説明

低温殺虫装置、方法、およびこれらの被処理物

【課題】従来の低温殺虫処理においては、低温貯蔵後に被処理物を低温貯蔵庫から取り出す際に、該被処理物が低温状態で外気に触れて、表面に結露が生じ、被処理物が濡れてしまい、品質の低下を引き起こす場合があった。
【解決手段】害虫が混入する被処理物を貯蔵する低温貯蔵庫11と、該低温貯蔵庫11内を低温に冷却する冷却装置と、該低温貯蔵庫11内を加温する加温装置13とを備え、前記冷却装置により、害虫が混入する被処理物が貯蔵された低温貯蔵庫11内を冷却して、一定時間低温に保持し、前記加温装置13により、害虫が混入する被処理物が貯蔵された状態で一定時間低温に保持された後の低温貯蔵庫11内を、外気の露点温度付近の温度または露点温度以上となる温度にまで加温することで、被処理物に混入する害虫の殺虫処理を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農産物、食品、動物繊維、および植物繊維といったような、害虫が混入する被処理物に対して殺虫処理を行う低温殺虫装置、方法、およびこれらの被処理物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、貯蔵農産物や食品材料等の食品に混入する食品害虫を駆除する方法としては、加熱による殺虫方法、ガス剤や薬剤による殺虫方法、光線や放射線による殺虫方法等があり、これらの方法を実施するための装置が、それぞれ存在していた。
例えば、特許文献1に記載される害虫駆除装置においては、被処理物を60℃で40分加熱処理する例が記載されているが、このように農産物や食品を加熱すると、被処理物の形状や色が変化したり、含まれる栄養素に変性が生じたり、風味が劣化したりする場合があり、好ましい処理方法ではなかった。
【0003】
ガス剤や薬剤を用いた駆除装置では、駆除処理を行う容器を気密性のあるものに構成する必要があって、取り扱いが難しかったり、ガス剤や薬剤が外部に飛散したり、ガス剤や薬剤が被処理物に残留したりする場合があった。また、ガス剤や薬剤の種類や濃度によっては、被処理物に混入している害虫やその卵をすべて駆除できないこともある。
【0004】
光線や放射線による駆除方法では、光線や放射線の取り扱いを厳重に行う必要があるとともに、光線や放射線を被処理物に照射することにより副生成物が生じる恐れがある。
【0005】
このように、加熱処理や、ガス剤や薬剤を用いた処理や、光線や放射線による処理では、容易な処理で、被処理物の風味や品質などの商品価値を保ちつつ、害虫やその卵を効果的に殺虫することは難しかった。
【0006】
一方、近年においては、貯蔵農産物や食品等の風味や外観や品質を保ちつつ、害虫やその卵を殺虫する殺虫処理方法として、例えば、貯蔵農産物や食品等の被処理物を−30℃程度以下の低温に保持する処理を行うことで害虫やその卵の殺虫を行う、低温殺虫処理が行われるようになってきている。
この低温殺虫方法により殺虫処理を行うことにより、容易な処理で、貯蔵農産物や食品材料、および動植物繊維等の商品価値を低下させることなく、混入している害虫やその卵を殺虫することが可能となる。
【特許文献1】特開平11−155454号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述のように、貯蔵農産物や食品等の被処理物を低温に保持する処理は、該被処理物を−30℃程度以下の低温に温度設定した低温貯蔵庫内に一定時間の間貯蔵することで実現されるが、低温貯蔵後に被処理物を低温貯蔵庫から取り出す場合、該被処理物が低温状態で外気に触れると、被処理物の表面に結露が生じることとなる。
特に、外気と被処理物との温度差が大きかったり、外気湿度が高かったりした場合には、この結露水が甚だ多く発生し、被処理物の包装材料が濡れて柔らかくなったり、包装材料が痛んだりして、被処理物の商品価値が下がったり、積み上げられた被処理物の梱包が荷崩れを引き起こしたりすることがある。
また、麻袋や紙袋のような繊維でできている袋に包まれている被処理物については、発生した結露水が袋の内部に浸透し、内容物である被処理物が濡れてしまい、品質の低下を引き起こす場合があった。
【0008】
このような被処理物の表面への結露水の発生を防ぐためには、低温貯蔵庫内での低温貯蔵の一定時間が経過した後に、該低温貯蔵庫の低温保持を停止して、自然昇温により低温貯蔵庫内が外気温になるまで待ってから被処理物を取り出せばよいが、自然昇温にかかる時間が長時間に及ぶため、装置の稼働率が低下し、運用コストが高くなるという問題があった。
【0009】
また、被処理物の低温処理に用いられる低温貯蔵庫は定置固定されているため、被処理物の所有者自身が低温貯蔵庫を所有していない場合等、被処理物が低温貯蔵庫と離れた場所に在庫されているときには、処理物を低温貯蔵庫まで運送する必要と、処理後に被処理物の所有者へ返送する必要があり、被処理物の運送費用が発生したり、被処理物の運送に日数がかかったりすることとなる。
特に、被処理物の低温貯蔵処理量や処理回数が多くなると、運送費負や日数の負担が大きくなる。
【0010】
そこで、本発明においては、低温貯蔵により被処理物の殺虫処理を行う際に、結露水による品質低下を招くことなく、また、殺虫処理を短時間で行い低コスト化を図ることができる低温殺虫装置および方法、ならびに、これらの低温殺虫装置および方法にて処理された被処理物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決する低温殺虫装置、方法、およびこれらによる被処理物は、以下の特徴を有する。
即ち、請求項1記載の如く、害虫が混入する被処理物を貯蔵する低温貯蔵庫と、該低温貯蔵庫内を低温に冷却する冷却装置と、該低温貯蔵庫内を加温する加温装置とを備え、前記冷却装置により、害虫が混入する被処理物が貯蔵された低温貯蔵庫内を冷却して、一定時間低温に保持し、前記加温装置により、害虫が混入する被処理物が貯蔵された状態で一定時間低温に保持された後の低温貯蔵庫内を、外気の露点温度付近の温度または露点温度以上となる温度にまで加温することで、被処理物に混入する害虫の殺虫処理を行う。
これにより、被処理物の表面に結露が生じることを防止し、被処理物の品質を保持することが可能となる。
また、被処理物が外気の露点温度付近の温度または露点温度以上の温度となるまでの時間を短縮することができ、殺虫処理を行うことができる時間当たりの被処理物量を増やすことができ、低温殺虫装置の稼働率を向上させて、運用コストを低減することができる。
【0012】
また、請求項2記載の如く、前記冷却装置による低温貯蔵庫内の冷却保持温度は−30℃以下である。
これにより、被処理物の殺虫処理を確実に行うことが可能となる。
【0013】
また、請求項3記載の如く、前記低温殺虫装置は、該低温殺虫装置を移動可能とする運搬架台を有する。
これにより、例えば作業者が低温殺虫装置を押すだけで、該低温殺虫装置を容易に移動させることが可能となる。
また、低温殺虫装置を輸送用のトラック等の荷台上に搭載したり、輸送用のトラック等で牽引したりすることが容易となる。
【0014】
また、請求項4記載の如く、前記低温殺虫装置は、該低温殺虫装置の運転操作・管理を、低温殺虫装置の遠隔地から行う遠隔操作装置を備える。
これにより、低温殺虫装置の操作や管理を遠隔地から行うことができ、被処理物を低温貯蔵庫へ出し入れするとき以外は、低温殺虫装置の運転を無人で行うことが可能となるので、被処理物の殺虫処理にかかる人件費を抑えることができる。
【0015】
また、請求項5記載の如く、前記被処理物は、農産物、食品、動物繊維、植物繊維、羽毛、または木製品である。
これにより、様々な種類の被処理物を、害虫の被害から守ることが可能となる。
【0016】
また、請求項6記載の如く、害虫が混入する被処理物を、低温に冷却された低温貯蔵庫内で一定時間貯蔵し、その後、前記低温貯蔵庫内を、外気の露点温度付近の温度または露点温度以上となる温度にまで加温して、該低温貯蔵庫内を外気に開放する。
これにより、被処理物の表面に結露が生じることを防止し、被処理物の品質を保持することが可能となる。
また、被処理物が外気の露点温度付近の温度または露点温度以上の温度となるまでの時間を短縮することができ、殺虫処理を行うことができる時間当たりの被処理物量を増やすことができ、低温殺虫装置の稼働率を向上させて、運用コストを低減することができる。
【0017】
また、請求項7記載の如く、前記低温貯蔵庫内の冷却温度は−30℃以下である。
これにより、被処理物の殺虫処理を確実に行うことが可能となる。
【0018】
また、請求項8記載の如く、前記被処理物は、農産物、食品、動物繊維、植物繊維、羽毛、または木製品である。
これにより、様々な種類の被処理物を、害虫の被害から守ることが可能となる。
【0019】
また、請求項9記載の如く、混入している害虫に対する殺虫処理が施された被処理物であって、前記殺虫処理は、冷却装置により冷却された低温貯蔵庫内に被処理物を一定時間貯蔵する低温処理と、低温処理後に、被処理物が貯蔵された低温貯蔵庫内を、加温装置により外気の露点温度付近の温度または露点温度以上となる温度にまで加温する加温処理とからなる。
これにより、被処理物の表面に結露が生じることを防止し、被処理物の品質を保持することが可能となる。
また、被処理物が外気の露点温度付近の温度または露点温度以上の温度となるまでの時間を短縮することができ、殺虫処理を行うことができる時間当たりの被処理物量を増やすことができ、低温殺虫装置の稼働率を向上させて、運用コストを低減することができる。
【0020】
また、請求項10記載の如く、前記低温処理における低温貯蔵庫内の冷却温度は−30℃以下である。
これにより、被処理物の殺虫処理を確実に行うことが可能となる。
【0021】
また、請求項11記載の如く、前記被処理物は、農産物、食品、動物繊維、植物繊維、羽毛、または木製品である。
これにより、様々な種類の被処理物を、害虫の被害から守ることが可能となる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、被処理物の表面に結露が生じることを防止し、被処理物の品質を保持することが可能となる。
また、被処理物が外気の露点温度付近の温度または露点温度以上の温度となるまでの時間を短縮することができ、殺虫処理を行うことができる時間当たりの被処理物量を増やすことができ、低温殺虫装置の稼働率を向上させて、運用コストを低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
次に、本発明を実施するための形態を、添付の図面を用いて説明する。
【0024】
図1に示す低温殺虫装置1は、被処理物を貯蔵するための低温貯蔵庫11と、該低温貯蔵庫11内を低温に冷却する冷却装置12と、該低温貯蔵庫11内を加温する加温装置13とを備えている。
低温貯蔵庫11の一側面には開閉扉11aが設けられており、該開閉扉11aから低温貯蔵庫11内への被処理物の出し入れを行うように構成している。
前記冷却装置12としては、例えば、市販の冷凍庫等に用いられるような、モーターにて冷媒ガスを圧縮液化し、その気化熱で庫内を冷却する構成のものを用いることができる。
【0025】
本低温殺虫装置1にて殺虫処理を行う被処理物としては、例えば、きな粉、ごま、唐辛子、青のり、大納言小豆、かちぐり、アーモンド、蜜りんご、小麦、大麦、そば、大豆等の穀紛、乾燥穀類、乾麺、およびこれらの誘導製品等といった、貯蔵農産物や食品が適用される。
【0026】
図2に示すように、前記加温装置13は、例えば低温貯蔵庫11の一側面に付設されており、該加温装置13の内部と低温貯蔵庫11内部とは連結口11bを通じて連通している。
また、加温装置13は、送風ファン13aおよび発熱体13bを備えており、該送風ファン13aにより低温貯蔵庫11内の空気を加温装置13内へ取り込んで、取り込んだ空気を発熱体13bにて加温した後に、低温貯蔵庫11内へ戻すように構成している。
つまり、加温装置13を作動させることにより、低温貯蔵庫11内の空気の温度を強制的に上昇させて加温することができる。
加温装置13における発熱体13bとしては、例えば電気ヒーターや温水ヒーターが用いられる。
【0027】
このように構成される低温殺虫装置1における、被処理物の低温貯蔵による殺虫処理について説明する。
害虫が混入している、または害虫が混入している恐れがある貯蔵農産物や食品等の被処理物を殺虫処理する場合には、開閉扉11aを開けて、その被処理物を低温貯蔵庫11内へ収納する。開閉扉11aを閉じて低温貯蔵庫11内を密閉した後に、冷却装置12を作動させて、低温貯蔵庫11内を冷却する。
なお、ここで、被処理物に混入している、または混入している恐れがある「害虫」とは、昆虫等の成虫、蛹および幼虫のみならず卵をも含むものである。
また、害虫となる昆虫等としては、例えばスジコナマダラメイガ、ジンサンシバンムシ、コクゾウムシ、クリミガ、クリシギゾウムシ、タバコシバンムシ、アズキゾウムシ、コクヌストモドキ、ヒラタコクヌストモドキ、およびココクゾウムシ等が挙げられる。
【0028】
また、前記冷却装置12は、低温貯蔵庫11内が所定温度に所定時間保持されるように、該低温貯蔵庫11内を冷却する。
この、被処理物が収納された低温貯蔵庫11内を、所定温度の低温に所定時間保持する処理が、該被処理物に混入する害虫の殺虫効果を有した処理となる。
【0029】
この低温処理を行う場合、低温貯蔵庫11内の冷却温度は、−30℃程度以下の温度に設定するのが好ましい。
これは、多くの種類の害虫が−30℃程度以下の温度にならないと死滅しないためであり、殺虫処理の目的を達成するためには、低温貯蔵庫11内を−30℃程度以下の温度にまで冷却することが好ましい。
逆に言えば、低温貯蔵庫11内を、−30℃程度以下の温度にまで冷却することで、被処理物の殺虫処理を確実に行うことが可能となる。
【0030】
逆に言えば、例えば−20℃程度の温度に設定した場合は、殆どの種類の害虫を死滅させることができず、殺虫処理の目的を達成することが困難となる。
但し、例えば、被処理物に混入している害虫の種類等が特定できていて、その特定できた害虫の死滅温度が−20℃以下であるような場合では、低温貯蔵庫11内の冷却温度を−20℃程度以下に設定しても、殺虫処理を行うことが可能である。
さらに、被処理物に混入している害虫が、−10℃程度の温度で死滅するものであるときには、低温貯蔵庫11内の冷却温度を−10℃程度以下に設定しても、殺虫処理を行うことが可能である。
【0031】
殺虫処理を行う際の設定条件の一例を、図3に示す。
図3の場合は、冷却装置12の冷却温度設定が、低温貯蔵庫11内の温度がTC℃を中心としたTU℃からTL℃までの範囲の間で周期的に変動するような温度設定になっており、TU℃からTL℃までの周期変動を時間taの間繰り返している。例えば、TC℃は−35℃に設定され、TU℃は−30℃に設定され、TL℃は−40℃に設定されており、低温貯蔵庫11内は、時間taの間だけ−30℃以下の温度に保持されることとなる。
この時間taは、殺虫対象となる害虫が、冷却装置12の冷却温度設定にて死滅するだけの時間に適宜設定する。
【0032】
なお、低温貯蔵庫11内の雰囲気は冷却装置12の作動開始後、短時間で−30℃以下の温度にまで冷却され、冷却装置12の作動を停止するまでの時間taの間−30℃以下の温度に保持されるが、被処理物は熱容量が大きいため低温貯蔵庫11内の雰囲気に比べて温度が低下するまでに時間が多くかかるため、被処理物が実際に−30℃以下の温度に保持される時間は、時間taよりも短い時間tbとなっている。
【0033】
ここで、低温貯蔵庫11内を冷却する際の温度設定は、上述のようにTC℃、TU℃およびTL℃を、それぞれに個別に設定してもよい。また、中心温度であるTC℃のみを設定しておき、TU℃およびTL℃は、冷却装置12が庫内温度をTC℃に保持するために作動・停止を繰り返した結果変動する、庫内温度の変動の上限および下限として捉えてもよい。
【0034】
また、低温貯蔵庫11内の温度は、−30℃程度以下に保持されていれば、温度変動がなく一定温度に保持されていても、殺虫効果を奏することができる。
なお、本説明でいう「殺虫」とは、昆虫等の成虫、蛹および幼虫を殺すことのみならず、卵の孵化能力を喪失させることも含む。
また、本例では、殺虫処理工程において、低温貯蔵庫11内の雰囲気の温度を所定温度(例えば−30℃以下)で所定時間(例えば時間tb)だけ保持するようにしているが、庫内に収納した被処理物自体の温度を所定温度で所定時間だけ保持するように、低温貯蔵庫11内を冷却することも可能である。
【0035】
このように、冷却装置12の冷却により、低温貯蔵庫11内を所定温度に所定時間だけ保持して、被処理物に混入する害虫を殺虫した後は、冷却装置12の運転を停止し、加温装置13の運転を開始する。
加温装置13の運転を開始すると、低温貯蔵庫11内の空気が送風ファン13aにより加温装置13内へ取り込まれ、取り込まれた空気が発熱体13bにて加温された後に、低温貯蔵庫11内へ戻るため、低温貯蔵庫11内の雰囲気は強制的に加温され、該低温貯蔵庫11内の温度が上昇する。
【0036】
上述の、加温装置13により、低温貯蔵庫11内と加温装置13内との間で空気を循環させて行う加温は、低温貯蔵庫11内に貯蔵される被処理物の温度が、外気の露点温度付近の温度または露点温度以上となる温度に加温されるまで行われる。
被処理物が外気の露点温度付近の温度または露点温度となるまで加温されると、加温装置13の作動を停止し、開閉扉11aを開いて低温貯蔵庫11内の被処理物を取り出す。
【0037】
ここで、外気の露点温度は、外気の温度および湿度によって決定される温度であり、外気が含む単位水蒸気量(例えば外気1立法メートル当たりの水蒸気量)が飽和水蒸気量となる温度が露点温度となる。
また、露点温度付近の温度とは、露点温度から数度程度低い温度であって、被処理物がその温度で外気に触れたときに若干の結露が生じるが、被処理物や、該被処理物の梱包の品質に影響を与えない程度の結露しか生じない温度をいう。
一方、被処理物の温度がこの露点温度付近の温度よりも低くなっている状態で、該被処理物を外気に触れさせると、被処理物の表面に、該被処理物や梱包の品質に影響を与える程の結露が生じることとなる。
【0038】
従って、被処理物の温度が外気の露点温度付近の温度または露点温度以上となるまで加温した後に、該被処理物を低温貯蔵庫11内から取り出すようにして、被処理物の表面に、該被処理物や梱包の品質に影響を与える程の結露が生じることを防止し、被処理物の品質を保持するようにしている。
なお、加温装置13による加温の開始温度は、前述の冷却装置12による低温貯蔵庫11内の冷却温度によって異なり、例えば低温貯蔵庫11内の冷却温度が−30℃であるときは−30℃が加温開始温度となり、低温貯蔵庫11内の冷却温度が−10℃であるときは−10℃が加温開始温度となる。
つまり、加温装置13は、低温貯蔵庫11内の冷却温度にかかわらず、被処理物を外気の露点温度付近の温度または露点温度以上となるまで加温を行う。
【0039】
また、冷却装置12の運転を停止してから、被処理物が、加温装置13の加温により外気の露点温度付近の温度または露点温度以上の温度となるまでの時間はtcであり、冷却装置12の運転を停止してから、被処理物が自然昇温により外気の露点温度付近の温度または露点温度以上の温度となるまでの時間tr(図3参照)よりも大幅に短くなっている。
ここで、自然昇温とは、冷却装置12の運転を停止してから、開閉扉11aを開けずに低温貯蔵庫11内の密閉したままで放置した状態で、該低温貯蔵庫11内の温度が自然に上昇していく現象をいう。
【0040】
このように、低温での殺虫処理工程の終了後に、加温装置13にて低温貯蔵庫11内の雰囲気を加温するように構成することで、被処理物が外気の露点温度付近の温度または露点温度以上の温度となるまでの時間を短縮することができる。
これにより、殺虫処理を行うことができる時間当たりの被処理物量を増やすことができ、低温殺虫装置1の稼働率を向上させて、運用コストを低減することができる。
なお、低温殺虫装置1にて行われる殺虫処理方法は、低温での殺虫処理工程と、低温貯蔵庫11内の被処理物を、加温装置13にて露点温度付近の温度または露点温度以上の温度となるまで加温する加温工程とを含むものである。
【0041】
また、図4に示すように、本低温殺虫装置1においては、冷却装置12に設けられている冷却用送風ファン12aおよび除霜用のヒーター12bを、それぞれ前記加温装置13の送風ファン13aおよび発熱体13bとして用いることも可能である。
このように、冷却装置12に設けられている冷却用送風ファン12aおよび除霜用のヒーター12bを用いて低温貯蔵庫11内を加温することで、加温装置13を別途付設する必要がなくなり、低温殺虫装置1の低コスト化を図ることができる。
【0042】
また、図5に示すように、低温殺虫装置1には、該低温殺虫装置1を容易に移動可能とする運搬架台21を設けることもできる。
運搬架台21は、低温殺虫装置1を設置する設置台21aと、該設置台21aに回転自在に取り付けられる車輪21bとを備えており、例えば作業者が低温殺虫装置1を押すだけで、該低温殺虫装置1を容易に移動できるように構成している。
また、低温殺虫装置1に運搬架台21を設けることで、該低温殺虫装置1を輸送用のトラック等の荷台上に搭載したり、輸送用のトラック等で牽引したりすることが容易となる。
【0043】
また、図6に示すように、低温殺虫装置1に付設される通信装置15と、該通信装置15との間で無線通信可能な端末装置16とからなる遠隔操作装置を、前記低温殺虫装置1に備えて、前記端末装置16の操作により、低温殺虫装置1の運転操作や、運転時における温度の監視や、低温貯蔵庫11内への被処理物の入出庫管理等といった、各種操作を行うように構成することもできる。
このように、前記通信装置15と端末装置16とで構成される遠隔操作装置を低温殺虫装置1に設けることで、低温殺虫装置1の操作や管理を遠隔地から行うことができ、被処理物を低温貯蔵庫11へ出し入れするとき以外は、低温殺虫装置1の運転を無人で行うことが可能となるので、被処理物の殺虫処理にかかる人件費を抑えることができる。
【0044】
なお、本発明の低温殺虫装置1にて殺虫処理を施す被処理物として、本例では貯蔵農産物や食品を適用したが、これに限るものではなく、羊毛や絹等の動物繊維や、綿や麻等の植物繊維、さらには羽毛や木製品等を被処理物とすることも可能である。
このように、本低温殺虫装置1は、様々な種類の被処理物を、害虫の被害から守ることが可能となっている。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明にかかる低温殺虫装置を示す斜視図である。
【図2】低温殺虫装置の内部を示す側面断面図である。
【図3】低温貯蔵庫内雰囲気と低温貯蔵庫内に収納される被処理物との殺虫処理時における温度曲線を示す図である。
【図4】低温殺虫装置の冷却装置に設けられる冷却用送風ファンおよび除霜用のヒーターを、それぞれ加温装置の送風ファンおよび発熱体として用いた例を示す側面断面図である。
【図5】運搬架台を設けた低温殺虫装置を示す斜視図である。
【図6】遠隔操作装置を設けた低温殺虫装置を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0046】
1 低温殺虫装置
11 低温貯蔵庫
12 冷却装置
13 加温装置
13a 送風ファン
13b 発熱体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
害虫が混入する被処理物を貯蔵する低温貯蔵庫と、
該低温貯蔵庫内を低温に冷却する冷却装置と、
該低温貯蔵庫内を加温する加温装置とを備え、
前記冷却装置により、害虫が混入する被処理物が貯蔵された低温貯蔵庫内を冷却して、一定時間低温に保持し、
前記加温装置により、害虫が混入する被処理物が貯蔵された状態で一定時間低温に保持された後の低温貯蔵庫内を、外気の露点温度付近の温度または露点温度以上となる温度にまで加温することで、
被処理物に混入する害虫の殺虫処理を行う、
ことを特徴とする低温殺虫装置。
【請求項2】
前記冷却装置による低温貯蔵庫内の冷却保持温度は−30℃以下である、
ことを特徴とする請求項1に記載の低温殺虫装置。
【請求項3】
前記低温殺虫装置は、該低温殺虫装置を移動可能とする運搬架台を有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の低温殺虫装置。
【請求項4】
前記低温殺虫装置は、該低温殺虫装置の運転操作・管理を、低温殺虫装置の遠隔地から行う遠隔操作装置を備えることを特徴とする請求項1〜請求項3の何れかに記載の低温殺虫装置。
【請求項5】
前記被処理物は、農産物、食品、動物繊維、植物繊維、羽毛、または木製品であることを特徴とする請求項1〜請求項4の何れかに記載の低温殺虫装置。
【請求項6】
害虫が混入する被処理物を、低温に冷却された低温貯蔵庫内で一定時間貯蔵し、
その後、前記低温貯蔵庫内を、外気の露点温度付近の温度または露点温度以上となる温度にまで加温して、該低温貯蔵庫内を外気に開放する、
ことを特徴とする低温殺虫方法。
【請求項7】
前記低温貯蔵庫内の冷却温度は−30℃以下であることを特徴とする請求項6に記載の低温殺虫方法。
【請求項8】
前記被処理物は、農産物、食品、動物繊維、植物繊維、羽毛、または木製品であることを特徴とする請求項6または請求項7に記載の低温殺虫方法。
【請求項9】
混入している害虫に対する殺虫処理が施された被処理物であって、
前記殺虫処理は、
冷却装置により冷却された低温貯蔵庫内に被処理物を一定時間貯蔵する低温処理と、
低温処理後に、被処理物が貯蔵された低温貯蔵庫内を、加温装置により外気の露点温度付近の温度または露点温度以上となる温度にまで加温する加温処理とからなる、
ことを特徴とする被処理物。
【請求項10】
前記低温処理における低温貯蔵庫内の冷却温度は−30℃以下である、
ことを特徴とする請求項9に記載の被処理物。
【請求項11】
前記被処理物は、農産物、食品、動物繊維、植物繊維、羽毛、または木製品であることを特徴とする請求項9または請求項10に記載の被処理物。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−1(P2009−1A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−291833(P2005−291833)
【出願日】平成17年10月5日(2005.10.5)
【出願人】(505374381)有限会社キューシーエム (1)
【出願人】(505374392)
【Fターム(参考)】