説明

低複屈折熱可塑性レンズおよびこのようなレンズの製造に有用な組成物

レンズ成形用熱可塑性組成物は、該組成物が水素添加されたビニル芳香族/イソプレンブロックコポリマーを含む場合、示差走査熱量測定により測定して、0パーセントから1パーセント未満までの結晶度を、あるいは、該組成物が水素添加されたビニル芳香族/ブタジエンブロックコポリマーを含む場合、示差走査熱量測定により測定して、0パーセントを超え、1パーセント未満までの結晶度を有する。組成物は、633ナノメートルの波長で測定して、0から6×10−6未満の範囲内の複屈折を有する。これらの組成物の溶融物の金型成形は、水素添加されたブロックコポリマーの(ガラス転移−20℃)から(ガラス転移温度−90℃)の範囲内の温度で行われる。組成物は、光ピックアップレンズのようなレンズを適切に形成し、これらのレンズは、非球面である、あるいは、不規則な表面形状、一様でない厚さ、または不規則で一様でない横断面、の少なくとも1つを有し得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
先行出願の相互参照
本出願は、2007年12月28日に出願された米国特許仮出願第61/017253号の利益を主張する。
【0002】
本発明は、プラスチックレンズ、およびこのようなレンズを製造するのに有用な熱可塑性ポリマー組成物または熱可塑性ポリマーブレンド組成物に関する。より詳細に、本発明は、水素添加されたビニル芳香族ブロックコポリマー、特に水素添加されたビニル芳香族/ブタジエンブロックコポリマー、もしくは水素添加されたビニル芳香族/イソプレンブロックコポリマーを含む、レンズ成形用熱可塑性組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
コンパクトディスク(CD)、もしくはデジタルビデオディスク(DVD)のような記録媒体にデータを記録する、またはそれらからデータを読み取るのに用いられる光ピックアップデバイスは、一般的に、プラスチックまたはポリマーレンズを用いる。他の一般的レンズには、これらに限らないが、f−シータ(θ)レンズ、カメラ付き携帯用レンズ、およびデジタルカメラ(スチール写真およびビデオの両方)用レンズが含まれる。
【0004】
技術が進むにつれて、光ピックアップデバイスの動作スピードを上げ、またこのようなデバイスを統合するアクチュエータの重さを減らすという2つの要求が生まれるように見える。結果的に、これは、少なくとも一部は、大きさ(直径および厚さの両方)および重さを減らしながら性能の向上を達成するレンズに対する要求の高まりとなる。大きさおよび重さの低減への趨勢に加えて、不規則な厚さまたは非球面形状を有する光学レンズを求める、進展する趨勢が存在する。これらの趨勢は、光学的な純度または透明性、耐衝撃性、低複屈折のような物理的性能規準における卓越性に対する要求を伴い、「低複屈折」は、できるだけゼロに近い、例えば、0もしくは0を僅かに超える値から6×10−6までの範囲である。
【0005】
光もしくは光学媒体の記録密度を向上させるまたは増加させようとする欲求が深まり、上の要求を伴うので、より短い波長に向かう動きに味方する、益々大きくなる趨勢が存在する。かなりの数の現行レンズ用途では、可視スペクトルの赤色領域、特に赤色レーザー領域の波長、例えば、633ナノメートル(nm)を用いることが許容されるのに対して、より短い波長は、青色光(例えば、青色レーザー光)領域、基準の350nmから450nmの波長を含む。
【0006】
熱可塑性レンズによる、物理的性質の性能の常なる改善を促進することに加えて、製造業者は、その性能を達成できる熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂組成物を求め続けている。同時に、製造業者は、経済的見地から短いサイクル時間を強く求め、ここで、サイクル時間は、溶融樹脂または樹脂組成物で始まり、製造された物品(この場合は、レンズ)を、物品を製造するために用いられる装置(例えば、射出成形デバイス)から取り出して終わるものである。例えば、幾秒かのサイクル時間(例えば、5秒から15秒)では、数分程度のより長いサイクル時間より、製品生産高がかなり多くなる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
現在入手可能な「低複屈折」ポリマー樹脂は、非常に脆い傾向があり、脆さの難題を克服するのに十分な延性を有する現在のポリマーレンズ材料は、多くの最終用途、特に光学レンズ用途にとって十分に低い複屈折ではない複屈折を有する傾向がある。このような低複屈折ポリマー樹脂の脆さは、結果的に、レンズの成形工程の間のスプルーの破損のような成形上の問題となる。スプルーの破損は、今度は、連続的な成形工程の中断に導かれるので、事実上、最大能力または機械の定格能力から、より少なく、より望ましくないレベルへ、生産高が低下する。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の第1の態様は、熱可塑性組成物、好ましくはレンズ成形用熱可塑性組成物であり、この組成物は、示差走査熱量測定(DSC)により測定したとき、0パーセントを超え、1パーセント未満までの結晶度、および、633nmの波長で測定したとき、0から6×10−6未満の範囲内の平均複屈折を有する。組成物は、好ましくは、水素添加されたビニル芳香族ブロックコポリマー、より好ましくは、水素添加されたビニル芳香族/ブタジエンブロックコポリマー、より一層好ましくは、水素添加されたスチレン/ブタジエンブロックコポリマーを含む。このようなブロックコポリマーは、アモルファスである、水素添加されたポリスチレン成分を含み、また、結晶性またはアモルファスであり得る、水素添加されたポリジエン成分を含み得る。
【0009】
本発明の第2の態様は、熱可塑性組成物、好ましくはレンズ成形用熱可塑性組成物であり、この組成物は、DSCにより測定して、0パーセントから1パーセント未満の結晶度、および、633nmの波長で測定して、0から6×10−6未満の範囲内の平均複屈折を有する、水素添加されたビニル芳香族モノマー/共役ジエンブロックコポリマーを含む。共役ジエンは、ブタジエン、イソプレン、またはブタジエンおよびイソプレンの混合物から好ましくは選択される。ブタジエンは、存在する場合、適切には、ブロックコポリマーに0パーセントを超える結晶度をもたせるのに十分な量で存在する。イソプレンが唯一の共役ジエンとして存在する場合、結晶度は0パーセントである。
【0010】
本発明の第3の態様は、レンズ、好ましくは光学レンズ、より詳細には光ピックアップレンズの製造方法であり、この方法は、a.水素添加されたビニル芳香族ブロックコポリマーを含むポリマー溶融物であって、示差走査熱量測定(DSC)により測定したとき、0パーセントから1パーセント未満の結晶度、633nmの波長で測定したとき、0から6×10−6未満の範囲内の平均複屈折、および115℃から145℃の範囲内のガラス転移温度を有する、流動できる粘度をもたせるのに十分であるが、熱誘起コポリマー鎖切断または分解を引き起こすには不十分である溶融温度にあるポリマー溶融物を準備するステップ;
b.ポリマー溶融物を、(ガラス転移温度−20℃)から(ガラス転移温度−90℃)の温度範囲内の金型温度で、レンズに成形し、これによって、レンズが、その横断面全体に渡って(その最上部から最下部まで)、ならびにその長さおよび幅に渡って実質的に一様な複屈折を有するステップ
を含む。
【0011】
水素添加されたビニル芳香族/ジエンブロックコポリマーのジエンモノマーの選択は、結晶度が存在するかどうかに、また、それが存在する場合、結晶度の大きさに、したがってまた複屈折にも影響を及ぼす。例えば、水素添加されたポリイソプレンは、ポリ(エチレン−alt−プロピレン)交互繰返し単位構造を有し、これは、少なくとも現在の技術では、識別できる結晶度を示さない。水素添加されたポリブタジエンは、ポリエチレン成分に帰因する結晶度を示し得る、ポリ(エチレン−co−ブテン)繰返し単位構造を有する。したがって、イソプレンとブタジエンのブレンドは、水素添加の後、ゼロと、純粋な水素添加されたポリブタジエン成分によって達成される結晶度との間の中間の結晶度を有する。ブタジエンが存在し、水素添加の後、測定できる程度の結晶度を付与するのに十分な量で少なくとも存在する場合、複屈折は0を超えるが、依然として6×10−6未満のままである。イソプレンが唯一のジエンである場合、水素添加の後、結晶度はゼロである。しかし、ゼロの結晶度は、少なくとも一部は、例えば、製造の間のポリマー鎖の異方性のある配向、および/または、製造された物品に存在するブロックコポリマーのモルフォロジーから生じる複屈折のせいで、複屈折0と同等であるとみなせない。
【0012】
本発明の第4の態様は、レンズ、好ましくは光ピックアップレンズであり、このレンズは、第1の態様または第2の態様のいずれかの、水素添加されたビニル芳香族ブロックコポリマーを含み、a)1ミリメートル(mm)を超える厚さ、およびb)その横断面の全体に渡って、またその長さおよび幅に渡って実質的に一様な複屈折、の少なくとも一方を有するレンズである。第1および第2の態様の水素添加されたビニル芳香族ブロックコポリマーのブレンドもまた使用され得る。さらに、水素添加されたビニル芳香族ホモポリマー、またはビニル芳香族モノマーおよび共役ジエンモノマーの水素添加されたランダムコポリマーが、第1の態様の水素添加されたブロックコポリマーもしくは第2の態様の水素添加されたブロックコポリマーのいずれかに、または第1および第2の態様の水素添加されたブロックコポリマーのブレンドに添加されてもよい。
【0013】
第1の態様および最2の態様のいずれの物質組成物も、ポリマーまたはプラスチックレンズ、特に光ピックアップデバイス、カメラおよび携帯電話に用いられるレンズの成形に有用である。通常、光ピックアップデバイスは、コンパクトディスク(CD)およびデジタルビデオディスク(DVD)のような記録媒体にデータを記録する、またはそれらからデータを読み取るのに使われる。さらなる有用なものには、プロジェクターレンズ、ならびに光導波管およびフレネル板のような光学部品が含まれる。
【0014】
本明細書において、範囲(2から10の範囲、におけるような)が記載される場合、その範囲の両端の値(例えば、2および10)および個々の数値は、このような値が有理数であるか、または無理数であるかに関らず、別途特に除外されなければ、その範囲内に含まれる。
【0015】
本明細書における元素の周期表への参照では、CRC Press, Inc.(2003年)が刊行し著作権を有する元素の周期表が参照される。また、1つまたは複数の族への如何なる参照も、族の番号付けのIUPAC方式を用いる、この元素の周期表に示される1つまたは複数の族に対するものである。
【0016】
関連する内容、または当技術分野における慣例から言外に、そうではないと示されなければ、全ての部数およびパーセントは重量に基づく。米国特許手続きの目的のために、本明細書において参照される特許、特許出願、もしくは刊行物のいずれの内容も、特に、開示された合成技術、定義(本明細書において与えられる如何なる定義にも矛盾しない範囲で)および当技術分野における一般的知見に関して、参照によって、ここに、それらの全体が本明細書に組み込まれる(あるいは、等価なこれらの米国版は、参照によってそのように組み込まれる)。
【0017】
用語「含む(備える)」およびその派生語は、さらなるどのような構成要素、ステップまたは手順の存在も、それらが本明細書に開示されているかどうかに関らず、除外しない。如何なる不確かさも避けるために、本明細書において用語「含む」を用いて特許請求される全ての組成物は、そうではないと示されなければ、任意のさらなる添加剤、アジュバント、または化合物(ポリマーであるかないかに関らず)を含み得る。対照的に、用語「から本質的になる」は、実施可能性にとって本質的でないものを除いて、その語に続くどのような列挙の範囲からも、そのような他の成分、ステップまたは手順も除外する。用語「からなる」は、具体的に叙述または列挙されないどのような成分、ステップまたは手順も除外する。用語「または(あるいは、もしくは)」は、特に断わらなければ、任意の組合せとしてだけでなく、列挙された要素を個別に表す。
【0018】
温度の表示は、℃での換算値を併記した華氏度(°F)、またはより典型的には、単に℃によるかのいずれかであり得る。
【0019】
第1の態様の熱可塑性組成物は、示差走査熱量測定(DSC)により測定して、0パーセントを超え、1パーセント未満までの結晶度、および、633nmの波長で測定して、0から6×10−6未満の範囲内の平均複屈折を有する、水素添加されたビニル芳香族ブロックコポリマーを含む。似ているが、第2の態様の熱可塑性組成物は、結晶度がゼロであり得るという点で、またそれにより結晶性が誘発するまたは結晶性に関連する複屈折を排除し、また、結晶性と結晶性が誘発する複屈折とが存在する時に達成できる全複屈折より、全複屈折を小さくする機会をもたらすという点で、第1の態様の熱可塑性組成物と異なる。第1および第2の態様のいずれでも、物質組成物は、好ましくは、レンズ成形用物質組成物である。
【0020】
上で触れたように、ジエンモノマーの選択は、ブロックコポリマーが、水素添加の後、何らかの結晶性を有し、その結果、結晶性に関連する何らかの複屈折を有するかどうかに影響を及ぼす。これに応じて、結晶性および結晶性に関連する複屈折がゼロを超える場合の第1の態様のブロックコポリマーおよび第2の態様のブロックコポリマーは、水素添加の前に、測定できるレベルの結晶性をもたらすのに十分なだけ長いブロック長に存在する、ある量の重合したブタジエンモノマーを有する。このようなブロック長は、水素添加の後、測定できるレベルの結晶性をもたらすのに十分な長さのエチレン鎖長に変わる。唯一のジエンがイソプレンである場合、結晶性および結晶性に関連する複屈折はどちらも、ゼロに等しい。水素添加の前に、ブロックコポリマーが、ある量の重合したブタジエンモノマーを含む場合でさえ、ブロック長に存在する重合したブタジエンモノマーの量が、測定できるレベルの結晶性をもたらすには少なすぎる、および/または、水素添加の前に、ブタジエンを含むブロックが、水素添加の前のブロックコポリマーの全ブタジエン含量に対して20wt%を超える1,2−ビニル含量を有するならば、ゼロの結晶度が達成され得る。
【0021】
第1の態様および第2の態様のいずれの水素添加されたブロックコポリマーも、好ましくは、ペンタブロックコポリマーを含む。好ましいペンタブロックコポリマーは、水素添加の前に、水素添加される重合したビニル芳香族モノマーの少なくとも3つの別個のブロック、および水素添加される重合した共役ジエンモノマーの少なくとも2つのブロックを含む。水素添加される重合したビニル芳香族モノマーブロックは、水素添加される重合したビニル芳香族モノマーブロックが、このような水素添加されるブロックコポリマーの両末端ブロックを成すように、水素添加される重合した共役ジエンモノマーのブロックと交互に並んでいる。「V」が、水素添加される重合したビニル芳香族モノマー(例えば、スチレン)ブロックを表し、「D」が、水素添加される重合したジエンブロック(例えば、ブタジエンおよび/またはイソプレン)を表す慣行を用いると、このようなペンタブロックコポリマーは、「VDVDV」と表すことができる。
【0022】
第1の態様の水素添加されたブロックコポリマーでは、ジエンモノマーはブタジエンを含み、重合したジエンモノマーの含量は、ブロックコポリマーの全重量に対して、5重量パーセント(wt%)を超え、20wt%未満までである。重合したジエンモノマーの含量が15wt%を超えるが、20wt%未満である場合、重合したジエンモノマーは、少なくとも15wt%の1,2−ビニルの組込み、および85wt%未満の1,4−ブタジエンの組込みを含み、ここで、1,2−ビニルの組込みのwt%および1,4−ブタジエンの組込みのwt%は、重合した全ジエンモノマー含量に対するものであり、合わせると合計で100wt%になる。
【0023】
第2の態様の水素添加されたブロックコポリマーでは、ブロックコポリマーは、水素添加の前に、70重量パーセント(wt%)を超え、95wt%未満まで、好ましくは、80wt%を超え、95wt%未満までの、重合したビニル芳香族モノマー(好ましくは、スチレン)含量、ならびに、5wt%を超え、30wt%未満まで、好ましくは、5wt%を超え、20wt%未満までの、重合したジエンモノマー含量、好ましくは、重合したイソプレン含量を有し、ここで、各wt%は、重合したビニル芳香族モノマー含量および重合したジエンモノマー含量が、合わせると100wt%に等しいという条件で、ブロックコポリマーの全重量に対するものである。
【0024】
第1および第2の態様の水素添加されたブロックコポリマーは、ジエンモノマーがブタジエンまたはイソプレンのいずれかである場合、水素添加の前に、40,000から150,000未満までの範囲内の数平均分子量(Mn)を好ましくは有する。この範囲は、好ましくは、45,000から120,000である。水素添加されたブロックコポリマーは、少なくとも90パーセント、好ましくは少なくとも95パーセントの水素添加レベルを好ましくは有する。さらに、このようなブロックコポリマーは、少なくとも1.8フート・ポンド/インチ(ft−lb/in)(95.9ジュール/メートル)(J/m))のノッチなしアイゾット衝撃を有する。
【0025】
第1および第2の態様の水素添加されたブロックコポリマーは、ビニル芳香族ブロックおよび共役ジエンブロックの両方で、好ましくは、少なくとも90wt%の水素添加レベルを有する。ビニル芳香族ブロックの水素添加レベルは、より好ましくは少なくとも95wt%、より一層好ましくは少なくとも98wt%、さらにより好ましくは少なくとも99wt%であり、ここで、各wt%は、水素添加の前にブロックコポリマーに存在する全ての芳香族2重結合(不飽和)に対するものである。共役ジエンブロックの水素添加レベルは、より好ましくは少なくとも95wt%、より一層好ましくは少なくとも98wt%であり、ここで、各wt%は、水素添加の前にブロックコポリマーに存在する全ての脂肪族(非芳香族)2重結合(不飽和)に対するものである。
【0026】
第1および第2の態様の水素添加されたブロックコポリマーは、特にポリマーレンズのような射出成形された製造物品に変換された時、好ましくは少なくとも1.8ft−lb/インチ(95.9J/m)、より好ましくは少なくとも2.0ft−lb/インチ(106.6J/m)のノッチなしアイゾット衝撃を有する。
【0027】
第3の態様の方法は、
a.水素添加されたビニル芳香族ブロックコポリマーを含むポリマー溶融物を供給するステップであって、DSCにより測定したとき、0パーセントから1パーセント未満の結晶度、633nmの波長で測定したとき、0から6×10−6未満の複屈折、および115℃から145℃の範囲内のガラス転移温度を有し、前記ポリマー溶融物は、流動できる粘度をもたせるのに十分であるが、熱誘起コポリマー鎖切断または分解を引き起こすには不十分である溶融温度にある、ステップ;
b.ポリマー溶融物を、ガラス転移温度−20℃からガラス転移温度−90℃の温度範囲内の温度で、レンズ、好ましくは光学レンズ、より特別には光ピックアップレンズに成形するステップであって、これによって、光ピックアップレンズが、その横断面全体に渡って(その最上部から最下部まで)、ならびにその長さおよび幅に渡って実質的に一様な複屈折を有する、ステップ
を含む。成形されたレンズ、特に光ピックアップレンズは、少なくとも1ミリメートルの厚さ、および0を超え、6×10−6未満までの複屈折を有する。ポリマー溶融物は、好ましくは200℃から310℃未満、より好ましくは220℃から310℃未満、より一層好ましくは220℃から290℃の範囲内の温度にある。他の好ましいプロセス条件は、1分未満、より好ましくは45秒以下、より一層好ましくは30秒以下、さらにより好ましくは15秒以下の成形サイクル時間で実施されるステップb.、および、100℃未満、好ましくは95℃以下、より好ましくは85℃以下のステップb.の金型温度を含む。成形サイクル時間は、望ましくは、1秒以上である。
【0028】
第3の態様の方法の一変形形態において用いられる、水素添加されたビニル芳香族ブロックコポリマーは、水素添加の前に、スチレン/イソプレンブロックコポリマー、より好ましくはスチレン/イソプレンペンタブロックコポリマーである。第3の態様の方法の第2の変形形態において用いられる、水素添加されたビニル芳香族ブロックコポリマーは、水素添加の前に、スチレン/ブタジエンブロックコポリマー、より好ましくはスチレン/イソプレンペンタブロックコポリマーである。第3の態様の方法の第3の変形形態において、水素添加の前にスチレン/イソプレンブロックコポリマー、好ましくはスチレン/イソプレンペンタブロックコポリマーを含む、第1の水素添加されたビニル芳香族ブロックコポリマーを、水素添加の前にスチレン/ブタジエンブロックコポリマー、好ましくはスチレン/ブタジエンペンタブロックコポリマーを含む、第2の水素添加されたビニル芳香族ブロックコポリマーとの混合物として、用いることができる。上で触れたように、水素添加されたビニル芳香族ブロックコポリマーが、水素添加の前に、スチレン/ブタジエンブロックコポリマーを含む場合、結晶度は0を超え得る。また、上で触れたように、水素添加の前に、スチレン/ブタジエンブロックコポリマーである、ある量のビニル芳香族ブロックコポリマーが、0を超える結晶度を獲得するために、添加され得る。さらに、上で触れたように、ポリマー溶融物に用いられるビニル芳香族ブロックコポリマーが、水素添加の前に唯一の共役ジエンとしてイソプレンを含む場合、結晶度は0である。
【0029】
本発明の第4の態様は、レンズ、好ましくは光学レンズ、より好ましくは光ピックアップレンズである。このレンズは、好ましくは、第1の態様または第2の態様のいずれかの、水素添加されたビニル芳香族ブロックコポリマーを含む。レンズは、633nmの波長で測定して、0を超え、6×10−6未満までの平均複屈折を有する。好ましくは、レンズは、a)1ミリメートルを超える厚さ、およびb)その横断面の全体に渡って、またその長さおよび幅に渡って実質的に一様な複屈折、の少なくとも一方を有する。レンズは、好ましくは少なくとも1ミリメートル(mm),より好ましくは少なくとも1.2mmの厚さを有する。
【0030】
第4の態様のレンズに用いられる、水素添加されたビニル芳香族ブロックコポリマーは、また、第3の態様の方法において用いられるとして、上で列挙されたもののいずれかであり得る。
【0031】
好ましいレンズは、不規則な表面形状、一様でない厚さ、または不規則で一様でない横断面、の少なくとも1つを有する。本明細書で用いられる場合、「実質的に一様な複屈折」は、3×10−6以下の標準偏差を意味する。非球面レンズは、特に好ましい一群のレンズの典型である。このようなレンズの複屈折は、また、青色レーザー光への応答で求められ得る。青色レーザー光は、350nmから450nmの範囲内の波長を有する。
【0032】
第4の態様のレンズは、レンズの少なくとも一表面部に付着された反射防止コーティングを、好ましくは、さらに備える。より好ましくは、反射防止コーティングは、一般的な低屈折率酸化物またはフッ化物(これらに限らないが、酸化ケイ素、酸化ハフニウム、フッ化マグネシウム、およびこれらの混合物が含まれる)による、蒸着された薄い(例えば、50ナノメートル(nm)から150nm)膜を含む。反射防止コーティングは、コーティングに望まれる反射防止性能のレベルに応じて、単層、または、複数の好ましくは薄い層の組合せのいずれかを備え得る。Optical Society of Americaによる「Handbook of Optics」(I巻)(McGraw− Hill(1994年))の42章(Optical Properties of Films and Coatings)に見出されるもののような標準的な反射防止設計原理に基づいて、反射防止材料、さらには各層の膜厚も選択される。
【0033】
第4の態様のレンズは、水素添加されたビニル芳香族ブロックコポリマーに加えて、1種または複数の通常の添加剤、例えば、酸化防止剤、紫外(UV)線安定剤、可塑剤、離型剤、または、製造物品、特にレンズのような射出成形製造物品の加工に用いられる他の通常のどのような添加剤もまた含み得る。
【実施例】
【0034】
以下の実施例は、本発明を例示するが、限定しない。全ての部数およびパーセンテージは、特に断わらなければ、重量に基づく。全ての温度は℃である。本発明の実施例(Ex)は、アラビア数字によって示され、比較例(Comp ExまたはCEx)は、大文字のアルファベット文字によって示される。本明細書において特に断わらなければ、「室温」および「雰囲気温度」は基準の25℃である。
【0035】
2インチ(5.08センチメートル(cm))の直径および1/8インチ(0.32cm)の厚さを有する射出成形ディスクの複屈折を、633nmの波長で、EXICOR(商標)150ATS複屈折測定装置(Hinds Instrument)を用いて測定する。「平均複屈折」または「Δn」と呼ばれる値は、3つのディスクについての複屈折の値の測定の平均を表し、各測定は、別個の成形ディスクの軸の近傍で行う。
【0036】
射出成形ディスクは、射出ゲートから離れた、または遠くに位置するディスクの部分でよりも、射出ゲートの近くの、または近傍の位置のディスクの部分で、より高い複屈折値(「ゲート近くの複屈折」または「Δngate」)を有する傾向がある。本明細書で用いられる場合、「ゲート近くの複屈折」または「Δngate」は、射出ゲートから5ミリメートル(mm)離れた位置にある点で行われた複屈折測定値を表す。下の表2に報告されているΔngateの値は、少なくとも3つの射出成形ディスクについて行われた測定の平均値を表す。
【0037】
本明細書で用いられる場合、6×10−6以下の平均複屈折値(Δn)は、良好の評価に値し、6×10−6nmを超えるΔnは、劣等または不良の評価を受ける。一般的な規則として、6×10−6を超える(Δn)の値では、また、Δngateの値もまた6×10−6を優に超える。このような不良値を生じる樹脂は、多くのレンズ用途、特に、実質的に一様であり、レンズの全体を通して低い(6×10−6未満)複屈折が必要とされるレンズ用途に用いられるのに不適切である傾向がある。このような樹脂は、レンズの大きさが小さくなるにつれ、より一層望ましくなくなる。
【0038】
ASTM D−256に従って、ノッチなしアイゾット衝撃を測定する。1.8ft−lb/in(315.2N/m)以上のノッチなしアイゾット(UNI)は、良好に相当し、他方、1.8ft−lb/in(315.2N/m)未満のUNIは、劣等または不良の評価を受ける。
【0039】
水素添加されたスチレン系ブロックコポリマーまたはフィルム試料の全重量に対する、結晶度のwt%(X%)を求めるために、DSC分析およびQ1000型示差走査熱量測定装置(TA Instruments, Inc.)を用いる。DSC測定の一般原理、および半結晶性ポリマーの研究へのDSCの応用は、標準的な図書(例えば、E. A. Turi編、「Thermal Characterization of Polymeric Materials」、Academic Press、1981年)に記載されている。
【0040】
インジウムの融解熱(H)および融解開始温度がそれぞれ、指定された標準値(28.71J/gおよび156.6℃)の0.5ジュール/グラム(J/g)および0.5℃以内であること、ならびに水の融解開始温度が0℃の0.5℃以内であることを保証するために、Q1000型示差走査熱量測定装置を、Q1000に推奨される標準的手順に従って、最初にインジウムにより、次いで水により較正する。
【0041】
230℃の温度でポリマー試料を薄いフィルムにプレスする。5ミリグラム(mg)から8mgの重量を有する1枚の薄いフィルムを、示差走査熱量測定装置の試料パンに入れる。密閉された雰囲気を保証するために、蓋をパンにクリンプする。
【0042】
試料パンを、示差走査熱量測定装置のセルに入れ、パンの内容物を、約100℃/minの速度で、230℃の温度まで加熱する。その温度に、パンの内容物を約3分間保ち、次いで、パンの内容物を、10℃/minの速度で、−60℃まで冷却する。パンの内容物を、−60℃で等温に3分間保ち、次いで、内容物を、「2回目の加熱」と称されるステップにおいて、10℃/minの速度で、230℃まで加熱する。
【0043】
前記のポリマーフィルム試料の2回目の加熱から得られるエンタルピー曲線を、溶融ピーク温度、開始および結晶化ピーク温度、ならびにH(融解熱としても知られている)について分析する。直線のベースラインを用いることによって、融解吸熱の下の面積を、融解の始めから融解の終わりまで積分することにより、ジュール/グラム(J/g)の単位でHを求める。
【0044】
100%結晶性のポリエチレンは、292J/gの当技術分野で認められているHを有する。水素添加されたスチレンブロックコポリマーまたはフィルム試料の全重量に対する結晶度のwt%(X%)を、次の式:
X%=(H/292)×100%
を用いることによって計算する。
【0045】
水素添加される前の、水素添加されるスチレン系ブロックコポリマーの1,2−ブタジエン(1,2−ビニルとしても知られる)含量を、核磁気共鳴(NMR)分光法、ならびに、定量積分のためにプロトンの完全な緩和を保証するように10秒のパルス遅延を、また1ミリリットルの重水素化クロロホルム(CDCl)溶媒中、約40ミリグラムのポリマーの試料を用いて運転されるVarian INOVA(登録商標)300NMR分光装置を用いて求める。テトラメチルシラン(TMS)標準に対する化学シフトを報告し、ここで、1,4−2重結合部分の化学シフトは、5.2と6.0パーツパーミリオン(ppm)の間に位置し、1,2−2重結合部分の化学シフトは4.8ppmと5.1ppmの間に位置する。1,2−2重結合部分のピークを積分して値を求め、その値を2で割り、それを「A」と呼ぶ。1,4−2重結合部分のピークを積分して第2の値を求め、第2の値とAとの間の差を求め、次いで、その差を2で割り、それを「B」と呼ぶ。1,2−ビニルまたは1,2−ブタジエン含量(パーセント)を、次の式:
%1,2=(A/(A+B))×100%
に従って計算する。
【0046】
劣等もしくは不良の結果または評価を生じる樹脂は、いくつかの市販の樹脂を用いることにより生じるものに似た、実生産上の難題をもたらすように思われる。これらの難題には、スプルーの破損およびその結果として起こる成形工程の中断に帰因する、成形の難しさ(非常に高い確実性で、過度の脆さのゆえに)が含まれる。
【0047】
Ex 1〜Ex 2およびCE A〜CE Q
単一キャビティでエンド−ゲートのASTM(American Society for Testing and Materials)引張りバー(bar)金型を装備した、25トン(22,727キログラム)のArburg射出成形機を用いて、下の表1に示すように溶融温度を変えて、38℃の金型温度で、いくつかの樹脂(それぞれは、下でいくらか詳細に記載される)から、複数のASTMタイプI引張り試験試料(「引張りバー」としても知られる)を準備する。表1はまた、引張り試験試料で、複屈折およびアイゾット衝撃性(単位はft−lb/inおよびJ/m)を測定することによって得たデータも含む。
【0048】
引張りバーの中央の点(例えば、引張りバーの両端から等距離で、引張りバーの両側面から等距離であり、引張りバーの平坦な主表面上に位置する幾何学的中心または点)の近傍で複屈折を測定し、少なくとも3つの引張りバーで行った複屈折測定の平均値として、表1に複屈折を報告する。
【0049】
各引張りバーの中央の点の近傍で、いくつかの引張りバーの各々から、2.5インチ(6.4cm)の長さおよび0.5インチ(1.3cm)の幅を有するアイゾット試験試料を切り出す。ASTM法D−256に従って、各試料のノッチなしアイゾット衝撃を求める。下の表2に与えられるアイゾット衝撃値は、少なくとも4つの異なる試験試料で行った測定の平均値を表す。
【0050】
下の表1に示すプロセス条件に加えて、金型キャビティの全容積に対して約99パーセントの金型充填レベルに到達するための1.3秒の金型充填時間、および5000psi(34.3メガパスカル(MPa))のキャビティ保持圧力を目標とする。
【0051】
表1に示す総体的な適切性評価の目的では、複屈折またはノッチなしアイゾット衝撃(時に、「アイゾット靭性」とも呼ばれる)のいずれかで劣等または不良の評価を受ける樹脂は、総体的にも不良の評価を受ける。
【0052】
下のAからE、およびCR 4からCR 6までの樹脂を、溶媒としてのシクロヘキサン中、スチレンおよび共役ジエンの逐次アニオン重合によって準備する。逐次重合は、ポリマーの第1ブロックを完成するのに必要とされる精製した第1モノマー(例えば、スチレン)のシクロヘキサン溶液を準備すること、この溶液を重合温度に加熱すること、およびアルキルリチウム開始剤を加えること、によって行う。モノマーがなくなるまで重合が進んだ後、精製した第2モノマー(例えば、共役ジエン)が添加され、第2モノマーがなくなるまで重合が続く。このプロセスが、ブロックコポリマーの連鎖(例えば、トリブロックまたはペンタブロック)が実現されるまで、第1モノマーおよび第2モノマーを順に交替させることによって繰り返され、その後、重合は、ブロックコポリマー連鎖のリビング末端または鎖末端に効果的にプロトンを付加し、副生成物としてリチウム塩を生成する、アルコールのような酸性化学種により停止される。
【0053】
ポリブタジエンブロックに8wt%の1,2−ビニル含量を含むペンタブロックコポリマーは、ポリイソプレン含有ペンタブロックコポリマーと同じく、sec−ブチルリチウムによって開始される、純粋なシクロヘキサン中でのモノマーの重合によって製造される。10wt%以上の1,2−ビニル含量を含むペンタブロックコポリマーは、n−ブチルリチウムによって開始される逐次重合によって製造され、テトラヒドロフラン(THF)が、開始過程の助けとなるように、重合反応器に添加される。1,2−ビニル含量のレベルは、Macromolecules、1998年、31、394〜402頁に記載されているように、THFとn−ブチルリチウムのモル濃度比を調整することによって変えることができる。
【0054】
樹脂Aは、60,000のMn、樹脂の全重量に対して90wt%の重合したスチレン含量(水素添加の前)、および全ブタジエン含量に対して8wt%の1,2−ビニル含量(水素添加の前)を有する、開発目的の水素添加されたペンタブロック樹脂である。水素添加された樹脂は、水素添加の前に樹脂中に存在する全不飽和結合に対して、99.5%を超える水素添加レベルを有する。この樹脂は、DSCにより測定するには低すぎる結晶度を有する。
【0055】
樹脂Bは、50,000のMn、樹脂の全重量に対して85wt%の重合したスチレン含量(水素添加の前)、および全ブタジエン含量に対して8wt%の1,2−ビニル含量(水素添加の前)を有する、開発目的の水素添加されたペンタブロック樹脂である。水素添加された樹脂は、水素添加の前に樹脂中に存在する全不飽和結合に対して、99.5%を超える水素添加レベルを有する。水素添加された樹脂は、また、ポリマーの全重量に対して、0.3wt%の結晶度を有する。
【0056】
樹脂Cは、55,000のMn、樹脂の全重量に対して85wt%の重合したスチレン含量(水素添加の前)、および全ブタジエン含量に対して8wt%の1,2−ビニル含量(水素添加の前)を有する、開発目的の水素添加されたペンタブロック樹脂である。水素添加された樹脂は、水素添加の前に樹脂中に存在する全不飽和結合に対して、99.5%を超える水素添加レベルを有する。水素添加された樹脂は、また、ポリマーの全重量に対して、0.5wt%の結晶度を有する。
【0057】
樹脂Dは、58,000のMn、樹脂の全重量に対して85wt%の重合したスチレン含量(水素添加の前)、および全ブタジエン含量に対して12wt%の1,2−ビニル含量(水素添加の前)を有する、開発目的の水素添加されたペンタブロック樹脂である。水素添加された樹脂は、水素添加の前に樹脂中に存在する全不飽和結合に対して、99.5%を超える水素添加レベルを有する。水素添加された樹脂は、また、ポリマーの全重量に対して、0.6wt%の結晶度を有する。
【0058】
樹脂Eは、80,000のMn、樹脂の全重量に対して75wt%の重合したスチレン含量(水素添加の前)、および樹脂の全重量に対して25wt%のイソプレン含量(水素添加の前)を有する、開発目的の水素添加されたペンタブロック樹脂である。水素添加された樹脂は、水素添加の前に樹脂中に存在する全不飽和結合に対して、99.5%を超える水素添加レベルを有する。水素添加された樹脂は、また、ポリマーの全重量に対して、0.0wt%の結晶度を有する。
【0059】
比較樹脂1(CR 1)は、Nippon ZeonからZEONEX(商標)E48Rの商用名で市販されている環状オレフィンポリマー(COP)樹脂である。この樹脂は、アモルファスポリマーであり、測定できる量の結晶度を有さない。
【0060】
CR 2は、Nippon ZeonからZEONEX(商標)330Rの商用名で市販されている環状オレフィンポリマー(COP)樹脂である。CR 2は、CR 1のように、アモルファスポリマーであり、測定できる量の結晶度を有さない。
【0061】
CR 3は、TiconaからTOP AS(商標)5013の商用名で市販されているランダム環状オレフィンコポリマー(COC)樹脂である。CR 3は、CR 1およびCR 2のように、アモルファスポリマーであり、測定できる量の結晶度を有さない。
【0062】
CR 4は、60,000のMn、樹脂の全重量に対して85wt%の重合したスチレン含量(水素添加の前)、および全ブタジエン含量に対して8wt%の1,2−ビニル含量(水素添加の前)を有する、開発目的の水素添加されたペンタブロック樹脂である。水素添加された樹脂は、水素添加の前に樹脂中に存在する全不飽和結合に対して、99.5%を超える水素添加レベルを有する。水素添加された樹脂は、また、ポリマーの全重量に対して、1.2wt%の結晶度を有する。
【0063】
CR 5は、55,000のMn、樹脂の全重量に対して81wt%の重合したスチレン含量(水素添加の前)、および全ブタジエン含量に対して10wt%の1,2−ビニル含量(水素添加の前)を有する、開発目的の水素添加されたペンタブロック樹脂である。水素添加された樹脂は、水素添加の前に樹脂中に存在する全不飽和結合に対して、99.5%を超える水素添加レベルを有する。水素添加された樹脂は、また、ポリマーの全重量に対して、1.3wt%の結晶度を有する。
【0064】
CR 6は、60,000のMn、樹脂の全重量に対して81wt%の重合したスチレン含量(水素添加の前)、および全ブタジエン含量に対して10wt%の1,2−ビニル含量(水素添加の前)を有する、開発目的の水素添加されたペンタブロック樹脂である。水素添加された樹脂は、水素添加の前に樹脂中に存在する全不飽和結合に対して、99.5%を超える水素添加レベルを有する。水素添加された樹脂は、また、ポリマーの全重量に対して、2.5wt%の結晶度を有する。
【0065】
CR 7は、Nippon ZeonからZEONEX(商標)480Rの商用名で市販されているCOPである。CR 7は、CR 1からCR 3のように、アモルファスポリマーであり、測定できる量の結晶度を有さない。
【0066】
【表1】

【0067】
表1のデータはいくつかの点を例示する。第1に、Ex 1および2(ここで、樹脂Cは0.48wt%の結晶度を有する)、CE EからCE G(ここで、CR 4は1.2wt%の結晶度を有する)の比較は、結晶度の増加が、250℃から310℃の溶融温度範囲に渡って、6×10−6を超える複屈折値に導くことを示す。CE BおよびCE C(どちらも1.3wt%の結晶度を有するCR 5に基づく)もまた、それぞれ、250℃および280℃の溶融温度で、6×10−6を超える複屈折値を示す。CE D(やはりCR 5に基づく)は、310℃の溶融温度での、水素添加されたブロックコポリマーの熱分解に恐らく帰因する例外であると思われる。熱分解は、存在する場合、ブロックコポリマーのMの低下、および水素添加されたスチレンブロックと水素添加されたブタジエンブロックとの間の相の混ざり合いの増加、の1つまたは複数に導き得るが、これらのいずれも、水素添加されたブタジエンブロックが結晶化する傾向をかなり低下させるように思われる。第2に、CE NからCE Pに用いられたCOP樹脂(CR 1)、およびCE KからCE Mに用いられたCOC樹脂(CR 3)は、樹脂C(Ex 1およびEx 2に用いられた水素添加されたスチレン系ブロックコポリマー)よりずっと高い複屈折を有する。さらに、CR 3は、樹脂Cより低いUNIを有する。6×10−6を超える複屈折は、射出成形レンズの性能に悪影響を及ぼす。低いUNI値は、スプルー破損のような製造上の問題に帰因する、連続成形工程の中断に導き得る。第3に、樹脂Cは、250℃のように低い溶融温度で、6×10−6よりかなり低い複屈折をもたらすが、COP樹脂(CR 1)およびCOC樹脂(CR 3)は、310℃のように高い溶融温度でさえ、6×10−6よりかなり大きいままである。当業者は、ポリマー溶融温度の低下は、レンズ成形サイクル時間の短縮に、そして結果的に、レンズ製造速度の増加に導き得ることを理解する。
【0068】
Ex 3からEx 22、およびCE RからCE X
同じ装置、60秒のサイクル時間、ならびに下の表2に示す溶融および成形温度を用いて、Ex 1を模して、成形した複数の円形ディスク(直径2インチ(5.1センチメートル)で、厚さ1/8インチ(0.3センチメートル))を準備する。表2はまた、ΔnおよびΔngateのデータも含み、これらのいずれも上で説明されている。最高のレンズ性能にとって、レンズの全ての部分に渡る低度の複屈折が非常に望ましい。このため、高いΔngateは、レンズの総体的な性能を低下させる。
【0069】
【表2】

【0070】
表2のデータは、1パーセント未満の結晶度を有するレンズ成形用熱可塑性組成物、特に、樹脂AからE(Ex 3〜Ex 22)のいずれかのような水素添加されたスチレン系ブロックコポリマー樹脂を含むこのような組成物は、ポリマー溶融温度および金型温度の両方の点で、広いプロセスウィンドウを有することを例示する。Ex 29は、完全に水素添加されたスチレン−イソプレンブロックコポリマー組成物は、また、中心部分、さらにはゲート部分のいずれにおいても低い総体的な複屈折を示すことを示す。
【0071】
対照として、COCおよびCOP(CE RからCE T)は、アモルファスであるが、Ex 3〜Ex 22に比べて、1)高Δn;2)高Δngate;および3)低アイゾット衝撃値、の少なくとも1つの点で、性能が劣る物質組成物をもたらす。
【0072】
表2のデータは、また、1wt%を超える結晶度を有する実質的に完全に水素添加されたスチレン−共役ジエンブロックコポリマー樹脂を含むレンズ成形用熱可塑性組成物(例えば、CE U〜CE W)は、1wt%未満の結晶度を有する実質的に完全に水素添加されたスチレン−共役ジエンブロックコポリマー樹脂の使用を除けば同じである組成物(例えば、Ex 3)より、かなり高Δngateを有する傾向があることも例示する。CE UからCE Wの組成物は、低複屈折が求められるレンズ用途に用いるのに、例えば、Ex 3〜Ex 22のいずれの組成物より適切さが劣る。
【0073】
表2のデータは、さらに、ポリマー溶融加工温度が成形物品の複屈折に影響を及ぼし得ることを示す。例えば、どちらも同じ樹脂Eを含むが、異なる溶融加工温度を用いる、Ex 22およびCE Xを参照。CE Xは、樹脂Eにとっては、250℃の溶融加工温度は、望ましくなく高ΔnおよびΔngateの両方の値に示されるように、最適温度より低いことを示しているように思われる。この挙動に対する可能な説明は、樹脂Eのジエン含量およびMnに由来し、これらのいずれも樹脂AからDのものより大きく、これらのいずれも、恐らくは「円柱状モルフォロジー」として知られるモルフォロジー状態における、より顕著なミクロ相分離を促進するように思われる。
【0074】
樹脂AからDは、より広いポリマー溶融加工温度ウィンドウを有し、溶融加工温度に対する感受性を低下させるために、例えばスチレン含量を増すことによって、樹脂組成が変更され得ることを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性組成物であって、前記組成物は、示差走査熱量測定により測定したとき、0パーセントを超え、1パーセント未満までの結晶度、および、633ナノメートルの波長で測定したとき、0から6×10−6未満の範囲内の平均複屈折を有する、熱可塑性組成物。
【請求項2】
水素添加されたビニル芳香族ブロックコポリマーを含む、請求項1に記載の物質の組成物。
【請求項3】
熱可塑性組成物であって、前記組成物は、水素添加されたビニル芳香族モノマー/共役ジエンブロックコポリマーを含み、示差走査熱量測定により測定したとき、0パーセントから1パーセント未満の結晶度、および、633ナノメートルの波長で測定したとき、0から6×10−6未満の範囲内の平均複屈折を有する、熱可塑性組成物。
【請求項4】
水素添加されたビニル芳香族モノマー/共役ジエンブロックコポリマーが、633ナノメートルの波長で測定して、0を超え6×10−6未満の範囲内の複屈折を保つと同時に、0パーセントを超える結晶度をもつのに十分な量の重合したブタジエンモノマーを、水素添加の前に含む、請求項3に記載の物質の組成物。
【請求項5】
共役ジエンがイソプレンである、請求項3に記載の物質の組成物。
【請求項6】
前記ブロックコポリマーが、水素添加される重合したビニル芳香族モノマーの少なくとも3つの別個のブロック、および水素添加される重合した共役ジエンモノマーの少なくとも2つのブロックを、水素添加の前に含む、請求項2または3に記載の物質の組成物。
【請求項7】
前記ブロックコポリマーが、水素添加の前に、70重量パーセントを超え、95重量%未満までの重合したビニル芳香族モノマー含量、および、5重量%を超え、30重量%未満までの重合したジエンモノマー含量を有し、各重量%はブロックコポリマーの全重量に対するものであり、ここで、重合したビニル芳香族モノマー含量および重合したジエンモノマー含量は、合わせると100重量%に等しい、請求項3に記載の物質の組成物。
【請求項8】
水素添加されたブロックコポリマーが、水素添加の前に、ジエンモノマーブロックをさらに含み、前記ジエンモノマーがブタジエンであり、重合したジエンモノマー含量は、ブロックコポリマーの全重量に対して5重量パーセントを超え、20重量パーセント未満であり、但し、重合したジエンモノマー含量が15重量パーセントを超え、20重量パーセント未満である場合、重合したジエンモノマー含量は、重合した全ジエンモノマー含量に対して、少なくとも15重量パーセントの1,2−ビニル含量を含む、請求項2に記載の物質の組成物。
【請求項9】
前記ブロックコポリマーが、水素添加の前に、3つの重合したビニル芳香族モノマーブロックおよび2つの重合したジエンモノマーブロックを、重合したビニル芳香族モノマーブロックがペンタブロックコポリマーの両末端ブロックを成すように、交互ブロック配列で含むペンタブロックコポリマーである、請求項2または3に記載の物質の組成物。
【請求項10】
ビニル芳香族モノマーがスチレンである、請求項9に記載の物質の組成物。
【請求項11】
前記ブロックコポリマーが、水素添加の前に、40,000から150,000未満までの範囲内の数平均分子量をさらに備える、請求項2または3に記載の物質の組成物。
【請求項12】
前記範囲が、45,000から120,000である、請求項11に記載の物質組成物。
【請求項13】
水素添加されたブロックコポリマーが、ビニル芳香族ブロックおよび共役ジエンブロックの両方に対して、少なくとも90パーセントの水素添加レベルを有する、請求項2または3に記載の物質の組成物。
【請求項14】
水素添加されたブロックコポリマーが、少なくとも1.8ft−lb/in(95.9J/m)のノッチなしアイゾット衝撃を有する、請求項2または3に記載の組成物。
【請求項15】
a.水素添加されたビニル芳香族ブロックコポリマーを含むポリマー溶融物を供給するステップであって、DSCにより測定したとき、0パーセントから1パーセント未満の結晶度、633ナノメートルの波長で測定したとき、0を超え6×10−6未満の範囲内の平均複屈折、および115℃から145℃の範囲内のガラス転移温度を有し、前記ポリマー溶融物は、流動できる粘度をもたせるのに十分であるが、熱誘起コポリマー鎖切断または分解を引き起こすには不十分である溶融温度にある、ステップ;
b.前記ポリマー溶融物を、ガラス転移温度−20℃からガラス転移温度−90℃の温度範囲内の温度で、光学レンズに成形するステップであって、これによって、光学レンズが、その横断面全体に渡って(その最上部から最下部まで)、ならびにその長さおよび幅に渡って実質的に一様な複屈折を有する、ステップ
を含む、レンズの製造方法。
【請求項16】
光学レンズが少なくとも1ミリメートルの厚さを有する、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
ポリマー溶融物が200℃から310℃未満の範囲内の温度にある、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
ステップb.が、1分未満の成形サイクル時間で実施される、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
ステップb.が、100℃未満の金型温度で実施される、請求項15に記載の方法。
【請求項20】
水素添加されたビニル芳香族ブロックコポリマーが、水素添加の前に、スチレン/イソプレンペンタブロックコポリマーを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項21】
結晶度が0パーセントを超え、水素添加されたブロックコポリマーが、水素添加の前に、スチレン/ブタジエンペンタブロックコポリマーを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項22】
請求項1または3に記載の熱可塑性組成物、または請求項1および3に記載の熱可塑性組成物の混合物を含み、a)1ミリメートルを超える厚さ、およびb)その横断面の全体に渡って、ならびにその長さおよび幅に渡って実質的に一様な複屈折、の少なくとも一方を有するレンズ。
【請求項23】
熱可塑性組成物が、水素添加されたビニル芳香族ホモポリマー、またはビニル芳香族モノマーおよび共役ジエンモノマーの水素添加されたランダムコポリマー、の少なくとも1つをさらに含む、請求項22に記載のレンズ。
【請求項24】
光学レンズである、請求項22または23に記載のレンズ。
【請求項25】
非球面レンズである、請求項24に記載のレンズ。
【請求項26】
不規則な表面形状、一様でない厚さ、または不規則で一様でない横断面、の少なくとも1つを有する、請求項24に記載のレンズ。
【請求項27】
複屈折が青色レーザー光に対する応答で求められ、青色レーザー光が、350ナノメートルから450ナノメートルの範囲内の波長を有する、請求項22に記載のレンズ。
【請求項28】
反射防止コーティングを、レンズの表面の少なくとも一部にさらに備える、請求項22または23に記載のレンズ。

【公表番号】特表2011−508052(P2011−508052A)
【公表日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−540682(P2010−540682)
【出願日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際出願番号】PCT/US2008/076821
【国際公開番号】WO2009/085346
【国際公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【出願人】(502141050)ダウ グローバル テクノロジーズ インコーポレイティド (1,383)
【Fターム(参考)】