説明

位置決め治具

【課題】工具の工具挿入孔への挿入深さが所望深さとなるように、規制部材の装着位置を容易に位置決めできるようにする。
【解決手段】工具ホルダAの工具挿入孔4bに挿入された工具に当接するネジ式規制部材7の位置決めを行う位置決め治具であって、規制部材に係合する係合部10を先端側に備え、工具挿入孔に挿抜自在な軸部8と、当該軸部の工具挿入孔への挿入深さを表示可能な目印11とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工具ホルダの工具挿入孔に挿入された工具に当接するネジ式規制部材の位置決めを行う位置決め治具に関する。
【背景技術】
【0002】
工具ホルダは、刃物工具などの工具を予め保持させておいて、その工具を工具ホルダを介して工作機械に取り付けることができるようにしてある。
工具挿入孔に工具を挿入して保持する工具ホルダでは、工具挿入孔への工具の挿入深さ、言い換えると、工具挿入孔からの工具の突出長さが適切でない場合には、工作機械に取り付けることができなかったり、工作機械に取り付けることができたとしても、被工作物と干渉したり正規の寸法で加工できなかったりするおそれがある。
このため、工具挿入孔に挿入された工具に当接してその挿入深さを規制するネジ式規制部材が工具ホルダに装着されている。
規制部材を工具ホルダに装着するにあたって、工具挿入孔への工具の挿入深さが所望深さになるように、工具ホルダに対する規制部材の装着位置を位置決めする必要がある。
従来、規制部材の装着位置を位置決めするために、規制部材が、工具ホルダの工具挿入方向下手側からの螺進操作により移動可能に装着されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−334622号公報(段落[0023],図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来技術によれば、規制部材の装着位置を位置決めするにあたって、工具ホルダの工具挿入方向下手側からの螺進操作で規制部材を移動させ、かつ、工具ホルダの工具挿入方向上手側から工具挿入孔にゲージなどを差し込んで、螺進操作に伴って移動する規制部材と工具挿入孔の開口位置との距離、つまり、規制部材に当接するように工具挿入孔に工具を挿入したときの挿入深さを確認する必要がある。
すなわち、工具ホルダの工具挿入方向下手側から規制部材を螺進操作し、かつ、工具ホルダの工具挿入方向上手側において工具の挿入深さを確認する必要があるので、位置決め作業が煩雑化する欠点がある。
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであって、工具ホルダに装着してある規制部材を螺進させる螺進操作用の係合部を持たない工具の工具挿入孔への挿入深さが所望深さとなるように、規制部材の装着位置を容易に位置決めできるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1特徴構成は、工具ホルダの工具挿入孔に挿入された工具に当接するネジ式規制部材の位置決めを行う位置決め治具であって、前記規制部材に係合する係合部を先端側に備え、前記工具挿入孔に挿抜自在な軸部と、当該軸部の前記工具挿入孔への挿入深さを表示可能な目印とを備えた点にある。
【0006】
本構成の位置決め治具であれば、規制部材の螺進操作も、工具の挿入深さの確認も、工具ホルダの工具挿入方向上手側において行うことができる。
すなわち、規制部材が装着された工具ホルダの工具挿入方向上手側において、工具に代えて軸部を工具挿入孔に挿入して係合部を規制部材に係合し、当該軸部で規制部材を工具挿入方向上手側又は下手側に移動するように螺進操作することができる。
工具挿入孔への工具の挿入深さは、規制部材に当接している軸部の工具挿入孔への挿入深さとして、工具ホルダの工具挿入方向上手側において、当該軸部に設けてある目印で確認することができる。
挿入深さが所望深さになったことを目印で確認して軸部を工具挿入孔から抜き出すことにより、規制部材の工具ホルダに対する装着位置が、工具挿入孔への工具の挿入深さが所望深さになる位置に位置決めされる。
したがって、規制部材の工具ホルダに対する装着位置を位置決めするにあたって、規制部材の螺進操作も、工具の挿入深さを確認する作業も、工具ホルダの工具挿入方向上手側において行うことができる。
よって、工具ホルダに装着してある規制部材を螺進させる螺進操作用の係合部を持たない工具の工具挿入孔への挿入深さが所望深さとなるように、規制部材の装着位置を容易に位置決めすることができる。
【0007】
本発明の第2特徴構成は、前記目印が、前記軸部の外周面に当該軸部の軸芯方向に沿って設けられた目盛である点にある。
【0008】
本構成であれば、軸部による規制部材の螺進操作に伴って、目盛が軸部と共に工具ホルダに対して軸芯方向に移動するので、挿入深さが所望深さになったことを目盛から読み取って精度良く確認することができる。
尚、目盛を軸部の全周に亘って設けてあれば、挿入深さが所望深さになったことを目盛と工具ホルダとの相対位置から読み取り易い。
【0009】
本発明の第3特徴構成は、前記目印は、前記軸部にその軸芯方向に沿って移動可能、かつ、前記軸部に固定可能に外嵌されているリング部材であり、前記リング部材が前記工具挿入孔の内径よりも大きい外径で形成されている点にある。
【0010】
本構成であれば、リング部材を軸部に固定しておくことにより、軸部による規制部材の螺進操作に伴って、工具挿入孔の内径よりも外径が大きいリング部材が軸部と共に移動する。
したがって、リング部材を所望の挿入深さに対応する位置に合わせて軸部に固定しておくことにより、軸部で規制部材を螺進操作するに伴うリング部材の工具ホルダに対する当接によって、挿入深さが所望深さになったことを目視によらずに簡便に確認することができる。
【0011】
本発明の第4特徴構成は、前記軸部の前記工具挿入孔への挿入深さを測定可能な目盛が、前記軸部の外周面に当該軸部の軸芯方向に沿って設けられ、前記リング部材が、前記目盛の所望位置に合わせて前記軸部に固定可能に外嵌されている点にある。
【0012】
本構成であれば、リング部材を目盛の所望の挿入深さに対応する位置に合わせて軸部に固定しておき、そのリング部材が工具ホルダに当接するまで軸部で規制部材を螺進操作すれば、規制部材の工具ホルダに対する装着位置が、工具挿入孔への工具の挿入深さが所望深さになる位置に位置決めされる。
よって、リング部材を固定する際に測定器を用いる必要がない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】工具を保持している工具ホルダの一部断面側面図である。
【図2】規制部材の斜視図である。
【図3】位置決め治具の一部断面側面図である。
【図4】工具ホルダの一部断面側面図である。
【図5】(a)〜(c)は、夫々、位置決め治具の使用方法を説明する一部断面側面図である。
【図6】第2実施形態の位置決め治具の側面図である。
【図7】(a),(b)は、夫々、第2実施形態の位置決め治具の使用方法を説明する一部断面側面図である。
【図8】(a),(b)は、夫々、第2実施形態の位置決め治具の使用方法を説明する一部断面側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
〔第1実施形態〕
図1は、焼嵌め式工具ホルダAを示す一部断面側面図であり、図3は、本発明による位置決め治具Bを示す一部断面側面図である。
【0015】
工具ホルダAは、図1に示すように、ドリルなどの刃物工具Cにおけるシャンク部(以下、工具シャンク部という。)C1が固定されるチャック部1と、工作機械に固定されるシャンク部2とを鍔部3を挟む前後に同芯状に備え、かつ、前後に亘って同芯状に貫通する中心孔4を形成してある。
チャック部1は、チャック先端面1aが小径の円錐台形状に形成されている。
【0016】
中心孔4は、略中央の小径孔4aと、小径孔4aの前後に連通する大径孔4b,4cとを同芯状に形成してある。チャック先端面1aに開口する大径孔部4bが、工具シャンク部C1が矢印aで示す工具挿入方向から挿入される工具挿入孔として設けられている。
【0017】
工具ホルダAの工具挿入孔4bへの工具挿入方向aの下手側である小径孔部4aには雌ネジ5が形成されている。この雌ネジ5に、雄ネジ6が形成されたネジ式規制部材7が工具挿入孔4bの軸芯周りでの螺進操作により移動可能に装着されている。
【0018】
規制部材7は、工具挿入孔4bに挿入された工具シャンク部C1のチャック先端面1aからの挿入深さd1を当該工具シャンク部C1との当接により規制する。
規制部材7は、図2にも示すように、工具挿入孔4bよりも小径の円柱状に形成され、工具挿入孔4bの側に臨ませて後述する軸部8の当接端面8aが当接される規制端面7aに六角孔9が同芯状に形成されている。
【0019】
工具ホルダAは、チャック部1を高温に加熱して熱膨張で拡径させた工具挿入孔4bに、図1に示すように、工具シャンク部C1を規制部材7の規制端面7aに当接するように差し込んだ後、チャック部1を常温に戻す焼嵌めにより、刃物工具Cを所定の挿入深さd1で把持するものである。
したがって、工具挿入孔4bは、工具シャンク部C1を差し込んでいない常温において、工具シャンク部C1の外径よりも僅かに小径に形成されている。
【0020】
位置決め治具Bは、規制部材7の工具ホルダAに対する装着位置の位置決めを行うために使用するものである。
位置決め治具Bは、図3に示すように、工具挿入孔4bに対して工具挿入方向aの上手側から挿抜自在、かつ、工具ホルダAに装着された規制部材7に対して工具挿入方向aから当接可能な当接端面8aを形成してある略円柱状の軸部8を備えている。
【0021】
軸部8は、工具ホルダAに装着された規制部材7に対して軸芯方向に沿う移動操作により係脱自在、かつ、当該規制部材7に回転操作自在に係合させる係合部10を先端側に備え、当該軸部8の工具挿入孔4bへのチャック先端面1aからの挿入深さdを測定可能な目盛11と、握り部12とを設けてある。
【0022】
係合部10は、規制部材7の六角孔9に嵌合する六角軸を当接端面8aに同芯状に突設して構成してある。
【0023】
目盛11は、軸部8の外周面に多数の細い環状溝13を当該軸部8の軸芯方向に沿って所定間隔で並設して構成され、環状溝13の当接端面8aからの距離を表示する表示部14が設けられている。
目盛11の所望位置の環状溝13に係合部10側の合わせ面15aを合わせておくことにより、軸部8の工具挿入孔4bへの挿入深さを表示可能な目印としてのリング部材15が、軸部8にその軸芯方向に沿って移動可能、かつ、固定可能に外嵌されている。
【0024】
リング部材15は、工具挿入孔4bの内径よりも大きい外径で形成され、リング部材15の外周側からの螺進操作で軸部8の径方向に出退自在に装着してあるビス16を軸部8の外周面に押し付けて、リング部材15を軸部8に固定できるように構成してある。
【0025】
上記位置決め治具Bの使用方法を説明する。
規制部材7は、例えば工具挿入孔4bに挿入した六角レンチを六角孔9に嵌合して螺進操作することにより、図4に示すように、工具挿入孔4bに挿入した軸部8の当接端面8aが当接したときの当該軸部8のチャック先端面1aからの挿入深さdが、図5(b)に示す所望深さd2よりも浅くなる位置に装着しておく。
【0026】
位置決め治具Bは、工具シャンク部C1の工具挿入孔4bへの挿入深さd1を、軸部8の所望深さd2として、その所望深さd2に対応する長さだけ当接端面8aから離れている環状溝13にリング部材15の合わせ面15aを合わせて、図3に示すように、ビス16で軸部8に固定しておく。
【0027】
次に、握り部12を握って、軸部8を当接端面8aの側から工具挿入孔4bに挿入し、図5(a)に示すように、規制部材7の六角孔9に六角軸10を係合させ、かつ、当接端面8aを規制部材7の規制端面7aに対して当接させて、規制部材7が工具挿入孔4bの奥側に移動するように軸部8で螺進操作する。
【0028】
次に、図5(b)に示すようにリング部材15の合わせ面15aがチャック先端面1aに当接したときに、軸部8を工具挿入孔4bから抜き出すと、図5(c)に示すように、規制部材7の工具ホルダAに対する装着位置が、工具挿入孔4bへの工具シャンク部C1(工具C)の挿入深さd1が所望深さd2になる位置に位置決めされる。
【0029】
上記実施形態では、軸部8に目盛り11を設けて、その目盛り11に合わせてリング部材15を目印として軸部8に固定できるように構成してある例を示したが、軸部8に目盛り11を設けずに、目印としてのリング部材15をノギスなどの測定器を用いて所望の位置に固定するように構成してあってもよい。
【0030】
〔第2実施形態〕
第1実施形態では、リング部材15が目印として軸部8に外嵌されている位置決め治具Bを示したが、図6に示すように、リング部材15が軸部8に外嵌されておらず、目盛11を、軸部8の工具挿入孔4bへのチャック先端面1aからの挿入深さdを表示可能な目印として備えている位置決め治具Bであってもよい。
【0031】
本実施形態の位置決め治具Bは、リング部材15が軸部8に外嵌されていない点を除いて、第1実施形態で示した位置決め治具Bと同様に構成してある。
【0032】
本実施形態の位置決め治具Bの使用方法を説明する。
図7(a),(b)は、軸部8を当接端面8aが規制部材7の規制端面7aに当接するように工具挿入孔4bに挿入した状態を示している。
図7(a)は、軸部8のチャック先端面1aからの挿入深さdが所望深さd2よりも浅い場合を示し、 図7(b)は、軸部8のチャック先端面1aからの挿入深さdが所望深 さd2よりも深い場合を示している。
【0033】
握り部12を握って、軸部8を当接端面8aの側から工具挿入孔4bに挿入し、図7 (a)又は(b)に示すように、規制部材7の六角孔9に六角軸10を係合させ、かつ、当接端面8aを規制部材7の規制端面7aに当接させる。
【0034】
次に、図7(a)に示す場合は、規制部材7を工具挿入孔4bの奥側に移動するように軸部8で螺進操作し、図7(b)に示す場合は、規制部材7を工具挿入孔4bの入口側に移動するように軸部8で螺進操作する。
【0035】
そして、図8(a)に示すように、目盛11の所望の挿入深さd2に対応する箇所Pの環状溝13がチャック先端面1aの位置に一致するように軸部8が移動したときに、軸部8を工具挿入孔4bから抜き出すと、図8(b)に示すように、規制部材7の工具ホルダAに対する装着位置が、工具挿入孔4bへの工具シャンク部C1(工具C)の挿入深さd1が所望深さd2になる位置に位置決めされる。
【0036】
〔その他の実施形態〕
1.本発明による位置決め治具は、規制部材に係合される係合部を先端側に備えたドライバー(ネジ回し)のシャフトで軸部を構成してもよい。
規制部材に係合される係合部の形状は、規制部材の係合形状に合致するものであればよく、形状を特定するものではない。
2.本発明による位置決め治具は、工具挿入孔に挿入された工具を焼嵌めにより保持する工具ホルダ以外に、例えば工具挿入孔に挿入された工具を締め付け具で締め付け保持する工具ホルダにおいて、工具挿入孔に挿入された工具に当接するネジ式規制部材の位置決めを行うために使用するものであってもよい。
焼嵌めにより保持する工具ホルダは工具のシャンク径より工具挿入孔が小さいので、工具を装着しながら装着位置を調整することが困難である。この位置決め治具はこのような時に使用されるのが最適であるが、工具挿入孔の奥に規制部材が装着されている工具ホルダに対して使用することができ、工具ホルダの種類を限定するものではない。
【符号の説明】
【0037】
4b 工具挿入孔
7 規制部材
8 軸部
10 係合部
11 目印(目盛)
15 目印(リング部材)
A 工具ホルダ
C 工具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具ホルダの工具挿入孔に挿入された工具に当接するネジ式規制部材の位置決めを行う位置決め治具であって、
前記規制部材に係合する係合部を先端側に備え、前記工具挿入孔に挿抜自在な軸部と、当該軸部の前記工具挿入孔への挿入深さを表示可能な目印とを備えた位置決め治具。
【請求項2】
前記目印が、前記軸部の外周面に当該軸部の軸芯方向に沿って設けられた目盛である請求項1記載の位置決め治具。
【請求項3】
前記目印は、前記軸部にその軸芯方向に沿って移動可能、かつ、前記軸部に固定可能に外嵌されているリング部材であり、
前記リング部材が前記工具挿入孔の内径よりも大きい外径で形成されている請求項1記載の位置決め治具。
【請求項4】
前記軸部の前記工具挿入孔への挿入深さを測定可能な目盛が、前記軸部の外周面に当該軸部の軸芯方向に沿って設けられ、
前記リング部材が、前記目盛の所望位置に合わせて前記軸部に固定可能に外嵌されている請求項3記載の位置決め治具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−20184(P2011−20184A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−164740(P2009−164740)
【出願日】平成21年7月13日(2009.7.13)
【出願人】(000205834)大昭和精機株式会社 (41)
【Fターム(参考)】