説明

低複屈折性透明樹脂組成物

【課題】 可視光全域を含む広帯域で複屈折が低い透明樹脂組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】 負の固有複屈折率(Δn0A)を有する熱可塑性樹脂(A)と正の固有複屈折率(Δn0B)を有する熱可塑性樹脂(B)からなる樹脂組成物であって、その固有複屈折率(Δn)の絶対値が1×10−3以下であり、かつ波長450nm、550nmおよび650nmにおけるリタデーションがそれぞれ下記の数式を満足することを特徴とする透明樹脂組成物である。
−10nm≦Re[450]≦10nm (1)
−10nm≦Re[550]≦10nm (2)
−10nm≦Re[650]≦10nm (3)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は複屈折率が低い透明樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶ディスプレイなどによる情報の画面表示、光ディスクによる情報記録、レーザー光学系による光ディスクへの書き込み・消去、レーザープリンターなどによる情報印刷、光ファイバーによる情報伝送など多くの分野で光学部品が使用されている。従来のガラス系材料に比べて、軽量性や耐衝撃性、成形性に優れることから、光学部品の材料として光学樹脂材料用いられているが、成型時に起きる分子配向により複屈折が生じ、光学部品としての機能を損なう場合があり、複屈折のない光学樹脂材料が望まれている。
【0003】
複屈折を低減させる手段として種々の提案がされている。例えば、透明樹脂に、この透明樹脂とは逆符号の固有複屈折率を有する低分子物質を添加する方法(例えば、特許文献1);ノルボルネン系樹脂に、ノルボルネン系樹脂とは逆符号の固有複屈折率を示す重合体を与える単量体でグラフト変性する方法(例えば、特許文献2);透明樹脂に無機微粒子を分散させる方法(例えば、特許文献3)などが挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−110402号公報
【特許文献2】特開2001−318202号公報
【特許文献3】特開2004−35347号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら特許文献1、2、3の方法では特定波長に対しては複屈折を低減できるが、可視光全域(400〜700nm)での複屈折の低減は不十分である。さらに、特許文献1、2の方法では、光学成形品および光学フィルム用途に必要な可とう性も不十分である。
【0006】
本発明の目的は、広帯域で複屈折が低い透明樹脂組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
即ち本発明は、負の固有複屈折率(Δn0A)を有する熱可塑性樹脂(A)と正の固有複屈折率(Δn0B)を有する熱可塑性樹脂(B)からなる樹脂組成物であって、その固有複屈折率(Δn)の絶対値が1×10−3以下であり、かつ波長450nm、550nmおよび650nmにおけるそれぞれのリタデーションがそれぞれ下記の数式を満足することを特徴とする透明樹脂組成物;並びにこの組成物からなる光学成形品および光学フィルムである。
−10nm≦Re[450]≦10nm (1)
−10nm≦Re[550]≦10nm (2)
−10nm≦Re[650]≦10nm (3)
但し、Re[450]、Re[550]、Re[650]はそれぞれ、波長450nm、550nmおよび650nmにおけるリタデーションを表す。
【発明の効果】
【0008】
本発明の透明樹脂組成物は、透明性を損ねることなく、特に可視光全域を含む広帯域で、複屈折が低い光学成形品および光学フィルムの提供が可能になるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の透明樹脂組成物は、負の固有複屈折率(Δn)を有する熱可塑性樹脂(A)と正の固有複屈折率(Δn)を有する熱可塑性樹脂(B)からなり、その固有複屈折率(Δn)の絶対値が1×10−3以下であることが必須であり、かつ波長450nm、550nmおよび650nmにおけるリタデーションの絶対値がいずれも10以下であることを特徴とする。
なお、本発明の「透明性」とは、樹脂組成物を厚さ2±0.2mmの試験片に射出成型した試験片をJIS K 7361−1に記載のシングルビーム法で測定した全光線透過率が85%以上であることをいう。
【0010】
負の固有複屈折率を有する熱可塑性樹脂(A)(以下、樹脂(A)または(A)と略記することがある。)としては、負の固有複屈折率を与えるモノマー(a1)からなる単独重合体、並びに(a1)と共重合可能な1種類以上の他のラジカル重合性モノマー(a2)との共重合体等が挙げられる。これらは単独または2つ以上を同時に使用することができる。
【0011】
負の固有複屈折率を与えるモノマー(a1)としては、芳香族ビニルモノマー(a11)、メタクリル酸アルキル(a12)などが挙げられる。
芳香族ビニルモノマー(a11)としては、スチレン(固有複屈折率:−0.10)、α−メチルスチレン、α−エチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、3−メチルスチレン、4−メチルスチレン、4−イソプロピルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、クロロスチレン、ブロモスチレン、2,4−ジクロロスチレン、2−クロロ−4−メチルスチレン、2,6−ジクロロ−4−メチルスチレン等が挙げられる。
【0012】
メタクリル酸アルキル(a12)としては、メタクリル酸メチル(固有複屈折率:−0.0043)、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル等が挙げられる。これらは単独または2つ以上を同時に使用することができる。
これらのうち負の固有複屈折率を与えるモノマー(a1)としては、固有複屈折率と重合性の観点から芳香族ビニルモノマー(a11)が好ましく、さらにスチレン、α−メチルスチレン、ビニルナフタレン、3−メチルスチレン、4−メチルスチレン、4−イソプロピルスチレン、2,4−ジメチルスチレンが好ましく、特にスチレンが好ましい。
【0013】
固有複屈折率Δn0の測定方法については、例えば特開平6−242301号公報の3頁2列目21〜28行および4頁1列目25〜31行に記載されているのと同様の方法で測定できる。
【0014】
具体的な測定方法の例としては、以下の方法による。
一般にポリマーの配向複屈折率と固有複屈折率とは次の関係式によって表される。
Δn=f・Δn
ここでΔnは配向複屈折率、fは配向関数を表す。固有複屈折率はこの配向複屈折率と配向関数を測定することにより実験的に求めることができる。
配向複屈折および配向関数は以下の方法で求めることができる。
樹脂を熱プレス機で成形した板よりダンベル状に切り出し、延伸温度Tg+10℃、延伸倍率2倍で一軸延伸し試験片を作成する。複屈折の測定は、偏光顕微鏡にてセナルモン型コンペンセーターを用い室温で測定する。また、配向関数の測定は、偏光赤外二色法により測定する。
【0015】
負の固有複屈折率を与える可能性が高いモノマー(a1)の選択に当たって、固有複屈折率(Δn)は次の式(4)、(5)で予想し用いることができる。
【0016】
Δn=2π/9・(n+2)/n・p/M・NA・Δα (4)
Δα=αx−(αy+αz)/2 (5)
【0017】
ここで、pは密度、NAはアボガドロ数、nは平均屈折率、Mは単位ユニットあたりの分子量で、αx、αy、αzはそれぞれのX軸、Y軸、Z軸方向の分極率を示す。
【0018】
上記において、αx、αy、αzは分子軌道計算プログラムMOPAC(CAChe Worksystem ver.3.2 for Windows(登録商標),富士通株式会社)により計算することができる。これにより負の固有複屈折率を与えるモノマーを予想することができる。
【0019】
負の固有複屈折率を与える可能性が高いモノマー(a1)と共重合可能な1種類以上の他のラジカル重合性モノマー(a2)としては、例えば無水マレイン酸、無水イタコン酸及び無水アコニット酸等の不飽和多塩基酸無水物;エチレン、プロピレン及びブテン等の炭素数2〜12のオレフィン系炭化水素;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート及びブチル(メタ)アクリレート等のアルキル基の炭素数1〜12の(メタ)アクリル酸アルキルエステル系モノマー;(メタ)アクリルアミド及びアルキル置換(メタ)アクリルアミド等のアクリルアミド系モノマー;メチルビニルエーテル等のアルキル基の炭素数1〜8のアルキルビニルエーテル系モノマー;酢酸ビニル等のカルボン酸の炭素数2〜12のカルボン酸ビニルエステル系モノマー等が使用される。これらは単独または2つ以上を同時に使用することができる。これらのうち耐熱性の観点から不飽和多塩基酸無水物が好ましい。
【0020】
樹脂(A)の固有複屈折率は、好ましくは−0.150〜−0.001、さらに好ましくは−0.13〜−0.002である。−0.001以下であれば延伸フィルムの負の複屈折を十分に発現することができ、−0.150以上であれば透明樹脂組成物の複屈折の調整が容易である。
【0021】
樹脂(A)を構成するモノマーの重量比をWa、Wb、Wc・・・とし、構成モノマーの単独重合体の固有複屈折率をΔn0a、Δn0b、Δn0c・・・としたとき、樹脂(A)の固有複屈折率(Δn0A)は次の式(6)で求められる。
【0022】
Δn0A=[Wa×Δn0a+Wb×Δn0b+Wc×Δn0c+・・・]/(Wa+Wb+
Wc+・・・) (6)
固有複屈折率を上記の範囲にするためには、構成するモノマー及び重量比を式より選定する。
【0023】
樹脂(A)中の芳香族ビニルモノマー含有量は、固有複屈折率の観点から、好ましくは30重量%(以下において、%は特に限定しない限り重量%を表す)以上、さらに好ましくは35%以上、特に好ましくは40%以上である。30%以上で樹脂(A)の固有複屈折率を−0.150〜−0.001の範囲に設計しやすい。
【0024】
樹脂(A)の重量平均分子量[以下、Mwと略記]は、成形品の可とう性および成形性の観点から好ましくは40,000〜200,000、さらに好ましくは50,000〜180,000である。
【0025】
また、樹脂(A)の分子量分布は、成形品の可とう性および耐熱性の観点から好ましくは1〜3.5、さらに好ましくは1〜3.0である。該分子量分布は、Mw/数平均分子量(以下、Mnと略記)の比(Mw/Mn)として定義されるものとする。なお、MwおよびMnはゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)法により測定される。
【0026】
分子量分布を上記の好ましい範囲にするには、重合工程中のモノマー濃度と開始剤ラジカルの濃度の比が重合初期と後期で出来るだけ一定になるように、反応温度、ラジカル開始剤の種類、並びにモノマーと開始剤のそれぞれの仕込み方法(滴下速度など)を選定する方法が挙げられる。
【0027】
樹脂(A)は、モノマーを必要により溶剤で希釈した後、ラジカル重合開始剤によって重合を行う事で得ることが出来る。
【0028】
溶剤としては、グリコールエーテル類(エチレングリコールモノアルキルエーテルおよびプロピレングリコールモノアルキルエーテルなど)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンおよびシクロヘキサノンなど)、およびエステル類(ブチルアセテート、エチレングリコールアルキルエーテルアセテートおよびプロピレングリコールアルキルエーテルアセテートなど)が挙げられる。溶剤のうち好ましいのはケトン類およびエステル類である。
【0029】
溶剤を使用する場合、その使用量は特に限定されないが、モノマーの合計重量に基づいて通常、1〜400%、好ましくは5〜300%、特に好ましくは10〜200%である。重合開始剤としては、過酸化物及びアゾ化合物が挙げられる。
【0030】
過酸化物としては、無機過酸化物(例えば、過酸化水素、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウムなど)、および有機過酸化物(例えば、過酸化ベンゾイル、ジ−t−ブチルパーオキサイド、クメンヒドロパーオキサイド、ラウリルパーオキシドなど)などが挙げられる。アゾ化合物としては、アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、アゾビスシアノ吉草酸およびその塩(例えば塩酸塩など)、およびアゾビス(2−アミジノプロパン)ハイドロクロライドなどが挙げられる。好ましいものとしては、アゾ化合物である。重合開始剤の使用量としては、モノマーの合計重量に基づいて、通常、0.0001〜20%が好ましく、さらに好ましくは0.001〜15%、特に好ましくは0.005〜10%である。反応温度および反応時間は、ラジカル重合開始剤の種類により適宜決定される。
【0031】
溶剤を使用して重合して得られた樹脂(A)の溶液は、加熱して溶剤を除去するか、もしくは大量の沈殿溶剤を加えて樹脂成分を沈殿させ取り出して乾燥させるなどの通常の精製方法で(A)を得ることができる。
【0032】
樹脂(A)のガラス転移温度[以下、Tgと略記。測定はJIS K 7121に準じ、示差走査熱量測定(DSC)法による。]は、好ましくは100〜250℃、さらに好ましくは110〜220℃である。100℃以上であれば成形品の耐熱性がさらに良好であり、250℃以下であれば成形性がさらに良好に発揮できる。
Tgを上記の範囲にするためには、各ホモポリマーのTg(例えばPolymer Handbook 4th editionに記載のもの)から下式により共重合体のTgを推測する。
1/(共重合ポリマーのTg)=Σ(各ホモポリマーのモル分率)/(各ホモポリマーのTg)
【0033】
樹脂(A)の溶解度パラメータ(以下、SP値と略記する。)は、通常8〜14、好ましくは9〜13である。
【0034】
本発明におけるSP値は、Fedorsらが提案した下記の文献に記載の方法によって重合体の構成単位のSP値のモル分布による平均値として計算されるものである。
「POLYMER ENGINEERING ANDSCIENCE, FEBRUARY,1974,Vol.14,No.2,ROBERT F.FEDORS」の147〜154頁
SP値が近いもの同士はお互いに混ざりやすく(分散性が高い)、この数値が離れているものは混ざりにくいことを表す指標である。
【0035】
本発明の透明性樹脂組成物で、もう1つの必須成分である正の固有複屈折率を有する熱可塑性樹脂(B)(以下、樹脂(B)または(B)と略記することがある。)としては、ポリエステル樹脂(B1)、脂環構造含有重合体(B2)、ポリオレフィン樹脂(B3)、ポリカーボネート樹脂(B4)、ビニル樹脂(B5)[但し、脂環構造含有重合体(B2)とポリオレフィン樹脂(B3)を除くビニル樹脂]、ポリアミド樹脂(B6)、ポリエーテル樹脂(B7)などが挙げられる。
【0036】
ポリエステル樹脂(B1)としては、ジカルボン酸(b11)およびジオール(b12)から形成される重縮合体、2官能オキシカルボン酸(b13)から形成される重縮合体、ジカルボン酸(b11)およびビスフェノール(b14)から形成される重縮合体、ジカルボン酸(b11)およびビフェニル(b15)から形成される重縮合体が挙げられる。
【0037】
(b11)としては、脂肪族ジカルボン酸(炭素数4〜24、例えば、シュウ酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、スバリン酸、ドデカン二酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸およびメサコン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、シクロヘプタンジカルボン酸、シクロヘキセンジカルボン酸およびシクロヘプテンジカルボン酸)、芳香族ジカルボン酸(炭素数8〜24、例えば、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’−ベンゾフェノンジカルボン酸、4,4’−ジフェノキシエタンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルスルホンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸)が挙げられる。
(b12)としては、脂肪族ジオール(炭素数2〜24、例えば、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,6−シクロヘキサンジメタノール)、芳香族ジオール(炭素数8〜24、例えば、1,2−ジフェニルエタン−1,2−ジオール、1,1,2,2,−テトラフェニルエタン−1,2−ジオール、ベンゼン−1,2−、−1,3−および−1,4−ジメタノール、)、およびそれらのアルキレンオキシド(以下AOと略記)付加物が挙げられる。
(b13)としては、2官能脂肪族オキシカルボン酸(炭素数2〜24、例えば、乳酸、グリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、2−ヒドロキシ−n−酪酸、2−ヒドロキシ−3−ジメチル酪酸、2−ヒドロキシ−3−メチル酪酸、2−メチル乳酸、2−ヒドロキシ−n−吉草酸、2−ヒドロキシカプロン酸)、2官能芳香族オキシカルボン酸(炭素数7〜24、例えば、オキシ安息香酸、ヒドロキシナフトエ酸、ヒドロキシフェニル酢酸)、およびそれらの環状単量体エステルなどが挙げられる。
(b14)としては、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ビスフェノールAP、テトラメチルビスフェノールAおよび4,4’−ジヒドロキシジフェニル−2,2−ブタンなどが挙げられる。
(b15)としては、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジヒドロキシビフェニルなどが挙げられる。
【0038】
Tgは樹脂を構成する(b11)および(b12)を選択することにより調整でき、具体的には芳香族ジカルボン酸および芳香族ジオールの割合を増やすことによりTgを高めることができる。
SP値は樹脂を構成する(b11)および(b12)を選定することにより調整でき、具体的には脂肪族ジカルボン酸および脂肪族ジオールを増やすことによりSP値を下げることができる。
【0039】
脂環構造含有重合体(B2)としては、ノルボルネン系重合体(b21)、単環の環状オレフィン系重合体(b22)、環状共役ジエン系重合体(b23)、ビニル脂環式炭化水素重合体(b24)などが挙げられる。
(b21)としては、ノルボルネン系モノマーの開環重合体、ノルボルネン系モノマーとこのモノマーと開環共重合可能な他のモノマーとの開環共重合体、これらの重合体の水素化物、ノルボルネン系モノマーの付加重合体、ノルボルネン系モノマーとこのモノマーと共重合可能な他のモノマーとの付加共重合体などが挙げられる。
ノルボルネン系モノマーとしては、例えば、ノルボルネン、ジシクロペンタジエン、メタテトラヒドロフルオレン、テトラシクロドデセン、およびそれらの誘導体などが挙げられる。
ノルボルネン系モノマーと開環共重合可能なモノマーとしては、単環の環状オレフィン系モノマー(炭素数3〜20、例えば、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン)などが挙げられる。
ノルボルネン系モノマーと付加共重合可能なモノマーとしては、α−オレフィン(炭素数2〜20、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン)、シクロオレフィン(炭素数3〜20、例えば、シクロブテン、シクロペンテン)、非共役ジエン(炭素数5〜20、例えば、1,4−ヘキサジエン、4−メチル−1,4−ヘキサジエン)、およびそれらの誘導体などが挙げられる。
(b22)としては、上記単環の環状オレフィン系モノマーの付加重合体およびその水素化物が挙げられる。
(b23)としては、環状共役ジエン(炭素数4〜20、例えば、シクロペンタジエン、シクロヘキサジエン)の1,2−または1,4−付加重合体およびその水素化物などが挙げられる。
(b24)としては、ビニル脂環式炭化水素(炭素数7〜20、例えば、ビニルシクロへキセン、ビニルシクロヘキサン、ビニルシクロオクタン)の重合体およびその水素化物、ビニル芳香族炭化水素(炭素数8〜20、例えば、スチレン、α−メチルスチレン)の重合体を水素化してなる水素化物、上記ビニル脂環式炭化水素またはビニル芳香族炭化水素とこれらと共重合可能な他のモノマーとの重合体、およびその水素化物などが挙げられる。
【0040】
ポリオレフィン樹脂(B3)としては、α−オレフィン(前記に同じ)を(共)重合させてなるポリオレフィン樹脂が挙げられる。
【0041】
ポリカーボネート樹脂(B4)としては、例えばビスフェノール(例えばビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ビスフェノールAP、テトラメチルビスフェノールAおよび4,4’−ジヒドロキシジフェニル−2,2−ブタン)系およびビフェニル(例えば4,4’−ジヒドロキシビフェニル)系ポリカーボネート、例えば上記ビスフェノールまたはビフェニルとホスゲンまたは炭酸ジエステルとの縮合物が挙げられる。
【0042】
脂環構造含有重合体(B2)、ポリオレフィン樹脂(B3)を除くビニル樹脂(B5)としては、正の固有複屈折率を与えるモノマー(b51)からなる単独重合体、並びに(b51)と共重合可能な1種類以上の他のラジカル重合性モノマー(上記(a2)と同じ)との共重合体等が挙げられ、これらは単独または2つ以上を同時に使用することができる。例えば、ポリハロゲン化ビニル[例えばポリ塩化ビニル、ポリ臭化ビニル、ポリフッ化ビニルおよびポリヨウ化ビニル]、ポリ酢酸ビニル、スチレン樹脂[例えば、アクリロニトリル/スチレン(AS)樹脂およびアクリロニトリル/ブタジエン/スチレン(ABS)樹脂]、ポリビニルアルコール、ポリメチルビニルエーテル、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリル酸エステル[例えば、ポリ(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、ポリ(メタ)アクリル酸ドデシル、ポリ(メタ)アクリル酸オレイル]が挙げられる。
(b51)としては、ハロゲン化ビニル、酢酸ビニル、ビニルアルコール、ビニルエーテル、(メタ)アクリル酸、環構造を有さない炭素数9〜30の(メタ)アクリル酸アルキルエステルなどが挙げられる。
【0043】
ポリアミド樹脂(B6)としては、ポリカプラミド(6−ナイロン)、ポリヘキサメチレンアジポアミド(6,6−ナイロン)、ポリヘキサメチレンセバカミド(6,10−ナイロン)、ポリウンデカンアミド(11−ナイロン)、ポリ−ω−アミノヘプタン酸(7−ナイロン)およびポリ−ω−アミノノナン酸(9−ナイロン)などが挙げられる。
【0044】
ポリエーテル樹脂(B7)としては、ポリオキシメチレン、ポリオキシエチレン、ポリオキシフェニレンおよびポリ−1,3−ジオキソランなどが挙げられる。
【0045】
これらの熱可塑性樹脂(B)のうち、熱可塑性樹脂(A)との相溶性およびリタデーションの観点から、ポリエステル樹脂(B1)、脂環構造含有重合体(B2)、ポリカーボネート樹脂(B4)およびポリアミド樹脂(B6)が好ましく、さらに好ましいのはポリエステル樹脂(B1)およびポリアミド樹脂(B6)、特に好ましいのはポリエステル樹脂(B1)である。
【0046】
上記の好ましいポリエステル樹脂(B1)としては、ジカルボン酸(b11)およびジオール(b12)から形成される重縮合体が好ましく、リタデーションの観点からさらに好ましいのは(b11)として芳香族ジカルボン酸、(b12)として芳香族ジオールおよびそのAO付加物のうち少なくとも1種からなる芳香族環含有ポリエステル樹脂である。
【0047】
樹脂(B)の固有複屈折率は、好ましくは0.001〜0.25、さらに好ましくは0.002〜0.20である。0.001以上であれば延伸フィルムの正の複屈折を十分に発現することができ、0.25以下であれば透明樹脂組成物の複屈折の調整が容易である。
【0048】
樹脂(B)中の芳香環の含有量は、好ましくは10〜80%、さらに好ましくは15〜75%、特に好ましくは20〜70%である。10%以上で樹脂(B)の固有複屈折率を0.001〜−0.25の範囲に設計しやすく、80%以下で成形品の可とう性が良好となる。
【0049】
樹脂(B)のMwは、成形品の可とう性および成形性の観点から好ましくは4,000〜200,000、さらに好ましくは5,000〜180,000である。
【0050】
熱可塑性樹脂(A)と熱可塑性樹脂(B)の重量割合(A)/(B)は、リタデーションおよび固有複屈折率の観点から、好ましくは95/5〜30/70、さらに好ましくは90/10〜35/65、特に好ましくは88/12〜40/60である。(A)/(B)が90/10を超えると固有複屈折が正に大きくなるか、固有複屈折は小さいがリタデーションが大きくなる。(A)/(B)が10/90より小さくなると固有複屈折が負に大きくなるか、固有複屈折は小さいがリタデーションが大きくなる。
【0051】
本発明の透明樹脂組成物の測定波長450nm、550nmおよび650nmにおけるそれぞれのリタデーションRe[450]、Re[550]およびRe[650]は、通常−10〜10nmであり、光学成形品および光学フィルムの複屈折の観点から好ましくは−8〜8nm、さらに好ましくは−7〜7nm である。
−10nm未満あるいは10nmを超えると、各波長の光に複屈折が生じ、本光学フィルムを使用した液晶ディスプレイの色相の低下や本光学成形品を使用した光ディスクの記録精度低下を引き起こす。
例えば、Re[450]が−10nm未満あるいは10nmを超えると青色付近の光に複屈折が生じるため、液晶ディスプレイの色相は黄色味がかり、光ディスクの内、ブルーレイ用光ディスクの記録精度が低下する。
Re[550]が−10nm未満あるいは10nmを超えると黄色付近の光に複屈折が生じるため、液晶ディスプレイの色相は赤味および青味が強くなり、光ディスクの内、DVD用光ディスクの記録精度が低下する。
Re[650]が−10nm未満あるいは10nmを超えると赤色付近の光に複屈折が生じるため、液晶ディスプレイの色相は青味が強くなり、光ディスクの内、CD用光ディスクの記録精度が低下する。
ここで、リタデーションは、本発明の透明樹脂組成物を押出成形して得られたフィルム(厚み100±3μm)を延伸温度Tg+10℃、延伸倍率2倍で一軸延伸し、これをリタデーション測定装置(例えば大塚電子社製LETS−100)を用いて測定して求める。
【0052】
リタデーションは下記(7)式で定義される。
リタデーション=(nx−ny)×d (7)
式中のnxはフィルム面内において延伸方向をxとした場合のx方向の屈折率、nyはフィルム面内においてx方向に垂直な方向をyとした場合のy方向の屈折率、dはフィルムの厚み(nm)である。
【0053】
本発明の透明樹脂組成物の固有複屈折率の絶対値は、通常1×10−3以下、光学成形品および光学フィルムの複屈折の観点から好ましくは0.8×10−3、さらに好ましくは0.6×10−3である。絶対値が1×10−3を超えると光に複屈折が生じ、本光学フィルムを使用した液晶ディスプレイの色相および輝度の低下や本光学成形品を使用した光ディスクの記録精度低下を引き起こす。
【0054】
本発明の透明性樹脂組成物は、特定の物性を有する前述の樹脂(A)と樹脂(B)の2つを必須成分とするが、さらにゴム質重合体(C)を配合することにより、光学成形品および光学フィルムの可とう性を向上させることができる。
このようなゴム質重合体(C)としては、芳香族ビニルモノマー(c1)と共役ジエンモノマー(c2)を必須構成単位とするゴム質重合体が挙げられさらに(c1)、(c2)と共重合可能な1種以上の他のラジカル重合性モノマー(c3)の共重合体が挙げられる。
【0055】
芳香族ビニルモノマー(c1)としては、熱可塑性樹脂(A)で詳述した前記(a11)と同様のモノマーが挙げられ、反応性および入手しやすさの観点から、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルナフタレン、3−メチルスチレン、4−メチルスチレン、4−イソプロピルスチレン、2,4−ジメチルスチレンが好ましく、さらにスチレンが好ましい。
【0056】
共役ジエンモノマー(c2)としては、ブタジエン 、イソプレン、2,3,−ジメチル−1,3−ブタジエン 、1,3−ペンタジエン、2−メチル−1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン、4,5−ジエチル−1,3−オクタジエン、3−ブチル−1,3−ブタジエン 、3−ブチル−1,3−ペンタジエン、3−ブチル−1,3−ペンタジエン、3−ブチル−1,3−ヘキサジエン、3−ブチル−1,3−オクタジエン等が挙げられる。これらのうち重合性、成形品の可とう性、耐熱性の観点から好ましくはブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン、さらに好ましくはブタジエンである。
【0057】
芳香族ビニルモノマー(c1)、共役ジエンモノマー(c2)と共重合可能な1種以上の他のラジカル重合性モノマー(c3)としては不飽和カルボン酸[炭素数3〜20、例えば、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、シクロヘキセンモノカルボン酸]、(メタ)アクリル酸エステル[炭素数4〜20、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、マレイン酸ジメチル]、オレフィン系炭化水素(炭素数2〜12、例えばエチレン、プロピレン、ブテン、1−オクテン、1−ドデセン)、アクリルアミド系モノマー(炭素数3〜15、例えばアクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド)、アルキルビニルエーテル系モノマー(炭素数3〜12、例えばメチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル)、カルボン酸ビニルエステル系モノマー(炭素数3〜12、例えば酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル)などが挙げられる。これらは単独または2つ以上を同時に使用することができる。これらのうち成形品の耐熱性および可とう性の観点から好ましくは不飽和カルボン酸、(メタ)アクリル酸エステルおよびオレフィン系炭化水素である。
【0058】
ゴム質重合体(C)中の、共役ジエンモノマー(c2)から構成される単位は好ましくは1〜60重量%、さらに好ましくは2〜50重量%、特に好ましくは3〜40重量%である。1重量%以上であれば成形品の可とう性がさらに良好に発揮でき、60重量%以下であれば成形性がさらに良好に発揮できる。
また、(C)中の、(c1)から構成される単位は通常10〜99重量%、好ましくは15〜95重量%、(c3)から構成される単位は、通常5〜99重量%、好ましくは10〜95重量%である。
【0059】
市販品としては、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体[「JSR TR2250」(JSR製)、「KRATON D−1102」(Shell製)]、「アサプレンT−411」(旭化成ケミカルズ製)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体[「サンタックUT−61」、日本エイアンドエル製、「マレッカ K−090」(電気化学工業製)、「クララスチック GA−101」(日本エイアンドエル製)]、メチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン共重合体、「デンカTH−11」(電気化学工業製)、「カネエース B−22」(カネカ製)、「KCA−801」(ロームアンドハース製)などが挙げられ入手できる。
【0060】
本発明の透明樹脂組成物は、(A)、(B)、(C)を(A)〜(C)の合計重量に基づいて、それぞれ下記の量含有する。
【0061】
(A)は、リタデーションの観点から、好ましくは10〜90%、さらに好ましくは15〜85%、特に好ましくは20〜80%である。
【0062】
(B)は、リタデーションの観点から、好ましくは10〜80%、さらに好ましくは15〜75%、さらに好ましくは20〜70%である。
【0063】
(C)は、成形品の可とう性の観点から、好ましくは0.5〜80%、さらに好ましくは1〜50%、特に好ましくは3〜20%である。0.5%以上であれば成形品の可とう性がさらに良好に発揮でき、80%以下であれば成形性がさらに良好に発揮できる。
【0064】
該組成物は、必要により本発明の効果を阻害しない範囲で、その他の添加剤(D)を含有していてもよい。(D)としては、着色剤(D1)、補強剤(D2)、滑剤(D3)、帯電防止剤(D4)、分散剤(D5)、難燃剤(D6)、酸化防止剤(D7)および紫外線吸収剤(D8)からなる群から選ばれる1種または2種以上が挙げられる。
【0065】
着色剤(D1)としては、顔料、例えば白色顔料(酸化チタン、亜鉛華、硫酸バリウム、炭酸カルシウム等)、黒色顔料(カーボンブラック、鉄黒、アニリンブラック等)、黄色顔料、金属粉末顔料が挙げられる。
【0066】
補強剤(D2)としては、金属粉、金属酸化物(アルミナ、ケイ灰石、シリカ、タルク、マイカ、焼成カオリン等)、金属水酸化物、金属塩、繊維、マイクロバルーン、炭素類、金属硫化物、有機粉等が挙げられる。(D2)の平均粒径は、300nm以下が好ましく、さらに好ましくは150nm以下である。
【0067】
滑剤(D3)としては、炭化水素、高級脂肪酸、高級脂肪酸アミド、高級脂肪酸エステル、高級アルコールおよび金属石鹸等が挙げられる。
【0068】
帯電防止剤(D4)としては、米国特許第3,929,678および4,331,447号明細書に記載の、非イオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤および両性界面活性剤が挙げられる。
【0069】
分散剤(D5)としては、Mn1,000〜100,000のポリマー、例えばポリオレフィン、プロピレン/ブテン共重合体およびエチレン/プロピレン/ブテン共重合体、変性ポリオレフィン、酸化ポリプロピレン、エポキシ変性ポリエチレン、ポリビニルおよびポリスチレン;ポリエステル;ポリアミド;ポリエーテル;ポリカーボネート;およびそれらのブロック共重合体等が挙げられる。
【0070】
難燃剤(D6)としては、有機難燃剤〔リン含有化合物[リン酸エステル(トリクレジルホスフェート等)等]、臭素含有化合物(テトラブロモビスフェノ−ルA、デカブロモビフェニルエーテル等)、塩素含有化合物(塩素化パラフィン、無水ヘット酸等)等〕、無機難燃剤〔三酸化アンチモン、水酸化マグネシウム、ホウ酸塩、ホウ酸亜鉛、メタホウ酸バリウム、水酸化アルミニウム、赤リン、水酸化マグネシウム、ポリリン酸アンモニウム等〕等が挙げられる。
【0071】
酸化防止剤(D7)としては、ヒンダードフェノール系、含イオウ系、含リン系のもの等が挙げられる。
【0072】
紫外線吸収剤(D8)としては、サリチレート系、ベンゾトリアゾール系等が挙げられる。
【0073】
本発明の樹脂組成物の製造方法には、
(1)(A)、(B)および必要により(C)、(D)をそれぞれ全量溶融混合する方法、(2)少量の(A)および/または(B)、必要により(C)および(D)を溶融混合して、マスターバッチを作成した後、残りの(A)および/または(B)を加えて溶融混合する方法[マスターバッチ法]、および(3)(A)、(B)、および必要により(C),(D)をトルエン等の有機溶剤に溶解し混合した後、溶剤を留去する方法が含まれる。
溶融温度は(A)、(B)および(C)の溶融温度および分解温度の観点から好ましくは110〜330℃、さらに好ましくは150〜300℃である。
上記有機溶剤としては、例えば炭化水素、セロソルブ、ケトン、アルコール、エステルおよびアミドが挙げられる。
溶解性および溶剤留去のし易さの観点から好ましいのは炭化水素、エーテル、アミドおよびケトン、さらに好ましいのは炭化水素およびケトンである。
【0074】
溶融混合装置としては、例えばバッチ混練機〔例えばバンバリー[商品名:Farrel(株)製]およびニーダー〕、連続混練機〔例えばFCM[商品名:Farrel(株)製]、LCM[商品名:(株)神戸製鋼所製]およびCIM[商品名:(株)日本製鋼所製]〕、単軸押出機および二軸押出機が挙げられる。
【0075】
本発明の光学成形品は、上記組成物を成形することにより得られる。成形方法としては、例えば押出成形、射出成形、圧縮成形、トランスファー成形、スタンパブル成形、ブロー成形、延伸フィルム成形、積層成形およびカレンダー成形が挙げられる。
【0076】
本発明の光学フィルム は、上記組成物を成形することにより得られる。成形方法としては、例えば押出成形、キャスト成形、インフレーション成形が挙げられる。例えば、Tダイ、円形ダイ等が装着された押出機等を用いて、未延伸フィルムを押出成形することができる。また、有機溶媒(前記に同じ)に溶解後、キャスト乾燥固化することにより未延伸フィルムをキャスト成形することができる。
【0077】
該未延伸フィルムは、機械的流れ方向に縦一軸延伸する方法、機械的流れ方向に直交する方向に横一軸延伸する方法等によって一軸延伸フィルムを製造することができ、またロール延伸とテンター延伸の逐次二軸延伸法、テンター延伸による同時二軸延伸法、チューブラー延伸による二軸延伸法等によって二軸延伸フィルムを製造することができる。
本発明の光学フィルム の延伸温度は、該未延伸フィルムのガラス転移温度をTgとすると、Tg+5℃〜Tg+40℃である。延伸光学フィルム の透明性およびフィルムの厚み精度の観点から、Tg+5℃〜Tg+35℃であることがさらに好ましく、Tg+10℃〜Tg+30℃であることが最も好ましい。
【実施例】
【0078】
以下、実施例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例中の部は重量部。%は重量%を表す。
【0079】
なお、熱可塑性樹脂(A)及び熱可塑性樹脂(B)の重量平均分子量(Mw)、Tgは下記の測定法で測定した。また、固有複屈折率とSP値は既に記載した方法で測定した。
【0080】
<重量平均分子量Mwの測定>
GPC測定機器(HLC−8120GPC、東ソー(株)製)、カラム(TSKgel GMHXL2本+TSKgel Multipore HXL−M、東ソー(株)製)を用いて、GPC法により測定されるポリスチレン換算の値として求めた。
【0081】
<Tgの測定>
JIS K 7121に準拠し、示差走査熱量測定(DSC)法にてTg(℃)を測定した。
【0082】
製造例1
攪拌器、温度計、冷却管、ガス導入管を備えた500ミリリットル四つ口フラスコにスチレン75部、無水マレイン酸25部、メチルエチルケトン200部およびアゾビスイソブチロニトリル0.2部を加え、窒素ガスで充分置換したのち、少量の窒素ガスを通しながら75℃で6時間重合させた。冷却後、重合物を大量のヘキサン中に加え、沈澱したポリマーをろ過、100℃で乾燥し、固有複屈折率 −0.07、SP値11.6 、Mw160,000、Tg146℃の重合体(A−1)を得た。
【0083】
製造例2
製造例1において、無水マレイン酸に代えて、4−ビニルナフタレンを用いたこと以外は製造例1と同様に行い、固有複屈折率−0.12、SP値10.7 、Mw150,000、Tg104℃の本発明の熱可塑性樹脂の重合体(A−2)を得た。
【0084】
製造例3
製造例1において、スチレン85部、無水マレイン酸15部に代えて、スチレン20部、メタクリル酸メチル70部、メタクリル酸10部を用いたこと以外は製造例1と同様に行い、固有複屈折率−0.01、SP値 11.0、Mw120,000、Tg106℃の重合体(A−3)を得た。
【0085】
製造例4
攪拌器、温度計、冷却管、ガス導入管を備えた500ミリリットル四つ口フラスコに、ビスフェノールA52.5部およびキシレン 100部を加え、窒素ガスで十分置換した後、少量の窒素ガスを通気しながら130℃で攪拌して溶解させた。この混合物の温度を130℃に保ち、テレフタル酸クロリド47.5部を3時間かけて滴下した後、副生する塩化水素を反応系外へ除去しながら、135℃で8時間反応させた。反応液を100℃まで冷却後、末端停止剤としてフェノール0.045部を添加し、100℃で2時間反応させた。反応液を室温まで冷却後、大量のヘキサン中に加え、沈殿したポリマーをろ過、100℃で乾燥し、固有複屈折率0.10、SP値11.9、Mw90,000、Tg173℃の本発明の熱可塑性樹脂の重合体(B−1)を得た。
【0086】
製造例5
製造例4において、ビスフェノールA 52.5部およびテレフタル酸クロリド47.5部に代えて、ビスフェノールA51.7部および1,4−シクロヘキサンジカルボン酸クロリド48.3部を用いたこと以外は製造例4と同様に行い、固有複屈折率0.08、SP値11.1、Mw100,000、Tg162℃の重合体(B−2)を得た。
【0087】
製造例6
製造例4において、ビスフェノールA 52.5部およびテレフタル酸クロリド47.5部に代えて、ビスフェノールAプロピレンオキサイド2モル付加物63.1部およびテレフタル酸クロリド36.9部を用いたこと以外は製造例4と同様に行い、固有複屈折率0.09、SP値11.0、Mw90,000、Tg100℃の重合体(B−3)を得た。
【0088】
製造例7
製造例4において、ビスフェノールA 52.5部およびテレフタル酸クロリド47.5部に代えて、1,4−シクロヘキサンジオール36.1部およびテレフタル酸クロリド63.9部を用いたこと以外は製造例4と同様に行い、固有複屈折率0.07、SP値11.7、Mw120,000、Tg142℃の重合体(B−4)を得た。
【0089】
製造例8
製造例4において、ビスフェノールA 52.5部およびテレフタル酸クロリド 47.5部に代えて、ビスフェノールAプロピレンオキサイド2モル付加物67.6部およびテレフタル酸クロリド32.4部を用いたこと以外は製造例4と同様に行い、固有複屈折率0.09、SP値11.0、Mw5,000、Tg60℃の重合体(B−5)を得た。
【0090】
比較製造例1
攪拌器、温度計、冷却管、ガス導入管を備えた500ミリリットル四つ口フラスコにメタクリル酸メチル100部、n−ブチルメルカプタン0.3部、低分子複屈折調整剤としてスチルベン0.3部、メチルエチルケトン200部およびベンゾイルパーオキサイド0.5部を加え、窒素ガスで充分置換したのち、少量の窒素ガスを通しながら70℃で6時間重合させた。冷却後、重合物を大量のヘキサン中に加え、沈澱したポリマーをろ過、100℃で乾燥し、固有複屈折率−0.004、SP値9.7、Mw70,000、Tg95℃の比較のための重合体(比1)を得た。
【0091】
比較製造例2
攪拌器、温度計、冷却管、ガス導入管を備えた500ミリリットルオートクレーブにシクロオレフィンポリマー(ゼオノア1420R、日本ゼオン製)80部、メタクリル酸シクロヘキシル20部、キシレン200部および1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン0.95部を加え、窒素ガスで充分置換したのち、160℃で3時間重合させた。冷却後、重合物を大量のヘキサン中に加え、沈澱したポリマーをろ過、100℃で乾燥し、固有複屈折率0.004、SP値9.1、Mw130,000、Tg125℃の比較のための重合体(比2)を得た。
【0092】
比較製造例3
攪拌器、温度計、冷却管、ガス導入管を備えた四つ口フラスコにシクロオレフィンポリマー(アートンD4531F、JSR製)95部、炭酸ストロンチウムの針状結晶微粒子5部、キシレン1000部を加え、120℃で3時間混合した。冷却後、混合溶液を大量のメタノール中に加え、沈澱したポリマーをろ過、100℃で乾燥し、固有複屈折率0.001、SP値9.1、Mw120,000、Tg130℃の比較のための重合体(比3)を得た。
【0093】
ゴム質重合体(C)としては、以下の(C−1)および(C−2)を使用した。
(C−1):(メチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン共重合体、「M−300」、カネカ社製、ブタジエン成分含量10%)
(C−2):(メチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン共重合体、「EXL2678」、ローム&ハース社製、ブタジエン成分含量50%)
【0094】
実施例1〜5、比較例1〜3
(A−1)〜(A−3)、(B−1)〜(B−5)、(C−1)、(C−2)、(比1)〜(比3)を表1に示す配合量(重量部)に従ってヘンシェルミキサーで3分間ブレンドした後、ベント付き2軸押出機にて、260℃、100rpm、滞留時間5分の条件で溶融混練してストランド状に押出し、ペレタイザーで切断して透明樹脂組成物ペレットを得た。これらを用い射出成形機で成形品試験片を、押出成型機でフィルム試験片を作成し、性能評価を行った。結果を表1に示す。
【0095】
【表1】

【0096】
<性能評価方法>
(1)透明性
JIS−K7105に準拠し、フィルム試験片(厚み100±3μm)について、積分球式光線透過率測定装置を用いて全光線透過率(%)及びヘイズ(%)を測定した。
(2)耐熱性
JIS K 7121に準拠し、示差走査熱量測定(DSC)法にてTg(℃)を測定し、これを耐熱性の指標とした。
(3)成形品の可とう性
JIS−K7110(ノッチ付)に準拠し、成形品試験片(厚み3.2±0.3mm)について、衝撃強度を測定し、これを成形品の可とう性の指標とした。単位はkJ/m2。衝撃強度が大きいほど可とう性がある。
(4)フィルムの可とう性
JIS−P8115に準拠し、フィルム試験片(厚み100±3μm)について、MIT型耐折試験機を用いて、23℃、60%RH、荷重200g、折り曲げ速度175回/分、折り曲げ角0.38mmの条件で耐折度を測定し、これをフィルムの可とう性の指標とした。単位は回。回数が多いほど可とう性がある。
(5)固有複屈折率
本文中の測定法に従い測定した。
(6)リタデーション
フィルム試験片(厚み100±3μm)を延伸温度Tg+10℃、延伸倍率2倍で一軸延伸した試験片を、大塚電子社製LETS−100を用いて測定波長450nm、550nmおよび650nmにおけるリタデーション(Re[450]、Re[550]およびRe[650])を測定した。
【0097】
表1から明らかなように、実施例1〜5では、負の固有複屈折率を有する熱可塑性樹脂(A)と正の複屈折率を有する熱可塑性樹脂(B)からなる樹脂組成物を用いることにより、可視光を含む広帯域で複屈折が低く、透明性、耐熱性、耐衝撃性のいずれにおいても良好である。特に、実施例5からは、熱可塑性樹脂(B)のMwが5000程度でも十分好ましい正の固有複屈折率を発現している。
一方、比較例1、2では、可視光を含む広帯域で複屈折が大きく、複屈折低減が不十分であり、透明性、耐衝撃性においても不十分である。
比較例3では、高波長領域で複屈折が大きく、複屈折低減が不十分であり、透明性、耐衝撃性においても不十分である。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明の透明樹脂組成物を成型して得られる光学フィルムおよび光学成形品は、可視光全域を含む広帯域で複屈折が低いため、各種光ディスク(VD、CD、DVD、MD、LD等)基板保護フィルム、偏光板保護フィルム、位相差フィルム、光拡散フィルム、視野角拡大フィルム、反射フィルム、反射防止フィルム、防眩フィルム、輝度向上フィルムなどのフィルム、光ピックアップレンズ、カメラ用レンズ、レンチキュラーレンズなどの光学レンズ、タッチパネル用基板、導光板などの光学基板などに有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
負の固有複屈折率(Δn0A)を有する熱可塑性樹脂(A)と正の固有複屈折率(Δn0B)を有する熱可塑性樹脂(B)からなる樹脂組成物であって、その固有複屈折率(Δn)の絶対値が1×10−3以下であり、かつ波長450nm、550nmおよび650nmにおけるそれぞれのリタデーションがそれぞれ下記の数式を満足することを特徴とする透明樹脂組成物。
−10nm≦Re[450]≦10nm (1)
−10nm≦Re[550]≦10nm (2)
−10nm≦Re[650]≦10nm (3)
但し、Re[450]、Re[550]、Re[650]はそれぞれ、波長450nm、550nmおよび650nmにおけるリタデーションを表す。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂(A)と前記熱可塑性樹脂(B)のそれぞれの溶解度パラメーター(SP値)の差が1.5以下である請求項1記載の透明樹脂組成物。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂(A)が芳香族ビニルモノマーを必須構成モノマーとする重合体である請求項1または2記載の透明樹脂組成物。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂(B)が芳香族環含有ポリエステル樹脂である請求項1〜3いずれか記載の透明樹脂組成物。
【請求項5】
ガラス転移温度が110〜180℃である請求項1〜4いずれか記載の透明樹脂組成物。
【請求項6】
前記熱可塑性樹脂(A)と前記熱可塑性樹脂(B)の重量割合(A)/(B)が95/5〜30/70である請求項1〜5いずれか記載の透明樹脂組成物。
【請求項7】
さらに、芳香族ビニルモノマー(c1)と共役ジエンモノマー(c2)を必須構成モノマーとするゴム質重合体(C)を含有することを特徴とする請求項1〜6いずれか記載の透明樹脂組成物。
【請求項8】
(A)〜(C)の合計重量に基づく前記ゴム質重合体(C)の含有重量比率が0.5〜80% である請求項1〜7いずれか記載の透明樹脂組成物。
【請求項9】
前記ゴム質重合体(C)中の共役ジエンモノマー(c2)から構成される単位が、(C)の重量に基づいて1〜60重量%である請求項1〜8いずれか記載の透明樹脂組成物。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の透明樹脂組成物からなることを特徴とする光学成形品。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれかに記載の透明樹脂組成物からなることを特徴とする光学フィルム。

【公開番号】特開2010−7048(P2010−7048A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−65745(P2009−65745)
【出願日】平成21年3月18日(2009.3.18)
【出願人】(000002288)三洋化成工業株式会社 (1,719)
【Fターム(参考)】