説明

低結晶性キチンの製造方法

【課題】キチン含有原料からキチンの結晶化度を低下させた低結晶性キチンを効率よく得ることができる、生産性に優れた製造方法を提供すること。
【解決手段】キチンの結晶化度が35%を超えるキチン含有原料を粉砕機で処理して、該キチンの結晶化度を30%以下に低減する、低結晶性キチンを製造する方法であって、該キチン含有原料から水を除いた残余成分中のキチンの含有量が10質量%以上であり、該キチン含有原料の水分含量が0.01〜25質量%であり、粉砕機が振動ミル又は媒体撹拌式ミルである、低結晶性キチンの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低結晶性キチンの製造方法に関し、医療用、化粧品用、健康食品用などの各種分野に応用できる低結晶性キチンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
キチンは、えび、かになどの甲殻類、カブトムシ、コオロギなどの昆虫類、キノコ類、微生物の細胞壁などに含まれ、生物体の骨格や外皮の形成にあずかっている主要有機成分であり、自然界に広くかつ豊富に分布している物質である。キチンは、N−アセチル‐D-グルコサミンのβ−1,4結合よりなる多糖類であって、化学的に極めて安定なため、温和な条件では殆どの試薬とは反応せず、これまでキチンをそのままの形で溶かす適当な溶剤も見出されていなかったので、極めて取り扱いにくいものとされていた。
【0003】
一方、近年、キチン等の天然多糖類は、新しいタイプの生分解性高分子材料として、また生体親和性材料として注目されている。特に、キチンは、生理活性をもつ天然系機能性高分子化合物として、例えば、創傷治療促進効果、抗凝血作用、免疫賦活活性、静菌・抗菌作用などの様々な生物活性効果を有することが報告されている。また、細胞認識やそれに伴う情報伝達機構など生体機構発現において、その糖鎖が鍵物質として重要な役割を果たすことも明らかになりつつある。
【0004】
また、キチンを粉砕する方法としては、例えば、乾式メディアミルにより粗粉砕したキチン質を、湿式メディアミルで微粒化する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。しかし、特許文献1にはキチンの結晶化度についての記載はなく、多量の水を使用する方法である。また、低分子化したキチンを最終的にボールミルあるいはジェットミルで粉砕し、粉末を製造する方法が知られている(例えば、特許文献2及び3参照)。しかし、特許文献2及び3には粉砕処理するときのキチンに含有される水分含量やキチンの結晶化度についての記載はない。
さらに、キチン原料を、キチン質の結晶化度として70%以下になるように微粉砕するキチン原料微粉砕工程と、微粉砕されたキチン原料を加水分解するキチン加水分解工程とを含むキチン分解物の製造方法が開示されている(例えば、特許文献4参照)。また、遊星ボールミルを用いてα−キチンを摩砕処理してアモルファスなキチン微粒子を得る方法が提案されている(例えば、非特許文献1参照)。しかし、これらの方法は、キチンの結晶化度を低減させるにあたり、効率性及び生産性において満足できるものではない。
このように従来の技術では、低結晶性キチンを効率よく製造することは、未だ不十分であった。また、キチンの結晶化度を低下させることによって、キチンの利用分野の自由度を向上させることは、従来のキチンと比較して商品価値を大きく進歩させるものであり、この点においても改善が望まれていた。
【0005】
【特許文献1】特開平6−41315号公報
【特許文献2】特開2006−348093号公報
【特許文献3】特開2007−2095号公報
【特許文献4】特開2008−212025号公報
【非特許文献1】「苫小牧工業高等専門学校紀要」第40号,31−34頁,2005年3月31日
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、キチン含有原料からキチンの結晶化度を低下させた低結晶性キチンを効率よく得ることができる、生産性に優れた製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、特定のキチン含有原料を振動ミル又は媒体撹拌式ミルで処理することにより、前記課題を解決できることを見出した。
すなわち、本発明は、キチンの結晶化度が35%を超えるキチン含有原料を粉砕機で処理して、該キチンの結晶化度を30%以下に低減する、低結晶性キチンを製造する方法であって、該キチン含有原料から水を除いた残余成分中のキチンの含有量が10質量%以上であり、該キチン含有原料の水分含量が0.01〜25質量%であり、粉砕機が振動ミル又は媒体撹拌式ミルである、低結晶性キチンの製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、キチンの結晶化度を低下させた低結晶性キチンを効率よく、生産性に優れた方法で得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の低結晶性キチンの製造方法は、キチンの結晶化度が35%を超えるキチン含有原料を粉砕機で処理して、該キチンの結晶化度を30%以下に低減する、低結晶性キチンを製造する方法であって、該キチン含有原料から水を除いた残余成分中のキチンの含有量が10質量%以上であり、該キチン含有原料の水分含量が0.01〜25質量%であり、粉砕機が振動ミル又は媒体撹拌式ミルであることを特徴とする。なお、本明細書において、上記粉砕機処理を、非晶化処理ということがある。
【0010】
[キチン含有原料]
本発明に用いられるキチン含有原料は、該原料から水を取り除いた残余成分中のキチンの含有量が10質量%以上、好ましくは15質量%以上、より好ましくは40質量%以上、さらに好ましくは60質量%以上のものである。
前記キチン含有原料としては、特に制限がなく、本来的にはキチン類含有生物中のキチン類のいずれも本発明に使用することができるが、例えば、かに、えびなどの甲殻類の甲殻、微生物の細胞壁、キノコなどを例示することができる。これらの中で、資源が豊富であり、収穫がしやすいなどの理由から、かに、えび、シャコなどの甲殻、あるいはイカの甲を好ましく使用することができる。
前記キチン含有原料の水を除いた残余成分中のキチンの含有量は、従来知られている、例えばハックマンの方法あるいはその改良法によってキチンを単離精製することで、算出することが可能である。
市販のキチンの場合、水を取り除いた残余の成分中のキチン含有量は、一般には85〜99質量%であり、他の成分としてタンパク質、炭酸カルシウム等の無機物等を含む。
【0011】
また、本発明における非晶化処理に用いるキチン含有原料中の水分含量は、0.01〜25質量%であり、0.01〜20質量%が好ましく、0.01〜15質量%がより好ましく、0.01〜10質量%が更に好ましく、0.01〜7質量%が更に好ましく、0.01〜5質量%が更に好ましく、0.01〜3質量%が更に好ましい。キチン含有原料中の水分含量が25質量%以下であれば、容易に粉砕ができるとともに、後述する粉砕処理により結晶化度を容易に低減化させることができる。キチン含有原料中の水分含量が25質量%を超える場合には、後述する非晶化処理の前に、公知の方法によりキチン含有原料中の水分含量を上記範囲になるように調整することが好ましい。
天然由来のキチン含有原料に含まれるキチンには、α及びβの2種の結晶形が知られている。α−キチンは、かに、えびなどの甲殻類の甲殻に多く含有されている。β−キチンは、イカなどの軟体動物の軟骨に多く含有されている。本発明に用いるキチン含有原料に含まれるキチンとしては、生産効率の観点から、α−キチンが好ましい。
【0012】
[キチンの結晶化度]
本発明により製造される低結晶性キチンは、キチンの結晶化度を30%以下に低下させたものである。キチンの結晶化度は、X線回折法による回折強度値から算出される。具体的には、非干渉性散乱や格子の乱れ等の影響を考慮しないで、プロファイル・フィッティングの手法を用いて、結晶性回折線と非晶成分によるハロー部分とにピーク分離し、得られた各ピークの積分強度から、下記計算式(1)によりキチンの結晶化度を算出する。
キチン結晶化度(%)=[ΣIα/(ΣIα+ΣIam)]×100 (1)
[ΣIαは、結晶性回折線の各ピークの積分強度の和、ΣIamは、非晶成分によるハロー(アモルファス部)の回折線の各ピークの積分強度の和である。]
【0013】
また、「低結晶性」とは、キチンの結晶構造において非結晶部分の割合が多い状態を示し、具体的には上記式(1)から算出されるキチンの結晶化度が30%以下であることを意味し、該結晶化度が0%の完全非晶化の場合を含む。
キチンの結晶化度が30%以下であれば、キチンの反応性が向上し、例えば、N−アセチル−D−グルコサミンの製造において、キチナーゼを加えた際に酵素糖化反応の反応転化率を向上させることができる。この観点から、結晶化度としては、20%以下が好ましく、10%以下がより好ましい。さらに、結晶化度の分析で、キチンの結晶部分が検出されない0%が特に好ましい。なお、キチンの結晶化度は、その値が大きいほど、キチンの結晶性が高く、非結晶部分が少ないため、反応性が低下する。
【0014】
本発明における粉砕機処理(非晶化処理)には、粉砕、非晶化をより効率的に行う観点から、嵩密度が50kg/m3以上のキチン含有原料を用いることが好ましい。この嵩密度が50kg/m3以上であれば、キチン含有原料が適度な容積を有するために取扱い性が向上する。また、粉砕機への原料仕込み量を多くすることができるので、処理能力が向上する。これらの観点から、キチン含有原料の嵩密度は60kg/m3以上がより好ましく、75kg/m3以上が更に好ましい。一方、キチン含有原料の嵩密度の上限は、取り扱い性及び生産性の観点から、好ましくは500kg/m3以下、より好ましくは400kg/m3以下である。
また、本発明における粉砕機処理(非晶化処理)には、上記と同様の観点から、平均粒径が0.01〜1mmのキチン含有原料を用いることが好ましい。キチン含有原料の平均粒径は、より好ましくは0.01〜0.7mm、更に好ましくは0.05〜0.5mmである。
【0015】
[キチン含有原料の前処理]
本発明では、キチン含有原料として、嵩密度が50kg/m3未満又は平均粒径が1mmを超えるものを用いる場合、キチン含有原料を前処理することが好ましい。前処理としては、例えば、一般的な粉砕機や押出機等、好ましくは衝撃式の粉砕機や押出機を用いて、キチン含有原料を処理することで、キチン含有原料の嵩密度及び平均粒径を好ましい範囲にすることができる。
前記キチン含有原料を、衝撃式の粉砕機や押出機で処理することにより、圧縮せん断力を作用させ、キチンの結晶構造を破壊して、キチンの含有原料を粉末化させ、所望の平均粒径及び嵩密度を有する粉砕原料が得られ、後述する粉砕機処理における取扱い性を向上させることができる。
【0016】
圧縮せん断力を作用させて機械的に粉砕する、衝撃式の粉砕機(あるいは破砕機)としては、例えば、ハンマーミル(株式会社ダルトン製)、自由型粉砕機ピンミル(株式会社奈良機械製作所製)、フィッツミル(株式会社ダルトン製)、パワーミル(パウレック株式会社製)、コーミル〔クアドロ(Quadoro)社製〕、カッターミル等が挙げられる。
【0017】
押出機としては、単軸、二軸のどちらの形式でもよいが、搬送能力を高める等の観点から、二軸押出機が好ましい。
二軸押出機としては、シリンダの内部に2本のスクリューが回転自在に挿入された押出機であり、従来から公知のものが使用できる。2本のスクリューの回転方向は、同一でも逆方向でもよいが、搬送能力を高める観点から、同一方向の回転が好ましい。
また、スクリューの噛み合い条件としては、完全噛み合い、部分噛み合い、非噛み合いの各形式の押出機のいずれでもよいが、処理能力を向上させる観点から、完全噛み合い型、部分噛み合い型が好ましい。
【0018】
押出機としては、強い圧縮せん断力を加える観点から、スクリューのいずれかの部分に、いわゆるニーディングディスク部を備えることが好ましい。ニーディングディスク部とは、複数のニーディングディスク、例えば3〜20枚、好ましくは6〜16枚のニーディングディスクで構成され、これらを連続して、一定の位相で、例えば90°ずつに、ずらしながら組み合わせたものであり、スクリューの回転にともなって、狭い隙間にキチン含有原料を強制的に通過させることで極めて強いせん断力を付与することができる。スクリューの構成としては、ニーディングディスク部と複数のスクリュエレメントとが交互に配置されることが好ましい。二軸押出機の場合、2本のスクリューが、同一の構成を有することが好ましい。
【0019】
前処理の方法としては、前記キチン含有原料を衝撃式の粉砕機又は押出機に投入し、連続的に処理する方法が好ましい。せん断速度としては、10sec-1以上が好ましく、20〜30000sec-1がより好ましく、50〜3000sec-1が更に好ましく、500〜3000sec-1が更に好ましい。その他の処理条件としては、特に制限はなく、処理温度が好ましくは5〜200℃である。
また、押出機によるパス回数としては、1パスでも十分効果を得ることができるが、キチンの嵩密度及び平均粒径を低下させる観点から、1パスで不十分な場合は、2パス以上行うことが好ましい。また、生産性の観点からは、1〜10パスが好ましい。パスを繰返すことにより粗大粒子が粉砕され、粒径のばらつきが少ない粉末状のキチン含有原料を得ることができる。2パス以上行う場合、生産能力を考慮し、複数の押出機を直列に並べて処理を行ってもよい。
【0020】
[粉砕機処理(非晶化処理)]
本発明では、粉砕機として、振動ミル又は媒体撹拌式ミルを用いて、キチン含有原料を処理することにより、該原料中のキチンの結晶化度を効率的に低減させる。
本発明で用いられる振動ミルとしては、中央化工機株式会社製の振動ミル、ユーラステクノ株式会社製のバイブロミル、株式会社吉田製作所製の小型振動ロッドミル1045型、ドイツのフリッチュ社製の振動カップミルP−9型、日陶科学株式会社製の小型振動ミルNB−O型等を用いることができる。媒体としてロッド又はボールを振動ミルに充填することが好ましい。
【0021】
一方、媒体撹拌式ミルとしては、タワーミル等の塔型粉砕機;アトライター、アクアマイザー、サンドグラインダー等の撹拌槽型粉砕機;ビスコミル、パールミル等の流通槽型粉砕機;流通管型粉砕機;コボールミル等のアニュラー型粉砕機;連続式のダイナミック型粉砕機等が挙げられる。この中で、粉砕効率が高く、生産性の観点から、撹拌槽型粉砕機が好ましい。
粉砕機の種類は「化学工学の進歩 第30集 微粒子制御」(社団法人 化学工学会東海支部編、1996年10月10日発行、槇書店)を参照することができる。
振動ミル又は媒体撹拌式ミルの処理方法としては、バッチ式、連続式のどちらでも良い。
【0022】
粉砕機に充填する媒体の形状としては、ロッド又はボールが好ましい。
媒体の材質としては、特に制限がなく、例えば、鉄、ステンレス、アルミナ、ジルコニア、炭化珪素、窒化珪素、ガラス等が挙げられる。
ロッドとは、棒状の媒体であり、ロッドの断面が四角形、六角形等の多角形、円形、楕円形等のものを用いることができる。
本発明における粉砕機処理としては、ロッドを充填した振動ミルが好ましい。
【0023】
振動ミル又は媒体撹拌式ミル処理において、媒体がロッドの場合には、ロッドの外径としては、好もしくは0.5〜200mm、より好ましくは1〜100mm、更に好ましくは5〜50mmの範囲である。ロッドの長さとしては、粉砕機の容器の長さよりも短いものであれば特に限定されない。ロッドの大きさが上記の範囲であれば、所望の粉砕力が得られるとともに、ロッドのかけら等が混入してキチン含有原料が汚染されることなく効率的にキチンを非晶化させることができる。
【0024】
ロッドの充填率は、振動ミルの機種により好適な範囲が異なるが、好ましくは10〜97%、より好ましくは15〜95%の範囲である。充填率がこの範囲内であれば、キチンとロッドとの接触頻度を向上するとともに、媒体の動きを妨げずに、粉砕効率を向上させることができる。ここで、充填率とは、振動ミルの容積に対するロッドのみかけの体積をいう。
【0025】
振動ミル又は媒体撹拌式ミル処理において、媒体がボールである場合には、ボールの外径としては、好ましくは0.1〜100mm、より好ましくは0.5〜50mmの範囲である。ボールの大きさが上記の範囲であれば、所望の粉砕力が得られるとともに、ボールのかけら等が混入してキチン含有原料が汚染されることなく効率的にキチンを非晶化させることができる。
ボールの充填率は、粉砕機の機種により好適な充填率が異なるが、好ましくは10〜97%、より好ましくは15〜95%の範囲である。充填率がこの範囲内であれば、キチン含有原料を効率よく非晶化することができる。
【0026】
媒体撹拌式ミルを用いる場合の撹拌翼の先端の周速は、好ましくは0.5〜20m/s、より好ましくは1〜15m/sである。
【0027】
振動ミル又は媒体撹拌式ミルの処理時間としては、粉砕機の種類、媒体の種類、大きさ及び充填率等により一概に決定できないが、キチンの結晶化度を効率よく低下させる観点から、好ましくは0.01〜50Hr、より好ましくは0.05〜20Hr、更に好ましくは0.1〜10Hr、更に好ましくは0.1〜5Hrである。処理温度は特に制限がないが、熱による劣化を防ぐ観点から、好ましくは5〜250℃、より好ましくは10〜200℃である。
【0028】
上記の処理方法により、前記キチン含有原料からキチンの結晶化度が30%以下の非晶化キチンを効率よく得ることができ、粉砕機内部に粉砕物が固着せずに、乾式にて処理することができる。
得られる低結晶キチンの平均粒径は、この低結晶性キチンを工業原料として用いる際の反応性及び取扱い性の観点から、好ましくは25〜150μm、より好ましくは30〜100μmである。特に平均粒径が25μm以上であれば、低結晶性キチンを水などの液体と接触させたときに「ママコ」になることを抑えることができる。
【実施例】
【0029】
キチン含有原料及び低結晶性キチンの嵩密度、平均粒径、結晶化度、キチン含有原料の水分含量、及びキチン含有原料から水を除いた残余成分中のキチン含有量の測定は、下記の記載の方法で行った。
(1)嵩密度の測定
嵩密度は、ホソカワミクロン株式会社製の「パウダーテスター」を用いて測定した。測定は、サンプルを規定の容器(容量100mL)に投入し、該容器中のサンプルの質量を測定することにより算出した。
(2)平均粒径の測定
平均粒径は、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置「LA−920」(株式会社堀場製作所製)を用いて測定した。測定条件は、試料測定前に超音波で1分間処理し、測定時の分散媒体として水を用い、体積基準のメジアン径を、温度25℃にて測定した。
【0030】
(3)結晶化度の算出
キチンの結晶化度は、サンプルのX線回折強度を、株式会社リガク製の「Rigaku RINT 2500VC X-RAY diffractometer」を用いて以下の条件で測定し、前記計算式に基づいて算出した。
測定条件は、X線源:Cu/Kα−radiation,管電圧:40kV,管電流:120mA,測定範囲:回折角:5〜45°で測定した。測定用サンプルは、面積320mm2×厚さ1mmのペレットを圧縮し作製した。X線のスキャンスピードは10°/minで測定した。
(4)水分含量の測定
水分含量は、赤外線水分計(株式会社ケット科学研究所製、「FD−610」)を使用し、150℃にて測定を行った。
(5)キチン含有量の測定
キチン含有原料から水を除いた残余成分中のキチン含有量は、キチンを塩酸加水分解し、その加水分解物中のD−グルコサミン(GlcN)の量をアミノ酸自動分析機で測定し、キチン含有量を算出した。
【0031】
実施例1
キチン含有原料として、キチン(和光純薬工業株式会社製試薬、キチン含有原料から水を除いた残余成分中のキチン含有量92.3質量%、キチン中の水分含量2.3質量%、キチンの結晶化度44%、平均粒径165μm、嵩密度107kg/m3)80gを振動ミル(中央化工機株式会社製、「MB−1」、容器全容量3.5L)に投入し、ロッド(断面形状:円形、直径:30mm、長さ:218mm、材質:ステンレス)11本を振動ミルに充填(充填率50%)して、振幅8mm、回転数1200cpmの条件で1時間処理を行った。得られた低結晶性キチンの結晶化度は0%、平均粒径は48μmであり、その温度は、粉砕処理に伴う発熱により40℃であった。粉砕処理終了後、振動ミル内の壁面や底部にキチンの固着物等はみられなかった。結果を表1に示す。
【0032】
実施例2〜5
表1に示すキチン含有原料を用いて、振動ミルの処理時間を表1に示す時間としたこと以外は、実施例1と同様に操作して低結晶性キチンを得た。結果を表1に示す。
【0033】
実施例6
表1に示すキチン含有原料を用い、粉砕機及び媒体の種類を、バッチ式媒体撹拌式ミル(「サンドグラインダー」:容器容積800mL、5mmφジルコニアボールを720g充填、充填率25%、撹拌翼径70mm)に変えて、処理条件を撹拌回転数2000rpm、撹拌速度7.3m/sとし、処理時間を4時間としたこと以外は、実施例1と同様に操作して低結晶性キチンを得た。得られた低結晶性キチンの温度は、処理に伴う発熱により30〜70℃であった。粉砕処理終了後、媒体撹拌式ミル内の壁面や底部にキチンの固着物等はみられなかった。結果を表1に示す。
【0034】
実施例7〜8
キチン含有原料として、かに殻(三陸フィッシュミール株式会社製、キチン含有原料から水を除いた残余成分中のキチン含有量18.1質量%、かに殻中の水分含量8.9質量%、最大20mm×20mm×1.5mmのチップ状、嵩密度313kg/m3)80gをカッターミル(株式会社ダルトン製、「P−02S型」)に投入し、回転数3000rpmの条件で0.3時間処理した。
次に、カッターミル処理して得られたキチン含有原料(キチン含有原料から水を除いた残余成分中のキチン含有量18.1質量%、かに殻中の水分含量8.9質量%、キチンの結晶化度50%、平均粒径212μm、嵩密度387kg/m3)を用いて、媒体撹拌式ミルの処理時間を表1に示す時間に変えたこと以外は、実施例6と同様に操作して低結晶性キチンを得た。結果を表1に示す。
【0035】
比較例1
実施例3で使用したキチン含有原料のキチンの結晶化度及び平均粒径を表2に示す。
【0036】
比較例2及び4
表2に示すキチン含有原料80gをカッターミル(株式会社ダルトン製、「P−02S型」)に投入し、回転数3000rpmの条件で0.3時間処理した。その結果、低結晶性キチンではなく結晶性キチンが得られた。その温度は、処理に伴う発熱により35℃であった。結果を表2に示す。
【0037】
比較例3
キチン(和光純薬工業株式会社製試薬、キチン含有原料から水を除いた残余成分中のキチン含有量92.3質量%)80gをカッターミル(株式会社ダルトン製、「P−02S型」)に投入し、回転数3000rpmの条件で0.3時間処理した。
次に、カッターミル処理して得られたキチン(水分含量28.2質量%、平均粒径226μm、嵩密度134kg/m3)80gを振動ミルに投入し、処理時間を4時間としたこと以外は、実施例1と同様に操作した。その結果、低結晶性キチンではなく結晶性キチンが得られた。結果を表2に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の低結晶性キチンの製造方法は、キチンの結晶化度を30%以下に低減した低結晶性キチンを効率的に、生産性よく得ることができる。得られた低結晶性キチンは、医療、化粧品、健康食品などの各種分野において好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キチンの結晶化度が35%を超えるキチン含有原料を粉砕機で処理して、該キチンの結晶化度を30%以下に低減する、低結晶性キチンを製造する方法であって、該キチン含有原料から水を除いた残余成分中のキチンの含有量が10質量%以上であり、該キチン含有原料の水分含量が0.01〜25質量%であり、粉砕機が振動ミル又は媒体撹拌式ミルである、低結晶性キチンの製造方法。
【請求項2】
粉砕機が、ロッドを充填した振動ミルである、請求項1に記載の低結晶性キチンの製造方法。
【請求項3】
キチン含有原料の平均粒径が、0.01〜1mmである請求項1又は2に記載の低結晶性キチンの製造方法。
【請求項4】
粉砕機の処理時間が、0.01〜50Hrである、請求項1〜3のいずれかに記載の低結晶性キチンの製造方法。
【請求項5】
キチン含有原料に含まれるキチンがα−キチンである、請求項1〜4のいずれかに記載の低結晶性キチンの製造方法。

【公開番号】特開2010−144098(P2010−144098A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−324577(P2008−324577)
【出願日】平成20年12月19日(2008.12.19)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】