説明

低原子価酸化チタン組成物、およびその製造方法

【課題】スパッタ時に異常放電が発生することがない低原子価酸化チタンドープ酸化亜鉛ターゲットを作製するのに好適な微粒の低原子価酸化チタン組成物、および該低原子価酸化チタン組成物を極めて安価に作製することが可能な製造方法を提供する。
【解決手段】X線回折プロファイルにおいて、チタンの原子価が4価より低い複数の低原子価酸化チタンのピークを有し、一次粒子径が50nm〜1μmである微粒子状の低原子価酸化チタン組成物であり、二酸化チタンと、カーボンとの混合物を、内圧上昇時に内部の気体を外部に放出できる機能を有する閉鎖系容器中において、大気気流中1000〜1500℃で焼成する工程を経て製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微粒子状の低原子価酸化チタン組成物およびその製造方法に関し、さらに詳しくは、安価に酸化亜鉛系透明導電性材料のドーパント源として利用できる微粒子状の低原子価酸化チタン組成物およびその量産可能な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
導電性と光透過性とを兼ね備えた透明導電膜は、これまでから、太陽電池、液晶表示素子、その他各種受光素子における電極などとして利用されているほか、自動車窓や建築用の熱線反射膜、帯電防止膜、冷凍ショーケース等における防曇用透明発熱体など、幅広い用途に利用されている。特に、低抵抗で導電性に優れた透明導電膜は、太陽電池や、液晶、有機エレクトロルミネッセンス、無機エレクトロルミネッセンスなどの液晶表示素子や、タッチパネルなどに好適であることが知られている。
【0003】
従来、透明導電膜としては、例えば、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)膜などの酸化スズ(SnO2)系の薄膜、アルミニウムドープ酸化亜鉛(AZO)膜などの酸化亜鉛(ZnO)系の薄膜、スズドープ酸化インジウム(ITO;Indium Tin Oxide)膜などの酸化インジウム(In23)系の薄膜などが知られている。
中でも、最も工業的に利用されているのは酸化インジウム系の透明導電膜であり、とりわけITO膜は、低抵抗で導電性に優れることから、幅広く実用化されている。
【0004】
しかし、ITO膜の如き酸化インジウム系の透明導電膜は、その必須原料であるIn(インジウム)が、希少金属であるため高価で且つ資源枯渇のおそれがあり、しかも毒性を有し環境や人体に対して悪影響を及ぼす可能性がある。そのため、近年、ITO膜に代替し得る工業的に汎用可能な透明導電膜が要望されている。そのような中、スパッタリング法による工業的製造も可能である酸化亜鉛系透明導電膜が注目されており、その導電性能を高めるべく研究が進められている。
【0005】
非特許文献1には、導電性を高めるべくZnOに種々のドーパントをドープさせる試みが報告されている。
【0006】
また、本発明者らは、酸化チタン(II)、酸化チタン(III)等の低原子価酸化チタンが酸化亜鉛系透明導電膜に有効なドーパントであることを新規に見出している。この低原子価酸化チタンをドープした酸化亜鉛系透明導電膜は、低抵抗を実現し、化学的耐久性に優れ、太陽電池用透明導電膜に好適な近赤外領域の高透過性という特長を有している。
【0007】
このような酸化亜鉛系透明導電膜に用いるドーパントには、TiO(II)、Ti23(III)、Ti611、Ti59、Ti815などの低原子価酸化チタンが用いられるが、現在までのところ、微粒子状の酸化チタン(II)、酸化チタン(III)などの低原子価酸化チタンは、工業的規模では得られていない。これは、以下に示すように、二酸化チタン(TiO2)を還元して微粒子状の低原子価酸化チタンを工業的に製造することが難しいことに基づいている。
【0008】
これまでの低原子価酸化チタンを工業的に製造するための二酸化チタン(TiO2)の還元方法として、次の(A)〜(D)の各種方法が知られている。
(A)二酸化チタン粉体を水素気流中で高温焼成する水素還元法(例えば、特許文献1参照)。
(B)二酸化チタン粉体をアンモニア(+水素)気流中で高温焼成するアンモニア還元法(例えば、特許文献2参照)。
(C)金属チタン粉体と二酸化チタン粉体を均一に混合した後、還元雰囲気で高温焼成する金属チタン粉体との均一化反応(例えば、特許文献3参照)。
(D)二酸化チタンを水素化ホウ素ナトリウムなどの水素化物と共に還元焼成する方法(例えば、特許文献4参照)。
【0009】
しかしながら、これらの方法は、それぞれ下記のような問題点を有している。
(A)水素還元法では、水素気流中高温で還元処理するため、安全性面での問題が大きく、製造プロセスとして高価となる。
(B)アンモニア還元法では、高温雰囲気で分解反応により生成するアクティブな水素、窒素、ラジカルによる還元処理方法であるため、その還元処理により生じる酸素空孔が窒素に置換された、酸窒化チタン(TiOXY)が生成する。また、アンモニアの分解が約500℃から開始されるため、その生成物は、未還元の二酸化チタンとの混合物となる。そのため、低原子価酸化チタンと酸窒化チタンとの混合物となることを避けられない。
(C)金属チタンとの均一化反応では、超微粒子状の二酸化チタン粉体を入手することは可能であるが、金属チタンは二酸化チタン粉体に比べて大きい粒子径のものしか得られないため、結果的に微粒子状の一酸化チタンを得ることが難しい。
(D)水素化物による還元反応では、気体の水素と比較して取り扱い性に優れた水素化物を用いるため、安全性は高いものの、数百℃程度から水素化物の分解が始まるため、還元力が弱く、そのため、還元して得られた低原子価酸化チタンと未還元の二酸化チタンとの混合物となることが避けられない。
【0010】
また、上記(A)〜(D)のいずれの方法も、雰囲気を還元雰囲気にする必要があり、高コストプロセスになってしまうという問題点もある。
従って、工業的規模で微粒子状の低原子価酸化チタンを得ることは難しく、微粒子状の低原子価酸化チタン組成物を工業的規模で製造することはいまだ行われていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開昭61−56710号公報
【特許文献2】特開平5−25812号公報
【特許文献3】特開昭59−199530号公報
【特許文献4】特開平5−193942号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】月刊ディスプレイ、1999年9月号、p10〜「ZnO系透明導電膜の動向」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
前記した低原子価酸化チタンをドーパントとして用いた酸化亜鉛系透明導電膜は、酸化亜鉛粉と低原子価酸化チタンを膜原料としたターゲット(焼結体)を用いて各種真空プロセス(スパッタリング法、イオンプレーティング法、パルスレーザー堆積(PLD)法、エレクトロンビーム(EB)蒸着法など)で作製される。
しかし、膜原料である酸化亜鉛粉と従来の製造方法で得られる低原子価酸化チタンを焼結すると、酸化亜鉛粉の一次粒子径は数十nmのナノ粒子から1μm程度であるのに対して、従来の製造方法で得られる低原子価酸化チタンの一次粒子径は少なくとも10μm以上であり、双方の一次粒径のオーダーが異なるため、膜原料が均一に固相焼結しない。そのため、焼結して得られるターゲットには、焼結密度が低いため生成する空孔が存在してしまう。
このような焼結密度が低く空孔が存在するターゲットを用いたスパッタリングでは、ターゲットを含む放電系のインピーダンスがスパッタリング中に変動することに起因して発生するため、スパッタリング装置内で異常放電が多発し、酸化亜鉛系透明導電膜を安定に成膜するのが困難であった。
この異常放電を抑制するには、膜原料を均一に固相焼結し、空孔の生成を抑制する必要があり、そのためには、酸化亜鉛粉と低原子価酸化チタンの一次粒子径ができるだけ差がない、すなわち同じサイズであることが好ましい。
【0014】
そこで、本発明の課題は、スパッタ時に異常放電が発生することがない低原子価酸化チタンドープ酸化亜鉛ターゲットを作製するのに好適な微粒子状の低原子価酸化チタン組成物と、該酸化チタン組成物を安価に、工業的レベルで作製することが可能な製造方法とを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、上記問題を解決すべく種々検討した結果、本発明を完成するに到った。
【0016】
すなわち、本発明は、以下の構成からなる。
(1)X線回折プロファイルにおいて、チタンの原子価が4価より低い複数の低原子価酸化チタンのピークを有し、一次粒子径が50nm〜1μmであることを特徴とする、微粒子状の低原子価酸化チタン組成物。
(2)一般式:TiO2-X(X=0.1〜1)で表される複数の低原子価酸化チタンの混合物からなる前記(1)に記載の低原子価酸化チタン組成物。
(3)TiO(II)、Ti23(III)、Ti35、Ti47、Ti611、Ti59およびTi815からなる群より選ばれる少なくとも2種の酸化チタンの混合物からなる前記(1)または(2)に記載の低原子価酸化チタン組成物。
(4)二酸化チタンと、カーボンとの混合物を、内圧上昇時に内部の気体を外部に放出できる機能を有する閉鎖系容器中において、酸素含有ガス気流中1000〜1500℃で焼成する工程を含む、前記(1)〜(3)のいずれかに記載の微粒子状の低原子価酸化チタン組成物を製造することを特徴とする低原子価酸化チタン組成物の製造方法。
(5)前記カーボンが、粒径50nm〜150μmのカーボン粉である(4)に記載の低原子価酸化チタン組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明の低原子価酸化チタン組成物を用いると、スパッタリング法、イオンプレーティング法、PLD法、EB蒸着法等によって異常放電の発生がなく、安定に成膜をすることができるターゲットを作製することが可能になる。
また、本発明の製造方法によれば、上記低原子価酸化チタン組成物を安価に作製できるという利点も有するので、工業的規模で製造(量産)することが可能となり、工業的に極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】(a)は実施例1で得られた酸化チタンのX線回折測定結果を示した図であり、(b)は、上から該測定結果、Ti611、Ti59、Ti815のそれぞれのピークリストを示した図である。
【図2】実施例1で得られた酸化チタンの同定パターンリストである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態を詳細に説明するが、本発明の要旨を外れない限り、本発明は以下の記載により制限を受けるものではない。
【0020】
本発明の低原子価酸化チタン組成物は、X線回折プロファイルにおいて、複数の低原子価酸化チタンのピークを有し、一次粒子径が所定範囲のものであり、二酸化チタン(IV)とカーボンとの混合物を、所定の閉鎖系容器中で、所定条件のもとで焼成する、カーボンによる二酸化チタンの還元工程を経て得られる。
【0021】
出発原料となる二酸化チタン(IV)としては、アナターゼ型二酸化チタン、ルチル型二酸化チタン、アモルファス二酸化チタンなどのいずれも用いることができるが、反応性の高さから、特にアナターゼ型二酸化チタンおよびアモルファス二酸化チタンのいずれか、またはそれらの混合物を用いるのが好ましい。
【0022】
二酸化チタンの粒子径は、特に限定されないが、粒径の小さい微粒子状の低原子価酸化チタン組成物を得るには、二酸化チタンも粒径の小さいものほど好ましく、例えば、レーザー回折・散乱法等による粒度分布の測定から平均一次粒子径で1μm以下のものが好ましく、また、取扱い性を考慮すると、上記のような平均一次粒子径が50nm以上で800nm以下のものが好ましい。
【0023】
また、本発明におけるカーボンとしては、カーボンからなるものであればよく、例えば、カーボンブラック、カーボンダイヤモンド、グラファイト、ロンズデーライト、フラーレン、無定形炭素(活性炭、カーボンブラック)、カーボンナノチューブ、グラフェン、カーボンファイバー等のカーボンが主成分である材料であれば、いずれも適用可能である。なかでも、安価に入手可能な無定形炭素(活性炭、カーボンブラック)、黒鉛等を用いるのが好ましい。
【0024】
カーボンは、粉末状態であるものが好ましく、粒径が50nm〜150μm、好ましくは100nm〜100μm、より好ましくは200nm〜50μmであるのがよい。粒径が小さすぎると、取り扱い性が悪くなるので、上記範囲内となる適度な粒径であることが望ましい。
また、粒径が150μmを超える粒状のカーボンを用いることは好ましくない。粒状のカーボンを使用しても二酸化チタンの還元反応を進行させることは可能であるが、二酸化チタンを十分に被覆することができないため、一部空気に触れて二酸化チタンを十分に還元できないおそれがあるためである。
上記粉末状態のカーボンの粒度分布は特に指定はないが、すべて上記粒径範囲になくても、その80質量%以上、特に90質量%以上が上記範囲内にあればよい。
【0025】
本発明では、上記二酸化チタンとカーボンとをあらかじめ混合する。使用する二酸化チタンは、粉状であってもよいが、カーボン粉末との分離を容易に行ううえで、二酸化チタン粉末をあらかじめ加圧などによって所定の形状に成形しておくのが好ましい。形状は、錠剤型など任意な形状であればよい。また、成形物の大きさもカーボン粉末で覆うことができる程度の大きさであれば、特に制限されない。
【0026】
二酸化チタンに対するカーボンの混合割合は、還元力に影響を与えるため、カーボンで二酸化チタンをできるだけ覆うように、重量比で二酸化チタン:カーボン=1:10〜1:1000であるのがよい。カーボンの混合量が少なすぎると、充分に二酸化チタンの還元反応が進行せず目的とする低原子価酸化チタン組成物が得られにくくなるおそれがあり、カーボンの混合量が多すぎると、二酸化チタンの還元反応がいきすぎ、金属チタンが生成したり、未反応のカーボンが残存したりすることになり、経済的でなくなるおそれがある。
【0027】
混合物におけるカーボンの混合割合が上記範囲内であれば、カーボンで二酸化チタンを十分被覆できるので、二酸化チタンの還元反応の際、カーボンは、還元反応または空気中の酸素と反応することによって消費されるが、二酸化チタンの還元反応終了後も十分酸化チタンを被覆されている量が存在すればよい。なお、予め、カーボンが還元反応によって消費されることを想定して多量に加えておくことが好ましい。このようにすることによって、大気中で焼成しても、二酸化チタンは酸化されずに、低原子価酸化チタンを作製することが可能になる。そのため、通常の大気雰囲気の炉で、カーボン粉を二酸化チタン(IV)で緻密に覆うことによって、大がかりな不活性雰囲気炉やで還元性ガスを用いずに二酸化チタン(IV)を還元できるので、低コストで低原子価酸化チタンを製造することが可能となる。
【0028】
本発明では、混合物を反応容器に入れて二酸化チタンの還元反応を進行させる。反応容器としては、容器内部の圧力が上昇したときに容器内部の気体を外部に放出して容器内部の圧力を下げる機能を有する閉鎖系容器を使用するのがよい。このように、内圧上昇時に容器内部の気体を外部に放出する機能を有する閉鎖系容器を用いるのは、カーボンによる二酸化チタンの還元反応が始まると急激に反応が進行し、それに伴って温度が上昇して、容器内部の気体が膨張し、それによって、容器の破裂が生じて危険を招くおそれがあることから、容器内部の圧力が上昇したときに容器内部の気体を外部に放出して容器内部の圧力を下げ、安全性を確保するためである。
なお、二酸化チタンの還元反応中に閉鎖系容器内に発生する気体は、後述する還元メカニズムの考察により、主として二酸化炭素および一酸化炭素であると考えられる。
【0029】
また、閉鎖系容器は、反応物が積極的に大気中の酸素と反応して、還元され生成した低原子価酸化チタンが、さらに酸化され、元の二酸化チタンに戻ることを防ぐ機能、すなわち閉鎖系容器内への酸素の流入を抑制する機能を有する。
閉鎖系容器における閉鎖系とは、完全に密閉化していてもよいし、また、完全に密閉化されていなくても、大気に触れるのをある程度抑制できればよいという意味であり、また、必要時に閉鎖系になっていればよいという意味であって、当然、混合物の充填や反応物の取出しにあたっては、その閉鎖系が解除できるものである。
このように、本発明では、混合物を焼成する工程において、閉鎖系容器中でカーボンが二酸化チタン(IV)を緻密に覆い、かつ閉鎖系容器により容器内への酸素の流入を抑制できるので、大気中で混合物を焼成しても、還元された二酸化チタンがさらに酸化されるのを防ぐことができる。
【0030】
本発明における焼成は、混合物が充填された所定の閉鎖系容器を、焼成炉内に入れて行なう。焼成炉としては、特に限定されず、例えば、電気炉など各種焼成炉が挙げられる。
低原子価酸化チタン組成物を生成させるための焼成温度、すなわちカーボンによる二酸化チタンの還元反応(以下、簡略化して、「上記還元反応」または「還元反応」という場合がある)時の温度は、1000℃以上1500℃以下、好ましくは1100℃以上1400℃以下であるのがよい。焼成温度が1000℃より低いと、カーボンの還元作用が発現しないおそれがあり、焼成温度が1500℃より高いと、焼結が進んで緻密化し、得られた低原子価酸化チタンは機械的粉砕では解砕することができず、微粒子が得られなくなるとなるおそれがある。
焼成時間、すなわち還元反応時間は、焼成温度や二酸化チタンの量などによって適宜調整すればよく、通常30分〜4時間、より好ましくは1時間〜2時間程度であるのがよい。
【0031】
還元メカニズムとしては、カーボンが直接、二酸化チタン(IV)と反応して、二酸化チタン(IV)を還元し、カーボンは二酸化炭素となる反応と、カーボンが大気中の酸素に酸化され、生成した一酸化炭素が酸化チタン(IV)と反応して、二酸化チタン(IV)を還元する反応との2種類の反応が主に進行していると考えられる。
また、後者の反応は、一酸化炭素の還元能力を利用しており、カーボンを一酸化炭素にするために、大気雰囲気で行う必要がある。
【0032】
得られた反応物は、反応容器から取り出し、最終的には室温まで冷却した後、カーボンと低原子価酸化チタンを分離する。
カーボンと低原子価酸化チタンを分離する方法としては、特に限定されず、例えば、二酸化チタンを錠剤状とした混合物を用いた場合には錠剤を選択的に取り出す方法;篩による方法;乾燥機に送風した気流により微粉を分離しサイクロン、バッグフィルターなどで回収する風力分級による方法などが挙げられる。
【0033】
分離した低原子価酸化チタンは、粉砕処理が施されてもよい。
粉砕処理する方法としては、後述する低原子価酸化チタンの一次粒子径の範囲内に粉砕することができれば特に限定されず、例えば、粉砕機としては、例えば、メディアを使用する場合、ビーズミル、ボールミル、遊星ミル、サンドグラインダー、振動ミルまたはアトライター等の装置を備えた粉砕機による方法、メディアを使用しないジェットミル、ナノマイザー、スターバースト等の湿式超高圧微粒化装置による方法などが挙げられる。
【0034】
このようにして、得られた低原子価酸化チタンは、X線回折プロファイルにおいて、複数の低原子価酸化チタンのピークを有する。
前記した低原子価酸化チタンとは、TiO2(IV)は含まれず、TiO(II)、Ti23(III)という整数の原子価を有するものばかりでなく、Ti35、Ti47、Ti611、Ti59、Ti815等も含む、一般式TiO2-X(X=0.1〜1)で表される範囲のものである。
本発明における低原子価酸化チタンは、一般式TiO2-Xの化学式で表される新規な低原子価酸化チタンである。この低原子価酸化チタンの結晶構造は、X線回折装置(X-Ray Diffraction、XRD)、X線光電子分光装置(X-ray Photoelectron Spectroscopy、XPS)などの機器分析の結果によって確認することができる。
【0035】
本発明において、その対象を微粒子状の低原子価酸化チタン組成物としているのは、チタンの原子価が等しい酸化物のみからなる単成分酸化物でなく、チタンの原子価が異なる酸化物の混合物、すなわち低原子価酸化チタンの混合物であるからである。
【0036】
本発明の低原子価酸化チタン組成物の一次粒子径は、レーザー回折・散乱法による粒度分布の測定から50nm〜1μm、好ましくは100nm〜700nmのサイズである。一次粒子径が50nmよりも小さい場合は、原料である二酸化チタンの一次粒子径を50nmより小さくする必要があり、カーボンによる還元反応の工程において二酸化チタンの焼結が進行し緻密化するため、機械的粉砕等で砕くことも不可能な実質的に粗大粒子である焼結体となってしまう。そのため、本発明では、一次粒子径を50nmより小さい微粒子状の低原子価酸化チタンを得ることはできない。
一次粒子径が1μmより大きいと、ドーパントとして用いた際に、焼結して得られるターゲット(焼結体)の焼結密度が低下するおそれがある。
一次粒子径が上記範囲内であれば、機械的粉砕が可能となる。
【0037】
本発明の低原子価酸化チタン組成物は、スパッタ時に異常放電が発生することがない低原子価酸化チタンドープ酸化亜鉛系透明導電膜ターゲットを作製するのに、好適な微粒であり、上述したように二酸化チタンを原料として極めて安価に、工業的レベルで製造することできる。
また、本発明の低原子価酸化チタンは、黒色顔料として黒色の塗料や、液晶カラーフィルターのブラックマトリクス(BM)等にも好適に用いられる。
【実施例】
【0038】
つぎに、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は実施例に例示のものに限られることはない。
【0039】
実施例および比較例における各物性の測定については、以下の方法で行った。
【0040】
(比表面積)
比表面積は、日本ベル(株)製の「BELSORP−mini」を用い、窒素吸着法により測定した。
【0041】
(X線回折分析)
X線回折プロファイルを求めるためのX線回折分析は、スペクトリス(株)製のX線回折装置「X'Pert PRO」(商品名)により、CuK痾線を用いて印加電圧45kV,印加電流40mAで、θ−2θ法で行った。
【0042】
(一次粒子径測定)
低原子価酸化チタンの一次粒子径は、マイクロトラック粒度分布計(日機装(株)製の「MT−3000II」)にて、低原子価酸化チタンをヘキサメタリン酸ナトリウム溶液中に入れ、ホモジナイザで10分間分散した試料にレーザー光線を照射し、その回折(散乱)を測定して求めた。
【0043】
(実施例1)
比表面積の測定値から粒径換算した平均一次粒子径370nmのルチル型二酸化チタン(和光純薬工業(株)製)20gを金型に入れ、1MPaで軽く加圧し、直径30mmで厚み10mmの円盤型の錠剤を得た。
該円盤型の錠剤20gと、活性炭〔大平化学産業(株)製、平均粒径20〜30μm〕100gをステンレス鋼製容器に入れ、該容器を電気炉に入れた後、大気雰囲気中、1200℃で2時間加熱処理を行った。
加熱処理後、室温まで自然放冷を行った。その後、錠剤を取り出し、該錠剤と2mmΦジルコニア製ボールと溶媒としてエタノールを入れ、錠剤の粉砕を行い、粉末状の酸化チタンを得た。次いで、得られた酸化チタンのX線回折プロファイルを求めた。その結果を図1および図2に示す。
【0044】
なお、上記ステンレス鋼製容器は、加熱により容器内部の気体が膨張して圧力が上昇したときに、フタがその圧力によって持ち上がり、容器内部の気体を外部に放出し、容器内部の圧力が低下すると、フタの自重で容器本体を覆うので、内圧上昇時に容器内部の気体を外部に放出できる機能を有する閉鎖系容器である。
【0045】
図1(a)実施例1で得られた酸化チタンのX線回折測定結果を示した図であり、(b)は、上から該測定結果、Ti611、Ti59、Ti815のそれぞれのピークリストを示した図である。図2は、実施例1で得られた酸化チタンの同定パターンリストである。
図1および図2のX線回折プロファイルに示すように、実施例1の酸化チタン組成物は、Ti611、Ti59、Ti815の混合物、すなわち低原子価酸化チタン組成物であることが確認された。
また、上記のようにして得られた実施例1の低原子価酸化チタン組成物の一次粒子径を測定したところ、0.5μmであった。
【0046】
粒子サイズも小さく(0.5μm)、低原子価酸化チタン組成物を大気雰囲気にて、活性炭を用いるという極めてシンプルかつ安価な方法で得ることができた。酸化亜鉛のドーパントとして好適な粒子サイズであった。
【0047】
(比較例1)
比表面積の測定値から粒径換算した平均一次粒径340nmのルチル型二酸化チタン(和光純薬工業(株)製、平均粒径0.37μm)10gを金型に入れ、1MPaで軽く加圧し、円盤型の錠剤を得、該円盤型の錠剤をステンレス鋼製容器に入れた他は実施例1と同様にして、粉末状の酸化チタンを得た。
大気中で焼成のため、ルチル型二酸化チタンのままで変化なかった。
【0048】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を外れない限りにおいて、種々の改良や変更が可能であることはいうまでもない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線回折プロファイルにおいて、チタンの原子価が4価より低い複数の低原子価酸化チタンのピークを有し、一次粒子径が50nm〜1μmであることを特徴とする、微粒子状の低原子価酸化チタン組成物。
【請求項2】
一般式:TiO2-X(X=0.1〜1)で表される複数の低原子価酸化チタンの混合物からなる請求項1に記載の低原子価酸化チタン組成物。
【請求項3】
TiO(II)、Ti23(III)、Ti35、Ti47、Ti611、Ti59およびTi815からなる群より選ばれる少なくとも2種の酸化チタンの混合物からなる請求項1または2に記載の低原子価酸化チタン組成物。
【請求項4】
二酸化チタンと、カーボンとの混合物を、内圧上昇時に内部の気体を外部に放出できる機能を有する閉鎖系容器中において、酸素含有ガス気流中1000〜1500℃で焼成する工程を含む、請求項1〜3のいずれかに記載の微粒子状の低原子価酸化チタン組成物を製造することを特徴とする低原子価酸化チタン組成物の製造方法。
【請求項5】
前記カーボンが、粒径50nm〜150μmのカーボン粉である請求項4に記載の低原子価酸化チタン組成物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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