水底に着底されるアンカー本体と、前記アンカー本体から上方へ延設されて、アンカー本体が水底に着底した状態で、先端が水面上に突出され、前記接続用リングの孔に通されて、前記接続用リングを、アンカー本体の接続部に案内するためのガイドポールとを備えることを特徴とするアンカー。
【請求項15】
仮設堤防の施工方法であって、係留索に設けられた接続用リングを接続するための接続部を有し、水底に着底されるアンカー本体と、前記アンカー本体から上方へ延設されて、アンカー本体が水底に着底した状態で、先端が水面上に突出される、接続用リングを前記接続部に案内するためのガイドポールとを備えたアンカーを複数個、施工領域の水中に投入する工程と、前記各アンカーの、水面上に突出されたガイドポールの先端を、片面に、ゴムまたは樹脂からなる被覆層が被覆された布材によって、両端が閉じられた筒状に形成され、かつ、前記筒の側面に、係留索を接続するための複数の接続点が、前記筒の長さ方向に沿って一列に配列された仮設堤防用袋体の、前記接続点に接続された係留索に設けられた接続用リングの孔に通した状態で、前記接続用リングを水中に投入して、アンカー本体の接続部に接続して固定する作業を、アンカーごとに順次、実施する工程と、前記仮設堤防用袋体内に水を注入して膨らませる工程とを含むことを特徴とする仮設堤防の施工方法。
【請求項16】
河川の堤防の決壊箇所での、仮設堤防の施工方法であって、アンカーの、ガイドポールの先端を、係留索に設けられた接続用リングの孔に通した状態で、前記接続用リングを水中に投入して、アンカー本体の接続部に接続して固定する作業を、河川の上流側のアンカーから下流側のアンカーに向けて、順に実施する請求項15に記載の仮設堤防の施工方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate