説明

低真空走査電子顕微鏡

【課題】本発明の目的は、試料交換から観察までのスループット向上を図ると共に、電子ビーム照射時には、必要なプローブ電流量が得られるようオリフィス径を従来より拡大することができる排気システムを備えた低真空電子顕微鏡を提供することにある。
【解決手段】上記目標を達成するために本発明は、電子銃と、当該電子銃から放出された電子線が照射される試料が配置される試料室と、前記電子銃を含む電子銃室、及び前記試料室を真空排気する排気システムを備えた電子顕微鏡において、電子銃室と試料室の間に電子線が通過する複数の中間室を有し、当該複数の中間室の間の開口部にバルブを有し、前記バルブより試料室側の中間室及び試料室の圧力が、前記バルブより電子源側の中間室及び電子銃室の圧力より高くなるように排気する排気システムを有することを特徴とする電子顕微鏡を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は走査電子顕微鏡に関し、特に試料近傍を低真空雰囲気にして観察する低真空走査電子顕微鏡に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の低真空走査電子顕微鏡では、特許文献1や特許文献2に説明されているような真空排気系構成としたものがある。図3は従来の排気系構成について概略的に示したものである。この図を参照し、従来の低真空電子顕微鏡の真空排気系構成について説明する。
【0003】
図3において、電子銃を収容する電子銃室1と、電子光学系を収容する中間室23と、電子線を細く絞って試料に照射する対物レンズ5と、試料を収容する試料室7を備え、電子銃室1および中間室23は真空排気管8及び真空排気管9にて、複合ターボ分子ポンプ10の主吸気口21に接続され高真空排気される。
【0004】
真空排気管8には真空計12aが配置され、電子銃室1の真空度を監視する。対物レンズ5にはオリフィス6が配置され、試料室7と中間室23より上流側で差動排気されている。複合ターボ分子ポンプ10の排気口と試料室7は補助真空ポンプ11に接続され、複合ターボ分子ポンプ10の背圧排気と試料室7の低真空排気を合わせて行う。試料室7の真空度は真空計12bにより監視され、試料室7の低真空度を可変するために試料室7に導入するガス量を調整するための可変流量バルブ13が配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−141633号公報
【特許文献2】特開2008−226521号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した従来の低真空走査電子顕微鏡では、試料交換時は試料室と中間室および電子銃室は大気開放されるのが一般的であった。この場合、補助真空ポンプにて予備排気後バルブを切り替え、複合ターボ分子ポンプにて電子銃室および中間室の高真空排気を行うため、必要となる真空度を得るには数分程度の時間を要した。一方、電子銃室の真空を保持したまま試料交換を行うには、別途試料交換装置等の予備排気室を必要とした。この場合、予備排気室を数十秒程度で排気できることからスループットは向上するが、試料室との真空仕切りのためのゲートバルブ機構や試料を交換,搬送するための機構等が必要となり、装置のコストアップは避けられない。
【0007】
また電子銃室と中間室はターボ分子ポンプの主吸気口に接続されているため、低真空時に試料室からオリフィスを介して吹き上がるガス量を増加させた場合、即ちオリフィス径を拡大した場合や、試料室の真空度をより低真空とした場合では、電子銃室の真空度は低下してしまう。このためオリフィス径と試料室の真空度は電子銃室の真空度に実用上影響を与えない程度に制限されていた。これにより例えばX線分析時などで、特に多くのプローブ電流を必要とする場合などでは、オリフィスによりプローブ電流量が制限されてしまうため、オリフィスを取外す必要があった。
【0008】
上記問題を考慮し、本発明の目的は、試料交換から観察までのスループット向上を図ると共に、電子ビーム照射時には、必要なプローブ電流量が得られるようオリフィス径を従来より拡大することができる排気システムを備えた低真空電子顕微鏡を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目標を達成するために本発明は、電子銃と、当該電子銃から放出された電子線が照射される試料が配置される試料室と、前記電子銃を含む電子銃室、及び前記試料室を真空排気する排気システムを備えた電子顕微鏡において、電子銃室と試料室の間に電子線が通過する複数の中間室を有し、当該複数の中間室の間の開口部にバルブを有し、前記バルブより試料室側の中間室及び試料室の圧力が、前記バルブより電子源側の中間室及び電子銃室の圧力より高くなるように排気する排気システムを有することを特徴とする電子顕微鏡を提供する。
【0010】
また、電子銃と、当該電子銃から放出された電子線が照射される試料が配置される試料室と、前記電子銃を含む電子銃室、及び前記試料室を真空排気する排気システムを備えた電子顕微鏡において、電子銃室と試料室の間に電子線が通過する中間室を有し、当該中間室と前記電子銃室との間の開口部にバルブを有し、前記中間室及び試料室の圧力が、前記電子銃室の圧力より高くなるように排気する排気システムを有することを特徴とする電子顕微鏡であってもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、バルブにより、電子銃室及びバルブより上流側(電子銃側)の真空度を高真空に保つことにより、試料交換から観察までのスループット向上を図ることができる。また、バルブより下流側(試料室側)の真空度をバルブより上流側の真空度より低くすることで、試料室から吹き上がるガス量を抑えることができ、オリフィス径を従来より拡大することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明である低真空走査電子顕微鏡の一実施形態を示す図。
【図2】本発明である低真空走査電子顕微鏡の試料交換時における排気シーケンスの流れを示した図。
【図3】従来の低真空走査電子顕微鏡の真空排気システムを示す図。
【図4】本発明である低真空走査電子顕微鏡の一実施形態を示す図。
【図5】本発明である低真空走査電子顕微鏡の一実施形態を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明についての原理を説明する。
【0014】
本発明では、エアロックバルブを境に、電子源側を複合ターボ分子ポンプの主吸気口に、試料室側を複合ターボ分子ポンプの中間吸気口に接続し、排気を行う。これにより、試料交換時にエアロックバルブを閉じれば、エアロックバルブより上流(電子源側)を高真空に保つことができ、試料交換から観察までのスループット向上を図ることができる。
【0015】
また、エアロックバルブより下流(試料室側)は、中間吸気口に接続されているので、従来の主吸気口に接続されている場合に比べ、オリフィス径を拡大しても試料室から吹き上がるガス量を抑えることができる。これにより、電子銃室は高真空を維持しつつオリフィス径を拡大することができる。
【0016】
さらに、中間室が複数ある場合には、差動排気により、電子銃室の高真空をよりよく保つことができる。
【0017】
以下、本発明の実施例を図面に基づき詳細に説明する。
【0018】
図1は本発明の低真空走査電子顕微鏡の一実施形態を示す図である。
【0019】
本発明の低真空走査電子顕微鏡は、電子銃を収容する電子銃室1と、電子光学系を収容する中間室と、電子線を細く絞って試料に照射する対物レンズ5と、試料を収容する試料室7とを備える。中間室はエアロックバルブ3により、第一中間室2と第二中間室4とに真空的に分離される。
【0020】
対物レンズ5には、試料室7と第二中間室4との差動排気を行うために、試料室7から吹き上がるガス量を制限するためのオリフィス6を備える。電子銃室1と第一中間室2は、真空排気管8にて複合ターボ分子ポンプ10の主吸気口21に接続され高真空排気される。真空排気管8には真空計12aが配置され、電子銃室1の真空度を監視する。第二中間室4は真空排気管9にて複合ターボ分子ポンプ10の中間吸気口22に接続されオリフィス6を介して試料室7から吹き上がるガスを排気する。複合ターボ分子ポンプ10の排気口および試料室7は補助真空ポンプ11に接続され、補助真空ポンプ11は試料室7の低真空排気と複合ターボ分子ポンプ10の背圧排気を合わせて行う。試料室7の真空度は真空計12bにより監視され、試料室7の真空度を可変するには可変流量バルブ13により試料室7に導入するガス量を調節する。
【0021】
試料室は、1〜3000Paの圧力を有し、圧力を調整することができる。
【0022】
図2は本発明である低真空走査電子顕微鏡において試料室7を大気開放し、低真空観察に至るまでの排気系シーケンス制御の流れを示す。大気開放モードでは、まずエアロックバルブ3を閉じ、電子銃室1と第一中間室2を真空封止する。次にAV2,AV3,AV5,AV7のバルブを閉じ、リークバルブであるLV2を開き、試料室7および第二中間室4を大気開放する。
【0023】
試料交換後は低真空排気モードを開始し、LV2,AV1のバルブを閉じAV2,AV6のバルブを開き、試料室7と第二中間室4を排気する。真空計12bが設定真空度の下限、例えば500Paに到達した時点でAV6のバルブを閉じる。次にAV1,AV5のバルブを開き、第二中間室4を複合ターボ分子ポンプ10の中間吸気口22で真空排気する。次にAV7のバルブを開き可変流量バルブ13の制御を開始し試料室7の真空度を調整する。なお、本例では図示しないが、真空計12bの値を常時読み取り、可変流量バルブ13の流量調整を自動で制御するようにしてもよい。
【0024】
最後にエアロックバルブ3を開き低真空観察を開始する。
【0025】
以上のように構成すれば、エアロックバルブ3により電子銃室1と第一中間室2の真空を保持し試料交換が行えることで、補助真空ポンプ11により試料室7と第二中間室4を予備排気すればよいので排気時間が短縮でき、試料交換から低真空観察に至るスループット向上が図れる。
【0026】
図4は本発明の低真空走査電子顕微鏡の一実施形態を示す図である。
【0027】
本実施例では、中間室は1つであるが、エアロックバルブ3を境に、電子銃室1と中間室24の間にエアロックバルブを設け、電子銃室は、複合ターボ分子ポンプの主吸気口に接続され、中間室は、複合ターボ分子ポンプの中間吸気口22に接続されている。本実施例においても、本願の効果を達成することができる。中間室が1つなので、構造が容易で安価に作成することができる。
【0028】
図5は本発明の低真空走査電子顕微鏡の一実施形態を示す図である。
【0029】
本実施例では、中間室は第1,第2,第3真空室の3つに分離されている。第2中間室26と第3中間室27の間にはエアロックバルブ3が設けられている。電子銃室1には、別途イオンポンプ28等の超高真空用のポンプが別途取り付けられている。従前の実施例のように、電子銃室1を複合ターボ分子ポンプの主吸気口から排気しても差し支えない。
【0030】
本実施例ではさらに、オリフィス6の直上を複合ターボ分子ポンプの中間吸気口につないで排気を行っている。これにより、試料室から上がってきたガス分子を効果的に排気することができる。エアロックバルブ3より下流側は、複合ターボ分子ポンプの中間吸気口22に接続されている。中間吸気口でも主吸気口に近いほど高い真空度にすることができるので、試料室に近い側を主吸気口から遠い中間吸気口に接続する。
【0031】
なお、上記の実施例において、エアロックバルブより上流側を高真空で排気することのできるポンプに接続し、下流側をそれより真空度の低いポンプに接続することでも本発明の効果は得ることができる。複合ターボ分子ポンプの主吸気口と中間吸気口を用いることで、1台のポンプで本発明の効果を達成することができる。
【0032】
本発明によれば、試料交換時にバルブより上流側を真空保持し、バルブより下流側を大気開放する。試料交換後は補助真空ポンプにより、試料室を設定可能な下限の真空度である数百Paまで予備排気することで予備排気室を設けることなく予備排気時間が短縮できる。また電子銃部は高真空に保たれていることで、予備排気後は比較的短時間で電子ビームを照射することが可能であることから試料交換から観察に至るまでのスループット向上が図れる。
【0033】
またバルブより上流側を主吸気口で真空排気し、対物レンズに配置されたオリフィスを介してガスが吹き上がる中間室は、主吸気口より低い真空度範囲での真空排気が可能な中間吸気口から真空排気することで、オリフィスから吹き上がるガスの影響による電子銃室の真空度低下を抑制できる。よって第二中間室に吹き上がるガス量の低減が図れることから、電子銃室は高真空を維持しつつオリフィス径を拡大することができる。その結果、試料に照射するプローブ電流量を増加することが可能となる。これにより、比較的大きなプローブ電流を必要とするようなX線分析時において、従来ではオリフィスを取外すという操作が介在したが、オリフィスを取外すことなく必要とするプローブ電流を得ることができるため、この作業の煩わしさが解消される。またオリフィス径を従来と同じとした場合では、試料室をより低い真空度とすることができることから、真空による収縮や乾燥等のダメージを受けやすい試料を観察する場合、そのダメージ低減が図れる。
【0034】
さらに1台の複合ターボ分子ポンプと1台の補助真空ポンプという構成でも本発明を達成できるので、真空ポンプを追加することなく、差動排気機能を追加できる。このことから排気システムに要する装置内スペースの増加を最小限に抑え排気システムの機能向上が図れると共に、真空ポンプに要するメンテナンスコストも抑えることができる。
【符号の説明】
【0035】
1 電子銃室
2 第一中間室
3 エアロックバルブ
4 第二中間室
5 対物レンズ
6 オリフィス
7 試料室
8,9 真空排気管
10 複合ターボ分子ポンプ
11 補助真空ポンプ
12a,12b 真空計
13 可変流量バルブ
21 主吸気口
22,22a,22b 中間吸気口
23,24 中間室
25 第1中間室
26 第2中間室
27 第3中間室
28 イオンポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子銃と、当該電子銃から放出された電子線が照射される試料が配置される試料室と、前記電子銃を含む電子銃室、及び前記試料室を真空排気する排気システムを備えた電子顕微鏡において、
電子銃室と試料室の間に電子線が通過する複数の中間室を有し、当該複数の中間室の間の開口部にバルブを有し、
前記バルブより試料室側の中間室及び試料室の圧力が、前記バルブより電子源側の中間室及び電子銃室の圧力より高くなるように排気する排気システムを有することを特徴とする電子顕微鏡。
【請求項2】
請求項1の電子顕微鏡において、
前記排気システムは、複合ターボ分子ポンプで構成され、前記バルブより試料室側の中間室及び試料室は、前記複合ターボ分子ポンプの中間吸気口に接続され、前記バルブより電子源側の中間室及び電子銃室は、前記複合ターボ分子ポンプの中間吸気口に接続されることを特徴とする電子顕微鏡。
【請求項3】
請求項2において、前記バルブより試料室側の中間室及び試料室は、試料室から遠い順に、前記中間吸気口の前記主吸気口に近い側に接続されることを特徴とする電子顕微鏡。
【請求項4】
電子銃と、当該電子銃から放出された電子線が照射される試料が配置される試料室と、
前記電子銃を含む電子銃室、及び前記試料室を真空排気する排気システムを備えた電子顕微鏡において、
電子銃室と試料室の間に電子線が通過する中間室を有し、当該中間室と前記電子銃室との間の開口部にバルブを有し、
前記中間室及び試料室の圧力が、前記電子銃室の圧力より高くなるように排気する排気システムを有することを特徴とする電子顕微鏡。
【請求項5】
請求項1又は4の電子顕微鏡において、
前記試料室は、1〜3000Paであり、試料室の圧力を調整するバルブを有することを特徴とする電子顕微鏡。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−34744(P2011−34744A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−178574(P2009−178574)
【出願日】平成21年7月31日(2009.7.31)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】