説明

伝送システム

【課題】既存のネットワークを用いて精度の高いデータ伝送が可能なシステムを提供する。
【解決手段】ネットワーク6を介して、測定された系統周波数を給電システム5に伝送する伝送システム1を、系統周波数を1サイクル毎にサンプリングしてパルス数に変換する周波数計測部7と、2個の記憶領域を有し、系統周波数の最低周波数に対応するパルス数と周波数計測部7で計測されたパルス数との差分を1/2して端数を切り捨てた値をその一方に記憶し、端数を切り上げた値を他方記憶し、系統周波数の1サイクルの間にこれらの2個の記憶領域に記憶された差分を少なくとも1回ずつ交互にネットワーク6に送信する送信処理部8と、この送信処理部8から送信された差分をネットワーク6から受信し、今回受信した差分と前回受信した差分とを加算して元の差分を復元して給電システム5に渡す受信処理部11と、から構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば給電制御に用いられる系統周波数の測定値のように、伝送遅延時間の制限と精度が要求されるデータ通信に用いられる伝送システムに関する。
【背景技術】
【0002】
電力系統の運用において、系統周波数を測定して給電制御を行うためのシステムが知られている(例えば、特許文献1参照)。このような給電システムでは、供給される電力の品質を維持するために、所定のポイントにおける系統周波数の測定値の伝送遅延時間は所定の時間内に抑える必要があり、また、測定精度は0.001Hzを満足する必要がある。
【0003】
【特許文献1】特開2005−20916号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような高精度の測定値を伝送するために既存のネットワークを利用すると、データ量が一つのパケットで送信できる大きさを超えてしまうため、2個のパケットに分割して伝送する必要が出てくるが、分割方法によっては、処理が複雑になり、また、伝送による誤差が増加するという課題がある。
【0005】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、既存のネットワークを用いて簡単な処理で精度の高いデータ伝送が可能な伝送システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、第1の本発明に係る伝送システムは、1回のパケットでY−1ビットのデータを伝送可能な伝送ネットワークを用いて、Yビットのデータ(2Y−1を除く)を伝送するものであり、2個の記憶領域を有し、Yビットのデータを1/2して端数を切り捨てた値を一方の記憶領域に記憶し、Yビットのデータを1/2して端数を切り上げた値を他方の記憶領域に記憶し、これらの2個の記憶領域に記憶された分割情報を少なくとも1回ずつ交互に伝送ネットワークに送信する送信処理手段(例えば、実施形態における送信処理部8)と、この送信処理手段から送信された分割情報を伝送ネットワークから受信し、今回受信した分割情報と前回受信した分割情報とを加算してYビットのデータを復元する受信処理手段(例えば、実施形態における受信処理部11)と、から構成される。
【0007】
また、第2の本発明に係る伝送システムは、伝送ネットワークを介して、所定の箇所で測定された系統周波数を給電システムに伝送するものであり、所定の箇所の系統周波数を1サイクル毎にサンプリングしてパルス数に変換する周波数計測手段(例えば、実施形態における周波数計測部7)と、2個の記憶領域を有し、系統周波数の最低周波数に対応するパルス数および周波数計測手段で計測されたパルス数の差分パルス数を1/2して端数を切り捨てた値を一方の記憶領域に記憶し、差分パルス数を1/2して端数を切り上げた値を他方の記憶領域に記憶し、系統周波数の1サイクルの間にこれらの2個の記憶領域に記憶された1/2された差分パルス数を少なくとも1回ずつ交互に伝送ネットワークに送信する送信処理手段と、この送信処理手段から送信された1/2された差分パルス数を伝送ネットワークから受信し、今回受信した1/2された差分パルス数と前回受信した1/2された差分パルス数とを加算して差分パルス数を復元して給電システムに渡す受信処理手段と、から構成される。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る伝送システムを以上のように構成すると、伝送ネットワークにおいて1回のパケットで送信可能なデータ長よりも大きなデータを所望の精度で送信することができるとともに、この伝送ネットワークが保証する伝送遅延時間の範囲内でデータを送信することができる。そのため、給電制御に用いられる系統周波数の測定値の伝送に好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の好ましい実施形態について図面を参照して説明する。まず、図1を用いて、本発明に係る伝送システムの構成について説明する。なお、この伝送システムは、所定の箇所における系統周波数を測定し、給電システムに伝送するためのものである。伝送システム1は、電力系統(例えば、変電所等における母線)2の系統周波数を測定して、伝送ネットワーク6を介して送信する系統周波数情報収集装置(以下、「収集装置3」と呼ぶ)、この収集装置3から送信された系統周波数情報を伝送ネットワーク6から受信し、給電システム5に渡す系統周波数情報受信装置(以下、「受信装置4」と呼ぶ)から構成されている。
【0010】
収集装置3は、電力系統2の系統周波数を計測する周波数計測部7、この周波数計測部7で測定された系統周波数情報を送信可能な送信データに変換する送信処理部8、および、伝送ネットワーク6に対してデータを送信する送信機能部9から構成される。また、受信装置4は、伝送ネットワーク6から送信データを受信する受信機能部10、および、この受信機能部10で受信された送信データを系統周波数情報に変換して給電システム5に渡す受信処理部11から構成される。
【0011】
なお、本実施例における伝送ネットワーク6は、所定のワード長(本実施例の場合は14ビット)を有する送信データと同期データとを交互に送信することにより、所定の伝送遅延時間を保証するサイクリックデジタル伝送方式(CDT方式)が用いられる。
【0012】
収集装置3の周波数計測部7は、系統電圧から系統周波数を測定するように構成されている。具体的には、図2(a)に示すように、電圧値の入力を半端整流して正(若しくは負)の値だけを抽出し、さらに、矩形波整形を行って矩形波に変換する。この矩形波に対して、図2(b)に示すように所定のサンプリング周波数(本実施例においては、10MHz)を有するパルス信号でサンプリングを行い、系統周波数の1サイクル毎にサンプリングのパルス数を計測して行われる。例えば、図2(b)においては、系統電圧が立ち上がった時刻t1からカウントを始め、次に系統電圧が立ち上がる時刻t2までのパルス数を1サイクル分のパルス数としてカウントする。
【0013】
ここで、サンプリング周波数を10MHzとした場合における系統周波数の1サイクル分のパルス数の関係は以下の表1のようになる。なお、このように系統周波数をパルス数としてサンプリングすることにより、系統周波数の計測値は整数(パルス数)で表現することができる。
【0014】
(表1)
系統周波数[Hz] 1サイクル分のパルス数
46.000 217,391
50.000 200,000
54.000 185,185
【0015】
本実施例に係る給電システム5においては、測定する系統周波数の範囲は、表1にも示したように46.000〜54.000Hzの間であるため、この範囲の系統周波数(計測パルス数であって、最大217,391パルス)を送信するためには、データ長が18ビットとなる。ところが、本実施例に係る伝送ネットワーク6においては、1回のパケットでは14ビットのデータしか送信することができないため、送信処理部8はこの計測パルス数を分割して2個のパケットで送信する必要がある。
【0016】
それでは、送信処理部8の処理について図3を用いて説明する。送信処理部8は、周波数計測部7から計測パルス数を取り込むと(ステップS100)、この計測パルス数の最小値(すなわち、系統周波数が54.000Hzのときの185,185パルス)からの差分のパルス数Xを算出する(ステップS101)。具体的には、次に示す表2のような値になる。すなわち、差分のパルス数Xとすることにより、この測定範囲の系統周波数(最大値が46.000Hzのときの32,206パルス)を送信するためのビット数を15ビットに圧縮することができる。
【0017】
(表2)
系統周波数[Hz] 差分のパルス数X
46.000 32,206
50.000 14,815
54.000 0
【0018】
次に、この差分のパルス数Xを2分割して、伝送ネットワーク6の1パケットで送信可能な14ビットにし、2つの記憶領域AおよびBにそれぞれを格納する処理を行う。送信処理部8は、まず、差分のパルス数Xが偶数か否かを調べる(ステップS102)。偶数であると判断されたときは、差分のパルス数Xは2Nで表現できるため、記憶領域AおよびBのそれぞれにNを格納する(ステップS103)。一方、ステップS102で偶数でない(奇数である)と判断されたときは、差分のパルス数Xは2N+1で表現できるため、記憶領域AにNを格納し、記憶領域BにN+1を格納する(ステップS104)。すなわち、これらのステップS102〜S104の処理により、差分のパルス数Xを1/2して、端数を切り捨てた値を記憶領域Aに格納し、端数を切り上げた値を記憶領域Bに格納している。もちろん、記憶領域A,Bに格納される値は逆でも構わない。
【0019】
そして、送信処理部8は、送信機能部9に記憶領域AまたはBの値を渡して伝送ネットワーク6に送信データとして送信する。まず、前回送信した領域が記憶領域Bであるか否かを調べ(ステップS105)、記憶領域Bが送信されていた場合は、記憶領域Aの値を送信機能部9に渡し(ステップS106)、記憶領域Bでなかった場合(記憶領域Aが送信されていた場合)は、記憶領域Bの値を送信機能部9に渡し(ステップS107)て、伝送ネットワーク6に送信する。
【0020】
そして、周波数計測部7から新たな計測パルス数が計測されているかを調べ(ステップS108)、計測されていない場合は、ステップS105に戻る、前回送信した記憶領域と違う方の記憶領域の値を送信し、新たな計測パルス数が計測されている場合(すなわち、系統周波数が次のサイクルに移っている場合)は、ステップS100に戻って新たな計測値を送信する処理を行う。
【0021】
なお、本実施例における伝送ネットワーク6は、1パケットで14ビットのデータを送信可能であって、伝送速度が9600bpsのCDT方式を採用しているため、約9.16ミリ秒に1回の割合でパケットが送信される。そのため、46〜54Hzの系統周波数(1サイクルが18.52〜21.74ミリ秒になる)に対しては、図4に示すように、1サイクルの間に2回、若しくは、3回のパケットを送信することができる。よって、上述のように、計測パルス数を2個のパケットに分割して送信するように構成しても、分割された両方の情報を送信することができる。
【0022】
一方、以上のようにして送信された送信データを受信した受信装置4の受信機能部10はその情報(分割された差分のパルス数)を受信処理部11に渡す。受信処理部11は、図5に示すように、受信機能部10から送信データDnを受信すると(ステップS200)、前回の処理で受信した送信データDn-1と今回の処理で受信した送信データDnとを加算して差分のパルス数X′を復元する。そして、この復元された差分のパルス数X′を給電システム5に渡す(ステップS202)。最後に、今回、受信機能部10から渡された送信データDnを前の処理の送信データDn-1として保存し、ステップS200に戻り、上述の処理を繰り返す。
【0023】
このように、受信処理部11は、収集装置3において、系統周波数の1サイクルに対して送信データが2回送信されたか3回送信されたかに拘わらず、今回受信した送信データと前回受信した送信データとを合計してパルス数X′を復元するように構成されている。すなわち、図6に示すように、収集装置3からは伝送ネットワーク6の送信タイミング毎に分割された差分のパルス数を送信しているが、受信装置4では、伝送ネットワーク6の送信タイミング毎に復元された差分のパルス数X′を給電システム5に渡すように構成されている。そのため、この伝送ネットワーク6で保証される伝送遅延時間以内に測定した系統周波数を給電システム5に渡すことができるとともに、系統周波数のあるサイクルから次のサイクルへ変化するときは、復元された差分のパルス数X′がこの変化の差を補間する値として、給電システム5に対して系統周波数の測定値として渡すことができる(例えば図6において、系統周波数が2番目のサイクルから3番目のサイクルに変化するとき)。
【0024】
以上説明したように、本実施例においては、差分のパルス数Xを2分割して2個のパケットとして送信し、かつ、差分のパルス数Xが奇数のときは、いずれか一方を切り捨てし、他方を切り上げて送信しているが、その精度について図7を用いて説明する。
【0025】
図7(a)は差分のパルス数Xを1/2にして端数がある場合は切り捨てることにより、1パケットで測定した周波数(パルス数)を送信した場合を示している。この場合、差分のパルス数Xが奇数の場合は、受信装置4において復元された差分パルスの相当値が1ビットすれるため、0.0001Hzのオーダーの値に誤差が入り、結果として、本システムで要求されている0.001Hzのオーダーの値に誤差が含まれることになる(測定値は53.001Hzであるところ、受信した値は53.002Hzとなってしまう)。一方、図7(b)に示すように、本実施例のようにした場合、分割されたパルス数(A,B)から復元される差分パルスの相当値は測定された値と同一になるため、誤差が含まれることはない。
【0026】
また、本実施例においては、計測した系統周波数をサンプリングしたパルス数として給電システム5に伝送しているため、給電システム5は、このパルス数をカウントすることにより、この系統周波数の測定値の実時間も算出することができる(もちろん、伝送ネットワーク6における伝送遅延時間を考慮することが必要である)。
【0027】
以上説明した本発明の実施形態において、達成される主要な効果を整理すれば、次のようになる。第1に、収集装置3では、系統周波数の測定値(パルス数)を測定範囲の最小値からの差分として送信することにより送信するデータのビット数を減らすとともに、さらに2分割することにより、従来の伝送ネットワークの1パケットで送信できるデータ長よりも大きいデータ長の測定データ(系統周波数の測定値)を従来の伝送ネットワークを用いて、所望の精度(0.001Hz)で送信することができる。
【0028】
第2に、受信装置4では、このように分割して送信された差分パルスのうち、連続する2個の差分パルス(今回の処理で受信した差分パルスと前回の処理で受信差分パルスと)を合計することにより測定された系統周波数のパルス数を復元するように構成されているため、簡単な処理で系統周波数のパルス数を復元して給電システム5に渡すことができるとともに、この伝送ネットワーク6で保証される伝送遅延時間内で伝送することができる。
【0029】
第3に、収集装置3において、差分パルス数を分割する際に、2個の記憶領域A,Bを用意し、一方に差分パルスを1/2した切り捨て値を記憶し、他方に切り上げ値を記憶し、さらに、この2個の記憶領域A,Bの値を交互に送信するように構成しているため、受信装置4で、この2個の記憶領域A,Bの値を復元したときは正確な値を復元でき、かつ、系統周波数のサイクルが変化するときは、復元された差分のパルス数がこの変化の差を補間する値となるため、伝送される誤差を極力小さくすることができる。
【0030】
なお、以上の実施例においては、1回のパケットで14ビットのデータを伝送することができる伝送ネットワーク6に対して、15ビットの大きさを有する差分パルス数(但し、パルス数が215−1の場合を除く)を伝送する場合について説明したが、本発明がこのビット数に限定されることはなく、同様の方法により、1回のパケットでY−1ビットのデータを伝送することができる伝送ネットワークを用いて、Yビットのデータ(但し、2Y−1を除く)を伝送することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明に係る伝送システムの構成を示すブロック図である。
【図2】系統周波数の測定方法を説明するための説明図であり、(a)は、系統電圧を矩形波に整形する方法の説明図であり、(b)は、この矩形波をサンプリングする方法の説明図である。
【図3】収集装置における送信処理部の処理を示すフローチャートである。
【図4】系統周波数と送信タイミングを説明するための説明図であり、(a)は、系統周波数の1サイクルに対して3回送信した場合を示し、(b)は、2回送信した場合を示す。
【図5】受信装置における受信処理部の処理を示すフローチャートである。
【図6】測定された差分パルスと伝送された復元パルスの関係を説明する説明図である。
【図7】測定パルスの分割方法による伝送誤差の違いを説明するための説明図であって、(a)は、1/2したデータの端数を切り捨てて1パケットで送信した場合であり、(b)は、本発明に係る方法で送信した場合である。
【符号の説明】
【0032】
1 伝送システム
6 伝送ネットワーク
7 周波数計測部(周波数計測手段)
8 送信処理部(送信処理手段)
11 受信処理部(受信処理手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1回のパケットでY−1ビットのデータを伝送可能な伝送ネットワークを用いて、Yビットのデータ(2Y−1を除く)を伝送する伝送システムであって、
2個の記憶領域を有し、前記Yビットのデータを1/2して端数を切り捨てた値を一方の記憶領域に記憶し、前記Yビットのデータを1/2して端数を切り上げた値を他方の記憶領域に記憶し、前記2個の記憶領域に記憶された分割情報を少なくとも1回ずつ交互に前記伝送ネットワークに送信する送信処理手段と、
前記送信処理手段から送信された前記分割情報を前記伝送ネットワークから受信し、今回受信した前記分割情報と前回受信した前記分割情報とを加算して前記Yビットのデータを復元する受信処理手段と、から構成されることを特徴とする伝送システム。
【請求項2】
伝送ネットワークを介して、所定の箇所で測定された系統周波数を給電システムに伝送する伝送システムであって、
前記所定の箇所の系統周波数を1サイクル毎にサンプリングしてパルス数に変換する周波数計測手段と、
2個の記憶領域を有し、前記系統周波数の最低周波数に対応するパルス数および前記周波数計測手段で計測されたパルス数の差分パルス数を1/2して端数を切り捨てた値を一方の記憶領域に記憶し、前記差分パルス数を1/2して端数を切り上げた値を他方の記憶領域に記憶し、前記系統周波数の1サイクルの間に前記2個の記憶領域に記憶された前記1/2された差分パルス数を少なくとも1回ずつ交互に前記伝送ネットワークに送信する送信処理手段と、
前記送信処理手段から送信された前記1/2された差分パルス数を前記伝送ネットワークから受信し、今回受信した前記1/2された差分パルス数と前回受信した前記1/2された差分パルス数とを加算して前記差分パルス数を復元して前記給電システムに渡す受信処理手段と、から構成されることを特徴とする伝送システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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