説明

伝動装置

【課題】直線的な往復動作力により回転体を一方向に回転させるようにしたラチェット式の伝動装置であって、駆動爪が復動作する際に爪車との間で生じ得る摩擦抵抗を防止又は抑制し、駆動爪及び爪車、ひいては回転体のスムーズな動作を確保するとともに、駆動爪の復動作時における異音の発生を防止し、構造の簡略化をも図ることが可能なものを提供する。
【解決手段】往復動作力を受けて往復動作を行う駆動爪61と、駆動爪61に付勢されるべく回転体たる巻取リールR2に一体回転可能に設けられた爪車62と、爪車62を駆動し得る係合姿勢(C)又は爪車62に接触し得ない退避姿勢(D)の何れかに駆動爪62を選択的に保持する選択保持機構8と、駆動爪61が往動作する際に駆動爪62を係合姿勢(C)にするとともに、駆動爪61が復動作する際に駆動爪61を退避姿勢(D)に切り替える姿勢切替機構9とを備えたものとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直線的な往復動作力により回転体を一方向に回転させるようにした伝動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、直線的な往復動作力により回転体を一方向に回転させるようにした伝動装置として、往復動作力を受けて往復動作を行う駆動爪と、この駆動爪に付勢されるべく回転体に一体回転可能に設けられた爪車とを備え、駆動爪が往動作する際に爪車の歯部に係合して付勢することにより爪車を回転させるようにしたラチェット式の態様が挙げられる。なお、このような伝動装置は様々な用途で活用されており、特定の特許文献を例示するまでもない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来のラチェット式の伝動装置は、駆動爪を作動始端位置から作動終端位置へ移動して爪車の歯部に係合して爪車及び回転体を回転させた後、当該駆動爪が爪車に摺れながら作動終端位置から作動始端位置へ戻るため、駆動爪の復動作時に、駆動爪と爪車との間に摩擦抵抗が生じ、回転体にも当該摩擦抵抗に応じた負荷が掛かり、駆動爪及び爪車、ひいては回転体のスムーズな動作を確保できないという不具合が生じ得る。加えて、駆動爪の復動作時に異音が生じ易く、さらには、駆動爪の復動作時における爪車の逆回転を防止する逆転防止機構も必須であり、構造の複雑化を招来していた。
【0004】
本発明は、このような課題に着目してなされたものであって、主たる目的は、駆動爪が復動作する際に爪車との間で生じ得る摩擦抵抗を防止又は抑制し、駆動爪及び爪車、ひいては回転体のスムーズな動作を確保するとともに、駆動爪の復動作時における異音の発生を防止し、構造の簡略化をも図ることが可能な伝動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち、本発明の伝動装置は、直線的な往復動作力により回転体を一方向に回転させるようにしたものであって、前記往復動作力を受けて往復動作を行う駆動爪と、当該駆動爪に付勢されるべく前記回転体に一体回転可能に設けられた爪車と、当該爪車を駆動し得る係合姿勢又は前記爪車に接触し得ない退避姿勢の何れかに前記駆動爪を選択的に保持する選択保持機構と、前記駆動爪が往動作する際に前記駆動爪を前記係合姿勢にするとともに、前記駆動爪が復動作する際に前記駆動爪を前記退避姿勢に切り替える姿勢切替機構とを具備してなることを特徴とする。
【0006】
このようなものであれば、姿勢切替機構によって往動作する駆動爪が係合姿勢となるため、この駆動爪によって爪車を駆動させ、回転体を回転させることができるとともに、復動作する駆動爪が爪車に接触し得ない退避姿勢となるため、当該復動作時に駆動爪と爪車との間に生じ得る摩擦抵抗を防止又は抑制することができ、回転体にも無用な負荷が掛かることがなく、駆動爪及び爪車、ひいては回転体のスムーズな動作を確保することができる。さらに、復動作する駆動爪が爪車に接触し得ない退避姿勢となるため、当該復動作時に駆動爪と爪車との噛み合い音の発生も防止することができる。しかも、復動作する駆動爪が退避姿勢となるため、従来のように駆動爪の復動作時における爪車の逆回転を防止する逆転防止機構を設ける必要もなく、構造の簡略化をも有効に図ることができる。
【0007】
特に、前記選択保持機構が、前記駆動爪の先端部が前記爪車に接触する方向に当該駆動爪を付勢する第1付勢姿勢と、前記駆動爪の先端部が前記爪車から離間する方向に当該駆動爪を付勢する第2付勢姿勢との間で姿勢変更可能な駆動部付勢部材を備え、前記駆動爪が往動作する際に前記第1付勢姿勢をとることによって前記駆動爪を前記係合姿勢に保持するとともに、前記駆動爪が復動作する際に前記第2付勢姿勢をとることによって前記駆動爪を前記退避姿勢に保持するものであれば、第1付勢姿勢から第2付勢姿勢に切り替わった駆動爪付勢部材の付勢力により駆動爪を前記退避姿勢に保持することができ、当該駆動爪の先端部が爪車に接触することを確実に防止することができる。
【0008】
前記姿勢切替機構が、前記往復動作力を受けて前記駆動爪を駆動爪作動始端位置から駆動爪作動終端位置へ移動させた際に当該駆動爪に当接し、駆動爪のそれ以上同一方向への移動を規制する第1ストッパと、前記駆動爪を駆動爪作動終端位置から駆動爪作動始端位置へ移動させる過程又は駆動爪作動始端位置へ移動させた際に当該駆動爪に当接し、駆動爪のそれ以上同一方向への移動を規制する第2ストッパとを備え、前記駆動爪が前記第1ストッパに当接した際に前記駆動爪付勢部材を前記第1付勢姿勢から前記第2付勢姿勢へ姿勢変更させるとともに、前記駆動爪が前記第2ストッパに当接した際に前記駆動爪付勢部材を前記第2付勢姿勢から前記第1付勢姿勢へ姿勢変更させるものであれば、姿勢切替機構を簡単な構成で実現することができるのみならず、駆動爪を第1ストッパ又は第2ストッパに当接させることにより駆動爪付勢部材の第1付勢姿勢と第2付勢姿勢との姿勢変更を強制的に行うことができ、この駆動爪付勢部材の姿勢変更によって駆動爪の係合姿勢から退避姿勢への姿勢変更、及び退避姿勢から係合姿勢への姿勢変更を的確に行うことができる。
【0009】
また、前記駆動爪が前記爪車に接触又は係合した状態で前記爪車に駆動爪以外から回転駆動力が作用した場合に前記駆動爪を前記退避姿勢に切り替える強制退避機構を備えていれば、回転体の自発的な回転に支障を来すことがなく、好適である。
【0010】
前記爪車の各歯部が、先端部に、各歯部の基端部と爪車の回転中心とを結ぶ仮想直線から外れる方向に所定角度傾斜させた傾斜面を有するものであり、前記強制退避機構が、前記爪車に駆動爪以外から回転駆動力が作用した場合に、前記爪車の回転動作によって、前記係合姿勢にある前記駆動爪の先端部を、歯部の前記傾斜面に沿って摺動させながら歯部から離間する方向に案内することによって前記駆動爪を前記退避姿勢に切り替えるものであれば、回転体と一体回転する爪車の回転を利用して駆動爪を歯部の傾斜面に案内させて退避姿勢に強制的に切り替えることができ、駆動爪のスムーズ且つ安定した切替動作を確保できる。
【0011】
爪車に駆動爪以外から回転駆動力が作用した場合に当該駆動爪の先端部が歯部に係合することを確実に防止するには、前記強制退避機構が、前記駆動爪の先端部を前記傾斜面に沿って摺動させながら前記歯部から離間する方向に案内する過程又は案内し終えた時点で前記選択保持機構により前記駆動爪を前記退避姿勢に保持するものであればよい。
【0012】
前記選択保持機構が、前記駆動爪の先端部を前記傾斜面に沿って摺動させながら前記歯部から離間する方向に案内する過程又は案内し終えた時点で、前記駆動爪の先端部が前記爪車から離間する方向に当該駆動爪を付勢する駆動爪付勢部材を備えたものであれば、駆動爪付勢部材の付勢力によって駆動爪を歯部から離間する方向に的確に移動させることができる。
【0013】
さらに、前記駆動爪付勢部材が、前記駆動爪の先端部が前記爪車に接触する方向に当該駆動爪を付勢する第1付勢姿勢と、前記駆動爪の先端部が前記爪車から離間する方向に当該駆動爪を付勢する第2付勢姿勢との間で姿勢変更可能なものであり、且つ前記第1付勢姿勢の状態で前記駆動爪の先端部を前記傾斜面に沿って摺動させながら前記歯部から離間する方向に案内する過程又は案内し終えた時点で思案点を超え、当該思案点を超えた時点で前記第2付勢姿勢に切り替わるものであれば、第1付勢姿勢から第2付勢姿勢に切り替わった駆動爪付勢部材の付勢力により駆動爪を前記退避姿勢に保持することができ、当該駆動爪の先端部が爪車に接触することを確実に防止することができる。
【0014】
前記駆動爪が、先端部を、他の領域よりも前記爪車の歯部に向かって突出させ、当該先端部を前記歯部の傾斜面に面的に接触した状態で傾斜面に沿って摺動し得るようにしたものであれば、駆動爪の先端部が傾斜面に線的又は点的に接触した状態で傾斜面に沿って摺動し得るようにした態様と比較して、駆動爪の先端部と傾斜面との摺動状態を安定したものとすることできるとともに、爪車の回転によって歯部から受ける押圧力を面的に受けることができ、駆動爪の先端部及び爪車の歯部の早期損傷や変形を防止することが可能である。
【0015】
特に、前記駆動爪付勢部材と前記駆動爪とを一体に成形していれば、部品点数の削減、及び組付工数の削減を図ることができる。
【0016】
このような伝動装置の具体的な適用例としては、片面に転写物を剥離可能に添着したテープを繰出リールから繰出し、転写ヘッドを経由させて前記回転体である巻取リールに巻取らせるようにした転写具に適用され、前記巻取リールを強制的に回転駆動させることによって前記繰出リールと前記巻取リールとの間で生じ得る前記テープの弛みを解消するための強制巻取装置として機能させる態様が挙げられる。
【0017】
前記駆動爪が、前記往復動作力を受けず駆動爪作動始端位置に位置付けられている場合、前記爪車に係合し得ない待機姿勢に保持されるものであれば、待機時に不要な噛み合い音が発生することがない。しかも、転写具本体が、少なくとも前記繰出リール及び前記巻取リールを保持したリフィル側の第1半ケースと、本体側の第2半ケースとを相互に着脱可能に組み付けたものであって、強制巻取装置として機能する伝動装置を前記第2半ケースに保持させる態様を採用すれば、使用者が往復動作力を付与しない限り駆動爪が爪車に係合し得ない待機姿勢に保持されるため、リフィル側の第1半ケースを交換する作業を容易に行うことができる。
【0018】
好適な実施態様としては、前記駆動爪が、外部操作可能な操作部に付与される操作力に起因して往復動作を行うものである態様が挙げられる。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように本発明によれば、駆動爪が復動作する際に爪車との間で生じ得る摩擦抵抗を防止又は抑制し、駆動爪及び爪車、ひいては回転体のスムーズな動作を確保するとともに、駆動爪の復動作時における異音の発生を防止し、構造の簡略化をも図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
【0021】
本実施形態では、本発明に係る伝動装置を、図1に示すように、片面に転写物を剥離可能に添着したテープを繰出リールR1から繰出し、転写ヘッド3を経由させて巻取リールR2に巻取らせるようにした転写具1に適用している。具体的には、巻取リールR2が本発明の回転体に相当し、本発明に係る伝動装置が、巻取リールR2を強制的に回転駆動させる強制巻取装置4として機能するものである。
【0022】
転写具1は、転写具本体2と、転写具本体2に取り付けた転写ヘッド3とを備えたものである。なお、図1では、転写具本体2及びヘッドキャップHCを透明体のものとして示し、テープは省略している。
【0023】
転写ヘッド3は、先端縁31Tでテープを折り返すように案内するヘッド本体31と、ヘッド本体31を転写具本体2に取り付けるためのヘッド取付部32とを備えたものである。そして、ヘッド取付部32が転写具本体2に対して軸線回りに回動し得るように設定するとともに、ヘッド本体31がヘッド取付部32に対してテープの巾方向に首振動作するようにしたものである。
【0024】
転写具本体2は、図1及び図2に示すように、半割構造をなすリフィル側の第1半ケース21及び本体側の第2半ケース22を備え、これら半ケース21、22同士を着脱可能に組み付けたものである。本実施形態では、第1半ケース21に、繰出リールR1、巻取リールR2、及び巻取リールR2と繰出リールR1とに間に掛け渡し、繰出リールR1の回転を巻取リールR2に伝達するためのリール伝動機構として機能するベルトBを保持させている。そして、第1半ケース21から取り外した第2半ケース22の平面図である図2に示すように、第2半ケース22に、本発明の伝動装置たる強制巻取装置4を保持させている。なお、本実施形態では、第2半ケース22にヘッドキャップHCを保持させる態様を採用しているが、図2ではヘッドキャップHCを省略している。
【0025】
強制巻取装置4は、図1〜図6に示すように、外部操作可能な操作部5と、操作部5に付与される操作力を巻取リールR2に伝達して巻取リールR2を一方向(図3等に示す矢印A方向)へ強制的に回転させ得る伝動機構6とを備えている。なお、図3〜図6は、図2に略対応させて示す強制巻取装置4の作用説明図であり、当該強制巻取装置4の作用を説明する便宜上、第2半ケース22を省略するとともに、後述する伝動機構6の爪車62を実線で示している。
【0026】
操作部5は、使用者が直接押圧力を付与し得るレバー51と、レバー51の基端側に一体に設けられ、レバー51に付与された操作力により一端部を回動基端部として回転可能な基体部52とを備えたものである。
【0027】
レバー51は、第2半ケース22に形成した切欠を介して外部に臨むものであり、指先で押圧操作可能な形状に設定している。
【0028】
基体部52は、長手方向略中央部にレバー51の基端部を接続し、レバー51に付与された操作力により一端部を回動基端部として回転可能な第1アーム521と、一端部を第1アーム521の他端部(回動自由端部)側に接続した第2アーム522と、一端部を第1アーム521の一端部(回動基端部)側に接続し、他端部を第2アーム522の他端部側に接続した第3アーム523とからなる正面視略三角形状をなすものである。
【0029】
この操作部5は、第1アーム521の一端部を第2半ケース22の内向面から内方に突出させた第1軸部J1に枢着することにより、レバー51に付与された押圧操作力に基づいて第1軸部J1を中心に図3に示す操作始端位置(A)から図6に示す操作終端位置(B)に回動する。
【0030】
また、本実施形態の強制巻取装置4は、操作部5を操作始端位置(A)から操作終端位置(B)に向かって移動させた場合に、操作部5を操作始端位置(A)へ復帰させる付勢力を蓄積しながら弾性変形する操作部付勢部材7を備えている。
【0031】
操作部付勢部材7は、一端部を第2半ケース22の内向面から内方に突出させた第2軸部J2に枢着し、他端部を第2アーム522と第3アーム523との接続部位に接続した概略板バネ状のものである。本実施形態では、第2軸部J2を、第1軸部J1よりも操作部5のレバー51から離間する方向に変位した位置に設けている。この第2軸部J2に一端部を枢着した操作部付勢部材7は、操作部5が操作始端位置(A)に位置付けられている場合に、全体的に下方に撓んだ姿勢をとり、操作部5の操作始端位置(A)から操作終端位置(B)への移動に伴って操作部5を操作始端位置(A)へ復帰させる付勢力を蓄積しながらさらに下方に撓んだ姿勢に弾性変形する。本実施形態では、操作部付勢部材7を操作部5と一体に成形している。
【0032】
一方、伝動機構6は、操作部5に付与される操作力を受けて往復動作を行う駆動爪61と、駆動爪61に付勢されるべく巻取リールR2に一体回転可能に設けられた爪車62とを備えたものである。
【0033】
駆動爪61は、概略部分円弧状をなすアーム部611と、アーム部611の先端部に設けられ爪車62に係合し得る爪本体612(本発明の「駆動爪の先端部」に相当)とを一体に有するものである。アーム部611の基端部を第1アーム521の他端部(回動自由端部)側に回転可能に支持させている。爪本体612は、アーム部611の円弧の内側に向かって突出させたものである。この駆動爪61は、操作部5に付与される操作力、具体的にはレバー51に付与される直線的な往復動作力を受けて往復動作を行い、爪車62を駆動し得る係合姿勢(C)(図4及び図5参照)と、爪車62に接触し得ない退避姿勢(D)(図6参照)との間で姿勢変更する。なお、図3〜図6では、操作過程における操作部5の回転角度、及び操作部5と駆動爪61との相対角度姿勢を直感的に把握できるように、操作部5の回転中心と駆動爪61の回転中心とを結ぶ仮想直線L1を一点鎖線で示している。
【0034】
さらに、本実施形態の強制巻取装置4は、駆動爪61を係合姿勢(C)又は退避姿勢(D)の何れかに選択的に保持する選択保持機構8を備えている。
【0035】
選択保持機構8は、駆動爪61の爪本体612が爪車62に接触する方向に駆動爪61を付勢する第1付勢姿勢(E)(図3〜図5参照)と、爪本体612が爪車62から離間する方向に駆動爪61を付勢する第2付勢姿勢(F)(図6参照)との間で姿勢変更可能な駆動爪付勢部材81を備えたものである。この駆動爪付勢部材81が第1付勢姿勢(E)をとることによって駆動爪61を前記係合姿勢(C)に保持するとともに、駆動爪付勢部材81が第2付勢姿勢(F)をとることによって駆動爪61を前記退避姿勢(D)に保持する。
【0036】
駆動爪付勢部材81は、一端部を駆動爪61の回動基端部側に連結し、他端部を第2アーム522と第3アーム523との接続部位に枢支させた概略板バネ状のものである。本実施形態では、駆動爪付勢部材81の一端部を、駆動爪61の一端部と共に、操作部5の第1アーム521の他端部(回動自由端部)側に設けた第1保持部53に回転可能に保持させるとともに、駆動爪付勢部材81の他端部を、第2アーム522と第3アーム523との接続部位に設けた第2保持部54に回転可能に保持させている。そして、駆動爪付勢部材81の一端部と他端部とを結ぶ仮想直線L2に対して一方の側(爪車62から相対的に遠い側)に撓んだ姿勢が前記第1付勢姿勢(E)であり、前記仮想直線L2に対して他方の側(爪車62に相対的に近い側)に撓んだ姿勢が前記第2付勢姿勢(F)である。本実施形態では、駆動爪付勢部材81を駆動爪61と一体に成形している。
【0037】
駆動爪61によって駆動される爪車62は、外周縁に所定ピッチで歯部621aを設けた爪車本体621と、爪車本体621よりも大径な円盤部622とを一体に備え、これら爪車本体621及び円盤部622を、巻取リールR2と同期回転可能にしている。本実施形態の爪車62は、図3等に示す矢印A方向に向かって巻取リールR2と一体回転するものである。
【0038】
爪車本体621の各歯部621aは、先端部を、各歯部621aの基端部と爪車62の回転中心とを結ぶ仮想直線L3(図3参照)から外れる方向、具体的には仮想直線L3に対して、爪車62の反回転方向(図3等に示す矢印A方向の逆方向)に所定角度傾斜させたものである。
【0039】
円盤部622は、図1に示す第2円盤部R21と対向し、当該第2円盤部R21との間にリール伝動機構であるベルトBの走行経路を形成し、プーリとして機能するものである。
【0040】
さらに、本実施形態の強制巻取装置4は、駆動爪61が往動作する際に駆動爪61を前記係合姿勢(C)にするとともに、駆動爪61が復動作する際に駆動爪61を退避姿勢(D)に切り替える姿勢切替機構9を備えている。
【0041】
姿勢切替機構9は、前記操作力を受けて駆動爪61を駆動爪作動始端位置(G)(図3参照)から駆動爪作動終端位置(H)(図6参照)へ移動させた際に当該駆動爪61に当接し、駆動爪61のそれ以上同一方向への移動を規制する第1ストッパ91と、駆動爪61を駆動爪作動終端位置(H)から駆動爪作動始端位置(G)へ移動させる過程又は駆動爪作動始端位置(G)へ移動させた際に当該駆動爪61に当接し、駆動爪61のそれ以上同一方向への移動を規制する第2ストッパ92とを備え、駆動爪61が第1ストッパ91に当接した際に駆動爪付勢部材81を前記第1付勢姿勢(E)から前記第2付勢姿勢(F)へ姿勢変更させるとともに、駆動爪61が第2ストッパ92に当接した際に前記駆動爪付勢部材81を第2付勢姿勢(F)から第1付勢姿勢(E)へ姿勢変更させるものである。なお、「駆動爪作動始端位置(G)」が、駆動爪61の往動作始端位置であり且つ復動作終端位置であるとともに、「駆動爪作動終端位置(H)」が、駆動爪61の往動作終端位置であり且つ復動作始端位置である。
【0042】
第1ストッパ91及び第2ストッパ92は、それぞれ第2半ケース22の内向面から内方に突出させたものであり、駆動爪61のみに当接し得る突出寸法に設定している。
【0043】
次に、このような構成を有する強制巻取装置4の操作方法及び作用について説明する。
【0044】
先ず、操作部5に操作力が付与されていない待機状態では、操作部5は操作始端位置(A)に位置付けられ、駆動爪61は駆動爪作動始端位置(G)に位置付けられる(図3参照)。この待機状態において、前記第1付勢姿勢(E)をとる駆動爪付勢部材81によって駆動爪61が係合姿勢(C)に保持されているが、操作部5に操作力が付与されない限り駆動爪61は、爪車62に係合し得ない待機姿勢(W)に保持される。
【0045】
そして、テープに弛みが生じた場合には、使用者が操作部5のレバー51を操作部付勢部材7の付勢力に抗して押圧する操作力を付与すると、操作部5全体が操作部付勢部材7の付勢力に抗して前記第1軸部J1を中心に爪車62に近付く方向に回転する。この操作部5の回転に伴って、操作部5の回動自由端側に回転可能に保持された駆動爪61は、前記第1付勢姿勢(E)をとる駆動爪付勢部材81によって係合姿勢(C)に保持されたまま、操作部5と共に爪車62に近付く方向に回転する。操作部5が爪車62に近付く方向にある程度回転した時点で、駆動爪61の爪本体612が爪車62の歯部621aと接触し(図4参照)、さらに前記操作力に基づいて操作部5が同一方向に回転することによって、第1付勢姿勢(E)をとる駆動爪付勢部材81により係合姿勢(C)に保持された駆動爪61が、前記接触した歯部621aを爪車62の回転方向(図3等に示す矢印A方向)に押圧する(図5参照)。その結果、爪車62全体が同一方向へ回転し、この爪車62と一体回転する巻取リールR2を同一方向へ回転させることによって弛んだテープが巻取リールR2に巻取られる。
【0046】
操作部5を操作終端位置(B)まで移動させた時点で、駆動爪61が第1ストッパ91に当接してそれ以上同一方向への移動が規制されるとともに、駆動爪付勢部材81が第1付勢姿勢(E)から前記第2付勢姿勢(F)に姿勢変更し、この駆動爪付勢部材81の付勢力によって、駆動爪61が爪本体612を爪車62の歯部621aから離間させる方向に移動し、係合姿勢(C)から爪車62と接触し得ない退避姿勢(D)に切り替わる(図2の想像線及び図6参照)。そして、前記操作力が付与され続ける限り、駆動爪61は、第2付勢姿勢(F)にある駆動爪付勢部材81によって退避姿勢(D)に保持される。なお、操作部5が操作終端位置(B)まで移動した時点で、操作部5のうち第1アーム521が第3ストッパS1に当接することによって、前記操作力による操作部5のそれ以上同一方向への移動を規制している。この第3ストッパS1は、第2半ケース22の内向面から内方に突出させたものである。また、操作部5の操作始端位置(A)から操作終端位置(B)への移動に伴って、操作部付勢部材7が、操作始端位置(A)へ復帰させる付勢力を蓄積しながら弾性変形する。
【0047】
そして、前記操作力を停止する又は弱めると、操作部付勢部材7の弾性復帰力により、操作部5が操作終端位置(B)から操作始端位置(A)に自己復帰する(図3参照)。この操作部5の操作終端位置(B)から操作始端位置(A)への自己復帰に伴って、駆動爪61が、退避姿勢(D)に保持されたまま駆動爪作動終端位置(H)から駆動爪作動始端位置(G)へ移動しながら前記第2ストッパ92に当接し、この時点で駆動爪付勢部材81が第2付勢姿勢(F)から第1付勢姿勢(E)に切り替わる。なお、操作部5が操作始端位置(A)まで移動した時点で、操作部5のうち第3アーム523が第4ストッパS2に当接することによって、操作部付勢部材7の付勢力による操作部5のそれ以上同一方向への移動を規制している。この第4ストッパS2は、第2半ケース22の内向面から内方に突出させたものである。さらに、操作部5が操作始端位置(A)まで移動した時点で、第1アーム521の回動自由端部近傍に設けた第5ストッパ521aが駆動爪61に当接し、第1付勢姿勢(E)にある駆動爪付勢部材81の付勢力による駆動爪61の爪車62に接近する方向への回転を規制している。すなわち、第5ストッパ521aが、駆動爪61が駆動爪作動始端位置(G)に位置付けられ且つ操作部5に操作力が付与されていない待機状態において、駆動爪61を爪車62の歯部621aに接触し得ない待機姿勢(W)に保持する待機姿勢保持機構として機能する。この第5ストッパ521aは、操作部5に操作力が付与された場合に駆動爪61から漸次離間し、操作部5を操作終端位置(B)に位置付けた時点で駆動爪61から最も離間するように設定している。
【0048】
上記操作、すなわち操作部5のレバー51を押して離すという操作を、テープの弛み量に応じて一回又は複数回繰り返すことにより、テープの弛みを解消することが可能である。
【0049】
このような強制巻取装置4を備えた転写具1は、当然のことながら、通常の転写具と同様に転写作業を行うことが可能である。具体的には、転写ヘッド3の先端縁31Tを転写対象面に押し付けた状態で、転写具1を所定の転写方向に沿ってスライド移動させることによって繰出リールR1に巻回しているテープを引き出し、この引出力により繰出リールR1が回転し、繰出リールR1の回転動作により前記リール伝動機構6を介して巻取リールR2を一方向に回転させる。これにより、転写ヘッド3の先端縁31Tを折り返す際に片面に添着した転写物を転写対象面に転写させたテープが巻取リールR2に巻取られる。このような転写作業時において、使用者が強制巻取装置4の操作部5に対して誤って又は不意に操作力を付与した場合にも、駆動爪が爪車に係合して爪車を回転方向に付勢する態様であれば、繰出リールR1の回転動作に従動して回転する巻取リールR2の動作に支障を来すおそれがある。
【0050】
そこで、本実施形態に係る強制巻取装置4は、巻取リールR2が操作部5以外から回転駆動力を受ける転写作業時において操作部5に操作力が付与された場合に、伝動機構6による操作部5と巻取リールR2との操作力伝達状態を解除する操作力強制遮断機構Xを備えている。
【0051】
操作力強制遮断機構Xは、前記転写作業時において操作部5に操作力が付与された場合に、前記係合姿勢(C)にある駆動爪61を、爪車62に接触し得ない前記退避姿勢(D)に切り替えるものである。すなわち、この操作力強制遮断機構Xが、本発明の「強制退避機構」に相当するものである。
【0052】
この操作力強制遮断機構Xは、爪車62の各歯部621aの先端部のうち爪車62の回転方向(図3等の矢印A方向)側に形成した傾斜面621kと、駆動爪61の爪本体612と、選択保持機構8(駆動爪付勢部材81)とによって構成している。歯部621aの先端部は、前述したように、各歯部621aの基端部と爪車62の回転中心とを結ぶ仮想直線L3から外れる方向に、具体的には仮想直線L3に対して爪車62の反回転方向(図3等に示す矢印A方向の逆方向)に所定角度傾斜させた方向に突出し、この先端部のうち、爪車62の回転方向側に略フラットな傾斜面621kを形成している。また、駆動爪61の爪本体612は、アーム部611に対して爪車62の歯部621aに向かって突出させ、爪本体612を歯部621aの傾斜面621kに面的に接触した状態で傾斜面621kに沿って摺動し得るようにしたものである。
【0053】
そして、転写作業時において操作部5に操作力が付与された場合、操作部5の操作始端位置(A)から操作終端位置(B)に向かって移動する過程で駆動爪61の爪本体612が、回転している爪車62の歯部621aに接触し得る。この際、爪車62は巻取リールR2と一体回転しているため、駆動爪61の爪本体612は、歯部621aの先端部のうち爪車62の回転方向側の面、すなわち傾斜面621kに接触し得る。この接触状態において、爪車62は巻取リールR2と共にさらに回転し、駆動爪61が、爪本体612を歯部621aの傾斜面621kに面的に接触した状態で傾斜面621kに沿って案内されながら歯部621aから離間する方向に付勢され、操作部5の第1保持部53に回転可能に保持させたアーム部611の基端部を中心に歯部621aから離間する方向に回転する。この駆動爪61の回転により、第1付勢姿勢(E)にある駆動爪付勢部材81が、一時的に座屈し(図7参照、なお、同図における駆動爪付勢部材81の座屈状態は模式的に示すものである)、思案点を超えた時点で第2付勢姿勢(F)に切り替わり、その結果、駆動爪61が爪車62に接触し得ない退避姿勢(D)で保持される(図8参照)。しがたって、転写作業中に操作部5を誤って又は不意に触った場合であっても、駆動爪61が爪車62に噛み合うことがなく、爪車62が駆動爪61から回転駆動力を受ける事態を回避することができ、転写作業時における巻取リールR2の回転に支障を来すことがない。なお、操作部5から指を離した場合に、操作部付勢部材7の弾性復帰力により、操作部5が操作始端位置(A)に自己復帰し(図3参照)、それに伴って駆動爪61が、退避姿勢(D)に保持されたまま駆動爪作動始端位置(G)へ移動しながら前記第2ストッパ92に当接し、この時点で駆動爪付勢部材81が第2付勢姿勢(F)から第1付勢姿勢(E)に切り替わる。
【0054】
このように、本実施形態に係る転写具1の強制巻取装置4は、往復動作力を受けて往復動作を行う駆動爪61と、駆動爪61に付勢されるべく巻取リールR2に一体回転可能に設けられた爪車62と、爪車62を駆動し得る係合姿勢(C)又は爪車62に接触し得ない退避姿勢(D)の何れかに駆動爪61を選択的に保持する選択保持機構8と、駆動爪61が往動作する際に駆動爪61を係合姿勢(C)にするとともに、駆動爪61が復動作する際に駆動爪61を退避姿勢(D)に切り替える姿勢切替機構9とを備えたものであるため、往動作する駆動爪61が係合姿勢(C)に保持され、この駆動爪61によって爪車61を駆動させて巻取リールR2を回転させることができるとともに、復動作する駆動爪61が退避姿勢(D)に保持されるため、復動作時に駆動爪61と爪車62とが接触し得ず、復動作時に駆動爪61と爪車62との間に生じ得る摩擦抵抗を防止又は抑制することができ、巻取リールR2にも無用な負荷が掛かることがなく、駆動爪61及び爪車62、ひいては巻取リールR2のスムーズな動作を確保することができる。さらに、復動作する駆動爪61が爪車62に接触し得ない退避姿勢(D)となるため、駆動爪61の復動作時に駆動爪61と爪車62との噛み合い音の発生も防止することができる。しかも、復動作する駆動爪61が退避姿勢となるため、従来のように駆動爪の復動作時における爪車の逆回転を防止する逆転防止機構を設ける必要もなく、構造の簡略化をも有効に図ることができる。
【0055】
特に、選択保持機構8が、駆動爪61の爪本体612が爪車62に接触する方向に駆動爪61を付勢する第1付勢姿勢(E)と、駆動爪61の爪本体612が爪車62から離間する方向に駆動爪61を付勢する第2付勢姿勢(F)との間で姿勢変更可能な駆動部付勢部材81を備え、駆動爪61が往動作する際に第1付勢姿勢(E)をとることによって駆動爪61を係合姿勢(C)に保持するとともに、駆動爪61が復動作する際に第2付勢姿勢(F)をとることによって駆動爪61を退避姿勢(D)に保持するものであるため、単一の駆動爪付勢部材81によって、駆動爪61を係合姿勢(C)又は退避姿勢(D)の何れかに選択的に保持する選択保持機構8を構成することができ、駆動爪61を係合姿勢(C)に保持する部材と、駆動爪61を退避姿勢(D)に保持する部材とをそれぞれ個別に要する態様と比較して、部品点数の削減及び構造の簡略化を図ることができるとともに、第1付勢姿勢(E)から第2付勢姿勢(F)に切り替わった駆動爪付勢部材81の付勢力により駆動爪61を退避姿勢(D)に保持することができ、駆動爪61の爪本体612が爪車62に接触することを確実に防止することができる。
【0056】
加えて、姿勢切替機構9が、往復動作力を受けて駆動爪61を駆動爪作動始端位置(G)から駆動爪作動終端位置(H)へ移動させた際に駆動爪61に当接し、駆動爪61のそれ以上同一方向への移動を規制する第1ストッパ91と、駆動爪61を駆動爪作動終端位置(H)から駆動爪作動始端位置(G)へ移動させる過程又は駆動爪作動始端位置(G)へ移動させた際に駆動爪61に当接し、駆動爪61のそれ以上同一方向への移動を規制する第2ストッパ92とを備え、駆動爪61が第1ストッパ91に当接した際に駆動爪付勢部材81を第1付勢姿勢(E)から第2付勢姿勢(F)へ姿勢変更させるとともに、駆動爪61が第2ストッパ92に当接した際に駆動爪付勢部材81を第2付勢姿勢(F)から第1付勢姿勢(E)へ姿勢変更させるものであるため、姿勢切替機構9を比較的簡単な構成で実現することができるとともに、駆動爪61を第1ストッパ91又は第2ストッパ92に当接させることにより駆動爪付勢部材81の第1付勢姿勢(E)と第2付勢姿勢(F)との間の姿勢変更を強制的に行うことができ、この駆動爪付勢部材81の姿勢変更によって駆動爪61の係合姿勢(C)から退避姿勢(D)への姿勢変更、及び退避姿勢(D)から係合姿勢(C)への姿勢変更を的確に行うことができる。
【0057】
殊に、駆動爪付勢部材81と駆動爪61とを一体に成形しているため、部品点数及び組付工数の削減、さらには構造の簡略化をも有効に図ることができる。
【0058】
また、本実施形態に係る転写具1の強制巻取装置4は、駆動爪61が爪車62に接触又は係合した状態で爪車62に駆動爪61以外から回転駆動力が作用した場合に駆動爪61を退避姿勢(D)に切り替える本発明の強制退避機構たる操作力強制遮断機構Xを備えたものであるため、転写作業をしていない状態で操作部5に操作力を付与した場合には伝動機構6の作用により巻取リールR2を強制的に回転させることによってテープの弛みを除去することができる一方で、転写作業時に不意に操作部5に操作力を付与した場合であっても、駆動爪61が退避姿勢(D)に切り替わるため、前記操作力が巻取リールR2に伝わらず、転写作業時における巻取リールR2のスムーズな回転に悪影響を及ぼすことがなく、転写性に優れたものとなる。
【0059】
さらに、爪車62の各歯部621aが、先端部に、各歯部621aの基端部と爪車62の回転中心とを結ぶ仮想直線L3から外れる方向に所定角度傾斜させた傾斜面621kを有するものであり、操作力強制遮断機構Xが、転写作業時において操作部5に操作力が付与された場合に、爪車62の回転動作によって、係合姿勢(C)にある駆動爪61の爪本体612を、歯部621aの傾斜面621kに沿って摺動させながら歯部621aから逃げる方向に案内することによって駆動爪61を退避姿勢(D)に切り替えるものであるため、転写作業時の巻取リールR2と一体回転する爪車62の回転を利用して駆動爪61を歯部621aの傾斜面621kに案内させて退避姿勢(D)に強制的に切り替えることができ、駆動爪61のスムーズ且つ安定した切替動作を確保できる。
【0060】
加えて、操作力強制遮断機構Xが、駆動爪61の爪本体612を傾斜面621kに沿って摺動させながら歯部621aから離間する方向に案内する過程又は案内し終えた時点で選択保持機構8により駆動爪61を退避姿勢(D)に保持するようにしているため、駆動爪61が退避姿勢(D)に保持されることによって駆動爪61の爪本体612が歯部621aに係合することを確実に防止できる。
【0061】
選択保持機構8が、駆動爪61の爪本体612を傾斜面621kに沿って摺動させながら歯部621aから離間する方向に案内する過程又は案内し終えた時点で、駆動爪61の爪本体612が爪車62から離間する方向に駆動爪61を付勢する駆動爪付勢部材81を備えたものであるため、この駆動爪付勢部材81の付勢力によって駆動爪61を歯部621aから離間する方向に的確に移動させることができる。
【0062】
特に、駆動爪付勢部材81が、第1付勢姿勢(E)の状態で駆動爪61の爪本体612を傾斜面621kに沿って摺動させながら歯部621aから離間する方向に案内する過程又は案内し終えた時点で思案点を超え、当該思案点を超えた時点で第2付勢姿勢(F)に切り替わるものであるため、第1付勢姿勢(E)から第2付勢姿勢(F)に切り替わった駆動爪付勢部材81の付勢力により駆動爪61を前記退避姿勢(D)に保持することができ、駆動爪61のが爪車62に接触することを確実に防止することができる。
【0063】
加えて、駆動爪61が、爪本体612を、他の領域よりも爪車62の歯部621aに向かって突出させ、この爪本体612を歯部621aの傾斜面621kに面的に接触した状態で傾斜面621kに沿って摺動し得るようにしたものであるため、駆動爪の先端部が傾斜面に線的又は点的に接触した状態で傾斜面に沿って摺動し得るようにした態様と比較して、駆動爪61の爪本体612と傾斜面621kとの摺動状態を安定したものとすることできるとともに、爪車62の回転によって歯部621aから受ける押圧力を面的に受けることができ、爪本体612の早期損傷や変形を防止することが可能である。
【0064】
さらに、駆動爪61が、往復動作力を受けず駆動爪作動始端位置(G)に位置付けられている場合、爪車62に係合し得ない待機姿勢(W)に保持されるものであるため、待機時に不要な噛み合い音が発生することがない。しかも、転写具本体2が、少なくとも繰出リールR1及び巻取リールR2を保持したリフィル側の第1半ケース21と、本体側の第2半ケース22とを相互に着脱可能に組み付けたものであり、強制巻取装置4を第2半ケース22に保持させる態様を採用しているため、使用者が操作部5に操作力を付与しない限り駆動爪61が爪車62に係合し得ない待機姿勢(W)に保持され、リフィル側の第1半ケース21を交換する作業を容易に行うことができる。
【0065】
なお、本発明は、以上に詳述した実施形態に限られるものではない。
【0066】
例えば、駆動爪は、直線的な往復動作力を受けて往復動作を行うものであればよく、手動以外の操作力、機械的又は電気的な操作力を受けて往復動作を行うものであっても構わない。なお、操作部が手動操作可能である場合、押圧操作可能なものに限らず、回転操作又は引っ張り操作可能なものであってもよい。
【0067】
また、前記実施形態では、駆動爪を係合姿勢又は退避姿勢の何れかに選択的に保持する選択保持機構として、単一の部材(駆動爪付勢部材)から構成した態様を例示したが、選択保持機構が、駆動爪を係合姿勢に保持する専用の部材と、駆動爪を退避姿勢に保持する専用の部材とをそれぞれ個別に備えたものであってもよい。
【0068】
さらに、選択保持機構を構成する駆動爪付勢部材として、板バネ状のものに代えて、例えばコイルバネやゴム等を適用しても構わない。また、駆動爪付勢部材が駆動爪と別体のものであってもよい。
【0069】
また、駆動爪の先端部が歯部の傾斜面に線的又は点的に接触した状態で傾斜面に沿って摺動し得るようにした態様を採用しても構わない。
【0070】
駆動爪の形状や、爪車の歯部の形状や数は、適宜変更してもよい。
【0071】
転写具自体が、転写具本体に対してテープ等を詰替可能な詰替タイプではなく、転写具本体に対してテープ等を詰替不能な使い捨てタイプのものであっても構わない。
【0072】
また、転写物として、粘着剤や接着剤を適用しても勿論構わない。
【0073】
さらに、本発明に係る伝動装置を、転写具以外の構造物に適用することも可能である。
【0074】
その他、各部の具体的構成についても上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の一実施形態に係る伝動装置たる強制巻取装置を備えた転写具の平面図。
【図2】同実施形態における第1半ケースから取り外した第2半ケースの平面図を一部省略して示す図。
【図3】同実施形態に係る強制巻取装置の作用説明図であって、操作部が操作始端位置にある状態を示す図。
【図4】同作用説明図であって、操作部が操作始端位置から操作終端位置に向かって移動している状態を示す図。
【図5】同作用説明図であって、操作部が図4よりもさらに操作終端位置に向かって移動している状態を示す図。
【図6】同作用説明図であって、操作部が操作終端位置にある状態を示す図。
【図7】同作用説明図であって、転写作業時に操作部が操作始端位置から操作終端位置に向かって移動している状態を示す図。
【図8】同作用説明図であって、転写作業時に作動した駆動爪が退避姿勢に切り替わった状態を示す図。
【符号の説明】
【0076】
1…転写具
2…転写具本体
21…第1半ケース
22…第2半ケース
3…転写ヘッド
4…伝動装置(強制巻取装置)
5…操作部
6…伝動機構
61…駆動爪
62…爪車
612…駆動爪の先端部(爪本体)
621a…歯部
621k…傾斜面
8…選択保持機構
81…駆動爪付勢部材
9…姿勢切替機構
91…第1ストッパ
92…第2ストッパ
(C)…係合姿勢
(D)…退避姿勢
(E)…第1付勢姿勢
(F)…第2付勢姿勢
(G)…駆動爪作動始端位置
(H)…駆動爪作動終端位置
(W)…待機姿勢
R1…繰出リール
R2…回転体(巻取リール)
X…強制退避機構(操作力強制遮断機構)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直線的な往復動作力により回転体を一方向に回転させるようにした伝動装置であって、
前記往復動作力を受けて往復動作を行う駆動爪と、
当該駆動爪に付勢されるべく前記回転体に一体回転可能に設けられた爪車と、
当該爪車を駆動し得る係合姿勢又は前記爪車に接触し得ない退避姿勢の何れかに前記駆動爪を選択的に保持する選択保持機構と、
前記駆動爪が往動作する際に前記駆動爪を前記係合姿勢にするとともに、前記駆動爪が復動作する際に前記駆動爪を前記退避姿勢に切り替える姿勢切替機構とを具備してなることを特徴とする伝動装置。
【請求項2】
前記選択保持機構が、前記駆動爪の先端部が前記爪車に接触する方向に当該駆動爪を付勢する第1付勢姿勢と、前記駆動爪の先端部が前記爪車から離間する方向に当該駆動爪を付勢する第2付勢姿勢との間で姿勢変更可能な駆動部付勢部材を備え、前記駆動爪が往動作する際に前記第1付勢姿勢をとることによって前記駆動爪を前記係合姿勢に保持するとともに、前記駆動爪が復動作する際に前記第2付勢姿勢をとることによって前記駆動爪を前記退避姿勢に保持するものである請求項1記載の伝動装置。
【請求項3】
前記姿勢切替機構が、前記往復動作力を受けて前記駆動爪を駆動爪作動始端位置から駆動爪作動終端位置へ移動させた際に当該駆動爪に当接し、駆動爪のそれ以上同一方向への移動を規制する第1ストッパと、前記駆動爪を駆動爪作動終端位置から駆動爪作動始端位置へ移動させる過程又は駆動爪作動始端位置へ移動させた際に当該駆動爪に当接し、駆動爪のそれ以上同一方向への移動を規制する第2ストッパとを備え、前記駆動爪が前記第1ストッパに当接した際に前記駆動爪付勢部材を前記第1付勢姿勢から前記第2付勢姿勢へ姿勢変更させるとともに、前記駆動爪が前記第2ストッパに当接した際に前記駆動爪付勢部材を前記第2付勢姿勢から前記第1付勢姿勢へ姿勢変更させるものである請求項2記載の伝動装置。
【請求項4】
前記駆動爪付勢部材と前記駆動爪とを一体に成形している請求項2又は3記載の伝動装置。
【請求項5】
前記駆動爪が前記爪車に接触又は係合した状態で前記爪車に駆動爪以外から回転駆動力が作用した場合に前記駆動爪を前記退避姿勢に切り替える強制退避機構を備えている請求項1、2、3又は4記載の伝動装置。
【請求項6】
前記爪車の各歯部が、先端部に、各歯部の基端部と爪車の回転中心とを結ぶ仮想直線から外れる方向に所定角度傾斜させた傾斜面を有するものであり、
前記強制退避機構が、前記爪車に駆動爪以外から回転駆動力が作用した場合に、前記爪車の回転動作によって、前記係合姿勢にある前記駆動爪の先端部を、歯部の前記傾斜面に沿って摺動させながら歯部から離間する方向に案内することによって前記駆動爪を前記退避姿勢に切り替えるものである請求項5記載の伝動装置。
【請求項7】
前記強制退避機構が、前記駆動爪の先端部を前記傾斜面に沿って摺動させながら前記歯部から離間する方向に案内する過程又は案内し終えた時点で前記選択保持機構により前記駆動爪を前記退避姿勢に保持するようにしている請求項6の伝動装置。
【請求項8】
前記選択保持機構が、前記駆動爪の先端部を前記傾斜面に沿って摺動させながら前記歯部から離間する方向に案内する過程又は案内し終えた時点で、前記駆動爪の先端部が前記爪車から離間する方向に当該駆動爪を付勢する駆動爪付勢部材を備えたものである請求項7記載の伝動装置。
【請求項9】
前記駆動爪付勢部材が、前記駆動爪の先端部が前記爪車に接触する方向に当該駆動爪を付勢する第1付勢姿勢と、前記駆動爪の先端部が前記爪車から離間する方向に当該駆動爪を付勢する第2付勢姿勢との間で姿勢変更可能なものであり、且つ前記第1付勢姿勢の状態で前記駆動爪の先端部を前記傾斜面に沿って摺動させながら前記歯部から離間する方向に案内する過程又は案内し終えた時点で思案点を超え、当該思案点を超えた時点で前記第2付勢姿勢に切り替わるものである請求項8記載の伝動装置。
【請求項10】
前記駆動爪が、先端部を、他の領域よりも前記爪車の歯部に向かって突出させ、当該先端部を前記歯部の傾斜面に面的に接触した状態で傾斜面に沿って摺動し得るようにしたものである請求項6、7、8又は9記載の巻取強制装置。
【請求項11】
片面に転写物を剥離可能に添着したテープを繰出リールから繰出し、転写ヘッドを経由させて前記回転体である巻取リールに巻取らせるようにした転写具に適用されるものであり、前記巻取リールを強制的に回転駆動させることによって前記繰出リールと前記巻取リールとの間で生じ得る前記テープの弛みを解消するための強制巻取装置として機能する請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10記載の伝動装置。
【請求項12】
前記駆動爪が、前記往復動作力を受けず駆動爪作動始端位置に位置付けられている場合、前記爪車に係合し得ない待機姿勢に保持されるものであり、
転写具本体が、少なくとも前記繰出リール及び前記巻取リールを保持したリフィル側の第1半ケースと、本体側の第2半ケースとを相互に着脱可能に組み付けたものであって、前記第2半ケースに保持されている請求項11記載の伝動装置。
【請求項13】
前記駆動爪が、外部操作可能な操作部に付与される操作力に起因して往復動作を行うものである請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11又は12記載の伝動装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2008−267442(P2008−267442A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−108673(P2007−108673)
【出願日】平成19年4月17日(2007.4.17)
【出願人】(000001351)コクヨ株式会社 (961)
【Fターム(参考)】