説明

位相識別システム及び方法

【課題】配電網の電力線の線位相を識別する。
【解決手段】位相識別システムは、配電所12と位相検知装置とを含む。配電所12は、配電所12の3つの位相電圧信号の少なくとも1つの既知の調波周波数の電圧歪みを生成する、位相歪み装置を含んでいる。この位相検知は、歪んだ3つの位相電圧信号少なくとも1つを受信して、受信した電圧信号の位相を識別するように構成されている。位相検知装置は、受信した電圧信号の移相電圧信号を生成する遅延回路と、受信した電圧信号と移相電圧信号とを既知の調波周波数基準フレームのd−qドメイン電圧信号に変換する変換モジュールとを含んでいる。位相検知装置内の位相判定モジュールは、受信した電圧信号の既知の調波周波数の調波の振幅を閾値と比較することによって、受信した電圧信号の位相を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は概して、三相電力配電網の分野に関する。より具体的には、本発明は三相電力配電網の電力線の位相を識別するシステム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近の配電システムは、ユーザに三相電圧を供給していることが多い。即ち、電力線は、例えば各々が特定の位相の電圧として指定された複数のコンダクタを含むことがある。更に、配電システムは、電力線の負荷が平衡化されるように(例えば、三相変圧器等の各相の出力から引き出される電力量が等しくなるように)動作するべく、セットアップされることがある。しかし、時間の経過と共に、ユーザが配電網に追加されたり、配電網から除外されたりする結果、位相電流と電圧の流れが不均衡になることがある。即ち、1つの位相の電圧に接続されるユーザが多すぎる一方で、第2の及び/又は第3の位相に接続されるユーザが少なすぎることがある。その結果、既存のインフラの利用が最適ではなくなることがある。このような負荷の不均衡を克服する方法の1つが、例えば顧客を使用の多い電圧位相から使用の少ない電圧位相に移すことによって、負荷の再平衡化を講じることであろう。
【0003】
しかし、顧客を1つの電圧位相から別の電圧位相に移すには課題がある。顧客が配電網に追加されたり配電網から外されたりすると、或る顧客が接続されている電圧位相の確認は、或る電力線から配電網に至る(通常は現場作業員による)追跡なしでは確認が困難であり、コストがかかる。即ち、負荷の不均衡は遠隔地から検知可能であるが、個々のユーザが接続されている位相は、変電所からそれぞれのユーザの所在地に至る電力線を物理的に追跡しないと容易には判明しない。したがって、様々な所在地で受け取った電圧位相を物理的に判定するために一人又は複数のユーザ所在地に人員を派遣することなく、ユーザが接続されている電圧位相を確認することが有利であろう。更に、負荷の正しい位相を識別することによって、単相と三相の故障を区別することが可能になり、ひいては位相情報による停電管理システムの正確性が得られる。
【0004】
位相を識別する方法の1つは、モデムと電話回線とを使用して通信リンクを確立することである。電力線の位相が既知である(基準線)配電網のポイントでの位相に関連する信号を、通信リンクを介して、電力線の位相が未知である(テスト中の電力線)配電網のポイントに送信する。別の方法では、通信用に、モデムと電話回線の代わりに無線信号を使用する。しかし、これらの技術はいずれも、効果的に使用するには較正処理と特別の訓練を要する。位相を測定するそれ以外の方法は、位相が既知である変電所と位相が未知である遠隔地での、(通常はGPSを使用する)正確な時刻スタンプ付き測定によるものである。2つの信号の位相差を評価することによって、遠隔地の位相を判定できる。しかし、この方法には、位相を識別するために2つの異なる場所での双方向通信又は情報が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第7372246号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、配電網の電力線の線位相を識別する、改良された装置及び方法の提供が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態により、位相識別システムを提供する。本システムは、配電所の三相電圧信号の少なくとも1つの既知の調波周波数の電圧歪みを生成する位相歪み装置を含む配電所を含む。本システムは更に、歪みのある三相電圧信号の1つを受信し、受信した電圧信号の位相を識別するように構成された位相検知装置を含む。位相検出装置は、受信した電圧信号の移相電圧信号を生成する遅延回路と、受信した電圧信号と移相電圧信号とを既知の調波周波数基準フレームのd−qドメイン電圧信号へと変換する変換モジュールとを含む。位相検知装置は更に、受信した電圧信号の既知の調波周波数の調波の振幅を閾値と比較することによって、受信した電圧信号の位相を判定する位相判定モジュールを含む。
【0008】
本発明の別の実施形態により、既知の調波周波数を有する配電システムの三相電圧を各々歪ませるステップを含む位相識別方法を提供する。本方法は更に、配電システムから歪みのある3つの位相電圧信号の少なくとも1つを受信するステップと、受信した電圧信号を時間遅延させることによって、受信した電圧信号の移相電圧信号を生成するステップを含む。本方法は更に、受信した電圧信号と移相電圧信号とを既知の調波周波数基準フレームのd−qドメイン電圧信号へと変換するステップと、受信した電圧信号の既知の調波周波数の調波の振幅を閾値と比較することによって、受信した電圧信号の位相を判定するステップを含む。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施形態による電力網のブロック図である。
【図2】本発明の一実施形態による図1の電力網のメータのブロック図である。
【図3】本発明の一実施形態による位相歪み装置を有する電力網の配電所のブロック図である。
【図4】本発明の一実施形態による図3の位相歪み装置の概略図である。
【図5】本発明の一実施形態によるコンバータコントローラのブロック図である。
【図6】位相検知装置のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
全図面を通じて同様の符号で同様の部品を表す添付図面を参照しながら、以下の詳細な説明を読めば、本発明の上記及びその他の特徴、態様、及び利点の理解が深まるであろう。
【0011】
本発明の様々な実施形態の要素を説明する際、単数名詞は、その要素が1つ又は複数あることを意味する。「備える」、「含む」及び「有する」という用語は、包括的であり、列挙した要素以外にも追加の要素があり得ることを意味する。
【0012】
本明細書で用いる「モジュール」という用語は、ソフトウエア、ハードウエア、ファームウエア、又はこれらのいずれかの組み合わせ、或いは本明細書に記載のプロセスを実行又は推進する、何らかのシステム、プロセス、又は機能を指す。
【0013】
図1は、電力網10のブロック図である。電力網10は、電力を配電所12から配電網16に、例えば1本又は複数本の電力線14を用いて送電する。配電所12は、例えば、電力網10で送電を行うための電圧を生成可能な1つ又は複数の発電機を含む発電所を含む。それに加えて、又はその代わりに、配電所は、1つの電圧から別の電圧に変圧する(例えば、受け取った電圧を100,000ボルトから10,000ボルト未満に降圧する)ように動作する1つ又は複数の変圧器、及び/又は電力を更に転送する1本又は複数本の配電母線を含む、1つ又は複数の変電所を含み得る。
【0014】
一実施形態では、電力線14が、電力を配電所12から配電網16に送電する複数の送電経路を含む。例えば、電力線14は、電圧を3つの位相、例えば位相A、B、及びCで送電できる。加えて、電力線14は、三相電圧を送電する経路の他に中性線を含んでいてもよい。
【0015】
配電網16は、三相電圧を複数のユーザに配電し得る。配電網16は、例えば1つ又は複数のタップ18を含む。1つ又は複数のタップは、1本又は複数本の電力線14を、例えば1人又は複数のユーザが居住する路地に分割するように動作する。したがって、タップ18は、電圧位相A、B、及びC(「A〜C」)のうちの1つ又は複数の位相をこの路地のユーザに分割するように動作する。配電網16は更に、ユーザ用電線20を含んでいてもよい。ユーザ用電線20は、電力線14への直接の接続部として動作する。一実施形態では、各ユーザ用電線20が、電圧を或るレベルから別のレベルに降圧する変圧器を含む。2つの電圧レベルは、例えば7200ボルトと240ボルトである。なお、各ユーザ用電線20は、位相A、位相B、及び位相Cの電圧に接続可能である。240ボルトの位相A、位相B、又は位相Cの電圧は、回路に接続されたメータ22A〜22Gを用いてユーザに送電される。
【0016】
メータ22A、22B、22C、22D、22E、22F、及び22G(「22A〜22G」)は各々が、伝送され、特定のユーザが消費したエネルギの量をモニタするように動作する。一実施形態では、1つ又は複数のメータ22A〜22Gが、高性能メータインフラ(AMI)の一部であり、メータ22A〜22Gが、(例えば1分ごと又は1時間ごと等の)所定時間での所定量の使用量を測定及び記録し、この測定及び記録された情報を配電所12に送信する。別の実施形態では、メータ22A〜22Gが、停電、電圧位相情報、又はその他のインフラ情報等の追加情報を配電所12に送ってこれを評価する。
【0017】
図2は、メータ22A〜22Gのいずれかを表すメータ22のブロック図を示す。図示のように、メータ22は、センサ24、信号変換回路26、1つ又は複数のプロセッサ28、記憶装置30、及び通信回路32を含む。センサ24、信号変換回路26、1つ又は複数のプロセッサ28、記憶装置30、及び通信回路32が連係することにより、メータ22が受信する電圧の位相を示す信号の判定及び送信をメータ22で行える。このように、メータ22は位相検知装置として動作する。一実施形態では、メータ22を電力が使用される場所に物理的に取り付ける。それに加えて、又はその代わりに、位相検知装置は携帯型のメータ装置を含み、受信した電圧の位相を示す信号の判定及び/又は送信をこの携帯メータで行ってもよい。一実施形態では、センサ24が、ユーザ用電線20から電流及び電圧を受け取ってこれを測定するための電気部品を含む。前述のように、この電圧は3つの位相、即ち位相A、位相B、及び位相Cのいずれかであり、各々が互いに120°位相ずれしているものであり得る。センサ24は、検知した電圧及び/又は電流を信号変換回路26への信号として送信する。加えて、センサ24は、メータ22での電圧信号の歪みを検知する。以下に更に詳細に記載するように、電圧信号の歪みを用いて、メータ22で受信した電圧位相を判定できる。
【0018】
信号変換回路26は、例えばセンサ24から受信した信号の電圧を、例えば240ボルトから約5ボルトに変換する電圧変換回路を含む。加えて、電圧変換回路は、例えばセンサ24から受信した(電圧信号又は注入信号等の)信号を、1つ又は複数のプロセッサ28で処理するために、アナログ信号をデジタル信号に変換する少なくとも1つのアナログ−デジタル変換器を含む。
【0019】
1つ又は複数のプロセッサ28は、メータ22の処理能力の少なくとも一部を与える。1つ又は複数のプロセッサ28は、1つ又は複数の「汎用」マイクロプロセッサ、1つ又は複数の専用マイクロプロセッサ、及び/又はASIC、又はこのような処理コンポーネントの何らかの組み合わせ等、1つ又は複数のマイクロプロセッサから成る。加えて、1つ又は複数のプロセッサ28が実行するプログラム又は命令は、実行命令又はルーチンを少なくとも集合的に格納する、下記の記憶装置を含むがそれに限定されない1つ又は複数の実体的な、コンピュータ読取可能な媒体を含む、いずれかの適当な媒体に格納される。このように、メータ22は、例えば電圧信号の歪み等に基づいてメータ22で受け取った電圧の位相の判定を含む様々な機能をメータ22で行えるようにする、1つ又は複数のプロセッサ28が実行する命令を含む(記憶装置30等の)コンピュータプログラム製品でエンコードされるプログラムを含む。
【0020】
1つ又は複数のプロセッサ28で処理される命令及び/又はデータは、記憶装置30等のコンピュータ読取可能媒体に格納される。記憶装置30には、ランダムアクセスメモリ(RAM)等の揮発性メモリ、及び/又は読出し専用メモリ(ROM)等の不揮発性メモリが含まれる。一実施形態では、記憶装置30は、(メータ22で実行可能な様々なプログラム、アプリケーション、又はルーチン等の)メータ22のファームウエアを格納する。加えて、記憶装置30を使用して、メータ22の動作中にバッファリング又はキャッシングを行える。記憶装置30には、例えばフラッシュメモリ、ハードドライブ、又はその他の光学、磁気、及び/又はソリッドステートの媒体が含まれる。更に、記憶装置30を使用して、通信回路32を用いて最終的に送信される情報を格納できる。格納する情報には、後に、例えば電力会社によるメータの読取り中に使用できる位相情報が含まれる。
【0021】
通信回路32を使用して、メータ22から例えば配電所12(図1)に情報を送信できる。情報には、例えばメータ22で受信する電圧の位相を示す1つ又は複数の信号、メータ22での電圧使用量、及び/又はメータ22の動作に関するその他の情報が含まれる。したがって、通信回路32には、例えば配電所12及び/又はその他のメータ(例えば22A〜22G)との間で情報を送受信するトランシーバが含まれる。或いは、通信回路32は、例えば配電所12及び/又はその他のメータに情報を送信できるが、情報の受信は行わない送信機を含み得る。通信回路32は更に、情報をワイヤレスで送受信する、ワイヤレス送信要素及び/又はトランシーバ要素を含み得る。それに加えて、及び/又はその代わりに、通信回路32を、例えば有線通信モード、電力線搬送通信(PLC)回線を介して配電所12に物理的に結合してもよい。送信媒体にかかわらず、メータ22は、通信回路32を使用することによって、メータ22で受信する電圧の位相を含む、収集された情報を送信できる。
【0022】
図3は、メータ22と一緒に使用して、或るユーザに供給される電圧の位相を判定する位相歪み装置72を有する、配電所70のブロック図である。配電所70は、電力線13で三相電圧を伝送するように動作可能であり、線36で位相Aの電圧を伝送し、線38で位相Bの電圧を伝送し、線40で位相Cの電圧を伝送する。なお、線36、38、40の位相A、位相B、位相Cの符号を付した位相線は、例示目的によるものにすぎない。一実施形態では、位相歪み装置72は、いずれか1つの位相から調波電流を引き出し、配電網16の負荷ポイントで位相電圧信号を歪ませるように構成された、分巻電流回路を含む。調波電流が位相から引き出されると、送電線の両端間に調波電圧降下が生じ、結果としてその位相の電力線の電圧信号に歪みが生じる。なお、図3には1つの位相歪み装置72だけを示しているが、実施形態によっては、各々の位相が別個の位相歪み装置72(即ち、3つの位相用の3つの位相歪み装置)を有する。
【0023】
電力線電圧信号をコマンド又はスケジュールで歪ませることができる。例えば、電力会社が、送電網にみられる不均衡の量に応じて歪みを生じさせてもよい。それに加えて、又はその代わりに、例えば毎日特定の時間等に生じる一定の周波数で歪みが生じるように設定できる。特定の位相又は電力線で歪んだ位相電圧は次いで、例えば特定の電力線、例えば36、38、又は40を用いて伝送されて配電網16のメータ22に到達し、メータ22がこの歪みを識別し、受信した歪みの特性に応じて位相を識別する。一実施形態では、メータ22で更に、識別した位相情報を配電所12(図1)に送信できる。
【0024】
図4は、本発明の実施形態による図3の位相歪み装置72の概略図である。位相歪み装置は、電力線74から調波電流を引き出すように構成され、結合変圧器80、単相DC−ACコンバータ82、及び単相DC−ACコンバータ82に切換信号を供給するパルス幅変調(PWM)発電機84を含む。結合変圧器80は、電力線の電圧を単相DC−ACコンバータ82の出力と整合させ、且つ電力線と単相DC−ACコンバータ82とを絶縁する。単相DC−ACコンバータ82は、DCリンク86と半導体スイッチ88とを含む。結合変圧器80の一次巻線76が、電力線74に分巻接続される(即ち、一次巻線76が、電力線74とアース接続部75との間に接続される)。結合変圧器80の二次巻線87が、単相DC−ACコンバータ82の出力の両端間に接続される。PWM発電機84は、コンバータコントローラ100が生成する基準電圧信号Vrefに基づいて、単相DC−ACコンバータ82に切換信号を供給する。基準電圧は、単相DC−ACコンバータ82が要する有効電力の量と、電圧歪みに対する調波電流の要件とに基づいて決まる。単相DC−ACコンバータ82が要する有効電力は、コンバータの損失のサポートとDCリンク86の電圧維持のために使用される。
【0025】
一実施形態では、異なる3つの調波周波数を異なる3つの相から引き出し、得られた電圧歪みを負荷ポイント(図示せず)でメータ22によって解析する。次いで、電圧歪みの解析によって、負荷が接続されている電力線の位相を判定できる。電圧歪みを解析する方法は多数あるが、以下の段落ではその1つについて説明する。
【0026】
図5は、本発明の一実施形態によるコンバータコントローラ100のブロック図である。コンバータコントローラ100は、電力線から引き出される必要な調波電流に基づいて、図4のDC−ACコンバータ82用の基準電圧を生成する。コンバータコントローラ100は、電流ic、線間電圧Vc、及びDCリンク電圧Vdcを入力として受け付け、基準電圧信号Vrefを出力として供給する。電流icは、電力線74からDC−ACコンバータ82によって引き出される実電流であり、電圧Vcは、電力線74の電圧である。基準信号iref及びVdcrefは、システムオペレータによって決定される。基準電流irefは、電力線から引き出す必要がある調波電流(例えば第8、第9、第10調波等)であり、基準電圧Vdcrefは、DC−ACコンバータ82用に維持が必要なDCリンク電圧である。基準電流irefは、第1のシフターモジュール102によって90°移相され、次いで基準電流と移相電流とが、第1のα−βからd−qへのドメイン変換モジュール104によってd−q成分idref及びiqrefに変換される。当業者には明らかなように、α−βからd−qへのドメイン変換モジュール104は、入力された位相信号に基づいて1つの基準フレームから別の基準フレームへと電圧信号を変換する変換マトリクスを含んでいてもよい。一実施形態では、変換マトリクスは下記の通りである。
【0027】
【数1】





ωはラジアン/秒単位の周波数であり、tは秒単位の時間である。
【0028】
第1のα−βからd−qへのドメイン変換モジュール104は、のこぎり波発生器モジュール106からの位相信号としてのこぎり波信号を受信し、基準電流をd−q基準電流idref及びiqrefに変換する。のこぎり波信号は、基準電流信号と同期され、その周波数は基準電流信号の周波数、即ち調波周波数と同一である。
【0029】
DC−ACコンバータ82により引き出される実電流icも、第2の位相シフターモジュール108及び第2のα−βからd−qへのドメイン変換手段又はマトリクス110によって、測定されたd−qドメイン電流icd及びicqに変換される。次いで、d−qドメイン基準電流idref及びiqrefと測定されたd−qドメイン電流icd及びicqとの差を表す誤差信号iderror及びiqerrorが、2つの比例積分(PI)コントローラ112、114に送られて、d−qドメイン基準電圧信号Vdref及びVqrefが生成される。PIコントローラ112、114は基本的に、実電流と基準電流との差を補償するために、DC−ACコンバータ82によって生成されるべき適当な電圧信号を生成する。次いで、d−qからα−βへのドメイン変換モジュール116は、基準電圧Vrefの第1の部分、即ち調波部分Varefを生成し、電力線から基準電流又は調波電流irefを引き出す。d−qからα−βへのドメイン変換モジュールは、方程式1の逆変換マトリクスに等しい、逆変換マトリクスを含み得る。
【0030】
基準電圧Vrefの第2の部分、即ち基本の部分Vbrefが、DC−ACコンバータ82と電力線との間の有効電力の流れを制御するDCリンク電圧ループ118によって生成される。電圧ループ118は、基準DCリンク電圧Vdcrefと実際のDCリンク電圧Vdcとの誤差Vdcerrorを、第3のPIコントローラ120を用いて位相角δへと変換する。位相角δは、正弦波モジュール124が生成する正弦波が線間電圧Vcに対して遅延する遅延角を表しており、基準DCリンク電圧Vdcrefに等しいDCリンク電圧Vdcを保つために望ましい量の有効電力が引き出される。θ生成モジュール122は、線間電圧Vcの位相θを決定し、正弦モジュール124は、位相角δとθとを用いて基準電圧Vrefの第2の部分Vbrefを表す適宜の正弦波形を生成する。次いで、VarefとVbrefとを加算して、DC−ACコンバータ82用の基準電圧Vrefが生成される。
【0031】
図6は、本発明の実施形態による、歪み波電圧に基づいてユーザの所在地での電力線の位相を判定する位相検知装置140のブロック図である。例えば、異なる3つの調波周波数の異なる3つの電流を3本の電力線から引き出すと、電圧歪みが生じる。次いで各々の電力線内の位相検知装置140が電力線内の特定の調波電圧の振幅を計算し、計算された振幅がそれぞれの閾値を上回る場合は、受信した電圧又は電力線の位相(即ち位相A、位相B、又は位相C)を判定する。位相検知装置140は、図3のメータ22内で使用され、電圧を歪ませる方法にかかわらず、電力線の位相を判定できる。このように、電圧を歪ませる方法には、前述のように、直列調波電圧を電力線に注入する方法、又は電力線から調波電流を引き出す方法が含まれる。
【0032】
位相検知装置140は、入力信号Vα及び遅延入力信号Vβをd−qドメイン信号Vd及びVqに変換するドメイン変換モジュール142を含む。遅延入力信号Vβは、遅延モジュール144によって生成される。一実施形態では、遅延モジュールが、調波周波数の1/4又は90°に等しい遅延角、即ち周波数が600Hzの場合は0.00666秒だけ入力信号Vαを遅延させる。なお、この遅延角の値90°は典型的な例にすぎず、個々の実施形態では、遅延角の値が位相検知装置140のサンプリング周波数に依存し、90°とは異なっていてもよい。ドメイン変換マトリクスは、調波角生成モジュール146からの調波周波数を表すのこぎり波信号を用いて、d−qドメイン信号Vd及びVqを生成する。調波周波数は、3本の電力線から引き出される3つの調波電流のうち1つの周波数に等しい。したがって、のこぎり波信号の周波数を2〜3回変更して、電力線がどの位相に属するかを検知できる。例えば、各位相の注入された電圧の調波周波数は既知であり、位相検知装置に格納されている。電力線の1つで特定の調波電圧信号の振幅が閾値を超えている場合は、その調波歪みが存在することを示し、次いで、位相検知装置に格納された調波周波数の情報に基づいて、この電力線の位相を容易に識別できる。
【0033】
次いで、ドメイン変換マトリクス142からのd−qドメイン電圧信号Vd及びVqをローパスフィルタ148、150にかけて、任意の基本調波信号又はそれよりも高い調波信号を除去し、d−qドメイン調波信号Vdf及びVqfを生成する。当業者には明らかなように、ローパスフィルタ148、150は、アナログドメイン又はデジタルドメインで実装可能である。一実施形態のローパスフィルタの伝達関数G(s)は、下記の通りである。
【0034】
【数2】





K、a1、a2は定数であり、ωcはローパスフィルタのカットオフ周波数である。一実施形態では、ローパスフィルタのカットオフ周波数ωcが基本周波数よりも低く、出力信号が実質的に一定の値になるように決定される。次いで、調波電圧信号の振幅が、d−qドメイン調波信号α及びβの二乗値の和の平方根を特定する振幅計算モジュール152によって決定される。一実施形態では、振幅計算モジュール152の計算の複雑さを軽減するために、最初にd−qドメイン調波信号α及びβの絶対値を特定した後で、この絶対値を加算して調波信号の振幅を求める。
【0035】
一実施形態では、位相判定モジュール154が、調波信号の振幅を閾値と比較する。振幅が閾値を超える場合は、位相判定モジュール154が、調波電流が位相から引き出されたと識別する。各々の電力線について、異なる周波数の調波電流が電力線から引き出される。一実施形態では、各位相の周波数が固定され、更に位相判定モジュール154に格納されている。したがって、その位相の位相判定モジュール154がそれぞれの調波信号の存在を検知すると、位相判定モジュール154はその電力線の位相を識別する。位相を判定する別の方法には、調波信号の振幅が閾値を超える時間を比較する方法、又は調波信号の振幅が閾値を超える瞬間の数を比較する方法が含まれる。
【0036】
本明細書では、本発明の一部の特徴のみを図示及び記述したが、当業者には多くの修正及び変更が想到されよう。したがって、添付の特許請求の範囲は、このような変更及び修正の全てを、本発明の概念に含まれるものとして包含することを意図している。
【符号の説明】
【0037】
10 電力網
12 配電所
14 電力線
16 配電網
18 電力線タップ
20 ユーザ用電線
22A〜22G メータ
24 センサ
26 信号変換回路
28 プロセッサ
30 記憶装置
32 通信回路
36、38、40 電力線
70 位相歪み装置及びメータを有する配電所
72 位相歪み装置
74 電力線
75 アース接続部
76 一次巻線
80 結合変圧器
82 単相DC−ACコンバータ
84 パルス幅変調(PWM)発電機
86 DCリンク
87 二次巻線
88 半導体スイッチ
100 コンバータコントローラ
102 第1のシフターモジュール
104 α−βからd−qドメインへの変換モジュール
106 のこぎり波発生モジュール
108 シフターモジュール
110 α−βからd−qへのドメイン変換手段又はマトリクス
112、114 比例積分(PI)コントローラ
116 d−qからα−βへのドメイン変換マトリクス
118 DCリンク電圧ループ
120 PIコントローラ
122 θ生成モジュール
124 正弦波モジュール
140 位相検知装置
142 ドメイン変換モジュール
144 遅延モジュール
146 調波角生成モジュール
148、150 ローパスフィルタ
152 振幅計算モジュール
154 位相判定モジュール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配電所(12)の3つの位相電圧信号の少なくとも1つの既知の調波周波数の電圧歪みを生成する位相歪み装置(72)を含む、配電所(12)と、
歪んだ3つの位相電圧信号の少なくとも1つを受信し、該受信した電圧信号の位相を識別するように構成された位相検知装置(140)と、
を備え、該位相検知装置(140)が、
前記受信した電圧信号の移相電圧信号を生成する遅延回路(144)と、
前記受信した電圧信号と前記移相電圧信号とを既知の調波周波数基準フレームのd−qドメイン電圧信号へと変換する変換モジュール(142)と、
前記受信した電圧信号の前記既知の調波周波数の調波の振幅を閾値と比較することによって、前記受信した電圧信号の位相を判定する位相判定モジュール(154)と、
を備える、位相識別システム(70)。
【請求項2】
前記既知の調波周波数が、位相電圧信号ごとに異なる、請求項1に記載の位相識別システム。
【請求項3】
前記閾値が、調波周波数ごとに異なる、請求項2に記載の位相識別システム。
【請求項4】
前記位相歪み装置が電圧歪み回路を含む、請求項1に記載の位相識別システム。
【請求項5】
前記電圧歪み回路が、調波電圧を前記配電所の電力に注入する直列電圧注入回路を含む、請求項4に記載の位相識別システム。
【請求項6】
前記電圧歪み回路が、調波電流を前記配電所の電力線から引き出す分巻電流回路を含む、請求項4に記載の位相識別システム。
【請求項7】
前記分路電流回路が、前記配電所の電力線から基準調波電流を引き出す単相DC−ACコンバータを含む、請求項6に記載の位相識別システム。
【請求項8】
d−qドメイン電圧信号の二乗値の平方根を得ることによって、前記受信した電圧信号の前記既知の調波周波数の調波の振幅を計算する、振幅計算モジュールを更に含む、請求項1に記載の位相識別システム。
【請求項9】
d−qドメイン電圧信号の絶対値を加算することによって、前記受信した電圧信号の前記既知の調波周波数の調波の振幅を計算する、振幅計算モジュールを更に含む、請求項1に記載の位相識別システム。
【請求項10】
既知の調波周波数信号を有する配電システムの3つの位相電圧信号の少なくとも1つを歪ませるステップ(72)と、
前記配電システムから歪んだ3つの位相電圧信号の少なくとも1つを受信するステップと、
前記受信した電圧信号を時間遅延させる(144)ことによって前記受信した電圧信号の移相電圧信号を生成するステップと、
前記受信した電圧信号と前記移相電圧信号とを既知の調波周波数基準フレームのd−qドメイン電圧信号に変換するステップ(142)と、
前記受信した電圧信号の前記既知の調波周波数の調波の振幅を閾値と比較することによって、前記受信した電圧信号の位相を判定するステップ(154)と、
を含む、位相識別方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2013−44752(P2013−44752A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−182822(P2012−182822)
【出願日】平成24年8月22日(2012.8.22)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)