説明

住宅

【課題】エレベータ設置予定空間にエレベータを設置した際にも、動線の交錯が生じることがない住宅を提供する。
【解決手段】例えば、2階建てのエレベータEが設置されていない建物1Aであって、仮想的に区切られたエレベータ室予定領域29bとエレベータホール予定領域29aとを有する学習室(可変室)29と、可変室29に隣接して設けられたDK部(不変室)21と、を備え、可変室29は、エレベータ室予定領域29bに配置されると共に、他の領域に配置された床部から独立して撤去可能である床部と、エレベータホール予定領域29aに設けられると共に、不変室21に連絡する連絡口29cと、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の階層を備える住宅であり、特に、新築時にはエレベータが設置されてはいないが、将来的にエレベータを容易に設置し得る住宅に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、住宅の居住者の高齢化に備えて、Uターン形式の階段を備えた階段室に、将来的にエレベータを設置してエレベータ室として使用し得る空間(以下エレベータ設置予定空間とする)を並設することが行われていた。階段室は将来に亘ってその位置が変更される可能性が低い(つまり階段室の出入面側の空間は昇降の妨げとなる他の用途に変更される可能性が低い)ので、エレベータ設置予定空間を階段室に併設することは合理的である(特許文献1参照)。
【0003】
そして、エレベータ設置予定空間の床を、特許文献2に記載のように、架構(構造部材)を改変することなく、容易に設置できるように構成しておくことで、エレベータを容易に後設置することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−155823号公報
【特許文献2】特開2000−192588号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載のレイアウトの場合、将来的にエレベータが設置されると、エレベータの前の空間、例えば廊下や居間などの空間はエレベータが着床するまでの間、エレベータ利用者が待機することになり、エレベータの前を通過する他の居住者の動線と交錯するおそれがある。
【0006】
本発明は、エレベータ設置予定空間にエレベータを設置した際にも、動線の交錯が生じることがない住宅を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、複数の階層を備え、且つエレベータが設置されていない住宅であって、仮想的に区切られたエレベータ室予定領域とエレベータホール予定領域とを有する可変室と、可変室に隣接して設けられた不変室と、を備え、可変室は、エレベータ室予定領域に配置されると共に、他の領域に配置された床部から独立して撤去可能である床部と、エレベータホール予定領域に設けられると共に、不変室に連絡する連絡口と、を有することを特徴とする。
【0008】
本発明では、可変室のエレベータ室予定領域の床部は、例えば、エレベータホール予定領域等の他の領域の床部から独立して撤去可能であるため、将来的にエレベータを設置する必要が生じた場合にも比較的簡単にエレベータを設置することができる。また、可変室は、不変室への連絡口が設けられたエレベータホール予定領域を有する。その結果として、エレベータ設置後は不変室に連絡するエレベータホールが確保されることになり、エレベータを待つ人物と不変室を通過する人物との動線の交錯を抑制できる。
【0009】
さらに、可変室は、エレベータ室予定領域側の面積とエレベータホール予定領域側の面積とが同一、または、エレベータ室予定領域側の面積よりもエレベータホール予定領域側の面積の方が大きいと好適である。この構成によれば、将来的にエレベータを設置した際に、エレベータホールの面積は、エレベータ室内で昇降するエレベータ内の実有効面積よりも面積が大きくなる。従って、エレベータに乗り込む予定の人員がエレベータホールから不変室にあふれ出てしまうことを抑制でき、エレベータホールで待機する人物と不変室を通過する人物との動線の交錯を抑制できる。
る。
【0010】
さらに、可変室に並設されると共に、Uターン形式の階段が形成された階段室を備え、階段室は、不変室に連絡する昇降口を有し、昇降口は、可変室の連絡口が形成された壁側に設けられていると好適である。この構成によれば、上下移動のための空間、及び上下移動を予定された空間を集約化してコンパクトに構成することができる。
【0011】
さらに、可変室のエレベータホール予定領域における壁面に設けられた窓を備えると好適である。この構成によれば、可変室に窓が確保されているので可変室の用途が限定されにくく、多目的に使用することができる。また、エレベータ設置後も窓が塞がれることがないので、当初の通風性能や採光性能を維持することができる。
【0012】
さらに、不変室に設けられた対面型キッチンセットを備え、可変室の連絡口は、対面型キッチンセット側に設けられていると好適である。この構成によれば、対面型キッチンセットに向かって炊事などの作業を行う居住者は連絡口を通じて可変室の内部を見通すことができる。従って、親(居住者)がまだ若く子供も成長の途上にあってエレベータの必要性が低く、且つ子供に対して目を行き届かせたい時期には、可変室を子供の為の学習コーナーとして使用することにより、台所で作業する親は可変室で学習する子供を見守ることができる。そして、子供が成長して学習コーナーの必要性が低下すると共に、親が高齢化してエレベータの必要性が高まってきた場合には、永続的に必要な他の空間を犠牲にすることなく可変室にエレベータを設置することができ、ライフスタイルの変化にうまく対応させることができる。
【0013】
さらに、可変室は、複数の階層に応じて複数設けられ、且つ複数の可変室は複数の階層を連絡すべく上下方向に沿って並び、複数の可変室のうち、少なくとも一の可変室は机部及び棚部が設けられた子供用学習コーナーであり、他の可変室は居住が想定される家族の人数構成に対応させた数のロッカーが設置されたロッカー室であると好適である。子供用学習コーナーやロッカー室は子供が成長し独立することで必要性が低下するため、永続的に必要な他の空間を犠牲にすることなく、これらのスペースを利用してエレベータを設置できるので、ライフスタイルの変化にうまく対応させることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、エレベータ設置予定空間にエレベータを設置した際にも、エレベータを待つ者と他の居住者等との間での動線の交錯は生じることがない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態に係る建物であり、エレベータが設置されていない状態での1階部分を示す平断面図である。
【図2】本発明の実施形態に係る建物であり、エレベータが設置されていない状態での2階部分を示す平断面図である。
【図3】本実施形態に係る可変室の床構造を拡大して示す平面図である。
【図4】図3のIV−IV線に沿った断面図である。
【図5】図3のV−V線に沿った断面図である。
【図6】可変室にエレベータが設置された建物であり、その建物の1階部分を示す平断面図である。
【図7】可変室にエレベータが設置された建物であり、その建物の2階部分の平断面図である。
【図8】図6のVIII−VIII線に沿った断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0017】
まず、図1、及び図2を参照し、建物(住宅)1Aの一例について、その全体構成を概略説明する。この建物1Aは、例えば、305mmの平面モジュール(いわゆる「尺モジュール」)を有する梁勝ち構法による鉄骨造2階建工業化住宅である。
【0018】
建物1Aの基礎は、格子状に構築された鉄筋コンクリート造の布基礎であり、1階の床パネルを支持するためのH形鋼からなる基礎梁が適宜架け渡されている。また、軸組は、角形鋼管からなる柱とH形鋼からなる梁とからなり、当該軸組に耐力パネルが適宜付加されている。
【0019】
建物1Aの内部に設けられた床構造は、基礎や梁に支持された床パネル、断熱材やモルタルなどからなる床下地材、及びフローリングなどの床仕上げ材を備えて構成されている。床パネルは、ALC(軽量気泡コンクリート)パネル、またはPC(プレキャストコンクリート)パネル等のパネルからなり、予め設定された荷重に充分に耐え得る床専用のパネルによって構成されている。床パネルは通常の床用に規格サイズのパネルとして成形されている。
【0020】
建物1Aの外壁3は、外周屋根梁に沿って立設されたALC製の外壁パネルからなり、表面には防水仕上げ層としての吹付塗装が施されている。
【0021】
建物1Aの内部で各室を区画する間仕切壁5a,5b,5c,5d,5e,6(図1参照)、7a,7b,7c,7d,7e,8(図2参照)は、軽量形鋼や木材からなる壁下地、壁下地にビス固定された石膏ボード、石膏ボードに糊付けされたビニールクロスなどで構成され、前述した柱、梁、床パネルに手を加えることなく撤去することができる。
【0022】
次に、建物1Aの間取りについて説明する。建物1Aは、1階に個室を配置し、2階にLDKを配置した、いわゆる「2階リビング」の間取りを有し、さらに1階と2階とを連絡する階段16が設けられた階段室15を備えている。
【0023】
この建物1Aの場合、夫婦、および入居当初は小学生以下の二人の子供(4人家族)の居住を想定しており、1階(図1参照)には、夫婦の寝室である第1の個室10、子供用の第2の個室11、1階トイレ14、及び階段室15に並設されたファミリークローゼット13が設けられている。また、1階には、第1の個室10、第2の個室11、ファミリークローゼット13、1階トイレ14、階段室15、及びファミリークローゼット13に面して各室を連絡する廊下17が設けられている。
【0024】
ファミリークローゼット13は1階の可変室であり、第1の個室10、第2の個室11、ファミリークローゼット13、1階トイレ14、及び廊下17は1階の不変室である。なお、階段室15は、1階及び2階双方における不変室である。
【0025】
建物1Aの2階(図2参照)には、台所兼食堂(以下、「DK部」)21、居室23、浴室25、2階トイレ27、ロッジア28、及び階段室15に並設された子供用の学習室(学習コーナー)29が設けられている。学習室29は2階の可変室であり、DK部21、居室23、浴室25、2階トイレ27、ロッジア(柱で支持された屋根で覆われた外部空間)28などは2階の不変室である。
【0026】
階段室15は1階と2階とを連絡すべく、1階から2階に渡って縦長に設けられている。階段室15にはUターン形式の階段16が形成されている。Uターン形式の階段16は、1階部分の昇降口15aと2階部分の昇降口15bとが同じ側、つまり同じ向きとなるように形成された階段16である。より具体的には、1階部分の昇降口15aを通って階段16を上る歩行者の向きと階段16を昇り切って2階部分の昇降口15bを通る歩行者の向きとが180度転回する階段16を意味する。その結果、Uターン形式の階段16では、階段16を昇降する歩行者の動線が平面視で略U字状を描く。
【0027】
階段16は、昇り始め側の下側部分16a、昇り切り側の上側部分16b、下側部分16aと上側部分16bとを連絡する中間部分16cとを有する。下側部分16aには、長方形状の複数の踏板が平行に並んで配置されている。複数の踏板は直線上に並んでおり、下側部分16aを昇降する歩行者の動線は直線となる。また、上側部分16bも同様に長方形状の複数の踏板が平行に並んで配置されており、上側部分16bを昇降する歩行者の動線は直線となる。一方で、中間部分16cには、三角形あるいは台形の踏板が扇状に並んで配置されており、中間部分16cにおいて歩行者の向きが180度転回するように形成されている。
【0028】
階段室15を水平面に沿って切断した場合の横断面形状は略正方形であり、縦横の寸法、具体的には階段室15を形成する間仕切壁5c,5eの中心間の寸法、及び間仕切壁7c,7eの中心間の寸法は1830mm×1830mmである。この寸法は、例えば、標準的な階高(例えば、2800mm〜2900mm程度)において、Uターン形式の階段16の勾配を45度以下に設定したい場合に必要な最小限度の大きさである。なお、建物1Aの平面モジュールが250mmあるいは500mm(いわゆる「メーターモジュール」)の場合には、2000mm×2000mmを階段室15の寸法の最小限度とすることができる。
【0029】
上述のように、新築時において1階の可変室はファミリークローゼット13として使用され、2階の可変室は学習室29として使用される。
【0030】
図1に示されるように、ファミリークローゼット(ロッカー室)13は階段室15に近い側の領域と階段室15から遠い側の領域とに略均等に分割されている。階段室15に近い側の領域はエレベータホール予定領域13aであり、階段室15から遠い側の領域はエレベータ室予定領域13bである。エレベータホール予定領域13aとエレベータ室予定領域13bとは床構造70Bの内部に設けられた境界L1によって仮想的に区切られている。
【0031】
ファミリークローゼット13のエレベータホール予定領域13aの面積とエレベータ室予定領域13bの面積とは略同一であり、それぞれ1830mm×915mmの面積を有する。なお、エレベータ室予定領域13bの面積よりもエレベータホール予定領域13aの面積の方が大きい態様であってもよい。
【0032】
ファミリークローゼット13は、外壁3の一部、及び間仕切壁5a,5b,5cに囲まれるようにして他の領域から区画されているが、ファミリークローゼット13と廊下(不変室)17との間には、間仕切壁5bの一部を開放する出入り口建具が設置されている。出入り口建具はエレベータホール予定領域13aに設けられており、廊下17に連絡する連絡口13cとなる。なお、間仕切壁5a,5b,5cの内部には、鉄骨の柱や耐震パネルなどは存在せず、間仕切壁5a,5b,5cの撤去や新設によって容易に開放したり区画したりすることができる。
【0033】
ファミリークローゼット13のエレベータ室予定領域13bには、居住者である家族(4人家族)の人数構成に対応させた数(4個)の個人用のロッカー30が設置されている。また、エレベータホール予定領域13aの外壁3の壁面には、ガラスが嵌め込まれた縦長の縦すべり出し形式であり、採光機能及び通風機能を備えた窓31が設けられている。窓31は、エレベータホール予定領域13aに面するように配置されている。
【0034】
図2に示されるように、学習室(子供用学習コーナー)29は、階段室15に近い側の領域と階段室15から遠い側の領域とに略均等に分割されている。階段室15の近い側の領域はエレベータホール予定領域29aであり、階段室15から遠い側の領域はエレベータ室予定領域29bである。エレベータホール予定領域29aとエレベータ室予定領域29bとは床構造70Aの内部に設けられた境界L2によって仮想的に区切られている。
【0035】
建物1Aは、エレベータホール予定領域29aの面積とエレベータ室予定領域29bの面積とは略同一であり、それぞれ1830mm×915mmの面積を有する。なお、エレベータ室予定領域29bの面積よりもエレベータホール予定領域29aの面積の方が大きい態様であってもよい。
【0036】
学習室29は、外壁3の一部、及び間仕切壁7a,7b,7cに囲まれるようにして他の領域から区画されているが、学習室29とDK部(不変室)21との間にには、間仕切壁7bの一部を開放する出入り口建具が設置されている。出入り口建具はエレベータホール予定領域29aに設けられており、DK部21に連絡する連絡口29cとなる。なお、間仕切壁7a,7b,7cの内部には、鉄骨の柱や耐震パネルなどは存在せず、間仕切壁7a,7b,7cの撤去や新設によって容易に開放したり区画したりすることができる。
【0037】
DK部21には、対面型キッチンセット33が設置されており、対面型キッチンセット33と学習室29との間には、例えば、ダイニングテーブル35、及び椅子36を設置するエリアが設けられている。学習室29の連絡口29cは対面型キッチンセット33側に形成されており、対面型キッチンセット33は、炊事する親P1がシンク位置に立った状態で、学習室29の内部を見通せるようにレイアウトされている。その結果として、対面型キッチンセット33に立つ親P1は、例えば、炊事をしながら学習する子供P2の様子を伺ったり、子供P2に対して声をかけたりすることができる。
【0038】
学習室29のエレベータホール予定領域29aには、学習机として使用される作り付けのカウンター(机部)39が設置されている。カウンター39は、階段室15との間に設けられた間仕切壁7cに接するように設けられている。カウンター39の高さは、例えば、床面から70cm程度である。また、学習室29のエレベータ室予定領域29bには、カウンター39に対向する間仕切り壁7aに書棚(棚部)40が設けられている。なお、連絡口29cが形成された間仕切壁7bは、カウンター39、及び書棚40のいずれにも接しない位置に設けられている。
【0039】
建物1Aの場合、1階のファミリークローゼット(可変室)13と2階の学習室(可変室)29とは、1階、及び2階(複数の階層)を連絡すべく上下方向に沿って並んでおり、平面視で重複するように配置されている。エレベータE(図6、及び図7参照)を設置する際には、ファミリークローゼット13の一部の床パネル61と、学習室29の一部の床パネル61とを撤去してエレベータEが昇降する開口部Hを形成する必要がある。ここで、ファミリークローゼット13、及び学習室29の床パネル61は、他の領域に配置された床パネル62から独立して撤去可能であるため、開口部Hの形成が容易であり、エレベータEの設置工事が簡単で済む。
【0040】
以下、図3〜図5を参照して2階の学習室(可変室)29の特徴的な床構造70A、及び1階のファミリークローゼット(可変室)13の特徴的な床構造70Bについて詳しく説明する。なお、後述の説明では、2階の学習室29の床構造70Aを中心に説明を行い、1階のファミリークローゼット13の床構造70Bについては相違点のみを中心に説明し、重複する説明は省略する。
【0041】
学習室29は、階段室15と略同じ大きさであり、仮想的に区切られたエレベータ室予定領域29bとエレベータホール予定領域29aとを有する。ここで仮想的に区切るとは、背の低い間仕切壁や手摺などを設けて視覚的、または物理的に二つの空間を認識可能な程度に区切る態様であってもよいし、室内からは視認できないが、床構造70Aの内部にて構造的な境界L2を形成し、この境界,L2に沿った仮想的な鉛直平面にて二つの空間を区切る態様であってもよい。なお、本実施形態では、床構造70Aの内部にて構造的な境界L2を形成した態様について説明する。
【0042】
学習室29には、梁(小梁含む)63,64に支えられた矩形の床パネル61,62が複数設置されている。梁63,64は、略正方形状の仮想平面を囲むように配置され、さらに、略正方形状の仮想平面を等分割する直線に沿って配置されている。以下の説明では、略正方形状の仮想平面を等分割する梁64を他の梁63と区別するため、便宜上、区切り梁64という。区切り梁64によって分割された仮想平面上のスペースのうち、一方のスペースは、エレベータ室予定領域29bの床部分に対応する開口形成部A1であり、他方のスペースは、エレベータホール予定領域29aの床部分に対応する床確保部A2である。
【0043】
学習室29の複数の床パネル61,62は、エレベータ室予定領域29b側である開口形成部A1に配置される第1のパネル群と、エレベータホール予定領域29a側である床確保部A2に配置される第2のパネル群とに分かれる。以下の説明では、便宜上、第1のパネル群に属する床パネルを撤去可能パネル61といい、第2のパネル群に属する床パネルを不撤去パネル62という。
【0044】
区切り梁64はH型鋼からなり、上下のフランジ64a,64bと、上下のフランジ64a,64bを連結するウェブ64cとを備えている。上フランジ64a及びウェブ64cの所定位置には、見切り金具65、及び受け金具66を取り付けるための複数のボルト孔が形成されている。そして、ウェブ64cには、受け金具66が着脱自在に取り付けられており、上フランジ64aには見切り金具65が取り付けられている。
【0045】
受け金具66は、区切り梁64のウェブ64cに取り付けられる取付片66aと、撤去可能パネル61が載置される載置片66bと、載置片66bを取付片66aに連結して荷重を支持する支持片66cと、を有して構成されている。
【0046】
受け金具66は、取付片66aがボルト、及びナットによって区切り梁64に着脱可能に取り付けられており、ボルト、及びナットを締結することで区切り梁64に固定され、ボルト、及びナットを緩めることで離脱される。なお、受け金具66は、撤去可能パネル61を支持するために、エレベータ室予定領域29bの周縁に配置された他の梁63にも着脱自在に取り付けられている。
【0047】
受け金具66の載置片66bの上面は、区切り梁64の上フランジ64aの上面に対し、撤去可能パネル61と不撤去パネル62の厚さの差に応じてこの差を相殺し得るように構成されている。すなわち、撤去可能パネル61と不撤去パネル62とが同一の厚さである場合には、載置片66bの上面と上フランジ64aの上面とは同一高さに配置される。また撤去可能パネル61と不撤去パネル62との厚さが異なる場合には、載置片66bの上面は上フランジ64aの上面に対し、撤去可能パネル61と不撤去パネル62との厚さの差に応じて異なる高さに配置される。
【0048】
受け金具66の載置片66bは、開口形成部A1の寸法の範囲内に配置される。すなわち、載置片66bは区切り梁64の上フランジ64aに対し上下方向に重なることはなく、上フランジ64aよりも開口形成部A1側に位置している。
【0049】
受け金具66は、撤去可能パネル61及び撤去可能パネル61に作用する荷重を支持し得るものであれば形状を特に限定するものではない。本実施形態では、取付片66aと支持片66cとが断面コ字状に形成されており、載置片66bは、開口形成部A1の辺長と略等しい長さを持ったフラットバーを支持片66cの上端部に溶接することで形成されている。なお、受け金具66については、載置片66bの長さを開口形成部A1の辺長よりも短くしてピース状としても良い。
【0050】
見切り金具65はL字型に成形された長尺状の部材からなり、エレベータ室予定領域29bの周縁に沿って配置された区切り梁64の上フランジ64a、及びエレベータ室予定領域29bの周縁に配置された他の梁63の上フランジ63aに固着される。見切り金具65は、区切り梁64及び他の梁63の上部に充填されるモルタルの型枠として機能し、開口形成部A1の端縁を規定するものである。この見切り金具65は、区切り梁64の上フランジ64aに取り付けられる取付片65bと、取付片65bから立設する見切り片65aとによって構成されている。見切り片65aは、不撤去パネル62の厚さと略等しいか、または不撤去パネル62の厚さとレベリングモルタル67の厚さを加えた高さを有している。見切り金具65は、見切り片65aが開口形成部A1の端縁に沿って配置されると共にボルト、及びナットによって上フランジ64aに固着される。
【0051】
撤去可能パネル61は長さ及び幅寸法が開口形成部A1の寸法を満足する寸法となるように通常の規格サイズのパネルを切断して形成されている。特に、幅方向の寸法は開口形成部A1の同方向の寸法に対し僅かに小さい寸法となるように形成されており、長さ方向の寸法は開口形成部A1の同方向の寸法に対し多少の余裕を持って形成されている。撤去可能パネル61の寸法を前記の如くすることによって、撤去可能パネル61を受け金具66に載置させる際に、少なくとも撤去可能パネル61の幅方向の両端には見切り片65aとの間に大きな間隙が形成されることはない。
【0052】
撤去可能パネル61と不撤去パネル62との間には、見切り片65aが内在する目地が存在し、目地に沿った直線は、エレベータ室予定領域29bとエレベータホール予定領域29aとを仮想的に区切る境界L2になる。見切り片65aと不撤去パネル62の端部との間には、モルタル68が充填され、さらに不撤去パネル62上にはレベリングモルタル67が敷設されている。また、見切り片65aと撤去可能パネル61の端部との間には合成樹脂の発泡体からなるパネル状の断熱材69などが設置され、さらに撤去可能パネル61上には下地材としての板材72が設置されている。
【0053】
床確保部A2の不撤去パネル62はエレベータホール予定領域29aに配置された床部であり、開口形成部A1の撤去可能パネル61はエレベータ室予定領域29bに配置された床部である。撤去可能パネル61は、受け金具66を介して間接的に区切り梁64やその他の梁63に取り付けられており、受け金具66は区切り梁64やその他の梁63に着脱自在な構成である。従って、撤去可能パネル61は、不撤去パネル62やその他の床パネルを区切り梁64やその他の梁63から取り外すことなく独立して撤去可能である。なお、不撤去パネル62の上方、及び撤去可能パネル61の上方には、さらに床仕上げ材などが敷設されて学習室29全体での床構造70Aを形成するが、床仕上げ材などは容易に切断できるため、撤去可能パネル61の撤去に際して不撤去パネル62などを撤去する必要はなく、エレベータホール予定領域29a側の床構造70Aに実質的な影響は与えない。
【0054】
1階のファミリークローゼット(可変室)13も2階の学習室(可変室)29と同様に仮想的に区切られたエレベータ室予定領域13bとエレベータホール予定領域13aとを有する。また、1階のファミリークローゼット13も、2階の学習室29と同様に床構造70Bの内部に構造的な境界L1が形成されており、この境界L1によってエレベータ室予定領域13bとエレベータホール予定領域13aとが区分されている。エレベータ室予定領域13bには複数の撤去可能パネル(床部)61が敷設されており、エレベータホール予定領域13aには複数の不撤去パネル(床部)62が敷設されている。さらに、複数の撤去可能パネル61は基礎梁に着脱自在に固定された受け金具66に載置されており、複数の撤去可能パネル61は、受け金具66を基礎梁から離脱することで不撤去パネル62やその他の床パネルから独立して撤去可能である。
(エレベータ設置後の建物)
【0055】
次に、図1、図2、図6、及び図7を参照し、エレベータ設置後の建物1Bについて、エレベータ設置前の建物1Aと比較しながら説明する。
【0056】
例えば、既設の建物に新たにエレベータを設置する場合には、設置場所の床を撤去してエレベータが昇降する開口部を設ける必要がある。開口部を形成する際、一般には、建物の躯体にも多大な影響を与え、また、設置場所だけでなく、設置場所から離れた他の領域の壁や内装などにも影響を与えるので慎重にならざるを得ず、またコストも増大し易い。しかしながら、上述の建物1Aの場合、将来的に学習室29やファミリークローゼット13などの可変室のみを改装することでエレベータEを設置できるので、設置工事も簡単であり、コスト的にも有利である。
【0057】
具体的には、1階のファミリークローゼット13、及び2階の学習室29の各エレベータ室予定領域13b,29bに設置されていた床仕上げ材71等が切断除去され、さらに、撤去可能パネル61が受け金具66と一緒に撤去されてエレベータE用の開口部Hが形成される。そして、開口部Hを囲み、且つ1階と2階とを結ぶ縦長のエレベータ室80が設けられ、エレベータ室80内にエレベータEが設置される。また、エレベータホール予定領域13a,29aにはエレベータホール83が設けられて建物1Bが完成する(図6、及び図7参照)。
【0058】
エレベータEが設置された状態での床構造について、1階部分の床構造70Cを代表して説明する(図8参照)。この床構造70Cにおいては、基礎梁81の上に不撤去パネル62が載置されたまま維持され、さらに、見切り金具65がそのまま残っている。また、不撤去パネル62上には、レベリングモルタル67や床仕上げ材71が設置されたまま維持されてエレベータホール83の床構造70Cが形成されている。さらに、エレベータホール83の床構造70Cと開口部Hとの間には、エレベータ室80を形成する壁部84が立設されており、壁部84によってエレベータ室80内とエレベータホール83とが区画されている。また、基礎梁81には、受け金具66の代わりにエレベータ受け金具85が取り付けられている。
【0059】
次に、本実施形態に係る建物1Aの優位性について説明する。例えば、この建物1Aの場合、新築時に居住を想定している家族構成は、比較的若い夫婦、及び独立前の二人の子供(児童)であった。このような家族の場合、親夫婦にとってエレベータEの必要性は低く、一方で、子供のための学習室29などが必要である。しかしながら、このような家族も、やがては子が独立し、また、親が高齢化するなどしてライフスタイルが変わると、学習室29などが不要になる一方で、エレベータEなどの利便性が高くなってくる。
【0060】
ここで、建物1Aの場合、可変室13,29のエレベータ室予定領域13b,29bの撤去可能パネル61は、他の領域であるエレベータホール予定領域13a,29a等の他の領域の不撤去パネル62から独立して撤去可能であるため、将来的にエレベータEを設置する必要が生じた場合にも撤去可能パネル61を簡単に撤去でき、比較的簡単にエレベータEを設置することができる。
【0061】
また、ファミリークローゼット13や学習室29などの可変室には、エレベータ室予定領域13b,29bの他にエレベータホール予定領域13a,29aが設けられており、エレベータホール予定領域13a,29aには、廊下17やDK部21などの不変室へ連絡する連絡口13c,29cが設けられている。従って、エレベータEの設置後は廊下17やDK部21の領域を犯すことなくエレベータホール83が確保されている。従って、例えば、車椅子使用者とその介護者がエレベータホール83でエレベータEの着床を待つような場合であっても、他の居住者が廊下17やDK部21を通過する際の障害となることがない。その結果として、エレベータを待つ人物と廊下17やDK部21(不変室)を通過する人物との動線の交錯を抑制できる。
【0062】
また、1階のファミリークローゼット13のエレベータホール予定領域13aは、隣接するエレベータ室予定領域13bと等しい面積であり、また、2階の学習室29のエレベータホール予定領域29aも、隣接するエレベータ室予定領域29bと等しい面積である。従って、エレベータEの設置に伴ってエレベータホール83を確保した際、エレベータホール83の面積は、エレベータE内の実有効面積よりも面積が大きくなる。
【0063】
その結果として、エレベータEの設置後、エレベータEを使用する家族(人物)がエレベータホール83で待機したとしても、エレベータホール83からあふれ出ることはなく、廊下17やDK部21などの不変室を通る家族(人物)の動線を妨げることはない。なお、同様の利益を享受するために、1階のファミリークローゼット13のエレベータホール予定領域13aの面積は、隣接するエレベータ室予定領域13bの面積よりも大きくてもよく、また、2階の学習室29のエレベータホール予定領域29aの面積は、隣接するエレベータ室予定領域29bの面積よりも大きくてもよい。
【0064】
また、本実施形態では、1階、及び2階ともにエレベータホール83が袋小路となるようにエレベータホール予定領域13a,29aを配置している。従って、エレベータホール83を通過して他の部屋へ移動しようとする通行者が入り込むことはなく、エレベータホール83で待機する家族(人物)と室内を移動する家族(人物)との動線の交錯がなく、スムーズな移動を確保できる。
【0065】
また、本実施形態に係る建物1Aでは、Uターン形式の階段16が形成された階段室15を備えており、階段室15は、1階と2階とにそれぞれ昇降口15a,15bを有し、各昇降口15a,15bは、可変室13,29の連絡口13c,29cが形成された間仕切り壁5b,7b側に設けられている。その結果として、上下移動のための既設の空間である階段16と、エレベータEによる上下移動を将来的に予定された空間である可変室13,29とを集約化してコンパクトに構成することができる。
【0066】
さらに、本実施形態に係る建物1Aでは、可変室13,29のエレベータホール予定領域13a,29aに窓31,32が設けられているので可変室13,29の用途が限定されにくく、多目的に使用することができる。また、エレベータEの設置後も窓31,32が塞がれることがないので、当初の通風性能や採光性能を維持することができる。
【0067】
また、本実施形態に係る建物1Aでは、親P1がまだ若くてエレベータEの必要性が低く、且つ子供P2に対して目を行き届かせたい時期を想定しており、この時期においては2階の可変室を子供の為の学習室(学習コーナー)29としている。そして、学習室29には、カウンター39(机部)及び本棚(棚部)40を設けると共に、学習室29の連絡口29cをDK部21に設けられた対面型キッチンセット33側に向けて配置している。その結果、対面型キッチンセット33に向かって炊事などの作業を行う親(居住者)P1は学習室29で勉強などする子供P2を炊事しながら見守ることができる。一方で、子供P2が成長して学習室29の必要性が低下すると共に、親が高齢化してエレベータEの必要性が高まってきた場合には、永続的に必要な他の空間(DK部21など)を犠牲にすることなく学習室29にエレベータEを設置することができ、ライフスタイルの変化にうまく対応させることができる。
【0068】
また、本実施形態に係る建物1Aでは、1階の可変室をファミリークローゼット(ロッカー室)13として使用している。1階のファミリークローゼット13も2階の学習室29同様に子供が独立することで必要性が低下するため、永続的に必要な他の空間(廊下17など)を犠牲にすることなく、これらのスペースを利用してエレベータEを設置できるので、ライフスタイルの変化にうまく対応させることができる。
【0069】
以上、本発明を各実施形態に基づいて説明したが、本発明は以上の実施形態のみに限定されない。例えば、建物は2階建てに限定されず、3階建て以上であってもよい。また、地下の階層を備え、すべての階、または一部の階を連絡するようなエレベータの設置を想定して可変室を設けるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0070】
1A…エレベータ設置前の建物、1B…エレベータ設置後の建物、13…ファミリークローゼット(可変室、ロッカー室)、29…学習室(可変室)、13a,29a…エレベータホール予定領域、13b,29b…エレベータ室予定領域、13c,29c…連絡口、15…階段室、15a,15b…昇降口、16…Uターン形式の階段、30…ロッカー、31,32…窓、33…対面型キッチンセット、39…カウンター(机部)、40…書棚(棚部)、61…撤去可能パネル(エレベータ室予定領域の床部)、62…不撤去パネル(他の領域の床部)、E…エレベータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の階層を備え、且つエレベータが設置されていない住宅であって、
仮想的に区切られたエレベータ室予定領域とエレベータホール予定領域とを有する可変室と、
前記可変室に隣接して設けられた不変室と、を備え、
前記可変室は、
前記エレベータ室予定領域に配置されると共に、他の領域に配置された床部から独立して撤去可能である床部と、前記エレベータホール予定領域に設けられると共に、前記不変室に連絡する連絡口と、を有することを特徴とする住宅。
【請求項2】
前記可変室は、前記エレベータ室予定領域側の面積と前記エレベータホール予定領域側の面積とが同一、または、前記エレベータ室予定領域側の面積よりも前記エレベータホール予定領域側の面積の方が大きいことを特徴とする請求項1記載の住宅。
【請求項3】
前記可変室に並設されると共に、Uターン形式の階段が形成された階段室を更に備え、
前記階段室は、前記不変室に連絡する昇降口を有し、
前記昇降口は、前記可変室の前記連絡口が形成された壁側に設けられていることを特徴とする請求項1または2記載の住宅。
【請求項4】
前記可変室の前記エレベータホール予定領域における壁面に設けられた窓を更に備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載の住宅。
【請求項5】
前記不変室に設けられた対面型キッチンセットを更に備え、
前記可変室の前記連絡口は、前記対面型キッチンセット側に設けられていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項記載の住宅。
【請求項6】
前記可変室は、前記複数の階層に応じて複数設けられ、且つ前記複数の可変室は前記複数の階層を連絡すべく上下方向に沿って並び、
前記複数の可変室のうち、少なくとも一の前記可変室は机部及び棚部が設けられた子供用学習コーナーであり、他の前記可変室は居住が想定される家族の人数構成に対応させた数のロッカーが設置されたロッカー室であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項記載の住宅。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−184614(P2012−184614A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−49342(P2011−49342)
【出願日】平成23年3月7日(2011.3.7)
【出願人】(303046244)旭化成ホームズ株式会社 (703)
【Fターム(参考)】