説明

伝動ベルト帆布被覆用塗布液およびそれを用いた伝動ベルト帆布

【課題】基布に該伝動ベルト帆布被覆用塗布液を塗布後乾燥させて被覆し被覆層とした伝動ベルト帆布が、架橋されたHNBRに被覆し伝動ベルトとした際に、伝動ベルトに好適な優れた耐熱性を与える。
【解決手段】モノヒドロキシベンゼンとホルムアルデヒドを反応させてなるモノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物とゴムエマルジョンを含む水系組成物であることを特徴とする伝動ベルト1帆布被覆用塗布液、この塗布液を用いてなる伝動ベルト帆布、この伝動ベルト帆布を耐熱ゴムに被覆した伝動ベルト。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伝動ベルト帆布被覆用塗布液、前記塗布液で処理した伝動ベルト帆布、前記伝動ベルト帆布の処理方法、並びに前記帆布を有する伝動ベルトに関するものである。
【背景技術】
【0002】
歯付ベルト、Vベルト及び平ベルトなどの伝動ベルトにはレゾルシン−ホルムアルデヒド縮合物とゴムエマルジョンからなる組成物で処理した帆布が使用されている。近年、様々な分野において伝動ベルトの耐熱性、耐屈曲疲労性に対する性能の向上の要求が高まってきた。そこで、使用する伝動ベルトの部材ゴムおよびゴム補強用ガラス繊維の改良がなされてきた。しかし、伝動ベルトの構成要素である帆布の改良がなされてこなかった。
【0003】
例えば、特許文献1には、伝動ベルトの部材ゴムが水素化ニトリルゴムを主体とする伝動ベルト用の帆布の処理方法であって、その処理成分にレゾルシン−ホルムアルデヒド縮合物と水素化ニトリルゴムのエマルジョンを含有する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−254249号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のレゾルシン−ホルムアルデヒド縮合物と水素化ニトリルゴムエマルジョンからなる組成物で処理した帆布を有し、部材ゴムを水素化ニトリルゴムとする伝動ベルト即ち歯付ベルトは、自動車エンジンのタイミングベルトとみたてた高温、高負荷がかかるベルト走行試験機で該歯付ベルトを走行させると、前記帆布に亀裂等が生じ該歯付ベルトの破損に至るという問題があった。
【0006】
そこで、本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであり、高温、高負荷の使用においてベルトの破損が少ない、伝動ベルト帆布被覆用塗布液およびその伝動ベルトを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らが鋭意検討した結果、ゴム(B)エマルジョンに、モノヒドロキシベンゼンにホルムアルデヒドを反応させてなるモノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物(A)を加えた水系組成物を、基布に塗布した後に乾燥させて被覆層とした帆布とすることにより、ゴムエマルジョンにレゾルシン−ホルムアルデヒド縮合物を加えた水系組成物を用いた場合より、伝動ベルトの耐熱性、及び耐屈曲疲労性は、向上することが判った。
【0008】
また、本発明の該帆布を、モノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物を被覆剤に含むゴム補強用ガラス繊維と共に、伝動ベルトの部材に用いると格段に伝動ベルトの耐熱性、及び耐屈曲疲労性は向上し、該伝動ベルトの寿命が延びることが判った。
【0009】
ここで基布に塗布する水系組成物は、モノヒドロキシベンゼン(C)とホルムアルデヒド(D)の初期縮合物とゴム(B)エマルジョンとを混合したものであり、この場合モノヒドロキシベンゼン(C)に対するホルムアルデヒド(D)のモル比を、D/C=0.5以上、3.0以下にすることが接着力を高める上で好適である。
【0010】
また、モノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物(A)とゴム(B)を合わせた質量を100%基準とする質量百分率で表して、モノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物(A)がA/(A+B)=3.0%以上、20.0%以下、ゴム(B)がB/(A+B)=80.0%以上、97.0%以下の範囲になるように混合した上、全固形分濃度が5.0%以上、40.0%以下の濃度になるように調節される。
【0011】
なお、モノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物(A)とゴム(B)エマルジョンを含む水系組成物には適宜カーボンブラック液を混合して帆布を黒染めする場合もある。
【0012】
ゴム(B)エマルジョンとしては、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体、クロロスルホン化ポリエチレン、ニトリルゴム、水素化ニトリルゴム、エピクロルヒドリン、天然ゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム、ウレタンゴムおよび、オレフィン−ビニルエステル共重合体等からなる群より選ばれるエマルジョンの1つ、あるいは2つ以上の組合せで用いる。
【0013】
ここで、基布に伝動ベルト帆布被覆用塗布液を塗布し乾燥したものが、帆布であり、基布とは伝動ベルト帆布被覆用塗布液を塗布する以前の布をいう。
【発明の効果】
【0014】
本発明による伝動ベルト帆布被覆用塗布液を塗布し、帆布に被覆層を設けてなる、伝動ベルト帆布は、伝動ベルトの部材である水素化ニトリルゴムと優れた接着強さを発現する。更に、該伝動ベルト帆布が水素化ニトリルゴムを部材とする伝動ベルトを被覆した際に耐熱性と耐屈曲疲労性をあたえたことで、高温、高負荷下における伝動ベルトの長時間の使用後、言い換えれば、走行後において、帆布の剥離や亀裂する懸念がなく該伝動ベルトは引張強さを維持し耐久性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】ゴム補強用ガラス繊維を耐熱ゴムに埋設させて作製した伝動ベルトを切断した際の斜視図である。
【図2】伝動ベルトの耐熱走行試験機の概略側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、モノヒドロキシベンゼン(C)とホルムアルデヒド(D)を反応させてなるモノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物(A)とゴム(B)エマルジョンを含む水系組成物を特徴とする伝動ベルト帆布被覆用塗布液を用いる。
【0017】
本発明の伝動ベルト帆布は、レゾルシン−ホルムアルデヒド縮合物とゴムエマルジョンからなる組成物で処理した従来の伝動ベルト帆布に比較して、耐熱ゴム、例えば架橋された水素化ニトリルゴムを伝動ベルトの部材として伝動ベルトとした際に、帆布の硬化劣化を抑え、耐熱性、耐屈曲疲労性が優れる。
【0018】
本発明の伝動ベルト帆布はモノヒドロキシベンゼン(C)とホルムアルデヒド(D)を反応させてなるモノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物(A)とゴム(B)エマルジョンを含む水系組成物を塗布するが、前記モノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物(A)が、モノヒドロキシベンゼン(C)に対するホルムアルデヒド(D)のモル比、D/C=0.5以上、3.0以下で、塩基性の触媒で反応させた水溶性もしくは水溶媒レゾール型樹脂が挙げられる。モノヒドロキシベンゼン(C)に対するホルムアルデヒド(D)のモル比が0.5未満では、ゴム補強用ガラス繊維と耐熱ゴムとの接着強さに劣り、3.0を越えるとガラス繊維被覆用塗布液が、ゲル化し易い。
【0019】
本発明の伝動ベルト帆布の塗布液に使用されるモノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド樹脂(A)として、例えば、工業用フェノール樹脂として市販されている群栄化学工業株式会社制、商品名、レジトップ、型番PL−4667が挙げられる。
【0020】
本発明の伝動ベルト帆布はモノヒドロキシベンゼン(C)とホルムアルデヒド(D)を反応させてなるモノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物(A)とゴム(B)エマルジョンを含む水系組成物を塗布するが、前記ゴム(B)エマルジョンとしては、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体、クロロスルホン化ポリエチレン、ニトリルゴム、水素化ニトリルゴム、エピクロルヒドリン、天然ゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム、ウレタンゴムおよび、オレフィン−ビニルエステル共重合体等からなる群より選ばれるエマルジョンの1つ、あるいは2つ以上の組合せで用いる。前記ゴム(B)エマルジョンは、一例として、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(E)とクロロスルホン化ポリエチレン(F)のエマルジョンが併用される。
【0021】
本発明の伝動ベルト帆布の塗布液に使用されるゴム(B)エマルジョンとして、例えば、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(E)には、ビニルピリジン:スチレン:ブタジエンの比が、質量比で10〜20:10〜20:80〜60の範囲で重合させてなるビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(E)を用いることが好ましく、市販の日本エイアンドエル株式会社製、商品名、ピラテクス、JSR株式会社製、商品名、0650、および日本ゼオン株式会社製、商品名、Nipol、型番、1218FS等が挙げられる。尚、前記質量比を外れたビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(E)を用いた伝動ベルト帆布被覆用塗布液を、塗布後乾燥させて基布に被覆を施し作製した伝動ベルト帆布は、伝動ベルトの部材ゴムとの接着強さに劣る。
【0022】
本発明の伝動ベルト帆布の塗布液に使用されるゴム(B)エマルジョンとして、例えば、クロロスルホン化ポリエチレン(F)は、質量百分率で表して、塩素含有量が20.0%〜40.0%、スルホン基中の硫黄含有量が0.5%〜2.0%のものが好適に用いられ、例えば、固形分約40質量%のエマルジョンとして、住友精化株式会社製、商品名、CSM−450が市販されており、本発明のガラス繊維被覆用塗布液に使用される。尚、前述の塩素含有量及びスルホン基中の硫黄含有量を外れたクロロスルホン化ポリエチレン(F)を用いた伝動ベルト帆布の塗布液を使用し、帆布に被覆を施し作製した伝動ベルト帆布は、伝動ベルトの部材である架橋された水素化ニトリルゴムとの接着性に劣る。
【0023】
伝動ベルトに使用した際の本発明の伝動ベルト帆布と伝動ベルトの部材ゴムに、所望の接着強さを得るには、伝動ベルト帆布の塗布液に含まれるモノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物(A)とゴム(B)エマルジョンの固形分を合わせた質量を100%基準とする質量百分率で表して、モノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物(A)がA/(A+B)=3.0%以上、20.0%以下、ゴム(B)がB/(A+B)=80.0%以上、97.0%以下の範囲になるように混合した上、全固形分濃度が5.0%以上、40.0%の濃度になるように調節された、水系組成物で処理され乾燥される。
【0024】
ゴム(B)エマルジョンとしては、例えば、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(E)とクロロスルホン化ポリエチレン(F)のエマルジョンを併用して用いることができ、モノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物(A)ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(E)とクロロスルホン化ポリエチレン(F)を合わせた質量を100%基準とする質量百分率で表して、モノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物(A)がA/(A+E+F)=3.0%以上、20.0%以下、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(E)が E/(A+E+F)=40.0%以上、80.0%以下、クロロスルホン化ポリエチレン(F)が F/(A+E+F)=10.0%以上、40.0%以下の範囲で含まれることが好ましい。
【0025】
本発明の伝動ベルト帆布において、被覆層中のモノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物(A)の含有が、A/(A+E+F)=3.0%より少ないと伝動ベルト帆布被覆材とした際に、伝動ベルト帆布と伝動ベルトの部材ゴムとの接着強さが弱くなり、伝動ベルトにした際の耐熱走行において、好ましい耐熱性、耐屈曲疲労性が得難い。モノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物(A)の含有が、A/(A+E+F)=20.0%を超えると、伝動ベルト帆布被覆用塗布液が凝集沈殿を起こし易く使用し難い。よって、本発明の伝動ベルト帆布の被覆層における好適なモノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物(A)の含有範囲は、該伝動ベルト帆布の被覆層に含まれるモノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物(A)とビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(E)とクロロスルホン化ポリエチレン(F)を合わせた質量を100%基準とする質量百分率で表して、A/(A+E+F)=3.0%以上、20.0%以下である。
【0026】
また、本発明の伝動ベルト帆布において、被覆層中のビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(E)の含有率がE/(A+E+F)=40.0%より少ないと、帆布と架橋された水素化ニトリルゴムとの接着強さが弱くなり、伝動ベルトにした際に好ましい耐熱性が得難い。ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(E)の含有率がE/(A+E+F)=80.0%を超えると、帆布の被覆とした際に、被覆に粘着性が生じ被覆層が転写し易くなり、工程が汚れる等の不具合が生じる。よって、本発明の伝動ベルト帆布塗布液におけるビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(E)の好適な含有範囲は、伝動ベルト帆布被覆用塗布液に含まれるモノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド樹脂(A)とビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(E)とクロロスルホン化ポリエチレン(F)とを合わせた質量を100%基準として、E/(A+E+F)=40.0%以上、80.0%以下である。
【0027】
また、本発明の伝動ベルト帆布において、被覆層中のクロロスルホン化ポリエチレン(F)の含有率がF/(A+E+F)=10.0%より少ないと、伝動ベルトにした際に所望の耐熱性が得難く。クロロスルホン化ポリエチレン(F)の含有率がF/(A+E+F)=40.0%より多いと、帆布と部材ゴムの接着強さが弱くなり、伝動ベルトにした際に好ましい耐熱性が得難い。本発明の伝動ベルト帆布被覆用塗布液において、好適なクロロスルホン化ポリエチレン(F)の含有範囲は、伝動ベルト帆布被覆用塗布液に含まれるモノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド樹脂(A)とビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(E)とクロロスルホン化ポリエチレン(F)とを合わせた重量を100%基準とする質量百分率で表して、F/(A+E+F)=10.0%以上、40.0%以下である。
【0028】
本発明の伝動ベルト帆布被覆用塗布液には、老化防止剤、pH調整剤、安定剤等を含有させても良い。老化防止剤にはジフェニルアミン系化合物、pH調整剤にはアンモニアが挙げられる。
【0029】
帆布は、基布の質量に対し、被覆層の付着量が5.0質量%以上、50.0質量%以下になるよう、伝動ベルト帆布被覆用塗布液に浸漬下後、乾燥させる。
【0030】
前記付着量の制御は、伝動ベルト帆布被覆用塗布液の固形分濃度と、伝動ベルト帆布被覆用塗布液への浸漬時間で行う。前記付着量が5.0質量%より少ないと、帆布と部材ゴムとの接着性、あるいは帆布の耐摩耗性が低下し、50.0質量%より多いと、帆布の機械的特性と耐屈曲疲労性が低下する。
【実施例】
【0031】
本発明の伝動ベルト帆布被覆用塗布液であるモノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド樹脂(A)とゴム(B)エマルジョンを水に分散させてエマルジョンとした本発明の伝動ベルト帆布被覆用塗布液を基布に塗布後乾燥させて、本発明の伝動ベルト帆布を作製した。(実施例1〜3)
次いで、本発明の範疇にない伝動ベルト帆布を作製した。(比較例1、2)。
【0032】
これら、本発明の伝動ベルト帆布(実施例1〜3)、または従来の、本発明の範疇にない伝動ベルト帆布(比較例1、2)を耐熱ゴムに被覆した伝導ベルトを作製した。ついで、これら伝動ベルトをプーリーにセットして、該伝動ベルトに高温下複数のプーリーを用いて、長時間の屈曲走行をさせて、該伝動ベルトの状態の観察と、該伝動ベルトの引張強さの保持率を測定し、該伝動ベルトの耐熱性、耐屈曲疲労性の評価試験を行い、本発明の伝動ベルト帆布(実施例1〜3)で被覆した伝動ベルト、または従来の、本発明の範疇にない伝動ベルト帆布(比較例1、2)で被覆した伝動ベルトにおける評価結果を比較した。
【0033】
以下、詳細に述べる。
【0034】
<実施例1>
(伝動ベルト帆布被覆用塗布液の調製)
市販のモノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物の水溶液(群栄化学工業株式会社製、商品名、レジトップ、型番PL−4667、固形分、50質量%)を1質量%濃度の水酸化ナトリウム水溶液で2倍の質量割合で希釈したモノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物の水溶液を用いた。モノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物(A)の水溶液30重量部と、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(E)のエマルジョン(日本エイアンドエル株式会社製、商品名、ピラテクス、固形分濃度41.0質量%)480重量部と、クロロスルホン化ポリエチレン(F)のエマルジョン(住友精化株式会社、商品名、CSM450、固形分濃度40.0質量%)250重量部と、PH調製剤としてアンモニア水(濃度、25.0質量%)22重量部とを所定量加え、全体として1000重量部になるように水を添加して、伝動ベルト帆布被覆用塗布液を調製した。
【0035】
(伝動ベルト帆布の作製)
前述の伝動ベルト帆布被覆用塗布液に基布を10秒間浸漬し、その後、温度230℃で60秒間乾燥させて被覆層を設け伝動ベルト帆布を作製した。
【0036】
この時の固形分付着率、即ち、被覆層の質量割合は、伝動ベルト帆布の全質量に対して25質量%であった。
【0037】
(ゴム補強用ガラス繊維の作製)
クロロスルホン化ポリエチレン(F)と、p−ジニトロソベンゼンと、ビスアリルナジイミド(G)に属するヘキサメチレンジアリルナジイミドとに、カーボンブラックを加え、キシレンに分散させた、本発明のゴム補強用ガラス繊維に2次被覆層を設けるためのガラス繊維2次被覆用塗布液を調製した。
【0038】
詳しくは、クロロスルホン化ポリエチレン(F)としての東ソー株式会社製、商品名、TS−430、100重量部と、p−ジニトロソベンゼン、40重量部とに、N−N'−ヘキサメチレンジアリルナジイミドとしての丸善石油化学株式会社製、商品名、BANI−H、0.3重量部とに、カーボンブラック、30重量部を加え、キシレン、1315重量部に分散させてガラス繊維2次被覆用塗布液を調製した。
【0039】
径9μmのガラス繊維フィラメントを200本集束したガラス繊維コード3本を引き揃えた後、前述の手順で作製した伝動ベルト帆布被覆用塗布液をガラス繊維被覆用の1次塗布液として塗布し、その後、温度、280℃下で、22秒間乾燥させて1次被覆層を設けた。
【0040】
この時の固形分付着率、即ち、被覆層の重量割合は、被覆層を設けたガラス繊維束の全重量に対して19.0重量%であった。
【0041】
前記被覆層を設けたガラス繊維コードを、2.54cm当たり2.0回の下撚りを与え、更に13本引き揃えて下撚りと逆方向に2.54cm当たり2.0回の上撚りをする作業を施した。その後、前述の手順で作製したガラス繊維2次被覆用塗布液を塗布した後、110℃で1分間の乾燥を行い、2次被覆層を設け、ゴム補強用ガラス繊維を作製した。このようにして、下練りと上練りの方向を各々逆方向とした2種類のゴム補強用ガラス繊維を作製した。各々、S練り、Z練りと称する。
【0042】
この時の固形分付着率、即ち、2次被覆層の重量割合は、1次および2次被覆層を設けたガラス繊維束の重量に対して、3.5重量%であった。
【0043】
(伝動ベルトの作製)
伝動ベルトの部材ゴムは、水素化ニトリルゴム(日本ゼオン株式会社製、型番、2020、)、100重量部に対して、カーボンブラック、40重量部と、亜鉛華、5重量部と、ステアリン酸、0.5重量部と、硫黄、0.4重量部と、加硫促進剤、2,5重量部と、老化防止剤、1.5重量部とを配合してなる。
【0044】
前記伝動ベルト帆布と前記ゴム補強用ガラス繊維を補強材として、前記部材ゴムを用い、幅19mm、長さ876mmの伝動ベルトを作製した。
【0045】
<実施例2>
実施例1に示した手順で、実施例1と同様の伝動ベルト帆布被覆用塗布液を調製し、実施例1と同様の手順で作業を行い、本発明の伝動ベルト帆布を作製した。
【0046】
実施例1で、ゴム補強用ガラス繊維の1次被覆液として調製した伝動ベルト帆布被覆用塗布液において、モノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物の代わりに、同質量のレゾルシン−ホルムアルデヒド縮合物を用いて調製した。
【0047】
即ち、レゾルシン−ホルムアルデヒド縮合物(レゾルシンとホルムアルデヒドのモル比、1.0:1.0で反応させたもの、固形分、8.7質量%)の水溶液172重量部と、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(E)のエマルジョン(日本エイアンドエル株式会社製、商品名、ピラテクス、固形分濃度41.0質量%)480重量部と、クロロスルホン化ポリエチレン(F)のエマルジョン(住友精化株式会社、商品名、CSM450、固形分濃度40.0質量%)250重量部と、PH調整剤としてアンモニア水(濃度、25.0質量%)22重量部とを所定量加え、全体として1000重量部になるように水を添加して、ゴム補強用ガラス繊維の1次被覆液として伝動ベルト帆布被覆用塗布液を調製した。
【0048】
前記1次被覆液を用い、実施例1と同様の手順で作業を行い、ゴム補強用ガラス繊維を作製した。
【0049】
実施例1に示した手順で、実施例2で作製した伝動ベルト帆布とゴム補強用ガラス繊維を使用して、実施例1と同様の手順で作業を行い、伝動ベルトを作製した。
【0050】
<実施例3>
実施例1と同じ伝動ベルト帆布被覆用塗布液に、帆布を20秒間浸漬し、その後、温度230℃で60秒間乾燥させて被覆層を設け伝動ベルト帆布を作製した。
【0051】
この時の固形分付着率、即ち、被覆層の質量割合は、伝動ベルト帆布の全質量に対して50質量%であった。
【0052】
実施例1に示した手順で、実施例1と同様の1次被覆液を調製し、実施例1と同様の手順で作業を行い、ゴム補強用ガラス繊維を作製した。
【0053】
実施例1に示した手順で、実施例3で作製した伝動ベルト帆布とゴム補強用ガラス繊維を使用して、実施例1と同様の手順で作業を行い、伝動ベルトを作製した。
【0054】
<比較例1>
実施例2にて使用したレゾルシン−ホルムアルデヒド縮合物を含むゴム補強用ガラス繊維の1次被覆液として調製した伝動ベルト帆布被覆用塗布液を用いて、実施例1と同様の手順で作業を行い、伝動ベルト帆布とゴム補強用ガラス繊維を作製した。
【0055】
実施例1に示した手順で、比較例1で作製した伝動ベルト帆布とゴム補強用ガラス繊維を使用して、実施例1と同様の手順で作業を行い、伝動ベルトを作製した。
【0056】
<比較例2>
実施例2にて使用したレゾルシン−ホルムアルデヒド縮合物を含むゴム補強用ガラス繊維の1次被覆液として調製した伝動ベルト帆布被覆用塗布液を用いて、実施例1と同様の手順で作業を行い、伝動ベルト帆布を作製した。
【0057】
実施例1に示した手順で、実施例1と同様の1次被覆液を調製し、実施例1と同様の手順で作業を行い、ゴム補強用ガラス繊維を作製した。
【0058】
実施例1に示した手順で、比較例2で作製した伝動ベルト帆布とゴム補強用ガラス繊維を使用して、実施例1と同様の手順で作業を行い、伝動ベルトを作製した。
【0059】
(耐熱走行試験)
実施例1〜3及び比較例1,2の伝動ベルトを使用して、耐熱走行試験を実施した。耐熱性は、高温下、該伝動ベルトを、複数の歯車、即ち、プーリーを用いて、屈曲させつつ走行させた。この時、該伝動ベルトに負荷が掛かるように従動側プーリーにブレーキを掛けつつ走行させ、該伝動ベルトの状態の観察と、該伝動ベルトの引張強さの保持率を測定し、該伝動ベルトの耐熱性、耐屈曲疲労性の評価試験を行った。
【0060】
図2は伝動ベルトの耐熱走行試験機の概略側面図である。
【0061】
図2に示すように、各々の伝動ベルト1を図示しない駆動モーターを備えた耐熱走行試験機に装着し耐熱性を測定する。伝動ベルト1は駆動モーターにより回転駆動される駆動プーリー3の駆動力により、3個の従動プーリー4、5、5’を回転させつつ走行する。アイドラー6は、耐熱走行試験における走行中に伝動ベルト1を張るためのもので、伝動ベルト1を張る役割を有し、伝動ベルト1を張るための荷重として500Nを伝動ベルト1に与える。駆動プーリー3と従動プーリー5、5’は、径、60mm、歯数、20Tである。従動プーリー4は径、120mm、歯数、40Tである。耐熱走行試験中の駆動プーリー3の1分間あたりの回転数は、6000rpmである。従動プーリー4の1分間あたりの回転数は、3000rpmであり、走行中の伝動ベルトに5.0kWの負荷が掛かるように回転する。回転方向は、伝動ベルト1に平行な矢印で示す。
【0062】
温度、130℃の環境下で、図2に示すように、駆動プーリー3を、6000rpmで回転させ、伝動ベルト1を従動プーリー4、5、5’、アイドラー6を用いて屈曲させつつ、5.0kWの負荷を掛けつつ500時間走行させ、耐熱走行試験を実施した。
【0063】
伝動ベルト1の状態の観察と、耐熱走行試験前の伝動ベルト1の引張り強さ、及び耐熱走行試験後の引張り強さを測定し、数1の式により試験前に対する試験後の伝動ベルト1の引張り強さ保持率を求め、実施例1〜3及び比較例1,2の伝動ベルト1の耐熱性を比較評価した。
【0064】
(引張強さ評価)
引張り強さ測定に供する試験片の長さは257mmであり、1本の伝動ベルトから3本切り取り得られる。これら試験片の端部各々をクランプ間距離145mmのクランプにてはさみ、引張り速度を50mm/分とし、伝動ベルトが破壊されるまでの最大の抵抗値を引張り強さとした。1本の伝動ベルトから3回、抵抗値を測定し、その平均値を伝動ベルトの引張り強さとした。
【数1】

【0065】

各々の伝動ベルトの耐熱走行試験で500時間走行後のベルトの状態とベルトの引張強度の保持率を表1に示す。
【表1】

【0066】

表1に示すように、実施例1〜3のモノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド樹脂、
ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体とクロロスルホン化ポリエチレンとを組成物とした伝動ベルト帆布被覆用塗布液を基布に塗布乾燥させた伝動ベルト帆布1Aを用いた伝動ベルト1の走行試験後の引張り強さ保持率は、実施例1の伝動ベルト帆布1Aとゴム補強用ガラス繊維2を用いた場合は98%であり、実施例2の伝動ベルト帆布1Aとゴム補強用ガラス繊維2を用いた場合は90%であり、実施例3の伝動ベルト帆布1Aとゴム補強用ガラス繊維2を用いた場合は102%であった。また、走行試験後のベルトの状態は、実施例1〜3の全ての伝動ベルト1において、歯欠けも無く、外観は良好であった。
【0067】
それに対して、比較例1および比較例2に示すように、モノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド樹脂を用いない替わりにレゾルシン−ホルムアルデヒド樹脂を用いて作製した、レゾルシン−ホルムアルデヒド樹脂、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体とクロロスルホン化ポリエチレンとを組成物とした伝動ベルト帆布被覆用塗布液を基布に塗布乾燥させた伝動ベルト帆布1Aを用いた伝動ベルト1の走行試験後の引張り強さ保持率は、比較例1の伝動ベルト帆布1Aとゴム補強用ガラス繊維2を用いた場合は63%であり、比較例2の伝動ベルト帆布1Aとゴム補強用ガラス繊維2を用いた場合は80%であった。また、走行試験後のベルトの状態は、比較例1および比較例2双方の伝動ベルト1において、歯欠けがあり、耐熱性に劣っていた。
【0068】
この耐熱走行試験の結果より、従来の伝動ベルト帆布1Aに比較して、モノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド樹脂(A)と、ゴム(B)の一例としてビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(E)と、クロロスルフォン化ポリエチレン(F)とを組成物とした本発明の伝動ベルト帆布被覆用塗布液を塗布後乾燥させてなる被覆被覆層を有した本発明の伝動ベルト帆布1Aを用いた伝動ベルト1が優れた耐熱性を有し、高負荷に対しても耐久性を有することが判った。
【符号の説明】
【0069】
1 伝動ベルト
1A 突起部(帆布で被覆)
1B 背部
2 ゴム補強用ガラス繊維
3 駆動プーリー(駆動プーリーに連結)
4 従動プーリー(発電機に連結)
5 従動プーリー
6 アイドラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モノヒドロキシベンゼン(C)とホルムアルデヒド(D)とを、反応させてなるモノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物(A)とゴム(B)エマルジョンとを有する水系組成物を含むことを特徴とする伝動ベルト帆布被覆用塗布液。
【請求項2】
モノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物(A)は、モノヒドロキシベンゼン(C)に対するホルムアルデヒド(D)のモル比が、D/C=0.5以上、3.0以下である、請求項1に記載の伝動ベルト帆布被覆用塗布液。
【請求項3】
質量100%で表して、モノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物(A)がA/(A+B)=3質量%以上、20質量%以下、ゴム(B)がB/(A+B)=80質量%以上、97質量%以下の範囲に含まれてなることを特徴とする請求項1、または請求項2に記載の伝動ベルト帆布被覆用塗布液。
【請求項4】
ゴム(B)エマルジョンはビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体、クロロスルホン化ポリエチレン、ニトリルゴム、水素化ニトリルゴム、エピクロルヒドリン、天然ゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム、ウレタンゴムおよび、オレフィン−ビニルエステル共重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種のゴムのエマルジョンであることを特徴とする伝動ベルト帆布被覆用塗布液。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の伝動ベルト帆布被覆用塗布液を伝動ベルト用帆布に塗布、乾燥させ、伝動ベルト帆布の被覆層の付着量が、基布の質量を基準として、5質量%以上、50質量%以下とすることを特徴とする伝動ベルト帆布の処理方法。
【請求項6】
請求項5に記載の処理方法により得られる伝動ベルト帆布。
【請求項7】
請求項6に記載の伝動ベルト帆布を耐熱ゴムに被覆させてなることを特徴とする伝動ベルト。
【請求項8】
耐熱ゴムが架橋された水素化ニトリルゴムであることを特徴とする請求項7に記載の伝動ベルト。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−26067(P2012−26067A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−168992(P2010−168992)
【出願日】平成22年7月28日(2010.7.28)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】