説明

低分子量コンドロイチン硫酸を含む医薬

【課題】 新規なCD44切断誘導剤、並びに関節炎治療剤を提供することを解決すべき課題とした。
【解決手段】 低分子量コンドロイチン硫酸又はその薬学的に許容される塩を含む、CD44切断誘導剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低分子量コンドロイチン硫酸又はその薬学的に許容される塩を有効成分とするCD44切断誘導剤に関する。また本発明は、低分子量コンドロイチン硫酸又はその薬学的に許容される塩を有効成分とする関節炎治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
CD44は1回膜貫通型糖蛋白質で、4つの機能的ドメインからなる。外側の細胞外ドメインは主にヒアルロン酸結合に関与する部位である。内側の細胞外ドメインは主に選択的スプライシングを受ける部位で、その結果、CD44の多くのアイソフォームが合成される。CD44の膜貫通ドメインはまさしく典型的な1回膜貫通型糖蛋白質の性質を示すが、界面活性剤可溶化ヒアルロン酸レセプターを用いた研究や、部位特異的変異導入法による研究から、この部位に相互作用する脂質や修飾膜蛋白質が細胞骨格とCD44の相互作用やヒアルロン酸結合をも調節することが示されている。CD44は、ほとんどの細胞と組織に発現しているが、血小板、肝細胞、心筋、腎尿細管上皮、精巣、皮膚には発現していない。CD44は、細胞凝集、細胞周囲のマトリックスの保持、マトリックス−細胞間のシグナリング、レセプターを介するヒアルロン酸の取り込み/分解や細胞遊走などを含む様々な細胞機能に関与することが知られている。これらの機能の制御には、特定のCD44アイソフォームの利用、CD44の翻訳後修飾、細胞骨格に結合する中間系フィラメントのような他の蛋白とCD44の特異的結合などが関与している可能性がある。また、CD44には切断機構(シェディング機構)が存在し、CD44の切断により、リガンド結合によるCD44シグナル伝達は強く遮断されることが分かっている。
【0003】
CD44と関節炎との関連についてはこれまでに幾つかの報告がある。例えば、マウス関節炎モデルにおいて、CD44シェディング誘発物質の投与により可溶性CD44(sCD44)量が増加すること(非特許文献1)、並びにCD44シェディング誘発物質により関節炎治療効果があること(非特許文献2)が報告されている。また、CD44シェディングを誘発する抗CD44抗体の投与により関節炎の治療効果が見られることが報告されている(非特許文献3)。また、CD44ノックアウトマウスでは関節炎の発症が抑制されていることが報告されている(非特許文献4)。さらに、慢性関節リウマチ患者において、滑液及び滑膜組織でCD44が高発現していること(非特許文献5)、及びsCD44と重症度が相関していること(非特許文献6)が報告されている。
【0004】
CD44切断誘導剤としては、特許文献1には、低分子量ヒアルロン酸又はその薬学的に許容される塩を有効成分とするCD44切断誘導剤及び細胞の移動促進剤が記載されている。また、特許文献1で言う「低分子量ヒアルロン酸」は、ヒアルロン酸2糖以上で、かつ重量平均分子量30kD以下のものが好ましいことが記載されている。
【0005】
一方、特許文献2には、4糖から8糖からなる糖化合物(コンドロイチン硫酸)がL−セレクチン、P−セレクチン及びケモカインとリガンドとの結合を調節し、炎症性疾患などを改善できることが記載されている。しかしながら、特許文献2には、コンドロイチン硫酸がCD44に及ぼす作用については何等記載がない。
【0006】
【非特許文献1】Katoh S, J.Immunol 1994; 153(8): 3440
【非特許文献2】Mikecz K, Nat Med 1995; 186): 558
【非特許文献3】Mikecz K, Kim JH. Arthritis Rheum. 1999 Apr; 42(4): 659-68
【非特許文献4】Mikecz K, Arthritis Rheum. 2001; 44(12): 2922
【非特許文献5】Fujii K, Eto S, J Immunol 1999; 162(4); 2391
【非特許文献6】Haynes BF Arthritis Rheum. 1991; 34(11): 1434
【特許文献1】特開2004−238294号公報
【特許文献2】特開2004−59506号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、新規なCD44切断誘導剤、並びに関節炎治療剤を提供することを解決すべき課題とした。本発明は、特に、吸収性が良好であり、かつ生体に対する安全性の高い物質を用いて、新規なCD44切断誘導剤、並びに関節炎治療剤を提供することを解決すべき課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、低分子量コンドロイチン硫酸が、CD44の切断を誘導することを実証し、関節炎の治療に有効であることを見い出した。本発明はこれらの知見に基づいて完成されたものである。
【0009】
即ち、本発明によれば、低分子量コンドロイチン硫酸又はその薬学的に許容される塩を含む、CD44切断誘導剤が提供される。
本発明のCD44切断誘導剤において、好ましくは、低分子量コンドロイチン硫酸は重量平均分子量10kD以下のコンドロイチン硫酸であり、さらに好ましくは、低分子量コンドロイチン硫酸は重量平均分子量2〜3kDのコンドロイチン硫酸である。好ましくは、低分子量コンドロイチン硫酸は、ガラクトサミンの4位と6位が硫酸化されているE型コンドロイチン硫酸である。
【0010】
本発明の別の側面によれば、低分子量コンドロイチン硫酸又はその薬学的に許容される塩を含む、関節炎治療剤が提供される。
好ましくは、関節炎は、慢性関節リウマチ又は変形性関節症による関節炎である。
好ましくは、関節炎は慢性の関節炎である。
好ましくは、本発明の関節炎治療剤は、CD44が高発現している関節炎の治療のために使用される。
【0011】
本発明の関節炎治療剤において、好ましくは、低分子量コンドロイチン硫酸は重量平均分子量10kD以下のコンドロイチン硫酸であり、さらに好ましくは、低分子量コンドロイチン硫酸は重量平均分子量2〜3kDのコンドロイチン硫酸である。好ましくは、低分子量コンドロイチン硫酸は、ガラクトサミンの4位と6位が硫酸化されているE型コンドロイチン硫酸である。
【0012】
本発明のさらに別の側面によれば、低分子量コンドロイチン硫酸又はその薬学的に許容される塩の有効量をヒトを含む哺乳動物に投与する工程を含む、CD44切断を誘導する方法が提供される。
【0013】
本発明のさらに別の側面によれば、低分子量コンドロイチン硫酸又はその薬学的に許容される塩の有効量をヒトを含む哺乳動物に投与する工程を含む、関節炎を治療する方法が提供される。
【0014】
本発明のさらに別の側面によれば、CD44切断誘導剤の製造のための低分子量コンドロイチン硫酸又はその薬学的に許容される塩の使用が提供される。
【0015】
本発明のさらに別の側面によれば、関節炎治療剤の製造のための低分子量コンドロイチン硫酸又はその薬学的に許容される塩の使用が提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明において有効成分として用いる低分子量コンドロイチン硫酸は、分子量は小さいため吸収性が良好であることが期待できる。また、コンドロイチン硫酸は生体成分に由来する物質であるので、生体に対する安全性が高いことが期待できる。即ち、本発明によれば、吸収性が良好であり、かつ生体に対する安全性の高い物質を用いて、新規なCD44切断誘導剤、並びに関節炎治療剤を提供することが可能になった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明のCD44切断誘導剤及び関節炎治療剤は、低分子量コンドロイチン硫酸を有効成分として含むことを特徴とする。
【0018】
本発明で用いるコンドロイチン硫酸は低分子量のものである。ここで「低分子量」とは、当技術分野における当業者において低分子量であると認識される程度の分子量を意味する。一般的には、当業者であれば、重量平均分子量が30kD以下であれば「低分子量」であると認識し、重量平均分子量が75kDaを超える場合には「低分子量」であるとは認識しない。
【0019】
低分子量コンドロイチン硫酸は、重量平均分子量10kD以下のコンドロイチン硫酸であることが好ましく、重量平均分子量2〜3kDのコンドロイチン硫酸であることが特に好ましい。なお、分子量約10kDのコンドロイチン硫酸は36糖に相当し、分子量約5kDのコンドロイチン硫酸は18糖に相当し、分子量約4kDのコンドロイチン硫酸は14糖に相当し、分子量約3kDのコンドロイチン硫酸は11糖に相当し、分子量約2kDのコンドロイチン硫酸は7糖に相当し、分子量約1kDのコンドロイチン硫酸は4糖に相当する。本発明では、これらの36糖〜4糖のコンドロイチン硫酸を使用することが好ましく、18糖〜4糖のコンドロイチン硫酸を使用することがさらに好ましい。
【0020】
コンドロイチン硫酸は、グルクロン酸とガラクトサミンの繰り返し構造を有し、硫酸化される位置によって以下の異なる型が存在する。
A型:ガラクトサミンの4位が硫酸化されている。
C型:ガラクトサミンの6位が硫酸化されている。
D型:ガラクトサミンの6位とグルクロン酸の2位が硫酸化されている。
E型:ガラクトサミンの4位と6位が硫酸化されている。
【0021】
本発明では、上記した何れの型のコンドロイチン硫酸を使用することができるが、ガラクトサミンの4位と6位が硫酸化されているE型コンドロイチン硫酸を使用することが特に好ましい。
【0022】
コンドロイチン硫酸を構造式で示すと以下の通りである。
【0023】
【化1】

【0024】
11及びR12は各々独立に、水素原子又はスルホン酸基を示す。R13及びR14は各々独立に、水素原子又はスルホン酸基を示す。ここで、R11〜R14のうちの少なくとも1つ以上はスルホン酸基を示す。
【0025】
本明細中前記した通り、特開2004−238294号公報には、低分子量ヒアルロン酸又はその薬学的に許容される塩を有効成分とするCD44切断誘導剤が記載されている。本発明で用いるコンロイチン硫酸(特に、コンドロイチン硫酸E)とヒアルロン酸とは、以下に述べる通り、構成糖、物性、生理活性、分子量の違いによる活性の差、及び遊走時の仮足の形状などが互いに相違しており、両者は、特に、生理活性については全く異なる別個の物質である。
【0026】
構成糖:コンドロイチン硫酸Eはグルクロン酸とN−アセチルガラクトサミン4,6−硫酸により構成される。ヒアルロン酸はグルクロン酸とN−アセチルグルコサミンにより構成される。
【0027】
物性:コンドロイチン硫酸Eは多数の硫酸基を有し、酸性度が極めて高い。ヒアルロン酸は硫酸基を有さないので、酸性度は低い。
【0028】
生理活性:コンドロイチン硫酸Eは、セレクチン及びケモカインに結合し、ケモカインレセプターについてはCa流入を阻害し、細胞の活性化を抑制し、リンパ球では活性化されると発現する。また、コンドロイチン硫酸Eは、CD44との結合が報告されているが、CD44の活性化及びCD44との結合によるアポトーシスについては報告がない。ヒアルロン酸は、セレクチン及びケモカインとの結合、ケモカインレセプターへの影響、及びリンパ球での発現は報告がない。また、ヒアルロン酸は、CD44と結合し、それによりCD44が活性化され、ヒアルロン酸とCD44との結合により細胞のアポトーシスに影響を及ぼすことが報告されている。
【0029】
分子量と活性:コンドロイチン硫酸Eは、分子量の違いによる活性の差は報告されていない。ヒアルロン酸は分子量により生理活性が異なる。
【0030】
CD44活性の最適な大きさ:コンドロイチン硫酸Eは2〜3kDa(約7〜11糖)である。ヒアルロン酸は6.9kDa(約36糖)である。
【0031】
遊走時の仮足の形状:コンドロイチン硫酸Eとヒアルロン酸では異なっている。
【0032】
本発明で用いるコンドロイチン硫酸は、例えば、
(a) イカ軟骨 [スズキ(Suzuki, S.)ら、J. Biol. Chem., 243, 1543−1550 (1968)]、肥満細胞 [カッツ(Katz, H. R.) ら、J. Biol. Chem., 261, 13393−13396 (1986);及びスティーブンス(Stevens, R. L.)ら、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 85, 2284−2287 (1988)]、好中球 [オオハシ(Ohhashi, Y.) ら、Biochem.J., 217, 199−207 (1984); 及びピーターソン(Petersen. F.)ら、J. Biol. Chem., 274, 12376−12382 (1999)]、単球 [ウーリン−ハンセン(Uhlin−Hansen, L.)ら、J. Biol. Chem., 264, 14916−14922 (1989);マックジー(McGee, M. P.)ら、J. Biol. Chem., 270, 26109−26115 (1995)]、糸球体 [コバヤシ(Kobayashi, S.) ら、Biochim. Biophy. Acta, 841, 71−80 (1985)] 、糸球体間質細胞 [(Yaoita, E.)ら、J. Biol. Chem., 265, 522−531 (1990)]等に見出されるコンドロイチン硫酸を、例えば、ヒアルロニダーゼなどの酵素で消化する工程、及び
(b)前記工程(a)で得られた消化産物を高速液体クロマトグラフィーに供して、オリゴ糖画分を得る工程、
を行なうことにより得ることができる。
【0033】
前記工程(a)において、コンドロイチン硫酸は、慣用の手法により得ることができる。前記コンドロイチン硫酸の供給源は、前述の例示に特に限定されるものではなく、コンドロイチン硫酸を保持する他の生物、組織、細胞等を使用してもよい。コンドロイチン硫酸を消化する酵素としては、ヒアルロニダーゼ(睾丸由来)、ヒアルロニダーゼSD、コンドロイチナーゼACI、コンドロイチナーゼACII、コンドロイチナーゼACIII、コンドロイチナーゼABCなどを適宜使用することができる。
【0034】
また、酵素処理と組み合わせて、また酵素処理の代わりに、化学分解によってコンドロイチン硫酸を低分子量化することもできる。化学分解法としては、アルカリ分解法やDMSO法等が挙げられる。アルカリ分解法は、例えばコンドロイチン硫酸の溶液に0.5〜1N程度の水酸化ナトリウム等の塩基を加え、数時間加温して低分子化させた後、塩酸等の酸を加えて中和することにより行うことができる。DMSO法としてはNagasawaらの方法(Carbohyd. Res., 141, p99−110, 1985)が挙げられる。超音波処理法としては Biochem., 33, p6503−6507 (1994)等に記載された方法が挙げられる。
【0035】
工程(b)においては、前記(a)で得られた消化産物を、クロマトグラフィー、例えば、高速液体クロマトグラフィーに供することができる。工程(b)においては、単一種類のオリゴ糖を、単一ピークとして得られるように、慣用の各種クロマトグラフィーを行なうことができる。例えば、イカ軟骨由来コンドロイチンEの場合、前記クロマトグラフィーとして、1M〜3.5MのNaClのグラジエントによる陰イオン交換樹脂を用いたカラムクロマトグラフィーを行うことができる。ここで、クロマトグラフィーに用いられる溶液は、低分子量コンドロイチン硫酸を分離するのに適した水溶液又は水溶性有機溶媒と水との混合溶液であればよい。
【0036】
上記したような方法によって低分子量コンドロイチン硫酸を含む画分が得られるが、この画分は通常の糖鎖の分離、精製の手法によってさらに精製することができる。例えば、吸着クロマトグラフィー、陰イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、ゲル濾過法、ゲル浸透クロマトグラフィー、濾紙電気泳動法、濾紙クロマトグラフィー、有機溶媒による分画、あるいはこれらの組み合わせ等の操作によって行うことができるが、これらに限定されるものではない。このような方法によって画分中の低分子量コンドロイチン硫酸の含有率を高めることができ、また医薬として混入が許されない物質を排除することもできる。このようにして、低分子量コンドロイチン硫酸は、高純度に精製することができる。
【0037】
低分子量コンドロイチン硫酸の薬学的に許容される塩としては、例えば、アルカリ金属塩(ナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩等)、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩等の無機塩基との塩、またはジエタノールアミン塩、シクロヘキシルアミン塩、アミノ酸塩等の有機塩基との塩のうち、薬学的に許容される塩を用いることができる。上記の中でも、ナトリウム塩を使用することが好ましい。
【0038】
本発明のCD44切断誘導剤及び関節炎治療剤(以下、これらを総称して本発明の薬剤と称する)の投与方法は、特に限定されないが、例えば注射(静脈内、筋肉内、皮下、皮内、腹腔内等)、経鼻、経口、経皮、吸入等の投与経路が挙げられる。その投与方法は、注射による特定部位への直接投与や、点滴による投与など、適用される疾患や部位等によって適宜選択することができる。
【0039】
本発明においては、上記した投与方法に応じて、低分子量低分子量コンドロイチン硫酸又はその薬学的に許容される塩を適宜製剤化して、本発明の薬剤とすることができる。剤形としては、注射剤(溶液、懸濁液、乳濁液、用時溶解用固形剤等)、錠剤、カプセル剤、液剤、顆粒剤、散剤、リポ化剤、軟膏剤、硬膏剤、ローション剤、パスタ剤、貼付剤、ゲル剤、坐剤、外用散剤、スプレー剤、吸入散剤等が挙げられるが、注射剤等の液剤の形態とすることが好ましい。
【0040】
液剤は、例えば適当な水性溶媒あるいは医薬品に慣用される溶媒に、低分子量コンドロイチン硫酸又はその薬学的に許容される塩を溶解させることにより製造することができる。このような溶媒としては、蒸留水、緩衝液、生理食塩水、水性有機溶媒を含む水等が挙げられる。
【0041】
本発明の薬剤を注射剤として提供する場合、その形態は、溶液、凍結物、または凍結乾燥物のいずれでもよい。これをアンプル、バイアル、注射用シリンジ等の適当な容器に充填・密封し、そのまま流通させあるいは保存して、注射剤として投与することができる。
【0042】
本発明の薬剤の製剤化は公知の方法で行うことができる。製剤化においては、本発明の効果に影響を与えない限り、他の薬学的有効成分(例えば抗炎症剤、鎮痛剤、ビタミン剤、抗菌剤、成長因子、接着因子など)、助剤、安定化剤、乳化剤、溶解補助剤、浸透圧調整剤、pH調整剤、緩衝剤、等張化剤、保存剤、無痛化剤、着色剤、賦形剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤等を適宜配合することができる。
【0043】
また、本発明の薬剤は、細胞生物学分野における試験試薬として使用することもできる。例えば、本発明の薬剤は、細胞生物学分野における実験において、CD44の切断を誘導するための試薬として利用することができる。
【0044】
本発明のCD44切断誘導剤は、CD44の切断の誘導を目的とするするものであるから、CD44の切断の誘導が望まれる細胞やこれを含む組織や臓器に対して適用することができる。CD44の切断の誘導が望まれる細胞としては、例えばCD44が切断されるべきであるにもかかわらず切断されないような状態にある細胞や、細胞生物学分野における実験において、CD44の切断を誘導する必要がある細胞等が例示される。
【0045】
本発明の薬剤を動物に投与する場合、これが投与される動物は、脊椎動物、特に哺乳動物が好ましく、とりわけヒトが好ましい。
【0046】
本発明の薬剤は、CD44の切断の誘導が望まれる疾患、CD44の切断の抑制もしくは阻害に起因する疾患の予防、進行抑制(悪化防止)、症状の改善または治療等を目的として投与することができる。
【0047】
ここで、CD44の切断の誘導が望まれる疾患、CD44の切断の抑制もしくは阻害に起因する疾患の具体例としては、関節炎が挙げられる。本明細書中上記した通り、CD44シェディング誘発物質により関節炎治療効果があること(非特許文献2)、並びにCD44シェディングを誘発する抗CD44抗体の投与により関節炎の治療効果が見られること(非特許文献3)が報告されている。従って、CD44の切断を誘導する活性を有する本発明の薬剤は、関節炎の治療剤として使用することができる。
【0048】
関節炎としては、慢性関節リウマチ又は変形性関節症による関節炎等が挙げられる。従って、本発明の薬剤は、特に、関節炎治療剤として使用することができる。本発明の薬剤は、特に慢性の関節炎の治療に有効であり、具体的には、CD44が高発現している関節炎の治療のために使用することができる。
【0049】
本発明の薬剤における低分子量コンドロイチン硫酸又はその薬学的に許容される塩の配合量、1回あたりの投与量、投与間隔等は、本発明の薬剤の投与方法、投与形態、使用目的、患者の具体的症状、年齢、性別、体重等に応じて個別に決定されるべき事項であり、特に限定されない。本発明の薬剤の投与量は、投与される患者の年齢、体重、病態等に応じて、適宜設定することができ、例えば、有効成分の量として、1μg/kg/日〜10mg/kg/日、好ましくは100μg/kg/日〜10mg/kg/日、より好ましくは、1mg/kg/日〜8mg/kg/日とすることができる。本発明の薬剤の投与間隔は、1日1回程度でもよく、1日2〜3回に分けて投与することもできる。
【0050】
以下の実施例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例】
【0051】
実施例1:コンドロイチン硫酸E(CSE)フラグメントの調製方法
(1)粗精製CSEの調製
スルメイカより得られた軟骨800gをチョッパーにて細断し、水を加えた後、炭酸ナトリウム17.5g、エスペラーゼ(ノボノバルティス社)5gを加えて液量を1Lとした。水酸化ナトリウムにてpH11に調整し、45℃で一晩酵素消化を行った。
酵素消化液にろ過助剤を加えてろ過を行った後、ろ液を減圧濃縮機で500mlまで濃縮した。
【0052】
得られた濃縮液に0.5Nとなるように水酸化ナトリウムを添加し、30℃で1時間反応させた。反応液に適当量のエタノールを滴下して沈殿させた。沈殿物が十分沈んだのを確認して上清をカットした。
沈殿物を水で溶解した後、塩酸にてpHを6.0に調整し、液量を300mlとした。この溶液に沈殿の生成を確認しながら適当量のエタノールを加えた。沈殿物が十分沈んだのを確認した後、上清をカットした。沈殿物はエタノールで洗浄後、ろ過により沈殿物を集め乾燥することにより粗CSE画分を20gを得た。
【0053】
(2)精製CSEの調製
得られた粗精製画分10gを0.1Mトリス塩酸緩衝液(pH8.0)200mlに溶解し、アクチナーゼE(科研製薬製)100mgを加えて55℃で一晩酵素反応を行った。
分解後水酸化ナトリウムを加えて0.5N溶液とし、30℃で1時間反応した。反応後適当量のエタノールを滴下して沈殿させた。沈殿物が十分沈んだのを確認し上清をカットした。
【0054】
沈殿物は水200mlに溶解後、酢酸ナトリウムを3%になるように添加しさらにpHを4.8に調整した。この溶液に沈殿物の生成を確認しながらエタノールを加えた。沈殿物が十分沈んだのを確認した後上清をカットした。
沈殿物を水200mlに溶解後、pHを4.8に調整し、活性炭2gを加えて50℃、1時間反応した。反応液にろ過助剤を加えてろ過を行った後、酢酸ナトリウムを3%となるように添加してpHを5.0とした。この液に適当量のエタノールを加えて沈殿した。沈殿物はエタノールで洗浄後、ろ過により回収した後、真空乾燥機で乾燥した。これにより精製CSE(90kDa)7gを得た。
【0055】
(3)CSEフラグメントの調製
精製CSE1gをPBS(pH5.3)50mlに溶解した。この液に羊睾丸ヒアルロニダーゼ(シグマ社)10万Uを加え37℃で一晩反応した。反応液を陰イオン交換樹脂Dowex1X2(ダウケミカル社)を充填したカラムにアプライした。カラムは1M NaCl溶液で洗浄した後1M〜3.5M NaCl溶液のグラジエントにより溶出し、溶出液をフラクションコレクターで分取した。得られた画分をカルバゾール法にて分析した。カルバゾール法で発色の見られた画分をGPC用カラムG4500PWXL、G3000PWXL及びG2500PWXL(東ソー社)の3本を連結したHPLC装置により各画分のCSE分子量を測定した。分子量算出には分子量既知の標準コンドロイチン硫酸として1kDa、7kDa、10kDaのものを用いた。これらの画分の中から平均分子量2kDa、及び3kDaのものを集めた。この画分をセファテ゛ックスG25(アマシャムバイオサイエンス社)を充填したカラムにアプライし、脱塩処理を行った後、濃縮した。さらに30,000カットの限外ろ過フィルター(日本ミリポア社)にかけてエンドトキシンを除去し、凍結乾燥したものを以下の実験に使用した。
【0056】
実施例2:CD44切断アッセイ
MIA PaCa−2細胞を24ウエルのプレートに5x104 細胞/ウエルとなるように播種し、37℃で一晩培養した。その後、細胞を10 mM MG132中、37℃で30分間インキュベートすることによってCD44の細胞内ドメインの二次分解を防ぐことができる(J. Cell Biol., 155(5), p755−762, (2001))。細胞を、37℃、 10 mM MG132の存在下で、実施例1で調製した各種のCSEと共に1時間、又は100 ng/mlのPMAとともに30分間インキュベートし、細胞上清を採取して酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)に付した。細胞をSDSサンプルバッファー(2% SDS、10% グリセロール、0.1 M ジチオトレイトール、120 mM Tris−HCl(pH 6.8)、0.02% ブロモフェノールブルー)で溶解し、5分間ボイルした。同数の細胞から抽出した細胞溶解液を含有する等量のサンプルを、SDS−ポリアクリルアミドゲルで電気泳動し、PVDF膜に転写した。この膜を、3%BSAを含有するPBS中でブロッキングし、抗CD44cyto pAb又は抗b−チューブリンmAbと共にインキュベートした。抗CD44cyto pAbでインキュベートした膜についてはHRP結合抗ウサギIgGと共に、抗チューブリン mAbでインキュベートした膜についてはHRP結合抗マウスIgGと共にそれぞれインキュベートした。二次抗体は、ECL ウエスタンブロッティング検出試薬(Western blotting detection reagents;Amersham Biosciences)を用いて検出した。ELISAで分析する前に、刺激を与えた細胞の上清を0.22−mm Millipore filter (Millipore Co., Bedford, MA)で濾過した。培養上清中に存在する可溶性のヒトCD44H を、可溶性CD44H ELISA キット(Bender MedSystems, Vienna, Austria)を用いて、その説明書に従って定量した。上記したウエスタンブロッティングの結果を図1〜3に示す。
【0057】
図1は、細胞を処理しない場合、並びに細胞をPMA、6.9kDaヒアルロン酸、又は75kDa、10kDa若しくは5kDaのコンドロイチン硫酸で処理した場合の結果を示す。
【0058】
図2は、細胞を処理しない場合、並びに細胞をPMA、又は1kDa、2kDa、3kDa、4kDa若しくは6kDaのコンドロイチン硫酸で処理した場合の結果を示す。
【0059】
図3は、コンドロイチン硫酸の濃度を変えて細胞を処理した場合の結果を示す。
【0060】
図1〜図3の結果から分かるように、低分子量コンドロイチン硫酸を用いた場合にCD44に切断が誘導されることが示された。即ち、分子量10kDa、6kDa、5kDa、4kDa、3kDa、2kDa、及び1kDaのコンドロイチン硫酸を用いた場合にCD44の切断が誘導されている。中でも、分子量2kDa及び3kDaのコンドロイチン硫酸を用いた場合には、CD44の切断が高度に誘導されている。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】図1は、低分子量コンドロイチン硫酸のCD44切断能を示すウエスタンブロッティングの結果である。
【図2】図2は、低分子量コンドロイチン硫酸のCD44切断能を示すウエスタンブロッティングの結果である。
【図3】図3は、低分子量コンドロイチン硫酸のCD44切断能を示すウエスタンブロッティングの結果である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
低分子量コンドロイチン硫酸又はその薬学的に許容される塩を含む、CD44切断誘導剤。
【請求項2】
低分子量コンドロイチン硫酸が重量平均分子量10kD以下のコンドロイチン硫酸である、請求項1に記載のCD44切断誘導剤。
【請求項3】
低分子量コンドロイチン硫酸が重量平均分子量2〜3kDのコンドロイチン硫酸である、請求項1又は2に記載のCD44切断誘導剤。
【請求項4】
低分子量コンドロイチン硫酸が、ガラクトサミンの4位と6位が硫酸化されているE型コンドロイチン硫酸である、請求項1から3の何れかに記載のCD44切断誘導剤。
【請求項5】
低分子量コンドロイチン硫酸又はその薬学的に許容される塩を含む、関節炎治療剤。
【請求項6】
関節炎が、慢性関節リウマチ又は変形性関節症による関節炎である、請求項5に記載の関節炎治療剤。
【請求項7】
関節炎が慢性の関節炎である、請求項5又は6に記載の関節炎治療剤。
【請求項8】
CD44が高発現している関節炎の治療のために使用される、請求項5から7の何れかに記載の関節炎治療剤。
【請求項9】
低分子量コンドロイチン硫酸が重量平均分子量10kD以下のコンドロイチン硫酸である、請求項5から8の何れかに記載の関節炎治療剤。
【請求項10】
低分子量コンドロイチン硫酸が重量平均分子量2〜3kDのコンドロイチン硫酸である、請求項5から8の何れかに記載の関節炎治療剤。
【請求項11】
低分子量コンドロイチン硫酸が、ガラクトサミンの4位と6位が硫酸化されているE型コンドロイチン硫酸である、請求項5から10の何れかに記載の関節炎治療剤。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2006−327955(P2006−327955A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−150820(P2005−150820)
【出願日】平成17年5月24日(2005.5.24)
【出願人】(000002819)大正製薬株式会社 (437)
【Fターム(参考)】