伝送線路接続構造、高周波モジュールおよび通信装置
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、マイクロ波帯やミリ波帯等の高周波帯域における伝送線路同士の接続構造、その伝送線路接続構造を備えた高周波モジュールおよびそれを用いた通信装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】ディスクリート部品で高周波モジュールを構成する場合に、通常各部品間において伝送線路の接続を行う必要があるが、従来、マイクロストリップライン同士の接続やスロットライン同士の接続は、ワイヤボンディングやリボンボンディング等によって行われていた。
【0003】図11は従来のマイクロストリップライン同士の接続構造を示している。(A)は斜視図、(B)は上面図である。ここで誘電体基板1a,1bの上面に、導電体パターンによるストリップ5a,5bを形成し、下面に接地電極を形成することによってマイクロストリップラインを構成している。この2つのマイクロストリップラインを構成する誘電体基板の端面同士を対向させて、ストリップ5a,5b同士をワイヤ15でボンディングすることにより、マイクロストリップライン同士を接続している。
【0004】また図12はスロットライン同士の接続構造を示している。(A)は斜視図、(B)は上面図であり、誘電体基板1a,1bの上面にスロット3a,3bを有する電極2a,2bを形成することによってスロットラインを構成している。このスロットラインを構成した2つの誘電体基板1a,1bの端面同士を対向させて、電極間をワイヤ12で接続している。
【0005】図13は図12に示した伝送線路接続構造において、ワイヤの接続位置を2通りに変えたときの反射損失の特性について示している。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】このようにワイヤボンディングやリボンボンディングによって伝送線路同士を接続するようにした構造では、ワイヤやリボンの接続により生じる寄生成分の影響を大きく受ける。たとえば伝送線路のインピーダンスが接続部で不整合となったり、伝送モードの電磁界分布を乱す。その結果、接続部の電気的特性が悪くなり、図13に示したように反射損失が大きくなってしまう。特にミリ波帯等の高周波帯域では、伝送線路の接続部での特性劣化が顕著となり、モジュールや、それを用いた通信装置全体の性能を劣化させる要因となっていた。
【0007】また、ワイヤボンディングやリボンボンディングによって伝送線路を接続する構造は、環境変化等により接続部にストレスがかかり、ワイヤやリボンの断線および接続特性が変化して、信頼性を低下させる要因となり得る。
【0008】さらに、ワイヤボンディングやリボンボンディングによる接続構造では、伝送線路同士の接続状態が固定されるため、一度接続すると、その伝送線路を備えた部品を切り離すことはできず、部品単位での調整や交換ができないという問題があった。
【0009】この発明の目的は、伝送線路間の接続部における特性の劣化を防止し、また環境変化等によるボンディング部分の信頼性の低下や接続特性の変化等の問題を解消し、さらに伝送線路同士の接続状態と切離し状態とを反復できるようにした伝送線路接続構造、その伝送線路接続構造を備えた高周波モジュールおよびそれを用いた通信装置を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】この発明は、それぞれ所定の構造体を備えた伝送線路同士の接続構造であって、それぞれの構造体の端部で且つ伝送線路の端部に当該伝送線路に結合する共振器を配置し、接続すべき伝送線路の構造体の端部同士を近接させて前記共振器同士を電磁結合させる。この構造により、ワイヤやリボンを用いて2つの伝送線路の導体同士を接続する必要をなくし、ワイヤやリボンによる寄生成分の影響を受けずに伝送線路同士の接続を行えるようにする。また、それぞれの伝送線路端部の共振器同士が近接するように、伝送線路同士を配置する構造とすることにより、伝送線路同士の接続/解除を反復可能とする。
【0011】上記伝送線路としては、誘電体基板にスロットパターンを有する電極を形成した、たとえばスロットライン、フィンライン、または誘電体基板の両面にスロットパターンを対向させて配置した平面誘電体線路(以下PDTLと言う。)等とする。
【0012】また、上記伝送線路としては、誘電体基板にストリップ状の電極を形成した、たとえばストリップライン、マイクロストリップライン、コプレーナガイドまたはサスペンデッドライン等とする。
【0013】さらに、上記伝送線路としては、2つの略平行な導電体平面の間に誘電体ストリップを配置した誘電体線路とする。
【0014】接続すべき2つの伝送線路は上記のいずれの構造であってもよいが、異種の伝送線路を接続するようにしてもよい。たとえばスロットラインとマイクロストリップラインを接続するようにしてもよい。
【0015】また、この発明は上記の伝送線路接続構造を、構成要素の部品間で伝送線路を接続する部分に適用して、高周波モジュールを構成する。
【0016】さらに、この発明は、上記高周波モジュールを用いて、たとえば移動体通信機やミリ波レーダ装置等の通信装置を構成する。
【0017】
【発明の実施の形態】第1の実施形態に係る伝送線路接続構造を図1を参照して説明する。図1の(A)は主要部の斜視図、(B)はその上面図である。ここで1a,1bはそれぞれ誘電体基板であり、それぞれの上面にスロットパターン3a,3bを有する電極2a,2bを形成している。このスロットパターン3a,3bを有する電極2a,2bと誘電体基板1a,1bとによってそれぞれスロットラインを構成している。
【0018】誘電体基板1a,1bのそれぞれが対向する端部で且つスロットラインの端部にスロットを円形に広げた領域を形成して、そこをHE110モードの共振器4a,4bとして構成している。この2つの共振器4a,4bが近接することによって、両者は直接電磁結合する。スロット線路とその端部の共振器とは直接結合するので、結局2つのスロットラインは共振器同士の結合を介して接続されることになる。この時、誘電体基板1aと1bの端面同士は当接していても良いし、ある間隙を保って離間していてもよい。いずれの場合でも、この2つの伝送線路の接続時には、誘電体基板の端面同士を所定の相対位置関係に配置すればよく、切り離すには、両者を単に引き離すだけでよい。
【0019】図2は第2の実施形態に係る伝送線路接続構造を示す斜視図および上面図である。図1に示したものと異なり、共振器パターン4a,4bを全体に矩形のパターンとして、図1に示した円形のパターンとは異なった共振モードで共振させるようにしている。共振器パターン4a,4bとスロットパターン3a,3bとの境界部分は、スロット幅が段階的に広がるようにして、共振器と線路との結合量の最適化を図っている。このように矩形の共振器パターンとすることによって、共振器同士の対向面積を増して結合度をより高めることができる。
【0020】図3は、図2に示した伝送線路接続構造において、図2の(B)に示した各部の寸法を次のように定めた時の接続部の周波数特性を示している。
【0021】
Wr=1.5mmLr=0.75mmWq=0.5mmLq=0.4mmgap=0.1mmここで、設計周波数は28.2GHzであり、2つの共振器の共振周波数を28.2GHzとなるように定めている。この実施形態によれば、反射損失RLが−20dBより小さくなる帯域が26GHz〜30.7GHzとなり、その帯域幅は(30.7−26)/28.2=0.166となり、比帯域幅が約17%の広帯域にわたって低損失特性が得られる。
【0022】このように、伝送線路の構造体の端部に共振器を配置し、2つの伝送線路を接続する際に、共振器同士が近接して直接結合するようにしたため、共振器同士が強く結合して、広帯域にわたって低挿入損失特性が得られる。
【0023】なお、図1および図2に示した例では、誘電体基板の図における上面にのみ電極2a,2bを形成してスロットラインおよび共振器を構成したが、誘電体基板の下面にも、上面のスロットパターンおよび共振器パターンと同様のパターンを対向配置して、伝送線路部分をPDTLにした場合にも同様に適用できる。
【0024】また、誘電体基板の下面のほぼ全面に接地電極を形成して、グラウンデッドスロット線路を構成してもよい。
【0025】また、スロットパターンの電極を形成した基板を導波管の内部に配置して成るフィンラインにも、図1および図2に示した構成を同様に適用できる。すなわち、図1または図2に示した電極パターンを形成した2つの誘電体基板を、各々の導波管の内部に配置してフィンラインを構成し、2つのフィンラインの開口面同士を対向させた状態で、共振器同士が近接するように構成すればよい。
【0026】次に、第3の実施形態に係る伝送線路接続構造を図4を参照して説明する。図4の(A)は主要部の斜視図、(B)はその上面図である。図4において、1a,1bはそれぞれ誘電体基板であり、図1に示した例と異なり、ここでは、誘電体基板1a,1bの上面に電極によるストリップパターン5a,5bを形成し、下面に接地電極を形成することによってマイクロストリップラインを構成している。また、ストリップパターン5a,5bの端部は、電極を円形にして共振器パターン6a,6bを設けている。この共振器パターン6a,6bと下面の接地電極および誘電体基板とによってTM110モードの共振器を構成している。2つのマイクロストリップラインとそれらの端部の共振器とは直接結合し、共振器同士も電磁結合するため、結局、2つのマイクロストリップラインは途中に共振器同士の結合を介して接続されることになる。
【0027】図5は、第4の実施形態に係る伝送線路接続構造を示す斜視図および上面図である。図4に示したものと異なり、共振器パターン6a,6bを矩形に形成している。これにより共振器同士の対向面積を増大させて両者の結合度をより増している。
【0028】なお、図4および図5に示した例では、誘電体基板の上面にストリップパターンを形成し、下面に接地電極を設けてマイクロストリップラインを構成したが、誘電体層の内部にストリップパターンを設け、その上下面に接地電極を設けてストリップラインを構成したものにも上記の構成が同様に適用できる。すなわち、上面に接地電極を形成した他の誘電体基板を、図4および図5に示した誘電体基板1a,1bの上面に積層した構造を採ればよい。
【0029】また、一方の面にのみストリップパターンを形成した誘電体基板を平行導体平面の間に配置してサスペンデッドラインを構成したものにも同様に適用できる。すなわち、図4および図5に示した誘電体基板の上下に所定間隔を隔てて接地導体板を配置した構造を採ればよい。
【0030】また、誘電体基板の一方の面に電極パターンを形成してコプレーナガイドを構成したものにも上記の構成が同様に適用できる。すなわち、誘電体基板の上面に接地電極とその接地電極の端縁に所定間隔を保ってストリップパターンを形成し、そのストリップパターンの端部に図4または図5に示したものと同様の共振器を構成すればよい。
【0031】さらに、上記コプレーナガイドの構成で、誘電体基板の下面に接地電極を形成してグラウンデッドコプレーナガイドを構成してもよい。
【0032】次に、第5の実施形態に係る伝送線路接続構造を図6を参照して説明する。(A)は、上部の導体板を分離した状態での主要部の斜視図、(B)は上部の導体板を取り除いた状態での上面図である。図6において8a,8bはそれぞれ下部の導体板、7a,7bはそれぞれ上部の導体板であり、この上下の導体板の間に9a,9bで示す誘電体ストリップを配置する。この上下の導体板による平行導体平面と、その間に配置される誘電体ストリップとによって誘電体線路を構成している。
【0033】誘電体ストリップ9a,9bの端部は円柱形状に成形していて、この部分と上下の導体板とによって誘電体共振器を構成している。この2つの誘電体共振器は、導体板の端部で且つ誘電体線路の端部に配置し、誘電体共振器同士が近接するように2つの誘電体線路を配置することにより、2つの共振器同士が電磁結合する。これらの共振器とそれにつながる誘電体線路とは直接結合するので、結局2つの誘電体線路は、間に2つの共振器を介して接続されることになる。
【0034】図7は第6の実施形態に係る伝送線路接続構造を示す斜視図および上面図である。図6に示したものとは異なり、この例では、誘電体ストリップの端部を角柱状に成形して誘電体共振器を構成している。このような形状に応じて、図6の場合とは異なったモードで誘電体共振器が共振し、両者が電磁結合する。これらの共振器とそれにつながる誘電体線路とは直接結合するので、結局2つの誘電体線路は、間に2つの共振器を介して接続されることになる。
【0035】図6および図7に示した例では、誘電体ストリップ部分の上下の導体板の間隔と誘電体ストリップの両側部(空間部)の導体板の間隔を等しくして、いわゆるノーマルNRDガイドを構成したが、誘電体ストリップ部分(伝搬域)の導体板の間隔より遮断域(非伝搬域)の導体板の間隔を狭めて、LSM01モードの単一モードを伝送するようにした、いわゆるハイパーNRDガイドを構成してもよい。その際に、誘電体共振器の周辺については導体板の間隔を広げて、誘電体共振器の電磁界の閉じ込め性を弱くし、近接する誘電体共振器同士の結合度を増すようにしてもよい。
【0036】次に、第7の実施形態に係る伝送線路接続構造を図8を参照して説明する。(A)は主要部の斜視図、(B)はその上面図である。ここで一方の誘電体基板1aの上面にはストリップパターン5aと共振器パターン6aを形成し、下面に接地電極を形成している。他方の誘電体基板1bの上面にはスロットパターン3bおよび共振器パターン4bを有する電極2bを形成している。そして、共振器パターン6aによる共振器と共振器パターン4bによる共振器同士を近接させている。この構造により、異種の共振器同士が電磁結合する。したがって、異種の伝送線路であるマイクロストリップラインとスロットラインとが接続されることになる。
【0037】この図8に示した異種伝送線路の組合せ以外にも、マイクロストリップライン、スロットライン、コプレーナガイド、PDTL、フィンライン、サスペンデッドライン、誘電体線路等の伝送線路のうち、異種の伝送線路の組合せで共振器同士を結合させれば、その異種の伝送線路を接続することができる。
【0038】次に、第8の実施形態に係る高周波モジュールの構成例を図9を参照して説明する。図9においてANTは送受信アンテナ、DPXはデュプレクサ、BPFa,BPFbはそれぞれ帯域通過フィルタ、AMPa,AMPbはそれぞれ増幅回路、MIXa,MIXbはそれぞれミキサ、OSCはオシレータ、SYNは周波数シンセサイザである。
【0039】MIXaは中間周波信号IFと、SYNから出力された信号とを混合し、BPFaはMIXaからの混合出力信号のうち送信周波数帯域のみを通過させ、AMPaはこれを電力増幅してDPXを介しANTより送信する。AMPbはDPXから出力される受信信号を増幅し、BPFbはその信号のうち受信周波数帯域のみを通過させる。MIXbは、SYNから出力された周波数信号と受信信号とをミキシングして中間周波信号IFを出力する。
【0040】ここで各部の伝送線路同士の接続部に、上記のいずれかの構造の伝送線路接続構造を適用する。これにより、部品単位での調整や部品の取替えが容易となり、高周波モジュールの生産性が向上する。
【0041】図10は第9の実施形態に係る通信装置の構成を示すブロック図である。ここで高周波モジュールには図9に示した構造の回路を用い、信号処理回路としては高周波モジュールを用いて信号の送受信および送信信号と受信信号の信号処理を行う回路を設ける。この全体の構成によって、マイクロ波帯またはミリ波帯におけるアナログ信号またはディジタルデータの無線通信を行う。
【0042】なお、このような通信装置は、1対1または1対多数の通信装置の間で無線通信を行うものに限らず、たとえばミリ波レーダのように、通信装置単独で用いる装置にも当然に適用可能である。
【0043】
【発明の効果】この発明によれば、ワイヤやリボンを用いて2つの伝送線路の導体同士を接続する必要がなく、ワイヤやリボンによる寄生成分の影響を受けずに伝送線路同士の接続を行えるようになる。また、それぞれの伝送線路端部の共振器同士が近接するように、伝送線路同士を配置する構造とすることにより、伝送線路同士の接続/解除の反復が可能となる。しかも、伝送線路の構造体の端部に共振器を配置し、2つの伝送線路を接続する際に、共振器同士が近接して直接結合するため、共振器同士が強く結合して、広帯域にわたって低挿入損失特性が得られる。
【0044】また、伝送モードの異なった異種の伝送線路を接続することによって、線路の接続と同時に線路変換をも行えるようになる。
【0045】また、この発明の伝送線路接続構造を、構成要素の部品間で伝送線路を接続する部分に適用して、高周波モジュールを構成することによって、部品単位での調整や交換が可能となり、所定の機能を有する高周波モジュールが容易に得られる。
【0046】さらに、上記高周波モジュールを用いて、たとえば移動体通信機やミリ波レーダ装置等の通信装置を構成することにより、伝送線路間の接続状態の信頼性の高い装置が得られ、また装置全体の生産性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【図1】第1の実施形態に係る伝送線路接続構造の構成を示す図
【図2】第2の実施形態に係る伝送線路接続構造の構成を示す図
【図3】同伝送線路接続構造における周波数特性を示す図
【図4】第3の実施形態に係る伝送線路接続構造の構成を示す図
【図5】第4の実施形態に係る伝送線路接続構造の構成を示す図
【図6】第5の実施形態に係る伝送線路接続構造の構成を示す図
【図7】第6の実施形態に係る伝送線路接続構造の構成を示す図
【図8】第7の実施形態に係る伝送線路接続構造の構成を示す図
【図9】第8の実施形態に係る高周波モジュールの構成例を示すブロック図
【図10】第9の実施形態に係る通信装置の構成例を示すブロック図
【図11】従来の伝送線路接続構造の構成を示す図
【図12】従来の他の伝送線路接続構造の構成を示す図
【図13】同伝送線路接続構造の周波数特性を示す図
【符号の説明】
1−誘電体基板
2−電極
3−スロットパターン
4−共振器パターン
5−ストリップパターン
6−共振器パターン
7,8−導体板
9−誘電体ストリップ
10−共振器
12,15−ワイヤ
【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、マイクロ波帯やミリ波帯等の高周波帯域における伝送線路同士の接続構造、その伝送線路接続構造を備えた高周波モジュールおよびそれを用いた通信装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】ディスクリート部品で高周波モジュールを構成する場合に、通常各部品間において伝送線路の接続を行う必要があるが、従来、マイクロストリップライン同士の接続やスロットライン同士の接続は、ワイヤボンディングやリボンボンディング等によって行われていた。
【0003】図11は従来のマイクロストリップライン同士の接続構造を示している。(A)は斜視図、(B)は上面図である。ここで誘電体基板1a,1bの上面に、導電体パターンによるストリップ5a,5bを形成し、下面に接地電極を形成することによってマイクロストリップラインを構成している。この2つのマイクロストリップラインを構成する誘電体基板の端面同士を対向させて、ストリップ5a,5b同士をワイヤ15でボンディングすることにより、マイクロストリップライン同士を接続している。
【0004】また図12はスロットライン同士の接続構造を示している。(A)は斜視図、(B)は上面図であり、誘電体基板1a,1bの上面にスロット3a,3bを有する電極2a,2bを形成することによってスロットラインを構成している。このスロットラインを構成した2つの誘電体基板1a,1bの端面同士を対向させて、電極間をワイヤ12で接続している。
【0005】図13は図12に示した伝送線路接続構造において、ワイヤの接続位置を2通りに変えたときの反射損失の特性について示している。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】このようにワイヤボンディングやリボンボンディングによって伝送線路同士を接続するようにした構造では、ワイヤやリボンの接続により生じる寄生成分の影響を大きく受ける。たとえば伝送線路のインピーダンスが接続部で不整合となったり、伝送モードの電磁界分布を乱す。その結果、接続部の電気的特性が悪くなり、図13に示したように反射損失が大きくなってしまう。特にミリ波帯等の高周波帯域では、伝送線路の接続部での特性劣化が顕著となり、モジュールや、それを用いた通信装置全体の性能を劣化させる要因となっていた。
【0007】また、ワイヤボンディングやリボンボンディングによって伝送線路を接続する構造は、環境変化等により接続部にストレスがかかり、ワイヤやリボンの断線および接続特性が変化して、信頼性を低下させる要因となり得る。
【0008】さらに、ワイヤボンディングやリボンボンディングによる接続構造では、伝送線路同士の接続状態が固定されるため、一度接続すると、その伝送線路を備えた部品を切り離すことはできず、部品単位での調整や交換ができないという問題があった。
【0009】この発明の目的は、伝送線路間の接続部における特性の劣化を防止し、また環境変化等によるボンディング部分の信頼性の低下や接続特性の変化等の問題を解消し、さらに伝送線路同士の接続状態と切離し状態とを反復できるようにした伝送線路接続構造、その伝送線路接続構造を備えた高周波モジュールおよびそれを用いた通信装置を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】この発明は、それぞれ所定の構造体を備えた伝送線路同士の接続構造であって、それぞれの構造体の端部で且つ伝送線路の端部に当該伝送線路に結合する共振器を配置し、接続すべき伝送線路の構造体の端部同士を近接させて前記共振器同士を電磁結合させる。この構造により、ワイヤやリボンを用いて2つの伝送線路の導体同士を接続する必要をなくし、ワイヤやリボンによる寄生成分の影響を受けずに伝送線路同士の接続を行えるようにする。また、それぞれの伝送線路端部の共振器同士が近接するように、伝送線路同士を配置する構造とすることにより、伝送線路同士の接続/解除を反復可能とする。
【0011】上記伝送線路としては、誘電体基板にスロットパターンを有する電極を形成した、たとえばスロットライン、フィンライン、または誘電体基板の両面にスロットパターンを対向させて配置した平面誘電体線路(以下PDTLと言う。)等とする。
【0012】また、上記伝送線路としては、誘電体基板にストリップ状の電極を形成した、たとえばストリップライン、マイクロストリップライン、コプレーナガイドまたはサスペンデッドライン等とする。
【0013】さらに、上記伝送線路としては、2つの略平行な導電体平面の間に誘電体ストリップを配置した誘電体線路とする。
【0014】接続すべき2つの伝送線路は上記のいずれの構造であってもよいが、異種の伝送線路を接続するようにしてもよい。たとえばスロットラインとマイクロストリップラインを接続するようにしてもよい。
【0015】また、この発明は上記の伝送線路接続構造を、構成要素の部品間で伝送線路を接続する部分に適用して、高周波モジュールを構成する。
【0016】さらに、この発明は、上記高周波モジュールを用いて、たとえば移動体通信機やミリ波レーダ装置等の通信装置を構成する。
【0017】
【発明の実施の形態】第1の実施形態に係る伝送線路接続構造を図1を参照して説明する。図1の(A)は主要部の斜視図、(B)はその上面図である。ここで1a,1bはそれぞれ誘電体基板であり、それぞれの上面にスロットパターン3a,3bを有する電極2a,2bを形成している。このスロットパターン3a,3bを有する電極2a,2bと誘電体基板1a,1bとによってそれぞれスロットラインを構成している。
【0018】誘電体基板1a,1bのそれぞれが対向する端部で且つスロットラインの端部にスロットを円形に広げた領域を形成して、そこをHE110モードの共振器4a,4bとして構成している。この2つの共振器4a,4bが近接することによって、両者は直接電磁結合する。スロット線路とその端部の共振器とは直接結合するので、結局2つのスロットラインは共振器同士の結合を介して接続されることになる。この時、誘電体基板1aと1bの端面同士は当接していても良いし、ある間隙を保って離間していてもよい。いずれの場合でも、この2つの伝送線路の接続時には、誘電体基板の端面同士を所定の相対位置関係に配置すればよく、切り離すには、両者を単に引き離すだけでよい。
【0019】図2は第2の実施形態に係る伝送線路接続構造を示す斜視図および上面図である。図1に示したものと異なり、共振器パターン4a,4bを全体に矩形のパターンとして、図1に示した円形のパターンとは異なった共振モードで共振させるようにしている。共振器パターン4a,4bとスロットパターン3a,3bとの境界部分は、スロット幅が段階的に広がるようにして、共振器と線路との結合量の最適化を図っている。このように矩形の共振器パターンとすることによって、共振器同士の対向面積を増して結合度をより高めることができる。
【0020】図3は、図2に示した伝送線路接続構造において、図2の(B)に示した各部の寸法を次のように定めた時の接続部の周波数特性を示している。
【0021】
Wr=1.5mmLr=0.75mmWq=0.5mmLq=0.4mmgap=0.1mmここで、設計周波数は28.2GHzであり、2つの共振器の共振周波数を28.2GHzとなるように定めている。この実施形態によれば、反射損失RLが−20dBより小さくなる帯域が26GHz〜30.7GHzとなり、その帯域幅は(30.7−26)/28.2=0.166となり、比帯域幅が約17%の広帯域にわたって低損失特性が得られる。
【0022】このように、伝送線路の構造体の端部に共振器を配置し、2つの伝送線路を接続する際に、共振器同士が近接して直接結合するようにしたため、共振器同士が強く結合して、広帯域にわたって低挿入損失特性が得られる。
【0023】なお、図1および図2に示した例では、誘電体基板の図における上面にのみ電極2a,2bを形成してスロットラインおよび共振器を構成したが、誘電体基板の下面にも、上面のスロットパターンおよび共振器パターンと同様のパターンを対向配置して、伝送線路部分をPDTLにした場合にも同様に適用できる。
【0024】また、誘電体基板の下面のほぼ全面に接地電極を形成して、グラウンデッドスロット線路を構成してもよい。
【0025】また、スロットパターンの電極を形成した基板を導波管の内部に配置して成るフィンラインにも、図1および図2に示した構成を同様に適用できる。すなわち、図1または図2に示した電極パターンを形成した2つの誘電体基板を、各々の導波管の内部に配置してフィンラインを構成し、2つのフィンラインの開口面同士を対向させた状態で、共振器同士が近接するように構成すればよい。
【0026】次に、第3の実施形態に係る伝送線路接続構造を図4を参照して説明する。図4の(A)は主要部の斜視図、(B)はその上面図である。図4において、1a,1bはそれぞれ誘電体基板であり、図1に示した例と異なり、ここでは、誘電体基板1a,1bの上面に電極によるストリップパターン5a,5bを形成し、下面に接地電極を形成することによってマイクロストリップラインを構成している。また、ストリップパターン5a,5bの端部は、電極を円形にして共振器パターン6a,6bを設けている。この共振器パターン6a,6bと下面の接地電極および誘電体基板とによってTM110モードの共振器を構成している。2つのマイクロストリップラインとそれらの端部の共振器とは直接結合し、共振器同士も電磁結合するため、結局、2つのマイクロストリップラインは途中に共振器同士の結合を介して接続されることになる。
【0027】図5は、第4の実施形態に係る伝送線路接続構造を示す斜視図および上面図である。図4に示したものと異なり、共振器パターン6a,6bを矩形に形成している。これにより共振器同士の対向面積を増大させて両者の結合度をより増している。
【0028】なお、図4および図5に示した例では、誘電体基板の上面にストリップパターンを形成し、下面に接地電極を設けてマイクロストリップラインを構成したが、誘電体層の内部にストリップパターンを設け、その上下面に接地電極を設けてストリップラインを構成したものにも上記の構成が同様に適用できる。すなわち、上面に接地電極を形成した他の誘電体基板を、図4および図5に示した誘電体基板1a,1bの上面に積層した構造を採ればよい。
【0029】また、一方の面にのみストリップパターンを形成した誘電体基板を平行導体平面の間に配置してサスペンデッドラインを構成したものにも同様に適用できる。すなわち、図4および図5に示した誘電体基板の上下に所定間隔を隔てて接地導体板を配置した構造を採ればよい。
【0030】また、誘電体基板の一方の面に電極パターンを形成してコプレーナガイドを構成したものにも上記の構成が同様に適用できる。すなわち、誘電体基板の上面に接地電極とその接地電極の端縁に所定間隔を保ってストリップパターンを形成し、そのストリップパターンの端部に図4または図5に示したものと同様の共振器を構成すればよい。
【0031】さらに、上記コプレーナガイドの構成で、誘電体基板の下面に接地電極を形成してグラウンデッドコプレーナガイドを構成してもよい。
【0032】次に、第5の実施形態に係る伝送線路接続構造を図6を参照して説明する。(A)は、上部の導体板を分離した状態での主要部の斜視図、(B)は上部の導体板を取り除いた状態での上面図である。図6において8a,8bはそれぞれ下部の導体板、7a,7bはそれぞれ上部の導体板であり、この上下の導体板の間に9a,9bで示す誘電体ストリップを配置する。この上下の導体板による平行導体平面と、その間に配置される誘電体ストリップとによって誘電体線路を構成している。
【0033】誘電体ストリップ9a,9bの端部は円柱形状に成形していて、この部分と上下の導体板とによって誘電体共振器を構成している。この2つの誘電体共振器は、導体板の端部で且つ誘電体線路の端部に配置し、誘電体共振器同士が近接するように2つの誘電体線路を配置することにより、2つの共振器同士が電磁結合する。これらの共振器とそれにつながる誘電体線路とは直接結合するので、結局2つの誘電体線路は、間に2つの共振器を介して接続されることになる。
【0034】図7は第6の実施形態に係る伝送線路接続構造を示す斜視図および上面図である。図6に示したものとは異なり、この例では、誘電体ストリップの端部を角柱状に成形して誘電体共振器を構成している。このような形状に応じて、図6の場合とは異なったモードで誘電体共振器が共振し、両者が電磁結合する。これらの共振器とそれにつながる誘電体線路とは直接結合するので、結局2つの誘電体線路は、間に2つの共振器を介して接続されることになる。
【0035】図6および図7に示した例では、誘電体ストリップ部分の上下の導体板の間隔と誘電体ストリップの両側部(空間部)の導体板の間隔を等しくして、いわゆるノーマルNRDガイドを構成したが、誘電体ストリップ部分(伝搬域)の導体板の間隔より遮断域(非伝搬域)の導体板の間隔を狭めて、LSM01モードの単一モードを伝送するようにした、いわゆるハイパーNRDガイドを構成してもよい。その際に、誘電体共振器の周辺については導体板の間隔を広げて、誘電体共振器の電磁界の閉じ込め性を弱くし、近接する誘電体共振器同士の結合度を増すようにしてもよい。
【0036】次に、第7の実施形態に係る伝送線路接続構造を図8を参照して説明する。(A)は主要部の斜視図、(B)はその上面図である。ここで一方の誘電体基板1aの上面にはストリップパターン5aと共振器パターン6aを形成し、下面に接地電極を形成している。他方の誘電体基板1bの上面にはスロットパターン3bおよび共振器パターン4bを有する電極2bを形成している。そして、共振器パターン6aによる共振器と共振器パターン4bによる共振器同士を近接させている。この構造により、異種の共振器同士が電磁結合する。したがって、異種の伝送線路であるマイクロストリップラインとスロットラインとが接続されることになる。
【0037】この図8に示した異種伝送線路の組合せ以外にも、マイクロストリップライン、スロットライン、コプレーナガイド、PDTL、フィンライン、サスペンデッドライン、誘電体線路等の伝送線路のうち、異種の伝送線路の組合せで共振器同士を結合させれば、その異種の伝送線路を接続することができる。
【0038】次に、第8の実施形態に係る高周波モジュールの構成例を図9を参照して説明する。図9においてANTは送受信アンテナ、DPXはデュプレクサ、BPFa,BPFbはそれぞれ帯域通過フィルタ、AMPa,AMPbはそれぞれ増幅回路、MIXa,MIXbはそれぞれミキサ、OSCはオシレータ、SYNは周波数シンセサイザである。
【0039】MIXaは中間周波信号IFと、SYNから出力された信号とを混合し、BPFaはMIXaからの混合出力信号のうち送信周波数帯域のみを通過させ、AMPaはこれを電力増幅してDPXを介しANTより送信する。AMPbはDPXから出力される受信信号を増幅し、BPFbはその信号のうち受信周波数帯域のみを通過させる。MIXbは、SYNから出力された周波数信号と受信信号とをミキシングして中間周波信号IFを出力する。
【0040】ここで各部の伝送線路同士の接続部に、上記のいずれかの構造の伝送線路接続構造を適用する。これにより、部品単位での調整や部品の取替えが容易となり、高周波モジュールの生産性が向上する。
【0041】図10は第9の実施形態に係る通信装置の構成を示すブロック図である。ここで高周波モジュールには図9に示した構造の回路を用い、信号処理回路としては高周波モジュールを用いて信号の送受信および送信信号と受信信号の信号処理を行う回路を設ける。この全体の構成によって、マイクロ波帯またはミリ波帯におけるアナログ信号またはディジタルデータの無線通信を行う。
【0042】なお、このような通信装置は、1対1または1対多数の通信装置の間で無線通信を行うものに限らず、たとえばミリ波レーダのように、通信装置単独で用いる装置にも当然に適用可能である。
【0043】
【発明の効果】この発明によれば、ワイヤやリボンを用いて2つの伝送線路の導体同士を接続する必要がなく、ワイヤやリボンによる寄生成分の影響を受けずに伝送線路同士の接続を行えるようになる。また、それぞれの伝送線路端部の共振器同士が近接するように、伝送線路同士を配置する構造とすることにより、伝送線路同士の接続/解除の反復が可能となる。しかも、伝送線路の構造体の端部に共振器を配置し、2つの伝送線路を接続する際に、共振器同士が近接して直接結合するため、共振器同士が強く結合して、広帯域にわたって低挿入損失特性が得られる。
【0044】また、伝送モードの異なった異種の伝送線路を接続することによって、線路の接続と同時に線路変換をも行えるようになる。
【0045】また、この発明の伝送線路接続構造を、構成要素の部品間で伝送線路を接続する部分に適用して、高周波モジュールを構成することによって、部品単位での調整や交換が可能となり、所定の機能を有する高周波モジュールが容易に得られる。
【0046】さらに、上記高周波モジュールを用いて、たとえば移動体通信機やミリ波レーダ装置等の通信装置を構成することにより、伝送線路間の接続状態の信頼性の高い装置が得られ、また装置全体の生産性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【図1】第1の実施形態に係る伝送線路接続構造の構成を示す図
【図2】第2の実施形態に係る伝送線路接続構造の構成を示す図
【図3】同伝送線路接続構造における周波数特性を示す図
【図4】第3の実施形態に係る伝送線路接続構造の構成を示す図
【図5】第4の実施形態に係る伝送線路接続構造の構成を示す図
【図6】第5の実施形態に係る伝送線路接続構造の構成を示す図
【図7】第6の実施形態に係る伝送線路接続構造の構成を示す図
【図8】第7の実施形態に係る伝送線路接続構造の構成を示す図
【図9】第8の実施形態に係る高周波モジュールの構成例を示すブロック図
【図10】第9の実施形態に係る通信装置の構成例を示すブロック図
【図11】従来の伝送線路接続構造の構成を示す図
【図12】従来の他の伝送線路接続構造の構成を示す図
【図13】同伝送線路接続構造の周波数特性を示す図
【符号の説明】
1−誘電体基板
2−電極
3−スロットパターン
4−共振器パターン
5−ストリップパターン
6−共振器パターン
7,8−導体板
9−誘電体ストリップ
10−共振器
12,15−ワイヤ
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【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図9】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図9】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2001−308601(P2001−308601A)
【公開日】平成13年11月2日(2001.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−116209(P2000−116209)
【出願日】平成12年4月18日(2000.4.18)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成13年11月2日(2001.11.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成12年4月18日(2000.4.18)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】
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