説明

低結晶性高強度ポリビニルアルコール系繊維およびその製造方法

【課題】従来の延伸方法に比べて極めて短時間の処理時間で延伸することで、結晶化度が低いにも関わらず高強度のポリビニルアルコール系繊維を提供する。
【解決手段】ポリビニルアルコール系繊維は、結晶化度55%以下かつ強度5cN/dtex以上である。前記ポリビニルアルコール系繊維は、例えば、その配向度が90%以上であってもよく、また、その膨潤度が100%以上であってもよい。また、前記ポリビニルアルコール系繊維は、さらに、水中溶解温度が60〜100℃程度であってもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶化度が低いにも関わらず繊維強度が高いポリビニルアルコール(以下、PVAと略記する)系繊維およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
結晶部と非晶部からなるPVA系繊維では、繊維強度を向上させるために紡糸された原糸の延伸処理が一般的に行われている。延伸処理では、通常、熱風炉にて熱処理しつつ紡糸原糸の延伸が行われているが、十分延伸させるためには、紡糸原糸を長い時間かけて熱処理しつつ延伸する必要がある。そして、延伸された繊維では、内部の結晶化度を向上しており、このような、繊維内部の結晶化度の向上により、繊維強度を向上させることができる。
【0003】
しかし、この場合、外部加熱のみで延伸を行なうと、繊維が均一加熱されるため、非晶部の延伸応力が低下してしまうという問題が存在する。そこで、このような課題を解決するため、特許文献1(特開昭58−109651号公報)には、結晶性高分子を外部加熱を併用し誘電的に加熱しながら連続的に延伸するプラスチックの延伸方法が開示されている。
【0004】
この文献では、非晶部については誘電加熱を利用し、結晶部については外部加熱を利用することによって、繊維を効果的に延伸して繊維の高弾性率化を達成できる。
【0005】
また、特許文献2(特開昭62−152720号公報)には、高強度および高弾性率を有するポリビニルアルコール成形品を得る製造方法が開示されており、この製造方法では、マイクロ波加熱を用いて、ポリビニルアルコール成形品を延伸する際に、延伸温度160℃以下にてマイクロ波加熱を用い、延伸倍率8倍まで延伸し、更にこれを延伸温度170〜210℃にてマイクロ波加熱を用い、延伸倍率を少なくとも15倍以上に延伸することが必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭58−109651号公報
【特許文献2】特開昭62−152720号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1および2の方法では、いずれも、繊維や成形品の強度や弾性率を高くするために、繊維全体の結晶化度を高くすることが必要である。しかしながら、繊維の結晶化度が高くなると、それに起因して繊維の耐疲労性が低下してしまうため、このような繊維は、耐疲労性が要求される用途に使用することはできない。すなわち、繊維の強度と耐疲労性とは、本来、相容れない性質であるため、これらを両立させることは非常に困難である。
また、これらの方法では、熱処理時間が長くなるため、工程時間が長くなってしまうだけでなく、製造上コストがかかることについても問題視されている。
【0008】
そこで、本発明の目的は、結晶化度が低く、耐疲労性に優れているにも関わらず、実用的な強度を有するPVA系繊維を提供することにある。
また、本発明の別の目的は、実用的な強度を有するだけでなく、水中での溶解性に優れているPVA系繊維を提供することにある。
また、本発明のさらに別の目的は、このような特性を有する繊維を、短時間で効率よく製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題点を解決すべく鋭意検討を行った結果、驚くべきことに、PVA系ポリマーを紡糸して得られる紡糸原糸に対して、特定の延伸処理、すなわち、誘電加熱を利用するとともに、極わずかな時間での延伸処理を組み合わせて行うと、(i)延伸による繊維の配向度を高めて繊維強度を向上できるにもかかわらず、(ii)繊維の結晶化度は延伸前と同程度の水準に保持でき、そして(iii)このような繊維は繊維の強度と耐疲労性とを兼ねそろえること、を見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明は、結晶化度55%以下かつ強度5cN/dtex以上であるポリビニルアルコール系繊維(PVA系繊維)である。前記繊維は、例えば、その配向度が90%以上であってもよく、また、その膨潤度が90%以上であってもよく、さらに、水中溶解温度が60〜100℃であってもよい。
【0011】
また、本発明は、このようなPVA系繊維を製造する方法も包含し、前記方法は、PVA系ポリマーを含む紡糸原液を紡糸して紡糸原糸を調製する紡糸工程と、前記紡糸原糸を、マイクロ波出力下、マイクロ波加熱処理時間0.1秒以下で、延伸倍率3〜15倍で延伸する延伸工程と、
を含んでいる。
【0012】
前記紡糸工程は、公知又は慣用の方法により行なうことが可能であるが、乾式紡糸または半溶融紡糸により紡糸するのが好ましい。また、マイクロ波出力下での延伸工程は、一段延伸で行われるのが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、マイクロ波を用い、0.1秒以下の極めて短時間で加熱処理を行って延伸することにより、低結晶性であるにもかかわらず高い強度を有し、耐疲労性に優れるPVA系繊維を得ることができる。そして、このような繊維は、結晶化度に由来して、耐疲労性に優れているため、強度と耐疲労性との両立を達成することができる。
【0014】
また、水中溶解性を有するPVA系繊維では、強度と溶解性との両立が可能となるため、バインダー繊維などとして有効に利用することができる。
【0015】
また、本発明では、従来の延伸方法より極めて短時間の処理時間で延伸することが可能であるため、工程時間を短縮でき、製造上コストを低減することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に用いられる延伸工程の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のPVA系繊維は、PVA系ポリマーを紡糸して得られた紡糸原糸に対して、特定の延伸を行なうことによって製造することが可能である。
【0018】
(PVA系ポリマー)
前記PVA系ポリマーは、ビニルアルコールユニットを主成分とするものであれば特に限定されず、本発明の効果を損なわない限り、所望により他の構成単位(変性ユニット)を有していてもかまわない。このような構造単位としては、例えば、エチレン、酢酸ビニル、イタコン酸、ビニルアミン、アクリルアミド、ピバリン酸ビニル、無水マレイン酸、スルホン酸含有ビニル化合物などが挙げられる。これらの変性ユニットは、単独でまたは組み合わせて使用できる。このような変性ユニットの導入法は共重合による方法でも、後反応による方法でもよい。
【0019】
ビニルアルコールユニットに対する変性ユニットの割合(モル比)は、例えば、(ビニルアルコールユニット)/(変性ユニット)=85/15〜100/0程度、好ましくは88/12〜100/0程度、さらに好ましくは90/10〜100/0程度であってもよい。もちろん本発明の効果を損なわない範囲であれば、目的に応じてポリマー中に、酸化防止剤、凍結防止剤、pH調整剤、隠蔽剤、着色剤、油剤などの添加剤が含まれていてもよい。なお、これらの添加剤は、単独でまたは組み合わせて含まれていてもよい。
【0020】
PVA系繊維を構成するPVA系ポリマーの平均重合度は、目的に応じて適宜選択でき特に限定されるものではないが、得られる繊維の機械的特性や寸法安定性等を考慮すると30℃水溶液の粘度から求めた平均重合度が500〜4000程度のものが好ましく、より好ましくは1000〜3500程度、さらに好ましくは1300〜3000程度である。平均重合度が高すぎると、機械的特性の点では優れるが、結晶性が高くなり、耐疲労性が損なわれる可能性や、溶解時の収縮が大きいなどの水溶性特性が損なわれる可能性がある。一方、平均重合度が低すぎると、結晶性が低くなり、それにより機械的特性が不十分なばかりではなく、繊維製造工程中でポリマー溶出による繊維間の膠着を起こしやすい。
【0021】
また、PVA系ポリマーのケン化度も、目的に応じて適宜選択でき特に限定されるものではないが、得られる繊維の結晶性の点から、例えば、88モル%以上、好ましくは95モル%以上、さらに好ましくは98モル%以上であってもよい。PVA系ポリマーのケン化度が低すぎると、結晶性が極端に低下するので、耐疲労性や低温での水溶解性を付与する点では好ましいが、得られる繊維の機会的特性や工程通過性、製造コストなどの面では好ましくない。
【0022】
(PVA系繊維の製造方法)
PVA系繊維は、前記PVA系ポリマーを含む紡糸原液を紡糸して紡糸原糸を調製する紡糸工程と、前記紡糸原糸を、マイクロ波出力下、処理時間0.1秒以下で、延伸倍率3〜15倍で延伸する延伸工程とを少なくとも含む製造方法によって得ることができる。
【0023】
まず、紡糸工程では、PVA系ポリマーを溶媒に溶解した紡糸原液を調製する。
紡糸原液の溶媒としては、各種極性溶媒を用いることができ、例えば、水、有機溶媒[ジメチルスルホキシド(以下、DMSOと称す)などのスルホキシド類;ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドンなどの窒素含有極性溶媒;グリセリン、エチレングリコールなどの多価アルコール類など]などが挙げられる。これらの溶媒は、単独でまたは組み合わせて用いることができる。これらのうち、供給性、環境負荷への影響の観点から、水が好ましい。
【0024】
紡糸原液中のポリマー濃度は組成、重合度、溶媒、紡糸方法によって異なるが、例えば、30〜65重量%程度であるのが好ましく、より好ましくは35〜60重量%程度である。また、本発明の効果を損なわない範囲であれば、紡糸原液にはPVA系ポリマー以外にも、目的に応じて、酸化防止剤、凍結防止剤、pH調整剤、隠蔽剤、着色剤、油剤などの添加剤などが含まれていてもよい。
【0025】
得られた紡糸原液は、公知又は慣用の湿式紡糸、乾式紡糸、半溶融紡糸などの紡糸方法で紡糸することができるが、これらのうち、乾式紡糸方法または半溶融紡糸方法が好ましく用いられる。乾式紡糸では、空気中あるいは不活性ガス中に紡糸原液が吐出され、半溶融紡糸では、半溶融状態のPVA系ポリマーがノズルから空気中あるいは不活性ガス中に吐出される。これらのうち、結晶化度を低くできる観点から、特に乾式紡糸が好ましい。
【0026】
次いで、調製された紡糸原糸は、マイクロ波出力下、加熱処理時間0.1秒以下で、延伸倍率3〜15倍で延伸する延伸工程へ供される。
【0027】
以下、延伸工程について、図1を用いて説明する。図1は本発明におけるPVA系繊維の延伸工程の一実施態様を示す模式図である。送り出しボビン1には、紡糸工程で得られたPVA系ポリマーの紡糸原糸が巻きつけられている。そして、この紡糸原糸は、送り出しボビン1から送り出しローラ2により送り出され、ついで、マイクロ波加熱装置3に導入される。
【0028】
なお、マイクロ波加熱装置3は、導入された紡糸原糸を通過させることができるとともに、装置内部において導入された紡糸原糸に対し、マイクロ波を所定の条件で照射することができる限り特に限定されず、公知又は慣用のマイクロ波加熱装置を利用することが可能である。
【0029】
マイクロ波加熱装置3では、紡糸原糸が、処理時間0.1秒以下の極めて短時間で加熱され、その後、加熱・延伸された原糸は、巻き取りローラ4を経て、巻き取りボビン5にて巻き取られる。なお、紡糸原糸の延伸倍率は、送り出しローラ2と巻き取りローラ4の間のローラ速度を調節することにより、決定することができる。
【0030】
マイクロ波の出力は、紡糸原糸の量や処理時間に応じて適宜設定することが可能であり、例えば、100〜7500Wの広い範囲から選択することができ、好ましくは300〜2000Wである。なお、この態様では、マイクロ波加熱装置3は所定の発信周波数(2450MHz)、最大出力1.5kWのシングルモードアプリケーターを使用している。また必要に応じて、各種繊維のマイクロ波加熱条件などに合わせて、複数台のマイクロ波加熱装置を、直列に(すなわち、糸の進行方向に)並べて使用することが可能である。
【0031】
延伸倍率は、本発明のPVA系繊維を得ることができる限り特に制限されないが、例えば、3〜15倍であってもよく、好ましくは4〜13倍、さらに好ましくは4〜10倍程度であってもよい。
【0032】
加熱時間は、0.1秒以下であることが必要であり、より好ましくは0.08秒以下である。本発明の特筆すべき点は、このような極めて短い時間内において、マイクロ波加熱を行うことであり、これにより、結晶化度は延伸前とほぼ変化しない低結晶性でありながら繊維強度は5cN/dtex以上と汎用繊維の中では高強度の物性を有する繊維となる。
【0033】
なお、本発明のPVA系繊維を得ることができる限り、PVA系繊維の製造方法に各種付加手段(例えば、外部加熱手段)を設けてもよいが、前記製造方法では、マイクロ波を用いて極めて短時間の加熱処理を行なうため、外部加熱を使用することなくとも、紡糸原糸を延伸することが可能となる。
【0034】
また、本発明のPVA系繊維の製造方法では、所定のPVA系繊維を製造することができる限り、一段延伸であっても、複数回にわたり延伸工程を行なう多段延伸(例えば、二段延伸)であってもよい。本発明では、マイクロ波を用いて一段延伸によって十分量の延伸が可能であるため、延伸工程は、一段延伸で行なう方が生産効率の観点から好ましい。
【0035】
なお、多段延伸の場合、後段での延伸倍率が、前段での延伸倍率よりも低くなるように設定して延伸し、後段の延伸工程になるにつれて延伸倍率を低下させて延伸を行なうのが好ましい。
【0036】
(PVA系繊維)
上記製造方法にて得られる本発明のPVA系繊維は、結晶化度が55%以下であることが必要であり、好ましくは53%以下、より好ましくは50%以下である。PVA系繊維の結晶化度が55%よりも高くなると、繊維の耐疲労性が低下する。また、結晶化度の下限値は、PVA系繊維の紡糸原糸の結晶化度に左右されるが、例えば、40%程度であってもよい。ここでいう結晶化度とは、後述する実施例に記載した方法により測定される値である。
【0037】
またPVA系繊維の繊維強度は5cN/dtex以上であることが必要であり、好ましくは7cN/dtex以上である。繊維強度が5cN/dtex未満であると、本発明の目的とする耐疲労性を要求性能とする用途への展開ができない。PVA系繊維の強度は、実用的な観点から高いほど好ましいが、結晶化度との兼ね合いから、15cN/dtex以下であることが多い。ここでいう繊維強度とは、後述する実施例に記載した方法により測定される値である。
【0038】
PVA系繊維は、モノフィラメント、マルチフィラメント、カットファイバー、紡績糸、布帛(不織布、織編物)などあらゆる形態で使用でき、他の繊維や他の素材と併用してもよい。PVA系繊維の単繊維繊度は、用途に応じて様々な値とすることが可能であり、0.1〜10000dtexの広い範囲から選択することが可能であり、例えば、耐疲労性用途に用いる場合は、1〜500dtex程度が好ましく、2〜100dtex程度が撚り好ましい。
【0039】
PVA系繊維の結晶化度が低くとも、強度を発揮できる観点から、PVA繊維の配向度は、90%以上であるのが好ましく、より好ましくは95%以上であってもよい。なお、ここでいう配向度とは、後述する実施例に記載した方法により測定される値である。
【0040】
また、PVA系繊維は、結晶化度が低いため膨潤度が高く、PVA繊維の膨潤度は、90%以上、好ましくは100%以上であってもよい。ここでいう膨潤度とは、後述する実施例に記載した方法により測定される値である。
【0041】
また、PVA繊維では、その結晶化度に由来して、その水中溶解温度は、例えば、60〜100℃程度であってもよく、好ましくは70〜90℃程度であってもよい。ここでいう水中溶解温度とは、後述する実施例に記載した方法により測定される値である。
【実施例】
【0042】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例により何等限定されるものではない。なお以下の実施例において、各物性値は以下の方法により測定したものである。
【0043】
[繊維強度 cN/dtex]
JIS L1013に準拠し、試長20cm、初荷重0.09cN/dtex、引張速度10cm/minの条件にて測定し、5点以上の平均値を採用した。
【0044】
[PVA繊維の結晶化度 %]
結晶化度に関しての測定は、以下に記載の測定装置および測定方法で行なった。
測定装置:ブルカーエイエックスエス社製二次元検出器搭載X線回折装置「D8 Discover with GADDS」
X線源:CuKα線 λ=0.15418nm
検出器:HiSTAR(二次元PSPC)
サンプルセット方法:赤道線方向の情報を得るため、糸を縦向きにセット
入射X線:11°になるようゴニオメータω角=11°にセット
検出器位置:2θ=22°
管電圧:45kV
電流:110mA
コリメータ径:0.5mm
カメラ距離:15cm
露光時間:300sec。
【0045】
上記方法で得られた2次元像を以下の方法で、X線回折強度曲線に変換した。
データ変換ソフトウェア:ブルカーエイエックスエス社製「Bruker Analytical X-ray Systems GADDS for WNT 4.1.23」
2θ範囲:5°〜38°
χ範囲:−150°〜−30°
ステップ幅:0.02°
強度規格化法:「Bin normalized」。
【0046】
得られたX線回折強度曲線について、以下のカーブフィッティング法でピーク分離を行い、以下に記載の手順で結晶化度を求めた。解析に使用したソフトウェアは、MDI製:JADE Ver.6.0であり、プロファイルフィッティングのモデルはPseudo-Voigt、フィッティング関数はガウス+ローレンツ関数を使用した。
【0047】
i)2θ=5°の回折強度と2θ=38°の回折強度を直線で結び、ベースラインとする。
ii)非晶ピークとして、2θ=18°を中心に、非対称のピークを設定する。形定数=0.35、非対称=−0.6、半価幅=9で入力し、2θ=15°〜17°と30°〜35°付近で実測カーブに接するよう高さを調節する。
iii)結晶ピークとして、2θ=11.5°、16°、20°、23°、28°、32°の位置に左右対称なピークを設定し、高さ・半価幅・形定数を可変にしてフィッティングする。
iv)非晶ピークの高さ・半価幅・形定数・非対称を可変としてフィッティングする。
v)各ピーク、2θを可変としてフィッティングする。
vi)上記iii)〜v)を繰り返し、フィッティングする。
【0048】
上記i)〜vi)により得られた非晶ピークの面積(Aa)と結晶ピークの面積(Ac)より結晶化度を以下の式により算出した。
結晶化度(%)=Ac/(Aa+Ac)×100
【0049】
[PVA繊維の配向度 %]
配向度に関しての測定は、以下に記載の測定装置および測定方法で行なった。
測定装置:ブルカーエイエックスエス社製二次元検出器搭載X線回折装置「D8 Discover with GADDS」
X線源:CuKα線 λ=0.15418nm
検出器:HiSTAR(二次元PSPC)
サンプルセット方法:子午線方向の情報を得るため、糸を横向きにセット
入射X線:37°になるようゴニオメータω角=37°にセット
検出器位置:2θ=74°
管電圧:45kV
電流:110mA
コリメータ径:0.5mm
カメラ距離:10cm
露光時間:300sec。
【0050】
上記方法で得られた2次元像を以下の方法で、方位角方向のX線回折強度曲線に変換した。
データ変換ソフトウェア:ブルカーエイエックスエス社製「Bruker Analytical X-ray Systems GADDS for WNT 4.1.23」
2θ範囲:74°〜76°
χ範囲:−114°〜−64°
ステップ幅:0.1°
強度規格化法:「Bin normalized」。
【0051】
上記方法で得られたピークより半価幅(w)を求め、以下の式により配向度を算出した。
配向度(%)=(180−w)/180×100
【0052】
[膨潤度 %]
繊維を1cm程度にカットし、30℃の水に30分間浸漬した。その後、繊維を濾取し、3000rpmの回転数の遠心分離機で10分間遠心脱水を行い、重量(A)を測定した。脱水を行なった繊維を105℃の乾燥機で4時間放置し、完全に乾燥させ重量(B)を測定した。膨潤度は下記の式にて算出した。
膨潤度(%)={重量(A)−重量(B)}/重量(B)×100
【0053】
[水中溶解温度 ℃]
試験長5cmのPVA繊維のトウに荷重0.9gf/500dtexの錘を取り付けたものを試料とし、該試料を500ccの水(20℃)中で吊るし、昇温速度1℃/分の条件で昇温して、繊維が溶断したときの温度を水中溶解温度として測定した。
【0054】
[実施例1]
(1)材料として重合度1780でケン化度99.9モル%のPVAポリマーを濃度40%になるように原液を作製し、乾式紡糸によりPVA繊維の紡糸原糸を得た。
(2)上記(1)で得られたPVA繊維(14720dtex/213フィラメント)の紡糸原糸(以下、未延伸糸と称する)を、マイクロ波加熱装置(発信周波数;2450MHz、最大出力;1.5kW)を用い、マイクロ波出力550Wで、糸の入速30m/minとし、巻き取り速度を210m/minとし、加熱処理時間0.06秒で延伸した。得られた延伸糸の結晶化度は49%、繊維強度は7cN/dtex、配向度は95%、膨潤度は125%、水中溶解温度は77℃であった。この延伸糸は、実用に耐える強度を有しているだけでなく、結晶化度が低いため、耐疲労性に優れる。また、膨潤度が高いだけでなく、温水中での溶解性も有している。
【0055】
[実施例2]
PVA繊維の未延伸糸およびマイクロ波加熱装置は実施例1と同じものを用いた。該PVA未延伸糸をマイクロ波加熱装置のマイクロ波出力を1800W、糸の入速100m/min、巻き取り速度を800m/minとし、処理時間0.02秒の延伸条件で延伸した。得られた延伸糸の結晶化度は49%、繊維強度は9cN/dtex、配向度は96%、膨潤度は126%、水中溶解温度は73℃であった。この延伸糸は、実用に耐える強度を有しているだけでなく、結晶化度が低いため、耐疲労性に優れる。また、膨潤度が高いだけでなく、温水中での溶解性も有している。
【0056】
[実施例3]
PVA繊維の未延伸糸およびマイクロ波加熱装置は実施例1と同じものを用いた。該PVA未延伸糸をマイクロ波加熱装置のマイクロ波出力を1600W、糸の入速90m/min、巻き取り速度を900m/minとし処理時間0.02秒の延伸条件で延伸した。得られた延伸糸の結晶化度は49%、繊維強度は10cN/dtex、配向度は96%、膨潤度は91%、水中溶解温度は79℃であった。この延伸糸は、実用に耐える強度を有しているだけでなく、結晶化度が低いため、耐疲労性に優れる。また、膨潤度が高いだけでなく、温水中での溶解性も有している。
【0057】
[比較例1]
実施例1と同様の未延伸糸を用いて炉長2.5m、温度235℃の熱風炉にて入速2m/min、巻取り速度24m/min、処理時間35秒で延伸を行ったところ、得られた延伸糸は繊維強度8.5cN/dtexであったが、結晶化度が65%と高いものであった。また、この延伸糸の配向度は94%、膨潤度は12%、水中溶解温度は120℃であった。この延伸糸は、結晶化度が高いため、耐疲労性に劣る。
【0058】
[比較例2]
実施例1と同じ未延伸糸を用いて炉長3m、プレート温度235℃、入速5m/min、巻取り速度60m/min、処理時間16秒で延伸を行ったところ、得られた延伸糸は繊維強度8.9cN/dtexであったが、結晶化度が66%と高いものであった。
【0059】
[比較例3]
実施例1と同じ未延伸糸を用いて、該PVA未延伸糸をマイクロ波加熱装置(発信周波数;2450MHz、最大出力;1.5kW)のマイクロ波出力を600W、糸の入速30m/min、巻き取り速度を180m/minとし処理時間0.1秒の延伸条件で延伸した。得られた延伸糸を、更に、前記マイクロ波加熱装置にて、600Wのマイクロ出力のもと、少なくとも10倍以上の延伸倍率にて延伸したところ、結晶化度は55%であるものの、繊維強度は2cN/dtex、配向度は90%、膨潤度は53%、水中溶解温度は96℃であった。
【0060】
これは、マイクロ波加熱下で延伸倍率6倍にて延伸した糸に対して、更にマイクロ波加熱下で10倍以上の延伸倍率で二段延伸を行なったことにより、繊維の構造破壊が起こったことを示唆しており、それにより極端な強度の低下につながったと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明のPVA系繊維は多くの用途に使用できる。例えば、本発明によって得られたPVA系繊維は補強材として使用する種々の材料の補強材として使用できると共に、軽量であり、高温時においても、耐疲労性に優れていることが望まれるすべての用途に適用できる。特に、高温時の耐疲労性および繊維強度の高さが要求される自動車、自動二輪車のオイルブレーキホースの耐圧層に有用である。
【符号の説明】
【0062】
1 送り出しボビン
2 送り出しローラ
3 マイクロ波加熱装置
4 巻き取りローラ
5 巻き取りボビン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶化度55%以下かつ強度5cN/dtex以上であるポリビニルアルコール系繊維。
【請求項2】
配向度90%以上である請求項1記載のポリビニルアルコール系繊維。
【請求項3】
膨潤度90%以上である請求項1または2記載のポリビニルアルコール系繊維。
【請求項4】
水中溶解温度が60〜100℃である請求項1〜3のいずれか一項に記載のポリビニルアルコール系繊維。
【請求項5】
ポリビニルアルコール系ポリマーを含む紡糸原液を紡糸して紡糸原糸を調製する紡糸工程と、
前記紡糸原糸を、マイクロ波出力下、マイクロ波加熱処理時間0.1秒以下で、延伸倍率3〜15倍で延伸する延伸工程と、
を含むポリビニルアルコール系繊維の製造方法。
【請求項6】
紡糸工程において、乾式紡糸または半溶融紡糸により紡糸する請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
マイクロ波出力下での延伸工程が、一段延伸で行われる請求項5または6に記載の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−52274(P2012−52274A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−197567(P2010−197567)
【出願日】平成22年9月3日(2010.9.3)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】