説明

位相差フィルムの製造方法

【課題】フィルム全体にわたって均一な光学特性を有する位相差フィルムの簡便・安価な製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明の位相差フィルムの製造方法は、長尺の基材の表面を、該基材の搬送方向に対して所定の角度で配向処理する工程と;一方の表面に凸部を有する剥離フィルムを、該凸部を有さない表面と該基材の配向処理された表面とが対向するようにして貼り合わせ、積層体を形成する工程と;該積層体を巻き取り、ロール体にする工程と;該ロール体から該積層体を繰り出し、および、該積層体から該剥離フィルムを剥離する工程と;該基材の配向処理された表面に液晶化合物を塗布する工程と;を含む。ここで、凸部表面と基材の配向処理されていない表面との間の摩擦係数は1.0以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位相差フィルムの製造方法に関する。より詳細には、本発明は、フィルム全体にわたって均一な光学特性を有する位相差フィルムの簡便・安価な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えばプラスチックフィルム表面に液晶化合物を塗布して配向させることにより位相差フィルムを製造する方法が知られている。このような製造方法においては、液晶化合物をフィルム表面上で配向させるために、例えば起毛布によってフィルム表面を一方向に擦るラビング処理を施すのが一般的である。さらに、このようなラビング処理は、裁断したフィルム単位で施すよりも、長尺状のフィルムにいわゆるロール・ツー・ロール方式で連続的に施すことが好ましいとされている。製造効率およびコストの面で圧倒的に有利だからである。
【0003】
したがって、光学フィルムを製造するに際し、上記のようなロール・ツー・ロール方式によって長尺のプラスチックフィルムに連続的にラビング処理を施す方法として、種々の方法が提案されている。
【0004】
例えば、鏡面仕上げされた金属表面を有する搬送ベルトで長尺のプラスチックフィルムを搬送しながら、搬送ベルト上に配置されたラビングロールで上記フィルム表面にラビング処理を施す方法が提案されている(特許文献1参照)。プラスチックフィルムを構成する材料としては、トリアセチルセルロース(TAC)やポリエチレンテレフタレート(PET)などの直鎖状高分子が用いられている。当該方法においては、ラビング処理の後、重合性液晶化合物をフィルムのラビング処理表面に塗布し、乾燥・配向させ、紫外線などを照射することにより重合性液晶化合物を架橋させ、光学フィルムを製造している。
【0005】
上記液晶化合物を塗布する前に、ラビング処理面の電荷を均一にするために剥離フィルムを貼り合わせることも公知である(例えば、特許文献2参照)。このようにしてラビング処理面の電荷を均一にすることにより、ラビング処理面に塗布される液晶化合物の配向性が大きく向上する。
【0006】
一方、上記のような光学フィルムの製造方法において、設備的および時間的な制約から、一連の工程を分割して行う場合がある。例えば、ラビング処理後のラビング処理面に剥離フィルムを貼り合わせて積層体とした後で、当該積層体を搬送方向に直交する軸回りに巻き取ってロール体を形成し、当該ロール体を保管する場合がある。
【0007】
しかし、上記のようなロール体を形成すると、ラビング処理面に応力がかかってしまう。その結果、ラビング処理面の電荷が不均一となり、剥離フィルムを貼り合わせたにもかかわらず、液晶化合物の配向性が乱れてしまう場合がある。その結果、得られる光学フィルムにスジ状に見える位相差ムラが発生する場合がある。さらに、ロール体を形成する際には、巻きズレを防止することも、得られるフィルムの光学特性への悪影響防止および製造効率の向上の観点からきわめて重要である。
【特許文献1】特開2004−170454号公報
【特許文献2】特開2006−72298号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記従来の課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、フィルム全体にわたって均一な光学特性を有する位相差フィルムの簡便・安価な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の位相差フィルムの製造方法は、長尺の基材の表面を配向処理する工程と;一方の表面に凸部を有する剥離フィルムを、該凸部を有さない表面と該基材の配向処理された表面とが対向するようにして貼り合わせ、積層体を形成する工程と;該積層体を巻き取り、ロール体にする工程と;該ロール体から該積層体を繰り出し、および、該積層体から該剥離フィルムを剥離する工程と;該基材の配向処理された表面に液晶化合物を塗布する工程と;を含み、該凸部表面と該プラスチックの配向処理されていない表面との間の摩擦係数が1.0以上である。
【0010】
好ましい実施形態においては、上記剥離フィルムの凸部は、幅方向の両端部近傍に設けられている。
【0011】
好ましい実施形態においては、上記剥離フィルムの凸部は、平坦なベースフィルムに貼り付けられた粘着テープにより形成されている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、位相差フィルムの製造方法において一旦ロール体を形成する際に、一方の表面に凸部を有する剥離フィルムを基材の配向処理表面に貼り付けることにより、剥離フィルムの凸部が設けられていない部分では基材の裏面との接触が防止される。したがって、巻き取りにより配向処理表面にかかる応力が凸部のない箇所では生じ難くなる。このことにより、ロール形成による配向処理表面への影響が極力防止され、液晶化合物の配向性への影響が顕著に防止され得る。その結果、フィルム全体にわたって均一な光学特性を有する位相差フィルムを得ることができる。さらに、凸部表面が基材表面に対して特定の範囲の摩擦係数を有することにより、巻きズレが顕著に防止され得る。加えて、このような凸部は、例えば粘着テープを貼り付けるだけで形成され得るので、コストや製造効率も非常に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
A.配向処理
本発明の位相差フィルムの製造方法における配向処理としては、任意の適切な配向処理が採用され得る。具体例としては、機械的な配向処理、物理的な配向処理、化学的な配向処理が挙げられる。機械的な配向処理の具体例としては、ラビング処理、延伸処理が挙げられる。物理的な配向処理の具体例としては、磁場配向処理、電場配向処理が挙げられる。化学的な配向処理の具体例としては、斜方蒸着法、光配向処理が挙げられる。以下、簡単のため、配向処理の好ましい一例として、ラビング処理について説明する。適切な装置を用いることにより、ラビング処理以外の配向処理も行われ得ることはいうまでもない。図1は、本発明の好ましい実施形態による位相差フィルムの製造方法におけるラビング処理工程を説明するための模式図である。図1に示すように、本発明においては、長尺の基材Fがラビング処理装置100を搬送されながら、当該基材表面にラビング処理が施される。1つの実施形態においては、ラビング処理は、基材Fの搬送方向Aに対して所定の角度を規定するようにして行われる。所定の角度のラビング処理は、ラビングロール4を、その回転軸が基材搬送方向に対する直交方向から所定の角度ずれるように配置することにより行われる。ラビング処理装置の詳細は後述する。ラビング処理方向(所定の角度)は、目的に応じて適切に設定され得る。本発明におけるラビング処理工程によれば、搬送方向(長尺基材の長手方向)に対して直交でも平行でもない角度でラビング処理を行うことができる。その結果、目的に応じて、長尺フィルム(基材)の長手方向に対して任意の適切な角度を規定する方向に遅相軸を有する位相差フィルムを作成することができる。例えば、円偏光板用の位相差フィルムを作成する場合には、ラビング処理は、基材搬送方向に対して45°の角度で行われる。45°の角度でラビング処理を行うことにより、得られる位相差フィルム(代表的には、液晶化合物の配向硬化フィルムまたは固化フィルム)は、当該ラビング処理方向に対応した方向(すなわち、基材の長手方向に対して45°方向)に遅相軸を有する。偏光子用フィルムは、その製造方法に起因して長手方向に吸収軸を有するので、偏光子の吸収軸と位相差フィルムの遅相軸が45°の角度を有するようにして、ロール・ツー・ロールで貼り合わせることができる。このような場合、位相差フィルムの面内位相差を可視光の約1/4に設定することにより、良好な円偏光特性を有する円偏光板が、非常に優れた製造効率で得られ得る。なお、位相差フィルムの面内位相差は、液晶化合物の塗布厚みを調整することにより制御され得る。
【0014】
上記ラビング処理は、基材Fに直接施してもよく、基材に配向膜を形成し、当該配向膜に施してもよい。
【0015】
基材Fとしては、ロール形成が可能であり、かつ、表面に塗布された液晶化合物が適切に配向する限り、任意の適切なフィルム(代表的には、プラスチックフィルム)が用いられ得る。基材Fを構成する材料の具体例としては、トリアセチルセルロース(TAC)等のセルロース系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(4−メチルペンテン−1)、ポリノルボルネン等のポリオレフィン、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルサルファイド、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンオキサイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリアリレート、アクリル樹脂、ポリビニルアルコール、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、およびこれらのアロイが挙げられる。1つの実施形態においては、基材Fは、偏光子の保護フィルムとしても機能し得る。このような基材であれば、位相差フィルムを偏光子に積層して位相差層付偏光板を作製する際に、積層工程が簡略化され、かつ、位相差層付偏光板の薄型化に貢献し得る。このような基材を実現し得るフィルムとしては、TACフィルム、ポリノルボルネン等のフィルムが挙げられる。このようなフィルムはブロッキングしやすいので、本発明の方法は、このようなフィルムを基材として用いる場合に特に有効である。
【0016】
基材Fの厚みは、目的に応じて適切に設定され得る。基材の厚みは、好ましくは10〜100μm、さらに好ましくは30〜70μmである。このような範囲であれば、搬送性に優れ、かつ、偏光子の保護フィルムとしても適用可能である。基材Fの表面粗さRzは、好ましくは120nm〜600nm、さらに好ましくは200nm〜500nm、特に好ましくは300nm〜450nmである。Rzが小さすぎると、基材搬送時にキズが生じやすくなる。Rzが大きすぎると、凹凸が大きすぎてラビング処理を施すことが困難になる場合があり、また、フィルム表面に異物が付着し易くなる。なお、本明細書において「表面粗さRz」とは、JIS B0601(2001)で規定されている最大高さを意味する。
【0017】
上記配向膜を構成する材料としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリイミド、ポリアミドが挙げられる。配向膜は、例えば、これらのポリマーの溶液を基材表面に塗布することにより形成される。塗布方法の具体例としては、スピンコート法、バーコート法、スロットダイコート法、ディップコート法が挙げられる。配向膜の厚みは、基材の表面粗さ等に応じて適切に設定され得る。配向膜の厚みは、好ましくは0.1μm〜5μm、さらに好ましくは0.2μm〜3μm、特に好ましくは0.5μm〜2.5μmである。
【0018】
基材Fの搬送速度は、好ましくは1〜50m/分、さらに好ましくは1〜10m/分である。ラビングロール4の回転数は、好ましくは1〜3000rpm、さらに好ましくは500〜2000rpmである。ラビングロール4の押し込み量は、好ましくは100〜2000μm、さらに好ましくは100〜1000μmである。このような条件でラビング処理を行うことにより、基材の特性に悪影響を与えることなく、良好な配向を得ることができる。なお、本明細書において「ラビングロール4の押し込み量」とは、基材F表面に対してラビングロール4の位置を変動させた場合において、ラビングロールに巻回した起毛布の毛先が最初に基材F表面に接した位置を原点(0点)とし、当該原点から基材Fに向けてラビングロール4を押し込んだ量(毛先の位置の変動量)を意味する。
【0019】
以下、上記ラビング処理に用いられるラビング処理装置について説明する。ラビング処理装置100は、駆動ロール1、2と、駆動ロール1、2間に架設され、長尺の基材Fを支持して搬送する無限軌道の搬送ベルト3と、搬送ベルト3の上方において上下方向に昇降可能に配設されたラビングロール4と、基材Fを支持する搬送ベルト3の下面を支持するバックアップロール機構5とを備える。ラビング処理装置100の前後には、必要に応じて適切な静電気除去装置および/または除塵装置を設置してもよい。
【0020】
ラビングロール4は、その外周面に起毛布4aが巻回されている。起毛布の材質は、ラビング処理される基材Fの材質や所望の配向状態(結果として、得られる位相差フィルムの光学特性)等に応じて適切に選択され得る。代表的には、起毛布の材質としては、レーヨン、コットン、ナイロン、トリアセテートまたはこれらの混合物が挙げられる。本発明の製造方法においては、ラビングロール4の回転軸は、基材の搬送方向Aに対して所定の角度を規定するように(すなわち、基材の長手方向に対して任意の軸角度に設定できるように)構成されている。
【0021】
図2(a)は、図1の工程に用いるラビング処理装置におけるバックアップロール機構の概略を示す平面図であり、図2(b)は、バックアップロール近傍の斜視図であり、図2(c)は、バックアップロール機構を基材搬送方向から見た概略図である。バックアップロール機構5は、図2(a)〜図2(c)に示すように、搬送ベルト3の搬送方向(図2(a)の矢印A方向)に沿ってそれぞれ回転する複数のバックアップロール51を備える。各バックアップロール51は、ラビングロール4の直下であって、ラビングロール4の回転軸と略平行な直線に沿って配設されている。このような構成によれば、ラビングロール4の回転軸が搬送ベルト3の搬送方向に対して所定の角度を規定する場合(図2(a)の直線C1がラビングロール4の回転軸である場合:すなわち、ラビング処理を基材長手方向に対して直交でも平行でもない方向に行う場合)であっても、各バックアップロール51は、基材Fおよび搬送ベルト3を介して、傾斜したラビングロール4の直下に配設されることになる。さらに、各バックアップロール51が、搬送ベルト3の搬送方向(基材Fの搬送方向)に沿ってそれぞれ回転するので、各バックアップロール51が搬送ベルト3の搬送方向への移動ひいては基材Fの搬送を阻害することもない。したがって、仮にラビングロール4の回転軸が搬送ベルト3の搬送方向に対して所定の角度を規定する状態でラビングロール4の押し込み量を大きくしたとしても、搬送ベルト3に緩みが生じ難く且つ搬送ベルト3の移動が阻害されることもないので、安定した状態でラビング処理を施すことが可能となる。その結果、基材Fに均一な配向特性を付与することができ、結果として、均一な光学特性を有する位相差フィルムを製造することができる。
【0022】
好ましくは、バックアップロール機構5は、ラビングロール4の回転軸と略平行な直線に沿って配設された台座部52と、搬送ベルト3表面の法線回りに回転可能に台座部52上に軸支された複数の支持部53とを備え、各バックアップロール51は、各支持部53に搬送ベルト3の搬送方向に沿って回転可能に軸支されている。より詳細には、支持部53は、軸部材54によって台座部52に軸支されており、軸部材54回りに回転可能とされている。また、バックアップロール51は、軸部材55によって支持部53に軸支されており、軸部材55回りに回転可能とされている。このような構成によれば、ラビングロール4の回転軸が搬送ベルト3の搬送方向に対して直交方向(図2(a)の直線C0方向)からずれたとしても、台座部52を同じように(すなわち、ラビングロールの平行軸と略平行な直線に沿うように)ずらすことができる。その結果、搬送ベルト3の移動に伴って(搬送ベルト3下面の摩擦力によって)、支持部53に軸支されたバックアップロール51が搬送ベルト3の搬送方向に沿って回転する向きとなるように、台座部52に軸支された支持部53が自然と回転することになる。言い換えれば、ラビングロールの角度(ラビング処理方向)が固定ではなく、ラビング処理方向の設定を変更したとしても、それに合わせて、各バックアップロール51がラビングロール4の直下に配設され且つ搬送ベルト3の搬送方向に沿って回転させることが可能である。その結果、1つのロール(基材)から、それぞれ異なる方向に遅相軸を有する位相差フィルムを取り出すことが可能となる。
【0023】
好ましくは、バックアップロール機構5は、ラビングロール4の回転軸を搬送ベルト3の搬送方向に対して直交方向からずらした場合に、これに伴って台座部52もずれるようにラビングロール4と台座部52とを連結する連結機構56を備える。より詳細には、連結機構56は、ラビングロール4を回転軸回りに回転可能に且つ上下方向に昇降可能に支持すると共に、台座部52を支持する断面略コの字状の枠体とされており、その頂部に取り付けられたモーターMによって、図2(c)の矢印Bの方向に回転可能とされている。連結機構56が図2(c)の矢印Bの方向に回転することにより、連結機構56に支持されたラビングロール4および台座部52は、同じ方向に同じ角度だけ回転する(すなわち、搬送方向に対する直交方向から同じ角度だけずれる)ことになる。したがって、ラビングロール4と台座部52とを個別に搬送方向から所定の角度ずらす構成に比べて、設定がきわめて容易となる。連結機構56は、図示例のようにモーターで回転させてもよく、手動で回転させてもよい。
【0024】
B.積層体の形成および該積層体のロール化
上記ラビング処理工程の後、一方の表面に凸部を有する剥離フィルムを、該凸部を有さない表面と上記基材Fのラビング処理された表面(以下、ラビング処理表面と称することもある)とが対向するようにして貼り合わせ、積層体を形成する。さらに、当該積層体を巻き取り、ロール体を形成する。代表的には、積層体の形成およびロール化は、連続的に行われる。以下、図面を参照して具体的に説明する。
【0025】
図3は、本発明の好ましい実施形態による製造方法における積層体の形成およびロール化を説明する概念斜視図である。図3に示すように、剥離フィルムGは、ベースフィルムG1と該ベースフィルムの一方の表面に形成された凸部G2とを有する。図示例では、凸部G2は、ベースフィルムG1に貼り付けられた粘着テープで構成される。凸部G2の構成は、図示例に限定されず、例えば、幅方向の両端部が中央部よりも厚いフィルムを一体成形することにより形成してもよく、フィルムにエンボス加工を施して形成してもよい。凸部G2の形成位置は、目的に応じて適切に選択され得る。図示例では、凸部G2は、ベースフィルムの幅方向(搬送方向Aに直交する方向)の両端部近傍に設けられている。凸部G2は、図示例のようにベースフィルムの長手方向に連続して設けられてもよく、所定の間隔をあけて設けられてもよい。
【0026】
本実施形態においては、まず、基材Fのラビング処理表面にベースフィルムG1が貼り付けられる。貼り付けは、任意の適切な手段(図示せず)を用いて行われる。好ましくは、ベースフィルムの貼り付けは、上記ラビング処理に引き続いて行われる。ラビング処理とベースフィルムの貼り付けを連続的に行うことにより、ラビング処理表面の汚染が防止され得る。
【0027】
ベースフィルムG1は、ベース層と粘着層とを有する。粘着層は、基材のラビング処理表面に対して貼着可能で且つ剥離可能な程度の粘着性(剥離力)を有する。ベースフィルムG1の製造方法としては、代表的には、ベース層と粘着層とを共押出しする方法が挙げられる。共押出し法は、ベース層成分および粘着層成分をそれぞれ押し出す金型を用いて、インフレーション法、Tダイ法などに準じて行うことができる。その他の製造方法として、例えば、ベース層に粘着層を塗布する方法、ベース層に粘着層を転写する方法が挙げられる。
【0028】
ベース層を構成する材料としては、例えば、ポリオレフィン系樹脂が挙げられる。ポリオレフィン系樹脂は、オレフィン系モノマーの単独重合体であってもよく、複数のオレフィン系モノマーおよび/またはオレフィン系モノマーと他のモノマーとの共重合体であってもよい。共重合体は、ランダム共重合体であってもよく、ブロック共重合体であってもよい。ポリオレフィン系樹脂の具体例としては、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン等のエチレン系ポリマー;ポリプロピレン等のプロピレン系ポリマー;エチレン・プロピレン共重合体、エチレン−α−オレフィン共重合体等のオレフィン系共重合体;リアクターTPO;エチレン・メタクリル酸メチル共重合体等のオレフィン系モノマーと他のモノマーとの共重合体が挙げられる。
【0029】
ベース層は、必要に応じて、各種添加剤を含んでもよい。添加剤の具体例としては、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤(例えば、ヒンダードアミン系)、帯電防止剤、充填剤(例えば、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、シリカ、酸化チタン)、顔料、目ヤニ防止剤、滑剤、アンチブロッキング剤が挙げられる。
【0030】
ベース層の厚みは、好ましくは20〜300μm、さらに好ましくは30〜250μm、特に好ましくは40〜200μmである。このような厚みであれば、基材に積層してロール状に巻き取る際の巻き取り性に優れる。
【0031】
粘着層を構成する材料としては、任意の適切な粘着剤が採用され得る。代表例としては、ゴム系、ウレタン系、アクリル系の粘着剤、エチレン・酢酸ビニル共重合体が挙げられる。ゴム系粘着剤のベースポリマーの具体例としては、天然ゴム、ポリイソブチレン、ブチルゴム、ポリイソプレン、ポリブタジエン等のジエン系ポリマーおよびその水素添加物、エチレンプロピレンゴム、エチレン−α−オレフィン、エチレン−プロピレン−α−オレフィン、プロピレン−α−オレフィン等のオレフィン系ゴム、スチレン・ブタジエン・スチレン(SBS)、スチレン・イソプレン・スチレン(SIS)、スチレン・エチレン−ブチレン・スチレン(SEBS)、スチレン・エチレン−プロピレン・スチレン(SEPS)等のA−B−A型ブロックコポリマー、スチレン・ブタジエン(SB)、スチレン・イソプレン(SI)、スチレン・エチレン−ブチレン共重合体(SEB)、スチレン・エチレン−プロピレン共重合体(SEP)等のA−B型ブロックコポリマー、スチレン・ブタジエンラバー(SBR)等のスチレン系ランダム共重合体、水添スチレン系ランダム共重合体(HSBR)、スチレン・エチレン−ブチレン共重合体・オレフィン結晶(SEBC)等のA・B・O型のスチレン・オレフィン結晶系ブロックコポリマー、オレフィン結晶・エチレン−ブチレン共重合体・オレフィン結晶(CEBC)等のC・B・C型のオレフィン結晶系ブロックコポリマーが挙げられる。
【0032】
粘着層を構成する粘着剤は、粘着特性の制御等の目的に応じて適切な添加剤を含み得る。添加剤の具体例としては、軟化剤、オレフィン系樹脂、シリコーン系ポリマー、液状アクリル系共重合体、リン酸エステル系化合物、粘着付与剤、老化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤(例えば、ヒンダードアミン系)、充填剤(例えば、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、シリカ、酸化チタン)、顔料が挙げられる。
【0033】
粘着層のラビング処理表面に対する剥離力は、好ましくは0.5N/50mm以下であり、さらに好ましくは0.1〜0.5N/50mmであり、特に好ましくは0.2〜0.4N/50mmである。このような範囲の剥離力であれば、剥離フィルムを剥離する際にラビング処理面に悪影響を与えることがなく、かつ、糊残り等も発生しない。加えて、このような範囲の剥離力であれば、適切な剥離操作を行うことにより、剥離後のラビング処理表面が正または負のいずれかの電荷に一様に帯電し得る。
【0034】
粘着層の厚みは、剥離力等に応じて適切に設定され得る。粘着層の厚みは、好ましくは1〜50μm、さらに好ましくは2〜40μm、特に好ましくは5〜20μmである。粘着層は、必要に応じて、実用に供されるまでの間セパレーターなどを仮着して保護してもよい。
【0035】
本実施形態においては、次いで、ベースフィルムG1の基材と反対側の表面に凸部G2が形成される。本実施形態においては、凸部G2は、ベースフィルムG1に粘着テープを貼り付けることにより形成される。上記のように、凸部G2の形成位置(粘着テープの貼り付け位置)は、目的に応じて適切に選択されるので、図示例(ベースフィルムの幅方向の両端部近傍)には限定されない。粘着テープG2の貼り付けは、例えば、以下の手順で行われる:図3に示すように、搬送方向Aに対して略直交する軸線を有する粘着テープ繰り出し軸61から粘着テープG2を繰り出し、繰り出された粘着テープの先端部がベースフィルムG1表面の搬送方向Aの下流側端部に貼着された状態で、ベースフィルムG1が貼り合わされた基材Fを搬送することにより、ベースフィルムG1の幅方向両端部近傍に粘着テープG2が貼り付けられる。このような貼り付けを行う装置としては、任意の適切なスリッターが採用され得る。上述したように、粘着テープは、図示例のように搬送方向Aに沿って連続的に貼り付けてもよく(すなわち、凸部をベースフィルム長手方向に沿って連続して設けてもよく)、搬送方向Aの所定ピッチ毎に間隔をあけて貼り付けてもよい(すなわち、島状の凸部を所定の間隔で設けてもよい)。
【0036】
本発明においては、凸部G2表面と基材Fのラビング処理されていない表面(以下、裏面とも称する)との間の摩擦係数は1.0以上であり、好ましくは1.0〜1.2であり、より好ましくは1.02〜1.18であり、さらに好ましくは1.04〜1.18である。凸部表面が基材Fの裏面に対してこのような範囲の摩擦係数を有することにより、ロール状に巻き取った際の巻き締まりが顕著に防止され、その結果、フィルム全体にわたって均一な光学特性を有する位相差フィルムが得られ得る。加えて、巻きズレも顕著に防止され得る。摩擦係数が1.0未満である場合には、巻きズレが良好に防止できない場合がある。摩擦係数が大きすぎると、フィルムの滑り性が悪くなり、ブロッキングが生じる場合がある。例えばベースフィルムを一体成形で形成する場合およびベースフィルムにエンボス加工を施す場合には、凸部表面の摩擦係数は、任意の適切な表面処理を行うことにより、基材Fの裏面に対して特定の値を有するように制御され得る。粘着テープを貼り付けて凸部を形成する場合には、適切な摩擦係数を有する市販のテープを用いてもよく、市販のテープに適切な表面処理を施して用いてもよい。なお、摩擦係数は、JIS K 7125にしたがって求められる。
【0037】
凸部の厚みは、凸部表面と基材Fの裏面との間の摩擦係数、凸部の幅、凸部の形成個数、積層体(したがって、ロール体)の幅、積層体の長さ(したがって、ロール体の径)等に応じて適切に設定され得る。凸部の厚みは、好ましくは30〜70μmであり、さらに好ましくは35〜65μmであり、特に好ましくは40〜60μmである。凸部がこのような範囲の厚みを有することにより、表面の摩擦係数に起因する効果と相乗して、ロール状に巻き取った際の巻き締まりが顕著に防止され、その結果、フィルム全体にわたって均一な光学特性を有する位相差フィルムが得られ得る。
【0038】
凸部の幅は、凸部表面と基材Fの裏面との間の摩擦係数、凸部の厚み、凸部の形成個数、積層体(したがって、ロール体)の幅、積層体の長さ(したがって、ロール体の径)等に応じて適切に設定され得る。1つの実施形態においては、凸部の幅は、基材Fの幅に対して、好ましくは1/40〜1/10であり、さらに好ましくは1/25〜1/15である。1つの実施形態においては、凸部の幅は、好ましくは30〜70mmであり、さらに好ましくは40〜60mmである。凸部の幅を適切に設定することにより、表面の摩擦係数および厚みに起因する効果と相乗して、ロール状に巻き取った際の巻き締まりが顕著に防止され、その結果、フィルム全体にわたって均一な光学特性を有する位相差フィルムが得られ得る。
【0039】
凸部として粘着テープを用いる実施形態においては、粘着テープを構成する材料としては、上記所望の摩擦係数が得られる限りにおいて任意の適切な材料が採用され得る。具体例としては、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィンが挙げられる。1つの実施形態においては、粘着テープとしては、市販のOPPテープ(二軸延伸ポリプロピレンテープ)が用いられ得る。別の実施形態においては、市販のポリエチレンテープが用いられ得る。
【0040】
以上のようにして、ベースフィルムG1と粘着テープG2とを貼り付けることにより、剥離フィルムGが基材Fの表面に形成され、積層体Hが形成される。なお、図示例ではベースフィルムG1と粘着テープG2とを順次貼り付ける形態について説明したが、ベースフィルムG1と粘着テープG2とを予め貼り付けて剥離フィルムGを形成し、当該剥離フィルムGを基材Fの表面に貼り付けてもよいことはいうまでもない。
【0041】
次に、積層体Hを巻き取り、ロール体H’を形成する。巻き取りは、例えば、以下の手順により行われる:図3に示すように、搬送方向Aの粘着テープ繰り出し軸61のさらに下流側に、搬送方向Aに対して略直交する方向に軸心を有するロール体回転軸62が配設され、当該ロール体回転軸62が回転することにより積層体Hが巻き取られ、ロール体H’が形成される。ロール体H’は、位相差フィルムの製造ラインから外して保管することができるので、位相差フィルムの製造工程をいったん中断し、所望の時期に最終の位相差フィルムを製造することができる。
【0042】
図4は、本実施形態において巻き取られたロール体のロール体回転軸を含む概略断面図である。ロール体H’は、剥離フィルムGの凸部(粘着テープ)G2が基材Fの裏面に当接した状態となり、剥離フィルムGの凸部G2が設けられていない部分に空間部Jが形成される。
【0043】
図示例では、凸部G2が内側になるように巻き取られているが、凸部G2が外側になるように巻き取ってもよい。好ましくは、凸部G2が内側になるように巻き取られる。基材Fのすべての面に空間部Jが形成されるので、外側に巻き取る場合よりも、ラビング処理表面のより広い範囲で配向性への悪影響を防止することができる。
【0044】
このように、剥離フィルムGのラビング処理表面と対向する面とは反対側の面に凸部G2を設けることにより、積層体Hの巻き取り時に、剥離フィルムGの大部分(凸部が設けられていない部分)で基材Fの裏面との接触が防止される。その結果、巻き取りによりラビング処理表面にかかる応力が、凸部が設けられていない部分では生じ難くなる。言い換えれば、積層体Hを巻き取ることによる応力が上記空間部Jにより積層体Hの長手方向に拡散する(すなわち、巻き締まりが防止される)。したがって、ラビング処理後の基材を一時巻き取って保管する場合であっても、当該巻き取りによるラビング処理表面における液晶の配向性への影響を顕著に防止することができる。その結果、フィルム全体にわたって均一な光学特性を有する位相差フィルムを得ることができる。加えて、凸部G2の表面が基材Fの裏面に対して特定の摩擦係数を有することにより、巻きズレが良好に防止され、かつ、ブロッキングが生じることもない。
【0045】
図示した実施形態においては、凸部G2がフィルムの幅方向両端部近傍に設けられるので、特に基材Fの幅方向中央部分においてラビング処理表面への応力を生じ難くすることができる。したがって、フィルムの中央部分における液晶の配向性を特に良好にすることができる。最終的な位相差フィルムは中央部分から切り出すことが多いので、光学特性の均一性にさらに優れた位相差フィルムを得ることができる。
【0046】
上記のように、ロール体H’は、所望の時期まで保管することができる。位相差フィルムの製造を再開する際には、ロール体H’から積層体Hを繰り出し、および、当該積層体Hから剥離フィルムGを剥離する。剥離フィルムGの剥離は、液晶化合物を塗布する直前に行うのが好ましい。基材Fのラビング処理表面の汚染が防止され得るからである。剥離フィルムGの剥離方法としては、任意の適切な方法が採用され得る。好ましくは、剥離フィルムGは、ラビング処理表面の配向性を損なわないように一定速度で剥離される。剥離方法の具体例としては、180°ピールで行う方法が挙げられる。
【0047】
次いで、基材Fのラビング処理表面に液晶化合物が塗布される。塗布された液晶化合物を固化または硬化させることにより、当該液晶化合物の配向状態が固定され、位相差フィルムが得られる。固化は、例えば、液晶化合物をラビング処理表面に塗布した後、液晶化合物が液晶相を示す温度まで加熱し、乾燥させた後、液晶相を示す状態で室温まで急冷することにより行われる。硬化は、例えば、重合性液晶モノマーを用い、液晶モノマーが液晶相を示す温度まで加熱し、乾燥させた後、液晶相を示す状態で室温まで冷却し、紫外線などを照射することにより行うことができる。このようにして得られる位相差フィルムは、代表的には、nx>ny=nzの屈折率分布を有する。位相差フィルムの面内位相差は、上記のように、液晶化合物の塗布厚みを調整することにより制御され得る。液晶化合物を用いることにより、得られる位相差フィルムのnxとnyとの差を非液晶材料に比べて格段に大きくすることができる。その結果、所望の面内位相差を得るための位相差フィルムの厚みを格段に小さくすることができる。例えば、130〜150nmの面内位相差が所望される場合、1.3〜1.5μmの厚みでこのような位相差が実現され得る。
【0048】
液晶化合物は、ポリマーであってもよく、オリゴマーであってもよく、低分子化合物またはモノマーであってもよい。液晶化合物の液晶性の発現機構は、リオトロピックでもサーモトロピックでもどちらでもよい。液晶化合物は、単独で用いてもよく、組み合わせて用いてもよい。液晶化合物が液晶モノマーである場合、例えば、重合性モノマーおよび/または架橋性モノマーであることが好ましい。これは、液晶モノマーを重合または架橋させることによって、液晶モノマーの配向状態を固定できるからである。液晶モノマーを配向させた後に、例えば、液晶モノマー同士を重合または架橋させれば、それによって配向状態を固定することができる。ここで、重合によりポリマーが形成され、架橋により3次元網目構造が形成されることとなるが、これらは非液晶性である。したがって、形成された位相差フィルムは、例えば、液晶化合物に特有の温度変化による液晶相、ガラス相、結晶相への転移が起きることはない。その結果、位相差フィルムは、温度変化に影響されない、極めて安定性に優れた位相差フィルムとなる。上記液晶モノマーの具体例としては、下記式(1)〜(16)で表される化合物が挙げられる。
【化1】

【0049】
代表的には、上記液晶化合物は、当該液晶化合物を適切な溶媒に溶解または分散した溶液または分散液(以下、塗布液とも称する)として塗布される。
【0050】
上記溶媒としては、上記液晶化合物を溶解または分散し得る任意の適切な溶媒が採用され得る。使用される溶媒の種類は、液晶化合物の種類等に応じて適宜選択され得る。溶媒の具体例としては、クロロホルム、ジクロロメタン、四塩化炭素、ジクロロエタン、テトラクロロエタン、塩化メチレン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、クロロベンゼン、オルソジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類、フェノール、p−クロロフェノール、o−クロロフェノール、m−クレゾール、o−クレゾール、p−クレゾールなどのフェノール類、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、メトキシベンゼン、1,2−ジメトキシベンゼン等の芳香族炭化水素類、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン等のケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸プロピルなどのエステル系溶媒、t−ブチルアルコール、グリセリン、エチレングリコール、トリエチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、2−メチル−2,4−ペンタンジオールのようなアルコール系溶媒、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドのようなアミド系溶媒、アセトニトリル、ブチロニトリルのようなニトリル系溶媒、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンのようなエーテル系溶媒、あるいは二硫化炭素、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、酢酸エチルセロソルブ等が挙げられる。好ましくは、トルエン、キシレン、メシチレン、MEK、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸プロピル、酢酸エチルセロソルブである。これらの溶媒は、単独で、または2種類以上を組み合わせて用いられ得る。
【0051】
上記塗布液は、必要に応じて任意の適切な添加剤をさらに含有し得る。添加剤の具体例としては、重合開始剤や架橋剤が挙げられる。これらは、液晶化合物として重合性および/または架橋性液晶モノマーを用いる場合に特に好適に用いられる。上記重合開始剤の具体例としては、ベンゾイルパーオキサイド(BPO)、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)等が挙げられる。上記架橋剤の具体例としては、イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、金属キレート架橋剤等が挙げられる。これらは、単独で、または2種類以上を組み合わせて用いられ得る。他の添加剤の具体例としては、老化防止剤、変性剤、界面活性剤、染料、顔料、変色防止剤、紫外線吸収剤等が挙げられる。これらもまた、単独で、または2種類以上を組み合わせて用いられ得る。
【0052】
上記塗布液における液晶化合物の含有量は、液晶化合物の種類や目的とする位相差フィルムの厚み等に応じて適宜設定され得る。具体的には、液晶化合物の含有量は、好ましくは5〜50重量%であり、さらに好ましくは10〜40重量%であり、最も好ましくは15〜30重量%である。
【0053】
塗布方法としては、任意の適切な方法が採用され得る。具体例としては、ロールコート法、スピンコート法、ワイヤーバーコート法、ディップコート法、エクストルージョン法、カーテンコート法、スプレコート法等が挙げられる。塗布効率の観点から、ワイヤーバーコート法、スピンコート法およびエクストルージョン法が好ましい。
【0054】
塗布液の加熱温度は、液晶化合物の種類に応じて適宜決定され得る。具体的には、加熱温度は、好ましくは40〜120℃であり、さらに好ましくは50〜100℃であり、最も好ましくは65〜95℃である。このような温度範囲であれば、液晶化合物を十分に配向させることができ、かつ、基材Fの選択範囲が広い。また、加熱時間は、好ましくは30秒以上であり、さらに好ましくは1分以上であり、特に好ましくは2分以上である。加熱時間が30秒未満である場合には、液晶化合物が十分に液晶状態をとらない場合がある。一方、加熱時間は、好ましくは10分以下であり、さらに好ましくは8分以下であり、最も好ましくは7分以下である。加熱時間が10分を超えると、添加剤が昇華するおそれがある。
【0055】
以上のようにして、基材F上に位相差フィルム(液晶配向固化フィルムまたは硬化フィルム)が形成される。得られた位相差フィルムは、基材Fから所望の光学部材に転写して用いてもよく、基材Fと位相差フィルムの積層体をそのまま用いてもよい。
【0056】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。
【0057】
(実施例1)
1.ラビング処理
基材Fとして、親水化処理を施した易接着ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを使用し、その表面に厚み2.5μmのポリビニルアルコール(PVA)配向膜を形成した。当該フィルム(の配向膜)に対して、図1および図2に示すようなラビング処理装置を用いてラビング処理を施した。搬送ベルト3表面の鏡面仕上げは表面粗さRa=0.01μm、駆動ロール1および2の外径は550mm、フィルムの搬送速度は5m/分、各バックアップロール51の外径はすべて90mm、隣接する各バックアップロール51の回転軸方向の中心間距離L1はすべて80mm、各バックアップロール51の回転軸方向の幅L2はすべて30mmとした。また、ラビングロール4(起毛布4aを含む)の半径は76.89mmとし、レーヨン製の起毛布を巻回したものを用いた。ラビングロール4の回転軸はフィルムの搬送方向Aに対して直交方向から45°ずらし、各バックアップロール51は、ラビングロール4の直下であって、上記回転軸と平行な直線に沿って配置した。ラビングロール4の回転数は1500rpm、押し込み量は0.4mmとした。なお、配向膜の厚み測定には、大塚電子製の分光光度計:MCPD2000を用いた。
【0058】
2.ロール体の作製
次いで、基材Fのラビング処理表面に、ベースフィルムG1として60μmの厚みを有するポリオレフィン系フィルム(サンエー化研社製、サニテクトPAC−3)を貼り合わせ、当該ベースフィルムG1の幅方向両端部近傍に凸部G2として厚み50μmおよび幅50mmの粘着テープ(日東電工製:商品名「ダンプロンテープ(No.3200)」)を貼り付けて、基材Fのラビング処理表面に剥離フィルムGを設けた。このようにして、積層体Hを作製した。当該積層体Hを巻き取り、ロール体H’とした。凸部G2表面と基材Fの裏面との間の摩擦係数は1.04であった。
【0059】
3.位相差フィルムの作製
ネマチック液晶相を示す重合性液晶化合物(BASF社製、商品名「Paliocolor LC242」)10gと、この重合性液晶化合物に対する光重合開始剤(チバスペシャリティケミカルズ社製、商品名「イルガキュア907」)0.5gと、レベリング剤0.06gとを、シクロペンタノン40gに溶解して、塗布液を調製した。上記で得られたロール体H’を繰り出し、剥離フィルムGを積層体Hから剥離し、基材Fのラビング処理表面に、上記塗布液をバーコーターにより塗布した。次いで、90℃で2分間加熱処理し、液晶化合物を配向させた。このようにして得られた液晶層に、メタルハライドランプを用いて20mJ/cmの光を照射し、該液晶層を硬化させることによってnx>ny=nzの屈折率分布を有する正の一軸性位相差フィルム(コーティングAプレート)を形成した。位相差フィルムの厚みおよび面内位相差は、塗布液の塗布量を変えることにより調整し、厚みを1.4μm、目標とする面内位相差Re(590)を140nmとした。ここで、Re(590)は、23℃における波長590nmの光で測定したフィルム面内の位相差をいい、Re(590)=(nx−ny)×dで求められる。nxは面内の屈折率が最大になる方向(すなわち、遅相軸方向)の屈折率であり、nyは面内で遅相軸に垂直な方向(すなわち、進相軸方向)の屈折率であり、d(nm)はフィルムの厚みである。なお、厚み方向位相差Rth(590)はRth(590)=(nx−nz)×dで求められ、本実施例においてはny=nzであるので、Rth(590)もまた140nmである。nzは、フィルム厚み方向の屈折率である。
【0060】
(実施例2)
基材Fとして、ケン化処理を施したトリアセチルセルロース(TAC)フィルムを用いたこと以外は実施例1と同様にして、位相差フィルムを作製した。凸部G2表面と基材Fの裏面との間の摩擦係数は1.18であった。
【0061】
(比較例1)
粘着テープG2として、日東電工製、商品名「HR301」を用いたこと以外は実施例1と同様にして、位相差フィルムを作製した。凸部G2表面と基材Fの裏面との間の摩擦係数は0.56であった。
【0062】
(比較例2)
粘着テープG2として、日東電工製、商品名「HR301」を用いたこと以外は実施例2と同様にして、位相差フィルムを作製した。凸部G2表面と基材Fの裏面との間の摩擦係数は0.69であった。
【0063】
(比較例3)
粘着テープG2として、サンエー化研社製、商品名「サニテクトPAC−3」を用いたこと以外は実施例1と同様にして、位相差フィルムを作製した。凸部G2表面と基材Fの裏面との間の摩擦係数は1.32であった。
【0064】
(比較例4)
粘着テープG2として、サンエー化研社製、商品名「サニテクトPAC−3」を用いたこと以外は実施例2と同様にして、位相差フィルムを作製した。凸部G2表面と基材Fの裏面との間の摩擦係数は1.45であった。
【0065】
(比較例5)
粘着テープを用いず(すなわち、凸部G2を設けず)にロール体H’を形成したこと以外は実施例1と同様にして、位相差フィルムを作製した。
【0066】
(比較例6)
粘着テープを用いず(すなわち、凸部G2を設けず)にロール体H’を形成したこと以外は実施例2と同様にして、位相差フィルムを作製した。
【0067】
(評価結果)
(1)ムラレベル
実施例および比較例の位相差フィルムについて、1mmピッチ幅方向2点間の位相差を原反幅1000mmにわたって測定した。この測定には、大塚電子製RETS−1200VAを用いた。隣接する測定点の位相差の差から、下記式によって位相差の差の平均値δ(Δnd)を算出し、評価した。
【数1】

式中、χiは、幅方向i番目の測定点の位相差値である。この平均値δ(Δnd)が小さいほどムラが小さい(すなわち、目標とする面内位相差Re(590)=140nmからのズレが小さい)と評価することができる。
【0068】
(2)凸部の摩擦係数
基材Fの裏面と粘着テープG2の背面との摩擦係数を、新東化学製トライボギアミューズ94iを用いて測定した。この装置は、物体間の静摩擦係数を測定することが可能である。具体的には、以下の手順で測定した:測定装置のスライダーに粘着テープG2を貼り付け、粘着テープG2の背面が基材Fの裏面に接触するようにスライダーを設置した。この状態でスライダーを摺動させて摩擦係数を測定した。摩擦係数(本実施例および比較例では静摩擦係数)が大きいほど、摩擦抵抗が大きいことを意味する。
【0069】
(3)コントラスト
実施例および比較例で得られた位相差フィルムをソニー社製:商品名「プレイステーションポータブル(PSP)」液晶セルに図5の概念図に示すように実装して、トプコン社製BM5を用いて黒輝度および白輝度を測定した上でコントラスト比を算出し、評価した。実装の具体的手順については下記の通りである。
【0070】
ネマチック液晶相を示す重合性液晶化合物(BASF社製、商品名「Paliocolor LC242」)90重量部、カイラル剤(BASF社製、商品名「Paliocolor LC756」)10重量部、光重合開始剤(チバスペシャリティケミカルズ社製、商品名「イルガキュア907」)5重量部、およびメチルエチルケトン300重量部を均一に混合し、液晶組成物を調製した。この液晶組成物を基材(二軸延伸PETフィルム)上にスピンコーティング法を用いてコーティングした。次いで、80℃で3分間加熱処理し、さらに紫外線(20mJ/cm、波長365nm)を照射して重合処理し、nx=ny>nzの屈折率分布を有するネガティブCプレート(コレステリック配向硬化層)を基材上に形成した。ネガティブCプレートの厚みは2.0μm、面内位相差Re(590)は0nm、厚み方向位相差Rth(590)は120nmであった。このようにして得られたネガティブCプレートを、上記PSPから取り出した液晶セルの両面にそれぞれアクリル系粘着剤(厚み20μm)を介して貼り付けた。
【0071】
次いで、上記貼り付けられたネガティブCプレートの外側(液晶セルと反対側)にそれぞれ、実施例または比較例で得られた位相差フィルムを、アクリル系粘着剤(厚み12μm)を介して貼り付けた。
【0072】
さらに、上記貼り付けられた位相差フィルムの外側(ネガティブCプレートと反対側)にそれぞれ、偏光板(日東電工製、TEG5456DU)を、アクリル系粘着剤(厚み12μm)を介して貼り付けて、液晶パネルを作製した。このとき、位相差フィルムの遅相軸と偏光板の偏光子の吸収軸との軸角度が図5に示すような関係となるように、各フィルムを貼り付けた。
【0073】
評価結果を下記表1に示す。
【表1】

【0074】
表1から明らかなように、実施例1および2では、基材の裏面に対して特定の摩擦係数を有する凸部を設けることにより、ムラレベルが小さく(すなわち、フィルム全体にわたって均一な光学特性を有し)、液晶パネルに実装した場合に非常に高いコントラストを示す位相差フィルムが得られる。しかも、ロール体の巻きズレもブロッキングも発生しない。凸部の摩擦係数が小さい比較例1および2では、ムラレベルが有意に低下し、ロール体の巻きズレも発生した。凸部の摩擦係数が大きい比較例3および4では、ブロッキングが発生した。凸部を設けない比較例5および6では、ムラレベルおよびコントラストとも実用レベルに至らなかった。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の製造方法により得られる位相差フィルムは、液晶表示装置、プラズマディスプレイ、ELディスプレイ等の各種画像表示装置に好適に用いられ得る。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】図1は、本発明の好ましい実施形態による位相差フィルムの製造方法におけるラビング処理工程を説明するための模式図である。
【図2】(a)は、図1の工程に用いるラビング処理装置におけるバックアップロール機構の概略を示す平面図であり、(b)は、バックアップロール近傍の斜視図であり、(c)は、バックアップロール機構を基材搬送方向から見た概略図である。
【図3】図3は、本発明の好ましい実施形態による位相差フィルムの製造方法における積層体の形成およびロール化を説明する概念斜視図である。
【図4】本発明の好ましい実施形態による位相差フィルムの製造方法において巻き取られたロール体のロール体回転軸を含む概略断面図である。
【図5】実施例におけるコントラスト評価で用いた位相差フィルムの実装状態を説明する側方概念図である。
【符号の説明】
【0077】
5 バックアップロール機構
6 巻き取り機構
100 ラビング処理装置
A 搬送方向
F 基材
G 剥離フィルム
G1 ベースフィルム
G2 粘着テープ
H 積層体
H’ ロール体


【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺の基材の表面を配向処理する工程と、
一方の表面に凸部を有する剥離フィルムを、該凸部を有さない表面と該基材の配向処理された表面とが対向するようにして貼り合わせ、積層体を形成する工程と、
該積層体を巻き取り、ロール体にする工程と、
該ロール体から該積層体を繰り出し、および、該積層体から該剥離フィルムを剥離する工程と、
該基材の配向処理された表面に液晶化合物を塗布する工程と、を含み
該凸部表面と該プラスチックの配向処理されていない表面との間の摩擦係数が1.0以上である
位相差フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記剥離フィルムの凸部が、幅方向の両端部近傍に設けられている、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記剥離フィルムの凸部が、平坦なベースフィルムに貼り付けられた粘着テープにより形成されている、請求項1または2に記載の製造方法。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−109538(P2009−109538A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−278517(P2007−278517)
【出願日】平成19年10月26日(2007.10.26)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】