体内成分の定量分析用検量線の作成方法、および同検量線を用いた定量分析装置
【課題】被験者の血糖値(グルコース)のような体内成分濃度を非侵襲的に定量する方法を提供する。
【解決手段】 被験者の体内成分濃度は、近赤外光を用いて被験者から測定した吸光度スペクトルと検量線を用いて決定される。検量線は、生体の複数の近赤外吸光度スペクトルとこの中から選択される基準吸光度スペクトルの間の差分である複数の差分吸光度スペクトルを求め、前記差分吸光度スペクトルの各々に、予め測定した被験者の基準吸光度スペクトルを合成することにより複数の合成吸光度スペクトルを求め、得られた複数の合成吸光度スペクトル用いて多変量解析することにより作成される。
【解決手段】 被験者の体内成分濃度は、近赤外光を用いて被験者から測定した吸光度スペクトルと検量線を用いて決定される。検量線は、生体の複数の近赤外吸光度スペクトルとこの中から選択される基準吸光度スペクトルの間の差分である複数の差分吸光度スペクトルを求め、前記差分吸光度スペクトルの各々に、予め測定した被験者の基準吸光度スペクトルを合成することにより複数の合成吸光度スペクトルを求め、得られた複数の合成吸光度スペクトル用いて多変量解析することにより作成される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血糖値(グルコース)のような体内成分濃度を非侵襲的に推定する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
健康管理や医療のため、採血を行うことなく、グルコース、タンパク質、脂質、水分、尿素などの生体内成分を非侵襲的に分析する方法が注目されている。この分析方法に近赤外光を用いる場合は、近赤外域における水の吸収スペクトルが小さいため、水溶液を分析可能であるとともに、近赤外光は生体内を伝搬しやすいという長所がある。その反面、近赤外域の信号レベルが中赤外域の信号レベルに比して非常に小さく、またグルコースのような目的体内成分の吸収信号が、水、脂質およびタンパク質のような他の体内成分の濃度変化に敏感であるので、ピーク位置やピーク高さを使用して目的体内成分を正確に分析することが困難であった。
【0003】
近年においては、近赤外分光分析におけるこれらの不具合を改善するため、PLS回帰分析のような多変量解析を使用することが提案されている。この場合は、仮に近赤外領域の吸収信号が低いS/N比であっても、あるいは他の体内成分の濃度変化が生じても、近赤外光を用いた実用的な定量分析が可能になる。
【0004】
例えば、近赤外分光分析を用いて対象中のグルコース濃度を求める方法が提案されている(特許文献1)。この方法においては、近赤外放射が被験者の皮膚に投射され、皮膚からの放射光が光ファイバーバンドルによって受光される。受光した放射光のスペクトル分析を実施して、グルコース分子に由来するOH基の吸収ピークを有する第1波長域(例えば、1550〜1650nm)、NH基の吸収ピークを有する第2波長域(例えば、1480〜1550nm)、CH基の吸収ピークを有する第3波長域(例えば、1650〜1880nm)から吸収信号を検出する。グルコース濃度は、これらの吸収信号を説明変量とした多変量解析により決定される。
【0005】
また、確率統計的シミュレーションに基づいて媒体内の対象成分の濃度を求める方法が提案されている(特許文献2)。この方法においては、モンテカルロ法のような確率統計的シミュレーションによって媒体内における光路群が解析される。また、媒体の光学特性である吸収係数と等価散乱係数を所定範囲内において変化させる場合の拡散反射率の変化を示すデータテーブルが作成され、次いで回帰分析の手法により拡散反射率の平滑化処理を実施して補正データテーブルが作成される。次に、1000〜2500nmの波長域にある近赤外光のような光を媒体に照射し、そこからの放射光を検出することにより得られる実測スペクトルを、補正データテーブルから提供される基準スペクトルと比較することで媒体内の対象成分の濃度を求めている。また、媒体中の対象成分以外の成分の濃度変化によって生じるスペクトル変化を補正データテーブルから演算すれば、主成分回帰分析(PCR)や重回帰分析(MLR)のような多変量解析により実測スペクトルから対象成分の濃度を求めることができるとされている。
【特許文献1】特開平10−325794号公報
【特許文献2】特開2003−50200号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、近赤外光が照射される生体の皮膚は、一般に不均一な構造を有し、皮膚の厚さや皮膚構造には個人差があることが知られている。また、ある日の朝に測定した被験者の目的体内成分の濃度が、その同じ日の夕刻に測定した被験者の目的体内成分濃度と異なることもしばしばである。このように、被験者の目的体内成分や、目的体内成分濃度に影響を及ぼす他の体内成分の日内濃度変動が、目的体内成分の推定精度の低下を招く。
【0007】
図5(a)は、3人の被験者(A、B、C)の各々における目的体内成分の濃度(血糖値)と他の体内成分の濃度との間の関係を示す測定結果である。この図において、(A1、A2、A3、A4)の楕円は、異なる日における被験者Aの測定結果を示している。同様に、(B1、B2、B3)の楕円は、異なる日における被験者Bの測定結果を示し、(C1、C2、C3)の楕円は、異なる日における被験者Cの測定結果を示している。各楕円内のプロットmはそれぞれの被験者の1日内の測定結果の変動を示している。ところで、図5(a)の点線で示されるようなデータ不足領域Gが存在すると、図5(a)の測定結果から作成した検量線を用いてデータ不足領域Gで高い推定精度を得ることは困難である。
【0008】
したがって、目的体内成分の推定精度の安定した信頼性を得るためには、より多くのデータを用いて検量線を作成することが望ましい。しかしながら、それはデータ収集に要する時間の顕著な増加を意味する。さらに、目的体内成分としてグルコース、すなわち血糖値が選択される場合、グルコースの吸収信号は非常に微弱である。したがって、仮にデータ量を増やしても、ノイズの影響によって推定精度の十分な改善が得られない恐れがある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
したがって、本発明の主たる目的は、グルコースのような刻々と変動する目的体内成分の濃度を安定した精度で推定することのできる定量分析用検量線の作成方法を提供することにある。すなわち、本発明の方法は、生体の複数の近赤外吸光度スペクトルと基準吸光度スペクトルの間の差分である複数の差分吸光度スペクトルを求め、差分吸光度スペクトルの各々に基準吸光度スペクトルとは異なる第2基準吸光度スペクトルを合成することにより複数の合成吸光度スペクトルを求め、複数の合成吸光度スペクトルを用いた多変量解析により検量線を作成することを特徴とする。
【0010】
上記の方法において、複数の近赤外吸光度スペクトルは、生体に近赤外光を照射し、生体からの放射光のスペクトル解析を実施することにより測定されることが好ましい。
【0011】
上記の方法において、複数の差分吸光度スペクトルは、モデル化された生体内における光伝搬を解析する方法として定義される光伝搬シミュレーションに基づいて得ることが好ましい。この場合は、生体から近赤外吸光度スペクトルを実測する装置を使用することなく検量線を作成することができる。また、シミュレーションにおいてはノイズ成分の影響がないので、仮にグルコースのような微弱な吸収信号を有する体内成分が目的体内成分であっても、推定精度に高い信頼性を有する検量線を作成することができる。
【0012】
上記の方法において、基準吸光度スペクトルは、複数の近赤外吸光度スペクトルの中から選択されることが好ましい。また、複数の近赤外吸光度スペクトルが複数の日にわたって測定される場合、基準吸光度スペクトルは、複数の日の各々において測定された複数の近赤外吸光度スペクトルの中から選択されることが好ましい。
【0013】
本発明の好ましい実施形態かかる定量分析用検量線の作成方法においては、近赤外吸収度スペクトルの各々を測定した時点における目的体内成分の濃度が、例えば採血の手法により生体から測定され、各々が目的体内成分濃度と基準濃度との差分である複数の差分濃度が決定される。例えば、基準濃度は測定された複数の目的体内成分の濃度から選択される。この場合、検量線は、上記差分吸光度スペクトルと差分濃度とで構成される差分データテーブルを用いた多変量解析により作成される。
【0014】
本発明のさらなる目的は、被験者の体内成分濃度を非侵襲的に決定する方法を提供することにある。すなわち、この方法は、被験者の近赤外吸光度スペクトルを測定し、上記方法により作成した検量線と、測定した被験者の近赤外吸光度スペクトルとを用いて被験者の体内成分の濃度を求めることを特徴とする。
【0015】
本発明の別の目的は、被験者の体内成分の濃度を非侵襲的に決定する定量分析装置を提供することにある。すなわち、この装置は、被験者の皮膚に近赤外光を照射する光照射手段と、前記皮膚からの放射光を受光する受光手段と、上記した方法により作成した検量線を記憶するメモリと、前記受光手段の出力と、前記メモリから読み出された検量線を用いて被験者の体内成分濃度を算出する演算手段とを具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、多変量解析に差分吸光度スペクトルを使用することにより、生体組織の個人差の影響、測定箇所のばらつきの影響、生体組織変化の散乱現象への影響、および他の体内成分の濃度変化によって生じる目的体内成分の吸光度スペクトルの変動の影響を除去でき、結果的に目的体内成分濃度の改善された推定精度を実現することができる。例えば、検量線がある被験者のための定量分析に使用される場合、第2基準吸光度スペクトルは、その被験者の予め測定された近赤外吸光度スペクトルである。あるいは、その被験者の複数の近赤外吸光度スペクトルが予め測定される場合は、その平均を第2基準吸光度スペクトルとして使用しても良い。合成吸光度スペクトルには被験者の目的体内成分の日内濃度変化が考慮されているので、被験者に固有の検量線を用いてより正確に定量分析を行える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の検量線の作成方法、同検量線を使用した被験者の体内成分の定量分析、およびそのために使用される装置を、以下の好ましい実施形態に基づいて詳細に説明する。
<第1実施形態>
図1に示すように、近赤外光を用いて被験者の体内成分の定量分析を非侵襲的に実施するための本実施形態の装置は、被験者の皮膚のような対象物に近赤外光を照射する光照射手段と、皮膚からの放射光を受光する受光手段と、後述する方法により作成される検量線を記憶するメモリと、メモリから読み出された検量線と受光手段の出力を用いて被験者の体内成分の濃度を算出する演算手段とを含む。
【0018】
光照射手段は、近赤外光を放射するハロゲンランプのような光源10、一端が光学系を介して光源10に接続され、他端に近赤外光を被験者の皮膚Sに投射するための測定プローブ13が接続される第1光ファイバー12、および一端が光学系を介して光源10に接続され、他端に近赤外光をセラミック板のような基準板Tに投射するための参照プローブ15が接続される第2光ファイバー14とを含む。光学系は、光源10と第1および第2光ファイバー(12,14)の間の光照射側に配置され、例えば、ピンホールを有する光学部材16や、レンズ17、光源から放射された近赤外光を第1および第2光ファイバーそれぞれに分けるビームスプリッタ18を含む。
【0019】
ところで、人間のような生体の皮膚は、通常、角質層を含む表皮層、真皮層、皮下組織層で構成され、表皮層のおよその厚みは0.2〜0.4mmであり、真皮層のおよその厚みは0.5〜2mmであり、皮下組織層のおよその厚みは1〜3mmである。真皮層においては、体内成分が毛細血管を介して移動しやすい。特に血中グルコース濃度(すなわち、血糖値)の変化は、真皮層中のグルコース濃度の変化として迅速に現れると考えられている。一方、皮下組織層は主成分として脂肪を含むので、グルコース等の水溶性成分は皮下組織層中に均一に存在しにくい。これらの考察から、血中グルコース濃度を精度良く求めるには、真皮層から近赤外吸光度スペクトルを選択的に測定することが望ましい。
【0020】
本実施形態において、第1光ファイバー12は、測定プルーブ13の端面に図2に示すように配置される。すなわち、第1光ファイバー12の端面は、所定の半径を有する円周上において等間隔に互いから離して配置される。また、後述するように、皮膚からの放射光を受光するための第3光ファイバー20は、前記円の中心に配置される。この円の半径は2mm以下であることが好ましく、本実施形態においては、その半径は0.65mmである。参照プルーブ15は、測定プルーブ13と実質的に同じ構造を有する。
【0021】
受光手段は、一端が測定用プローブ13に接続される第3光ファイバー20、一端が参照プローブ15に接続される第4光ファイバー22、皮膚"S"あるいは基準板"T"からの放射光を受光するために任意の光学系を介して第3および第4光ファイバー(20,22)の他端に光学的に接続される受光素子29を含む。光学系は、受光素子29と第3および第4光ファイバー(20, 22)の間の受光側に配置され、例えば、シャッタ25、レンズ26、反射ミラー27、回折格子28を含む。このように、近赤外光が被験者の皮膚"S"に測定プルーブ13から入射し、皮膚内において反射若しくは拡散され、皮膚からの放射光が第3光ファイバー20介して受光素子29によって受光される。
【0022】
本実施形態においては、周囲温度の変化や光学部品の位置関係などによって生じる近赤外光の変動を補正するため、基準板"T"からの放射光が基準光として使用される。すなわち、光源10から放射される近赤外光が、測定プルーブ13から基準板の表面に入射し、そこからの放射光が第4光ファイバー22を介して受光素子29によって受光される。この場合、光学系を調整することにより、第3および第4光ファイバー(20,22)からの放射光の何れか一方が選択的に受光素子29によって受光される。
【0023】
受光素子29によって受光された光は、電気信号に変換され、A/D変換器40でA/D変換される。A/D変換器40の出力は、パーソナルコンピュータ等の演算部50に送られる。演算部50では、受光した光のスペクトル分析が実施され、後述する方法に基づいて体内成分の濃度を算出する。具体的には、演算部50は、PLS解析のような多変量解析を用いて、基準板"T"から得られる信号"Ref"と被験者の皮膚"S"から得られる信号"Sig"を用いて、体内成分の濃度変化に由来する吸光度スペクトルの微量変化を解析することで体内成分の濃度を演算する。ここに、吸光度"Abs"は、log10(Ref/Sig)と表される。
【0024】
図3に、演算部50の一例を示す。この演算部50は、CPU部51、ワークエリアの確保やデータの一時格納等に用いるRAM、および基本プログラムを搭載したROMからなる第1記憶部53、内部バス52を介してCPU部50や第1記憶部53に接続される第2記憶部54とで基本的に構成され、第2記憶部54は、例えば、所定のプログラムやデータを搭載した固定ディスク装置によって形成される。受光素子29の出力は、A/D変換器40を介して内部バス52に送られる。後述するように、検量線を求めるため、採血により体内成分のデータを測定する装置(例えば、採血式血糖値計)60がインターフェース部55を介して内部バス52に接続される。
【0025】
本実施形態においては、検量線を作成するのに必要なデータは生体から測定される(事前測定(I))。すなわち、図4に示すように、生体の吸光度スペクトルと生体の目的体内成分の濃度(例えば、血糖値)の組を複数回測定する(S1)。各組において、目的体内成分濃度の測定は、吸光度スペクトルの測定とほぼ同じタイミングで行なわれる。ある被験者のために検量線を作成する場合、検量線の作成に必要なデータが測定される生体は、その被験者に限定されない。例えば、被験者以外のいかなる人であっても良い。血糖値を測定する場合は、グルコース分子由来の吸収が大きく、且つ水分子由来の吸収の影響が比較的小さいという理由から1200nmから1880nmの波長域において吸光度スペクトルを測定することが望ましい。
【0026】
次に、測定した複数の吸光度スペクトルの一つが基準吸光度スペクトルとして選択される。また、測定した複数の体内成分濃度の一つが基準濃度として選択される。次に、測定した吸光度スペクトルの各々から基準吸光度スペクトルを引くことにより複数の差分吸光度スペクトルが得られる。同様に、測定した体内成分濃度の各々から基準濃度を引くことにより複数の差分濃度が得られる。結果として、差分吸光度スペクトルと差分濃度とで構成される差分データテーブルが作成され、第2記憶部54に保存される(S2)。
【0027】
基準濃度として使用される測定濃度値と、基準吸光度スペクトルとして使用される測定吸光度スペクトルは、ほぼ同じ時刻に得られたデータである。更に、これらは次の条件を満す必要がある。
(1)吸光度スペクトルと体内成分濃度でなる組が、生体としての複数の人から測定される場合は、基準吸光度スペクトルおよび基準濃度は人毎に求める。この条件を満足することにより、個人差の影響を含まない差分吸光度スペクトルを得ることができる。
(2)吸光度スペクトルと体内成分濃度とでなる組が、複数日において測定される場合は、基準吸光度スペクトルおよび基準濃度は日毎に求める。この条件を満足することにより、日間差の影響を含まない差分吸光度スペクトルを得ることができる。
検量線のより高い信頼性を得るために、複数日において、複数の人から基準吸光度スペクトルと基準濃度のペアを求めることが望ましい。
【0028】
上記したデータ収集を演算部50の視点から説明する。演算部50においては、CPU部51が第2記憶部54に格納されているスペクトル計測プログラムを実行し、受光素子29によって受光された光信号から吸光度スペクトルを求める。一方、CPU部51は、血糖値計測プログラムを実行する。採血式血糖値計60で得られたデータは、体内成分濃度(血糖値)を求めるため、インターフェース部55を介して内部バス52に送られる。更に、CPU部51は、データテーブル作成プログラムを実行して差分吸光度スペクトルと差分成分濃度を求め、差分データテーブルが作成される。このようにして得られた差分データテーブルは、第2記憶部54に保存される。
【0029】
本発明において差分値を使用することの重要性を、以下に簡単に説明する。従来法においては、前記したように、図5(a)の測定結果から作成した検量線を用いてデータ不足領域Gで高い推定精度を得ることは困難であり、推定精度の安定した信頼性を確保するためには、検量線作成用に非常に多くのデータを測定する必要がある。一方、図5(a)の楕円(A1〜A4,B1〜B3, C1〜C3)の各々において測定値mの中から基準値Rを求め、各測定値から基準値を引くことにより差分値Dを求めると、差分値Dは、図5(b)に示すように、原点ORG周囲の狭い領域に集まる。仮に、推定されるべき濃度値が図5(a)のデータ不足領域Gにあったとしても、そのような領域内のデータは差分値を求めることにより、原点ORGの周囲に再配置される。したがって、差分データを使用することにより、非常に多くのデータを測定することなく、個人差及び日間差の影響を含まない安定した推定精度を有する検量線を得ることができる。
【0030】
次に、図4の仮測定(II)の"S3"に示されるように、目的体内成分(血糖値)の定量分析を必要とする被験者の吸光度スペクトルと目的体内成分の濃度値の1組が上述と同様に計測される。被験者から測定された吸光度スペクトルは、第2基準吸光度スペクトルとして定義され、同様に、被験者から測定された濃度値は、第2基準濃度として定義される。被験者から複数の吸光度スペクトルを測定した場合は、吸光度スペクトルの平均を第2基準吸光度スペクトルとして使用することができる。同様に、被験者から複数の濃度値を測定した場合は、濃度値の平均を第2基準濃度として使用することができる。この場合、測定した複数の濃度はほぼ同じ値であることが前提である。また、第2基準濃度として使用される濃度値と、第2基準吸光度スペクトルとして使用される吸光度スペクトルは、ほぼ同時刻に得られたデータである必要はない。
【0031】
次に、第2基準吸光度スペクトルを複数の差分吸光度スペクトルの各々と合成して、複数の合成吸光度スペクトルを得る(S4)。このようにして得られた合成吸光度スペクトルは、目的体内成分の日内濃度変化に対応する被験者固有の吸光度スペクトルを提供する。
【0032】
次に、図4の(S5)に示すように、合成吸光度スペクトルと差分データテーブルを用いて、PLSなどの多変量解析を実施して検量線(しばしば、検量関数と呼ばれる)を作成する。この検量線の使用により、被験者の目的体内成分の濃度値は、被験者から非侵襲的に測定された近赤外吸光度スペクトルから精度よく推定できる。本発明においては、差分吸光度スペクトルと差分濃度とで構成される差分データテーブルが予め用意されるので、被験者から吸光度スペクトルと目的体内成分の濃度値の1組だけを測定すれば、被験者に固有の検量線を迅速に得ることができる。このようにして得られた検量線は、被験者に固有の情報と他成分の日内変化の情報を含んでおり、例えば、主成分数はおよそ7〜10である。
【0033】
上記した検量線の作成を図6のフローチャートに沿って説明する。検量線作成の命令が入力部56を介して演算部50に入力されると(S10)、CPU部51は、スペクトル計測プログラムを実行して被験者の第2基準吸光度スペクトルを計測する(S11)。また、CPU部51は、血糖値計測プログラムを実行し、採血式血糖値計60によって測定されたデータから被験者の第2基準濃度(血糖値)を求める(S12)。次いで、第2基準吸光度スペクトルを差分吸光度スペクトルの各々と合成することにより、複数の合成吸光度スペクトルが得られる(S13)。なお、第2基準濃度を差分濃度の各々と合成する必要は無い。第2基準濃度は、被験者の目的体内成分の濃度値を求める時にバイアス値として使用される。
【0034】
次に、CPU部51は第2記憶部54に格納されているPLS解析プログラムを実行し、複数の合成吸光度スペクトル及び第2記憶部54に保存されている差分データテーブルを用いて検量線を作成する(S14)。得られた検量線は、第2記憶部54に保存される(S15)。一例として、上記した手順で得られた検量線を図7に示す。この図から、検量線は、1600nm付近に目的体内成分としてのグルコースの吸収ピークを有することがわかる。後述するように、光伝搬シミュレーションを用いた第2実施形態の方法によって同様の検量線を得ることができる。
【0035】
得られた検量線を使用することにより、被験者の目的体内成分濃度を非侵襲的に測定する(本測定(III))。すなわち、被験者の皮膚に近赤外光を照射して近赤外吸光度スペクトルを測定する(S6)。測定した吸光度スペクトルを検量線と比較することにより、吸光度スペクトル測定時における被験者の目的体内成分の濃度値が推定される(S7)。
【0036】
被験者の目的体内成分の定量分析を図6のフローチャートに沿って説明する。定量分析の命令が入力部56を通じて演算部50に入力されると(S16)、CPU部51はスペクトル計測プログラムを実行し、被験者の吸光度スペクトル計測を行う(S17)。計測が終了すると、CPU部51は第2記憶部54に格納してある濃度(血糖値)演算プログラムを実行する。すなわち、CPU部51は第2記憶部54に保存されている被験者に固有の検量線を読み出し、測定した吸光度スペクトルを検量線と比較して被験者の目的体内成分の濃度値を算出する(S18)。算出された濃度値は、インターフェース部を通じてモニタ装置57に表示される(S19)。このように、推定精度に安定した信頼性を有する検量線が本発明の方法によって得られるので、被験者の目的体内成分の濃度値を非侵襲的に連続して測定することができる。
【0037】
上記方法において、対象生体内成分はグルコースに限定されない。例えば、タンパク質、脂質、水分および尿素のような他成分が目的体内成分であっても良い。この場合、所望の目的体内成分に適したプログラムを第2記憶部54に格納する必要がある。
<第2実施形態>
本実施形態の検量線の作成方法は、差分吸光度スペクトルを、モデル化された生体内における光伝搬を解析する方法として定義される光伝搬シミュレーションに基づいて得ることを除いて、実質的に第1実施形態の方法と同じである。したがって、重複する説明は省略する。また、第1実施形態と同じ構成の装置を本実施形態において定量分析を実施するために用いることができる。
【0038】
本実施形態においては、光伝播シミュレーションとして、モンテカルロ法を採用する。モンテカルロ法は、計算機で発生させた0〜1の範囲の一様乱数に関して、目的事象の発生確率分布に基づく関数を使用し、目的事象を正確に再現することができる統計学的手法である。
【0039】
光伝播を再現する場合は、媒体に入射する光を光子の集まりとみなす。光子1つ1つの媒体内での挙動を媒体の光学特性値(μα:吸収係数、μS:散乱係数、p(θ):散乱位相関数、n:屈折率)に基づいて追跡する。その結果、全ての光子の挙動から統計的に光伝播を再現することができる。散乱位相関数のθは、方位角について対称性を仮定した場合、一回の散乱によって生じる光の進行方向の角度変化である。散乱位相関数の有効な記述は、次式(1)に示すように、Henyey−Greenstein関数によって表され、赤血球を含む生体組織の散乱を表現するためにしばしば使用される。
【0040】
【数1】
【0041】
式(1)において、"g"は非等方散乱パラメータであり、p(θ)により表現される散乱の非等方性をより簡単に特徴づけることができる。gは1から−1までの値をとり、g=1,0,−1であるとき、その散乱特性は、それぞれに対応して完全な前方散乱、等方散乱、後方散乱によって表される。生体における散乱特性は非常に強い前方散乱によって表され、吸収が弱い媒体の散乱特性は、等方散乱によってほぼ表せる。
【0042】
また、上記した近似に基づいて、散乱係数μSは、等価散乱係数μS=(1一g)μSによって提供される。光の伝播において連続する2回の相互作用(吸収、散乱)間の光路長Lは、次式(2)によって表される。相互作用時の屈折の天頂角及び方位角の変化(θ、φは)は、それぞれ次式(3)、(4)によって表される。
【0043】
【数2】
【0044】
上記の式において、R1、R2、R3の各々は、0から1の間の一様乱数であり、∫(θ)は散乱位相関数の累積確率である。また、1番目の相互作用の際に光子のエネルギーは、その媒体の吸光特性に基づいて吸収され、次式(5)で表される。
【0045】
【数3】
【0046】
ところで、生体の皮膚は、角質層、顆粒層、有棘層、基底層を含む。基底層は、一層の基底細胞からなり、細胞分裂によって新しい細胞が一定のレベルで作り出される。新しい細胞は肌表面に向かって上方に移動し、有棘細胞→顆粒細胞→角質細胞の順に変化し、結果的に角質層が形成される。正常な角質細胞の場合、角質細胞でなる1層が毎日剥がれ落ちる。基底細胞が新しく生まれてから角質細胞になるのに約2週間、角質細胞が皮膚表面に達して剥がれ落ちるまでに約2週間、つまり約4週間毎に表皮層は生まれ変わる。これは、表皮層が20を越える細胞層で構成されることを意味する。真皮層には、血管、リンパ管及び神経に加えて、汗腺、皮脂腺及び毛根がある。また真皮層での活発な生理活動のため、血液から補給された栄養が、基底層で細胞を作り出すために使用される。更に、真皮層には線維組織があり、皮膚を保持しつつ、皮膚の弾力性を提供している。皮下組織は主に皮下脂肪によって形成されると考えられる。したがって、グルコースは主に真皮層に存在し、表皮層や皮下組織にグルコースはほとんど存在しないとみなせる。
【0047】
図8は、皮膚のシミュレーションモデルを示す。図中、番号30、31、32、33は、それぞれ表皮層、真皮層、皮下組織、筋肉や骨である。例えば、第1光ファイバー12から皮膚に照射された近赤外光は、図8の"X"で示される光路に沿って伝搬され、第3光ファイバー20によって受光される。
【0048】
モンテカルロ法に基づいて光伝播シミュレーションを実施する場合、表皮層、真皮層および皮下組織層の各々の吸収係数μα、散乱係数μS、屈折率n、非等方散乱パラメータgなどの光学特性値が必要となる。図9に、これらの層の吸収係数μαを示す。また、図10にこれらの層の散乱係数μSを示す。一般に、生体組織の"g"は0.8〜0.95の非常に強い前方散乱である。したがって、本実施形態で用いる"g"は0.9一定とする。またこれらの層の屈折率nも1.34一定とする。図11に実測した吸光度スペクトル(A)と上記した条件下でモンテカルロ法によりシミュレートした吸光度スペクトル(B)を示す。グルコース、タンパク質、脂質、水分及び温度などの生体内パラメータを、生体内パラメータの日内変動がカバーされるように予め設定した範囲内で変化させ、シミュレーションによる吸光度スペクトルの作成を繰り返す。このように、複数のシミュレートした吸光度スペクトルが得られるので、第1実施形態と同様に複数の差分吸光度スペクトルを得ることができる。結果として、生体からデータを測定する代わりに、シミュレーションによって差分データテーブルを得ることができる。
【0049】
本発明におけるシミュレーションの使用の有利性を、以下に簡単に説明する。シミュレーションでは、グルコースのような目的体内成分濃度の日内変動範囲が予め決定され、図5(c)に示すように、その変動範囲において、原点"ORG"の周囲に等間隔で差分値"D"がシミュレートされる。検量線の作成に必要なデータを生体から測定する場合においては、図5(b)に示すように、短時間内に等間隔の差分値"D"を得ることは困難である。しかしながら、シミュレーションによれば、多くのデータを収集することなく、推定精度に安定した信頼性を有する検量線を作成するのに最適な差分値を速やかに得ることができる。また、実測データがグルコースの微弱な信号を含んでいるかどうかを判定することは非常に困難である。しかしながら、シミュレーションによれば、そのようなグルコースの微弱信号を確実に再現することができる。さらに、生体から吸光度スペクトルを測定するための装置間で発生する誤差や、測定中に生じるノイズ成分がグルコースの微弱信号に及ぼす影響を防ぐことができる。したがって、シミュレーションにおいて偶然の相関はない。一例として、ある被験者の実測血糖値と、本実施形態の方法によって作成した検量線を使用して推定した血糖値の時間変化を図12に示す。この場合、両者の相関係数rは、0.94である。
【0050】
次に、第1実施形態と同様にして、シミュレーションにより得られた差分吸光度スペクトルと被験者から測定した第2基準吸光度スペクトルとから複数の合成吸光度スペクトルを求める。このようにして得られた合成吸光度スペクトルは、被験者固有の情報を含んでいる。第2実施形態の検量線は、合成吸光度スペクトルと差分データテーブルとを用いて多変量解析することにより得られる。
<第3実施形態>
本実施形態の検量線の作成方法は、検量線の作成に使用される近赤外吸光度スペクトルを生体の代わりに、模擬資料から測定することを除いて、実質的に第1実施形態の方法と同じである。したがって、重複する説明は省略する。また、第1実施形態と同じ構成の装置を本実施形態において定量分析を実施するために用いることができる。
【0051】
本実施形態においては、脂肪乳剤(例えば、「イントラリピッド」<フレゼニウス・カビ株式会社製)のような散乱体浮遊溶液が模擬試料として使用される。特に、前記脂肪乳剤「イントラリピッド」を2〜5%含有する溶液が生体に近い。脂肪乳剤に対するグルコース、タンパク質、脂質、水分のような体内成分の混合比や溶液温度を、それらの日内変動がカバーされるように予め設定した範囲内で変化させ、複数種のテスト溶液を作成する。得られたテスト溶液の各々に関して、吸光度スペクトルを測定し、吸光度スペクトルの一つを基準吸光度スペクトルとして選択する。第1実施形態と同様にして、測定した吸光度スペクトルの各々から基準吸光度スペクトルを引くことにより複数の差分吸光度スペクトルが得られると共に、それぞれのテスト溶液中の体内成分の濃度値は正確にわかるので、生体の代わりに模擬資料から測定したデータに基づいて差分データテーブルを作成することができる。
【0052】
次に、第1実施形態と同様にして、模擬試料を用いて得られた差分吸光度スペクトルと被験者から測定した第2基準吸光度スペクトルとから複数の合成吸光度スペクトルを求める。このようにして得られた合成吸光度スペクトルは、被験者固有の情報を含んでいる。第3実施形態の検量線は、合成吸光度スペクトルと差分データテーブルとを用いて多変量解析することにより得られる。
<第4実施形態>
本実施形態の検量線の作成方法は、目的体内成分(例えば、グルコース)の吸光度スペクトルを第2実施形態で述べたシミュレーションを用いて求めると共に、他の体内パラメータ(たとえば、水分、タンパク質、脂質の濃度、温度、散乱)に関しては、目的体内成分の濃度が一定であるという条件下で、第1実施形態と同様の手順に基づいて、生体から吸光度スペクトルを実測することに特徴がある。したがって、重複する説明は省略する。また、第1実施形態と同じ構成の装置を本実施形態において定量分析を実施するために用いることができる。
【0053】
例えば、多変量解析によりグルコースの検量線を作成する場合、グルコース以外の他の体内成分の吸光度スペクトルを考慮に入れることが好ましい。生体内では、グルコース濃度が変化すると、他の体内成分の濃度変化も同時に起こる。したがって、他の体内成分の吸光度スペクトルは、グルコースの検量線から、他の体内成分の影響を除去するのに有用である。また、第2実施形態で述べたように、グルコースの微弱な信号はシミュレーションにより確実に再現される。したがって、本実施形態によれば、推定精度のさらなる改善を有する検量線を提供することができる。
【0054】
また、他の体内成分に関して、吸光度スペクトルを生体から測定する場合、生体は定量分析を必要とする被験者に限定されない。例えば、被験者以外の少なくとも一人であれば良い。測定した吸光度スペクトルの一つが基準吸光度スペクトルとして選択され、第1実施形態と同様にして、複数の差分吸光度スペクトルを求める。この時、目的体内成分の濃度は一定に保たれるので、差分濃度を求める必要はない。
【0055】
本実施形態において、差分データテーブルは、他の体内成分に関して測定データから求めた差分吸光度スペクトルと、目的体内成分に関してシミュレーションによって求めた差分吸光度スペクトルと、目的体内成分の差分濃度とから作成される。次に、第2実施形態と同様に、シミュレーションにより求めた差分吸光度スペクトルの各々を被験者から測定した第2基準吸光度スペクトルと合成して、複数の合成吸光度スペクトルを求める。このようにして得られた合成吸光度スペクトルは、被験者固有の情報を含んでいる。第4実施形態の検量線は、合成吸光度スペクトルと差分データテーブルを用いて多変量解析することにより得られる。
【0056】
本実施形態によれば、検量線をシミュレーションでは考慮できない他の体内成分の影響を考慮に入れて作成できるので、ノイズ成分の低減や推定精度の安定性の向上といったシミュレーションの採用によってもたらされる第2実施形態の効果を確保しつつ、目的体内成分濃度の推定精度のさらなる向上を達成することができる。
【0057】
上記した第1実施形態1〜4においては、目的体内成分(例えば、グルコース)以外の体内パラメータに関して、吸光度スペクトルの日内変動の想定される範囲内において少なくとも2つの異なる条件下で吸光度スペクトルを求めることが好ましい。例えば、他の体内パラメータが温度であれば、基準値±1℃の2つの温度を選択することができる。また、他の体内パラメータがタンパク質濃度であれば、基準値±10%の2種類のタンパク質濃度を選択することができる。この場合、基準濃度値に応じて差分吸光度スペクトルは変化するが、目的変数がグルコース濃度であれば、多変量解析において他の体内成分濃度値は必要ない。このように、必要に応じて、温度やタンパク質濃度のような他の体内パラメータの変動を考慮して検量線を作成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の第1実施形態にかかる体内成分の定量分析を非侵襲的に実施するための装置の概略図である。
【図2】同装置の測定プルーブの端面図である。
【図3】同装置の演算部の一例を示すブロック図である。
【図4】本発明の検量線の作成方法を示すフローチャートである。
【図5】(a)〜(c)は、グルコース(血糖値)の検量線作成用データを示す概略図である。
【図6】検量線の作成方法の詳細なフローチャートである。
【図7】本発明の方法により作成した検量線の一例を示す図である。
【図8】シミュレーションによる人間の皮膚組織の断面図である。
【図9】人間の皮膚の異なる層における波長と吸収係数の間の関係を示すグラフである。
【図10】人間の皮膚の異なる層における波長と散乱係数の間の関係を示すグラフである。
【図11】測定した吸光度スペクトルと、シミュレーションによる吸光度スペクトルの一致度を示す図である。
【図12】被験者の実測血糖値と推定血糖値の時間変化を示すグラフである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、血糖値(グルコース)のような体内成分濃度を非侵襲的に推定する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
健康管理や医療のため、採血を行うことなく、グルコース、タンパク質、脂質、水分、尿素などの生体内成分を非侵襲的に分析する方法が注目されている。この分析方法に近赤外光を用いる場合は、近赤外域における水の吸収スペクトルが小さいため、水溶液を分析可能であるとともに、近赤外光は生体内を伝搬しやすいという長所がある。その反面、近赤外域の信号レベルが中赤外域の信号レベルに比して非常に小さく、またグルコースのような目的体内成分の吸収信号が、水、脂質およびタンパク質のような他の体内成分の濃度変化に敏感であるので、ピーク位置やピーク高さを使用して目的体内成分を正確に分析することが困難であった。
【0003】
近年においては、近赤外分光分析におけるこれらの不具合を改善するため、PLS回帰分析のような多変量解析を使用することが提案されている。この場合は、仮に近赤外領域の吸収信号が低いS/N比であっても、あるいは他の体内成分の濃度変化が生じても、近赤外光を用いた実用的な定量分析が可能になる。
【0004】
例えば、近赤外分光分析を用いて対象中のグルコース濃度を求める方法が提案されている(特許文献1)。この方法においては、近赤外放射が被験者の皮膚に投射され、皮膚からの放射光が光ファイバーバンドルによって受光される。受光した放射光のスペクトル分析を実施して、グルコース分子に由来するOH基の吸収ピークを有する第1波長域(例えば、1550〜1650nm)、NH基の吸収ピークを有する第2波長域(例えば、1480〜1550nm)、CH基の吸収ピークを有する第3波長域(例えば、1650〜1880nm)から吸収信号を検出する。グルコース濃度は、これらの吸収信号を説明変量とした多変量解析により決定される。
【0005】
また、確率統計的シミュレーションに基づいて媒体内の対象成分の濃度を求める方法が提案されている(特許文献2)。この方法においては、モンテカルロ法のような確率統計的シミュレーションによって媒体内における光路群が解析される。また、媒体の光学特性である吸収係数と等価散乱係数を所定範囲内において変化させる場合の拡散反射率の変化を示すデータテーブルが作成され、次いで回帰分析の手法により拡散反射率の平滑化処理を実施して補正データテーブルが作成される。次に、1000〜2500nmの波長域にある近赤外光のような光を媒体に照射し、そこからの放射光を検出することにより得られる実測スペクトルを、補正データテーブルから提供される基準スペクトルと比較することで媒体内の対象成分の濃度を求めている。また、媒体中の対象成分以外の成分の濃度変化によって生じるスペクトル変化を補正データテーブルから演算すれば、主成分回帰分析(PCR)や重回帰分析(MLR)のような多変量解析により実測スペクトルから対象成分の濃度を求めることができるとされている。
【特許文献1】特開平10−325794号公報
【特許文献2】特開2003−50200号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、近赤外光が照射される生体の皮膚は、一般に不均一な構造を有し、皮膚の厚さや皮膚構造には個人差があることが知られている。また、ある日の朝に測定した被験者の目的体内成分の濃度が、その同じ日の夕刻に測定した被験者の目的体内成分濃度と異なることもしばしばである。このように、被験者の目的体内成分や、目的体内成分濃度に影響を及ぼす他の体内成分の日内濃度変動が、目的体内成分の推定精度の低下を招く。
【0007】
図5(a)は、3人の被験者(A、B、C)の各々における目的体内成分の濃度(血糖値)と他の体内成分の濃度との間の関係を示す測定結果である。この図において、(A1、A2、A3、A4)の楕円は、異なる日における被験者Aの測定結果を示している。同様に、(B1、B2、B3)の楕円は、異なる日における被験者Bの測定結果を示し、(C1、C2、C3)の楕円は、異なる日における被験者Cの測定結果を示している。各楕円内のプロットmはそれぞれの被験者の1日内の測定結果の変動を示している。ところで、図5(a)の点線で示されるようなデータ不足領域Gが存在すると、図5(a)の測定結果から作成した検量線を用いてデータ不足領域Gで高い推定精度を得ることは困難である。
【0008】
したがって、目的体内成分の推定精度の安定した信頼性を得るためには、より多くのデータを用いて検量線を作成することが望ましい。しかしながら、それはデータ収集に要する時間の顕著な増加を意味する。さらに、目的体内成分としてグルコース、すなわち血糖値が選択される場合、グルコースの吸収信号は非常に微弱である。したがって、仮にデータ量を増やしても、ノイズの影響によって推定精度の十分な改善が得られない恐れがある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
したがって、本発明の主たる目的は、グルコースのような刻々と変動する目的体内成分の濃度を安定した精度で推定することのできる定量分析用検量線の作成方法を提供することにある。すなわち、本発明の方法は、生体の複数の近赤外吸光度スペクトルと基準吸光度スペクトルの間の差分である複数の差分吸光度スペクトルを求め、差分吸光度スペクトルの各々に基準吸光度スペクトルとは異なる第2基準吸光度スペクトルを合成することにより複数の合成吸光度スペクトルを求め、複数の合成吸光度スペクトルを用いた多変量解析により検量線を作成することを特徴とする。
【0010】
上記の方法において、複数の近赤外吸光度スペクトルは、生体に近赤外光を照射し、生体からの放射光のスペクトル解析を実施することにより測定されることが好ましい。
【0011】
上記の方法において、複数の差分吸光度スペクトルは、モデル化された生体内における光伝搬を解析する方法として定義される光伝搬シミュレーションに基づいて得ることが好ましい。この場合は、生体から近赤外吸光度スペクトルを実測する装置を使用することなく検量線を作成することができる。また、シミュレーションにおいてはノイズ成分の影響がないので、仮にグルコースのような微弱な吸収信号を有する体内成分が目的体内成分であっても、推定精度に高い信頼性を有する検量線を作成することができる。
【0012】
上記の方法において、基準吸光度スペクトルは、複数の近赤外吸光度スペクトルの中から選択されることが好ましい。また、複数の近赤外吸光度スペクトルが複数の日にわたって測定される場合、基準吸光度スペクトルは、複数の日の各々において測定された複数の近赤外吸光度スペクトルの中から選択されることが好ましい。
【0013】
本発明の好ましい実施形態かかる定量分析用検量線の作成方法においては、近赤外吸収度スペクトルの各々を測定した時点における目的体内成分の濃度が、例えば採血の手法により生体から測定され、各々が目的体内成分濃度と基準濃度との差分である複数の差分濃度が決定される。例えば、基準濃度は測定された複数の目的体内成分の濃度から選択される。この場合、検量線は、上記差分吸光度スペクトルと差分濃度とで構成される差分データテーブルを用いた多変量解析により作成される。
【0014】
本発明のさらなる目的は、被験者の体内成分濃度を非侵襲的に決定する方法を提供することにある。すなわち、この方法は、被験者の近赤外吸光度スペクトルを測定し、上記方法により作成した検量線と、測定した被験者の近赤外吸光度スペクトルとを用いて被験者の体内成分の濃度を求めることを特徴とする。
【0015】
本発明の別の目的は、被験者の体内成分の濃度を非侵襲的に決定する定量分析装置を提供することにある。すなわち、この装置は、被験者の皮膚に近赤外光を照射する光照射手段と、前記皮膚からの放射光を受光する受光手段と、上記した方法により作成した検量線を記憶するメモリと、前記受光手段の出力と、前記メモリから読み出された検量線を用いて被験者の体内成分濃度を算出する演算手段とを具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、多変量解析に差分吸光度スペクトルを使用することにより、生体組織の個人差の影響、測定箇所のばらつきの影響、生体組織変化の散乱現象への影響、および他の体内成分の濃度変化によって生じる目的体内成分の吸光度スペクトルの変動の影響を除去でき、結果的に目的体内成分濃度の改善された推定精度を実現することができる。例えば、検量線がある被験者のための定量分析に使用される場合、第2基準吸光度スペクトルは、その被験者の予め測定された近赤外吸光度スペクトルである。あるいは、その被験者の複数の近赤外吸光度スペクトルが予め測定される場合は、その平均を第2基準吸光度スペクトルとして使用しても良い。合成吸光度スペクトルには被験者の目的体内成分の日内濃度変化が考慮されているので、被験者に固有の検量線を用いてより正確に定量分析を行える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の検量線の作成方法、同検量線を使用した被験者の体内成分の定量分析、およびそのために使用される装置を、以下の好ましい実施形態に基づいて詳細に説明する。
<第1実施形態>
図1に示すように、近赤外光を用いて被験者の体内成分の定量分析を非侵襲的に実施するための本実施形態の装置は、被験者の皮膚のような対象物に近赤外光を照射する光照射手段と、皮膚からの放射光を受光する受光手段と、後述する方法により作成される検量線を記憶するメモリと、メモリから読み出された検量線と受光手段の出力を用いて被験者の体内成分の濃度を算出する演算手段とを含む。
【0018】
光照射手段は、近赤外光を放射するハロゲンランプのような光源10、一端が光学系を介して光源10に接続され、他端に近赤外光を被験者の皮膚Sに投射するための測定プローブ13が接続される第1光ファイバー12、および一端が光学系を介して光源10に接続され、他端に近赤外光をセラミック板のような基準板Tに投射するための参照プローブ15が接続される第2光ファイバー14とを含む。光学系は、光源10と第1および第2光ファイバー(12,14)の間の光照射側に配置され、例えば、ピンホールを有する光学部材16や、レンズ17、光源から放射された近赤外光を第1および第2光ファイバーそれぞれに分けるビームスプリッタ18を含む。
【0019】
ところで、人間のような生体の皮膚は、通常、角質層を含む表皮層、真皮層、皮下組織層で構成され、表皮層のおよその厚みは0.2〜0.4mmであり、真皮層のおよその厚みは0.5〜2mmであり、皮下組織層のおよその厚みは1〜3mmである。真皮層においては、体内成分が毛細血管を介して移動しやすい。特に血中グルコース濃度(すなわち、血糖値)の変化は、真皮層中のグルコース濃度の変化として迅速に現れると考えられている。一方、皮下組織層は主成分として脂肪を含むので、グルコース等の水溶性成分は皮下組織層中に均一に存在しにくい。これらの考察から、血中グルコース濃度を精度良く求めるには、真皮層から近赤外吸光度スペクトルを選択的に測定することが望ましい。
【0020】
本実施形態において、第1光ファイバー12は、測定プルーブ13の端面に図2に示すように配置される。すなわち、第1光ファイバー12の端面は、所定の半径を有する円周上において等間隔に互いから離して配置される。また、後述するように、皮膚からの放射光を受光するための第3光ファイバー20は、前記円の中心に配置される。この円の半径は2mm以下であることが好ましく、本実施形態においては、その半径は0.65mmである。参照プルーブ15は、測定プルーブ13と実質的に同じ構造を有する。
【0021】
受光手段は、一端が測定用プローブ13に接続される第3光ファイバー20、一端が参照プローブ15に接続される第4光ファイバー22、皮膚"S"あるいは基準板"T"からの放射光を受光するために任意の光学系を介して第3および第4光ファイバー(20,22)の他端に光学的に接続される受光素子29を含む。光学系は、受光素子29と第3および第4光ファイバー(20, 22)の間の受光側に配置され、例えば、シャッタ25、レンズ26、反射ミラー27、回折格子28を含む。このように、近赤外光が被験者の皮膚"S"に測定プルーブ13から入射し、皮膚内において反射若しくは拡散され、皮膚からの放射光が第3光ファイバー20介して受光素子29によって受光される。
【0022】
本実施形態においては、周囲温度の変化や光学部品の位置関係などによって生じる近赤外光の変動を補正するため、基準板"T"からの放射光が基準光として使用される。すなわち、光源10から放射される近赤外光が、測定プルーブ13から基準板の表面に入射し、そこからの放射光が第4光ファイバー22を介して受光素子29によって受光される。この場合、光学系を調整することにより、第3および第4光ファイバー(20,22)からの放射光の何れか一方が選択的に受光素子29によって受光される。
【0023】
受光素子29によって受光された光は、電気信号に変換され、A/D変換器40でA/D変換される。A/D変換器40の出力は、パーソナルコンピュータ等の演算部50に送られる。演算部50では、受光した光のスペクトル分析が実施され、後述する方法に基づいて体内成分の濃度を算出する。具体的には、演算部50は、PLS解析のような多変量解析を用いて、基準板"T"から得られる信号"Ref"と被験者の皮膚"S"から得られる信号"Sig"を用いて、体内成分の濃度変化に由来する吸光度スペクトルの微量変化を解析することで体内成分の濃度を演算する。ここに、吸光度"Abs"は、log10(Ref/Sig)と表される。
【0024】
図3に、演算部50の一例を示す。この演算部50は、CPU部51、ワークエリアの確保やデータの一時格納等に用いるRAM、および基本プログラムを搭載したROMからなる第1記憶部53、内部バス52を介してCPU部50や第1記憶部53に接続される第2記憶部54とで基本的に構成され、第2記憶部54は、例えば、所定のプログラムやデータを搭載した固定ディスク装置によって形成される。受光素子29の出力は、A/D変換器40を介して内部バス52に送られる。後述するように、検量線を求めるため、採血により体内成分のデータを測定する装置(例えば、採血式血糖値計)60がインターフェース部55を介して内部バス52に接続される。
【0025】
本実施形態においては、検量線を作成するのに必要なデータは生体から測定される(事前測定(I))。すなわち、図4に示すように、生体の吸光度スペクトルと生体の目的体内成分の濃度(例えば、血糖値)の組を複数回測定する(S1)。各組において、目的体内成分濃度の測定は、吸光度スペクトルの測定とほぼ同じタイミングで行なわれる。ある被験者のために検量線を作成する場合、検量線の作成に必要なデータが測定される生体は、その被験者に限定されない。例えば、被験者以外のいかなる人であっても良い。血糖値を測定する場合は、グルコース分子由来の吸収が大きく、且つ水分子由来の吸収の影響が比較的小さいという理由から1200nmから1880nmの波長域において吸光度スペクトルを測定することが望ましい。
【0026】
次に、測定した複数の吸光度スペクトルの一つが基準吸光度スペクトルとして選択される。また、測定した複数の体内成分濃度の一つが基準濃度として選択される。次に、測定した吸光度スペクトルの各々から基準吸光度スペクトルを引くことにより複数の差分吸光度スペクトルが得られる。同様に、測定した体内成分濃度の各々から基準濃度を引くことにより複数の差分濃度が得られる。結果として、差分吸光度スペクトルと差分濃度とで構成される差分データテーブルが作成され、第2記憶部54に保存される(S2)。
【0027】
基準濃度として使用される測定濃度値と、基準吸光度スペクトルとして使用される測定吸光度スペクトルは、ほぼ同じ時刻に得られたデータである。更に、これらは次の条件を満す必要がある。
(1)吸光度スペクトルと体内成分濃度でなる組が、生体としての複数の人から測定される場合は、基準吸光度スペクトルおよび基準濃度は人毎に求める。この条件を満足することにより、個人差の影響を含まない差分吸光度スペクトルを得ることができる。
(2)吸光度スペクトルと体内成分濃度とでなる組が、複数日において測定される場合は、基準吸光度スペクトルおよび基準濃度は日毎に求める。この条件を満足することにより、日間差の影響を含まない差分吸光度スペクトルを得ることができる。
検量線のより高い信頼性を得るために、複数日において、複数の人から基準吸光度スペクトルと基準濃度のペアを求めることが望ましい。
【0028】
上記したデータ収集を演算部50の視点から説明する。演算部50においては、CPU部51が第2記憶部54に格納されているスペクトル計測プログラムを実行し、受光素子29によって受光された光信号から吸光度スペクトルを求める。一方、CPU部51は、血糖値計測プログラムを実行する。採血式血糖値計60で得られたデータは、体内成分濃度(血糖値)を求めるため、インターフェース部55を介して内部バス52に送られる。更に、CPU部51は、データテーブル作成プログラムを実行して差分吸光度スペクトルと差分成分濃度を求め、差分データテーブルが作成される。このようにして得られた差分データテーブルは、第2記憶部54に保存される。
【0029】
本発明において差分値を使用することの重要性を、以下に簡単に説明する。従来法においては、前記したように、図5(a)の測定結果から作成した検量線を用いてデータ不足領域Gで高い推定精度を得ることは困難であり、推定精度の安定した信頼性を確保するためには、検量線作成用に非常に多くのデータを測定する必要がある。一方、図5(a)の楕円(A1〜A4,B1〜B3, C1〜C3)の各々において測定値mの中から基準値Rを求め、各測定値から基準値を引くことにより差分値Dを求めると、差分値Dは、図5(b)に示すように、原点ORG周囲の狭い領域に集まる。仮に、推定されるべき濃度値が図5(a)のデータ不足領域Gにあったとしても、そのような領域内のデータは差分値を求めることにより、原点ORGの周囲に再配置される。したがって、差分データを使用することにより、非常に多くのデータを測定することなく、個人差及び日間差の影響を含まない安定した推定精度を有する検量線を得ることができる。
【0030】
次に、図4の仮測定(II)の"S3"に示されるように、目的体内成分(血糖値)の定量分析を必要とする被験者の吸光度スペクトルと目的体内成分の濃度値の1組が上述と同様に計測される。被験者から測定された吸光度スペクトルは、第2基準吸光度スペクトルとして定義され、同様に、被験者から測定された濃度値は、第2基準濃度として定義される。被験者から複数の吸光度スペクトルを測定した場合は、吸光度スペクトルの平均を第2基準吸光度スペクトルとして使用することができる。同様に、被験者から複数の濃度値を測定した場合は、濃度値の平均を第2基準濃度として使用することができる。この場合、測定した複数の濃度はほぼ同じ値であることが前提である。また、第2基準濃度として使用される濃度値と、第2基準吸光度スペクトルとして使用される吸光度スペクトルは、ほぼ同時刻に得られたデータである必要はない。
【0031】
次に、第2基準吸光度スペクトルを複数の差分吸光度スペクトルの各々と合成して、複数の合成吸光度スペクトルを得る(S4)。このようにして得られた合成吸光度スペクトルは、目的体内成分の日内濃度変化に対応する被験者固有の吸光度スペクトルを提供する。
【0032】
次に、図4の(S5)に示すように、合成吸光度スペクトルと差分データテーブルを用いて、PLSなどの多変量解析を実施して検量線(しばしば、検量関数と呼ばれる)を作成する。この検量線の使用により、被験者の目的体内成分の濃度値は、被験者から非侵襲的に測定された近赤外吸光度スペクトルから精度よく推定できる。本発明においては、差分吸光度スペクトルと差分濃度とで構成される差分データテーブルが予め用意されるので、被験者から吸光度スペクトルと目的体内成分の濃度値の1組だけを測定すれば、被験者に固有の検量線を迅速に得ることができる。このようにして得られた検量線は、被験者に固有の情報と他成分の日内変化の情報を含んでおり、例えば、主成分数はおよそ7〜10である。
【0033】
上記した検量線の作成を図6のフローチャートに沿って説明する。検量線作成の命令が入力部56を介して演算部50に入力されると(S10)、CPU部51は、スペクトル計測プログラムを実行して被験者の第2基準吸光度スペクトルを計測する(S11)。また、CPU部51は、血糖値計測プログラムを実行し、採血式血糖値計60によって測定されたデータから被験者の第2基準濃度(血糖値)を求める(S12)。次いで、第2基準吸光度スペクトルを差分吸光度スペクトルの各々と合成することにより、複数の合成吸光度スペクトルが得られる(S13)。なお、第2基準濃度を差分濃度の各々と合成する必要は無い。第2基準濃度は、被験者の目的体内成分の濃度値を求める時にバイアス値として使用される。
【0034】
次に、CPU部51は第2記憶部54に格納されているPLS解析プログラムを実行し、複数の合成吸光度スペクトル及び第2記憶部54に保存されている差分データテーブルを用いて検量線を作成する(S14)。得られた検量線は、第2記憶部54に保存される(S15)。一例として、上記した手順で得られた検量線を図7に示す。この図から、検量線は、1600nm付近に目的体内成分としてのグルコースの吸収ピークを有することがわかる。後述するように、光伝搬シミュレーションを用いた第2実施形態の方法によって同様の検量線を得ることができる。
【0035】
得られた検量線を使用することにより、被験者の目的体内成分濃度を非侵襲的に測定する(本測定(III))。すなわち、被験者の皮膚に近赤外光を照射して近赤外吸光度スペクトルを測定する(S6)。測定した吸光度スペクトルを検量線と比較することにより、吸光度スペクトル測定時における被験者の目的体内成分の濃度値が推定される(S7)。
【0036】
被験者の目的体内成分の定量分析を図6のフローチャートに沿って説明する。定量分析の命令が入力部56を通じて演算部50に入力されると(S16)、CPU部51はスペクトル計測プログラムを実行し、被験者の吸光度スペクトル計測を行う(S17)。計測が終了すると、CPU部51は第2記憶部54に格納してある濃度(血糖値)演算プログラムを実行する。すなわち、CPU部51は第2記憶部54に保存されている被験者に固有の検量線を読み出し、測定した吸光度スペクトルを検量線と比較して被験者の目的体内成分の濃度値を算出する(S18)。算出された濃度値は、インターフェース部を通じてモニタ装置57に表示される(S19)。このように、推定精度に安定した信頼性を有する検量線が本発明の方法によって得られるので、被験者の目的体内成分の濃度値を非侵襲的に連続して測定することができる。
【0037】
上記方法において、対象生体内成分はグルコースに限定されない。例えば、タンパク質、脂質、水分および尿素のような他成分が目的体内成分であっても良い。この場合、所望の目的体内成分に適したプログラムを第2記憶部54に格納する必要がある。
<第2実施形態>
本実施形態の検量線の作成方法は、差分吸光度スペクトルを、モデル化された生体内における光伝搬を解析する方法として定義される光伝搬シミュレーションに基づいて得ることを除いて、実質的に第1実施形態の方法と同じである。したがって、重複する説明は省略する。また、第1実施形態と同じ構成の装置を本実施形態において定量分析を実施するために用いることができる。
【0038】
本実施形態においては、光伝播シミュレーションとして、モンテカルロ法を採用する。モンテカルロ法は、計算機で発生させた0〜1の範囲の一様乱数に関して、目的事象の発生確率分布に基づく関数を使用し、目的事象を正確に再現することができる統計学的手法である。
【0039】
光伝播を再現する場合は、媒体に入射する光を光子の集まりとみなす。光子1つ1つの媒体内での挙動を媒体の光学特性値(μα:吸収係数、μS:散乱係数、p(θ):散乱位相関数、n:屈折率)に基づいて追跡する。その結果、全ての光子の挙動から統計的に光伝播を再現することができる。散乱位相関数のθは、方位角について対称性を仮定した場合、一回の散乱によって生じる光の進行方向の角度変化である。散乱位相関数の有効な記述は、次式(1)に示すように、Henyey−Greenstein関数によって表され、赤血球を含む生体組織の散乱を表現するためにしばしば使用される。
【0040】
【数1】
【0041】
式(1)において、"g"は非等方散乱パラメータであり、p(θ)により表現される散乱の非等方性をより簡単に特徴づけることができる。gは1から−1までの値をとり、g=1,0,−1であるとき、その散乱特性は、それぞれに対応して完全な前方散乱、等方散乱、後方散乱によって表される。生体における散乱特性は非常に強い前方散乱によって表され、吸収が弱い媒体の散乱特性は、等方散乱によってほぼ表せる。
【0042】
また、上記した近似に基づいて、散乱係数μSは、等価散乱係数μS=(1一g)μSによって提供される。光の伝播において連続する2回の相互作用(吸収、散乱)間の光路長Lは、次式(2)によって表される。相互作用時の屈折の天頂角及び方位角の変化(θ、φは)は、それぞれ次式(3)、(4)によって表される。
【0043】
【数2】
【0044】
上記の式において、R1、R2、R3の各々は、0から1の間の一様乱数であり、∫(θ)は散乱位相関数の累積確率である。また、1番目の相互作用の際に光子のエネルギーは、その媒体の吸光特性に基づいて吸収され、次式(5)で表される。
【0045】
【数3】
【0046】
ところで、生体の皮膚は、角質層、顆粒層、有棘層、基底層を含む。基底層は、一層の基底細胞からなり、細胞分裂によって新しい細胞が一定のレベルで作り出される。新しい細胞は肌表面に向かって上方に移動し、有棘細胞→顆粒細胞→角質細胞の順に変化し、結果的に角質層が形成される。正常な角質細胞の場合、角質細胞でなる1層が毎日剥がれ落ちる。基底細胞が新しく生まれてから角質細胞になるのに約2週間、角質細胞が皮膚表面に達して剥がれ落ちるまでに約2週間、つまり約4週間毎に表皮層は生まれ変わる。これは、表皮層が20を越える細胞層で構成されることを意味する。真皮層には、血管、リンパ管及び神経に加えて、汗腺、皮脂腺及び毛根がある。また真皮層での活発な生理活動のため、血液から補給された栄養が、基底層で細胞を作り出すために使用される。更に、真皮層には線維組織があり、皮膚を保持しつつ、皮膚の弾力性を提供している。皮下組織は主に皮下脂肪によって形成されると考えられる。したがって、グルコースは主に真皮層に存在し、表皮層や皮下組織にグルコースはほとんど存在しないとみなせる。
【0047】
図8は、皮膚のシミュレーションモデルを示す。図中、番号30、31、32、33は、それぞれ表皮層、真皮層、皮下組織、筋肉や骨である。例えば、第1光ファイバー12から皮膚に照射された近赤外光は、図8の"X"で示される光路に沿って伝搬され、第3光ファイバー20によって受光される。
【0048】
モンテカルロ法に基づいて光伝播シミュレーションを実施する場合、表皮層、真皮層および皮下組織層の各々の吸収係数μα、散乱係数μS、屈折率n、非等方散乱パラメータgなどの光学特性値が必要となる。図9に、これらの層の吸収係数μαを示す。また、図10にこれらの層の散乱係数μSを示す。一般に、生体組織の"g"は0.8〜0.95の非常に強い前方散乱である。したがって、本実施形態で用いる"g"は0.9一定とする。またこれらの層の屈折率nも1.34一定とする。図11に実測した吸光度スペクトル(A)と上記した条件下でモンテカルロ法によりシミュレートした吸光度スペクトル(B)を示す。グルコース、タンパク質、脂質、水分及び温度などの生体内パラメータを、生体内パラメータの日内変動がカバーされるように予め設定した範囲内で変化させ、シミュレーションによる吸光度スペクトルの作成を繰り返す。このように、複数のシミュレートした吸光度スペクトルが得られるので、第1実施形態と同様に複数の差分吸光度スペクトルを得ることができる。結果として、生体からデータを測定する代わりに、シミュレーションによって差分データテーブルを得ることができる。
【0049】
本発明におけるシミュレーションの使用の有利性を、以下に簡単に説明する。シミュレーションでは、グルコースのような目的体内成分濃度の日内変動範囲が予め決定され、図5(c)に示すように、その変動範囲において、原点"ORG"の周囲に等間隔で差分値"D"がシミュレートされる。検量線の作成に必要なデータを生体から測定する場合においては、図5(b)に示すように、短時間内に等間隔の差分値"D"を得ることは困難である。しかしながら、シミュレーションによれば、多くのデータを収集することなく、推定精度に安定した信頼性を有する検量線を作成するのに最適な差分値を速やかに得ることができる。また、実測データがグルコースの微弱な信号を含んでいるかどうかを判定することは非常に困難である。しかしながら、シミュレーションによれば、そのようなグルコースの微弱信号を確実に再現することができる。さらに、生体から吸光度スペクトルを測定するための装置間で発生する誤差や、測定中に生じるノイズ成分がグルコースの微弱信号に及ぼす影響を防ぐことができる。したがって、シミュレーションにおいて偶然の相関はない。一例として、ある被験者の実測血糖値と、本実施形態の方法によって作成した検量線を使用して推定した血糖値の時間変化を図12に示す。この場合、両者の相関係数rは、0.94である。
【0050】
次に、第1実施形態と同様にして、シミュレーションにより得られた差分吸光度スペクトルと被験者から測定した第2基準吸光度スペクトルとから複数の合成吸光度スペクトルを求める。このようにして得られた合成吸光度スペクトルは、被験者固有の情報を含んでいる。第2実施形態の検量線は、合成吸光度スペクトルと差分データテーブルとを用いて多変量解析することにより得られる。
<第3実施形態>
本実施形態の検量線の作成方法は、検量線の作成に使用される近赤外吸光度スペクトルを生体の代わりに、模擬資料から測定することを除いて、実質的に第1実施形態の方法と同じである。したがって、重複する説明は省略する。また、第1実施形態と同じ構成の装置を本実施形態において定量分析を実施するために用いることができる。
【0051】
本実施形態においては、脂肪乳剤(例えば、「イントラリピッド」<フレゼニウス・カビ株式会社製)のような散乱体浮遊溶液が模擬試料として使用される。特に、前記脂肪乳剤「イントラリピッド」を2〜5%含有する溶液が生体に近い。脂肪乳剤に対するグルコース、タンパク質、脂質、水分のような体内成分の混合比や溶液温度を、それらの日内変動がカバーされるように予め設定した範囲内で変化させ、複数種のテスト溶液を作成する。得られたテスト溶液の各々に関して、吸光度スペクトルを測定し、吸光度スペクトルの一つを基準吸光度スペクトルとして選択する。第1実施形態と同様にして、測定した吸光度スペクトルの各々から基準吸光度スペクトルを引くことにより複数の差分吸光度スペクトルが得られると共に、それぞれのテスト溶液中の体内成分の濃度値は正確にわかるので、生体の代わりに模擬資料から測定したデータに基づいて差分データテーブルを作成することができる。
【0052】
次に、第1実施形態と同様にして、模擬試料を用いて得られた差分吸光度スペクトルと被験者から測定した第2基準吸光度スペクトルとから複数の合成吸光度スペクトルを求める。このようにして得られた合成吸光度スペクトルは、被験者固有の情報を含んでいる。第3実施形態の検量線は、合成吸光度スペクトルと差分データテーブルとを用いて多変量解析することにより得られる。
<第4実施形態>
本実施形態の検量線の作成方法は、目的体内成分(例えば、グルコース)の吸光度スペクトルを第2実施形態で述べたシミュレーションを用いて求めると共に、他の体内パラメータ(たとえば、水分、タンパク質、脂質の濃度、温度、散乱)に関しては、目的体内成分の濃度が一定であるという条件下で、第1実施形態と同様の手順に基づいて、生体から吸光度スペクトルを実測することに特徴がある。したがって、重複する説明は省略する。また、第1実施形態と同じ構成の装置を本実施形態において定量分析を実施するために用いることができる。
【0053】
例えば、多変量解析によりグルコースの検量線を作成する場合、グルコース以外の他の体内成分の吸光度スペクトルを考慮に入れることが好ましい。生体内では、グルコース濃度が変化すると、他の体内成分の濃度変化も同時に起こる。したがって、他の体内成分の吸光度スペクトルは、グルコースの検量線から、他の体内成分の影響を除去するのに有用である。また、第2実施形態で述べたように、グルコースの微弱な信号はシミュレーションにより確実に再現される。したがって、本実施形態によれば、推定精度のさらなる改善を有する検量線を提供することができる。
【0054】
また、他の体内成分に関して、吸光度スペクトルを生体から測定する場合、生体は定量分析を必要とする被験者に限定されない。例えば、被験者以外の少なくとも一人であれば良い。測定した吸光度スペクトルの一つが基準吸光度スペクトルとして選択され、第1実施形態と同様にして、複数の差分吸光度スペクトルを求める。この時、目的体内成分の濃度は一定に保たれるので、差分濃度を求める必要はない。
【0055】
本実施形態において、差分データテーブルは、他の体内成分に関して測定データから求めた差分吸光度スペクトルと、目的体内成分に関してシミュレーションによって求めた差分吸光度スペクトルと、目的体内成分の差分濃度とから作成される。次に、第2実施形態と同様に、シミュレーションにより求めた差分吸光度スペクトルの各々を被験者から測定した第2基準吸光度スペクトルと合成して、複数の合成吸光度スペクトルを求める。このようにして得られた合成吸光度スペクトルは、被験者固有の情報を含んでいる。第4実施形態の検量線は、合成吸光度スペクトルと差分データテーブルを用いて多変量解析することにより得られる。
【0056】
本実施形態によれば、検量線をシミュレーションでは考慮できない他の体内成分の影響を考慮に入れて作成できるので、ノイズ成分の低減や推定精度の安定性の向上といったシミュレーションの採用によってもたらされる第2実施形態の効果を確保しつつ、目的体内成分濃度の推定精度のさらなる向上を達成することができる。
【0057】
上記した第1実施形態1〜4においては、目的体内成分(例えば、グルコース)以外の体内パラメータに関して、吸光度スペクトルの日内変動の想定される範囲内において少なくとも2つの異なる条件下で吸光度スペクトルを求めることが好ましい。例えば、他の体内パラメータが温度であれば、基準値±1℃の2つの温度を選択することができる。また、他の体内パラメータがタンパク質濃度であれば、基準値±10%の2種類のタンパク質濃度を選択することができる。この場合、基準濃度値に応じて差分吸光度スペクトルは変化するが、目的変数がグルコース濃度であれば、多変量解析において他の体内成分濃度値は必要ない。このように、必要に応じて、温度やタンパク質濃度のような他の体内パラメータの変動を考慮して検量線を作成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の第1実施形態にかかる体内成分の定量分析を非侵襲的に実施するための装置の概略図である。
【図2】同装置の測定プルーブの端面図である。
【図3】同装置の演算部の一例を示すブロック図である。
【図4】本発明の検量線の作成方法を示すフローチャートである。
【図5】(a)〜(c)は、グルコース(血糖値)の検量線作成用データを示す概略図である。
【図6】検量線の作成方法の詳細なフローチャートである。
【図7】本発明の方法により作成した検量線の一例を示す図である。
【図8】シミュレーションによる人間の皮膚組織の断面図である。
【図9】人間の皮膚の異なる層における波長と吸収係数の間の関係を示すグラフである。
【図10】人間の皮膚の異なる層における波長と散乱係数の間の関係を示すグラフである。
【図11】測定した吸光度スペクトルと、シミュレーションによる吸光度スペクトルの一致度を示す図である。
【図12】被験者の実測血糖値と推定血糖値の時間変化を示すグラフである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体の複数の近赤外吸光度スペクトルと基準吸光度スペクトルの間の差分である複数の差分吸光度スペクトルを求め、前記差分吸光度スペクトルの各々に、上記基準吸光度スペクトルとは異なる第2基準吸光度スペクトルを合成することにより複数の合成吸光度スペクトルを求め、前記複数の合成吸光度スペクトルを用いて多変量解析することにより検量線を作成することを特徴とする体内成分の定量分析用検量線の作成方法。
【請求項2】
上記体内成分は、グルコースであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
上記近赤外吸光度スペクトルの各々は、生体に近赤外光を照射し、前記生体からの放射光のスペクトル分析を実施することにより測定されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
上記複数の差分吸光度スペクトルは、モデル化された生体内における光伝搬を解析する方法として定義される光伝搬シミュレーションに基づいて得られることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
上記基準吸光度スペクトルは、上記複数の近赤外吸光度スペクトルの中から選択されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
上記複数の近赤外吸収度スペクトルの測定時点における生体の体内成分濃度を測定するステップと、各々が前記体内成分濃度と基準濃度との差分である複数の差分濃度を求めるステップをさらに含み、上記検量線は、上記差分吸光度スペクトルと前記差分濃度とで構成される差分データテーブルを用いて多変量解析することにより作成されることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項7】
上記複数の近赤外吸光度スペクトルは複数の日にわたって測定され、上記基準吸光度スペクトルは、前記複数の日の各々において測定された複数の近赤外吸光度スペクトルの中から選択されることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項8】
被験者の近赤外吸光度スペクトルを測定し、請求項1〜7のいずれかに記載の方法により作成した検量線と、前記被験者の近赤外吸光度スペクトルを用いて被験者の体内成分濃度を求めることを特徴とする被験者の体内成分濃度を非侵襲的に決定する方法。
【請求項9】
被験者の皮膚に近赤外光を照射する光照射手段と、前記皮膚からの放射光を受光する受光手段と、請求項1〜7のいずれかに記載の方法により作成した検量線を記憶するメモリと、前記受光手段の出力と、前記メモリから読み出された検量線を用いて、被験者の体内成分濃度を計算する演算手段とを具備することを特徴とする被験者の体内成分濃度を非侵襲的に決定する定量分析装置。
【請求項1】
生体の複数の近赤外吸光度スペクトルと基準吸光度スペクトルの間の差分である複数の差分吸光度スペクトルを求め、前記差分吸光度スペクトルの各々に、上記基準吸光度スペクトルとは異なる第2基準吸光度スペクトルを合成することにより複数の合成吸光度スペクトルを求め、前記複数の合成吸光度スペクトルを用いて多変量解析することにより検量線を作成することを特徴とする体内成分の定量分析用検量線の作成方法。
【請求項2】
上記体内成分は、グルコースであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
上記近赤外吸光度スペクトルの各々は、生体に近赤外光を照射し、前記生体からの放射光のスペクトル分析を実施することにより測定されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
上記複数の差分吸光度スペクトルは、モデル化された生体内における光伝搬を解析する方法として定義される光伝搬シミュレーションに基づいて得られることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
上記基準吸光度スペクトルは、上記複数の近赤外吸光度スペクトルの中から選択されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
上記複数の近赤外吸収度スペクトルの測定時点における生体の体内成分濃度を測定するステップと、各々が前記体内成分濃度と基準濃度との差分である複数の差分濃度を求めるステップをさらに含み、上記検量線は、上記差分吸光度スペクトルと前記差分濃度とで構成される差分データテーブルを用いて多変量解析することにより作成されることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項7】
上記複数の近赤外吸光度スペクトルは複数の日にわたって測定され、上記基準吸光度スペクトルは、前記複数の日の各々において測定された複数の近赤外吸光度スペクトルの中から選択されることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項8】
被験者の近赤外吸光度スペクトルを測定し、請求項1〜7のいずれかに記載の方法により作成した検量線と、前記被験者の近赤外吸光度スペクトルを用いて被験者の体内成分濃度を求めることを特徴とする被験者の体内成分濃度を非侵襲的に決定する方法。
【請求項9】
被験者の皮膚に近赤外光を照射する光照射手段と、前記皮膚からの放射光を受光する受光手段と、請求項1〜7のいずれかに記載の方法により作成した検量線を記憶するメモリと、前記受光手段の出力と、前記メモリから読み出された検量線を用いて、被験者の体内成分濃度を計算する演算手段とを具備することを特徴とする被験者の体内成分濃度を非侵襲的に決定する定量分析装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2006−87913(P2006−87913A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−244785(P2005−244785)
【出願日】平成17年8月25日(2005.8.25)
【出願人】(000005832)松下電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年8月25日(2005.8.25)
【出願人】(000005832)松下電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】
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