説明

体液浄化処理用吸着カラム

【課題】 吸着対象物質より分子量の小さい共吸着物質の影響を排除して、カラム容量を大幅に低減または治療時間の大幅な短縮が可能な体液浄化処理用の吸着カラムを提供する。
【解決手段】 官能基を多孔質担体の表面に固定してなる吸着体を備えてなる体液浄化処理用の吸着カラムであって、被処理体液から共吸着物質を予め吸着除去する補助吸着体1と、補助吸着体で共吸着物質除去後の被処理体液から吸着対象物質を吸着除去する主吸着体2を備え、各吸着体の多孔質担体が、3次元網目構造の骨格体と、骨格体の間隙に形成された3次元網目状の貫通孔と、骨格体の表面に分散して形成された骨格体の表面から内部まで貫通する細孔を有し、補助吸着体の多孔質担体における細孔の窒素吸着法で測定した中心細孔直径が、吸着対象物質の最大長より小さく、細孔の窒素吸着法で測定した細孔直径の分布範囲の下限が2nm以下、上限が共吸着物質の最大長の最大値を超えて大きい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸着対象物質に特異的に結合する官能基を多孔質担体の表面に固定してなる体液浄化処理用の吸着カラムに関し、特に、血液中のLDL(低密度リポタンパク)等の病因物質の吸着除去を目的とするアフェレシス治療用の吸着カラムに関する。
【背景技術】
【0002】
アフェレシス治療は、体外循環によって血中から病気の原因となる液性因子(タンパク質やタンパクと結合して血中に存在する抗体やサイトカイン等の免疫関連物質等)や細胞(リンパ球、顆粒球、ウイルス等)を除去し、病態の改善を図る治療法である。
【0003】
血液中に存在するリポタンパク中のLDLはコレステロールを多く含み、LDLの血中濃度が上昇する高LDL血症が、動脈硬化のリスクを高め心筋梗塞や脳梗塞のリスクを高めることは良く知られている。以下、特に断らない限り、LDLはコレステロールを含む場合を想定し、低密度リポタンパクとコレステロールの複合体であるLDLコレステロールを意味するものとする。高LDL血症の治療法の一つとして、LDLアフェレシス治療が実用されているが、治療費が高いことと患者への負担が大きいことから、専ら家族性(遺伝性)高LDL血症、閉塞性動脈硬化症、巣状糸球体硬化症等の患者の内の薬物治療が効かない重度の患者にのみ実施されているのが現状である。
【0004】
LDLアフェレシス治療は、吸着方式のアフェレシス治療で、吸着対象物質であるLDLに対して親和性を有する官能基を担体の表面に固定してなる吸着カラムに、患者の血液または血漿を灌流させることで、体外循環させた患者の血中からLDLを吸着除去する治療法である。LDL吸着カラムとしては、株式会社カネカのリポソーバ(登録商標)(下記の特許文献1、非特許文献1参照)、フレゼニウス社(ドイツ)のDALIシステム等(下記の特許文献2参照)がある。これらのLDL吸着カラムは、多数の細孔を有するビーズ状の多孔質セルロースゲル或いはポリアクリルアミドからなる担体表面に、LDLに対して親和性を有する官能基(リガンド)としてデキストラン硫酸、ポリアクリル酸等の鎖状多価酸を表面修飾して固定化し、当該表面修飾されたビーズをカラム容器内に充填して構成される。ビーズ径は、直接血液灌流法の場合250μm程度、血漿灌流法の場合50μm程度である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平4−511430号公報
【特許文献2】特公平3−254756号公報
【特許文献3】特公平3−39736号公報
【特許文献4】特開平7−41374号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】谷敍孝、「血液吸着装置の開発」、医器学、Vol.58、No.6、266〜273頁、1988年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、現在実用化されている多孔質セルロースゲルビーズ等を担体として使用したLDL吸着カラムには、以下に示すような問題がある。
【0008】
第1に、多孔質セルロースゲルビーズがセルロース繊維の絡まった糸鞠状で、ビーズ内の細孔径の分布が0.1〜1μmと球状のLDL分子の直径(約26〜27μm)より4〜40倍と大きく且つブロードであるため(非特許文献1(4.1担体)参照)、細孔径の拡大とともに細孔容積当たりの表面積が小さくなり、吸着効率が低下する。また、ビーズが糸鞠状のため、細孔径の分布の制御が困難であり、細孔径がLDL分子の直径程度以下の場合には、細孔表面にはLDLが吸着されず、吸着効率が低下する。
【0009】
第2に、吸着カラム内に送入された血液或いは血漿は、各ビーズ間の隙間を流路として血流によって流れるが、吸着対象物質であるLDLのビーズ内部の細孔表面への移動は拡散による移動となり、更に、担体がビーズ状でその直径が細孔径に対して大きいので、LDLはビーズ表面近傍の細孔表面にしか吸着されず、ビーズ表面近傍から深奥部に亘る細孔表面積の全てを有効に利用できない。
【0010】
第3に、上記第2の問題点を改善するためにビーズ径を小さくすると、各ビーズ状担体間の隙間が狭窄して血流の流路抵抗が高くなって圧力損失が増加し、血流の流量を大きくできない。カラム容器内にビーズ状担体を密に充填した場合を仮定すると、各ビーズ状担体間の隙間の狭窄個所を通過する流路径がビーズ径の15%程度まで狭くなること、また、当該狭窄個所がビーズ状担体によって4方向から囲まれ、一方向から当該狭窄個所に浸入する流路が対向するビーズ状担体によって大きく屈曲すること等が、圧力損失増加の要因と考えられる。
【0011】
第4に、多孔質セルロースゲル等のソフトゲルでは、更に圧力損失が高く、高流量で血液或いは血漿を送入した場合、圧密化が起こり一定流量以上では血液或いは血漿を流れなくなる。
【0012】
第5に、多孔質セルロースゲル等の高分子担体では、微量の添加剤等が含まれているため、血液中のタンパク質の吸着や血液凝固機構の活性化が起こり易くなる。
【0013】
以上を纏めると、現在実用化されている多孔質セルロースゲルビーズを担体として使用したLDL吸着カラムには、担体が多孔質セルロースゲルであることに起因する問題(第1、第4及び第5の問題)と、担体がビーズ状であることに起因する問題(第1、第2及び第3の問題)の2タイプの問題がある。
【0014】
担体が多孔質セルロースゲルであることに起因する第4の問題、即ち、圧力損失が高く、一定流量以上では血液或いは血漿を流れなくなる問題については、担体を無機多孔体で構成する解決法が、上記の特許文献3で提案されている。しかし、特許文献3では、担体として多孔質ガラスビーズ(粒径80〜120メッシュ)とアガロースゲルビーズ(粒径50〜100メッシュ)について、圧力と流速の関係を比較し、多孔質ガラスビーズ担体では圧密化が起こらずに、圧力の増加に伴い流速も増大するのに対して、アガロースゲルビーズでは、流速が増加しない点が明らかにされているに過ぎない(特許文献3の図1参照)。ここで、多孔質ガラスビーズ担体のビーズ径は、直接血液灌流法を想定した250μm程度と大きなものとなっており、各ビーズ状担体間の隙間の狭窄個所を通過する流路径も大きなものとなっている。従って、ビーズ径が圧力損失や流速に与える影響については考慮も評価も一切なされていない。更に、特許文献3では、「担体の形状は粒状、繊維状、膜状、ホロファイバー状等の任意の形状を選ぶことができる。」との記載はあるものの、実際の評価はビーズ状(球状)担体で行われており、担体形状が圧力損失や流速に与える影響については考慮も評価も一切なされていない。
【0015】
また、特許文献3では、ビーズ状担体を使用したLDL吸着体としての性能評価が行われているが、現在実用化されているLDL吸着カラムの使用形態に即した血液或いは血漿を流した状態での動的吸着試験ではなく、球状の吸着体を入れた試験管に血漿を加えて攪拌し、20℃で15分間放置後に上澄みのLDL濃度を測定するという静的吸着試験であるため、ビーズ状担体のビーズ径の影響、つまり、吸着カラム内に血液或いは血漿を通流させた状態での圧力損失の影響は十分に評価されていない。また、動的吸着試験による評価が一切されていないため、ビーズ径や担体形状がLDL吸着カラムとしての実使用状態での吸着性能に与える影響についての考慮も評価も一切なされていない。
【0016】
また、上記第1及び第2の問題により、現行のLDL吸着カラムでは、LDLの飽和吸着量が約6mg/mLに止まっており、そのため、カラム容量として非再生型の場合400〜1000mLの大きさのカラムが、また、再生型の場合150mL×2本のカラムと複雑な再生システムが必要となる。更に、飽和吸着に至るまでの時間も長いため、治療に要する時間も2〜3時間と長く、患者に与える負担が大きいものである。
【0017】
そこで、現行のLDL吸着カラムの担体の材質及び形状に改善の余地があることに着目し鋭意検討した結果、吸着対象物質に特異的に結合する官能基を多孔質担体の表面に固定してなる体液浄化処理用の吸着カラムにおいて、従来のようにカラム内にビーズ状の多孔質担体に官能基を固定してなるビーズ状の吸着剤を充填した構成に代えて、多孔質担体として、3次元網目構造のシリカゲルまたはシリカガラスからなる無機質の骨格体と、骨格体の間隙に形成された3次元網目状の貫通孔を有し、且つ、貫通孔より小径の骨格体の表面から内部まで貫通する細孔が骨格体に分散して形成されている一体型の多孔質担体を用い、貫通孔及び細孔の平均孔径を最適化することで、従来の吸着カラムの問題点を解決でき、大幅な性能向上が実現できることを見出し、本願に先行して別途特許出願を行い特許されている(特願2007−236564)。
【0018】
本願発明者等は、更に、上記先行出願で提案した新規な吸着カラムにおいて、被処理体液中に含まれる吸着対象物質より分子量の小さい共吸着物質の影響によって吸着対象物質に対する選択的な吸着性能が低下する現象を見出し、吸着対象物質と共吸着物質を分離して吸着することで吸着対象物質に対する選択的な吸着性能が大幅に改善できることを確認した。
【0019】
具体的には、血漿中には大小様々な分子が存在し、LDL吸着カラムには分子量が約3500kDa(キロダルトン)のLDL以外にも分子量が約5kDa〜340kDaの範囲のペプチドや小分子蛋白質が特異的に吸着される。これらペプチドや小分子蛋白質は、LDLとともにLDL吸着カラムの共吸着物質として共に吸着されLDLの吸着を阻害するため、カラム体積当たりのLDL吸着量は減少する傾向にある。また、血漿中の共吸着物質の量は患者によって異なっているため、安定したLDL除去能力をカラムに持たせることが困難である。
【0020】
本発明は、上述の新規な吸着カラムにおける新たに見出した問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、少なくとも低密度リポタンパクを含む吸着対象物質に特異的に結合する官能基を多孔質担体の表面に固定してなる吸着体を備えてなる体液浄化処理用の吸着カラムにおいて、吸着対象物質より分子量の小さい共吸着物質の影響を排除して、カラム容量を大幅に低減可能または治療時間の大幅な短縮が可能な体液浄化処理用の吸着カラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記目的を達成するための本発明に係る体液浄化処理用の吸着カラムは、少なくとも低密度リポタンパクを含む吸着対象物質に特異的に結合する官能基を多孔質担体の表面に固定してなる吸着体を備えてなる体液浄化処理用の吸着カラムであって、被処理体液から前記吸着対象物質より分子量の小さい共吸着物質を予め吸着除去する補助吸着体と、前記補助吸着体で前記共吸着物質を吸着除去した後の被処理体液から前記吸着対象物質を吸着除去する主吸着体を備え、前記補助吸着体と前記主吸着体の前記多孔質担体が、3次元網目構造のシリカゲルまたはシリカガラスからなる骨格体と、前記骨格体の間隙に形成された3次元網目状の貫通孔と、前記骨格体の表面に分散して形成された前記骨格体の表面から内部まで貫通する細孔とを有し、前記補助吸着体の前記多孔質担体における前記細孔の窒素吸着法で測定した中心細孔直径が、前記吸着対象物質の最大長より小さく、且つ、前記細孔の窒素吸着法で測定した細孔直径の分布範囲の下限が2nm以下、前記細孔直径の分布範囲の上限が前記共吸着物質の最大長の最大値を超えて大きく、前記主吸着体の前記多孔質担体における前記細孔の窒素吸着法で測定した中心細孔直径が、前記吸着対象物質の最大長より大きいことを第1の特徴とする。
【0022】
ここで、多孔質担体の表面は、多孔質担体の貫通孔及び細孔の各内壁面に相当するものであり、また、骨格体の表面は貫通孔の内壁面と同意である。また、本発明においては、中心細孔直径は、窒素吸着法で測定した細孔分布における細孔容積(V)を細孔直径(D)の常用対数(logD)で微分した値(dV/d(logD)、以下「微分細孔容積」と称す)を細孔直径(D)に対してプロットした曲線(以下「細孔分布曲線」と称す)の最大のピークを示す細孔直径として定義される。尚、当該中心細孔直径の定義において、細孔直径(D)ではなく、常用対数(logD)を使用する理由は、細孔直径(D)が2nm〜15nm程度の比較的小さい領域において細孔容積(V)の変化が現れる場合を精度良く検出するためである。
【0023】
更に、本発明に係る体液浄化処理用の吸着カラムは、上記第1の特徴に加え、前記補助吸着体の前記多孔質担体における前記細孔の窒素吸着法で測定した中心細孔直径が、10nm以上26nm以下であることを第2の特徴とする。
【0024】
更に、本発明に係る体液浄化処理用の吸着カラムは、上記第1または第2の特徴に加え、前記主吸着体の前記多孔質担体における前記細孔の窒素吸着法で測定した中心細孔直径が、前記吸着対象物質の最大長より2倍以上大きいことを第3の特徴とする。
【0025】
更に、本発明に係る体液浄化処理用の吸着カラムは、上記第1乃至第3の何れかの特徴に加え、単体容器内の体液が通流する経路内の上流側に前記補助吸着体を備え、下流側に前記主吸着体を備えてなることを第4の特徴とする。
【0026】
更に、本発明に係る体液浄化処理用の吸着カラムは、上記第1乃至第3の何れかの特徴に加え、体液が通流する体液通流路の上流側に単体容器内に前記補助吸着体を充填してなる補助吸着カラムを備え、前記体液通流路の下流側に別の単体容器内に前記主吸着体を充填してなる主吸着カラムを備えてなることを第5の特徴とする。
【0027】
更に、本発明に係る体液浄化処理用の吸着カラムは、少なくとも低密度リポタンパクを含む吸着対象物質に特異的に結合する官能基を多孔質担体の表面に固定して、被処理体液から前記吸着対象物質より分子量の小さい共吸着物質を予め吸着除去する補助吸着体を備えてなる体液浄化処理用の吸着カラムであって、前記補助吸着体の前記多孔質担体が、3次元網目構造のシリカゲルまたはシリカガラスからなる骨格体と、前記骨格体の間隙に形成された3次元網目状の貫通孔と、前記骨格体の表面に分散して形成された前記骨格体の表面から内部まで貫通する細孔とを有し、前記補助吸着体の前記多孔質担体における前記細孔の窒素吸着法で測定した中心細孔直径が、前記吸着対象物質の最大長より小さく、且つ、前記細孔の窒素吸着法で測定した細孔直径の分布範囲の下限が2nm以下で、前記細孔直径の分布範囲の上限が前記共吸着物質の最大長の最大値を超えて大きいことを第6の特徴とする。
【0028】
更に、本発明に係る体液浄化処理用の吸着カラムは、上記第6の特徴に加え、前記補助吸着体の前記多孔質担体における前記細孔の窒素吸着法で測定した中心細孔直径が、10nm以上26nm以下であることを第7の特徴とする。
【0029】
更に、本発明に係る体液浄化処理用の吸着カラムは、上記第1乃至第7の何れかの特徴に加え、前記官能基が、低密度リポタンパクに特異的に結合する親和性を有するデキストラン硫酸またはその塩、ポリアクリル酸またはその塩、或いは、その他の鎖状多価酸またはその塩であることを第8の特徴とする。
【0030】
更に、本発明に係る体液浄化処理用の吸着カラムは、上記第1乃至第8の何れかの特徴に加え、前記多孔質担体が、スピノーダル分解ゾルゲル法で合成されていることを第9の特徴とする。
【発明の効果】
【0031】
上記第1または第2の特徴の体液浄化処理用吸着カラムによれば、被処理体液が、中心細孔直径が吸着対象物質の最大長より小さい補助吸着体を通流する際に、被処理体液中の吸着対象物質の殆どは補助吸着体の細孔内に進入できず吸着除去されないが、吸着対象物質より分子量の小さい分子量の異なる多数の共吸着物質は、補助吸着体の細孔直径の分布範囲が共吸着物質夫々の最大長(分子サイズ)をカバーするため、補助吸着体の細孔内に進入して吸着除去される。従って、補助吸着体では、分子量の大きい吸着対象物質が不必要に細孔内に進入して細孔の入口を塞ぐのが防止されるため、分子量の小さい共吸着物質が細孔深部にまで進入して吸着され易くなり、補助吸着体を通流する被処理体液から吸着対象物質より分子量の小さい共吸着物質が選択的に吸着除去されることになる。更に、補助吸着体の中心細孔直径が吸着対象物質の最大長より小さい場合と大きい場合を比較すれば、小さい場合の方が大きい場合より、官能基が固定される多孔質担体の表面積が大きくなるため、共吸着物質の吸着能力は増大することになる。また、主吸着体を通流する被処理体液からは、既に補助吸着体で共吸着物質が選択的に吸着除去されているため、共吸着物質が主吸着体の細孔内に進入して共吸着されないので、主吸着体での吸着対象物質の吸着が共吸着物質によって阻害されることが軽減され、主吸着体における吸着対象物質の吸着除去効率が向上する。
【0032】
補助吸着体と主吸着体の中心細孔直径と、吸着物質(吸着対象物質と共吸着物質)の最大長の関係について、より詳細に説明する。
【0033】
補助吸着体の骨格体に分散して形成される細孔の細孔直径が、窒素吸着法の測定下限である2nm以下から共吸着物質の最大長の最大値を超えて分布しているため、細孔直径の分布範囲が分子量の異なる大小の共吸着物質の各最大長(共吸着物質が球形、楕円球形或いは円板形であれば、その直径または最大径)の全てをカバーすることになる。従って、補助吸着体は、骨格体の貫通孔に向けて露出した表面(貫通孔表面)と、骨格体の細孔に向けて露出した表面(細孔表面)の2種類の表面に固定された官能基を共吸着物質の吸着に供することが可能となる。以上の結果、補助吸着体は、細孔表面を有効に利用して、分子量の異なる大小の共吸着物質を万遍なく吸着することができる。更に、補助吸着体の中心細孔直径が、吸着対象物質の最大長より小さく設定されることで、吸着対象物質は細孔内に移動不能または極めて困難となり、吸着対象物質の吸着は専ら貫通孔表面に固定された官能基によることになり、貫通孔表面より表面積の広い細孔表面に固定された官能基は、専らに共吸着物質の吸着に供せられることとなり、補助吸着体の共吸着物質に対する吸着能力が向上する。ここで、補助吸着体の中心細孔直径を、吸着対象物質の最大長より小さい範囲内で共吸着物質の最大長の最大値以上とすると、共吸着物質は、細孔内の深部にまで移動可能となり、細孔表面に固定された官能基をより効率的に利用して吸着性能が向上するが、中心細孔直径が吸着対象物質の最大長を超えて大きくなり過ぎると、細孔表面の表面積が減少して、共吸着物質の吸着に供される官能基の数が減少するため、共吸着物質に対する吸着性能が逆に低下することになる。
【0034】
吸着対象物質がLDLの場合、その分子量は3500kDaで分子直径が26〜27nmであるので、補助吸着体の中心細孔直径は26nm以下であることが好ましい。また、吸着対象物質がLDLの場合の共吸着物質としては、後述するように、分子量が約5kDa〜340kDa、分子の最大長が3nm〜13nm程度のペプチドや小分子蛋白質が吸着されるため(図7、図8参照)、補助吸着体の中心細孔直径は、10nm以上であることが好ましい。尚、細孔直径を窒素吸着法によって測定した場合、その細孔直径の分布は中心細孔直径の+50%程度まで広がっており、中心細孔直径が10nmの場合には、細孔直径の分布範囲の上限は15nm程度となり、分子量340kDaの共吸着物質の吸着に細孔表面が有効に利用できることになる。また、中心細孔直径が26nmの場合には、細孔直径の分布範囲の上限は40nm程度となり、斯かる大きな細孔内ではLDLがある程度吸着されることが予想されるが、後述するように、細孔容積の大部分が中心細孔直径近傍の細孔径に集中し(図5(b)参照)、細孔径が中心細孔直径近傍より大きい領域では細孔容積が小さく、吸着に供される細孔表面積も小さくなるので、大きな細孔内でのLDL吸着の影響は無視できるものと考えられる。
【0035】
次に、主吸着体の中心細孔直径が、吸着対象物質の最大長より大きく設定されることで、貫通孔表面と細孔表面の2種類の表面に固定された官能基を吸着対象物質の吸着に供することが可能となる。つまり、中心細孔直径が吸着対象物質の最大長(吸着対象物質が球形、楕円球形或いは円板形であれば、その直径または最大径、吸着対象物質がLDLの場合に相当する)より小さければ、吸着対象物質は細孔内に移動不能または極めて困難となり、吸着対象物質の吸着は専ら貫通孔表面に固定された官能基によることになる。これに対して、中心細孔直径が吸着対象物質の最大長より大きければ、吸着対象物質は少なくとも1つが細孔内に移動して、細孔表面に固定された官能基に吸着可能となり、吸着に供せられる有効な骨格体の表面積が増大する。
【0036】
更に、上記第1または第2の特徴の体液浄化処理用吸着カラムによれば、多孔質担体として無機質のシリカゲルまたはシリカガラスを使用しているので、上述した従来の吸着カラムにおける多孔質担体が高分子やソフトゲルであることに起因する問題と、多孔質担体がビーズ状であることに起因する問題が同時に解消される。
【0037】
具体的には、3次元網目構造の骨格体と骨格体外に形成された3次元網目状の貫通孔を有する一体型の多孔質担体を用いることで、体液浄化処理の対象となる体液(例えば、血漿)の通流路となる貫通孔が3次元網目状に連通することから、貫通孔径が、ビーズ状担体をカラム容器内に密に充填した場合の各ビーズ状担体間の隙間の狭窄個所を通過する流路径と同じであっても、流路抵抗を低く抑制でき、圧力損失をビーズ状担体と比較して低く抑えることができる。また、ビーズ状担体も3次元網目構造の骨格体も、吸着対象物質の細孔内の移動が拡散による移動であり、各担体の表面近傍の細孔に固定されている官能基が専ら有効に機能するものと仮定すれば、担体の立体形状は、単位容積当たりの表面積が大きい3次元網目構造の方が、表面積の小さいビーズ状(球状)より、官能基が有効に機能する細孔表面積を大きくできることになる。従って、同じ流路径では、3次元網目構造の方がビーズ状担体より、圧力損失が低く、有効な細孔面積も大きくなる。つまり、3次元網目構造の方がビーズ状担体より、更に、流路径を小さくして、有効な細孔面積を更に拡大することが可能となる。
【0038】
ここで、細孔径が貫通孔径と同程度まで大きくなると、もはや細孔ではなく貫通孔と同等視され、細孔が骨格体の表面に分散しているという条件に該当しなくなる。従って、本発明の補助吸着体及び主吸着体で使用する3次元網目構造の多孔質担体の特徴は、3次元網目状の貫通孔と、それより孔径の小さい細孔の2種類の孔径による階層的な多孔質構造となっている点である。つまり、斯かる多孔質構造の特徴を利用することで、従来のビーズ状多孔体を用いた吸着カラムに対して大幅な性能向上の図れる条件設定が可能となるのである。
【0039】
更に、ビーズ状担体をカラム容器内に密に充填した場合の流路径と貫通孔径が同じ場合では、3次元網目構造の骨格体の方がビーズ状担体より径を小さく作製できるため、細孔の担体表面から内部に向けて延伸する延伸長は、ビーズ状担体より3次元網目構造の骨格体の方が短く、吸着対象物質の細孔内への拡散による移動距離が短くなるので、細孔内の官能基への吸着効率が向上する。つまり、ビーズ状担体を用いた従来の吸着カラムと比較して飽和吸着に至るまでの時間も短縮され、短時間で高性能の吸着カラムを最大限に利用可能となり、治療に要する時間が短縮され、患者に与える負担を大幅に軽減できる。
【0040】
また、上記第3の特徴の体液浄化処理用の吸着カラムによれば、主吸着体の中心細孔直径が、吸着対象物質の最大長より2倍以上大きく設定されることで、細孔表面に固定された官能基をより効率的に吸着対象物質の吸着に供することが可能となる。つまり、中心細孔直径が吸着対象物質の最大長より2倍以上大きいと、細孔表面に固定された官能基に吸着した吸着対象物質によって、他の吸着対象物質が同じ細孔内に移動して他の官能基に吸着されるのが阻害されにくくなるため、細孔径が大きい程、吸着に有効に利用される細孔の深さ(骨格体表面からの距離)が大きくなり、細孔内に移動して吸着される吸着対象物質が増える。しかし、中心細孔直径が大きいと、骨格体の単位表面積当たりの細孔数が減少するため、中心細孔直径をある一定範囲を超えて大きくしても、吸着性能は増加しない。尚、当該一定範囲の上限は、貫通孔径及び吸着対象物質の大きさに依存するため一意には定まらないが、上述の先行出願(特願2007−236564)の明細書に記載の実施例の測定結果より吸着対象物質の最大長の6〜10倍程度と考えられる。但し、中心細孔直径は、吸着性能が大幅に低下しない限り当該一定範囲を超えて大きくすることは可能である。
【0041】
更に、上記第4の特徴の体液浄化処理用の吸着カラムによれば、補助吸着体と主吸着体を単体容器内に備えることで、アフェレシス治療において主吸着体だけを備えた吸着カラムと同様に取り扱うことができる。尚、補助吸着体は主吸着体より中心細孔直径が小さいため、主吸着体と比べて小さい容量で大きな細孔表面積を確保できるので、補助吸着体の容積を主吸着体より大幅に小さくできるため、補助吸着体と主吸着体を単体容器内に収容するのに都合が良い。
【0042】
更に、上記第5の特徴の体液浄化処理用の吸着カラムによれば、補助吸着体を備えた補助吸着カラムと主吸着体を備えた主吸着カラムを個別に設けてあるため、補助吸着カラムと主吸着カラムを個別に交換する等の利用方法が可能となる。一例として、補助吸着カラムと主吸着カラムの一方の吸着性能だけが他方に比べて低下した場合に、当該一方の吸着カラムだけを交換すれば良い。
【0043】
上記第6または第7の特徴の体液浄化処理用の吸着カラムによれば、被処理体液が、中心細孔直径が吸着対象物質の最大長より小さい補助吸着体を通流する際に、被処理体液中の吸着対象物質の殆どは補助吸着体の細孔内に進入できず吸着除去されないが、吸着対象物質より分子量の小さい分子量の異なる多数の共吸着物質は、補助吸着体の細孔直径の分布範囲が共吸着物質夫々の最大長(分子サイズ)をカバーするため、補助吸着体の細孔内に進入して吸着除去される。従って、補助吸着体では、分子量の大きい吸着対象物質が不必要に細孔内に進入して細孔の入口を塞ぐのが防止されるため、分子量の小さい共吸着物質が細孔深部にまで進入して吸着され易くなり、補助吸着体を通流する被処理体液から吸着対象物質より分子量の小さい共吸着物質が選択的に吸着除去されることになる。更に、補助吸着体の中心細孔直径が吸着対象物質の最大長より小さい場合と大きい場合を比較すれば、小さい場合の方が大きい場合より、官能基が固定される多孔質担体の表面積が大きくなるため、共吸着物質の吸着能力は増大することになる。従って、補助吸着体を通流した後の被処理体液から共吸着物質が吸着除去されているので、当該被処理体液に対して吸着対象物質を吸着除去する処理を行うことで、吸着対象物質の吸着が共吸着物質によって阻害されることが軽減され、吸着対象物質の吸着除去効率が向上する。補助吸着体の中心細孔直径と、吸着物質(吸着対象物質と共吸着物質)の最大長の関係、及び、多孔質担体として無機質のシリカゲルまたはシリカガラスを使用する点については、上述の通りであるので、重複する説明は割愛する。
【0044】
更に、上記第8の特徴の体液浄化処理用の吸着カラムによれば、吸着対象物質がLDL(分子直径が約26〜27nm)の場合において、補助吸着体において、その共吸着物質であるLDLより分子量の小さいペプチドや小分子蛋白質が効果的に吸着除去される。
【0045】
更に、上記第9の特徴の体液浄化処理用の吸着カラムによれば、スピノーダル分解ゾルゲル法を用いることで、貫通孔径及び細孔径の制御性が向上するため、貫通孔径及び細孔径を適正範囲に調整した高性能な吸着カラムを提供可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明に係る体液浄化処理用吸着カラムの第1実施形態における概略の構成を模式的に示す構成図
【図2】本発明に係る体液浄化処理用吸着カラムの吸着体の構造を模式的に示す要部断面図
【図3】本発明に係る体液浄化処理用吸着カラムの吸着体を構成する多孔質担体の構造を模式的に示す要部断面図
【図4】本発明に係る体液浄化処理用吸着カラムの吸着体を構成する多孔質担体のSEM写真
【図5】本発明に係る体液浄化処理用吸着カラムの吸着体の細孔直径の異なる3種類のサンプルの窒素吸着法による細孔測定結果を纏めた一覧表及び細孔直径分布範囲を示す細孔分布曲線のグラフ
【図6】本発明に係る体液浄化処理用吸着カラムの吸着体を充填した5種類の試験用カラムのLDL吸着性能を比較評価した結果を示す図
【図7】本発明に係る体液浄化処理用吸着カラムの補助吸着体に吸着された共吸着物質の電気泳動による分析結果を示す図
【図8】本発明に係る体液浄化処理用吸着カラムの補助吸着体に吸着された共吸着物質の質量分析結果を示す図
【図9】本発明に係る体液浄化処理用吸着カラムの補助吸着体と主吸着体における吸着選択性の評価結果を示す表及び図
【図10】本発明に係る体液浄化処理用吸着カラムの第2実施形態における概略の構成を模式的に示す構成図
【図11】本発明に係る体液浄化処理用吸着カラムの第1実施形態に対する別実施形態における概略の構成を模式的に示す構成図
【図12】本発明に係る体液浄化処理用吸着カラムの第2実施形態に対する別実施形態における概略の構成を模式的に示す構成図
【発明を実施するための形態】
【0047】
本発明に係る体液浄化処理用の吸着カラム(以下、適宜「本発明装置」という。)の実施の形態につき、図面に基づいて説明する。
【0048】
〈第1実施形態〉
本発明装置10は、図1に示すように、円筒型の補助吸着体1と主吸着体2が、間に仕切り板4を介して円筒容器3内に収容されて構成されている。補助吸着体1と主吸着体2は、夫々軸心部分5,6が中空の円筒状に形成されている。円筒容器3の各端面には、夫々開口部7,8が形成され、一方の開口部7が処理対象となる体液(本実施形態では、血漿を想定)の送入口となり、他方の開口部8が処理後の体液の送出口となる。尚、図1中において矢印は体液の流れを模式的に示している。本発明装置10は、開口部7から円筒容器3内に送入された体液が、仕切り板4によって進路を妨げられ、円筒容器3内において円筒型の補助吸着体1の内側から外側に向けて流れ、更に、補助吸着体1を通過した体液が、補助吸着体1と主吸着体2の各外壁と円筒容器3の内壁の間の空間に形成された外周流路9を通り、円筒型の主吸着体2の外側から内側に向けて流れ、主吸着体2を通過した体液が開口部8から送出される構造となっている。
【0049】
補助吸着体1と主吸着体2は、図2に模式的に示すように、円筒状に成形された無機系の多孔質担体11の表面に吸着対象物質に特異的に結合する官能基12を表面修飾して固定化したものである。本実施形態では、吸着対象物質として血液中のLDL(分子量約3500kDa)を想定しており、官能基12として、LDLに対して親和性を有するデキストラン硫酸またはその塩、ポリアクリル酸またはその塩、或いは、その他の鎖状多価酸またはその塩を使用する。
【0050】
補助吸着体1と主吸着体2を構成する無機系の多孔質担体11は、図3に模式的に示すように、3次元網目状の一体構造の骨格体13と、骨格体13の間隙に形成された平均孔径が1μm以上20μm未満の範囲内の3次元網目状の貫通孔14を有してなり、更に、骨格体13の表面には、補助吸着体1と主吸着体2で夫々異なる細孔直径分布を有する細孔15が骨格体13の表面に分散して形成されている。細孔15は、骨格体13の表面から内部に向けて貫通する孔であり、補助吸着体1では、窒素吸着法で測定した中心細孔直径が吸着対象物質であるLDLの最大長(26mm〜27nm)より小さく、且つ、窒素吸着法で測定した細孔直径の分布範囲の下限が2nm以下、上限がLDLと共に主吸着体2に吸着されるLDLより分子量の小さい共吸着物質(分子量が約5kDa〜340kDaの範囲のペプチドや小分子蛋白質等)の分子の最大長(3nm〜13nm程度)の最大値(約13nm)より大きくなるよう細孔直径が調整され、主吸着体2では、窒素吸着法で測定した中心細孔直径が吸着対象物質であるLDLの最大長(27nm)より大きくなるよう細孔直径が調整されている。より具体的には、窒素吸着法で測定した各吸着体の中心細孔直径は、補助吸着体1では10nm〜26nmの範囲内に調整され、主吸着体2では、27nm〜200nm、より好ましくは、60nm〜120nmに調整される。補助吸着体1の場合、中心細孔直径が10nm〜26nmの範囲内であれば、細孔直径の分布範囲の上限は必ず、共吸着物質の最大長の最大値(約13nm)以上となり、細孔直径の分布範囲は、異なる分子量の共吸着物質の各最大長をカバーする。
【0051】
また、本発明装置10で使用する補助吸着体1と主吸着体2の多孔質担体11は、平均孔径の異なる2種類の細孔(貫通孔14と細孔15)からなる2重細孔構造となっている。従って、細孔15の細孔直径の上限は、構造的な観点より、貫通孔14の直径の分布範囲より明らかに小さい。図4に、本発明装置10で使用する多孔質担体11のSEM(走査型電子顕微鏡)写真の一例を示す。
【0052】
次に、多孔質担体11の表面に官能基12としてデキストラン硫酸を固定化した補助吸着体1と主吸着体2の実施例及びその作製方法について説明する。先ず、多孔質担体11の合成方法について説明する。尚、本実施形態で使用する多孔質担体11の合成方法は、上記特許文献4の「無機系多孔質体の製造方法」に開示されている原理に基づくスピノーダル分解ゾルゲル法を使用するものである。
【0053】
〈多孔質担体の合成:補助吸着体〉
先ず、1.0M(=mol/dm)の硝酸水溶液9mlに対してポリエチレンオキサイドを0.9gから1.1gの範囲で溶かし、テトラエトキシシランを7ml加え、均一になるまで攪拌し、40℃の恒温槽で一晩放置してゲル化させる(工程1)。その後、得られたゲルを0.1Mアンモニア水に浸し、80℃の下で20時間反応させる(工程2)。その後、ゲルを乾燥させ、600℃で5時間焼成することでシリカゲルまたはシリカガラスからなる多孔質担体が得られる(工程3)。尚、この条件下で多孔質担体を製造した場合、当該多孔質担体(サンプル#1)が有する貫通孔の平均孔径は、水銀圧入法により測定すると1.5μm程度であり、細孔の窒素吸着法による細孔直径分布範囲は2nm〜30nmで、その中心細孔直径は約21nmである。
【0054】
〈多孔質担体の合成:補助吸着体の比較用サンプル〉
上記補助吸着体における多孔質担体の合成の工程2におけるアンモニア水中での処理に1.0Mアンモニア水を使用する以外は、補助吸着体の合成と同じである。尚、この条件下で多孔質担体を製造した場合、当該多孔質担体(サンプル#2)が有する貫通孔の平均孔径は、水銀圧入法により測定すると1.5μm程度であり、細孔の窒素吸着法による細孔直径分布範囲は10nm〜40nmで、その中心細孔直径は約33nmである。本比較用サンプルは、補助吸着体の中心細孔直径が吸着対象物質であるLDLの最大長(26mm〜27nm)より小さいという条件から外れている。
【0055】
〈多孔質担体の合成:主吸着体〉
上記補助吸着体における多孔質担体の合成の工程2におけるアンモニア水中での処理温度を200℃とする以外は、補助吸着体の合成と同じである。尚、この条件下で多孔質担体を製造した場合、当該多孔質担体(サンプル#3)が有する貫通孔の平均孔径は、水銀圧入法により測定すると1μm〜5μm程度であり、細孔の窒素吸着法による細孔直径分布範囲は60nm〜120nmで、その中心細孔直径は約110nmである。
【0056】
上記工程1〜工程3を経て作製されたサンプル#1〜#3の窒素吸着法による細孔測定結果を、図5(a)の一覧表及び図5(b)の細孔分布曲線のグラフに示す。BET法による細孔表面積は、サンプル#1〜#3で夫々、560m/g、195m/g、45.9m/gであった。また、BJH法による細孔容積は、サンプル#1〜#3で夫々、1.18cm/g、1.06cm/g、0.279cm/gであり、BJH法による細孔直径の分布範囲は、サンプル#1〜#3で夫々、2〜30nm、10〜40nm、60〜120nmであり、中心細孔直径は、図5(b)の細孔分布曲線より、微分細孔容積(細孔容積を細孔直径の常用対数で微分した値)が最大のピークを示す細孔直径で与えられ、サンプル#1〜#3で夫々、21nm、33nm、110nmであった。図5(b)より、中心細孔直径近傍の細孔径に細孔容積の大部分が集中していることが分かる。尚、細孔測定に窒素吸着法を使用する理由は、サンプル#1のように細孔直径の分布が窒素吸着法の測定下限(約2nm)に及ぶ細孔直径の小さい多孔質担体に対して、骨格体を破壊する危険のある水銀圧入法の使用を避けるためである。従って、本実施例では、サンプル#1〜#3の細孔測定結果を同じ条件下で比較するために窒素吸着法を使用している。尚、サンプル#3のように細孔直径の大きい多孔質担体の細孔測定では、個別に水銀圧入法を使用しても良い。
【0057】
また、上記サンプル#1〜#3の合成において、上記工程2における処理条件を変化させることで、細孔の窒素吸着法による細孔直径分布範囲を変更でき、中心細孔直径を最適範囲に調整することができる。上記サンプル#1〜#3の測定結果より、アンモニア水中での処理温度を上げるか、アンモニア水の濃度を高くすることにより細孔直径が大きくなることが分かる。
【0058】
更に、上記サンプル#1〜#3の合成において、上記工程1におけるポリエチレンオキサイドの添加量を0.9gから1.1gの範囲で増減させると、ポリエチレンオキサイドの添加量が少ないほど貫通孔の平均孔径は大きくなり、硝酸水溶液に添加するポリエチレンオキサイドの添加量を調整することで、貫通孔の平均孔径を調整することができる。
【0059】
上記合成方法は、有機及び無機化合物の溶液を混合して、アルコキシドの加水分解反応と脱水縮合反応によりゲル化を進行させ、斯かるゲルを乾燥・加熱することで酸化物固体を作成するゾル−ゲル法を利用している。更に、ゾル−ゲル法の出発溶液に有機高分子を混合することで、ゲル化の進行に伴って生成したシリカ重合体と有機高分子を含む溶媒とのスピノーダル分解により形成された分相構造がゲル化により固定されてμmオーダーの細孔を有する多孔質ゲルが形成される特徴を利用したものである。即ち、上記方法によれば、ゾル−ゲル法を用いるとともにスピノーダル分解を生じさせることで、多孔質担体を製造することができる(スピノーダル分解ゾル−ゲル法)。
【0060】
尚、上記サンプル#3(主吸着体)の場合、工程1〜工程3を経て作製された多孔質担体の貫通孔と細孔を合わせた総空隙率(水銀圧入法により測定)は約50%〜70%の範囲内であり、従来のLDL吸着カラムである株式会社カネカのリポソーバ(型番LA−15)の空隙率(約40%)と比較して1.5倍程度大きい。
【0061】
次に、上記工程1〜工程3を経て作製された多孔質担体(上記サンプル#1〜#3)の表面に官能基としてLDLに対して親和性を有するデキストラン硫酸ナトリウムを表面修飾して固定化する方法について説明する。
【0062】
先ず、上記工程1〜工程3を経て作製された多孔質担体を、γ‐アミノプロピルトリエトキシランの10%トルエン溶液中で3時間還流し、エタノールで洗浄し、γ‐アミノプロピル化した多孔質担体を得る(工程4)。上記条件下での、有機微量元素分析法によるγ‐アミノプロピル基の固定化量は、0.3mmol/mLである。
【0063】
次に、上記工程4を経て得られたγ‐アミノプロピル化多孔質担体の5mLに対して、デキストラン硫酸ナトリウム100mg(先願では、500mg)を溶かした1/300Mリン酸緩衝水溶液10mL(pH7.0)を作製し、当該水溶液にγ‐アミノプロピル化多孔質担体を浸し、60℃で3日間振蕩する(工程5)。反応後、該多孔質担体を1%NaBH水溶液に15分間浸し、その後、純水と生理食塩水の夫々で順次(記載順で)洗浄し、多孔質担体の表面にデキストラン硫酸ナトリウムを固定化した吸着体(補助吸着体、補助吸着体の比較用サンプル、主吸着体)を得る(工程6)。上記条件下での、蛍光エックス線回折法によるデキストラン硫酸ナトリウムの固定化量は、10mg/mLである。
【0064】
次に、上記工程1〜工程6を経て作製された3種類の吸着体(補助吸着体、比較用サンプル、主吸着体)のLDL吸着性能を比較評価するため、以下の5種類の試験#1〜#5を行ったので、その試験方法及び試験結果について説明する。
【0065】
試験#1:
補助吸着体の1mLをガラス製の小型カラム容器に充填した試験用カラム(カラム#1)を準備し、カラム#1に生理食塩水10mLを通液して洗浄した後、新鮮人血漿5mLを通液して、カラム#1の出口から通液した新鮮人血漿の全量を回収した。
【0066】
試験#2:
比較用サンプル1mLをガラス製の小型カラム容器に充填した試験用カラム(カラム#2)を準備し、カラム#2に生理食塩水10mLを通液して洗浄した後、新鮮人血漿5mLを通液して、カラム#2の出口から通液した新鮮人血漿の全量を回収した。
【0067】
試験#3:
主吸着体の1mLをガラス製の小型カラム容器に充填した試験用カラム(カラム#3)を準備し、カラム#3に生理食塩水10mLを通液して洗浄した後、新鮮人血漿5mLを通液して、カラム#3の出口から通液した新鮮人血漿の全量を回収した。
【0068】
試験#4:
補助吸着体と主吸着体の夫々1mLをガラス製の小型カラム容器に充填した試験用カラム(カラム#4)を準備し、カラム#4に生理食塩水10mLを通液して洗浄した後、新鮮人血漿5mLをカラム#4の補助吸着体に通液した後、引き続き主吸着体に通液し、カラム#4の出口から通液した新鮮人血漿の全量を回収した。
【0069】
試験#5:
比較用サンプルと主吸着体の夫々1mLをガラス製の小型カラム容器に充填した試験用カラム(カラム#5)を準備し、カラム#5に生理食塩水10mLを通液して洗浄した後、新鮮人血漿5mLをカラム#5の補助吸着体に通液した後、引き続き主吸着体に通液し、カラム#5の出口から通液した新鮮人血漿の全量を回収した。
【0070】
上記試験#1〜#5について、通液前後の血漿中のLDL濃度Ci,Co(mg/dL)を計測し、各試験用カラム(カラム#1〜#5)における各吸着体1mL当たりのLDL吸着容量A(mg/mLgel)を下記の数1に示す計算式により算出した。通液前後の血漿中のLDL濃度Ci,Co、及び、LDL吸着容量Aを、図6の一覧表に纏めて示す。
【0071】
[数1]
A=10×(Ci−Co)/100
【0072】
図6より、試験#1及び#2において、補助吸着体だけを充填したカラム#1と比較用サンプルだけを充填したカラム#2では、LDLの吸着は確認されていない。試験#1については、補助吸着体(サンプル#1)の中心細孔直径が21nmとLDLの最大長より小さいため、細孔表面がLDLの吸着に殆ど寄与していないためと考えられる。また、試験#2については、比較用サンプル(サンプル#2)の中心細孔直径が33nmとLDLの最大長より大きく、主吸着体の中心細孔直径の条件を満たすものの、中心細孔直径がLDLの最大長に極めて近いため、一旦細孔表面に吸着されても細孔深部において吸着されないためキレート効果(挟み込み効果)が弱く、本試験条件では、貫通孔表面及び細孔入口近傍の細孔表面に吸着されたLDLはその後離脱して通液後の血漿内に含まれ回収されたものと考えられる。試験#3の主吸着体だけを充填したカラム#3では、LDL吸着量は、7.9mg/mLgelであり、試験#2と比較してLDL吸着量が大幅に増加している。これは、カラム#3の主吸着体(サンプル#3)の中心細孔直径が約110nmとLDLの最大長の4倍程度と大きいため、LDLが細孔深部まで侵入し、細孔表面がLDLの吸着に大きく寄与していると考えられる。また、試験#3においても、主吸着体の貫通孔表面及び細孔入口近傍の細孔表面に吸着されたLDLは、カラム#2と同様にその後離脱して通液後の血漿内に含まれ回収されたものと考えられるが、細孔深部まで侵入して吸着されたLDLは、キレート効果によって離脱しなかったものと考えられる。この点からも、主吸着体の中心細孔直径は、LDLの最大長の2倍〜6倍程度が好ましい。
【0073】
図6より、試験#3〜#5の比較において、主吸着体だけを充填したカラム#3、補助吸着体と主吸着体を充填したカラム#4、及び、比較用サンプルと主吸着体を充填したカラム#5では、カラム#4の方が、カラム#3及びカラム#5よりLDL吸着量が多く、主吸着体の前段に設けた補助吸着体において、共吸着物質が予め吸着除去されたことにより、主吸着体においてLDL吸着量が増加していることが分かる。カラム#5においても、カラム#3と比較してLDL吸着量が僅かに増加しているが有意な差ではない。つまり、中心細孔直径がLDLの最大長より大きい比較用サンプルを充填したカラム#5の場合、一時的に比較用サンプルの細孔入口近傍の細孔表面に吸着されたLDLが、共吸着物質が細孔内部に侵入するのを妨げるため、比較用サンプルの共吸着物質の吸着量が低減し、その分、主吸着体におけるLDL吸着量が低下したものと考えられる。更に、比較用サンプルは、補助吸着体と比較して細孔直径が大きい分、細孔表面積も小さくなっており、更に、共吸着物質の吸着量は低下する。
【0074】
尚、カラム#4のように主吸着体の前段に補助吸着体を設け、共吸着物質を予め吸着除去することの効果を検証するには、上記試験#1〜#5においてLDL吸着量を比較するのと合わせて、試験#1及び#2における共吸着物質の吸着量の差を検証するのが好ましいと考えられるが、共吸着物質は、分子量が約5kDaから約340kDaまで多種存在するため、共吸着物質の吸着量を個別にも全体としても正確に把握するのが困難である。従って、本実施形態では、試験#1〜#5におけるLDL吸着量の比較によって、補助吸着体の効果を検証している。
【0075】
更に、上記試験#4で使用したカラム#4を1.0M食塩水で洗浄することにより、カラム#4内の補助吸着体及び主吸着体に一旦吸着した蛋白質が流出していること、また、1.0M食塩水で洗浄した後のカラム#4に再度血漿を通液すると再度LDLが吸着することが確認できた。これにより、本発明装置10は食塩水洗浄により賦活されることが分かる。
【0076】
次に、上記工程1〜工程6を経て作製された補助吸着体における共吸着物質の分析結果について説明する。
【0077】
先ず、補助吸着体に吸着された共吸着物質の2種類の分析結果について説明する。第1の分析では、上述の試験#1のカラム#1と同様の別のカラム#1Aを準備し、カラム#1Aに生理食塩水10mLを通液して洗浄し、新鮮人血漿5mLを通液した後、カラム#1Aを生理食塩水で洗浄した後、1.0M食塩水にて更に洗浄し、1.0M食塩水の洗浄液をカラム出口から回収しポリアクリルアミドゲルで電気泳動してCBB染色した。図7に当該電気泳動の結果を示す。図7において4本の電気泳動図が示されているが、右端は分子量マーカである。また、右端から2番目と3番目は、新鮮人血漿とアルブミン溶液の電気泳動を夫々、参考のために示している。アルブミン溶液の場合、66kDa付近が濃色になっており、アルブミンが確認できる。左端は、補助吸着体から回収された1.0M食塩水の洗浄液の電気泳動で、約35kDaから300kDaを超える範囲に亘って共吸着成分に相当するバンドが検出された。
【0078】
第2の分析として、電気泳動分析では35kDa以下の分子量の分析が困難なため、上記第1の分析の1.0M食塩水の洗浄液を脱塩し、シナピン酸ナトリウムをマトリックスとするMALDI−TOF/MSによる質量分析を行った。図8に当該質量分析結果を示す。図8に示すように、質量分析の結果、20kDa以下に共吸着成分に相当するとみられる数多くのピークが確認された。
【0079】
次に、上記工程1〜工程6を経て作製された補助吸着体及び主吸着体における以下の5種類の物質の分析と、各物質の吸着量の測定結果について説明する。
【0080】
上述の試験#1のカラム#1と同様の別のカラム#1Bを準備し、カラム#1Bに血清5mLを通液してカラム#1Bの出口から通液した血清の全量を回収し、リポプロテイン(a)、アポリポ蛋白Bの分析(第3の分析)を行った。また、カラム#1と同様の別のカラム#1Cを準備し、別のカラム#1Cにクエン酸にて抗凝固を行った新鮮人血漿5mLを通液してカラム#1Cの出口から通液した血漿の全量を回収し、フィブリノーゲン、凝固因子第VII因子、凝固因子第VIII因子の分析(第4の分析)を行った。更に、上述の試験#2のカラム#2と同様の別のカラム#2A、カラム#2Bを準備し、上述の2つの分析(第3及び第4の分析)を夫々行った。更に、上述の試験#3のカラム#3と同様の別のカラム#3A、カラム#3Bを準備し、上述の2つの分析(第3及び第4の分析)を夫々行った。カラム#1Bとカラム#1Cに対する第3及び第4の分析結果と、カラム#2Aとカラム#2Bに対する第3及び第4の分析結果と、カラム#3Aとカラム#3Bに対する第3及び第4の分析結果を、各物質の血清中または血漿中における通液前後の濃度と通液前後の濃度比を、図9(a)の分析結果表に示す。また、各物質の通液前後の濃度比を、補助吸着体を充填したカラム(カラム#1Bとカラム#1C)と比較用サンプルを充填したカラム(カラム#2Aとカラム#2B)と主吸着体を充填したカラム(カラム#3A、カラム#3B)間で夫々比較したグラフを、図9(b)に示す。
【0081】
図9より、主吸着体では、フィブリノーゲン(分子量340kDa)以外の成分である凝固因子第VII因子(分子量50kDa)、凝固因子第VIII因子(分子量330kDa)、アポリポ蛋白B(分子量515kDa)、リポプロテイン(a)(分子量3200kDa)の巨大分子が優先的に吸着されるのに対し、補助吸着体及び比較用サンプルでは、フィブリノーゲン、凝固因子第VII、凝固因子第VIII因子は吸着されるが、アポリポ蛋白Bとリポプロテイン(a)の吸着量は少ない。
【0082】
吸着物質の選択性は、細孔によるサイズ排除の影響と、表面修飾による静電的相互作用の強さが影響していると考えられる。アポリポ蛋白Bとリポプロテインが主吸着体には吸着されるが、補助吸着体及び比較用サンプルには吸着されないのは、アポリポ蛋白Bとリポプロテインは巨大分子であるLDL中に含まれる蛋白質であるため、補助吸着体及び比較用サンプルの細孔内には入り込めず、細孔によるサイズ排除の影響が現れていると考えられる。また、主吸着体には凝固因子第VII因子及び凝固因子第VIII因子が吸着されフィブリノーゲンが殆ど吸着されないのに対し、補助吸着体には凝固因子第VII、凝固因子第VIII因子、フィブリノーゲンが吸着される。これは、フィブリノーゲンが主吸着体の細孔直径分布範囲60nm〜120nmの細孔内に吸着された場合よりも、比較用サンプルの細孔直径分布範囲10nm〜40nmの細孔内に吸着された場合の方が、更には、補助吸着体の細孔直径分布範囲2nm〜30nmの細孔内に吸着された場合の方が、フィブリノーゲン分子が受ける吸着体表面のデキストラン硫酸との静電的相互作用が一般的には強くなるため、及び、細孔直径分布範囲が小径化するにつれ吸着サイト数が増大するために、吸着量の差として現れていると考えられる。また、凝固因子第VIII因子の吸着には、細孔のサイズが関係した吸着体表面のデキストラン硫酸による静電的相互作用の強さの影響が現れており、凝固因子第VII因子の吸着には、細孔のサイズが関係した吸着体表面のデキストラン硫酸による静電的相互作用の強さの影響は少ないと考えられる。
【0083】
以上の共吸着物質の分析結果より、補助吸着体、比較用サンプル及び主吸着体における共吸着物質は、分子量約5kDa〜340kDaの範囲の蛋白質等であることが分かる。
【0084】
〈第2実施形態〉
次に、本発明装置の第2実施形態について説明する。上記第1実施形態では、本発明装置10は、補助吸着体1と主吸着体2が一つの円筒容器3内に収容された単体カラム構造であったが、例えば、第2実施形態に係る本発明装置20は、図10に示すように、補助吸着体1と主吸着体2を夫々個別の円筒容器21,22に収容して、補助吸着体1を充填した第1の円筒容器21の出口と主吸着体2を充填した第2の円筒容器22の入口をチューブ23で連結した構成としても良い。これにより、本発明装置20は、補助吸着体1が充填された補助吸着カラム24と主吸着体2が充填された主吸着カラム25の2段構成となる。尚、補助吸着体1と主吸着体2の作製方法は第1実施形態と同じであるので、重複する説明は割愛する。
【0085】
第2実施形態においても、先に補助吸着体1を通液した血漿が主吸着体2に通液される構造である点は、第1実施形態と同様であるので、第1実施形態と同様に共吸着物質の影響を低減して主吸着体2におけるLDL吸着量が増加することは明らかである。
【0086】
次に、本発明装置の別実施形態について説明する。
【0087】
〈1〉上記各実施形態では、補助吸着体1と主吸着体2として、夫々軸心部分5,6が中空の円筒状に形成されていたが、軸心部分5,6が中空でない円柱状であっても構わず、また、円筒状や円柱状でなく、角筒状や角柱状であっても構わない。補助吸着体1と主吸着体2が円柱状に成型されている場合は、上記各実施形態の吸着カラムは、例えば、図11(第1実施形態の別実施形態)、図12(第2実施形態の別実施形態)に示すようになり、夫々の体液(血漿)の通流方向は、上記各実施形態とは異なり、各カラムの軸心方向となる。
【0088】
〈2〉更に、上記第2実施形態では、補助吸着体1が充填された補助吸着カラム24と主吸着体2が充填された主吸着カラム25の2段構成であったが、補助吸着体1が充填された補助吸着カラム24は、主吸着カラム25の前段に配して使用する形態に限定されるものではなく、単独で使用することも可能である。補助吸着カラム24を単独で使用する場合、第1実施形態の図9に示した第3及び第4の分析結果より明らかなように、フィブリノーゲンや凝固因子等の血中蛋白質除去用の吸着カラムとして使用できる。
【0089】
〈3〉上記各実施形態では、補助吸着体1と主吸着体2を構成する多孔質担体11の表面に官能基12としてデキストラン硫酸を固定する場合を説明したが、多孔質担体の表面に固定する官能基としては、デキストラン硫酸及びその塩、ポリアクリル酸またはその塩、ポリカルボン酸またはその塩、SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)、ヘパリン等の陰性電荷を持つ化合物を始めとして、吸着対象物質に特異的に結合する官能基であれば種々のものが利用できる。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明に係る体液浄化処理用吸着カラムは、血液中のLDL等の病因物質の吸着除去を目的とするアフェレシス治療用の吸着カラムに利用可能である。
【符号の説明】
【0091】
1: 補助吸着体
2: 主吸着体
3: 円筒容器
4: 仕切り板
5,6: 軸心部分
7: 開口部(送入口)
8: 開口部(排出口)
9: 外周流路
10,20: 本発明に係る体液浄化処理用吸着カラム
11: 多孔質担体
12: 官能基
13: 骨格体
14: 貫通孔
15: 細孔
21,22: 円筒容器
23: チューブ
24: 補助吸着カラム
25: 主吸着カラム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも低密度リポタンパクを含む吸着対象物質に特異的に結合する官能基を多孔質担体の表面に固定してなる吸着体を備えてなる体液浄化処理用の吸着カラムであって、
被処理体液から前記吸着対象物質より分子量の小さい共吸着物質を予め吸着除去する補助吸着体と、前記補助吸着体で前記共吸着物質を吸着除去した後の被処理体液から前記吸着対象物質を吸着除去する主吸着体を備え、
前記補助吸着体と前記主吸着体の前記多孔質担体が、3次元網目構造のシリカゲルまたはシリカガラスからなる骨格体と、前記骨格体の間隙に形成された3次元網目状の貫通孔と、前記骨格体の表面に分散して形成された前記骨格体の表面から内部まで貫通する細孔とを有し、
前記補助吸着体の前記多孔質担体における前記細孔の窒素吸着法で測定した中心細孔直径が前記吸着対象物質の最大長より小さく、且つ、前記細孔の窒素吸着法で測定した細孔直径の分布範囲の下限が2nm以下で、前記細孔直径の分布範囲の上限が前記共吸着物質の最大長の最大値を超えて大きく、
前記主吸着体の前記多孔質担体における前記細孔の窒素吸着法で測定した中心細孔直径が、前記吸着対象物質の最大長より大きいことを特徴とする体液浄化処理用吸着カラム。
【請求項2】
前記補助吸着体の前記多孔質担体における前記細孔の窒素吸着法で測定した中心細孔直径が、10nm以上26nm以下であることを特徴とする請求項1に記載の体液浄化処理用吸着カラム。
【請求項3】
前記主吸着体の前記多孔質担体における前記細孔の窒素吸着法で測定した中心細孔直径が、前記吸着対象物質の最大長より2倍以上大きいことを特徴とする請求項1または2に記載の体液浄化処理用吸着カラム。
【請求項4】
単体容器内の前記被処理体液が通流する経路内の上流側に前記補助吸着体を備え、下流側に前記主吸着体を備えてなることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の体液浄化処理用吸着カラム。
【請求項5】
前記被処理体液が通流する体液通流路の上流側に単体容器内に前記補助吸着体を充填してなる補助吸着カラムを備え、前記体液通流路の下流側に別の単体容器内に前記主吸着体を充填してなる主吸着カラムを備えてなることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の体液浄化処理用吸着カラム。
【請求項6】
少なくとも低密度リポタンパクを含む吸着対象物質に特異的に結合する官能基を多孔質担体の表面に固定して、被処理体液から前記吸着対象物質より分子量の小さい共吸着物質を予め吸着除去する補助吸着体を備えてなる体液浄化処理用の吸着カラムであって、
前記補助吸着体の前記多孔質担体が、3次元網目構造のシリカゲルまたはシリカガラスからなる骨格体と、前記骨格体の間隙に形成された3次元網目状の貫通孔と、前記骨格体の表面に分散して形成された前記骨格体の表面から内部まで貫通する細孔とを有し、
前記補助吸着体の前記多孔質担体における前記細孔の窒素吸着法で測定した中心細孔直径が前記吸着対象物質の最大長より小さく、且つ、前記細孔の窒素吸着法で測定した細孔直径の分布範囲の下限が2nm以下、前記細孔直径の分布範囲の上限が前記共吸着物質の最大長の最大値を超えて大きいことを特徴とする体液浄化処理用吸着カラム。
【請求項7】
前記補助吸着体の前記多孔質担体における前記細孔の窒素吸着法で測定した中心細孔直径が、10nm以上26nm以下であることを特徴とする請求項6に記載の体液浄化処理用吸着カラム。
【請求項8】
前記官能基が、低密度リポタンパクに特異的に結合する親和性を有するデキストラン硫酸またはその塩、ポリアクリル酸またはその塩、或いは、その他の鎖状多価酸またはその塩であることを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載の体液浄化処理用吸着カラム。
【請求項9】
前記多孔質担体が、スピノーダル分解ゾルゲル法で合成されていることを特徴とする請求項1〜8の何れか1項に記載の体液浄化処理用吸着カラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図4】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−166979(P2010−166979A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−10314(P2009−10314)
【出願日】平成21年1月20日(2009.1.20)
【出願人】(308009509)株式会社REIメディカル (7)
【Fターム(参考)】