伸縮状態検査用具
【課題】検査対象物の伸縮変形を検査するにあたり、目視によって簡易かつ短時間に検査を行う事ができ、検査対象物における伸縮変形の早期発見に資する技術を提供する。
【解決手段】検査対象物に貼付可能な粘着性を有する貼付面S1を有し、且つ検査対象物の伸縮変形に追従して変形可能な基材層テープ4と、基材層テープ4における貼付面と逆側の表面S2上に貼付された複数の上層分割片5a,5bと、互いに隣り合う上層分割片5a,5b同士の間に形成される隙間であって且つ検査対象物の伸縮変形に伴い上層分割片同士5a,5bの相対間隔が変化する事によってその幅が変化するスリット部6と、を備えた。
【解決手段】検査対象物に貼付可能な粘着性を有する貼付面S1を有し、且つ検査対象物の伸縮変形に追従して変形可能な基材層テープ4と、基材層テープ4における貼付面と逆側の表面S2上に貼付された複数の上層分割片5a,5bと、互いに隣り合う上層分割片5a,5b同士の間に形成される隙間であって且つ検査対象物の伸縮変形に伴い上層分割片同士5a,5bの相対間隔が変化する事によってその幅が変化するスリット部6と、を備えた。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伸縮状態検査用具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の電力ケーブルとして、単芯のCVケーブルや、単芯のCVケーブルを複数本撚りあわせた構造をもつもの(例えば、トリプレックス形CVケーブル(CVTケーブル)等が挙げられる。)が公知である。
【0003】
図9は、単芯ケーブルを3本撚りあわせた構造をもつトリプレックス形CVケーブル(CVTケーブル)の構造の一例を示した説明図であり、図9(a)は断面図、図9(b)は単芯の一部切欠内部構造図の例である。CVTケーブルの中心部には導体21が設けられ、導体21は内部半導体層22を介して絶縁体23で被覆されている。さらに、これらは押し出し半導電層24及び半導電性布テープ25からなる外部半導電層26で被覆されている。
【0004】
外部半導電層26には、金属遮蔽層としての遮蔽銅テープ27が斜め方向にラップしながら巻き付けられており、布テープ28、さらに、シース29で被覆されている。内部半導体層22や外部半導電層26は、絶縁体内部の電界分布を一様にして電界の局部集中による絶縁破壊を防止するものである。また、遮蔽銅テープ27は絶縁体に均一に電気力線を分布させるほか、故障電流の帰路となるものである。
【0005】
図10は、図9に示した電力ケーブル(CVTケーブル)の終端接続部を説明するための説明図である。図11は、図10において丸(破線)で囲まれた部分を拡大して模式的に示した図である。3本の電力ケーブル30a〜30c(包括的に電力ケーブル30と称する。)はそれぞれ端末装置31a〜31c(包括的に端末装置31と称する。)に終端接続部32a〜32c(包括的に終端接続部32と称する。)で接続される。電力ケーブル30a〜30cは端末装置31a〜31cを介して架空線や機器に接続されている。
【0006】
上記例示した電力ケーブル30の終端接続部32においては、シース29がずれ落ちる現象、いわゆるシュリンクバック現象が発生することがある。シュリンクバック現象は、電力ケーブルの製造時に内在するシース残留歪みの開放や、シ−スとケーブルコアとの熱挙動現象、シースに作用する重力等が主な原因と考えられている。シュリンクバック現象が発生すると、遮蔽銅テープ27や外部半導電層26にずれが発生したり、シース29の後退によって雨水侵入が発生することにより電力ケーブルの劣化が促進されたり、絶縁破壊によってケーブルが破壊に至るおそれがある。
【0007】
そこで、電力ケーブルの終端接続部32にシュリンクバックが発生しているか否かの点検、検査を行うための点検装置も提案されている。例えば、特許文献1には、電力ケーブルの外表面をケーブル長方向に沿って一定速度で移動させて電力ケーブルの金属遮蔽層(例えば、遮蔽銅テープ27)の存在状態により変化する電圧波形を測定する測定プローブと、この測定プローブで測定された電圧波形を出力する出力装置とを備えた電力ケーブル点検装置が開示されている。この点検装置によれば、電力ケーブルの終端接続部に発生した金属遮蔽層のずれや断裂を検出する事ができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−67679号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記従来型の電力ケーブル点検装置は、たしかに電力ケーブルの終端接続部に発生するシュリンクバック現象に伴う不具合を精度良く検出できる。しかしながら、測定プローブやその測定結果を出力する出力装置等は精密機器であり、その取り扱いにはある程度の技術的な知識が必要となる。従って、点検装置の取り扱いに精通する一部の限られた者が電力ケーブルの点検に従事する必要がある。また、実際に精密機器を使用して測定しないと電力ケーブルに発生した不具合を検出することができないため、シュリンクバック現象に伴う不具合の未然防止という観点からは改善の余地があると考えられる。
【0010】
本発明は、上記した問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、検査対象物の伸縮変形を検査するにあたり、目視によって簡易かつ短時間に検査を行う事ができ、検査対象物における伸縮変形の早期発見に資する技術を提供する事にある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、以下の構成を備えることで、上記課題を解決することとした。即ち、本発明は、検査対象物の伸縮状態を目視検査するための伸縮状態検査用具であって、前記検査対象物に貼付可能な粘着性を有する貼付面を有し、且つ該検査対象物の伸縮変形に追従して変形可能な基材層テープと、前記基材層テープにおける前記貼付面と逆側の表面上に貼付された複数の上層分割片と、互いに隣り合う前記上層分割片同士の間に形成される隙間であって且つ前記検査対象物の伸縮変形に伴い該上層分割片同士の相対間隔が変化する事によってその幅が変化するスリット部と、を備える伸縮状態検査用具である。
【0012】
本明細書において伸縮とは、伸長(膨脹)と縮小(収縮)のうち少なくとも何れかを含む概念である。本発明によれば、検査対象物が伸縮した際にそれに追従して基材層テープが変形する。その際に、基材層テープの変形に伴って隣接する上層分割片同士の相対間隔が変化する結果、スリット部の幅(以下、「スリット幅」とも称する。)が変化する。
【0013】
これによれば、スリット幅の視覚的変化と検査対象物の伸縮状態とを関連付けて把握することができる。よって、検査対象物の目視検査を行う者(以下、「検査員」と称する)は、定期点検時や日常点検時においてスリット部を目視によって観察(確認)するだけで、例えば伸縮状態検査用具が検査対象物に対して貼付される初期状態を基準としたときのスリット幅の視覚的変化に基づき、検査対象物の伸縮状態を感覚的(直感的)に把握することができる。
【0014】
例えば、初期状態に比べてスリット幅が増大傾向にあることを、スリット部を目視した検査員が認識することで、検査対象物が初期状態に比べて伸長変形していることを容易に発見できる。逆に、スリット幅が初期状態に比べて縮小傾向にあることを検査員が認識することで、検査対象物が初期状態に比べて収縮変形していることを容易に発見できる。
【0015】
更に、本発明によれば、目視によってスリット部の視覚的変化を観察するだけで、特別な機器類等を使用することなく検査対象物の伸縮状態を検査することができる。そのため、誰でも簡易にかつ短時間に検査対象物の検査、点検を遂行する事ができる。即ち、検査対象物の伸縮状態に関する検査効率を向上することができる。よって、検対象物の伸縮変形を早期に発見することができ、伸縮変形に伴う不具合を未然に防ぐ事ができる。
【0016】
また、本発明によれば複数の上層分割片が単一の基材層テープ上に設けられているため、伸縮状態検査用具が全体として一つに纏まって構成される。従って、伸縮状態検査用具を検査対象物に設置する(貼り付ける)際に、その取付作業に従事する者(以下、本明細
書において「取付作業者」と称する)は基材層テープを検査対象物に貼付するだけでよく、手間が掛からない。そのため、本発明によれば、伸縮状態検査用具を検査対象物に取り付ける取付作業者の作業効率(以下、「取付効率」とも称する)を好適に高めることができる。尚、伸縮状態検査用具における取付効率の向上は、特に、検査対象物が多数存在する場合にその効果を一層顕著に奏する。
【0017】
ここで、本発明が適用される検査対象物としては、電力ケーブルの終端接続部を好適に挙げる事ができる。電力ケーブルの終端接続部には、上述の如くシュリンクバック現象が起こる場合がある。そして、このシュリンクバック現象に起因する電力ケーブルの劣化、損傷、或いはこれらに伴う事故等の二次災害を未然に防ぐためには、終端接続部に発生する比較的初期段階の伸縮変形を発見することが望ましい。本発明に係る伸縮状態検査用具を適用せずに目視によって上記終端接続部の変形を確認できたときには、既に電力ケーブルが損傷等を受けている可能性がある。これに対して、本発明を適用することで、電力ケーブルの終端接続部が大変形に至る前の初期段階において伸縮変形を発見できるため、シュリンクバック現象に起因する上記不具合を未然に防ぐ事ができる。
【0018】
また、例えば変電所等の電力関連施設には、検査対象物たる電力ケーブルの終端接続部が数多く纏まって(例えば、数千箇所程度)存在している。このような条件下において、従来型の点検装置を用いて膨大な数の検査対象物を順次、点検するのは多大な時間、手間を要してしまう。これに対して、本発明によれば伸縮状態検査用具の検査対象物への取付効率及び検査効率の双方を向上できるため、時間の節約、労力の低減等の利益も享受できる。
【0019】
また、本発明における伸縮状態検査用具を構成する基材層テープ、上層分割片等は特定の材料に限定されるものではないが、比較的安価な材料を用いて構成する事ができる。従って、検査対象物の数が多い場合においてもコストを低く抑える事ができ、非常に費用対効果の優れた伸縮状態検査用具を提供する事ができる。
【0020】
また、本発明に係る目視検査用具は、前記上層分割片において前記基材層テープ表面に貼付されない側の面と、該基材層テープの表面とは、互いに異なる色柄要素を有してなるように構成されてもよい。色柄要素とは、人の視覚的評価に影響を与える要素であって、例えば色や模様(柄)等を含む包括的な概念である。上述したようにスリット部は基材層テープ表面の一部である。従って、基材層テープの表面に付与された色柄要素と上層分割片の表面に付与された色柄要素とを互いに相違させておくことにより、検査対象物の伸縮状態に応じたスリット幅の視覚的変化が認識し易くなる。つまり、検査対象物の小さな伸縮変形も見逃さずに発見できるようになる。従って、検査対象物の伸縮変形に伴う不具合をより確実に防ぐ事ができる。
【0021】
ここで、基材層テープの貼付面が検査対象物に対して貼付される初期状態においての、基材層テープの長手方向におけるスリット幅を初期スリット幅と定義する。上記したように、検査対象物の伸長に伴ってスリット幅は広がり、逆に検査対象物が収縮するとそれに伴ってスリット幅は狭くなる。従って、伸縮状態検査用具のスリット部が検査対象物の収縮変形を検知するための仕様に設定されている場合、初期スリット幅を過度に狭く設定してしまうと、検査対象物が初期状態から僅かに収縮しただけでスリット幅が零に至り、上層分割片同士が接触する可能性が高まってしまう。
【0022】
そこで、本発明の伸縮状態検査用具において、初期スリット幅は、スリット部が少なくとも検査対象物の収縮変形を検知するために形成される場合には、該検査対象物の伸長変形のみを検知するために形成される場合に比べて相対的に広く設定されてもよい。これによれば、収縮変形の検知用に形成されたスリット部を挟んで対向する上層分割片同士が接
触して干渉し合うことを抑制できる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、検査対象物の伸縮変形を検査するにあたり、目視によって簡易かつ短時間に検査を行う事ができ、検査対象物における伸縮変形の早期発見に資する目視検査用具を提供する事ができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】第一実施形態に係る伸縮状態検査用具の概略構成を示す斜視図である。
【図2】第一実施形態に係る伸縮状態検査用具の断面図である。
【図3】第一実施形態に係る伸縮状態検査用具を検査対象物に取り付けた状態を示す図である。
【図4】終端接続部のシースに取り付けた直後における伸縮状態検査用具の状態を説明するための説明図である。(a)は、伸縮状態検査用具の側方断面を示す図である。(b)は、伸縮状態検査用具の上面を示す図である。
【図5】終端接続部のシースが伸縮状態検査用具の貼付時期に比べて伸長した状態を説明するための説明図である。(a)は、伸縮状態検査用具の側方断面を示す図である。(b)は、伸縮状態検査用具の上面を示す図である。
【図6】終端接続部のシースが伸縮状態検査用具の貼付時期に比べて収縮した状態を説明するための説明図である。(a)は、伸縮状態検査用具の側方断面を示す図である。(b)は、伸縮状態検査用具の上面を示す図である。
【図7】第二実施形態に係る伸縮状態検査用具を説明するための説明図である。
【図8】第三実施形態に係る伸縮状態検査用具を説明するための説明図である。
【図9】トリプレックス形CVケーブルの構造の一例を示した説明図である。(a)は断面図、(b)は単芯の一部切欠内部構造図の例である。
【図10】図9に示した電力ケーブルの終端接続部を説明するための説明図である。
【図11】図10において破線で囲まれた部分を拡大して模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明に係る目視検査用具の実施形態について、図面に基づいて説明する。なお、本実施の形態に記載されている構成要素の寸法、材質、形状、その相対配置等は、特に特定的な記載がない限りは、発明の技術的範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。また、各図において共通する構成要素には同一の符号を付すものとする。
【0026】
<第一実施形態>
図1は、第一実施形態に係る伸縮状態検査用具(以下、単に「検査用具」と称する)1の概略構成を示す斜視図である。図2は、第一実施形態に係る検査用具1の断面図である。図3は、第一実施形態に係る検査用具1を検査対象物に取り付けた状態を示す図である。検査用具1は、検査対象物の伸縮状態を目視によって検査(点検)するための用具である。本実施形態では検査対象物として、図9〜図11で説明した電力ケーブル30の終端接続部32を検査対象物に適用する。
【0027】
検査用具1は、基材層テープ4、複数(本実施形態では一組)の上層分割テープ5a,5b(包括的には、上層分割テープ5として表記する。)、スリット部6を含んで構成されている。基材層テープ4は、検査対象物、即ち終端接続部32を構成するシース29に貼付可能な粘着性を有する貼付面(以下、基材層貼付面と称する)S1を有し、且つ上記シース29の伸縮に追従して変形可能な変形追従能を有する。詳しくは、基材層テープ4は、伸縮自在な基材の一方の面に接着剤が塗布されており、この接着剤が塗布されている面が上記の基材層貼付面S1に該当する。
【0028】
また、基材層貼付面S1に塗布される接着剤としては、例えばアクリル系やウレタン系の粘着剤等が例示できるが、これらに限定されるものではない。後述するように基材層テープ4をシース29に貼り付けた後、シース29が伸縮しても該シース29から基材層テープ4が剥がれ落ちないようなものであれば、多様な種類の接着剤を採用可能である。また、検査用具1が終端接続部32に取り付けられる前の状態、即ち使用前の状態においては、基材層貼付面S1に剥離フィルム7が貼り付けられている。また、剥離フィルム7のうち、基材層貼付面S1に貼付される方の面には剥離剤が塗布されている。
【0029】
本実施形態において、基材層テープ4は矩形をなしている。但し、この形状に限定されるものではなく、その他の形状を採用しても勿論構わない。以下、基材層テープ4の長辺方向を長手方向とも称し、短辺方向を幅方向とも称する。更に、基材層テープ4における基材層貼付面S1と逆側の面を基材層表面S2と称する。基材層テープ4における基材層表面S2には、上層分割テープ5a,5bが貼り付けられている。この実施形態において、上層分割テープ5a,5bのそれぞれは矩形をなしている。そして、互いに隣り合う上層分割テープ5(本実施形態においては5a,5b)同士の間に形成される隙間として、スリット部6が形成されている。スリット部6は基材層テープ4表面上における上層分割テープ5同士の間に形成される隙間である。また、図1及び図2から判るように、上層分割テープ5はその幅が基材層テープ4と等しい。そのため、基材層テープ4の基材層表面S2は、スリット部6のみにおいて露出している。但し、これは本発明に必須の態様ではなく、その他の態様を採用してもよい。例えば、基材層テープ4及び上層分割テープ5の幅を互いに相違させても構わない。
【0030】
上層分割テープ5は、基材層テープ4に比べて弾性係数が高い材質、要するに基材層テープ4よりも硬い材質で形成されている。本実施形態においては上層分割テープ5a,5bが、本発明における複数の上層分割片に対応している。上層分割テープ5a,5bを構成する面のうち、基材層テープ4の基材層表面S2に貼付される面、即ち基材層表面S2に対向する面を「上層貼付面S3」と称する。そして、上層分割テープ5における上層貼付面S3の逆側の面、即ち基材層テープ4の基材層表面S2に貼付されない方の面を「上層表面S4」と称する。
【0031】
基材層テープ4における基材層表面S2と、上層分割テープ5における上層表面S4とは、互いに異なる色柄要素を有して構成されている。ここでいう色柄要素とは、人の視覚的評価に影響を与える要素である色や模様(柄)等を含む包括的な概念である。本実施形態では、基材層表面S2及び上層表面S4が、異なる色に配色されている。具体的には、基材層表面S2が赤、上層表面S4が青に着色されている。この配色の組み合わせは例示的なものであり、他の配色パターンを採用してもよい。
【0032】
図3に示すように、検査用具1は検査対象物としての終端接続部32、より具体的にはシース29表面に貼り付けられる。検査用具1は、基材層テープ4をベースに全体として一つに纏まって構成されている。従って、検査用具1をシース29に貼り付ける際、その貼付作業に従事する貼付作業者は、剥離フィルム7を剥がした基材層テープ4を手に持って、シース29表面上の所望の貼付位置に貼付するだけでよい。このような単純な工程のみで検査用具1の貼付作業が完了するため、手間が掛からない。よって、検査対象物への検査用具1の取付効率を高めることができる。
【0033】
図4〜図6を参照して、検査用具1を用いた検査概要について説明する。図4は、終端接続部32のシース29に取り付けた直後における検査用具1の状態を説明するための説明図である。図4(a)は、検査用具1の側方断面を示し、図4(b)は、検査用具1の上面を示す。ここでの上面とは、上層分割テープ5a,5bにおける上層表面S4側の面を指す。また、図5は、終端接続部32のシース29が検査用具1の貼付時期に比べて伸
長した状態を説明するための説明図である。図5(a)は検査用具1の側方断面を示し、図5(b)は検査用具1の上面を示す。また、図6は、終端接続部32のシース29が検査用具1の貼付時期に比べて収縮した状態を説明するための説明図である。図6(a)は、検査用具1の側方断面を示し、図6(b)は、検査用具1の上面を示す。
【0034】
基材層テープ4の長手方向におけるスリット部の幅を、「スリット幅Ws」として定義する。そして、基材層テープ4の基材層貼付面S1が終端接続部32のシース29に対して貼付されるときの状態を初期状態とし、初期状態においてのスリット幅Wsを「初期スリット幅Wss」として定義する。シース29に貼付した直後(図4(a)、(b)参照)の検査用具1は、青色の矩形領域における中央付近に赤色のラインが一本入った姿として視認される。この赤色ラインはスリット部6に相当し、その幅は初期スリット幅Wssと概ね一致する。
【0035】
次に、シース29における検査用具1が貼付されている部位(以下、「テープ貼付部位」と称する。)が、繰り返し作用する熱挙動の影響により伸長すると、図5に示すような状態となる。即ち、シース29におけるテープ貼付部位の伸長変形に追従して基材層テープ4が伸びる。そうすると、基材層テープ4の基材層表面S2に貼付された一組の上層分割テープ5a,5b同士の相対間隔、即ちスリット幅Wsが増加する。そうすると、初期状態に比べて、青色の矩形領域に含まれている赤色ラインの太さ(幅)が太くなった(広がった)姿が視認される。
【0036】
以上のように、本実施形態における検査用具1では、検査員が初期スリット幅Wssに対するスリット幅Wsの増大を視認することで、シース29が初期状態に比べて伸長傾向にあることを感覚的に把握することができる。特に、基材層テープ4の基材層表面S2と、上層分割テープ5の上層表面S4における色柄要素を相違させておくことで、シース29が初期状態に比べて伸長しているかどうかをより直感的に認識することが可能となる。シース29の伸長に伴い、スリット部6に対応する色柄要素と、上層表面S4に対応する色柄要素との相対関係が変化するからである。
【0037】
一方、シース29におけるテープ貼付部位が初期状態に比べて収縮した場合、図6に示すような状態となる。即ち、スリット幅Wsが初期状態に比べて縮小する結果、スリット部6に対応する赤色ラインの太さ(幅)が初期状態に比して狭くなった姿として検査用具1が視認される。これにより、シース29が収縮しているかどうかを直感的に認識することが可能となる。
【0038】
以上のように、検査用具1によれば、初期状態を基準としたときのスリット幅Wsの視覚的変化に基づいて、検査対象物の伸縮変形を容易に(簡易に)、且つ確実に発見する事ができる。従って、例えば保守点検や巡視時に、検査対象物に発生する伸縮変形を比較的初期に発見する事ができる。特に、基材層テープ4の基材層表面S2と上層分割テープ5の上層表面S4が互いに異なる色を有しているため、スリット幅Wsの視覚的変化が識別し易くなり、上記効果がより一層顕著なものとなる。
【0039】
また、終端接続部32の伸縮変形を初期段階において発見できるため、電力ケーブル30が損傷を受ける前にその対策を講ずる事ができる。従って、終端接続部32のシュリンクバック現象に伴う不具合、即ち電力ケーブル30の劣化や損傷、及びこれらに付随する二次的被害等の発生を未然に防ぐ事が可能となる。
【0040】
また、検査用具1によれば、基材層表面S2と上層表面S4とにおける色柄要素の相違に基づいてスリット部6の視認性が向上するため、検査対象物から離れた位置からの目視検査を可能とする。一般に、電力ケーブル30の終端接続部32は地上から少なくとも数
メートル(例えば、10m程度)の高さに設けられることが多い。検査用具1によれば、上空におけるスリット部6の状態を地上から明瞭に確認できるため、わざわざ電柱等(図10を参照。)を昇降する手間を省く事ができる。尚、地上からの検査に際しては、必要に応じて双眼鏡等を用いてもよい。
【0041】
更に、検査用具1を利用した検査は目視により行う事ができるため、特別な機器類を使用する必要が無い。つまり、検査用具1によれば、検査対象物の伸縮変形を簡易に検査することができる。そのため、熟練者がその検査に従事する必要が無く、誰でも検査に従事する事が可能となる。例えば、変電所などの施設内に多数存在する電力ケーブル30の終端接続部32に検査用具1を取り付ける場合を想定する。この場合、終端接続部32に検査用具1が設置されていれば、該検査用具1が近くに立ち寄った施設関係者の目に留まる。つまり、終端接続部32に検査用具1が取り付けられていれば、終端接続部32の伸縮状態について積極的に検査する意志を持たない者にさえ、終端接続部32の異変に気付かせる事ができる。従って、終端接続部32の伸縮変形をより早期に発見することが可能となる。
【0042】
また、検査用具1は、検査員が視覚と通じて得たスリット幅Wsの視覚的な変化情報に基づいて検査対象物の伸縮状態を直感的に認識することが可能であり、個々の検査に要する時間を好適に短縮する事ができる。上述したように、変電所等の施設内には電力ケーブル30の終端接続部32が非常に多く存在し、その数は数千箇所にも及ぶ場合も珍しくない。検査用具1によれば、検査効率を高めることができるため、一定時間内でより多くの終端接続部32に対する検査を実施する事ができる。更には、検査用具1を終端接続部32に設置する際の取付効率が優れているため、検査対象物の数が多いほど、貼付作業者の労力低減、貼付作業及び検査の実施に要する時間の短縮という効果がより顕著なものとなる。
【0043】
尚、検査用具1の主要な構成部材である基材層テープ4、上層分割テープ5等の材質は特定のものに限定されないが、比較的安価な材料を用いて構成する事ができる。従って、検査対象物としての終端接続部32の数が膨大となっても、検査の実施に掛かるコストを低く抑える事ができる。但し、検査用具1に関する上述した効果は、少数の検査対象物に対しても同様に実現する事ができ、好適に適用できるのは勿論である。
【0044】
<変形例>
これまでに説明した第一実施形態における検査用具1は、基材層表面S2及び上層表面S4が互いに異なる色柄要素を有するように構成されていたが、この態様は検査用具1に必須ではなく、双方を同一の色柄要素として構成することも可能である。但し、上記色柄要素を相違せしめる態様を付加することで、検査対象物の伸縮変形を発見しやすくなるという利益を享受できるため、好ましい実施形態の一例であることは言うまでもない。また、その場合には、基材層表面S2及び上層表面S4を、それぞれの色相、明度、彩度等のコントラストが明快となるような配色パターンにすると、上記効果がより顕著なものとなる。尚、基材層表面S2及び上層表面S4を異なる色で構成する代わりに、異なる模様を付与して構成してもよい。これによっても、色を相違させた場合と同様な効果を奏する。
【0045】
また、基材層表面S2の全面を、上層表面S4と異なる色に着色する必要はなく、少なくともスリット部6が形成される領域を上層表面S4と異なる色(模様であってもよい)に着色すればよい。尚、ここでいうスリット部6が形成される領域には、初期状態においてのスリット部6が形成される領域の他、検査対象物の伸長に伴ってスリット部6が将来的に拡大され得る領域も含まれる。また、初期スリット幅Wssを基準としたときのスリット幅の増加量が所定の閾値を超える度に、今まで上層分割テープ5の下に隠れていた新たな色が露出されるように、基材層テープ4の基材層表面S2を複数色に区分してもよい
。
【0046】
<第二実施形態>
図7は、第二実施形態に係る検査用具1Aを説明するための説明図である。検査用具1Aは、単一の基材層テープ4に複数のスリット部6が形成されるように、該基材層テープ4に少なくとも3以上の上層分割テープ5が貼り付けられている。この図の例では、基材層テープ4に対して4つの上層分割テープ5a〜5dが貼付され、合計3つのスリット部6が形成されている。
【0047】
ところで、検査対象物(本実施形態においても、電力ケーブル30の終端接続部32を例に挙げて説明する。)は一様に変形するとは限らない。即ち、局所的に伸長する部位も存在すれば、局所的に収縮する部位も存在する。これに対して、検査用具1Aは複数のスリット部6を備えるため、終端接続部32に生じた伸縮変形の発生箇所について詳細に特定することが可能となる。また、検査用具1Aは、複数のスリット部6を備えつつも用具全体としては一纏まりとして構成されるため、第一実施形態と同様にシース29に取り付ける際の取付効率を向上させる事ができる。
【0048】
<第三実施形態>
次に、図8を参照して、第三実施形態における検査用具1Bを説明する。この実施形態では、検査用具1Bに形成されるスリット部6の仕様に関する特徴点を中心に説明する。図8は、第三実施形態に係る検査用具1Bを説明するための説明図である。検査用具1Bは、第二実施形態と同様、複数のスリット部6が単一の基材層テープ4上に形成されている。ここで、図8は、終端接続部32を構成するシース29に取り付けられた初期状態における検査用具1Bの状況を示している。第二実施形態における検査用具1Aとの主な相違点は、スリット幅Ws(ここでは、初期状態を説明しているため、初期スリット幅Wssに相当する。)が広く設定されたスリット部と、狭く設定されたスリット部とが混在していることにある。
【0049】
図中の符号6Xで表すスリット部は、符号6Yで表すスリット部に比べて、初期スリット幅Wssが広く設定されている。ここで、初期スリット幅Wssが相対的に広く設定されるスリット部6Xを「収縮・伸長兼用スリット部」と称する。収縮・伸長兼用スリット部6Xは、少なくとも検査対象物(シース29)の収縮変形を検知するために形成されているスリット部である。つまり、これは、検査対象物(シース29)の収縮変形のみを検知するため、或いは収縮変形及び伸長変形の双方を検知するためのスリット部と換言できる。一方、初期スリット幅Wssが相対的に狭く設定されるスリット部6Yを「伸長検知用スリット部」と称する。伸長検知用スリット部6Yは、検査対象物(シース29)の伸長変形のみを検知するために形成されているスリット部である。
【0050】
ここでは、収縮・伸長兼用スリット部6Xにおける初期スリット幅を第一初期スリット幅Wss1とし、伸長検知用スリット部6Yにおける初期スリット幅を第二初期スリット幅Wss2として説明する。第一実施形態で述べたようにシース29が初期状態から伸長する場合にはスリット幅Wsが拡大する方向に推移するため、初期スリット幅Wssを狭く設定しても問題ない。一方、シース29が初期状態から収縮変形する場合にはスリット幅Wsが狭くなる方向に推移する。そのため、初期スリット幅Wssを過度に狭く設定してしまうと、シース29が初期状態から僅かに収縮しただけでスリット幅Wsが零となってしまうことが予想される。即ち、上層分割テープ5同士が接触する事で互いに干渉し合い、その後の収縮変形にスリット幅Wsの変化が追従できなくなるおそれがある。
【0051】
そのような不具合を回避するために、本実施形態では、収縮・伸長兼用スリット部6Xにおける第一初期スリット幅Wss1を伸長検知用スリット部6Yにおける第二初期スリ
ット幅Wss2に比べて広く(大きな値に)設定している。例えば、第二初期スリット幅Wss2を零〜数mm程度に設定し、第一初期スリット幅Wss1を数十mm程度に設定してもよい。但し、これらの組み合わせは例示的なものであり、この範囲に必ずしも限定されるものではない。
【0052】
以上のように、検査用具1Bでは、スリット部の初期スリット幅Wssに関して、そのスリット部が少なくとも検査対象物の収縮変形を検知するために形成される場合、検査対象物の伸長変形のみを検知するために形成される場合に比べて相対的に広く設定される。そうすれば、検査対象物の収縮変形を検知するために形成されたスリット部を挟んで対向する上層分割テープ5同士が接触してしまうことがない。
【0053】
尚、図8においては、一の検査用具に収縮・伸長兼用スリット部6X及び伸長検知用スリット部6Yの双方を形成させているが、これに限定されない。例えば、収縮・伸長兼用スリット部6Xと伸長検知用スリット部6Yとが、それぞれ別個の検査用具に備えられてもよい。具体的には、第一の検査用具に形成されたスリット部が収縮・伸長兼用スリット部6Xであって、第二の検査用具に形成されたスリット部が伸長検知用スリット部6Yである場合には、前者の第一初期スリット幅Wss1を後者の第二初期スリット幅Wss2に比べて相対的に広く設定してもよい。これによって、検査用具1Bについて述べた効果と同様な効果を奏する。
【0054】
次に、図8中の符号AHs、AHwの意味について説明する。これらの符号は、上層分割テープ5における上層貼付面S3と基材層テープ4における基材層表面S2との接着強度の強弱(大小)を概念的に表すものである。符号AHwに対応する破線領域における上記界面(S2とS3の接着界面)の接着強度を接着強度AHwとして表し、符号AHsに対応する破線領域における該界面の接着強度を接着強度AHsとして表す。この実施形態では、接着強度AHwが接着強度AHsよりも低く設定される。
【0055】
上記したように伸長検知用スリット部6Yは、シース29の伸長変形を検知する仕様として設計されている。シース29が伸長するとそれに追従して基材層テープ4が伸長する結果、該基材層テープ4に貼付されている上層分割テープ5b,5cの相対間隔が広がるのである。ところが、上層分割テープ5b,5cは比較的硬く、基材層テープ4に追従して変形しない場合、伸長検知用スリット部6Yの近傍部位(図中、符号AHwに対応)において上層貼付面S3と基材層表面S2とを強固に接着してしまうと、基材層テープ4が上層分割テープ5b,5cによって拘束され、その円滑な伸長変形が阻害される可能性がある。そこで、検査用具1Bでは、接着強度AHwを接着強度AHsよりも低く設定する事で上記不具合を回避する事ができる。即ち、基材層テープ4が上層分割テープ5b,5cによって拘束されることがなく、シース29の伸長変形に精度良く追従して、スリット幅Wsが変化するからである。尚、収縮・伸長兼用スリット部6Xを挟んで対向する上層分割テープ5に関しては、基材層表面S2に対する上層貼付面S3の接着強度を、領域毎で特に変更しなくてもよい。
【0056】
以上、本発明を実施する形態を説明したが、可能な限り各実施形態の組合せを含むことができる。また、本発明の本旨を逸脱しない範囲内において上記した実施形態には種々の変更を加えてもよい。例えば、本発明における伸縮状態検査用具を適用する検査対象物としては電力ケーブルの終端接続部を例に挙げて説明したが、これに限定されず、種々のチューブ・ホース類(例えば、車両のエンジンルーム内に配置される各種のチューブ・ホース類であってもよい)や、その他の対象物に適用する事ができる。
【符号の説明】
【0057】
1 伸縮状態検査用具
4 基材層テープ
5 上層分割テープ
6 スリット部
29 シース
30 電力ケーブル
32 終端接続部
S1 基材層貼付面
S2 基材層表面
S3 上層貼付面
S4 上層表面
Ws スリット幅
Wss 初期スリット幅
【技術分野】
【0001】
本発明は、伸縮状態検査用具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の電力ケーブルとして、単芯のCVケーブルや、単芯のCVケーブルを複数本撚りあわせた構造をもつもの(例えば、トリプレックス形CVケーブル(CVTケーブル)等が挙げられる。)が公知である。
【0003】
図9は、単芯ケーブルを3本撚りあわせた構造をもつトリプレックス形CVケーブル(CVTケーブル)の構造の一例を示した説明図であり、図9(a)は断面図、図9(b)は単芯の一部切欠内部構造図の例である。CVTケーブルの中心部には導体21が設けられ、導体21は内部半導体層22を介して絶縁体23で被覆されている。さらに、これらは押し出し半導電層24及び半導電性布テープ25からなる外部半導電層26で被覆されている。
【0004】
外部半導電層26には、金属遮蔽層としての遮蔽銅テープ27が斜め方向にラップしながら巻き付けられており、布テープ28、さらに、シース29で被覆されている。内部半導体層22や外部半導電層26は、絶縁体内部の電界分布を一様にして電界の局部集中による絶縁破壊を防止するものである。また、遮蔽銅テープ27は絶縁体に均一に電気力線を分布させるほか、故障電流の帰路となるものである。
【0005】
図10は、図9に示した電力ケーブル(CVTケーブル)の終端接続部を説明するための説明図である。図11は、図10において丸(破線)で囲まれた部分を拡大して模式的に示した図である。3本の電力ケーブル30a〜30c(包括的に電力ケーブル30と称する。)はそれぞれ端末装置31a〜31c(包括的に端末装置31と称する。)に終端接続部32a〜32c(包括的に終端接続部32と称する。)で接続される。電力ケーブル30a〜30cは端末装置31a〜31cを介して架空線や機器に接続されている。
【0006】
上記例示した電力ケーブル30の終端接続部32においては、シース29がずれ落ちる現象、いわゆるシュリンクバック現象が発生することがある。シュリンクバック現象は、電力ケーブルの製造時に内在するシース残留歪みの開放や、シ−スとケーブルコアとの熱挙動現象、シースに作用する重力等が主な原因と考えられている。シュリンクバック現象が発生すると、遮蔽銅テープ27や外部半導電層26にずれが発生したり、シース29の後退によって雨水侵入が発生することにより電力ケーブルの劣化が促進されたり、絶縁破壊によってケーブルが破壊に至るおそれがある。
【0007】
そこで、電力ケーブルの終端接続部32にシュリンクバックが発生しているか否かの点検、検査を行うための点検装置も提案されている。例えば、特許文献1には、電力ケーブルの外表面をケーブル長方向に沿って一定速度で移動させて電力ケーブルの金属遮蔽層(例えば、遮蔽銅テープ27)の存在状態により変化する電圧波形を測定する測定プローブと、この測定プローブで測定された電圧波形を出力する出力装置とを備えた電力ケーブル点検装置が開示されている。この点検装置によれば、電力ケーブルの終端接続部に発生した金属遮蔽層のずれや断裂を検出する事ができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−67679号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記従来型の電力ケーブル点検装置は、たしかに電力ケーブルの終端接続部に発生するシュリンクバック現象に伴う不具合を精度良く検出できる。しかしながら、測定プローブやその測定結果を出力する出力装置等は精密機器であり、その取り扱いにはある程度の技術的な知識が必要となる。従って、点検装置の取り扱いに精通する一部の限られた者が電力ケーブルの点検に従事する必要がある。また、実際に精密機器を使用して測定しないと電力ケーブルに発生した不具合を検出することができないため、シュリンクバック現象に伴う不具合の未然防止という観点からは改善の余地があると考えられる。
【0010】
本発明は、上記した問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、検査対象物の伸縮変形を検査するにあたり、目視によって簡易かつ短時間に検査を行う事ができ、検査対象物における伸縮変形の早期発見に資する技術を提供する事にある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、以下の構成を備えることで、上記課題を解決することとした。即ち、本発明は、検査対象物の伸縮状態を目視検査するための伸縮状態検査用具であって、前記検査対象物に貼付可能な粘着性を有する貼付面を有し、且つ該検査対象物の伸縮変形に追従して変形可能な基材層テープと、前記基材層テープにおける前記貼付面と逆側の表面上に貼付された複数の上層分割片と、互いに隣り合う前記上層分割片同士の間に形成される隙間であって且つ前記検査対象物の伸縮変形に伴い該上層分割片同士の相対間隔が変化する事によってその幅が変化するスリット部と、を備える伸縮状態検査用具である。
【0012】
本明細書において伸縮とは、伸長(膨脹)と縮小(収縮)のうち少なくとも何れかを含む概念である。本発明によれば、検査対象物が伸縮した際にそれに追従して基材層テープが変形する。その際に、基材層テープの変形に伴って隣接する上層分割片同士の相対間隔が変化する結果、スリット部の幅(以下、「スリット幅」とも称する。)が変化する。
【0013】
これによれば、スリット幅の視覚的変化と検査対象物の伸縮状態とを関連付けて把握することができる。よって、検査対象物の目視検査を行う者(以下、「検査員」と称する)は、定期点検時や日常点検時においてスリット部を目視によって観察(確認)するだけで、例えば伸縮状態検査用具が検査対象物に対して貼付される初期状態を基準としたときのスリット幅の視覚的変化に基づき、検査対象物の伸縮状態を感覚的(直感的)に把握することができる。
【0014】
例えば、初期状態に比べてスリット幅が増大傾向にあることを、スリット部を目視した検査員が認識することで、検査対象物が初期状態に比べて伸長変形していることを容易に発見できる。逆に、スリット幅が初期状態に比べて縮小傾向にあることを検査員が認識することで、検査対象物が初期状態に比べて収縮変形していることを容易に発見できる。
【0015】
更に、本発明によれば、目視によってスリット部の視覚的変化を観察するだけで、特別な機器類等を使用することなく検査対象物の伸縮状態を検査することができる。そのため、誰でも簡易にかつ短時間に検査対象物の検査、点検を遂行する事ができる。即ち、検査対象物の伸縮状態に関する検査効率を向上することができる。よって、検対象物の伸縮変形を早期に発見することができ、伸縮変形に伴う不具合を未然に防ぐ事ができる。
【0016】
また、本発明によれば複数の上層分割片が単一の基材層テープ上に設けられているため、伸縮状態検査用具が全体として一つに纏まって構成される。従って、伸縮状態検査用具を検査対象物に設置する(貼り付ける)際に、その取付作業に従事する者(以下、本明細
書において「取付作業者」と称する)は基材層テープを検査対象物に貼付するだけでよく、手間が掛からない。そのため、本発明によれば、伸縮状態検査用具を検査対象物に取り付ける取付作業者の作業効率(以下、「取付効率」とも称する)を好適に高めることができる。尚、伸縮状態検査用具における取付効率の向上は、特に、検査対象物が多数存在する場合にその効果を一層顕著に奏する。
【0017】
ここで、本発明が適用される検査対象物としては、電力ケーブルの終端接続部を好適に挙げる事ができる。電力ケーブルの終端接続部には、上述の如くシュリンクバック現象が起こる場合がある。そして、このシュリンクバック現象に起因する電力ケーブルの劣化、損傷、或いはこれらに伴う事故等の二次災害を未然に防ぐためには、終端接続部に発生する比較的初期段階の伸縮変形を発見することが望ましい。本発明に係る伸縮状態検査用具を適用せずに目視によって上記終端接続部の変形を確認できたときには、既に電力ケーブルが損傷等を受けている可能性がある。これに対して、本発明を適用することで、電力ケーブルの終端接続部が大変形に至る前の初期段階において伸縮変形を発見できるため、シュリンクバック現象に起因する上記不具合を未然に防ぐ事ができる。
【0018】
また、例えば変電所等の電力関連施設には、検査対象物たる電力ケーブルの終端接続部が数多く纏まって(例えば、数千箇所程度)存在している。このような条件下において、従来型の点検装置を用いて膨大な数の検査対象物を順次、点検するのは多大な時間、手間を要してしまう。これに対して、本発明によれば伸縮状態検査用具の検査対象物への取付効率及び検査効率の双方を向上できるため、時間の節約、労力の低減等の利益も享受できる。
【0019】
また、本発明における伸縮状態検査用具を構成する基材層テープ、上層分割片等は特定の材料に限定されるものではないが、比較的安価な材料を用いて構成する事ができる。従って、検査対象物の数が多い場合においてもコストを低く抑える事ができ、非常に費用対効果の優れた伸縮状態検査用具を提供する事ができる。
【0020】
また、本発明に係る目視検査用具は、前記上層分割片において前記基材層テープ表面に貼付されない側の面と、該基材層テープの表面とは、互いに異なる色柄要素を有してなるように構成されてもよい。色柄要素とは、人の視覚的評価に影響を与える要素であって、例えば色や模様(柄)等を含む包括的な概念である。上述したようにスリット部は基材層テープ表面の一部である。従って、基材層テープの表面に付与された色柄要素と上層分割片の表面に付与された色柄要素とを互いに相違させておくことにより、検査対象物の伸縮状態に応じたスリット幅の視覚的変化が認識し易くなる。つまり、検査対象物の小さな伸縮変形も見逃さずに発見できるようになる。従って、検査対象物の伸縮変形に伴う不具合をより確実に防ぐ事ができる。
【0021】
ここで、基材層テープの貼付面が検査対象物に対して貼付される初期状態においての、基材層テープの長手方向におけるスリット幅を初期スリット幅と定義する。上記したように、検査対象物の伸長に伴ってスリット幅は広がり、逆に検査対象物が収縮するとそれに伴ってスリット幅は狭くなる。従って、伸縮状態検査用具のスリット部が検査対象物の収縮変形を検知するための仕様に設定されている場合、初期スリット幅を過度に狭く設定してしまうと、検査対象物が初期状態から僅かに収縮しただけでスリット幅が零に至り、上層分割片同士が接触する可能性が高まってしまう。
【0022】
そこで、本発明の伸縮状態検査用具において、初期スリット幅は、スリット部が少なくとも検査対象物の収縮変形を検知するために形成される場合には、該検査対象物の伸長変形のみを検知するために形成される場合に比べて相対的に広く設定されてもよい。これによれば、収縮変形の検知用に形成されたスリット部を挟んで対向する上層分割片同士が接
触して干渉し合うことを抑制できる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、検査対象物の伸縮変形を検査するにあたり、目視によって簡易かつ短時間に検査を行う事ができ、検査対象物における伸縮変形の早期発見に資する目視検査用具を提供する事ができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】第一実施形態に係る伸縮状態検査用具の概略構成を示す斜視図である。
【図2】第一実施形態に係る伸縮状態検査用具の断面図である。
【図3】第一実施形態に係る伸縮状態検査用具を検査対象物に取り付けた状態を示す図である。
【図4】終端接続部のシースに取り付けた直後における伸縮状態検査用具の状態を説明するための説明図である。(a)は、伸縮状態検査用具の側方断面を示す図である。(b)は、伸縮状態検査用具の上面を示す図である。
【図5】終端接続部のシースが伸縮状態検査用具の貼付時期に比べて伸長した状態を説明するための説明図である。(a)は、伸縮状態検査用具の側方断面を示す図である。(b)は、伸縮状態検査用具の上面を示す図である。
【図6】終端接続部のシースが伸縮状態検査用具の貼付時期に比べて収縮した状態を説明するための説明図である。(a)は、伸縮状態検査用具の側方断面を示す図である。(b)は、伸縮状態検査用具の上面を示す図である。
【図7】第二実施形態に係る伸縮状態検査用具を説明するための説明図である。
【図8】第三実施形態に係る伸縮状態検査用具を説明するための説明図である。
【図9】トリプレックス形CVケーブルの構造の一例を示した説明図である。(a)は断面図、(b)は単芯の一部切欠内部構造図の例である。
【図10】図9に示した電力ケーブルの終端接続部を説明するための説明図である。
【図11】図10において破線で囲まれた部分を拡大して模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明に係る目視検査用具の実施形態について、図面に基づいて説明する。なお、本実施の形態に記載されている構成要素の寸法、材質、形状、その相対配置等は、特に特定的な記載がない限りは、発明の技術的範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。また、各図において共通する構成要素には同一の符号を付すものとする。
【0026】
<第一実施形態>
図1は、第一実施形態に係る伸縮状態検査用具(以下、単に「検査用具」と称する)1の概略構成を示す斜視図である。図2は、第一実施形態に係る検査用具1の断面図である。図3は、第一実施形態に係る検査用具1を検査対象物に取り付けた状態を示す図である。検査用具1は、検査対象物の伸縮状態を目視によって検査(点検)するための用具である。本実施形態では検査対象物として、図9〜図11で説明した電力ケーブル30の終端接続部32を検査対象物に適用する。
【0027】
検査用具1は、基材層テープ4、複数(本実施形態では一組)の上層分割テープ5a,5b(包括的には、上層分割テープ5として表記する。)、スリット部6を含んで構成されている。基材層テープ4は、検査対象物、即ち終端接続部32を構成するシース29に貼付可能な粘着性を有する貼付面(以下、基材層貼付面と称する)S1を有し、且つ上記シース29の伸縮に追従して変形可能な変形追従能を有する。詳しくは、基材層テープ4は、伸縮自在な基材の一方の面に接着剤が塗布されており、この接着剤が塗布されている面が上記の基材層貼付面S1に該当する。
【0028】
また、基材層貼付面S1に塗布される接着剤としては、例えばアクリル系やウレタン系の粘着剤等が例示できるが、これらに限定されるものではない。後述するように基材層テープ4をシース29に貼り付けた後、シース29が伸縮しても該シース29から基材層テープ4が剥がれ落ちないようなものであれば、多様な種類の接着剤を採用可能である。また、検査用具1が終端接続部32に取り付けられる前の状態、即ち使用前の状態においては、基材層貼付面S1に剥離フィルム7が貼り付けられている。また、剥離フィルム7のうち、基材層貼付面S1に貼付される方の面には剥離剤が塗布されている。
【0029】
本実施形態において、基材層テープ4は矩形をなしている。但し、この形状に限定されるものではなく、その他の形状を採用しても勿論構わない。以下、基材層テープ4の長辺方向を長手方向とも称し、短辺方向を幅方向とも称する。更に、基材層テープ4における基材層貼付面S1と逆側の面を基材層表面S2と称する。基材層テープ4における基材層表面S2には、上層分割テープ5a,5bが貼り付けられている。この実施形態において、上層分割テープ5a,5bのそれぞれは矩形をなしている。そして、互いに隣り合う上層分割テープ5(本実施形態においては5a,5b)同士の間に形成される隙間として、スリット部6が形成されている。スリット部6は基材層テープ4表面上における上層分割テープ5同士の間に形成される隙間である。また、図1及び図2から判るように、上層分割テープ5はその幅が基材層テープ4と等しい。そのため、基材層テープ4の基材層表面S2は、スリット部6のみにおいて露出している。但し、これは本発明に必須の態様ではなく、その他の態様を採用してもよい。例えば、基材層テープ4及び上層分割テープ5の幅を互いに相違させても構わない。
【0030】
上層分割テープ5は、基材層テープ4に比べて弾性係数が高い材質、要するに基材層テープ4よりも硬い材質で形成されている。本実施形態においては上層分割テープ5a,5bが、本発明における複数の上層分割片に対応している。上層分割テープ5a,5bを構成する面のうち、基材層テープ4の基材層表面S2に貼付される面、即ち基材層表面S2に対向する面を「上層貼付面S3」と称する。そして、上層分割テープ5における上層貼付面S3の逆側の面、即ち基材層テープ4の基材層表面S2に貼付されない方の面を「上層表面S4」と称する。
【0031】
基材層テープ4における基材層表面S2と、上層分割テープ5における上層表面S4とは、互いに異なる色柄要素を有して構成されている。ここでいう色柄要素とは、人の視覚的評価に影響を与える要素である色や模様(柄)等を含む包括的な概念である。本実施形態では、基材層表面S2及び上層表面S4が、異なる色に配色されている。具体的には、基材層表面S2が赤、上層表面S4が青に着色されている。この配色の組み合わせは例示的なものであり、他の配色パターンを採用してもよい。
【0032】
図3に示すように、検査用具1は検査対象物としての終端接続部32、より具体的にはシース29表面に貼り付けられる。検査用具1は、基材層テープ4をベースに全体として一つに纏まって構成されている。従って、検査用具1をシース29に貼り付ける際、その貼付作業に従事する貼付作業者は、剥離フィルム7を剥がした基材層テープ4を手に持って、シース29表面上の所望の貼付位置に貼付するだけでよい。このような単純な工程のみで検査用具1の貼付作業が完了するため、手間が掛からない。よって、検査対象物への検査用具1の取付効率を高めることができる。
【0033】
図4〜図6を参照して、検査用具1を用いた検査概要について説明する。図4は、終端接続部32のシース29に取り付けた直後における検査用具1の状態を説明するための説明図である。図4(a)は、検査用具1の側方断面を示し、図4(b)は、検査用具1の上面を示す。ここでの上面とは、上層分割テープ5a,5bにおける上層表面S4側の面を指す。また、図5は、終端接続部32のシース29が検査用具1の貼付時期に比べて伸
長した状態を説明するための説明図である。図5(a)は検査用具1の側方断面を示し、図5(b)は検査用具1の上面を示す。また、図6は、終端接続部32のシース29が検査用具1の貼付時期に比べて収縮した状態を説明するための説明図である。図6(a)は、検査用具1の側方断面を示し、図6(b)は、検査用具1の上面を示す。
【0034】
基材層テープ4の長手方向におけるスリット部の幅を、「スリット幅Ws」として定義する。そして、基材層テープ4の基材層貼付面S1が終端接続部32のシース29に対して貼付されるときの状態を初期状態とし、初期状態においてのスリット幅Wsを「初期スリット幅Wss」として定義する。シース29に貼付した直後(図4(a)、(b)参照)の検査用具1は、青色の矩形領域における中央付近に赤色のラインが一本入った姿として視認される。この赤色ラインはスリット部6に相当し、その幅は初期スリット幅Wssと概ね一致する。
【0035】
次に、シース29における検査用具1が貼付されている部位(以下、「テープ貼付部位」と称する。)が、繰り返し作用する熱挙動の影響により伸長すると、図5に示すような状態となる。即ち、シース29におけるテープ貼付部位の伸長変形に追従して基材層テープ4が伸びる。そうすると、基材層テープ4の基材層表面S2に貼付された一組の上層分割テープ5a,5b同士の相対間隔、即ちスリット幅Wsが増加する。そうすると、初期状態に比べて、青色の矩形領域に含まれている赤色ラインの太さ(幅)が太くなった(広がった)姿が視認される。
【0036】
以上のように、本実施形態における検査用具1では、検査員が初期スリット幅Wssに対するスリット幅Wsの増大を視認することで、シース29が初期状態に比べて伸長傾向にあることを感覚的に把握することができる。特に、基材層テープ4の基材層表面S2と、上層分割テープ5の上層表面S4における色柄要素を相違させておくことで、シース29が初期状態に比べて伸長しているかどうかをより直感的に認識することが可能となる。シース29の伸長に伴い、スリット部6に対応する色柄要素と、上層表面S4に対応する色柄要素との相対関係が変化するからである。
【0037】
一方、シース29におけるテープ貼付部位が初期状態に比べて収縮した場合、図6に示すような状態となる。即ち、スリット幅Wsが初期状態に比べて縮小する結果、スリット部6に対応する赤色ラインの太さ(幅)が初期状態に比して狭くなった姿として検査用具1が視認される。これにより、シース29が収縮しているかどうかを直感的に認識することが可能となる。
【0038】
以上のように、検査用具1によれば、初期状態を基準としたときのスリット幅Wsの視覚的変化に基づいて、検査対象物の伸縮変形を容易に(簡易に)、且つ確実に発見する事ができる。従って、例えば保守点検や巡視時に、検査対象物に発生する伸縮変形を比較的初期に発見する事ができる。特に、基材層テープ4の基材層表面S2と上層分割テープ5の上層表面S4が互いに異なる色を有しているため、スリット幅Wsの視覚的変化が識別し易くなり、上記効果がより一層顕著なものとなる。
【0039】
また、終端接続部32の伸縮変形を初期段階において発見できるため、電力ケーブル30が損傷を受ける前にその対策を講ずる事ができる。従って、終端接続部32のシュリンクバック現象に伴う不具合、即ち電力ケーブル30の劣化や損傷、及びこれらに付随する二次的被害等の発生を未然に防ぐ事が可能となる。
【0040】
また、検査用具1によれば、基材層表面S2と上層表面S4とにおける色柄要素の相違に基づいてスリット部6の視認性が向上するため、検査対象物から離れた位置からの目視検査を可能とする。一般に、電力ケーブル30の終端接続部32は地上から少なくとも数
メートル(例えば、10m程度)の高さに設けられることが多い。検査用具1によれば、上空におけるスリット部6の状態を地上から明瞭に確認できるため、わざわざ電柱等(図10を参照。)を昇降する手間を省く事ができる。尚、地上からの検査に際しては、必要に応じて双眼鏡等を用いてもよい。
【0041】
更に、検査用具1を利用した検査は目視により行う事ができるため、特別な機器類を使用する必要が無い。つまり、検査用具1によれば、検査対象物の伸縮変形を簡易に検査することができる。そのため、熟練者がその検査に従事する必要が無く、誰でも検査に従事する事が可能となる。例えば、変電所などの施設内に多数存在する電力ケーブル30の終端接続部32に検査用具1を取り付ける場合を想定する。この場合、終端接続部32に検査用具1が設置されていれば、該検査用具1が近くに立ち寄った施設関係者の目に留まる。つまり、終端接続部32に検査用具1が取り付けられていれば、終端接続部32の伸縮状態について積極的に検査する意志を持たない者にさえ、終端接続部32の異変に気付かせる事ができる。従って、終端接続部32の伸縮変形をより早期に発見することが可能となる。
【0042】
また、検査用具1は、検査員が視覚と通じて得たスリット幅Wsの視覚的な変化情報に基づいて検査対象物の伸縮状態を直感的に認識することが可能であり、個々の検査に要する時間を好適に短縮する事ができる。上述したように、変電所等の施設内には電力ケーブル30の終端接続部32が非常に多く存在し、その数は数千箇所にも及ぶ場合も珍しくない。検査用具1によれば、検査効率を高めることができるため、一定時間内でより多くの終端接続部32に対する検査を実施する事ができる。更には、検査用具1を終端接続部32に設置する際の取付効率が優れているため、検査対象物の数が多いほど、貼付作業者の労力低減、貼付作業及び検査の実施に要する時間の短縮という効果がより顕著なものとなる。
【0043】
尚、検査用具1の主要な構成部材である基材層テープ4、上層分割テープ5等の材質は特定のものに限定されないが、比較的安価な材料を用いて構成する事ができる。従って、検査対象物としての終端接続部32の数が膨大となっても、検査の実施に掛かるコストを低く抑える事ができる。但し、検査用具1に関する上述した効果は、少数の検査対象物に対しても同様に実現する事ができ、好適に適用できるのは勿論である。
【0044】
<変形例>
これまでに説明した第一実施形態における検査用具1は、基材層表面S2及び上層表面S4が互いに異なる色柄要素を有するように構成されていたが、この態様は検査用具1に必須ではなく、双方を同一の色柄要素として構成することも可能である。但し、上記色柄要素を相違せしめる態様を付加することで、検査対象物の伸縮変形を発見しやすくなるという利益を享受できるため、好ましい実施形態の一例であることは言うまでもない。また、その場合には、基材層表面S2及び上層表面S4を、それぞれの色相、明度、彩度等のコントラストが明快となるような配色パターンにすると、上記効果がより顕著なものとなる。尚、基材層表面S2及び上層表面S4を異なる色で構成する代わりに、異なる模様を付与して構成してもよい。これによっても、色を相違させた場合と同様な効果を奏する。
【0045】
また、基材層表面S2の全面を、上層表面S4と異なる色に着色する必要はなく、少なくともスリット部6が形成される領域を上層表面S4と異なる色(模様であってもよい)に着色すればよい。尚、ここでいうスリット部6が形成される領域には、初期状態においてのスリット部6が形成される領域の他、検査対象物の伸長に伴ってスリット部6が将来的に拡大され得る領域も含まれる。また、初期スリット幅Wssを基準としたときのスリット幅の増加量が所定の閾値を超える度に、今まで上層分割テープ5の下に隠れていた新たな色が露出されるように、基材層テープ4の基材層表面S2を複数色に区分してもよい
。
【0046】
<第二実施形態>
図7は、第二実施形態に係る検査用具1Aを説明するための説明図である。検査用具1Aは、単一の基材層テープ4に複数のスリット部6が形成されるように、該基材層テープ4に少なくとも3以上の上層分割テープ5が貼り付けられている。この図の例では、基材層テープ4に対して4つの上層分割テープ5a〜5dが貼付され、合計3つのスリット部6が形成されている。
【0047】
ところで、検査対象物(本実施形態においても、電力ケーブル30の終端接続部32を例に挙げて説明する。)は一様に変形するとは限らない。即ち、局所的に伸長する部位も存在すれば、局所的に収縮する部位も存在する。これに対して、検査用具1Aは複数のスリット部6を備えるため、終端接続部32に生じた伸縮変形の発生箇所について詳細に特定することが可能となる。また、検査用具1Aは、複数のスリット部6を備えつつも用具全体としては一纏まりとして構成されるため、第一実施形態と同様にシース29に取り付ける際の取付効率を向上させる事ができる。
【0048】
<第三実施形態>
次に、図8を参照して、第三実施形態における検査用具1Bを説明する。この実施形態では、検査用具1Bに形成されるスリット部6の仕様に関する特徴点を中心に説明する。図8は、第三実施形態に係る検査用具1Bを説明するための説明図である。検査用具1Bは、第二実施形態と同様、複数のスリット部6が単一の基材層テープ4上に形成されている。ここで、図8は、終端接続部32を構成するシース29に取り付けられた初期状態における検査用具1Bの状況を示している。第二実施形態における検査用具1Aとの主な相違点は、スリット幅Ws(ここでは、初期状態を説明しているため、初期スリット幅Wssに相当する。)が広く設定されたスリット部と、狭く設定されたスリット部とが混在していることにある。
【0049】
図中の符号6Xで表すスリット部は、符号6Yで表すスリット部に比べて、初期スリット幅Wssが広く設定されている。ここで、初期スリット幅Wssが相対的に広く設定されるスリット部6Xを「収縮・伸長兼用スリット部」と称する。収縮・伸長兼用スリット部6Xは、少なくとも検査対象物(シース29)の収縮変形を検知するために形成されているスリット部である。つまり、これは、検査対象物(シース29)の収縮変形のみを検知するため、或いは収縮変形及び伸長変形の双方を検知するためのスリット部と換言できる。一方、初期スリット幅Wssが相対的に狭く設定されるスリット部6Yを「伸長検知用スリット部」と称する。伸長検知用スリット部6Yは、検査対象物(シース29)の伸長変形のみを検知するために形成されているスリット部である。
【0050】
ここでは、収縮・伸長兼用スリット部6Xにおける初期スリット幅を第一初期スリット幅Wss1とし、伸長検知用スリット部6Yにおける初期スリット幅を第二初期スリット幅Wss2として説明する。第一実施形態で述べたようにシース29が初期状態から伸長する場合にはスリット幅Wsが拡大する方向に推移するため、初期スリット幅Wssを狭く設定しても問題ない。一方、シース29が初期状態から収縮変形する場合にはスリット幅Wsが狭くなる方向に推移する。そのため、初期スリット幅Wssを過度に狭く設定してしまうと、シース29が初期状態から僅かに収縮しただけでスリット幅Wsが零となってしまうことが予想される。即ち、上層分割テープ5同士が接触する事で互いに干渉し合い、その後の収縮変形にスリット幅Wsの変化が追従できなくなるおそれがある。
【0051】
そのような不具合を回避するために、本実施形態では、収縮・伸長兼用スリット部6Xにおける第一初期スリット幅Wss1を伸長検知用スリット部6Yにおける第二初期スリ
ット幅Wss2に比べて広く(大きな値に)設定している。例えば、第二初期スリット幅Wss2を零〜数mm程度に設定し、第一初期スリット幅Wss1を数十mm程度に設定してもよい。但し、これらの組み合わせは例示的なものであり、この範囲に必ずしも限定されるものではない。
【0052】
以上のように、検査用具1Bでは、スリット部の初期スリット幅Wssに関して、そのスリット部が少なくとも検査対象物の収縮変形を検知するために形成される場合、検査対象物の伸長変形のみを検知するために形成される場合に比べて相対的に広く設定される。そうすれば、検査対象物の収縮変形を検知するために形成されたスリット部を挟んで対向する上層分割テープ5同士が接触してしまうことがない。
【0053】
尚、図8においては、一の検査用具に収縮・伸長兼用スリット部6X及び伸長検知用スリット部6Yの双方を形成させているが、これに限定されない。例えば、収縮・伸長兼用スリット部6Xと伸長検知用スリット部6Yとが、それぞれ別個の検査用具に備えられてもよい。具体的には、第一の検査用具に形成されたスリット部が収縮・伸長兼用スリット部6Xであって、第二の検査用具に形成されたスリット部が伸長検知用スリット部6Yである場合には、前者の第一初期スリット幅Wss1を後者の第二初期スリット幅Wss2に比べて相対的に広く設定してもよい。これによって、検査用具1Bについて述べた効果と同様な効果を奏する。
【0054】
次に、図8中の符号AHs、AHwの意味について説明する。これらの符号は、上層分割テープ5における上層貼付面S3と基材層テープ4における基材層表面S2との接着強度の強弱(大小)を概念的に表すものである。符号AHwに対応する破線領域における上記界面(S2とS3の接着界面)の接着強度を接着強度AHwとして表し、符号AHsに対応する破線領域における該界面の接着強度を接着強度AHsとして表す。この実施形態では、接着強度AHwが接着強度AHsよりも低く設定される。
【0055】
上記したように伸長検知用スリット部6Yは、シース29の伸長変形を検知する仕様として設計されている。シース29が伸長するとそれに追従して基材層テープ4が伸長する結果、該基材層テープ4に貼付されている上層分割テープ5b,5cの相対間隔が広がるのである。ところが、上層分割テープ5b,5cは比較的硬く、基材層テープ4に追従して変形しない場合、伸長検知用スリット部6Yの近傍部位(図中、符号AHwに対応)において上層貼付面S3と基材層表面S2とを強固に接着してしまうと、基材層テープ4が上層分割テープ5b,5cによって拘束され、その円滑な伸長変形が阻害される可能性がある。そこで、検査用具1Bでは、接着強度AHwを接着強度AHsよりも低く設定する事で上記不具合を回避する事ができる。即ち、基材層テープ4が上層分割テープ5b,5cによって拘束されることがなく、シース29の伸長変形に精度良く追従して、スリット幅Wsが変化するからである。尚、収縮・伸長兼用スリット部6Xを挟んで対向する上層分割テープ5に関しては、基材層表面S2に対する上層貼付面S3の接着強度を、領域毎で特に変更しなくてもよい。
【0056】
以上、本発明を実施する形態を説明したが、可能な限り各実施形態の組合せを含むことができる。また、本発明の本旨を逸脱しない範囲内において上記した実施形態には種々の変更を加えてもよい。例えば、本発明における伸縮状態検査用具を適用する検査対象物としては電力ケーブルの終端接続部を例に挙げて説明したが、これに限定されず、種々のチューブ・ホース類(例えば、車両のエンジンルーム内に配置される各種のチューブ・ホース類であってもよい)や、その他の対象物に適用する事ができる。
【符号の説明】
【0057】
1 伸縮状態検査用具
4 基材層テープ
5 上層分割テープ
6 スリット部
29 シース
30 電力ケーブル
32 終端接続部
S1 基材層貼付面
S2 基材層表面
S3 上層貼付面
S4 上層表面
Ws スリット幅
Wss 初期スリット幅
【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象物の伸縮状態を目視検査するための伸縮状態検査用具であって、
前記検査対象物に貼付可能な粘着性を有する貼付面を有し、且つ該検査対象物の伸縮変形に追従して変形可能な基材層テープと、
前記基材層テープにおける前記貼付面と逆側の表面上に貼付された複数の上層分割片と、
互いに隣り合う前記上層分割片同士の間に形成される隙間であって且つ前記検査対象物の伸縮変形に伴い該上層分割片同士の相対間隔が変化する事によってその幅が変化するスリット部と、
を備える伸縮状態検査用具。
【請求項2】
前記上層分割片において前記基材層テープ表面に貼付されない側の面と、該基材層テープの表面とは、互いに異なる色柄要素を有してなる、
請求項1に記載の伸縮状態検査用具。
【請求項3】
前記基材層テープの前記貼付面が前記検査対象物に貼付される初期状態における前記スリット部の初期スリット幅は、該スリット部が少なくとも該検査対象物の収縮変形を検知するために形成される場合には、該検査対象物の伸長変形のみを検知するために形成される場合に比べて相対的に広く設定される、
請求項1又は2に記載の伸縮状態検査用具。
【請求項1】
検査対象物の伸縮状態を目視検査するための伸縮状態検査用具であって、
前記検査対象物に貼付可能な粘着性を有する貼付面を有し、且つ該検査対象物の伸縮変形に追従して変形可能な基材層テープと、
前記基材層テープにおける前記貼付面と逆側の表面上に貼付された複数の上層分割片と、
互いに隣り合う前記上層分割片同士の間に形成される隙間であって且つ前記検査対象物の伸縮変形に伴い該上層分割片同士の相対間隔が変化する事によってその幅が変化するスリット部と、
を備える伸縮状態検査用具。
【請求項2】
前記上層分割片において前記基材層テープ表面に貼付されない側の面と、該基材層テープの表面とは、互いに異なる色柄要素を有してなる、
請求項1に記載の伸縮状態検査用具。
【請求項3】
前記基材層テープの前記貼付面が前記検査対象物に貼付される初期状態における前記スリット部の初期スリット幅は、該スリット部が少なくとも該検査対象物の収縮変形を検知するために形成される場合には、該検査対象物の伸長変形のみを検知するために形成される場合に比べて相対的に広く設定される、
請求項1又は2に記載の伸縮状態検査用具。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−188723(P2011−188723A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−54772(P2010−54772)
【出願日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【Fターム(参考)】
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