低アレルギー性分子
本発明は、Bet v 1aまたはBet v 1aと少なくとも40%の同一性を有するアレルゲンからなる低アレルギー性分子に関する。本発明の低アレルギー性分子は、Bet v 1aのアミノ酸100〜125の領域内またはこれと対応するBet v 1aと少なくとも40%の同一性を有するアレルゲンの領域内にある、少なくとも4つのアミノ酸残基の変異体を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低アレルギー性分子に関する。
【背景技術】
【0002】
世界中の約1千万人−2千万人が花粉アレルギーを患い、これらの患者のうち、およそ3分の1が樹木花粉に対してアレルギー性反応を示している。温帯気候地域では、主なシラカンバ花粉アレルゲンであるBet v 1が、ほとんどの樹木花粉症の原因となっている。さらに、シラカンバ花粉アレルギーを患う個人の50%〜93%は、花粉関連食品に対して過敏症反応を示す。主としてBet v 1に対して作用する交差反応性IgE抗体がこの過敏症反応の間接的な原因となっている。
【0003】
この種の過敏症は、pollen−food syndrome(PFS)と呼ばれている。これによって、口腔粘膜にアレルゲンが接触するとすぐに拒絶反応が、通常は口腔および咽頭のみに現われる。シラカンバ花粉アレルギーの場合、PFSと最も頻繁に関連しているアレルゲンのひとつとして、主なリンゴアレルゲンであるMal d 1が挙げられる。Mal d 1はBet v 1のアミノ酸配列と64%の同一性を示しており、交差阻害性実験を行った結果、両方の分子に共通するIgEエピトープが存在することが分かった。
【0004】
非特許文献1には、野生型Bet v 1aに点変異を導入することでBet v 1aのIgE反応性を変性させることが記載されている。非特許文献1では、Bet v 1aの10、30、57、112、113および/または125の位置に変異を導入した。これらの位置に変異を有するBet v 1a分子は、その三次元構造を完全には喪失しないので、そのIgE反応性は完全には失活しない。
【0005】
これらの位置における変異は、全ての患者の幾人かにおいては、患者個人のIgE反応に対する多クローン性に依存して、IgE反応性の低下を示したが、全ての患者においてはIgE反応性の低下を示さなかった。したがって、このような変異は、大多数の人を対象とした治療用分子を生成する方法として用いることができなかった。
【0006】
非特許文献2には、低いIgE反応性および高いT細胞反応性を示すキメラタンパクを記載されている。このキメラタンパクは、Bet v 1のシャフリングされたアレルゲンおよびBet v 1同種アレルゲンを含むライブラリから選択されている。
【0007】
非特許文献3では、Bet v 1とMal d 1との交差反応について議論している。
【0008】
非特許文献4には、遺伝子シャフリング法を用いたBet v 1ファミリーの試験管内進化について記載されている。
【0009】
非特許文献5は、5つの点変異を有する低アレルギー性Mal d 1変異体について記載している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Ferreira F et. al.,FASEB(1998)12:231-242
【非特許文献2】Wallner et. al.,Allergy Clin. Immunol.,120(2)(2007):374-380
【非特許文献3】Larsen et. al.,Allergy Clin. Immunol.,109(1)(2002):164
【非特許文献4】Wallner et. al.,Allergy Clin. Immunol.,109(1)(2002):164
【非特許文献5】Bolhaar S T H P et. al.,Clin. Exp. Allergy.35(12)(2005):1638-1644
【非特許文献6】Akdis CA et al. Eur J Immunol. 28(3)(1998):914-25
【非特許文献7】Pearson et al. (1988)PNAS USA 85:2444
【非特許文献8】Devereux, J., et al., Nucleic Acids Research (1984) Nucleic Acids Res., 12, 387-395
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【非特許文献10】Guide to Huge Computers, Martin J. Bishop, ed., Academic Press, San Diego, 1994
【非特許文献11】Carillo et al,(1988)SIAM J Applied Math 48 : 1073
【非特許文献12】Smith and Waterman (1981) Adv. Appl. Math. 2:482
【非特許文献13】Needleman et al.,(1970)J. Mol. Biol. 48:443
【非特許文献14】Schwartz and Dayhoff, eds., ATLAS OF PROTEIN SEQUENCE AND STRUCTURE, National Biomedical Research Foundation, pp. 353-358 (1979)
【非特許文献15】「Vaccine Protocols」(A. Robinson, M.P. Cranage, M. Hudson; Humana Press Inc.,U.S.; 2nd edition 2003)
【非特許文献16】Sippl M. J., Proteins 17:355-362,1993
【非特許文献17】Gajhede M, Nat Struct Biol.1996 Dec;3(12):1040-5.
【非特許文献18】Neudecker P, J Biol Chem.2001 Jun 22;276(25):22756-63.Epub 2001 Apr 3.
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【非特許文献20】Wallner M et al., Method 2004,32(3):219-26
【非特許文献21】Sippl M. J. et al., Stat.mechanics, protein struct & protein.substrate interactions; 0:, pp. 297-315, (1994)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、Bet v 1aの交差反応性アレルゲンによって引き起こされるpollen−food syndromeの治療に用いられる、野生型アレルゲンと比べて全くIgE反応性を示さない、またはIgE反応性が著しく低い低アレルギー性分子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明は、Bet v 1a(配列番号1)からなる、またはBet v 1aと少なくとも40%の同一性を有するアレルゲンからなる低アレルギー性分子であって、Bet v 1aのアミノ酸100〜125の領域内において、または、Bet v 1aと少なくとも40%の同一性を有するアレルゲンにおける上記領域に対応する領域内において、少なくとも4つのアミノ酸残基の変異を有する低アレルギー性分子に関する。
【0013】
Bet v 1aまたはBet v 1aと少なくとも40%の同一性を有する(好ましくは、少なくとも55%、60%、65%、70%、75%もしくは80%の同一性を有する)アレルゲンのアミノ酸100〜125の領域内に、少なくとも4つのアミノ酸残基の変異を有することによって、三次元構造が失われたことでIgE反応性が実質的に低下したもしくは完全に排除された低アレルギー性分子が得られる。
【0014】
変異アレルゲンのIgE反応性は、対応する野生型アレルゲンと比べ、低下している。抗体(IgE)に基づく生物学的アッセイ(ELISAまたはRASTの阻害、好塩基性球の炎症メディエーター放出等)によれば、野生型アレルゲンの場合に得られた最大半減値に到達するまでに、少なくとも50倍、好ましくは少なくとも100倍、より好ましくは少なくとも500倍、さらに好ましくは少なくとも1000倍、変異アレルゲンの濃度を高くする必要がある。これは、非特許文献1と照らし合わせると驚くことである。なぜなら、非特許文献1では、この領域内のアミノ酸残基を3つ変異させても、本発明の分子の特性を有する低アレルギー性分子は得られなかったからである。
【0015】
本発明の低アレルギー性分子の低アレルギー特性は、野生型アレルゲンと比べて、三次元構造が破壊された結果として得られる。非特許文献6では、天然様折り畳み構造のアレルゲン、ここではハチ毒アレルゲンホスホリパーゼA(PLA)が、同一タンパク質の非天然様折り畳み構造を有するアレルゲンと異なる免疫反応を引き起こすことを記載している。
【0016】
折り畳み構造のPLAは、B細胞にIgE抗体を引き起こし、Tヘルパー(TH)2細胞を刺激する。これら細胞は共にアレルギー免疫反応のマーカーである。これに対し、非再折り畳み構造のPLAまたは還元アルキル化PLAは、共にB細胞内のIgG4反応を引き起こすTH1優勢サイトカイン形態を引き起こす。TH1主導の免疫反応は、アレルギー疾患に対する治療剤として用いられる分子に特に好適である。したがって、本発明の分子の折り畳まれていない構造は非常に重要である。
【0017】
3つの他のアミノ酸残基の次に、Bet v 1aまたはBet v 1aと少なくとも40%の同一性を有するアレルゲンの少なくともアミノ酸残基113またはアミノ酸残基114を変異することが特に好ましい。
【0018】
本発明の他の様態は、Bet v 1aまたはBet v 1aと少なくとも40%の同一性を有するアレルゲンからなる低アレルギー性分子であって、Bet v 1aのアミノ酸100〜125の領域内またはこれに対応するBet v 1aと少なくとも40%の同一性を有するアレルゲンの領域内に少なくとも1つのアミノ酸残基の変異を有し、上記少なくとも1つのアミノ酸残基の変異は、Bet v 1aまたはBet v 1aと少なくとも40%の同一性を有するアレルゲンの位置114でのアミノ酸残基の変異を有する低アレルギー性分子である。
【0019】
驚くことに、少なくともアミノ酸残基114の変異は、対応する野生型アレルゲンの三次元構造とは異なる三次元構造を有する低アレルギー性分子を生成する可能性があることが分かった。Bet v 1aまたはBet v 1aと少なくとも40%の同一性を有するアレルゲンのアミノ酸114の変異は、結果として低アレルギー性分子の生成につながる。
【0020】
本発明の好適な実施の形態によれば、この低アレルギー性分子は、さらに少なくとも1つ(好ましくは少なくとも2つ、3つ、4つ、または5つ)のBet v 1aのアミノ酸100〜125内またはこれに対応するBet v 1aと40%の同一性を有するアレルゲンの領域内の変異を含んでいる。特に、低アレルギー性分子は、Bet v 1aのアミノ酸残基102およびアミノ酸残基120の少なくとの一方において変異を有することが好ましい。本発明の特に好適な実施の形態では、Bet v 1aまたはBet v 1aと少なくとも40%の同一性を有するアレルゲンのアミノ酸残基114は、リジン(K)、アスパラギン酸(D)またはグルタミン酸(E)で置換されている。
【0021】
本発明の好適な実施の形態によれば、Bet v 1aと少なくとも40%の同一性を有する上記アレルゲンは、Bet v 1aと免疫学的に交差反応を起こしうる。ここで、免疫交差反応は特定分子に抗体を結合させることとして定義され、アフィニティー精製したウサギ抗Bet v 1aポリクローナル抗体を用いて、ELISAによって判定することができる。Bet v 1aと少なくとも40%の同一性を有し、これらの抗体で認識される分子は、Bet v 1aと免疫交差反応を起こしうると考えられる。
【0022】
Bet v 1aと少なくとも40%の同一性を有するアレルゲンがBet v 1aと免疫学的に交差反応を起こしうることは有利なことである。なぜなら、このことにより、免疫システムがBet v 1aだけではなく多くの場合Bet v 1aと少なくとも40%の同一性を有する食物アレルゲンと結合しうる抗体を生成できるため、本発明の低アレルギー性分子をpollen−food syndrome (PFS)の防止または治療に用いることができるからである。
【0023】
アレルゲンがBet v 1aと少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%の同一性を有すると、より有利である。
【0024】
本明細書で用いられる「同一性」とは、いかなる2つ(またはそれ以上)のペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質配列が一定の度合いで互いに「同一」のアミノ酸配列を有しているか否か(「%の同一性」)を示す。この度合いは、例えば、非特許文献7に記載のデフォルトパラメータを用いて、「FASTA」プログラムといった公知のコンピュータアルゴリズムによって判断することができる(他のプログラムは、GCGプログラムパッケージ(非特許文献8)、BLASTP、BLASTN、FASTA(非特許文献9、非特許文献10、および非特許文献11等が挙げられる)。例えば、NCBIデータベースのBLASTツールを同一性判断に用いることができる。他の商業的または公然に提供されているプログラムとして、DNAStarの「MegAlign」プログラム(Madison,WI)およびウィスコンシン大学遺伝子コンピュータグループ(UWG)の「Gap」プログラム(Madison,WI))が挙げられる。
【0025】
タンパク質分子の同一性割合は、例えば、GAPコンピュータプログラム(例えば、非特許文献12によって改訂された非特許文献13)を用いて配列情報を比較することで決定することができる。簡単に言えば、GAPプログラムは、類似性を、同一の配列記号(すなわち、ヌクレオチドまたはアミノ酸)の数を、2つの配列のうち短い配列にある記号の合計数で割った数として定義している。
【0026】
GAPプログラムのデフォルト(初期値)パラメータは、次を含むことができる:(1)単一比較マトリクス(同一性および非同一性を有する1の値を有する)、および非特許文献14に記載のGribskov et al. 14:6745の加重比較マトリクス;(2)各間隙に3.0のペナルティと、各間隙内の各記号につき、追加で0.10ペナルティ;および(3)各末端の間隙にはペナルティがない。
【0027】
Bet v 1aと少なくとも40%の同一性を有するアレルゲン(Z80098)は、Bet v 1と、以下からなる群より選択されるアレルゲンとで構成されていることが好ましい:Dau c 1,特にDau c 1.0101(U47087),Dau c 1.0102(D88388)Dau c 1.0104(Z81362),Dau c 1.0105(Z84376),Dau c 1.0201(AF456481)またはDau c 1.0103(Z81361);Api g 1,特にApi g 1.0101(Z48967)またはApi g 1.0201(Z75662);Pet c 1(X12573);Cas s 1(AJ417550));Que a 1(P85126);Mal d 1,特にMal d 1.0101(X83672),Mal d 1.0102(Z48969),Mal d 1.0109(AY026910),Mal d 1.0105(AF124830),Mal d 1.0106(AF124831),Mal d 1.0108(AF126402),Mal d 1.0103(AF124823),Mal d 1.0107(AF124832),Mal d 1.0104(AF124829),Mal d 1.0201(L42952),Mal d 1.0202(AF124822),Mal d 1.0203(AF124824),Mal d 1.0207(AY026911),Mal d 1.0205(AF124835),Mal d 1.0204(AF124825),Mal d 1.0206(AF020542),Mal d 1.0208(AJ488060),Mal d 1.0302(AY026908),Mal d 1.0304(AY186248),Mal d 1.0303(AY026909),Mal d 1.0301(Z72425),Mald1.0402(Z72427),Mald1.0403(Z72428)またはMald1.0401(Z72426);Pyr c 1,特にPyr c 1.0101(O65200);Pru av 1,特にPru av 1.0101(U66076),Pru av 1.0202(AY540508),Pru av 1.0203(AY540509)またはPru av 1.0201(AY540507);Pru p 1(DQ251187);Rub i 1.0101(DQ660361);Pru ar 1,特にPru ar 1.0101(U93165);Cor a 1,特にCor a 1.0401(AF136945),Cor a 1.0404(AF323975),Cor a 1.0402(AF323973),Cor a 1.0403(AF323974),Cor a 1.0301(Z72440),Cor a 1.0201(Z72439),Cor a 1/5(X70999),Cor a 1/11(X70997),Cor a 1/6(X71000)またはCor a 1/16(X70998);Bet v 1d(X77266);Bet v 1l(X77273);Bet v 1a1−6(Ferreira Fら、FASEB(1998)12:231−242);Bet v 1g(X77269);Bet v 1f(X77268);Bet v 1j(X77271);Bet v 1e(X77267);Bet v 1b(X77200);Bet v 1c(X77265);Bet v 1.0101(X15877);Bet v 1.0901(X77272);Bet v 1.1101(X77599);Bet v 1.1201(X77600);Bet v 1.1301(X77601);Bet v 1.1401(X81972);Bet v 1.1501(Z72429);Bet v 1.1601(Z72437);Bet v 1.1701(Z72430);Bet v 1.1801(Z72431);Bet v 1.1901(Z72433);Bet v 1.2001(Z72434);Bet v 1.2101(Z72435);Bet v 1.2201(Z72438);Bet v 1.2301(Z72436);Bet v 1.2401(Z80100);Bet v 1.2501(Z80101);Bet v 1.2601(Z80102);Bet v 1.2701(Z80103);Bet v 1.2901(Z80105);Bet v 1.3001(Z80106);Aln g 1(S50892);Car b 1,特にCar b 1.0301(Z80169),Car b 1.0302(Z80170),Car b 1.0103(Z80159),Car b 1.0105(Z80161),Car b 1.0104(Z80160),Car b 1/1a,Car b 1.0101(X66932),Car b 1.0102(X66918),Car b 1/1b,Car b 1/2,Car b 1.0106a(Z80162),Car b 1.0106b(Z80163),Car b 1.0106c(Z80164),Car b 1.0106d(Z80165),Car b 1.0107a(Z80166),Car b 1.0107b(Z80167),Car b 1.0201(X66933)またはCar b 1.0108(Z80168);Gly m 4.0101(X60043);Vig r 1.0101(AY792956);Ara h 8.0101(AY328088);Asp ao PR10(X62103);Bet p 1a(AB046540);Bet p 1b(AB046541);Bet p 1c(AB046542);Fag s 1(AJ130889);Cap ch 17kD a(AJ879115);Cap ch 17kD b(AJ878871);Fra a 1.0101(AY679601);およびTar o 18kD(AF036931)。
【0028】
特に、Mal d 1(配列番号2)が好ましい。
【0029】
本発明の好適な実施の形態によれば、少なくとも4つのアミノ酸残基の上記少なくとも1つの変異は、アミノ酸の置換、欠失、または付加である。
【0030】
アレルゲン内の上記少なくとも4つのアミノ酸残基の変異はいかなる種の変異であってもよい。しかしながら、単一アミノ酸残基または分子内における一続きのアミノ酸残基を置換することが好ましい。なぜなら、こうすることで、Bet v 1aと比べて低アレルギー性分子の長さが全く影響を受けないからである。
【0031】
本発明の好適な実施の形態によれば、Bet v 1aの変異領域またはこれに対応するBet v 1aと少なくとも40%の同一性を有するアレルゲンの領域は、Bet v 1aまたはこれに対応するBet v 1aと少なくとも40%の同一性を有するアレルゲンの領域のアミノ酸105〜120、好ましくはアミノ酸108〜118、より好ましくは、アミノ酸109〜116を含む。
【0032】
本発明の好適な実施の形態によれば、上記少なくとも1つの変異が、上記領域とBet v 1aおよびBet v 1aと少なくとも40%の同一性を有するアレルゲンからなる群より選択された別のアレルゲンの対応する領域とが置換されることを含む。
【0033】
上記領域を置換することによって、Bet v 1aもしくはBet v 1aと少なくとも40%の同一性を有するアレルゲンのT細胞エピトープを備える低アレルギー性分子が生成できるだけでなく、潜在的に特定のBet v 1aエピトープまたはBet v 1aと少なくとも40%の同一性を有するアレルゲンのエピトープを備える分子を生成することができる。このことで、花粉関連食物アレルギーを患っているまたは患うリスクのある個人に、前記低アレルギー性分子を含む、1つのアレルゲンだけではなく2つ目のアレルゲンに対しても免疫反応を引き起こすワクチンを投与することができる。
【0034】
本発明の他の好適な実施の形態によれば、分子はBet v 1からなり、Bet v 1のアミノ酸109〜116の領域がMal d 1の対応する領域と置換される(結果として、配列番号3を得る)。
【0035】
本発明の特定の好適な実施形態によれば、上記分子はMal d 1からなり、Mal d 1のアミノ酸109〜116の領域はこれに対応するBet v 1の領域と置換されている。
【0036】
Bet v 1aまたはBet v 1aと少なくとも40%の同一性を有するアレルゲンは、前記定義された領域の少なくとも一部を、異なるアレルゲンに由来する、置換される領域と同一領域のアミノ酸断片で置換することによって変性してもよい。
【0037】
本発明の他の様態は、本発明に係る低アレルギー性分子をコードするための核酸分子に関する。
【0038】
本発明のさらなる様態は、本発明に係る核酸分子を含有するベクターに関する。
【0039】
本発明のベクターは、本発明の低アレルギー性分子をコードする核酸断片と、原核性(例えば、細菌)生物内で増殖しうるベクター要素を含んでいる。このベクターは、プロモーター、転写結合部位等の機能的ポリヌクレオチド配列を有する。このベクターは、プラスミドまたはウイルスベクターであってもよい。
【0040】
低アレルギー性分子の精製を容易にするために、上記分子は、タグ、特にヒスチジンまたはグルタチオンSトランスフェラーゼに融合されていてもよい。したがって、公知の好適な発現ベクターを用いてもよい。
【0041】
本発明の他の様態は、本発明に係る低アレルギー性分子を含有するワクチン製剤に関する。
【0042】
本発明の好適な実施の形態によれば、上記製剤はさらに少なくとも1つの薬学的に使用可能な、賦形剤類、希釈剤類、アジュバント類および/またはキャリア類を含有する。
【0043】
個人の皮下、筋肉、静脈、粘膜等に投与されるワクチン製剤を提供するには、その製剤はさらに賦形剤類、希釈剤類、アジュバント類および/またはキャリア類を含む必要がある。アジュバント類としては、KLH(キーホールリンペットヘモシアニン)およびミョウバンを用いるのが好ましい。ワクチン製造のプロトコルとしては、当業者に公知のものを好適に用いることができる。例えば、非特許文献15に記載されているプロトコルなどを用いることができる。
【0044】
本発明の他の様態は、アレルギー予防および/または治療用ワクチンの製造するために本発明に係る低アレルギー性分子を使用する方法に関する。
【0045】
本発明の低アレルギー性分子は、アレルギーの治療および予防、特に花粉症を患う患者がさらに食物アレルギーを経験する(例えば口腔周りにおける痒みや掻痒症から一般的な蕁麻疹そしてさらにアナフィラキシーまで引き起こす場合がある)pollen−food syndromeと関連したアレルギーの治療および予防に用いることができる。
【0046】
Pollen−food syndromeでは、花粉に存在するアレルゲンを個人が吸入することで、個人が感作される。その後、個人が感作アレルゲンと交差反応を起こしうるタンパク質を含む植物由来の食品と接触することで、即時性病徴が引き起こされ始める。経口感作が終了すると、個人が同じタンパク質と接触するたびにアレルギー症状が引き起こされる。
【0047】
Bet v 1aは非常に交差反応を起こしやすいアレルゲンであり、多数の食物由来のアレルゲンと交差反応を起こしやすい。特に、野菜や果物に由来するものが交差反応を起こしやすい。したがって、Bet v 1aを原因とする花粉アレルギーを患う患者は、食物由来アレルギーに対してもアレルギー性を有している可能性がある。
【0048】
本発明は以下の図面および実施例を参照してさらに説明する。ただし、本発明はこれらに限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1a】160アミノ酸長(開始メチオニンを含む)の変異アレルゲンBM1,2,3,5の概略図である。タンパク質は、テンプレートアレルゲンBet v 1aに7つの連続するアミノ酸を有するMal d 1.0108のエピトープを接いで構成されている。Bet v 1aのアミノ酸と一致する一続きは白色で示し、Mal d 1.0108から挿入されたエピトープは灰色で示している。交換されたエピトープを構成するアミノ酸は、1文字コードで列挙されている。両方のタンパク質で同一の残基は黒色で示し、異なるアミノ酸は灰色で示している。
【図1b】BM1,2,3,5モデルを算出し、その構造をBet v 1の三次元折り畳み構造と比較した図である。BM1,2,3,5とBet v 1aとで同一の残基は灰色で示し、Mal d 1.0108に由来するエピトープは黒色で表している。下側のパネルは、タンパク質を180°C回転させて示している。
【図1c】BM1,2,3,5の二次構造とBet v 1とを円偏光二色性(CD)で比べた図である。データは、特定の波長および基準線補正された平均残差モル楕円率[θ]MRWとして示している。
【図2a】アフィニティー精製されたBM1,2,3,5(各レーンにそれぞれ5μg)のSDS−PAGEおよび免疫ブロット分析を示す図である。SDS−PAGEの後、タンパク質をクーマシーブリリアントブルー染色(左パネル)によって可視化した。免疫ブロット分析では、マウス抗Bet v 1 モノクローナル抗体を用いてタンパク質を検出した。
【図2b】ELISAを用いて、Bet v 1a、Mal d 1.0108およびBM1,2,3,5のIgE結合活性を、PFSの臨床症状のないBet v 1アレルギー患者(n=12)またはリンゴおよび他のBet v 1関連食品に対してPFS症状のあるBet v 1 アレルギー患者(n=11)の血清を用いて、分析を行った。アレルゲンはコーティングするために滴定され、最適な抗原コーティング濃度を0.5mg/mlに決定した。Bet v 1(P>0.99)とのIgE結合に関しては、両グループの患者の間で著しい違いは観察されなかった。予想通り、Mal d 1とのIgE結合は、PFSグループの方がより強固だった。PFSを患う変異BM1,2,3,5の患者では、IgE結合が著しく増加した(P<0.01)。記号は、それぞれ個々の患者を表し、線は平均を表す。P値はtテストによって算出した(**P<0.01)。
【図3】実施例2に係る変異アレルゲンBM4の概略図である。
【図4】Bet v 1aおよびBM4のclustalWアライメントを示す図である。下線部はBM4の交換されたエピトープを示し、斜体太字はBet v 1aの免疫優勢T細胞エピトープを示している。太字のアミノ酸は、エピトープ交換の「コア」を示し、患者のBet v 1のIgE結合にとって必要不可欠なアミノ酸である。
【図5】Mal d 1.0108およびBM4のclustalWアライメントを示す図である。下線部はBM4の交換されたエピトープを示している。太字のアミノ酸はエピトープ交換の「コア」を示し、患者のBet v 1のIgE結合にとって必要不可欠なアミノ酸である。
【図6】BM4のSDS−Pageを示す図である。
【図7】Bet v 1aのCDスペクトルをBM4の20℃および95℃でのCDスペクトルと比較して示す図である。全ての曲線は基準線補正がされている。データは平均残差モル楕円率で示している。タンパク質濃度は、アミノ酸分析によって決定された。BM4は20℃だけではなく95℃においても、ランダムコイルタンパク質の典型的なCDスペクトルを示した。
【図8】Bet v 1a(Biomay)、BM4、および卵白アルブミンのELISAを示す図である。卵白アルブミンは関連性のないコントロール抗原として、Sigma−Aldrichから購入した。アレルゲン(200ng/ウェル)は固定化された。全ての計測を重複して行い、結果はバックグラウンド除去後の平均OD値として算出した。シラカンバ花粉アレルギーを患う13個人の血清を検査した。コントロールとしては、いかなるタンパク質にも信号を示さなかったNHSを用いた。BM4はELISAにおいて、仮想的には患者のIgE結合を全く示さない。
【図9】シラカンバ花粉アレルギー患者の血清IgEを用いて、huFcεRIを形質移入したRBL−2H3細胞を感作させて判定したBM4アレルギー活性を示す図である。BM4は、Bet v 1aと比べて、100倍−1000倍少ないアナフィラキシー活性を示した。
【図10】シラカンバ花粉アレルギーの患者の末梢血の単核細胞(PBMC)を、6xhisにてタグ化されたBM4またはBet v 1aを、25μg/ml、12.5μg/ml、6.25μg/mlもしくは3μg/ml用いて判定したものを示す図である。BM4の平均刺激指数(SI)は、Bet v 1aの平均刺激指数よりも高かった。図中の各記号は各患者のそれぞれを示し、各バーは各患者の平均を示している。
【図11】PDBタンパク質データバンクから入手したBet v 1(1bv1)の配列を示す図である。図中のボックス内「□」は変異タンパク質BM4で置換された配列領域を示している。
【図12】変異タンパク質BM4において置換された配列領域を示す図である。患者の41%で観察されたBet v 1の関連T細胞エピトープ(SILKISNKYHTK;配列番号4)を斜体太字で示している。これの1つ前のペプチド(DGGSILKISNK;配列番号5)は患者の6%、後のペプチド(KISNKYHTKGDH;配列番号6)は患者のいずれにも観察されなかった。PBMCデータは、今までのところ、低下どころかむしろよりよいT細胞刺激を示している。したがって、BM4のT細胞刺激特性に関して問題が発生するとは考えにくい。
【図13】Bet v 1、およびアイソフォームを含む果物、ナッツまたは野菜といった他の花粉源から見つかるBet v 1の異種同形アレルゲンのClustalW多重整列を示す図である。Bet v 1aにおいて置換されたエピトープは、BM4のMal d 1.0108の1つと置換されている。
【図14】Mal d 1.0108のエピトープが移植された様々なBet v 1a変異の混合スコア(Zスコア)を算出したものを示す図である。したがって、Mal d 1.0108の重複している非配列同一なひと続きの配列(10aa;n=103)をBet v 1a構造に置換し、ソフトウェアツールProSa IIを用いてZスコアを算出した。このソフトウェアは、公知のタンパク質構造に由来する、既知ポテンシャルを用いて、ネイティブな球形タンパク質の平均特性について、タンパク質構造の質を反映したスコアを得るべく、原子対および溶媒相互作用の観点から捕捉する(非特許文献16)。算出結果から、Bet v 1aにMal d 1.0108のアミノ酸109〜116(SGSTIKSI;配列番号7)をエピトープ置換することが、高Zスコアを示す最も不安定な置換の1つであることが分かった。このことにより、タンパク質構造において、同一アレルゲンBM4の折り畳まれていない構造の原因が分かった。
【図15】各変異アレルゲンBM1、BM2、BM3、BM4、BM5、BM1,2,3,4,5およびBM1,2,3,5を概略的に示す図である。これらアレルゲンは、Mal d 1.0108からBet v 1aの骨格にエピトープ移植をすることで生成された。移植されたエピトープ配列は図に示しているとおりであり、Bet v 1aと同一のアミノ酸は黒で示し、下線部はMal d 1.0108から挿入されたアミノ酸を示している。各変異アレルゲンは大腸菌に発現した。異なる各変異アレルゲンのBet v 1のような折り畳み構造は、ドットブロットの抗体結合または精製されたアレルゲンの円偏光二色性分光法によって分析した。Mal d 1.0108のエピトープ109〜116(SGSTIKSI;配列番号7)を有する各変異アレルゲンはBet v 1のような折り畳み構造を有していない。しかしながら、Mal d 1.0108の他のエピトープを有する変異アレルゲンは、Bet v 1のように折り畳み構造を得られた。
【図16】ELISA阻害によって分析した、野生型Bet v 1aと比較した、Bet v 1特異的患者のIgEを結合するBM4の能力の低下を示す図である。Bet v 1aをELISAプレートにウェルごとに200ng固定化し、阻害剤(例えば、非関連コントロール抗原として、Bet v 1a、BM4または卵白アルブミン(OVA))の順次希釈にて患者の血清を培養した。全ての計測は複数行われ、バックグラウンド除去の後、結果を平均OD値として示した。シラカンバ花粉アレルギーの5個人の血清をテストした。コントロールとして、いずれのタンパク質にも反応を示さないNHSを用いた。Bet v 1aと比べて、BM4はおよそ100倍−1000倍低い患者のIgE結合能を示した。
【図17】非関連コントロール抗原として用いられるBM4、Bet v 1aおよびOVAの免疫ブロットを示している。結合血清IgEを、I125標識ウサギ抗ヒトIgE(MedPro)を用いて検出した。BM4はほとんどIgE結合を示さなかった。コントロールとして、健常なヒト血清または検出抗体のみを用いた。
【図18a−1】UVおよびトリプル検出器システムを用いたオンラインSEC光拡散法(SECTDA)にてBM4の均質性を評価した。BM4は、保持容量が9.3ml、MWがおよそ20kダルトン、そしてRHが>3.2nmを有する単一ピークを有するように示された。観察されたピークの尾行は、折り畳まれていないタンパク質の引き伸ばされた立体構造による吸着効果および高RHによるものである可能性がある。
【図18a−2】検出器は、MWが66kダルトンでRHが3.1nmのウシ血清アルブミン(BSA)で調節された結果を示す。
【図18a−3】MWが17kダルトンでRHが1.9nmのrBet v 1aを用いて、システム適性を確認した結果を示す。
【図18b−1】SECのボイド(5.7ml)および合計保持容量(12ml)の間でさらなるピークが検出されなかったため、非凝集化されたBM4において99%を超える均質性が観察されたことを示している。HP1100分析クロマトグラフィーシステム(ヒューレット・パッカード、San Jose、CA、米国)において7.8x300mmTSKゲルG2000SWXLカラム(トーソー・バイオサイエンス、Stuttgart、ドイツ)を用いて、PBSにて0.5ml/分でHPSECを行った。280nmで測定する内臓UV検出器、および屈折率(RI、破線)、固有粘度(IV、一点長鎖線)、および光散乱(RALS、長鎖線)検出システム(TDA 302、Viscotek社、Houston、TX、米国)を組み合わせて、近似分子量(MW、太線)および流体力学半径(RH、二点長鎖線)を算出した。図18b−1では、光散乱(RALS)検出および屈折率(RI)検出の各結果を示す。
【図18b−2】上記検出における、UV検出および固有粘度(IV)検出の各結果を示す。
【図19a】動的光散乱(DLS)によるBM4の溶液内凝集挙動を示す図である。BM4の97%を超えるものにおいて、流体力学半径(RH)が3.5nm、多分散度が18.4%の単量体分子であることが示された(図19(a))。参考までに、rBet v 1aはRHが2.1nm、多分散度が16.7%であった(図19(b))。したがって、BM4は、おそらくは折り畳まれていない構造であるがゆえに、より高いRHとなっている。そのほか、3%未満のBM4が、分子量>1Mダルトンのマルチマーとして示された。リン酸ナトリウム10mM内において14,000×gで10分間、遠心分離した後、DLS 802(Viscotek社、Houston、TX、米国)を用いて動的光散乱を行った。この際、水用の溶媒設定を用いた。10〜20×10秒のデータを累積し、組み合わせたデータ曲線に相関関数を当てはめた。OmniSizeTMソフトウェアパッケージ(Viscotek社)は、この相関関数を用いて質量分布を算出した。
【図19b】参考として、rBet v 1aはRHが2.1nm、多分散度が16.7%であることを示す。
【図20】精製された組換えBet v 1,BM4,Mal d 1,Dau c 1,Api g 1,Cor a 1,シロイヌナズナPR−10タンパク質、サーマス・サーモフィラスPR−10タンパク質、およびMethanosarcina mazeiPR−10タンパク質(各レーンに3μgずつ)にSDS−PAGE処理を施し、クーマシーブルーで染色した(a)。(b)は、BM4と相同タンパク質の交差反応を実証するべく、ウサギ抗Bet v 1ポリクローナル抗体(1:5000)を用いてELISAを行ったものである。組換えBet v 1、BM4およびCor a 1はウサギ抗体によって広範に認識され、Dau c 1,Mal d 1,およびApi g 1は構造的交差反応も示した。シロイヌナズナ、サーマス・サーモフィラス、およびメタノサルシナ・マゼイから精製されたPR−10タンパク質からはポジティブ信号は得られなかった。(c)は、BM4と比較したPR−10タンパク質の配列同一性を示している。アミノ酸配列および同一性プロットはAlignX(Vector NTI,インビトロジェン)によって行った。
【図21】各変異アレルゲンMB1、MB2、MB3、MB4、MB5およびMB1,2,3,4,5を概略的に示す図である。アレルゲンはMal d 1.0108の骨格にBet v 1aのエピトープを移植することで生成された。移植エピトープ配列は図に示しており、Mal d 1.0108と同一のアミノ酸は黒色、Bet v 1aから挿入されたアミノ酸は灰色で示している。各変異アレルゲンは大腸菌において発現された。Bet v 1および食料源だけでなく他の花粉で見つかる相同物の折り畳み構造は、X線結晶解析の結果、非常に類似していることが分かった(非特許文献17、非特許文献18、非特許文献19)。この共通の折り畳み構造によって、よい抗体交差反応結果が得られる。したがって、異なるMal d 1.0108変異アレルゲンにおけるBet v 1のような折り畳み構造の有無を、Mal d 1と交差反応することが示されたシラカンバ花粉アレルギー患者の血清またはアフィニティー精製されたウサギ抗Bet v 1ポリクローナル抗体を用いて、ドットブロット内の抗体結合性を基に評定した。これらの免疫ブロットの結果、Bet v 1aのエピトープ109−116(DGGSILKI)を有する変異アレルゲンはBet v 1のような折り畳み構造を有さないことがわかった。しかしながら、Bet v 1aの他のエピトープを有する変異アレルゲンは、Bet v 1のように折り畳むことができた。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0050】
Pollen−food syndrome(PFS)とは、花粉アレルギーを患う患者に関連する、果物類、ナッツ類、および野菜類に対する食物アレルギーである。主要なリンゴアレルゲンであるMal d 1は、PFSを患うシラカンバ花粉アレルギー患者が最も一般的に関連している食物アレルゲンの一つである。免疫学的には、このアレルギーは、シラカンバ花粉アレルゲンのBet v 1に対して元々発生した交差反応を起こしうるIgE抗体に起因している。
【0051】
Bet v 1に特異的なIgE抗体がMal d 1と交差反応しうるとはいえ、全てのBet v 1アレルギー患者がリンゴに対して発症反応を起こすわけではない。このことによって、両方の同種アレルゲンに存在する特定のIgEエピトープがPFSの発症の発現を起こしていることがわかる。このことを分析するために、4つのMal d 1のひと続きをBet v 1に移植した。移植された領域は、7アミノ酸長であり、Bet v 1のIgE認識に必要不可欠なアミノ酸残基を含んでいる。
【0052】
Bet v 1−Mal d 1のキメラタンパクから設計されたBM1,2,3,5を大腸菌において発現させ、均質性を有するように精製した。BM1,2,3,5は、(i)リンゴの摂取時に発症症状を示さないBet v 1アレルギー患者の血清および(ii)リンゴおよび他のBet v 1関連食品の摂取時にアレルギー症状を示すBet v 1アレルギー患者の血清に対してテストされた。患者のIgE結合を、ELISAで評価した。
【0053】
BM1,2,3,5に対して、PFSを患う患者はシラカンバアレルギーのみを患う個人に比べてより強く反応を示した。このことで、リンゴアレルギーと関連のあるBet v 1のB細胞エピトープの識別に成功した。
【0054】
各方法
患者の血清:
PFSを患っている、およびPFSを患っていないシラカンバ花粉アレルギー患者を、典型的な病歴、陽性皮膚プリックテストおよび放射性アレルギー吸着試験(RAST)のクラス3以上によって選択した。相対的なBet v 1およびMal d 1とのIgE結合と臨床症状との相互関係を、両方の患者グループに対して、対応する抗原を用いてELISAで確認した。
【0055】
BM1,2,3,5のクローニング
BM1,2,3,5を、Bet v 1a(X15877)の変異断片をPCR増幅することによって生成した。クローニングに用いられたinternal mismatch primerは:
Mut10F 5’CGCCATTGTTTTCAATTACGAAAaTGAGttCACCTCTGagATC3’(配列番号8),
Mut30F 5’GATGGCGATAATCTCaTTCCAAAGaTTGCACCCCAA3’(配列番号9),
Mut30R 5’ATGGCTTGGGGTGCAAtCTTTGGAAtGAGATTATCG3’(配列番号10),
Mut57F 5’ATTAAGAAGATCAcCTTTggCGAAGGCTTC3’(配列番号11),
Mut57R 5’GAAGCCTTCGccAAAGgTGATCTTCTTAAT3’(配列番号12),
Mut125F 5’CACACCAAAGGTaACatTGAGaTcAAGGCAGAGCAG3’(配列番号13),
Mut125R 5’CTGCTCTGCCTTgAtCTCAatGTtACCTTTGGTGTG3’(配列番号14)であった。
【0056】
交換された塩基は小文字で表している。変異断片はゲル精製され、プライマーなしのPCRにプールさせて組み上げられた。完全長遺伝子は、各プライマーである、BetF 5’GGCCCATATGGGTGTTTTCAATTACGAA3’(配列番号15)およびBetR 5’TCGGCTCGAGGTTGTAGGCATCGGAGTG3’(配列番号16)にて増幅された。各制限部位は下線により示された。BM1,2,3,5は、Nde I制限部位およびXho I制限部位を用いて、pHis−Parallel2ベクターにクローニングされた(非特許文献20を参照下さい)。
【0057】
BM4の発現および精製
発現プラスミドを大腸菌BL21(DE3)pLysS細胞(Stratagene)にて形質転換し、上記大腸菌を、アンピシリン100mg/Lを補充したLB培地内において、37℃にて、OD600が0.8となるまで成育した。培地を16℃まで冷却し、イソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド(IPTG)を0.3mM加えることでタンパク質発現を引き起こした。18時間培養した後、低速度遠心分離で細胞を取り出し、適切なlysis bufferに再懸濁した。BM1,2,3,5は6xHisTag融合タンパク質で発現し、固定化金属アフィニティークロマトグラフィーによって、可溶細菌溶解物から精製された(非特許文献20)。組換えタンパク質を10mMリン酸ナトリウムバッファ(pH7.4)で透析し、−20℃で保管した。
【0058】
SDS−PAGEおよび免疫ブロット
大腸菌溶解物および精製されたタンパク質を、15%ゲルを用いる、変性したドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)により分析した。タンパク質は、クーマシープリリアントブルーR−250(Biorad)で染色して可視化された。
【0059】
免疫ブロット分析のため、SDS−PAGEで分離したタンパク質をニトロセルロース膜(Schleicher&Schuell)にて電気ブロットした。タンパク質は、モノクローナルBet v 1抗体BIP−1(1:10.000)を用いて検出した(非特許文献1)。結合BIP−1は、AP共役ウサギ抗マウスIgG+IgM(Immunoresearch Laboratories社)により検出された。
【0060】
円偏光二色性
タンパク質の円偏光二色性(CD)スペクトルは、Neslab RTE−111M温度コントロールシステム(Thermo Neslab社)が取り付けられたJASCO J−810分光偏光計(Jasco)を用い、5mMリン酸ナトリウム(pH7.4)にて記録された。得られた曲線は、基準線(ベースライン)が補正された。補正された結果を所定波長における平均残差モル楕円率[θ]MRWとして示した。CDシグナルを正規化するためのタンパク質濃度はOD280にて判定された。
【0061】
分子モデリング
モデリングは、比較モデリングツールMODELLERを用いて行い、ProSa2003によって評価された。全てのモデルはPDB構造ファイル1bv1(Bet v 1)に基づき、PyMOL0.98を用いて示された。
【0062】
ELISA実験
IgEのELISA実験を行うべく、Maxisorpプレート(NUNC)は、ウェル毎に、PBS50μl中のアレルゲンを滴定し、4℃で1晩おいてコートされた。プレートは、TBS、pH7.4、0.05%(v/v)Tween、1%(w/v)BSAにてブロックされ、1:5で希釈した患者の血清で1晩、4℃にてインキュベートされた。37℃で1時間、4℃で1時間インキュベートした後、結合IgEをアルカリンホスファターゼで共役した抗ヒトIgEモノクローナル抗体(BD Biosciences Pharmingen)で検出した。
【0063】
あるいは、Bet v 1および相同タンパク質は、ウェル毎にPBS50μlにおいて、4μg/mlの濃度にて1晩、4℃でコートされた。Bet v 1および相同タンパク質は、上記アレルゲンと同様にブロックされ、様々な希釈度(1:5.000−1:20.000)のウサギ抗rBet v 1ポリクローナル抗体にてインキュベートされた。検出はアルカリンホスファターゼ共役ヤギ抗ウサギ抗体を用いて行った。10mMの4−ニトロフェニルリン酸(Sigma−Aldrich)を基質として用いて、ODを405nm/492nmで計測した。測定は、3回の繰り返し(IgE ELISA)または2回の繰り返し(ウサギ抗Bet v 1抗体)にて行った。結果は平均OD値で示した。
【0064】
結果
本実施例の目的は、リンゴに対するBet v 1関連PFSの発症症状の原因となる、交差反応を起こしうるB細胞エピトープの識別である。したがって、変異アレルゲンBM1,2,3,5は、Mal d 1.0108の特定のエピトープを、Bet v 1a配列の対応する位置に移植することで設計される(図1A)。
【0065】
移植された領域は、Bet v 1および相同物のIgE認識に必要不可欠と既に説明されている残基を含む7つ連続するアミノ酸として定義されている。これらの特定の残基(Bet v 1a内のThr10,Phe30,Ser57,およびAsp125)は、Bet v 1へのIgE結合を変化させるだけでなく、Mal d 1のIgE認識も、その対応する位置のアミノ酸に非常に大きく依存している。
【0066】
記載部位での特定変異の導入は、円偏光二色性(CD)によって示されるようにアレルゲンの全体構造を変えるものではないが、分子のアレルゲン性に大きく影響する可能性がある。BM1,2,3,5に対する患者のIgE結合を調べることで、移植されたエピトープはBet v 1およびMal d 1の交差反応の指標となる。
【0067】
Bet v 1のIgEエピトープが立体配座であるため、ハイブリッドの完全な構造が重要であった。BM1,2,3,5の三次元折り畳み構造は、まず、分子モデルを算出し、その後、Bet v 1の3D画像と比べることで評価された。モデルは、テンプレートアレルゲンと同様の保存形状を示した。
【0068】
4つの変異エピトープの全てをタンパク質表面に曝すことによって、BM1,2,3,5への抗体結合に影響を与えることができた(図1B)。算出されたアレルゲンは、クローニングされ、6xHisTag融合タンパク質として大腸菌内にて発現され、均質性を有するように精製された。
【0069】
コンピュータ内でタンパク質構造のデータを確認するべく、BM1,2,3,5およびBet v 1aの遠紫外線CDスペクトルをそれぞれ記録し、信号を[θ]MRW単位に正規化させた後にBM1,2,3,5およびBet v 1aの各タンパク質構造のデータを比較した。両スペクトルのオーバーレイは、ほとんど同一の二次構造を示した(図1C)。
【0070】
抗Bet v 1モノクローナル抗体を抗体結合することで、同様の折り畳み構造のさらなる徴候が現われた。この抗体結合で、両タンパク質において同様にBM1,2,3,5のBet v 1のような折り畳み構造を示した(図2A)。
【0071】
BM1,2,3,5のIgE抗体結合を調べるため、2つのグループの患者:(i)PFSを患っていないBet v 1アレルギー患者および(ii)リンゴの摂取後にPFS症状を示すBet v 1アレルギー患者に対してELISA実験を行った。なお、アレルゲンとしては、Bet v 1aアレルゲンおよびMal d 1.0108アレルゲンを用いた。
【0072】
2つのグループのいずれにおいても、Bet v 1(P>0.99)に対する患者のIgE結合では大きな違いが観察できなかった。Mal d 1.0108に対するIgE結合では、非PFS患者に比べてPFSグループの方が強いIgE結合を観察したが、後者グループはELISAでも主要リンゴアレルゲンを認識した。
【0073】
しかしながら、BM1,2,3,5に対するIgE結合は、PFSを患う患者(P<0.01)と比べて非PFS患者グループでは著しく低下した(図2B)。ELISAデータは、移植エピトープがシラカンバ花粉PFSに関連していることを示している。PFSを患っていないBet v 1アレルギー個体のIgE抗体は効率よくBM1,2,3,5と結合することができなかったが、PFSを患っている個体の交差反応を起こしうる抗体は、変異アレルゲンを認識し得た。
【実施例2】
【0074】
変異アレルゲンBM4は、8アミノ酸のエピトープがMal d 1.0108のエピトープと置換されたBet v 1aのタンパク質バックボーンに基づいている。Mal d 1エピトープを組み込むことで、結果としてBet v 1のように折り畳むことができず、折り畳み構造でないタンパク質を得た。この折り畳まれていないタンパク質は溶液中に存在でき、安定している。
【0075】
BM4は、pHis Parallel 2ベクター内で5’Nco I、3’Eco R Iにてクローニングされ、N−末端HisTagを有する6xHisTag融合タンパク質として、大腸菌BL21(DE3)において生成された。
【0076】
タンパク質は、大腸菌の不溶性部分から、6M尿素含有Ni2+バッファを用い、Ni2+カラムに負荷させ、カラム上にて再び折り畳んで、イミダゾールにて溶出させて精製された。続いて、精製されたHisTagタンパク質は、rTEVプロテアーゼで切断され、TagされていないBM4は、再度IMACで精製され、10mMリン酸ナトリウムバッファ(pH8)で透析された。1L LB Amp培地での収率は、精製後のBM4の約200mgである。
【0077】
タンパク質の純度は、SDS−PAGEでモニタリングし、99%を超える純度を示した。完全なタンパク質の正しい質量はESI−Q TOF質量分析(測定された質量は17690、算出された平均タンパク質質量は17689ダルトン(Da))によって確認された。BM4の凝集状態はサイズ排除クロマトグラフィーで判断した。高分子量凝集体の量は0.5%未満であり、タンパク質の99.5%が単量体であることが判明した。タンパク質の二次構造は、円偏光二色性分光法によって判断した。タンパク質は折り畳み構造でないことが判明した。
【0078】
検出抗体としてI125標識ウサギ抗ヒトIgE(MedPro)を用いる、Bet v 1アレルギー患者からの血清プールを用いた免疫ブロットでは、BM4へのIgE結合は検出されなかった。ヒトFcεRI受容体で形質移入したラット好塩基性白血病細胞およびBet v 1アレルギー患者の血清を用いたメディエーター放出実験では、Bet v 1aと比べて、BM4では100倍−1000倍、アナフィラキシー反応の可能性の低下したことを観察した。
【0079】
BM4のT細胞増殖について調べられた。シラカンバ花粉アレルギー患者から得たヒト末梢血単核細胞(PBMC)の増殖反応では、BM4が、Bet v 1aまたはMal d 1.0108と比べて高いことが判明した。
【0080】
臨床前のモデルでは、さらにBM4を特性を調べる必要がある。マウスをBM4で免疫化し、免疫学的パラメータを評価した。ELISAを用いて、Bet v 1aおよびBM4に対するIgG滴定およびIgE滴定を判定した。さらに、IgE結合を、ラット好塩基性白血病細胞を用いてメディエーター放出実験で評価した。
【0081】
Bet v 1aに対するブロッキング抗体(IgG)の誘導を、免疫化マウスからの血清をエンドポイント滴定で間接的にELISAで判定した。マウスのT細胞反応はELISpot実験によって分析し、BM4の免疫化によって引き起こされたTヘルパー細胞を、Bet v 1aでマウスを免疫化することで引き起こされたTヘルパー細胞と比較した。
【0082】
TagされていないBM4の構造(コンストラクト)は、以下のようにクローニングされた。BM4を5’Nco Iおよび3’Eco R IとともにpET 28bベクター(Kan R)に挿入し、大腸菌BL21 StarTM(DE3)(インビトロジェン)細胞に形質移入した。上記構造は、配列され、タンパク質発現および精製テストについて実行された。
【0083】
上記構造の生成物は、以下のように生成された。形質移入した細胞を1L LB amp培地にて振盪フラスコ内で生育し、タンパク質発現を、OD600が0.8の状態のとき、0.5mM IPTGにより誘導した。細胞は、低速度遠心分離で分離してから破砕され、上記細胞の不溶性内臓体から、6M尿素、20mMイミダゾール、pH7.4を用いて、BM4を回収した。BM4のタンパク質は、20mMリン酸ナトリウムバッファでの透析で再度折り畳まれた。
【0084】
BM4の二次構造要素は、円偏光二色性分光法によって分析された。大腸菌内において、Tagされていない組換えタンパク質として生成されたBM4は、折り畳み構造を有していないことが判明した。
【実施例3】
【0085】
Bet v 1aの各アミノ酸残基102、114、120の変異が結果として低アレルギー性分子を生成することを示すために、いくつかのBet v 1a変異を作製した。これらの分子の全ては、野生型Bet v 1aに比べてIgE反応性が低いことを示す。
【0086】
表1は、Bet v 1aおよびその各変異体のZスコアを示す。Zスコアは、タンパク質の3D構造を判断するために用いられる。
【0087】
【表1】
【0088】
変異タンパク質の説明は、テンプレートタンパク質のpbdファイル(非特許文献21)を示している。これは、変異体の骨格として用いられており、本明細書ではBet v 1である(pdbエントリー:1bv1)。さらに、変異した位置も記載している(例えば、I102Kは、位置102のIがKと置換されていることを意味する)。
【技術分野】
【0001】
本発明は、低アレルギー性分子に関する。
【背景技術】
【0002】
世界中の約1千万人−2千万人が花粉アレルギーを患い、これらの患者のうち、およそ3分の1が樹木花粉に対してアレルギー性反応を示している。温帯気候地域では、主なシラカンバ花粉アレルゲンであるBet v 1が、ほとんどの樹木花粉症の原因となっている。さらに、シラカンバ花粉アレルギーを患う個人の50%〜93%は、花粉関連食品に対して過敏症反応を示す。主としてBet v 1に対して作用する交差反応性IgE抗体がこの過敏症反応の間接的な原因となっている。
【0003】
この種の過敏症は、pollen−food syndrome(PFS)と呼ばれている。これによって、口腔粘膜にアレルゲンが接触するとすぐに拒絶反応が、通常は口腔および咽頭のみに現われる。シラカンバ花粉アレルギーの場合、PFSと最も頻繁に関連しているアレルゲンのひとつとして、主なリンゴアレルゲンであるMal d 1が挙げられる。Mal d 1はBet v 1のアミノ酸配列と64%の同一性を示しており、交差阻害性実験を行った結果、両方の分子に共通するIgEエピトープが存在することが分かった。
【0004】
非特許文献1には、野生型Bet v 1aに点変異を導入することでBet v 1aのIgE反応性を変性させることが記載されている。非特許文献1では、Bet v 1aの10、30、57、112、113および/または125の位置に変異を導入した。これらの位置に変異を有するBet v 1a分子は、その三次元構造を完全には喪失しないので、そのIgE反応性は完全には失活しない。
【0005】
これらの位置における変異は、全ての患者の幾人かにおいては、患者個人のIgE反応に対する多クローン性に依存して、IgE反応性の低下を示したが、全ての患者においてはIgE反応性の低下を示さなかった。したがって、このような変異は、大多数の人を対象とした治療用分子を生成する方法として用いることができなかった。
【0006】
非特許文献2には、低いIgE反応性および高いT細胞反応性を示すキメラタンパクを記載されている。このキメラタンパクは、Bet v 1のシャフリングされたアレルゲンおよびBet v 1同種アレルゲンを含むライブラリから選択されている。
【0007】
非特許文献3では、Bet v 1とMal d 1との交差反応について議論している。
【0008】
非特許文献4には、遺伝子シャフリング法を用いたBet v 1ファミリーの試験管内進化について記載されている。
【0009】
非特許文献5は、5つの点変異を有する低アレルギー性Mal d 1変異体について記載している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Ferreira F et. al.,FASEB(1998)12:231-242
【非特許文献2】Wallner et. al.,Allergy Clin. Immunol.,120(2)(2007):374-380
【非特許文献3】Larsen et. al.,Allergy Clin. Immunol.,109(1)(2002):164
【非特許文献4】Wallner et. al.,Allergy Clin. Immunol.,109(1)(2002):164
【非特許文献5】Bolhaar S T H P et. al.,Clin. Exp. Allergy.35(12)(2005):1638-1644
【非特許文献6】Akdis CA et al. Eur J Immunol. 28(3)(1998):914-25
【非特許文献7】Pearson et al. (1988)PNAS USA 85:2444
【非特許文献8】Devereux, J., et al., Nucleic Acids Research (1984) Nucleic Acids Res., 12, 387-395
【非特許文献9】Atschul, S.F., et al., J Molec Biol 215: 403 (1990)
【非特許文献10】Guide to Huge Computers, Martin J. Bishop, ed., Academic Press, San Diego, 1994
【非特許文献11】Carillo et al,(1988)SIAM J Applied Math 48 : 1073
【非特許文献12】Smith and Waterman (1981) Adv. Appl. Math. 2:482
【非特許文献13】Needleman et al.,(1970)J. Mol. Biol. 48:443
【非特許文献14】Schwartz and Dayhoff, eds., ATLAS OF PROTEIN SEQUENCE AND STRUCTURE, National Biomedical Research Foundation, pp. 353-358 (1979)
【非特許文献15】「Vaccine Protocols」(A. Robinson, M.P. Cranage, M. Hudson; Humana Press Inc.,U.S.; 2nd edition 2003)
【非特許文献16】Sippl M. J., Proteins 17:355-362,1993
【非特許文献17】Gajhede M, Nat Struct Biol.1996 Dec;3(12):1040-5.
【非特許文献18】Neudecker P, J Biol Chem.2001 Jun 22;276(25):22756-63.Epub 2001 Apr 3.
【非特許文献19】Schirmer T, J Mol Biol. 2005 Sep 2;351(5):1101-9.
【非特許文献20】Wallner M et al., Method 2004,32(3):219-26
【非特許文献21】Sippl M. J. et al., Stat.mechanics, protein struct & protein.substrate interactions; 0:, pp. 297-315, (1994)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、Bet v 1aの交差反応性アレルゲンによって引き起こされるpollen−food syndromeの治療に用いられる、野生型アレルゲンと比べて全くIgE反応性を示さない、またはIgE反応性が著しく低い低アレルギー性分子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明は、Bet v 1a(配列番号1)からなる、またはBet v 1aと少なくとも40%の同一性を有するアレルゲンからなる低アレルギー性分子であって、Bet v 1aのアミノ酸100〜125の領域内において、または、Bet v 1aと少なくとも40%の同一性を有するアレルゲンにおける上記領域に対応する領域内において、少なくとも4つのアミノ酸残基の変異を有する低アレルギー性分子に関する。
【0013】
Bet v 1aまたはBet v 1aと少なくとも40%の同一性を有する(好ましくは、少なくとも55%、60%、65%、70%、75%もしくは80%の同一性を有する)アレルゲンのアミノ酸100〜125の領域内に、少なくとも4つのアミノ酸残基の変異を有することによって、三次元構造が失われたことでIgE反応性が実質的に低下したもしくは完全に排除された低アレルギー性分子が得られる。
【0014】
変異アレルゲンのIgE反応性は、対応する野生型アレルゲンと比べ、低下している。抗体(IgE)に基づく生物学的アッセイ(ELISAまたはRASTの阻害、好塩基性球の炎症メディエーター放出等)によれば、野生型アレルゲンの場合に得られた最大半減値に到達するまでに、少なくとも50倍、好ましくは少なくとも100倍、より好ましくは少なくとも500倍、さらに好ましくは少なくとも1000倍、変異アレルゲンの濃度を高くする必要がある。これは、非特許文献1と照らし合わせると驚くことである。なぜなら、非特許文献1では、この領域内のアミノ酸残基を3つ変異させても、本発明の分子の特性を有する低アレルギー性分子は得られなかったからである。
【0015】
本発明の低アレルギー性分子の低アレルギー特性は、野生型アレルゲンと比べて、三次元構造が破壊された結果として得られる。非特許文献6では、天然様折り畳み構造のアレルゲン、ここではハチ毒アレルゲンホスホリパーゼA(PLA)が、同一タンパク質の非天然様折り畳み構造を有するアレルゲンと異なる免疫反応を引き起こすことを記載している。
【0016】
折り畳み構造のPLAは、B細胞にIgE抗体を引き起こし、Tヘルパー(TH)2細胞を刺激する。これら細胞は共にアレルギー免疫反応のマーカーである。これに対し、非再折り畳み構造のPLAまたは還元アルキル化PLAは、共にB細胞内のIgG4反応を引き起こすTH1優勢サイトカイン形態を引き起こす。TH1主導の免疫反応は、アレルギー疾患に対する治療剤として用いられる分子に特に好適である。したがって、本発明の分子の折り畳まれていない構造は非常に重要である。
【0017】
3つの他のアミノ酸残基の次に、Bet v 1aまたはBet v 1aと少なくとも40%の同一性を有するアレルゲンの少なくともアミノ酸残基113またはアミノ酸残基114を変異することが特に好ましい。
【0018】
本発明の他の様態は、Bet v 1aまたはBet v 1aと少なくとも40%の同一性を有するアレルゲンからなる低アレルギー性分子であって、Bet v 1aのアミノ酸100〜125の領域内またはこれに対応するBet v 1aと少なくとも40%の同一性を有するアレルゲンの領域内に少なくとも1つのアミノ酸残基の変異を有し、上記少なくとも1つのアミノ酸残基の変異は、Bet v 1aまたはBet v 1aと少なくとも40%の同一性を有するアレルゲンの位置114でのアミノ酸残基の変異を有する低アレルギー性分子である。
【0019】
驚くことに、少なくともアミノ酸残基114の変異は、対応する野生型アレルゲンの三次元構造とは異なる三次元構造を有する低アレルギー性分子を生成する可能性があることが分かった。Bet v 1aまたはBet v 1aと少なくとも40%の同一性を有するアレルゲンのアミノ酸114の変異は、結果として低アレルギー性分子の生成につながる。
【0020】
本発明の好適な実施の形態によれば、この低アレルギー性分子は、さらに少なくとも1つ(好ましくは少なくとも2つ、3つ、4つ、または5つ)のBet v 1aのアミノ酸100〜125内またはこれに対応するBet v 1aと40%の同一性を有するアレルゲンの領域内の変異を含んでいる。特に、低アレルギー性分子は、Bet v 1aのアミノ酸残基102およびアミノ酸残基120の少なくとの一方において変異を有することが好ましい。本発明の特に好適な実施の形態では、Bet v 1aまたはBet v 1aと少なくとも40%の同一性を有するアレルゲンのアミノ酸残基114は、リジン(K)、アスパラギン酸(D)またはグルタミン酸(E)で置換されている。
【0021】
本発明の好適な実施の形態によれば、Bet v 1aと少なくとも40%の同一性を有する上記アレルゲンは、Bet v 1aと免疫学的に交差反応を起こしうる。ここで、免疫交差反応は特定分子に抗体を結合させることとして定義され、アフィニティー精製したウサギ抗Bet v 1aポリクローナル抗体を用いて、ELISAによって判定することができる。Bet v 1aと少なくとも40%の同一性を有し、これらの抗体で認識される分子は、Bet v 1aと免疫交差反応を起こしうると考えられる。
【0022】
Bet v 1aと少なくとも40%の同一性を有するアレルゲンがBet v 1aと免疫学的に交差反応を起こしうることは有利なことである。なぜなら、このことにより、免疫システムがBet v 1aだけではなく多くの場合Bet v 1aと少なくとも40%の同一性を有する食物アレルゲンと結合しうる抗体を生成できるため、本発明の低アレルギー性分子をpollen−food syndrome (PFS)の防止または治療に用いることができるからである。
【0023】
アレルゲンがBet v 1aと少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%の同一性を有すると、より有利である。
【0024】
本明細書で用いられる「同一性」とは、いかなる2つ(またはそれ以上)のペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質配列が一定の度合いで互いに「同一」のアミノ酸配列を有しているか否か(「%の同一性」)を示す。この度合いは、例えば、非特許文献7に記載のデフォルトパラメータを用いて、「FASTA」プログラムといった公知のコンピュータアルゴリズムによって判断することができる(他のプログラムは、GCGプログラムパッケージ(非特許文献8)、BLASTP、BLASTN、FASTA(非特許文献9、非特許文献10、および非特許文献11等が挙げられる)。例えば、NCBIデータベースのBLASTツールを同一性判断に用いることができる。他の商業的または公然に提供されているプログラムとして、DNAStarの「MegAlign」プログラム(Madison,WI)およびウィスコンシン大学遺伝子コンピュータグループ(UWG)の「Gap」プログラム(Madison,WI))が挙げられる。
【0025】
タンパク質分子の同一性割合は、例えば、GAPコンピュータプログラム(例えば、非特許文献12によって改訂された非特許文献13)を用いて配列情報を比較することで決定することができる。簡単に言えば、GAPプログラムは、類似性を、同一の配列記号(すなわち、ヌクレオチドまたはアミノ酸)の数を、2つの配列のうち短い配列にある記号の合計数で割った数として定義している。
【0026】
GAPプログラムのデフォルト(初期値)パラメータは、次を含むことができる:(1)単一比較マトリクス(同一性および非同一性を有する1の値を有する)、および非特許文献14に記載のGribskov et al. 14:6745の加重比較マトリクス;(2)各間隙に3.0のペナルティと、各間隙内の各記号につき、追加で0.10ペナルティ;および(3)各末端の間隙にはペナルティがない。
【0027】
Bet v 1aと少なくとも40%の同一性を有するアレルゲン(Z80098)は、Bet v 1と、以下からなる群より選択されるアレルゲンとで構成されていることが好ましい:Dau c 1,特にDau c 1.0101(U47087),Dau c 1.0102(D88388)Dau c 1.0104(Z81362),Dau c 1.0105(Z84376),Dau c 1.0201(AF456481)またはDau c 1.0103(Z81361);Api g 1,特にApi g 1.0101(Z48967)またはApi g 1.0201(Z75662);Pet c 1(X12573);Cas s 1(AJ417550));Que a 1(P85126);Mal d 1,特にMal d 1.0101(X83672),Mal d 1.0102(Z48969),Mal d 1.0109(AY026910),Mal d 1.0105(AF124830),Mal d 1.0106(AF124831),Mal d 1.0108(AF126402),Mal d 1.0103(AF124823),Mal d 1.0107(AF124832),Mal d 1.0104(AF124829),Mal d 1.0201(L42952),Mal d 1.0202(AF124822),Mal d 1.0203(AF124824),Mal d 1.0207(AY026911),Mal d 1.0205(AF124835),Mal d 1.0204(AF124825),Mal d 1.0206(AF020542),Mal d 1.0208(AJ488060),Mal d 1.0302(AY026908),Mal d 1.0304(AY186248),Mal d 1.0303(AY026909),Mal d 1.0301(Z72425),Mald1.0402(Z72427),Mald1.0403(Z72428)またはMald1.0401(Z72426);Pyr c 1,特にPyr c 1.0101(O65200);Pru av 1,特にPru av 1.0101(U66076),Pru av 1.0202(AY540508),Pru av 1.0203(AY540509)またはPru av 1.0201(AY540507);Pru p 1(DQ251187);Rub i 1.0101(DQ660361);Pru ar 1,特にPru ar 1.0101(U93165);Cor a 1,特にCor a 1.0401(AF136945),Cor a 1.0404(AF323975),Cor a 1.0402(AF323973),Cor a 1.0403(AF323974),Cor a 1.0301(Z72440),Cor a 1.0201(Z72439),Cor a 1/5(X70999),Cor a 1/11(X70997),Cor a 1/6(X71000)またはCor a 1/16(X70998);Bet v 1d(X77266);Bet v 1l(X77273);Bet v 1a1−6(Ferreira Fら、FASEB(1998)12:231−242);Bet v 1g(X77269);Bet v 1f(X77268);Bet v 1j(X77271);Bet v 1e(X77267);Bet v 1b(X77200);Bet v 1c(X77265);Bet v 1.0101(X15877);Bet v 1.0901(X77272);Bet v 1.1101(X77599);Bet v 1.1201(X77600);Bet v 1.1301(X77601);Bet v 1.1401(X81972);Bet v 1.1501(Z72429);Bet v 1.1601(Z72437);Bet v 1.1701(Z72430);Bet v 1.1801(Z72431);Bet v 1.1901(Z72433);Bet v 1.2001(Z72434);Bet v 1.2101(Z72435);Bet v 1.2201(Z72438);Bet v 1.2301(Z72436);Bet v 1.2401(Z80100);Bet v 1.2501(Z80101);Bet v 1.2601(Z80102);Bet v 1.2701(Z80103);Bet v 1.2901(Z80105);Bet v 1.3001(Z80106);Aln g 1(S50892);Car b 1,特にCar b 1.0301(Z80169),Car b 1.0302(Z80170),Car b 1.0103(Z80159),Car b 1.0105(Z80161),Car b 1.0104(Z80160),Car b 1/1a,Car b 1.0101(X66932),Car b 1.0102(X66918),Car b 1/1b,Car b 1/2,Car b 1.0106a(Z80162),Car b 1.0106b(Z80163),Car b 1.0106c(Z80164),Car b 1.0106d(Z80165),Car b 1.0107a(Z80166),Car b 1.0107b(Z80167),Car b 1.0201(X66933)またはCar b 1.0108(Z80168);Gly m 4.0101(X60043);Vig r 1.0101(AY792956);Ara h 8.0101(AY328088);Asp ao PR10(X62103);Bet p 1a(AB046540);Bet p 1b(AB046541);Bet p 1c(AB046542);Fag s 1(AJ130889);Cap ch 17kD a(AJ879115);Cap ch 17kD b(AJ878871);Fra a 1.0101(AY679601);およびTar o 18kD(AF036931)。
【0028】
特に、Mal d 1(配列番号2)が好ましい。
【0029】
本発明の好適な実施の形態によれば、少なくとも4つのアミノ酸残基の上記少なくとも1つの変異は、アミノ酸の置換、欠失、または付加である。
【0030】
アレルゲン内の上記少なくとも4つのアミノ酸残基の変異はいかなる種の変異であってもよい。しかしながら、単一アミノ酸残基または分子内における一続きのアミノ酸残基を置換することが好ましい。なぜなら、こうすることで、Bet v 1aと比べて低アレルギー性分子の長さが全く影響を受けないからである。
【0031】
本発明の好適な実施の形態によれば、Bet v 1aの変異領域またはこれに対応するBet v 1aと少なくとも40%の同一性を有するアレルゲンの領域は、Bet v 1aまたはこれに対応するBet v 1aと少なくとも40%の同一性を有するアレルゲンの領域のアミノ酸105〜120、好ましくはアミノ酸108〜118、より好ましくは、アミノ酸109〜116を含む。
【0032】
本発明の好適な実施の形態によれば、上記少なくとも1つの変異が、上記領域とBet v 1aおよびBet v 1aと少なくとも40%の同一性を有するアレルゲンからなる群より選択された別のアレルゲンの対応する領域とが置換されることを含む。
【0033】
上記領域を置換することによって、Bet v 1aもしくはBet v 1aと少なくとも40%の同一性を有するアレルゲンのT細胞エピトープを備える低アレルギー性分子が生成できるだけでなく、潜在的に特定のBet v 1aエピトープまたはBet v 1aと少なくとも40%の同一性を有するアレルゲンのエピトープを備える分子を生成することができる。このことで、花粉関連食物アレルギーを患っているまたは患うリスクのある個人に、前記低アレルギー性分子を含む、1つのアレルゲンだけではなく2つ目のアレルゲンに対しても免疫反応を引き起こすワクチンを投与することができる。
【0034】
本発明の他の好適な実施の形態によれば、分子はBet v 1からなり、Bet v 1のアミノ酸109〜116の領域がMal d 1の対応する領域と置換される(結果として、配列番号3を得る)。
【0035】
本発明の特定の好適な実施形態によれば、上記分子はMal d 1からなり、Mal d 1のアミノ酸109〜116の領域はこれに対応するBet v 1の領域と置換されている。
【0036】
Bet v 1aまたはBet v 1aと少なくとも40%の同一性を有するアレルゲンは、前記定義された領域の少なくとも一部を、異なるアレルゲンに由来する、置換される領域と同一領域のアミノ酸断片で置換することによって変性してもよい。
【0037】
本発明の他の様態は、本発明に係る低アレルギー性分子をコードするための核酸分子に関する。
【0038】
本発明のさらなる様態は、本発明に係る核酸分子を含有するベクターに関する。
【0039】
本発明のベクターは、本発明の低アレルギー性分子をコードする核酸断片と、原核性(例えば、細菌)生物内で増殖しうるベクター要素を含んでいる。このベクターは、プロモーター、転写結合部位等の機能的ポリヌクレオチド配列を有する。このベクターは、プラスミドまたはウイルスベクターであってもよい。
【0040】
低アレルギー性分子の精製を容易にするために、上記分子は、タグ、特にヒスチジンまたはグルタチオンSトランスフェラーゼに融合されていてもよい。したがって、公知の好適な発現ベクターを用いてもよい。
【0041】
本発明の他の様態は、本発明に係る低アレルギー性分子を含有するワクチン製剤に関する。
【0042】
本発明の好適な実施の形態によれば、上記製剤はさらに少なくとも1つの薬学的に使用可能な、賦形剤類、希釈剤類、アジュバント類および/またはキャリア類を含有する。
【0043】
個人の皮下、筋肉、静脈、粘膜等に投与されるワクチン製剤を提供するには、その製剤はさらに賦形剤類、希釈剤類、アジュバント類および/またはキャリア類を含む必要がある。アジュバント類としては、KLH(キーホールリンペットヘモシアニン)およびミョウバンを用いるのが好ましい。ワクチン製造のプロトコルとしては、当業者に公知のものを好適に用いることができる。例えば、非特許文献15に記載されているプロトコルなどを用いることができる。
【0044】
本発明の他の様態は、アレルギー予防および/または治療用ワクチンの製造するために本発明に係る低アレルギー性分子を使用する方法に関する。
【0045】
本発明の低アレルギー性分子は、アレルギーの治療および予防、特に花粉症を患う患者がさらに食物アレルギーを経験する(例えば口腔周りにおける痒みや掻痒症から一般的な蕁麻疹そしてさらにアナフィラキシーまで引き起こす場合がある)pollen−food syndromeと関連したアレルギーの治療および予防に用いることができる。
【0046】
Pollen−food syndromeでは、花粉に存在するアレルゲンを個人が吸入することで、個人が感作される。その後、個人が感作アレルゲンと交差反応を起こしうるタンパク質を含む植物由来の食品と接触することで、即時性病徴が引き起こされ始める。経口感作が終了すると、個人が同じタンパク質と接触するたびにアレルギー症状が引き起こされる。
【0047】
Bet v 1aは非常に交差反応を起こしやすいアレルゲンであり、多数の食物由来のアレルゲンと交差反応を起こしやすい。特に、野菜や果物に由来するものが交差反応を起こしやすい。したがって、Bet v 1aを原因とする花粉アレルギーを患う患者は、食物由来アレルギーに対してもアレルギー性を有している可能性がある。
【0048】
本発明は以下の図面および実施例を参照してさらに説明する。ただし、本発明はこれらに限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1a】160アミノ酸長(開始メチオニンを含む)の変異アレルゲンBM1,2,3,5の概略図である。タンパク質は、テンプレートアレルゲンBet v 1aに7つの連続するアミノ酸を有するMal d 1.0108のエピトープを接いで構成されている。Bet v 1aのアミノ酸と一致する一続きは白色で示し、Mal d 1.0108から挿入されたエピトープは灰色で示している。交換されたエピトープを構成するアミノ酸は、1文字コードで列挙されている。両方のタンパク質で同一の残基は黒色で示し、異なるアミノ酸は灰色で示している。
【図1b】BM1,2,3,5モデルを算出し、その構造をBet v 1の三次元折り畳み構造と比較した図である。BM1,2,3,5とBet v 1aとで同一の残基は灰色で示し、Mal d 1.0108に由来するエピトープは黒色で表している。下側のパネルは、タンパク質を180°C回転させて示している。
【図1c】BM1,2,3,5の二次構造とBet v 1とを円偏光二色性(CD)で比べた図である。データは、特定の波長および基準線補正された平均残差モル楕円率[θ]MRWとして示している。
【図2a】アフィニティー精製されたBM1,2,3,5(各レーンにそれぞれ5μg)のSDS−PAGEおよび免疫ブロット分析を示す図である。SDS−PAGEの後、タンパク質をクーマシーブリリアントブルー染色(左パネル)によって可視化した。免疫ブロット分析では、マウス抗Bet v 1 モノクローナル抗体を用いてタンパク質を検出した。
【図2b】ELISAを用いて、Bet v 1a、Mal d 1.0108およびBM1,2,3,5のIgE結合活性を、PFSの臨床症状のないBet v 1アレルギー患者(n=12)またはリンゴおよび他のBet v 1関連食品に対してPFS症状のあるBet v 1 アレルギー患者(n=11)の血清を用いて、分析を行った。アレルゲンはコーティングするために滴定され、最適な抗原コーティング濃度を0.5mg/mlに決定した。Bet v 1(P>0.99)とのIgE結合に関しては、両グループの患者の間で著しい違いは観察されなかった。予想通り、Mal d 1とのIgE結合は、PFSグループの方がより強固だった。PFSを患う変異BM1,2,3,5の患者では、IgE結合が著しく増加した(P<0.01)。記号は、それぞれ個々の患者を表し、線は平均を表す。P値はtテストによって算出した(**P<0.01)。
【図3】実施例2に係る変異アレルゲンBM4の概略図である。
【図4】Bet v 1aおよびBM4のclustalWアライメントを示す図である。下線部はBM4の交換されたエピトープを示し、斜体太字はBet v 1aの免疫優勢T細胞エピトープを示している。太字のアミノ酸は、エピトープ交換の「コア」を示し、患者のBet v 1のIgE結合にとって必要不可欠なアミノ酸である。
【図5】Mal d 1.0108およびBM4のclustalWアライメントを示す図である。下線部はBM4の交換されたエピトープを示している。太字のアミノ酸はエピトープ交換の「コア」を示し、患者のBet v 1のIgE結合にとって必要不可欠なアミノ酸である。
【図6】BM4のSDS−Pageを示す図である。
【図7】Bet v 1aのCDスペクトルをBM4の20℃および95℃でのCDスペクトルと比較して示す図である。全ての曲線は基準線補正がされている。データは平均残差モル楕円率で示している。タンパク質濃度は、アミノ酸分析によって決定された。BM4は20℃だけではなく95℃においても、ランダムコイルタンパク質の典型的なCDスペクトルを示した。
【図8】Bet v 1a(Biomay)、BM4、および卵白アルブミンのELISAを示す図である。卵白アルブミンは関連性のないコントロール抗原として、Sigma−Aldrichから購入した。アレルゲン(200ng/ウェル)は固定化された。全ての計測を重複して行い、結果はバックグラウンド除去後の平均OD値として算出した。シラカンバ花粉アレルギーを患う13個人の血清を検査した。コントロールとしては、いかなるタンパク質にも信号を示さなかったNHSを用いた。BM4はELISAにおいて、仮想的には患者のIgE結合を全く示さない。
【図9】シラカンバ花粉アレルギー患者の血清IgEを用いて、huFcεRIを形質移入したRBL−2H3細胞を感作させて判定したBM4アレルギー活性を示す図である。BM4は、Bet v 1aと比べて、100倍−1000倍少ないアナフィラキシー活性を示した。
【図10】シラカンバ花粉アレルギーの患者の末梢血の単核細胞(PBMC)を、6xhisにてタグ化されたBM4またはBet v 1aを、25μg/ml、12.5μg/ml、6.25μg/mlもしくは3μg/ml用いて判定したものを示す図である。BM4の平均刺激指数(SI)は、Bet v 1aの平均刺激指数よりも高かった。図中の各記号は各患者のそれぞれを示し、各バーは各患者の平均を示している。
【図11】PDBタンパク質データバンクから入手したBet v 1(1bv1)の配列を示す図である。図中のボックス内「□」は変異タンパク質BM4で置換された配列領域を示している。
【図12】変異タンパク質BM4において置換された配列領域を示す図である。患者の41%で観察されたBet v 1の関連T細胞エピトープ(SILKISNKYHTK;配列番号4)を斜体太字で示している。これの1つ前のペプチド(DGGSILKISNK;配列番号5)は患者の6%、後のペプチド(KISNKYHTKGDH;配列番号6)は患者のいずれにも観察されなかった。PBMCデータは、今までのところ、低下どころかむしろよりよいT細胞刺激を示している。したがって、BM4のT細胞刺激特性に関して問題が発生するとは考えにくい。
【図13】Bet v 1、およびアイソフォームを含む果物、ナッツまたは野菜といった他の花粉源から見つかるBet v 1の異種同形アレルゲンのClustalW多重整列を示す図である。Bet v 1aにおいて置換されたエピトープは、BM4のMal d 1.0108の1つと置換されている。
【図14】Mal d 1.0108のエピトープが移植された様々なBet v 1a変異の混合スコア(Zスコア)を算出したものを示す図である。したがって、Mal d 1.0108の重複している非配列同一なひと続きの配列(10aa;n=103)をBet v 1a構造に置換し、ソフトウェアツールProSa IIを用いてZスコアを算出した。このソフトウェアは、公知のタンパク質構造に由来する、既知ポテンシャルを用いて、ネイティブな球形タンパク質の平均特性について、タンパク質構造の質を反映したスコアを得るべく、原子対および溶媒相互作用の観点から捕捉する(非特許文献16)。算出結果から、Bet v 1aにMal d 1.0108のアミノ酸109〜116(SGSTIKSI;配列番号7)をエピトープ置換することが、高Zスコアを示す最も不安定な置換の1つであることが分かった。このことにより、タンパク質構造において、同一アレルゲンBM4の折り畳まれていない構造の原因が分かった。
【図15】各変異アレルゲンBM1、BM2、BM3、BM4、BM5、BM1,2,3,4,5およびBM1,2,3,5を概略的に示す図である。これらアレルゲンは、Mal d 1.0108からBet v 1aの骨格にエピトープ移植をすることで生成された。移植されたエピトープ配列は図に示しているとおりであり、Bet v 1aと同一のアミノ酸は黒で示し、下線部はMal d 1.0108から挿入されたアミノ酸を示している。各変異アレルゲンは大腸菌に発現した。異なる各変異アレルゲンのBet v 1のような折り畳み構造は、ドットブロットの抗体結合または精製されたアレルゲンの円偏光二色性分光法によって分析した。Mal d 1.0108のエピトープ109〜116(SGSTIKSI;配列番号7)を有する各変異アレルゲンはBet v 1のような折り畳み構造を有していない。しかしながら、Mal d 1.0108の他のエピトープを有する変異アレルゲンは、Bet v 1のように折り畳み構造を得られた。
【図16】ELISA阻害によって分析した、野生型Bet v 1aと比較した、Bet v 1特異的患者のIgEを結合するBM4の能力の低下を示す図である。Bet v 1aをELISAプレートにウェルごとに200ng固定化し、阻害剤(例えば、非関連コントロール抗原として、Bet v 1a、BM4または卵白アルブミン(OVA))の順次希釈にて患者の血清を培養した。全ての計測は複数行われ、バックグラウンド除去の後、結果を平均OD値として示した。シラカンバ花粉アレルギーの5個人の血清をテストした。コントロールとして、いずれのタンパク質にも反応を示さないNHSを用いた。Bet v 1aと比べて、BM4はおよそ100倍−1000倍低い患者のIgE結合能を示した。
【図17】非関連コントロール抗原として用いられるBM4、Bet v 1aおよびOVAの免疫ブロットを示している。結合血清IgEを、I125標識ウサギ抗ヒトIgE(MedPro)を用いて検出した。BM4はほとんどIgE結合を示さなかった。コントロールとして、健常なヒト血清または検出抗体のみを用いた。
【図18a−1】UVおよびトリプル検出器システムを用いたオンラインSEC光拡散法(SECTDA)にてBM4の均質性を評価した。BM4は、保持容量が9.3ml、MWがおよそ20kダルトン、そしてRHが>3.2nmを有する単一ピークを有するように示された。観察されたピークの尾行は、折り畳まれていないタンパク質の引き伸ばされた立体構造による吸着効果および高RHによるものである可能性がある。
【図18a−2】検出器は、MWが66kダルトンでRHが3.1nmのウシ血清アルブミン(BSA)で調節された結果を示す。
【図18a−3】MWが17kダルトンでRHが1.9nmのrBet v 1aを用いて、システム適性を確認した結果を示す。
【図18b−1】SECのボイド(5.7ml)および合計保持容量(12ml)の間でさらなるピークが検出されなかったため、非凝集化されたBM4において99%を超える均質性が観察されたことを示している。HP1100分析クロマトグラフィーシステム(ヒューレット・パッカード、San Jose、CA、米国)において7.8x300mmTSKゲルG2000SWXLカラム(トーソー・バイオサイエンス、Stuttgart、ドイツ)を用いて、PBSにて0.5ml/分でHPSECを行った。280nmで測定する内臓UV検出器、および屈折率(RI、破線)、固有粘度(IV、一点長鎖線)、および光散乱(RALS、長鎖線)検出システム(TDA 302、Viscotek社、Houston、TX、米国)を組み合わせて、近似分子量(MW、太線)および流体力学半径(RH、二点長鎖線)を算出した。図18b−1では、光散乱(RALS)検出および屈折率(RI)検出の各結果を示す。
【図18b−2】上記検出における、UV検出および固有粘度(IV)検出の各結果を示す。
【図19a】動的光散乱(DLS)によるBM4の溶液内凝集挙動を示す図である。BM4の97%を超えるものにおいて、流体力学半径(RH)が3.5nm、多分散度が18.4%の単量体分子であることが示された(図19(a))。参考までに、rBet v 1aはRHが2.1nm、多分散度が16.7%であった(図19(b))。したがって、BM4は、おそらくは折り畳まれていない構造であるがゆえに、より高いRHとなっている。そのほか、3%未満のBM4が、分子量>1Mダルトンのマルチマーとして示された。リン酸ナトリウム10mM内において14,000×gで10分間、遠心分離した後、DLS 802(Viscotek社、Houston、TX、米国)を用いて動的光散乱を行った。この際、水用の溶媒設定を用いた。10〜20×10秒のデータを累積し、組み合わせたデータ曲線に相関関数を当てはめた。OmniSizeTMソフトウェアパッケージ(Viscotek社)は、この相関関数を用いて質量分布を算出した。
【図19b】参考として、rBet v 1aはRHが2.1nm、多分散度が16.7%であることを示す。
【図20】精製された組換えBet v 1,BM4,Mal d 1,Dau c 1,Api g 1,Cor a 1,シロイヌナズナPR−10タンパク質、サーマス・サーモフィラスPR−10タンパク質、およびMethanosarcina mazeiPR−10タンパク質(各レーンに3μgずつ)にSDS−PAGE処理を施し、クーマシーブルーで染色した(a)。(b)は、BM4と相同タンパク質の交差反応を実証するべく、ウサギ抗Bet v 1ポリクローナル抗体(1:5000)を用いてELISAを行ったものである。組換えBet v 1、BM4およびCor a 1はウサギ抗体によって広範に認識され、Dau c 1,Mal d 1,およびApi g 1は構造的交差反応も示した。シロイヌナズナ、サーマス・サーモフィラス、およびメタノサルシナ・マゼイから精製されたPR−10タンパク質からはポジティブ信号は得られなかった。(c)は、BM4と比較したPR−10タンパク質の配列同一性を示している。アミノ酸配列および同一性プロットはAlignX(Vector NTI,インビトロジェン)によって行った。
【図21】各変異アレルゲンMB1、MB2、MB3、MB4、MB5およびMB1,2,3,4,5を概略的に示す図である。アレルゲンはMal d 1.0108の骨格にBet v 1aのエピトープを移植することで生成された。移植エピトープ配列は図に示しており、Mal d 1.0108と同一のアミノ酸は黒色、Bet v 1aから挿入されたアミノ酸は灰色で示している。各変異アレルゲンは大腸菌において発現された。Bet v 1および食料源だけでなく他の花粉で見つかる相同物の折り畳み構造は、X線結晶解析の結果、非常に類似していることが分かった(非特許文献17、非特許文献18、非特許文献19)。この共通の折り畳み構造によって、よい抗体交差反応結果が得られる。したがって、異なるMal d 1.0108変異アレルゲンにおけるBet v 1のような折り畳み構造の有無を、Mal d 1と交差反応することが示されたシラカンバ花粉アレルギー患者の血清またはアフィニティー精製されたウサギ抗Bet v 1ポリクローナル抗体を用いて、ドットブロット内の抗体結合性を基に評定した。これらの免疫ブロットの結果、Bet v 1aのエピトープ109−116(DGGSILKI)を有する変異アレルゲンはBet v 1のような折り畳み構造を有さないことがわかった。しかしながら、Bet v 1aの他のエピトープを有する変異アレルゲンは、Bet v 1のように折り畳むことができた。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0050】
Pollen−food syndrome(PFS)とは、花粉アレルギーを患う患者に関連する、果物類、ナッツ類、および野菜類に対する食物アレルギーである。主要なリンゴアレルゲンであるMal d 1は、PFSを患うシラカンバ花粉アレルギー患者が最も一般的に関連している食物アレルゲンの一つである。免疫学的には、このアレルギーは、シラカンバ花粉アレルゲンのBet v 1に対して元々発生した交差反応を起こしうるIgE抗体に起因している。
【0051】
Bet v 1に特異的なIgE抗体がMal d 1と交差反応しうるとはいえ、全てのBet v 1アレルギー患者がリンゴに対して発症反応を起こすわけではない。このことによって、両方の同種アレルゲンに存在する特定のIgEエピトープがPFSの発症の発現を起こしていることがわかる。このことを分析するために、4つのMal d 1のひと続きをBet v 1に移植した。移植された領域は、7アミノ酸長であり、Bet v 1のIgE認識に必要不可欠なアミノ酸残基を含んでいる。
【0052】
Bet v 1−Mal d 1のキメラタンパクから設計されたBM1,2,3,5を大腸菌において発現させ、均質性を有するように精製した。BM1,2,3,5は、(i)リンゴの摂取時に発症症状を示さないBet v 1アレルギー患者の血清および(ii)リンゴおよび他のBet v 1関連食品の摂取時にアレルギー症状を示すBet v 1アレルギー患者の血清に対してテストされた。患者のIgE結合を、ELISAで評価した。
【0053】
BM1,2,3,5に対して、PFSを患う患者はシラカンバアレルギーのみを患う個人に比べてより強く反応を示した。このことで、リンゴアレルギーと関連のあるBet v 1のB細胞エピトープの識別に成功した。
【0054】
各方法
患者の血清:
PFSを患っている、およびPFSを患っていないシラカンバ花粉アレルギー患者を、典型的な病歴、陽性皮膚プリックテストおよび放射性アレルギー吸着試験(RAST)のクラス3以上によって選択した。相対的なBet v 1およびMal d 1とのIgE結合と臨床症状との相互関係を、両方の患者グループに対して、対応する抗原を用いてELISAで確認した。
【0055】
BM1,2,3,5のクローニング
BM1,2,3,5を、Bet v 1a(X15877)の変異断片をPCR増幅することによって生成した。クローニングに用いられたinternal mismatch primerは:
Mut10F 5’CGCCATTGTTTTCAATTACGAAAaTGAGttCACCTCTGagATC3’(配列番号8),
Mut30F 5’GATGGCGATAATCTCaTTCCAAAGaTTGCACCCCAA3’(配列番号9),
Mut30R 5’ATGGCTTGGGGTGCAAtCTTTGGAAtGAGATTATCG3’(配列番号10),
Mut57F 5’ATTAAGAAGATCAcCTTTggCGAAGGCTTC3’(配列番号11),
Mut57R 5’GAAGCCTTCGccAAAGgTGATCTTCTTAAT3’(配列番号12),
Mut125F 5’CACACCAAAGGTaACatTGAGaTcAAGGCAGAGCAG3’(配列番号13),
Mut125R 5’CTGCTCTGCCTTgAtCTCAatGTtACCTTTGGTGTG3’(配列番号14)であった。
【0056】
交換された塩基は小文字で表している。変異断片はゲル精製され、プライマーなしのPCRにプールさせて組み上げられた。完全長遺伝子は、各プライマーである、BetF 5’GGCCCATATGGGTGTTTTCAATTACGAA3’(配列番号15)およびBetR 5’TCGGCTCGAGGTTGTAGGCATCGGAGTG3’(配列番号16)にて増幅された。各制限部位は下線により示された。BM1,2,3,5は、Nde I制限部位およびXho I制限部位を用いて、pHis−Parallel2ベクターにクローニングされた(非特許文献20を参照下さい)。
【0057】
BM4の発現および精製
発現プラスミドを大腸菌BL21(DE3)pLysS細胞(Stratagene)にて形質転換し、上記大腸菌を、アンピシリン100mg/Lを補充したLB培地内において、37℃にて、OD600が0.8となるまで成育した。培地を16℃まで冷却し、イソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド(IPTG)を0.3mM加えることでタンパク質発現を引き起こした。18時間培養した後、低速度遠心分離で細胞を取り出し、適切なlysis bufferに再懸濁した。BM1,2,3,5は6xHisTag融合タンパク質で発現し、固定化金属アフィニティークロマトグラフィーによって、可溶細菌溶解物から精製された(非特許文献20)。組換えタンパク質を10mMリン酸ナトリウムバッファ(pH7.4)で透析し、−20℃で保管した。
【0058】
SDS−PAGEおよび免疫ブロット
大腸菌溶解物および精製されたタンパク質を、15%ゲルを用いる、変性したドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)により分析した。タンパク質は、クーマシープリリアントブルーR−250(Biorad)で染色して可視化された。
【0059】
免疫ブロット分析のため、SDS−PAGEで分離したタンパク質をニトロセルロース膜(Schleicher&Schuell)にて電気ブロットした。タンパク質は、モノクローナルBet v 1抗体BIP−1(1:10.000)を用いて検出した(非特許文献1)。結合BIP−1は、AP共役ウサギ抗マウスIgG+IgM(Immunoresearch Laboratories社)により検出された。
【0060】
円偏光二色性
タンパク質の円偏光二色性(CD)スペクトルは、Neslab RTE−111M温度コントロールシステム(Thermo Neslab社)が取り付けられたJASCO J−810分光偏光計(Jasco)を用い、5mMリン酸ナトリウム(pH7.4)にて記録された。得られた曲線は、基準線(ベースライン)が補正された。補正された結果を所定波長における平均残差モル楕円率[θ]MRWとして示した。CDシグナルを正規化するためのタンパク質濃度はOD280にて判定された。
【0061】
分子モデリング
モデリングは、比較モデリングツールMODELLERを用いて行い、ProSa2003によって評価された。全てのモデルはPDB構造ファイル1bv1(Bet v 1)に基づき、PyMOL0.98を用いて示された。
【0062】
ELISA実験
IgEのELISA実験を行うべく、Maxisorpプレート(NUNC)は、ウェル毎に、PBS50μl中のアレルゲンを滴定し、4℃で1晩おいてコートされた。プレートは、TBS、pH7.4、0.05%(v/v)Tween、1%(w/v)BSAにてブロックされ、1:5で希釈した患者の血清で1晩、4℃にてインキュベートされた。37℃で1時間、4℃で1時間インキュベートした後、結合IgEをアルカリンホスファターゼで共役した抗ヒトIgEモノクローナル抗体(BD Biosciences Pharmingen)で検出した。
【0063】
あるいは、Bet v 1および相同タンパク質は、ウェル毎にPBS50μlにおいて、4μg/mlの濃度にて1晩、4℃でコートされた。Bet v 1および相同タンパク質は、上記アレルゲンと同様にブロックされ、様々な希釈度(1:5.000−1:20.000)のウサギ抗rBet v 1ポリクローナル抗体にてインキュベートされた。検出はアルカリンホスファターゼ共役ヤギ抗ウサギ抗体を用いて行った。10mMの4−ニトロフェニルリン酸(Sigma−Aldrich)を基質として用いて、ODを405nm/492nmで計測した。測定は、3回の繰り返し(IgE ELISA)または2回の繰り返し(ウサギ抗Bet v 1抗体)にて行った。結果は平均OD値で示した。
【0064】
結果
本実施例の目的は、リンゴに対するBet v 1関連PFSの発症症状の原因となる、交差反応を起こしうるB細胞エピトープの識別である。したがって、変異アレルゲンBM1,2,3,5は、Mal d 1.0108の特定のエピトープを、Bet v 1a配列の対応する位置に移植することで設計される(図1A)。
【0065】
移植された領域は、Bet v 1および相同物のIgE認識に必要不可欠と既に説明されている残基を含む7つ連続するアミノ酸として定義されている。これらの特定の残基(Bet v 1a内のThr10,Phe30,Ser57,およびAsp125)は、Bet v 1へのIgE結合を変化させるだけでなく、Mal d 1のIgE認識も、その対応する位置のアミノ酸に非常に大きく依存している。
【0066】
記載部位での特定変異の導入は、円偏光二色性(CD)によって示されるようにアレルゲンの全体構造を変えるものではないが、分子のアレルゲン性に大きく影響する可能性がある。BM1,2,3,5に対する患者のIgE結合を調べることで、移植されたエピトープはBet v 1およびMal d 1の交差反応の指標となる。
【0067】
Bet v 1のIgEエピトープが立体配座であるため、ハイブリッドの完全な構造が重要であった。BM1,2,3,5の三次元折り畳み構造は、まず、分子モデルを算出し、その後、Bet v 1の3D画像と比べることで評価された。モデルは、テンプレートアレルゲンと同様の保存形状を示した。
【0068】
4つの変異エピトープの全てをタンパク質表面に曝すことによって、BM1,2,3,5への抗体結合に影響を与えることができた(図1B)。算出されたアレルゲンは、クローニングされ、6xHisTag融合タンパク質として大腸菌内にて発現され、均質性を有するように精製された。
【0069】
コンピュータ内でタンパク質構造のデータを確認するべく、BM1,2,3,5およびBet v 1aの遠紫外線CDスペクトルをそれぞれ記録し、信号を[θ]MRW単位に正規化させた後にBM1,2,3,5およびBet v 1aの各タンパク質構造のデータを比較した。両スペクトルのオーバーレイは、ほとんど同一の二次構造を示した(図1C)。
【0070】
抗Bet v 1モノクローナル抗体を抗体結合することで、同様の折り畳み構造のさらなる徴候が現われた。この抗体結合で、両タンパク質において同様にBM1,2,3,5のBet v 1のような折り畳み構造を示した(図2A)。
【0071】
BM1,2,3,5のIgE抗体結合を調べるため、2つのグループの患者:(i)PFSを患っていないBet v 1アレルギー患者および(ii)リンゴの摂取後にPFS症状を示すBet v 1アレルギー患者に対してELISA実験を行った。なお、アレルゲンとしては、Bet v 1aアレルゲンおよびMal d 1.0108アレルゲンを用いた。
【0072】
2つのグループのいずれにおいても、Bet v 1(P>0.99)に対する患者のIgE結合では大きな違いが観察できなかった。Mal d 1.0108に対するIgE結合では、非PFS患者に比べてPFSグループの方が強いIgE結合を観察したが、後者グループはELISAでも主要リンゴアレルゲンを認識した。
【0073】
しかしながら、BM1,2,3,5に対するIgE結合は、PFSを患う患者(P<0.01)と比べて非PFS患者グループでは著しく低下した(図2B)。ELISAデータは、移植エピトープがシラカンバ花粉PFSに関連していることを示している。PFSを患っていないBet v 1アレルギー個体のIgE抗体は効率よくBM1,2,3,5と結合することができなかったが、PFSを患っている個体の交差反応を起こしうる抗体は、変異アレルゲンを認識し得た。
【実施例2】
【0074】
変異アレルゲンBM4は、8アミノ酸のエピトープがMal d 1.0108のエピトープと置換されたBet v 1aのタンパク質バックボーンに基づいている。Mal d 1エピトープを組み込むことで、結果としてBet v 1のように折り畳むことができず、折り畳み構造でないタンパク質を得た。この折り畳まれていないタンパク質は溶液中に存在でき、安定している。
【0075】
BM4は、pHis Parallel 2ベクター内で5’Nco I、3’Eco R Iにてクローニングされ、N−末端HisTagを有する6xHisTag融合タンパク質として、大腸菌BL21(DE3)において生成された。
【0076】
タンパク質は、大腸菌の不溶性部分から、6M尿素含有Ni2+バッファを用い、Ni2+カラムに負荷させ、カラム上にて再び折り畳んで、イミダゾールにて溶出させて精製された。続いて、精製されたHisTagタンパク質は、rTEVプロテアーゼで切断され、TagされていないBM4は、再度IMACで精製され、10mMリン酸ナトリウムバッファ(pH8)で透析された。1L LB Amp培地での収率は、精製後のBM4の約200mgである。
【0077】
タンパク質の純度は、SDS−PAGEでモニタリングし、99%を超える純度を示した。完全なタンパク質の正しい質量はESI−Q TOF質量分析(測定された質量は17690、算出された平均タンパク質質量は17689ダルトン(Da))によって確認された。BM4の凝集状態はサイズ排除クロマトグラフィーで判断した。高分子量凝集体の量は0.5%未満であり、タンパク質の99.5%が単量体であることが判明した。タンパク質の二次構造は、円偏光二色性分光法によって判断した。タンパク質は折り畳み構造でないことが判明した。
【0078】
検出抗体としてI125標識ウサギ抗ヒトIgE(MedPro)を用いる、Bet v 1アレルギー患者からの血清プールを用いた免疫ブロットでは、BM4へのIgE結合は検出されなかった。ヒトFcεRI受容体で形質移入したラット好塩基性白血病細胞およびBet v 1アレルギー患者の血清を用いたメディエーター放出実験では、Bet v 1aと比べて、BM4では100倍−1000倍、アナフィラキシー反応の可能性の低下したことを観察した。
【0079】
BM4のT細胞増殖について調べられた。シラカンバ花粉アレルギー患者から得たヒト末梢血単核細胞(PBMC)の増殖反応では、BM4が、Bet v 1aまたはMal d 1.0108と比べて高いことが判明した。
【0080】
臨床前のモデルでは、さらにBM4を特性を調べる必要がある。マウスをBM4で免疫化し、免疫学的パラメータを評価した。ELISAを用いて、Bet v 1aおよびBM4に対するIgG滴定およびIgE滴定を判定した。さらに、IgE結合を、ラット好塩基性白血病細胞を用いてメディエーター放出実験で評価した。
【0081】
Bet v 1aに対するブロッキング抗体(IgG)の誘導を、免疫化マウスからの血清をエンドポイント滴定で間接的にELISAで判定した。マウスのT細胞反応はELISpot実験によって分析し、BM4の免疫化によって引き起こされたTヘルパー細胞を、Bet v 1aでマウスを免疫化することで引き起こされたTヘルパー細胞と比較した。
【0082】
TagされていないBM4の構造(コンストラクト)は、以下のようにクローニングされた。BM4を5’Nco Iおよび3’Eco R IとともにpET 28bベクター(Kan R)に挿入し、大腸菌BL21 StarTM(DE3)(インビトロジェン)細胞に形質移入した。上記構造は、配列され、タンパク質発現および精製テストについて実行された。
【0083】
上記構造の生成物は、以下のように生成された。形質移入した細胞を1L LB amp培地にて振盪フラスコ内で生育し、タンパク質発現を、OD600が0.8の状態のとき、0.5mM IPTGにより誘導した。細胞は、低速度遠心分離で分離してから破砕され、上記細胞の不溶性内臓体から、6M尿素、20mMイミダゾール、pH7.4を用いて、BM4を回収した。BM4のタンパク質は、20mMリン酸ナトリウムバッファでの透析で再度折り畳まれた。
【0084】
BM4の二次構造要素は、円偏光二色性分光法によって分析された。大腸菌内において、Tagされていない組換えタンパク質として生成されたBM4は、折り畳み構造を有していないことが判明した。
【実施例3】
【0085】
Bet v 1aの各アミノ酸残基102、114、120の変異が結果として低アレルギー性分子を生成することを示すために、いくつかのBet v 1a変異を作製した。これらの分子の全ては、野生型Bet v 1aに比べてIgE反応性が低いことを示す。
【0086】
表1は、Bet v 1aおよびその各変異体のZスコアを示す。Zスコアは、タンパク質の3D構造を判断するために用いられる。
【0087】
【表1】
【0088】
変異タンパク質の説明は、テンプレートタンパク質のpbdファイル(非特許文献21)を示している。これは、変異体の骨格として用いられており、本明細書ではBet v 1である(pdbエントリー:1bv1)。さらに、変異した位置も記載している(例えば、I102Kは、位置102のIがKと置換されていることを意味する)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Bet v 1aまたはBet v 1aと少なくとも40%の同一性を有するアレルゲンからなる低アレルギー性分子であって、
Bet v 1aのアミノ酸100〜125の領域内において、または上記領域に対応するBet v 1aと少なくとも40%の同一性を有するアレルゲンの領域内において少なくとも1つのアミノ酸残基の変異を有し、
上記少なくとも1つのアミノ酸残基の変異は、Bet v 1aの位置114またはBet v 1aと少なくとも40%の同一性を有するアレルゲンの位置114でのアミノ酸残基の変異である、低アレルギー性分子。
【請求項2】
Bet v 1aまたはBet v 1aと少なくとも40%の同一性を有するアレルゲンからなる低アレルギー性分子であって、
Bet v 1aのアミノ酸100〜125の領域内において、または上記領域に対応するBet v 1aと少なくとも40%の同一性を有するアレルゲンの領域内において、少なくとも4つのアミノ酸残基の変異を有する、低アレルギー性分子。
【請求項3】
Bet v 1aと少なくとも40%の同一性を有する上記アレルゲンは、Bet v 1aと免疫学的に交差反応を起こしうるものであることを特徴とする、請求項1または2に記載の分子。
【請求項4】
Bet v 1aと少なくとも40%の同一性を有する上記アレルゲンは、
Dau c 1、特にDau c 1.0101(U47087),Dau c 1.0102(D88388),Dau c 1.0104(Z81362),Dau c 1.0105(Z84376),Dau c 1.0201(AF456481)またはDau c 1.0103(Z81361)、Api g 1,特にApi g 1.0101(Z48967)またはApi g 1.0201(Z75662)、Pet c 1(X12573)、Cas s 1(AJ417550))、Que a 1(P85126)、Mal d 1,特にMal d 1.0101(X83672),Mal d 1.0102(Z48969),Mal d 1.0109(AY026910),Mal d 1.0105(AF124830),Mal d 1.0106(AF124831),Mal d 1.0108(AF126402),Mal d 1.0103(AF124823),Mal d 1.0107(AF124832),Mal d 1.0104(AF124829),Mal d 1.0201(L42952),Mal d 1.0202(AF124822),Mal d 1.0203(AF124824),Mal d 1.0207(AY026911),Mal d 1.0205(AF124835),Mal d 1.0204(AF124825),Mal d 1.0206(AF020542),Mal d 1.0208(AJ488060),Mal d 1.0302(AY026908),Mal d 1.0304(AY186248),Mal d 1.0303(AY026909),Mal d 1.0301(Z72425),Mal d 1.0402(Z72427),Mal d 1.0403(Z72428)またはMal d 1.0401(Z72426)、Pyr c 1,特にPyr c 1.0101(O65200)、Pru av 1,特にPru av 1.0101(U66076),Pru av 1.0202(AY540508),Pru av 1.0203(AY540509)またはPru av 1.0201(AY540507)、Pru p 1(DQ251187)、Rub i 1.0101(DQ660361)、Pru ar 1,特にPru ar 1.0101(U93165)、Cor a 1,特にCor a 1.0401(AF136945),Cor a 1.0404(AF323975),Cor a 1.0402(AF323973),Cor a 1.0403(AF323974),Cor a 1.0301(Z72440),Cor a 1.0201(Z72439),Cor a 1/5(X70999),Cor a 1/11(X70997),Cor a 1/6(X71000)またはCor a 1/16(X70998)、Bet v 1d(X77266)、Bet v 1l(X77273)、Bet v 1a1−6(非特許文献1)、Bet v 1g(X77269)、Bet v 1f(X77268)、Bet v 1j(X77271)、Bet v 1e(X77267)、Bet v 1b(X77200)、Bet v 1c(X77265)、Bet v 1.0101(X15877)、Bet v 1.0901(X77272)、Bet v 1.1101(X77599)、Bet v 1.1201(X77600)、Bet v 1.1301(X77601)、Bet v 1.1401(X81972)、Bet v 1.1501(Z72429)、Bet v 1.1601(Z72437)、Bet v 1.1701(Z72430)、Bet v 1.1801(Z72431)、Bet v 1.1901(Z72433)、Bet v 1.2001(Z72434)、Bet v 1.2101(Z72435)、Bet v 1.2201(Z72438)、Bet v 1.2301(Z72436)、Bet v 1.2401(Z80100)、Bet v 1.2501(Z80101)、Bet v 1.2601(Z80102)、Bet v 1.2701(Z80103)、Bet v 1.2901(Z80105)、Bet v 1.3001(Z80106)、Aln g 1(S50892)、Car b 1,特にCar b 1.0301(Z80169),Car b 1.0302(Z80170),Car b 1.0103(Z80159),Car b 1.0105(Z80161),Car b 1.0104(Z80160),Car b 1/1a,Car b 1.0101(X66932),Car b 1.0102(X66918),Car b 1/1b,Car b 1/2,Car b 1.0106a(Z80162),Car b 1.0106b(Z80163),Car b 1.0106c(Z80164),Car b 1.0106d(Z80165),Car b 1.0107a(Z80166),Car b 1.0107b(Z80167),Car b 1.0201(X66933)またはCar b 1.0108(Z80168)、Gly m 4.0101(X60043)、Vig r 1.0101(AY792956)、Ara h 8.0101(AY328088)、Asp ao PR10(X62103)、Bet p 1a(AB046540)、Bet p 1b(AB046541)、Bet p 1c(AB046542)、Fag s 1(AJ130889)、Cap ch 17kD a(AJ879115)、Cap ch 17kD b(AJ878871)、Fra a 1.0101(AY679601)、およびTar o 18kD(AF036931)からなる群より選択されていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の分子。
【請求項5】
上記少なくとも1つのアミノ酸残基における、または上記少なくとも4つのアミノ酸残基における少なくとも1つの変異は、アミノ酸の置換、欠失、または付加であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の分子。
【請求項6】
Bet v 1aの変異領域、または上記変異領域に対応するBet v 1aと少なくとも40%の同一性を有するアレルゲンの変異領域は、Bet v 1aの領域における、または上記領域に対応するBet v 1aと少なくとも40%の同一性を有するアレルゲンの領域における、アミノ酸の位置105〜120、好ましくはアミノ酸の位置108〜118、より好ましくはアミノ酸の位置109〜116を含むことを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の分子。
【請求項7】
上記少なくとも1つの変異が、上記領域とBet v 1aおよびBet v 1aと少なくとも40%の同一性を有するアレルゲンからなる群より選択された別のアレルゲンの対応する領域とが置換されることを含むことを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の分子。
【請求項8】
上記分子がBet v 1からなり、Bet v 1のアミノ酸の位置109〜116が、上記アミノ酸の位置109〜116に対応するMal d 1の領域と置換されていることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の分子。
【請求項9】
上記分子がMal d 1からなり、Mal d 1のアミノ酸の位置109〜116が、上記アミノ酸の位置109〜116と対応するBet v 1の領域と置換されていることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の分子。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の低アレルギー性分子をコードしている、核酸分子。
【請求項11】
請求項10に記載の核酸分子を含有する、ベクター。
【請求項12】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の低アレルギー性分子を含有する、ワクチン製剤。
【請求項13】
さらに、薬学的に使用可能な、賦形剤、希釈剤、アジュバントおよびキャリアの少なくとも1つを含有することを特徴とする、請求項12に記載の製剤。
【請求項14】
アレルギーの予防および治療の少なくとも一方のためのワクチンを製造するための、請求項1〜9のいずれか1項に記載の低アレルギー性分子の、使用。
【請求項1】
Bet v 1aまたはBet v 1aと少なくとも40%の同一性を有するアレルゲンからなる低アレルギー性分子であって、
Bet v 1aのアミノ酸100〜125の領域内において、または上記領域に対応するBet v 1aと少なくとも40%の同一性を有するアレルゲンの領域内において少なくとも1つのアミノ酸残基の変異を有し、
上記少なくとも1つのアミノ酸残基の変異は、Bet v 1aの位置114またはBet v 1aと少なくとも40%の同一性を有するアレルゲンの位置114でのアミノ酸残基の変異である、低アレルギー性分子。
【請求項2】
Bet v 1aまたはBet v 1aと少なくとも40%の同一性を有するアレルゲンからなる低アレルギー性分子であって、
Bet v 1aのアミノ酸100〜125の領域内において、または上記領域に対応するBet v 1aと少なくとも40%の同一性を有するアレルゲンの領域内において、少なくとも4つのアミノ酸残基の変異を有する、低アレルギー性分子。
【請求項3】
Bet v 1aと少なくとも40%の同一性を有する上記アレルゲンは、Bet v 1aと免疫学的に交差反応を起こしうるものであることを特徴とする、請求項1または2に記載の分子。
【請求項4】
Bet v 1aと少なくとも40%の同一性を有する上記アレルゲンは、
Dau c 1、特にDau c 1.0101(U47087),Dau c 1.0102(D88388),Dau c 1.0104(Z81362),Dau c 1.0105(Z84376),Dau c 1.0201(AF456481)またはDau c 1.0103(Z81361)、Api g 1,特にApi g 1.0101(Z48967)またはApi g 1.0201(Z75662)、Pet c 1(X12573)、Cas s 1(AJ417550))、Que a 1(P85126)、Mal d 1,特にMal d 1.0101(X83672),Mal d 1.0102(Z48969),Mal d 1.0109(AY026910),Mal d 1.0105(AF124830),Mal d 1.0106(AF124831),Mal d 1.0108(AF126402),Mal d 1.0103(AF124823),Mal d 1.0107(AF124832),Mal d 1.0104(AF124829),Mal d 1.0201(L42952),Mal d 1.0202(AF124822),Mal d 1.0203(AF124824),Mal d 1.0207(AY026911),Mal d 1.0205(AF124835),Mal d 1.0204(AF124825),Mal d 1.0206(AF020542),Mal d 1.0208(AJ488060),Mal d 1.0302(AY026908),Mal d 1.0304(AY186248),Mal d 1.0303(AY026909),Mal d 1.0301(Z72425),Mal d 1.0402(Z72427),Mal d 1.0403(Z72428)またはMal d 1.0401(Z72426)、Pyr c 1,特にPyr c 1.0101(O65200)、Pru av 1,特にPru av 1.0101(U66076),Pru av 1.0202(AY540508),Pru av 1.0203(AY540509)またはPru av 1.0201(AY540507)、Pru p 1(DQ251187)、Rub i 1.0101(DQ660361)、Pru ar 1,特にPru ar 1.0101(U93165)、Cor a 1,特にCor a 1.0401(AF136945),Cor a 1.0404(AF323975),Cor a 1.0402(AF323973),Cor a 1.0403(AF323974),Cor a 1.0301(Z72440),Cor a 1.0201(Z72439),Cor a 1/5(X70999),Cor a 1/11(X70997),Cor a 1/6(X71000)またはCor a 1/16(X70998)、Bet v 1d(X77266)、Bet v 1l(X77273)、Bet v 1a1−6(非特許文献1)、Bet v 1g(X77269)、Bet v 1f(X77268)、Bet v 1j(X77271)、Bet v 1e(X77267)、Bet v 1b(X77200)、Bet v 1c(X77265)、Bet v 1.0101(X15877)、Bet v 1.0901(X77272)、Bet v 1.1101(X77599)、Bet v 1.1201(X77600)、Bet v 1.1301(X77601)、Bet v 1.1401(X81972)、Bet v 1.1501(Z72429)、Bet v 1.1601(Z72437)、Bet v 1.1701(Z72430)、Bet v 1.1801(Z72431)、Bet v 1.1901(Z72433)、Bet v 1.2001(Z72434)、Bet v 1.2101(Z72435)、Bet v 1.2201(Z72438)、Bet v 1.2301(Z72436)、Bet v 1.2401(Z80100)、Bet v 1.2501(Z80101)、Bet v 1.2601(Z80102)、Bet v 1.2701(Z80103)、Bet v 1.2901(Z80105)、Bet v 1.3001(Z80106)、Aln g 1(S50892)、Car b 1,特にCar b 1.0301(Z80169),Car b 1.0302(Z80170),Car b 1.0103(Z80159),Car b 1.0105(Z80161),Car b 1.0104(Z80160),Car b 1/1a,Car b 1.0101(X66932),Car b 1.0102(X66918),Car b 1/1b,Car b 1/2,Car b 1.0106a(Z80162),Car b 1.0106b(Z80163),Car b 1.0106c(Z80164),Car b 1.0106d(Z80165),Car b 1.0107a(Z80166),Car b 1.0107b(Z80167),Car b 1.0201(X66933)またはCar b 1.0108(Z80168)、Gly m 4.0101(X60043)、Vig r 1.0101(AY792956)、Ara h 8.0101(AY328088)、Asp ao PR10(X62103)、Bet p 1a(AB046540)、Bet p 1b(AB046541)、Bet p 1c(AB046542)、Fag s 1(AJ130889)、Cap ch 17kD a(AJ879115)、Cap ch 17kD b(AJ878871)、Fra a 1.0101(AY679601)、およびTar o 18kD(AF036931)からなる群より選択されていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の分子。
【請求項5】
上記少なくとも1つのアミノ酸残基における、または上記少なくとも4つのアミノ酸残基における少なくとも1つの変異は、アミノ酸の置換、欠失、または付加であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の分子。
【請求項6】
Bet v 1aの変異領域、または上記変異領域に対応するBet v 1aと少なくとも40%の同一性を有するアレルゲンの変異領域は、Bet v 1aの領域における、または上記領域に対応するBet v 1aと少なくとも40%の同一性を有するアレルゲンの領域における、アミノ酸の位置105〜120、好ましくはアミノ酸の位置108〜118、より好ましくはアミノ酸の位置109〜116を含むことを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の分子。
【請求項7】
上記少なくとも1つの変異が、上記領域とBet v 1aおよびBet v 1aと少なくとも40%の同一性を有するアレルゲンからなる群より選択された別のアレルゲンの対応する領域とが置換されることを含むことを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の分子。
【請求項8】
上記分子がBet v 1からなり、Bet v 1のアミノ酸の位置109〜116が、上記アミノ酸の位置109〜116に対応するMal d 1の領域と置換されていることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の分子。
【請求項9】
上記分子がMal d 1からなり、Mal d 1のアミノ酸の位置109〜116が、上記アミノ酸の位置109〜116と対応するBet v 1の領域と置換されていることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の分子。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の低アレルギー性分子をコードしている、核酸分子。
【請求項11】
請求項10に記載の核酸分子を含有する、ベクター。
【請求項12】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の低アレルギー性分子を含有する、ワクチン製剤。
【請求項13】
さらに、薬学的に使用可能な、賦形剤、希釈剤、アジュバントおよびキャリアの少なくとも1つを含有することを特徴とする、請求項12に記載の製剤。
【請求項14】
アレルギーの予防および治療の少なくとも一方のためのワクチンを製造するための、請求項1〜9のいずれか1項に記載の低アレルギー性分子の、使用。
【図1a】
【図1b】
【図1c】
【図2a】
【図2b】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13−1】
【図13−2】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18a−1】
【図18a−2】
【図18a−3】
【図18b−1】
【図18b−2】
【図19a】
【図19b】
【図20】
【図21】
【図1b】
【図1c】
【図2a】
【図2b】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13−1】
【図13−2】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18a−1】
【図18a−2】
【図18a−3】
【図18b−1】
【図18b−2】
【図19a】
【図19b】
【図20】
【図21】
【公表番号】特表2010−536349(P2010−536349A)
【公表日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−521321(P2010−521321)
【出願日】平成20年6月30日(2008.6.30)
【国際出願番号】PCT/EP2008/005324
【国際公開番号】WO2009/024208
【国際公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【出願人】(507180423)ビオマイ アクチエンゲゼルシャフト (12)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年6月30日(2008.6.30)
【国際出願番号】PCT/EP2008/005324
【国際公開番号】WO2009/024208
【国際公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【出願人】(507180423)ビオマイ アクチエンゲゼルシャフト (12)
【Fターム(参考)】
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