説明

低弾性率材を利用した制振体

【課題】ガラスなどの脆性材を耐震壁として利用できるようにすると共に、振動の吸収エネルギーを大きくする。
【解決手段】ガラス板1の下辺の角に穴2を形成してブッシュ3を嵌め込み、L型の固定板5で両側から挟み、ピン6でガラス板を回転可能に固定する。ガラス板1の離れた角には、粘弾性体7をガラス板両面に接着し、断面L型の固定板9でガラス板1を保持する。ガラス板の上辺部は水平変位に伴う構造体の変形によってもガラス板1に曲げ等が作用しないように、スリット穴10を形成した保持板とピンで固定してある。地震が作用すると板ガラス1はピン6を回転中心として回転し、粘弾性体7が剪断変形し、振動エネルギーを熱エネルギーに変換して吸収するので振動が減衰される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物に設置する制振体に関し、特に低弾性率の材料、または、脆性材料、例えばガラスからなる板状の部材を制振体として利用して大きな制振効果を得ようとするものである。
【背景技術】
【0002】
耐震性を向上させるためには、柱梁の断面を大きくし、耐震壁を設けて開口部を少なくすることが簡単な解決法である。
制振壁の制振作用を大きくすると共に、地震時においても壁が破損しないようにPC板を壁体として靭性の大きな繊維補強モルタルを介在させて設置し、繊維補強モルタルの剪断変形によって振動エネルギーを吸収することが提案されている。
更に、建築物の意匠を重視し、開口部を多く取りながらも耐震性能を向上させるため、特許文献1(特開2001−193357号公報)及び特許文献2(特開2002−309798号公報)に示されるように、窓を構成するガラスを粘弾性体(VISCO ELASTIC MATERIAL)で保持し、粘弾性体に振動エネルギーを吸収させることによって耐震性能を向上させることが提案されている。
【特許文献1】特開2001−193357号公報
【特許文献2】特開2002−309798号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
脆性材料であるガラスを制振体として利用するものとしては、図4に示されるように板ガラスの上下辺を粘弾性体で包囲して支持するのが一般的であり、また、板ガラスの上下辺に粘弾性体を金具を介して取り付けて固定するということも提案されている。しかし、振動エネルギーの吸収は粘弾性体の剪断変形量に応じてなされるものであるが、四角形のガラスの辺を粘弾性体で保持するだけでは、層間変位に基づく剪断変形しか期待できず、粘弾性体によるガラス体周囲の単純な支持方式では大きな制振効果は得られなかった。
そこで、本発明は、ガラスなどの低弾性率の材質の部材を使用した場合において、より大きな制振効果が得られるようにするものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の基本的な考え方は、ガラスなどの板状体の下辺の角部を回転可能に支持し、支持点から離れた位置で板状体を粘弾性体で保持するものである。必要に応じて、板状体の他の辺も粘弾性体で保持するが、基本的には回転可能に支持することと、回転中心から離れた位置の板状体の辺の部分を粘弾性体で保持することである。
【0005】
こうすることによって、地震等の振動によって板状体に力が加わると、回転支持点を中心にガラス板が回転するので、この回転力をガラス板を保持する粘弾性体の剪断変形によって熱エネルギーに変換して振動エネルギーを吸収するものである。
したがって、回転中心より遠い方が粘弾性体の変形量が大きくなって消費されるエネルギーが大きくなるため、許す限り回転中心より遠い位置に粘弾性体を設けてガラス板を保持することが好ましいことになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明を図示する実施例に基づいて説明する。
図1に示すように、低弾性率の材料として建築物の窓に一般に使用される強化ガラス板を板状体として使用した例である。
【0007】
ガラス板1は強化ガラスであり、900×2400mm、厚さ12mmの板状体である。図1、図2及び図3に示すように、このガラス板の下辺の角にφ27mmの穴2を形成し、樹脂製のブッシュ3を嵌め込んである。ガラス板の両面に厚さ1mmのフッ素樹脂シート4を接着し、ガラスにあけた穴2に対応する位置に穴を設けた断面L字型のステンレス製の固定板5を両側に配置し、この穴2にステンレス製のピン6を挿入してガラス板1がピン6を中心に回転できるように固定すると共に、固定板5の水平部は床面に固定する。ガラス板1の下辺と床面の間には空間が生じるので、必要に応じて粘弾性体又は弾性体を設置する。
【0008】
ピン6で回転可能に固定した部分から離れたガラス板1の角には、厚さ5mmまたは10mmの粘弾性体7(住友3M社製ISD112)100×200mmをガラス板1を両面から挟むように配置してある。粘弾性体7の上側に厚さ6mmのアルミプレート8を配置し、床面に固定した断面L型のステンレス製の固定板9とアルミプレート8をネジで固定してガラス板1を保持してある。
ガラス板1の上辺部には、地震等の振動による水平変位に伴う構造体の変形によってもガラス板1に曲げ等が作用しないように、スリット穴10を形成してピンで保持してある。
【0009】
建物に地震等によって振動力が負荷されると、上下の梁が層間変位して水平方向に変形し、ガラス板1はピン6を回転中心として回転すると、回転中心から離れた位置に設置した粘弾性体が剪断変形し、振動エネルギーを熱エネルギーに変換して吸収するので振動が減衰されることになる。
【0010】
このガラス制振壁の振動に対する減衰効果を6×6mの木造架構のモデルに、震度6及び震度5程度の地震における制振効果を、ガラス制振壁が1〜3個設けた場合について検討したところ、最大応答変位が、制振壁が1枚の場合で最大55%にまで減衰した。また、制振壁が3枚の場合は、33%にまで最大応答変位が減衰した。
【産業上の利用可能性】
【0011】
以上説明したように本発明の制振壁構造では、ガラス等の低弾性材の板体の下端を回転可能に支持し、支持点より離れた位置粘弾性体を設けて保持したので、地震時に比較的変形が大きい木造建物に適用することによって大きな制振効果が得られ、大地震時において木造建物が重大な被害を受けることを防止することができる。また、地震時にガラスに作用する荷重を制御することができるので、ガラスの破壊を防止することができる。
したがって、従来、開口を多くすると耐震力に劣るとされていたため、建築物の意匠が制限されることがあったが、窓ガラスを耐震壁として利用することできるので、建築物の意匠の自由度が大きくなると共に、開口を多くして、採光が十分取れるので明るい居室を提供することができ、外観においても開放的な印象を与えることとなる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明のガラス制振壁の概念図。
【図2】ガラス制振壁の固定部の詳細図。
【図3】ガラス制振壁の粘弾性体保持部の詳細図。
【図4】従来のガラス利用の制振体。
【符号の説明】
【0013】
1 ガラス板
2 穴
3 ブッシュ
5、9 固定板
6 ピン
7 粘弾性体
8 アルミプレート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
低弾性率材もしくは脆性材料の板状体の下側角部を回転可能に支持し、この支持点から離れた部分を粘弾性体を介して保持した制振体。
【請求項2】
請求項1において、板状体がガラスである制振体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−226065(P2006−226065A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−44224(P2005−44224)
【出願日】平成17年2月21日(2005.2.21)
【出願人】(592040826)住友不動産株式会社 (94)
【Fターム(参考)】