説明

仮設屋根支持構造

【課題】コストを低減しつつ短工期で構造物を解体できる仮設屋根支持構造を提供すること。
【解決手段】仮設屋根支持構造は、既存建物を解体するための仮設屋根を支持するものである。この仮設屋根支持構造は、略鉛直方向に延びる仮設柱20Aと、この仮設柱20Aに係止する第2かんぬき部材30と、を備え、この第2かんぬき部材30は、既存建物の互いに直交する2つの既存梁12に跨って配置される。本発明によれば、従来のようにマストベースを設ける必要がないため、コストを低減しつつ、短工期で既存建物を解体できる。また、第2かんぬき部材30を互いに直交する2つの既存梁12に跨って配置したので、第2かんぬき部材30を平行に延びる既存梁に跨って配置した場合に比べて、部材の長さを短くできるから、仮設材の重量を軽減でき、コストを低減できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、仮設屋根支持構造に関する。詳しくは、構造物を解体するための仮設屋根を支持する仮設屋根支持構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、高層建築では、設備や躯体の老朽化を理由として、既存の建築物を解体し、新たに建築物を構築する建て替えが行われる場合がある。
ここで、既存の建築物を解体する方法として、例えば、以下のような手法が提案されている。すなわち、最上階にハットトラスからなる仮設屋根を設け、さらに、この仮設屋根を仮設柱であるマストで支持し、マストベースを介してこのマストを既存の建築物に支持させる。この仮設屋根に覆われた空間を解体作業スペースとし、この解体作業スペースで解体作業を行うことにより、粉塵や騒音を防止しつつ、建築物を解体する(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−272403号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述の手法では、マストベースを介してマストに作用する荷重を既存梁で支持する。そして、解体作業の進行に伴って、マストベースを下階に盛り替えてゆく。
しかしながら、マストはスラブの中央付近に位置しているため、既存梁から離れており、マストベースを大型化する必要があった。よって、マストベースの製造コストが高くなって、解体作業にかかるコストが高くなっていた。また、マストベースの盛り替えに手間がかかるため、工期が長期化するという問題があった。
【0005】
本発明は、コストを低減しつつ短工期で構造物を解体できる仮設屋根支持構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の仮設屋根支持構造は、構造物を解体するための仮設屋根を支持する仮設屋根支持構造であって、略鉛直方向に延びる仮設柱と、当該仮設柱が係止するかんぬき部材と、を備え、当該かんぬき部材は、前記構造物の互いに直交する2つの既存梁に跨って配置されることを特徴とする。
【0007】
この発明によれば、かんぬき部材を構造物の互いに直交する2つの既存梁に跨って配置し、さらに、このかんぬき部材に仮設柱を係止させる。これにより、仮設柱はかんぬき部材を介して既存梁に支持されることになる。
この仮設柱を用いて、例えば、以下の手順で、構造物を解体する。
まず、仮設柱をかんぬき部材で既存梁に支持させて、この仮設柱で仮設屋根を支持する。この状態で、仮設屋根直下の解体空間を解体する。
次に、仮設柱を1層分だけ下方に移動することで、仮設屋根も1層分だけ下方に移動させる。このとき、かんぬき部材も1層分だけ下方に盛り替える。この状態で、仮設屋根直下の解体空間を解体する。この作業を繰り返すことにより、最下階まで解体する。
【0008】
よって、従来のようにマストベースを設ける必要がないため、コストを低減しつつ、短工期で構造物を解体できる。
また、かんぬき部材を互いに直交する2つの既存梁に跨って配置したので、かんぬき部材を平行に延びる既存梁に跨って配置した場合に比べて、部材の長さを短くできるから、仮設材の重量を軽減でき、コストを低減できる。
【0009】
請求項2に記載の仮設屋根支持構造は、前記互いに直交する2つの既存梁は、鉄骨梁であり、当該鉄骨梁上のスラブの一部が撤去されて、当該鉄骨梁の一部が露出しており、前記かんぬき部材は、前記露出した鉄骨梁に直接載置されることを特徴とする。
【0010】
各階で鉄骨梁上のスラブの厚みや強度が異なったり、鉄骨梁上でスラブに段差が生じたりしているため、かんぬき部材をスラブ上に載置すると、各階毎にかんぬき部材とスラブとの間の隙間を調整する必要がある。よって、仮設柱の安定性を確保するのが難しくなったり、かんぬき部材の設置に時間がかかったりしていた。
しかしながら、この発明によれば、スラブを撤去して鉄骨梁の一部を露出させ、かんぬき部材を鉄骨梁の露出した部分に直接載置した。よって、かんぬき部材を鉄骨梁で直接支持できるため、仮設柱の安定性を向上できるうえに、かんぬき部材の設置作業を円滑に行うことができる。
【0011】
請求項3に記載の仮設屋根支持構造は、前記かんぬき部材は、軸方向の長さが変更可能な構造であることを特徴とする。
【0012】
この発明によれば、かんぬき部材を伸縮可能な構造としたり、折り畳み可能な構造としたりして、軸方向の長さを変更可能とした。
かんぬき部材の軸方向の長さを長くすることにより、このかんぬき部材を2つの既存梁に跨って配置できる。一方、かんぬき部材の軸方向の長さを短くすることにより、かんぬき部材を略鉛直方向に自在に移動できる。したがって、かんぬき部材の盛り替えに必要な人数を削減できるうえに、盛り替えにかかる時間を短縮できる。
【0013】
請求項4に記載の仮設屋根支持構造は、前記構造物に支持されて前記かんぬき部材を挟んで配置されかつ前記仮設柱の側面に当接する一対の水平反力受け部材をさらに備えることを特徴とする。
【0014】
この発明によれば、かんぬき部材を挟んで配置されかつ前記仮設柱の側面に当接する一対の水平反力受け部材を設けた。
よって、水平反力受け部材がかんぬき部材の移動に干渉しないので、かんぬき部材を円滑に移動できる。
また、仮設柱の移動に伴って水平反力受け部材を盛り替える必要があるが、水平反力受け部材を2分割したので、水平反力受け部材の取扱いが容易になり、盛り替え作業の効率を向上できる。
【0015】
請求項5に記載の仮設屋根支持構造は、前記仮設柱は、鉛直方向に沿って延びる一対の柱部材を備え、前記かんぬき部材は、前記一対の柱部材の間に挿通され、前記一対の柱部材には、互いに対向する一組の貫通孔が鉛直方向に沿って複数組形成され、前記複数組の貫通孔のうちの1つには、直線状のかんざし部材が挿通されて前記かんぬき部材に係止することを特徴とする。
【0016】
この発明によれば、かんぬき部材を一対の柱部材の間に挿通しておき、この状態で、柱部材に設けられた一組の貫通孔にかんざし部材を挿通する。これにより、仮設柱は、かんざし部材を介してかんぬき部材に係止することになる。
ここで、柱部材の複数組の貫通孔の中から一組の貫通孔を選択し、この選択した一組の貫通孔にかんざし部材を挿通することで、かんぬき部材の高さ位置を調整できる。よって、同一の構造物で階高が異なっても、仮設柱の高さを調整できるから、解体作業スペースの高さを一定にできる。よって、解体作業スペースで使用する高所作業車やクレーンの種類を変更する必要がないうえに、解体材の最大寸法も一定となるので、解体作業を効率化できる。
【0017】
請求項6に記載の仮設屋根支持構造は、前記仮設柱の上端面および上側の側面は、前記仮設屋根に連結されることを特徴とする。
【0018】
仮設柱の上端面のみを仮設屋根に連結した場合、仮設屋根を仮設柱で拘束できないため、仮設屋根の自重によりに生じる曲げモーメントが大きくなる。また、地震時には、仮設柱の柱脚部に生じる曲げモーメントが大きくなる。
しかしながら、この発明によれば、仮設柱の上端面および上側の側面を仮設屋根に連結したので、仮設柱および仮設屋根でラーメン架構を構築できる。よって、仮設屋根に生じる曲げモーメントを小さくできるうえに、地震時に仮設柱の柱脚部に生じる曲げモーメントを小さくできる。その結果、仮設屋根および仮設柱の安全性を向上できる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、かんぬき部材を構造物の互いに直交する2つの既存梁に跨って配置し、さらに、このかんぬき部材に仮設柱を係止させる。これにより、仮設柱はかんぬき部材を介して既存梁に支持されることになる。よって、従来のようにマストベースを設ける必要がないため、コストを低減しつつ、短工期で構造物を解体できる。また、かんぬき部材を互いに直交する2つの既存梁に跨って配置したので、かんぬき部材を平行に延びる既存梁に跨って配置した場合に比べて、部材の長さを短くできるから、仮設材の重量を軽減でき、コストを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態に係る仮設屋根支持構造が適用された構造物としての既存建物1の断面図である。
【図2】前記実施形態に係る仮設屋根支持構造に用いられる仮設柱の正面図および側面図である。
【図3】図2のIII−III断面図である。
【図4】前記実施形態に係る仮設柱の下部の横断面図である。
【図5】前記実施形態に係る仮設柱の下部の側面図である。
【図6】前記実施形態に係る仮設柱の中央部の横断面図である。
【図7】前記実施形態に係る仮設柱の平面図である。
【図8】前記実施形態に係る仮設柱の上部の横断面図である。
【図9】前記実施形態に係る既存建物を解体する手順を説明するための図(その1)である。
【図10】前記実施形態に係る既存建物を解体する手順を説明するための図(その2)である。
【図11】前記実施形態に係る既存建物を解体する手順を説明するための図(その3)である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る仮設屋根支持構造が適用された構造物としての既存建物1の断面図である。
既存建物1は、24階建ての鉄骨造であり、複数本の角形鋼管である既存柱11と、これら既存柱11同士を連結する複数の鉄骨梁である既存梁12と、既存梁12に支持される既存スラブ13と、を備える。
【0022】
この既存建物1には、既存建物1を解体するために、解体作業スペース60が構築されている。解体作業スペース60は、仮設屋根61と、この仮設屋根61の外周に設けられた外周足場62と、で囲まれた空間である。
仮設屋根61は、24階床レベルの外周側の既存梁12と、24階の外周側の既存柱11と、R階床レベルの一部の既存梁12である仮設梁63と、この仮設梁63の上に張り付けられた透光性を有する板材64と、仮設梁63の梁下に設置された2段式のガーター65と、このガーター65に沿って走行する走行クレーン66と、を備える。
外周足場62は、仮設梁63に支持されている。
【0023】
既存建物1の既存柱11の近傍には、既存建物1の構造体に支持されて略鉛直方向に延びて仮設屋根61を支持する仮設柱20が設置される。
以下、既存柱11のうち既存柱11Aの近傍に設置された仮設柱20Aについて説明するが、他の仮設柱20も同様の構成である。
【0024】
図2は、仮設柱20Aの正面図および側面図である。図3は、図2のIII−III断面図である。なお、図2では、理解の容易のため、後述の水平支持レール23Bを省略している。
【0025】
仮設柱20Aは、鉛直方向に略平行に延びる一対の柱部材21と、これら2本の柱部材21を連結する連結部材22と、柱部材21に沿って延びる水平支持レール23A、23Bと、を備える。
【0026】
各柱部材21は、断面略H形状の下部211と、この下部211の上に設けられた断面略箱形状の中央部212と、この中央部212の上に設けられた断面略H形状の上部213と、を備える。
【0027】
水平支持レール23A、23Bは、断面略H形状の下部211に設けられている。
具体的には、水平支持レール23Aは、柱部材21の断面略H形状である下部211のウエブに略平行に延びる当接面を有している。一方、水平支持レール23Bは、柱部材21の断面略H形状である下部211のフランジに略平行に延びる当接面を有している。
【0028】
また、下部211には、互いに対向する一対の貫通孔214が長さ方向に沿って2組形成されている。この貫通孔214の周囲は、補強プレート215で補強されている。
【0029】
この仮設柱20には、仮設柱20の長さ方向に沿って延びるステップロッド24と、このステップロッド24に沿って移動可能なステップロッドジャッキ25と、このステップロッドジャッキ25の下端に取り付けられた第1かんぬき部材26と、仮設柱20に取り付けられた一対の直線状のかんざし部材27と、このかんざし部材27に連結された第2かんぬき部材30と、が内蔵されている。
【0030】
図4は、仮設柱20Aの下部211の横断面図である。図5は、仮設柱20Aの下部211の側面図である。
【0031】
仮設柱20は、既存建物1の既存スラブ13を貫通して延びている。すなわち、既存柱11Aの近傍の各階の既存スラブ13には、床開口14が形成されており、仮設柱20は、各階の床開口14に挿通される。
この床開口14は、既存スラブ13を撤去して形成される。床開口14を形成する際、既存柱11Aから直交して延びる2本の既存梁12上の既存スラブ13も撤去して形成される。これにより、既存梁12の一部の上面が露出している。
【0032】
第2かんぬき部材30は、一対の柱部材21の間に挿通され、軸方向の長さが変更可能な構造である。すなわち、第2かんぬき部材30は、所定長さの本体31と、この本体31の両端側に水平方向に回動自在に設けられた係止部32と、を備える。
【0033】
この第2かんぬき部材30では、係止部32および本体31を一直線上に配置することで、第2かんぬき部材30の軸方向の長さを長くできる。一方、係止部32を水平方向に折り曲げることで、第2かんぬき部材30の軸方向の長さを短くできる。この状態では、第2かんぬき部材30の軸方向の長さが床開口14の内法寸法よりも短くなるため、第2かんぬき部材30は、床開口14を通って鉛直方向に移動可能となっている。
【0034】
一対のかんざし部材27は、柱部材21の上下の2組の貫通孔214のうちの上側の一組に挿通されている。
上述の第2かんぬき部材30の上面は、かんざし部材27の下面に当接して固定されている。これにより、第2かんぬき部材30は、仮設柱20とともに略鉛直方向に移動するようになっている。
【0035】
第2かんぬき部材30を所定高さに配置して、第2かんぬき部材30の軸方向の長さを長くすることで、第2かんぬき部材30は、既存柱11Aから互いに直交して延びる2つの既存梁12に跨って配置される。このとき、これら2本の既存梁12の上面が露出しているため、第2かんぬき部材30は、既存梁12に直接載置される。
この状態では、第2かんぬき部材30が既存梁12に係止し、この第2かんぬき部材30にかんざし部材27が係止するので、仮設柱20は第2かんぬき部材30を介して既存梁12に支持されることになる。
【0036】
また、床開口14のうち仮設柱20の下部211が挿通されるものには、既存建物1に支持されて仮設柱20の側面に当接する一対の水平反力受け部材51、52が設けられる。
すなわち、水平反力受け部材51、52は、既存梁12上に取り付けられて仮設柱20の側面に当接する略コの字形状の第1水平反力受け部材51と、既存スラブ13上に取り付けられて仮設柱20の側面に当接する略コの字形状の第2水平反力受け部材52と、からなる。
【0037】
各水平反力受け部材51、52は、水平支持レール23Aの当接面に当接する長尺状の第1ガイド部53と、この第1ガイド部53の両端から直交して延びて水平支持レール23Bの当接面に当接する第2ガイド部54と、を備える。これにより、仮設柱20を下方に向かって円滑に移動可能となっている。
水平反力受け部材51、52は、仮設柱20を挟んで略矩形枠状に配置されており、これにより、第2かんぬき部材30の上下方向の移動に干渉しないようになっている。
【0038】
図6は、仮設柱20の中央部212の横断面図である。
ステップロッドジャッキ25の下端面には、水平に直線状に延びる第1かんぬき部材26が連結され、この第1かんぬき部材26の両端側は、2つの既存梁12の直上に位置している。
第1かんぬき材の中央には、ステップロッド24が挿通される挿通孔が形成されている。
第1かんぬき部材26を所定高さに配置することで、第1かんぬき部材26は既存柱11Aから互いに直交して延びる2つの既存梁12に跨って配置される。このとき、これら2本の既存梁12の上面が露出しているため、第1かんぬき部材26は、既存梁12に直接載置される。
この状態では、第1かんぬき部材26が既存梁12に係止するので、仮設柱20は第1かんぬき部材26を介して既存梁12に支持されることになる。
【0039】
図7は、仮設柱20の平面図である。
仮設柱20は、既存柱11Aの上端から互いに直交して延びる2つの仮設梁63の間に設置されている。
仮設柱20の上端面には、水平に直線状に延びる支持部材28が設けられ、2つの仮設梁63は、この支持部材28の両端側の上面に位置している。これにより、仮設柱20の上端面は、支持部材28を介して、仮設屋根61の仮設梁63に連結されている。
【0040】
図8は、仮設柱20の上部213の横断面図である。
仮設柱20の上部213の側面には、継手29が設けられている。仮設柱20の上部213の側面は、この継手29を介して、仮設屋根61の一部である24階の既存柱11Aの上側の側面に連結されている。
【0041】
次に、既存建物1を解体する手順について説明する。
ステップ1では、図1に示すように、屋上階としてのR階の設備機器、目隠し壁、およびフレーム等を解体する。また、R階床レベルの既存梁12の一部を残して解体して、残った既存梁12を仮設梁63とする。さらに、24階床レベルの外周の既存梁12を残して、24階の外壁を含む立上りおよび24階床レベルの内側の既存梁12を解体する。
また、仮設柱20の外側に仮設梁63に支持される外周足場62を設ける。
【0042】
ステップ2では、仮設梁63の梁下にガーター65および走行クレーン66を取り付ける。この走行クレーン66は軽量であるため、R階床レベルの仮設梁63を補強する必要はない。また、仮設梁63に透光性を有する板材64を貼り付けて、仮設屋根61を完成させる。これにより、仮設屋根61および外周足場62で囲まれた解体作業スペース60を形成する。
なお、図示しないが、仮設屋根61には、雨水を利用した散水設備およびドライミスト装置を設ける。
【0043】
ステップ3では、各階の既存スラブ13に床開口14を形成し、21〜23階床レベルの床開口14に水平反力受け部材51、52を設置する。
その後、既存建物1の外周の既存柱11の近傍に仮設柱20を配置する。
【0044】
ステップ4では、ステップロッドジャッキ25駆動して、23階床レベルの既存梁12に第1かんぬき部材26を係止させ、仮設柱20を23階床の既存梁12に支持させる。また、第2かんぬき部材30を収縮させておく。
その後、23階の既存柱11を柱頭部で切断し、23階の外壁を含む立上がりを解体する。
【0045】
ステップ5では、図9に示すように、ステップロッドジャッキ25を駆動して、ステップロッド24の上方に向かって移動させる。
これにより、仮設柱20が下降し、仮設屋根61および外周足場62も下降し、第2かんぬき部材30は21階床レベルの高さに位置する。このとき、水平反力受け部材51、52により、仮設柱20の移動を案内する。
次に、第2かんぬき部材30を伸長させて、この第2かんぬき部材30を21階床レベルの既存梁12に係止させ、仮設柱20の荷重を21階床の既存梁12に支持させる。
【0046】
ステップ6では、図10に示すように、ステップロッドジャッキ25を駆動して、第1かんぬき部材26を上方に向かってわずかに移動し、解体対象である23階床から退避させる。
また、23階床レベルに設置した水平反力受け部材51、52を20階床レベルに盛り替える。
次に、解体作業スペース60内で、23階の床から22階の外壁を含む立上りまで(図10中破線で示す部分)を解体する。このとき、走行クレーン66を利用して、解体材を図示しない搬出口に移動し、図示しないホイストで下階に搬出する。下階に搬出した解体材は、リサイクル可能な材料と産業廃棄物との仕分けを行って、場外に搬出する。
【0047】
ステップ7では、図11に示すように、ステップロッドジャッキ25を駆動して、第1かんぬき部材26を下方に向かって移動し、22階床レベルの既存梁12に係止させ、仮設柱20を22階床の既存梁12に支持させる。また、第2かんぬき部材30を収縮させておく。
【0048】
以下、ステップ5〜7の作業を繰り返すことで1層毎に解体して、1階まで解体する。
【0049】
本実施形態によれば、以下のような効果がある。
(1)第2かんぬき部材30を既存建物1の互いに直交する2つの既存梁12に跨って配置し、さらに、この第2かんぬき部材30を仮設柱20に係止させる。これにより、仮設柱20は第2かんぬき部材30を介して既存梁12に支持されることになる。
よって、従来のようにマストベースを設ける必要がないため、コストを低減しつつ、短工期で既存建物1を解体できる。
また、第2かんぬき部材30を互いに直交する2つの既存梁12に跨って配置したので、第2かんぬき部材を平行に延びる既存梁12に跨って配置した場合に比べて、部材の長さを短くできるから、仮設材の重量を軽減でき、コストを低減できる。
【0050】
(2)既存スラブ13を撤去して既存梁12の一部を露出させ、第2かんぬき部材30を既存梁12の露出した部分に直接載置した。よって、第2かんぬき部材30を既存梁12で直接支持できるため、仮設柱20の安定性を向上できるうえに、第2かんぬき部材30の設置作業を円滑に行うことができる。
【0051】
(3)第2かんぬき部材30の軸方向の長さを変更可能とした。第2かんぬき部材30の軸方向の長さを長くすることにより、この第2かんぬき部材30を2つの既存梁12に跨って配置できる。一方、第2かんぬき部材30の軸方向の長さを短くすることにより、第2かんぬき部材30を略鉛直方向に自在に移動できる。したがって、第2かんぬき部材30の盛り替えに必要な人数を削減できるうえに、盛り替えにかかる時間を短縮できる。
【0052】
(4)第2かんぬき部材30を挟んで配置されかつ仮設柱20の側面に当接する一対の水平反力受け部材51、52を設けた。
よって、水平反力受け部材51、52が第2かんぬき部材30の移動に干渉しないので、第2かんぬき部材30を円滑に移動できる。
また、仮設柱20の移動に伴って水平反力受け部材51、52を盛り替える必要があるが、水平反力受け部材51、52を2分割したので、水平反力受け部材51、52の取扱いが容易になり、盛り替え作業の効率を向上できる。
【0053】
(5)第2かんぬき部材30を一対の柱部材21の間に挿通しておき、この状態で、柱部材21に設けられた一組の貫通孔214にかんざし部材27を挿通する。これにより、仮設柱20は、かんざし部材27を介して第2かんぬき部材30に係止することになる。
ここで、柱部材21の2組の貫通孔214の中から一組の貫通孔214を選択し、この選択した一組の貫通孔214にかんざし部材27を挿通することで、第2かんぬき部材30の高さ位置を調整できる。よって、同一の構造物で階高が異なっても、仮設柱20の高さを調整できるから、解体作業スペース60の高さを一定にできる。よって、解体作業スペース60で使用する高所作業車やクレーンの種類を変更する必要がないうえに、解体材の最大寸法も一定となるので、解体作業を効率化できる。
【0054】
(6)仮設柱20の上端面および上側の側面を仮設屋根61に連結したので、仮設柱20および仮設屋根61でラーメン架構を構築できる。よって、仮設屋根61に生じる曲げモーメントを小さくできるうえに、地震時に仮設柱20の柱脚部に生じる曲げモーメントを小さくできる。その結果、仮設屋根61および仮設柱20の安全性を向上できる。
【0055】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、本実施形態では、ステップロッドジャッキ25用いたが、これに限らず、油圧ジャッキを用いてもよい。
また、仮設屋根上にTMD(チューンド・マス・ダンパー)などの制震装置を設置すれば、地震や風による揺れを更に低減できる。この場合、TMDの振り子として、解体したコンクリートや鉄骨材を利用することにより、TMDを安価に製作できる。
【0056】
また、既存外壁のシール材撤去などの作業には、外周足場62を利用するだけでなく、既存のゴンドラを活用してもよい。
また、本実施形態では、第2かんぬき部材30を水平方向に折り曲げ可能な構造としたが、これに限らず、第2かんぬき部材を伸縮可能な構造としてもよい。
【符号の説明】
【0057】
1…既存建物(構造物)
11、11A…既存柱
12…既存梁
13…既存スラブ
14…床開口
20、20A…仮設柱
21…柱部材
22…連結部材
23A…水平支持レール
23B…水平支持レール
24…ステップロッド
25…ステップロッドジャッキ
26…第1かんぬき部材
27…かんざし部材
28…支持部材
29…継手
30…第2かんぬき部材
31…本体
32…係止部
51…水平反力受け部材
52…水平反力受け部材
53…第1ガイド部
54…第2ガイド部
60…解体作業スペース
61…仮設屋根
62…外周足場
63…仮設梁
64…板材
65…ガーター
66…走行クレーン
211…下部
212…中央部
213…上部
214…貫通孔
215…補強プレート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物を解体するための仮設屋根を支持する仮設屋根支持構造であって、
略鉛直方向に延びる仮設柱と、当該仮設柱が係止するかんぬき部材と、を備え、
当該かんぬき部材は、前記構造物の互いに直交する2つの既存梁に跨って配置されることを特徴とする仮設屋根支持構造。
【請求項2】
前記互いに直交する2つの既存梁は、鉄骨梁であり、
当該鉄骨梁上のスラブの一部が撤去されて、当該鉄骨梁の一部が露出しており、
前記かんぬき部材は、前記露出した鉄骨梁に直接載置されることを特徴とする請求項1に記載の仮設屋根支持構造。
【請求項3】
前記かんぬき部材は、長さが変更可能な構造であることを特徴とする請求項1または2に記載の仮設屋根支持構造。
【請求項4】
前記構造物に支持されて前記仮設柱の側面に当接する一対の水平反力受け部材をさらに備え、
当該一対の水平反力受け部材は、前記かんぬき部材を挟んで配置されることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の仮設屋根支持構造。
【請求項5】
前記仮設柱は、鉛直方向に沿って延びる一対の柱部材を備え、
前記かんぬき部材は、前記一対の柱部材の間に挿通され、
前記一対の柱部材には、互いに対向する一組の貫通孔が鉛直方向に沿って複数組形成され、
前記複数組の貫通孔のうちの1つには、直線状のかんざし部材が挿通されて前記かんぬき部材に係止することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の仮設屋根支持構造。
【請求項6】
前記仮設柱の上端面および上側の側面は、前記仮設屋根に連結されることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の仮設屋根支持構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−122200(P2012−122200A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−271422(P2010−271422)
【出願日】平成22年12月6日(2010.12.6)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【Fターム(参考)】