説明

低粘度トマトジュースの製造方法

【課題】喉越しの優れたトマトジュースの製法の提供。
【解決手段】粘度を250〜3000mPa・sの範囲に調整した原料トマトジュースに、植物組織崩壊酵素を添加し、103〜1061/sの剪断速度範囲で処理することを特徴とする、低粘度トマトジュースの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は低粘度トマトジュースの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トマトジュースには、ビタミンC、リコピン、β−カロチン等の成分が含有されるため、緑黄色野菜不足を補うための飲料として広く飲用されている。しかしながら、トマトジュースには、食物繊維などの不溶性固形分も多く含まれていることから、粘性が高く、そのため、飲用時に抵抗感が強くて飲み難いという欠点がある。不溶性固形分含量を低減したトマトジュースを得るための方法としては、濾過や遠心力などを用いて、機械的に不溶性固形分を除去する方法が広く用いられている(特許文献1、2)。この方法では、不溶性固形分含量の低いトマトジュースが得られるが、当然のことながら食物繊維含有量は減少し、また、不溶性固形分とともに、機能性の高い脂溶性成分(例えばリコピンやβ−カロチンなど)も除去されてしまう問題がある。
【0003】
一方で、植物組織崩壊酵素を用いて不溶性固形分を可溶化する方法も提案されている。この方法では、上記のような食物繊維や脂溶性成分の大幅なロスは避けられるが、酵素による不溶性固形分の可溶化反応は遅く、トマトジュースとしては、粘性の低下、喉越しの改善は充分ではない。そのため、酵素添加量や反応時間の増加が必要となるが、それでも粘性の低下は充分ではなく、更に、酵素添加量増加に伴う風味劣化や、反応時の熱履歴増加に伴う加熱臭の発生など、トマトジュースにとって好ましくない新たな問題も生じる。
【0004】
このような課題を解決する方法として、植物性農水産物に水及び酵素を添加して溶液中で磨砕処理する方法(特許文献3参照)が提案されている。
【特許文献1】特開昭59−95868号公報
【特許文献2】特開昭62−253368号公報
【特許文献3】特開2001−61434号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、この技術は野菜等に水と酵素を加えて溶液中にて磨砕処理することでペースト状やパウダ状の食材を製造する技術であり、原料となる植物性農水産物をそのまま、あるいは、更に水を添加した後に処理するため酵素反応の効率が低くなり、不充分な低粘度化しか達成できないものであった。そのため、トマトジュースとして飲用するには処理物のざらつき感が気になり喉越しの好ましくないものしか得られなかった。そこで、特に喉越しの優れた低粘度のトマトジュースを得ることができる技術が望まれていた。
従って、本発明の目的は、喉越しの優れた低粘度トマトジュースを製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで本発明者は、従来法において喉越しの十分でないトマトジュースが得られていた原因を研究し、処理時の粘度と装置の剪断速度と酵素反応の関係に着目して種々検討したところ、予め一定の粘度に調整した原料トマトジュースに、植物組織崩壊酵素を添加し、特定の範囲の剪断速度で処理することにより、酵素反応が効率良く進行し、低粘度で喉越しの優れたトマトジュースが得られることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、粘度を250〜3000mPa・sの範囲に調整した原料トマトジュースに、植物組織崩壊酵素を添加し、103〜1061/sの剪断速度範囲で処理することを特徴とする、低粘度トマトジュースの製造方法を提供するものである。
また本発明は、上記の方法により得られた低粘度トマトジュースを提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明方法によれば、特定の状態の原料トマトジュースに酵素を添加し特定の剪断速度にて処理を施すことで剪断処理と酵素反応が特に効率良く進行するため、低粘度で喉越しが良好で飲用しやすい低粘度トマトジュースが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明においては、まず、原料トマトジュースの粘度を20℃にて250mPa・s以上3000mPa・s以下の範囲に調整する。なお、本発明における原料トマトジュースとしてはトマトを原料とした液状物質であればいずれも使用可能であり、例えば、トマト搾汁液、トマト濃縮液(トマトピューレ、トマトペースト等)などが挙げられ、更に、他の成分を含有していても良い。このような原料トマトジュースを上記範囲の粘度に調整して使用する。この原料トマトジュースの調整は、酵素反応を効率良く進行させ、実質的に加熱臭のない低粘度トマトジュースを得る上で特に重要である。当該原料トマトジュースの粘度が低すぎる場合は、剪断効率が小さくなり、酵素反応を効率よく進行させることができず、反応時間増加に伴う加熱臭発生原因となり得るため好ましくない。一方、粘度が高すぎる場合には、剪断場で局所的に発生する熱により加熱臭が発生してしまうため好ましくない。加えて、攪拌機に加わる負荷が大きくなり過ぎるため設備上好ましくない。より好ましい粘度は500mPa・s以上であり、2000mPa・s以下さらに好ましくは1200mPa・s以下である。ここで、粘度はB型粘度計を用いて測定したものである。
【0010】
原料トマトジュースの粘度をこのような範囲に調整するには、トマトを例えばスクリュープレスにより搾汁した後、濃縮する方法や、市販されているトマトペーストを希釈する方法などが採用されるが、この方法以外であっても原料トマトジュースの粘度を前記範囲内に調整できる方法であれば適宜採用可能である。なお、濃縮の方法としては、具体的には、果汁や野菜汁で一般的に用いられている方法、例えば、蒸発濃縮、真空濃縮、凍結濃縮、膜濃縮等が挙げられる。
【0011】
前記粘度調整された原料トマトジュースに添加される植物組織崩壊酵素は、植物性農産物に含まれるセルロース、キシランをはじめとするヘミセルロース、ペクチンなどの、分子構造の大きい不溶性食物繊維を低分子に分解する酵素であり、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ(キシラナーゼ)、ペクチナーゼなどを用いることができる。ただし、これらに限定されない。これらは1種あるいは2種以上を使用することができる。反応効率を向上させるためには、2種以上を使用することが好ましい。
【0012】
前記酵素の使用量は、用いる酵素の活性によっても異なるが、原料トマトジュースに対し0.01〜2質量%、さらに0.1〜1質量%が好ましい。
【0013】
前記酵素のトマトジュースへの添加タイミングは、剪断処理前および剪断処理中であって、好ましくは剪断処理前が良い。原料トマトジュースは、次に103l/s以上106l/s以下の剪断速度範囲で処理される。ここで「剪断速度範囲で処理される」とは、回転体を有する攪拌機にて回転体を液体中にて高速回転させることを意味する。なお、ここで剪断速度とは、攪拌機回転体の最高周速をv(m/s)、最高周速部分と壁面との距離をd(m)とした場合にv/d(1/s)で計算される値をいう。当該剪断速度は、攪拌機の回転体の回転速度、および、回転体と壁面との距離を調節することにより調整することができる。剪断速度を103l/s以上とすることで、剪断応力が確保され、酵素反応が効率よく進行する。その結果、トマトジュースの低粘度化が充分に進み、喉越しの点で好ましいものとすることができる。一方、剪断速度を106l/s以下とすることで、剪断場で局所的に発生する熱によるトマトジュースの風味劣化が防止できる。なお、好ましい剪断速度は5×103l/s以上さらに好ましくは1×104l/s以上であり、5×105l/s以下さらに好ましくは1×105l/s以下である。
【0014】
このような剪断速度を与えることができる攪拌機としては、ホモミクサー、ラインミキサー、ジューサーミキサー、ディスパー、マイルダー、コロイドミル、メディア(ビーズ)ミルなどが挙げられるが、剪断速度が前記範囲内に設定できるものであれば、特に限定されない。原料トマトジュースをこれらの攪拌機内に投入し、前記剪断速度になるように回転体の回転速度を調整して処理すればよい。
【0015】
前記処理は、酵素反応の効率的進行、風味の低下防止等を考慮し、0〜50℃、さらに0〜25℃、特に0〜15℃の範囲で行うのが好ましい。この温度範囲で処理を行うと
酵素反応に伴う加熱臭の付与を抑制できるため好ましい。また、原料トマトジュースのpHは必要に応じて、3〜6、さらに4〜6に調整しておくことが好ましい。このpH範囲で処理を行うと、植物組織崩壊酵素の活性が高くなるため好ましい。また、処理時間は、通常0.5〜5時間、さらに1〜3時間が好ましい。この時間範囲で処理を行うと、酵素反応に伴う加熱臭の付与を抑制できるため好ましい。
【0016】
前記処理終了後は、加熱等により酵素を失活させるのが好ましい。失活処理は、処理物になるべく悪影響をもたらさないように酵素を失活させる方法であれば如何なる方法でも良いが、高温短時間の失活操作が好ましく、特に70℃以上の加熱により失活させる方法が好ましい。
【0017】
本発明方法により得られる低粘度トマトジュースの粘度は、喉越し、風味の点から、20℃、Brix4.5における粘度(B型粘度計)が1〜30mPa・s、更に1〜15mPa・sとすることが好ましい。
【0018】
本発明方法により、喉越しに優れ、かつ食物繊維や機能性の高い脂溶性成分も十分量含有された低粘度トマトジュース、特に食物繊維摂取用等の機能性飲料として有用な低粘度トマトジュースを得ることができる。
【実施例】
【0019】
(粘度の測定)
試料を、内径36mmのガラス容器に投入し、B型粘度計[(株)トキメック製]を用いて、液温度20℃、回転数60rpm、保持時間60秒で3回測定し、その平均値を測定値とした。
なお、本発明の処理後のトマトジュースの粘度を測定する場合は、必要に応じて処理後のトマトジュースにイオン交換水を添加してBrixを4.5に調整してから測定した。
【0020】
実施例1
トマトペーストにイオン交換水を加え、Brix12.4の原料トマトジュースを調整したところ20℃における粘度は1011mPa・sであった。この原料トマトジュース498gにセルラーゼ(セルラーゼA「アマノ」3,天野エンザイム(株)製)、ヘミセルラーゼ(ヘミセルラーゼ「アマノ」90,天野エンザイム(株)製)、ペクチナーゼ(ペクチナーゼPL「アマノ」,天野エンザイム(株)製)、プロトペクチナーゼ(セルロシンME,エイチビィアイ(株)製)、をそれぞれ0.5gずつ添加した。
これを、T.K.ホモミクサーMARKII2.5型(プライミクス(株)製)を用いて、20℃の温度下、ホモミクサーの回転数を15000r/minとし剪断速度4×1041/sにて1.5時間反応させた。その後、95℃において3分間保持することにより、酵素を完全に失活させた。
【0021】
実施例2
原料トマトジュースのBrixを6.0(粘度251mPa・s)と変更し、実施例1と同様の操作を行った(なお、反応時間は1.5時間とした)。
【0022】
比較例1
原料トマトジュースのBrixを4.5(粘度121mPa・s)と変更し、実施例1と同様の操作を行った(なお、反応時間は1.5時間とした)。
【0023】
実施例3
ホモミクサーの回転数を3000r/minと変更し剪断速度9×1031/sにて、実施例1と同様の操作を行った(なお、反応時間は1.5時間とした)。
【0024】
比較例2
攪拌条件を4枚プロペラ翼(Φ70mm)、500r/minと変更し剪断速度1×1021/sにて、実施例1と同様の操作を行った(なお、反応時間は1.5時間とした)。
【0025】
実施例4
反応温度を10℃と変更し、実施例1と同様の操作を行った(なお、反応時間は1.5時間とした)。
【0026】
実施例5
反応温度を50℃と変更し、実施例1と同様の操作を行った(なお、反応時間は1.5時間とした)。
【0027】
(喉越し、加熱臭の評価)
5名のパネラーに飲用してもらい、以下の基準で評価した。
【0028】
〔喉越し、加熱臭、総合評価(喉越し、加熱臭を加味した飲料の風味等)〕
5:極めて良好。
4:良好。
3:問題ない。
2:好ましくない。
1:極めて好ましくない。
【0029】
【表1】

【0030】
表1から明らかなように、予め粘度を一定の範囲に調整した原料トマトジュースに酵素を添加して特定の剪断速度処理をすると、粘度が低く喉越しが良好なトマトジュースが得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘度を250〜3000mPa・sの範囲に調整した原料トマトジュースに、植物組織崩壊酵素を添加し、103〜1061/sの剪断速度範囲で処理することを特徴とする、低粘度トマトジュースの製造方法。
【請求項2】
処理温度を0〜25℃の範囲とする、請求項1記載の低粘度トマトジュースの製造方法。
【請求項3】
得られた低粘度トマトジュースの20℃、Brix4.5における粘度が1〜30mPa・sである請求項1又は2記載の低粘度トマトジュースの製造方法。
【請求項4】
植物組織崩壊酵素が、ペクチナーゼ、ヘミセルラーゼ及びセルラーゼから選ばれる1種以上である請求項1〜3何れか1項に記載の低粘度トマトジュースの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4何れか1項に記載の方法で製造された低粘度トマトジュース。

【公開番号】特開2009−11287(P2009−11287A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−179597(P2007−179597)
【出願日】平成19年7月9日(2007.7.9)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】