説明

低ナトリウムプロセスチーズの保存性改良法

【課題】本発明の目的は、低ナトリウムタイプのプロセスチーズにおいて製造工程で残存した耐熱性菌が増殖することを抑制し、保存性の向上した低ナトリウムタイプのプロセスチーズを提供することにある。
【解決手段】ショ糖脂肪酸エステル0.025%以上およびリゾチーム0.025%以上を添加することにより、耐熱性菌の増殖を抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保存性の改良された低ナトリウムプロセスチーズおよび、低ナトリウムプロセスチーズの保存性改良法に関する。さらに詳しくは、ナトリウム含量を減じたプロセスチーズ製品において、製造工程で残存した耐熱性菌が保存中に増殖することを抑制する保存性改良法に関する。
【背景技術】
【0002】
プロセスチーズは、1種類または数種類のナチュラルチーズを粉砕、配合し、加熱溶融、乳化された後、包装容器に充填されて製品化される。通常の加熱殺菌条件は100℃以下であるため芽胞を有する耐熱性菌は製品中に残存する。しかしながら一般的な配合のプロセスチーズにおいては保存期間中に、これらの耐熱性菌が増殖して問題となることはない。
一方、プロセスチーズはタンパク質やカルシウムの含量が高く栄養面で優れた食品であるが、原料チーズ由来のナトリウムに加えて製造時に溶融塩として添加されるナトリウムを含むためナトリウム含量が高く、ナトリウムの過剰摂取を嫌う人からは敬遠されがちである。そこで、原料となるナチュラルチーズの製造過程において塩化ナトリウムの代わりに塩化カリウムを用いたり(非特許文献1)、プロセスチーズの製造過程において溶融塩としてクエン酸カリウムなどのカリウム塩を使用して低ナトリウム製品を開発しようとする試みがなされている(非特許文献2)。また、溶融塩としてナトリウム塩とカリウム塩とを組み合わせて用いることにより、ナトリウム/カリウム比のバランスに配慮したプロセスチーズに関する特許が提示されている(特許文献1)。しかしながら、これらの文献においてはカリウム塩による物性や風味への影響については述べられているものの、低ナトリウムプロセスチーズの微生物学的保存性については触れられてこなかった。
本発明者らは、低ナトリウムタイプのプロセスチーズ製品を検討する中で、従来の一般的な配合のプロセスチーズでは問題とならなかった製造工程で残存した耐熱性菌が保存中に増殖して問題を生じることを見出し、これらの耐熱性菌の制御方法を鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は保存性の改良された低ナトリウムプロセスチーズおよび、低ナトリウムタイプのプロセスチーズの保存性を向上させる方法に関する。さらに詳しくは、低ナトリウムタイプのプロセスチーズ製品において、一般的なプロセスチーズでは本来問題となることがない製造工程で残存した耐熱性菌の増殖を制御する方法に関し、ショ糖脂肪酸エステルとリゾチームを配合することにより耐熱性菌の増殖を抑制する微生物学的保存性の向上方法に関する。
【0003】
【特許文献1】特開2003−33136
【非特許文献1】E.Fitzgerald and J.Buckley, J. Dairy Science 68,3127-3134(1985)
【非特許文献2】S.K.Gupta, C.Karahadian, and R.C.Lindsay, J. Dairy Science 67,764-778(1984)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は低ナトリウムタイプのプロセスチーズにおいて加熱殺菌工程で残存した耐熱性菌が保存期間中に増殖することを抑制する保存性の向上方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、加熱殺菌工程で残存した耐熱性菌の増殖を抑制する方法を鋭意検討した結果、ショ糖脂肪酸エステルとリゾチームを併用して配合することにより保存中の耐熱性菌の増殖が抑制されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【発明の効果】
【0006】
すなわち、本発明によればナトリウム含量を減じた低ナトリウムタイプのプロセスチーズ製品において、加熱殺菌工程で残存した耐熱性菌が保存中に増殖することなく、通常のプロセスチーズ製品と同等の保存性を付与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の対象となるプロセスチーズは、一般的なプロセスチーズと比較してナトリウム含量を減じた低ナトリウムタイプのプロセスチーズでありチーズ中のナトリウム含量が900mg/100g以下、好ましく800mg/100g以下であるものをいう。ナトリウム含量を減じる方法としては、特に限定されないが、使用する原料チーズとしてナチュラルチーズ製造時の加塩工程において食塩添加量を少なくした低塩化されたナチュラルチーズを用いる方法や、プロセスチーズ製造時に使用する溶融塩の添加量を減らす方法、溶融塩の一部あるいは全部をカリウム塩とする方法などを挙げることができ、これらの方法を1種あるいは2種以上組み合わせることにより目標とするナトリウム含量に調整すればよい。本発明においては、上記の方法によりナトリウム含量を調整し、さらに保存性を向上させるためにショ糖脂肪酸エステルおよびリゾチームを添加するが、それ以外の製造条件等は一般的なプロセスチーズと同様に実施すればよい。例えば、原料チーズに溶融塩、ショ糖脂肪酸エステルおよびリゾチームを添加し、水分及びpHを調整しながら、ケトル型乳化釜、チーズクッカー、サーモシリンダー等の乳化機を用いて80〜90℃にて加熱溶融し、得られた乳化物をカルトン、アルミ箔、スライスチーズ用フィルム等に充填、包装、冷却することにより製造することができる。
【0008】
原料チーズとしては、通常プロセスチーズの製造に使用されるナチュラルチーズを使用することができる。例えば、ゴーダチーズ、チェダーチーズ、エメンタールチーズ、エダムチーズ、パルメザンチーズ、カマンベールチーズ、ブルーチーズ、クリームチーズ等を挙げることができ、これらのナチュラルチーズを2種以上組み合わせて用いてもよい。また、ナチュラルチーズ由来のナトリウム含量を減らすために、ナチュラルチーズ製造時の加塩工程において食塩添加量を少なくした低塩化されたナチュラルチーズを用いてもよい。
また、溶融塩としてはクエン酸塩、オルソリン酸塩、ピロリン酸塩、縮合リン酸塩、酒石酸塩等、通常プロセスチーズに使用される溶融塩を挙げることができ、設計したナトリウム含量となるように、これらのナトリウム塩とカリウム塩等を組み合わせて使用すればよい。
【0009】
さらに、加熱溶融工程で生残した耐熱性菌の増殖を抑制するためにショ糖脂肪酸エステルおよびリゾチームをそれぞれ添加する。ここで言う耐熱性菌とは原料チーズに由来し、芽胞を形成して一般的なプロセスチーズの加熱溶融条件である100℃以下の加熱条件では死滅しない菌である。例えば、Bacillus属、Clostridium属等の耐熱性有芽胞菌が挙げられる。これらの耐熱性菌は、一般的なプロセスチーズ配合においては製品中に生残しても保存中に増殖せず問題となることはないが、低ナトリウムタイプのプロセスチーズにおいては保存中に増殖して製品品質を劣化させる原因となることがある。これらの耐熱性菌の増殖を抑制するためにショ糖脂肪酸エステル0.0025重量%以上、好ましくは0.007重量%以上、より好ましくは0.025重量%以上およびリゾチーム0.0025重量%以上、好ましくは0.007重量%以上、より好ましくは0.025重量%以上を添加する。ショ糖脂肪酸エステルおよびリゾチームの添加量の比は特に限定されないが1:10〜10:1が好ましく、1:5〜5:1がより好ましい。ショ糖脂肪酸エステルおよびリゾチームの添加方法や添加後のプロセスチーズの製造工程については特に制限はなく、通常のプロセスチーズの製造における溶融塩等の副原料と同様の方法で添加すればよく、その後の製造工程についても通常の製造工程で実施すればよい。
【実施例】
【0010】
以下、本発明を実施例を挙げて説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。
【0011】
[比較例]
ゴーダチーズ50重量部とチェダーチーズ35重量部をそれぞれ粉砕した後、混合し、ケトル型乳化釜に投入した。これに溶融塩として、試料1(通常のプロセスチーズ)にはポリリン酸ナトリウム2重量部を、試料2(低ナトリウムタイプ)にはポリリン酸ナトリウム1重量部およびリン酸3カリウム1重量部をそれぞれ添加し、最終製品の水分値が46.5%となるように水を加えた。ケトル乳化釜に蒸気を吹き込みながらチーズを溶融し、品温が86℃に達した時点で乳化を終了した。得られた乳化物をアルミニウム箔のシェルおよびリッドで包装し、サンプルとした。ナトリウム含量は試料1で1073mg/100g、試料2で823mg/100gであった。
【0012】
微生物学的保存性を評価は以下の方法で行った。試料1および試料2のサンプル各648個を30℃に保存し、製造工程で残存した耐熱性菌が保存期間中に増殖することにより生じるサンプルの膨張を経時的に目視判定し評価した。全サンプル中で膨張が認められたサンプルの割合(%)を表1に記す。
【0013】
【表1】

【0014】
通常のプロセスチーズ配合である試料1では6週間を経過してもサンプルに膨張は認められなかったが、低ナトリウムタイプである試料2では3週目以降膨張したサンプルが認められた。
【0015】
[実施例]
試料2と同配合の低ナトリウムタイプのプロセスチーズに、長鎖ポリリン酸塩(ビーケーギューリニ社製JOHA HBS)、デカグリセリンモノミリステート(太陽化学社製サンソフトQ−14S)、ジグリセリンモノミリステート製剤(理研ビタミン社製ポエムDM−25H)、ショ糖脂肪酸エステルおよびリゾチーム(三栄源エフ・エフ・アイ社製アートフレッシュ50/50)を最終製品で表2に記した配合比になるようにそれぞれ添加し、比較例と同様の工程で試料3〜7を試作した。いずれのサンプルについても風味、物性については通常のプロセスチーズ製品と同等の良好な品質を有していた。
【0016】
【表2】

【0017】
得られた試料3〜7の微生物学的保存性は比較例の場合と同様の方法で評価した。結果を表3に記す。
【0018】
【表3】

試料3〜5では、保存期間中に耐熱性菌の増殖による製品の膨張が認められた。一方、ショ糖脂肪酸エステルとリゾチームを添加した試料6および7においては、試料1と同様に膨張するものは認められなかった。
【産業上の利用可能性】
【0019】
低ナトリウムタイプのプロセスチーズ中の耐熱性菌の増殖を抑制できるため、保存性の向上した低ナトリウムタイプのプロセスチーズが提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ショ糖脂肪酸エステルおよびリゾチームを含有することを特徴とする低ナトリウムプロセスチーズ。
【請求項2】
ショ糖脂肪酸エステル0.0025%以上、およびリゾチーム0.0025%以上を含有することを特徴とする低ナトリウムプロセスチーズ。
【請求項3】
ショ糖脂肪酸エステルおよびリゾチームを添加することを特徴とする、低ナトリウムプロセスチーズの保存性改良法。
【請求項4】
ショ糖脂肪酸エステル0.0025%以上、およびリゾチーム0.0025%以上を添加することを特徴とする低ナトリウムプロセスチーズの保存性改良法。

【公開番号】特開2008−263890(P2008−263890A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−113296(P2007−113296)
【出願日】平成19年4月23日(2007.4.23)
【出願人】(000006138)明治乳業株式会社 (265)
【Fターム(参考)】