説明

低電解質乾燥α化米の製造方法

【課題】腎臓病患者や糖尿病患者が安心して食することができるようにカリウム,リン,タンパク質を大幅に低減し、食味も健常者が食べても十分美味しいと感じ、腎臓病患者や糖尿病患者などの食事制限者と健常者の両者が食することができる乾燥α化米を、簡易な製造方法で製造し極めて低コストで生産性に優れた低電解質乾燥α米の製造方法を提供することを目的としている。
【解決手段】原料米を精米歩合90%以下に精米してこの原料米に含有しているカリウム及びリン及びタンパク質の一部を削り落とした低電解質精米にし、この低電解質精米を煮てα化せしめ、このα化した低電解質α化米を水で洗浄し、この洗浄した低電解質α化米を乾燥して低電解質乾燥α化米を得る低電解質乾燥α化米の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カリウム,リンの含有量を低減した乾燥α化米の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、災害時の備蓄食料として乾燥α化米を採用する自治体が増えてきているが、一般的に備蓄される乾燥α化米は、カリウム,リン,タンパク質などの栄養成分が通常の米飯と略同等の量が含まれたものであり、腎臓病患者や糖尿病患者などの食事制限を課せられている人には適さず、災害時には腎臓病患者や糖尿病患者はこれを食することができない(特に腎臓病患者がカリウムを多く摂取してしまうと血中のカリウム濃度が高くなりすぎ不整脈や心停止が生じる危険性がある)。
【0003】
そのため、従来、腎臓病患者や糖尿病患者のための乾燥α化米も提供されているが、これらは低カリウム,低リンにする製造過程で乳酸や酵素などを用いているためにpH濃度が変わってしまい食味を大きく損ねたものとなっており、健常者にとっては食し難いものとなっている。
【0004】
従って、健常者と腎臓病患者や糖尿病患者の両者が共に同じものを食することができる乾燥α化米の開発が望まれていた。
【0005】
そこで、本発明者は、特開2008−245599号に開示するように、健常者と食事制限者の両者が食した際に、どちらもが美味しく感じて、尚且つ腎臓病患者や糖尿病患者といった食事制限を課せられている者がこれを摂取したことによって病状を悪化させる心配が無い低カリウム,低リン,低タンパク質の乾燥α化米の製造方法を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−245599号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の特開2008−245599号に開示される乾燥α米の製造方法を改善し、より一層腎臓病患者や糖尿病患者が安心して食することができるようにカリウム,リン,タンパク質を低減し、食味も健常者が食べても十分美味しいと感じ、腎臓病患者や糖尿病患者などの食事制限者と健常者の両者が食することができる乾燥α化米を、簡易な製造方法で製造し極めて低コストで生産性に優れた低電解質乾燥α米の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
添付図面を参照して本発明の要旨を説明する。
【0009】
原料米を精米歩合90%以下に精米してこの原料米に含有しているカリウム及びリン及びタンパク質の一部を削り落とした低電解質精米にし、この低電解質精米を煮てα化せしめ、このα化した低電解質α化米を水で洗浄し、この洗浄した低電解質α化米を乾燥して低電解質乾燥α化米を得ることを特徴とする低電解質乾燥α化米の製造方法に係るものである。
【0010】
また、前記低電解質精米は、前記原料米に対する精米歩合を50%〜80%とすることを特徴とする請求項1記載の低電解質乾燥α化米の製造方法に係るものである。
【0011】
また、前記低電解質α化米は、5℃〜20℃の水で洗浄して前記低電解質α化米に付着しているカリウム及びリンを洗い流すことを特徴とする請求項1,2のいずれか1項に記載の低電解質乾燥α化米の製造方法に係るものである。
【0012】
また、前記低電解質α化米は、前記洗浄した後に85℃〜120℃の熱風を当てて乾燥させることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の低電解質乾燥α化米の製造方法に係るものである。
【0013】
また、前記原料米は、難消化性タンパク質を40%以上含んでいることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の低電解質乾燥α化米の製造方法に係るものである。
【0014】
また、前記精米は、醸造用精米機を使用することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の低電解質乾燥α化米の製造方法に係るものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明は上述のようにしたから、原料米中に含有していたカリウム及びリンなどの電解質成分とタンパク質の含有量を大幅に低減しているので、例えば、腎臓病患者や糖尿病患者がたくさん食べても病状が悪化することがなく、安心して食することができるので日常的な腎臓病患者や糖尿病患者の食事として好適であり、更に、健常者が食べても十分美味しく感じることができるので、特に災害時の非常食として備蓄しておく備蓄食糧として好適である低電解質乾燥α化米を、極めて簡易な製造方法で製造するので、極めて低コストで量産可能な生産性に優れた画期的な低電解質乾燥α化米の製造方法となる。
【0016】
また、請求項2,3,6記載の発明においては、非常に簡易な方法で容易に原料米中のカリウム及びリンを低減する量産性に優れた低電解質乾燥α化米の製造方法となる。
【0017】
また、請求項4記載の発明においては、非常に簡易な方法で容易に洗浄したα化米を乾燥するので、低コスト且つ量産性に優れた低電解質乾燥α化米の製造方法となる。
【0018】
また、請求項5記載の発明においては、実際に体に吸収されるタンパク質が一般的なご飯を食したときと比較して非常に少ない(1/3〜1/2程度)、即ち体内に入ったあとは、40%以上のタンパク質が体内に吸収されずにそのまま排泄されるので、体内中に蓄積される懸念もなく実用性に優れた低電解質乾燥α化米の製造方法となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本実施例の工程フロー説明図である。
【図2】本実施例と従来例の成分比較表である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
好適と考える本発明の実施形態を、本発明の作用を示して簡単に説明する。
【0021】
本発明は、原料米を精米歩合90%以下(例えば、精米歩合50%〜80%)に精米するので、一般的な精米のように玄米の外層部の数%〜10%程度を占める糠(果皮や種皮)や胚芽の部分だけを取り除くのではなく、米粒の胚乳部や澱粉質の一部を含む外層部を削り落とすので、この胚乳部の外層部付近に多く存在するカリウム及びリン及びタンパク質が一緒に除去され、精米の段階で米粒中のカリウム及びリン及びタンパク質の含有量を大幅に低減した低電解質精米となる。
【0022】
この低電解質精米を煮ることで米粒が加熱されα化すると共に、更に米粒中に含有しているカリウム及びリンが米粒外に溶出して米粒中のカリウム及びリンの含有量を一層低減した低電解質α化米となる。
【0023】
また、低電解質精米を煮ている最中に溶出したカリウム及びリンの一部が低電解質α化米となった米粒の表面に付着してしまうが、この低電解質α化米を洗浄することで、付着したカリウム及びリンを洗い流し、更に、この洗浄によって低電解質α化米の表面に形成した保水層(粘り気のある部分)も一緒に除去するので、この保水層に含まれるカリウム及びリンも更に除去することとなり、一層低カリウム、低リンとなる。
【0024】
しかも、保水層を除去することで表面に粘り気がなくなるので、米粒同士がくっつかずに次の処理となる乾燥や加工もし易くなる。
【0025】
また、この低電解質α化米を、例えば熱風を当てて乾燥することで低電解質乾燥α化米を得ることができる。
【0026】
このように、非常に簡易な製造方法で容易に原料米中に含まれているカリウム及びリンを、例えば腎臓病や糖尿病を患っている人たちでも安心して食することができる含有量に確実に低減することができ、しかも、原料米中に含まれるタンパク質も削ぎ落として含有量を低減しているので、腎臓の働き(負荷)を軽減することができ、更に、健常者が食しても十分美味しく感じることができる低電解質乾燥α化米を極めて簡易な製造方法で製造可能となり、従って、極めて低コストで量産可能となるので、より優れた製品をより安価に提供することができる極めて実用性に優れた画期的な低電解質乾燥α化米の製造方法となる。
【実施例】
【0027】
本発明の具体的な実施例について説明する。
【0028】
本実施例は、原料米を精米歩合90%以下に精米してこの原料米に含有しているカリウム及びリンの一部を削り落とした低電解質精米にし、この低電解質精米を煮てα化せしめ、このα化した低電解質α化米を水で洗浄し、この洗浄した低電解質α化米を乾燥して低電解質乾燥α化米を得ることを特徴とする低電解質乾燥α化米の製造方法である。
【0029】
尚、本明細書中にいう「α化米」とは、米粒(生米澱粉)がα化している米を意味し、乾燥させたものは含まない概念である。
【0030】
本実施例においては、原料米としては、難消化性タンパク質を約40%以上含む低タンパク米を採用しており、具体的には、難消化性タンパク質を50%以上含む春陽を採用しているので、実際に体に吸収されるタンパク質が一般的な米(例えば、コシヒカリなどの易消化性タンパク質のほうが多い米)を食したときと比較して非常に少ない(約1/2程度)こととなる。
【0031】
即ち、体内に入ったあとは、50%以上のタンパク質が体内に吸収されずにそのまま排泄されるので、体内中に蓄積される懸念もなく、よって、腎臓の働きを軽減することができるので腎臓病や糖尿病を患っている人たちでも安心して食することができる。
【0032】
尚、上記以外に、例えばLGCソフト(難消化性タンパク質含有率40%〜45%)等、他の品種を採用しても良い。
【0033】
本実施例は、まず、原料米として春陽を用いて、例えば酒造用精米機を使用してこの春陽を精米する。
【0034】
具体的には、精米歩合50%〜80%の高度精米を行っており、これは削ぎ落とす糠や原料米の外層部の割合が50%〜20%で精米(米粒)の割合が50%〜80%になることを言う。尚、本実施例においては、60%高度精米したものを用いている。
【0035】
また、一般的な精米は、精米歩合が90%〜95%程度であり、削られる部分は糠が大半を占める。
【0036】
この高度精米によって原料米の外層部及び内層部の一部が削り落とされ、また、この削り落とされた外層部付近には、原料米の中心部側に比べて多くのカリウム,リン,タンパク質が存在しているので、精米後はカリウム,リン,タンパク質の含有量が大幅に低減された低電解質精米となる。
【0037】
続いて、この低電解質精米を水に浸漬させて、米粒に水分を吸収させる。具体的には、水温5℃〜20℃(気温により適宜調整する)の水に約5分〜15分間(本実施例においては10分間に設定)浸漬する。
【0038】
続いて、吸水させた低電解質精米を煮てα化せしめる。具体的には、沸騰状態の湯の中に攪拌しながら低電解質精米を投入し、米粒同士がくっついて固まらないように攪拌しながら15分〜25分間煮て、低電解質精米をα化せしめる。尚、煮る時間は、高度精米後の精米歩合により適宜変更するものとする。
【0039】
また、この低電解質精米を煮ることで低電解質精米中に含まれていたカリウム,リンが溶出し、より一層カリウム,リンの含有量が低減された低電解質α化米を得ることができる。
【0040】
このように本実施例では、低電解質精米を煮てα化せしめるので、一般的に米をα化する方法として用いられる炊飯のように、α化前に米粒に十分な吸水(略飽和状態に近くなるまで吸水)をする必要がなく、また、炊飯時間に比べ煮る時間は半分以下であり、更に、α化せしめた後の蒸らしも必要ないので、浸漬〜α化までの処理工程を従来と比べて簡略化でき、従って、スループットも大幅に向上するので、生産性が大幅に向上する。
【0041】
続いて、この低電解質精米をα化せしめて得た低電解質α化米を水で洗浄する。この洗浄は、低電解質α化米の表面に付着した上述の溶出したカリウム,リンを除去するもので、具体的には、攪拌層内に水温5℃〜20℃(気温により適宜調整する)の水と共に低電解質α化米を投入し、攪拌層内の水を給排水しながら攪拌棒を用いて約3分〜10分間(本実施例においては5分間に設定)攪拌しながら洗浄して低電解質α化米の表面に付着したカリウム及びリンを洗い流している。
【0042】
また、この洗浄によって低電解質α化米の表面に形成した保水層(粘り気のある部分)も一緒に除去されるので、この保水層に含まれるカリウム及びリンも除去されることとなり、一層低カリウム,低リンとなる。
【0043】
しかも、保水層を除去することで表面に粘り気がなくなるので、米粒同士がくっつかずに次の処理となる乾燥や加工もし易くなる。
【0044】
尚、低電解質α化米の洗浄方法は、前述したように攪拌式に限らず、例えば、低電解質α化米に高圧水を吹き付けて洗浄する方法でも良い。
【0045】
続いて、この洗浄した低電解質α化米を水切りする。水切りは定法により行う。具体的には、5分〜10分間(本実施例においては7分間に設定)行う。
【0046】
続いて、水切りした低電解質α化米を乾燥して低電解質乾燥α化米とする。具体的には、85℃〜120℃の熱風を80分〜120分間(本実施例では100分間に設定)当てて低電解質α化米を乾燥させている。
【0047】
続いて、この乾燥した低電解質乾燥α化米をほぐした状態で放置冷却してから袋詰めすることで製品となる。
【0048】
上記のような製造方法にて得た本実施例の低電解質乾燥α化米のカリウム,リン,タンパク質の含有量を調べたところ、低電解質乾燥α化米100g当りの各成分含有量は、カリウム含有量が16mg/100g、リン含有量が39mg/100g、タンパク質含有量が3.7g/100gであった。
【0049】
また、一般的に市販されているα化米の上記成分は、カリウム含有量が66mg/100g、リン含有量が78mg/100g、タンパク質含有量が5.8g/100g(伍訂栄養成分表値)であり、これと比べると、全ての成分において大幅に低減されている。具体的には、カリウムは75%低減しており、リンは50%低減しており、タンパク質は36%低減しており、また、この数値は、本発明者が提案した特開2008−245599号における乾燥α化米の製造方法と略同等の数値であった。
【0050】
また、本実施例の原料米である春陽の60%高度精米後の米粒100g当りのカリウム含有量は50mg、リン含有量は50mg、タンパク質含有量は3.6gであり、前記低電解質乾燥α化米のタンパク質含有量と同等の数値であることより、低電解質精米を煮ることと洗浄することでカリウム及びリンを大幅に低減するが、タンパク質など他の栄養成分は殆ど失わないので、この点からも食味を損ねることがなく十分美味しく食すことができる。
【0051】
このように、非常に簡易な製造方法で容易に原料米中に含まれているカリウム及びリンを、例えば腎臓病や糖尿病を患っている人たちでも安心して食することができる含有量に確実に低減することができ、しかも、原料米中に含まれるタンパク質も削ぎ落として含有量を低減しているので、腎臓の負荷を軽減することができる。
【0052】
更に、高度精米した米を煮て洗浄して乾燥するだけなので、余計な成分を加えていないので一般的な米飯と食味が変わることなく、健常者が食しても十分美味しく感じることができるので、特に災害時の非常食として備蓄しておく備蓄食糧として好適である低電解質乾燥α化米を極めて簡易な製造方法で製造可能となり、従って、低コストで量産可能となるので、より優れた製品をより安価に提供することができる極めて実用性に優れた画期的な低電解質乾燥α化米の製造方法となる。
【0053】
尚、本発明は、本実施例に限られるものではなく、各構成要件の具体的構成は適宜設計し得るものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料米を精米歩合90%以下に精米してこの原料米に含有しているカリウム及びリン及びタンパク質の一部を削り落とした低電解質精米にし、この低電解質精米を煮てα化せしめ、このα化した低電解質α化米を水で洗浄し、この洗浄した低電解質α化米を乾燥して低電解質乾燥α化米を得ることを特徴とする低電解質乾燥α化米の製造方法。
【請求項2】
前記低電解質精米は、前記原料米に対する精米歩合を50%〜80%とすることを特徴とする請求項1記載の低電解質乾燥α化米の製造方法。
【請求項3】
前記低電解質α化米は、5℃〜20℃の水で洗浄して前記低電解質α化米に付着しているカリウム及びリンを洗い流すことを特徴とする請求項1,2のいずれか1項に記載の低電解質乾燥α化米の製造方法。
【請求項4】
前記低電解質α化米は、前記洗浄した後に85℃〜120℃の熱風を当てて乾燥させることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の低電解質乾燥α化米の製造方法。
【請求項5】
前記原料米は、難消化性タンパク質を40%以上含んでいることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の低電解質乾燥α化米の製造方法。
【請求項6】
前記精米は、醸造用精米機を使用することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の低電解質乾燥α化米の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−135816(P2011−135816A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−297921(P2009−297921)
【出願日】平成21年12月28日(2009.12.28)
【出願人】(502312096)有限会社 エコ・ライス新潟 (2)
【Fターム(参考)】